説明

射出成形機用のスクリュ

【課題】フライトやシリンダ内壁の摩耗を防止し、金属粉が成形品に混入したり、金属摩擦の発熱による焼け等の成形不良が生じることがない、射出成形機用のスクリュを提供する。
【解決手段】
射出成形機用のスクリュ(1)において、圧縮部(6)寄りの供給部(5)から計量部(7)にかけて、フライト(2)の頂部にステップ状の段部(9)を形成し、頂部(9)を後方寄りの大径部(11)と前方寄りのランド部(12)とから構成する。フライト幅(B)は加熱シリンダ(14)の内径に対して0.16〜0.26倍に選定する。ランド部(12)と加熱シリンダ(14)の内周壁の隙間(H)は、大径部(11)と加熱シリンダ(14)の内周壁の隙間(H)の1.65〜2.15倍に、ランド部(12)の幅(B)は、フライト幅(B)の0.63〜0.79倍に選定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機用のスクリュに関するものであり、フライトの頂部にステップ状の段部すなわちランド部が形成されている射出成形機用のスクリュに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来周知のように射出成形機に設けられている射出装置は、シリンダ、このシリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能なスクリュ、等から構成されている。スクリュには、螺旋状の羽根すなわちフライトが1本または2本形成されており、スクリュが回転すると、樹脂材料がフライトによって前方に送られるようになっている。スクリュには、このようなフライトによってフライト溝が形成され、フライト溝の深さはスクリュ全長において変化している。スクリュはこのフライト溝の深さから、あるいは機能上から概略的に3つの部分に分けることができる。具体的にはホッパ側から先端部に向かって、供給部、圧縮部、計量部とに分けられる。このようなスクリュが設けられている射出装置においてシリンダをヒータによって加熱して材料の樹脂ペレットをホッパから供給しスクリュを回転すると、樹脂ペレットは供給部において予熱されながら圧縮部に移送される。圧縮部においてヒータによる熱とスクリュの回転のせん断発熱とによって樹脂ペレットは溶融し、溶融した樹脂は前方に送られて樹脂圧が発生する。そして計量部において溶融した樹脂は混練され、スクリュの先端に送られて所定量が計量される。
【0003】
フライトには色々な形状のものがあるが、頂部が単一の円柱面から形成されているフライトが周知であり、このフライトをフライトに対して垂直な面で切断すると、頂部が実質的にフラットになっている。このようなフライトを備えたスクリュはいわゆるコンベンショナルスクリュと呼ばれている。コンベンショナルスクリュのフライトの頂部とシリンダ内壁との間には、所定の隙間すなわちクリアランスが設けられている。このクリアランスは、溶融した樹脂材料が入り込んで適切に潤滑され、かつ樹脂材料の漏れを防止できるような適切な大きさになっている。このようなコンベンショナルスクリュを備えた射出装置において、比較的短期間の運転においてフライト頂部やシリンダ内壁が摩耗したり、この摩耗によって生じた金属粉が成形品に混入したり、金属摩擦による発熱によって焼け等の成形不良が生じることがある。この現象は、シリンダ内でスクリュが軸回転するときにスクリュが上下左右に振れる、いわゆる振れ回りが生じるときに発生することが知られている。図7のグラフには、コンベンショナルスクリュを備えた射出装置において、スクリュの振れ回り現象が発生したときの、スクリュの各部分における振幅が示されている。グラフにおいて、横軸はホッパからの距離であるスクリュ位置が示され、縦軸には、スクリュの各部のクリアランスに対するスクリュの振幅の比率が示されている。この現象が発生しているとき、スクリュの供給部の終端部近傍から圧縮部、そして計量部の開始端部近傍にかけて、スクリュの振幅の比が1.0近傍になっている。すなわちクリアランスの大きさに近くスクリュが振幅していて、潤滑が十分に得られていないことが推測される。そうするとシリンダ内壁とスクリュとが接触し易い状態になっていることが分かる。そこで適切な潤滑を得ることができるスクリュが色々提案されており、特許文献1、2には、フライトの頂部に、いわゆるランド部が形成されたスクリュが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平06−84035号公報
【特許文献2】特許第3553275号公報
【0005】
特許文献1に記載のスクリュは、フライトの頂部にステップ状の段部、すなわちランド部が形成されている。このスクリュは、ランド部の深さが特定され、具体的にはランド部はフライトの最も高い大径部から0.5mm以下の深さに形成されている。特許文献1に記載のスクリュは、このようなランド部を備えているので比較的大きな潤滑圧力が発生することになり、シリンダ内壁とスクリュとの接触を防止することができる。
【0006】
特許文献2にも、ランド部を備えたスクリュが記載されている。図8には、特許文献2に記載のスクリュをフライトに対して垂直に切断した断面図が示されている。特許文献2に記載のスクリュ51も、図に示されているように、フライト52の頂部にはランド部53が形成されている。そしてこのランド部53の深さ54、すなわちフライトの最も高い大径部55に対するランド部53の深さは0.5mm以下になっている。特許文献2に記載のスクリュ51においては、ランド部53が比較的広い範囲で面取りされ、面取部56が形成されている。従って、特許文献2に記載のスクリュ51がシリンダ58内で回転すると、溶融樹脂は面取部56によって滑らかにランド部53に流入し、効率よく潤滑圧力が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のスクリュ、または特許文献2に記載のスクリュによっても溶融した樹脂材料によってフライトの頂部に潤滑圧力が発生するので、シリンダ内壁とスクリュとの接触をある程度防止することができる。しかしながら解決すべき問題点も見受けられる。例えば特許文献1に記載のスクリュの場合、ランド部深さは特定されているが、他の点については特定されていないし、好ましい実施の形態についても記載されていない。本発明者は、発明を実施するための形態のところで詳しく説明するように、潤滑圧力を適切に発生させるには、フライト幅、大径部とランド部の比率等が重要であることを解明したが、特許文献1にはこれらについて示唆されていない。従って特許文献1に記載のスクリュは、必ずしも適切な潤滑圧力が発生する保障はない。また特許文献2に記載のスクリュにおいても、ランド部深さや、面取部56の大きさ等についてはある程度特定されているが、他の点については特許文献1と同様に好ましい実施の形態が記載されていない。本発明者は、特許文献2に記載のスクリュに形状が類似したスクリュを製作し、このスクリュをシリンダ内で回転させたときのスクリュの振幅を測定した。製作したスクリュは、フライトの頂部にステップ状の段部が形成されて頂部が大径部とランド部とになっているが、フライトに対する垂直方向の大径部の幅が、前後のフライトの距離すなわちフライトリードに対して2.4%になるようにした。実質的にフライトリードはシリンダ内径に等しいので、製作したスクリュの大径部の幅はシリンダ内径Dに対して0.024Dになる。このスクリュをシリンダ内で回転させ、スクリュの各位置における振幅を測定したところ、図9のグラフのようになった。グラフにおいて横軸はホッパの位置をゼロとするスクリュ位置になっており、縦軸は、各位置におけるスクリュとシリンダ内周壁とのクリアランスに対する振幅の比率になっている。コンベンショナルスクリュに比してスクリュの振幅は全体的に小さく潤滑圧力が発生していることが推測されるが、スクリュ位置が600mmにおけるスクリュの振幅はクリアランスに近い大きさになっている。そうするとこの部分で摩耗が発生する可能性がある。このように特許文献1、2には、潤滑圧力を適切に発生させるための条件が十分に記載されているとはいえず、スクリュとシリンダの摩耗を確実に防止できる保障がない。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した、射出成形機用のスクリュを提供することを目的としており、具体的にはフライトやシリンダ内壁が摩耗することがなく、従って金属粉が成形品に混入したり、金属摩擦による発熱によって焼け等の成形不良が生じることがない、射出成形機用のスクリュを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動されるように設けられ、フライトの頂部に形成されているステップ状の段部によって、該頂部が後方寄りの大径部と前方寄りのランド部とになっている射出成形機用のスクリュにおいて、フライトのリード角と垂直な方向におけるフライト幅は、加熱シリンダの内径に対して0.16〜0.26倍に選定されるように構成する。また、ランド部と加熱シリンダの内周壁の間の第1の隙間は、大径部と加熱シリンダの内周壁の間の第2の隙間の1.65〜2.15倍に選定され、ランド部の幅は、フライト幅の0.63〜0.79倍に選定されるように構成する。さらに、スクリュは後端部から前方に向かって供給部、圧縮部、計量部になっているが、フライトに形成されているステップ状の段部は、圧縮部寄りの供給部から計量部にかけて形成されるように構成する。
【0010】
かくして、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動されるように設けられ、フライトの頂部に形成されているステップ状の段部によって、該頂部が後方寄りの大径部と前方寄りのランド部とになっている射出成形機用のスクリュにおいて、前記フライトのリード角と垂直な方向におけるフライト幅は、前記加熱シリンダの内径に対して0.16〜0.26倍に選定されていることを特徴とする射出成形機用のスクリュとして構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスクリュにおいて、前記ランド部と前記加熱シリンダの内周壁の間の第1の隙間は、前記大径部と前記加熱シリンダの内周壁の間の第2の隙間の1.65〜2.15倍に選定され、前記ランド部の幅は、前記フライト幅の0.63〜0.79倍に選定されていることを特徴とする射出成形機用のスクリュとして構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のスクリュにおいて、前記スクリュは後端部寄りが樹脂材料が供給される供給部に、中央部が樹脂材料を圧縮し溶融させる圧縮部に、先端部寄りが溶融した樹脂材料を混練して均一化する計量部になっており、前記フライトに形成されている前記ステップ状の段部は、前記圧縮部寄りの前記供給部から前記計量部にかけて形成されていることを特徴とする射出成形機用のスクリュとして構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明は、加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動されるように設けられ、フライトの頂部に形成されているステップ状の段部によって、該頂部が後方寄りの大径部と前方寄りのランド部とになっている射出成形機用のスクリュとして構成されている。従ってシリンダ内壁とフライトの頂部との間に溶融した樹脂材料が入り込んで効率よく潤滑圧力が発生する。そして本発明は、前記フライトのリード角と垂直な方向におけるフライト幅(B1)は、前記加熱シリンダの内径に対して0.16〜0.26倍に選定されている。このような範囲にフライト幅が選定されているので、発明を実施するための形態のところで説明するように、十分な潤滑圧力が発生してスクリュとシリンダ内壁の接触を確実に防止することができる。すなわちスクリュとシリンダの摩耗を防止することができる。そして十分な潤滑圧力が発生するので、例えばスクリュを高速で回転させるような運転をしても、スクリュは摩耗せず安全に運転することができる。また摩耗しないので、金属粉が成形品に混入したり、金属摩擦による発熱によって焼け等の成形不良が生じることがない。他の発明によると、ランド部と加熱シリンダの内周壁の間の第1の隙間は、大径部と加熱シリンダの内周壁の間の第2の隙間の1.65〜2.15倍に選定され、ランド部の幅は、フライト幅の0.63〜0.79倍に選定されている。このようにフライトが形成されているので、後で詳しく説明するように効率よく潤滑圧力が得られることが保障できる。また他の発明によると、スクリュは後端部寄りが樹脂材料が供給される供給部に、中央部が樹脂材料を圧縮し溶融させる圧縮部に、先端部寄りが溶融した樹脂材料を混練して均一化する計量部になっており、フライトに形成されているステップ状の段部は、圧縮部寄りの供給部から計量部にかけて形成されている。このようにスクリュの摩耗が発生し易い全ての部分において、フライトにステップ状の段部が形成されているので、確実に摩耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る射出成形機用のスクリュを模式的に示す図であり、その(ア)はスクリュの正面図、その(イ)、(ウ)は(ア)におけるA−Aで切断したフライトの断面拡大図である。
【図2】運動片と固定片の隙間を流れる粘性流体の挙動を模式的に示す図である。
【図3】フライトの頂部が上面部とランド部とからなるスクリュにおいて、フライト幅の異なる色々なスクリュを回転させたとき、所定のスクリュ位置において測定されたスクリュの振幅と、溶融した樹脂材料の押出量の減少率の変化を示すグラフである。
【図4】スクリュを回転させて、スクリュの所定の位置で測定された樹脂圧力の変化を示すグラフで、その(ア)はフライト幅が0.1Dの、その(イ)はフライト幅が0.16Dの、それぞれのスクリュにおいて測定された樹脂圧力の変動を示すグラフである。
【図5】フライトの頂部が大径部とランド部とからなるスクリュにおいて、フライトの頂部の形状を変化させたときの負荷容量係数の変化を示すグラフである。
【図6】本実施の形態に係る射出成形機用のスクリュを回転させたときの、各スクリュ位置におけるスクリュの振幅を示すグラフである。
【図7】従来のコンベンショナルスクリュを回転させたときの、各スクリュ位置におけるスクリュの振幅を示すグラフである。
【図8】特許文献2に記載のスクリュのフライトの断面図である。
【図9】特許文献2に記載のスクリュと類似した形状のスクリュを回転させたときのスクリュの振幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態に係る射出成形機用のスクリュ1も、加熱シリンダに回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられており、図1の(ア)に示されているように、概略従来のスクリュと同様に構成されている。すなわちスクリュ1には、螺旋状のフライト2がスクリュ1の全長に渡って設けられており、このフライト2によってフライト溝3が形成されている。フライト溝3はスクリュ1の後端部寄りにおいて比較的深く、中央部において少しずつ浅くなり、先端部近傍において最も浅い。フライト溝3が深いスクリュ1の後端部寄りは供給部5になっており、図示されないホッパから供給される樹脂材料が予熱されながら前方に送られるようになっている。スクリュ1の中央部は樹脂材料が溶融されると共に圧縮されて前方に送られる圧縮部6になっている。そしてフライト溝3が浅いスクリュ1の先端部近傍は溶融された樹脂が混練されて均一にされて前方に送られる計量部7になっており、溶融した樹脂材料がスクリュ1の先端に送られて計量されることになる。図1の(ア)に加熱シリンダは示されていないが、加熱シリンダの内壁とフライト2の間には所定の隙間、すなわちクリアランスが形成されている。次に説明するようにフライト2の頂部は所定の形状に形成されているので、溶融した樹脂材料がクリアランスに入り込んで適切な潤滑圧力が発生し、加熱シリンダとスクリュ1が直接接触しないようになっている。
【0014】
本実施の形態においては、スクリュ1のフライト2には、図1の(ア)において符号8で示されている範囲、つまり圧縮部6寄りの供給部5から計量部7にかけて、フライト2の頂部にフライト2と平行なステップ状の段部9が形成されている。この段部9によってフライト2の頂部は、図1の(イ)に示されているように、後端部寄りの大径部11と先端部寄りのランド部12とに分けられている。後で説明するように、本実施の形態に係るスクリュ1は、フライト2の幅すなわちフライト幅Bは、加熱シリンダ14の内径に対して所定の範囲になるように選定されている。またフライト幅Bとランド部12の幅Bの比率も所定の範囲に選定されている。さらに、加熱シリンダ14の内周面とランド部12との間の第1の隙間Hと、加熱シリンダ14の内周面と大径部11との間の第2の隙間Hの比率も所定の範囲に選定されている。これは効率よく潤滑圧力を発生させて確実にスクリュ1と加熱シリンダ14の接触を防止するためである。なお、本明細書において加熱シリンダ14とスクリュ1の隙間であるクリアランスは、第2の隙間Hのことであり、加熱シリンダ14の内壁面とスクリュ1の大径部11との平均的な隙間のことである。
【0015】
本実施の形態に係るスクリュ1を回転すると、溶融した樹脂材料はスクリュ1の先端部に送られる。つまり溶融樹脂の大部分は、図1の(ウ)に示されている矢印Yの方向に送られる。このときわずかな量の溶融樹脂は第1、2の隙間H、Hに入り込む。この入り込んだ溶融樹脂によって潤滑圧力が発生することになる。ところで、回転するスクリュ1のフライト2は加熱シリンダ14の内周面に対して所定の速度で駆動されるが、この速度はフライト2と平行な成分と、フライト2と垂直な成分とに分けることができる。フライト2と垂直な成分についてのみ考えると、フライト2は図1の(ウ)に示されているように、加熱シリンダ14に対して速度U’で右方向に動いているように見える。フライト2を基準としてフライト2が固定されていると見なすと、加熱シリンダ14は左方向に速度Uで動いていると考えることができる。速度Uは速度U’と大きさが等しく向きが反対の速度である。図には、潤滑圧力を発生させる第1、2の隙間H、Hにおける溶融樹脂の速度vの分布が模式的に示されている。このようにフライト2に垂直な方向の速度についてのみ着目し、そしてフライト2が固定されていると見なしてモデル化すると、スラスト軸受の一種である、いわゆる段付平行軸受と類似したモデルが得られる。このモデルにおける溶融樹脂の挙動を、段付平行軸受における潤滑油の挙動から類推すると、潤滑圧力pは段部9近傍で最大値Pになり、フライト2の両端面において実質的に零になる。そして大径部11、およびランド部12のそれぞれにおいて潤滑圧力pは直線状に変化する。なお、潤滑圧力pが直線状に変化するのは、粘度の高い溶融樹脂の流れは層流になるはずであり、層流は流れる距離に比例して圧力が損失するからである。以下、ランド部12を備えたフライト2における潤滑の負荷容量を求めるにあたり、まず、相対的に運動する2平面の間の粘性流体の一般的な挙動について説明する。
【0016】
図2には、固定片17と、この固定片17に対して相対的に速度Vでスライドする運動片18とが示されており、固定片17と運動片18の間にはニュートン流体が充填されている。流体の微小要素19に働く力の釣り合いを考えると、x軸方向の力の釣り合いから1式が得られる。ここでpは圧力、τは剪断力である。
【数1】

剪断力τは、流体の粘度をμ、x方向の流速をvとすると2式で与えられる。1式と2式とから3式が得られる。3式は、いわゆるナビエ・ストークスの式から得ることもでき、非圧縮流体の定常流れを表す式になっている。固定片17と運動片18のy方向の隙間をhとすると、y=hにおいて流体の速度v=0である。またy=0において流体の速度v=Vである。これらを境界条件として3式を解くと、流速vと圧力分布の関係式である4式が得られる。紙面に垂直な単位幅を考えると、隙間hを流れる流体の流量Qは4式を積分した5式で与えられることになる。
【数2】

【0017】
5式によって、図1の(ウ)に示されているモデルにおける、第1、2の隙間H、Hを流れる溶融樹脂の流量Qを計算する。流量Qは第1、2の隙間H、Hにおいて等しい。またdp/dxは、第1の隙間HにおいてはP/Bで与えられ、第2の隙間Hにおいては(0−P)/(B−B)で与えられるので、流量Qは6式で与えられる。
【数3】

得られた6式を潤滑圧力の最大値Pについて解くと7式が得られる。
【0018】
ところでフライト2における単位長さ当たりの潤滑の負荷容量Wは、潤滑圧力pについてフライト2の幅方向に積分すると得られる。ところで、図1の(ウ)に示されているように、潤滑圧力pは、底辺の長さがBで高さがPの三角形のように変化している。そうすると負荷容量Wは、この面積として与えられることになる。このようにして計算した負荷容量Wが8式に示されている。なお、式中のKは負荷容量係数である。またmは隙間比であり第1、2の隙間H、Hの比、βは形状因子でありフライト幅Bとランド部12の幅Bの比である。
【数4】

【0019】
8式から、潤滑の負荷容量Wは、フライト幅Bが大きくなるほど大きくなることが分かる。負荷容量Wが大きいほどスクリュ1と加熱シリンダ14の接触する可能性を小さくすることができるが、フライト幅Bを大きくするとフライト溝3が小さくなりスクリュ1の回転によって溶融樹脂を前方に押し出す押出量が小さくなってしまう。そこで、最適なフライト幅Bを決定するため、次の実験を行った。
【実施例1】
【0020】
隙間比m=2、形状因子β=0.7として、フライト幅Bが異なる複数本のスクリュ1、1、…を製作した。これらのスクリュ1を加熱シリンダ14内で回転させて、スクリュ振幅を測定した。振幅を測定した部分はスクリュ1の圧縮部5の所定の部分である。実験によって得られた結果が図3において符号21のグラフに示されている。グラフにおいて横軸は、加熱シリンダ14の内径Dに対するフライト幅Bの割合になっている。なおフライト幅Bは、フライト2に垂直な方向の幅である。また、グラフの縦軸は、スクリュ振幅比になっており、具体的には、加熱シリンダ14とスクリュ1のクリアランスに対するスクリュ振幅になっている。符号22で示されているフライト幅Bが0.09D、0.10Dの2本スクリュ1においてはスクリュ振幅比は約0.9になっているのに対し、符号23で示されているフライト幅Bが0.16Dのスクリュ1ではスクリュ振幅比が0.8に低下し、それ以降フライト幅Bが大きくなるに従って急激にスクリュ振幅比が減少している。そこで、加熱シリンダ14に樹脂圧力を測定する圧力センサを埋め込み、フライト幅Bが0.10Dのスクリュと、0.16Dのスクリュのそれぞれを回転させ、変動する樹脂圧力の波形を調べた。図4の(ア)にフライト幅Bが0.10Dのスクリュ1の樹脂圧力の波形が、図4の(イ)にフライト幅Bが0.16Dのスクリュ1の樹脂圧力の波形が示されている。これらのグラフから明らかなように、フライト幅Bが0.16Dのスクリュ1においては、斜線で示されている鋭いスパイク状の圧力波形が発生しているが、0.10Dのスクリュ1においてはこのような圧力波形は生じていない。スパイク状の圧力波形は、効率的に潤滑圧力が発生したことを示している。この実験によって、フライト幅Bは0.16D以上必要なことが分かった。
【0021】
ところでフライト幅Bが大きくなると、スクリュ1の押出量が減少する。この押出量減少率が図3の符号25のグラフに示されている。許容できる押出量減少率の最大値は0.20程度であると考えられる。押出量減少率が0.20になるフライト幅Bは0.26Dである。以上により、フライト幅Bの適正な範囲は、加熱シリンダ14の内径Dに対して0.16D〜0.26Dとすることができる。
【0022】
次に、第1、2の隙間H、Hの比である隙間比m、フライト幅Bとランド部12の幅Bの比である形状因子βについて最適な範囲を検討する。8式で与えられている負荷容量係数Kについて、色々な隙間比mに対して、形状因子βを変化させたときの変化の様子を図5のグラフに示す。グラフから負荷容量係数Kの最大値は0.2をわずかに越えた値であると言える。そこで、負荷容量係数Kが0.2以上になる隙間比mと形状因子βの条件を調べ、以下を得た。
1.65 ≦ 隙間比m ≦ 2.15
0.63 ≦ 形状因子β ≦ 0.79
上の条件に適合するようにフライト2を形成すると、負荷容量係数Kが0.2以上になって最大値近傍になり、潤滑の負荷容量Wが最大値に近くなることが分かる。
【実施例2】
【0023】
次の条件でスクリュ1を製作した。圧縮部6寄りの供給部5から計量部7にかけてフライト2の頂部にランド部12を形成し、隙間比m=2、形状因子β=0.7とした。フライト幅Bは0.22Dとした。このスクリュ1を加熱シリンダ14に入れて回転させ、各スクリュ位置におけるスクリュ振幅を調べたところ、図6のグラフのような結果が得られた。スクリュ1の全長に渡って振幅が小さくなっており、スクリュ1と加熱シリンダ14との接触を確実に防止できることが確認できた。
【符号の説明】
【0024】
1 スクリュ 2 フライト
3 フライト溝 5 供給部
6 圧縮部 7 計量部
9 段部 11 大径部
12 ランド部 14 加熱シリンダ
フライト幅
ランド部の幅
第1の隙間 H 第2の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動されるように設けられ、フライトの頂部に形成されているステップ状の段部によって、該頂部が後方寄りの大径部と前方寄りのランド部とになっている射出成形機用のスクリュにおいて、
前記フライトのリード角と垂直な方向におけるフライト幅(B)は、前記加熱シリンダの内径に対して0.16〜0.26倍に選定されていることを特徴とする射出成形機用のスクリュ。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュにおいて、前記ランド部と前記加熱シリンダの内周壁の間の第1の隙間(H)は、前記大径部と前記加熱シリンダの内周壁の間の第2の隙間(H)の1.65〜2.15倍に選定され、前記ランド部の幅(B)は、前記フライト幅(B)の0.63〜0.79倍に選定されていることを特徴とする射出成形機用のスクリュ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスクリュにおいて、前記スクリュは後端部寄りが樹脂材料が供給される供給部に、中央部が樹脂材料を圧縮し溶融させる圧縮部に、先端部寄りが溶融した樹脂材料を混練して均一化する計量部になっており、前記フライトに形成されている前記ステップ状の段部は、前記圧縮部寄りの前記供給部から前記計量部にかけて形成されていることを特徴とする射出成形機用のスクリュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35234(P2013−35234A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174546(P2011−174546)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【特許番号】特許第4977258号(P4977258)
【特許公報発行日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】