説明

導電体の製造方法

【課題】ナノ炭素材料または/及び金属微粒子等のナノ物質自体の特性を損なうことなく、優れた透明性と導電性を兼ね備えた導電体の製造方法を目的とする。
【解決手段】酸性基を有する水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)及び溶媒(C)を含有するナノ物質含有組成物を、基材の少なくとも一方の面上に塗工して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を加熱基材の少なくとも一方の面上に塗工して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を加熱し、前記水溶性導電性ポリマー(A)を焼失させる焼成工程とを含む導電体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ炭素材料であるカーボンナノチューブ、水溶性導電性ポリマー、溶媒からなる組成物、及び該組成物から製造される複合体(導電体)が知られている(特許文献1)。この組成物及び複合体は、水溶性導電性ポリマーを共存させることにより、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを水、有機溶剤、含水有機溶媒等の溶媒に分散化あるいは可溶化することができ、長期保存安定性に優れる。
【0003】
これらの水溶性導電性ポリマーが共存しているカーボンナノチューブ含有組成物は、導電性、成膜性、成形性に優れ、簡便な方法で基材に塗布、被覆して導電体(導電性高分子膜)を形成することができる。
【0004】
一方、スズ含有酸化インジウム(ITO)などの金属微粒子、水溶性導電性ポリマー、溶媒を含む組成物、及び該組成物から製造される導電膜が知られている(特許文献2)。この組成物及び導電体は、導電性、可とう性に優れ、塗膜成膜やシートを形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/039893号パンフレット
【特許文献2】特開2004−269702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの水溶性導電性ポリマーを含む組成物は、π−共役系化合物のため塗膜にした際に着色があり、無色透明性を必要とする用途には適用できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、カーボンナノチューブ等のナノ炭素材料自体やITOなどの金属微粒子の特性を損なうことなく、優れた透明性と導電性を兼ね備えた導電体の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導電体の製造方法は、酸性基を有する水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)及び溶媒(C)を含有するナノ物質含有組成物を、基材の少なくとも一方の面上に塗工して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を加熱基材の少なくとも一方の面上に塗工して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を加熱し、前記水溶性導電性ポリマー(A)を焼失させる焼成工程とを含む方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、カーボンナノチューブ等のナノ炭素材料自体やITOなどの金属微粒子の特性を損なうことなく、優れた透明性と導電性を兼ね備えた導電体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、酸性基を有する水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)及び溶媒(C)を含有するナノ物質含有組成物(以下、単に「組成物」ということがある。)を用いて、基材上に優れた透明性及び導電性を有する導電体を形成する方法である。
【0011】
<ナノ物質含有組成物>
[水溶性導電性ポリマー(A)]
水溶性導電性ポリマー(A)は、スルホン酸基及び/又はカルボキシ基等の酸性基を有する導電性ポリマーである。上記水溶性導電性ポリマー(A)は、ナノ物質(B)の溶解性・分散性を向上させ、安定なナノ物質含有組成物とすることで、結果として得られる導電体の透明性や導電性等を更に向上させる役割を果たす。
【0012】
上記水溶性導電性ポリマー(A)としては、フェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、カルバゾリレン等を繰り返し単位として含むπ共役系高分子を用いることができる。この中でも、特にチエニレン、ピロリレン、イミノフェニレン、フェニレンビニレン、カルバゾリレン、イソチアナフテンを含む骨格を有する導電性ポリマーであることが好ましい。
【0013】
上記水溶性導電性ポリマー(A)は、溶解性、導電性、成膜性等の観点から、酸性基を有するπ共役系の水溶性導電性ポリマーあるいはその塩として用いることができ、前者として用いることが好ましい。ここで、酸性基を有する水溶性導電性ポリマー(A)としては、π共役系高分子の骨格又は該高分子中の窒素原子上に、酸性基、酸性基で置換されたアルキル基、又は酸性基で置換された、エーテル結合を含むアルキル基を有している導電性ポリマーが挙げられる。
【0014】
また、水溶性導電性ポリマー(A)の塩としては、水溶性導電性ポリマー(A)とアンモニウム塩類及び/又はアミン類と反応させることにより、酸性基をスルホン酸基のアンモニウム塩(−SO)及び/又はカルボキシ基のアンモニウム塩(−COO)としたものを用いることができる。ここで、前記アンモニウム塩のアンモニウムイオン(M)は、下記一般式(1)で示されるものである。
【0015】
【化1】

【0016】
(式(1)中、R〜Rは各々独立に水素、炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基、フェニル基、ベンジル基、ROH、CONH又はNHであり、R〜Rのうち少なくとも一つが炭素数5以上の基である。なお、Rは炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基である。)
【0017】
上記水溶性導電性ポリマー(A)としては、特開昭61−197633号公報、特開昭63−39916号公報、特開平01−301714号公報、特開平05−504153号公報、特開平05−503953号公報、特開平04−32848号公報、特開平04−328181号公報、特開平06−145386号公報、特開平06−56987号公報、特開平05−226238号公報、特開平05−178989号公報、特開平06−293828号公報、特開平07−118524号公報、特開平06−32845号公報、特開平06−87949号公報、特開平06−256516号公報、特開平07−41756号公報、特開平07−48436号公報、特開平04−268331号公報、特開平09−59376号公報、特開2000−172384号公報、特開平06−49183号公報、特開平10−60108号公報に示された水溶性導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0018】
また、好ましい水溶性導電性ポリマー(A)としては、下記一般式(2)〜(10)から選ばれた少なくとも一種以上の繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含有する導電性ポリマーが挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
(式(2)中、R、Rは各々独立に、H、−SO、−SO3、−SOH、−RSO、−RSO、−RSOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R、−NHCOR、−OH、−O、−SR、−OR、−OCOR、−NO、−COO、−COOH、−RCOOH、−RCOO、−COOR、−COR、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、Rは炭素数1〜24のアルキル、アリールもしくはアラルキル基又はアルキレン、アリーレンもしくはアラルキレン基であり、かつR、Rのうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−RSO、−RSOH、−COOH、−RCOOH、及び−SO、−RSO、−COO、−RCOOからなる群より選ばれた基である。)
【0021】
【化3】

【0022】
(式(3)中、R、R10は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SO、−R11SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R11、−NHCOR11、−OH、−O、−SR11、−OR11、−OCOR11、−NO、−COO、−COOH、−R11COOH、−R11COO、−COOR11、−COR11、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R11は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR、R10のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−COOH、−R11COOH、及び−SO、−R11SO、−COO、−R11COOからなる群より選ばれた基である。)
【0023】
【化4】

【0024】
(式(4)中、R12〜R15は各々独立にH、−SO、−SO、−SOH、−R16SO、−R16SO、−R16SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R16、−NHCOR16、−OH、−O、−SR16、−OR16、−OCOR16、−NO、−COO、−COOH、−R16COOH、−R16COO 、−COOR16、−COR16、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R16は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR12〜R15のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R16SO、−R16SOH、−COOH、−R16COOH、及び−SO、−R16SO、−COO、−R16COOからなる群より選ばれた基である。)
【0025】
【化5】

【0026】
(式(5)中、R17〜R21は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R22SO、−R22SO、−R22SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R22、−NHCOR22、−OH、−O、−SR22、−OR22、−OCOR22、−NO、−COO、−COOH、−R22COOH、−R22COO、−COOR22、−COR22、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R22は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR17〜R21のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R22SO、−R22SOH、−COOH、−R22COOH、及び−SO、−R22SO、−COO、−R22COOからなる群より選ばれた基である。)
【0027】
【化6】

【0028】
(式(6)中、R23は、−SO、−SOH、−R24SO、−R24SOH、−COOH、−R24COOH、及び−SO、−R25SO、−COO及び−R25COOからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R24は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、R25は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基である。)
【0029】
【化7】

【0030】
(式(7)中、R26〜R31は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R32SO、−R32SO、−R32SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R32、−NHCOR32、−OH、−O、−SR32、−OR32、−OCOR32、−NO、−COO、−COOH、−R32COOH、−R32COO、−COOR32、−COR32、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R32は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR26〜R31のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−RSO、−R32SOH、−COOH、−R32COOH、及び−SO、−R32SO、−COO、−R32COOからなる群より選ばれた基であり、Htは、NR33、S、O、Se及びTeよりなる群から選ばれたヘテロ原子基であり、R33は水素及び炭素数1〜24の直鎖又は分岐のアルキル基、もしくは置換、非置換のアリール基を表し、R26〜R31の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和又は不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよく、このように形成される環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよく、nはヘテロ環と置換基R27〜R30を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0又は1〜3の整数である。)
【0031】
【化8】

【0032】
(式(8)中、R34〜R42は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R43SO、−R43SO、−R43SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R43、−NHCOR43、−OH、−O、−SR43、−OR43、−OCOR43、−NO、−COO、−COOH、−R43COOH、−R43COO、−COOR43、−COR43、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R43は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR34〜R42のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R43SO、−R43SOH、−COOH、−R43COOH、及び−SO、−R43SO、−COO、−R43COOからなる群より選ばれた基であり、nは置換基R34及びR35を有するベンゼン環と置換基R37〜R40を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0又は1〜3の整数である。)
【0033】
【化9】

【0034】
(式(9)中、R44〜R53は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R54SO、−R54SO、−R54SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R54、−NHCOR54、−OH、−O、−SR54、−OR54、−OCOR54、−NO、−COO、−COOH、−R54COOH、−R54COO、−COOR54、−COR54、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R54は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR44〜R53のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R54SO、−R54SOH、−COOH、−R54COOH、及び−SO、−R54SO、−COO、−R54COOからなる群より選ばれた基であり、nは置換基R44〜R46を有するベンゼン環とベンゾキノン環に挟まれた縮合環の数を表し、0又は1〜3の整数である。)
【0035】
【化10】

【0036】
(式(10)中、R55〜R59は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R60SO、−R60SO、−R60SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R60、−NHCOR60、−OH、−O、−SR60、−OR60、−OCOR60、−NO、−COO、−COOH、−R60COOH、−R60COO、−COOR60、−COR60、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R60は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、かつR55〜R59のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R60SO、−R60SOH、−COOH、−R60COOH、及び−SO、−R60SO、−COO、−R60COOからなる群より選ばれた基であり、Xa−は、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸イオン、ほうフッ化イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンよりなる1〜3価の陰イオン群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンであり、aはXのイオン価数を表し、1〜3の整数であり、pはドープ率であり、その値は0.001〜1である。)
【0037】
また、その他の好ましい水溶性導電性ポリマー(A)として、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフェートが挙げられる。この水溶性導電性ポリマーは、導電性ポリマーの骨格にはスルホン酸基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸が付加されている構造を有している。また、酸性基のアンモニウム塩を有する水溶性導電性ポリマー(A)としては、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸アンモニウム又は置換アンモニウム塩を用いることもできる。この水溶性導電性ポリマーは、導電性ポリマーの骨格にはスルホン酸アンモニウム塩基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩が付加されている構造を有している。
これらの水溶性導電性ポリマー(A)の具体例としては、3,4−エチレンジオキシチオフェン(バイエル社製 Baytron M)をトルエンスルホン酸鉄(バイエル社製 Baytron C)等の酸化剤で重合することにより製造されるポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の付加体、あるいはこの付加体にアミン類又はアンモニアと反応させたものが挙げられる。また、Baytron P(バイエル社製)、又はBaytron Pとアミン類及び/又はアンモニウム類とを反応させて得られたものが挙げられる。
【0038】
また、これらの他の好ましい水溶性導電性ポリマー(A)のなかでも、下記一般式(11)で表される繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含むものがより好ましい。
【0039】
【化11】

【0040】
(式(11)中、yは0<y<1の任意の数を示し、R61〜R78は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R79SO、−R79SO、−R79SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R79、−NHCOR79、−OH、−O、−SR79、−OR79、−OCOR79、−NO、−COO、−COOH、−R79COOH、−R79COO、−COOR79、−COR79、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R79は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、R61〜R78のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R79SO、−R79SOH、−COOH、−R79COOH、及び−SO、−R79SO、−COO、−R79COOからなる群より選ばれた基である。)
【0041】
上記水溶性導電性ポリマー(A)のなかでも、有機溶媒、含水有機溶媒等の溶媒への溶解性が非常に良好である点から、ポリマーの繰り返し単位の総数に対する酸性基を有する繰り返し単位の含有量が50%以上のものが好ましい。酸性基を有する繰り返し単位の含有量は、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0042】
また、芳香環に付加している置換基は、導電性及び溶解性の点から、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基が好ましく、特に、電子供与性を有するアルコキシ基が好ましい。これらの組み合わせの中で最も好ましい水溶性導電性ポリマー(A)を下記一般式(12)に示す。
【0043】
【化12】

【0044】
(式(12)中、R80〜R83は、スルホン酸基、カルボキシ基、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩からなる群より選ばれた1つの基であり、R80〜R83のうち少なくとも一つがスルホン酸基、カルボキシ基、及びこれらのアンモニウム塩からなる群より選ばれた基であり、R84は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ドデシル基、テトラコシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘプトキシ基、ヘクソオキシ基、オクトキシ基、ドデコキシ基、テトラコソキシ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基からなる群より選ばれた1つの基を示し、xは0<x<1の任意の数を示し、mは重合度を示し3以上である。)
80〜R83としては、中でも、導電性が高い点で、スルホン酸基並びにスルホン酸基のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩が好ましい。
【0045】
本発明における水溶性導電性ポリマー(A)は、化学重合又は電解重合等の各種合成法により得ることができる。例えば、本発明者らが提案した特開平7−196791号公報、特開平7−324132号公報に記載の合成方法が適用できる。すなわち、下記一般式(13)で表される酸性基置換アニリン、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩からなる群から選ばれる1つの化合物を、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより水溶性導電性ポリマー(A)を得ることができる。
【0046】
【化13】

【0047】
(式(13)中、R85〜R90は各々独立に、H、−SO、−SO、−SOH、−R91SO、−R91SO、−R91SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R91、−NHCOR91、−OH、−O、−SR91、−OR91、−OCOR91、−COO、−COOH、−R91COOH、−R91COO、−COOR91、−COR91、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、Mは前記式(1)で表されるアンモニウムイオンであり、R91は炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、R85〜R90のうち少なくとも一つが−SO、−SOH、−R91SO、−R91SOH、−COOH、−R91COOH、及び−SO、−R91SO、−COO、−R91COOからなる群より選ばれた基である。)
【0048】
特に好ましい水溶性導電性ポリマー(A)は、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩を、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより得られる水溶性導電性ポリマーである。
【0049】
また、水溶性導電性ポリマー(A)から、スルホン酸基のアンモニウム塩及び/又はカルボキシ基のアンモニウム塩を有する水溶性導電性ポリマーを合成する簡便な方法としては、下記一般式(14)で示されるアンモニウム塩類及び/又は下記一般式(15)で示されるアミン類と水溶性導電性ポリマー(A)とを、溶液中で反応させる方法が挙げられる。
【0050】
【化14】

【0051】
(式(14)中、R101〜R104は各々独立に水素、R105OH、炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいはフェニル基、ベンジル基、CONH又はNHであり、かつR101〜R104のうち少なくとも一つが炭素数5以上の基であり、R105は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基であり、Yb−は水酸化物イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アミド硫酸イオン、亜硫酸イオン、ホスフィン酸イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、トリポリリン酸イオン、ほうフッ化イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、吉草酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン、酪酸イオン、蟻酸イオン、トリメチル酢酸イオン、ブロモ酢酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン、マロン酸イオン、アスコルビン酸イオン、アニス酸イオン、アントラニル酸イオン、安息香酸イオン、ケイ皮酸イオン、フェニル酢酸イオン、フタル酸イオン、アニリンスルホン酸イオン、チオカルボン酸イオン、メチルスルフィン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンよりなる1〜3価の陰イオン群より選ばれた少なくとも1種の陰イオンを示す。また、bはYのイオン価数であり、1〜3の整数を示し、jは1〜3の整数を示す。)
【0052】
【化15】

【0053】
(式(15)中、R106〜R108は各々独立に水素、炭素数1〜24のアルキル、アリール又はアラルキル基あるいは、フェニル基、ベンジル基、R105OH、CONH又はNHであり、かつR106〜R108のうち少なくとも一つが炭素数5以上の基である。なお、R105は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基である。)
【0054】
アンモニウム塩類としては、塩化ベンザルコニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム等のハロゲン化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルジエチルベンジルアンモニウム、臭化トリエチルベンジルアンモニウム等のハロゲン化アルキルジエチルベンジルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム等のハロゲン化テトラアルキルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムが好ましい。
【0055】
また、アミン類としては、ベンジルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、アニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジ−n−プロピルアニリン、ジ−iso−プロピルアニリン等のアニリン類が好ましい。
【0056】
水溶性導電性ポリマー(A)の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のポリエチレングリコール換算で、2,000〜3,000,000であることが好ましく、3,000〜1,000,000であることがより好ましく、5,000〜500,000であることが特に好ましい。水溶性導電性ポリマー(A)の質量平均分子量が2,000以上であれば、十分な膜強度、成膜性、導電性が得られやすい。また、水溶性導電性ポリマー(A)の質量平均分子量が3,000,000以下であれば、優れた溶解性が得られやすい。
【0057】
水溶性導電性ポリマー(A)は、そのままでも使用できるが、公知の方法の酸によるドーピング処理方法を実施して、外部ドーパントを付与したものを用いてもよい。例えば、酸性溶液中に、水溶性導電性ポリマー(A)を含む導電体を浸漬させる等の処理によりドーピング処理を行うことができる。
ドーピング処理に用いる酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液が挙げられる。これらの無機酸、有機酸、高分子酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0058】
[ナノ物質(B)]
本発明のナノ物質は、ナノサイズの大きさを有する物質であれば特に限定されない。例えば、ナノカーボン材料、金属粒子、金属酸化物粒子、高分子ラテックス、高分子ナノスフェアなどを挙げることができる。
[ナノ炭素材料(B1)]
本発明におけるナノ炭素材料(B1)は、ナノサイズの大きさを有する炭素材料であれば特に限定されない。ナノ炭素材料(B1)としては、例えば、フラーレン、金属内包フラーレン、玉葱状フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、ピーポッド、気相成長カーボン(VGCF)、グラファイト、グラフェン、カーボンナノ粒子、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの中でも実用上は、導電性、透明性の点から、カーボンナノチューブが好ましい。
【0059】
カーボンナノチューブは、特に限定されず、通常のカーボンナノチューブを用いることができ、例えば、単層カーボンナノチューブ、何層かが同心円状に重なった多層カーボンナノチューブ、これらがコイル状になったもの等を用いることができる。
【0060】
また、カーボンナノチューブとしては、厚さ数原子の層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒が、単層あるいは複数個入れ子構造になったもので、nmオーダーの外径の極めて微小な物質が挙げられる。その他、カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーンやその頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質等も用いることができる。
【0061】
本発明におけるカーボンナノチューブの製造方法は、特に限定されるものではない。具体的には、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法、気相成長法、気相流動法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法等が挙げられる。
【0062】
カーボンナノチューブとしては、これらの製造方法によって得られる単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブであることが好ましく、各種機能をより発現しやすい点から、更に洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の種々の精製法によって、より高純度化されたカーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0063】
また、ナノ炭素材料(B1)としては、前述の材料を、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置等を用いて粉砕しているものや、化学的、物理的処理によって短く切断されているものを用いることもできる。
【0064】
[金属微粒子(B2)]
金属微粒子(B2)は、導電性を有する粒子状の物質である。
金属微粒子(B2)としては、金属酸化物粒子、金属粒子等が挙げられる。具体的には、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、酸化銅、酸化ホルミニウム、酸化ビスマス、酸化コバルト、フッ化グネシウム、酸化スズ、酸化インジウム、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモ酸亜鉛、五酸化アンチモン、金属粒子(金、銀、銅、ニッケル等)等が挙げられる。
【0065】
これらのうち、導電性の観点からは、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化サマリウム、酸化ランタン、酸化テルビウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジム、酸化亜鉛、酸化チタン、フッ化マグネシウム、酸化スズ、酸化インジウム、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモ酸亜鉛、五酸化アンチモン、金属粒子(金、銀、銅、ニッケル等)が好ましい。
また、溶媒(C)に対する分散性の観点からは、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、ATO、ITO、アンチモ酸亜鉛、五酸化アンチモン、金属粒子(金、銀、銅、ニッケル等)が好ましい。
【0066】
金属微粒子(B2)の形態としては、粉体、または溶媒(水、有機溶媒または含水有機溶媒)に分散された分散液が好ましい。有機溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エチレングリコール類(エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等)、プロピレングリコール類(プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等)等が好ましい。
【0067】
金属微粒子(B2)の粒子径は、1nm〜50μmが好ましく、1nm〜10μmがより好ましく、1nm〜1μmが更に好ましい。粒子径が大きすぎると透明性が不足し、また金属微粒子(B2)自体の溶液安定性も低下してしまう。
金属微粒子(B2)の形状としては、球状、針状、扁平状等が挙げられる。
【0068】
ナノ物質(B)として金属微粒子(B2)とナノ炭素物質(B1)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。特に金属微粒子(B2)とナノ炭素物質(B1)であるカーボンナノチューブが併用するナノ物質含有組成物からなる塗膜は、以下のいずれかの理由から導電性が向上する。
(I)塗膜中でカーボンナノチューブおよび金属微粒子(B2)が均一に分散し、金属微粒子(B2)の間にカーボンナノチューブが効率よい導通パスを形成できるため、塗膜の導電性が向上する。
(II)塗膜中でカーボンナノチューブと金属微粒子(B2)とが相分離構造を形成し、カーボンナノチューブまたは金属微粒子(B2)が微凝集状態の導電性ネットワークを形成できるため、塗膜の導電性が向上する。
ここで、相分離構造とは、金属微粒子(B2)とカーボンナノチューブからなる海−島構造である。導電性の観点から、(II)の相分離構造(海−島構造)が形成されていること好ましく、金属微粒子(B2)からなる海構造中に、カーボンナノチューブからなる島構造が存在する微凝集状態の導電性ネットワーク構造が形成されていることが更に好ましい。
【0069】
(I)、(II)いずれの場合も、カーボンナノチューブ間、金属微粒子(B2)間および/またはカーボンナノチューブ−金属微粒子(B2)間の接触抵抗を低減でき、塗膜の導電性が向上する。
また、(I)、(II)いずれの場合も、カーボンナノチューブが存在する部分と金属微粒子(B2)によりカーボンナノチューブが存在しない部分がはっきりと分離されるため、カーボンナノチューブによる光の吸収、散乱、反射が抑制され、塗膜の透明性も向上し、機械強度、熱伝導性等のカーボンナノチューブの特性も向上する傾向がある。
【0070】
[溶媒(C)]
本発明における溶媒(C)は、水溶性導電性ポリマー(A)及びナノ物質(B)の分散性をより向上させ、塗工性、操作性等を向上させる役割を果たす。溶媒(C)は、ナノ物質(B)を溶解又は分散するものであれば特に限定されないが、水溶性導電性ポリマー(A)を溶解又は分散するものが好ましい。
【0071】
溶媒(C)としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類等;アニリン、N−メチルアニリン等のアニリン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、m−クレゾール、アセトニトリル、テトラハイドロフラン、1,4−ジオキサン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノールが好ましい。
なかでも、水溶性導電性ポリマー(A)の溶解性、ナノ物質(B)の分散性の点から、水又は含水有機溶剤がより好ましい。
【0072】
[塩基性化合物(D)]
本発明におけるナノ物質含有組成物は、前述の水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)、溶媒(C)以外に、塩基性化合物(D)を更に含有させることが好ましい。塩基性化合物(D)は、ナノ炭素材料含有組成物に添加することで、構成成分である水溶性導電性ポリマー(A)を脱ドープし、組成物中への溶解性をより向上させる役割を果たす。また、遊離の酸性基と塩を形成することにより水溶性導電性ポリマー(A)の組成物への溶解が特段に向上させるとともに、ナノ物質(B)の組成物への可溶化あるいは分散化を促進させる。
【0073】
塩基性化合物(D)は、特に限定されないが、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類、アンモニウム塩類、無機塩基が好ましい。
アンモニア及び脂式アミン類の構造式を下記一般式(16)に示す。また、アンモニウム塩類の構造式を下記一般式(17)に示す。
【0074】
【化16】

【0075】
(式(16)中、R201〜R203は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、CHOH、CHCHOH、CONH又はNHを表す。)
【0076】
【化17】

【0077】
(式(17)中、R204〜R207は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、CHOH、CHCHOH、CONH又はNHを表し、ZはOH、1/2・SO2−、NO、1/2CO2−、HCO、1/2・(COO)2−、又はR208COOを表し、R208は炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0078】
環式飽和アミン類としては、ピペリジン、ピロリジン、モリホリン、ピペラジン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物が好ましい。
環式不飽和アミン類としては、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピロリン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物が好ましい。
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物塩が好ましい。
【0079】
塩基性化合物(D)は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、アミン類とアンモニウム塩類を混合して用いることにより、得られる耐水性導電体の導電性を更に向上させることができる。具体的には、NH/(NHCO、NH/(NH)HCO、NH/CHCOONH、NH/(NHSO、N(CH/CHCOONH、N(CH/(NHSO等の併用が挙げられる。また、これらの混合比(質量比)は任意の割合とすることができるが、アミン類/アンモニウム塩類=1/10〜10/1であることが好ましい。
【0080】
[高分子化合物(E)]
また、本発明におけるナノ物質含有組成物は、高分子化合物(E)を更に含有させることが好ましい。高分子化合物(E)を含有させることにより、加熱処理によって焼成して得られる導電体を形成する前の塗膜の基材密着性、強度を更に向上させることができる。
高分子化合物(E)としては、本発明におけるナノ物質含有組成物に溶解又は分散できるものであれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール類;ポリアクリルアマイド、ポリ(N−t−ブチルアクリルアマイド)、ポリアクリルアマイドメチルプロパンスルホン酸等のポリアクリルアマイド類;ポリビニルピロリドン類、ポリスチレンスルホン酸及びそのソーダ塩類、セルロース、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂、フッ素樹脂及びこれらの共重合体等が用いられる。
これらの高分子化合物(E)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
これら高分子化合物(E)の中でも、水溶性導電性ポリマー(A)としてスルホン酸基のアンモニウム塩及び/又はカルボキシ基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーを用いる場合は、溶媒への溶解性、組成物の安定性、導電性の点から、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂が好ましく、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂のうちの1種又は2種以上を混合して使用することが特に好ましい。
【0082】
また、アンモニウム塩を形成させていない酸性基を有する水溶性導電性ポリマー(A)を用いる場合は、水溶性高分子化合物又は水系でエマルジョンを形成する高分子化合物の溶媒への溶解性、組成物の安定性、導電性の点から、アニオン基を有する高分子化合物が好ましく、水系アクリル樹脂、水系ポリエステル樹脂、水系ウレタン樹脂、水系塩素化ポリオレフィン樹脂及び四フッ化エチレン樹脂等の水系フッ素樹脂のうちの1種又は2種以上を混合して使用することがより好ましい。
【0083】
更に、高分子化合物(E)は、塗膜形成工程の後の水溶性導電性ポリマー(A)を加熱して焼成する焼成工程において、水溶性導電性ポリマー(A)と同程度の加熱処理条件で焼成する高分子化合物が好ましい。
【0084】
[界面活性剤(F)]
また、本発明におけるナノ物質含有組成物には、界面活性剤(F)を更に含有させてもよい。界面活性剤(F)を含有させることにより、ナノ物質(B)の可溶化あるいは分散化を更に促進させるとともに、塗膜の平坦性、塗工性及び導電性等が向上する。
【0085】
界面活性剤(F)としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α−スルホン化脂肪酸、N−メチル−N−オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物及びこれらの塩等のアニオン系界面活性剤;第一〜第三脂肪アミン、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウムアルキルピリジニウム、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム、N,N−ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム及びこれらの塩等のカチオン系界面活性剤;N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン類、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩等のアミノカルボン酸類等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイド等の非イオン系界面活性剤;及びフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤が挙げられる。ここで、アルキル基は炭素数1〜24が好ましく、炭素数3〜18がより好ましい。
これらの界面活性剤(F)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
また、本発明におけるナノ物質含有組成物には、必要に応じて、更に可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤、前記水溶性導電性ポリマー(A)以外の熱可塑性ポリマー、スリップ剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、帯電防止剤、無機フィラー、有機フィラー、表面有機化処理した無機フィラー等の公知の各種物質を含有させてもよい。
また、導電体の導電性を更に向上させるために、ナノ物質含有組成物に導電性物質を含有させることもできる。該導電性物質としては、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛等の炭素系物質等が挙げられる。
【0087】
本発明におけるナノ物質含有組成物は、以上説明したような水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)、及び溶媒(C)を含有する組成物であり、必要に応じて、塩基性化合物(D)、高分子化合物(E)、界面活性剤(F)を更に含有させることができる。
以下、これらの組成比について説明する。
【0088】
上記水溶性導電性ポリマー(A)と上記溶媒(C)との使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、上記水溶性導電性ポリマー(A)が0.001質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。水溶性導電性ポリマー(A)が0.001質量部以上であれば、十分な導電性が得られやすく、ナノ物質(B)の可溶化あるいは分散化の効率がより向上する。また、水溶性導電性ポリマー(A)が50質量部以下であれば、高粘度化によるナノ炭素材料(B)の可溶化あるいは分散化の効率の低下を抑制しやすい。また、水溶性導電性ポリマー(A)が50質量部を超えても導電性はそれ以上大きく増加することはない。
【0089】
ナノ炭素材料(B1)と溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対してナノ炭素材料(B1)が0.0001質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.001質量部以上10質量部以下である。ナノ炭素材料(B1)を0.0001質量部以上とすることにより、導電性をより良好することができる。一方、20質量部以下とすることにより、ナノ炭素材料(B1)の可溶化あるいは分散化の効率をより良好にすることができる。
【0090】
金属微粒子(B2)と溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して金属微粒子(b)が0.0001質量部以上200質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.001質量部以上150質量部以下である。金属微粒子(B2)を0.0001質量部以上とすることにより、金属微粒子(B2)が塗膜中に分散して効率よいネットワークが形成し易いため、透明性を維持しつつ導電性能をより良好に発現させることができる。一方、200質量部以下とすることにより、金属微粒子(B2)の可溶化あるいは分散化の効率をより良好にすることができる。
【0091】
塩基性化合物(D)と溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、塩基性化合物(D)が0.00001質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.00005質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。塩基性化合物(D)が0.00001質量部以上であれば、水溶性導電性ポリマー(A)の溶解性が高くなり、ナノ物質(B)の溶媒(C)への可溶化あるいは分散化が促進され、導電体の導電性がより向上する。また、塩基性化合物(D)が10質量部を超えると、水溶性導電性ポリマーの導電性が低下するおそれがある。
【0092】
高分子化合物(E)と溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、高分子化合物(E)が0.1質量部以上400質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上300質量部であることがより好ましい。高分子化合物(E)が0.1質量部以上であれば、ナノ物質含有組成物から得られる塗膜の成膜性、成形性、強度がより向上し、その結果導電体事態の特性も向上する。また、高分子化合物(E)が400質量部以下であれば、水溶性導電性ポリマー(A)やナノ物質(B)の溶解性の低下が少なく、優れた導電性を維持しやすい。
【0093】
界面活性剤(F)と溶媒(C)の使用割合は、溶媒(C)100質量部に対して、界面活性剤(F)が0.0001質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。界面活性剤(F)が0.0001質量部以上であれば、塗工性、導電性、ナノ炭素材料(B)の可溶化あるいは分散化がより向上する。また、界面活性剤(F)が10質量部を超えると、塗工性は向上するが、導電性が劣る等の現象が生じるとともに、ナノ物質(B)の可溶化あるいは分散化の効率が低下するおそれがある。
【0094】
[ナノ物質含有組成物の製造方法]
本発明においては、溶媒(C)を用いることにより、分散性と塗工性に優れたナノ物質含有組成物が得られるため、高性能な導電体を製造することができる。
本発明におけるナノ炭素材料含有組成物の必須成分である水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)、溶媒(C)、及び、必要に応じて塩基性化合物(D)、高分子化合物(E)、界面活性剤(F)等を混合する際には、超音波、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサー等の撹拌又は混練装置が用いられる。なかでも、水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)、溶媒(C)、あるいは更に他の成分を混合し、これに超音波を照射することが好ましく、この際、超音波照射とホモジナイザーを併用(超音波ホモジナイザー)して処理をすることが特に好ましい。
【0095】
超音波照射処理の条件は、特に限定されるものではなく、ナノ物質(B)を溶媒(C)中に均一に分散あるいは溶解させるのに十分な超音波の強度と処理時間であればよい。例えば、超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位底面積当たり0.1〜500ワット/cmが好ましい。発振周波数は、10〜200kHzが好ましく、20〜100kHzがより好ましい。また、超音波照射処理の時間は、1分〜48時間が好ましく、5分〜48時間がより好ましい。また、超音波照射処理を行う際のナノ炭素材料含有組成物の温度は、分散性向上の点から、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
また、この超音波照射処理の後、更にボールミル、ビーズミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置を用いて分散あるいは溶解を徹底化することが好ましい。
【0096】
所定の構成成分を混合する際には、すべての成分を一括添加してもよいし、溶媒(C)のうち、その少量を用いて、濃厚なナノ物質含有組成物を調製した後、残りの溶媒(C)で所定の濃度に希釈してもよい。また、溶媒(C)を2種類以上混合して用いる場合には、使用する溶媒(C)のうち1成分以上を用いて、濃厚なナノ炭素材料含有組成物を調製し、その後、その他の溶媒(C)成分で希釈してもよい。
【0097】
<導電体の製造方法>
本発明の導電体の製造方法は、前述のナノ物質含有組成物を基材の少なくとも一方の面上に塗工して塗膜を形成する塗膜形成工程と、該塗膜形成工程の後に、水溶性導電性ポリマー(A)が焼成するように前記塗膜を加熱する焼成工程とを含む方法である。
【0098】
上記基材としては、高分子化合物、プラスチック、木材、紙材、セラミックス、繊維、不織布、炭素繊維、炭素繊維紙、及びこれらのフィルム、発泡体、多孔質膜、エラストマー、金属板そしてガラス板等が挙げられる。
【0099】
高分子化合物、プラスチック及びフィルムの具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、これらのフィルム、発泡体及びエラストマー等が挙げられる。
これらのフィルムは、少なくともその一つの面上に塗膜を形成させ、かつ該塗膜の密着性を向上させる目的で、その表面にコロナ表面処理又はプラズマ処理が施されていることが好ましい。
【0100】
[塗膜形成工程]
上記基材にナノ物質含有組成物を塗工して塗膜を形成する方法は、所望の塗膜を形成でできる方法であればよく、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を用いられる。
【0101】
塗膜の膜厚は、0.01μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることがより好ましい。
塗膜の膜厚が0.01μm以上であれば、優れた導電性を有する導電体が得られやすい。また、塗膜の膜厚が100μm以下であれば、塗膜の透明性が保持される。
【0102】
[焼成工程]
本発明の製造方法では、基材上にナノ物質含有組成物による塗膜を形成した後、該塗膜を加熱することにより水溶性導電性ポリマー(A)を焼成させる。
なお、本明細書において、「焼成」とは、加熱により、塗膜中の水溶性導電性ポリマー(A)を焼失させることを意味する。従って、加熱処理条件(温度、時間、方法等)は、特に限定されず、水溶性導電性ポリマー(A)が焼失されればよい。但し、塗膜中のナノ炭素材料等のナノ物質(B)が焼失すると、焼成後塗膜の導電性能が低下するため好ましくない。
【0103】
例えば、基材上に形成した塗膜の加熱処理条件は、以下の加熱処理条件(1)〜(4)のいずれかを採用することができる。
加熱処理条件1:350℃以上400℃未満の温度範囲にて30分以上加熱する。
加熱処理条件2:400℃以上450℃未満の温度範囲にて15分以上加熱する。
加熱処理条件3:450℃以上500℃未満の温度範囲にて3分以上加熱する。
加熱処理条件4:500℃以上600℃未満の温度範囲にて1分以上加熱する。
【0104】
加熱温度が350℃未満であると、水溶性導電ポリマー(A)の焼成がし難く、十分な透明性を付与することができない。また、加熱温度が600℃を超えると、ナノ物質(B)にナノ炭素材料(B1)を用いた場合、ナノ炭素材料(B1)自体が焼却されてしまい、塗膜自体が消失したりすることで導電性が低下する傾向にある。
また、金属微粒子(B2)を用いた場合、300℃以上の加熱で金属微粒子(B2)同士のネッキングが起こり、導電性は向上する傾向にある。
加熱温度は、短時間で透明性が付与され、及び短時間での導電体の製造が可能であり生産性が高い点から400℃以上が好ましい。
【0105】
また、加熱時間は、加熱温度によって異なるが、350℃以上400℃未満の温度範囲では30分以上であり、35分以上180分以下であることが好ましい。400℃以上450℃未満の温度範囲では15分以上であり、20分以上180分以下であることが好ましい。450℃以上500℃未満の温度範囲では3分以上であり、5分以上180分以下であることが好ましい。500℃以上550℃未満の温度範囲では1分以上であり、3分以上180分以下であることが好ましい。それぞれの条件で加熱時間が所定時間未満であると、水溶性導電ポリマー(A)の焼成が十分でなく、十分な透明性を付与することができない。
【0106】
加熱処理方法は、特に限定されないが、基材を熱風乾燥、ホットプレート、真空乾燥、赤外線乾燥等により加熱処理する方法が好ましい。
なお、上記焼成工程における好ましい加熱時間や加熱温度は、加熱機器によっても異なる。例えば、ホットプレートのように直に加熱部分が接触する場合は、加熱時間が短くなる傾向があり、オーブン(加熱炉)のように直接接触しない場合には、加熱時間が長くなる傾向がある。
【0107】
本発明の製造方法は、前述の塗膜形成工程及び焼成工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、塗膜形成工程の後に、酸によりドーピング処理を行い、次いで常温で放置あるいは加熱処理を施し、その後に焼成工程を行ってもよい。この酸によるドーピング処理により、導電体の導電性を更に向上させることができる。
【0108】
酸によるドーピング処理方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、酸性溶液中に導電体を浸漬させる等の処理によりドーピング処理を行うことができる。酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や、p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の有機酸や、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体等の高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液である。なお、これらの無機酸、有機酸、高分子酸はそれぞれ単独で用いても、また2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0109】
以上説明した本発明の製造方法は、優れた透明性と導電性を兼ね備えた導電体を製造することができる。そのため、得られる導電体の性能の湿度依存性が小さい。
これは、焼成工程における加熱処理によって水溶性導電性ポリマー(A)が焼成することにより透明性が付与され、一方でナノ物質(B)自体の導電性は低下しないため、十分な導電性が発現するためであると推定される。
【0110】
また、本発明の製造方法では、酸性基を有する水溶性導電性ポリマー(A)を用いているため、ナノ物質(B)の分散性が向上し、導電性ネットワークを形成しやすく導電性、透明性をより向上させることができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
(製造例1)水溶性導電性ポリマー(A−1)
ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)の合成:
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを25℃で4mol/Lのトリエチルアミン水溶液40mLに攪拌溶解し、これにペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間更に攪拌した後に、反応生成物を濾別洗浄後、乾燥し、ポリマー粉末(水溶性導電性ポリマー(A−1))15gを得た。この水溶性導電性ポリマー(A−1)の体積抵抗値は9.0Ω・cmであった。
【0112】
ナノ炭素材料(B1)は、以下に示すものを使用した。
カーボンナノチューブ(B1):ナノシル社によりCVD法(化学的気相成長法)にて製造された多層カーボンナノチューブ「商品名:NC7000」。
以下、カーボンナノチューブを「CNT」と略記することもある。
【0113】
金属微粒子(B2)としては、以下に示すものを使用した。
金属微粒子(B2):スズ含有酸化インジウム粒子を用いた。該スズ含有酸化インジウム粒子は、富士チタン工業社製、商品名:type B−(H)、粒子径:30nm。
以下、スズ含有酸化インジウム粒子を「ITO」と略記することもある。
【0114】
<ナノ物質含有組成物>
(製造例2)組成物1〜6
表1に示す組成で前記製造例1の導電性ポリマー(A−1)、ナノ炭素材料(B1)、金属微粒子(B2)、塩基性化合物(D)および高分子化合物(E)を、溶媒(C)である水100質量部に室温にて混合し、超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施し、組成物1〜5を調製した。
【0115】
【表1】

【0116】
(実施例1〜7)
表1に示すナノ物質含有組成物をガラス基板上に適量滴下し、バーコーティング法(バーコートNo.5)にて塗布して塗膜を形成後(初期塗膜)、加熱炉上で表2に示す加熱条件下で加熱処理して導電体を作成した。
【0117】
(比較例1〜6)
表1に示す種類のナノ物質含有組成物又は導電性組成物をガラス基板上に適量滴下し、バーコーティング法(バーコートNo.5)にて塗布して塗膜を形成後、ホットプレート上で、表2に示す加熱条件下で加熱処理して導電体を作成した。
【0118】
<評価方法>
実施例及び比較例において、加熱処理後の導電体が形成されたガラス基板について、表面抵抗値、及び全光線透過率の測定、塗膜面の外観観察を行った。
【0119】
(表面抵抗値)
23±2℃、50±5%RH(相対湿度)の条件下で、表面抵抗値の測定には、表面抵抗値が10Ω以上の場合は二探針法(電極間距離:20mm)を用い、表面抵抗値が10Ω以下の場合は四探針法(各電極間距離:5mm)を用いた。
【0120】
(塗膜面外観)
目視により塗膜(導電体)の状態を観察した。
○:水溶性導電性ポリマー由来の着色が観察されず無色透明であった。
×:水溶性導電性ポリマー由来の着色(黄色〜黄緑色)が観察された。
【0121】
(全光線透過率)
全光線透過率(%)は、HAZEMETER NDH2000(日本電色製)により、JIS K7105に準拠して20℃で測定した。
【0122】
【表2】

【0123】
表2に示すように、本発明の製造方法により製造した実施例1〜7の導電体は、表面抵抗値が低く導電性に優れており、かつ透明性にも優れていた。
【0124】
一方、加熱温度は350度以上400℃未満の範囲内であるが、加熱時間が十分でない比較例1では、水溶性導電性ポリマー(A)が十分に焼成しないため、透明性が低かった。また、加熱温度は400℃以上450℃未満の範囲内であるが、加熱時間が十分でない比較例2も同様に、水溶性導電性ポリマー(A)が十分に焼成しないため、透明性が低かった。また、加熱温度は450℃以上500℃未満の範囲内であるが、加熱時間が十分でない比較例3の場合も同様に、水溶性導電性ポリマー(A)が十分に焼成しないため、透明性が低かった。また、加熱温度は500℃以上550℃未満の範囲内であるが、加熱時間が十分でない比較例4及び比較例5の場合も同様に、水溶性導電性ポリマー(A)が十分に焼成しないため、透明性が低かった。
また、加熱温度が395℃である比較例6では、塗膜が焼却されてしまい、ナノ物質も存在しないため導電体を形成することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の導電体は、コンデンサー、電池、燃料電池、太陽電池及びその高分子電解質膜、電極層、触媒層、ガス拡散層、ガス拡散電極層、セパレーター、各層間のバッファ層、低ESR(等価直列抵抗)化材等の部材、EMIシールド(電波障害シールド)、化学センサー、表示素子、非線形材料、防食剤、接着剤、繊維、紡糸用材料、帯電防止塗料、防食塗料、電着塗料、メッキプライマー、静電塗装用導電性プライマー、電気防食、電池の蓄電能力向上、半導体、電器電子部品等の工業用包装材料、オーバーヘッドプロジェクタ用フィルム、スライドフィルム等の電子写真記録材料等の帯電防止フィルム、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープ、フロッピィディスク等の磁気記録用テープの帯電防止、電子デバイスのLSI配線、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)の電子銃(源)及び電極、水素貯蔵剤、更に透明タッチパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等の入力及び表示デバイス表面の帯電防止や透明電極、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する発光材料、バッファ材料、電子輸送材料、正孔輸送材料及び蛍光材料、熱転写シート、転写シート、熱転写受像シート、受像シートとして利用することができるため有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する水溶性導電性ポリマー(A)、ナノ物質(B)及び溶媒(C)を含有するナノ物質含有組成物を、基材の少なくとも一方の面上に塗工して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を加熱し、前記水溶性導電性ポリマー(A)を焼失させる焼成工程とを含む導電体の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ物質含有組成物に、塩基性化合物(D)を更に含有させる、請求項1に記載の導電体の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ物質含有組成物に、高分子化合物(E)を更に含有させる、請求項1又は2に記載の導電体の製造方法。
【請求項4】
前記ナノ物質が(B)がナノ炭素材料(B1)である、請求項1〜3のいずれかに記載の導電体の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ物質が(B)が金属微粒子(B2)である、請求項1〜3のいずれかに記載の導電体の製造方法。

【公開番号】特開2011−23282(P2011−23282A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168908(P2009−168908)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】