説明

導電体および固体酸化物形燃料電池セルならびにセルスタック、燃料電池

【課題】高温での導電率が高い導電体および固体酸化物形燃料電池セルならびにセルスタック、燃料電池を提供する。
【解決手段】モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、前記xが0.5〜0.6、前記yが0.01〜0.1、前記zが0.95〜1.05を満足することを特徴とする導電体であり、AサイトにLaを含有するとともに、BサイトにNi、Cu、Feを含有し、一般式がABOと表わされるペロブスカイト型複合酸化物からなることが望ましい。これにより、高温での導電率をより高くすることができる。この導電体を燃料電池セルの酸素極や集電体として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体および固体酸化物形燃料電池セルならびにセルスタック、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、その作動温度が高温であるため発電効率が高く、第3世代の発電システムとして期待されている。この固体酸化物形燃料電池セルを構成する固体酸化物形燃料電池セル(以下、単に燃料電池セルということがある)では、固体電解質を挟むように酸素極と燃料極とが設けられている。
【0003】
従来、酸素極材料としては、LaMnO系材料、LaSrCoFeO系材料が知られているが、さらに高温において導電性の良好な材料が要求されている。また、燃料電池セル同士を電気的に接続するために、導電性接合材が使用されており、この導電性接合材においても、高温において導電性の良好な材料が要求されている。
【0004】
例えば、近年では、酸素極材料として、Ln1−yNi1−xFe系材料(LnはLa、Pr、Nd、Smの何れか1つ、あるいはLa、Pr、Nd、Smの中から選ばれた2つ以上の元素であり、AはSr、Ba、Caの何れか1つ、あるいはSr、Ba、Caの中から選ばれた2つ以上の元素である)が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、固体酸化物形燃料電池セル同士を電気的に接合する導電性接合材として、La、Sr、Co及びFeを含有するペロブスカイト型酸化物からなるものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−151091号公報
【特許文献2】特開2005−339904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、酸素極材料として使用される特許文献1のLn1−yNi1−xFe系材料や、導電性接合材として使用される特許文献2のLa、Sr、Co及びFeを含有するペロブスカイト型複合酸化物からなる材料でも、未だ高温での導電率が低いという問題があった。
【0008】
本発明は、高温での導電率が高い導電体および固体酸化物形燃料電池セルならびにセルスタック、燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の導電体は、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、前記xが0.5〜0.6、前記yが0.01〜0.1、前記zが0.95〜1.05を満足することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池セルは、固体電解質の一方側に酸素極、他方側に燃料極が設けられてなり、酸素極が、上記の導電体からなることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明のセルスタックは、固体電解質の一方側に酸素極、他方側に燃料極が設けられた複数の固体酸化物形燃料電池セルと、該固体酸化物形燃料電池セルを複数電気的に接続するための導電性接合材とを具備してなり、前記導電性接合材が、上記の導電体からなることを特徴とする。
【0012】
さらにまた、本発明の燃料電池は、収納容器内に上記の固体酸化物形燃料電池セルを複数収容してなるとともに、該複数の固体酸化物形燃料電池セルが電気的に接続されていることを特徴とする。また、本発明の燃料電池は、収納容器内に上記のセルスタックを収容してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電体では、高温域での導電率を高めることができ、この導電体を固体酸化物形燃料電池セルの酸素極として用いた場合には、酸素極の高温域での導電性を高めることができる。また、本発明の導電体を、複数の固体酸化物形燃料電池セルを電気的に接続するための導電性接合材として用い、セルスタックを構成することにより、固体酸化物形燃料電池セル間の電気抵抗を小さくすることができ、セルスタックにおける発電性能を向上できる。従って、本発明の固体酸化物形燃料電池セルやセルスタックを用いた燃料電池では、発電性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】燃料電池セルを示す模式図である。
【図2】導電体のX線回折測定結果を示す図である。
【図3】セルスタック装置を示すもので、(a)はセルスタック装置を概略的に示す側面図、(b)は(a)の一部を拡大して示す横断面図である。
【図4】図3に示す燃料電池セルを示すもので、(a)は横断面図、(b)はインターコネクタを省略した状態を、インターコネクタ側から見た側面図である。
【図5】図3に示す集電部材を抜粋して示すもので、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図6】一対の燃料電池セルを集電部材で電気的に接続した状態を示すもので、(a)は横断面図であり、(b)は(a)のC−C線に沿った縦断面図である。
【図7】図1に示すセルスタック装置を収納容器に収納してなる燃料電池モジュールを分解して示す外観斜視図である。
【図8】図7に示す燃料電池モジュールを外装ケースに収納してなる燃料電池装置を示す斜視図である。
【図9】導電率の温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本形態の導電体を燃料電池セルの酸素極として用いた場合について説明する。図1は、燃料電池セルを示す模式図であり、板状の固体電解質1の一方側(上面)に酸素極3を、他方側(下面)に燃料極5を形成して構成されている。
【0016】
酸素極3は、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、xが0.5〜0.6、yが0.01〜0.1、zが0.95〜1.05を満足する導電性セラミックスからなる導電体から構成されている。
【0017】
モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、Bサイトである(NiCuFe1−x−y)中のNi量を示すxを0.5〜0.6としたのは、この範囲ならば高い温度でも導電率を高く維持できるからであり、xが0.5よりも小さい場合には導電率が低下し、0.6よりも大きい場合にも導電率が低下するからである。
【0018】
また、Bサイト中のCu量を示すyを0.01〜0.1としたのは、yが0.01よりも小さい場合には、Cu添加による導電率向上効果が低く、0.1よりも大きい場合には、Cu化合物に起因する第2相が析出し、導電率が低下するからである。特に、yは、高い導電率を示す安定な結晶相の析出という点から0.02〜0.1であることが望ましく、さらには、0.04〜0.07であることが望ましい。
【0019】
さらに、A/B比を示すzを0.95〜1.05としたのは、zが0.95よりも小さい場合には、Laに起因する主相よりも導電率の低い第2相が析出し、1.05よりも大きい場合には、Cu化合物に起因する第2相が析出するからである。特に、zは、高温域において高い導電率を示す安定な結晶相という点から0.97〜1.03であることが望ましい。
【0020】
また、酸素極3は、AサイトにLaを含有するとともに、BサイトにNi、Cu、Feを含有し、一般式がABOと表わされるペロブスカイト型複合酸化物からなり、モル比による組成式がLa(NiCuFe1−x−yで表わされるペロブスカイト型結晶相を主相とするもので、その平均結晶粒径は3〜20μm、特に5〜15μmであることが望ましい。これは、平均結晶粒径が3〜20μmである場合には、酸素極3の強度を高く維持でき、また、酸素極3のガス透過性を高く維持できるからである。酸素極3の開気孔率は20〜45%、特に30〜40%が適当である。また、平均細孔径は、1.0〜5.0μmの範囲がガス透過性に優れる。
【0021】
図2に、酸素極3を構成する導電体のX線回折測定結果を示す。この図2から、本形態の導電体は、ペロブスカイト型結晶相を主相とし、実質的に異相が発生していないことがわかる。なお、酸素極3を構成するペロブスカイト型結晶相が、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、xが0.5〜0.6、yが0.01〜0.1、zが0.95〜1.05を満足するかどうかは、X線回折測定により結晶相を同定し、導電体は、ペロブスカイト型結晶相を主相とし、殆ど異相が発生していないことを確認した後、空気極3を粉末化し、これについてICP発光分光分析により元素分析することにより確認できる。
【0022】
なお、酸素極3を構成する導電体は、La(NiCuFe1−x−yで表されるペロブスカイト型結晶相を主相とし、実質的にこのぺロブスカイト型結晶相からなるものであるが、X線回折測定によりNiOやLaNi10等の他の結晶相のピークがごく僅かに存在する場合もある。従って、実質的にぺロブスカイト型結晶相からなるとは、X線回折測定結果において、NiOやLaNi10等の他の結晶相は、2θが32°近辺に存在する主相のメインピークのピーク強度に対して、5%以下であることを意味する。
【0023】
燃料電池セルの固体電解質1としては、YやCeO、Ybなどの希土類元素酸化物の他、CaO、MgOなどの周知の安定化剤により安定化されたZrOが使用され、熱膨張係数は9〜12×10−6/℃程度とされている。固体電解質1としては、ランタンガレート系材料等、他の酸化物からなる固体電解質であってもあっても良い。
【0024】
また、燃料極5としては公知の燃料極材料を用いることができるが、例えば、Niを主成分とするもので、特に、Niを30〜80質量%含有し、残部が安定化ZrO(Yなどの安定化剤を含む)からなる多孔質のサーメット材料からなることが望ましい。
【0025】
なお、燃料電池セルの構造は、板状の空気極、固体電解質および燃料極が積層されてなる平板型の他、円筒型、さらに後述する中空平板型であっても良い。
【0026】
次に、燃料電池セルの製造方法について説明する。先ず、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、xが0.5〜0.6、yが0.01〜0.1、zが0.95〜1.05を満足するように、原料粉末を調整する。原料粉末としては、La粉末と、Ni、Cu、Feの金属酸化物の各粉末、あるいは熱処理により酸化物を形成できるもの、例えば各金属の炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩などを用い、これを上記組成式となるように調合した後、これを1000〜1200℃で仮焼処理して固溶体化処理する。その後、この固溶体物を粉砕処理して固溶体粉末を得る。
【0027】
この固溶体粉末は、実質的にLa(NiCuFe1−x−yで表されるペロブスカイト型複合酸化物からなるもので、他の結晶相は実質的に存在していない。
【0028】
そして、この固溶体粉末を用いてスラリーを調製し、そのスラリーを、例えば予め作製しておいた固体電解質の表面に塗布乾燥するか、あるいは固溶体粉末を用いてドクターブレード法などによりグリーンシートを作製し、これを固体電解質表面に積層して酸素極成形体層を形成する。
【0029】
次に、これら積層体を大気などの酸化性雰囲気中で1300〜1600℃の温度で2〜15時間程度焼成することにより、固体電解質の表面に、本形態の導電体からなる酸素極を形成する。
【0030】
また、固体電解質の酸素極形成面とは反対側の面に、燃料極の成形体層を形成して焼成して、燃料電池セルを作製することができる。
【0031】
燃料電池は、上記燃料電池セルを多数収納容器内に収容し、多数の燃料電池セルを直列に電気的に接続する。すなわち、一方の燃料電池セルの酸素極と、隣接する他方の燃料電池セルの燃料極とを集電部材により電気的に接続する。詳細は後述する。
【0032】
導電体は、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、xが0.5〜0.6、yが0.01〜0.1、zが0.95〜1.05を満足するため、高温での導電率を高めることができ、この導電体を燃料電池セルの酸素極として用いた場合には、酸素極の高温域、600℃以上、特に700℃以上での導電率を高め、燃料電池セルとしての発電性能を向上することができ、このような燃料電池セルを多数有する燃料電池としても、発電性能を向上できる。
【0033】
なお、上記形態では、導電体を燃料電池セルの酸素極材料として用いた場合について説明したが、例えば、燃料電池セル同士を電気的に接続する導電性接合材として本形態の導電体を用いることができる。詳細は後述する。
【0034】
また、上記形態では、固体電解質1の上面に酸素極3を、下面に燃料極5を形成したが、固体電解質1と酸素極3との間、固体電解質1と燃料極5との間に中間層を形成しても良いことは勿論である。
【0035】
本発明のセルスタックを具備するセルスタック装置1について図3を用いて説明する。なお、図3〜6において、理解を容易にするために、断面図では厚み等を拡大縮小して示したり、側面図では長さ、幅等を拡大縮小して示している。
【0036】
セルスタック装置11は、一対の対向する主面を有し、全体的に見て柱状の導電性支持体17の一方の主面上に、内側電極層である燃料極18と、固体電解質19と、外側電極層である酸素極20とをこの順に積層してなる発電部を備える燃料電池セル13を有して
いる。導電性支持体17の内部には、複数のガス流路22が長さ方向に形成されている。
【0037】
燃料電池セル13は、導電性支持体17の他方にインターコネクタ21を積層してなる柱状(中空平板状)であり、これらの燃料電池セル13の複数個を1列に配列し、隣接する燃料電池セル13間に集電部材14を配置し、燃料電池セル13同士を電気的に直列に接続してセルスタック12が構成されている。
【0038】
燃料電池セル13と集電部材14とは詳しくは後述するが、導電性接合材23を介して接合されており、それにより、複数個の燃料電池セル13を集電部材14を介して電気的および機械的に接合して、セルスタック12を形成している。
【0039】
また、燃料電池セルの酸素極20の表面に集電体層を形成することができ、この集電体層として、上記した導電体を用いることができる。すなわち、酸素極20の表面に、酸素極20よりも導電性の良好な集電体層を形成することにより、燃料電池セルからの集電特性を向上できる。このような集電体層として、上記したように、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、xが0.5〜0.6、yが0.01〜0.1、zが0.95〜1.05を満足する導電体を用いることができる。なお、酸素極20として上記導電体を用いた場合には、酸素極層2表面には集電体層として上記した導電体を用いる必要はない。
【0040】
また、インターコネクタ21の外面にはP型半導体層(図示せず)を設けることもできる。集電部材14を、P型半導体層を介してインターコネクタ21に接続させることより、両者の接触がオーム接触となって電位降下を少なくすることができる。
【0041】
すなわち、導電性支持体17は、図4に示されている形状から理解されるように、互いに平行な一対の平坦面nと、一対の平坦面nをそれぞれ接続する弧状面(側面)mとで構成されている。平坦面nの両面は互いにほぼ平行に形成されており、一方の平坦面n(下面)と両側の弧状面mを覆うように多孔質な燃料極18が設けられており、さらに、この燃料極18を覆うように、緻密質な固体電解質19が積層されている。また、固体電解質19の上には、燃料極18と対面するように、多孔質な酸素極20が積層されている。
【0042】
言い換えると、燃料極18および固体電解質19は、導電性支持体17の両端の弧状面mを経由して他方の平坦面n(上面)まで形成されており、固体電解質19の両端部にインターコネクタ21の両端部が接合され、固体電解質19とインターコネクタ21とで導電性支持体17を取り囲み、内部を流通する燃料ガスが外部に漏出しないように構成されている。
【0043】
そして、セルスタック12を構成する各燃料電池セル13の下端部が、ガスタンク16に、ガラス等のシール材(図示せず)により固定され、セルスタック装置11が構成されており、燃料ガスは、燃料電池セル13の内部に設けられたガス流路22を介して燃料電池セル13に供給される。
【0044】
図3に示すセルスタック装置11においては、燃料電池セル13のガス流路22の内部を燃料ガスとして水素含有ガスが流れるとともに、燃料電池セル13の間に配置された集電部材14の内側を酸素含有ガス(空気)が流れる構成となる。それにより、燃料極18にガスタンク16から燃料ガスが供給され、酸素極20に集電部材14の内側を通じて酸素含有ガスが供給されることで、燃料電池セル13の発電が行なわれる。以下の説明においては、外側電極層を酸素極20、内側電極層を燃料極18として説明する。
【0045】
セルスタック装置11は、燃料電池セル13の配列方向xの両端から、セルスタック1
2を挟持するように、ガスタンク16に下端部が固定された弾性変形可能な導電部材15を具備している。ここで、図3に示す導電部材15は、セルスタック12の両端部に位置するように設けられた平板部15aと、燃料電池セル13の配列方向xに沿って外側に向けて延びた形状で、セルスタック12(燃料電池セル13)の発電により生じる電流を引出すための電流引出部15bとを有している。
【0046】
以下に、燃料電池セル13を構成する各部材について説明する。燃料極18は、一般的に公知のものを使用することができ、多孔質の導電性セラミックス、例えば希土類元素が固溶しているZrO(安定化ジルコニアと称する)とNiおよび/またはNiOとから形成することができる。
【0047】
固体電解質19は、電極間の電子の橋渡しをする電解質としての機能を有していると同時に、燃料ガスと酸素含有ガスとのリークを防止するためにガス遮断性を有することが必要とされ、3〜15モル%の希土類元素が固溶したZrOから形成される。なお、上記特性を有する限りにおいては、ランタンガレート等の他の材料等を用いて形成してもよい。
【0048】
酸素極20は、一般的に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、いわゆるABO型のペロブスカイト型酸化物からなる導電性セラミックスから形成することができる。酸素極20はガス透過性を有していることが必要であり、開気孔率が20%以上、特に30〜50%の範囲とすることができる。酸素極20として、上記した導電体、すなわち、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、xが0.5〜0.6、yが0.01〜0.1、zが0.95〜1.05を満足する導電体を用いることができる。
【0049】
インターコネクタ21は、導電性セラミックスから形成することができるが、燃料ガス(水素含有ガス)および酸素含有ガス(空気等)と接触するため、耐還元性及び耐酸化性を有することが必要であり、それゆえランタンクロマイト(LaCrO)を使用することができる。インターコネクタ21は、導電性支持体17に形成された複数のガス流路22を流通する燃料ガス、および導電性支持体17の外側を流通する酸素含有ガスのリークを防止するために緻密質でなければならず、93%以上、特に95%以上の相対密度であることが好ましい。
【0050】
導電性支持体17としては、燃料ガスを燃料極18まで透過するためにガス透過性であること、さらには、インターコネクタ21を介して集電するために導電性であることが必要とされる。したがって、導電性支持体17としては、かかる要求を満足する材質を用いる必要があり、例えば導電性セラミックスやサーメット等を用いることができる。
【0051】
なお、燃料電池セル13を作製するにあたり、燃料極18または固体電解質19との同時焼成により導電性支持体17を作製する場合においては、鉄属金属成分と特定希土類酸化物とから導電性支持体17を形成することができる。また、導電性支持体17は、所要ガス透過性を備えるために開気孔率が30%以上、特に35〜50%の範囲にあるのが好適であり、そしてまたその導電率は50S/cm以上、さらには300S/cm以上、440S/cm以上にしてもよい。
【0052】
さらに、P型半導体層(図示せず)としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物からなる層を例示することができる。具体的には、インターコネクタ21を構成するランタンクロマイトよりも電子伝導性が大きいもの、例えば、BサイトにMn、Fe、Coなどが存在するランタンマンガナイト(LaSrMnO)、ランタンフェライト(LaSrFeO)、ランタンコバルタイト(LaSrCoO)などの少なくとも一種からなるP型
半導体セラミックスを使用することができる。このようなP型半導体層の厚みは、一般に、30〜100μmの範囲とすることが好ましい。
【0053】
導電性接合材23は、燃料電池セル13と集電部材14とを接合するために設けられており、導電性セラミックス等を用いて形成することができる。導電性セラミックスとしては、酸素極20を形成するものと同様のものを用いることができる。
【0054】
具体的には、LaSrCoFeO、LaSrMnO、LaSrCoO等を用いることができる。これらの材料を単一の材料を用いて作製してもよく、2種以上組み合わせて導電性接合材23を作製してもよい。
【0055】
また、導電性接合材23として、上記した導電体を用いることができる。すなわち、導電性接合材23が、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、xが0.5〜0.6、yが0.01〜0.1、zが0.95〜1.05を満足する導電体からなる場合には、導電性接合材23の高温域での導電率を高めることができ、複数の燃料電池セル間の電気抵抗を小さくすることができ、セルスタック12における発電性能を向上できる。
【0056】
次に、集電部材14について図5を用いて説明する。集電部材14は、隣接する一方の燃料電池セル13と接合される複数の板状の第1セル対面部14a1と、燃料電池セルから離れるように第1セル対面部14a1の両側から延びた板状の第1離間部14a2と、隣接する他方の燃料電池セル13と接合される複数の板状の第2セル対面部14b1と、燃料電池セルから離れるように第2セル対面部14b1の両側から延びた板状の第2離間部14b2とを有している。
【0057】
さらに、複数の第1離間部14a2および複数の第2離間部14b2の一端同士を連結する第1連結部14cと、複数の第1離間部14a2および複数の第2離間部14b2の他端同士を連結する第2連結部14dとを一組のユニットとし、これらのユニットの複数組が、燃料電池セル13の長手方向に導電性連結片14eにより連結されて構成されている。第1セル対面部14a1および第2セル対面部14b1は、図6に示すように、燃料電池セル13に接合される部位であり、これらの部位が燃料電池セル13の発電電力を出入する部分となっている。
【0058】
すなわち、燃料電池セル13と、集電部材14の第1セル対面部14a1、14b1とが導電性接合材23で接合されている。言い換えると、複数の燃料電池セル13が平坦部を有し、該平坦部に、インターコネクタ21を有しており、該インターコネクタ21に第1セル対面部14a1が対面しており、これらの間を導電性接合材23で接合されている。なお、図6(b)は、図6(a)におけるC−C線に沿った縦断面図である。
【0059】
燃料電池セル13において、上述したように、固体電解質19を介して燃料極18と、酸素極20とが対向する部位が発電する部位となる。それゆえ、燃料電池セル13の発電部で発電された電流を効率よく集電するにあたり、集電部材14の燃料電池セル13の長手方向に沿った長さは、燃料電池セル13における外側電極層20の長手方向における長さと同等以上とすることがよい。
【0060】
集電部材14は、耐熱性および導電性を有する必要があり、金属または合金により作製することができる。特には、集電部材14は、高温の酸化雰囲気に曝されることから4〜30%の割合でCrを含有する合金から作製することができ、Fe−Cr系の合金やNi−Cr系の合金等により作製できる。
【0061】
また、集電部材14は、セルスタック装置11の作動時に高温の酸化雰囲気に曝されることから、集電部材14の表面に、耐酸化性のコーティングを施してもよい。それにより、集電部材14の劣化を低減することができる。耐酸化性のコーディングを施す部位としては、集電部材14の全表面に施すことが好ましい。それにより、集電部材14の表面が高温の酸化雰囲気に曝されることを抑えることができる。
【0062】
ここで、集電部材14の作製方法について説明する。一枚の矩形状をした板部材にプレス加工を施して板部材の幅方向に延びるスリットを板部材の長手方向に複数形成する。そして、第1セル対面部14a1、第1セル離間部14a2および第2セル対面部14b1、第2セル離間部14b2となるスリット間の部位を交互に突出させることにより、図5に示す集電部材14を作製することができる。
【0063】
次に、セルスタック装置11を収納容器31内に収納してなる燃料電池モジュール30について図7を用いて説明する。
【0064】
図7に示す燃料電池モジュール30は、燃料電池セル13にて使用する燃料ガスを得るために、天然ガスや灯油等の原燃料を改質して燃料ガスを生成するための改質器32をセルスタック12の上方に配置している。そして、改質器32で生成された燃料ガスは、ガス流通管33を介してガスタンク16に供給され、ガスタンク16を介して燃料電池セル13の内部に設けられたガス流路22に供給される。
【0065】
なお、図7においては、収納容器31の一部(前後面)を取り外し、内部に収納されているセルスタック装置11および改質器32を後方に取り出した状態を示している。ここで、図7に示した燃料電池モジュール30においては、セルスタック装置11を、収納容器31内にスライドして収納することが可能である。
【0066】
また収納容器31の内部に設けられた酸素含有ガス導入部材34は、図7においてはガスタンク16に並置されたセルスタック12の間に配置されるとともに、酸素含有ガスが、燃料ガスの流れに合わせて、燃料電池セル13の側方を下端部側から上端部側に向かって流れるように、燃料電池セル13の下端部側に酸素含有ガスを供給するように構成されている。そして、燃料電池セル13のガス流路22より排出される発電に使用されなかった余剰の燃料ガス(燃料オフガス)を燃料電池セル13の上方で燃焼させることにより、セルスタック12の温度を効果的に上昇させることができ、セルスタック装置11の起動を早めることができる。また、燃料電池セル13の上方にて、燃料電池セル13のガス流路12から排出され発電に使用されなかった燃料ガスを燃焼させることにより、セルスタック12の上方に配置された改質器32を温めることができる。それにより、改質器32で効率よく改質反応を行うことができる。
【0067】
次に、燃料電池モジュール30と、燃料電池モジュール30を作動させるための補機(図示せず)とを外装ケースに収納してなる燃料電池装置35について図8を用いて説明する。
【0068】
図8に示す燃料電池装置35は、支柱36と外装板37とから構成される外装ケース内を仕切板38により上下に区画し、その上方側を上述した燃料電池モジュール30を収納するモジュール収納室39とし、下方側を燃料電池モジュール30を作動させるための補機を収納する補機収納室40として構成されている。なお、補機収納室40に収納する補機は省略している。
【0069】
また、仕切板38には、補機収納室40の空気をモジュール収納室39側に流すための空気流通口41が設けられており、モジュール収納室39を構成する外装板37の一部に
、モジュール収納室39内の空気を排気するための排気口42が設けられている。
【0070】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。
【0071】
例えば、上記形態では、中空平板型の燃料電池セル13を用いたが、円筒型の燃料電池セル、平板型の燃料電池を用いることもできる。
【0072】
また、上記形態では、インターコネクタ21を有する燃料電池セル13を用いたが、インターコネクタを有しない燃料電池セルを用いることもできる。
【0073】
さらに、上記形態では、図5に示すような集電部材14を用いたが、これに限定されるものではなく、集電部材を用いないセルスタックであっても良い。また、図5では、第1連結部14cと第2連結部14dを有するが、どちらか一方の連結部を有する場合であっても良い。
【0074】
さらに、上記形態では、燃料電池用の導電体について説明したが、高温域で使用される導電体であれば、燃料電池用途以外にも用いることができる。
【実施例1】
【0075】
La(OH)粉末と、NiO粉末、CuO粉末、Fe粉末を用い、モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、x、y、zが表1の値を満足するように調合し、これを1200℃で仮焼処理して固溶体化処理し、この固溶体物を粉砕処理し、仮焼粉末を得た。
【0076】
この仮焼粉末に対して、パラフィンワックスを添加しテストピースを成形し、大気中1400℃で焼成し、導電体を得た。
【0077】
この後、X線回折測定を行ったところ、主相がペロブスカイト型複合酸化物からなるものであることを確認した。さらに主相以外の他の結晶相のピークの有無について確認し、表1に副生成相の有無として記載した。なお、X線回折チャート図において、ペロブスカイト形複合酸化物からなるピークしか確認できない場合を副生成相なしと判断した。図2に試料No.5のX線回折チャート図を示した。
【0078】
また、ICP発光分光分析により、導電体を分析したところ、表1のx、y、zとなっていることを確認した。
【0079】
さらに、この導電体について、焼成炉中で昇温しながら四端子法で電流と電圧を測定し、これからの結果から、600〜850℃における電子導電率を求め、700℃、750℃、800℃における導電率を表1に記載した。試料No.1、5、8、11について、導電率の温度特性を図9に示す。
【0080】
また、850℃における熱膨張係数を平均線膨張率測定(JIS R 1618−1994)で測定し、それらの結果も表1に記載した。
【0081】
さらに、モル比による組成式を(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)Oと、La(Ni0.6Fe0.4)Oについても、同様に評価し、表1の試料No.1、2に記載した。
【0082】
【表1】

【0083】
この表1から、導電率については、従来材料である(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)やLa(Ni0.6Fe0.4)Oよりも、試料No.4、5、8〜11、13、14では、700〜800℃における導電率が高く、温度に対する導電率の変化率が低いことが判る。
【0084】
さらに、本発明の試料では、平均線膨張率が従来材料である(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)に比較して、代表的な電解質材料である8YSZ(8モルY安定化ZrO)の平均線膨張率(10.46×10/K)により近いため、高温での使用時に熱膨張係数の不適合による界面の割れや、製造時の反りの発生を抑制できることがわかる。
【実施例2】
【0085】
先ず、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、平均粒径0.9μmのY粉末を混合し、有機バインダーと溶媒にて作製した坏土を押出成形法にて成形し、乾燥、脱脂して導電性支持体成形体を作製した。
【0086】
次に、8mol%のYが固溶したマイクロトラック法による粒径が0.8μmのZrO粉末(固体電解質原料粉末)と有機バインダーと溶媒とを混合して得られたスラリーを用いて、ドクターブレード法にて厚み30μmの固体電解質用シートを作製した。
【0087】
次に平均粒径0.5μmのNiO粉末とYが固溶したZrO粉末と有機バインダーと溶媒とを混合した燃料極用スラリーを作製し、固体電解質用シート上に塗布して燃料極成形体を形成した。続いて、燃料極成形体側の面を下にして導電性支持体成形体の所定位置に積層した。
【0088】
続いて、上記のように成形体を積層した積層成形体を1000℃にて3時間仮焼処理した。
【0089】
次に、GdO1.5が固溶したCeOにアクリル系バインダーと溶媒とを添加し、混合して作製した中間層用のスラリーを、得られた積層仮焼体の固体電解質仮焼体上に、スクリーン印刷法にて塗布し、中間層成形体を作製した。
【0090】
続いて、La(Mg0.3Cr0.70.96と、有機バインダーと溶媒とを混合したスラリーを作製し、インターコネクタ用シートを作製した。
【0091】
NiとYSZとからなる原料を混合して乾燥し、有機バインダーと溶媒とを混合して密着層用スラリーを調整した。調整した密着層用スラリーを、導電性支持体の燃料極(および固体電解質)が形成されていない部位(導電性支持体が露出した部位)に塗布して密着層成形体を積層した。密着層成形体の上に、インターコネクタ用シートを積層した。
【0092】
次いで、上記の積層成形体を脱バインダー処理し、大気中で1450℃にて2時間同時焼成した。
【0093】
次に、平均粒径2μmのLa(Ni0.6Cu0.05Fe0.35)O粉末と、イソプロピルアルコールとからなる混合液を作製し、積層焼結体の中間層の表面に噴霧塗布し、空気極層成形体を形成し、1145℃にて4時間で焼き付け、酸素極を形成し、図4に示す燃料電池セルを作製した。また、上記の積層焼結体の中間層表面に、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)Oと、La(Ni0.6Fe0.4)Oの粉末を用いて、上記と同様にして空気極成形体を形成し、1145℃にて4時間で焼き付け、酸素極を形成し、比較例の燃料電池セルを作製した。
【0094】
なお、作製した燃料電池セルの寸法は25mm×200mmで、導電性支持体の厚み(平坦面n間の厚み)は2mm、開気孔率35%、燃料極の厚さは10μm、開気孔率24%、酸素極の厚みは50μm、開気孔率40%、固体電解質の相対密度は97%であった。
【0095】
次に、燃料電池セルの内部に水素ガスを流し、850℃で10時間、導電性支持体および燃料極の還元処理を施した。
【0096】
燃料電池セルの燃料ガス流路に燃料ガスを流通させ、燃料電池セルの外側に空気を流通させ、燃料電池セルを電気炉を用いて750℃まで加熱し、発電試験を行い、3時間後の分極抵抗(0.19A/cm(6A))、出力密度(0.7V時)を測定した。
【0097】
その結果、出力密度、分極抵抗は、La(Ni0.6Cu0.05Fe0.35)Oからなる酸素極の場合には、0.372W/cm、125mVであり、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)Oからなる酸素極の場合には、0.47W/cm、48mVであり、La(Ni0.6Fe0.4)Oからなる酸素極の場合には、0.372W/cm、128mVであった。これから、本形態の導電体は酸素極として使用可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0098】
1、19・・・固体電解質
3、20・・・酸素極
5、18・・・燃料極
23・・・導電性接合材
12・・・セルスタック
13・・・固体酸化物形燃料電池セル
14・・・集電部材
31・・・収納容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル比による組成式をLa(NiCuFe1−x−yと表したとき、前記xが0.5〜0.6、前記yが0.01〜0.1、前記zが0.95〜1.05を満足することを特徴とする導電体。
【請求項2】
AサイトにLaを含有するとともに、BサイトにNi、Cu、Feを含有し、一般式がABOと表わされるペロブスカイト型複合酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の導電体。
【請求項3】
固体電解質の一方側に酸素極、他方側に燃料極が設けられてなり、前記酸素極が、請求項1または2に記載の導電体からなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項4】
固体電解質の一方側に酸素極、他方側に燃料極が設けられた複数の固体酸化物形燃料電池セルと、該複数の固体酸化物形燃料電池セルを電気的に接続するための導電性接合材とを具備してなり、前記導電性接合材が、請求項1または2に記載の導電体からなることを特徴とするセルスタック。
【請求項5】
隣接する複数の前記固体酸化物形燃料電池セルの間に集電部材が配置されており、前記固体酸化物形燃料電池セルと前記集電部材とが前記導電性接合材で接合されていることを特徴とする請求項4に記載のセルスタック。
【請求項6】
収納容器内に請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池セルを複数収容してなるとともに、該複数の固体酸化物形燃料電池セルが電気的に接続されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
収納容器内に請求項4または5に記載のセルスタックを収容してなることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−49115(P2012−49115A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158057(P2011−158057)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】