説明

導電性ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法

【課題】ポリアミド樹脂の成形性、耐薬品性、機械物性等と、導電性とを高度にバランスさせた導電性ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを含有する。この導電性ポリアミド樹脂組は、ポリアミドモノマー100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを共存させた状態で、前記ポリアミドモノマーを重合させることにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途、電子電気部品用途には、導電性を有する樹脂組成物が幅広く用いられている。金属と比較して軽量であること、成形性に優れていることの理由からである。しかし、かかる樹脂組成物は、本来不導体の樹脂に導電性の充填材すなわち導電材を混ぜ合わせているため、樹脂本来の成形性や機械物性が犠牲になっているという欠点がある。
【0003】
そこで、導電材に樹脂との親和性を高める表面処理を施したり、樹脂組成物の製造時の混錬条件を強化したりする改良がなされている。例えば、特許文献1に記載されているように潤滑油で導電材としての黒鉛を表面処理したり、特許文献2に記載されているように導電材としての炭素繊維に電解質化合物で表面処理したり、さらには特許文献3に記載されているように導電材としてのカーボン粒子を空気やオゾンを含む雰囲気中で25℃〜600℃で熱処理して表面を酸化させる方法が提案されている。
【0004】
特に特許文献3では、硝酸や過マンガン酸カリウムなどの酸化剤中にカーボン粒子を浸漬させることにより、カーボン粒子の表面を酸化させている。そしてこれら処理されたカーボン粒子をポリマーと溶融混練させて、導電性を有する樹脂組成物を作製している。しかし、このようにして作製された樹脂組成物では、導電材としてのカーボン粒子が表面処理されているため、導電材と樹脂との界面での電気抵抗を高めるおそれがある。さらには、混錬条件を強化すると導電性を発現させているカーボン粒子同士の接点を切る作用もあるため、樹脂組成物としての電気抵抗値を制御することは非常に困難である。特にフィルムや糸においては、ロット内における抵抗値のばらつきの制御が困難であるため、その用途が限られたものとなっている。
【特許文献1】特開昭63−23993号公報
【特許文献2】特開2002−212876号公報
【特許文献3】特開2003−86405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリアミド樹脂の成形性と耐薬品性とを維持しつつ、機械物性等と導電性とを向上させた導電性ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、下記の樹脂組成物であれば、ポリアミド樹脂の成形性と耐薬品性とを維持しつつ、機械物性等と導電性とを向上可能であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
【0007】
(1)ポリアミド樹脂100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを含有することを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物。
【0008】
(2)ポリアミド樹脂がポリアミド6またはポリアミド66であることを特徴とする(1)の導電性ポリアミド樹脂組成物。
(3)カーボン粒子が、天然黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラックの少なくともいずれかであることを特徴とする(1)または(2)の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【0009】
(4)ポリアミドモノマー100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを共存させた状態で、前記ポリアミドモノマーを重合させることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【0010】
(5)ポリアミドモノマーとして、ε−カプロラクタムを用いるか、または、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の混合物を用いることを特徴とする(4)の導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【0011】
(6)カーボン粒子として、天然黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラックの少なくともいずれかを用いることを特徴とする(4)または(5)の導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特殊な処理を施した特定のカーボン粒子を用いることで、ポリアミド樹脂の成形性と耐薬品性とを維持しつつ、機械物性等と導電性とを向上させた導電性ポリアミド樹脂組成物を得ることができる。よって、本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物は、導電性および機械物性と、ポリアミド樹脂が本来有している成形性や耐薬品性とを兼備し、このため安定した導電性を必要とする電子・電機分野、あるいは、静電気防止分野や自動車外装材分野などの広範囲の分野に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを含有するものである。
【0014】
本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法は、ポリアミドモノマー100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを共存させた状態で、前記ポリアミドモノマーを重合させるものである。
【0015】
モノマーは、重縮合してアミド結合を生じることにより、ポリアミド樹脂を形成するものであればよい。一般に、(i)一種の環状モノマーの中にアミド結合が存在し、水等の開始剤で開環させて、ポリアミドポリマーとする場合と、(ii)分子内にアミド基を2個有するモノマーと、同様に分子内にカルボキシル基を2個有するモノマーとを実質的に等モル量配合し、高温下でアミド結合を生じさせてポリアミドポリマーとする場合とがある。
【0016】
例えば、ポリアミド6の場合は、環状モノマーであるε−カプロラクタムと少量の水との混合物を、240℃程度まで温度を上げることにより開環重合する。これによって、ポリアミド6が得られる。この場合、少量の酸を添加することにより、重合度や重合速度をコントロールすることもできる。これ以外には、ω−ラウロラクタムや12−アミノドデカン酸からポリアミド12を得ることができ、これも本発明に用いることができる。
【0017】
ポリアミド66の場合は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とを等モル量混合し、280℃まで温度を上げることにより、重縮合して、ポリアミド66が得られる。モノマーを変えて、ポリアミド46、ポリアミド612や、成分中に芳香族を導入した芳香族ポリアミド等も、本発明に用いることができる。
【0018】
本発明で用いるカーボン粒子は、人造黒鉛でも天然黒鉛でもよく、物質中にグラフェンシートの積層体がある程度発達したものであることが好ましい。本発明によれば、このグラフェンシートの積層体の層間に酸イオンを挿入させることがポイントである。このようなカーボン粒子として、具体的には、天然の鱗状黒鉛や塊状黒鉛、膨張黒鉛、キッシュ黒鉛が例示され、人造黒鉛では、カーボンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ等が例示される。これらを混合して用いることもできる。
【0019】
カーボン粒子の層間へ酸イオンを挿入方させる方法としては、97%硫酸や94%硝酸あるいはその混合物と、カーボン粒子とを、室温で混合撹拌し、純水を洗浄液としてこの洗浄液が中性になるまで洗浄した後、通常、約100℃で24時間以上真空乾燥させる。この場合、使用される酸は、カーボン粒子に対して酸化力のあるものであればよく、硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウム、りん酸、塩酸、酢酸などの無機酸、また有機酸を、単品もしくは混合物として使用することができる。
【0020】
この方法は、前記した特許文献3に記載された表面酸化処理とは異なる。特許文献3では、0.3%過マンガン酸カリウム等の低濃度の酸を用いてカーボン粒子の表面に水酸基やカルボキシル基を導入しているが、本発明では、上述した97%硫酸と94%硝酸との
混合物のような高濃度の酸を用いることで、黒鉛などのカーボン粒子の層間に酸イオンを挿入させている点が異なる。
【0021】
酸イオンの挿入方法として、それ以外に、電解法を用いることもできる。これは、一方の電極に目的のカーボン粒子を付着させて、酸溶媒中で電気を流すことにより、カーボン粒子の層間に酸イオンを挿入させるものである。
【0022】
つまり、本発明は、前述の特許文献1や特許文献3に示されたような、高温下で空気と接触させることにより、カーボン粒子の表面に水酸基やカルボキシル基などの官能基を導入したり、また樹脂との相溶性を向上させるためにカーボン粒子の表面にシランカップリング剤を付着させたりする方法とは異なる。
【0023】
さらには、これら特許文献1〜3に記載のものでは、特定の物性を有する黒鉛もしくは酸処理した黒鉛と、熱可塑性樹脂とを溶融混錬させているが、本発明は、モノマー溶液中に黒鉛を共存させた状態でそのモノマーを重合させる点において異なっている。また、本発明では、カーボン粒子として、その層間に予め酸溶媒で湿式処理されたものを用いている。そのため、樹脂中におけるカーボン粒子の分散性がよく、溶融混練する場合に較べて得られた樹脂組成物の導電性の向上効果が高い。
【0024】
本発明においては、グラフェンシートの層間に酸イオンを挿入されたカーボン粒子を用いるが、このようなカーボン粒子を用いることで、例えばポリアミド樹脂がポリアミド6である場合には、グラフェンシート中に存在する酸イオンが、ε−カプロラクタムの重合開始剤となり、グラフェンシート間でε−カプロラクタムが重合するため、グラフェンシートがへき開して、ポリアミド6中へのカーボン粒子の分散性が向上する。このとき、酸イオンの挿入量が多くなるほど、カーボン粒子の分散性がより進行するので、得られる樹脂組成物の導電性が向上する。逆にその挿入量が少なくなると、得られる樹脂組成物の導電性の向上効果が低下する。
【0025】
カーボン粒子のグラフェンシートの層間に挿入した酸イオン量は、窒素等の不活性ガス流通下で、25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率を測定することにより、知ることができる。本発明で用いることができるのは、この質量減少率が1〜20質量%のカーボン粒子である。質量減少率が1質量%より少ない場合は、酸イオンの挿入量が不足で導電性の向上効果や、曲げ弾性率などの機械物性の向上効果が期待できない。質量減少率が20質量%を超えるカーボン粒子は、上記の方法では得ることができない。
【0026】
樹脂組成物におけるカーボン粒子の含有率は、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.5〜40質量部である。カーボン粒子の含有率が0.5質量部よりも少ない場合は、導電性の向上が期待できない。反対にカーボン粒子の含有率が40質量部を超えると、モノマーの重合が阻害されるため、ポリマーを得ることができない。
【0027】
本発明においては、カーボン粒子の平均粒径には制限がなく、例えばケッチャンブラックなどの数百ナノメートルのものから、天然鱗状黒鉛などの数百マイクロメートルのものを使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を実施例にもとづいて詳しく説明する。
カーボン粒子の酸溶媒での湿式処理は、表1に示した内容でおこなった。その詳細は次のとおりである。なお、以下のC−1〜C−5のカーボン粒子について、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率を測定するときに使用した不活性ガスは、窒素であった。
【0029】
C−1:天然鱗状黒鉛50g(日本黒鉛社製 平均粒径380μm)を、90%硫酸2000ミリリットルと80%硝酸1000ミリリットルとの混合溶媒に投入し、室温で20分間混合撹拌させた。その後、大量の純水を洗浄液としてその内部に投入し、洗浄作業をおこなった。この洗浄作業は、洗浄液のpHが6〜7となるまで繰り返しおこなった。次いで、80℃×24hの熱風乾燥をおこない、その後、80℃×48hの真空乾燥を実施した。これによってカーボン粒子C−1が得られた。このカーボン粒子C−1は、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が3.0質量%であった。
【0030】
C−2:酸溶媒を、97%硫酸2000ミリリットルと94%硝酸1000ミリリットルとの混合溶媒に変更した。それ以外はC−1と同様にして、カーボン粒子C−2を作製した。得られたカーボン粒子C−2の質量減少率は15.0質量%であった。
【0031】
C−3:原料カーボン粒子として、人造のカーボンブラック(東海カーボン社製、品番:#3800)を用いた。それ以外はC−2と同様にして、カーボン粒子C−3を作製した。得られたカーボン粒子C−3の質量減少率は6.1質量%であった。
【0032】
C−4:原料カーボン粒子として、人造のケッチェンブラック(ライオン社製、品番:EC600JD)を用いた。また酸溶媒を90%硝酸に変更した。それ以外はC−2と同様にして、カーボン粒子C−4を作製した。得られたカーボン粒子C−4の質量減少率は4.5質量%であった。
【0033】
C−5:酸溶媒を、10%硫酸2000ミリリットルと25%硝酸1000ミリリットルとの混合溶媒に変更した。それ以外はC−1と同様にして、カーボン粒子C−5を作製した。得られたカーボン粒子C−5の質量減少率は0.5質量%であった。
【0034】
上述のカーボン粒子C−1〜C−5について、表1にまとめて示す。
【0035】
【表1】

【0036】
下記の実施例・比較例における成形性の評価は、以下のようにして行った。すなわち、実施例1〜5、比較例1、4、5においては、東芝機械社製のEC100型成形機を用い、成形温度260℃、金型温度80℃、射出および保圧時間10秒、冷却時間15秒の条件で、ASTM曲げ試験片を10本成形した。そのときに10本全部が金型から正常に離型した場合を成形性良好(○)と評価した。金型から正常に離型した本数が9本以下の場合は、成形性不良(×)と評価した。
【0037】
実施例6、比較例2においては、成形温度を220℃、金型温度を70℃に変えた。それ以外の成形条件は上記の通りとして評価した。
実施例7、比較例3においては、成形温度を240℃、金型温度を100℃に変えた。それ以外の成形条件は上記の通りとして評価した。
【0038】
下記の実施例・比較例における樹脂組成物中のカーボン粒子量の測定は、樹脂組成物を6N塩酸中で還流させてポリマーを除去することにより行った。
実施例1
ε−カプロラクタム(以下、「ε−CL」と略称する)を100質量部、C−1を5質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入し、窒素置換後、液温を260℃まで上昇させ、この温度で2時間保持して、ε−CLを重合させた。そして、内容物をペレット状に払い出した後、100℃の熱水に浸漬させて未反応モノマーの除去を行い、これを乾燥して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物の曲げ弾性率、体積抵抗率を測定した結果と、成形性を評価した結果を表2に示す。
【0039】
なお、曲げ弾性率はASTM D638にもとづき測定し、体積抵抗率はASTM D257にもとづき測定した。
実施例2
ε−CLを100質量部、C−1を30質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入し、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表2に示す。
実施例3
ε−CLを100質量部、C−2を10質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入し、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表2に示す。
実施例4
ε−CLを100質量部、C−3を10質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入し、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表2に示す。
実施例5
ε−CLを100質量部、C−4を5質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入し、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表2に示す。
実施例6
12−アミノドデカン酸を100質量部、C−2を10質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入した。また、実施例1と比べて払い出し後の熱水浸漬を行わなかった。そして、それ以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表2に示す。
実施例7
ヘキサメチレンジアミンを44質量部、アジピン酸を56質量部、C−2を10質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入した。また、実施例1と比べて払い出し後の熱水浸漬を行わなかった。そして、それ以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
比較例1〜3
表3に示されたモノマーをそれぞれオートクレーブに投入し、カーボン粒子は入れずに、それ以外は実施例1と同様にして、それぞれのモノマーを重合させ、比較例1〜3の樹脂組成物を作製した。ただし、比較例2および比較例3では、払い出し後の熱水浸漬を行わなかった。このようにして作製された比較例1〜3の樹脂組成物について、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表3に示す。
比較例4
ε−CLを100質量部、C−5を10質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入し、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、曲げ弾性率と体積抵抗率を測定するとともに成形性を評価した。その結果を表3に示す。
比較例5
ε−CLを100質量部、C−2を50質量部、純水を10質量部準備して、これらをオートクレーブに投入し、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製しようとした。しかし、C−2の配合量が多すぎたため、ε−CLが充分重合せず、ポリマーとはならなかった。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例1〜7の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部を含有したものであったため、所要の曲げ弾性率を示すとともに、体積抵抗率は満足なレベル低下したものであった。成形性も良好であった。すなわち、所要の機械物性と導電性と成形性とを兼備したものであった。
【0044】
これに対し比較例1〜比較例3の樹脂組成物は、カーボン粒子を含まないものであったため、曲げ弾性率と成形性は満足できるものであったが、導電性が不良であった。
比較例4の樹脂組成物は、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が所要レベル未満のカーボン粒子を用いたものであったため、すなわちカーボン粒子のグラフェンシートの層間への酸イオンの挿入が不十分であったため、実施例3と較べて、配合するカーボン粒子は同量であっても、体積抵抗率が大幅に増大し、曲げ弾性率が低下し、成形性は不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを含有することを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂がポリアミド6またはポリアミド66であることを特徴とする請求項1記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
カーボン粒子が、天然黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラックの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミドモノマー100質量部と、酸溶媒で湿式処理され、不活性ガス雰囲気中で25℃から600℃まで昇温させたときの質量減少率が1〜20質量%であるカーボン粒子0.5〜40質量部とを共存させた状態で、前記ポリアミドモノマーを重合させることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
ポリアミドモノマーとして、ε−カプロラクタムを用いるか、または、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の混合物を用いることを特徴とする請求項4記載の導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
カーボン粒子として、天然黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラックの少なくともいずれかを用いることを特徴とする請求項4または5記載の導電性ポリアミド樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−144085(P2008−144085A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335182(P2006−335182)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】