説明

導電性微粒子およびその製造方法、可視光透過型粒子分散導電体

【課題】導電性の高いタングステン酸化物または/および複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式WyOz(但し、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物、または/及び、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物を、含んでなる導電性微粒子、並びにそれを用いた可視光透過型粒子分散導電体で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性粒子に関し、当該導電性粒子を用いた可視光透過型粒子分散導電体、および当該導電性粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや太陽電池に不可欠の部材である透明導電膜は、真空技術を用いて製造されている。これに対し、当該真空技術を用いずに、導電性微粒子や溶液を用いて透明導電膜を形成する方法が、様々に開発され、提案されている。
【0003】
特許文献1には、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony−doped Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO、SnO、CaWOから選ばれた透明導電膜形成用金属酸化物微粒子の分散液を被処理基板上に塗布し、大気中で150〜200℃で焼結して多孔質透明導電膜を形成した後、酸素またはオゾンを含むガスとハロゲン化インジウムガスまたは有機インジウムガスとの混合ガス雰囲気中において、100℃〜250℃で加熱成膜する低抵抗透明導電膜の製造法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、インジウム化合物およびスズ化合物を含有し、かつ、アルカリ金属の含有量が2質量ppm以下であることを特徴とする透明導電膜形成液、および、当該透明導電膜形成液を用いた透明導電膜付基体の製法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、平均1次粒子径10〜60nmのITO微粒子が、平均2次粒子径120〜200nmの2次粒子を形成し、当該2次粒子が分散している透明導電膜形成用インク組成物と、当該透明導電膜形成用インク組成物を用いて成膜された透明導電膜とが提案されている。
【0006】
また、最近では、ITOやATO、IZOのほかに、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物を含んでなる導電性粒子も検討されている。
【0007】
特許文献4には、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩とを原料とし、当該原料の混合水溶液を約300〜700℃に加熱して乾固物を得、当該乾固物に対して不活性ガス(添加量;約50vol%以上)を添加した水素ガス、または、水蒸気(添加量;約15vol%以下)を添加した水素ガスを供給することによる、一般式MxWO(但し、M;アルカリIa族、IIa族、希土類などの金属元素、0<x<1)で表される種々のタングステンブロンズの調製方法が提案されている。
【0008】
特許文献5には、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物を含んでなる導電性粒子の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−249125号公報
【特許文献2】特開2004−026554号公報
【特許文献3】特開2001−279137号公報
【特許文献4】特開平8−73223号公報
【特許文献5】特開2006−156121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、以上の諸提案にはそれぞれ透明導電膜としての欠点、または、実用化を阻む問題点がある。
特許文献1記載の透明導電膜は、材料コストの高いインジウムを含む。他方、インジウムを含まない場合は、得られた導電膜の抵抗値が高いといった問題がある。
特許文献2、3に記載の導電膜は、いずれもインジウムを含むために材料コストが高い。
また、特許文献4に記載のタングステンブロンズは、燃料電池などの電極触媒やエレクトロクロミック材料へ利用される固体材料として考えられており、透明導電性に関する考察はされていない。
さらに、特許文献5に記載のタングステン酸化物または/および複合タングステン酸化物よりもさらなる低抵抗化も要求されている。
【0011】
本発明は、上述の状況のもとで成されたものであり、導電性の高いタングステン酸化物または/および複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子とその製造方法、当該タングステン酸化物または/および複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
三酸化タングステンはワイドバンドギャップ酸化物であり、可視光領域の光の吸収がほとんど無く、しかもその構造中に自由電子(伝導電子)が存在しないので、導電性を示さない。ところが、三酸化タングステンから少量の酸素が減少したものや、三酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、自由電子が生成されて導電性が発現することが知られている。この三酸化タングステンから少量の酸素が減少したものや、三酸化タングステンに陽性元素を添加したタングステンブロンズは、可視光領域で光の吸収が生じると認識されているため、粒子分散型の透明導電性材料として応用されていない。
【0013】
本発明者らは、上述の三酸化タングステンから少量の酸素が減少したものや、三酸化タングステンに陽性元素を添加したタングステンブロンズは、波長800nm程度以上の光の吸収が強いが、波長380nm〜780nm程度の人が感知する波長領域(可視光領域)での光の吸収は、前者(波長800nm程度以上の光)の場合と比較して弱いため、可視光透過型透明導電体膜の形成が可能であることに注目した。
【0014】
そして本発明者らは、三酸化タングステンがワイドバンドギャップであることから、三酸化タングステンの骨格構造を利用し、この三酸化タングステンの酸素量を減少させ、あるいは陽イオンを添加することで、伝導電子(自由電子)を生成させ、さらに、このタングステン酸化物粒子、複合タングステン酸化物微粒子を、窒素原子を有する還元性ガスの流通雰囲気下でアニールすることで、可視光領域の光を透過させながら高い導電性を有する粒子を作製し、これを用いて可視光透過型粒子分散導電体を得るに至った。
【0015】
すなわち、本発明の第1の発明は、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、O2−サイトのO2−がN3−で置換されたサイトを有するタングステン酸化物、
または/及び、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、
Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、O2−サイトのO2−がN3−で置換されたサイトを有する複合タングステン酸化物を、含んでなることを特徴とする導電性微粒子である。
【0016】
本発明の第2の発明は、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、X線光電子分光分析において396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有するタングステン酸化物、
または/及び、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、X線光電子分光分析において396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有する複合タングステン酸化物を、含んでなることを特徴とする導電性微粒子である。
【0017】
本発明の第3の発明は、
上記MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の導電性粒子の結晶構造がアモルファス構造、または、立方晶、正方晶もしくは六方晶タングステンブロンズ構造を含むことを特徴とする第1または第2の発明に記載の導電性微粒子である。
【0018】
本発明の第4の発明は、
上記MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の導電性粒子において、添加元素MがCs、Rb、K、Tl、Ba、In、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちのいずれか1種類以上であることを特徴とする第3の発明に記載の導電性微粒子である。
【0019】
本発明の第5の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載の、粒子径1nm以上の導電性微粒子を含むことを特徴とする可視光透過型粒子分散導電体である。
【0020】
本発明の第6の発明は、
上記可視光透過型粒子分散導電体が膜状であることを特徴とする第5の発明に記載の可視光透過型粒子分散導電体である。
【0021】
本発明の第7の発明は、
上記可視光透過型粒子分散導電体がバインダーを含むことを特徴とする第5または第6の発明に記載の可視光透過型粒子分散導電体である。
【0022】
本発明の第8の発明は、
上記バインダーが、透明樹脂または透明誘電体であることを特徴とする第7の発明に記載の可視光透過型粒子分散導電体である。
【0023】
本発明の第9の発明は、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、X線光電子分光分析において396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有するタングステン酸化物、
または/及び、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子の製造方法であって、
当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物を、還元性ガスまたは/及び不活性ガス雰囲気中で熱処理し、さらに、分子中に窒素原子を有する還元性ガスまたは当該還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスのいずれかの雰囲気下にて300℃以上、900℃以下のアニール処理を行うことを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法である。
【0024】
本発明の第10の発明は、
上記熱処理は、導電性微粒子の原料となるタングステン化合物を、還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで必要に応じて、不活性ガス雰囲気中にて550℃以上1200℃以下の温度で熱処理すること特徴とする第9の発明に記載の導電性微粒子の製造方法である。
【0025】
本発明の第11の発明は、
上記導電性微粒子の原料となるタングステン化合物が、3酸化タングステン、2酸化タングステン、タングステン酸化物の水和物、6塩化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿を生成させ当該沈殿を乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物、金属タングステン、から選択されるいずれか1種類以上であることを特徴とする第9または第10の発明に記載の導電性微粒子の製造方法である。
【0026】
本発明の第12の発明は、
第11の発明に記載の導電性微粒子の原料となるタングステン化合物と、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、添加元素MがCs、Rb、K、Tl、Ba、In、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種類以上の元素)を含有する単体または化合物とを混合した粉末、または、上記タングステン化合物の溶液または分散液と上記M元素を含有する化合物の溶液または分散液とを混合したのち乾燥して得られた粉末、から選ばれる1種以上を、当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物として用いることを特徴とする第9から第11の発明のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、従来の複合タングステン酸化物より高い導電性を発揮する。そして、本発明に係る可視光透過型粒子分散導電体は、従来の複合タングステン酸化物を含んでなる可視光透過型粒子分散導電体と同等の光の透過性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1a】タングステン酸化物の結晶構造を示す概略図であり、W1849の結晶構造((010)投影)である。
【図1b】タングステン酸化物の結晶構造を示す概略図であり、立方晶タングステンブロンズの結晶構造((010)投影))である。
【図1c】タングステン酸化物の結晶構造を示す概略図であり、正方晶タングステンブロンズの結晶構造((001)投影)である。
【図1d】タングステン酸化物の結晶構造を示す概略図であり、六方晶タングステンブロンズの結晶構造((001)投影))である。
【図2】実施例1で得られた導電性粒子である六方晶タングステンブロンズCs0.33WOの六角柱状結晶のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
本発明に係る導電性微粒子は、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、O2−がN3−で置換されたサイトを有する複合タングステン酸化物を含んでなることを特徴とする導電性微粒子である。
そして、上述の特徴を有する本発明に係る導電性微粒子は、X線光電子分光分析(XPS)において、396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有することを特徴とする。
また、上記導電性微粒子は、針状結晶を含む、または、全てが針状結晶であるとき、当該針状結晶における長軸と短軸との比(長軸/短軸)が5以上であり、長軸の長さは5nm以上、10000μm以下である。また、上記導電性微粒子が、板状結晶を含む、または、全てが板状結晶であるとき、当該板状結晶の厚さは1nm以上、100μ以下であり、当該板状結晶における板状面の対角長の最大値が5nm以上、500μm以下であり、且つ、当該対角長の最大値と当該板状結晶の厚さとの比(対角長の最大値/厚さ)が5以上であるものである。
【0030】
なお、本発明の技術的思想は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、O2−がN3−で置換されたサイトを有するタングステン酸化物、同じく、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、X線光電子分光分析において、396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有するタングステン酸化物を含む導電性微粒子も、同様に包含している。
以下、可視光透過型粒子分散導電体およびそれに用いられる導電性微粒子について詳細に説明する。
【0031】
1.導電性微粒子
一般に、三酸化タングステン(WO)は可視光透過性に優れるが、有効な伝導電子(自由電子)が存在しないため、導電性材料としては有効ではない。ここで、WOのタングステンに対する酸素の比率を3より低減することによって、WO中に自由電子が生成されることが知られているが、本発明者は、該タングステンと酸素との組成範囲の特定部分において、導電性材料として特異的に有効な範囲があることを見出した。
【0032】
上記タングステン酸化物において、該タングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3未満であり、更には、当該導電性粒子をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999であることが好ましい。このz/yの値が、2.2以上であれば、当該導電性材料中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来るとともに、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な導電性材料として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量
の自由電子が生成され導電材料となる。
【0033】
また、上記複合タングステン酸化物において、当該三酸化タングステン(WO)へ、元素M(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちのうちから選択される1種類以上の元素)を添加することで、当該WO中に伝導電子(自由電子)が生成され、導電材料として有効となる。
【0034】
即ち、この導電材料は、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物であることが必要である。更に、安定性の観点からは、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。
【0035】
更に、光学特性、耐候性を向上させる観点からは、前記M元素は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが、更に好ましい。
【0036】
酸素量、及びM元素の添加量については、MxWyOz(但し、M元素は、前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と記載したとき、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0の関係を満たす材料が望ましい。M元素の添加量が多いほど、伝導電子の供給量が増加する傾向がある。そして、z/y=3のとき当該添加元素Mの最適添加量となる。これは、上述のようにMxWyOzが、いわゆるタングステンブロンズの結晶構造をとることによる。例えば、タングステン1モルに対してM元素の添加量は、化学量論的には、六方晶タングステンブロンズの結晶構造の場合に0.33モル程度迄が好ましく、正方晶タングステンブロンズの結晶構造の場合に0.5モル程度迄が好ましく、立法晶タングステンブロンズの結晶構造の場合に1モル程度迄が好ましい。但し、上記の結晶構造が種々の形態をとり得るので、添加元素Mの添加量は、必ずしも上述の添加量に限定される訳ではない。
【0037】
次に、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物において、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。このz/yの値は、前述のタングステン酸化物WyOzと同様の範囲(2.2≦z/y≦2.999)で伝導電子(自由電子)が発現されることに加え、z/y=3.0においても、上述したM元素の添加量による伝導電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、更に好ましくは2.72≦z/y≦3.0である。
【0038】
本発明に係るタングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子へ、分子中に窒素原子を有する還元性ガス雰囲気下におけるアニール処理を行うことで当該微粒子の導電性がさらに向上する。
これは、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子において、O2−サイトのO2−がN3−へ置換されたサイトが生成し、当該微粒子において電荷バラ
ンス保持の為、アニオン欠陥が増加することによって導電性が向上するのだと考えられる。
【0039】
この現象を、還元性ガスとしてNHガスを用いた場合で説明する。
まず、当該NHガスを用いたアニール処理を行わなかったタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子をX線光電子分光分析(XPS)で測定しても、N1sにピークが観察されなかった。
一方、当該NHガスを用いたアニール処理を行ったタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子では、N1sにピークが確認された。確認されたN1sピークは、微粒子表面に吸着した窒素の電子状態のピーク(401.3eVのN−Hボンドに対応するピーク)と、粉内部に固溶した窒素の電子状態のピーク(396.4eVのW−Nボンドに対応するピーク)であった。ここで、当該NHガスを用いたアニール処理後の微粒子にArスパッタリングを実施すると、微粒子表面に吸着した窒素のピークのみが消失した。
タングステン酸化物および複合タングステン酸化物では、W6+イオンは6個のO2−イオンで囲まれたWO八面体構造を基本としている。ここで、XPS測定において396.4eVのW−Nボンドを有することが確認できたことは、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子のO2−サイトのO2−がN3−に置換されたサイトが、生成し存在することを意味する。
以上の測定結果から、窒素は、NHガスを用いたアニール処理により、確実にタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の結晶内部に侵入しており、当該窒素の侵入は、欠損酸素位置の置換により行われていると考えられる。
【0040】
アニール処理を行ったタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子は、Arスパッタリングを実施しても396.4eVのピークを有することから、アニール処理によりタングステン原子に結合した窒素原子を有する、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子である。そして、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子のO2−サイトのO2−がN3−に置換されたサイトが生成したことにより、当該微粒子において電荷バランス保持の為、アニオン欠陥が増加することによって導電性が向上するのだと考えられる。
上述したO2−サイトのO2−のN3−への置換は、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を、分子中に窒素原子を有する還元性ガス雰囲気下にてアニール処理を行うこと達成される。
【0041】
また、本実施形態の導電性微粒子は1nm以上の粒子の大きさであることが好ましい。この導電性粒子は、波長1000nm付近で光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。また、当該粒子の大きさは、その使用目的によって各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合には、800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、粒子径が800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に、可視光領域の透明性を重視する場合には、更に粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0042】
この粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。その理由は粒子径が200nm以下の場合には、幾何学散乱もしくはミー散乱によって、400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が大きくなり、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなることを回避できる。膜に鮮明な透明性を得るためには、光の散乱をできるだけ抑える必要があり、その有力な方法は粒子径を減少させることである。即ち、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱が低減し、ミー散乱もしくはレイリー散乱のモードが強くなる。レイリー散乱
領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。更に粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。また、粒子径が1nm以上あれば工業的な製造や取り扱いが容易である。
【0043】
また、当該導電性微粒子の導電性を向上させる観点からは、本発明に用いられる導電性粒子の形状は針状または板状であることが好ましい。これは、導電体の導電性を低下させる原因が粒子同士の接触抵抗値にあることから、導電性微粒子の形状が針状や板状の粒子分散体であれば粒子同士の接触点数を削減することができ、より高い導電性を有する導電体を得やすくなることによる。
従って、本発明に用いられる導電性微粒子は、針状結晶を含む、または、全てが板状結晶のとき、当該板状結晶粒子の厚さが1nm以上、100μm以下であり、板状面における対角線の長さの最大値が5nm以上、500μm以下であり、板状面における対角線の最大値と当該板状結晶の厚さとの比が5以上であるものである。
【0044】
以上のようにして得られた、本発明に用いられる導電性微粒子を9.8MPa圧力下で測定した圧粉抵抗値は、0.1Ω・cm以下であった。当該圧粉抵抗値が1.0Ω・cm以下であれば有効な導電体膜が得られ、応用範囲が拡大されるので好ましい。
【0045】
MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物が、アモルファス構造、または、立方晶もしくは正方晶もしくは六方晶のタングステンブロンズ構造を含むことが好ましい。
【0046】
この複合タングステン酸化物では、図1b〜dに示すように、8面体構造が頂点を共有して出来た空隙にM元素が位置する。これらM元素の添加により伝導電子が生じると考えられる。複合タングステン酸化物の構造は、立方晶、正方晶、六方晶が代表的であり、それぞれの構造例を図1b、c、dに示す。これらの複合タングステン酸化物には、構造に由来した添加元素量の上限があり、1モルのWに対する添加M元素の最大添加量は、立方晶の場合が1モルであり、正方晶の場合が0.5モル程度(添加元素により変化するが、工業的に作製が容易なのは0.5モル程度である)であり、六方晶の場合が0.33モルである。ただし、これらの構造は単純に規定することが困難であり、上記添加元素Mの最大添加量の範囲は、特に基本的な好ましい範囲を示した例であり、この発明がこれに限定されるわけではない。また、結晶構造においても材料の複合化により多種の構造を採り得るものであり、上述した構造も代表例であり、これに限定されるものではない。
【0047】
複合タングステン酸化物においては、上記構造によって光学特性が変化する。特に、伝導電子由来の近赤外線領域の光吸収領域は、六方晶が最も長波長側になる傾向があり、また可視光領域の吸収も少ない。次は正方晶であり、立方晶は伝導電子由来の光吸収がより短波長側になる傾向があり、可視光領域の吸収も多くなる。よって、より可視光を透過する透明導電膜には上述の理由から、六方晶の構造をもつ複合タングステン酸化物が好ましい。
【0048】
一般的に、複合タングステン酸化物においてイオン半径の大きなM元素を添加したとき六方晶を形成することが知られており、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、Ba、In、Li、Ca、Sr、Fe、Snの各元素を添加したとき、六方晶を形成しやすく好ましい。但し、これらの元素以外でもWO単位で形成される、例えば図1dに示すような六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。また、これらの六方晶の構造をもつ複合タングステン酸化物は均一な結晶構造でも良く、不規則でも構わない。
ここで、当該三酸化タングステン(WO)に対し、上述した酸素量の制御と、伝導電子を生成するM元素の添加とを併用しても良い。また、上記透明導電膜を近赤外線遮蔽膜として利用する場合は、適時目的に合った材料、例えばM元素を選定すればよい。
【0049】
六方晶構造を有する複合タングステン酸化物の導電性微粒子が均一な結晶構造を形成したとき、添加元素Mの添加量は、0.1以上0.4以下が好ましく、更に好ましくは0.33が好ましい。これは結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい導電特性が得られるからである。
複合タングステン酸化物(いわゆるタングステンブロンズ)の導電性微粒子の結晶構造は、立方晶や正方晶も知られている(図1b、c)。これらの粒子も、添加元素Mを添加しないタングステン酸化物と比較すると、可視光領域の透過領域が広く、より可視光領域を透過させる目的では有用である。例えば、Na等を添加すると、立方晶の結晶構造を形成し、BaやK等を添加すると正方晶の結晶構造が得られやすい。
【0050】
本実施形態の導電性微粒子の形状は、粒状、針状、もしくは、板状のいずれか1種以上である。この導電性微粒子を構成するタングステン酸化物粒子、複合タングステン酸化物粒子は、針状に生成しやすく、分散体としたときにより良好な導電特性を得やすい。また、上記六方晶タングステンブロンズは、板状の形状を形成させることが可能であり、導電体としたとき良好な導電性を得るのに有効である。
【0051】
さらに本発明に係る導電性微粒子は、ITO粒子や貴金属粒子を用いる場合と比較して、Inや貴金属といった高コストな原料を使用しないため、以下に述べる可視光透過型粒子分散導電体を安価に得ることができる。
【0052】
2.導電性微粒子の製造方法
本発明のWyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子またはMxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、各原料粉末を熱処理し、さらに、分子中に窒素原子を有する還元性ガス、または、当該還元性ガスと窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスとの混合ガスのいずれかの雰囲気下にて、300℃以上、900℃以下のアニール処理を行うことで得られる。
【0053】
(タングステン化合物出発原料への熱処理によるタングステン酸化物微粒子の生成)
上記一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子、および/または、MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子は、当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物(以下、タングステン化合物出発原料と称する)を不活性ガスまたは/及び還元性ガス雰囲気中で熱処理して得る。これにより、当該導電性微粒子を簡便な方法で安価に得ることができる。
【0054】
上記導電性微粒子のタングステン化合物出発原料には、3酸化タングステン、もしくは2酸化タングステン、もしくはタングステン酸化物の水和物、もしくは6塩化タングステン、もしくはタングステン酸アンモニウム、もしくはタングステン酸、もしくは6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、もしくは6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物、もしくは金属タングステンから選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0055】
タングステン酸化物の導電性微粒子を製造する場合には、製造工程の容易さの観点から、3酸化タングステン、タングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を用いることが更に好ましい。複合タングステン酸化物の導電性粒子を製造する場合には、タングステン化合物出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合できる観点から、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることが好ましい。また、液状でない原料を用いる場合は、タングステン酸等を用いることが好ましい。
【0056】
これらのタングステン化合物出発原料を用い、還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで必要に応じて、不活性ガス雰囲気中にて550℃以上、1200℃以下の温度で熱処理することで、上述した粒子径(1nm以上、10000μm以下の粒子径)を有するタングステン酸化物粒子、複合タングステン酸化物粒子を得ることができる。
【0057】
タングステン酸化物粒子製造のための熱処理条件は、以下のようである。
還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず、タングステン化合物出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上、850℃以下で熱処理することが好ましい。100℃以上であれば還元反応が十分に進行し好ましい。また、850℃以下であれば還元が進行し過ぎることがなく好ましい。還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。また還元性ガスとしてHを用いる場合には、還元雰囲気に含まれるHは、体積比で0.1%以上あることが好ましく、更に好ましくは体積比で2%以上が良い。Hが体積比で0.1%以上であれば、効率よく還元を進めることができる。
【0058】
次いで、必要に応じて、結晶性の向上や、吸着した還元性ガスの除去のために、ここで得られた粒子を更に不活性ガス雰囲気中で550℃以上、1200℃以下の温度で熱処理することが好ましい。550℃以上で熱処理されたタングステン化合物出発原料は十分な導電性を示すからである。また、不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。
以上の処理により、一般式WyOzで表記され、2.2≦z/y≦2.999であり、マグネリ相を含むタングステン酸化物を得ることができる。
【0059】
(タングステン化合物出発原料への熱処理による複合タングステン酸化物微粒子の生成)
複合タングステン酸化物粒子製造のための熱処理条件は、以下のようである。
上述したタングステン化合物出発原料と、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を含有する単体または化合物とを混合した粉末、または、上記タングステン化合物出発原料の溶液または分散液と上記M元素を含有する化合物の溶液または分散液とを混合したのち乾燥して得られた粉末を製造する。このときタングステン化合物出発原料と、M元素との混合割合は、複合タングステン酸化物をMxWyOzと表記したとき、当該複合タングステン酸化物中のM元素とタングステンとの組成比が、0.001≦x/y≦1を満たす所定の値とする。
【0060】
ここで、各成分が分子レベルで均一混合したタングステン化合物出発原料を製造するためにはその原料を溶液で混合することが好ましく、M元素を含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、M元素を含有するタングステン酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、
水酸化物等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。また、工業的観点からは、溶液状態から溶媒を蒸発させる工程が複雑であるため、固体で混合して反応させることも可能である。このとき、原料化合物から有毒なガス等が発生するのは工業的に好ましくないため、用いる原料は、タングステン酸とM元素の炭酸塩や水酸化物が好ましい。
【0061】
熱処理条件は、還元性雰囲気中の熱処理条件として、まず、タングステン化合物出発原料とを含有する単体または化合物とを混合した粉末、または、上記タングステン化合物出発原料の溶液または分散液と上記M元素を含有する化合物の溶液または分散液とを混合したのち乾燥して得られた粉末を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理することが好ましい。100℃以上であれば還元反応が十分に進行し好ましい。また、850℃以下であれば還元が進行し過ぎることがなく好ましい。還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合には、還元雰囲気の組成としてのH2は、体積比で0.1%以上あることが好ましく、更に好ましくは体積比で2%以上が良い。H2が体積比で0.1%以上であれば、効率よく還元を進めることができる。
【0062】
次いで、必要に応じて、結晶性の向上や、吸着した還元性ガスの除去のために、ここで得られた粒子を更に不活性ガス雰囲気中で550℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては550℃以上が好ましい。550℃以上で熱処理された複合タングステン化合物出発原料は十分な導電性を示す。また、不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。結晶性の良好な複合タングステン酸化物の作製には、以下の熱処理条件が提案できる。但し、出発原料や、目的とする化合物の種類により熱処理条件は異なるので、下記の方法に限定されない。
結晶性の良好な複合タングステン酸化物を製造する場合には、熱処理条件が高い方が好ましく、還元温度は、出発原料や還元時のH2温度によって異なるが、600℃〜850℃が好ましい。さらに、その後の不活性雰囲気での熱処理温度は、700℃〜1200℃が好ましい。
【0063】
(タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子へのアニール処理)
上述したタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の不活性雰囲気の熱処理を行い、さらに、分子中に窒素原子を有する還元性ガスまたは前記還元性ガスと不活性ガスの混合ガスのいずれかの雰囲気下にて、300℃以上、900℃以下のアニール処理を行うことで、本発明に係るタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を得ることが出来る。
【0064】
分子中に窒素原子を有する還元性ガスとしては、例えばNHガスを挙げることが出来る。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを挙げることが出来る。
アニール処理温度は特に限定されないが、得られる本発明に係るタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の導電性を高める観点からは、300℃〜900℃、好ましくは400℃〜900℃であり、さらに好ましくは400℃〜700℃である。900℃以下であれば、アニールされるタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子から、金属のタングステンが析出することがなく好ましいからである。一方、300℃以上であれば、アニール効果を得ることが出来る。
アニール処理時間は、アニール処理温度や、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の処理量により適宜選択できるが、30分間〜120分間が望ましい。
NHなどの還元性ガスと、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスとの混合比率は、アニール処理温度、処理時間、および、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の処理量により適宜選択できる。
ただし、上述したアニール処理においては、処理されるタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子から、金属のタングステンが析出しないように留意する。
【0065】
3.可視光透過型粒子分散導電体
本実施形態の導電性微粒子は、上述のように導電性微粒子の組成、粒径、形状を制御することで可視光透過性を得ることができ、該導電性微粒子が複数集合し接触して導電体を形成することで、ITO粒子や貴金属粒子を用いる場合に比べて可視光透過型粒子分散導電体を安価に形成できる。
この導電性微粒子の適用方法として、当該導電性微粒子を以下に記すような分散方法によって適宜な媒体中に分散し、所望の基材に導電体を形成する方法がある。この方法は、あらかじめ高温で焼成した導電性微粒子を基材中に分散させ、もしくはバインダーによって基材表面に結着させることで、樹脂材料等のように耐熱温度の低い基材への応用が可能であり、導電体の形成の際に真空成膜法等の大掛かりな装置を必要とせず安価である。
【0066】
本実施形態の可視光透過型粒子分散導電体は膜状に形成でき、また、予め高温で焼成した導電性微粒子をバインダーによって基材表面に結着させて形成できる。このバインダーとしては特に制限はないが、透明樹脂もしくは透明誘電体であることが好ましい。
【0067】
(a)導電性微粒子を媒体中に分散し、基材表面に形成する方法
例えば、本実施形態に係る導電性粒子を適宜な溶媒中に分散させ、これに必要に応じて媒体樹脂を添加したのち基材表面にコーティングし、溶媒を蒸発させて所定の方法で樹脂を硬化させれば、当該導電性微粒子が媒体中に分散した可視光透過型粒子分散導電体膜の形成が可能となる。コーティングの方法は、基材表面に導電性粒子を含有した樹脂が均一にコートできればよく、特に限定されないが、例えばバーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。
【0068】
上記媒体は、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。また、上記媒体として、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加水分解後に、加熱することで酸化物膜を形成することが可能である。
【0069】
また、本実施形態に係る導電性微粒子を適宜な溶媒中に分散させ、基材表面にコーティングし溶媒を蒸発させることで、当該導電性微粒子が基材表面に分散した可視光透過型粒子分散導電体膜の形成が可能となる。ただし、上記導電体膜だけでは当該膜の強度が弱いため、この導電体膜の上から樹脂等を含有した溶液を塗布し、溶媒を蒸発させるとともに保護膜を形成することが好ましい。コーティングの方法は、基材表面に導電性微粒子を含有した樹脂が均一にコートできればよく、特に限定されないが、例えばバーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。
【0070】
上記導電性微粒子を分散させる方法は特に限定されないが、例えば超音波照射、ビーズミル、サンドミル等を使用することができる。また、均一な分散体を得るために各種添加剤を添加したり、pHを調整しても良い。
【0071】
上記基材としては、所望によりフィルム状でもボード状でも良く、形状は限定されない。透明基材としてはPET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エ
チレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等が各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0072】
(b)基材中に粒子として分散する方法
また、本実施形態に係る導電性微粒子を応用する別の方法として、当該導電性微粒子を基材中に分散させても良い。この導電性微粒子を基材中に分散させるには、当該導電性微粒子を基材表面から浸透させても良く、また、当該導電性微粒子を、基材の溶融温度以上にその温度を上げて溶融させたのち樹脂と混合しても良い。このようにして得られた導電性微粒子を含有した樹脂は、所定の方法でフィルム形状やボード形状に成形し、導電性材料として応用可能である。
【0073】
例えば、PET樹脂に導電性微粒子を分散する方法として、まずPET樹脂と導電性微粒子の分散液を混合し、分散溶媒を蒸発させてから、PET樹脂の溶融温度である300℃程度に加熱し、PET樹脂を溶融させ混合し冷却することで、導電性粒子を分散したPET樹脂の作製が可能となる。
【0074】
4.粒子の形状
タングステン酸化物の導電性微粒子や、複合タングステン酸化物の導電性微粒子は適宜な熱処理により、針状結晶を形成することが可能である。針状結晶は微細な粒状粒子と比較すると、可視光透過型粒子分散導電体膜の導電性を向上させる効果がある。その理由は、可視光透過型粒子分散導電体膜は、粒子同士の接触抵抗値が原因で膜の抵抗値がバルクと比較して悪化するが、針状結晶を用いると、この針状結晶の一つ一つが導電パスとなるため、微細な粒状粒子の連結と比べて接触抵抗値が少なく、効率よく電子の輸送が行われので、導電性が向上するからである。
【0075】
複合タングステン酸化物の導電性微粒子である、六方晶タングステンブロンズの導電性微粒子は、図6に示す板状の結晶を形成することが可能である。特に、添加元素Mの添加量が0.33より多いときに板状結晶を形成しやすい。得られる板状結晶は、分散したときの微細粒子と比較すると、単位面積あたりの接触抵抗値を低減させることが可能なため、導電性を向上させやすい。
【0076】
ただし、上記針状結晶5や板状結晶は、ある程度の大きさを有するため、光を散乱させ易く、透明性を低下させる可能性がある。当該透明性を向上させる場合は、上記針状結晶や板状結晶を微細な形状に粉砕する必要があり、目的に応じて粒子形状を変更することが好ましい。尚、粉砕方法は、通常の粉砕方法で良い。
【0077】
5.可視光透過型粒子分散導電体の光学特性
本実施形態に係る可視光透過型粒子分散導電体の光学特性は、分光光度計(日立製作所製 U−4000)を用いて測定し、可視光透過率(JIS R3106に基づく)を算出した。
【0078】
Cs0.33WOを有する可視光透過型粒子分散導電体膜は、可視光である波長380nm〜780nmの光を透過させており、可視光領域の透過性に優れている。そして、本発明に係るタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物の可視光領域の透過性は、XPS測定において、396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを示さない複合タングステン酸化物と同様であった。
【0079】
さらに当該可視光透過型粒子分散導電体は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び化学気相法(CVD法)などのような真空成膜法等の大掛かりな成膜装置を必要とせず、塗布法等で可視光透過型粒子分散導電体を形成できるため安価であり、工
業的に有用である。
【実施例】
【0080】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
尚、本実施例において、可視光透過型粒子分散導電体の光学特性は、分光光度計(日立製作所製 U−4000)を用いて測定し、可視光透過率(JIS R3106に基づく)を算出した。また、ヘイズ値は、JIS K 7105に基づき、村上色彩技術研究所製の測定装置HR−200を用いて、測定を行った。更に、平均分散粒子径は、動的光散乱法を用いた測定装置(ELS−800(大塚電子株式会社製))により測定し、3回の測定の平均値を平均分散粒子径とした。また、導電特性の評価は、作製した膜の表面抵抗値を測定した。この膜の表面抵抗値は、三菱油化製のハイレスタIP MCP−HT260を用いて測定した。
更に、圧粉抵抗値の測定は、van der Pauw法(第4版、実験化学講座9電気・磁気 平成3年6月5日発行、編者:社団法人日本化学会、発行所:丸善株式会社を参照)に拠っている。試料は10mmφの円盤状に圧粉した加圧ペレットとし、当該円盤面に90°間隔で4端子の電極を設置し、9.8MPaの加圧をしながら、隣り合う2端子間に電流を流したときの、残りの2端子間の電圧を測定し、抵抗値を算出している。
【0081】
(実施例1)
炭酸Csとタングステン酸をCs/Wのモル比が0.33となるように乳鉢で混合した。これを還元雰囲気(アルゴン/水素=97/3体積比)中において600℃で2時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Cs0.33WOの粉末を作製した。このCs0.33WOは、X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズであった。得られた導電性微粒子の粉末の形状をSEMにより観察した結果を図2に示す。ここで、図2はCs0.33WOの1万倍のSEM像である。
得られたCs0.33WOの粉末を500mL/分のNH流通雰囲気下400℃で1時間アニール処理し、実施例1に係る試料粉末を得た。
【0082】
得られた実施例1に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例1に係る試料粉末はCs0.33WOと同定された。金属タングステンの析出も見られなかった。また、XPSによる測定で、396.4eVにW−Nボンドに対応するピ−クが観察された。
実施例1に係る試料粉末の50000倍のSEM観察では、直径が約80nm、長さが約200nmのロッド状微粒子が観察された。また、9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0015Ω・cmであり、高い導電性が確認された。
このCs0.33WOの導電性微粒子の粉末を20重量部、トルエン79重量部、分散剤1重量部を混合し、媒体攪拌ミルを用いて分散処理を行い、平均分散粒子100nmの分散液を作製した。この分散液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)0.1重量部とを混合した。この液を、ガラス上にバーコーターを用いて塗布し成膜した。この膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させて導電体膜を得た。
【0083】
この導電体膜の光学特性を測定したところ、次のとおりであった。
可視光透過率は78%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。更にヘイズ値は0.3%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は美しい青色であり、表面抵抗値は4.9×10Ω/□であった。
【0084】
(実施例2)
実施例1において、NH流通雰囲気下の温度を450℃とした以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る試料粉末を得た。
得られた実施例2に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例2に係る試料粉末はCs0.33WOと同定された。金属タングステンの析出も見られなかった。また、XPSによる測定で、396.4eVにW−Nボンドに対応するピ−クが観察された。
実施例2に係る試料粉末の9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0013Ω・cmであり、高い導電性が確認された。
【0085】
(実施例3)
実施例1において、NH流通雰囲気下の温度を500℃とした以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る試料粉末を得た。
得られた実施例3に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例1に係る試料粉末は主相のCs0.33WOとCsWと同定された。Wの析出も見られなかった。また、XPS解析により、396.4eVにW−Nボンドに対応するピ−クが観察された。
実施例3に係る試料粉末の9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0010Ω・cmであり、高い導電性が確認された。
【0086】
(実施例4)
実施例1において、NH流通雰囲気下の温度を700℃とした以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る試料粉末を得た。
得られた実施例4に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例4に係る試料粉末はCsWと同定された。金属タングステンの析出も見られなかった。また、XPSによる測定で、396.4eVにW−Nボンドに対応するピークが観察された。
実施例4に係る試料粉末の9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は、0.0008Ω・cmであり、高い導電性が確認された。
【0087】
(比較例)
実施例1において、アニール処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして比較例に係る試料を得た。
この導電性微粒子の粉末を9.8MPa圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.013Ω・cmであり、本発明に係るアニール処理を行った試料と比べて、電気抵抗値が高くなった。
また、実施例1と同様に導電体膜を得た。この導電体膜の光学特性を測定したところ、次のとおりであった。可視光透過率は77%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。更にヘイズ値は0.2%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は美しい青色であり、表面抵抗値は2.8×10Ω/□であった。本発明に係るアニール処理を行わなかったことにより、導電体膜でも、電気抵抗値が高くなったものと考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、O2−サイトのO2−がN3−で置換されたサイトを有するタングステン酸化物、
または/及び、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、O2−サイトのO2−がN3−で置換されたサイトを有する複合タングステン酸化物を、含んでなることを特徴とする導電性微粒子。
【請求項2】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、X線光電子分光分析において396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有するタングステン酸化物、
または/及び、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、X線光電子分光分析において396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有する複合タングステン酸化物を、含んでなることを特徴とする導電性微粒子。
【請求項3】
上記MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の導電性粒子の結晶構造がアモルファス構造、または、立方晶、正方晶もしくは六方晶タングステンブロンズ構造を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の導電性微粒子。
【請求項4】
上記MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の導電性粒子において、添加元素MがCs、Rb、K、Tl、Ba、In、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちのいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項3に記載の導電性微粒子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の、粒子径1nm以上の導電性微粒子を含むことを特徴とする可視光透過型粒子分散導電体。
【請求項6】
上記可視光透過型粒子分散導電体が膜状であることを特徴とする請求項5に記載の可視光透過型粒子分散導電体。
【請求項7】
上記可視光透過型粒子分散導電体がバインダーを含むことを特徴とする請求項5または6に記載の可視光透過型粒子分散導電体。
【請求項8】
上記バインダーが、透明樹脂または透明誘電体であることを特徴とする請求項7に記載の可視光透過型粒子分散導電体。
【請求項9】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記され、X線光電子分光分析において396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有するタングステン酸化物、
または/及び、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アル
カリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物、を含んでなる導電性微粒子の製造方法であって、
当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物を、還元性ガスまたは/及び不活性ガス雰囲気中で熱処理し、さらに、分子中に窒素原子を有する還元性ガスまたは当該還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスのいずれかの雰囲気下にて300℃以上、900℃以下のアニール処理を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項10】
上記熱処理は、導電性微粒子の原料となるタングステン化合物を、還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで必要に応じて、不活性ガス雰囲気中にて550℃以上1200℃以下の温度で熱処理すること特徴とする請求項9に記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項11】
上記導電性微粒子の原料となるタングステン化合物が、3酸化タングステン、2酸化タングステン、タングステン酸化物の水和物、6塩化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿を生成させ当該沈殿を乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物、金属タングステン、から選択されるいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の導電性微粒子の原料となるタングステン化合物と、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、添加元素MがCs、Rb、K、Tl、Ba、In、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種類以上の元素)を含有する単体または化合物とを混合した粉末、または、上記タングステン化合物の溶液または分散液と上記M元素を含有する化合物の溶液または分散液とを混合したのち乾燥して得られた粉末、から選ばれる1種以上を、当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物として用いることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−198518(P2011−198518A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61244(P2010−61244)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】