説明

導電性樹脂組成物、およびそれを用いて製造された導電性樹脂組成物成型体

【課題】
導電性樹脂組成物として金属粉末、および低融点金属を含む材料は成形体のコストパフォ−マンスや機械強度が低く、また射出成形時において金属フィラ−とマトリクス樹脂の粘度差が生じ、ゲ−ト付近にて相分離を生じ不通な成形体表面箇所ができてしまう問題があった。
【解決手段】
亜鉛系金属粉末20〜38体積%、および亜鉛系金属粉末体積%に対し0.1〜0.3倍の低融点金属を含み、かつマトリクス樹脂に対して0.09〜0.49倍のガラス繊維を含むことで、金属フィラ−の使用量が少なくても、コストパフォ−マンスや機械強度の高い導電性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い導電性と高い機械強度を有する導電性樹脂組成物、およびそれを用いて製造された導電性樹脂組成物成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年樹脂に高い導電性を付与する方法として例えば特許第3525071号のような金属粉末と低融点金属を主要構成成分とした材料が報告されている。その体積抵抗率は5.8×10−5〜3.6×10−2Ω・cmと金属素材に近い高い導電性を有している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3525071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように高い導電性を得るためにはマトリクス樹脂中に亜鉛系金属粉末や低融点金属である金属フィラ−成分を多く含む必要があり、金属フィラ−間が狭く密集した成形体が必要であった。そのため成形体の密度が高く体積当たりのコストパフォ−マンスが低かった。また使用する亜鉛系金属粉体表面は低融点金属である錫と共晶化し濡れ性が良いためその表面に低融点金属が移行し易くなる。そのため低融点金属とマトリクス樹脂が相分離し難く上手くマトリクス樹脂中に分散されるのだが、射出成形の際では、特に剪断の高いゲ−ト付近ではマトリクス樹脂と金属フィラ−の粘度差が生じてしまい、相分離により不通な成形体表面箇所ができやすく、それを抑制するためには特殊な成形方法が必要であり、かつ金属フィラ−とマトリクス樹脂との界面接着力等が低いため成形体の機械強度が低いといった問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題を解決するもので、成形体の機械強度が高く、コストパフォ−マンスに優れ、かつ射出成形時に金属フィラ−成分とマトリクス樹脂との相分離が起きにくい導電性樹脂組成物、およびその成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者は亜鉛系金属粉末、および低融点金属を金属フィラ−とした組成系に対し、さらにガラス繊維を加えた組成系とすることで、金属フィラ−の使用量を低減しても、マトリクス樹脂中に取り込まれたガラス繊維が物理的な流れの抵抗となることで、金属フィラ−の接合を上手く押し広げるように必要最低限の導電ネットワ−クを形成し、かつガラス繊維の形状が溶融材料の流れを均一化し、射出成形の際の金属フィラ−とマトリクス樹脂との粘度差を縮め、これにより相分離を抑える効果があることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0007】
またガラス繊維はアスペクト比が高く成形体の機械強度を上げる一方、金属フィラ−よりも低密度であるため成形体の密度が下がりコストパフォ−マンスに優れた製品を提供できる。
【0008】
具体的には第1の発明として、亜鉛系金属粉末とマトリクス樹脂の融点以下で溶融する低融点金属、およびガラス繊維をマトリクス樹脂中に含むことを特徴とする導電性樹脂組成物である。
【0009】
第2の発明としては、使用される低融点金属が錫または錫合金であることが特徴の上記に記載の導電性樹脂組成物である。
【0010】
第3の発明としては、使用される亜鉛系金属粉末の平均粒子径が1〜100μmであり、その含有量が全組成物中20〜38体積%であることが特徴の上記のいずれかに記載された導電性樹脂組成物である。
【0011】
第4の発明としては、使用される低融点金属の含有量が亜鉛系金属粉末の含有量に対して体積比で0.05〜0.4倍であることが特徴の上記のいずれかに記載された導電性樹脂組成物である。
【0012】
第5の発明としては、使用されるガラス繊維の含有量がマトリクス樹脂の含有量に対して体積比で0.09〜0.49倍であることが特徴の上記のいずれかに記載された導電性樹脂組成物である。
【0013】
第6の発明としては、使用されるマトリクス樹脂がPPSであることが特徴の上記のいずれかに記載された導電性樹脂組成物である。
【0014】
第7の発明としては、その樹脂組成物を用いて製造された成形品の密度が4g/cm3以下であり、かつその体積抵抗率が1.1×10−3Ω・cm以下であることが特徴の上記いずれかに記載された導電性樹脂組成物である。
【0015】
第8の発明としては、その樹脂組成物を用いて製造された成形体の引張り強度が35MPa以上であることが特徴の上記のいずれかに記載された導電性樹脂組成物である。
【0016】
第9の発明としては、上記のいずれかに記載された導電性樹脂組成物を用いて製造したことが特徴の成形体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、亜鉛系金属粉末と低融点金属を含む導電性樹脂組成物に対し、ガラス繊維を配合することで、亜鉛系金属粉末の含有量がより少ない場合であっても、比較的高い導電性が得られる。さらに、得られる成形体の密度は低く抑えることができるため、コストパフォ−マンスの高い導電性樹脂組成物が提供できる。またこの導電性樹脂組成物は相分離を起こし難いため、成形体表面に均質な電気接点が得られるため、より信頼性の高い導電性成型体の提供が可能となる。また機械強度の高い成形体を提供することが可能であるため、より設計自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】金属フィラ−の配合量による体積抵抗率の変化を示した図である。
【図2】比較例1の導電性樹脂組成物の成形体表面のSEM写真である。
【図3】実施例3の導電性樹脂組成物の成形体表面のSEM写真である。
【図4】実施例3の導電性樹脂組成物の成形体表面におけるSi元素の分布状態を示すマッピング写真である。
【図5】実施例3の導電性樹脂組成物の成形体表面におけるZn元素の分布状態を示すマッピング写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の導電性樹脂組成物について詳細に説明する。本発明の導電性樹脂組成物は亜鉛系金属粉末と低融点金属、マトリクス樹脂、およびガラス繊維と溶融混練することにより作製される。
【0020】
亜鉛系金属粉末としては金属亜鉛粉末、亜鉛−鉄、亜鉛−アルミ、亜鉛−マグネシウム、黄銅粉末、錫−亜鉛粉末等を挙げることができ、特に金属亜鉛粉末は低融点金属、特に錫と金属亜鉛粉末表面上で共晶化し金属亜鉛粉末表面上に錫合金として存在し易くなる。金属亜鉛粉末の形態としては球状、楕円状、薄片状、涙滴状等の粉末を使用できる。
【0021】
亜鉛系金属粉末の粒度は平均粒子径で1〜100μmが好ましく、15〜80μm程度であればさらに好ましい。なお粒径が小さくなるほど粒子表面に形成された酸化皮膜が多くなり導電性が悪くなる。逆に粒度が大きくなると分散性が低下し成形性と成形体強度が低下する。
【0022】
低融点金属としては、マトリクス樹脂の加工における実用的な温度域で混練可能であり、その工程で亜鉛系金属と共晶化できる導電性金属であれば良い。例えばPPSであれば、330℃以下にて溶融加工可能な金属が好ましい。低融点金属としては、ビスマス、鉛、あるいは錫、錫−亜鉛、錫−銅、錫−インジウム、錫−銀、錫−金等の合金を使用出来る。比重が小さいために結果的に成形体での密度を軽くすることができ、さらに金属が安価であるため錫を選択するのが好ましい。また使用される用途によっては、得られる成形体での耐熱性を上げるため亜鉛系金属粉末と共晶化した際に融点の高い合金組成となるビスマスも好ましい。
例えば、錫を選択した場合金属亜鉛と共晶物を形成し200℃前後の融点となる。
【0023】
実用上は、低融点金属は微粉末としてマトリクス樹脂に配合される。低融点金属の好ましい粒度は平均粒径で6〜50μm程度である。低融点金属の含有量は亜鉛系金属粉末の含有量に対して体積比で0.05〜0.4倍が好ましく、より好ましくは0.1〜0.3倍程度である。0.05倍以下であると、樹脂組成物中に分散された金属粒子間の接合が少なくなり、得られる樹脂組成物成型体の導電性が悪くなる。一方0.4倍以上であると、好適な金属間の接合を形成する状態に対して低融点金属の含有量が過剰気味となり、樹脂組成物の混練時や成形時に樹脂組成物の表面へ低融点金属がブリ−ドアウトしてしまい、得られる製品の機能や外観を損ねてしまう。
【0024】
ガラス繊維としては特に制限はないが、導電性樹脂組成物中に含まれた状態で、共晶物の粒子を物理的に遮断できる程度の形状であれば良い。形成される共結晶物の大きさによって、必要なガラス繊維の長さや繊維径は異なってくるが、例えば繊維径は1〜30μmが好ましく、5〜25μmがさらに好ましい。また繊維長は10〜500μmであれば実用的であるため好ましい。アスペクト比では5〜30程度が好ましい。混練後に得られる導電性樹脂組成物に含まれるガラス繊維の繊維長が長すぎると、例えば、500μm以上では成型が困難となり、加工性や品質上の問題となる。一方、導電性樹脂組成物に含まれるガラス繊維の繊維長が短すぎると、マトリクス樹脂中で隣接して存在する亜鉛と低融点金属の共晶物の粒同士をさえぎることが出来ない。このような状況では共晶物の粒が凝集してしまい、結果的に効率よく導電性を高める効果が発揮されず好ましくない。また、得られる樹脂組成物成型体の強度向上にも効果が得られない。例えば、粉末状のガラスビ−ズを配合した場合には、ガラス繊維を使用した場合に比較して得られる成型体の強度や導電性で大きく劣るものである。
【0025】
ガラス繊維を添加することで、ガラス繊維がマトリクス樹脂を補足したようになり、マトリクス樹脂が金属フィラ−を包み込むように回り込むのを抑える効果があり、導電ネットワ−クが維持されながらマトリクス樹脂中に効率よく分散されるため好ましい。
【0026】
実際の製造においては、混練においてガラス繊維が切断されるため、原材料として使用するガラス繊維長はさらに長いものが採用されるべきである。これに関しては、混練工程で使用する設備や条件によって適宜選択する必要がある。例えば、予めガラス繊維を含む原材料を予備混合してから、2軸混練機で混練する場合には、繊維長で1〜6mm程度のものが好ましい。これ以上長いと混練工程でトルクが高くなり十分に分散ができないなどの問題が起こる。
【0027】
ガラス繊維の含有量はマトリクス樹脂の含有量に対して体積比で0.09倍以上が好ましい。これ未満の含有量の場合には、得られる導電性樹脂組成物の導電性を著しく高めるという、本発明の効果が得られず、また成型体の強度を高める効果も顕著でなくなる。あまりに含有量が高い場合には、加工性が低下する傾向がみられ、0.7倍以下が好ましい。射出成型による加工を考えると、0.49以下が好ましい。0.09倍以下であると成形体強度を上げる効果が薄く、またマトリクス樹脂が導電ネットワ−ク形成を阻害して導電性が悪くなる。
【0028】
なおこれら亜鉛系金属粉末、およびガラス繊維は予めその表面にシラン系あるいはチタネ−ト系、アルミネ−ト系等のカップリング剤やオイル等で処理されていても良い。
【0029】
マトリクス樹脂としては、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であっても良く、使用される低融点金属の融点以上で塑性加工が可能であり、マトリクス樹脂として使用したときに混練時に低融点金属と亜鉛系金属の共晶化が可能であれば良い。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエ−テル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエ−テルエ−テルケトン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、フッ素系樹脂、及び前記樹脂を改質した種種のエラストマ−や、アロイ樹脂などが例示できる。これらの熱可塑性樹脂は少なくとも1種類が使用され、さらには2種以上組み合わせて使用することもできる。また樹脂の選択には、その融点と使用される低融点金属の融点の兼ね合いで慎重に選択する必要がある。
【0030】
また熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノ−ル樹脂、フルフラ−ル樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、ジアリルフタレ−ト樹脂、シリコ−ン樹脂、アミノ樹脂などが例示できる。これらの熱硬化性樹脂は少なくとも1種類が使用され、さらには2種以上組み合わせて使用することもでき特に限定されるものではない。またこれらに使用される硬化剤、硬化促進剤等の種類においても組み合わせることもできる。
【0031】
さらには本発明の導電性樹脂組成物は、可塑剤、外部離型剤、内部離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、摺動剤、安定剤、難燃剤などを1種、あるいは2種以上を組み合わせて配合しても良い。
【0032】
本発明の導電性樹脂組成物は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等の加工に対し慣用な方法、およびその製造装置を利用して製造することができる。すなわち亜鉛系金属粉末と低融点金属、およびガラス繊維などのフィラ−とマトリクス樹脂とを予備混合分散する工程では、タンブラ−ミキサ−、ヘンシェルミキサ−、ス−パ−ミキサ−、ハイスピ−ドミキサ−、レ−ディゲミキサ−などの混合装置を用い予備的に混合分散する。これを1軸、あるいは2軸押し出し機、バンバリ−ミキサ−、ニ−ダ−などを使用して溶融混練し、押し出して成形用の導電性樹脂組成物とする。なおガラス繊維においては溶融混練途中にサイドフィ−ドにより添加しても良い。ここで得られる成形用のコンパウンドの形状は特に限定されることは無く、塊状、粒状、粉体状であってもよく、必要により後に成形用に適した形状に粉砕等の加工がされても良い。
【0033】
本発明の導電性樹脂組成物の成形加工方法は、射出成形、熱プレス成形、トランスファ−成形、ロ−ル成形等の合成樹脂一般に対する慣用な方法を用いて製造できる。射出成形では一般の射出成形機と所定の金型を用いることで成形体が得られるが、より好ましくは射出圧縮成形、射出プレス成形を用いることでより均質な成形体を得ることができる。ここで言う射出圧縮成形、射出プレス成形とは溶融した材料を所定よりも若干隙間を空けた金型内に高速で射出し、射出が完了し材料が充填したと同時に金型が所定の位置まで圧力をかけながら閉まる機構を持った方法である。この成型方法を使用することで金型内で溶融材料に均質に圧力が掛かるため金属フィラ−とマトリクス樹脂の相分離を起こし難いため好ましい。
【0034】
また2色成形により本発明の導電性樹脂組成物は電気回路を形成することができる。すなわち非導電性の樹脂組成物で成形された回路溝のある成形体に本発明の導電性樹脂組成物を2次成形する、あるいは先に回路状に成形した導電性樹脂組成物に対し非導電性樹脂組成物をアウトサ−ト成形することで優れた樹脂成形電気回路部品を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下のように実施例、および比較例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(混練、成型)実施例1〜8、及び比較例1〜4はマトリクス樹脂としてPPSを使用し、亜鉛金属粉末、及び低融点金属としての錫(融点232℃)を使用した。さらに比較例5〜9においては、実施例3で使用されているガラス繊維の代わりに種々のフィラ−を表に示した体積比率で配合した。これらをミキサ−で3分間乾式混合し、300℃に設定された2軸混練機を用いて溶融混練押し出した。得られたコンパウンドは一般的な射出成形にて315℃で成形し成形体(長さ127.0mm、幅13.0mm、厚み3.0mm)を作製した。その際の射出成形性は成形体ゲ−ト付近や表面に相分離が現れた場合を(×)、現れない場合を(○)としている。
【0037】
(強度の評価)得られた製成型体を用いて引っ張り強度を測定した。ヘッドスピードは5mm/秒とした。
【0038】
(体積抵抗率の測定)330℃に設定されたバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練を3分間行い、混練物を取り出して冷却後に粉砕し、330℃に設定された熱プレスにて板(80mm角、厚み3.0mm)を成形し、その体積抵抗率を測定した。ここで体積抵抗率はJIS K7194に準拠した4探針法を用いて測定した。体積抵抗値が低いほど導電率が高いことになる。
【0039】
(混練性の評価)導電性樹脂塑性物の混練性の評価は、バッチ式の小型ニ−ダ−で混練した時の混練トルク値で判断し、この値が高くなると材料の流動性は悪い傾向であり、実用性が低下する。射出成形性に適する値としては1.5kg・m未満が好適である。また混練分散性の評価は、小型バッチ式ニ−ダ−での混練において、溶融した低融点金属が一体化した混練物からはじかれて分離し、樹脂塑性物の外に低融点金属がブリ−ドアウトした場合を(×)、低融点金属が分離せず、樹脂塑性物中に分散された場合を(○)と記した。
【0040】
(SEM観察、元素マッピング)得られた導電性樹脂組成物を使用した成型体の表面についてSEM観察を行い、さらに含有成分の分布状態を調べるためにエネルギ−分散型X線分析装置により含有成分の元素マッピングを行った。
【0041】
(実施例1)亜鉛金属粉末(30μm;20体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.0体積%)、ガラス繊維(チョップド;20体積%)をPPS樹脂中に混合、および溶融混練、押し出し、裁断により3〜5mm程度のコンパウンドを作製した。このコンパウンドを射出成形し長さ127.0mm、幅13.0mm、厚み3.0mmの板状の射出成形体を得た。この射出成形体のゲ−ト付近には相分離は無かった。また同様の配合をバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られた射出成形体の引っ張り強度は78MPaと高く、また射出成形体およびプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、どちらも同等な体積抵抗率を得た(表記載はプレス成形体での値;1.1×10−3 Ω・cm)。
(実施例2)亜鉛金属粉末(30μm;25体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.0体積%)、ガラス繊維(チョップド;15体積%)をPPS樹脂中に混合、および溶融混練、押し出し、裁断により3〜5mm程度のコンパウンドを作製した。このコンパウンドを射出成形し長さ127.0mm、幅13.0mm、厚み3.0mmの板状の射出成形体を得た。この射出成形体のゲ−ト付近には相分離は無かった。また同様の配合をバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られた射出成形体の引っ張り強度は69MPaと高く、また射出成形体およびプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、どちらも同等な体積抵抗率を得た(表記載はプレス成形体での値;3.7×10−4 Ω・cm)。
(実施例3)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)、ガラス繊維(チョップド;15体積%)をPPS樹脂中に混合、および溶融混練、押し出し、裁断により3〜5mm程度のコンパウンドを作製した。このコンパウンドを射出成形し長さ127.0mm、幅13.0mm、厚み3.0mmの板状の射出成形体を得た。この射出成形体のゲ−ト付近には相分離は無かった。また同様の配合をバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られた射出成形体の引っ張り強度は61MPaと高く、また射出成形体およびプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、どちらも同等な低い体積抵抗率を得た(表記載はプレス成形体での値;8.3×10−5 Ω・cm)。
(実施例4)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)、ガラス繊維(チョップド;5体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、実施例3と比較し高い体積抵抗率となった(5.7×10−4 Ω・cm)。
(実施例5)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)、ガラス繊維(チョップド;10体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、実施例3と比較しやや高い体積抵抗率となった(1.3×10−4 Ω・cm)。
(実施例6)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)、ガラス繊維(チョップド;20体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、実施例3と比較し同程度の体積抵抗率となった(9.5×10−5 Ω・cm)。
(実施例7)亜鉛金属粉末(30μm;30体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)、ガラス繊維(チョップド;10体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率は実施例2に対し密度を高く設定したが(3.7×10−3 Ω・cm)と高く、ガラス繊維量が低く、さらに同じPPS量を配合した場合、導電ネットワ−ク形成が悪いことがわかる。
(実施例8)亜鉛金属粉末(30μm;15体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;3.0体積%)、ガラス繊維(チョップド;15体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率は(1.7×10Ω・cm)と亜鉛金属粉末が20体積%を下回ると急激に高くなっている。
(比較例1)亜鉛金属粉末(30μm;50体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;6.5体積%)をPPS樹脂中に混合、および溶融混練、押し出し、裁断により3〜5mm程度のコンパウンドを作製した。このコンパウンドを射出成形し長さ127.0mm、幅13.0mm、厚み3.0mmの板状の射出成形体を得た。この射出成形体のゲ−ト付近には相分離が見られた。また同様の配合をバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に錫合金の分離は無く分散は良好であった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られた射出成形体の引っ張り強度は25MPaと低い。得られた射出成形体、およびプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、どちらも同等な低い体積抵抗率である(5.6×10−5 Ω・cm)。
(比較例2)亜鉛金属粉末(30μm;45体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;6.5体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であり、混練のトルクも0.5kg・mと低く良好なものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率は(8.5×10−5 Ω・cm)であり、亜鉛金属粉末の減量により若干上昇した。
(比較例3)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。混練のトルクは0.1kg・mと低く液状に近いものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、高い体積抵率となった(8.6×10−2 Ω・cm)。
(比較例4)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)、ガラス繊維(チョップド;25体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。混練のトルクは20kg・mと高いものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、実施例3と比較しやや高い体積抵抗率となった(1.4×10−4 Ω・cm)。
(比較例5)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;4.5体積%)、炭素繊維(チョップド;15体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であったが、混練のトルクは1.6kg・mとやや高いものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、実施例3と比較し高い体積抵抗率となった(1.7×10−4 Ω・cm)。炭素繊維が導電パスの形成に寄与することが予測されたが、予測に反してガラスフィラーの場合に比べて体積抵抗率が大きくなっていた。共晶物の分離もなったことから、共晶物が炭素繊維表面に固定されているために導電パスを効率的に形成できなかったことが原因と考えられた。
(比較例6)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;45体積%)、人造黒鉛(芋状100μm;15体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であり、混練のトルクも0.4kg・mと低く良好なものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、比較例1同様、実施例3と比較し高い体積抵抗率となった(15×10−4 Ω・cm)。これは比較例5と同様に共晶物が炭素系である黒鉛の表面付近に固定されていると推測された。
(比較例7)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;45体積%)、珪素(Si)粉(球状70μm;15体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ特に低融点金属の分離も無く分散は良好であった。混練のトルクは0.1kg・mと更に低く液状に近いものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、比較例5と比較しさらに高い体積抵抗率となった(6.6×10−4 Ω・cm)。球状の珪素粉はマトリクス樹脂中に取り込まれるが粘性が低くマトリクス樹脂と同様な挙動となり、アスペクト比が小さいため共晶物が凝集してしまうのを阻害する効果がガラス繊維ほど高くないために、ガラス繊維に見られたような効果が見られなかったと考えられた。
(比較例8)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;45体積%)、フェライト粉(六角板状4μm;15体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ低融点金属の分離が見られた。混練のトルクは0.1kg・mと低く液状に近いものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、比較例3と比較しまたさらに高い体積抵抗率となった(1.1×10−3 Ω・cm)。酸化物フィラ−では材料中の低融点金属をはじいてしまい、うまく導電ネットワークを形成できていないことが考えられた。
(比較例9)亜鉛金属粉末(30μm;35体積%)、錫粉末(45μmアンダ−;45体積%)、タルク(13μm;15体積%)をPPS樹脂中に混合しバッチ式の小型ニ−ダ−にて混練したところ低融点金属の分離が見られた。混練のトルクは0.3kg・mと低く液状に近いものであった。これを取り出し粉砕後、80mm角、厚み3.0mmの板状にプレスしプレス成形体を得た。得られたプレス成形体の体積抵抗率を測定したところ、比較例4同様比較例3と比較し高い体積抵抗率となった(15×10−3 Ω・cm)。タルクも前記酸化物フィラ−同様に材料中の低融点金属をはじいてしまいうまく導電ネットワークが形成できないことが考えられた。
【0042】
ここで、実施例及び比較例で採用した金属亜鉛粉末(Zn)と低融点金属である金属錫(Sn)およびガラス繊維及びマトリクス樹脂であるPPSの含有量、及びそれらの評価結果を表1にまとめた。
【0043】
【表1】

【0044】
また、これらの数値を形成される共晶物含有量(Zn+Sn)と導電性組成物成型体の体積抵抗率の関係をまとめたのが図1である。ガラス繊維を含まない場合(図中表示「GF無し」比較例1、比較例2、比較例3)に対して、ガラス繊維を含んでいる場合(図中表示「GF有り」実施例1〜実施例3、比較例9)には、同じ含有量であっても体積抵抗率が低くなり、同じ体積低効率を達成するために必要な共晶物含有量が低いことがわかる。
【0045】
ここで実施例3の配合において配合されているガラス繊維を、組成や形状の異なるフィラ−で置換した場合の効果の違いを比較評価して表2にまとめた。
【0046】
【表2】

【0047】
他のフィラ−を用いた場合(比較例5〜比較例9)に比較して、ガラス繊維を用いた場合(実施例3)は高い導電性を示すことがわかる。
【0048】
好適な範囲の導電性樹脂組成物は引っ張り強度が35MPa以上であった。また、得られた成型品の密度は4.0g/cm以下であり、かつ体積抵抗率が1.1×10−3Ω・cm以下であった。
【0049】
図2はガラス繊維が含まれていない場合(比較例1)の導電性樹脂組成物の成型体表面のSEM写真である。1に示されているのは亜鉛と錫の共晶物であり、およそ10〜100μm程度の塊となり、それらが互いにつながりあってネックを持ったさらに大きな塊になった状態であることがわかる。2に示されているのはマトリクス樹脂であるPPSである。
【0050】
一方、図3はガラス繊維が含まれた場合である本発明実施例3の導電性樹脂組成物の成型体表面のSEM写真である。1は亜鉛と錫の共晶物であり、2はマトリクス樹脂であるPPSであり、3で示されているのはガラス繊維である。また、図4と図5はそれぞれ、図3で示された樹脂組成物成型品の成型体表面の同じ部分について、ガラス繊維の主成分である珪素(Si)と共晶物の主成分である亜鉛(Zn)の分布状態をマッピングしたものである。元素が検出された部分が白い点(シグナル)で表されるので、その元素が存在する部分は白くなって示される。
図2に示された比較例1の場合、つまりガラス繊維が含まれていない場合と同様に、図3に示された実施例3では図中1で示されている亜鉛と錫の共晶物がおよそ10〜100μm程度の塊となり、それらが互いにつながってネックを持ったさらに大きな塊になって導電ネットワークを形成していることがわかる。一方、図4では図中4で示されているSiの固まりが棒状になり、概略水平方向に並んでいる様子がわかる。また、図5では図中5で示されるZnの存在を示す塊が数珠繋ぎに概略水平方向に並んでいる様子がわかる。図3〜図5より、ガラス繊維が概略水平方向配向しており、それらによってさえぎられた状態で共晶物も概略水平に並んで存在している様子がわかる。ガラス繊維はマトリクス樹脂中にきれいに並んで分散されており、共晶物がその間に効率よく接合状態を確保しながら分散されることで導電ネットワークが形成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は通電、静電、ESD対策、抵抗体、発熱などの電気抵抗を利用する分野のほか、熱伝導、冷却などの熱を伝達する分野に使用される材料へも応用が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 金属亜鉛と金属錫の共晶物
2 PPS
3 ガラス繊維
4 Si元素を示すシグナル
5 Zn元素の存在を示すシグナル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系金属粉末とマトリクス樹脂の融点以下で溶融する低融点金属、およびガラス繊維をマトリクス樹脂中に含むことを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
使用される低融点金属が錫または錫合金であることが特徴の請求項1または請求項2に記載された導電性樹脂組成物。
【請求項3】
使用される亜鉛系金属粉末の平均粒子径が1〜100μmであり、その含有量が全組成物中20〜38体積%であることが特徴の請求項1記載または請求項2のいずれかに記載された導電性樹脂組成物。
【請求項4】
使用される低融点金属の含有量が亜鉛系金属粉末の含有量に対して体積比で0.1〜0.3倍であることが特徴の請求項1〜請求項3のいずれかに記載された導電性樹脂組成物。
【請求項5】
使用されるガラス繊維の含有量がマトリクス樹脂の含有量に対して体積比で0.09〜0.49倍であることが特徴の請求項1〜請求項4のいずれかに記載された導電性樹脂組成物。
【請求項6】
使用されるマトリクス樹脂がPPSであることが特徴の請求項1〜請求項5のいずれかに記載された導電性樹脂組成物。
【請求項7】
その樹脂組成物を用いて製造された成形品の密度が4g/cm3以下であり、かつその体積抵抗率が1.1×10−3Ω・cm以下であることが特徴の請求項1または請求項2のいずれかに記載された導電性樹脂組成物。
【請求項8】
その樹脂組成物を用いて製造された成形体の引張り強度が35〜85MPaであることが特徴の請求項1または請求項2のいずれかに記載された導電性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載された導電性樹脂組成物を用いて製造したことが特徴の導電性樹脂組成物成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−189565(P2010−189565A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36449(P2009−36449)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(594020961)株式会社メイト (8)
【Fターム(参考)】