説明

射出成形金型、射出成形方法およびレンズ

【課題】樹脂製の薄い凹レンズにおいて、ウェルドラインによる光学特性の低下を防止しつつ、生産性の低下を防止できる射出成形金型を提供する。
【解決手段】レンズ成形空間部3の成形面には、金型より熱伝導率の低い断熱層14,24が設けられている。レンズ成形空間部3内では、ゲート61,62から流入した溶融樹脂うちのフランジ成形部32の光学機能成形部31の右側を通った溶融樹脂と、フランジ成形部32の光学機能成形部31の左側を通った溶融樹脂とが、フランジ成形部32のゲート61,62に対向する側で会合する。この際に、ゲート61,62からレンズ成形空間部3内に流入された溶融樹脂のうちのフランジ成形部32から最薄部を含む光学機能成形部31を通った溶融樹脂がゲート61,62に対向する側で光学機能成形部31とフランジ成形部32との境界を越えてフランジ成形部32に至るように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄い樹脂製のレンズを成形するための射出成形金型およびこの射出成形金型を用いた射出成形方法および薄い樹脂製のレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話やスマートフォン等に高解像度の小型カメラが内蔵されている。また、自動車のバック時に後方を撮影したり、自動車の前方の障害物を撮影したり、事故等が発生した場合にそれを記録したりするための車載カメラや、玄関ドアの外を撮影する防犯カメラ等として、小型で高解像度のカメラが用いられる場合がある。
【0003】
これらのカメラでは、複数枚のレンズを光軸方向に並べて固定したレンズユニットが用いられている。このようなレンズユニットを、例えば、携帯電話やスマートフォン等の厚さの薄い機器に内蔵する場合に、前記レンズユニットの光軸方向に沿った長さが制限されることになる。したがって、レンズユニット内の各レンズの薄型化が求められる。例えば、レンズユニット内で用いられる凹レンズは、その最も薄い部分の厚さ(光軸方向に沿った厚さ)をできるだけ薄くすることによって、レンズ全体の厚さを薄くすることが可能である。
【0004】
そこで、できるだけ中心部の薄い樹脂製の凹レンズが求められている。
このような樹脂製(熱可塑性樹脂製)のレンズの射出成形においては、射出成形金型に射出される溶融樹脂が、流動性を有するように、その溶融樹脂のガラス転移点温度よりかなり高い温度とされるのに対して、射出成形金型は、少なくとも成形されたレンズを金型から取り出す前に、レンズを冷却硬化させるために、上述のガラス転移点温度より低い温度とされる。ここで、射出成形金型は、たとえば、溶融樹脂が流入されて充填されるキャビティをそれぞれ備えた可動金型と固定金型とを有し、成形後に固定金型に対して可動金型を離すように動かすことによって成形されたレンズの取り出しが可能になっている。
【0005】
できるだけ薄い凹レンズを成形するにあたって、前記金型のキャビティ部分の温度を射出される溶融樹脂のガラス転移点温度より低い温度に設定して、最も薄い最薄部の光軸方向に沿った厚さが0.4mm以下のレンズを成形しようとすると、以下のような問題が生じることがわかった。
すなわち、凹レンズの最薄部の厚さを0.4mm以下とする射出成形金型を用いてレンズの射出成形を行うと、成形されたレンズにウェルドラインが生じる。
このウェルドラインの発生の原因として、本発明者らは、通常の樹脂成型の成型温度、すなわち溶融樹脂のガラス転移点温度より例えば5℃から10℃程度低くされている金型を用いた凹レンズの射出成形において、金型のキャビティの最も薄くなる部分の光軸方向に沿った厚みが0.4mm以下になると、その部分における溶融樹脂の流速が極端に遅くなることを発見した。
【0006】
上述の溶融樹脂が、そのガラス転移点温度より低いキャビティの内面に接した場合に、溶融樹脂のキャビティの内面に近接した部分では、金型に熱が伝導されて溶融樹脂の流動性が低下した状態になってしまう。それに対して、溶融樹脂のキャビティの内面からある程度離れた位置では、キャビティの内面との間に存在する溶融樹脂により熱伝導が抑制され、流動性が保たれた状態になり、溶融樹脂がある程度の流速で流れることが可能になる。
【0007】
すなわち、キャビティの内面から0.2mm以上離れた位置では、溶融樹脂の流動性が保持されるが、それよりキャビティの内面に近いと、溶融樹脂が金型側に熱を放熱することによって急激に温度低下し、溶融樹脂の流動性が大きく低下するものと思われる。したがって、対向するキャビティの内面同士の距離が0.2mmの2倍になる0.4mmより狭くなると、キャビティの断面において、対向する内面から0.2mmまでの部分での溶融樹脂の流動性が低くなってしまうので、溶融樹脂の流動性が保持される部分がなくなってしまう。
【0008】
これにより、上述のように、キャビティの厚さ(すなわち、内面同士の間の距離)が0.4mm以下になると、溶融樹脂の流速が明らかに遅くなり、最終的に溶融樹脂の流れが止まる虞がある。キャビティ内で溶融樹脂の流れが止まると、溶融樹脂は金型に熱を放熱して直ぐに硬化してしまう。
この場合に、キャビティの中央部の厚さが0.4mm以下になっている部分を流れる溶融樹脂の流速より、前記中央部の外周側を流れる溶融樹脂の流速の方が速くなる。
これにより、ゲートからキャビティ内に流入した溶融樹脂のうちのキャビティの中央部を流れる溶融樹脂は、キャビティの中央部で流れが極端に遅くなるか止まった状態となっているのに対して、キャビティの中央部より左右を流れる溶融樹脂は、中央部で略止まった状態の溶融樹脂の左右を流れ、中央部を回り込むようにして、キャビティのゲートの反対側となる部分に流れる。この際に、キャビティの中央部の溶融樹脂より中央部の左右を流れた溶融樹脂の方が流速が速いことから、中央部側の未だ溶融樹脂が流れずに空隙となっている部分に、中央部の左右を流れた溶融樹脂が逆流し、逆流した溶融樹脂により空隙が埋められる。
【0009】
ここで、凹レンズの中心部が十分厚い場合、溶融樹脂が、キャビティのゲート側部分からキャビティのゲートの反対側部分に、中央部と外周部とで大きな速度差が生じることなく、略一様に流れた場合には、溶融樹脂の流れ方向も略一様であり、流れ方向の異なる溶融樹脂どうしが会合する状態となり難い。しかし、上述のように、中央部とその左右とで溶融樹脂が異なる流れ方をすると、キャビティのゲート側から中央部の左右をそれぞれ流れた溶融樹脂がキャビティのゲートの反対側で互いに会合し、さらに、上述のように逆流した溶融樹脂が中央部をゆっくり流れるか止まった状態の溶融樹脂と会合することになる。
このようにキャビティ内で流れ方向の異なる溶融樹脂が会合した場合に、温度を低下させながら流動して会合した溶融樹脂どうしが均質に一体化せずに、ウェルドラインが発生する可能性が高い。特に、中央部を流れる溶融樹脂と、逆流した溶融樹脂との間では、中央部を流れる溶融樹脂が上述のように既に有る程度硬化している虞があり、ウェルドラインが発生してしまう。
【0010】
ここで、一般的なウェルドラインの防止方法としては、例えば、射出成形金型のキャビティ部分の温度を溶融樹脂が射出される際に、溶融樹脂のガラス転移点温度より高く上昇させ、溶融樹脂が金型に接してガラス転移点温度以下になるのを防止し、次いで、射出成形金型のキャビティ部分の温度を下げて、前記ガラス転移点温度より低くすることによって、キャビティ内の溶融樹脂を硬化させる方法がある。
【0011】
この方法では、金型のキャビティ部分の温度を迅速に大きく変化させるために射出成形金型の構成が煩雑なるとともに、設備コストが高くなる。また、金型の加熱や冷却の時間を必要とすることから、順次成形と成形品の取り出しとを繰り返す射出成形における一回の成形に必要な時間(サイクルタイム)が長くなり、生産性が低くなる。
【0012】
また、上述のようにキャビティ中心部の厚さが薄いことにより発生するウェルドラインのない製品を得る方法として、ウェルドラインが発生しないように、射出成形金型のキャビティから構成されるレンズ成形空間を目的物とされるレンズよりも厚くしておき、これによりウェルドラインのないプリフォームのレンズを成型する。レンズを厚くすることにより、溶融樹脂が会合する状態になるのを抑制して、ウェルドラインの発生を防止している。成形されたプリフォームのレンズは、目的物とされるレンズより厚いので、これを再加熱しながら圧縮成形することによって、実際の製品としての厚みのレンズとする。
この方法では、射出成形機と別に圧縮成形機が必要になり設備コストが高くなる。また、射出成形にかかる時間に加えて圧縮成形に係る時間が必要になり、レンズを連続的に生産する際に、射出成形と圧縮成形とを並行的に行うものとしても、レンズの成形に必要な時間が長くなり、生産性が低下する。
【0013】
上述の小型カメラ用の小さくて薄い凹レンズではなく、車両用灯具のレンズ、すなわち、車両のランプ部分の透明なカバーの射出成形において以下のようにウェルドラインの防止を図ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この車両用灯具のレンズには、開口部がある。このレンズを成形するための金型のキャビティ内には、前記開口部を形成するために溶融樹脂が入り込めない障害部があり、この障害部を避けた部分で溶融樹脂同士が会合してウェルドラインが形成される。そこで、金型のキャビティの内面に断熱層を形成することによって、金型に接した溶融樹脂が急冷されて厚いスキン層が生じるのを防止し、このスキン層同士の会合により生じるウェルドラインの発生を防止している。
【0014】
また、上述のような金型のガラス転移点温度以上の加熱と、上述のキャビティ内面に形成される断熱層とを組み合わせて、ウェルドラインの発生の防止を図ったものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−111826号公報
【特許文献1】特開2001−113580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、断熱層と金型の加熱とを組み合わせた場合には、上述のガラス点移転以上に金型を加熱する場合と同じ問題が生じる。すなわち、溶融樹脂のガラス転移点温度より高い温度からガラス転移点温度より低い温度まで短期間に金型の温度を制御するための設備にコストがかかるとともに、レンズの成形のサイクルタイムが長くなることによる生産性の低下を招くことになる。
【0017】
したがって、溶融樹脂のガラス転移点温度を挟んで急激に金型の温度を制御することなく(金型を所定温度範囲内に保持する制御は行う)、断熱層だけでウェルドラインの発生を防止することが好ましい。
しかし、上述のように小型で最薄部が0.4mm以下となる凹レンズでは、断熱層によりキャビティ内面に近接する溶融樹脂の金型への放熱による流動性の低下を防止し、キャビティの中央部でも溶融樹脂が有る程度の流速で流れるようにしても、厚さが薄い中央部を流れる溶融樹脂の流速より、中央部の左右となる厚さの厚い外周部を流れる溶融樹脂の流速の方が速くなる可能性が高く、キャビティのゲートの反対側部分で、キャビティの中央部を流れる溶融樹脂と、キャビティの中央部の左右をそれぞれ流れる溶融樹脂とが会合する状態となってしまう。
【0018】
この場合、0.4mm以下の最薄部でない部分でもキャビティの厚みが薄いことから、会合する溶融樹脂の厚さが薄くなるとともに、放熱して温度低下し易い。したがって、ウェルドラインの発生を防止することが困難である。但し、断熱層の厚さをかなり厚くすることにより、金型への放熱による溶融樹脂の温度低下をさらに抑制するものとすれば、上述のようにキャビティ内で溶融樹脂どうしが会合してしまうものであっても、会合する溶融樹脂の温度が例えば溶融樹脂のガラス転移点温度より高いことにより、ウェルドラインの発生を防止できる可能性がある。
しかし、この場合に、厚い断熱層により、溶融樹脂の温度が高い状態に保持されてしまい、キャビティ内に溶融樹脂が満たされた後に、溶融樹脂が金型から取り外せる程度に冷却硬化されるまで時間がかることになる。これにより順次レンズを成形していく場合のサイクルタイムが長くなり、生産性が低下する。
【0019】
すなわち、基本的にレンズの厚さを薄くしたことによって、前記サイクルタイム、特に、サイクルタイムのうちの成形後の冷却にかかる時間が短くなるはずであるが、断熱性能が極めて高い断熱層を設けることによって、冷却時間が長くなり、サイクルタイムを短くできず、生産性が低下するといった問題がある。
【0020】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、最薄部が0.4mm以下となる樹脂製の薄い凹レンズにおいて、ウェルドラインによる光学特性の低下を防止し、かつ、生産性の低下を防止できる射出成形金型、射出成形方法およびレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の射出成形金型は、射出された溶融樹脂が流入してレンズが成形されるレンズ成形空間部を少なくとも一対の金型で構成する射出成形用金型であって、
前記レンズ成形空間部は、前記レンズとしての光学機能を有する光学機能部を成形する光学機能成形部と、前記光学機能部の周囲に設けられ、前記レンズの固定に用いられるフランジ部を成形するフランジ成形部とを備え、
前記光学機能成形部の最も薄い最薄部における前記レンズの光軸方向に沿った厚さが0.4mm以下とされ、かつ、前記フランジ成形部の最も厚い最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが前記光学機能成形部の前記最薄部の前記厚さより厚くされ、
前記レンズ成形空間部の内面である成形面には、前記金型より熱伝導率の低い断熱層が設けられ、
少なくとも前記光学機能成形部には、前記断熱層を覆い、射出される溶融樹脂に接触する表面成形層が設けられ、
前記断熱層の材質および厚さは、
前記フランジ成形部に繋がるゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の右側を通った溶融樹脂と、前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の左側を通った溶融樹脂とが、前記フランジ成形部の前記ゲートに対向する側で会合する際に、
前記ゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部から前記最薄部を含む前記光学機能成形部を通った溶融樹脂が前記ゲートに対向する側で前記光学機能成形部と前記フランジ成形部との境界を越えて前記フランジ成形部に至るように設定され、
前記フランジ成形部にだけウェルドラインが形成されるようになっていることを特徴とする。
【0022】
請求項1に記載の発明においては、少なくとも一対の金型で構成され、レンズを成形するレンズ成形空間部(キャビティ)は、レンズの光学機能を有する光学機能部を成形する光学機能成形部と、レンズの光学機能部の周囲でレンズの固定等に用いられるフランジ部を成形するフランジ成形部とを備えている。
また、レンズ成形空間部は、光学機能成形部の最薄部の厚さが0.4mmとされ、フランジ成形部の最厚部はそれより厚くなっている。
【0023】
レンズ成形空間部の内面には、断熱層が形成され、さらに、少なくともレンズ成形空間部の光学機能成形部では、断熱層上に溶融樹脂と接触する表面成形層が設けられている。
断熱層によって、レンズ成形空間部に射出された溶融樹脂の熱が金型に伝導されて溶融樹脂の温度が低下する際の温度低下速度が遅くなる。これにより、レンズ成形空間部の内面に接触する溶融樹脂の前記内面に近接する部分の流動性低下が抑制される。
【0024】
したがって、厚さが0.4mm以下とされた光学機能成形部の最薄部においては、流動性が大きく低下する部分の厚さが成形面から0.2mmより薄くなり、0.4mm以下の最薄部の中央部で流速が速い部分が存在することになる。
【0025】
この断熱層により最薄部を含む光学機能成形部を通る溶融樹脂の流速が速くなることで、レンズ成形空間部を流れる溶融樹脂のうちの光学機能成形部の周囲のフランジ成形部を左右に別れて流れる溶融樹脂の先端縁どうしが、レンズ成形空間部のゲートの反対側(ゲートに対向する側)で会合する際に、光学機能成形部を通る溶融樹脂の先端縁がゲートに対向する側で、光学機能成形部とフランジ成形部との境界を越えてフランジ成形部側に至るようにされている。
【0026】
この場合に、光学機能成形部の周囲のフランジ成形部を左右を流れる溶融樹脂の先端縁と、光学機能成形部を流れる溶融樹脂の先端縁とは、光学機能成形部の外側のフランジ成形部で会合することになる。これにより、溶融樹脂同士が会合することにより生じるウェルドラインは、フランジ成形部だけに形成され、光学機能成形部では形成されない。
この射出成形金型で成形されたレンズは、光学機能部にウェルドラインが無いので、ウェルドラインの発生により、光学機能部の光学特性が大きく劣化させられることがない。
【0027】
ここで、断熱層の断熱性能が高ければ、溶融樹脂の充填時にレンズ成形空間部の最終的に残った空間内に溶融樹脂が充填される際に、溶融樹脂の温度が断熱層により高く保持され、ウェルドラインの発生を防止できる可能性が高い。しかし、この場合に、成形されたレンズの冷却に時間がかかり、レンズの成形のサイクルタイムが長くなり、レンズの生産性が低下してしまう。
【0028】
それに対して、フランジ部にウェルドラインが残る程度に、断熱層の断熱性能を設定することによって、成形されたレンズの冷却にかかる時間が長くなるのを抑制し、レンズの成形のサイクルタイムを短くして、生産性の向上を図ることができる。
【0029】
請求項2に記載の射出成形金型は、請求項1に記載の発明において、前記フランジ成形部の最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが、前記光学機能成形部の最薄部の前記光軸方向に沿った厚さの1.5倍以上になっていることを特徴とする。
【0030】
請求項2に記載の発明においては、フランジ成形部が光学機能成形部の最薄部より1.5倍以上厚くなっていることによって、断熱層を設けても、最薄部を通過する溶融樹脂よりフランジ部側を通過する溶融樹脂の流速が速くなる可能性が高く、ウェルドライン発生の抑制がより困難になる。したがって、ウェルドラインの発生を完全に抑制可能な構造とした場合に、レンズの成形のサイクルタイムがより長くなる。それに対して、上述のように光学機能成形部より外側のフランジ成形部にだけウェルドラインを発生させるようにすることによって、サイクルタイムを短縮してレンズの生産性の向上を図ることができる。
【0031】
請求項3に記載の射出成形金型は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記一対の金型には、前記レンズ成形空間に樹脂を流入させる樹脂の通路としてスプルー、ランナーおよび前記ゲートが設けられ、前記スプルー、前記ランナーおよび前記ゲートの前記溶融樹脂と接する内面に、前記断熱層が設けられていることを特徴とする。
【0032】
請求項3に記載の発明においては、溶融樹脂が一対の金型のレンズ成形空間部に至る前に、スプルー、ランナーおよびゲートを通過した際に、金型側に熱を伝導して温度が低下しすぎるのを防止することができる。レンズ成形空間部の光学機能成形部の最薄部における溶融樹脂の流速を高めるためには、溶融樹脂の温度低下ができるだけ少ないことが好ましく、スプルー、ランナーおよびゲートの内面にも断熱層を設けることによって、最薄部における溶融樹脂の流速を確実に速くし、光学機能成形部内にウェルドラインが発生するのを防止できる。
【0033】
請求項4に記載の射出成形方法は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の射出成形金型を用いた射出成形方法であって、射出成形時に前記金型の温度を前記溶融樹脂のガラス転移点温度より低い所定の温度範囲に保持するように設定することを特徴とする。
【0034】
請求項4に記載の発明においては、請求項1から請求項3に記載の発明と同様の作用効果を奏することができる。
また、射出成形時の前記金型の温度範囲を前記溶融樹脂のガラス転移点温度より低い所定の温度範囲に保持するので、レンズを連続的に成形する際に、金型を前記溶融樹脂のガラス転移点温度以上に昇温した後に、前記溶融樹脂のガラス転移点温度より低く降温する時間を必要とせず、サイクルタイムが長くなるのを防止できる。また、前記溶融樹脂のガラス転移点温度を挟んで金型を迅速に昇温および降温するための煩雑な設備を必要とせず、設備コストの増加を防止できる。
【0035】
請求項5に記載のレンズは、光学機能を有する光学機能部と、前記光学機能部の周囲に設けられ、固定される際に用いられるフランジ部とを備えた樹脂製のレンズであって、
前記光学機能部の最も薄い最薄部における前記光軸方向に沿った厚さが0.4mm以下とされ、かつ、前記フランジ部の最も厚い最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが前記光学機能部の前記最薄部の前記厚さより厚くされ、
前記光学機能部より外側の前記フランジ部にだけウェルドラインが形成されていることを特徴とする。
【0036】
請求項5に記載の発明においては、光学機能部の最薄部の厚さを0.4mm以下とし、それよりフランジ部を厚くしたレンズにおいて、フランジ部だけにウェルドラインを形成するようにしたことによって、射出成形による製造時に、レンズにウェルドラインが発生しないように製造した場合よりも、レンズの成形のサイクルタイムを短縮して、レンズの生産性の向上を図ることができる。また、レンズの光学機能部にはウェルドラインが形成されていないので、レンズの光学特性が形成されたウェルドラインにより低下するのを防止することができる。
【0037】
請求項6に記載のレンズは、請求項5に記載の発明において、前記フランジ部の前記最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが、前記光学機能部の前記最薄部の前記光軸方向に沿った厚さの1.5倍以上になっていることを特徴とする。
【0038】
請求項6に記載のレンズにおいては、フランジ部が光学機能部の最薄部より1.5倍以上厚くなっていることによって、製造時にウェルドライン発生の抑制がより困難になり、ウェルドラインの発生を完全に抑制するとよりレンズの成形のサイクルタイムが長くなる。それに対して、光学機能成部より外側のフランジ部にだけウェルドラインを発生させるようにすることによって、サイクルタイムを短縮してレンズの生産性の向上を図ることができる。また、光学機能部の最薄部を薄くしても、フランジ部によりレンズの強度を確保できる。
【0039】
請求項7に記載のレンズは、請求項5または請求項6に記載の発明において、前記光学機能部を成形する光学機能成形部と、この光学機能成形部の周囲に設けられて前記フランジ部を成形するフランジ成形部とを有するレンズ成形空間部を備えた射出成形金型で射出成形され、
前記フランジ成形部に繋がるゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の右側を通った溶融樹脂と、前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の左側を通った溶融樹脂とが、前記フランジ成形部の前記ゲートに対向する側で会合する際に、
前記ゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部から前記最薄部を含む前記光学機能成形部を通った溶融樹脂が前記ゲートに対向する側で前記光学機能成形部と前記フランジ成形部との境界を越えて前記フランジ成形部に至っていたことにより、前記フランジ部にだけウェルドラインが形成されていることを特徴とする。
【0040】
請求項7に記載のレンズにおいては、製造時に、レンズ成形空間部内では、ゲートから流入した溶融樹脂うちのフランジ成形部の光学機能成形部の右側を通った溶融樹脂と、フランジ成形部の光学機能成形部の左側を通った溶融樹脂とが、フランジ成形部のゲートに対向する側で会合する。この際に、ゲートからレンズ成形空間部内に流入された溶融樹脂のうちのフランジ成形部から最薄部を含む光学機能成形部を通った溶融樹脂がゲートに対向する側で光学機能成形部とフランジ成形部との境界を越えてフランジ成形部に至ることで成形される。これにより、ウェルドラインは、フランジ部にだけ形成されることになり、請求項5に記載の発明ど同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の射出成形金型、射出成形方法およびレンズによれば、極めて薄い凹レンズを射出成形する際に、レンズの成形のサイクルタイムが長くなるのを防止しつつ、ウェルドラインにより光学特性が低下するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態の射出成形金型を示す要部断面図である。
【図2】前記射出成形金型の可動金型を示す要部正面図である。
【図3】溶融樹脂の放熱を説明するための前記射出成形金型のランナーを示す要部概略断面図であって、(a)は断熱層が無い場合を示す図であり、(b)は断熱層が有る場合の図である。
【図4】ゲートを切り離す前の成形された凹レンズを示し、断熱層が有る場合の溶融樹脂の流動過程を示す平面図である。
【図5】ゲートを切り離す前の成形された凹レンズを示す断面図である。
【図6】ゲートを切り離した凹レンズを示す斜視図である。
【図7】ゲートを切り離す前の成形された凹レンズを示し、断熱層が無い場合の溶融樹脂の流動過程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1から図3に示すように、第1実施形態の射出成形金型は、周知の射出成形機で用いられる金型であり、一対の金型として、固定金型(第1金型)1と、可動金型(第2金型)2とを備えている。なお、図1に示されるのは、固定金型1および可動金型2それぞれの型板のレンズを成形する成形面を有するキャビティプレート部分である。
【0044】
これらキャビティプレートには、レンズを複数個取りするように、複数組のキャビティ11,21が設けられている(図1にはキャビティ11,21を一組だけ図示、図2にはキャビティ21を一つだけ図示)。固定金型1のキャビティプレートと、可動金型2のキャビティプレートを突き合わせた際に、固定金型1のキャビティ11と可動金型2のキャビティ21が突き合わせれてこれらキャビティ11,21からなるレンズ成形空間部(キャビティ)3が形成されている。なお、この例では、図1に示すように、レンズ成形空間部3の主要部分が可動金型2側のキャビティ21で形成されている。
【0045】
また、固定金型1および可動金型2それぞれのキャビティ11,21は、光学機能を有する光学機能部41と、その周囲に設けられ、位置決めおよび固定に用いられるフランジ部42とからなる凹レンズ4(図4および図5に図示)を成形するためのものである。凹レンズ4は、光学機能部41の中心軸(光軸)を中心とした回転対称の形状を有している。
この成形される凹レンズ4に対応して、レンズ成形空間部3は、凹レンズ4の光学機能部41を成形する光学機能成形部31と、光学機能成形部31の周囲に設けられ、凹レンズ4のフランジ部42を成形するフランジ成形部32とを備える。
【0046】
また、固定金型1および可動金型2には、キャビティプレートの光学機能成形部31に対応する部分に入れ子12,22が挿入される円柱状の孔13,23がそれぞれ形成され。この孔13、23に円柱状の入れ子12、22が回転可能に挿入されている。入れ子12,22の先端面が前記光学機能成形部31で凹レンズ4の光学機能部41を成形する成形面が形成されている。
【0047】
また、光学機能成形部31の中心軸と、入れ子12,22の中心軸とが一致させられている。入れ子12,22の径は、光学機能成形部31の径より大きくなっており、入れ子12,22の先端面が、上述のように光学機能成形部31で凹レンズ4の光学機能部41の成形面になるとともに、光学機能部41の周囲のフランジ部42の内周側部分の成形面になっている。また、上述の固定金型1および可動金型2のキャビティプレートの先端面の入れ子12,22の周囲が、フランジ成形部32の外周側部分に対応し、凹レンズ4のフランジ部42の外周部分を成形するようになっている。
【0048】
光学機能成形部31は、凹レンズ4を成形するために、外周側から中央側に向かうにつれて、固定金型1側の内面と、可動金型2側の内面との間の距離(成形される凹レンズ4の光軸方向に沿った距離)が短くなるように形成されている。光学機能成形部31の中央で、上述の距離が最も短くなる。
前記内面間の距離をレンズ成形空間部3の厚さとし、光学機能成形部31の略中央になる部分が最も厚さが薄い最薄部になる。この実施形態の光学機能成形部31の最薄部の成形される凹レンズ4の軸方向に沿った厚さは、例えば、0.4mm以下にされている。
【0049】
凹レンズ4を他のレンズと組み合わせて薄い装置に内蔵させる場合に、凹レンズ4はできるだけ薄いことが好ましく、光学機能成形部31の最薄部の厚さが、0.3mm以下であってもよい。光学機能部41の最も薄い最薄部を薄くすることにより、光学機能部41の最も厚い部分を薄くしても、凹レンズとしての光学特性を満足させることができる。すなわち、光学機能部41の最も薄い最薄部を薄くすることにより、凹レンズ4全体の厚さを薄くできる。
【0050】
フランジ成形部32は、凹レンズ4の外周部であるフランジ部42を成形する部分であり、光学機能成形部31の前記光軸方向に沿った厚さが最も厚い部分と同じ厚さになっている。基本的にフランジ成形部32の厚さは略一様になっている。なお、凹レンズ4のフランジ部42に、凹部や切欠部を設けたり、凸部を設けてもよく、フランジ成形部32の厚さが一様でなくてもよい。
【0051】
このフランジ成形部32の最も厚い最厚部の成形される凹レンズ4の光軸方向に沿った厚さが、前記光学機能成形部の最も薄い最薄部の成形される凹レンズ4の光軸方向に沿った厚さの1.5倍以上になっている。なお、2倍以上や3倍以上になっていてもよいが、凹レンズ4の厚さを薄くするためには、フランジ成形部32の厚さが薄い方が好ましい。ただし、光学機能成形部31の最も厚い部分より薄くしても、凹レンズ4の最も厚い部分の厚さは薄くならない。
【0052】
また、固定金型1および可動金型2には、固定金型1に設けられた図示しないスプルーを介して射出された溶融樹脂が流入するランナー51,52が設けられ、ランナー51,52とキャビティ11,21との間にゲート61,62が設けられている。ゲート61,62は、その主要部が可動金型2側に設けられている。
そして、固定金型1および可動金型2の溶融樹脂と接触する部分には、全て断熱層14,15,16,17,24,25,26,27が形成されている。
【0053】
すなわち、入れ子12,22の先端面に断熱層14,24が形成されている。また、固定金型1および可動金型2のキャビティプレートのフランジ成形部32の外周部分に対応する部分に断熱層15,25が設けられている。また、固定金型1および可動金型2のキャビティプレートのランナー51,52に対応する部分に断熱層17,27が設けられている。また、固定金型1および可動金型2のキャビティプレートのゲート61,62に対応する部分に断熱層16,26が設けられている。図示しないスプルーの内面にも断熱層が形成されている。
【0054】
また、入れ子12,22においては、上述の断熱層14,24の表面にさらに表面成形層18、28が設けられている。表面成形層18,28は、入れ子12,22の先端面だけではなく、先端面から先端部の外周面にまで形成されている。
【0055】
前記断熱層は、例えば、熱可塑性のポリイミド系の樹脂や、熱硬化性のエポキシ系の樹脂等を用いるものとしてもよいし、酸化ジルコニウム系,酸化アルミニウム系,酸化チタン,酸化クロム系等のセラミックスを用いてもよい。但し、固定金型1および可動金型2に耐久性を考慮した場合に、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27を樹脂ではなくセラミックスで構成することが好ましい。
この実施形態では、ジルコニア(ZrO2)セラミックスを用い、固定金型1および可動金型2の上述の断熱層14,15,16,17,24,25,26,27が形成される部分に溶射によって断熱層14,15,16,17,24,25,26,27を形成する。
【0056】
また、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の厚みは、凹レンズ4を成形した際に、凹レンズ4の光学機能部41の外側のフランジ部42だけにウェルドラインが発生するように設定される。これは、例えば、実験等によりデータを求め、ウェルドラインが光学機能部41より外側のフランジ部42に設けられ、かつ、できるだけ凹レンズ4の成形のサイクルタイムが短くなるように設定される。なお、凹レンズ4の材料になる合成樹脂によっても、最適な断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の厚みが異なる可能性がある。
【0057】
ここで、例えば、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27を溶射により形成されたジルコニアセラミックスとした場合に、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の厚さを100μm〜1.0mmとすることが好ましい。
断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の厚みを100μm以上とすることにより、上述のようにレンズ成形空間部3の光学機能成形部31の最薄部の厚さが0.4mm以下で、レンズ成形空間部3のフランジ成形部32の厚さが、光学機能成形部31の最薄部の厚さの1.5倍以上であっても、凹レンズ4の光学機能部41にウェルドラインが発生するのを防止することができ、フランジ部42にだけウェルドラインが発生した状態になる。
【0058】
また、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の厚みを1.0mm以下とすることにより、上述のようにレンズ成形空間部3の光学機能成形部31の最薄部の厚さが0.4mm以下で、レンズ成形空間部3のフランジ成形部32の厚さが、光学機能成形部31の最薄部の厚さの1.5倍以上であっても、凹レンズ4のフランジ部42にだけウェルドラインが発生し、かつ、凹レンズ4のサイクルタイムが長くなるのを防止することができる。
また、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の厚さを150μm〜500μmとすることがより好ましい。さらに、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の厚さを200μm〜300μmとすることがより好ましい。上述に例
は、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27をジルコニアセラミックスとした場合のものである。断熱層の種類や成型温度により、必要な断熱層の厚さは異なるが、断熱層の熱伝導率を考慮して、断熱層の厚さは決定される。
断熱層の熱伝導率は、金型の熱伝導率をα(W/(m・k))とした場合に、0.1α〜0.01αの範囲が望ましい。すなわち、断熱層の熱伝導率は、金型の熱伝導率の1/10以下で1/100以上となっていることが好ましい。
【0059】
なお、入れ子12,22の先端面に形成され、凹レンズ4の主に光学機能部41を成形するための断熱層14,24と、固定金型1および可動金型2のキャビティプレートの前記入れ子12,22の周囲で、凹レンズ4の主に凹レンズ4のフランジ部42を成形するための断熱層15,25と、固定金型1および可動金型2のゲート61,62の内面に形成される断熱層16、26と、固定金型1および可動金型2のランナー51,52の内面に形成される断熱層17、27と、図示しないスプルーの内面に形成される断熱層とで厚みを異なるものとしてもよい。
【0060】
例えば、レンズ成形空間部3側の断熱層14,15、24,25に対して、レンズ成形空間部3に溶融樹脂を誘導する側の断熱層16,17、26,27(スプルー内面の断熱層を含む)を厚くするものとしてもよい。この場合に、断熱層14,15、24,25の厚さが上述の範囲内になっていれば、断熱層16,17、26,27(スプルー内面の断熱層を含む)が上述の厚さの範囲より厚くなっていてもよい。
このような構成とすることによって、レンズ成形空間部3に達する前の溶融樹脂の温度が低下してしまうのを確実に防止し、光学機能部41にウェルドラインが形成されるのをさらに抑制することができる。
【0061】
表面成形層18,28は、凹レンズ4の光学機能部41を成形するために、例えば、鏡面加工が施される部分であり、例えば、ニッケル系合金等の合金をメッキしたものである。この実施形態では、ニッケル・リンがメッキされている。また、光学機能部41に微細な形状が形成される場合には、表面成形層18,28に光学機能部41の表面に転写される微細な加工を施すものとしてもよい。また、表面成形層18,28の厚さは、例えば、100μm〜200μmであることが好ましい。
【0062】
このような射出成形金型を用いた射出成形方法においては、固定金型1と可動金型2とから形成されるレンズ成形空間部3に射出された溶融樹脂がスプルー、ランナー51,52およびゲート61,62を介して流入されることになる。この際に、溶融樹脂の温度は、溶融樹脂が流動性を有するように、射出される溶融樹脂のガラス転移点温度より高い温度範囲に設定することになるが、基本的に従来と同様の温度範囲に設定して、射出成形を行うことができる。
【0063】
また、射出時の溶融樹脂の時間当たりの射出量(流速)は、レンズ成形空間部3内をゲート61,62側からゲート61,62側の反対側に流動する際に、溶融樹脂の先端縁が、後述のようにV字状になり難くするように、設定することが好ましい。
【0064】
また、射出成形時の固定金型1および可動金型2の温度は、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27を介した溶融樹脂から固定金型1および可動金型2への放熱により、溶融樹脂の流動性が低下することに基づき、光学機能成形部でウェルドラインが生成することがない温度以上で、かつ、溶融樹脂がレンズ成形空間部3に略充填された後に、速やかに溶融樹脂が硬化可能な温度になっている必要がある。固定金型1および可動金型2の温度は、従来と同様に溶融樹脂のガラス転移点温度より5℃〜10℃低い温度範囲に設定しても良いが、サイクルタイムを速くするために、固定金型1および可動金型2の温度は、ガラス転移点温度より10℃〜20℃低い温度範囲に設定することが好ましい。
【0065】
ここで、この実施形態では、固定金型1および可動金型2の温度を従来より低くしても、入れ子12,22の先端面に断熱層14,24が形成され、固定金型1および可動金型2のキャビティプレートのフランジ成形部32の外周部分に対応する部分に断熱層15,25が設けられているので、すなわち、レンズ成形空間部3の内周面に断熱層14,15,24,25が形成されているので、溶融樹脂がレンズ成形空間部3の内周面に接したときに、急激に冷却されるのを防止でき、上述のようにフランジ部42にだけウェルドラインが形成されるようにすることが可能である。
【0066】
特に、この実施形態においては、レンズ成形空間部3の内周面だけではなく、固定金型1および可動金型2のキャビティプレートのランナー51,52に対応する部分に断熱層17,27が設けられ、ゲート61,62に対応する部分に断熱層16,26が設けられ、さらにスプルーの内周面にも断熱層が設けられているので、上述のように固定金型1および可動金型2の温度を従来より低くても、溶融樹脂がレンズ成形空間部3に至る前に必要以上に温度が低下してしまうのを防止できる。これにより、上述のように、フランジ部42にだけウェルドラインが形成されるようにすることが可能である。
【0067】
また、固定金型1および可動金型2の温度を、溶融樹脂のガラス転移点温度より高くなるように昇温し、昇温後に溶融樹脂のガラス転移点温度より低くなるように降温する温度制御を行わずに、例えば、周知の金型温度調節機により、溶融樹脂のガラス点移転温度より低い上述の温度範囲内に固定金型1および可動金型2の温度を保持する制御、基本的には、溶融樹脂のガラス転移点温度から所定温度差だけ低い略一定の温度に保持する制御だけ行う。したがって、レンズの成形のサイクルタイムに、固定金型1および可動金型2の昇温や降温のための時間を必要としない。また、迅速に昇温や降温を行うための設備を必要としない。
【0068】
上述の射出成形金型で上述の射出成形方法で成形された凹レンズ4は、図4〜図6に示すように、円形状の光学機能部41の周囲に円環状のフランジ部42を備えた形状になっている。なお、図4における二点鎖線は、射出成形時の溶融樹脂の流動過程(流動する溶融樹脂の先端縁の位置)を段階的に示したものである。
また、図4、図5においては、凹レンズ4からゲート61,62で成形されたゲート部43およびランナー51,52で成形されたランナー部44を除去していない状態を図示している。
【0069】
この凹レンズ4は、光学機能部41の最も薄い最薄部における凹レンズ4の光軸方向に沿った厚さが0.4mm以下とされ、光学機能部41の周囲に形成されたフランジ部42の最も厚い最圧部の厚さが光学機能部41の最薄部の厚さの1.5倍以上とされている。
また、光学機能部41においては、光学機能部41の中央部が最も薄く、光学機能部41の最外周が最も厚くなっている。また、フランジ部42は、厚さが略一様とされるとともに、その厚さが光学機能部41で最も厚い最外周部(光学機能部41とフランジ部42との境界)と略同じ厚みとされている。
【0070】
また、上述の射出成形金型を用いた射出成形方法により形成された凹レンズ4においては、凹面を有し、実際に凹レンズとしての光学特性を有する光学機能部41にはウェルドラインがなく、ウェルドラインによって光学特性が低下させられることがない。
また、フランジ部42には、ウェルドラインが発生している。
【0071】
また、凹レンズ4の材料としては、たとえば、ポリメタクリル酸メチレン樹脂(PMMA)、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP)、環状オレフィンコポリマー樹脂(COC)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエステル樹脂(PE)等を好適に用いることができるが、これらに限られるものではない。
【0072】
上述の射出成形金型を用いた凹レンズ4の射出成形方法においては、設定された温度にされた溶融樹脂がスプルーに射出され、溶融樹脂はスプルーから、ランナー51,52を通ってゲート61,62からキャビティとしてのレンズ成形空間部3に流入する。
ここで、図1に示すように、スプルー、ランナー51,52、ゲート61,62、レンズ成形空間部3の光学機能成形部31およびフランジ成形部32に内面に、上述のように、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27が形成されている。したがって、例えば、図3(a)に示すように、例えば、ランナー51,52を通過する溶融樹脂Pは、断熱層17,27がない固定金型1aおよび可動金型2aの場合に、溶融樹脂Pのガラス転移点温度より低く、熱伝導率の高い固定金型1aおよび可動金型2aに対して溶融樹脂Pから矢印で示されるように大きな放熱が生じ、溶融樹脂のランナー51,52の内面に近接する部分(二点鎖線で示される部分)の流動性が大きく低下する。それに対して、ランナー51,52の内面に断熱層17,27を設けることによって、溶融樹脂Pから固定金型1および可動金型2への矢印で示される放熱が断熱層17,27で弱められ、溶融樹脂Pのランナー51,52の内面に近接する部分でも有る程度の流動性を持たせることができる。または、流動性が低下する部分の厚さを薄くできる。
【0073】
このように断熱層14,15,16,17,24,25,26,27によって、溶融樹脂の降温速度を遅くし、溶融樹脂の流動性の低下を遅らせることができる。また、光学機能成形部31の厚さが0.4mm以下の最薄部とその近傍においては、溶融樹脂が固定金型1および可動金型2に直接接触することによって、接触した溶融樹脂を含む固定金型1および可動金型2に近接した溶融樹脂が大きな放熱により温度低下し、その部分の流動性が大きく低下するのを防止できる。これにより、光学機能成形部31の最薄部でも溶融樹脂の流動性を保持して流動可能としている。
【0074】
レンズ成形空間部3に流入した樹脂は、概略円板状のレンズ成形空間部3をゲート61,62の接続部分からレンズ成形空間部3のゲート61,62の反対側(ゲート61,62に対向する側)に向って流動する。この際に、概略円板状のレンズ成形空間部3の左右幅に対応して左右に広がりながら流れ、流動する溶融樹脂の先端縁がレンズ成形空間部3のゲート61、62の反対側に到達してレンズ成形空間部3が溶融樹脂に満たされた状態になる。
【0075】
この際にウェルドラインが発生する要因は、レンズ成形空間部3への溶融樹脂の充填時に、流動する溶融樹脂の先端縁同士が会合する状態になることによる。例えば、円形状の凸レンズの成形時には、円板状のレンズ成形空間部の中央部分が最も厚くなることから、流動する溶融樹脂の先端縁は、中央部がその外側より早く進みため凸状になり、ランドに対向する側に溶融樹脂が到達する際に、2方向から溶融樹脂が会合する状態になり難く、ウェルドラインが発生し難い。
【0076】
このような凸レンズに対して凹レンズ4の場合には、ウェルドラインwが発生し易い状態となる。図7は、ゲート部43を切断していない状態の凹レンズ4を示すとともに、二点鎖線a〜dで溶融樹脂の充填状態(流動する溶融樹脂の先端縁の位置)を段階的に図示したものである。また、図7に示す凹レンズ4では、二点鎖線a〜dは、射出成形用金型に断熱層を設けなかった場合もしくは断熱層の断熱性能が十分でなかった場合の溶融樹脂の充填状態を示しており、ウェルドラインwが光学機能部41からフランジ部42に渡って形成されている比較例を示している。
【0077】
凹レンズ4の場合で、特に外周部に厚いフランジ部42がある場合には、例えば、図7に二点鎖線aで示されるように、レンズ成形空間部3に溶融樹脂が流入開始直後は、ほぼ一様の厚さのフランジ部42を形成するフランジ成形部32に溶融樹脂が流入するため、基本的に流動する溶融樹脂の先端縁が凸状の曲線になる。
【0078】
次に、溶融樹脂の先端縁の中央部が光学機能部41を成形する光学機能成形部31に入り込むと、中央部の厚さが薄くなっていくことから、溶融樹脂の先端縁は、二点鎖線bで示すように、中央部の流速が、相対的に厚みのある光学機能部41の外周部分での流速に対して、遅くなり、凹状の曲線になる。
さらに、溶融樹脂の先端縁の中央部が、光学機能成形部31の厚さが0.4mm以下の最薄部としての中央部を通過する際には、溶融樹脂の先端縁は、二点鎖線cで示されるように、中央部の流速がさらに遅くなり、大きく凹んだ状態の中央部に対して、中央部より左右になる部分がかなり先に進んで突出した状態になる。
【0079】
ここで、二点鎖線cの中央部では、流速が遅いことから、光学機能部41の中央の位置に対して僅かしか進まないのに対して、二点鎖線cの左右の突出部が中央部より相対的に早く進むことになり、最終的には、二点鎖線dに示すように、溶融樹脂の先端縁が略V字状になり、左右の溶融樹脂の先端縁が会合する状態になって、ウェルドラインwが形成される。
この際に、二点鎖線cで示される段階から、二点鎖線dで示される段階まで、これら二点鎖線の中央部に対応する溶融樹脂の先端縁の中央部は、僅かしか流動せず、二点鎖線dで示される段階となっても未だ、光学機能部41内にあり、フランジ部42に至っていない。この状態で、左右突出部を形成している溶融樹脂同士が2点鎖線dに示すように会合して、ウェルドラインwが形成される。これにより、ウェルドラインwの一部は、光学機能部41内に形成されてしまうことになる。また、二点鎖線dでは、溶融樹脂の先端縁が概略V字状になっているが、さらに、二点鎖線dで示される溶融樹脂の先端縁の中央部で樹脂の流れが遅れると、それより先側で、左右の突出部分が互いに接触した後も、光学機能部41側に溶融樹脂が充填されない部分が残り、互いに会合した溶融樹脂が逆流するように光学機能部41の中央側に向って、光学機能部側の未だ樹脂が充填されていない部分に溶融樹脂が充填される場合もある。
この場合にウェルドラインwは、1本の直線状ではなく、複数本でかつ曲線状のものを含む場合がある。
【0080】
それに対して、図4に示す実施の形態の凹レンズ4の成形においては、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27の断熱性能が必要十分なものとなっているので、二点鎖線a〜dで示される溶融樹脂の段階的に示される流れの先端縁の特に、二点鎖線cで示される溶融樹脂の先端縁の中央部の進み具合が図7に示される場合よりも早くなっている。
これにより、二点鎖線dで示されるように、溶融樹脂の先端縁が略V字状となった場合に、V字状の先端縁の中央部のV字の頂点となる部分の位置が、光学機能部41の外側のフランジ部42側になる。これにより、ウェルドラインwが光学機能部側に形成されるのを防止できる。
【0081】
以上の溶融樹脂のレンズ成形空間部3内の流れを言い換えると、レンズ成形空間部3内では、ゲート61,62から流入した溶融樹脂うちのフランジ成形部32の光学機能成形部31の右側を通った溶融樹脂と、フランジ成形部32の光学機能成形部31の左側を通った溶融樹脂とが、フランジ成形部32のゲート61,62に対向する側で会合する。
【0082】
この際に、図7に示すように、ゲート61,62からレンズ成形空間部3内に流入された溶融樹脂のうちのフランジ成形部32から最薄部を含む光学機能成形部31を通った溶融樹脂がゲート61,62に対向する側で光学機能成形部31とフランジ成形部32との境界を越えていないと、光学機能成形部31内で、上述ように左右から流れる溶融樹脂が会合したり、フランジ成形部32で会合した溶融樹脂が、光学機能成形部31に残る空隙側に逆流したりする。この場合には、光学機能成形部31内にウェルドラインが形成されてしまう。
【0083】
しかし、この実施形態では、上述の断熱層14,15,16,17,24,25,26,27により、溶融樹脂から固定金型1および可動金型2への放熱を抑制して、流動性の低下を抑制しているので、図4に示すようにウェルドラインwが光学機能部41側に発生するのを防止できる。
すなわち、溶融樹脂の先端縁が二点鎖線dに示すよにV字状となった際に、V字状部分の頂点が光学機能部41ではなく、光学機能部41とフランジ成形部42の境界を越えてフランジ成形部42側に至るようになっている。
言い換えると、フランジ成形部32の光学機能成形部31の右側を通った溶融樹脂と、フランジ成形部32の光学機能成形部31の左側を通った溶融樹脂とが、フランジ成形部32のゲート61,62に対向する側で会合する際に、ゲート61,62からレンズ成形空間部3内に流入された溶融樹脂のうちのフランジ成形部32から最薄部を含む光学機能成形部31を通った溶融樹脂がゲート61,62に対向する側で光学機能成形部31とフランジ成形部32との境界を越えてフランジ成形部32に至るようになっている。
【0084】
この実施形態の凹レンズ4では、最薄部が0.4mm以下となっていることによって、溶融樹脂の先端縁の左右の突出部が会合しない状態とするのは困難であり、ウェルドラインを無くすためには、溶融樹脂の先端縁が会合する際の金型に接するか近接する溶融樹脂の温度を溶融樹脂のガラス転移点温度より高める必要がある。
この場合には、固定金型1および可動金型2の溶融樹脂の充填時の温度を溶融樹脂のガラス転移点温度より高くすることが考えられる。また、極めて断熱性能が高い断熱層を設けることにより、固定金型1および可動金型2の溶融樹脂の充填時の温度を溶融樹脂のガラス転移点温度より低く設定しても、充填される溶融樹脂の温度が充填中にガラス転移点温度より低くならないようにすることが考えられる。または、これらの方法を組合わせることが考えられる。これらの場合に、溶融樹脂を固定金型1および可動金型2から取り出せる温度まで冷却するのに時間がかかることになり、凹レンズ4の成形のサイクルタイムが長くなって生産性が低下する。
【0085】
そこで、本願発明においては、上述のようにフランジ部42にあえてウェルドラインが発生する状態とすることにより、凹レンズ4の成形における冷却工程が長くなるのを抑制し、サイクルタイムを短縮して生産性の向上を図っている。
すなわち、この実施形態では、上述のようにレンズ成形空間部3に溶融樹脂が充填される際に、断熱層14,15,16,17,24,25,26,27により溶融樹脂の温度低下を防止することによって、溶融樹脂の流動性を高め、溶融樹脂の先端縁が図4の二点鎖線dに示されるように略V字状になる際に、V字の頂点が光学機能部41(光学機能成形部31)より外側のフランジ部42(フランジ成形部32)側に位置するようにしたものである。
【0086】
断熱層14,15,16,17,24,25,26,27は、溶融樹脂の先端縁が会合する際の温度をウェルドラインが発生する温度より高い温度(溶融樹脂のガラス転移点より高い温度)に保持するためのものではなく、溶融樹脂の先端縁の左右の部分が互いに会合するより前、もしくは溶融樹脂の先端縁が略V字状になる前(先端縁の凹部の中央が凹状の曲線の状態になっている際)に、溶融樹脂の先端縁の中央部(最薄部を含む光学機能成形部31を通過した溶融樹脂の先端縁)が、ゲート61,62の反対側で、光学機能部41(光学機能成形部31)を越えてフランジ部42(フランジ成形部32)に至るようにしたものである。
【0087】
これにより、光学機能部41にウェルドラインが発生して、凹レンズ4の光学特性が劣化するのを防止できるとともに、レンズの成形のサイクルタイムを短縮して生産性の向上を図ることができる。
【0088】
なお、成形品としての凹レンズ4には、上述のゲート61,62等で成形された非製品部分(ゲート部43、ランナー部44等)が繋がった状態となっているので、これを切断する必要がある。この際にフランジ部42の外周面は凹レンズ4を固定する際の位置決めに用いられる可能性があるので、フランジ部42の外周面から切断された残りの非製品部分が突出していないことが好ましい。
このため、フランジ部42の非製品部分が繋がっている部分をフランジ部42側で直線状にカットすることが行われている。
【0089】
また、フランジ部42の非製品部分が繋がる位置を予め直線状にカットした形状に成形することで、非製品部分が繋がる位置が、フランジ部42の外周面と重なる仮想円より少し内側に入り込んだ形状とし、このフランジ部42の前記仮想円より内側の部分で非製品部分をカットする構成としてもよい。すなわち、凹レンズ4およびレンズ成形空間部3の形状をその外周面が円となる形状ではなく、円の一部を直線状にカットした形状としてもよい。
また、凹レンズとして、一方側が凹面で他方側が平面のレンズや、両面が凹面となったレンズに適応できる。
以上、中心部の薄い凹型レンズについて説明してきたが、これに限定されるものではなく、例えば、中心部の薄いメニスカスレンズにも適用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 固定金型(金型)
2 可動金型(金型)
3 レンズ成形空間部(キャビティ)
31 光学機能成形部
32 フランジ成形部
4 凹レンズ(レンズ)
41 光学機能部
42 フランジ部
51,52 ランナー
61,62 ゲート
14,15,16,17,24,25,26,27 断熱層
18、28 表面成形層
w ウェルドライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出された溶融樹脂が流入してレンズが成形されるレンズ成形空間部を少なくとも一対の金型で構成する射出成形用金型であって、
前記レンズ成形空間部は、前記レンズとしての光学機能を有する光学機能部を成形する光学機能成形部と、前記光学機能部の周囲に設けられ、前記レンズの固定に用いられるフランジ部を成形するフランジ成形部とを備え、
前記光学機能成形部の最も薄い最薄部における前記レンズの光軸方向に沿った厚さが0.4mm以下とされ、かつ、前記フランジ成形部の最も厚い最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが前記光学機能成形部の前記最薄部の前記厚さより厚くされ、
前記レンズ成形空間部の内面である成形面には、前記金型より熱伝導率の低い断熱層が設けられ、
少なくとも前記光学機能成形部には、前記断熱層を覆い、射出される溶融樹脂に接触する表面成形層が設けられ、
前記断熱層の材質および厚さは、
前記フランジ成形部に繋がるゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の右側を通った溶融樹脂と、前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の左側を通った溶融樹脂とが、前記フランジ成形部の前記ゲートに対向する側で会合する際に、
前記ゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部から前記最薄部を含む前記光学機能成形部を通った溶融樹脂が前記ゲートに対向する側で前記光学機能成形部と前記フランジ成形部との境界を越えて前記フランジ成形部に至るように設定され、
前記フランジ成形部にだけウェルドラインが形成されるようになっていることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
前記フランジ成形部の最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが、前記光学機能成形部の最薄部の前記光軸方向に沿った厚さの1.5倍以上になっていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記一対の金型には、前記レンズ成形空間に樹脂を流入させる樹脂の通路としてスプルー、ランナーおよび前記ゲートが設けられ、前記スプルー、前記ランナーおよび前記ゲートの前記溶融樹脂と接する内面に、前記断熱層が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の射出成形金型を用いた射出成形方法であって、
射出成形時に前記金型の温度を前記溶融樹脂のガラス転移点温度より低い所定の温度範囲に保持するように設定することを特徴とする射出成形方法。
【請求項5】
光学機能を有する光学機能部と、前記光学機能部の周囲に設けられ、固定される際に用いられるフランジ部とを備えた樹脂製のレンズであって、
前記光学機能部の最も薄い最薄部における前記光軸方向に沿った厚さが0.4mm以下とされ、かつ、前記フランジ部の最も厚い最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが前記光学機能部の前記最薄部の前記厚さより厚くされ、
前記光学機能部より外側の前記フランジ部にだけウェルドラインが形成されていることを特徴とするレンズ。
【請求項6】
前記フランジ部の前記最厚部の前記光軸方向に沿った厚さが、前記光学機能部の前記最薄部の前記光軸方向に沿った厚さの1.5倍以上になっていることを特徴とする請求項5に記載のレンズ。
【請求項7】
前記光学機能部を成形する光学機能成形部と、この光学機能成形部の周囲に設けられて前記フランジ部を成形するフランジ成形部とを有するレンズ成形空間部を備えた射出成形金型で射出成形され、
前記フランジ成形部に繋がるゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の右側を通った溶融樹脂と、前記フランジ成形部の前記光学機能成形部の左側を通った溶融樹脂とが、前記フランジ成形部の前記ゲートに対向する側で会合する際に、
前記ゲートから前記レンズ成形空間部内に流入された前記溶融樹脂のうちの前記フランジ成形部から前記最薄部を含む前記光学機能成形部を通った溶融樹脂が前記ゲートに対向する側で前記光学機能成形部と前記フランジ成形部との境界を越えて前記フランジ成形部に至っていたことにより、前記フランジ部にだけウェルドラインが形成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−153039(P2012−153039A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14840(P2011−14840)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(391002775)マクセルファインテック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】