説明

導電性繊維およびその製造方法

【課題】繊維に電子共役系重合体を複合化して導電性を付与した繊維として、アクリル繊維を染色したのちに電子共役系重合体であるポリピロールを複合化し得られた繊維や、ビニロン繊維をスルホン酸基を有する有機化合物により中和したのちにピロール系重合体を複合化した繊維など、従来からさまざまな提案されている。しかしながら、これらの繊維は導電性被膜の強度が弱く脱落しやすいものである。
【解決手段】スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維であって該繊維の重量に対するスルホン酸基量が0.1mmol/g以上である繊維に電子共役系重合体が被覆されており、前記スルホン酸基と前記電子共役系重合体によるイオン結合を有していることを特徴とする導電性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IC製造工場および引火性物質を取り扱う場所において、衣類に静電気が帯電していると静電気の放電によってICを破損したり、放電の火花が引火性物質に引火して爆発事故および火災などが発生する危険がある。このため、IC製造工場または引火性物質を取り扱う場所では、通常、作業者は静電気が帯電しないように導電性を有する衣類を着用し作業を行うのが普通である。
【0003】
衣類等の繊維製品に導電性を付与する方法として、帯電防止剤を塗布する、直径10〜15μm程度の極細ステンレス繊維を一部に織り込む、あるいは繊維表面を硫化銅で被覆した15〜30μm程度のアクリル繊維を用いる等の方法が知られている。
【0004】
しかしながら、極細ステンレス繊維を織り込んだ繊維製品は、耐屈曲性に劣り、折れて抜け落ちたり、繊維製品の風合いを損なったりする問題があり、また繊維製品の製織が煩雑である等の欠点があった。また、硫化銅で被覆したアクリル繊維の場合には、硫化銅粉の脱落が著しくクリーンルーム内では使用できないという欠点があった。
【0005】
これらの欠点を解決することに着目し、繊維に電子共役系重合体を複合化して導電性を付与する方法が、多く提案されている。例えば、アクリル繊維を染色したのちに電子共役系重合体であるポリピロールを複合化し得られた繊維(例えば、特許文献1)や、ビニロン繊維をスルホン酸基を有する有機化合物により中和したのちにピロール系重合体を複合化した繊維(例えば、特許文献2)などがあるが、これらは導電性が十分であるとは言えず、ポリピロール薄膜の強度が弱く脱落しやすいという問題を有している。
【特許文献1】特開平3−294579号 公報
【特許文献2】特開平6−184944号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子共役系重合体被膜が脱落しにくくかつ導電性を向上させた繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維を用いることにより、電子共役系重合体を繊維により強固に結合できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維であって該繊維の重量に対するスルホン酸基量が0.1mmol/g以上である繊維に電子共役系重合体が被覆されており、前記スルホン酸基と前記電子共役系重合体によるイオン結合を有していることを特徴とする導電性繊維。
(2)スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維が、スルホン酸基を有するビニル系単量体を含有する溶液に、水に対する膨潤度が0.5g/g以上である水膨潤性繊維を浸漬させた状態で重合を行うことによって、繊維にスルホン酸基を有するビニル系重合体を複合させたものであることを特徴とする(1)に記載の導電性繊維。
(3)水膨潤性繊維が架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維であることを特徴とする(2)に記載の導電性繊維。
(4)架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維が、アクリル繊維に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物を反応させて架橋構造を導入し、加水分解によってカルボキシル基を導入した繊維であることを特徴とする(3)に記載の導電性繊維。
(5)架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維のカルボキシル基量が2mmol/g以上であることを特徴とする(3)または(4)に記載の導電性繊維。
(6)電子共役系重合体を生成しうる単量体を含有する溶液に、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維であって該繊維の重量に対するスルホン酸基量が0.1mmol/g以上である繊維を浸漬させた状態で前記単量体を重合させ、該繊維表面に電子共役系重合体の被覆層を形成させることを特徴とする導電性繊維の製造方法。
(7)電子共役系重合体を生成しうる単量体の重合を行う前に、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維のスルホン酸基をH型としておくことを特徴とする(6)に記載の導電性繊維の製造方法。
(8)スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維が、スルホン酸基を有するビニル系単量体を含有する溶液に、水に対する膨潤度が0.5g/g以上である水膨潤性繊維を浸漬させた状態で重合を行うことによって、繊維にスルホン酸基を有するビニル系重合体を複合させたものであることを特徴とする(6)または(7)に記載の導電性繊維の製造方法。
(9)水膨潤性繊維が架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維であることを特徴とする(8)に記載の導電性繊維の製造方法。
(10)架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維が、アクリル繊維に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物を反応させて架橋構造を導入し、加水分解によってカルボキシル基を導入した繊維であることを特徴とする(9)に記載の導電性繊維の製造方法。
(11)架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維のカルボキシル基量が2mmol/g以上であることを特徴とする(9)または(10)に記載の導電性繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性繊維は、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維を用いることにより電子共役系重合体を繊維にイオン結合させ繊維表面に強固な導電性被膜を形成させたものであり、優れた耐久性と導電性を有するものである。かかる性能を有する本発明の導電性繊維は、例えば帯電防止材、電磁シールド材、静電気対策用のOA機器の備品などとして利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明のスルホン酸基を有するビニル系重合体としては、スルホン酸基を有する限り、特に限定はなく、スルホン酸基を有するビニル系単量体の単独重合体や該単量体と他のビニル系単量体との共重合体などを採用することができる。スルホン酸基を有するビニル系単量体としてはビニルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、2−(アクリロイルアミノ)−2-メチル−1−プロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸などの不飽和炭化水素スルホン酸およびこれらの塩類などを挙げることができる。また、共重合する場合に用いうるその他のビニル系単量体としては、スチレン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン、アクリロニトリル、あるいはメタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル類などが挙げられる。
【0011】
上述したスルホン酸基を有するビニル系重合体を繊維に含有せしめる量としては、含有せしめた繊維全体の重量に対してスルホン酸基量が0.1mmol/g以上となるようにするのが好ましく、より好ましくは0.5mmol/g以上、さらに好ましくは1mmol/g以上、最も好ましくは2mmol/g以上である。スルホン酸基量が0.1mmol/g未満の場合には電子共役系重合体とスルホン酸基とのイオン結合の数が少なくなり、目的とする導電性の耐久性が得られず好ましくない。また、スルホン酸基量が4mmol/gを超えると、十分な繊維物性を確保することができない場合がある。
【0012】
スルホン酸基を有するビニル系重合体を繊維に含有せしめる方法としては、
(1)スルホン酸基を有するビニル系重合体を繊維化する
(2)繊維形成時にスルホン酸基を有するビニル系重合体粒子を練り込む
(3)形成された繊維にスルホン酸基を有するビニル系重合体を複合させる
等の方法を採用できる。特に、多量のスルホン酸基を含有せしめる場合には可紡性などの繊維形成時の制約を受けない(3)が好ましい。
【0013】
(3)の場合の基材となる繊維に上述したスルホン酸基を有するビニル系重合体を複合させる方法としては、
A.基材となる繊維をスルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する溶液や分散液に浸漬する
B.基材となる繊維と、スルホン酸基を有するビニル系単量体、あるいはスルホン酸基を有するビニル系単量体および該単量体と共重合しうるビニル系単量体を分散媒中で混合し、重合させる
などの方法を採用できる。
【0014】
これらの複合させる方法において、溶媒あるいは分散媒としては、有機溶媒なども使用できるが環境負荷などの観点から水を使用することが望ましい。水を採用する場合、基材となる繊維としては水膨潤性繊維であることが好ましい。水膨潤性繊維であれば、浸漬時に繊維が水膨潤し、繊維表面だけでなく、内部にもスルホン酸基を有するビニル系重合体や単量体が入り込むので、より多くまた繊維内部においてもスルホン酸基を有するビニル系重合体を複合させることが可能となり、後述するように電子共役系重合体の被覆層をより強固なものとすることができる。上述のA法、B法のうち、繊維内部への入り込みやすさという観点から、分子量の小さい単量体を使用するB法がこのような特徴をより効果的に発現させることができる。
【0015】
B法においては、まず、上述した水膨潤性繊維などの基材となる繊維と、スルホン酸基を有するビニル系単量体あるいはスルホン酸基を有するビニル系単量体および該単量体と共重合しうるビニル系単量体との混合液を調製する。混合液の調製方法は特に限定されるものではなく、例えば、単量体を水、または有機溶媒、またはそれらの混合液に溶かし、基材となる繊維と混合し、その後、重合開始剤を単量体溶液に含ませる方法、あるいは、重合開始剤を単量体溶液に含ませた後、基材となる繊維を混合する方法、基材となる繊維を水、または有機溶媒、またはそれらの混合液に分散させ、重合開始剤および単量体を添加する方法などが挙げられる。ここで、重合開始剤としては、単量体の種類などに応じて適宜選択すればよく、例えば、過酸化水素やアゾ系化合物などのラジカル重合開始剤を用いることができる。また、混合液中の単量体の量は、基材となる繊維に上述した量のスルホン酸基が導入されるように適宜設定すればよいが、好ましくは基材となる繊維に対して10重量%以上添加することが望ましい。
【0016】
重合にあたっては、反応系をpH6.0以下にする。pH6.0以下にすることで、重合が起こり、繊維中にスルホン酸基を有するビニル系重合体が複合される。特に、pHが1.0〜4.0の場合には、繊維中に多くの重合体が複合されるので、工業的に好ましい。一方、pHが6.0を越えると、繊維内部での重合が起こりにくく、特に導電性被膜の耐久性が不十分となりやすい。pH6.0以下にする方法は特に限定されず、酸を添加するなどして、重合時に反応系がpH6.0以下になっていればよい。
【0017】
重合温度は、特に限定されないが、比較的低温とすることで、重合速度が遅くなり多くの重合体が複合されるようになる。しかし、重合速度が遅くなりすぎると、重合体が効率よく複合されない。そのため重合温度としては40〜80℃が好ましい。また、重合時間は、重合温度や単量体濃度を勘案して適宜設定すればよいが、概ね2〜20時間が工業的には好ましい。
【0018】
また、B法を採用する場合、水膨潤性繊維の膨潤度としては、好ましくは0.5g/g以上、より好ましくは1.0g/g以上であることが望ましい。膨潤度が0.5g/gに満たない場合には、スルホン酸基を有する単量体が繊維内部にまで十分に入り込まず、十分に機能が得られないことがある。また、洗濯など水分に接触する可能性がある用途などに利用される場合には、膨潤度が0.5〜4.5g/gであることが好ましい。膨潤度が4.5g/gを超えると、水膨潤時の繊維物性が低下し問題を生じることがある。
【0019】
かかる水膨潤性繊維としては、特に限定はなく、例えば、天然繊維やレーヨン、アセテートなどの合成繊維、あるいは、これらの繊維やナイロン、ポリエステル、アクリルなどの疎水性繊維にグラフト重合したり、架橋したりすることによって水膨潤性を高めた繊維などを使用することができるが、中でも、架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維を好適に用いることができる。架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維は、カルボキシル基によって高い親水性を有するが、架橋構造の存在によって水溶性とならずに水膨潤性を発現でき、繊維物性も十分なレベルとすることが可能である。また、繊維中のカルボキシル基および架橋構造の量を調整することにより、水に対する膨潤度を調整することが可能である。上述した0.5g/g以上の膨潤度を得ようとすれば、カルボキシル基量としては、架橋度合いやカルボキシル基の対イオンの種類にもよるが、少なくとも0.5mmol/g以上、好ましくは2mmol/g以上であることが望ましい。カルボキシル基量が0.5mmol/g未満の場合にはカルボキシル基量が少ないため、十分な膨潤度が得られない。
【0020】
架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維の代表的な例としては、カルボキシル基含有単量体と、該カルボキシル基と反応してエステル架橋構造を形成できるヒドロキシル基含有単量体などが共重合され、かつエステル架橋結合が導入されてなるポリアクリル酸系架橋体繊維、無水マレイン酸系架橋体繊維、アルギン酸系架橋体繊維や、アクリル繊維に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物により架橋を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入した繊維などを挙げることができる。特に、後者の繊維は1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋条件および加水分解条件をコントロールすることにより、膨潤度が高く、しかも繊維強度にも優れた繊維が得られるため、本発明に採用される水膨潤性繊維として好ましいものである。
【0021】
アクリル繊維に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物により架橋を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入した繊維は以下のような方法で得ることができる。
【0022】
アクリル繊維としては、アクリロニトリル単独重合体またはアクリロニトリルを40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含有するアクリロニトリル系共重合体により形成された繊維を採用することができる。なお、アクリロニトリルと共重合させる単量体については、特に制限はなく、適宜選択すればよい。
【0023】
アクリル繊維は1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋導入処理を施される。該架橋導入処理に採用しうる1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン等のヒドラジン系化合物やエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン等のアミノ基を複数有する化合物等が例示される。中でもヒドラジン系化合物は、反応しやすく、コスト的にも有利であり、好ましい。
【0024】
上記架橋導入処理においては、アクリル繊維中のニトリル基と1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物が反応して架橋構造が形成され、これに伴い繊維中の窒素含有率が増加するので、この窒素含有率の増加は架橋度合いの目安となる。本発明における水膨潤性繊維においては、上述のヒドラジン系化合物を採用する場合、窒素含有率の増加は0.1〜10重量%とするのが好ましい。なお、ここにいう窒素含有率の増加とは架橋導入処理前のアクリル繊維の窒素含有率と該処理後のアクリル繊維の窒素含有率との差をいう。
【0025】
また、1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋導入処理の条件としては、架橋構造が形成される限りにおいて制限はなく、該化合物の溶液中にアクリル繊維を浸漬し、50〜150℃で反応させた場合に好ましい結果を得られる場合が多い。例えば、1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物としてヒドラジン系化合物を用いる場合には、窒素含有率の増加を0.1〜10重量%に調整しうる条件である限り採用できるが、上述のアクリル繊維をヒドラジン系化合物の濃度5〜60重量%の水溶液中、温度50〜120℃で5時間以内で処理する方法が工業的に好ましい。
【0026】
1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋導入処理を施された繊維は、該処理で残留した薬剤を十分に除去した後、酸処理を施しても良い。ここに使用する酸としては、特に限定されず、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸や、有機酸等が挙げられる。該酸処理の条件としても、特に限定されないが、酸濃度3〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間被処理繊維浸漬するといった例が挙げられる。
【0027】
かかる架橋導入処理を経た繊維、あるいはさらに酸処理を経た繊維は、続いてアルカリ性金属化合物水溶液により加水分解処理を施される。この加水分解処理により、架橋導入処理に関与せずに残留しているニトリル基、または架橋導入処理後酸処理を施した場合には残留しているニトリル基と一部酸処理で加水分解されて生成しているアミド基がカルボキシル基に変換されるが、該カルボキシル基には使用したアルカリ性金属化合物に対応する金属イオンが結合した状態となる。
【0028】
ここで使用するアルカリ性金属化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられ、金属種としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属を挙げることができる。
【0029】
加水分解処理によって生成されるカルボキシル基の量としては、好ましくは0.5〜10mmol/g、より好ましくは2〜8mmol/gであることが望ましい。カルボキシル基の量が0.5mmol/g未満の場合には、十分な膨潤度が得られないことがあり、また10mmol/gを超える場合には、膨潤が激しくなり実用上満足し得る繊維物性が得られないなどの問題を起こすことがある。
【0030】
加水分解処理の条件は、必要量のカルボキシル基が生成されるように適宜設定すればよいが、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%のアルカリ性金属化合物水溶液中、温度50〜120℃で1〜10時間処理する方法が工業的、繊維物性的にも好ましい。
【0031】
以上のようにして、アクリル繊維に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物により架橋を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入した繊維を得ることができるが、さらに該繊維を還元剤によって還元処理した場合、上述したpH6以下への調整をしなくてもスルホン酸基を有するビニル系単量体の重合を行うことができる。なお、還元処理における条件および還元剤は特に限定されない。
【0032】
本発明の導電性繊維は上述したスルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維に電子共役系重合体を被覆したものである。かかる電子共役系重合体としては、特に限定はないが、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリインドール、ポリセレノフェンやこれらの化合物の誘導体を使用することができる。
【0033】
スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維に電子共役系重合体を被覆させる方法としては、
a.該繊維を電子共役系重合体溶液に浸漬する
b.該繊維を電子共役系重合体を形成しうる単量体溶液に浸漬し、重合を行う
がある。いずれの方法の場合においても、重合を行う前にスルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維中のスルホン酸基をH型すなわち−SOHの形としておくことが好ましい。スルホン酸基をH型とすることで、電子共役系重合体とのイオン結合が形成されやすくなり、被膜が強固となって剥離を少なくすることができる。
【0034】
また、溶液中ですでに電子共役系重合体が形成されているa法に比べ、b法では単量体溶液に浸漬させるため、繊維内部にまで単量体が入り込み、繊維内部でも電子共役系重合体が生成するので、被膜が強固となり好ましい。特に、上述したように水膨潤性繊維を用いて得たスルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維は、繊維内部にまでスルホン酸基を複合化しているため、繊維内部においても電子共役系重合体をイオン結合させることができ、電子共役系重合体の被覆層がより強固となるため好ましく用いることができる。
【0035】
b法としては、特に限定されるものではないが、例えば(1)電子共役系重合体を形成しうる単量体を含有する処理液中にスルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維を浸漬させた後に、酸化重合剤と必要によりドーパントを添加する方法、(2)電子共役系重合体を形成しうる単量体と酸化重合剤と必要によりドーパントを添加した処理液中にスルホン酸基を有する重合体を含有する繊維を浸漬する方法などが挙げられる。特に、(1)の場合には単量体が繊維内部にまで入り込んで、電子共役系重合体が形成されるので電子共役系重合体の被服層が強固なものが得られやすく好ましい。
【0036】
電子共役系重合体を形成しうる単量体としては、特に限定はないがアニリン、ピロール、チオフェン、フラン、インドール、セレノフェンやこれらの化合物の誘導体などが挙げられる。
【0037】
酸化重合剤の種類としては、例えば、過マンガン酸、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩、三酸化クロム酸等のクロム酸類、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、ペルオキシ二硫酸等のペルオキシ酸あるいはその塩、次亜塩素酸ナトリウム等の酸素酸あるいはその塩、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、クエン酸第二鉄、p−トルエンスルホン酸第二鉄等の遷移金属化合物、あるいは過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過塩素酸第二鉄などが挙げられる。また、このような酸化重合剤は単独で使用しても2種以上で使用しても良い。
【0038】
上記処理液中の電子共役系重合体を形成しうる単量体の濃度は、導電性や被膜の耐久性を勘案し適宜設定すればよいが、例えばピロールの場合であれば、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維に対して、0.1〜5重量%となるようにするのが好ましい。0.1重量%未満の場合においては、電子共役系重合体が複合化される量が不十分となり導電性が低下する原因となり好ましくない。また、5重量%を超える場合には、電子共役系重合体の量が多くなりすぎ、スルホン酸基とイオン結合できない電子共役系重合体が多く生成する可能性があり、脱落の原因となるために好ましくない。
【0039】
また、酸化重合剤の添加量としては、電子共役系重合体を形成しうる単量体のモル数の0.5〜5倍とすることが好ましい。0.5倍よりも少ない場合には、電子共役系重合体の重合速度が遅くなりすぎ工業的に好ましくない。また5倍を超える場合には、電子共役系重合体の分子量が小さくなり導電性が低下する原因となるので好ましくない。
【0040】
電子共役系重合体を得るための重合反応時間としては、30分以上が好ましく、より好ましくは2時間以上である。30分未満である場合には電子共役系重合体の重合が十分に進行せず、良好な導電性が得られないため好ましくない。
【0041】
電子共役系重合体を得るための重合反応温度としては、30〜−20℃が好ましい。反応温度が30℃を超える場合には、電子共役系重合体の分子量が小さくなるため、良好な導電性が得られない。
【0042】
また、電子共役系重合体を得るための重合をする際に、ドーパントを併用すれば、さらに導電性を向上することができる。ドーパントとしては、例えば、ヨウ素、臭素等のハロゲン類、五弗化リン等のルイス酸、塩化水素、硝酸等のプロトン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などや、p−スチレンスルホン酸、2−(アクリロイルアミノ)−2-メチル−1−プロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸などの不飽和炭化水素スルホン酸などのビニル系単量体を単独重合あるいは他の単量体と共重合した高分子ドーパントを使用することができる。
【0043】
上述した電子共役系重合体を形成しうる単量体、酸化重合剤、ドーパント等を含有する処理液の溶媒としては、安全性の面から工業的には水が好ましく用いられるが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、i−ブタノール、t−ブタノールなどの脂肪族アルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン類等の有機溶媒を用いることもでき、これらは単量体、酸化重合剤、ドーパントおよびスルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維に応じて適宜選択して単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
また、上述のようにして電子共役系重合体を被覆した後の乾燥温度としては、特に限定はないが、なるべく低温で行うのが好ましく、40〜105℃、より好ましくは40〜80℃で行うのが良い。105℃以上の場合には、良好な導電性が得られないため好ましくない。
【0045】
上述してきた本発明の導電性繊維は、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維を用いているので、該スルホン酸基と電子共役系重合体とがイオン結合し、剥離しにくい導電性被膜が形成されている。特に、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維の基材繊維として水膨潤性繊維を用いた場合には、繊維表面だけでなく、繊維内部にまでスルホン酸基が導入されるので、スルホン酸基と電子共役系重合体とのイオン結合が繊維内部にまで形成され、イオン結合数も多くなるため、導電性被膜はより強固なものとなる。かかる本発明の導電性繊維は、高い導電性を示し、摩擦などによる被膜の脱落が極めて少ない耐久性に優れたものである。
【実施例】
【0046】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。また、実施例において記述する繊維の膨潤度、体積固有抵抗値、スルホン酸基量、被膜の耐久性は以下の方法により求めた。
【0047】
(1)水に対する膨潤度
繊維を絶乾し、重量を測定する(X[g])。次に該繊維を水に30分以上浸漬させ、中心からサンプルまでの距離が11.5cmの遠心分離機に入れ、1200rpmで、5分間脱水し、脱水後の重量を測定する(Y[g])。膨潤度は、以下の式で計算する。
膨潤度[g/g]=(Y−X)/X
【0048】
(2)体積固有抵抗値
予め、繊維の繊度T[dtex]及び比重d[g/cm]を常法で測定する。次に、該繊維を0.1%ノイゲンHC水溶液中で浴比1:100として60℃、30分間スコアリング処理し、流水で洗浄後、70℃で1時間乾燥する。この繊維を6〜7cm程度の長さに切断し、20℃相対湿度65%の雰囲気下に3時間以上放置する。得られた繊維(フィラメント)を5本束とし、繊維束の一方の端に導電性接着剤を5mm程度塗布する。この繊維束に8.83mN/texの荷重を加えた状態で、導電性接着剤が塗布された位置から5cm程度離れた位置に上記導電性接着剤を塗布し(このときの導電性接着剤間距離をL[cm]とする)、測定試料とする。該測定試料に8.83mN/texの荷重を加えた状態で導電性接着剤の塗布部に電極を接続し、直流500Vを印加したときの抵抗R[Ω]をHigh RESISTANCE METER 4329A(YOKOGAWA−HEWLETT−PACKARD製)で測定し、次式より体積固有抵抗を算出した。導電性といわれるレベルには、この値が10Ω・cm未満であることが望ましく、この値を超えてしまうと導電性を得ることは難しくなってくる。また、本測定の下限は10Ω・cmである。
体積固有抵抗値[Ω・cm]=(R×T×10−6)/(L×d)
【0049】
(3)スルホン酸基量
繊維1gを1N−HCl水溶液50mLに30分浸漬し、十分に水洗を行った後乾燥を行った。乾燥した該繊維約0.2gを精秤し(W1[g])、これに50mLの水を加えた後、塩化ナトリウム2g、次いで0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線から、スルホン酸基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V1[ml])を求め、次式によってスルホン酸基量を算出した。
スルホン酸基量[mmol/g]=(0.1×V1)/W1
なお、カルボキシル基量についても、塩化ナトリウムの添加量を0.2gとする以外はスルホン酸基の場合と同様にして求めた。
【0050】
(4)被膜の耐久性
繊維を白紙に20回こすりつけ、白紙に付着した電子共役系重合体被膜の様子を以下の4段階で判定した。
◎:脱落が全くない
○:脱落がない
△:脱落が少しあり
×:脱落が多い
【0051】
また、実施例中に記載する繊維の作成方法は以下の通りである。
<水膨潤性繊維A>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸、乾燥して1.7dtexのアクリル繊維aを得た。
アクリル繊維aを、15%ヒドラジン水溶液中に添加し106℃で3時間ヒドラジン架橋導入処理を行い、水洗した。次に、3%硝酸水溶液中、99℃、1時間酸処理を行い、水洗、脱水を行った。続いて、4.5%水酸化ナトリウム水溶液に添加し、90℃、2時間加水分解を行い、イオン交換水で洗浄し、水膨潤性繊維Aを得た。該繊維の水に対する膨潤度は1.5g/gであり、カルボキシル基量は6.5mmol/gであった。
【0052】
<水膨潤性繊維B>
上記のアクリル繊維aを、15%ヒドラジン水溶液中に添加し110℃で4.5時間ヒドラジン架橋導入処理を行い、水洗した。次に、3%硝酸水溶液中、99℃、1時間酸処理を行い、水洗、脱水を行った。続いて、4.5%水酸化ナトリウム水溶液に添加し、90℃、2時間加水分解を行い、イオン交換水で洗浄し、水膨潤性繊維Bを得た。該繊維の水に対する膨潤度は1.1g/gであり、カルボキシル基量は6.0mmol/gであった。
【0053】
[実施例1]
水膨潤性繊維Aを、該繊維に対して417%のp−スチレンスルホン酸ナトリウム(SPSS)を含有し、塩酸を使ってpH2に調整した水溶液に浸漬した。次いで、繊維Aに対して2.7%の過酸化水素を添加し、60℃、5時間加熱して重合を行い、水洗、脱水、乾燥を行った。得られた繊維に対して5%硝酸水溶液中、30℃、30分間の酸処理を繰り返し3回行い、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維1を得た。該繊維のスルホン酸基量は2.0mmol/gであった。
次に、上記繊維1を、該繊維に対してピロール4%、塩化第二鉄六水和物50%を含む水溶液に浸漬し、5℃で3時間重合を行った後、充分に水洗を行い60℃で乾燥した。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
実施例1において、繊維1のかわりに、繊維1を作成する際の硝酸による酸処理を行わない以外は同様にして得られた繊維を用いて、実施例2の繊維を作成した。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
実施例1において、繊維1のかわりに、繊維1を作成する際のSPSS濃度を、繊維Aに対して104%とした以外は同様にして得られた繊維を用いて、実施例3の繊維を作成した。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
実施例1において、水膨潤性繊維Aのかわりに、水膨潤性繊維Bを用いた以外は同様にして、実施例4の繊維を作成した。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0057】
[実施例5]
スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維1を、該繊維に対して、アニリン10%、塩化第二鉄六水和物50%を含む水溶液に浸漬させ、5℃で3時間重合した後、充分に水洗を行い60℃で乾燥した。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
水膨潤性繊維Bを5%硝酸水溶液で処理した繊維を、該繊維に対して、ピロール4%、塩化第二鉄六水和物50%を含む水溶液に浸漬させ、5℃で3時間重合を行った後、充分に水洗を行い60℃で乾燥した。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
アクリル繊維aを5%硝酸水溶液で処理した繊維を、該繊維に対して、ピロール4%、塩化第二鉄六水和物50%を含む水溶液に浸漬させ、5℃で3時間重合を行った後、充分に水洗を行い、60℃で乾燥した。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1〜5では、体積固有抵抗値は10Ω・cm未満で導電のレベルであり、被膜の耐久性も実用的な水準にある。これに対して、比較例1および2では基材繊維中にスルホン酸基が0.1mmol/g未満しか導入されていないので、被膜の耐久性が悪く、体積固有抵抗値も実施例1〜4に比べて高い結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維であって該繊維の重量に対するスルホン酸基量が0.1mmol/g以上である繊維に電子共役系重合体が被覆されており、前記スルホン酸基と前記電子共役系重合体によるイオン結合を有していることを特徴とする導電性繊維。
【請求項2】
スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維が、スルホン酸基を有するビニル系単量体を含有する溶液に、水に対する膨潤度が0.5g/g以上である水膨潤性繊維を浸漬させた状態で重合を行うことによって、繊維にスルホン酸基を有するビニル系重合体を複合させたものであることを特徴とする請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項3】
水膨潤性繊維が架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維であることを特徴とする請求項2に記載の導電性繊維。
【請求項4】
架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維が、アクリル繊維に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物を反応させて架橋構造を導入し、加水分解によってカルボキシル基を導入した繊維であることを特徴とする請求項3に記載の導電性繊維。
【請求項5】
架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維のカルボキシル基量が2mmol/g以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の導電性繊維。
【請求項6】
電子共役系重合体を生成しうる単量体を含有する溶液に、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維であって該繊維の重量に対するスルホン酸基量が0.1mmol/g以上である繊維を浸漬させた状態で前記単量体を重合させ、該繊維表面に電子共役系重合体の被覆層を形成させることを特徴とする導電性繊維の製造方法。
【請求項7】
電子共役系重合体を生成しうる単量体の重合を行う前に、スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維のスルホン酸基をH型としておくことを特徴とする請求項6に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項8】
スルホン酸基を有するビニル系重合体を含有する繊維が、スルホン酸基を有するビニル系単量体を含有する溶液に、水に対する膨潤度が0.5g/g以上である水膨潤性繊維を浸漬させた状態で重合を行うことによって、繊維にスルホン酸基を有するビニル系重合体を複合させたものであることを特徴とする請求項6または7に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項9】
水膨潤性繊維が架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維であることを特徴とする請求項8に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項10】
架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維が、アクリル繊維に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物を反応させて架橋構造を導入し、加水分解によってカルボキシル基を導入した繊維であることを特徴とする請求項9に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項11】
架橋構造およびカルボキシル基を有する繊維のカルボキシル基量が2mmol/g以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の導電性繊維。

【公開番号】特開2008−208497(P2008−208497A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48699(P2007−48699)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】