説明

導電性ロープ

【課題】ロープを構成するストランド又はヤーンの一部を合成樹脂製の導電性ストランド又は導電性ヤーンとした導電性ロープにおいて、荷重時にロープが伸長した際に導電性ヤーン又は導電性下ヤーンが盛り上がらず、さらに荷重を外しロープが伸長状態から弛緩した際にも導電性ヤーン又は導電性下ヤーンが浮き上がらない導電性ロープを提供すること。
【解決手段】ロープを構成するヤーンの一部に導電性ヤーンを用いてなる導電性ロープにおいて、前記導電性ヤーンが、合成繊維束と、導電性繊維束を撚り合わせた導電性下ヤーンとを、該導電性下ヤーンの撚り方向と同じ方向に撚り合わせた導電性ヤーンであることを特徴とする、導電性ロープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ロープに関する。さらに詳しくは、本発明は導電性ロープを伸長する際あるいは伸長してから弛緩した際にヤーンの一部が外方へ膨らみ出る現象、所謂浮き上がりが生じない導電性ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維撚りロープは、水産、船舶、土木、建築及び産業資材等の用途に幅広く使用されている。これらの用途にあわせて、種々の要求特性を満たす繊維撚りロープの開発が期待されている。
【0003】
繊維撚りロープの用途の一例として、粉体輸送用フレキシブルコンテナの吊りロープがある。粉体輸送用フレキシブルコンテナにあっては、静電気が発生し、粉体を帯電させると、粉塵爆発が起こる危険性があることから、かかる危険を回避する方法として、粉体輸送用フレキシブルコンテナにアースを取付けて作業する方法が行われている。しかし、この方法ではアースを取付ける手間、そして取付けたアースが邪魔になることによる作業効率の低下という問題がある。そこで、この問題を解消する方法として、フレキシブルコンテナの本体と吊りロープを導電性の材質で構成する方法(特許文献1:特開平9−40079号公報)が提案され利用されている。
【0004】
上記の導電性の材質で構成されるロープとしては、従来繊維撚りロープを構成するヤーン又はストランドの全部又は一部に、導電性繊維束を撚り合せた導電性ヤーン又はストランドを用いたところの導電性ロープが使用されている。
そして、そのロープに使用される導電性繊維束としては、様々なもの、例えばカーボン練りこんだポリオレフィン(参考文献2:特表2005−513280号公報)、アクリル繊維束又はピッチを原料とした炭素繊維束(参考文献3:特開2003−301336号公報、参考文献4:特開平6−240049号公報)、延伸した合成樹脂モノフィラメント等からなる芯層と、導電性物質を含有する樹脂と水分散体を塗布することにより形成された被覆成分からなることを特徴とする導電性合成繊維束(特許文献5:特開2004−76176号公報)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−40079号公報
【特許文献2】特表2005−513280号公報
【特許文献3】特開2003−301336号公報
【特許文献4】特開平6−240049号公報
【特許文献5】特開2004−76176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フレキシブルコンテナの吊りロープは、荷物を吊り上げた際にその荷重により伸長し、そして荷物を地面等に降ろした際に荷重がなくなり伸長状態から加重の加わらない弛緩状態に戻る、という用い方が繰り返されることから、フレキシブルコンテナの吊りロープとして、上述の導電性ロープ、例えば図11(a)、(b)に示すような、伸長しにくいポリエチレン製導電性ヤーン33及び伸長しやすいポリプロピレン製通常ヤーン38を撚って作られた従来の導電性ロープ35を使用した場合には、以下の問題が生じる。
例えば、図12(a)、(b)に示すように、荷重により導電性ロープ35が伸長した
際には、通常ヤーン38は十分に伸長し径が細くなるのに対し、導電性ヤーン43は殆ど伸長せず、通常ヤーン38に押し出されるようにロープの表面から外方へ浮き上がる。その際に、一部の導電性ヤーン53は弾性限度以上に伸長し塑性変形する場合もある。その後、図13(a)、(b)に示すように、荷重がなくなり導電性ロープが伸長状態から弛緩した場合、通常ヤーン38は伸長状態から収縮し元の状態に戻るのに対し、導電性ヤーン53は収縮しにくく、特に塑性変形を起こした部分は収縮せず元に戻れないので、ロープの表面から外方へ浮き上がるという問題を有する。
斯様にロープの表面から外方へ浮き上がった導電性ヤーン(43、53)は、リフトの例えば爪若しくは壁等と擦れて、導電性ロープの損傷及び切断の原因となる。また、浮き上がった導電性ヤーンが他の装置又は部品に引っかかり、事故等が起きる危険性もある。
【0007】
そこで、本発明は、ロープを構成するストランド又はヤーンの一部を導電性ストランド又は導電性ヤーンとした導電性ロープにおいて、導電性ロープを伸長した際、あるいは伸長してから弛緩した際に、導電性ヤーンの一部がロープの表面の外方へ浮き上がることのない導電性ロープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
すなわち第1観点として、本発明はロープを構成するヤーンの一部に導電性ヤーンを用いてなる導電性ロープにおいて、
前記導電性ヤーンが、合成繊維束と、導電性繊維束を撚り合わせた導電性下ヤーンとを、該導電性下ヤーンの撚り方向と同じ方向に撚り合わせた導電性下ヤーンであることを特徴とする、導電性ロープに関する。
第2観点として、本発明はロープを構成するヤーンの一部に導電性ヤーンを用いてなる導電性ロープにおいて、
前記導電性ヤーンが、合成繊維束を撚り合せた通常下ヤーンと、該通常下ヤーンより径の細い、導電性繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンとを撚り合せた導電性ヤーンであることを特徴とする、導電性ロープに関する。
第3観点として、本発明はロープを構成するストランドの一部に導電性ストランドを用いてなる導電性ロープにおいて、
前記導電性ストランドが、合成繊維束を撚り合せた通常ヤーンと、該通常ヤーンより径の細い、導電性繊維束を撚り合せた導電性ヤーンとを撚り合せた導電性ストランドであることを特徴とする、導電性ロープに関する。
第4観点として、本発明は前記導電性下ヤーンの径が合成繊維束の径より細いことを特徴とする、請求項1に記載の導電性ロープに関する。
第5観点として、本発明は前記合成繊維束及び前記導電性繊維束が、同種の合成樹脂素材から製造されていることを特徴とする、第1観点乃至第4観点に記載の導電性ロープに関する。
第6観点として、本発明はフレキシブルコンテナの吊りロープである、第1観点乃至第5観点に記載の導電性ロープに関する。
なお、本発明における繊維束とは、1本以上のモノフィラメント、マルチフィラメント又はステープル等の繊維をほぼ同一方向にひきそろえて束とした繊維の集まりを意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性ロープは、導電性ロープを伸長した際に、又は伸長してから弛緩した際にも、導電性ヤーンの一部が導電性ロープの表面から浮き上がることがないので、その浮き上がりにより導電性ロープが損傷及び切断する可能性が実質なくなる。また、ロープの浮き上がり部分が、他の装置又は部品に引っかかることで生じる事故の発生をなくすこと
ができる。
【0010】
また、本発明の導電性ロープは、ロープの外周に一様に導電性ヤーンの導電性部分が露出する構造となり、かつ、その露出量の調節によりロープの導電性を適宜調整することができる。とりわけ、例えばリフトの爪又は人の掌等の幅より狭い間隔で導電性ヤーンの導電性部分を露出させることにより、吊りロープ(導電性ロープ)はその接触部位に関係なく常にアースをとることができ、安定した帯電防止を図ることができ、よって作業性の向上に寄与する。
【0011】
さらに、本発明の導電性ロープは、その材質より環境に優しく及び耐候性に優れたロープとなり、水産、船舶、土木、建築、産業資材等に、特に粉体、揮発性溶剤又はガス等の静電気による発火のおそれがある材料を扱う工場等の施設、及びそこで用いられる容器等に好適に用いることができる。特にフレキシブルコンテナの吊りロープとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は実施例2の導電性ロープの写真である。
【図2】図2は実施例4の導電性ロープの写真である。
【図3】図3(a)は導電性繊維束をZ方向に撚り合せた導電性下ヤーンと合成繊維束をそれぞれ表す模式図であり、図3(b)は図3(a)の該導電性下ヤーンと合成繊維束とをZ方向に撚り合せた導電性ヤーンの模式図であり、及び図3(c)は図3(b)に示す導電性ヤーンのA−A線における端面図である。
【図4】図4(a)は導電性繊維束をZ方向に撚り合せた導電性下ヤーンと合成繊維束をそれぞれ表す模式図であり、図4(b)は該導電性下ヤーンと合成繊維束とをS方向に撚り合せた導電性ヤーンの模式図であり、及び図4(c)は図4(b)に示す導電性ヤーンのA−A線における端面図である。
【図5】図5(a)は実施例4の導電性ロープの正面図、図5(b)は図5(a)に示す導電性ロープのA−A線における端面図、図5(c)は図5(a)中の(p)部の拡大図、及び図5(d)は図5(b)中の(q)部の拡大図を表す。
【図6】図6(a)は伸長時の実施例4の導電性ロープの正面図、及び図6(b)は図6(a)に示す導電性ロープのB−B線の端面図を表す。
【図7】図7(a)はの伸長状態からの弛緩時の実施例4の導電性ロープの正面図、及び図7(b)は図7(a)に示す導電性ロープのC−C線の端面図を表す。
【図8】図8(a)は実施例6の導電性ロープの正面図、及び図8(b)は図8(a)に示す導電性ロープのA−A線の端面図を表す。
【図9】図9(a)は伸長時の実施例6の導電性ロープの正面図、及び図9(b)は図9(a)に示す導電性ロープのB−B線の端面図を表す。
【図10】図10(a)は伸長状態からの弛緩時の実施例6の導電性ロープの正面図、及び図10(b)は図10(a)に示す導電性ロープのC−C線の端面図を表す。
【図11】図11(a)は従来例の導電性ロープの正面図、及び図11(b)は図11(a)に示す導電性ロープのA−A線の端面図を表す。
【図12】図12(a)は伸長時の従来例の導電性ロープの正面図、及び図12(b)は図12(a)に示す導電性ロープのB−B線の端面図を表す。
【図13】図13(a)は伸長状態からの弛緩時の従来例の導電性ロープの正面図、及び図13(b)は図13(a)に示す導電性ロープのC−C線の端面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
導電性ロープは、一般に、合成繊維束を撚り合せて通常ヤーンを製造し、通常ヤーンを数本束ねて、通常ヤーンの撚り方向と逆の方向に撚り合わせて通常ストランドを製造し、通常ストランドを数本束ねて、通常ストランドの撚り方向と逆方向に撚り合わせて製造さ
れるところの、一般的な繊維撚りロープの製造方法において、その一部を導電性材質に代えることによって製造される。
【0014】
本発明は、導電性ロープの使用における導電性ヤーンが浮き上がるという問題を解決するために、3つの態様の導電性ロープを提案する。
【0015】
第一の導電性ロープは、それを構成する導電性ストランドが通常ヤーンと、それより径の細い導電性ヤーンを撚って作られることを特徴とする。
通常ヤーンと、それより径の細い導電性ヤーンを撚りあわせてなる導電性ストランドにおいては、径の細い導電性ヤーンが導電性ストランドの表面(ここでは、ストランドの外表面の全体に包接する仮想の円筒面を指す。)より内側にストランド中心に向けて内方へ沈み込む。そのため、ロープを伸長した際、つまり通常ヤーンが伸長して径が細くなっても、伸長により径が細くならなくとも、元々径の細い導電性ヤーンは通常ヤーンに押し出されずに導電性ストランドの表面に露出した状態となる。
さらに、導電性ロープを伸長してから弛緩した際にも、導電性ヤーンはストランドの表面か、それより内側にあるため、従来の導電性ロープのように通常ヤーンに押し出されて導電性ストランドの表面から外方へ、つまり導電性ロープの外表面から外方へ浮き上がるということが起きない。
従って、上記導電性ストランドを用いた導電性ロープにおいては、使用時に導電性ヤーンが導電性ロープの表面から外方へ浮き上がることを防止できる。
【0016】
第二の導電性ロープは、それを構成する導電性ヤーンが、通常下ヤーンと、それより径の細い導電性下ヤーンとを撚り合わせてなることを特徴とする。
通常下ヤーンと、それより径の細い導電性下ヤーンとを撚りあわせてなる導電性ヤーンにおいては、径の細い導電性下ヤーンが導電性ヤーンの表面(ここでは、ヤーンの外表面全体に包接する仮想の円筒面を指す。)より内側にヤーン中心に向けて内方へ沈み込む。そのため、前述した第一の導電性ロープの場合と同様の理由によりロープを伸長した際、及び伸長から弛緩した際に導電性下ヤーンが導電性ヤーンの表面から外方へ、つまり導電性ロープの外表面から外方へ浮き上がることを防止できる。
その上、導電性ロープの表面に露出される導電性ヤーンは導電性下ヤーンと通常下ヤーンが撚られているものである(図2及び図5(b)参照)。そのため、導電性ロープを伸長した際に、通常下ヤーンが伸長するとともに撚り合った導電性下ヤーンを締め付けてヤーン中心に向けて押さえ込み、それが導電性ヤーンの表面より外方へ浮き上がることをより効果的に防止することができる。
さらに、導電性ロープを伸長してから弛緩した際にも、通常下ヤーンが撚り合わさった導電性下ヤーンを押さえつけているので、導電性ヤーンが導電性ストランドの表面より外方へ浮き上がろうとするのを、有効に防止することができる。
従って、上記導電性ヤーンを用いた導電性ロープにおいても、使用時に導電性ヤーンが導電性ロープの表面から外方へ浮き上がるのを有効に防止できる。
【0017】
第三の導電性ロープは、それを構成する導電性ヤーンが、合成繊維束と、好ましくは合成繊維束より径の細い、導電性繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンとを、それと同じ方向に撚り合わせてなることを特徴とする。
導電性繊維束を撚り合わせた導電性下ヤーンの表面は山と谷が螺旋状になる(図3(a)、図4(a)参照)。この導電性下ヤーンと合成繊維束とを、導電性下ヤーンと同じ方向に撚り合せた場合、導電性下ヤーンと逆の方向に撚り合せた場合と比較して、その撚り合わせ後の構造の違いからより強く導電性ヤーンの浮きを抑えることが可能となる。
導電性下ヤーンと合成繊維束とを導電性下ヤーンと同じ方向に撚り合せた場合、導電性下ヤーンの表面に形成される谷部に合成繊維束が沿うように撚られた(図3(b)参照)導電性ヤーンが得られる。
さらに、導電性繊維束よりも径が太い合成繊維束を用いると、合成繊維束は導電性繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンの表面の谷部に食い込み、導電性下ヤーンをより強固に締め付ける(図3(c)参照)ことができる。
そのため、上述した方法で製造した導電性ヤーンを用いた導電性ロープは、従来の導電性ロープと異なり、導電性ロープを伸長した際に、導電性下ヤーンの表面の谷部に食い込んだ合成繊維束が導電性下ヤーンの浮き上がりを強く押さえ込む。そして、導電性ロープを伸長してから弛緩した際に、導電性下ヤーンの浮き上がりを、同じ方向に撚り合せた合成繊維束が強く押さえ込む。そのため導電性ヤーンが導電性ロープの表面に浮き上がろうとすることを防止できる。
それに対して、導電性下ヤーンと合成繊維束とを導電性下ヤーンと逆の方向に撚り合せた場合、導電性下ヤーンの表面に形成される山部と合成繊維束が交差するように撚られ(図4(b)参照)、その結果、合成繊維束が山部とだけ点接触する構造(図4(c)参照)の導電性ヤーンとなる。
この逆方向に撚り合わせた導電性ヤーンを用いた導電性ロープは、導電性ロープを伸長した際又は伸長してから弛緩した際に、導電性下ヤーンの浮き上がりを合成繊維束が押さえ込むことができるので、従来の導電性ロープと比較して浮き上がり防止効果が大きい。しかしながら、合成繊維束が導電性下ヤーンの谷部に食い込んだ前述の導電性ヤーンに比べて、合成繊維束が導電性下ヤーンに山部のみで接しているのみなので、通常ヤーンを押さえ込む力は弱くなる。
従って、合成繊維束と導電性下ヤーンとを導電性下ヤーンの撚りと同じ方向に撚り合せた導電性ヤーンを用いた導電性ロープは、導電性ヤーンの浮き上がりをより強く防止することができる。
【0018】
さらに、第二又は第三のロープの導電性下ヤーンとして、合成繊維束と、好ましくは合成繊維束より径の細い、導電性繊維束を撚り合せたものとを、導電性繊維束を撚り合せたものと同じ方向に撚り合せた導電性下ヤーンを用いることで、さらに導電性下ヤーンの浮き上がりをさらに強く防止することができる。
なお、第二の導電性ロープと第三の導電性ロープを比較すると、同じ径の導電性ヤーンを作成する場合、第二の導電性ロープにおいては通常下ヤーンの径は合成繊維束より太いため、導電性ヤーンを構成する通常下ヤーンの本数が少ないものとなり、導電性ヤーンの表面において導電性下ヤーンは広い面積で露出し、(図2参照)、アースが取りやすくなる。それに対して第三のロープは、導電性下ヤーンの表面の谷部に合成繊維束が深く食い込み、導電性下ヤーンの表面を合成繊維束が占める構造となるため(図1参照)、第二の導電性ロープと比較して導電性下ヤーンの露出面積はより小さいものとなる。
【0019】
導電性ヤーン、並びにそれ用いる導電性下ヤーン及び合成繊維束又は合成下ヤーンの径は、用途によって適宜選択される。
また、本発明の導電性ロープに用いる導電性繊維束及び合成繊維束としては、従来のロープに用いられる導電性繊維束及び合成繊維束を使用することができる。
好ましい導電性繊維束としては、環境及び耐候性の観点から、合成繊維束の材料である合成樹脂にカーボンブラックを混練した合成樹脂から得られる導電性を有する合成繊維束、又は炭素繊維束等が挙げられる。
合成樹脂に混練されるカーボンブラックとしては、合成繊維束に破断強度、伸長率及び弾性率等の性質を損なわずに導電性を付与できればよく、例えば市販されているケッチェンEC、ケッチェンブラックEC−600JD(ケッチェンブラック インターナショナル社製)等が挙げられる。
合成繊維束の材料である合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド等のナイロン、ポリビニルアルコール等のビニロン、ポリアクリロニトリル等のアクリル又はポリウレタン等、又はこれらの混合物が挙げられ、引っ張り強度及び伸長率の観点からポリエ
チレン、ポリプロピレン等又はそれらの混合物のポリオレフィンが好ましい。
【0020】
導電性繊維束と合成繊維束に使用する合成樹脂素材は同一でも異なっていても良い。同一の合成樹脂素材を使用した場合、導電性繊維束と合成繊維束の伸長率及び弾性率等の性質が類似するため、導電性ロープの伸長の際又は伸長してから弛緩した際に導電性ヤーン又は下ヤーンが通常ヤーン又は下ヤーンの動きに追従しやすくなり、導電性ヤーン又は下ヤーンが導電性ロープの表面からの浮き上がりがおこりにくくなる。勿論、導電性繊維束と合成繊維束では剛性、破断強度及び耐候性等の性質が異なる合成樹脂素材を使用すること、特にその用途向けに、それら性質の異なる素材を適宜選択して組み合わせることは可能である。
【0021】
また、本発明の導電性ロープを構成する導電性ストランドと通常ストランドの、ストランドを構成する導電性ヤーンと通常ヤーンの、及び導電性繊維束と合成繊維束又は通常下ヤーンの、本数及び撚数は用途によって適宜決められる。
また、導電性繊維束及び合成繊維束の性質を損なわない範囲で合成樹脂に種々の添加物、例えば着色料、耐光剤、紫外線吸収剤及び難燃剤等を添加することができる。
以下図を用いて本発明の実施例を示すが、ここに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
[実施例に使用した繊維束]
合成繊維束:ポリプロピレン製マルチフィラメント(2200dtex)
導電性繊維束:ポリエチレン製導電性モノフィラメント(660dtex)
【0023】
[荷重試験]
実施例1乃至5及び従来例に記載されている導電性ロープを、20kNの荷重をかけて伸長し、続いて荷重を外し伸長から弛緩した。導電性ロープの初期状態、伸長時、及び伸長からの弛緩時の外観及びその切断面より、導電性ヤーン又は導電性下ヤーンの浮き上がりを観察した。
【0024】
実施例1:ポリエチレン製導電性下ヤーンとポリプロピレン製合成繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンを使用した導電性ロープ
導電性繊維束1をZ方向に撚り合せて、導電性下ヤーン2を製造した(図3(a)参照)。合成繊維束6と導電性下ヤーン2とを束ねて、導電性下ヤーン2の撚り方向と同じZ方向に撚り合せて導電性ヤーン3を製造した(図3(b)、(c)参照)。製造した導電性ヤーン3を数本束ねてS方向に撚り合せて導電性ストランド(呼び径8.6mm)を製造した。導電性ストランドを3本束ねてZ方向に撚り合わせ導電性下ヤーン2を含む導電性ロープ5(呼び径18.0mm)を製造した。
製造した導電性ロープ5の表面には、導電性下ヤーン2はほとんど露出していなかった。
導電性ロープ5を荷重により伸長した際に、及び荷重を外して伸長から弛緩した際にも、導電性下ヤーン2の導電性ロープ5の表面からの浮き上がりは観察されなかった。
【0025】
実施例2:ポリエチレン製導電性繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンとポリプロピレン製合成繊維束を撚り合せた導電性ヤーンを使用したロープ
合成繊維束2本を撚り合わせて通常下ヤーン(4400dtex)を製造し、通常下ヤーン5本をより合わせて通常ヤーン(22000dtex)を製造した。導電性繊維束6本をZ方向に撚り合せて導電性下ヤーン(3960dtex)を製造した。導電性下ヤーン3本と合成繊維束2本を撚り合わせて導電性ヤーン(16280dtex)を製造した。製造した導電性ヤーン4本と通常ヤーン12本をS方向により合せ導電性ストランド(呼び径8.6mm)を製造した。導電性ストランド3本をZ方向に撚り合わせ導電性下ヤ
ーンを含む導電性ロープ(呼び径18.0mm)を製造した。
製造した導電性ロープ5の表面には、図1に示すように、導電性下ヤーン2はほとんど露出していなかった。
導電性ロープ3を荷重により伸長した際に、及び荷重を外して伸長から弛緩した際にも、導電性下ヤーン2の導電性ロープ3の表面からの浮き上がりは観察されなかった。
【0026】
実施例3:ポリエチレン製導電性下ヤーンとポリプロピレン製通常下ヤーンを撚り合せた導電性ヤーンを使用した導電性ロープ
合成繊維束をZ方向に撚り合わせて通常下ヤーン17を製造した。導電性繊維束をZ方向に撚り合せて、導電性下ヤーン12を製造した。通常下ヤーン17と導電性下ヤーン12とを束ねて、導電性下ヤーン12の撚り方向と同じZ方向に撚り合せて導電性ヤーン13を製造した。製造した導電性ヤーン13を数本束ねてS方向に撚り合せて導電性ストランド14(呼び径8.6mm)を製造した。導電性ストランド14を3本Z方向に撚り合わせ導電性下ヤーン12を含む導電性ロープ15(呼び径18.0mm)を製造した。
製造した導電性ロープ15の表面に露出した導電性下ヤーン12には、図5(c)に示すように、通常下ヤーン17が巻きついていた。さらに図5(d)に示すように、導電性ロープ15の表面からヤーン中心に向けて内方へ導電性下ヤーン12が沈みこんでいた。
導電性ロープ15を荷重により伸長した際、図6(a)、(b)に示すように、電性下ヤーン12の導電性ロープ15の表面への浮き上がりは観察されなかった。続いて、荷重を外して導電性ロープ15を伸長から弛緩した際にも、図7(a)、(b)に示すように、導電性ロープ15は元に戻り、導電性ヤーン13の導電性ロープ15の表面からの浮き上がりは観察されなかった。
【0027】
実施例4:ポリエチレン製導電性下ヤーンとポリプロピレン製通常下ヤーンを撚り合せた導電性ヤーンと、ポリプロピレン製通常ヤーンとを撚り合せた導電性ストランドを使用した導電性ロープ
合成繊維束2本を撚り合わせて通常下ヤーン(4400dtex)を製造し、通常下ヤーン5本を撚り合せて通常ヤーン(22000dtex)を製造した。導電性繊維束6本をZ方向に撚り合せて、通常下ヤーンより径の細い導電性下ヤーン(3960dtex)を製造した。通常下ヤーン2本と導電性下ヤーン3本を、導電性下ヤーンの撚り方向と同じZ方向に撚り合せて導電性ヤーン(20680dtex)を製造した。製造した導電性ヤーン4本と通常ヤーン12本をS方向により合せ導電性ストランド(呼び径8.6mm)を製造した。導電性ストランド3本をZ方向に撚り合わせ導電性下ヤーンを含む導電性ロープ(呼び径18.0mm)を製造した。
製造した導電性ロープ5の表面に露出した導電性下ヤーン2には、図2に示すように、通常下ヤーン7が巻きつき、導電性ロープ5の表面からヤーン中心に向けて内方へ導電性下ヤーン2が沈みこんでいた。
導電性ロープを荷重により伸長した際に、及び荷重を外して伸長から弛緩した際にも、導電性下ヤーンの導電性ロープの表面からの浮き上がりは観察されなかった。
【0028】
実施例5:ポリエチレン製導電性繊維束を撚り合せ、さらにプロピレン製合成繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンとポリプロピレン製合成繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンを使用した導電性ロープ
合成繊維束2本を撚り合わせて通常下ヤーン(4400dtex)を製造し、通常下ヤーン5本をより合わせて通常ヤーン(22000dtex)を製造した。導電性繊維束3本をZ方向に撚り合せた後、さらに合成繊維束1本を添えてZ方向に撚り合せて導電性下ヤーン(4180dtex)を製造した。導電性下ヤーン1本と通常下ヤーン4本をより合わせて導電性ヤーン(21780dtex)を製造した。製造した導電性ヤーン4本と通常ヤーン12本をS方向により合せ導電性ストランド(呼び径8.6mm)を製造した。導電性ストランド3本をZ方向に撚り合わせ導電性下ヤーンを含む導電性ロープ(呼び
径18.0mm)を製造した。
製造した導電性ロープの表面には、導電性下ヤーンはほとんど露出していなかった。
導電性ロープを荷重により伸長した際に、及び荷重を外して伸長から弛緩した際にも、導電性下ヤーンの導電性ロープの表面からの浮き上がりは観察されなかった。
【0029】
実施例6:ポリエチレン製導電性ヤーンとポリプロピレン製通常ヤーンを撚り合せた導電性ストランドを使用した導電性ロープ
合成繊維束をZ方向に撚り合せて通常ヤーン28を製造した。次に、導電性繊維束をZ方向に撚り合せて、通常ヤーン28より径の細い導電性ヤーン23を製造した。製造した通常ヤーン28と導電性ヤーン23とを数本束ねてS方向に撚り合せて導電性ストランド24(呼び径8.6mm)を製造した。導電性ストランド24を3本Z方向に撚り合わせ、導電性ヤーン23を含む導電性ロープ25(呼び径18.0mm)を製造した。
製造した導電性ロープ25の表面において、図8(a)、(b)に示したように、導電性ヤーン23が導電性ストランド24の表面からストランド中心に向けて内方へ沈みこんでいることが観察された。
導電性ロープ25を荷重により伸長した際、図9(a)、(b)に示すように導電性ヤーン23は導電性ロープ25の表面と並んでいることが観察された。続いて、荷重を外して伸長から弛緩した際にも、図10(a)、(b)に示すように、導電性ヤーン23が導電性ロープ25表面から浮き上がらずに、ストランド中心に向けて内方へ沈み、元のロープに戻ることが観察された。
【0030】
比較例:ポリエチレン製導電性ヤーンとポリプロピレン製通常ヤーンを使用した導電性ロープ
導電性繊維束をZ方向に撚り合せて導電性ヤーン33を製造した。製造した導電性ヤーン33と同じ径のZ撚りしたポリプロピレン製繊維束をZ方向に撚り合せた通常ヤーン38とを、数本束ねてS方向に撚り合わせて導電性ストランド34を製造した。導電性ストランド34を3本Z方向に撚り合わせて、導電性ヤーン33を含む導電性ロープ35を製造した。
製造した導電性ロープ35の表面においては、図11(a)、(b)に示すように、導電性ヤーン33と通常ヤーン38が導電性ストランド34の表面と同じ高にあることが観察された。
導電性ロープ35を荷重により伸長した際、図12(a)、(b)に示すように、導電性ロープ35表面から浮き上がった導電性ヤーン43が観察された。続いて、荷重を外して導電性ロープ35を伸長から弛緩した際には、図13(a)、(b)に示すように、導電性ストランド34の表面まで戻れず、浮き上がった導電性ヤーン53が観察された。
【0031】
以上のことから、本発明の導電性ロープを伸長した際にも、伸長してから弛緩した際にも、導電性ロープの表面に導電性ヤーン又は導電性下ヤーンが浮き上がることのないため長期間使用しても、導電性ヤーン又は導電性下ヤーンが損傷しにくく導電性を保持できる。しかし、従来の技術で製造した導電性ロープを伸長した際及び伸長してから弛緩した際に導電性ヤーンが浮き上がるため、引っかかり及び擦れ等により損傷及び破損するおそれが高く、長期間使用した場合導電性を保持できない可能性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の導電性ロープは、伸長した際及び伸長してから弛緩した際にも導電性ヤーンが導電性ロープ(ストランド)表面から浮き上がらないものであるため、使用時に導電性繊維束の引っかかり及び擦れ等により損傷及び切断するおそれが少なく、導電性を保持して長期間使用できる導電性ロープとなる。また、その導電性ロープの浮き上がりを抑え込む力及び導電性ヤーンの露出面積を調節することができるため、用途に合せて夫々の水産、船舶、土木、建築、産業資材等に、特に粉体、揮発性溶剤又はガス等の静電気による発火
のおそれがある材料を扱う工場等の施設、及びそこで用いられる容器等に好適に用いることができる。本発明の導電性ロープは、特にフレキシブルコンテナの吊りロープとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 導電性繊維束
2、12、22 導電性下ヤーン
3、13、23、33 導電性ヤーン
14、24、34 導電性ストランド
5、15、25、35 導電性ロープ
6 合成繊維束
7、17 通常下ヤーン
28、38 通常下ヤーン
43 ロープの伸長時に盛り上がった導電性ヤーン
53 ロープの伸長状態からの弛緩時に浮き上がった導電性ヤーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープを構成するヤーンの一部に導電性ヤーンを用いてなる導電性ロープにおいて、
前記導電性ヤーンが、合成繊維束と、導電性繊維束を撚り合わせた導電性下ヤーンとを、該導電性下ヤーンの撚り方向と同じ方向に撚り合わせた導電性ヤーンであることを特徴とする、導電性ロープ。
【請求項2】
ロープを構成するヤーンの一部に導電性ヤーンを用いてなる導電性ロープにおいて、
前記導電性ヤーンが、合成繊維束を撚り合せた通常下ヤーンと、該通常下ヤーンより径の細い、導電性繊維束を撚り合せた導電性下ヤーンとを撚り合せた導電性ヤーンであることを特徴とする、導電性ロープ。
【請求項3】
ロープを構成するストランドの一部に導電性ストランドを用いてなる導電性ロープにおいて、
前記導電性ストランドが、合成繊維束を撚り合せた通常ヤーンと、該通常ヤーンより径の細い、導電性繊維束を撚り合せた導電性ヤーンとを撚り合せた導電性ストランドであることを特徴とする、導電性ロープ。
【請求項4】
前記導電性下ヤーンの径が合成繊維束の径より細いことを特徴とする、請求項1に記載の導電性ロープ。
【請求項5】
前記合成繊維束及び前記導電性繊維束が、同種の合成樹脂素材からなることを特徴とする、請求項1乃至請求項5に記載の導電性ロープ。
【請求項6】
フレキシブルコンテナの吊りロープである、請求項1乃至請求項5に記載の導電性ロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−157648(P2011−157648A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18897(P2010−18897)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(398046105)カネヤ製綱株式会社 (1)
【Fターム(参考)】