説明

導電性高分子アクチュエータ素子

【課題】 上記スルホイミドイオンと比較してより大きなアニオンが容易に出入り可能なポリピロールから構成された導電性高分子アクチュエータ素子(ポリピロールアクチュエータ)を得るところにある。また本発明のさらなる課題は、ポリピロール膜を電極から容易に剥離可能とし、大面積のポリピロール膜から構成された導電性高分子アクチュエータ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 電圧を印加することにより駆動電解液中で駆動するアクチュエータ素子であって、
前記アクチュエータ素子が、次の式1に示されたパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜を含む、導電性高分子アクチュエータ素子である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリピロールで構成された導電性高分子アクチュエータ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子を用いたアクチュエータは、軽量であることから組み込まれる装置全体の重量を軽減することが可能であり、マイクロマシン等の小型の駆動装置のみならず、大型の駆動装置として用いられることが期待され、特に、人工筋肉、ロボットアーム、義手やアクチュエータ、ポンプ等の用途として応用が期待されている。
【0003】
ポリピロールに代表される導電性高分子は、導電性を有するだけではなくイオンをドーパントとして取り込むことができ、電圧を印加することによりドーピングと脱ドーピングとを繰り返し行うことができる。そのため、導電性高分子は電気化学的な酸化還元により伸縮若しくは変形する現象である電解伸縮を発現することが可能である。この導電性高分子の電解伸縮は、アクチュエータ素子の駆動として使用できる。
【非特許文献1】原進、外4名、「高伸縮かつ強力なポリピロールリニアアクチュエータ(Highly Stretchable and Powerful Polypyrrole Linear Actuators)」、ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)、日本、日本化学会発行、2003年、第32巻、第7号、p576-577。
【0004】
従来、この種のアクチュエータ素子としては、電気化学的伸縮率の大きなスルホイミド(C2n+1SOをドープしたポリピロールが提供されている。
【0005】
しかし、上記スルホイミドをドープしたポリピロールアクチュエータでは、良好に駆動させるためには電解重合に用いたアニオンと同じアニオンを含む駆動電解液を用いる必要があり、また、炭素電極で電解重合すると高性能な上記スルホイミドのポリピロール膜が得られるが、炭素電極からのポリピロール膜の剥離が困難であることから、十分な大きさの膜が得にくい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記スルホイミドイオンと比較してより大きなアニオンが容易に出入り可能なポリピロールから構成された導電性高分子アクチュエータ素子(ポリピロールアクチュエータ)を得るところにある。また本発明のさらなる課題は、ポリピロール膜を電極から容易に剥離可能とし、大面積のポリピロール膜から構成された導電性高分子アクチュエータ素子の製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
電圧を印加することにより駆動電解液中で駆動するアクチュエータ素子であって、
前記アクチュエータ素子が、次の式1に示されたパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜を含む、導電性高分子アクチュエータ素子を採用した。
【化1】

【0008】
また本発明は、上記素子を得る好ましい製造方法として、ピロール及び次の式2に示されたメチド塩(Me)を含む製造用電解液中で、電極上に電解重合し、前記式1に示されたアニオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜を得る、導電性高分子アクチュエータ素子の製造方法を採用した。
【化2】

【0009】
なお、電解重合するにあたり、電極としてグラッシーカーボン電極を用いることが好ましいが、白金、チタン、ニッケルなどの金属電極でもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、前記パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜から構成された導電性高分子アクチュエータ素子であるため、前記ポリピロール膜に、前記メチド塩(Me)を含む駆動電解液中で電圧を印加することにより、従来の電気化学的伸縮率の大きなスルホイミド(C2n+1SOと比較して、更により大きな駆動電解質アニオンとしてパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンが容易に出入り可能であるため、高速で大きな電解伸縮が達成される。またこのポリピロール膜は、電極、特にグラッシーカーボン電極を用いて電解重合して得ることができ、かかる電極側に微細な空孔が生成することから、電極からのポリピロール膜を容易に剥離可能とすることができることから、従来の前記スルホイミドのポリピロールと比較して、大面積のポリピロール膜を得ることができる。さらにまた本発明のポリピロールは、炭素棒電極を用いてポリピロール膜を得ることができることから、チューブ状ポリピロールも容易に作製可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(アクチュエータ素子)
本発明のアクチュエータ素子は、前記式1に示されたパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンがドーパントとして取り込まれ、駆動電解液中で該導電性高分子へのドーピング及び脱ドーピングすることができるポリピロールから構成されていれば採用することができる。
【化3】

【0012】
前記パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンは、アニオン中心である炭素原子にスルホニル基が結合し、さらに、置換基である2つのパーフルオロアルキル基を有している。このパーフルオロアルキルスルホニル基は、一つはC2n+1SOで表され、他のパーフルオロアルキルスルホニル基はC2m+1SO、さらにC21+1SOで表される。前記のn、mおよびlは、それぞれ1以上の任意の整数であり、nとmとlが同じ整数であってもよく、nとmとlが異なる整数であっても良い。
【0013】
特に、前記アクチュエータ素子が、次の式3に示されたトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドイオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜から構成された、導電性高分子アクチュエータ素子が好ましい。
【化4】

【0014】
例えば、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、ヘプタフルオロプロピルスルホニル基、ノナフルオロブチルスルホニル基、ウンデカフルオロペンチルスルホニル基、トリデカフルオロヘキシルスルホニル基、ペンタデカフルオロヘプチルスルホニル基、ヘプタデカフルオロオクチルスルホニル基などを挙げることができる。前記パーフルオロアルキルスルホニルメチド塩としては、例えば、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド塩、トリス(ペンタフルオロエチルスルホニル)メチド塩、トリス(ヘプタデカフルオロオクチルスルホニル)メチド塩を用いることができる。中でも、本発明の態様として、前記メチドイオンが前記式1においてn=1、m=1、l=1、又は前記式3においてn=1であるトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドイオンを用いることが好ましい。
【0015】
なお、前記導電性高分子は、ドーパントとしてのアニオンとして、該導電性高分子へのドーピング及び脱ドーピングすることができる他のアニオンを含めることもできる。例えば、必要とされる電解伸縮量や用途等に応じて、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、BF、PF、過塩素酸イオンやパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを用いることができる。
【0016】
前記パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンをバルク中に含む導電性高分子は、1酸化還元サイクル当たりの大きな伸縮率をも発揮することもできる。このアニオンは、パーフルオロアルキルスルホニルイミドイオン等の従来のドーパントに比べて、大きな分子サイズを有する。従って、所定形状を有する導電性高分子の有形物は、パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンが内部に存在し、印加する電圧の正負の切り替えを繰り返すことにより、大きな分子サイズのアニオンが導電性高分子の有形物から出入りするために、1酸化還元サイクル当たりの大きな電解伸縮をすることができる。
【0017】
前記導電性高分子は、好ましくは電解液中の電極上で電解重合によりピロール膜として得られるが、得られたピロール膜について2次加工し、各種形状の導電性アクチュエータとして得ることができる。要するに、バルクとしての形状は特に限定されるものではなく、膜状体、筒状体、円柱状体、角柱状や六角柱状等の多角柱状体、円錐状体、板状体、直方体状体などの、特定の形状であればよい。なお、本発明のポリピロールは、炭素棒電極を用いてポリピロール膜を得ることができることから、チューブ状ポリピロールは容易に作製可能である。
【0018】
前記導電性高分子が、特定の形状の有形物としてアクチュエータ素子の一部若しくは全体を構成することにより、導電性高分子への電圧印可による電解伸縮により前記導電性高分子が容易に駆動することができる。
【0019】
また前記アクチュエータの形状としては、上記の形状以外にも使用状況に適した形状に形成することができる。また、本願発明のアクチュエータ素子の形状に保護部材等の部品を付加して所望の形状とすることができる。なお、前記アクチュエータ素子は、既述の通り、電解重合により作用電極上に得られた導電性高分子膜をそのまま用いても良く、積層等の成形を施して、所望の形状にしても良い。さらに、対極についても、柱状に限定されるものではなく、板状等の形状にすることもできる。なお、前記の導電性高分子の有形物は、ドーパントの他に、動作電極としての抵抗値を低下させるために、金属線や導電性酸化物などの導電性材料を適宜含むことができる。
【0020】
(製造方法)
この前記アクチュエータ素子を得る製法としては、ピロール及び次の式2又は次の式4に示されたメチド塩(Me)を含む製造用電解液、好ましくは芳香族エステル溶液の製造用電解液中で、電極上に電解重合することによって、前記式1又は前記式3に示されたアニオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜を得ることができる。
【化5】


【化6】

【0021】
既述したと同様に、メチド塩を構成する前記パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンは、アニオン中心である炭素原子にスルホニル基が結合し、さらに、置換基である2つのパーフルオロアルキル基を有している。このパーフルオロアルキルスルホニル基は、一つはC2n+1SOで表され、他のパーフルオロアルキルスルホニル基はC2m+1SO、さらにC21+1SOで表される。前記のn、mおよびlは、それぞれ1以上の任意の整数であり、nとmとlが同じ整数であってもよく、nとmとlが異なる整数であっても良い。
【0022】
例えば、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、ヘプタフルオロプロピルスルホニル基、ノナフルオロブチルスルホニル基、ウンデカフルオロペンチルスルホニル基、トリデカフルオロヘキシルスルホニル基、ペンタデカフルオロヘプチルスルホニル基、ヘプタデカフルオロオクチルスルホニル基などを挙げることができる。そして前記パーフルオロアルキルスルホニルメチド塩として、例えば、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド塩、トリス(ペンタフルオロエチルスルホニル)メチド塩、トリス(ヘプタデカフルオロオクチルスルホニル)メチド塩を用いることができる。中でも、本発明の態様として、前記メチドイオンが前記式1においてn=1、m=1、l=1、又は前記式3においてn=1であるトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド塩を用いることが好ましい。
【0023】
前記電解重合法の電解液中に含まれ得るパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンは、カチオンと塩を形成することができ、パーフルオロアルキルスルホニルメチド塩として電解重合法における電解液中に加えられている。パーフルオロアルキルスルホニルメチドと塩を形成するカチオンは、Li+の様に1つの元素から構成されていてもよく、複数の元素より構成されていても良い。前記カチオンは、1価の陽イオンとしてパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンを形成することができ、電解液中で解離することができるルイス酸であれば、特に限定されるものではない。
【0024】
前記カチオンが金属元素である場合には、例えばリチウムなどのアルカリ金属から選ばれる元素を用いることができる。また、前記カチオンが分子である場合には、例えば、テトラブチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムに代表されるアルキルアンモニウム、ピリジニウム、イミダゾリウムなどを用いることができる。
【0025】
なお、パーフルオロスルホニルメチド塩は、溶液中の解離が容易であり、入手も容易であることから、トリス(トリフルオロメチル)スルホニルメチドリチウム、トリス(ペンタフルオロエチルスルホニル)メチドリチウムなどのトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドリチウム、並びにトリス(トリフルオロメチル)スルホニルメチド、及びトリス(ペンタフルオロエチルスルホニル)メチドなどのトリス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチドについての、テトラブチルアンモニウム塩、ピリジニウム塩またはイミダゾリジウム塩が好ましい。
【0026】
前記電解重合に用いる電解液(導電性高分子製造用電解液)は、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ヒドロキシル基、ニトロ基、スルホン基及びニトリル基のうち少なくとも1つ以上の結合あるいは官能基を含む有機化合物及び/またはハロゲン化炭化水素を溶媒として用いることが好ましい。前記の電解液中に、前記溶媒を含み、さらに前記パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンを含み、又はさらにトリフルオロメタンスルホン酸イオン、BF、PF、過塩素酸イオンまたはパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを含むことにより、得られた導電性高分子は、1酸化還元サイクル当たりにおいて大きな電解伸縮を示すことができる。
【0027】
前記有機化合物としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン(以上、エーテル結合を含む有機化合物)、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸-t-ブチル、1,2−ジアセトキシエタン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル(以上、エステル結合を含む有機化合物)、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート(以上、カーボネート結合を含む有機化合物)、エチレングリコール、ブタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール、1−オクタデカノール(以上、ヒドロキシル基を含む有機化合物)、ニトロメタン、ニトロベンゼン(以上、ニトロ基を含む有機化合物)、スルホラン、ジメチルスルホン(以上、スルホン基を含む有機化合物)、及びアセトニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル(以上、ニトリル基を含む有機化合物)を例示することができる。特に、安息香酸メチルなどの芳香族エステル溶液が好ましい。
【0028】
なお、ヒドロキシル基を含む有機化合物は、特に限定されるものではないが、多価アルコール及び炭素数4以上の1価アルコールであることが、伸縮率が良いために好ましい。なお、前記有機化合物は、前記の例示以外にも、分子中にエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ヒドロキシル基、ニトロ基、スルホン基及びニトリル基のうち、2つ以上の結合あるいは官能基を任意の組合わせで含む有機化合物であってもよい。
【0029】
また、前記導電性高分子製造用電解液に溶媒として含まれるハロゲン化炭化水素は、炭化水素中の水素が少なくとも1つ以上ハロゲン原子に置換されたもので、電解重合条件で液体として安定に存在することができるものであれば、特に限定されるものではない。前記ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンを挙げることができる。前記ハロゲン化炭化水素は、1種類のみを前記導電性高分子製造用電解液中の溶媒として用いることもできるが、2種以上併用することもできる。また、前記ハロゲン化炭化水素は、上記の有機化合物と混合して用いてもよく、該有機溶媒との混合溶媒を前記導電性高分子製造用電解液中の溶媒として用いることもできる。
【0030】
前記パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンは、前記電解重合法における電解液中の含有量が特に限定されるものではないが、十分な電解液のイオン導電性を確保するために、パーフルオロアルキルスルホニルメチド塩として、電解液中に1〜40重量%含まれるのが好ましく、2.8〜20重量%含まれるのがより好ましい。また、電解重合法により得られる導電性高分子膜の膜質を向上させるために、トリフルオロメタンスルホン酸塩を電解液中に1〜80%加えた複合電解質を用いることもできる。
【0031】
前記電解重合法にて用いられる電解液(導電性高分子製造用電解液)には、さらに、前記パーフルオロスルホニルメチド塩を含む以外に、導電性高分子の単量体を含み、さらにポリエチレングリコールやポリアクリルアミドなどの公知のその他の添加剤を含むこともできる。
【0032】
前記電解重合法は、導電性高分子単量体の電解重合として、公知の電解重合方法を用いることが可能であり、定電位法、定電流法及び電気掃引法のいずれをも用いることができる。例えば、前記電解重合法は、電流密度0.01〜20mA/cm2、反応温度−70〜80℃で行うことができ、良好な膜質の導電性高分子を得るために、電流密度0.1〜2mA/cm、反応温度−40〜40℃の条件下で行うことが好ましく、反応温度が−30〜30℃の条件であることがより好ましい。
【0033】
前記電解重合法に用いられる、作用電極は、電解重合に用いることができれば特に限定されるものではなく、炭素電極や金属電極、ITOガラス電極などを用いることができるが、グラッシーカーボン電極でを用いることが好ましい。この電極を用いることによって電極側に微細な空孔が生成し、電極からの前記ポリピロール膜の剥離が容易となり、従来の前記スルホイミドのポリピロールと比較して、大面積の前記メチドのポリピロール膜を得ることができ、またチューブ状ポリピロールも容易に作製可能となる。
【0034】
なお、金属電極を用いる場合は、金属を主とする電極であれば特に限定されるものではないが、Pt、Ti、Ni、Au、Ta、Mo、Cr及びWからなる群より選ばれた金属元素についての金属単体の電極または合金の電極を好適に用いることができる。金属電極の場合は、得られた導電性高分子の伸縮率及び発生力が大きく、且つ電極を容易に入手できることから、金属電極に含まれる金属種がNi、Tiであることが特に好ましい。なお、前記合金としては、例えば、商品名「INCOLOY alloy 825」、「INCONEL alloy 600」、「INCONEL alloy X−750」(以上、大同スペシャルメタル株式会社製)を用いることができる。
【0035】
また、対極については公知の電極、たとえばPt、Niを好適に用いることができる。
【0036】
前記電解重合法に用いられる電解液に含まれる導電性高分子の単量体としては、ピロールを用いるものであるが、さらに電解重合による酸化により高分子化して導電性を示すモノマー化合物を組み合わせることができる。例えばチオフェン、イソチアナフテン等の複素五員環式化合物及びそのアルキル基、オキシアルキル基等の誘導体が挙げられる。その中でもチオフェン等の複素五員環式化合物及びその誘導体が好ましい。
【0037】
なお、作用電極上に重合された導電性高分子は、電解重合後、アセトン等の導電性高分子を膨潤させることができる溶媒を用いて、アセトン中で洗浄等することによって前記作用電極から剥離することにより、導電性高分子膜を容易に得ることができる。前記の通り、作用電極としてグラッシーカーボン電極を用いた場合は、作用電極側に微細な空孔が生成し、作用電極からの前記ポリピロール膜の剥離が容易となり、従来の前記スルホイミドのポリピロールと比較して、大面積の前記メチドのポリピロール膜を得ることができ、またチューブ状ポリピロールも容易に作製可能となる。
【0038】
前記ポリピロール膜は、膜厚が特に限定されるものではないが、その厚みが200μm以下、サブミリオーダーの厚みとして用いることが好ましい。
【0039】
(駆動方法)
本発明のアクチュエータ素子の駆動方法は、前記アクチュエータ素子は導電性高分子を含み、前記導電性高分子が、前記式1に示されたアニオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜であって、前記ポリピロール膜に、駆動電解質を含む駆動電解液中で電圧を印加することによりアクチュエータ素子を駆動させる。
【0040】
アクチュエータ素子の駆動の際に用いられる上記駆動電解液は、前記アクチュエータ素子が電圧印可により駆動するための電解質を含み、該電解質を溶解するための溶媒を含む。前記駆動電解質が、前記電解質を溶解する溶媒として、水と極性有機溶媒との混合溶媒を含むことにより、導電性高分子を含むアクチュエータ素子は、一定の電圧を与えた状態における時間に対する伸縮量(駆動速度)を測定した場合に、前記駆動電解液中で大きな駆動速度を示すことができる。
【0041】
上記駆動電解液中に含まれる駆動電解質としては、前記製造用電解質溶液で用いたものと同様に、次の式1に示されたメチドイオン又は次の式2に示されたメチド塩、好ましくは次の式3に示されたメチドイオン又は次の式4に示されたメチド塩、より好ましくはトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドイオン又は当該メチド塩を含むことが望ましい。これにより径の大きなアニオンである前記メチドイオンが容易に出入りするため高速で大きな電解伸縮が達成される。
【0042】
【化7】

【0043】
前記のn、mおよびlは、それぞれ1以上の任意の整数であり、nとmとlが同じ整数であってもよく、nとmとlが異なる整数であっても良い。
【0044】
【化8】

【0045】
具体的には、製造用電解液と同様、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、ヘプタフルオロプロピルスルホニル基、ノナフルオロブチルスルホニル基、ウンデカフルオロペンチルスルホニル基、トリデカフルオロヘキシルスルホニル基、ペンタデカフルオロヘプチルスルホニル基、ヘプタデカフルオロオクチルスルホニル基などを挙げることができる。前記パーフルオロアルキルスルホニルメチド塩としては、例えば、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド塩、トリス(ペンタフルオロエチルスルホニル)メチド塩、トリス(ヘプタデカフルオロオクチルスルホニル)メチド塩を用いることができる。中でも、本発明の態様として、上述したとおり、前記メチドイオンが前記式1においてn=1、m=1、l=1、又は前記式3においてn=1であるトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドイオンを用いることが好ましい。
【0046】
前記パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンをバルク中に含む導電性高分子は、1酸化還元サイクル当たりの大きな伸縮率をも発揮することもできる。このアニオンは、パーフルオロアルキルスルホニルイミドイオン等の従来のドーパントに比べて、大きな分子サイズを有する。従って、所定形状を有する導電性高分子の有形物は、パーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンが内部に存在し、印加する電圧の正負の切り替えを繰り返すことにより、大きな分子サイズのアニオンが導電性高分子の有形物から出入りするために、1酸化還元サイクル当たりの大きな電解伸縮をすることができる。
【0047】
なお、前記駆動用電解液に用いる電解質は、前記メチドイオン又はその塩ではなく、ドーパントとしてのアニオンとして、該導電性高分子へのドーピング及び脱ドーピングすることができる他のアニオンを用いることもできる。例えば、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、BF、PF、過塩素酸イオンや、パーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを用いることができる。また、前記メチドイオン又はその塩と共に上記電解質を組み合わせて用いることもできる。
【0048】
前記パーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンは、アニオン中心である窒素原子にスルホニル基が結合し、さらに、置換基である2つのパーフルオロアルキル基を有していればよい。例えばトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ペンタデカフルオロヘプチル基、ヘプタデカフルオロオクチル基などを挙げることができる。前記パーフルオロアルキルスルホニルイミド塩としては、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド塩、ビス(ノナフルオロブチルスルホニル)イミド、ビス(ヘプタデカフルオロオクチルスルホニル)イミド塩を用いることができる。
【0049】
前記導電性高分子が前記メチドイオンを含む製造用電解液を用いた前記電解重合法にて得られた導電性高分子であることにより、前記メチドイオンを含むポリピロール膜は、上述のように1酸化還元サイクル当りの伸縮量が大きく、駆動速度(%/s)の値も大きく、しかも、容易に得ることができるので好ましい。例えば、前記のポリピロール膜は、ドーパントとして、前記メチドイオンを含むことにより、従来の導電性高分子の電解伸縮がその最大の伸縮率が面方向で1酸化還元サイクル当たり10〜15%程度までしか得られていなかったのに対して、長さ方向において、1酸化還元サイクル当たり24%以上、特に32%以上の優れた最大の伸縮率を示すことが可能となる。従って、前記ポリピロール膜は、人工筋肉に代表される大きな伸縮率が要求される用途に好適に用いることができる。
【0050】
上記駆動電解液中に含まれる極性有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、電気化学の反応場として用いることができる溶媒であることが好ましい。前記極性有機溶媒は、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリルからなる群より一種以上選ばれた極性有機溶媒であることが、速い伸縮速度と大きな最大伸縮率を得ることができるために好ましく、プロピレンカーボネートが特に好ましい。
【0051】
前記混合溶媒における水と極性有機溶媒との混合比は、特に限定されるものではない。前記駆動電解液の溶媒として水と極性有機溶媒との混合溶媒を用いた場合には、極性有機溶媒のみを用いた場合に比べて2倍以上の駆動速度の向上をすることができる。
【0052】
前記駆動電解液は、導電性高分子や極性有機溶媒の種類により、前記混合比を特定することが難しい。極性有機溶媒の導電性高分子を膨潤させる能力等により、駆動速度を向上させるための極性有機溶媒の最小値は、該極性有機溶媒の種類に依存することになる。例えば、プロピレンカーボネートについては、特級試薬では水の含有量が0.005%であることから、水と極性有機溶媒との混合比を0.1:99.9とすることもできる。前記混合溶媒における水と極性有機溶媒との好適な混合比の範囲は、容量比で、水含有比下限が0.5、1.0、5.0、10又は20から選ばれる値から、水含有比下限上限が99.5、99.0、95.0、90.0、又は80.0から選ばれる範囲を、極性有機溶媒の種に応じて、選ぶことができる。なお、前記混合比は、ガスクロマトグラフィー法を用いた測定方法、特に水分含有率が少ない場合にはカールフェィッシャー法を用いた測定方法を用いることにより、駆動電解液を分析することにより求めることができる。
【0053】
例えば、前記極性有機溶媒が、プロピレンカーボネートである場合には、水とプロピレンカーボネートとの混合比が、容量比で、25:75〜75:25であることが前記アクチュエータ素子において、導電性高分子への電圧印可による駆動速度がより速くなるので好ましい。前記混合溶媒は、前記極性有機溶媒が複数種用いられていてもよく、この場合には、前記混合比は、水の重量と全極性有機溶媒の合計重量との比で計算される。
【0054】
前記水は、特に限定されるものではないが、蒸留水若しくはイオン交換水であることが、金属イオンや塩化物イオン等による電解伸縮への阻害因子が含まれ難いために好ましい。
【0055】
なお、本発明のアクチュエータ素子の駆動方法においては、製造用電解液で用いられたところの前記メチドイオン、即ちポリピロールに含まれる前記メチドアニオンと同じアニオンが、前記作動電解液中に含まれることが好ましい。これにより、本発明のアクチュエータ素子を駆動電解液中で動作させるにあたり、同一又は同種アニオンが、イオン半径が同程度となることから、ポリピロール膜又は前記ポリピロール2次加工物への出入りが容易となり、所望の伸縮量の電解伸縮を容易に得ることができる。
【0056】
(駆動条件)
本発明のアクチュエータ素子の駆動方法における駆動電解液の温度は、特に限定されるものではないが、上記の導電性高分子をより速い速度で電解伸縮させるために、10〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃であることが好ましい。また、前記駆動電解液中のアニオンの濃度も特に限定されるものではないが、0.1〜5.0mol/Lであることが大きな伸縮率が得られ、安定して駆動することができるために好ましい。
【0057】
本発明のアクチュエータ素子の駆動方法において、前記ポリピロールを含むアクチュエータ素子が前記駆動電解液中に置かれ、前記駆動電解液中に対極が設置されて、前記導電性高分子と前記対極とに電圧が印加されることにより、前記アクチュエータ素子が駆動する。前記電圧は特に限定されるものではない。前記アクチュエータ素子の伸縮運動のために印加電圧(V)の絶対値が0.2〜5.0である電圧を印加することが可能である。前記アクチュエータ素子の駆動速度(%/s)をより速くするために、前記アクチュエータ素子の伸縮運動のために印加電圧(V)の絶対値が0.5〜5.0であることが好ましい。なお、印加電圧は、導電性高分子の組成やアクチュエータ素子の用途に応じて、上限値を適宜することもできる。
【実施例】
【0058】
0.25 mol/dmのピロール、0.12 mol/dmの1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム・トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド(DMPIMe)を含む安息香酸メチル溶液を電解液とし、グラッシーカーボン電極上に+1.2V vs. Ag/AgClで9時間定電位電解重合してポリピロール膜(PPy膜)を得た。このポリピロール膜を、0.12 mol/dmのDMPIMeを含むプロピレンカーボネート/水(2/1)混合溶液の駆動電解液中で、−0.9V〜+0.7V vs. Ag/Agの電位範囲で2mV/sの掃引速度で電解伸縮して測定した最大伸縮率(伸縮により変位した最大長さを前記ポリピロール膜の元の長さで除した値)は31.9%であった。同PPyアクチュエータ膜を上記駆動電解液中で−0.7V vs. Ag/Agの一定電位を引加して収縮させたときの2秒、5秒、10秒、100秒後の収縮率(収縮により変位した長さを前記ポリピロール膜の元の長さで除した値)を表1に示す。表1より、大きなアニオンのため収縮速度は遅いが、5分、10分間での収縮率はそれぞれ32.3%、37.6%と大きかった。
駆動電解質としてビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルヒニル)イミド、ビス(ノナフルオロブチルスルホニル)イミドのリチウム塩を用いた伸縮性能も表1に示した。メチドをドーパントしたポリピロール膜は高速に大きく電解伸縮した。また、この膜はグラッシーカーボン電極から容易に剥離させることが可能であった。炭素棒(スープペンシル芯)を電極に用いた電解重合によりチューブ状のアクチュエータを作製することができた。図1に示すように、このポリピロール膜の基板側には微細な空孔が多数あり、基板との密着性が低く、容易に剥離可能になると考えられる。なお、図1及び図2はDMPIMeを支持塩として調製したポリピロール膜の表面を示す電子顕微鏡写真(日立ハイテクノロジー社製、商品名「S−3000N」、倍率×1000)であり、グラッシックカーボン電極を用いて調製したものである。図1は電極側(基板側)のPPy−(CFSO膜を示している。図2は電解液側のPPy−(CFSO膜の同電子顕微鏡写真である。
【0059】
電解重合時に白金電極を用いた以外は同様に調製したポリピロール膜のアクチュエータ性能を表1に示す。電解伸縮性能はグラッシーカーボン電極で調製したポリピロール膜よりわずかに低いが、同様に高速で大きく電解伸縮した。この膜は白金電極から極めて容易に剥離させることが可能であった。
【0060】
(比較例)
電解重合に用いる支持塩として0.20 mol/dmのテトラブチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TBAC1)を用いて調製したPPyアクチュエータ膜を0.50 mol/dmのビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドのリチウム塩(LiC1)のプロピレンカーボネート/水(2/3)混溶液中で同様に電解伸縮させた結果を表1に示す。高速に大きく伸縮するが、この膜はより高性能を示すグラッシーカーボン電極を用いて調製した場合、電極からの剥離が極めて困難で、大きな膜を得にくい。また、炭素棒を電極に用いた場合には炭素棒を抜くことが困難でチューブ状ポリピロールアクチュエータを得にくい。
【0061】
電解重合に用いる支持塩として0.20 mol/dmのビス(ノナフルオロブチルスルホニル)イミド(LiC4)を用いて調製したポリピロールアクチュエータ膜を0.50 mol/dmのビス(ノナフルオロブチルスルホニル)イミド(LiC4)のプロピレンカーボネート/水(1/1)混合溶液中で同様に電解伸縮させた結果を表1に示す。大きな電解伸縮を示すが、応答速度はやや劣っている。また、グラッシーカーボン電極からの剥離が困難である。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、導電性高分子の電解伸縮を利用してアクチュエータ素子の駆動が適用可能なすべての分野に利用することができるが、特に人工筋肉、ロボットアーム、義手やアクチュエータ、ポンプ等の用途に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】電極側(基板側)のPPy−(CFSO膜を示す電子顕微鏡写真(画像データ)である。
【図2】電解液側のPPy−(CFSO膜の同電子顕微鏡写真(画像データ)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を印加することにより駆動電解液中で駆動するアクチュエータ素子であって、
前記アクチュエータ素子が、次の式1に示されたパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜を含む、導電性高分子アクチュエータ素子。
【化1】

【請求項2】
電圧を印加することにより駆動電解液中で駆動するポリピロール膜を含む導電性高分子アクチュエータ素子の製造方法であって、
ピロール及び次の式2に示されたメチド塩(Me)を含む製造用電解液中で、電極上に電解重合し、前記式1に示されたアニオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜を得る、導電性高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【化2】

【請求項3】
前記電極がグラッシーカーボン電極である、請求項3記載の導電性高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項4】
アクチュエータ素子の駆動方法であって、
前記アクチュエータ素子は導電性高分子を含み、
前記導電性高分子が、前記式1に示されたアニオンがドーパントとして取り込まれたポリピロール膜であって、前記ポリピロール膜に、駆動電解質を含む駆動電解液中で電圧を印加することによりアクチュエータ素子を駆動させる導電性高分子アクチュエータ素子の駆動方法。
【請求項5】
前記駆駆動電解液に、駆動電解質として前記式2に示されたメチド塩(Me)又は当該メチドイオンを含む
請求項4記載の導電性高分子アクチュエータ素子の駆動方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−23173(P2007−23173A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208132(P2005−208132)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(302014860)イーメックス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】