説明

導電性ブラシ、画像形成装置の導電性ブラシ

【課題】 単一の導電性ブラシであっても、互いに電気的性質の異なる複数の電気エネルギーを保持、放出する。
【解決手段】 導電性ブラシ10は編地13と植毛部14とを含む。編地13は、第一絶縁領域13cと、第一絶縁領域13cによって互いに隔てられている第一導電領域13aおよび第二導電領域13bとを含む。また、植毛部14は、第一導電領域13aに立設される複数の導電糸からなる第一植毛部14aと、第二導電領域13bに立設される複数の導電糸からなる第二植毛部14bと、を含む構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを取り込み、保持または放出する導電性ブラシ、特に画像形成装置の導電性ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、感光体等の像担持体の表面にトナー像を形成し、このトナー像を用紙に転写する電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0003】
また、この画像形成装置に構成される部材として、像担持体表面にブラシ糸を接触させる導電性ブラシが知られている(特許文献1参照)。この導電性ブラシは、電気エネルギーをブラシ糸に取り込むことにより、像担持体表面の帯電または除電、像担持体表面に付されたトナーの帯電または除電、トナーの清掃処理を実現するものである。
【0004】
以下、この導電性ブラシの構成について簡単に説明する。図5は、従来の導電性ブラシの斜視図、図6は、図5におけるHH線の断面を示した図、図8は、図6に示す断面を模式化した図である。
【0005】
導電性ブラシ100は、図5に示すように、導電性基材101と、導電性基材101に取り付けられたパイル織物102と、から構成されている。
【0006】
また、図6および図8に示すように、パイル織物102は、緯糸と経糸106・・・とを織り込んで構成される基布105と、基布105にパイル織りされている複数のパイル糸(ブラシ糸)103・・・からなる植毛部104と、を含む構成である。なお、上述した緯糸および経糸106は絶縁性繊維からなり、パイル糸103は導電性繊維からなる。そして、パイル糸103・・・を束ねた糸束が複数構成されており、各糸束は、経糸106と接触しつつ、基布105の平面方向に対してほぼ垂直に立設している。
【0007】
つぎに、図7に基づいて、上述したパイル織りの態様を説明する。図7は、図5において、HH線と直交するラインであって、ブラシ長手方向に沿ったラインの断面を示す図である。なお、図7に示す参照付110に示される部材は、緯糸の断面を示したものである。
【0008】
同図に示すように、パイル糸103・・・を束ねた糸束は、両端が基布105の平面方向に対してほぼ垂直に立ち上がるように、3本の緯糸110・・・に編み込まれている。また、この糸束は、上記の編み込まれている個所において緯糸110と導電性基材101とによって挟持され、導電性基材101に接触している。これにより、パイル織物102における全てのパイル糸103・・・は、単一の導電性基材101に電気的に接続されることとなる。
【0009】
以上のパイル織物102によれば、導電性基材101へ電気エネルギーを印加することにより、全てのパイル糸103にこのエネルギーを与えることができる。
【特許文献1】特開平6−149011号公報(公開日:平成6年5月27日)
【特許文献2】特開2003−156971(公開日:平成15年5月30日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
また、従来から、画像形成装置では、像担持体の周囲に複数の導電性ブラシを互いに隣接配置し、各導電性ブラシに対し、電圧値、電流値、極性等の電気的性質が互いに異なる電気エネルギーを供給し、保持させる試みがなされている。
【0011】
例えば、特許文献2の画像形成装置によれば、負極性の直流電圧が印加される導電性ブラシとしてのトナー帯電量制御手段と、正極性の直流電圧が印加される導電性ブラシとしての転写残トナー均一化手段とが、感光体ドラムに接触していると共に、互いに隣り合って配置されている(特許文献2の図1、図5、図9参照)。この構成では、トナー帯電用制御手段が負電荷を保持すると共に感光体表面に対して負極性の電荷を与え、残トナー均一化手段が正電荷を保持すると共に感光体表面に対して正極性の電荷を付与している。
【0012】
ここで、互いに性質の異なる電気エネルギーの保持を単一の導電性ブラシで行うことができれば、特許文献2の構成において、複数の導電性ブラシを備える必要がなく、画像形成装置全体の大型化を抑制できる。
【0013】
しかし、従来から知られている導電性ブラシ100におけるパイル織物102は、上述したように、単一の導電性基材101に対し全てのパイル糸103・・・が電気的に接続され、全てのパイル糸103・・・が互いに導通する。したがって、単一の導電性ブラシにおいて、互いに異なる性質を示す電気エネルギーを保持することができない。
【0014】
本発明は、単一の導電性ブラシであっても、互いに電気的特性の異なる複数の電気エネルギーを保持、放出することができる導電性ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の目的を達成するために、本発明の導電性ブラシは、絶縁領域と、上記絶縁領域によって互いに隔てられている第一導電領域および第二導電領域と、を含む基材と、第一導電領域に立設される複数の導電糸と、第二導電領域に立設される複数の導電糸と、を含むことを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、第一導電領域に立設される複数の導電糸と、第二導電領域に立設される複数の導電糸とが構成されているが、第一導電領域と第二導電領域とは絶縁領域によって互いに隔てられている。したがって、第一導電領域に立設される導電糸と、第二導電領域に立設される導電糸とは互いに電気的に非接続状態となる。
【0017】
それゆえ、第一導電領域の導電糸と第二導電領域の導電糸とに対して互いに特性が異なる電気エネルギーを与えると、第一導電領域に立設される導電糸が保持する電気エネルギーと、第二導電領域に立設される導電糸が保持する電気エネルギーとは互いに異なる性質となる。したがって、単一の導電性ブラシであっても、互いに特性が異なる電気エネルギーを保持し、または放出することが可能となる。
【0018】
なお、上述した性質とは、上記電気エネルギーの示す極性、電位、流入電荷量、放出電荷量等をいう。
【0019】
本発明の導電性ブラシは、上記構成に加えて、上記基材は、経糸と緯糸とが織り込まれて構成される編地であり、上記複数の導電糸は、上記編地における各導電領域に対しパイル織りされていることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、経糸と緯糸とが織り込まれてなる編地を上記基材とし、当該編地における各導電領域に対して導電糸をパイル織りしている。このようにすると、上記導電糸は、上記編地を基布としたパイル織物におけるパイル糸となり、各導電糸を各領域上で容易に立設させることができる。
【0021】
本発明の導電性ブラシは、上記構成に加えて、上記第一および第二導電領域は、経糸に沿って上記絶縁領域と仕切られており、上記編地の緯糸は絶縁材料からなり、上記絶縁領域における上記経糸は絶縁材料からなり、上記第一および第二導電領域における上記経糸は導電材料からなる構成であってもよい。
【0022】
上記構成によれば、上記編地の緯糸は絶縁材料からなり、上記絶縁領域における上記経糸は絶縁材料からなり、上記第一および第二導電領域における上記経糸は導電材料からなる。
【0023】
また、上記編地における第一導電領域と上記絶縁領域とは経糸に沿って仕切られ、また、第二導電領域と上記絶縁領域とは経糸によって仕切られている。よって、第一導電領域と上記絶縁領域との境界は経糸に沿い、第二導電領域と上記絶縁領域との境界は経糸に沿うこととなる。
【0024】
このようにすれば、編地の各経糸は、第一導電領域、第二導電領域、絶縁領域のいずれかの領域のみを横切る構成になる。さらに、上記編地における絶縁材料からなる緯糸は第一および第二導電領域と上記絶縁領域とを横切ることになる。
【0025】
この構成において、第一導電領域の導電性の経糸に電気エネルギーを印加すれば、経糸に交差する緯糸が第一および第二導電領域と上記絶縁領域とを横切る構成であっても、緯糸は絶縁性であるため、このエネルギーが緯糸を介して他の領域に伝播されることはない。また、第一導電領域の経糸は第一導電領域のみを横切る構成であるため、上記したエネルギーは第一導電領域のみに伝播される。
【0026】
さらに、第二導電領域の導電性の経糸に電気エネルギーを印加すれば、経糸に交差する緯糸が第一および第二導電領域と上記絶縁領域とを横切る構成であっても、緯糸は絶縁性であるため、このエネルギーが緯糸を介して他の領域に伝播されることはない。また、第二導電領域の経糸は第二導電領域のみを横切る構成であるため、上記したエネルギーは第二導電領域のみに伝播される。
【0027】
したがって、各々の導電領域においては、各々の経糸によって電気を導通させることができ、かつ、各導電領域間で互いに短絡することはない。
【0028】
本発明の導電性ブラシは、上記構成に加えて、上記各導電糸は、第一または第二導電領域において経糸に対して接触し、かつ、緯糸に対して編み込まれていることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、上記各導電糸は、第一または第二導電領域において上記経糸に対して接触し、かつ、緯糸に対して編み込まれている。このように、各導電糸は、導電性の経糸に接触していることから、第一導電領域の経糸と該領域に立設されている導電糸とは電気的に接続状態となり、第二導電領域の経糸と該領域に立設されている導電糸とは電気的に接続状態となる。それゆえ、各々の導電領域において経糸に電気エネルギーを印加すると、各々の導電領域に立設されている導電糸はこの電気エネルギーを保持し、また放出することが可能となる。
【0030】
本発明の導電性ブラシは、上記構成に加えて、上記第一および第二導電領域には、上記経糸が外部へ露出する露出面が含まれていることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、導電材料からなる経糸が外部に露出しているため、この経糸における露出している面を外部電極と接続する端子とすれば、外部から上記導電領域に電気エネルギーを印加することが可能となる。
【0032】
本発明の導電性ブラシは、上記構成に加えて、上記絶縁領域に立設される複数の絶縁性糸からなる第三ブラシ部が含まれることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、第一導電領域と第二導電領域との間には絶縁領域が介在し、この絶縁領域上には複数の絶縁性糸からなる第三ブラシ部が形成されている。したがって、第一導電領域に立設される複数の導電糸と、第二導電領域の立設される複数の導電糸との間には、絶縁領域に立設される複数の絶縁糸が介在することとなる。よって、第一導電領域に立設される導電糸と、第二導電領域の立設される導電糸とが直接接触してしまう事態を抑制でき、これら導電糸が短絡してしまうという事態を抑制することが可能となる。
【0034】
本発明の導電性ブラシは、第一導電領域に立設される導電糸と、第二導電領域に立設される導電糸とは、互いに抵抗値を異ならせる構成であってもよい。
【0035】
上記構成によれば、各導電領域に対して同一電圧を印加しても、導電糸における電流値を導電領域毎で異なるものとすることができる。したがって、単一の電源電圧および単一の導電性ブラシで、互いに特性が異なる電気エネルギーを蓄積し、また、放出することが可能となる。
【0036】
また、本発明の導電性ブラシは、画像形成装置に構成されている像担持体に対して導電糸からなるブラシ毛を接触させる構成であってもよい。
【0037】
上記構成によれば、像担持体周囲に形成される単一の導電性ブラシにおいて、互いに特性の異なる電気エネルギーを取り込み、保持せることができるため、従来構成の画像形成装置と比べて、備えるべき導電性ブラシの数を抑制することができ、画像形成装置の小型化および省コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明の導電性ブラシは、絶縁領域と、上記絶縁領域によって互いに隔てられている第一導電領域および第二導電領域と、を含む基材と、第一導電領域に立設される複数の導電糸と、第二導電領域に立設される複数の導電糸と、を含む構成である。
【0039】
それゆえ、第一導電領域の導電糸と第二導電領域の導電糸とに対して互いに特性が異なる電気エネルギーを与えると、第一導電領域に立設される導電糸が保持する電気エネルギーと、第二導電領域に立設される導電糸が保持する電気エネルギーとは互いに異なる性質となる。したがって、単一の導電性ブラシであっても、互いに特性が異なる電気エネルギーを保持し、または放出することが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の実施の一形態における導電性ブラシを図に基づいて以下説明する。図1は、本実施形態における導電性ブラシ10の概略構成を示す斜視図であり、図2は、図1におけるGG線断面を模式的に示した図である。また、図3は、図1における上面を模式的に示した図である。
【0041】
なお、本実施の形態の導電性ブラシ10とは、画像形成装置の像担持体周囲に配されると共に、ブラシ毛が像担持体表面に接触するように構成されるものである。そして、導電性ブラシ10は、外部から電気エネルギーを取り込み、この電気エネルギーを保持または放出することによって、像担持体表面の帯電または除電、像担持体表面に付着しているトナーの帯電または除電、像担持体表面に付着するトナーの清掃を行うものである。
【0042】
図1、図2に示すように、導電性ブラシ10は、台11と、台11上に形成されているバックコート層15と、バックコート層15上に形成されている編地13と、編地13上に形成されている植毛部14と、から構成される。なお、編地13と植毛部14とによって、ブラシ状の織物であるパイル織物12が構成されることとなる。
【0043】
台11は、画像形成装置(不図示)に取り付けられることによって、導電性ブラシ10を画像形成装置に対して固定するための部材である。
【0044】
バックコート層15は、台11と編地13とを電気的に絶縁する絶縁層である。このバックコート層15は、編地13における植毛部14側とは反対面に対し、アクリル樹脂またはSBR(styrene−butadiene rubber)を主成分とする粘調性の接着剤を塗布することによって形成される。このようにして、編地13に対して接着剤を塗布することにより、編地13の組織(後述する経糸と緯度とからなる編地13の組織)を固定・安定化している。
【0045】
なお、台11とバックコート層15とは両面テープ(不図示)によって接着される。
【0046】
つぎに、パイル織物12を構成する編地13および植毛部14について詳細に説明するが、まず編地13について説明し、その後、植毛部14について説明する。
【0047】
(編地13の構成)
図1に示すように、編地(基材、基布)13は、経糸と緯糸とを織り込んで構成される長方形の織物である。
【0048】
また、編地13を構成する各経糸は、長方形の編地13の長辺方向に沿って織り込まれており、各緯糸は、編地13の短辺方向に沿って織り込まれている。
【0049】
さらに、編地13は、図1、図2、および図3に示すように、第一導電領域13a、第二導電領域13b、第一絶縁領域13c、第二絶縁領域13d、第三絶縁領域13eに区画される。領域13a〜13eは、編地13の緯糸の織り込まれている方向(短辺方向)に沿って並列されており、各領域を区画する境界は、編地13の経糸の織り込まれている方向(長辺方向)に沿っている。
【0050】
第一絶縁領域13cは、第一導電領域13aおよび第二導電領域13bの間に配されていると共に、編地13の長辺方向における一方の端から他方の端に渡って形成されている。
【0051】
第一導電領域13aおよび第二導電領域13bは、第一絶縁領域13cによって互いに隔てられて配されていると共に、編地13の長辺方向における一方の端から他方の端に渡って形成されている。
【0052】
第二絶縁領域13dは、第一導電領域13aに対して第一絶縁領域13cが形成されている側とは反対側に配されていると共に、編地13の長辺方向における一方の端から他方の端に渡って形成されている。
【0053】
第三絶縁領域13eは、第二導電領域13bに対して第一絶縁領域13cが形成されている側とは反対側に配されていると共に、編地13の長辺方向における一方の端から他方の端に渡って形成されている。
【0054】
また、第一導電領域13aと第一絶縁領域13cとは、互いに隣り合っているが、編地13のいずれかの経糸に沿って画されている境界によって仕切られている。さらに、第二導電領域13bと第一絶縁領域13cとは、互いに隣り合っているが、編地13のいずれかの経糸に沿って画されている境界によって仕切られている。
【0055】
さらに、編地13における全ての緯糸は絶縁性繊維(絶縁材料)からなる。また、編地13における経糸のうち、第一および第二導電領域13a・13bにおける経糸は導電性繊維(導電材料)からなり、各絶縁領域13c・13d・13eにおける経糸は絶縁性繊維からなる。
【0056】
なお、上述の絶縁性繊維としては、例えば、ナイロン(登録商標)、レーヨン、ポリエステル、ビニロン(登録商標)、アクリル等の繊維が挙げられる。また、上述の導電性繊維としては、例えば、ナイロン(登録商標)、レーヨン、ポリエステル、ビニロン(登録商標)、アクリル等の繊維に導電性カーボンを添加したものが挙げられる。
【0057】
また、図2において、参照符Aは第一導電領域13aにおける経糸の断面を示し、参照符Bは第二導電領域13bにおける経糸の断面を示し、参照符Cは第一絶縁領域13cにおける経糸を示す。つまり、同図における黒丸は導電性繊維からなる経糸を示し、白丸は絶縁性繊維からなる経糸を示す。
【0058】
以上の構成によれば、編地13における緯糸は、各領域13a・13b・13c・13d・13eを横切ることになるが、編地13における経糸は、各領域13a・13b・13c・13d・13eを横切ることはない。
【0059】
つまり、編地13を構成する導電性繊維からなる各経糸は、第一導電領域13a、第二導電領域13bのいずれかのみを横切り、編地13を構成する絶縁性繊維からなる各経糸は、第一絶縁領域13c、第二絶縁領域13d、第三絶縁領域13eのいずれかのみを横切ることになる。
【0060】
(植毛部14の構成)
つぎに、植毛部14について説明する。植毛部14は、導電性ブラシ10におけるブラシ毛を構成する領域である。この植毛部14は、図1、図2、および図3に示すように、植毛部14は、編地13の表面側(バックコート層15が形成されている側とは反対側)において、第一導電領域13aの一部に立設される複数の導電糸から構成される第一植毛部14aと、第二導電領域13bの一部に立設される複数の導電糸から構成される第二植毛部14bと、第一絶縁領域13cの一部に立設される複数の絶縁糸からなる第三植毛部14cと、から構成されている。つまり、第一植毛部14aと第二植毛部14bとの間には第三植毛部14cが介在する。
【0061】
なお、図2および図3においては、便宜上、第三植毛部14cにおける絶縁糸の描画が省略されているが、この領域においても上述通り複数の絶縁糸が立設されているものとする。
【0062】
また、ここでの導電糸とは上述した導電性繊維からなる糸であり、また、絶縁糸とは、上述した絶縁性繊維からなる糸である。
【0063】
(編地13と植毛部14との関係)
上述したように、第一および第二植毛部14a・14bの導電糸、第三植毛部14cにおける絶縁糸は、編地13の表面側において立設されている。
【0064】
ここで、これら導電糸および絶縁糸が編地13の表面側において立設するように構成される仕組みについて具体的に説明する。
【0065】
第一および第二植毛部14a・14bの導電糸、第三植毛部14cにおける絶縁糸は、編地13における経糸に接触すると共に、緯糸に対してパイル織りされている。ここで、パイル織りとは、従来技術の項にて図6および図7を用いて説明した態様と同様の織り込み手法である。
【0066】
つまり、第一植毛部14aの導電糸の束は、第一導電領域13aの経糸に接触しつつ、第一導電領域13aの緯糸に対して絡まるように編みこまれている。また、同様に、第二植毛部14bの導電糸の束は、第二導電領域13bの経糸に接触しつつ、第二導電領域13bの緯糸に対して絡まるように編み込まれている。さらに、同様に、第三植毛部14cの絶縁糸の束は、第一絶縁領域13cの経糸に接触しつつ、第一絶縁領域13cの緯糸に対して絡まるように編みこまれている。
【0067】
これにより、編地13表面において、第一導電領域13a上に複数の導電糸を立設した第一植毛部14aを形成でき、第二導電領域13b上に複数の導電糸を立設した第二植毛部14bを形成でき、第一絶縁領域13c上に複数の絶縁糸を立設した第三植毛部14cを形成できる。
【0068】
さらに、図1および図3に示すように、編地13の表面において、第一導電領域13aの長辺方向中央部には第一植毛部14aが形成されているものの、第一導電領域13aの長手方向両端部D・Dには第一植毛部14aが形成されておらず、第一導電領域13aが露出されている。
【0069】
また、編地13の表面において、第二導電領域13bの長手方向中央部には第二植毛部14bが形成されているものの、第二導電領域13bの長手方向両端部E・Eには第二植毛部14bが形成されておらず、第二導電領域13bが露出されている。
【0070】
したがって、この端部DおよびEにおいては、編地13の経糸および緯糸が外部へ剥きだされていることとなる。
【0071】
以上示した構成によれば、導電性ブラシ10においては、第一導電領域13aに立設される複数の導電糸からなる第一植毛部14aと、第二導電領域13bに立設される複数の導電性糸束からなる第二植毛部14bとが形成されている。
【0072】
また、第一植毛部14aに立設される各導電糸は、第一導電領域13aにおける導電性繊維からなる経糸に接触しつつ、緯糸に対してパイル織りされ、第二植毛部14bに立設される各導電糸は、第二導電領域13bにおける導電性繊維からなる経糸に接触しつつ、緯糸に対してパイル織りされている。
【0073】
したがって、第一導電領域13aの端部Dにおいて剥きだされている各経糸に対して電気エネルギーを印加すると、この電気エネルギーは第一植毛部14aの各導電糸に与えられることになる。さらに、第二導電領域13bの端部Eにおいて剥きだされている各経糸に対して電気エネルギーを印加すると、この電気エネルギーは第二植毛部14bの各導電糸に与えられることになる。
【0074】
ここで、第一導電領域13aと第二導電領域13bとの間には第一絶縁領域が介在し、第一導電領域13aと第二導電領域13bとは第一絶縁領域13cによって互いに隔てられている。
【0075】
したがって、第一導電領域13aと第二導電領域13bとは互いに電気的に非接続となり、第一導電領域13a上に立設される導電糸と、第二導電領域13b上に立設される導電糸とは互いに導通しあわない状態となる。
【0076】
それゆえ、第一導電領域13aの端部Dにおける経糸と、第二導電領域13bの端部Eにおける経糸とに対して互いに性質の異なる電気エネルギーを印加すれば、第一植毛部14aの導電糸に与えられる電気エネルギーと、第二植毛部14bの導電糸に与えられる電気エネルギーとは互いに異なる性質となる。
【0077】
したがって、単一の導電性ブラシ10であっても、互いに性質が異なる複数の電気エネルギーを保持、放出することが可能となる。
【0078】
なお、上述した性質とは、上記電気エネルギーの示す極性、電位、流入電荷量、放出電荷量等をいう。
【0079】
さらに、上記構成においては、第一導電領域13aに立設される複数の導電糸からなる第一植毛部14aと、第二導電領域13bに立設される複数の導電糸からなる第二植毛部14bとの間には、第一絶縁領域13cに立設される複数の絶縁糸からなる第三植毛部14cが介在することとなる。
【0080】
よって、第一導電領域13aに立設される導電糸と、第二導電領域13bに立設される導電糸とが直接接触してしまう事態を抑制でき、これら導電糸が短絡してしまうという事態を抑制することが可能となる。
【0081】
なお、図3に示すように、導電性ブラシ10の上面(第一および第二植毛部14a・14bの導電糸の毛先側)においても、第一植毛部14aと第二植毛部14bとは、複数の絶縁糸からなる第三植毛部14cを挟んで、互いに離間して構成されている。一方、図8に示すように、従来構成の導電性ブラシ500によれば、導電糸が構成されている植毛部501は単一であり、絶縁性糸からなる植毛部によって導電性糸からなる植毛部を離間させるという構成はとらない。
【0082】
また、本実施形態の構成においては、図1に示すように、台11と編地13との間にはバックコート層15が形成されている。これにより、台11が導電性材料からなるものであっても、編地13と台11とはバックコート層15によって絶縁されているため、第一導電領域13aの経糸に印加された電気エネルギーが台11を介して第二導電領域13bに伝播されることはなく、また、第二導電領域13bの経糸に印加された電気エネルギーが台11を介して第一導電領域13aに伝播されることはない。
【0083】
さらに、上記構成においては、編地13の各々の緯糸は絶縁性繊維からなるため、第一および第二導電領域13a・13bの各経糸に印加された電気エネルギーが、各々の経糸と交差する緯糸に伝導されることはない。
【0084】
それゆえ、編地13の各々の緯糸が各領域13a・13b・13c・13d・13eを横切る構成であっても、第一導電領域13aの経糸に印加された電気エネルギーが緯糸を介して第二導電領域13bまで伝導されることはなく、また、第二導電領域13bの経糸に印加された電気エネルギーが緯糸を介して第一導電領域13aまで伝導されることはない。
【0085】
さらに、上記構成においては、第一導電領域13aの端部Dにおいて、導電性繊維からなる経糸が外部に露出し、第二導電領域13bの端部Eにおいて、導電性繊維からなる経糸が外部に露出している。
【0086】
したがって、この端部D・Eを外部電極と接続する端子とすれば、外部から第一および第二導電領域13a・13bの各経糸に電気エネルギーを印加することが容易となる。
【0087】
さらに、画像形成装置の像担持体の周囲に取り付ける導電性ブラシとして、本実施形態の導電性ブラシ10を用いれば、単一の導電性ブラシで互いに異なる性質の複数の電気エネルギーを保持、または、これらエネルギーを像担持体に放出できる。
【0088】
したがって、従来構成の導電性ブラシを複数そなえることによって互いに異なる性質の複数の電気エネルギーを保持させていた画像形成装置(特許文献2参照)と比べて、備えるべき導電性ブラシの数を抑制することができ、画像形成装置の小型化および省コスト化を図ることができる。
【0089】
また、以上説明した導電性ブラシ10において、第一植毛部14aの導電糸と、第二植毛部14bの導電糸とでは、同一の抵抗値を示すものであってもよいし、植毛部毎に抵抗値の異なる導電糸を使用する形態であってもよい。
【0090】
第一植毛部14aに構成される導電糸の抵抗値と第二植毛部14bに構成される導電糸の抵抗値とが互いに異なれば、第一導電領域13aの経糸と第二導電領域13bの経糸とに対して同一電圧を印加しても、第一植毛部14aの導電糸の電流値と、第二植毛部14bの導電糸の電流値とを異なるものとすることができる。
【0091】
したがって、第一導電領域13aの経糸と、第二導電領域13bの経糸とを同一の電源に接続しても、第一植毛部14aと第二植毛部14bとで互いに性質が異なる電気エネルギーを保持し、また、放出することが可能となる。
【0092】
また、上述した実施形態では、編地13において、第一および第二導電領域13a・13bが形成され、導電性糸からなる第一および第二植毛部14a・14bが形成されている構成であるが、導電領域および導電性糸からなる植毛部は、2つずつに限定されるものではなく、3つずつ以上であってもよい。
【0093】
要は、少なくとも2以上の導電領域と、各導電領域間に設けられると共に各導電領域を隔てる絶縁領域と、各々の導電領域に立設する複数の導電糸からなる植毛部と、が構成されていれば、各導電領域は互いに電気的に非接続の関係となり、導電性ブラシにおいて、互いに性質を異とする複数の電気エネルギーを蓄積し、また放出することが可能となる。
【0094】
さらに、上述した実施形態では、パイル織物12を台11上に取り付けることによって導電性ブラシ10を構成しているが、例えば、図4に示すように、円柱部材50の周面に対して編地13の裏面が密着するように、この円柱部材50にパイル織物12を巻きつければ、ロール状の導電性ブラシを構成することが可能となる。
【0095】
また、本実施形態の導電性ブラシ10は、画像形成装置に用いられる他、各種精密機器における各種部品を静電気力によって清掃するためのクリーナー、また、集積回路用基板表面を清掃するためのクリーナーとして用いることも可能である。
【0096】
さらに、本実施形態の導電性ブラシ10は、台11上にパイル織物12を取り付けて構成したものであるが、パイル織物12を用いなくとも本発明を実現することは可能である。例えば、絶縁性基板上に、導電性金属からなる第一および第二導電領域を互いに離間して形成し、この第一および第二導電領域の間に絶縁樹脂等からなる絶縁領域を形成し、この第一および第二導電領域、絶縁領域からなる層を基材とする。さらに、第一および第二導電領域に立設するように導電糸を複数嵌め込めば、本発明を実現することが可能である。
【0097】
また、本実施形態の構成において、第一および第二植毛部14a・14bは、少なくとも一部が導電糸から構成されていればよく、該植毛部14a・14bは、絶縁糸が混在している構成であってもよいし、導電糸のみからなる構成でもよい。
【0098】
さらに、編地13における第一および第二導電領域13a・13bの各経糸のうち、少なくとも、第一または第二植毛部14a・14bの導電糸と接触している経糸を導電材料から構成していればよく、全ての経糸を導電材料から構成する必要はない。
【0099】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態において開示された各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の導電性ブラシは、画像形成装置における帯電プロセス、除電プロセス、クリーニングプロセスに好適であるが、これに限定されず、各種精密機器におけるクリーニング工程、回路用基板表面のクリーニング工程などに広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の一形態における導電性ブラシを示す斜視図である。
【図2】図1に示す導電性ブラシのGG線断面を示す模式図である。
【図3】図1に示す導電性ブラシの上面を示す模式図である。
【図4】本発明の別の実施の形態におけるロール状の導電性ブラシを示す模式図である。
【図5】従来の導電性ブラシを示す斜視図である。
【図6】図5に示す導電性ブラシのHH線断面を示す断面図である。
【図7】図5に示す導電性ブラシのHH線と直交するラインであって、該導電性ブラシの長手方向に沿ったラインの断面を示す断面図である。
【図8】図6に示す断面を簡略化した模式図である。
【図9】従来の導電性ブラシの毛先側を示した模式図である。
【符号の説明】
【0102】
10 導電性ブラシ
12 パイル織物
13 編地(基材)
13a 第一導電領域
13b 第二導電領域
13c 第一絶縁領域(絶縁領域)
13d 第二絶縁領域
13e 第三絶縁領域
14 植毛部
14a 第一植毛部(複数の導電糸)
14b 第二植毛部(複数の導電糸)
14c 第三植毛部(複数の絶縁糸)
15 バックコート層
D 端部(露出面)
E 端部(露出面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁領域と、上記絶縁領域によって互いに隔てられている第一導電領域および第二導電領域と、を含む基材と、
第一導電領域に立設される複数の導電糸と、
第二導電領域に立設される複数の導電糸と、
を含むことを特徴とする導電性ブラシ。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ブラシであって、
上記基材は、経糸と緯糸とが織り込まれて構成される編地であり、
上記複数の導電糸は、上記編地における各導電領域に対しパイル織りされていることを特徴とする導電性ブラシ。
【請求項3】
請求項2に記載の導電性ブラシであって、
上記第一および第二導電領域は、経糸に沿って上記絶縁領域と仕切られており、
上記編地の緯糸は絶縁材料からなり、
上記絶縁領域における上記経糸は絶縁材料からなり、
上記第一および第二導電領域における上記経糸は導電材料からなることを特徴とする導電性ブラシ。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性ブラシであって、
上記各導電糸は、第一または第二導電領域において、経糸に対して接触し、かつ、緯糸に対して編み込まれていることを特徴とする導電性ブラシ。
【請求項5】
請求項3または4に記載の導電性ブラシであって、
上記第一および第二導電領域には、上記経糸が外部へ露出する露出面が含まれていることを特徴とする導電性ブラシ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の導電性ブラシであって、
上記絶縁領域に立設される複数の絶縁糸を含むことを特徴とする導電性ブラシ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の導電性ブラシであって、
第一導電領域に立設される導電糸と、第二導電領域に立設される導電糸とは、互いに抵抗値を異ならせることを特徴とする導電性ブラシ。
【請求項8】
画像形成装置の像担持体に、導電糸からなるブラシ毛を接触させる導電性ブラシであって、
絶縁領域と、上記絶縁領域によって互いに隔てられている第一導電領域および第二導電領域と、を含む基材と、
第一導電領域に立設される複数の導電糸と、
第二導電領域に立設される複数の導電糸と、
を含むことを特徴とする画像形成装置の導電性ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−204822(P2006−204822A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24566(P2005−24566)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(390026147)東英産業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】