説明

導電性高分子用ドーパント及びそれを用いた導電性高分子

【課題】電気伝導率が高くかつ耐熱性及び難燃性に優れる導電性高分子用のドーパントを提供すること。
【解決手段】導電性高分子用ドーパントは下記一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなることを特徴とする。式中、R1、R2及びR3は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R1とR2が結合して環を形成してもよい。nはメチレン基の数を表し、n=1〜6である。R4〜R8は、水素又は置換基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。X-はアニオンを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四級ホスホニウム塩からなる導電性高分子用ドーパント及びそれを用いて得られる導電性高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の一次元π電子共役構造を有する高分子化合物は導電性高分子と呼ばれており、電解コンデンサや電子機器のバックアップ用電池、携帯電話やノート型パソコンに使用されているリチウム二次電池の電極等に使用されている。また、導電性高分子は導電性だけでなく発光性を有し、かつ成膜性を有することから、フレキシブルディスプレイの実現が可能な有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、有機半導体により構成される有機トランジスタ、導電性高分子をインクとしてインクジェット技術等を利用し直接基板にパターンを作るプリンタブル回路等にも応用されている。
【0003】
π電子共役系導電性高分子の合成法としては、化学酸化重合法(例えば特許文献1)と電解重合法(例えば特許文献2)が広く知られている。化学酸化重合法は、酸化剤を用いて溶液中でモノマーを酸化重合する方法であり、大量生産に適するものの、重合時間が長く、得られる導電性高分子の電気伝導率が低いという問題点がある。一方、電解重合法はモノマーを含有する電解液中で電解を行うことにより貴金属等の電極上に導電性高分子の膜を形成する方法であり、電極電位や電流密度を調整することにより重合時間の制御が容易であり、得られる導電性高分子の電気伝導性も高いという利点を有する。
【0004】
一般的に電解重合法では、アセトニトリルやエチレンカーボネート等の有機溶剤にリチウム塩、ナトリウム塩、四級アンモニウム塩のような支持電解質を溶解して電解液とし、該電解液にモノマーを含有させた電解質組成物を用いる。これらの支持電解質は、電解液の電気伝導性を確保する目的だけでなく、得られる導電性高分子中に取り込まれて、導電性高分子自体の電気伝導率を高めるドーパントとしても挙動する。したがって、導電性高分子の電気伝導性は、支持電解質の種類、電解液中の濃度等の条件に大きく依存する。また、電気伝導性だけでなく、導電性高分子の安定性や溶解性等の特性も大きく影響を受ける。
【0005】
また、イオン濃度が高く、不揮発性かつ引火性のないイオン液体(常温溶融塩)を電解質として用いる方法が提案されている(例えば非特許文献1)。イオン液体として用いられるものは、主としてイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、四級アンモニウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩のような、含窒素カチオンを有する化合物である。しかしながら、これらのイオン液体を電解質として用いた電解重合反応用電解液の場合、イオン液体の高い粘性により電気伝導性が低く、電解重合反応の効率を十分に高くすることができないという問題がある。
【0006】
一方、リン系の四級ホスホニウムカチオンを主体とするイオン液体も知られている。四級ホスホニウム塩は化学的及び熱的に安定であることが知られており、更にリンを含有することによる難燃性を有することも知られている。四級ホスホニウム塩の電解重合反応用電解液への応用に関しては、例えば非特許文献2に、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを電解質として用いたピロールの電解酸化重合反応が記載されている。しかしながら、同文献に記載された四級ホスホニウム塩イオン液体は著しく高粘性かつ低電気伝導性であり、電解質として用いるには不利であるだけでなく、同文献には、四級ホスホニウム塩が有する特長については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−173313号公報
【特許文献2】特開昭63−158829号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ジャーナル オブ エレクトロアナリティカル ケミストリー(Journal of Electroanalytical Chemistry)、第557巻、第1頁(2003年)
【非特許文献2】シンセティック メタルズ(Synthetic Metals)、第155巻、第684頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する電解重合反応における種々の欠点を解消し得る化合物及びそれを用いて得られる導電性高分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の四級ホスホニウム塩からなるイオン液体は電気伝導性が高く、該イオン液体を電解重合反応に用いると、該イオン液体がドープされ、電気伝導性が高くかつ耐熱性・難燃性に優れる導電性高分子が得られるため、該イオン性液体は導電性高分子用ドーパントとして好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなることを特徴とする導電性高分子用ドーパントを提供するものである。
【0012】
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R1とR2が結合して環を形成してもよい。nはメチレン基の数を表し、n=1〜6である。R4〜R8は、水素又は置換基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。X-はアニオンを表す。)
【0013】
また本発明は、上記導電性高分子用ドーパントがドープされていることを特徴とする導電性高分子を提供するものである。
また本発明は、上記導電性高分子の製造方法であって、上記導電性高分子用ドーパントの存在下に、重合性単量体を電解重合することを特徴とする導電性高分子の製造方法を提供するものである。
また本発明は、上記導電性高分子を用いたことを特徴とする電気化学デバイスを提供するものである。
更に本発明は、上記導電性高分子用ドーパントを含有することを特徴とする重合性単量体の電解重合用電解液組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る四級ホスホニウム塩は、電気伝導性が高く、かつ耐熱性及び難燃性に富むもので、導電性高分子用のドーパントとして高い機能を有するとともに、電解重合反応用の電解質としても好適であり、また電解重合反応用の電解液組成物として使用することもできる。したがって、該ホスホニウム塩からなる本発明の導電性高分子用ドーパントの存在下に重合性単量体を電解重合することで、速やかに電解重合反応が進行し、効率よく導電性高分子を得ることができ、しかも、得られる導電性高分子の電気導電性、耐熱性及び難燃性も高くすることができる。更に、電解重合反応に供する電解液組成物の耐熱性及び難燃性も高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩における4つの基のうち、3つはアルキル基であり、残りの1つはアルキレン基−(CH2n−で連結された非置換又は置換フェニル基である。このような構造の四級ホスホニウム塩は、リンに結合する基がすべて無置換アルキル基である四級ホスホニウム塩に比べて電気伝導性が高くなり、かつ耐熱性も格段に高くなる。この理由は現時点では完全には解明されていないが、フェニル基のπ電子とリン原子のd軌道との相互作用に起因すると考えられる。
【0016】
また、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、下記(a)に示すように、リン原子が有する空のd軌道と導電性高分子主鎖との相互作用、ベンジル基のπ電子と導電性高分子のπ共役系とのπ−π相互作用を示す。これらの相互作用により、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は導電性高分子中へドープされやすくなると考えられ、得られる導電性高分子の電気伝導性及び耐熱性の向上にも大きく寄与する。一方、四級アンモニウム塩であると、下記(b)に示すように、ベンジル基のπ電子と導電性高分子のπ共役系とのπ−π相互作用は示すが、窒素原子と導電性高分子主鎖との相互作用や空のd軌道と導電性高分子主鎖との相互作用は示さないため、四級ホスホニウム塩に比べてドープ効率が劣ると考えられる。
【0017】
【化2】

【0018】
一般式(1)中のR1、R2、R3で表される炭素数1〜8のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−へキシル基、i−ヘプチル基、i−オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。これらの基のうち、四級ホスホニウム塩の融点を下げかつ電気伝導性を高めてイオン液体性を高める観点から、R1、R2及びR3のすべてが同一のアルキル基であることが好ましく、エチル基、プロピル基、ブチル、オクチル基であることが更に好ましい。特に、R1、R2及びR3のすべてが同一の直鎖アルキル基であることが好ましく、とりわけエチル基、n−プロピル基、n−ブチル、n−オクチル基であることが好ましい。四級ホスホニウム塩の耐熱性を高める観点からは、R1、R2及びR3のすべてがエチル基であることが最も好ましい。
【0019】
一般式(1)中のアルキレン基−(CH2n−のメチレン基の数nは1〜6である。四級ホスホニウム塩の電気伝導性と耐熱性を高める観点からは、n=1が好ましい。
【0020】
一般式(1)中のR4、R5、R6、R7、R8は水素原子又は置換基であり、置換基の具体的な例としては、アルキル基、メトキシ基、エトキシ基及びプロポキシ基等のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトリル基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、ベンゾイル基、スルホン基等が挙げられる。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−へキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の非置換アルキル基が挙げられる。上記アルキル基としては、置換アルキル基を用いることもできる。置換基としては、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。置換アルキル基の具体例としては、メトキシメチル基、2−メトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、4−メトキシブチル基、5−メトキシペンチル基、6−メトキシヘキシル基、エトキシメチル基、2−エトキシエチル基、3−エトキシプロピル基、4−エトキシブチル基、5−エトキシペンチル基、6−エトキシヘキシル基、シアノメチル基、シアノエチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。
【0021】
特に、四級ホスホニウム塩の耐熱性を高める観点からは、R4、R5、R6、R7、R8は、これらすべてが同一の基であることが好ましく、特にすべての基が水素原子、メチル基又はエチル基であるが好ましい。四級ホスホニウム塩の融点を下げかつ電気伝導性を高めてイオン液体性を高める観点からは、すべての基が水素原子であることが特に好ましい。
【0022】
一般式(1)中のX-のアニオン成分としては、四級ホスホニウム塩が使用される温度において該塩がイオン液体となるものであれば特に制限されない。例えば、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(N(SO2CF32)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、ペンタフルオロエタンスルホネート(SO3CF2CF3)、テトラフルオロエタンスルホネート(SO3CHFCF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート((C253PF3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、アミノ酸、ビスオキサラトボレート(B(C242)、p−トルエンスルホネート(SO364CH3)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、テトラシアノボレート(B(CN)4)、ジアルキルリン酸((RO)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((RO)2PSS)、脂肪族カルボン酸(RCOO)等が挙げられる。これらの中で、四級ホスホニウム塩の融点を下げかつ電気伝導性を高めてイオン液体性を高める観点から、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ジシアナミド及びテトラシアノボレートをアニオン成分として用いることが好ましい。特にビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドは、四級ホスホニウム塩に優れた耐電圧性及び耐熱性を付与することができるのでとりわけ好ましいアニオン成分である。
【0023】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩の好ましい具体例としては、四級ホスホニウム塩の融点を下げかつ電気伝導性を高める観点から、トリエチルベンジルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリ−n−ブチルベンジルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルベンジルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、トリ−n−ブチルベンジルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチルベンジルホスホニウムジシアナミド、トリ−n−ブチルベンジルホスホニウムジシアナミド、トリエチルベンジルホスホニウムテトラシアノボレート及びトリ−n−ブチルベンジルホスホニウムテトラシアノボレートが挙げられる。特にトリエチルベンジルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドは、耐電圧性及び耐熱性に優れることからとりわけ好ましい物質である。
【0024】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、その使用環境下において電気伝導性を有する液状体、即ちイオン液体である。その融点は100℃以下であることが好ましい。この四級ホスホニウム塩の融点は、更に好ましくは50℃以下、一層好ましくは25℃以下、最も好ましくは0℃以下である。融点が50℃以下の場合には、融解に要する加熱量を少なくできるので有利である。更に、融点が25℃以下であると常温において液状であるため、加熱融解の必要がないので有利である。四級ホスホニウム塩の融点の下限値に特に制限はなく、低ければ低いほど好ましいが、0℃以下であれば液状温度域が広く、低温から高温までの広い温度範囲で使用可能になるという観点から好ましい。
【0025】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、四級ホスホニウムハライドとアニオン成分の金属塩とを常法に従って反応させてアニオン交換することにより得ることができる。四級ホスホニウムハライドとは、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩におけるアニオン部分がハロゲンであるものの総称である。四級ホスホニウムハライドは、例えば以下のようにして合成することができるほか、日本化学工業(株)等から市販されている製品を使用することもできる。
【0026】
四級ホスホニウムハライドがトリアルキル(フェニルアルキル)ホスホニウムハライドである場合、この化合物は、例えばトリアルキルホスフィンとハロゲン化アルキルベンゼンを反応させて得ることができる。特に、リン原子に結合している3つのアルキル基が同一であるトリアルキルホスフィン〔一般式:(Ra3P(RaはR1〜R3に対応するアルキル基)〕と、ハロゲン化アルキルベンゼン〔一般式:X−(CH2n−φ(Xはハロゲン原子、φはR4〜R8を有するベンゼン環)〕とを反応させる方法を採用すると不純物の少ない目的物を得ることができるため好ましい。また、四級ホスホニウムハライドのハロゲンが臭素やヨウ素であると、四級ホスホニウムハライドを再結晶により精製することができるので好ましい。この観点から、ハロゲン化アルキルベンゼンとして、臭化アルキルベンゼンやヨウ化アルキルベンゼンを用いることが好ましい。なお、四級ホスホニウムハライドにおけるハロゲンが臭素及びヨウ素以外の元素である場合、例えば塩素であっても、ヨウ化ナトリウム等を用いることで、塩素をヨウ素又は臭素に置換することができる。
【0027】
四級ホスホニウムハライドを合成して得るためには、先ず、トリアルキルホスフィンに対してハロゲン化アルキルベンゼンを好ましくは0.5〜2倍モル、更に好ましくは0.9〜1.2倍モル添加する。そして、塩素を含まない不活性溶媒中、例えばトルエン中で、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは30〜100℃で、好ましくは3時間以上、更に好ましくは5〜12時間反応させる。反応雰囲気は酸素が存在しない雰囲気が好ましい。例えば窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気が好ましい。酸素が存在する雰囲気中でトリアルキルホスフィンとハロゲン化アルキルベンゼンを反応させると、トリアルキルホスフィンに酸素が結合したトリアルキルホスフィンオキシドが生成してしまい収率が低下する傾向にある。トリアルキルホスフィンオキシドは適宜有機溶媒で洗浄することで除去できるが、四級ホスホニウムハライドの炭素数の総数が大きくなると四級ホスホニウムハライドも有機溶媒に溶解する傾向があるため除去が困難になる。したがって、トリアルキルホスフィンオキシドを生成させないようにするために、不活性雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
【0028】
アニオン交換によって四級ホスホニウムハライドへ必要なアニオンX-を導入するために使用するアニオン成分の金属塩としては、例えば前記したアニオン成分のLi塩等のアルカリ金属塩を使用することができる。アルカリ金属塩を用いると、該塩と四級ホスホニウムハライドとの反応により目的物である四級ホスホニウム塩が生成する際に生じるハロゲン化アルカリ(副生物)を、水洗や吸着剤によって容易に除去できることから好ましい。
【0029】
水洗に用いる水は超純水や脱イオン水を用いることができる。水洗は不純物含有量が低下するまで適宜繰り返して行うことが好ましい。水洗により除去すべき不純物としては、未反応原料及びハロゲン化アルカリ等が挙げられる。また、未反応原料や副生物等を除去するために、適宜有機溶媒による洗浄を行うこともできる。洗浄に用いることができる有機溶媒としては、塩素を含まない非極性溶媒、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等を用いることが好ましい。これらの非極性溶媒を用いることで、四級ホスホニウム塩を溶解させることなく、不純物等の非極性有機化合物を効率よく除去することができる。
【0030】
水や有機溶媒で洗浄した四級ホスホニウム塩は、水分や有機溶媒を除去するために精製されることが好ましい。精製法としては、モレキュラーシーブ等の乾燥剤による脱水及び真空乾燥による脱溶媒等の方法が挙げられる。不純物の混入を防止し、水分と有機溶媒を一度に除去できることから真空乾燥による精製が好ましい。真空乾燥による精製では、乾燥温度が好ましくは70〜120℃、更に好ましくは80〜100℃であり、真空度が好ましくは0.1〜1.0kPa、更に好ましくは0.1〜0.5kPaである。時間は好ましくは2〜8時間程度、更に好ましくは5〜12時間程度である。
【0031】
このようにして得られた一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、高い電気伝導性、適度な溶解性、化学的安定性及び熱安定性という性質を有する。このような性質を有する四級ホスホニウム塩を導電性高分子にドープすることで、該導電性高分子に電気伝導性を始めとする種々の有利な特性を付与することができる。また、この四級ホスホニウム塩を、導電性高分子の電解重合反応に用いられる電解液組成物に含有させることで、電解重合反応の効率が著しく向上する。この利点のみならず、導電性高分子中へ四級ホスホニウム塩をドープする効率が向上する傾向があり、得られる導電性高分子の電気伝導性を高めることができるという利点もある。これらの利点は、四級ホスホニウム塩イオン液体にフェニル基が導入されていることによる高い電気伝導性に起因すると考えられる。
【0032】
更に、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、その構造に由来して難燃性及び自己消火性を発現するものである。特に、該四級ホスホニウム塩は、アルキル基が短く(炭素数1〜8)、分子量が小さいことからリン原子の割合が高く、適度な難燃性及び自己消火性を有する。したがって該四級ホスホニウム塩がドープされた導電性高分子には、リン原子由来の耐熱性が付与される。また、該導電性高分子を電解重合で合成するときに用いる電解液組成物に該四級ホスホニウム塩を含有させることで、該電解液組成物の安全性を高めることもできる。
【0033】
以上の説明から明らかなように、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩はその構造中にフェニル基を有しているので、該四級ホスホニウム塩がドープされた導電性高分子は電気伝導性、耐熱性及び難燃性が高いものとなる。また、該導電性高分子を電解重合で合成するときに用いる電解液組成物に該四級ホスホニウム塩を含有させることで、高い電解重合反応効率が得られる。したがって該四級ホスホニウム塩は、導電性高分子のドーパント及び導電性高分子の電解重合反応に用いられる電解液組成物に有利に使用できるものである。
【0034】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなる導電性高分子用ドーパントがドープされた導電性高分子は、主鎖がπ電子共役系で構成されている有機高分子であり、その例としては、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。これらの導電性高分子のうち、ポリピロール類、ポリチオフェン類等の五員複素環を構成単位とするもの、及びポリアニリン類が電解重合反応の反応性の観点から好ましい。特に、高い耐熱性を有する導電性高分子であるポリピロール類が好ましい。
【0035】
導電性高分子における一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩の含有量は、リン原子に換算して、好ましくは1〜50,000ppm、更に好ましくは100〜20,000ppmである。
【0036】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩がドープされた導電性高分子を製造するための好適な方法は次のとおりである。すなわち、該導電性高分子は、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩の存在下に、導電性高分子の原料である重合性単量体を電解重合することにより得ることができる。一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、電解重合反応における電解液に含有される。この電解液は、電解質が媒体に溶解してなるものであるところ、四級ホスホニウム塩は(a)媒体として用いられるか、又は(b)電解質として用いられる。四級ホスホニウム塩を媒体として用いても、あるいは電解質として用いても、該四級ホスホニウム塩は、目的とする導電性高分子にドープされ、電気伝導性及び耐熱性等に優れた導電性高分子を高い反応効率で得ることができる。
【0037】
先ず、前記の(a)の実施形態、すなわち一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩を媒体として使用する場合について説明する。該四級ホスホニウム塩はそれ自体が電気伝導性を有するので、これに支持電解質を特段添加しなくても、それ単独で電解重合用の電解液として用いることができる。尤も、従来電解重合に使用されている溶媒や支持電解質を該四級ホスホニウム塩に添加することは妨げられない。そのような溶媒としては、アセトニトリル、メタノール、トルエン、キシレン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。支持電解質としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、イミダゾリウム塩、ピラゾニウム塩、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられる。これらの溶媒や支持電解質を使用する場合は、それらの合計含有量は、電解液組成物中における重量%濃度で、好ましくは0.01〜50.0%、更に好ましくは0.05〜10.0%、一層好ましくは0.1〜5.0%である。
【0038】
電解重合に用いる重合性単量体の量は、電解液組成物における該重合性単量体の濃度が0.01〜1.5mol/L、特に0.05〜0.5mol/Lとなるような量であることが好ましい。なお、重合性単量体は、目的とする導電性高分子の種類に応じたものを使用すればよい。
【0039】
電解重合反応は、作用極、対極、参照極から構成される三極式電解セルで行うことができる。これによって、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩がドープされた導電性高分子が作用極上に生成する。作用極及び対極のいずれも、それら自身が反応せずに安定して電解重合反応を進行させることができるものであればその種類に特に限定はない。例えば作用極及び対極として白金、金、パラジウムのような貴金属、グラッシーカーボン、スズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明酸化物等が用いられる。参照極としては例えば銀−塩化銀電極、飽和カロメル電極(SCE)、白金線、金線、銀線等が挙げられる。
【0040】
このようにして構成された三極式セルを用いる電解重合反応は、公知の定電位電解法又は定電流電解法で行うことができる。定電位電解法においては作用極の電位を一定に保持しながら電解重合反応を進行させる。定電位電解法では、反応の進行に伴って電流密度が減少し、反応時間が長くなる傾向がある。一方、定電流電解法においては電流密度を一定に保って電解重合反応を進行させる。定電流電解法は、反応時間の制御が容易なので実用的であるが、作用極の電位が反応進行と共に上昇するので、セル電圧の上昇や副反応の併発等の問題が生じることがある。一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、高い電気伝導性を有することから作用極の電位の上昇を最小限に抑えることができるので、定電流電解法に好適である。
【0041】
定電流電解法における電流密度は、使用する重合性単量体の種類にもよるが、一般に0.1〜5,000mA/dm2、特に0.5〜50mA/dm2とすることが好ましい。この電解重合によって重合性単量体が重合して導電性高分子が生成するとともに、四級ホスホニウム塩が導電性高分子内に取り込まれる(ドープされる)。この取り込みは、重合反応の進行に従い自発的に起こるものであり、特別の操作を要するものではない。
【0042】
以上が一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩を媒体として使用する場合の説明であるところ、前記の(b)の実施形態、すなわち該四級ホスホニウム塩を電解質として使用する場合には、該電解質の媒体として、(a)の実施形態に関して述べたアセトニトリル等を用いることができる。該媒体を主たる構成成分とする電解液組成物においては、四級ホスホニウム塩の濃度は0.05〜2mol/L、特に0.1〜1mol/Lとすることが好ましい。四級ホスホニウム塩を電解質として使用する場合には、該四級ホスホニウム塩のみを電解質として用いてもよく、あるいは該四級ホスホニウム塩に加えて他の塩類を電解質として用いてもよい。四級ホスホニウム塩と併用される塩類の濃度は、電解液組成物中において0.05〜2mol/L、特に0.1〜1mol/Lとすることが好ましい。塩類としては、上述した各種の支持電解質を用いることができる。なお、(b)の実施形態に関して特に説明しない点については、(a)の実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。
【0043】
このようにして、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩がドープされた導電性高分子が得られる。この導電性高分子は、四級ホスホニウム塩が適度にドープされていることに起因して、電気伝導性及び耐熱性等に優れるものである。したがって、この導電性高分子は、例えば電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ及びリチウム二次電池のような蓄電デバイスや、有機EL、有機トランジスタ、発光ダイオード、有機薄膜太陽電池及び色素増感太陽電池のような光電変換デバイスの等の電気化学デバイスの電極材料や電解質材料に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。特に断らない限り「%」は「重量%」を意味する。
【0045】
〔合成例1〕
トリエチルベンジルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成及び物性測定
(1)合成
トリエチルホスフィン25%トルエン溶液(日本化学工業株式会社製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−2)236g(0.5mol)に、塩化ベンジル(東京化成工業株式会社試薬)64g(0.5mol)を滴下し、50〜60℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリエチルベンジルホスホニウムクロリドの結晶を116g得た(収率95%)。このトリエチルベンジルホスホニウムクロリド73g(0.3mol)に、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学株式会社試薬)86g(0.3mol)を加えて水系で反応させてアニオン交換をした。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、下層(生成物)を分離した。分離した生成物に対して純水洗浄を5回行い、続いてヘキサン洗浄を5回行った。洗浄終了後、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物が目的物であることの確認を、1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRにて行った。硝酸銀を用いた電位差滴定法により、得られた生成物中の残留ハロゲンが50ppm以下であることを確認した。生成物(無色透明液体)の収量は132g(収率90%)であり、31P−NMRより純度98%以上であることを確認した。NMRの同定データは以下のとおりである。
【0046】
1H−NMR:d: 1.13-1.33 (m, 9H, CH3); 2.07-2.19 (m, 6H, CH2); 3.59-3.67 (d, 2H, P+CH2C6H5); 7.26-7.42 (m, 5H, P+CH2C6H5) ppm.
13C−NMR:d: 4.69, 10.88, 25.03 (various d, C2H5, CH2); 119.54 (q, N(SO2CF3)2-); 127.05-129.39 (various s, C6H5) ppm.
19F−NMR:d: -80.15 (d, N(SO2CF3)2-) ppm.
【0047】
(2)物性測定
上記(1)で得られた生成物の融点を示差走査熱量分析(セイコーインストルメンタル株式会社、DSC6200)により測定した。また電気伝導度を、交流2極式セルを用いて測定した(Ivium Technologies、CompactStat)。なお、電気伝導度は測定条件により、±5%程度の誤差が生じる。更に熱分解温度(10%重量減少)を熱重量分析装置(セイコーインストルメンタル株式会社、TG/DTA6300)を用いて測定した。測定結果を以下の表1に示す。以上の測定はすべて乾燥窒素雰囲気下にて行った。
【0048】
〔合成例2〕
トリ−n−ブチルベンジルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成及び物性測定
(1)合成
トリ−n−ブチルホスフィン(日本化学工業株式会社製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−4)101g(0.5mol)に、塩化ベンジル(東京化成工業株式会社試薬)64g(0.5mol)を滴下し、50〜60℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリ−n−ブチルベンジルホスホニウムクロリドの結晶を156g得た(収率95%)。このトリ−n−ブチルベンジルホスホニウムクロリド99g(0.3mol)に、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学株式会社試薬)86g(0.3mol)を加えて水系で反応させてアニオン交換をした。次いでジクロロメタン100mlを加えて室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、下層(生成物)を分離した。分離した生成物に対して純水洗浄を5回行い、続いてヘキサン洗浄を5回行った。洗浄終了後にジクロロメタンを減圧留去し、残存成分を100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物が目的物であることの確認を、1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRにて行った。硝酸銀を用いた電位差滴定法により、得られた生成物中の残留ハロゲンが50ppm以下であることを確認した。生成物(白色固体)の収量は160g(収率93%)であり、31P−NMRより純度98%以上であることを確認した。NMRの同定データは以下のとおりである。
【0049】
1H−NMR: d: 0.90-0.94 (t, 9H, CH3); 1.42-1.48 (m, 12H, CH2); 2.03-2.13 (m, 6H, CH2); 3.57-3.62 (d, 2H, P+CH2C6H5); 7.21-7.25 (m, 2H, P+CH2C6H5); 7.33-7.42 (m, 3H, P+CH2C6H5) ppm.
13C−NMR:d: 13.06-26.29 (various s, C2H5, CH2); 119.54 (q, N(SO2CF3)2-); 127.50-129.68 (various s, C6H5) ppm.
19F−NMR:d: -80.12 (d, N(SO2CF3)2-) ppm.
【0050】
(2)物性測定
上記(1)で得られた生成物の融点、電気伝導度及び熱分解温度を合成例1と同様に測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0051】
〔合成例3〕
トリ−n−オクチルベンジルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成及び物性測定
(1)合成
トリ−n−オクチルホスフィン(日本化学工業株式会社製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−8)185g(0.5mol)に、塩化ベンジル(東京化成工業株式会社試薬)64g(0.5mol)を滴下し、50〜60℃で6時間反応させた。得られた粗トリ−n−オクチルベンジルホスホニウムクロリドに、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学株式会社試薬)151g(0.5mol)を加えて水系で反応させてアニオン交換をした。次いでヘキサン500mlを加えて室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、上層(生成物)を分離した。分離した生成物に対して純水洗浄を5回行った。洗浄終了後にヘキサンを減圧留去し、残存成分を100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物が目的物であることの確認を、1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRにて行った。硝酸銀を用いた電位差滴定法により、得られた生成物中の残留ハロゲンが50ppm以下であることを確認した。生成物(無色透明液体)の収量は352g(収率95%)であり、31P−NMRより純度98%以上であることを確認した。
【0052】
(2)物性測定
上記(1)で得られた生成物の融点、電気伝導度及び熱分解温度を合成例1と同様に測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0053】
〔合成例4(比較)〕
トリエチルベンジルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成及び物性測定
(1)合成
トリエチルベンジルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社試薬)68g(0.3mol)に、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学株式会社試薬)86g(0.3mol)を加えて水系で反応させた。次いでジクロロメタン100mlを加えて室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、下層(生成物)を分離した。分離した生成物に対して純水洗浄を5回行い、続いてヘキサン洗浄を5回行った。洗浄終了後にジクロロメタンを減圧留去し、残存成分を100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物が目的物であることの確認を、1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRにて行った。硝酸銀を用いた電位差滴定法により、得られた生成物中の残留ハロゲンが50ppm以下であることを確認した。生成物(白色固体)の収量は135g(収率95%)であり、31P−NMRより純度98%以上であることを確認した。
【0054】
(2)物性測定
上記(1)で得られた生成物の融点、電気伝導度及び熱分解温度を合成例1と同様に測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0055】
〔合成例5(比較)〕
トリ−n−ブチルベンジルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成及び物性測定
(1)合成
トリ−n−ブチルベンジルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社試薬)94g(0.3mol)に、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学株式会社試薬)86g(0.3mol)を加えて水系で反応させた。次いでジクロロメタン100mlを加えて室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、下層(生成物)を分離した。分離した生成物に対して純水洗浄を5回行い、続いてヘキサン洗浄を5回行った。洗浄終了後にジクロロメタンを減圧留去し、残存成分を100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物が目的物であることの確認を、1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRにて行った。硝酸銀を用いた電位差滴定法により、得られた生成物中の残留ハロゲンが50ppm以下であることを確認した。生成物(白色固体)の収量は154g(収率92%)であり、31P−NMRより純度98%以上であることを確認した。
【0056】
(2)物性測定
上記(1)で得られた生成物の融点、電気伝導度及び熱分解温度を合成例1と同様に測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0057】
〔合成例6(比較)〕
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの物性測定
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学株式会社試薬、融点及び熱分解温度は表1に記載の通り)の電気伝導度を合成例1と同様に測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示す結果から明らかなように、合成例1及び2の四級ホスホニウム塩イオン液体は、対応する四級アンモニウム塩イオン液体(それぞれ合成例4及び5)に比較して、低融点かつ高電気伝導性を示し、また熱分解温度も高く耐熱性に優れることが分かる。合成例3の四級ホスホニウム塩イオン液体も、低融点かつ高電気伝導性を示し、また熱分解温度も高く耐熱性に優れることが分かる。置換基が全てアルキル基である四級ホスホニウム塩イオン液体(合成例6)は、低融点であり室温(25℃)でも電気伝導性を示すが、その電気伝導性は低く、耐熱性も劣っていることが分かる。
【0060】
〔実施例1〜3並びに比較例1〜2〕
合成例1、3、4で得られたイオン液体を用い、以下の手順で電解液組成物を調製した。この電解液組成物を用いて重合性単量体の電解重合反応を行い、導電性高分子を得た。また、得られた導電性高分子の耐熱性評価を行なった。さらに、実施例1及び比較例1においては、得られた導電性高分子のリン濃度測定も行なった。その結果を表2に示す。
【0061】
電解液組成物は、表2に示すイオン液体10mlに0.3mol/lの濃度になるように重合性単量体(ピロール又はチオフェン)を溶解して調製した。電解重合反応には、インジウムスズ酸化物電極を作用極、白金板を対極、銀−塩化銀電極(塩橋:過塩素酸テトラエチルアンモニウムアセトニトリル溶液)を参照極とする三電極式セルを用いた。これらの三極式セル中に電解液組成物を注入し、電解電源としてポテンショガルバノスタット(北斗電工株式会社、HABF5001)を用いて電解酸化重合反応を行い、作用極上に導電性高分子を生成させた。通電条件としては電流密度を20mA/dm2とする定電流電解法を採用し、電解反応中の作用極の電位を観測した。すべての測定は、25℃常圧の条件で行った。作用極上に生成した導電性高分子を分取して乾燥した後、ミクロ熱重量測定装置(株式会社島津製作所、TGA−50/50H)を用いて導電性高分子の熱分解温度(10%重量減少)を測定した。昇温速度は5.0℃/min、使用ガスは窒素、ガス流量は20ml/ml、使用セルは白金とした。また、エネルギー分散型元素分析機能付き走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社、JSM−6400)を用いた元素分析によって、導電性高分子中のリンの濃度を測定した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた導電性高分子(本発明品)は、比較例で得られた導電性高分子よりも熱分解温度が高く、耐熱性に優れていることが判る。また、電気伝導性も高いことが判る。更に、各実施例において行った電解重合反応では、時間の経過による作用極の電位上昇が観察されないことから、電圧付加が少なく、効率よく電解重合反応が進行していることが判る。これに対して、比較例においては電解重合反応の作用極電位が時間の経過に伴って上昇し、電圧付加が高くなり、最終的には反応が進行しなくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなることを特徴とする導電性高分子用ドーパント。
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R1とR2が結合して環を形成してもよい。nはメチレン基の数を表し、n=1〜6である。R4〜R8は、水素原子又は置換基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。X-はアニオンを表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩の融点が100℃以下であることを特徴とする請求項1記載の導電性高分子用ドーパント。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R1、R2及びR3がすべて同一の直鎖アルキル基であることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性高分子用ドーパント。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R1、R2及びR3が、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基又はn−オクチル基であることを特徴とする請求項3記載の導電性高分子用ドーパント。
【請求項5】
前記一般式(1)において、nが1であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の導電性高分子用ドーパント。
【請求項6】
前記一般式(1)において、R4〜R8が水素原子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の導電性高分子用ドーパント。
【請求項7】
前記一般式(1)において、X-がビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の導電性高分子用ドーパント。
【請求項8】
請求項1記載の導電性高分子用ドーパントがドープされていることを特徴とする導電性高分子。
【請求項9】
ポリピロール類又はポリチオフェン類であることを特徴とする請求項8記載の導電性高分子。
【請求項10】
請求項8の導電性高分子の製造方法であって、請求項1記載の導電性高分子用ドーパントの存在下に、重合性単量体を電解重合することを特徴とする導電性高分子の製造方法。
【請求項11】
請求項1記載の導電性高分子用ドーパントを含有することを特徴とする重合性単量体の電解重合用電解液組成物。
【請求項12】
請求項8記載の導電性高分子を用いたことを特徴とする電気化学デバイス。

【公開番号】特開2010−163396(P2010−163396A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7763(P2009−7763)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「PRiME2008(2008年電気化学日米合同大会)講演要旨集」、社団法人電気化学会、平成20年7月18日発行
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】