説明

射出成形機

【課題】プランジャの前進による射出動作の際に、射出チャンバ内の射出材料がプランジャと射出チャンバとの間の嵌合クリアランスに基く隙間を通じて外部に漏出するのを有効に防止することのできる射出成形機を提供する。
【解決手段】射出成形機において、プランジャ18の外周面に環状溝を形成して環状溝に、プランジャ18と射出チャンバ15の内周面との間をシールする径方向に拡開可能なシールリング72を嵌込状態に装着するとともに、環状溝とシールリング72とのそれぞれにテーパ面を形成し、プランジャ18の射出動作の際に射出チャンバ15内のゴム材料に加わる圧力にてシールリング72をテーパ面の作用で径方向外方に押し拡げるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プランジャの前進による射出動作によって、射出チャンバ内に充填した射出材料を、射出シリンダの先端部のノズルから成形型に射出し成形する射出成形機に関し、特に射出チャンバからの射出材料の漏れを防止する技術手段に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム成形品等の成形機として射出成形機が広く用いられている。
この射出成形機では、射出チャンバ内に充填した射出材料を、射出チャンバの内周面に摺動可能に嵌合したプランジャの前進による射出動作によって、射出シリンダの先端部のノズルから成形型に射出し所定形状に成形する。
【0003】
ところで、図5に示す従来の射出成形機100においては、プランジャ102が射出チャンバ104の内周面に対して単に摺動可能に嵌合しているに過ぎず、それらプランジャ102の外周面と射出チャンバ104の内周面との間には、嵌合クリアランスに基く微小隙間が生じており、そのため射出チャンバ104内に充填した射出材料をプランジャ102の前進による射出動作によって射出シリンダ106の先端部のノズルから成形型108に射出する際に、射出チャンバ104内の射出材料が、これに加わる高圧力(150〜200MPa)により上記の微小隙間を通じて射出シリンダ106外部に材料漏れしてしまうといった問題が生じていた。
【0004】
上記嵌合クリアランスに基くプランジャ102の外周面と射出チャンバ104の内周面との間の隙間は、射出成形を繰り返すうちにプランジャ102外周面の摩耗,射出チャンバ104内周面の摩耗等によって次第に大きくなり、その結果としてこの隙間による材料漏れの量も次第に多くなる。
【0005】
而してこのようにして射出チャンバ104から射出シリンダ106外部に漏出した射出材料は、図5に示しているように射出シリンダ106の後端に次第に累積して塊状化する。
そしてその漏出した射出材料の塊Kが大きくなると、これが場合によって適正な射出動作の障害となってしまうことが起り得る。
また上記のような射出材料の漏れが生じると、プランジャ102の前進による射出動作によって成形型に供給される射出材料が減少してしまうことにもなり、場合によってゴム成形品等の成形品の形状や品質に対して悪影響を及ぼしてしまう恐れが生ずる。
【0006】
尚、下記特許文献1には、射出成形機の材料漏れ防止装置についての発明が示され、また特許文献2には、射出成形機における樹脂漏れの防止装置についての考案が開示されている。
しかしながらこれら特許文献1,特許文献2に開示のものは、スクリューの後端部と加熱筒との間の隙間からの材料漏れを防止するものである点で、また射出材料に加わる圧力を利用して材料漏れを防止するものではない点で、本発明とは異なっている。
その他に特許文献3,特許文献4にも射出成形機の材料漏れを防止するようになした点が開示されているが、これら特許文献3,特許文献4に開示のものも本発明とは異なったものである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−151737号公報
【特許文献2】実開平5−12116号公報
【特許文献3】実開平3−23421号公報
【特許文献4】実用新案登録第3079268号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような事情を背景とし、プランジャの前進による射出動作の際に射出チャンバ内の射出材料が、プランジャと射出チャンバとの間の嵌合クリアランスに基く隙間を通じて外部に漏出するのを有効に防止することのできる射出成形機を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
而して請求項1のものは、射出チャンバ内に充填した射出材料を、該射出チャンバの内周面に摺動可能に嵌合したプランジャの前進による射出動作によって、射出シリンダの先端部のノズルから成形型に射出して成形する射出成形機において、前記プランジャの外周面に環状溝を形成して該環状溝に、該プランジャの外周面と前記射出チャンバの内周面との間をシールする、径方向に拡開可能なシールリングを嵌込状態に且つ該シールリングが該プランジャの外周面から突出する状態に装着するとともに、該環状溝における該プランジャの後退側の溝側面、及び対応する該シールリングの該後退側の側壁面のそれぞれに、該プランジャの径方向外方に進むにつれて該プランジャの後退方向に移行する形状のテーパ面を形成し、該プランジャの前記射出動作の際に前記射出チャンバ内の前記射出材料に加わる圧力にて前記シールリングを前記テーパ面の作用で径方向外方に押し拡げるようになしてあることを特徴とする。
【0010】
請求項2のものは、請求項1において、前記シールリングが金属製であることを特徴とする。
【0011】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記シールリングには、周方向所定個所に該シールリングを該周方向に分断して径方向外方に弾性変形させるための切れ目が入れてあり、且つ該切れ目は該シールリングの中心軸線に対して傾斜した斜めの切れ目となしてあることを特徴とする。
【0012】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記射出材料がゴム材料であることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0013】
以上のように本発明は、プランジャの外周面に環状溝を形成してその環状溝に、プランジャの外周面と射出チャンバの内周面との間をシールするシールリングを嵌込状態に、且つシールリングがプランジャの外周面から突出する状態に装着するとともに、環状溝におけるプランジャの後退側の溝側面、及び対応するシールリングの後退側の側壁面のそれぞれにテーパ面を形成し、プランジャの射出動作の際に射出チャンバ内の射出材料に加わる圧力にてシールリングを、そのテーパ面の作用で径方向外方に押し拡げるようになしたものである。
【0014】
かかる本発明の射出成形機においては、プランジャと射出チャンバとの嵌合クリアランスに基いてプランジャの外周面と射出チャンバの内周面との間に生じる環状の微小な隙間をシールリングによってシールすることができる。
しかもそのシールリングは、射出動作の際に射出チャンバ内に充填されている射出材料に加わる圧力によってテーパ面の作用で径方向外方に押し拡げられるため、射出材料の射出チャンバからの漏れをより有効に防止することができる。
そしてこのことによって、射出材料の漏れに起因して生ずる上記の不具合を解決することが可能となる。
【0015】
本発明では、上記シールリングとして金属製のものを用いることができる(請求項2)。
ここで上記のシールリングには周方向所定個所に切れ目を設けておき、その切れ目においてシールリングを径方向外方に弾性変形可能となしておくことができる。
その切れ目はシールリングの中心軸線に対して傾斜した斜めの切れ目(バイアスカット)となしておくことができる(請求項3)。
【0016】
このようにしておけば、射出材料に加わる圧力及び上記テーパ面の作用でシールリングを容易に径方向外方に拡径変形させることができるとともに、そのようになした場合においても切れ目が斜めの切れ目(バイアスカット)であるため、その切れ目を通じての射出材料の漏れを可及的に少なく抑制することができる。
【0017】
また本発明は射出材料としてゴム材料を射出し成形する射出成形機即ちゴム射出成形機に好適に適用することができる(請求項4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明をゴム射出成形機に適用した場合の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、縦型射出成形機の全体構成を示したもので、同図に示しているようにこの縦型射出成形機は、射出装置10と成形装置12とを有している。
射出装置10は、押出機14と、図2に示しているように射出チャンバ15を備えた射出シリンダ16と、図中下向きの前進移動により射出チャンバ15内部に充填されているゴム材料を射出するプランジャ18と、その駆動シリンダ20とを有している。
射出装置10は、プランジャ18を下向きに前進移動させて、射出チャンバ15内のゴム材料を下方の成形金型(成形型)24に向けて射出する。
【0019】
成形装置12は、型締装置22と成形金型24とを有している。
尚図1において25は型締装置22における油圧装置である。
成形金型24は、上型26と、薄板状をなす中型28と、下型30とを有しており、その内部にゴム製品を成形するためのキャビティを有している。
【0020】
図1に示しているように、下型30の下側には熱板36が設けられており、更にその下側に断熱板38が設けられ、その下側に第1スライド板40が設けられている。
尚42は成形位置において上下に移動し、中型28と下型30とを熱板36,断熱板38等とともに上昇させ又は下降させる昇降板である。
【0021】
上記第1スライド板40は後方(図中左方)に延び出しており、その端部上に熱板36に埋設されたヒータに繋がる配線をまとめて収容する配線ボックス44が設けられ、更にその上側に配線ボックス44の蓋を兼ねた第2スライド板46が設けられている。
第2スライド板46は配線ボックス44から更に図中左方に延び出している。
【0022】
本実施形態において、これら第1スライド板40,配線ボックス44,第2スライド板46全体がスライド部材47を構成している。
これら第1スライド板40,配線ボックス44,第2スライド板46にて構成されたスライド部材47は、進退シリンダ48にて図1中左右方向に前進及び後退運動させられる。
一方成形装置12の前部(図1中右部)にはテーブル50が設けられていて、そのテーブル50に、成形金型24における中型28と下型30とを分離するための型分離装置52が設けられている。
【0023】
この型分離装置52は、昇降シリンダ54と、これにより昇降駆動される昇降ロッド56と、その上端に設けられた昇降部材58とを図1の紙面と直角方向の左右両側に一対有している。
これら昇降部材58の上側には更に爪部材60が設けられており、かかる爪部材60が昇降部材58と一体に昇降運動させられる。
この爪部材60は、自身の上昇運動によって中型28を持ち上げて下型30から分離させる。
【0024】
この縦型射出成形機では、図1の型締装置22にて成形金型24を型締状態に保持し、その状態でプランジャ18を駆動シリンダ20により図中下向きに突き出すことで、図2の射出チャンバ15内に充填されている流動状態のゴム材料を成形金型24のキャビティに注入する。
そしてその状態で所定時間保持することで、キャビティに注入されたゴム材料が加硫されゴム製品となる。
【0025】
その後成形金型24における中型28と下型30とが下降せしめられ、そしてその下降端においてスライド部材47が図1中左から右向きに前進させられて、スライド部材47詳しくは第1スライド板40上に載置されている中型28と下型30とが、ともにテーブル50上に持ち来たされる。
即ち中型28と下型30とが成形位置から型分離位置へと移動せしめられる。
【0026】
中型28は、型分離位置において昇降シリンダ54による昇降ロッド56の上昇、更にこれに伴う爪部材60の上昇により上方に持ち上げられ、下型30から分離される。そしてその後、加硫後のゴム製品が取り出される。
【0027】
上記押出機14は、ゴム材料を予め可塑化して射出シリンダ16に供給するもので、図2に示しているようにスクリュー62を有しており、供給口64から連続的に供給されてくるテープ状のゴム材料を、スクリュー62の回転により可塑化し流動化させた上で、逆止弁66を押し開いて射出シリンダ16の射出チャンバ15内部に押し出し、供給する。
図2に示しているように、プランジャ18はその先端部(図中下端部)に部分的に大径をなすヘッド68を備えている。
ここでヘッド68は、その外周面が軸方向に沿ってストレート形状をなす円柱面をなしている。
【0028】
一方射出シリンダ16に備えられた上記の射出チャンバ15は、その内周面が軸方向にストレート形状をなす円筒面となしており、かかる射出チャンバ15の内周面に対して射出プランジャ18、詳しくはヘッド68が図中上下に摺動可能に嵌合している。
このプランジャ18は、押出機14にて可塑化されたゴム材料が射出チャンバ15内部に押し出され供給されるに従って、その圧力で図中上向きに後退移動し、そして一定ストローク後退した時点で押出機14からのゴム材料の押出し及びプランジャ18の後退移動が停止する。
【0029】
即ちプランジャ18の後退移動によって射出チャンバ15内部のゴム材料の充填量が計量され、そしてその計量値が予め定めた一定値に達したところで、押出機14によるゴム材料の供給及びプランジャ18の後退移動が停止する。
【0030】
図3に拡大して示しているように、プランジャ18におけるヘッド68の外周面には円環状の環状溝70が形成されていて、そこにシールリング72が嵌込状態に装着されている。
本実施形態において、このシールリング72は金属製とされている。シールリング72としては砲金を好適に用い得るが、他の金属材料であっても良い。或いはまた金属材料以外の材料にてシールリング72を構成することも可能である。
【0031】
図3(B)に示しているように、このシールリング72には周方向所定個所にシールリング72を周方向に分断する切れ目74が設けてあり、その切れ目74によって、シールリング72が径方向外方に弾性変形可能となしてある。
ここで切れ目74はバイアスカット、即ち中心軸線に対して斜めに傾斜した切れ目となしてある。
尚シールリング72は、その外周部が部分的にヘッド68の外周面から径方向外方に突出した状態で環状溝70に装着されている。
【0032】
図3(A)の部分拡大図に示しているように、上記環状溝70における図中上側の溝側面、即ちプランジャ18の後退側の溝側面は、径方向外方に進むにつれてプランジャ18の後退方向に移行するテーパ面76となしてある。
またこれに対応して、シールリング72のプランジャ18後退側の側壁面が、同じ角度で傾斜する対応した形状のテーパ面78となしてある。
【0033】
本実施形態の射出装置10にあっては、射出チャンバ15内に充填されたゴム材料G(図4参照)を、プランジャ18の前進による射出動作によって射出シリンダ16の先端部のノズルから成形金型24に射出する際、図4に示しているようにプランジャ18に嵌着されたシールリング72が、射出チャンバ15内部のゴム材料Gに加わる高圧力によりテーパ面76,78の案内作用で径方向外方に押し拡げられ、そのことによってプランジャ18、詳しくはヘッド68の外周面と射出チャンバ15の内周面との間の環状の隙間が良好にシールされる。
従って射出チャンバ15内部のゴム材料Gは、それらプランジャ18と射出チャンバ15内周面との間の隙間を通じて後方(図4中上方)に漏出することなく、プランジャ18の前進移動により良好に射出チャンバ15から成形金型24へと射出される。
【0034】
以上のように本実施形態によれば、プランジャ18と射出チャンバ15との嵌合クリアランスに基いてプランジャ18の外周面と射出チャンバ15の内周面との間に生じる環状の微小な隙間をシールリング72によってシールすることができる。
しかもそのシールリング72は、射出動作の際に射出チャンバ15内に充填されているゴム材料Gに加わる圧力によってテーパ面76,78の作用で径方向外方に押し拡げられるため、ゴム材料Gの射出チャンバ15からの漏れをより有効に防止することができる。
そしてこのことによって、ゴム材料Gの漏れに起因して生ずる不具合を解決することが可能となる。
【0035】
また本実施形態では、シールリング72の周方向所定個所に切れ目74が設けてあるため、その切れ目74によってシールリング72を径方向外方に容易に弾性変形させ、拡径させることができる。
しかも切れ目74はシールリング72の中心軸線に対して傾斜した斜めの切れ目(バイアスカット)となしてあるため、その切れ目74を通じてのゴム材料Gの漏れを可及的に少なく抑制することができる。
【0036】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態である射出成形機の正面図である。
【図2】同実施形態の射出成形機における射出装置の要部断面図である。
【図3】同実施形態におけるプランジャ及びシールリングの図である。
【図4】同実施形態の作用説明図である。
【図5】従来の射出成形機の不具合を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0038】
10 射出装置
15 射出チャンバ
16 射出シリンダ
18 プランジャ
24 成形金型
70 環状溝
72 シールリング
74 切れ目
76,78 テーパ面
G ゴム材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出チャンバ内に充填した射出材料を、該射出チャンバの内周面に摺動可能に嵌合したプランジャの前進による射出動作によって、射出シリンダの先端部のノズルから成形型に射出して成形する射出成形機において
前記プランジャの外周面に環状溝を形成して該環状溝に、該プランジャの外周面と前記射出チャンバの内周面との間をシールする、径方向に拡開可能なシールリングを嵌込状態に且つ該シールリングが該プランジャの外周面から突出する状態に装着するとともに、
該環状溝における該プランジャの後退側の溝側面、及び対応する該シールリングの該後退側の側壁面のそれぞれに、該プランジャの径方向外方に進むにつれて該プランジャの後退方向に移行する形状のテーパ面を形成し、該プランジャの前記射出動作の際に前記射出チャンバ内の前記射出材料に加わる圧力にて前記シールリングを前記テーパ面の作用で径方向外方に押し拡げるようになしてあることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
請求項1において、前記シールリングが金属製であることを特徴とする射出成形機。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記シールリングには、周方向所定個所に該シールリングを該周方向に分断して径方向外方に弾性変形させるための切れ目が入れてあり、且つ該切れ目は該シールリングの中心軸線に対して傾斜した斜めの切れ目となしてあることを特徴とする射出成形機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記射出材料がゴム材料であることを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−154487(P2009−154487A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338031(P2007−338031)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000177058)三友工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】