説明

導電性織編物

【課題】低湿度環境下でも高い制電効果を与え、繰返し着用や洗濯操作等の物理的、化学的作用によっても制電性の劣化が少ない導電性織編物を提供すること。
【解決手段】単糸繊度が1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下である繊維表層に導電性高分子が付着し導電性が付与された繊維からなる織編物であり、前記織編物の23℃、12%RH環境下の表面抵抗値Rpにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が1×106Ω/□以上1×1012Ω/□以下、前記織編物の23℃、12%RH環境下の表面電位Epにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が200V以下であることを特徴とする導電性織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体など電機・電子部品製造業、製薬及び食品製造業、病院など医療機関、バイオケミカル分野などの研究機関等々の作業服としての使用に好適な導電性織編物に関するものであり、更に詳しくには作業時の静電気帯電を最小に留め、作業性の悪化や精密機械の誤動作等を防いで製品の歩留りの向上に貢献し得るものである。しかも従来からある作業服では実現困難であった低湿度環境下における制電効果を与えることの可能な導電性織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電気・電子機器製造作業では半導体デバイスなどの精密機器等を取扱うために静電気帯電は製品の歩留りを悪化させる要因であった。昨今では一般家電、自動車、携帯電話なども半導体デバイスを多用したものとなっており、製品の安全性や品質保証面でも静電気の防止は大きな課題となっている。またエネルギー供給業についても静電気帯電による火花やスパークは大事故につながるため、作業服の制電性能向上及び制電性能の耐久性向上、特に低湿度環境下での制電特性向上は大きな課題であった。
【0003】
一般作業服用途として力学的強度面や価格面、取扱性等々の観点からポリエステル系繊維に代表される合成繊維が好ましく用いられているが、特にポリエステル系繊維は疎水性で電気の絶縁体であり表面抵抗率は1×1015〜1×1017Ω/□程度と非常に帯電し易い。また作業時の発汗や不感蒸泄等による蒸れ感、べたつき感を感じさせ、着心地がよくない等の欠点がある。これらの制電特性を向上させる為、第4級アンモニウム塩やホスホニウム塩などを含む界面活性剤を繊維表面に処理した制電織編物も多数提案されているが、これらは界面活性効果を利用したイオン伝導による電子の移動を利用した帯電防止加工であり、低湿度環境では水分が少ない為に充分な制電効果が期待出来ない。
【0004】
またカーボンや低融点金属を組合せた導電性繊維を織物の経糸及び/又は緯糸の少なくとも一部に使用した導電性ポリエステル織物が数多く提案上市されている(例えば、特許文献1、2参照。)。該方法を用いれば効果的に帯電を低く抑えることが可能であるが、該導電性繊維の配列・配置を緻密にしなければ十分な効果が期待できない。該導電性繊維自体が高価である他、力学的強度が弱いために多用すると実用に供し得る強度を保持しない。
【特許文献1】特開昭60−173140号公報
【特許文献2】特開2001−73207号公報
【0005】
また複合紡糸法を用いて得られた制電性合成繊維フィラメントと導電性合成繊維フィラメントを組合せて製織し制電特性を向上させた織物が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。該方法は制電性合成繊維フィラメントとしてポリアルキレングリコール系化合物を含有する共重合ポリエステルを芯成分とするものであるが、通常のポリエステルフィラメント対比で強度や伸度が低く、得られた織物の引裂強度や耐摩耗特性等の力学的強度が低く、繰返し洗濯、着用における耐久性が必ずしも高いものにならない。
【特許文献3】特開平11−93035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は掛る問題を解決し、低湿度環境下でも高い制電効果を与える導電性織編物の提供を課題とするものであり、更に詳しくは繰返し着用や洗濯操作等の物理的、化学的作用によっても制電性の劣化が少ない導電性織編物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために鋭意検討を重ね、本発明に到達した。即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1. 単糸繊度が1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下である繊維表層に導電性高分子が付着し導電性が付与された繊維からなる織編物であり、前記織編物の23℃、12%RH環境下の表面抵抗値Rpにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が1×106Ω/□以上1×1012Ω/□以下、前記織編物の23℃、12%RH環境下の表面電位Epにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が200V以下であることを特徴とする導電性織編物。
2. 織編物の23℃、12%RH環境下の電荷減衰時間Dpにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が10秒以下であることを特徴とする上記第1に記載の導電性織編物。
3. 導電性高分子が、ポリアニリン又はその誘導体であることを特徴とする上記第1又は第2に記載の導電性織編物。
4. 繊維が、熱可塑性合成繊維であることを特徴とする上記第1〜第3のいずれかに記載の導電性織編物。
5. 熱可塑性合成繊維が、ポリエステル系合成繊維であることを特徴とする上記第4に記載の導電性織編物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低湿度環境下でも高い制電効果を与える導電性織編物の提供を可能とし、更に詳しくは繰返し着用や洗濯操作等の物理的、化学的作用によっても制電性の劣化が少ない導電性織編物の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
単糸繊度は1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下であることが好ましく、より好ましくは1.0デシテックス以上3.5デシテックス以下である。単糸繊度が1.0デシテックス未満であれば織編物等となした場合、引裂強度等の強度面で支障を来す場合があり好ましくなく、単糸繊度が5.0デシテックスを著しく超過する範囲であれば得られた織編物はドレープ性に乏しいものとなり、着心地や着用時の作業性に支障を来し好ましくない。
【0010】
本発明の導電性織編物は構成繊維表層に導電性高分子が付着したものであり、好ましくは構成繊維表面を薄膜上に覆う導電層を形成するものであるが、使用する導電性高分子は水性溶媒若しくは有機溶媒に溶解可能であれば本発明に適用が可能であり、例えばポリアニリン及びその誘導体、長鎖アルキル基置換基結合ポリピロール、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアニリン又はその共重合体の分散系に無機酸やスルホン酸基含有化合物を添加して得たポリアニリン溶液等々が例示出来る。特に好適であるのはポリアニリン又はその共重合体であり、該共重合体の分散系に無機酸やスルホン酸基含有化合物を添加して得る。該ポリアニリン溶液に使用する無機酸は塩酸、過塩素酸、硫酸、硝酸などが、スルホン酸基含有化合物はベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸等が例示される。特にスルホン化ポリアニリンが水溶解性の観点から好適に用いられる。本発明は導電性高分子による電子伝導効果による制電性付与であり、低湿度環境(例えば12%RH)でも良好な制電効果を示す。一方、従来の界面活性剤によるイオン伝導を利用した制電性付与は、ある程度の高湿度環境(例えば65%RH)でなければ満足な性能が得られない。
【0011】
スルホン化ポリアニリンとしてはアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸を主成分とするアニリン系共重合体スルホン化物が基本素材として好適であり、特にアミノアニソールスルホン酸が好適である。アミノアニソールスルホン酸の具体例としては2−アミノアニソールー3−スルホン酸、2−アミノアニソールー4−スルホン酸、2−アミノアニソールー5−スルホン酸、2−アミノアニソールー6−スルホン酸、3−アミノアニソールー2−スルホン酸、3−アミノアニソールー4−スルホン酸、3−アミノアニソールー5−スルホン酸、3−アミノアニソールー6−スルホン酸、4−アミノアニソールー2−スルホン酸、4−アミノアニソールー3−スルホン酸等を例示することが出来る。
【0012】
本発明に好適に用いられるスルホン化ポリアニリン共重合体においては、スルホン酸基で置換された芳香環のモル数が全芳香環のモル数に対して70%以上であることが好ましく、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは100%である。またスルホン酸基を含む芳香環と含まない芳香環が混在したり、交互に並んでいても本発明の目的には支障ない。該スルホン化ポリアニリン共重合体のスルホン酸基含有率が70%未満では該共重合体の水、アルコール又はそれらの混合溶媒系等への溶解性や分散性が不充分となる為、結果として導電層形成が不完全となり導電性を損ねる。本発明に用いるスルホン化ポリアニリン共重合体の数平均分子量は300〜50000で1000以上が前記溶媒への溶解性や導電層強度の面で好ましい。
【0013】
該スルホン化ポリアニリン共重合体の使用割合は溶剤100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜2重量部である。該使用割合が0.01重量部未満では溶液自体のポットライフが非常に短くなってしまう他、導電層の形成が不完全となり導電性を高くすることが出来ない。また該使用割合が10重量部を超過すると該共重合体の水若しくは水/有機溶媒系溶媒への溶解性、分散性及び導電層形成性を損ねる傾向があり好ましい領域ではない。
【0014】
該溶媒は処方する繊維を溶解若しくは膨潤させないものであれば、公知の何れのものも使用が可能である。好ましくは水又は水/有機溶媒等の混合溶媒が作業環境面や排水等々の問題で好適である。有機溶媒はメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなどの1価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、メチルプロピレングリコール、エチルプロピレングルコールなどの2価アルコール類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなどのピロリドン類が例示出来る。これらは水と任意の割合で混合して使用することが出来、用いられる割合は水/有機溶媒=1/10〜10/1の範囲で適宜調整すればよい。
【0015】
繊維表層への導電性高分子を付着させる方法は、パッドスチーム法、パッドドライ法、パッドスチームキュア法、パッドドライキュア法等々の公知の方法を用いて実施することが可能である。導電性高分子はバインダー樹脂と共に繊維表層の導電層を形成することが好ましい。バインダー樹脂はアクリル酸エステル誘導体、アクリル酸アミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルピリジン誘導体、ポリアミンポリマー、ウレタン系樹脂等々が例示される。また複数の官能基を持つ架橋剤、例えばジアミン化合物、ジエポキシ化合物、3官能エポキシ化合物、4官能エポキシ化合物などの架橋剤を併用させることによって優れた制電効果を長期間持続させることが可能となる。多官能エポキシ化合物も耐久性や取扱性などの面から好ましい。エポキシ系架橋剤としてはポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等々が例示できる。
【0016】
またアクリル酸エステル誘導体とはジエチルアミノエチルメタクリレートなど第3アミノ基を有するアルコールのメタクリル酸エステルなどが例示され、アクリル酸アミド誘導体とはメラミンモノメチレンアクリル酸アミド、アクリル酸アミドメチレンユリアなど、ビニルエーテル誘導体とはポリアミノエチルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテルとジエチルアミノビニルエーテルの共重合物など、ビニルピリジン誘導体とはポリー2−ビニルピリジン、2−ビニルピリジンとスチレンの共重合物など、ポリアミンポリマーとはポリエチレングリコールポリアミン、ポリオール・クロロヒドリン、ポリアミドポリイミダゾリンなど、カチオン性ポリマーとはメラミン・ホルムアルデヒド樹脂、アミノトリアジンアルデヒド樹脂など、ウレタン系樹脂とはポリエーテルジオール、ポリエーテルトリオール、ポリエーテルポリオールなどにトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを反応させたものなどが例示される。
【0017】
本発明の導電性織編物に供する繊維はポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリケトン、ポリアクリロ二トリル等の合成繊維、ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン等の再生繊維、セルローストリアセテート等の半合成繊維、木綿、麻、絹、各種獣毛等の天然繊維、等々公知の何れでも構わないが、機械的性質や安定性、汎用性を考慮するとポリエステル系繊維が好適に用いられる。ポリエステル繊維はエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール成分とテレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分とをエステル交換反応、重縮合させて得られたエステルが好ましく使用される。ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のホモポリマー、共重合ポリマー、ブレンドポリマー等が例示される。また必要に応じて二酸化チタン、硫酸バリウム、二酸化珪素等の艶消剤や酸化防止剤、平滑剤、帯電防止剤、その他を含有させてもよい。
【0018】
また繊維断面も公知のいずれの断面を採用することが可能である。糸条形態は特に限定されないが、低発塵性や取扱、価格等の観点からマルチフィラメントの形態がより好適である。また、必要に応じて低融点金属やカーボンブラックなどを芯鞘又は多層貼合型に複合させた導電性ポリエステル(例えば、クラレ社製クラカーボ(R)など)を織編物のタテ方向及び/又はヨコ方向に規則的に配列させて交編織してもよい。該導電性ポリエステルを使用すると空気中へのコロナ放電による織編物からの積極的除電が可能となり好ましい。
【0019】
本発明の織編物を製織編する際には公知の織機、編機を用いることが出来る。また必要に応じ撚糸を施して織編物に供することも可能であるし、フラットヤーン使いのみならず仮撚加工糸、交絡混繊糸、流体攪乱加工糸など公知の糸加工を実施した糸条とすることも可能である。
【0020】
染色加工については液流染色機、気流染色機、ジッカー染色機、ウインス染色機、ビーム染色機等のバッチ式染色機の他、パッド法による連続染色、フラットスクリーンやロータリースクリーン、インクジェット等の捺染等々、公知の手法を用いて染色することが可能である。該織物は染色と同時、若しくは染色後に繊維表層に導電層を形成させる為の薬剤処理を施す。該薬剤処理にはパッドスチーム法、パッドドライ法、パッドスチームキュア法、パッドドライキュア法等々の公知の方法を用いて実施することが可能である。パディング処理の場合はパッダーマングル等により薬液ピックアップが50〜90%程度の条件で薬液を付与した後、雰囲気温度110℃程度の高圧スチーマーか若しくは雰囲気温度120〜160℃の拡布型ネットコンベア式ドライヤー等々を用いて処理することができる。
【0021】
本発明の織編物の23℃、12%RH環境における初期の表面抵抗値Rp(初期)及び25回洗濯後の表面抵抗値Rp(25HL)は1×106Ω/□以上1×1012Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗値は低くなるほど導電性が良いが、ポリエステル系繊維など汎用繊維は一般に電気の不導体であり1×106Ω/□未満の範囲は一般的に得にくい。また1×1012Ω/□を超過する範囲では非常に帯電し易く、作業性の悪化や装置の誤作動、製品の歩留り低下など作業環境や安全面を著しく悪化させる恐れがあり好ましくない。25回洗濯後の織編物によっても1×106Ω/□以上1×1012Ω/□以下を保持できれば、精密機械の誤動作防止や歩留り向上の観点からも好ましい。
【0022】
また23℃、12%RH環境における初期の表面電位Ep(初期)及び洗濯25回後の表面電位Ep(25HL)は200V以下、好ましくは100V以下、更に好ましくは80V以下である。表面電位が200Vを著しく超過する範囲では作業性の悪化、装置の誤作動等々の恐れがあり好ましくない。また、相対湿度12%RHという低湿度環境では放電(スパーク)や火花の発生による粉塵爆発やガス爆発等々を誘発する恐れもあり好ましくなく、可能な限り低下させることが望ましい。25回洗濯後も尚、200V以下を保持することによって電気・電子業界向けの作業服としても好ましく適用できるものとなる。
【0023】
また23℃、12%RH環境における初期の電荷減衰時間Dp(初期)及び洗濯25回後の電化減衰時間Dp(25HL)は10秒以下であることが好ましく、より好ましくは5.0秒以下、更に好ましくは2.0秒以下である。該減衰時間が長く掛かりすぎると、これも作業性の悪化や装置の誤作動、製品の歩留り低下を誘発する要因となり好ましいものとならない。電荷減衰時間についても、繰返し洗濯による劣化を抑制することが好ましく、洗濯25回後も電荷減衰時間が短いことが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下実施例に従い、本発明を更に詳細に説明する。本文中及び実施例中の特性値は下記評価方法に基づき導出されるものである。尚、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
(表面抵抗値)
環境温湿度23℃×12%RHに評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境で評価を実施した。使用した表面抵抗計は三菱化学社製Hiresta Up MCP−HT450型、印加電圧は100Vである。表面抵抗率の単位はΩ/□(オーム・パー・スクエア)である。評価回数5回の平均値をもって測定値とした。
【0026】
(表面電位)
環境温湿度23℃×12%RH条件で評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境で表面電位の評価を日本スタティック社製MODEL SV77A型を用いて実施した。評価用試料(サンプル)表面をアクリル板で5秒間擦過し、擦過後2秒経過した時点の表面電位を該装置と連結した記録装置のチャート(記録用紙)より読み取った。評価回数5回の平均値をもって測定値とした。
【0027】
(電荷減衰時間)
環境温湿度23℃×12%RH条件で評価用試料(サンプル)を24時間調温調湿した後、同環境で電荷減衰時間の評価を実施した。日本スタティック社製 STATIC MASTER S−411型を用い、評価用試料(サンプル)に10Vの印加電圧で30秒間処理し、電荷減衰時間を該装置と連結した記録装置のチャート(記録用紙)から読み取った。評価回数5回の平均値をもって測定値とした。
(洗濯処理)
JIS L0217 103記載の方法に準じて洗濯処理を実施した。
【0028】
(実施例1)
ポリエステルセミダルマルチフィラメントPOY(部分配向糸)250デシテックス48フィラメントを仮撚用原糸として使用し、三菱重工業社製ピンスピンドル型延伸仮撚機LS−6型を用いて、第1ヒーター温度190℃、延伸倍率1.50倍、仮撚施撚数2600回/m(S→Z)、糸速100m/minの条件で延伸仮撚を実施し、167デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を得た。該ポリエステル仮撚加工糸に村田機械社製ダブルツイスターDT308型を用いてS撚方向に300回/mの追撚を施した。(以下、ポリエステル仮撚追撚糸(A)と称する。)
【0029】
ポリエステルセミダルマルチフィラメントPOY(部分配向糸)90デシテックス36フィラメントを仮撚用原糸として使用し、帝人製機社製外接型摩擦仮撚機HTS−15V型を用いて、第1ヒーター温度(上流側、下流側ともに)260℃、延伸倍率1.59倍、9mm圧ディスク1−4−1、D/Y比2.0、糸速650m/min、仮撚方向Z→Sの条件で延伸仮撚を実施し、56デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を得た。該ポリエステル仮撚加工糸とクラレ社製ポリエステル導電糸(クラカーボ(R))28デシテックス2フィラメントを引き揃え、石川製作所社製合撚糸機DTF型を使用し、Z撚方向に400回/mの実撚を挿入した。(以下、ポリエステル導電合撚糸(B)と称する。)
【0030】
ポリエステル仮撚追撚糸(A)及びポリエステル導電合撚糸(B)を経糸に、(B)が8mm毎の間隔になるように配列し、経糸ビームを得た。また緯糸としてポリエステル仮撚追撚糸(A)を用い、津田駒工業社製ウォータージェットルームを使用して、2/2右上がり綾組織を基本とする変化組織((B)が主に織物の裏面に露出するように構成)に製織し織物生機を得た。
【0031】
得られた織物生機を拡布状態で精練前処理、及び液流精練機にて精練リラックス処理を施した後、雰囲気温度190℃でヒートセッターによる中間セットを実施した。次いで液流染色機を用いて分散染料による染色を実施し、脱水後に拡布状態で表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した。得られた染色生地を乾燥状態で下記処方の樹脂薬剤をウェットピックアップが90%条件で窄液した後、表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した後、雰囲気温度160℃のショートループドライヤーでパッドドライキュア法による処理を実施した。
(薬液処方)
aquaPASS−01X(三菱レイヨン社製 ポリアニリンスルホン酸の水分散液)
5.0重量部
(ポリアニリンスルホン酸として0.25重量部)
スミテックスレジンM−6(住友化学社製 メチロールメラミン系樹脂)
0.6重量部
アクセレレーターACX(住友化学社製 架橋剤) 0.4重量部
イソプロピルアルコール 5.0重量部
ニッカウェットシリコンEP−68(日華化学社製 カチオンソフナー)
0.2重量部
水 88.8重量部
【0032】
薬液処理後、オープンソーパーを用いて湯洗、水洗を充分に実施し、未反応及び余分な樹脂剤を洗浄除去した後、再度表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥し、雰囲気温度160℃のヒートセッターで仕上げセットを施し、加工布を得た。得られた加工布を用いてジャケット及びスラックスからなる男子作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。低湿度環境での静電気特性(表面抵抗、表面電位、電荷減衰速度)は良好であり、電気・電子、ガス、電力、その他業界向け作業服としても好適なものであった。また風合い硬化も非常に僅かなものに留まり、着用感(着心地)は良好なものであった。
【0033】
(実施例2)
実施例1で得られた織物生機を拡布状態で精練前処理、及び液流精練機にて精練リラックス処理を施した後、雰囲気温度190℃でヒートセッターによる中間セットを実施した。次いで液流染色機を用いて分散染料による染色を実施し、脱水後に拡布状態で表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した。得られた染色生地を乾燥状態で下記処方の樹脂薬剤をウェットピックアップが90%条件で窄液した後、表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した後、雰囲気温度160℃のショートループドライヤーでパッドドライキュア法による処理を実施した。
(薬液処方)
aquaPASS−01X(三菱レイヨン社製 ポリアニリンスルホン酸の水分散液)
10.0重量部
(ポリアニリンスルホン酸として0.5重量部)
スミテックスレジンM−6(住友化学社製 メチロールメラミン系樹脂)
0.6重量部
アクセレレーターACX(住友化学社製 架橋剤) 0.4重量部
ニッカウェットシリコンEP−68(日華化学社製 カチオンソフナー)
0.2重量部
イソプロピルアルコール 5.0重量部
水 83.8重量部
【0034】
薬液処理後、オープンソーパーを用いて湯洗、水洗を充分に実施し、未反応及び余分な樹脂剤を洗浄除去した後、再度表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥し、雰囲気温度160℃のヒートセッターで仕上げセットを施し、加工布を得た。得られた加工布を用いてジャケット及びスラックスからなる男子作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。低湿度環境での静電気特性(表面抵抗、表面電位、電荷減衰速度)は良好であり、電気・電子、ガス、電力、その他業界向け作業服としても好適なものであった。また風合い硬化も非常に僅かなものに留まり、着用感(着心地)は良好なものであった。
【0035】
(実施例3)
実施例1で得られた織物生機を拡布状態で精練前処理、及び液流精練機にて精練リラックス処理を施した後、雰囲気温度190℃でヒートセッターによる中間セットを実施した。次いで液流染色機を用いて分散染料による染色を実施し、脱水後に拡布状態で表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した。得られた染色生地を乾燥状態で下記処方の樹脂薬剤をウェットピックアップが90%条件で窄液した後、表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した後、雰囲気温度160℃のショートループドライヤーでパッドドライキュア法による処理を実施した。
(薬液処方)
aquaPASS−01X(三菱レイヨン社製 ポリアニリンスルホン酸の水分散液)
10.0重量部
(ポリアニリンスルホン酸として0.5重量部)
スミテックスレジンM−3(住友化学社製 メチロールメラミン系樹脂)
0.8重量部
アクセレレーターACX(住友化学社製 架橋剤) 0.5重量部
ニッカウェットシリコンEP−68(日華化学社製 カチオンソフナー)
0.2重量部
イソプロピルアルコール 5.0重量部
水 83.5重量部
【0036】
薬液処理後、オープンソーパーを用いて湯洗、水洗を充分に実施し、未反応及び余分な樹脂剤を洗浄除去した後、再度表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥し、雰囲気温度160℃のヒートセッターで仕上げセットを施し、加工布を得た。得られた加工布を用いてジャケット及びスラックスからなる男子作業服を縫製した。基本物性を表1にまとめた。低湿度環境での静電気特性(表面抵抗、表面電位、電荷減衰速度)は良好であり、電気・電子、ガス、電力、その他業界向け作業服としても好適なものであった。また風合い硬化も非常に僅かなものに留まり、着用感(着心地)は良好なものであった。
【0037】
(比較例1)
実施例1で得られた織物生機を拡布状態で精練前処理、及び液流精練機にて精練リラックス処理を施した後、雰囲気温度190℃でヒートセッターによる中間セットを実施した。次いで液流染色機を用いて分散染料による染色を実施し、脱水後に拡布状態で表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した。得られた染色生地を乾燥状態で下記処方の樹脂薬剤をウェットピックアップが90%条件で窄液した後、表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した後、雰囲気温度160℃のショートループドライヤーでパッドドライキュア法による処理を実施した。
(薬液処方)
ナイスポールNF123(日華化学社製 カチオン系高分子化合物)
0.5重量部
カセゾールAV15(日華化学社製 変成PVA系樹脂) 0.5重量部
ニッカシリコンAMZ(日華化学社製 アミノ変成シリコンエマルション)
0.3重量部
水 98.7重量部
【0038】
薬液処理後、オープンソーパーを用いて湯洗、水洗を充分に実施し、未反応及び余分な樹脂剤を洗浄除去した後、再度表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥し、雰囲気温度160℃のヒートセッターで仕上げセットを施し、加工布を得た。得られた加工布を用いてジャケット及びスラックスからなる男子作業服を縫製した。カチオン系界面活性効果により高湿度環境での制電性はまずまずのものであったが、低湿度環境での静電気特性(表面抵抗、表面電位、電荷減衰速度)は表1記載の数値に留まり、低湿度環境での作業服としては好ましいものにはならなかった。着用感については風合い硬化もなく良好なものであった。
【0039】
(比較例2)
実施例1で得られた織物生機を拡布状態で精練前処理、及び液流精練機にて精練リラックス処理を施した後、雰囲気温度190℃でヒートセッターによる中間セットを実施した。次いで液流染色機を用いて分散染料による染色を実施し、脱水後に拡布状態で表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した。得られた染色生地を乾燥状態で下記処方の樹脂薬剤をウェットピックアップが90%条件で窄液した後、表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した後、雰囲気温度160℃のショートループドライヤーでパッドドライキュア法による処理を実施した。
(薬剤処方)
ナイスポールNF20(日華化学社製 カチオン系高分子化合物) 1.0重量部
ニッカシリコンAMZ(日華化学社製 アミノ変成シリコンエマルション)
0.5重量部
水 98.5重量部
【0040】
薬液処理後、オープンソーパーを用いて湯洗、水洗を充分に実施し、未反応及び余分な樹脂剤を洗浄除去した後、再度表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥し、雰囲気温度160℃のヒートセッターで仕上げセットを施し、加工布を得た。得られた加工布を用いてジャケット及びスラックスからなる男子作業服を縫製した。カチオン系界面活性効果により高湿度環境での制電性はまずまずのものであったが、低湿度環境での静電気特性(表面抵抗、表面電位、電荷減衰速度)は表1記載の数値に留まり、低湿度環境での作業服としては好ましいものにはならなかった。着用感については風合い硬化もなく良好なものであった。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、電気・電子機器製造業、家電製造業、自動車製造業、石油製品製造業などの一般製造業や電力供給業、ガス供給業、ガソリンスタンドなどのエネルギー供給業などの作業服として好適な導電性織編物を得ることが出来る。また低湿度環境でも電子伝導による優れた制電効果を得ることが可能となり、製品の歩留り向上や機器の誤動作防止、火災や爆発などの事故防止に有効な導電性織編物となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下である繊維表層に導電性高分子が付着し導電性が付与された繊維からなる織編物であり、前記織編物の23℃、12%RH環境下の表面抵抗値Rpにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が1×106Ω/□以上1×1012Ω/□以下、前記織編物の23℃、12%RH環境下の表面電位Epにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が200V以下であることを特徴とする導電性織編物。
【請求項2】
織編物の23℃、12%RH環境下の電荷減衰時間Dpにおいて、初期値及び洗濯25回後の値が10秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性織編物。
【請求項3】
導電性高分子が、ポリアニリン又はその誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性織編物。
【請求項4】
繊維が、熱可塑性合成繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導電性織編物。
【請求項5】
熱可塑性合成繊維が、ポリエステル系合成繊維であることを特徴とする請求項4に記載の導電性織編物。

【公開番号】特開2007−113132(P2007−113132A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304516(P2005−304516)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】