説明

導電性樹脂組成物及び導電性成形品

【課題】 極めて良好な導電性、成形性及び機械的強度を有する導電性樹脂組成物及び導電性成形品を提供する。
【解決手段】 (a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーを基質とし、(b)融点が300℃以下の低融点金属、(c)金属粉末、及び(d)カーボン系フィラーを混合してなる導電性樹脂組成物及び導電性成形品。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、極めて高度の導電性、及び優れた成形性や機械的強度を有する導電性樹脂組成物及びそれを用いてなる導電性成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、各種樹脂からなる成形品に導電性を付与した導電性樹脂成形品として、合成樹脂に導電性フィラーを分散、混合した複合材料を用い成形した成形品が知られている。導電性フィラーとして金属系、カーボン系などが使用されているが、高度の導電性を付与するには導電性フィラーの添加量を大幅に増加せざるを得なく、その結果、成形性の悪化や、脆弱となり機械的強度が低下するため添加量は制限され、得られる成形品の導電性も体積固有抵抗値で10−1Ω・cmが限界であった。また、特開平10−237331号公報や特開平10−237315号公報に記載されているようにハンダを樹脂中に高度に分散させた系により体積固有抵抗値10−3Ω・cm以下を実現しているが、金属含有量が多いため比重が大きくなりすぎるという問題や、溶融物は脆弱であり射出成形は可能であるが、押出成形やカレンダー成形は不可能であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、極めて高度の導電性を有するとともに、金属含有量を減らして軽量化し、押出加工やカレンダー加工が可能で械的強度も優れた導電性樹脂組成物が求められていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至っった。即ち本発明の要旨は、(a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーを基質とし、これに(b)融点が300℃以下の低融点金属、(c)金属粉末、及び(d)カーボン系フィラーを混合してなる樹脂組成物にある。
【0005】本発明の好ましい実施態様としては、下記が挙げられる。
(a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーが樹脂組成物全体の20〜80容量%、(b)及び(c)を合わせた金属成分中の(c)金属粉末の割合が10〜30容量%、(d)のカーボン系フィラーが樹脂組成物全体の0.1〜5容量%の範囲であることを特徴とする導電性樹脂組成物であり、(b)成分の低融点金属が、Pb/Sn、Pb/Sn/Bi、Pb/Sn/Ag Pb/Ag Sn/Ag Sn/Bi、Sn/Cu、Sn/Zn系から選ばれた低融点合金からなることを特徴とし、(c)成分の金属粉末がCu、Ni、Al、Cr及びそれらの合金粉末からなり、その平均粒径が1〜50μmの範囲であることを特徴とする。また、(d)成分のカーボン系フィラーがカーボンブラック、黒鉛、カーボン繊維あるいはこれらの混合物からなることを特徴とする。さらに上記の導電性樹脂組成物を用いて成形してなる導電性成形品を含んでいる。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。本発明の導電性樹脂組成物及び成形品では、その材料が(a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマー、(b)融点が300℃以下の低融点金属、(c)金属粉末及び(d)カーボン系フィラーの混合物(以下、「混合材」という)からなることに特徴がある。このように熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーと導電性を付与するための金属成分および金属による導電性を補助するためのカーボン系フィラーを特定の組合せとすることにより、高度の導電性を維持させながら、金属成分量を低減させる事が可能となり、結果的に他の特性をバランス良く付与できることを見出したものである。混合材においては、混合比率を(a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーを組成物全体の20〜80容量%、好ましくは50〜70容量%の範囲で含有することが好ましい。樹脂成分が80容量%を越えると導電性が発現し難い傾向にあり、20容量%未満では、流動性が低下して成形性に劣り易い。
【0007】また、熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーと低融点金属との接着強度を向上させるために酸変成ポリオレフィンなどの界面接着剤を添加することも好適である。(c)の金属粉末は低融点金属の分散助剤として作用し、金属成分中の(c)金属粉末の割合を10〜30容量%、好ましくは15〜25容量%の範囲とすることが好ましい。10容量%未満では、分散状態が悪くなり、また30容量%を越えると流動性が低下するとともに脆化しやすく、さらに導電性も低下する傾向が見られる。(d)カーボン系フィラーは低融点金属の導電性を補助する働きがあり、わずかの添加で、導電性を維持しつつ低融点金属含有量の低減をはかる事が可能となる。理由は明確になっていないが、金属含有量の低下により切断される金属のネットワーク間をカーボン系フィラー粒子の連鎖が補完するためと考えられる。添加量は組成物全体の0.1〜5容量%、好ましくは0.2〜2容量%の範囲が好適である。0.1容量%未満では十分な補助効果を得ることができず金属含有量の低減が困難となり、5容量%以上では効果が飽和し、逆に樹脂の物性を損なう恐れがある。
【0008】混合材に用いられる(a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系、スチレン系、塩ビ系、ウレタン系、エステル系、アミド系など種々のタイプのものが使用可能である。押出シート化やカレンダー成形においては軟質系のものが好適である。
【0009】(b)の融点が300℃以下の低融点金属には各種のものが使用できる。融点の測定方法は通常の示差走査熱量測定法(DSC)により測定すればよく、融点が300℃を越える金属を使用すると成形性が劣るという問題がある。具体的にはPb/Sn、Pb/Sn/Bi、Pb/Sn/Ag Pb/AgSn/Ag Sn/Bi、Sn/Cu、Sn/Zn系から選ばれたはんだ合金が好適に使用できる。
【0010】(c)成分の金属粉末は上記低融点金属の分散助剤となるものであり、Cu、Ni、Al、Cr及びそれらの合金粉末が好適に使用でき、その平均粒径が1〜50μmの範囲のものが好ましい。平均粒径は試料を透過型電子顕微鏡により撮影し、写真から求めた数平均粒子径である。平均粒径が1μm未満では混合の際のハンドリングが困難であり、また50μmを越えるものでは分散性が低下し易い傾向がある。(d)成分のカーボン系フィラーは、カーボンブラック、黒鉛、カーボン繊維あるいはこれらの混合物である。また、(a)〜(d)成分の他に加工特性を向上させる為、溶融張力向上剤を添加することも有効である。溶融張力向上剤としては、三菱レイヨン(株)製「メタブレン A−3000」等が知られている。
【0011】本発明では上記混合材の各成分を用い、混合したものを所定の温度でニーダや二軸押出機等の混練機により混練後、造粒したものが成形品用の原料として供給できる。混練においては(c)低融点金属が半溶融状態となる温度が好ましく、マトリックスとなる熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーの溶融温度に応じて適切な金属組成を選択し、低融点金属と分散助剤となる銅粉、ニッケル粉末等の添加比率を適宜選択する必要がある。上記にカーボン系フィラーを適量添加することで、目標とする導電性を無添加品に比べて低金属含有量で実現できるため、成形加工性が向上する。成形加工法としては使用目的に応じて各種成形法が利用でき、使用目的に対応する形状の金型を用いて射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法等の通常の成形法により賦形し、本発明の成形品を得られる。成形品にはシート状の成形品も含まれ、Tダイ押出成形機やカレンダーによる製膜が可能である。
【0012】以上述べたように、本発明の導電性成形品は、熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーに低融点金属が含有されていることから、極めて高度の導電性を有する一方で、カーボン系フィラーの添加により従来品に比べ金属含有量の低減が可能となることから、溶融物の脆弱化を抑制し、成形性が容易となりまた最終的な成形品の機械的強度の低下も抑制でき、導電性隔壁、導電性部材、帯電防止材、電磁波シールド材、電極、コネクター、センサー、発熱体等の幅広い分野への適用が可能である。
【0013】
【実施例】以下、実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例)熱可塑性エラストマーとして「ペルプレンP55B」(東洋紡(株)製)、低融点金属として鉛フリーハンダ(Sn−4Cu−2Ni 融点 固相線225℃−液相線480℃)、金属粉末として平均粒径10μmの銅粉を用いた。カーボン系フィラーとしては「ケッチェンブラックEC」(ライオン(株)製)を用い、また溶融張力向上剤として「メタブレンA−3000」(三菱レイヨン(株)製)を用いた。低融点金属と銅粉を合わせた全金属成分中の銅粉の割合は20容量%に固定し、表1の配合であらかじめ各原料粉末を物理混合し、混練機(森山製作所製、2軸加圧タイプ)を用いて溶融混練後、プランジャー押出造粒機を用いて低融点金属含有樹脂ペレットを作成した。
【0014】混練条件は以下の通りである。
混練温度 : 200℃回転数 : 35r.p.m.
その後、150mm幅コートハンガーダイを具備した2軸押出機φ25(東洋精機(株)製 「2D25WS」)を用いて肉厚0.5mmの押出シート化を行った。押出条件は下記の通りである。
シリンダー温度 : 200℃スクリュ回転数 : 50r.p.m.
供給量 : 245g/min
【0015】押出シート品の各測定結果を表1に示す。比較例1は熱可塑性エラストマー単独、比較例2は熱可塑性エラストマーにカーボン系フィラーを添加した組成、比較例3〜5は熱可塑性エラストマーにカーボン系フィラーを添加せず金属成分のみを添加した組成である。一方、実施例1〜3は金属成分とともにカーボン系フィラーを添加した組成である。
【0016】体積固有抵抗値は、JIS K6911に準拠し「ロレスタHP」(三菱化学(株)製)により測定し、引張試験はJIS K7127、密度はJIS K7112に準拠して測定を行った。
【0017】
【表1】


【0018】比較例2から明らかなように、カーボン系フィラーのみを1容量%程度加えても単独ではほとんど各種物性値に対する効果が見られないが、比較例4と実施例1および比較例5と実施例3から明らかなように同等の金属含有量の系にカーボン系フィラーを1容量%加えた組成では体積固有抵抗値のオーダーが明らかに小さくなっており、30容量%の金属が含有されたカーボン添加品(実施例3)と40容量%の金属が含有されたカーボン無添加品(比較例4)がほぼ同程度の体積固有抵抗値となっている。また実施例3は金属含有量が少ない分、物性値の低下も抑制されており、比重も小さくなる。
【0019】実施例および比較例から明らかなように本発明の組成物は、カーボン系フィラーの若干の添加で、導電性を維持しつつ低融点金属含有量の低減を図ることが可能となっている。その結果、高い体積固有抵抗値を維持したまま、成形性および強度を改善することが可能となる。
【0020】
【発明の効果】上述したように、本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーに低融点金属が含有されていることから、極めて高度の導電性を示し、さらにカーボン系フィラーの若干の添加により金属含有量を低減させ、成形性、機械的強度の低下を抑制できるので、導電性隔壁、導電性部材、帯電防止材、電磁波シールド材、電極、コネクター、センサー、発熱体などの幅広い分野への適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーを基質とし、これに(b)融点が300℃以下の低融点金属、(c)金属粉末、及び(d)カーボン系フィラーを混合してなる導電性樹脂組成物。
【請求項2】 (a)熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーが樹脂組成物全体の20〜80容量%、(b)及び(c)を合わせた金属成分中の(c)金属粉末の割合が10〜30容量%、(d)のカーボン系フィラーが樹脂組成物全体の0.1〜5容量%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】 (b)成分の低融点金属が、Pb/Sn、Pb/Sn/Bi、Pb/Sn/Ag Pb/Ag Sn/Ag Sn/Bi、Sn/Cu、Sn/Zn系から選ばれた低融点合金からなることを特徴とする請求項1乃至2記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】 (c)成分の金属粉末がCu、Ni、Al、Cr及びそれらの合金粉末からなり、その平均粒径が1〜50μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】 (d)成分のカーボン系フィラーがカーボンブラック、黒鉛、カーボン繊維あるいはこれらの混合物からなることを特徴とする請求項1乃至4記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】 請求項1乃至5記載の導電性樹脂組成物を用いて成形してなる導電性成形品。
【請求項7】 シート状に成形してなる請求項6記載の導電性成形品。

【公開番号】特開2002−212443(P2002−212443A)
【公開日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−14056(P2001−14056)
【出願日】平成13年1月23日(2001.1.23)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】