説明

導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法及びそれに使用する検査装置

【課題】 導電性コーティング皮膜の欠陥および経年変化により生ずる剥離、クラック、気孔、酸化物、腐食生成物などの欠陥を精度良く、現場で簡便に計測できる方法と装置を提供する。
【解決手段】 溶射、めっき、拡散浸透処理などの表面処理方法によって形成される導電性コーティング皮膜中に発生する気孔、クラック、介在物などの欠陥検出方法であって、被検査皮膜表面(3)上の2地点(A−D)間に所定の微小電流を流した状態で、前記2地点の内側に位置した別の2地点(B−C)間の電気抵抗を測定し、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較する。プローブ(11)は、各触針(A〜D)を所定の距離間隔に支持する支持構造と、各触針(A〜D)を被検査皮膜表面(3)に所定の接圧にて接触させる接圧調節手段(15,16)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食性環境などの過酷条件下で使用される各種装置の部材、部品などに用いられる導電性コーティング皮膜の欠陥、経年劣化などの検査、耐久寿命予測などに利用できる導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法及びそれに使用する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射、めっきなど、およそ数μm〜数1000μmの厚さを有するコーティング皮膜は、その製造あるいは使用段階において、気孔、クラック、酸化物混入など、大小さまざまな皮膜欠陥が形成される揚合がある。このような皮膜欠陥は、基材を腐食、摩耗などの損傷から保護する上で、また、皮膜自体の長期耐久性を確保する上で間題となっている。
【0003】
このため、腐食性環境などの過酷条件下で使用される各種装置の品質管理において、皮膜形成後に、これら欠陥の有無を非破壊的に検査する方法の必要性が古くより認識されており、交流インピーダンス法、音波法、透磁率変化、電気化学的方法など、色々な物理的あるいは化学的パラメータの変化を利用した方法の検討がなされているが、現在実用化されている方法はない。実用化が難しい理由として下記の点が挙げられる。
【0004】
(a)物理的、化学的パラメータの変化と欠陥の大きさ、種類との対応が、スリットなど人工的な欠陥では明瞭に現れるが、実際のコーティング皮膜では、上記のさまざまな微小欠陥や、施工による組織変化、性状のバラツキがあるため実験的に検証することが難しい。
(b)実際の皮膜では気孔、層状酸化物、結晶粒界、クラックなど色々な形態の欠陥が存在しており、また、母材/皮膜界面、皮膜表面の凹凸など影響因子が多いため、関連づけが難しい。
(c)さらに、これらのコーティング皮膜を長期間実装置で使用した場合、皮膜が除々に消耗、劣化するが、この場合下記の様な消耗、劣化形態をとる。
【0005】
(c1)皮膜厚さの減少:外表面からの摩耗、腐食などによる消耗
(c2)皮膜内部の欠陥の生成:使用応力などによる皮膜破壊が起こり、縦割れ、横割れあるいは部分的剥離が発生。また皮膜欠陥を通じて腐食性ガスが内部へ侵入し、皮膜内部での腐食、スケール生成を生ずる。
(c3)皮膜/母材界面の剥離:上記の皮膜内の腐食に加えて界面で基材あるいは皮膜の腐食が起こり、皮膜に剥離が生ずる。
例えば高温で使用される溶射などの耐食コーティングの劣化メカニズムについては、本発明者による報告文が出されている(非特許文献1および図8を参照)。
【0006】
以上述べたような種々の手法が試みられているにもかかわらず、様々な形態で発生する皮膜の欠陥を、皮膜特性としての物理的、化学的性質のバラツキ要因を排除して簡便かつ再現性良く検出することは困難であり、現状実用化されている方法はない。
【0007】
【非特許文献1】川原雄三:溶射、日本溶射協会、VoL38、No.2、(2001)p73
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に部材表面に目的に応じて形成させた薄いコーティング皮膜(表面改質皮膜、表面処理皮膜)はその形成方法に応じて特有の微小欠陥が導入される。例えば代表的な表面コーティングにおいて下記の様な欠陥が知られている。
(1)金属溶射:気孔、クラック、酸化物など
(2)溶接肉盛り:ボイド、クラック、スラグ巻込み、成分偏析、集合組織、引け巣など
(3)拡散、浸透処理:ボイド、クラックなど
(アルミナイジング、クロマイジング、シリコナイジングなど)
(4)めっき:気孔、クラック、不純物など(クロムメッキ、ニッケルメッキなど)
【0009】
さらに、これらのコーティング表面、母材/皮膜界面には製法上あるいは前処理の関係で必然的に数10〜数100μmの凹凸が存在しており、これらは物理、化学的方法で検査を行う際にバラツキが発生する要因となっている。これら、表面の凹凸を除去することは皮膜を消耗することになるうえ、手間も掛かることから、そのままの状態で検査することが望まれる。
【0010】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、導電性コーティング皮膜の欠陥および経年変化により生ずる剥離、クラック、気孔、酸化物、腐食生成物などの欠陥を精度良く、現場で簡便に計測できる方法と装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来技術の有する課題を解決するため、本発明者は、鋭意研究を行った結果、微小電流を検出する直流電気抵抗法を用いて実用上充分な精度で皮膜欠陥を検出できることを見出した。
即ち本発明は、溶射、めっき、拡散浸透処理などの表面処理方法によって形成される導電性コーティング皮膜中に発生する気孔、クラック、介在物などの欠陥検出方法であって、被検査皮膜表面上の2地点間に所定の微小電流を流した状態で、前記2地点の内側に位置した別の2地点間の電気抵抗を測定し、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較する導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法にある。
【0012】
本発明において、前記微小電流を流す前記2地点に対して、前記2地点の内側に等距離で位置しかつ前記2地点を結ぶ直線上にある別の2地点で電気抵抗を測定することが好適である。また、前記2地点間に微小電流を流すための2つの触針と、前記内側の2地点間の電気抵抗を測定するための2つの触針とを、それぞれ被検査皮膜表面に所定の接圧にて接触させた状態で電気抵抗を測定することがさらに好適である。
【0013】
また本発明は、前記導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法に使用する検査装置として、前記2地点間に微小電流を流すための2つの触針と、前記内側の2地点間の電気抵抗を測定するための2つの触針と、前記各触針を所定の距離間隔に支持する支持構造と、前記各触針を被検査皮膜表面に所定の接圧にて接触させる接圧調節手段とを備えたプローブ、前記微小電流を流すための2つの触針間に所定の微小電流を供給する定電流制御装置、前記内側の2つの触針間の電気抵抗を測定する計測装置、を含む検査装置を構成した。
【0014】
また本発明の別の態様では、前記導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法として、被検査皮膜表面上の2地点間に所定の微小電流を流した状態で前記2地点間の電気抵抗を測定し、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較することもできる。さらに本発明の別の態様では、前記欠陥検出方法として、被検査皮膜の母材を接地し、被検査皮膜表面上の1地点に所定の微小電流を流した状態で、前記1地点の電位を測定し、該測定値より電気抵抗を求め、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法は、被検査皮膜表面上の2地点間に所定の微小電流を流した状態で、前記2地点の内側に位置した別の2地点間の電気抵抗を測定し、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較する欠陥検出方法を採用したので、導電性コーティング皮膜の欠陥および経年変化により生ずる剥離、クラック、気孔、酸化物、腐食生成物などの欠陥を精度良く、現場で簡便に計測できる。
【0016】
上記効果は、微小電流を流す前記2地点に対して、前記2地点の内側に等距離で位置しかつ前記2地点を結ぶ直線上にある別の2地点で電気抵抗を測定することにより、より顕著なものとなる。また、前記2地点間に微小電流を流すための2つの触針と、前記内側の2地点間の電気抵抗を測定するための2つの触針とを、それぞれ被検査皮膜表面に所定の接圧にて接触させた状態で電気抵抗を測定することにより、各触針の接圧差に起因する接触抵抗の電気抵抗値への影響を排除し、より精度の高い欠陥検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1に、本発明に係わる方法(4針式電気抵抗法)を実施する検査装置10の構成を示す。図において、検査装置10は、4つの触針A,B,C,Dを有するプローブ11、外側の触針A−D間に所定の微電流を流す定電流制御装置12、内側の触針B−C間の微少抵抗(電圧)を計測する計測装置13から主に構成されている。
【0018】
プローブ11は、繰り返し使用時の表面接触に対して測定値の再現性と精度を確保するため次の工夫がなされている。すなわち、プローブ11の先端面14から突出し、かつ、直線状に配置された4つの触針A,B,C,Dは、プローブ11の先端面14において、被検査面3に対して接離する方向に摺動自在に支持され、かつ、それぞれがスプリング16により先端部14から突出する方向に付勢されている。また、プローブ11の先端面14の両側または周囲(もしくは4つの触針A,B,C,Dそれぞれの周囲)にスペーサ15を設け、該スペーサ15により、プローブ11を被検査面3に載置した状態で、先端面14が被検査面3に対して所定の間隔をなして平行に支持されるようにしてある。これら、触針A,B,C,Dの加圧手段(スプリング16)とプローブ11の支持手段(スペーサ15)とからなる接圧調節手段により、触針A,B,C,Dの先端が所定の接圧で被検査面3に押し当てられる。なお、スペーサ15の少なくとも被検査面3との接触部は絶縁材料で構成され、かつ、4つの触針A,B,C,Dはプローブ先端面14に絶縁材料を介して支持される。
【0019】
また、図示例では、上記スプリング16は、触針A,B,C,Dの基端部とプローブ11の先端部14との間に介在し、引張されたスプリング16の弾性回復により付勢力を得るものであるが、圧縮されたスプリングの弾性回復により付勢力を得るものであっても良い。また、触針A,B,C,Dの加圧手段としては、スプリングのような弾性体の他に、空気シリンダー、ベローフラムなど、流体圧によるものなどを使用することができる。触針A,B,C,Dの最適な接圧はスプリング16の変位、すなわち、スプリング16のいずれかの端部の連結位置を、ネジなどの調節手段(図示せず)で調節することにより設定でき、調節できることが好ましい。
【0020】
触針A,B,C,Dの先端形状は、皮膜1に微小な凹凸が存在しても良好な接触を確保できるよう先細に形成されるが、皮膜1を損傷しないように先端に丸味をもたせ、半径0.05mm〜0.3mm程度の球面とすることが好適である。また、触針A,B,C,Dの材質としては、上記先端形状で繰り返し計測を行なっても摩耗や変形が生じ難く、かつ、電気伝導性の良い高硬度材料が好適であり、このような材料としては、例えばタングステンが好適に用いられる。
【0021】
触針A,B,C,Dの設置間隔は、皮膜1の厚さ、検査領域の大きさ、被検査物の形状など、対象物によって異なる。また、プローブ11を移動させながら検査する際の作業性を考慮すると、プローブ11は小型軽量であることが好ましい。これらの点から、汎用の形態ではA−D間の距離L0が100mm程度か、それ以下が好適である。また、B−C間の距離L1は電圧変化すなわち抵抗変化を検出する上での検出性や、ばらつき、検査領域の物性に開係し、溶射皮膜など50〜600μm程度の厚さの皮膜1に対しては、A−D間距離L0の0.2〜0.8倍が好適である。そして、触針A,B,C,Dと、それに対応するプローブ11の各端子(コネクタ)とはフレキシブルな導線17で接続され、触針A,Dの端子は定電流制御装置12に、触針B,Cの端子は計測装置13に、それぞれ接続されている。
【0022】
定電流制御装置12は、皮膜1の中に流す電流を一定に保持する制御を行う回路を備えた装置である。定電流制御装置12は、触針A,Dに電圧を印加し、かつ、印加する電圧を加減して、触針A,Dと被検査体との接触抵抗の大小に拘わらず1μA〜10A程度の範囲で調節可能な一定電流が流れるようにする。なお、直流とほぼ同様な効果が得られる低周波の交流を用いても計測は可能である。
【0023】
計測装置13は、定電流制御装置12を用いて触針A,Dに流した一定電流下で、触針B,Cに検出される電圧(V1)を計測するものであり、電気抵抗(R)=電圧(V)/電流(I)により、計測値を電気抵抗(R)に変換する抵抗計(電圧計)の機能を備えている。図2は、4針式電気抵抗法により皮膜欠陥を検出する場合の測定回路図(等価回路図)を示す。図2において、被検査体の電気抵抗Rは、皮膜1の電気抵抗R1、皮膜1/母材2の界面の電気抵抗R2、母材2の電気抵抗R3の合成抵抗に相当する。健全な皮膜1において電気抵抗Rは極めて小さく、良好な電導性を示すが、皮膜1の欠陥により、皮膜1の導電性が低下し、皮膜1の電気抵抗R1や界面の電気抵抗R2が増大する。
【0024】
計測装置13の内部抵抗R0は、電気抵抗R1,R2,R3や触針B,Cの接触抵抗rb,rcに比べ充分に大きいため、計測装置13には殆ど電流は流れない。このため、触針B,Cの接触抵抗rb,rcは無視することができ、計測装置13に計測される電気抵抗Rは、皮膜1内部の欠陥の状況を反映したものとなる。従って、以上のように構成された検査装置10を用いて触針B−C間の微小抵抗測定を行うことにより、皮膜1の欠陥による微小抵抗変化を高精度に検出することができる。
【0025】
以上、4針式の検査装置10を用いた皮膜1の欠陥検出について述べたが、図3に示す2針式の検査装置20あるいは、図4に示す1針式の検査装置30においても、微少な電気抵抗を測定することにより皮膜1の欠陥を検出することが可能である。
【0026】
図3において、2針式検査装置20は、2つの触針E,Fを有するプローブ21、触針E−F間に所定の微電流を流す定電流制御装置22、該定電流制御装置22により流される微電流をもとに触針E−F間の微少抵抗(電圧)を計測する計測装置23から構成されている。また、図4において、1針式検査装置30は、1つの触針Hを有るプローブ31、一端を接地Gされ、H−G間に所定の微電流を流す定電流制御装置22、同じく一端を接地Gされ、定電流制御装置32により流される微電流をもとにH−G間の微少抵抗(電圧)を計測する計測装置33から構成されており、この1針式検査装置30においては、母材2も接地しておく必要がある。なお、図示は省略するが、各触針E,FまたはHの被検査面3に対する接圧を一定に保持する接圧調節手段については、先に述べた4針式の検査装置10の場合と同様である。
【0027】
これら2針式検査装置20、1針式検査装置30において、計測装置23,33で計測される微少抵抗(電圧)から皮膜1の欠陥の欠陥を検出する基本的な原理については、先述した4針式検査装置30の場合と同様である。しかし、2針式検査装置20、1針式検査装置30では、触針E,Fや触針Hの接触抵抗が加算されるため、予め皮膜欠陥と計測値の相関について情報を得ておく必要がある。また、1針式検査装置30は、局所的な欠陥の検出精度では、4針式検査装置10、2針式検査装置20に及ばないが、検査対象皮膜1についての広範囲な検査情報を得ることができ、他の方式と併用することも有効である。4針式を始め各方法において抵抗値から欠陥の状態を判定する場合、図6,7に示す様な欠陥のミクロ写真、欠陥形状あるいは欠陥の画像処理情報などと照合し、キャリブレーション曲線などを作成して、対応関係を調査しておくことが必要である。
【0028】
本発明方法は導電性の単一層皮膜のみならず2層、3層構造を有する多層皮膜についても同様に適用することができる。原理的には皮膜厚さに対する適用限度はなく、触針間の距離L1を拡大し電流分布の広がりにより皮膜内の情報を得ることができる。しかし触針間の距離L1が大きい揚合や皮膜1が薄い場合には、母材2内への流入電流の割合が増え、相対的に皮膜内情報の検出感度が低下するため、触針間の距離L1を狭めて適切に設定する必要がある。
【0029】
さらに、長期間使用して劣化した皮膜については、前述の様に皮膜内の欠陥の増加のみならず、皮膜の厚さの減少、皮膜/母材の界面でのスケール生成、剥離などの現象が同時に生ずる。このような経年劣化現象は皮膜内の抵抗増加や、母材への流入電流の減少を伴うため、劣化の進行と共に大きな抵抗変化を示すようになり、定期的な計測によって劣化度、耐久寿命予測の判定を行なうことができる。
【実施例】
【0030】
(1)電気抵抗値と溶射皮膜欠陥との対応(4針法)
前述の4針法および2針法の検査装置10,20を用いて触針A−D間の距離L0を50mm(4針法)、B−CまたはE−F間の距離L0を32mm(4針法、2針法)に設定して、ボイラ蒸発管に施工した50Cr50Ni合金のプラズマ溶射皮膜に発生した欠陥を調査した。抵抗計測を行った後に色々な抵抗値を示した部分を切断して皮膜の欠陥発生状況をミクロ組織観察により調査した。
(2)試験片および試験方法
下記の試験片を用いて実機での使用条件を決める試験を行った。
(2.1)抜管チューブ
1年間使用済の溶射管を用いて4針法と2針法にて電気抵抗と皮膜欠陥の関係を調査し、測定条件と判定規準を求めた。
(2.2)新規溶射管
使用前の50Cr50Ni溶射管を用いて皮膜厚さが100〜400μmの正常皮膜の電気抵抗値を測定し、皮膜厚さの影響度を調査した。
(3)試験結果
表1に4針法、表2に2針法による抜管チューブの試験結果を示す。また、測定位置の代表的なミクロ組織の写真を図6、図7に示す。なお、図6、図7中の抵抗値は4針法によるものであり、表1のNo.1〜4、No.6〜9に相当する。また、表3に4針法による新規溶射管の測定結果を示す。得られた主な結果は以下の通りである。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
(3.1)
2針法による試験では接触抵抗、電流等の影響により40mΩ〜1500mΩ程度の抵抗値を示したが、4針法では2針法のおよそ1/103の値の13〜3600μΩの微小な皮膜抵抗変化を測定できた。また、両方法とも欠陥の増加による抵抗増加の傾向は明瞭に計測でき、充分な実用性を有することがわかる。
(3.2)
抵抗値と皮膜欠陥との対応について、4針法では使用前、使用後とも健全皮膜の抵抗値は10〜20μΩ程度の値を示している。一方、大きな欠陥、層状酸化物、クラックなどの欠陥の存在に対応して抵抗値が増加し、目視にて観察できる表面の大きなクラックでは約1000μΩ以上の大きな抵抗値となる。このような傾向から、本実験において不良皮膜と正常皮膜のしきい値は約70μΩである。これを正常皮膜の抵抗値に対する不良皮膜の抵抗値の指数α(欠陥指数α=不良皮膜抵抗値/正常皮膜抵抗値)で表すと、α≧4.0〜5.3が、不良皮膜のしきい値となる。欠陥の発生状況と抵抗のしきい値について整理すると下記のようになる。
(a)抵抗値が70μΩ以下(α<4.0):正常/スパッタなど小欠陥は存在する(No.1)。
(b)抵抗値が70〜1000μΩ(4.0≦α<60):有害欠陥あり(目視不可能)/大きな層状酸化物、微細な縦割れ、部分的剥離が存在する(No.2〜No.6)。
(c)抵抗値が1000μΩ以上(60≦α):大きな欠陥あり(目視可能)/大きなクラック、多量の酸化物、大きな剥離が存在する(No.7〜No.9)。
(3.3)
皮膜厚さの抵抗値に対する影響について、新規溶射管の測定結果(表3)から、健全な皮膜では皮膜厚さの抵抗値に対する影響は殆ど認められず、通常の皮膜厚さの範囲内では、厚さの影響を受けずに欠陥の検出ができることを示している。
【0035】
抵抗値に及ぼす皮膜欠陥の影響は、酸化物量、微細割れ、スパッタ等の集合欠陥、接合界面状態など色々な欠陥の存在状況、要因に左右され、また、計測装置側要因として、流す電流などの影響を受ける。このため個々の欠陥の微小抵抗値への影響度を区分けして検出することは現時点では難しいが、μΩオーダの微小抵抗を計測することにより皮膜の耐久性に影響する有害なクラック、大きな酸化物の存在とその大きさなどは検出できる。抵抗値が大きい程、皮膜断面(電流通過部断面積)での欠陥の占める割合が多く、これにより外部からの腐食性ガスなどの侵入、皮膜を貫通するクラックなどが発生し易くなるため耐久性の低下速度が増加すると考えられる。従って皮膜の寿命予測に本方法を用いることができる。
【0036】
なお、上記実施形態では、プローブ11の4つの触針A,B,C,Dが、被検査面3に対して接離する方向に摺動自在に支持される場合を示したが、摺動自在に支持される代わりに揺動自在に支持されていても良い。
【0037】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明方法を実施する検査装置(4針式)の概略を示す正断面図である。
【図2】本発明方法により皮膜欠陥を検出する場合の測定回路図である。
【図3】本発明方法を実施する検査装置(2針式)の概略を示す正面図である。
【図4】本発明方法を実施する検査装置(1針式)の概略を示す正面図である。
【図5】本発明方法に係る皮膜欠陥と抵抗値の関係、模式的な皮膜組織を示す図である。
【図6】溶射皮膜のミクロ組織を示す断層写真である。
【図7】溶射皮膜のミクロ組織を示す断層写真である。
【図8】溶射皮膜の経年劣化のメカニズムを示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 皮膜
2 母材
3 被検査面
10,20,30 検査装置
11,21,31 プローブ
12,22,32 定電流制御装置
13,23,33 測定装置(抵抗計/電圧計)
15 スペーサ(支持手段/接圧調節手段)
16 スプリング(加圧手段/接圧調節手段)
A,B,C,D,E,F,H 触針
G 接地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射、めっき、拡散浸透処理などの表面処理方法によって形成される導電性コーティング皮膜中に発生する気孔、クラック、介在物などの欠陥検出方法であって、被検査皮膜表面上の2地点間に所定の微小電流を流した状態で、前記2地点の内側に位置した別の2地点間の電気抵抗を測定し、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較することを特徴とする導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法。
【請求項2】
微小電流を流す前記2地点に対して、前記2地点の内側に等距離で位置しかつ前記2地点を結ぶ直線上にある別の2地点で電気抵抗を測定する請求項1に記載の導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法。
【請求項3】
前記2地点間に微小電流を流すための2つの触針と、前記内側の2地点間の電気抵抗を測定するための2つの触針とを、それぞれ被検査皮膜表面に所定の接圧にて接触させた状態で電気抵抗を測定する請求項1または2に記載の導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法に使用する検査装置であって、
前記2地点間に微小電流を流すための2つの触針と、前記内側の2地点間の電気抵抗を測定するための2つの触針と、前記各触針を所定の距離間隔に支持する支持構造と、前記各触針を被検査皮膜表面に所定の接圧にて接触させる接圧調節手段とを備えたプローブ、
前記微小電流を流すための2つの触針間に所定の微小電流を供給する定電流制御装置、
前記内側の2つの触針間の電気抵抗を測定する計測装置、
を含む検査装置。
【請求項5】
溶射、めっき、拡散浸透処理などの表面処理方法によって形成される導電性コーティング皮膜中に発生する気孔、クラック、介在物などの欠陥検出方法であって、被検査皮膜表面上の2地点間に所定の微小電流を流した状態で前記2地点間の電気抵抗を測定し、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較することを特徴とする導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法。
【請求項6】
溶射、めっき、拡散浸透処理などの表面処理方法によって形成される導電性コーティング皮膜中に発生する気孔、クラック、介在物などの欠陥検出方法であって、被検査皮膜の母材を接地し、被検査皮膜表面上の1地点に所定の微小電流を流した状態で、前記1地点の電位を測定し、該測定値より電気抵抗を求め、予め同条件で測定した正常皮膜の電気抵抗値と比較することを特徴とする導電性コーティング皮膜の欠陥検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−155368(P2007−155368A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347385(P2005−347385)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】