説明

導電性組成物及びそれを用いた太陽電池の製造方法並びに太陽電池

【課題】得られる電極の適切な電気的性能と基板との密着性を確保する。
【解決手段】導電性組成物は、銀粉末とPbO−SiO2−B23を主成分とするガラス粉末と有機物からなるビヒクルとを含み、窒化ケイ素層11を貫通してこの層11の下に形成されたn型半導体層12と導通する電極13を形成する。銀粉末の組成物中の比率が70質量%以上95質量%以下であり、ガラス粉末が銀粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であり、ガラス粉末の塩基度が0.5以上0.8以下であってガラスの転移点が300℃〜450℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に太陽電池の電極を形成するための導電性組成物に関する。更に詳しくは、太陽電池の窒化ケイ素層を貫通して電極を形成するための導電性組成物及びそれを用いた太陽電池の製造方法並びに太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池としてp型半導体基板を有するものが知られている。この太陽電池にはpn接合が作成され、このpn接合に向かう適切な波長の放射線は、この太陽電池内に正孔−電子対を発生させる外部エネルギーの供給源として働くようになっている。そして、pn接合に存在する電位差のため、正孔と電子とはこの接合部を反対方向に横断し、それによって、電力を外部回路に送出することが可能な電流の流れを引き起こすようになっている。そして、このような構成を有するほとんどの太陽電池は、メタライズされているシリコンウェーハ、すなわち導電性である金属接点が設けられているシリコンウェーハの形をとる。
【0003】
ここで、現在、地球上で使用されているほとんどの発電用の太陽電池は、シリコン太陽電池である。この太陽電池ではp型半導体基板が用いられ、そのp型半導体基板の上面にn型半導体層を形成してpn接合とし、そのn型半導体層の上に反射防止用のコーティングとして窒化ケイ素層を更に形成している。そして、その窒化ケイ素層を貫通してn型半導体層と導通する電極をその窒化ケイ素層の上に形成している。ここで、このようなシリコン太陽電池を生産するためのプロセスでは、一般に、大量生産を可能とすべく単純化を最大限に実現すること、および製造コストを最小限に抑えることが目標とされている。このため、電極の形成に関してはいわゆる「ファイアスルー」と呼ばれる手順により行われている。
【0004】
この電極を形成する「ファイアスルー」と呼ばれる具体的な手順は、先ず、スクリーン印刷などの方法を使用して窒化ケイ素層の上にペースト状の導電性組成物を直線状又は櫛歯状に印刷する。この導電性組成物中には銀粉末が含まれ、そのペーストを焼成することによりその銀を窒化ケイ素層に浸透させる。次いでそのペーストを焼成することにより得られた電極が窒化ケイ素層を貫通してその窒化ケイ素層の下のn型半導体層と導通させるようになっている。そして、このような電極を作るためのものとしてホウ素を含む導電性ペーストが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−93433号公報(明細書[0014]、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記「ファイアスルー」と呼ばれる電極の形成においては、スラリー状の導電性組成物を焼成することに得られた電極とn型半導体層の間に窒化ケイ素層が残存するとその電極の密着性が確保されない不具合が生じる。一方、焼成する際に 窒化ケイ素層に浸透するペースト状導電性組成物中の銀がその窒化ケイ素層の下のn型半導体層に更に浸透してしまうと、電極が直接p型半導体基板と導通してしまって、電極とn型半導体層の十分な導電性が得られない不具合を生じさせる。このため、太陽電池の性能を増大させるためには、窒化ケイ素層を貫通する電極とn型半導体層との適切な導通性を確保する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、焼成することにより得られる電極の適切な電気的性能と基板との密着性を確保し得る導電性組成物及びそれを用いた太陽電池の製造方法並びに太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、図1に示すように、銀粉末とPbO−SiO2−B23を主成分とするガラス粉末と有機物からなるビヒクルとを含み、窒化ケイ素層11を貫通して窒化ケイ素層11の下に形成されたn型半導体層12と導通する電極13を形成するための導電性組成物である。
【0009】
その特徴ある点は、銀粉末の組成物中の比率が70質量%以上95質量%以下であり、ガラス粉末が銀粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下含まれ、ガラス粉末の塩基度が0.5以上0.8以下であってガラスの転移点が300℃〜450℃であることにある。
【0010】
この第1の観点に記載された導電性組成物では、PbO−SiO2−B23を主成分とするガラス粉末の塩基度を0.5以上とするので、焼成により太陽電池10における窒化ケイ素層11を確実に貫通させることができ、得られた電極の密着性を確保することができる。また、その塩基度を0.8以下とするので、焼成により得られた電極がn型半導体層12を越えて直接p型半導体基板と導通するような事態を回避して、得られた電極とn型半導体層12の十分な導電性を得ることができる。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、導電性組成物中のガラス粉末の微量成分としてFe23,TiO2,SiO2,Al23,ZrO2及びNiOからなる群より選ばれた1又は2以上の酸化物を0モル%を越えて5モル%以下含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の観点は、図1及び図2に示すように、p型半導体基板14に酸又はアルカリによるエッチング処理を施して、このp型半導体基板14のスライスダメージを除去する工程と、このp型半導体基板14にテクスチャエッチング処理を施して、このp型半導体基板14の上面にテクスチャ構造を形成する工程と、このp型半導体基板14の上面にn型ドーパントを熱拡散させることにより、p型半導体基板14の上面にn型半導体層12を形成する工程と、このn型半導体層12上に窒化ケイ素層11を形成する工程と、この窒化ケイ素層11上に第1又は第2の観点に基づく導電性組成物を直線状又は櫛歯状に印刷する工程と、p型半導体基板14の下面に、Alペースト17を印刷する工程と、この印刷した導電性組成物及びAlペースト17を有するp型半導体基板14を700〜975℃の温度で1〜30分間焼成することにより、上記窒化ケイ素層11を貫通して上記n型半導体層12と導通する電極13を形成するとともに、p+層16、Al−Si合金層19、アルミニウム裏面電極18を形成する工程とを含む太陽電池の製造方法である。
【0013】
この第3の観点に記載された方法では、所定の導電性組成物を用いて、上記焼成条件により、電極13が窒化ケイ素層11を介することなくn型半導体層12と導通し、かつ直接p型半導体基板14と導通することもない。
【0014】
本発明の第4の観点は、p型半導体基板14と、p型半導体基板14の上面に形成されたn型半導体層12と、n型半導体層12の上に形成された窒化ケイ素層11と、請求項1記載の導電性組成物の焼き付けにより形成され窒化ケイ素層11を貫通してn型半導体層12と導通する直線状又は櫛歯状の電極13とを備える太陽電池である。
【0015】
この第4の観点に記載された太陽電池では、窒化ケイ素層11を貫通する電極13とn型半導体層12との適切な導通性が確保され、その性能を増大させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電極を形成するための導電性組成物では、銀粉末の組成物中の比率が70質量%以上95質量%以下であり、ガラス粉末が銀粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下含まれ、PbO−SiO2−B23を主成分とするガラス粉末の塩基度が0.5以上0.8以下であってガラスの転移点が300℃〜450℃であることを要件とするので、焼成により太陽電池における窒化ケイ素層を確実に貫通させることができ、得られた電極の密着性を確保するとともに、得られた電極がn型半導体層を越えて直接p型半導体基板と導通するような事態を回避して、その電極とn型半導体層の十分な導電性を得ることができる。そして、このような導電性組成物の焼き付けにより形成された直線状又は櫛歯状の電極を備える太陽電池では、窒化ケイ素層を貫通する電極とn型半導体層との適切な導通性が確保され、その性能を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明実施形態の導電性組成物を用いた太陽電池の断面図である。
【図2】その太陽電池の焼成前の状態を示す図1に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
本発明の導電性組成物は、図1に示すように、太陽電池10における窒化ケイ素層11を貫通してその窒化ケイ素層11の下に形成されたn型半導体層12と導通する電極13を形成するためのものである。そしてこの導電性組成物は、銀粉末とPbO−SiO2−B23を主成分とするガラス粉末と有機物からなるビヒクルとを含む。ここで、銀粉末の組成物中の比率は70質量%以上95質量%以下である。この銀粉末が70質量%未満であると、焼成後の電極13の電気抵抗が高くなり、太陽電池10の特性低下を招くおそれがあるためであり、また、95質量%を超えると、塗布性が低下する傾向にあるためである。ここで、銀粉末の組成物中の比率は80質量%以上90質量%以下であることが更に好ましい。また、その銀粉末は、その塗布性および塗布膜の均一性の観点からは、その平均粒径は、レーザー回析散乱法により得られるところの平均粒径が0.1〜2.0μmであるのが好ましく、0.5〜1.0μmであることが更に好ましい。
【0020】
ガラス粉末はPbO−SiO2−B23を主成分とするものであって、銀粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下含まれる。このガラス粉末は、焼成後の電極13における密着性を向上させるために添加されるものであり、このガラス粉末が銀粉末100質量部に対して1質量部未満であると、焼成後の電極13の接着強度が低下する不具合があり、このガラス粉末が銀粉末100質量部に対して10質量部を越えると、ガラスの偏析が生じるおそれを生じる。このガラス粉末は、銀粉末100質量部に対して3質量部以上7質量部以下であることが更に好ましい。
【0021】
また、ガラス粉末の塩基度は0.5以上0.8以下である。この「塩基度」は、森永健次らにより提案されたものであり、例えば彼の著書「K.Morinaga, H.Yoshida And H.Takebe:J.Am Cerm.Soc.,77,3113(1994)」の中で以下に示すような式を用いてガラス粉末の塩基度を規定している。この抜粋を以下に示す。
【0022】
「酸化物MiOのMi−O間の結合力は陽イオン−酸素イオン間引力Aiとして次式で与えられる。
【0023】
i=Zi・Z02−/(ri+r02−2=Zi・2/(ri+1.40)2
i:陽イオンの価数,酸素イオンは2
i:陽イオンのイオン半径(Å),酸素イオンは1.40Å
このAiの逆数Bi(1/Ai)を単成分酸化物MiOの酸素供与能力とする。
【0024】
i≡1/Ai
このBiをBCaO=1、BSiO2=0と規格化すると、各単成分酸化物のBi−指標が与えられる。この各成分のBi−指標を陽イオン分率により多成分系へ拡張すると、任意の組成のガラス酸化物の融体のB−指標(=塩基度)が算出できる。B=Σni・Bi
i:陽イオン分率
このようにして規定された塩基度は上記のように酸素供与能力をあらわし、値が大きいほど酸素を供与し易く、他の金属酸化物との酸素の授受が起こり易い。」
上記森永健次の著書の記載から明らかなように、「塩基度」とはガラス融体中への溶解の程度を表すものということができ、上記式により得られるガラス粉末の塩基度が0.5以上であれば、焼成により太陽電池10における窒化ケイ素層11を確実に貫通させることができ、得られた電極の密着性を確保することができる。一方、ガラス粉末の塩基度が0.8以下であれば、焼成により得られた電極がn型半導体層12を越えて直接p型半導体基板と導通するような事態を回避して、得られた電極とn型半導体層12の十分な導電性を得ることができる。
【0025】
また、ガラス粉末のガラスの転移点は300℃〜450℃であって、更に300℃〜400℃であることが好ましい。ガラスの転移点を300℃〜450℃とすることにより、焼成中にガラスが軟化して電極と基板界面に流動し、ガラスと窒化ケイ素層が反応することが可能となる。
【0026】
なお、ガラス転移点Tgは以下のようにして測定した。示差熱天秤 (株)マックサイエンス社製TG-DTA2000sを用い、測定条件として昇温速度10℃/minにて900℃まで昇温した。この時、基準物質との温度差を温度に対してプロットしたグラフを得た。このようにして得られたグラフ(DTA曲線)から、基線に沿う接線と第1の変曲点から第2の変曲点までの曲線に沿う接線との交点をガラス転移点Tgとした。
【0027】
ビヒクルは、印刷に適した流体力学的性質を有する「ペースト」と呼ばれる粘性組成物を形成するためのものであり、有機物であることを要件とする。そして、このビヒクルとしては、エチルセルロース、アクリル樹脂、アルキッド樹脂などを溶剤に溶解したものが例示される。その他、エチルヒドロキシエチルセルロース、ウッドロジン、エチルセルロースとフェノール樹脂の混合物、低級アルコールのポリメタクリレート、エチレングリコールモノアセテートのモノブチルエーテルを含めたポリマーも例示することができる。そして、このビヒクルには、増粘剤、安定剤、又はその他の一般的な添加剤が適宜含まれる。
【0028】
次に、本発明の導電性組成物を用いた太陽電池の製造方法を説明する。
【0029】
図2に示すように、先ず、p型半導体基板14を準備する。この基板としてSi基板を用いる場合、単結晶基板、多結晶基板のいずれであってもよい。この場合、最初に所望の厚さにスライスされた基板14のスライスダメージを除去するため、10〜20μm程度表面をフッ酸(フッ化水素酸)と硝酸との混酸または水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液でエッチングすることが好ましい。単結晶基板を用いる場合、上面の反射を抑えるためにその上面にテクスチャ構造を形成するのが好ましい。このテクスチャ構造は、濃度1〜5%の水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液にイソプロピルアルコールを3〜10%加え、80℃前後で30〜60分エッチングすることにより形成することができる。また、テクスチャエッチングを行う前にp型半導体基板14の下面に数百nmの酸化膜を成膜することによって受光面のみをテクスチャ構造とすることができる。
【0030】
このp型半導体基板14の下面には、従来から公知の方法によりp+層16を形成する。図2に示すように、Alペーストを用いる場合には、Alペースト17をp型半導体基板14の下面に印刷し、その後焼成する。Alペースト17は、焼成によって、乾燥状態から図1に示すアルミニウム裏面電極18に変換する。焼成中、裏面のAlペースト17とp型半導体基板14の裏面との境界は合金状態を成し、焼成後にその境界にAl−Si合金層19を形成する。そして、そのAl−Si合金層19のp型半導体基板14側にp+層16が形成される。
【0031】
なお、このp+層16の形成方法としては、Alペースト17を必ずしも用いなくても良く、他の方法であっても良い。例えば、700〜1000℃で数十分間BBr3を気相拡散する方法により、p型半導体基板14の下面にp+層16を形成しても良い。この方法によりp+層16を形成する場合、受光面側に拡散されないように予め受光面側に酸化膜などを形成しておく必要がある。また、ホウ素化合物を含む薬液をp型半導体基板14にスピンコートしてから700〜1000℃でアニールする方法やイオン注入によりp+層16を拡散して形成する方法であっても良い。
【0032】
一方、p型半導体基板14の上面にはn型半導体層12が形成される。このn型半導体層12は、リン(P)などの熱拡散によって形成することができ、この場合オキシ塩化リン(POCl3)がリン拡散源として一般に使用される。例えば、この半導体層12をp型半導体基板14の全面に形成した後、その上面をレジストなどで保護した後、n型半導体層12が上面にのみ残るよう、エッチングによってほとんどの面から除去する。次いで有機溶媒などを使用して、レジストを除去することにより、p型半導体基板14の上面にn型半導体層12を形成することができる。なお、このn型半導体層12は、平方センチメートル当たりが数十オーム程度の面積抵抗率と、約0.3から0.5μmの厚さとを有することが好ましい。
【0033】
次に、このn型半導体層12の上に反射防止用のコーティングとしての窒化ケイ素層11を形成する。この窒化ケイ素層11は、プラズマ化学気相成長法(CVD)などのプロセスにより、約700から900Åの厚さになるまでn型半導体層12上に形成する。
【0034】
そして、前述した導電性組成物を用い、窒化ケイ素層11を貫通してこの下に形成されたn型半導体層12と導通する電極13をいわゆる「ファイアスルー」と呼ばれる手順により形成する。具体的には、図2に示すように、前述した導電性組成物からなるペースト21を、窒化ケイ素層11上に直線状又は櫛歯状に印刷する。このペースト21の印刷にあってはスクリーン印刷が好ましいが、他の印刷方法であっても良い。その後、約700から975℃の温度範囲の赤外炉内で、1〜30分間、好ましくは数分から数十分間焼成を行う。この焼成によりペースト21中の銀を窒化ケイ素層11に浸透させ、図1に示すように、焼成することにより得られた電極13を窒化ケイ素層11を貫通してその窒化ケイ素層11の下のn型半導体層12と導通させる。このように、焼成することにより得られた電極13は、その適切な電気的性能とn型半導体層12との密着性を確保することができる。
【0035】
このようにして、p型半導体基板14と、そのp型半導体基板14の上面に形成されたn型半導体層12と、そのn型半導体層12の上に形成された窒化ケイ素層11と、その窒化ケイ素層11を貫通してn型半導体層12と導通する直線状又は櫛歯状の電極13とを備える太陽電池10を得る。
【0036】
このように構成された太陽電池10では、窒化ケイ素層11を貫通する電極13とn型半導体層12との適切な導通性が確保される結果、その性能を増大させることができる。
【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0038】
<実施例1>
導電性ペーストを下記のように作製した。
【0039】
先ず、α−テルピネオール及びブチルカルビトールアセテートを2:1で混合した溶剤を13質量部、エチルセルロース樹脂を1.5質量部及び分散剤としてジカルボン酸系分散剤を0.5質量部とを混合したビヒクルを得た。
【0040】
次に、導電性粉末としての平均粒径0.8μmのAg粉末を82.5質量部と、鉛系ガラスフリットとしての塩基度が0.5、ガラス転移点が400℃の平均粒径0.5μmのPbO−SiO2−B23を2.5質量部とを、ビヒクル15質量部に混合した後、三本ロールで混練し、Ag粉末及びガラス粉末を分散させた導電性ペーストを得た。この時使用したガラス粉末には、微量成分として、Fe23,TiO2,SiO2,Al23,ZrO2及びNiOが、合計で0.2mol%含まれていた。
【0041】
次に、上記ペーストを用いて電極付き基板を下記のように作製した。
【0042】
25mm角、0.6mm厚のp型多結晶Si基板を、イソプロピルアルコールを含む水酸化ナトリウム水溶液にて、表面をエッチングし、2〜3μmの凹凸を有するテクスチャを形成した。次に、基板の一方に、リン化合物(POCl3)を塗布した後、800℃にて数分間、加熱することにより、厚さが約0.4μmのn型Si層を形成した。続いて、プラズマCVDにより厚さ0.07μmの窒化ケイ素膜を形成した。その後、基板表面の窒化ケイ素膜上に、ライン幅100μm×長さ17mmのパターン6本をスペース幅2mmにて配置した櫛型パターンを有する乳剤厚30μmのスクリーン版を用いて、前記導電性ペーストをスクリーン印刷し、幅約120μm、厚さ約25μmの印刷パターンを形成した後、ベルト式乾燥炉にて150℃で、10分間、乾燥した。また、基板の裏面には、20mm角ベタパターンを有する、乳剤厚30μmのスクリーン版を用いて、Alペーストをスクリーン印刷し、約20mm角、厚さ約20μmの印刷パターンを形成した後、同様に、ベルト式乾燥炉にて150℃で、10分間、乾燥した。更に、赤外線ランプ加熱炉を用いて、大気中で、室温から800℃まで、15秒で昇温した後、15秒で室温まで冷却して、表面には櫛型電極を、裏面には、Al電極が形成された太陽電池セル基板を得た。このようにして塩基度が0.5、ガラス転移点が400℃のガラス粉末を含むペーストを用いた太陽電池セル基板を実施例1とした。
【0043】
<実施例2>
導電性ペースト中の鉛系ガラスフリットの塩基度が0.6、ガラス転移点が360℃の平均粒径0.5μmのPbO−SiO2−B23であること以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストの調製を行い、その後実施例1と同様の条件及び手順により表面には櫛型電極を、裏面には、Al電極が形成された太陽電池セル基板を得た。このようにして塩基度が0.6、ガラス転移点が360℃のガラス粉末を含むペーストを用いた太陽電池セル基板を実施例2とした。
【0044】
<実施例3>
導電性ペースト中の鉛系ガラスフリットの塩基度が0.7、ガラス転移点が340℃の平均粒径0.5μmのPbO−SiO2−B23であること以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストの調製を行い、その後実施例1と同様の条件及び手順により表面には櫛型電極を、裏面には、Al電極が形成された太陽電池セル基板を得た。このようにして塩基度が0.7、ガラス転移点が340℃のガラス粉末を含むペーストを用いた太陽電池セル基板を実施例3とした。
【0045】
<実施例4>
導電性ペースト中の鉛系ガラスフリットの塩基度が0.8、ガラス転移点が320℃の平均粒径0.5μmのPbO−SiO2−B23であること以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストの調製を行い、その後実施例1と同様の条件及び手順により表面には櫛型電極を、裏面には、Al電極が形成された太陽電池セル基板を得た。このようにして塩基度が0.8、ガラス転移点が320℃のガラス粉末を含むペーストを用いた太陽電池セル基板を実施例4とした。
【0046】
<比較例1>
導電性ペースト中の鉛系ガラスフリットの塩基度が0.4、ガラス転移点が620℃の平均粒径0.5μmのPbO−SiO2−B23であること以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストの調製を行い、その後実施例1と同様の条件及び手順により表面には櫛型電極を、裏面には、Al電極が形成された太陽電池セル基板を得た。このようにして塩基度が0.4、ガラス転移点が620℃のガラス粉末を含むペーストを用いた太陽電池セル基板を比較例1とした。
【0047】
<比較例2>
導電性ペースト中の鉛系ガラスフリットの塩基度が0.9、ガラス転移点が290℃の平均粒径0.5μmのPbO−SiO2−B23であること以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストの調製を行い、その後実施例1と同様の条件及び手順により表面には櫛型電極を、裏面には、Al電極が形成された太陽電池セル基板を得た。このようにして塩基度が0.9、ガラス転移点が290℃のガラス粉末を含むペーストを用いた太陽電池セル基板を比較例2とした。
【0048】
<比較試験及び評価>
実施例1〜4、比較例1〜2における電極付き基板の表面電極と裏面電極とをI・Vテスタにて接続し、直列抵抗値の測定を行った。評価については、I・V曲線から算出される直流抵抗値が基準値より低く、かつI・V曲線がダイオード特性を示す場合を合格とし、I・V曲線から算出される直流抵抗値が基準値より高く、かつI・V曲線がダイオード特性を示さない場合を不合格とした。この評価結果をガラスの組成とともに表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

表1及び表2から明らかなように、実施例1〜4にあっては、I・V曲線から算出される直流抵抗値が基準値より低く、かつI・V曲線がダイオード特性を示している。これに対して、比較例1〜2では、I・V曲線から算出される直流抵抗値が基準値より高く、かつI・V曲線がダイオード特性を示さないことが判る。
【0051】
よって、ガラス粉末の塩基度が0.5以上0.8以下、ガラス転移点が300℃以上450℃以下である導電性組成物を用いることにより、太陽電池セル基板における比較的高い発電効率を得ることができ、本発明が有効に成立することが判る。
【符号の説明】
【0052】
10 太陽電池
11 窒化ケイ素層
12 n型半導体層
13 電極
14 p型半導体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉末とPbO−SiO2−B23を主成分とするガラス粉末と有機物からなるビヒクルとを含み、窒化ケイ素層(11)を貫通して前記窒化ケイ素層(11)の下に形成されたn型半導体層(12)と導通する電極(13)を形成するための導電性組成物であって、
前記銀粉末の前記組成物中の比率が70質量%以上95質量%以下であり、
前記ガラス粉末が前記銀粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下含まれ、
前記ガラス粉末の塩基度が0.5以上0.8以下であってガラスの転移点が300℃〜450℃であることを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
ガラス粉末の微量成分としてFe23,TiO2,SiO2,Al23,ZrO2及びNiOからなる群より選ばれた1又は2以上の酸化物を0モル%を越えて5モル%以下含むことを特徴とする請求項1記載の導電性組成物。
【請求項3】
p型半導体基板(14)に酸又はアルカリによるエッチング処理を施して、前記p型半導体基板(14)のスライスダメージを除去する工程と、
前記p型半導体基板(14)にテクスチャエッチング処理を施して、前記p型半導体基板(14)の上面にテクスチャ構造を形成する工程と、
前記p型半導体基板(14)の上面にn型ドーパントを熱拡散させることにより、前記p型半導体基板(14)の上面にn型半導体層(12)を形成する工程と、
前記n型半導体層(12)上に窒化ケイ素層(11)を形成する工程と、
前記窒化ケイ素層(11)上に請求項1又は2記載の導電性組成物を直線状又は櫛歯状に印刷する工程と、
前記p型半導体基板(14)の下面に、Alペーストを印刷する工程と、
前記印刷した導電性組成物及びAlペーストを有するp型半導体基板(14)を700〜975℃の温度で1〜30分間焼成することにより、前記窒化ケイ素層(11)を貫通して前記n型半導体層(12)と導通する電極(13)を形成するとともに、p+層(16)、Al−Si合金層(19)、アルミニウム裏面電極(18)を形成する工程と
を含む太陽電池の製造方法。
【請求項4】
p型半導体基板(14)と、前記p型半導体基板(14)の上面に形成されたn型半導体層(12)と、前記n型半導体層(12)の上に形成された窒化ケイ素層(11)と、請求項1又は2記載の導電性組成物の焼き付けにより形成され前記窒化ケイ素層(11)を貫通して前記n型半導体層(12)と導通する直線状又は櫛歯状の電極(13)とを備える太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−238955(P2010−238955A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86009(P2009−86009)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】