説明

導電性材料からなる本体の表面を電解被覆するためのマスク、および該マスクの製造方法

本体、例えば内燃機関用のピストンの表面を電解被覆するためのマスク(1)が提案される。このマスクは処理室(3)を備え、これにより被覆すべき表面が覆われ、流入開口部(7)と、層材料含有する電解質に対する流出開口部とに合流する。前側では処理室(3)が被覆すべき表面により閉鎖可能であり、裏側で処理室は平坦なアノードによって封鎖される。アノードは電極を介して直流電圧源のプラス極に接続されている。前記本体は前記直流電圧源のマイナス極に接続可能である。電解質ひいては被覆すべき層材料の均等な分散が次のようにして達成される。すなわち、前記マスク(1)はゴム状でエラスティックポリマからなり、前記マスク(1)には剛性のパイプシステムが鋳込まれており、該パイプシステムは前記流入開口部(7)および前記流出開口部を介して前記処理室(3)に合流し、前記パイプシステムは、真空ポンプ用の接続部(4,5)と、前記電解質用の容器と接続された接続部(6,10)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念による導電性材料からなる本体の表面を電解被覆するためのマスク、および請求項9の上位概念による前記マスクの製造方法に関する。
【0002】
特許公開公報DE10140934A1から、回転対称の材料の表面を電解処理するための装置が公知である。この装置は、2つの緊張部材を有し、これらの緊張部材は相互に可動であり、それらの間に中央部材が挟み込まれている。この中央部材を介して電解処理流体が処理室に流入し、そこから流出する。処理室は2つの中間リングにより形成され、これらの中間リングの間に電極が挟み込まれている。この電極の内径は被覆すべき表面の外径よりも大きい。したがって被覆すべき表面と電極の内面との間に処理室が形成され、中間リングは2つの緊張部材により保持される。ここでの欠点は、中間リングも電極も金属からなり、そのため処理室を密閉し、極度に侵襲性の電解液が処理室から流出しないようにするために面倒な手段が必要なことである。とりわけ従来技術から公知の、表面を電解処理するための装置は非常に複雑に構成されている。このことは被覆プロセスの価格を無視できないほど上昇させる。
【0003】
本発明の課題は、従来技術のこの欠点を回避することである。この課題は、請求項1および請求項9の特徴部に記載の構成によって解決される。請求項2以下には、本発明の有利な構成が記載されている。
【0004】
本体を被覆するためのマスクが、本体の被覆すべき表面と共に処理室を形成し、このマスクが可塑性のポリマからなることによって、処理室が良好に密閉されることが保証され、電解液が処理室から流出する危険性が最小になる。とりわけ本発明のマスクは、予め作製されたパイプシステムを使用すると、プラスチック射出成形法によって非常に簡単に作製することができる。
【0005】
以下に、本発明の幾つかの実施例を図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本体を被覆するためのマスクを示す斜視図である。
図2は、図1の面IIに沿ったマスクの断面図である。
図3は、マスクに配置された、被覆のために必要な電解質を導くパイプシステムの第1構成を示す図である。
図4は、断面が楕円の流入開口部および流出開口部を備えるパイプシステムの第2構成を示す図である。
図5は、断面がスリット状の流入開口部および流出開口部を備えるパイプシステムの第3構成を示す図である。
【0006】
図1は、本体を被覆するためのマスクを示す斜視図である。この本体は、導電性材料からなり、例えば内燃機関用のピストンである。本実施例のマスク1はピストンシャフトを被覆するために用いられる。この目的のためにマスク1は断面が円弧状の前面切欠部2を有し、この切欠部を介してマスク1は図示されないピストンに次のように当接される。すなわち相応に成形された処理室3が、被覆されるピストンシャフトの領域を精確に覆うように当接される。ピストンは通常、2つのピストンシャフトを有するから、それぞれ1つのマスク1が被覆すべきピストンシャフトに当接する。
【0007】
図1にはさらに接続部4と5が示されている。これらの接続部を介して、マスク1に配置されており、図3に示されたパイプシステム8が真空ポンプに接続される。図1にはさらに別の接続部6と10が示されており、これらの接続部はパイプシステム8を電解質容器と接続する。さらに図1は、処理室3に合流する供給開口部7を示しており、この供給開口部を介して電解質は処理室3に導かれる。
【0008】
図2は、図1の断面IIに沿ったマスク1の断面を示す。この断面は、処理室3が前面の切欠部2の裏壁9に設けられた窓として構成されていることをよく示している。この窓の下方のコーニスは供給開口部7を有する。裏側で処理室3は、断面が円弧状の平坦なアノード11によって封鎖されている。ここで処理室3の裏側には裏壁9とアノード11との間に周回するパッキン12が配置されており、このパッキンは処理室3をマスク1の裏側の切欠部13に対して密閉する。処理室3の前側には同様に周回するパッキン14が配置されている。これによりマスク1がピストンに当接すると、封鎖された処理室3が得られる。
【0009】
アノード11を形状安定したプラスチック製の閉鎖部材15によって、図2に示した最終位置へ押し付け、そこに固定することによって、アノード11は裏側の切欠部13に嵌め込まれる。電極としてアノード11は、裏側が溶接されたねじ切りボルト16を有する。このねじ切りボルトには図示しない直流電圧源のプラス極が印加される。処理室3に当接するピストンシャフトの被覆のために、直流電圧源のマイナス極はピストンに印加される。
【0010】
マスク1には、図3,4,5に図示されたパイプシステム8,20の1つが配置されている。このパイプシステム8は、接続部4,5の他に別の接続部17を介して、図示されない真空ポンプと接続されている。これに加えてパイプシステム8は接続部6と10の他にさらに接続部18を介して、電解質容器と接続されている。図3には、処理室3に合流する流出開口部19も図示されているが、これは図1,2には示されていない。
【0011】
鉄により被覆すべきピストンシャフが処理室3に当接すると、まずアノード11に電極16を介して直流電圧源のプラス極が、ピストンに直流電圧源のマイナス極が接続される。続いて真空ポンプにより接続部4,5と17を介して、パイプシステム8と処理室3に負圧が形成される。この負圧は、接続部6,10と18を介して図示しない電解質容器から鉄を含有する電解質が吸引され、流入開口部7を介して処理室3に導かれるように作用する。鉄を含有する電解質は被覆すべきピストンシャフトを通過する。このときアノード11とピストンに印加される直流電圧は、電解質から鉄が析出され、ピストンシャフトに被覆されるよう作用する。引き続き流出開口部19を介して電解質は処理室3から排出され、接続部4,5および7を介してパイプシステム8全体から排出される。
【0012】
パイプシステム8は、使用される電解質に対して耐久性のある焼結材料、例えば180℃以上の溶解温度を有するポリアミド−微粉体から作製される。続いてパイプシステム8はマスク1用の鋳型に装填され、ポリアミドまたはポリイミドが注ぎ込まれる。このポリアミドまたはポリイミドは、ゴム状にエラスティックに撓み、使用される電解質に対して耐久性がある。この実施例ではこのために、良好に注入することができ、高い耐裂性を備えるシリコーンゴムが使用される。
【0013】
図4に示した、マスク1に鋳込まれたパイプシステム8の構成は、処理室3に合流する流入開口部21と流出開口部22を有する。これらの開口部は楕円形の横断面を有し、これにより電解質の通流特性が改善され、電解質が均等に分散され、これによりピストンシャフトに鉄被覆部が形成される。
【0014】
電解質の通流特性と分散、およびピストンシャフトでの鉄被覆部のさらなる改善は、図5に示すように電解質がただ1つのスリット状流入開口部23を介して処理室3に導かれ、同様にスリット状の流出開口部24を介して処理室3から再び排出されることにより達成される。ここで流入開口部23と流出開口部24の長さは、近似的に処理室3の幅に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本体を被覆するためのマスクを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の面IIに沿ったマスクの断面図である。
【図3】図3は、マスクに配置された、被覆のために必要な電解質を導くパイプシステムの第1構成を示す図である。
【図4】図4は、断面が楕円の流入開口部および流出開口部を備えるパイプシステムの第2構成を示す図である。
【図5】図5は、断面がスリット状の流入開口部および流出開口部を備えるパイプシステムの第3構成を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
11 断面
1 マスク
2 前面の切欠部
3 処理室
4,5,6 接続部
7 流入開口部
8 パイプシステム
9 裏壁
10 接続部
11 アノード
12 パッキン
13 裏側の切欠部
14 パッキン
15 閉鎖部材
16 ねじ付きボルト、電極
17,18 接続部
19 流出開口部
20 パイプシステム
21 流入開口部
22 流出開口部
23 流入開口部
24 流出開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料からなる本体の表面を電解被覆するためのマスク(1)であって、
・前面の切欠部(2)を備え、該切欠部は被覆すべき表面に当接するよう、該表面に対して相補形に成形されており、
・前記切欠部(2)に組み込まれる処理室(3)を備え、
=該処理室は側方に壁を有するように成形されており、これにより前記処理室(3)は被覆すべき表面を完全に覆い、
=前記処理室は、層材料を含有する電解質のための流入開口部(7,21,23)と、流出開口部(19,22,24)とを有し、
=前記処理室は、被覆すべき表面の前側によって閉鎖可能であり、
=前記処理室は、平坦なアノード(11)によって裏側が閉鎖され、該アノードは電極(16)を介して直流電圧源のプラス極と接続されており、
前記本体は前記直流電圧源のマイナス極に接続可能である形式のマスクにおいて、
・前記マスク(1)は、エラスティックな撓み性のポリマからなり、該ポリマは鋳造法によって成型可能であり、前記電解質に対して耐久性を有し、
・前記マスク(1)には剛性のパイプシステム(8,20)が鋳込まれており、
該パイプシステムは前記流入開口部(7,21,23)および前記流出開口部(19,22,24)を介して前記処理室(3)に合流し、
前記パイプシステムは、真空ポンプ用の接続部(4,5,17)と、前記電解質用の容器と接続された接続部(6,10,18)とを有する、ことを特徴とするマスク。
【請求項2】
請求項1記載のマスクにおいて、
該マスクはポリアミドからなることを特徴とするマスク。
【請求項3】
請求項1記載のマスクにおいて、
該マスクはポリイミドからなることを特徴とするマスク。
【請求項4】
請求項1記載のマスクにおいて、
該マスクはシリコーンゴムからなることを特徴とするマスク。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項記載のマスクにおいて、
前記パイプシステム(8)は焼結材料からなることを特徴とするマスク。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項記載のマスクにおいて、
前記パイプシステム(8)は、ポリアミドベースの微粉体から作製されることを特徴とするマスク。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項記載のマスクにおいて、
前記パイプシステム(20)の流入開口部(21)と流出開口部(22)は、少なくとも近似的に楕円形の横断面を有することを特徴とするマスク。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか一項記載のマスクにおいて、
前記パイプシステムはスリット状の流入開口部(23)とスリット状の流出開口部(24)を介して前記処理室(3)と接続されており、
前記開口部(23,24)の長さは前記処理室(3)の幅に近似的に相当することを特徴とするマスク。
【請求項9】
導電性材料からなる本体の表面を電解被覆するためのマスク(1)の製造方法であって、前記マスクは、
・前面の切欠部(2)を備え、該切欠部は被覆すべき表面に当接するよう、該表面に対して相補形に成形されており、
・前記切欠部(2)に組み込まれる処理室(3)を備え、
=該処理室は側方に壁を有するように成形されており、これにより前記処理室(3)は被覆すべき表面を完全に覆い、
=前記処理室は、層材料を含有する電解質のための流入開口部(7,21,23)と、流出開口部(19,22,24)とを有し、
=前記処理室は、被覆すべき表面の前側によって閉鎖可能であり、
=前記処理室は、平坦なアノード(11)によって裏側が閉鎖され、該アノードは電極(16)を介して直流電圧源のプラス極と接続されており、
前記本体は前記直流電圧源のマイナス極に接続可能である
マスクの製造方法において、
・前記処理室(3)に対する流入開口部(7,21,23)および流出開口部(19,22,24)と、真空ポンプに対する接続部(4,5,17)と、前記電解質用の容器と接続可能な接続部とを備えるパイプシステム(8,20)を製作し、
・前記パイプシステム(8,20)を前記マスク(1)用の鋳型に装填し、
・前記パイプシステム(8,20)をエラスティックで撓み性のポリマにより次のように鋳込む、すなわち前記流入開口部(7,21,23)と流出開口部(19,22,23)が前記処理室(3)に合流し、前記真空ポンプ用の接続部(4,5,17)と、前記電解質用の容器と接続された接続部とが前記マスク(1)から引き出されているように鋳込む、ことを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法において、
前記マスク(1)はポリアミドから作製されることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の製造方法において、
前記マスク(1)はポリイミドから作製されることを特徴とする製造方法。
【請求項12】
請求項9記載の製造方法において、
前記マスク(1)はシリコーンゴムから作製されることを特徴とする製造方法。
【請求項13】
請求項9から12までのいずれか一項記載の製造方法において、
前記パイプシステム(8、20)は焼結材料から作製されることを特徴とするマスク。
【請求項14】
請求項9から13までのいずれか一項記載の製造方法において、
前記パイプシステム(8、20)は、ポリアミドベースの微粉体から作製されることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−535507(P2009−535507A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508112(P2009−508112)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000759
【国際公開番号】WO2007/124728
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】