説明

導電性高分子、導電性高分子水溶液、導電性高分子膜、固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】高導電率な導電性高分子、導電性高分子水溶液及び導電性高分子膜を提供し、さらにESRの低減化に対応した固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性高分子は、アニオン基を1つと親水基を1つ以上有する単分子有機酸を含有する。固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属からなる陽極導体1の表面に誘電体層2を形成する工程と、前記誘電体層2の表面に、第一の導電性高分子化合物3Aを与えるモノマーの化学酸化重合または電解重合により、第一の導電性高分子化合物層3Aを形成する工程と、前記第一の導電性高分子化合物層3Aの表面から導電性高分子水溶液を含浸し、第二の導電性高分子化合物層3Bを形成する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子、導電性高分子水溶液、その導電性高分子水溶液から得られる導電性高分子膜、それらを用いた固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子材料は、コンデンサの電極、色素増感太陽電池などの電極、エレクトロルミネッセンスディスプレイの電極などに用いられている。このような導電性高分子材料としては、ピロール、チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、アニリンなどを高分子量化したポリマー材料が知られており、関連する技術が特許文献1、2に開示されている。
【0003】
特許文献1は、ポリチオフェンの溶液(分散体)、その製造方法及びプラスチック成形体の帯電防止処理に対する塩の使用に関するものである。具体的には、ポリ陰イオン(文献中ではポリスチレンスルホン酸を表す。)の存在下での3,4−ジアルコキシチオフェンの構造単位からなるポリチオフェン分散体が記載されている。このポリチオフェン分散体は、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ酸の存在下にて0〜100℃の温度で酸化重合させることで製造されることが記載されている。
【0004】
特許文献2は、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体及びその製造方法、ならびにその水分散体を含むコーティング用組成物及び該組成物が塗布された透明導電膜を有する被覆基材に関するものである。具体的には、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオンの存在下で、ペルオキソ二硫酸を酸化剤として用い、水系溶媒中で重合させることで製造されるポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−90060号公報
【特許文献2】特開2004−59666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリスチレンスルホン酸等のポリ陰イオンは、本来、絶縁物であるが、導電性を付与するドーパントとしての役目の他に、水溶性に寄与する親水性を持ち合わせている。このようなポリ陰イオン存在下で、3,4−ジアルコキシチオフェンや3,4−エチレンジオキシチオフェン等を酸化化学重合する方法では、含有(ドープ)率をコントロールすることが難しく、水溶性の効果を向上させようとすると、導電性高分子のなかにドープされない、即ち、導電性付与に寄与しないポリ陰イオンが過剰に存在してしまう状態となる。従って、特許文献1及び2に記載された方法では、このようなポリ陰イオンにより、導電性高分子の粒子間の接触が妨げられ、導電率が低下してしまうことが課題となっている。
【0007】
また、上記のような導電性高分子は、特許文献2に記載しているような帯電防止材に対しては十分な導電率を得ることが可能と思われるが、例えば、固体電解コンデンサの電極(コンデンサ素子)等に用いた場合には、導電率の観点から、等価直列抵抗(ESR)の更なる低減化は困難であるという課題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高導電率な導電性高分子や、これらの高導電率な導電性高分子を用いた導電性高分子水溶液及び導電性高分子膜を提供すること、さらに、ESRの低減化に対応した固体電解コンデンサ、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の導電性高分子は、アニオン基を1つと親水基を1つ以上有する単分子有機酸を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の導電性高分子は、前記アニオン基が、スルホ基(−SOH)であることが好ましい。
【0011】
本発明の導電性高分子は、前記親水基が、スルホ基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)、ヒドロキシル基(−OH)から選ばれることが好ましい。
【0012】
本発明の導電性高分子は、前記単分子有機酸が、アニリン−2,4−ジスルホン酸であることが好ましい。
【0013】
ここで、本発明における単分子有機酸と高分子(ポリマー)の挙動を説明する。
【0014】
本発明に用いる単分子有機酸は、ポリピロール、ポリチオフェン及びそれらの誘導体からなるポリマーに対し、立体構造的な制約があり、導電性を付与するためにドープされる官能基は1つである。単分子有機酸として、前述したアニリン−2,4−ジスルホン酸を用いた場合を一例として述べる。
【0015】
アニリン−2,4−ジスルホン酸は、後に記載している化1式に示すように、1つのアミノ基と2つのスルホ基からなる3つの官能基をもっている。この場合、官能基の中で、導電性の発現に影響する共役π電子を求引する働きが最も強いのがスルホ基である。スルホ基は、ドープされるとアニオン基となり、ドープされない場合に親水基として作用する性質がある。従って、一方のスルホ基が、共役π電子を求引して上記ポリマーにドープされ導電性付与に寄与し、ドープされなかった他方のスルホ基は、水溶性付与に寄与することになる。また、アミノ基も親水基として水溶性付与に寄与する。このようにして本発明の高導電率な導電性高分子が得られる。
【0016】
本発明の導電性高分子水溶液は、前記導電性高分子を溶解、または分散してなることを特徴とする。
【0017】
本発明の導電性高分子膜は、前記導電性高分子水溶液を乾燥して、溶媒を除去したものであることを特徴とする。
【0018】
本発明の固体電解コンデンサは、弁作用金属からなる陽極導体と、前記陽極導体の表面に形成されている誘電体層とを有し、前記誘電体層の表面に前記導電性高分子膜を含む固体電解質層が形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層の表面から前記導電性高分子水溶液を含浸し、固体電解質層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層の表面に、第一の導電性高分子化合物を与えるモノマーの化学酸化重合または電解重合により、第一の導電性高分子化合物層を形成する工程と、前記第一の導電性高分子化合物層の表面から前記導電性高分子水溶液を含浸し、第二の導電性高分子化合物層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アニオン基を1つと親水基を1つ以上有する単分子有機酸を含有することによって、高導電率な導電性高分子、導電性高分子水溶液及び導電性高分子膜を提供すること、さらにESRの低減化に対応した優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る導電性高分子、導電性高分子水溶液、その水溶液から得られる導電性高分子膜、さらに、これらを用いた固体電解コンデンサ及びその製造方法について、詳細に説明する。
【0024】
(導電性高分子)
本発明の実施形態に係る導電性高分子は、ドーパントとしてのアニオン基を1つと導電性高分子に水溶性を付与するための親水基を1つ以上持つ単分子有機酸がドープされた導電性高分子である。したがって、本発明の導電性高分子は、導電性に寄与しない余分なアニオン基を含まないために、導電性に優れた電気的特性を得ることができる。
【0025】
さらに、本発明の導電性高分子にドープする単分子有機酸は、導電性高分子に水溶性を付与するための親水基を1つ以上持つ単分子有機酸である。この単分子有機酸を導電性高分子にドープすることにより、導電性高分子に水等の溶媒への溶解、または分散を良好にする特性を付与する。
【0026】
単分子有機酸が持つドーピングのためのアニオン基は、高い導電性が得られることから、スルホ基(−SOH)であることが好ましい。
【0027】
また、単分子有機酸が持つ水溶性を付与するための親水基は、導電性高分子が溶媒へ溶解または分散を良好にすることから、スルホ基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)、ヒドロキシル基(−OH)から選ばれることが望ましい。
【0028】
単分子有機酸としては、アミノメタンスルホン酸、3−アミノプロパンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、o−スルホ安息香酸、m−スルホ安息香酸、p−スルホ安息香酸、4−アミノ−2−クロロトルエン−5−スルホン酸、4−アミノ−3−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−5−メトキシ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−2−メチルベンゼン−1−スルホン酸、5−アミノ−2−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−3−メチルベンゼン−1−スルホン酸、1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸、2−アミノ−5−ナフトール−7−スルホン酸、エタンジスルホン酸、ブタンジスルホン酸、ペンタンジスルホン酸、デカンジスルホン酸、o−ベンゼンジスルホン酸、m−ベンゼンジスルホン酸、p−ベンゼンジスルホン酸、トルエンジスルホン酸、キシレンジスルホン酸、クロロベンゼンジスルホン酸、フルオロベンゼンジスルホン酸、ジメチルベンゼンジスルホン酸、ジエチルベンゼンジスルホン酸、3,5−ジスルホ安息香酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸、3,4−ジヒドロキシ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、エチルナフタレンジスルホン酸、ペンタデシルナフタレンジスルホン酸、3−アミノ−5−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸、1−アセトアミド−8−ヒドロキシ−3,6−ナフタレンジスルホン酸、1−アミノ−3,8−ナフタレンジスルホン酸、3−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸、4−アミノ−5−ナフトール−2,7−ジスルホン酸等が挙げられる。中でも、下記の化1式で示されるアニリン−2,4−ジスルホン酸またはその誘導体が、導電性や水溶性を良好に付与する点から特に好ましい。
【化1】

【0029】
導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、及びそれらの誘導体が挙げられる。中でも、導電性の観点から下記の化2式で示される構造単位を有するポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、またはその誘導体が好ましい。導電性高分子は、ホモポリマーでもよく、コポリマーでもよく、さらには1種でもよく、2種以上でもよい。
【化2】

【0030】
(導電性高分子水溶液)
本発明の実施形態に係る導電性高分子水溶液とは、本発明の導電性高分子を溶解、または分散した水溶液である。導電性に寄与しない過剰なポリ陰イオンなどを含まないために、導電性に優れた導電性高分子膜を得ることができる。
【0031】
導電性高分子水溶液の溶媒は、水と、アルコール、アセトン、アセトニトリル、エチレングリコールなどの極性有機溶媒の混合溶媒が好ましいが、導電性高分子水溶液の乾燥工程で蒸発する溶媒蒸気の排気設備設置の容易さ、環境負荷の低さ、除去の容易さの観点から水のみであることがより好ましい。
【0032】
導電性高分子水溶液における導電性高分子の含有量は、溶解または分散性を良好にすることから、溶媒である水100質量部に対して0.1質量部以上30.0質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上20.0質量部以下であることがより好ましい。
【0033】
導電性高分子水溶液は、導電性高分子の密着性を向上させることからバインダーとして、樹脂及び/または熱や光により反応して樹脂になる物質を含むことが好ましい。
【0034】
バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ酪酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸アミド、ポリアクリロニトリル、スチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステル及びエチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、メラミンホルムアルデヒド樹脂、エポキシド樹脂、シリコーン樹脂、セルロース等が挙げられる。
【0035】
樹脂及び/または熱や光により反応して樹脂になる物質としては、例えば、エリスリトールやペンタエリトリトールなどの水溶性多価アルコールと、アジピン酸やフタル酸などのカルボキシル基を2つ以上持つ水溶性有機物が挙げられる。水溶性多価アルコールとカルボキシル基を2つ以上持つ水溶性有機物は、熱により反応してポリエステルとなる。バインダーは1種でもよく、2種以上でもよい。
【0036】
(導電性高分子膜)
本発明の実施形態に係る導電性高分子膜は、本発明の導電性高分子水溶液を乾燥して、溶媒を除去したものであり、基材への密着性に優れ、かつ高導電率である。溶媒を除去するための乾燥温度は、導電性高分子を熱分解させないことを考慮して、300℃以下が好ましい。
【0037】
(固体電解コンデンサ及びその製造方法)
本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサは、本発明の導電性高分子を含む固体電解質層を有する。本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサにおいては、固体電解質層を形成する材料(膜)が高導電率であるため、低ESRの固体電解コンデンサとなる。
【0038】
図1に、本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を示す模式的断面図を示す。この固体電解コンデンサは、陽極導体1の表面に、誘電体層2、固体電解質層3及び陰極導体4が、この順に形成された構造を有している。
【0039】
なお、図1の断面図は、コンデンサ素子の静電容量を得る領域となる陰極部を示している。したがって、コンデンサ素子の陽極端子に接続する陽極部等は省略している。陰極部と陽極部は、上記の陽極導体1を形成する弁作用金属を、絶縁樹脂(図示せず)を塗布することにより区分し、それぞれ設けている。
【0040】
陽極導体1は、一般に、板状、箔状、線状の弁作用金属をエッチングによって拡面処理したものや、弁作用金属の微粉末の成形体を焼結して、拡面処理したものと同様の役目をもつ焼結体などで形成される。弁作用金属としては、タンタル、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウム、及びこれらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウム、タンタル及びニオブから選択される少なくとも1種の弁作用金属であることが加工性の点から好ましい。
【0041】
誘電体層2は、陽極導体1の表面を電解酸化させることで形成する層であり、焼結体や多孔質体などの空孔部にも形成される。誘電体層2の厚みは、電解酸化の電圧によって適宜調整できる。
【0042】
固体電解質層3は、本発明の導電性高分子または導電性高分子膜から形成される。固体電解質層3は、単層構造でもよいが、多層構造でもよい。図1は、多層構造の場合を示しており、固体電解質層3が、第一の導電性高分子化合物層3A及び第二の導電性高分子化合物層3Bからなる。
【0043】
固体電解質層3は、さらに、ピロール、チオフェン、アニリン、またはその誘導体を重合して得られる導電性重合体(二酸化マンガン、酸化ルテニウム)などの酸化物誘導体や、TCNQ(7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンコンプレックス塩)などの有機物半導体を含んでいてもよい。
【0044】
固体電解質層3の形成方法としては、単層構造の場合、誘電体層2の表面から本発明の導電性高分子水溶液を含浸し、その導電性高分子水溶液から溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0045】
また、図1に示す固体電解コンデンサにおける固体電解質層3は、まず、誘電体層2の表面に、第一の導電性高分子化合物を与えるモノマーを化学酸化重合、または電解重合を行うことにより、第一の導電性高分子化合物層3Aを形成し、その第一の導電性高分子化合物層3Aの表面から本発明の導電性高分子水溶液を含浸し、第二の導電性高分子化合物層3Bを形成する方法で得られる。
【0046】
第一の導電性高分子化合物を与えるモノマーとしては、ピロール、チオフェン、アニリン、及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。このモノマーを化学酸化重合、または電解重合して第一の導電性高分子化合物を得る際に使用するドーパントとしては、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸、及びその誘導体等のスルホン酸系化合物が好ましい。
【0047】
ドーパントの分子量としては、低分子化合物から高分子量体まで適宜選択して用いることができる。
【0048】
溶媒としては、前述したように、水と水に可溶な有機溶媒とを含む混和溶媒でもよいが、水のみでもよい。
【0049】
含浸の方法としては、導電性高分子化合物層を均一に形成させる点から含浸を繰り返す方法が好ましく、さらに、含浸を行うときに大気圧より減圧した環境、または大気圧より加圧した環境で行うことが、含浸効率を高める点からより好ましい。また、十分に多孔質細孔内部へ導電性高分子水溶液を充填させるために、含浸後に、数分〜数10分間放置することが好ましい。
【0050】
導電性高分子水溶液からの溶媒の除去は、導電性高分子を乾燥することで行うことができる。乾燥温度は、溶媒除去が可能な温度範囲であれば特に限定されないが、熱による素子劣化防止の観点から、300℃以下であることが好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によって適宜最適化する必要があるが、導電性が損なわれない範囲であれば特に制限されない。
【0051】
陰極導体4は、導体であれば特に限定されないが、例えば、グラファイト層5と、銀導電性樹脂層6とからなる2層構造とすることができる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
水(30mL)に、モノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(1g)を攪拌しながら分散させ、ドーパントであるアニリン−2,4−ジスルホン酸(5g)と酸化剤である硫酸鉄(III)(1g)を溶解させた。得られた溶液を室温下で48時間攪拌して、モノマーの酸化重合を行った。
【0053】
上記の工程で得られた溶液を、電気透析と分液とをそれぞれ複数回行い、不純物を除去し、不純物を含まないアニリン−2,4−ジスルホン酸がドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の導電性高分子が含有された導電性高分子水溶液を得た。
【0054】
得られた導電性高分子水溶液をガラス基板の表面に100μl滴下し、温度を125℃とした恒温槽にて、溶媒を揮発させて乾燥することで、本発明の導電性高分子膜を形成した。
【0055】
得られた導電性高分子膜を四端子法(JIS K 7194)で表面抵抗(Ω/□)及び膜厚を計測し、導電率(S/cm)を算出した。その結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
ドーパントとして、5−スルホサリチル酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率を評価した。その結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
実施例1で得られた導電性高分子水溶液(20g)に、バインダーとして自己乳化型ポリエステル分散体(0.3g)を加え、室温下で24時間攪拌して、自己乳化型ポリエステル分散体を溶解させることで、導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率を評価した。その結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
特許文献1の実施例1に記載の方法で、導電性高分子水溶液を製造した。具体的には、水(20mL)に、3,4−エチレンジオキシチオフェン(0.5g)と、重量平均分子量4,000のポリスチレンスルホン酸(2g)及び硫酸鉄(III)(0.05g)を加え、室温下で24時間攪拌して、導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率を評価した。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示したように、実施例1〜3で得られた導電性高分子膜は、比較例1で得られた導電性高分子膜に比べて、高導電率であった。これにより、本発明の高導電率化の効果が確認できた。
【0061】
高導電率化の効果は、導電性高分子膜が、導電性に寄与しない過剰なポリ陰イオンなどを含まないためと推察される。
【0062】
(実施例4)
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のアルミニウムを用い、陽極酸化によりアルミニウムの表面に誘電体層となる酸化皮膜を形成した。陽極導体に絶縁樹脂を塗布することによって、陽極端子に接続する陽極部と、静電容量を得るための陰極部に区分した。次いで、陰極部となる誘電体層を形成した陽極導体の領域を、実施例1で製造した導電性高分子水溶液に浸漬し、引き上げ後、温度を125℃とした恒温槽にて乾燥し、固化させて、固体電解質層を形成した。そして、固体電解質層の表面に、グラファイト層及び銀導電性樹脂からなる陰極導体を形成して、固体電解コンデンサを製造した。
【0063】
この固体電解コンデンサのESRを、LCRメーターを用いて100kHzの周波数で測定した。ESRの値は、全陰極部面積を単位面積(1cm)に換算した。その測定結果を表2に示す。
【0064】
(実施例5)
実施例2で得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例4と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。実施例4と同様の方法で測定した固体電解コンデンサのESRの結果を表2に示す。
【0065】
(実施例6)
実施例3で得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例4と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。実施例4と同様の方法で測定した固体電解コンデンサのESRの結果を表2に示す。
【0066】
(実施例7)
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のアルミニウムを用い、陽極酸化によりアルミニウムの表面に誘電体層となる酸化皮膜を形成した。実施例4と同様に陽極部と陰極部は、絶縁樹脂で区分した。次いで、陰極部となる誘電体層を形成した陽極導体の領域を、ピロール(10g)を純水(200mL)に溶解させたモノマー液に浸漬と引き上げを行い、さらに、ドーパントとしてp−トルエンスルホン酸(20g)と酸化剤として過硫酸アンモニウム(10g)を純水(200mL)に溶解させた酸化剤液に、浸漬と引き上げを行った。これらの浸漬と引き上げの工程を10回繰り返し、化学酸化重合を行うことで、第一の導電性高分子化合物層を形成した。
【0067】
第一の導電性高分子化合物層の表面に、実施例1で製造した導電性高分子水溶液を滴下し、含浸させた後、恒温槽にて温度125℃で乾燥し、固化させて、第二の導電性高分子化合物層を形成した。
【0068】
そして、第一の導電性高分子化合物層及び第二の導電性高分子化合物層からなる固体電解質層の表面に、グラファイト層及び銀導電性樹脂を順番に形成して、固体電解コンデンサを製造した。実施例4と同様の方法で測定した固体電解コンデンサのESRの結果を表2に示す。
【0069】
(実施例8)
実施例2で得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例7と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。実施例4と同様の方法で測定した固体電解コンデンサのESRの結果を表2に示す。
【0070】
(実施例10)
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のタンタルを用いた以外は、実施例4と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。実施例4と同様の方法で測定した固体電解コンデンサのESRの結果を表2に示す。
【0071】
(比較例2)
比較例1で得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例4と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。実施例4と同様の方法で測定した固体電解コンデンサのESRの結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示したように、実施例4〜10で得られた固体電解コンデンサは、比較例2で得られた固体電解コンデンサに比べて、ESRが低減している。これは、実施例4〜10で使用した導電性高分子膜の導電率が高いためと推察される。本発明の導電性高分子膜を固体電解質層に用いることで、固体電解質層の抵抗が低減するため、固体電解コンデンサのESRを低減することが可能となる。
【0074】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 陽極導体
2 誘電体層
3 固体電解質層
3A 第一の導電性高分子化合物層
3B 第二の導電性高分子化合物層
4 陰極導体
5 グラファイト層
6 銀導電性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン基を1つと親水基を1つ以上有する単分子有機酸を含有することを特徴とする導電性高分子。
【請求項2】
前記アニオン基が、スルホ基(−SOH)であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子。
【請求項3】
前記親水基が、スルホ基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)、ヒドロキシル基(−OH)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性高分子。
【請求項4】
前記単分子有機酸が、アニリン−2,4−ジスルホン酸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導電性高分子。
【請求項5】
ピロール、チオフェン及びそれらの誘導体から構成されたポリマーであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の導電性高分子。
【請求項6】
バインダーとして、樹脂及び/または熱や光により反応して樹脂になる物質を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の導電性高分子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の前記導電性高分子を溶解、または分散してなることを特徴とする導電性高分子水溶液。
【請求項8】
請求項7に記載の導電性高分子水溶液を乾燥して、溶媒を除去したものであることを特徴とする導電性高分子膜。
【請求項9】
弁作用金属からなる陽極導体と、前記陽極導体の表面に形成した誘電体層とを有し、前記誘電体層の表面に請求項8に記載の導電性高分子膜を含む固体電解質層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項10】
前記弁作用金属が、アルミニウム、タンタル及びニオブから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項11】
弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層の表面から請求項7に記載の導電性高分子水溶液を含浸し、固体電解質層を形成する工程を含むことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層の表面に、第一の導電性高分子化合物を与えるモノマーの化学酸化重合または電解重合により、第一の導電性高分子化合物層を形成する工程と、前記第一の導電性高分子化合物層の表面から請求項7に記載の導電性高分子水溶液を含浸し、第二の導電性高分子化合物層を形成する工程を含むことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
前記第一の導電性高分子化合物が、ピロール、チオフェン、アニリン及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の重合体であることを特徴とする請求項12に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
前記弁作用金属が、アルミニウム、タンタル及びニオブから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246427(P2012−246427A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120479(P2011−120479)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】