説明

導電性薄膜のマイクロ波加熱

【課題】特定構造の同軸型空胴共振器を具備したマイクロ波加熱手段を提供する。
【解決手段】円柱又は円筒の表面もしくは内面に形成された金属薄膜もしくは導電性薄膜をマイクロ波で均一に加熱する装置であって、金属製の円筒状側壁と、この円筒状側壁の軸方向両端を電磁波的に閉じる金属製の端部側壁と、この空胴共振器内に同軸的に配置された内軸と、前記円筒状側壁における軸方向の中間位置に設けられた結合スロットにマイクロ波導波管もしくはマイクロ波供給アンテナが結合された構造を具備し、前記内軸は、その表面に金属薄膜もしくは導電性薄膜を形成するための円柱状又は円筒状構造体から構成されているマイクロ波加熱装置。
【効果】金属薄膜もしくは導電性薄膜を高効率で、均一に、選択的に加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物質にマイクロ波を照射することで、対象物質を均一かつ制御性良く加熱するマイクロ波加熱装置に関するものであり、更に詳しくは、空胴共振器に同軸的に配置された、その表面に導電性薄膜を形成する円柱又は円筒状構造体から構成される内軸を有する特定構造の同軸型空胴共振器を使用した、金属薄膜などの導電性薄膜を均一に、加熱部位を特定して選択的に、高効率で、高精度に加熱することができるマイクロ波加熱装置に関するものである。本発明は、特定構造の同軸型空胴共振器を使用することで、磁界との相互作用により、金属薄膜を、高効率で、均一に加熱することができる新しいタイプのマイクロ波加熱装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波は、電子レンジを始め、産業用加熱炉の加熱源として広く利用されている。マイクロ波は、物質に含まれる水を加熱するだけでなく、誘電損失、導電性、磁気損失を持つ物質に作用して、これを選択的に加熱するので、被加熱物の直接加熱が可能であり、このため、短時間で、効率がよく、被加熱物を加熱する能力を持っている。
【0003】
マイクロ波は、波長が数センチ程度であるため、通常、加熱ムラがあり、これを均一化することが求められる。加熱均一化の目的を果たすために、被加熱物を移動させ、マイクロ波と物質の相互の位置関係を時間的に変える手段が一般に用いられている。
【0004】
また、回転する反射体を用いて、マイクロ波の強弱の位置的な分布を時間的に変化させることにより、均一な加熱をはかっている。すなわち、可動機構なしに、時間的、位置的に、厳密な意味で、選択的かつ均一に加熱する技術の開発は極めて遅れている。
【0005】
また、マイクロ波は、誘電体や磁性体物質を透過する間に、その物質の持つ誘電損失や磁気損失に従い、透過量が減衰する。この減衰したエネルギーにより、その物質が発熱するため、誘電損失や磁気損失を有する材料を加熱することができる。しかし、金属を代表とする、導電性材料に対しては、マイクロ波は、その表面で反射することが多いため、一般に、金属などの導電性材料に対してのマイクロ波加熱は難しいとされている。
【0006】
一方、材料合成や、表面処理、滅菌・殺菌や化学反応を行う場合、加熱対象は、誘電体、磁性体のみでなく、金属の加熱が要求される例が多くあり、この分野の材料へのマイクロ波加熱ができないため、短時間加熱、選択加熱などの実用化の障害となっていた。
【0007】
そこで、空洞共振器を利用してマイクロ波による誘電体加熱を行うことが種々試みられている。先行技術として、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂よりなるプラスチック成形体を、マイクロ波空洞共振器の中で結晶化温度に誘電加熱する方法(特許文献1)、溶融金属容器の金属枠と開口部を覆う金属蓋で形成した空間を空洞共振器として、マイクロ波による誘電体加熱を行う方法(特許文献2)、が提案されている。
【0008】
プレキャストブロックを載置した金属性の囲い内部、あるいは加熱炉内部を空洞共振器として、マイクロ波による誘電体加熱を行う方法(特許文献3〜6)、セラミック粉末と単結晶粒子とを含む成形体を、空洞共振器内に設置し、マイクロ波を照射して加熱し、単結晶粒子を成長させる方法(特許文献7)、が提案されている。
【0009】
また、空洞共振器の構成壁の内面又はその近傍位置に配置した熱遮蔽シートに仮接着体の金属シート体を当接状態に配置せしめ、この状態で空洞共振器内にマイクロ波を照射することによって、磁界の変化により発生する誘導電流により金属シート体を加熱する方法及び装置(特許文献8)、が提案されている。
【0010】
また、誘電特性が加熱プロセスの間に変動する化学反応混合物などのサンプルを加熱するための装置であって、マイクロ波発生器と、生成したマイクロ波をアプリケータに誘導するための導波路と、面を定める閉ループで形成されるデフレクタとを含み、デフレクタはサンプル及び導波路アプリケータとともに共振空胴を形成するように導波路中に位置決めされ、共振空胴の共振条件及び導波路から空胴への放射の結合係数は、デフレクタの回転によって容易に調整可能であるマイクロ波発生器(特許文献9)、が提案されている。
【0011】
更に、空胴共振器と、この空胴共振器内に同軸的に配置され、流体に接する誘電体からなる円管と、マイクロ波導波管とを具備し、被加熱物を収容する誘電体円管の円周に沿って一定で管軸方向にほぼ均一な電界を生じさせ、それによって、誘電体円管の表面近傍を流れる流体を間接加熱し、あるいは収容する流体それ自体を均一に加熱して流体の化学反応を均一に進行させるマイクロ波加熱装置(特許文献10)、が提案されている。
【0012】
しかしながら、従来の方法及び装置では、例えば、金属などの導電性薄膜を均一に、加熱部位を特定して選択的に、効率よく、高精度に加熱することが難しく、当技術分野においては、金属などの導電性薄膜を均一に、選択的に、効率よく、高精度に加熱することを可能とする新しいタイプのマイクロ波加熱装置の開発が強く要求されていた。
【0013】
【特許文献1】特開平11−235751号公報
【特許文献2】特開2001−304769号公報
【特許文献3】特開2002−22364号公報
【特許文献4】特開2002−37677号公報
【特許文献5】特開2002−39690号公報
【特許文献6】特開2002−31485号公報
【特許文献7】特開2002−193657号公報
【特許文献8】特開2007−38455号公報
【特許文献9】特表2003−523612号公報
【特許文献10】特開2005−322582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、金属などの導電性薄膜を、高効率で、均一に、加熱部位を特定して選択的に加熱することが可能な、新しいマイクロ波加熱装置を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、同軸型空胴共振器の共振周波数に等しい周波数のマイクロ波を照射する特定構造の同軸型空胴共振器を具備するマイクロ波加熱装置を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、上記のような背景と要求のもとになされたものであり、同軸型空胴共振器の内軸を、その表面に導電性薄膜を形成する円柱又は円筒状構体で構成した特定構造の同軸型空胴共振器を具備してなる、導電性薄膜を、マイクロ波加熱により、高効率で、均一に、選択的に加熱することができる新規マイクロ波加熱装置を提供することを目的とするものである。
【0016】
また、本発明は、同軸型空胴共振器の中心軸上の導電性薄膜のみを選択的に加熱することができ、エネルギー効率が良く、通常の電気炉のような、断熱材が不要で、加熱部位以外にプラスチックやゴムなどの耐熱性の劣る材料を用いることを可能とするマイクロ波加熱装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)
【0018】
次に、本発明について詳細に説明する。
本発明は、円柱又は円筒の表面もしくは内面に形成された導電性薄膜をマイクロ波で均一に加熱するマイクロは加熱装置であって、金属製の円筒状側壁と、この円筒状側壁の軸方向両端を電磁波的に閉じる金属製の端部側壁で構成される空胴共振器と、この空胴共振器内に同軸的に配置された内軸と、前記円筒状側壁における軸方向の中間位置に設けられた結合スロットにマイクロ波導波管もしくはマイクロ波供給アンテナが結合された構造とを具備し、前記内軸は、その表面に導電性薄膜を形成するための円柱状又は円筒状構造体から構成され、前記同軸型空胴共振器にマイクロ波を照射することにより、導電性薄膜表面付近に均一なマイクロ波磁界を形成させ、磁界との相互作用により導電性薄膜を均一に加熱するようにしたことを特徴とするものである。
【0019】
次に、図面を参照して、本発明のマイクロ波加熱装置の好適な実施形態について詳しく説明する。図1は、本発明のマイクロ波加熱装置の基本構造を示す同軸型空胴共振器の正面図であり、図2に、その断面図を示す。図3及び図4は、他の実施形態の一例であり、別の構造を有する同軸型空胴共振器の正面図である。これらは、いずれも、本発明の好適な実施形態の一例である。図5は、同軸型空胴共振器内の電界分布を示す説明図であり、図6は、マイクロ波電磁界により導電性薄膜に流れる均一な表面電流を示す説明図である。
【0020】
図1及び図2において、同軸型空胴共振器1は、金属性の円筒状隔壁と、この円筒状隔壁の軸方向両端を電磁波的に閉じる金属製の端板と、前記円筒状側壁と同軸的に配設された内軸で構成される。内軸は、その表面に、導電性薄膜5を形成した円柱状構造体4から構成される。この円柱状構造体は、図3に示す導電性薄膜5を形成した円筒状(チューブ状)構造体6でも、同様の効果が得られる。
【0021】
図に詳細は示していないが、構造体5もしくは構造体6は、導電性薄膜5に発生した熱が逃げないように適宜工夫されていることが好適である。例えば、熱伝導の良くない石英の円柱又は円筒の表面に、金属薄膜を形成した構造体が例示される。マイクロ波は、導波管2により、結合孔3、代表的にはスロットを介して、空胴内に導入される。それにより、この同軸型共振空胴は、ちょうど共振した状態で、例えば、TM010モードの極めて強い電磁界を発生する。
【0022】
図4は、同軸型空胴共振器1と導電性薄膜5の間に、円筒型の誘電体7を挿入した実施形態を示す。同軸型空胴共振器内に、円筒型の誘電体7を入れた場合も、例えば、TM010モードの電磁界分布で共振させることができるため、内軸である中心軸に配置した構造体上の導電性薄膜の加熱が可能である。誘電体7は、例えば、石英やテフロン(登録商標)などを用いることで、中心軸に配置した構造体(4もしくは6)及びその表面の導電性薄膜5を、外気と遮断した状態で加熱することができる。
【0023】
図5は、例えば、図5の構造を有した同軸型空胴共振器に、TM010モードの電磁界分布を誘起できる発振周波数のマイクロ波を照射したときに発生する、同軸型空胴共振器内の電界分布を示す。電界強度は、矢印の長さで示している。矢印の長さをみると、金属円筒面(金属性の円筒状隔壁)と導電性薄膜5の部分でゼロとなり、この2つの円筒面のほぼ中間で極大となるような分布を呈している。なお、ここで、電界の方向を矢印で示したが、マイクロ波は、周期的に変動するので、それに同期して、矢印が全体的に次第に短くなり、やがて逆転して、それを繰り返すことは言うまでもない。
【0024】
磁界は、円周に沿う方向を向いており、その強さは、電界が最大となる半径のところでゼロとなり、その外側と内側では、向きが逆になっていて、金属円筒面と導電性薄膜5の部分で極大となる。境界条件を満たす必要から、この2つの円筒面には、軸方向に電流が流れる。導電性薄膜は、同軸型円筒の他の部分の導電性に比較して、例えば、1/10程度の大きさを持ち、更に、熱が逃げないように、熱的に遮断されているので、この電流によって強く加熱される。
【0025】
一般に、金属は、温度が上がると抵抗値が増すので、昇温に伴って、加速度的に温度が高くなる。例えば、TM010の電磁界分布から、導電性薄膜に流れる電流は、円周方向、軸方向に対し、一定の強さとなるので、導電性薄膜5は、均一に加熱される。
【0026】
図6では、円柱状又は円筒状構造体の上に形成した、導電性薄膜5の近傍の磁界8及びその磁界によって表面に流れる電流9を示している。この矢印は、マイクロ波のある位相に合わせて表示したものであり、その大きさは、周期に合わせて、全体的に次第に短くなり、やがて逆転し、その変化を繰り返す。
【0027】
この電流9は、導電性薄膜5の有する電気抵抗によって、薄膜自体が加熱される。このため、本発明の導電性薄膜の加熱条件としては、図中、8に示す形状の磁界を発生させるため、電気抵抗が十分小さくなくてはならず、また、発熱は、電気抵抗の値がある程度大きい必要がある。
【0028】
マイクロ波を同軸型空胴共振器内に導入し、例えば、TM010モードで共振させることにより、マイクロ波は、共振器内に同軸的に配設された金属などの導電性薄膜を、均一に、選択的に加熱し、この薄膜の表面処理や、乾燥などの熱処理を、迅速に行うことができる。
【0029】
本発明のマイクロ波照射装置により、大きさが円周に沿って一定で、軸方向に対しても変化せず、向きが中心軸に平行な、軸対称マイクロ波電界を発生させて、金属薄膜もしくは導電性薄膜表面付近に、均一なマイクロ波磁界を形成させ、磁界との相互作用により、金属薄膜もしくは導電性薄膜を均一に加熱することができる。
【0030】
本発明では、前記同軸型空胴共振器内壁と前記導電性薄膜との間に、円筒型の誘電体からなる中間円管を配設した構造を有していること、また、前記同軸型空胴共振器に対し、金属又は誘電体からなる共振周波数調整部材が、同軸型空胴共振器内への突出量を調整可能となるように挿入され、該共振周波数調整部材によって、共振周波数が調整可能となっていること、また、前記同軸型空胴共振器内に、電磁界を検出する検出素子が挿入され、その検出した電磁界強度に基づいて、共振周波数が手動又は自動調整可能となっていること、また、前記検出素子が検出した前記同軸型空胴共振器の共振周波数に等しい周波数のマイクロ波を発生させて、該マイクロ波を同軸型空胴共振器に導入すること、を好ましい実施形態としている。
【0031】
また、本発明では、前記同軸型空胴共振器内壁と前記導電性薄膜との間に、円筒型の誘電体からなる中間円管を配設して、この導電性薄膜と中間円管との間に流体収容空間を形成し、この空間に導入した流体の化学反応を行わせるようにしたこと、前記導電性薄膜の材料が、触媒であること、マイクロ波の出力及び発振周波数を自動制御する制御機構を具備していること、を好ましい実施形態としている。
【0032】
本発明では、図1もしくは3の同軸型空胴共振器において、導波管2からマイクロ波が導入され、空胴共振器の内部に、例えば、TE010モード、TM010モード、あるいは、TE0nsモードで励起され、これにより、マイクロ波加熱が行われる。ここで、半径方向ないし中心軸方向に対し、変化する次数である前記n、ないしsは、整数を表す。この場合、前記TE010モードでは、電界は円周と同軸的に分布し、また、TM010モードでは、電界は、軸方向に向かい、軸方向に対し大きさが変化しない。
【0033】
次に、マイクロ波の出力及び発振周波数を自動制御する場合の制御機構の動作について、図7を参照して、説明する。図7において、電圧制御発振器11により、その周波数の基準マイクロ波が発振される。そして、可変減衰器12において、制御ユニット10からの信号により、基準マイクロ波が減衰され、出力調整したマイクロ波は、高周波電力増幅器13により、加熱に必要な出力まで増幅される。サーキュレータ14、方向性結合器16及びインピーダンス整合器19を介して、同軸空胴共振器1に照射される。
【0034】
同軸空胴共振器1に照射されたマイクロ波によって、円筒状構造体4の表面に、均一な磁界強度を有する定在波が形成され、この定在波の形成状況は、電界強度検出器19によってモニターされる。制御ユニット10では、定在波の形成状況から、より適切なマイクロ波周波数を再計算することで、再度、電圧制御発振器11に対して、周波数の司令が行われる。
【0035】
同軸空胴共振器1に取り付けた放射温度計20により、円筒状構造体4の表面温度が測定され、この表面温度が、目的温度になるように、制御ユニット10でマイクロ波出力を再計算し、可変減衰器12に、マイクロ波の出力の指令が行われる。この、周波数フィードバック及び出力フィードバックにより、円筒状構造体4の表面は、目的温度を維持するように制御される。インピーダンス整合器18により、同軸型空胴共振器18からマイクロ波が反射しないように調整される。
【0036】
方向性結合器16により、同軸型空胴共振器1へ供給されるマイクロ波電力及び反射されるマイクロ波電力を計測し、パワーメータ17で、その値が表示される。同軸型空胴共振器1から反射したマイクロ波により、高周波電力増幅器13が損傷を受けないように、サーキュレータ14により、反射したマイクロ波を分岐させ、ダミーロード15に、そのエネルギーが吸収される。
【0037】
従来の方法及び装置では、材料合成や、表面処理、滅菌・殺菌や化学反応を行う場合、加熱対象は、誘電体、磁性体のみでなく、金属の加熱が要求される例が多くあり、この分野の材料へのマイクロ波加熱による短時間加熱や選択加熱などが困難であったが、本発明の特定構造の同軸型空胴共振器を具備したマイクロ波加熱装置を使用することにより、金属薄膜もしくは導電性薄膜を、均一に、選択的に可能にすることができる。
【0038】
本発明において、被加熱対象の金属薄膜もしくは導電性薄膜としては、導電性を有する材料であれば、その種類に制限されることなく使用することができる。また、本発明では、前記同軸型空胴共振器内壁と前記導電性薄膜との間に、円筒型の誘電体からなる中間円管を配設して、この導電性薄膜と中間円管との間に流体収容空間を形成し、この空間に導入した流体の化学反応を行わせることができる。この場合、導電性薄膜の材料が適宜の触媒であることが好適であるが、流体収容空間の任意の位置に、触媒を配置して化学反応を実施することも適宜可能である。本発明は、化学反応の種類は、特に制限されるものではなく、適宜の化学反応に適用することが可能である。
【0039】
本発明において、空胴共振器内に同軸的に配置された、その表面に導電性薄膜を形成する円柱状又は円筒状構造体から構成される内軸の材質、形状及び構造は、磁界との相互作用により導電性薄膜を均一に加熱することができるものであれば良く、その具体的構成については、被加熱材料の種類、加熱装置の使用目的などに応じて最適な条件を設定できるように適宜設計することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)同軸型空胴共振器に発生したTM010モードの電磁界により、金属などの導電性薄膜を、選択的かつ均一に加熱することができる。
(2)マイクロ波照射による加熱は、短時間に加熱を実施することができるため、金属などの導電性薄膜の熱処理に必要とされる時間を短縮することができる。
(3)中心軸上の導電性薄膜のみを選択的に加熱することができるため、エネルギー効率が向上する。
(4)通常の電気炉のような、断熱材が不要になる。
(5)加熱部位が特定されているため、加熱部位以外にプラスチックやゴムなどの耐熱性の劣る材料を用いることができ、装置構成の自由度が増加する。
(6)同軸型空胴共振器を周波数可変とするか、あるいは、この空胴に導入するマイクロ波の周波数を変えることにより、検出素子を用いて監視し、その検出値によって、常に共振を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次に、本発明の実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
図4に示す同軸型空胴共振器内に、表面に金属膜をコーティングした外径10mm、内径6mmの円筒型アルミナ緻密管を設置した。図5は、この同軸型空胴共振器内に発生する電界分布及び磁界分布を計算した例であり、同軸型空胴共振器の中心軸に配置した導体表面の磁界強度は、他の部分より強いこと、また、軸方向に強度の変化がないことが分かり、また、中心軸上に配置した導電性材料表面は、均一な強度の磁界にさらされていることが分かる。
【0043】
この中心軸上に配置した、金属薄膜などの導電性材料は、表面付近の均一な磁界により、その内部に均一な電流が流れる。金属薄膜などの導電性材料は、この電流によって、導電性材料の電気抵抗によって生じるジュール熱を生じ、加熱される。このため、本発明によって加熱できる導電性材料は、適切な電気抵抗値があり、本実施例において、この抵抗値と、加熱特性を調べた。
【0044】
被加熱試料として用いた金属薄膜の金属の種類を、表1に示す。各金属薄膜は、外形10mm、内径6mmで、長さ20cmのαアルミナチューブ表面の中心12cmの部分に、メッキ法もしくは、市販の金属薄膜を貼り付ける貼り付法で作製した。メッキ法によって作製した金属薄膜の厚さは、メッキした金属の重量から求めた。表1は、実施例として用いたサンプルの条件と、20Wのマイクロ波を照射したときの到達温度を示している。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に記載の1cm当たりの電気抵抗は、それぞれのサンプルに対し、四端子法を用いて測定した値である。四端子法では、金属膜の両端から100mAの電流を流し、中心部10cm間隔に発生する電位差を計測し、この値から、1cm当たりの抵抗値を算出した。なお、メッキ法によるサンプルでは、抵抗値が2MΩ/cm以上を示すものがあるが、これは、メッキ量が少ない状態では、金属が均一に分散せず、金属が存在する場所と存在しない場所が分布しており、100mAの電流を流すことができなかったためである。この状態では、同軸型空胴共振器の条件を満たしておらず、本発明による加熱は、不可能と考えられる。
【0047】
それぞれのサンプルを、図1に示す同軸空胴型共振器の中心部に配置し、中心部の結合部からマイクロ波を照射した。マイクロ波の出力及び発振周波数は、図7に示す制御機構を介して自動制御を行った。すなわち、それぞれのサンプルを、図1に示す同軸空胴型共振器の中心部に配置し、中心部の結合部からマイクロ波を照射した。マイクロ波の出力及び発振周波数は、図7に示す制御機構を介して自動制御を行った。すなわち、制御装置10により、同軸空胴共振器1に定在波が形成できる周波数を決定した。
【0048】
電圧制御発振器11により、その周波数の基準マイクロ波を発振させた。可変減衰器12では、制御ユニット10からの信号により、基準マイクロ波を減衰させた。出力を調整したマイクロ波は、高周波電力増幅器13により、加熱に必要な出力まで増幅した。増幅したマイクロ波は、サーキュレータ14、方向性結合器16及びインピーダンス整合器19を介して、同軸空胴共振器1に照射された。
【0049】
同軸空胴共振器1に照射されたマイクロ波によって、円筒状構造体4の表面に、均一な磁界強度を有する定在波が形成された。この定在波の形成状況は、電界強度検出器19によってモニターされた。制御ユニット10では、定在波の形成状況から、より適切なマイクロ波周波数を再計算することで、再度、電圧制御発振器11に対して、周波数の司令を行った。
【0050】
また、同軸空胴共振器1に取り付けた放射温度計20により、円筒状構造体4の表面温度を測定した。この表面温度が、目的温度になるように、制御ユニット10でマイクロ波出力を再計算し、可変減衰器12に、マイクロ波の出力の指令を行った。この、周波数フィードバック及び出力フィードバックにより、円筒状構造体4の表面は、目的温度を維持するように制御した。なお、インピーダンス整合器18により、同軸型空胴共振器18からマイクロ波が反射しないよう調整した。
【0051】
方向性結合器16により、同軸型空胴共振器1へ供給されるマイクロ波電力及び反射されるマイクロ波電力を計測し、パワーメータ17で、その値を表示した。同軸型空胴共振器1から反射したマイクロ波により、高周波電力増幅器13が損傷を受けないよう、サーキュレータ14により、反射したマイクロ波を分岐させ、ダミーロード15にそのエネルギーを吸収した。
【0052】
図8に、異なった材質の各種金属薄膜をマイクロ波によって加熱した時の、マイクロ波出力と、金属表面の到達温度を測定した結果を示す。従来、マイクロ波では加熱できなかった金属膜が、本発明による同軸型空胴共振器を用いることで、100℃以上に加熱することが可能であり、例えば、サンプルA(金薄膜2.5μm)、サンプルD(パラジウム薄膜5.4μm)、サンプルE(ニッケル薄膜5μm)のいずれの種類の薄膜でも、100℃以上に加熱できていることが分かる。
【0053】
また、金属薄膜の膜の厚さを変えた場合に、同様の加熱実験を行った結果を、表1に示す。表1では、20Wのマイクロ波を投入した時の到達温度を示しているが、実験で用いた、金、銅、ニッケルのいずれの薄膜でも、加熱ができている。ただし、サンプルCのように電気抵抗が測定できないような、薄い膜に関しては、加熱ができていない。また、サンプルE〜Gのように、膜が厚くなると、同じ20Wのマイクロ波照射でも、到達温度が低くなる傾向があることが分かる。
【0054】
以上の実施例から、これまで、マイクロ波加熱ができなかった金属などの導電性薄膜に対しても、本発明の同軸型空胴共振器を用いることで、100℃以上に加熱できることが分かった。表面に電流が流れる導電性材料であれば加熱できるが、膜厚が増えると電気抵抗値が小さくなるため、同じマイクロ波電力では、到達温度が小さくなる傾向があることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上詳述したように、本発明は、導電性薄膜のマイクロ波加熱装置に係るものであり、本発明は、マイクロ波を用い、同軸型空胴共振器の内軸に配置した金属薄膜などの導電性物質を、急速かつ選択的に加熱できるため、例えば、導電性物質の乾燥や、金属薄膜の表面処理、不動態化処理、殺菌・滅菌処理などに利用することができ、また、本発明は、金属の焼結や、合金化などへ利用することができる。更に、本発明は、触媒作用を有する金属を用いることにより、化学反応プロセスへの利用も可能であり、幅広い産業利用が可能である。本発明は、特定構造の同軸型空胴共振器を使用することで、磁界との相互作用により、金属薄膜を、高効率で、均一に加熱することができる新しいタイプのマイクロ波加熱装置を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係るマイクロ波加熱装置の正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るマイクロ波加熱装置の断面図である。
【図3】本発明の中心軸に円筒型の構造体を用いた別の実施形態の一例である。
【図4】本発明の空胴内に誘電体を挿入した構造を有している別の実施形態の一例である。
【図5】本発明の実施形態に係るマイクロ波加熱装置に発生する電界の説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係るマイクロ波加熱装置の被加熱部分近傍の磁界とその部分に流れる電流の説明図である。
【図7】マイクロ波の出力および発振周波数を自動制御するマイクロ波s評者自動制御装置のブロック図である。
【図8】本発明の実施例における、各種金属薄膜のマイクロ波照射電力に対する加熱特性(膜表面の到達温度)である。
【符号の説明】
【0057】
1 同軸型空胴共振器
2 導波管
3 結合孔
4 (中心軸に配置した)円柱状構造体
5 導電性薄膜(4もしくは5の上に形成)
6 (中心軸に配置した)円筒状(チューブ状)構造体
7 誘電体
8 磁界
9 電流
10 制御ユニット
11 電圧制御発振器
12 可変減衰器
13 高周波電力増幅器
14 サーキョレータ
15 ダミーロード
16 方向性結合器
17 パワーメータ
18 インピーダンス整合器
19 電界強度検出器
20 放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱又は円筒の表面もしくは内面に形成された導電性薄膜をマイクロ波で均一に加熱する装置であって、
金属製の円筒状側壁と、この円筒状側壁の軸方向両端を電磁波的に閉じる金属製の端部側壁で構成される空胴共振器と、この空胴共振器内に同軸的に配置された内軸と、前記円筒状側壁における軸方向の中間位置に設けられた結合スロットにマイクロ波導波管もしくはマイクロ波供給アンテナが結合された構造とを具備し、前記内軸は、その表面に導電性薄膜を形成する円柱状又は円筒状構造体から構成され、前記同軸型空胴共振器にマイクロ波を照射することにより、導電性薄膜表面付近に均一なマイクロ波磁界を形成させ、磁界との相互作用により導電性薄膜を均一に加熱するようにしたことを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記同軸型空胴共振器内壁と前記導電性薄膜との間に、円筒型の誘電体からなる中間円管を配設した構造を有している、請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記同軸型空胴共振器に対し、金属又は誘電体からなる共振周波数調整部材が、同軸型空胴共振器内への突出量を調整可能となるように挿入され、該共振周波数調整部材によって、共振周波数が調整可能となっている、請求項1又は2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記同軸型空胴共振器内に、電磁界を検出する検出素子が挿入され、その検出した電磁界強度に基づいて、共振周波数が手動又は自動調整可能となっている、請求項1から3のいずれかに記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記検出素子が検出した前記同軸型空胴共振器の共振周波数に等しい周波数のマイクロ波を発生させて、該マイクロ波を同軸型空胴共振器に導入する、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
前記同軸型空胴共振器内壁と前記導電性薄膜との間に、円筒型の誘電体からなる中間円管を配設して、この導電性薄膜と中間円管との間に流体収容空間を形成し、この空間に導入した流体の化学反応を行わせるようにした構成を有する、請求項2から5のいずれかに記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項7】
前記導電性薄膜の材料が、触媒である、請求項6に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項8】
前記導電性薄膜が、金属薄膜である、請求項1から7のいずれかに記載のマイクロ波加熱器。
【請求項9】
マイクロ波の出力及び発振周波数を自動制御する制御機構を具備している、請求項1から8のいずれかに記載のマイクロ波加熱器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−97884(P2010−97884A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269248(P2008−269248)
【出願日】平成20年10月18日(2008.10.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 経済産業省「中小・ベンチャー企業の検査・計測機器等の調達に向けた実証研究事業(「産業技術研究開発事業(中小企業支援型)」)/マイクロ波利用流通反応評価装置の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(505004640)株式会社IDX (11)
【Fターム(参考)】