説明

導波路作製方法および光導波路

【課題】 欠陥や歪みのないコアを形成して、光透過率の良好な光導波路を作製する。
【解決手段】 基板11上に、クラッド層12を形成する工程と、クラッド層12に光導波路のコアのパターンに応じたマスク13を形成し、コアを埋め込むための溝14を形成する工程と、選択エピタキシャル成長により溝14にコア15を形成する工程と、選択エピタキシャル成長によりコア15の上に上部クラッド16を形成する工程とを備えた。マスク13の材料は、白金、金のいずれかであり、光導波路に電界を加えるための電極として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路作製方法および光導波路に関し、より詳細には、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料を用いた光導波路を精度よく作製するための導波路作製方法および光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
KTaNb1−x(0≦x≦1、以下KTNという)は、二次の非線形光学効果を有する誘電体材料として知られている。KTNの光学非線形定数は1200〜8000pm/Vであり、例えば、LiNb0の有する光学非線形定数の31pm/Vに比して著しく大きい。従って、KTN結晶を用いた波長変換素子など、光デバイスへの応用が期待されている。
【0003】
図1に、従来のKTNを用いた光導波路の作製方法を示す(例えば、特許文献1参照)。KTax’Nb1−x’(0≦x’≦1)結晶材料からなる基板1に(図1(a))、KTaNb1−x(0≦x≦1)からなる下部クラッド層2を、LPE(Liquid Phase Epitaxy)法により形成する(図1(b))。同様に、コア層3をLPE法により形成する(図1(c))。その後、マスク4によるパターニング加工を行い(図1(d))、ドライエッチング法により、導波路となるコアリッジ5a〜5cを形成する(図1(e))。最後に、基板全体を覆う上部クラッド層6をLPE法により形成する(図1(f))。
【0004】
ここで、コアリッジとクラッドの屈折率制御は、KTaNb1−x結晶の組成xを変えることにより行う。具体的には、コアリッジとクラッドの比屈折率差を、0.5%程度になるように制御する。これにより、コアリッジに入射された光は、クラッドに漏れることなく、伝搬される。
【0005】
【特許文献1】特開2003−35831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ドライエッチング法により、導波路となるコアリッジを形成すると、コアの光の伝搬方向に対して垂直の断面形状が、四角形にならず、台形になりやすい。断面形状が台形になると、四角形の場合と較べて、光の透過率が不均一になるという問題があった。
【0007】
また、ドライエッチングによる加工歪が加わることにより、コアリッジにクラックなどの欠陥が発生するという問題もあった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、欠陥や歪みのないコアを形成して、光透過率の良好な光導波路を作製するための導波路作製方法および光導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、KTax’Nb1−x’(0≦x’≦1)結晶材料からなる基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなる薄膜を形成して光導波路を作製する導波路作製方法において、前記基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなるクラッド層を形成する工程と、前記クラッド層に前記光導波路のコアのパターンに応じたマスクを形成し、前記コアを埋め込むための溝を形成する工程と、選択エピタキシャル成長により前記溝にコアを形成する工程と、選択エピタキシャル成長により前記コアの上に上部クラッドを形成する工程とを備え、前記マスクの材料は、白金、金のいずれかであり、前記光導波路に電界を加えるための電極として用いることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の方法は、請求項1に記載の前記KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料に、添加不純物として周期率表Ia、IIa族の1または複数種を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、KTax’Nb1−x’(0≦x’≦1)結晶材料からなる基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなる薄膜を形成した光導波路において、前記基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなるクラッド層と、該クラッド層に埋設された前記光導波路のコアと、前記クラッド層の上に形成された前記コアのパターンに応じた電極であって、白金、金のいずれかの材料からなり、前記コアを埋め込むために溝を形成し、選択エピタキシャル成長により前記溝に前記コアと上部クラッドとを形成する際にマスクとして用いた電極とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の前記KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料に、添加不純物として周期率表Ia、IIa族の1または複数種を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、クラッド層にコアを埋め込むための溝を形成し、選択エピタキシャル成長により、溝の中にコアと上部クラッドとを形成することにより、欠陥や歪みのないコアを形成することができ、光透過率の良好な光導波路を作製することが可能となる。
【0014】
また、本発明によれば、選択エピタキシャル成長の際に用いるマスクを、光導波路に電界を加えるための電極として用いるので、KTN結晶を用いた波長変換素子などの光デバイスの作製工程が簡略化され、歩留まりを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の実施形態においては、KTaNb1−x薄膜にコアを埋め込むための溝を形成しておき、選択エピタキシャル成長により、溝の中にコアとクラッドとを形成する。選択エピタキシャル成長の際に用いるマスクは、光導波路に電界を加えるための電極として用いる。
【0016】
図2に、本発明の一実施形態にかかるKTNを用いた光導波路の作製方法を示す。KTax’Nb1−x’(0≦x’≦1)結晶材料からなる基板11に(図2(a))、KTaNb1−x(0≦x≦1)からなるクラッド層12を、LPE法により形成する(図2(b))。クラッド層12は、従来の方法における上部クラッド層と下部クラッド層とを兼ねるので、その分の膜厚を確保する。次に、このウエハ表面にマスク13を形成し、パターニング加工を行う(図2(c))。マスク材料は、この後の選択エピタキシャル成長にも用いるので、例えば、白金、金などの耐熱、耐蝕性のある材料を用いる。
【0017】
パターニングされたマスクに従って、ウエットエッチング法またはドライエッチング法により、溝14を形成する。(図2(d))。溝14の幅は、コアの幅に等しく、溝14の深さは、コアと従来の方法における上部クラッド層とを形成できるだけの深さとする。
【0018】
パターニング加工に用いたマスク13をそのまま利用して、選択エピタキシャル成長により、溝14の中にコア15を形成する(図2(e))。所定の厚さのコアが形成されたら、引き続きクラッド層12と同じ組成の材料を、上部クラッド16として成長させる(図2(f))。
【0019】
マスク13に用いた白金、金などの材料は、光導波路に電界を加えるための電極として利用する。例えば、マスク13aからマスク13bに直流電圧を印加すれば、コア15aには、基板11と平行に電界が印加される。また、白金、金などの材料は、有機レジストを用いたマスクプロセスによって加工すれば、所望の電極形状に形成することができる。
【0020】
なお、光導波路に電界を印加する必要がなければ、硝酸と塩酸の混酸により、マスク13を除去して光導波路を完成させることもできる(図2(g))。
【0021】
選択エピタキシャル成長は、LPE法に限らず、CVD(Chemical Vapor Depression)法を用いても構わない。この方法によれば、ドライエッチングによる加工歪が加わることなく、コアの断面形状が四角形の導波路構造を、一連の成長工程で作製することができる。また、断面形状が均一で、加工歪みもないために、光の透過率が均一となる。さらに、パターニング工程を、選択エピタキシャル成長の前に1回行うだけである。従来の方法では、エピタキシャル成長工程の間に、マスクの剥離、洗浄の工程が必要である。従って、本実施形態によれば、成長中の結晶品質の安定度が高い。
【0022】
本実施形態において、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料に、添加不純物として周期率表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。
【0023】
(実施例)
以下に本発明の実施例を、図2を参照しながら具体的に説明する。なお、本実施例は一つの例示であって、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更あるいは改良を行いうることは言うまでもない。
【0024】
最初に、30mm角のKTax’Nb1−x’(x’=0.82)結晶材料からなる基板11に(図2(a))、KTaNb1−x(x=0.82)からなるクラッド層12を、LPE法により18μmの厚さに形成する(図2(b))。次に、このウエハ表面に、50μmの厚さの白金のマスク13を蒸着する。コアの幅5μm、長さ5mmをカバーできるようにパターニング加工を行う(図2(c))。
【0025】
パターニングされたマスクに従って、フッ酸と硝酸の混酸によりウエットエッチングを行い、深さ12μmの溝14を形成する。(図2(d))。選択エピタキシャル成長により、溝14の中に導波路となるコア15を形成する(図2(e))。コア15は、KTaNb1−x(x=0.73)からなる材料で、厚さの6μmに形成する。コアとクラッドの比屈折率差は、0.5%になる。引き続きKTaNb1−x(x=0.82)からなる上部クラッド16を、厚さの6μmに成長させる(図2(f))。
【0026】
最後にSEM(Scanning Electron Microscope)による外観観察、光歪検査器による残留歪検査を行う。波長1.55μmの光透過率は、95%となり、欠陥や歪みのない良好な光導波路を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来のKTNを用いた光導波路の作製方法を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるKTNを用いた光導波路の作製方法を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1,11 基板
2 下部クラッド層
3 コア層
4,13 マスク
5 コアリッジ
6 上部クラッド層
12 クラッド層
14 溝
15 コア
16 上部クラッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
KTax’Nb1−x’(0≦x’≦1)結晶材料からなる基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなる薄膜を形成して光導波路を作製する導波路作製方法において、
前記基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなるクラッド層を形成する工程と、
前記クラッド層に前記光導波路のコアのパターンに応じたマスクを形成し、前記コアを埋め込むための溝を形成する工程と、
選択エピタキシャル成長により前記溝にコアを形成する工程と、
選択エピタキシャル成長により前記コアの上に上部クラッドを形成する工程とを備え、
前記マスクの材料は、白金、金のいずれかであり、前記光導波路に電界を加えるための電極として用いることを特徴とする導波路作製方法。
【請求項2】
前記KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料に、添加不純物として周期率表Ia、IIa族の1または複数種を含むことを特徴とする請求項1に記載の導波路作製方法。
【請求項3】
KTax’Nb1−x’(0≦x’≦1)結晶材料からなる基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなる薄膜を形成した光導波路において、
前記基板上に、KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料からなるクラッド層と、
該クラッド層に埋設された前記光導波路のコアと、
前記クラッド層の上に形成された前記コアのパターンに応じた電極であって、白金、金のいずれかの材料からなり、前記コアを埋め込むために溝を形成し、選択エピタキシャル成長により前記溝に前記コアと上部クラッドとを形成する際にマスクとして用いた電極と
を備えたことを特徴とする光導波路。
【請求項4】
前記KTaNb1−x(0≦x≦1)結晶材料に、添加不純物として周期率表Ia、IIa族の1または複数種を含むことを特徴とする請求項3に記載の光導波路。

【図1】
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【図2】
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