説明

導電性高分子複合構造体、導電性高分子複合構造体の製造方法、及び、アクチュエータ素子

【課題】電極間にセパレータを別途設ける必要がなく、小型化、コスト低減、作業性の向上を図ることができ、耐衝撃性にも優れた導電性高分子複合構造体、及び、その製造方法、更に、前記導電性高分子複合構造体を用いたアクチュエータ素子を提供する。
【解決手段】少なくとも1層の導電性高分子層を含む導電性高分子複合構造体であって、前記導電性高分子層の表層が、絶縁層であることを特徴とする導電性高分子複合構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子複合構造体、導電性高分子複合構造体の製造方法、及び、アクチュエータ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリピロールなどの導電性高分子は、電気化学的な酸化還元によって伸縮する現象である電解伸縮を発現することが知られている。この導電性高分子の電解伸縮は、人工筋肉、ロボットアーム、義手やアクチュエータ等の用途へ適用が近年、注目されている。
【0003】
導電性高分子は、電解重合方法により製造されるのが一般的である。電解重合方法としては、通常は、電解液中にピロール等のモノマー成分や、ドーパント成分などを加え、この電解液中に重合作用電極及び重合対向電極を設置して、両電極に電圧を印加することで導電性高分子を重合作用電極上に膜(導電性高分子膜)として形成させる方法が行われる(例えば、非特許文献1)。電解重合により得られた導電性高分子膜は、電圧を印加することにより伸縮、屈曲又はねじれの変位をさせることができる。
【0004】
特許文献1では、金属製バネ状部材を導電性基体とし、この導電性基体を重合作用電極として、導電性高分子を重合作用電極上で、電解重合させて、導電性高分子複合構造体を得ることが記載されている。電解重合において、重合作用電極である金属製バネ状部材に電圧を印加することにより、導電性基体表面に導電性高分子が重合され、重合作用電極表面から導電性高分子が成長し、金属製バネ状部材を構成する線材間の空間を埋め、導電性高分子複合構造体を得るものが開示されている。
【0005】
上記電解重合法により製造された導電性高分子膜を、マイクロマシン等の小型のアクチュエータに使用するだけでなく、一次電池用電極、二次電池用電極、キャパシタ用電極、太陽電池用電極、及び、エレクトロルミネッセンス素子等に用いられる。前記キャパシタ用電極等に使用する場合には、電極間にセパレータを配置する必要があるが、そのセパレータとしては、電極間に絶縁性を付与し、更にイオン透過性を有する多孔質基材等が用いられている。
【0006】
しかし、上記セパレータは、デバイスの構成部材全体から見て、その占有体積やコスト面において、大きな割合を占め、更にデバイスの小型化や低コスト化の要求からも、セパレータの設置における作業性や経済性(コスト面)に問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4048236号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】緒方直哉編 「導電性高分子」、第8版、株式会社サイエンティフィク、1990年2月10日、第70頁〜第73頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような中で、電極間にセパレータを別途設ける必要がなく、小型化、コスト低減、作業性の向上を図ることができ、耐衝撃性にも優れた導電性高分子複合構造体、及び、その製造方法、更に、前記導電性高分子複合構造体を用いたアクチュエータ素子の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、導電性高分子複合構造体の構成について鋭意検討した結果、下記の導電性高分子複合構造体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の導電性高分子複合構造体は、少なくとも1層の導電性高分子層を含む導電性高分子複合構造体であって、前記導電性高分子層の表層が、絶縁層であることを特徴とする。
【0012】
本発明の導電性高分子複合構造体は、前記導電性高分子複合構造体の形状が、平面状、棒状、ロット状、平面ジグザグ状、蛇腹状、チェーン状、コイル状、バネ状、繊維状、チューブ状、袋状、ベローズ状、網目状、及び、ニット状からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
本発明の導電性高分子複合構造体は、前記導電性高分子複合構造体が、更に基体を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の導電性高分子複合構造体は、前記導電性高分子層の導電性高分子が、分子鎖にピロールおよび/またはピロール誘導体を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の導電性高分子複合構造体は、前記基体の形状が、平面状、棒状、ロット状、平面ジグザグ状、蛇腹状、チェーン状、コイル状、バネ状、繊維状、チューブ状、袋状、ベローズ状、網目状、及び、ニット状からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明のアクチュエータ素子は、前記導電性高分子複合構造体を用いることが好ましい。
【0017】
本発明のアクチュエータ素子は、前記基体が、伸縮性を有することが好ましい。
【0018】
本発明のアクチュエータ素子は、前記導電性高分子層が、電解伸縮により伸縮、屈曲又はねじれに駆動することが好ましい。
【0019】
本発明の導電性高分子複合構造体の製造方法は、少なくとも1層の導電性高分子層を含む導電性高分子複合構造体の製造方法であって、前記導電性高分子層を、少なくとも1層形成する工程と、前記導電性高分子層の表層を、絶縁化処理する工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の導電性高分子複合構造体の製造方法は、前記導電性高分子複合構造体が、更に基体を含むことが好ましい。
【0021】
本発明の導電性高分子複合構造体の製造方法は、前記導電性高分子層が、少なくともピロール及び/またはピロール誘導体を電解重合して得られることが好ましい。
【0022】
本発明の導電性高分子複合構造体の製造方法は、前記絶縁化処理が、酸化処理、酸処理、アルカリ処理、熱処理、光処理、電子線処理、及び、オゾン処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の導電性高分子複合構造体は、少なくとも1層の導電性高分子層を含み、前記導電性高分子層の表層(絶縁層)が、絶縁性とイオン透過性を併せ持つため、前記絶縁層がセパレータとしての機能を有し、セパレータとなる部材を別途設ける必要がなく、電極部位(電極、電極層)となる導電性高分子層と、セパレータ部位となる絶縁層を略同一種の導電性高分子から形成できるため、電極とセパレータの一体型の電極を形成することができる。また、前記導電性高分子複合構造体を用いたアクチュエータ素子等は、別途セパレータを設置する必要がないため、セパレータとなる部材を別途に設ける場合と比較して、小型化、コスト低減、作業性の向上を図ることができる。更に、前記導電性高分子複合構造体を用いたアクチュエータ素子は、駆動させた際に、基体を含む場合には、大きな発生力および伸縮率を得ることができる。また、使用する導電性高分子層、及び、その表層である絶縁層には、継ぎ目がないため、駆動時に導電性高分子層が裂けることが防止でき、耐衝撃性にも優れている。また、本発明の導電性高分子複合構造体は、アクチュエータ素子だけでなく、アクチュエータ素子を用いた人工筋肉や、一次電池用電極、二次電池用電極、キャパシタ用電極、太陽電池用電極、及び、エレクトロルミネッセンス素子等に応用でき、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に使用される基体の模式図である。
【図2】本発明に使用される基体表面に導電性高分子層を形成した模式図である。
【図3】本発明の導電性高分子複合構造体の模式図である。
【図4】本発明の導電性高分子複合構造体の断面図の模式図である。
【図5】本発明の導電性高分子複合構造体を駆動対向電極とし、その外部に円筒形状の駆動作用電極を配置したアクチュエータ素子の状態図である。
【図6】本発明の導電性高分子複合構造体を駆動対向電極とし、その外部に板形状の駆動作用電極を配置したアクチュエータ素子の状態図である。
【図7】本発明の導電性高分子複合構造体を駆動対向電極とし、その内部に柱状の駆動作用電極を配置したアクチュエータ素子の状態図である。
【図8】本発明の導電性高分子複合構造体の短絡の有無を評価するため、駆動対向電極及び駆動作用電極を密着するように配置した短絡評価装置の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(導電性高分子複合構造体)
本発明の導電性高分子複合構造体は、少なくとも1層の導電性高分子層を含む導電性高分子複合構造体であって、前記導電性高分子層の表層が、絶縁層であることを特徴とする。なお、以下に、本発明の導電性高分子複合構造体の形状や本発明の導電性高分子複合構造体に基体が含まれる形態を、図を用いて説明するが、これらに限定されるものではない。
【0026】
図1は、基体1として伸縮性を有する構造体の一例として、コイル構造体(例えば、金属製コイル状部材や樹脂製コイル状部材)を示している。
【0027】
図2は、前記基体1上に導電性高分子層2を被覆した導電性高分子被覆基体3を示している。
【0028】
図3は、前記導電性高分子被覆基体3の導電性高分子層2を絶縁化処理して、絶縁層2’’を形成した導電性高分子複合構造体4を示している。
【0029】
図4は、図2の導電性高分子層2上に、更に厚さと導電性の異なる(より薄く、より低い導電率を有する)同種の導電性高分子層2’を形成し、前記導電性高分子層2’を絶縁化処理した絶縁層2’’を有する導電性高分子複合構造体4における縦断面の模式図である。なお、複数層の導電性高分子層を形成する場合には、それぞれの導電性高分子が同種もしくは略同一種であることが好ましく、このように同種もしくは略同一種であれば、層同士の親和性も高く、継ぎ目がないものと同然に取り扱うことができる。
【0030】
前記図3に示すように、導電性高分子複合構造体4は、金属製コイル状部材を構成する線材(基体1)の外側表面を導電性高分子層2(図3においては図示せず)により被覆され、導電性高分子層と基体1とが複合化されている。また、前記導電性高分子層2の表層を、絶縁化処理することにより絶縁層2’’を形成し、前記絶縁層を有することにより、電極層としての機能と、セパレータとしての機能を一体化させた電極(駆動対向電極)として、導電性高分子複構造合体4を得ることができる。前記導電性高分子複合構造体4を、アクチュエータ素子の駆動対向電極として使用した場合、導電性高分子複合構造体が実用性能として十分な伸縮、屈曲又はねじれの変位を得ることができる。一方、微小な導電性高分子複合構造体を製造することも容易であり、新たにセパレータを配置する必要もないため、作業性にも優れたものとなる。また、導電性高分子複合構造体4は、金属製コイル状部材を含んでいるので、外側表面に垂直な方向から外力がかかる場合において、金属製コイル状部材の線材(基体)が、補強材として機能し得るので、機械的強度の向上も図ることができ、アクチュエータ素子として駆動させた際には、大きな発生力や伸縮率を得ることができる。なお、前述した大きな発生力や伸縮率を得ることができる詳細な理由は明らかではないが、金属製コイル状部材の線材のような基体を含む場合には、基体の機械的強度(バネ弾性)を導電性高分子複合構造体に追加することができ、更に、前記基体(導電性あり)が、補助電極としての機能を発揮して、電圧降下の低減を図ることかできるため、大きな発生力と伸縮率を得られるものと推測される。
【0031】
また、前記図4に示すように、導電性高分子複合構造体4は、金属製コイル状部材を構成する線材(基体1)の外側表面を導電性高分子層2、更に導電性高分子層2の上に、低導電性の導電性高分子層2’が被覆され、導電性高分子層2及び2’と、基体1とが複合化されている。また、前記導電性高分子層2’は、導電性高分子層2よりも、膜厚を薄く調製することにより、短時間で容易に絶縁化することができ、得られた絶縁層2’’は、電極層としての機能とセパレータとして機能を一体化させた電極(駆動対向電極)として機能する導電性高分子複構造合体4を得ることができる。前記導電性高分子複合構造体4を、アクチュエータ素子として使用した場合、導電性高分子複合構造体が実用性能として十分な伸縮、屈曲又はねじれの変位を得ることができ、一方、微小な導電性高分子複合構造体を製造することも容易であり、新たにセパレータを配置する必要もないため、作業性にも優れたものとなる。また、導電性高分子複合構造体4は、金属製コイル状部材を含んでいるので、外側表面に垂直な方向から外力がかかる場合において、金属製コイル状部材の線材(基体)が、補強材として機能し得るので、機械的強度の向上も図ることができ、アクチュエータ素子として駆動させた際には、大きな発生力や伸縮率を得ることができる。なお、前述した大きな発生力や伸縮率を得ることができる詳細な理由は明らかではないが、金属製コイル状部材の線材のような基体を含む場合には、基体の機械的強度(バネ弾性)を導電性高分子層に追加することができ、更に、前記基体(導電性あり)が、補助電極としての機能を発揮して、電圧降下の低減をも図ることかできるため、大きな発生力と伸縮率を得られるものと推測される。また、前記導電性高分子層2上の導電性高分子層2’上に、更に複数層を形成することも可能であるが、作業性等の観点から、導電性高分子層は1層(単独層)〜3層が好ましい。また、前記絶縁層としては、導電性高分子層を複数層設けている場合には、最外層のみが、絶縁化処理されていることが好ましいが、電極として機能できる程度に、導電性高分子層が残存していれば、特に制限されるものではない。
【0032】
なお、前記導電性高分子複合構造体の形状としては、特に制限されないが、平面状、棒状、ロット状、平面ジグザグ状、蛇腹状、チェーン状、コイル状、バネ状、繊維状、チューブ状、袋状、ベローズ状、網目状、及び、ニット状からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記形状を有する導電性高分子複合構造体としては、たとえば、前記チューブ状であれば、棒状の形状の重合用作用電極上に、導電性高分子層を形成することにより、容易に得ることができるため、作業性等の観点からも好ましい。
【0033】
(導電性高分子単量体)
本発明に用いられる導電性高分子の単量体としては、電解重合法に用いられる電解液に含まれるものであり、電解重合法による酸化により、高分子化して導電性を示す化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、単量体としては、ピロール、チオフェン、イソチアナフテン等の複素五員環式化合物及びそのアルキル基、オキシアルキル基等の誘導体が挙げられる。その中でもピロール、チオフェン等の複素五員環式化合物及びその誘導体が好ましく、特にピロール及び/またはピロール誘導体を含む導電性高分子の場合、製造が容易であり、導電性高分子として化学的に安定であるため好ましい。また、上記モノマーは2種以上併用することができる。
【0034】
(ドーパント)
前記電解重合法の際に前記単量体と共に電解液に配合されるドーパントとしては、電解重合に用いられる溶媒中で溶解する化合物であれば特に限定されるものではない。前記ドーパントしては、例えば、ハロゲン、ハロゲン酸、硝酸、硫酸、ヒ酸、アンチモン酸、ホウ酸、リン酸、カルボン酸、スルホン酸、スルホイミド、スルホメチド等の誘導体や色素化合物が挙げられる。前記化合物としては、具体的には、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロヒ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、ベンジルエチル-[4'-(4''-(ベンジルエチルアミノ)-ジフェニルメチレン)-2',5-シクロヘキサジエニリデン]アンモニウム-2'''、3、3'''-トリスルホン酸、3-ヒドロキシ-4-[2-スルホ-4-(4-スルホフェニルアゾ)フェニルアゾ]-2,7-ナフタレンジスルホン酸を例示することができる。これらの対イオンを伴う塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩、ヨードニウム塩等の誘導体が挙げられる。前記化合物としては、リチウム塩、ナトリウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラブチルホスホニウム塩、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、4-イソプロピル4’-メチルジフェニルヨードニウム塩を例示することができる。前記ドーパントの中でも、アルキル化されたスルホニル基を有する化合物及びその誘導体が好ましく、特にトリフルオロメタンスルホン酸イオン(もしくはビス(トリフルオメタンスルホニル)イミドイオン)及び/または中心原子に対してフッ素原子を複数含むアニオンを含むことが好ましい。また、上記ドーパントは2種以上併用することができる。前記電解液を用いて電解重合を行うことにより、電解伸縮において1酸化還元サイクル当たりの伸縮率が優れた導電性高分子を得ることができる。
【0035】
前記トリフルオロメタンスルホン酸イオン(もしくはビス(トリフルオメタンスルホニル)イミドイオン)及び/または中心原子に対してフッ素原子を複数含むアニオンは、電解液中の含有量が特に限定されるものではないが、前記アニオン総量が、電解液中に0.1〜30重量%含まれるのが好ましく、1〜15重量%含まれるのがより好ましい。
【0036】
前記トリフルオロメタンスルホン酸イオンは、化学式CFSOで表される化合物である。また、中心原子に対してフッ素原子を複数含むアニオンは、ホウ素、リン、アンチモン及びヒ素等の中心原子に複数のフッ素原子が結合をした構造を有している。中心原子に対してフッ素原子を複数含むアニオンとしては、特に限定されるものではないが、テトラフルオロホウ酸イオン(BF)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF)、及びヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF)を例示することができる。なかでも、CFSO、BF及びPFが人体等に対する安全性を考慮すると好ましく、CFSO及びBFがより好ましい。前記の中心原子に対してフッ素原子を複数含むアニオンは、1種類のアニオンを用いても良く、複数種のアニオンを同時に用いても良く、さらには、トリフルオロメタンスルホン酸イオンと複数種の中心原子に対しフッ素原子を複数含むアニオンとを同時に用いても良い。
【0037】
(その他の添加剤)
前記電解重合法に用いられる電解液には、前記単量体やドーパントのほかに、さらにポリエチレングリコールやポリアクリルアミドなどの公知のその他の添加剤を配合することができる。
【0038】
(電解液の溶媒)
前記電解重合時の電解液に含まれる溶媒としては、特に限定されるものではないが、1酸化還元サイクル当たりの伸縮率が3%以上の導電性高分子を容易に得るために、前記ドーパント以外に、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ヒドロキシル基、ニトロ基、スルホン基及びニトリル基のうち少なくとも1つ以上の結合あるいは官能基を含む有機化合物及び/またはハロゲン化炭化水素を電解液の溶媒として含むことが好ましく、更に好ましくは、エステル結合をもつ溶媒を1種類以上含むことである。これらの溶媒を2種以上併用することもできる。
【0039】
前記有機化合物としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン(以上、エーテル結合を含む有機化合物)、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸nブチル、酢酸-t-ブチル、1,2−ジアセトキシエタン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジル-2-エチルへキシル(以上、エステル結合を含む有機化合物)、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート(以上、カーボネート結合を含む有機化合物)、エチレングリコール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール、1−オクタデカノール(以上、ヒドロキシル基を含む有機化合物)、ニトロメタン、ニトロベンゼン(以上、ニトロ基を含む有機化合物)、スルホラン、ジメチルスルホン(以上、スルホン基を含む有機化合物)、及びアセトニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル(以上、ニトリル基を含む有機化合物)を例示することができる。なお、ヒドロキシル基を含む有機化合物は、特に限定されるものではないが、多価アルコール及び炭素数4以上の1価アルコールであることが、導電性高分子の伸縮率が良いため、好ましい。なお、前記有機化合物は、前記の例示以外にも、分子中にエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ヒドロキシル基、ニトロ基、スルホン基及びニトリル基のうち、2つ以上の結合あるいは官能基を任意の組合わせで含む有機化合物であってもよい。それらは、例えば、3−メトキシプロピオン酸メチル、2−フェノキシエタノールなどである。
【0040】
また、前記ハロゲン化炭化水素としては、炭化水素中の水素が少なくとも1つ以上ハロゲン原子に置換されたもので、電解重合条件で液体として安定に存在することができるものであれば、特に限定されるものではない。前記ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンを挙げることができる。前記ハロゲン化炭化水素は、1種類のみを前記電解液中の溶媒として用いることもできるが、2種以上併用することもできる。また、前記ハロゲン化炭化水素は、上記有機化合物と混合して用いてもよく、有機溶媒との混合溶媒を前記電解液中の溶媒として用いることもできる。
【0041】
(作用電極)
前記導電性高分子層を得るためには、重合作用電極として、金属を用いた金属電極や、非金属電極などを用いることができる。前記重合作用電極は、形状としては特に制限されないが、棒状の電極であれば、容易に導電性高分子層を形成でき、更に、重合作用電極上から導電性高分子層を剥離することができるため、好ましい形状である。前記重合作用電極としては、例えば、Au、Pt、Ti、Ni、Pd、Ta、Mo、Cr及びWからなる群より選択される金属元素の単体、もしくは合金の電極や、カーボン電極やITOガラス電極といった非金属電極、これら異種金属または非金属をメッキやスパッタリング等の処理で組み合わせた電極を好適に用いることができる。前記得られる導電性高分子の伸縮率及び発生力が大きく、且つ、電極を容易に入手できることから、NiやTiなどの金属元素を含む金属電極を用いることが特に好ましい。なお、前記合金としては、例えば、商品名「INCOLOY alloy 825」、「INCONEL alloy 600」、「INCONEL alloy X−750」(以上、大同スペシャルメタル株式会社製)を用いることができる。また、前記作用電極上に形成された導電性高分子層は、前記重合作用電極の形状が、平面状や棒状など、単純な形状の場合には、電極から剥離して、導電性高分子層単独で、駆動作用電極として、使用することができる。
【0042】
(基体)
本発明の導電性高分子複合構造体に含まれる基体(導電性基体及び/または非導電性基体)としては、その形状は特に制限されないが、アクチュエータ素子として用いる場合は、例えば、平面状、棒状、ロット状、平面ジグザグ状、蛇腹状、チェーン状、コイル状、バネ状、繊維状、チューブ状、袋状、ベローズ状、網目状、及び、ニット状、更には、アコーディオン状などの伸縮性を有する構造体を用いることが好ましく、特にコイル状の構造体を用いることが、作製の容易さ等から好ましい。前記基体と導電性高分子層を複合化した導電性高分子複合構造体は、アクチュエータ素子として実用可能な伸縮性や、屈曲性、ねじれ性(ツイスト性)に優れた変位を得ることができる。また、前記導電性高分子複合構造体は、基体が前記導電性高分子複合構造体の芯材としても機能し得ることから、機械的強度も向上できる。更に前記基体上に導電性高分子層を形成して、駆動対向電極として使用できるだけでなく、駆動対向電極と対をなす駆動作用電極としても使用することができる。
【0043】
なお、前記基体は、伸縮性を発揮できるものであることが好ましいが、伸縮性を有さないものであっても、その用途によっては、特に制限されない。材質については、特に限定されるものではないが、導電性や機械的強度の観点から、導電性基体が挙げられ、金属、金属メッキやスパッタリングした高分子繊維、高分子フィルム、炭素材料などが挙げられる。特に、高い導電率を示すものであればより好ましい。前記導電性基体としては、具体的には、Ag、Ni、Ti、Pd、Au、Pt、W、Cu等の金属や、NiメッキしたCu、AuメッキしたNi、AuメッキしたCu等や、SUS等の合金を用いることが好ましい。また、Au、Ni等の金属表面にポリピロール等の導電性高分子を被覆したものでも良い。更に、大きな伸縮性能をもつ導電性高分子複合構造体を得るために、Ag、Au、Ni、Pd、Pt等の金属単体や、NiメッキしたCu、AuメッキしたNiがより好ましい。また、前記非導電性基体としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを用いることができる。なお、非導電性基体は、電位の到達においては、導電性基体までの効果は期待出来ないが、電位以外に効果のある機械的強度の向上あるいは作業性の向上に有効である。本発明における基体としては、導電性基体を用いることがより好ましい態様である。
【0044】
前記導電性基体の導電率としては、1.0×10S/cm以上が好ましく、より好ましくは、1.0×10S/cm以上であり、特に好ましくは1.0×10S/cm以上である。前記導電率が1.0×10S/cm以上であることにより、さらに、長さ方向または高さ方向にサイズを大きくした導電性高分子複合構造体の場合であっても、伸縮等の変位をするのに十分な電位を素子全体にかけることができ、有効である。
【0045】
(電解重合条件)
本発明で使用する導電性高分子(層)は、導電性高分子単量体を公知の電解重合法を用いることにより得ることができ、例えば、定電位法、定電流法及び電気掃引法のいずれをも用いることができる。例えば、前記電解重合法は、電流密度0.01〜20mA/cm2、反応温度−70〜80℃で行うことができ、良好な膜質の導電性高分子を得るために、電流密度0.1〜2mA/cm、反応温度−40〜40℃の条件下で行うことが好ましく、反応温度が−30〜30℃の条件であることがより好ましい。
【0046】
(導電性高分子複合構造体の製造方法)
本発明の導電性高分子複合構造体の製造方法としては、前記導電性高分子層を、少なくとも1層形成する工程と、前記導電性高分子層の表層を、絶縁化処理する工程と、を含むことを特徴とする。更に、前記導電性高分子層を、複数層形成し、その最外層を絶縁化処理することにより、導電性高分子複合体を得ることができる。なお、絶縁化処理する最外層は、その全部が絶縁化処理されても、一部が処理されても構わないが、電極として機能する導電性高分子層が残存しておく必要がある。また、複数層の導電性高分子層を形成(重合、被覆)する場合、少なくとも最外層が全部または一部が絶縁化処理され、電極層として機能する導電性高分子層が残存していれば、特に制限されない。なお、本発明においては、導電性高分子層を形成する際に、電解重合法を用いることが、製造の容易さなどの観点から、好ましいが、たとえば、前記導電性高分子層と同等のものが得られる場合であれば、その他の方法、例えば、化学重合法等を用いて、導電性高分子層を形成しても構わない。
【0047】
前記導電性高分子層を複数層形成する場合には、重合作用電極、あるいは導電性基体に接触して形成される導電性高分子層の導電性が、絶縁処理化される導電性高分子層(表層側)と比較して、高いことが好ましい。前記表層(最外層)側の導電性高分子層の導電性が低いことにより、表層側の絶縁化処理が進行しやすく、絶縁層となった際にセパレータとしての機能を十分に発揮することができる。一方、基体に接触している導電性高分子層は、導電性が高く、かつ直接は表層に露出していないため、絶縁化処理の影響を受けない、もしくは、受けにくいため、電極としての機能を有して(残存して)いるため、好ましい。なお、基体に接触している導電性高分子層と、表層側の導電性高分子層の導電性の違いは、セパレータ及び電極としての機能を発揮できる範囲であれば、特に制限されないが、たとえば、基体に接触している導電性高分子層の導電率が、50〜1000S/cmが好ましく、100〜300S/cmがより好ましい。また、表層(最外層)側の導電性高分子層の導電率としては、0.01〜300S/cmが好ましく、0.l〜100S/cmがより好ましい。前記範囲内にあれば、セパレータ及び電極としての機能を発揮できるため好ましい。また、前記導電性高分子層の導電性の違いを設けるためには、公知の製造方法・製造条件を、特に制限なく使用することができる。たとえば、モノマー濃度や反応温度、印加電圧、使用するドーパントの種類などの条件を調製することが考えられる。
【0048】
(絶縁化処理)
前記絶縁化処理としては、特に限定されないが、たとえば酸化処理、酸処理、アルカリ処理、熱処理、光処理、電子線処理、及び、オゾン処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理を選択することができる。中でも、酸化(劣化)処理は、設備面や、コスト面、作業性の面から特に好ましい。前記絶縁化処理を行うことにより、詳細な理由は不明であるが、導電性高分子の分子鎖の切断やドーパント分子の離離などが生じて導電性高分子の有する導電性が低下し、電気抵抗が上昇することに起因するものと推測される。
【0049】
本願発明における「絶縁化」とは、絶縁層の電気抵抗が、0.1kΩ〜200kΩの範囲内であることが好ましく、0.5kΩ〜50kΩがより好ましく、1kΩ〜10kΩが特に好ましい。前記範囲内の場合には、絶縁層がセパレータとしての機能を十分に発揮できるため、好ましい。
【0050】
前記絶縁層の厚みとしては、特に制限されないが、たとえば、電極として残存する導電性高分子層の厚みに対する、絶縁層の厚みの比が、(導電性高分子層の厚み):(絶縁層の厚み)=1.5:1〜6:1であることが好ましく、2:1〜5:1であることがより好ましい。前記厚みの比の範囲内であれば、たとえば、絶縁層の厚みを15μmに調製した場合、電極に用いるポリピロール膜の厚みを約40〜100μm程度に設定できるため、好ましい。なお、絶縁化処理することにより、膜厚が薄くなる(減少する)詳細な理由は明らかではないが、導電性高分子膜内部のポリピロールの高分子鎖が、酸化損傷などにより切断され、それに伴い導電性高分子膜中や内部に保持されていたドーパントや溶媒分子が、切断され、低分子化されたポリピロールとともに、酸化処理などに用いられる溶液中に溶出することにより、膜厚が減少するものと推測される。
【0051】
前記酸化処理としては、過酸化水素、オゾンガス、次亜塩素酸、過マンガン酸カリウム等を用いた処理が挙げられるが、特に過酸化水素を用いた酸化処理が好ましい。過酸化水素を用いた酸化処理の条件としては、処理の対象である導電性高分子層の導電性高分子の種類により、適宜選択することができるが、たとえば、過酸化水素濃度が1〜40重量%の水溶液を用いることが好ましく、より好ましくは、5〜30重量%である。1重量%未満であると、導電性高分子層の絶縁化(劣化)処理に時間を要し、セパレータ機能を有する絶縁層とすることが困難となり、また、40重量%を超えると、導電性高分子層の絶縁化(劣化)処理が急激に進行し、電極として機能する導電性高分子層が十分に残存しないため、好ましくない。
【0052】
また、前記過酸化水素水溶液への導電性高分子層の浸漬時間は、5〜180分が好ましく、10〜60分がより好ましい。5分未満であると、導電性高分子層の絶縁化(劣化)処理が進行せず不十分となり、一方で、180分を超えると、導電性高分子層の絶縁化処理が進行しすぎて、電極として機能する導電性高分子層が十分に残存しないため、好ましくない。浸漬温度としては、0〜80℃が好ましく、より好ましくは、20〜40℃である。0℃未満であると、導電性高分子層の絶縁化処理に時間を要し作業性が著しく悪化し、一方で、80℃を超えると、過酸化水素水溶液から、水が揮発し、過酸化水素濃度が変動するため、好ましくない。
【0053】
(駆動作用電極及び駆動対向電極の調製)
以下に、具体的な導電性高分子複合構造体の製造方法、及び、これに基づき形成される駆動作用電極及び駆動対向電極の調製方法を説明する。なお、本発明は下記製造方法等に限定されるものではない。また、本発明において、たとえばアクチュエータ素子として使用する場合、駆動作用電極とは、伸縮駆動に用いる作用電極(作用極)を意味し、駆動対向電極とは、伸縮駆動に用いる対向電極(対極)を意味する。
(1)導電性高分子層からなる駆動対向電極を形成するため、ピロール等のモノマーに、ドーパント、及び、溶媒を混合して混合溶液とし、これを電解液とする。
(2)次いで、前記電解液中に板状や棒状等の重合作用電極、もしくは基体であるコイル状構造体(例えば、金属製バネ状部材)を浸漬し、前記重合作用電極等の表面に、定電流電解重合により、所定条件でポリピロール(PPy)等の導電性高分子層を被覆して、重合作用電極から前記導電性高分子層を剥離し、あるいは剥離せずに前記重合作用電極や基体を含む被覆電極を得る。なお、前記導電性高分子層上に、たとえば、モノマー濃度や反応温度、印加電圧、使用するドーパントの種類などの条件を調製することにより、より導電率の低い導電性高分子層を、形成することも可能である。
(3)得られた導電性高分子膜、あるいは被覆電極を乾燥させた後、過酸化水素水溶液等を使用した絶縁化処理することにより、セパレータ層を有する駆動対向電極を得ることができる。
(4)次いで、導電性高分子層からなる駆動作用電極を形成するため、ピロール等のモノマーに、ドーパント、及び、溶媒を混合して混合溶液とし、これを電解液とする。
(5)次いで、前記電解液中に、板状や棒状等の重合作用電極、あるいは伸縮性を有する導電性基体の表面に、定電流電解重合により、所定条件で前記重合作用電極等上にポリピロール(PPy)等の導電性高分子層を得て、前記重合作用電極(重合電極)等から導電性高分子層を剥離し、あるいは剥離せずに基体を含む駆動作用電極とすることができる。
【0054】
(アクチュエータ素子)
前記導電性高分子複合構造体を用いたアクチュエータ素子の大きさとしては、特に限定なく製造することができるが、使用される基体の大きさに合わせて、微小なものから、巨大なものまでを製造することができる。たとえば、基体として金属製コイル状部材を用いる場合には、コイルの外径が、400μm〜10cmのものに、導電性高分子層を形成して、アクチュエータ素子を製造することができる。なお、絶縁化処理を行う観点から、絶縁化処理を制御できる範囲内であることが好ましい。
【0055】
(アクチュエータ素子の電解伸縮)
また、上記導電性高分子複合構造体を用いたアクチュエータ素子を電解液(動作電解液)中で、電気化学的酸化還元により伸縮させる電解伸縮方法により駆動させることができる。前記導電性高分子複合構造体を電解伸縮させることにより、1酸化還元サイクル当たりにおいて優れた伸縮率を得ることができ、特定時間あたりにおいて、高い変位量を得ることができる。なお、伸縮率としては、アクチュエータ素子をもちいる用途によって異なるが、好ましくは、3%以上、より好ましくは、5%以上、特に好ましくは、10%以上である。3%未満であると、実用的なアクチュエータの変位量(伸縮量)を得るためには、アクチュエータ素子の大型化が必要となるため、好ましくない。
【0056】
なお、アクチュエータ素子を電解伸縮させる方法として、特に制限されないが、たとえば、駆動作用電極として、前記棒状の重合作用電極上に導電性高分子層を形成し、前記重合作用電極上から剥離した導電性高分子層(導電性高分子チューブ)を用い、これに対して、駆動対向電極として、少なくとも1層の導電性高分子層や基体を含む前記導電性高分子層の表層が、絶縁層である導電性高分子複合構造体を使用することができる。これら駆動作用電極と駆動対向電極を電解液中で、0.1〜10Vの電圧を印加することにより、前記駆動作用電極及び/又は駆動対向電極を電解伸縮させることができ、アクチュエータ素子として、活用することができる。
【0057】
なお、本発明のアクチュエータ素子は、上述したように駆動作用電極と駆動対向電極から構成することができ、その配置(構成)はアクチュエータ素子として、伸縮、屈曲又はねじれに駆動するものであれば、特に制限されないが、たとえば、駆動作用電極として、前記導電性高分子チューブを用い、この内側もしくは外側に対して、駆動対向電極として、たとえば、前記導電性高分子層の表層が絶縁層であるコイル状構造体の導電性高分子複合構造体を、セパレータ部材を介さずに直接接触させて配置することができる。
【0058】
なお、本発明のアクチュエータ素子は、上述したように駆動作用電極と駆動対向電極から構成することができるが、その配置(構成)はアクチュエータ素子として、伸縮、屈曲又はねじれに駆動するものであれば、特に制限されないが、たとえば、アクチュエータ素子を構成する方法として、前記導電性高分子複合構造体(駆動対向電極に相当)の外部及び/又は内部に、駆動作用電極を配置することが好ましい。具体的には、図5に示すように、駆動対向電極20の周りを、円筒形状の駆動作用電極30により覆うように配置する方法(駆動作用電極を外部に配置)や、図6に示すように駆動対向電極20の近くに板(シート)状の駆動作用電極30を配置する方法(駆動作用電極を外部に配置)、図7に示すように駆動対向電極20の内部に柱(棒)状の駆動作用電極30を配置する方法(駆動作用電極を内部に配置)、更には、駆動対向電極の内部に柱(棒)状の駆動作用電極を配置し、更に、外部に円筒形状や板(シート)状の駆動作用電極を配置する方法等を用いてアクチュエータ素子10を構成することができる。なお、図5〜7中の正極及び負極は、図面中と異なり、反対であっても構わない。
【0059】
前記導電性高分子複合構造体の電解伸縮が行われる電解液である動作電解液は、上述したものに限定されるものではないが、主溶媒である水やエタノール、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコール等を単独、又は2種以上の混合溶媒に電解質を含む液体であることが、濃度調製が容易であるため、好ましい。
【0060】
前記電解伸縮方法に用いる電解液の温度は、特に限定されるものではないが、上記の導電性高分子をより速い速度で電解伸縮させるために、20〜100℃であることが好ましく、さらに好ましくは50〜80℃である。
【0061】
(用途)
本発明の導電性高分子複合構造体は、変位を生じることができるのでアクチュエータ素子として用いることができる。本発明の導電性高分子複合構造体において、例えば、樹脂等による被覆がされていないものについては、電解液中で直線的な変位をすることができるアクチュエータ素子として用いることができる。
【0062】
即ち、前記アクチュエータ素子は、OA機器、アンテナ、ベッドや椅子等の人を乗せる装置、医療機器、エンジン、光学機器、固定具、サイドトリマ、車両、昇降器械、食品加工装置、清掃装置、測定機器、検査機器、制御機器、工作機械、加工機械、電子機器、電子顕微鏡、電気かみそり、電動歯ブラシ、マニピュレータ、マスト、遊戯装置、アミューズメント機器、乗車用シミュレーション装置、車両乗員の押さえ装置及び航空機用付属装備展張装置において、直線的な駆動力を発生する駆動部若しくは円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、または直線的な動作若しくは曲線的な動作をする押圧部として好適に用いることができる。前記アクチュエータ素子は、例えば、OA機器や測定機器等の上記機器等を含む機械全般に用いられる弁、ブレーキ及びロック装置において、直線的な駆動力を発生する駆動部もしくは円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、または直線的な動作をする押圧部として用いることができる。また、前記の装置、機器、器械等以外においても、機械機器類全般において、位置決め装置の駆動部、姿勢制御装置の駆動部、昇降装置の駆動部、搬送装置の駆動部、移動装置の駆動部、量や方向等の調節装置の駆動部、軸等の調整装置の駆動部、誘導装置の駆動部、及び押圧装置の押圧部として好適に用いることができる。また、前記アクチュエータ素子は、関節装置における駆動部として、関節中間部材等の直接駆動可能な関節部または関節に回転運動を与える駆動部に好適に用いることができる。前記アクチュエータ素子は、切替え装置の駆動部、搬送物等の反転装置の駆動部、ワイヤー等の巻取り装置の駆動部、牽引装置の駆動部、及び首振り等の左右方向への旋回装置の駆動部としても好適に用いることができる。
【0063】
前記アクチュエータ素子は、例えば、CAD用プリンター等のインクジェットプリンターにおけるインクジェット部分の駆動部、プリンターの前記光ビームの光軸方向を変位させる駆動部、外部記憶装置等のディスクドライブ装置のヘッド駆動部、並びに、プリンター、複写機及びファックスを含む画像形成装置の給紙装置における紙の押圧接触力調整手段の駆動部として好適に用いることができる。
【0064】
前記アクチュエータ素子は、例えば、電波天文用の周波数共用アンテナ等の高周波数給電部を第2焦点へ移動させるなどの測定部や給電部の移動設置させる駆動機構の駆動部、並びに、車両搭載圧空作動伸縮マスト(テレスコーピングマスト)等のマストやアンテナにおけるリフト機構の駆動部に好適に用いることができる。
【0065】
前記アクチュエータ素子は、例えば、椅子状のマッサージ機のマッサージ部の駆動部、介護用又は医療用ベッドの駆動部、電動リクライニング椅子の姿勢制御装置の駆動部、マッサージ機や安楽椅子等に用いられるリクライニングチェアのバックレスト・オットマンの起倒動自在にする伸縮ロッドの駆動部、椅子や介護用ベッド等における背もたれやレッグレスト等の人を乗せる家具における可倒式の椅子の背もたれやレッグレスト或いは介護用ベッドの寝台の旋回駆動等に用いられる駆動部、並びに、起立椅子の姿勢制御のため駆動部に好適に用いることができる。
【0066】
前記アクチュエータ素子は、例えば、検査装置の駆動部、体外血液治療装置等に用いられている血圧等の圧力測定装置の駆動部、カテーテル、内視鏡装置や鉗子等の駆動部、超音波を用いた白内障手術装置の駆動部、顎運動装置等の運動装置の駆動部、病弱者用ホイストのシャシの部材を相対的に伸縮させる手段の駆動部、並びに、介護用ベッドの昇降、移動や姿勢制御等のための駆動部に好適に用いることができる。
【0067】
前記アクチュエータ素子は、例えば、エンジン等の振動発生部からフレーム等の振動受部へ伝達される振動を減衰させる防振装置の駆動部、内燃機関の吸排気弁のための動弁装置の駆動部、エンジンの燃料制御装置の駆動部、並びにディーゼルエンジン等のエンジンの燃料供給装置の駆動部として好適に用いることができる。
【0068】
前記アクチュエータ素子は、例えば、手振れ補正機能付き撮像装置の校正装置の駆動部、家庭用ビデオカメラレンズ等のレンズ駆動機構の駆動部、スチルカメラやビデオカメラ等の光学機器の移動レンズ群を駆動する機構の駆動部、カメラのオートフォーカス部の駆動部、カメラ、ビデオカメラ等の撮像装置に用いられるレンズ鏡筒の駆動部、光学望遠鏡の光を取り込むオートガイダの駆動部、立体視カメラや双眼鏡等の2光学系を有する光学装置のレンズ駆動機構または鏡筒の駆動部、光通信、光情報処理や光計測等に用いられるファイバ型波長可変フィルタの波長変換のファイバに圧縮力を与える駆動部若しくは押圧部、光軸合せ装置の駆動部、並びに、カメラのシャッタ機構の駆動部に好適に用いることができる。
【0069】
前記アクチュエータ素子は、例えば、ホース金具をホース本体にカシメ固定する等の固定具の押圧部に好適に用いることができる。
【0070】
前記アクチュエータ素子は、例えば、自動車のサスペンションの巻ばね等の駆動部、車両のフューエルフィラーリッドを解錠するフューエルフィラーリッドオープナーの駆動部、ブルドーザーブレードの伸張及び引っ込みの駆動の駆動部、自動車用変速機の変速比を自動的に切り替える為やクラッチを自動的に断接させる為の駆動装置の駆動部に好適に用いることができる。
【0071】
前記アクチュエータ素子は、例えば、座板昇降装置付車椅子の昇降装置の駆動部、段差解消用昇降機の駆動部、昇降移載装置の駆動部、医療用ベッド、電動ベッド、電動テーブル、電動椅子、介護用ベッド、昇降テーブル、CTスキャナ、トラックのキャビンチルト装置、リフター等や各種昇降機械装置の昇降用の駆動部、並びに重量物搬送用特殊車両の積み卸し装置の駆動部に好適に用いることができる。
【0072】
前記アクチュエータ素子は、例えば、食品加工装置の食材吐出用ノズル装置等の吐出量調整機構の駆動部に好適に用いることができる。
【0073】
前記アクチュエータ素子は、例えば、清掃装置の台車や清掃部等の昇降等の駆動部に好適に用いることができる。
【0074】
前記アクチュエータ素子は、例えば、面の形状を測定する3次元測定装置の測定部の駆動部、ステージ装置の駆動部、タイヤの動作特性を検知システム等のセンサー部分の駆動部、力センサーの衝撃応答の評価装置の初速を与える装置の駆動部、孔内透水試験装置を含む装置のピストンシリンダのピストン駆動装置の駆動部、集光追尾式発電装置における仰角方向へ動かすための駆動部、気体の濃度測定装置を含む測定装置のサファイアレーザー発振波長切替機構のチューニングミラーの振動装置の駆動部、プリント基板の検査装置や液晶、PDPなどのフラットパネルディスプレイの検査装置においてアライメントを必要とする場合にXYθテーブルの駆動部、電子ビーム(Eビーム)システム又はフォーカストイオンビーム(FIB)システムなどの荷電粒子ビームシステム等において用いる調節可能なアパーチャー装置の駆動部、平面度測定器における測定対象の支持装置若しくは検出部の駆動部、並びに、微細デバイスの組立をはじめ、半導体露光装置や半導体検査装置、3次元形状測定装置などの精密位置決め装置の駆動部に好適に使用できる。
【0075】
前記アクチュエータ素子は、例えば、電気かみそりの駆動部、並びに、電動歯ブラシの駆動部に好適に用いることができる。
【0076】
前記アクチュエータ素子は、例えば、三次元物体の撮像デバイス或いはCD、DVD共用の読み出し光学系の焦点深度調整用デバイスの駆動部、複数のアクチュエータ素子によって駆動対象面を能動曲面としてその形状を変形させることによって所望の曲面を近似的に形成して焦点位置を容易に可変できる可変ミラーの駆動部、光ピックアップ等の磁気ヘッドの少なくとも一方を有する移動ユニットを直線移動させることが可能なディスク装置の駆動部、リニアテープストレージシステム等の磁気テープヘッドアクチュエータセンブリのヘッド送り機構の駆動部、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリなどに適用される画像形成装置の駆動部、磁気ヘッド部材等の搭載部材の駆動部、集束レンズ群を光軸方向に駆動制御する光ディスク原盤露光装置の駆動部、光ヘッドを駆動するヘッド駆動手段の駆動部、記録媒体に対する情報の記録又は記録媒体に記録された情報の再生を行う情報記録再生装置の駆動部、並びに、回路遮断器(配電用回路遮断器)の開閉操作の駆動部に好適に用いることができる。
【0077】
前記アクチュエータ素子は、例えば、ゴム組成物のプレス成形加硫装置の駆動部、移送される部品について単列・単層化や所定の姿勢への整列をさせる部品整列装置の駆動部、圧縮成形装置の駆動部、溶着装置の保持機構の駆動部、製袋充填包装機の駆動部、マシニングセンター等の工作機械や射出成形機やプレス機等の成形機械等の駆動部、印刷装置、塗装装置やラッカ吹き付け装置等の流体塗布装置の駆動部、カムシャフト等を製造する製造装置の駆動部、覆工材の吊上げ装置の駆動部、無杼織機における房耳規制体等の駆動装置、タフティング機の針駆動システム、ルーパー駆動システム、およびナイフ駆動システム等の駆動部、カム研削盤や超精密加工部品等の部品の研磨を行う研磨装置の駆動部、織機における綜絖枠の制動装置の駆動部、織機における緯糸挿通のための経糸の開口部を形成する開口装置の駆動部、半導体基板等の保護シート剥離装置の駆動部、通糸装置の駆動部、CRT用電子銃の組立装置の駆動部、衣料用縁飾り、テーブルクロスやシートカバー等に用途をもつトーションレースを製造するためのトーションレース機におけるシフターフォーク駆動選択リニア制御装置の駆動部、アニールウィンドウ駆動装置の水平移動機構の駆動部、ガラス溶融窯フォアハースの支持アームの駆動部、カラー受像管の蛍光面形成方法等の露光装置のラックを進退動させる駆動部、ボールボンディング装置のトーチアームの駆動部、ボンディングヘッドのXY方向への駆動部、チップ部品のマウントやプローブを使った測定などにおける部品の実装工程や測定検査工程の駆動部、基板洗浄装置の洗浄具支持体の昇降駆動部、ガラス基板を走査される検出ヘッドを進退させる駆動部、パターンを基板上に転写する露光装置の位置決め装置の駆動部、精密加工などの分野においけるサブミクロンのオーダで微小位置決め装置の駆動部、ケミカルメカニカルポリシングツールの計測装置の位置決め装置の駆動部、導体回路素子や液晶表示素子等の回路デバイスをリソグラフィ工程で製造する際に用いられる露光装置及び走査露光装置に好適なステージ装置の位置決めのための駆動部、ワーク等の搬送あるいは位置決め等の手段の駆動部、レチクルステージやウエハステージ等の位置決めや搬送のための駆動部、チャンバ内の精密位置決めステージ装置の駆動部、ケミカルメカニカルポリシングシステムでのワークピースまたは半導体ウェーハの位置決め装置の駆動部、半導体のステッパー装置の駆動部、加工機械の導入ステーション内に正確に位置決めする装置の駆動部、NC機械やマシニングセンター等の工作機械等、又はIC業界のステッパーに代表される各種機器用のパッシブ除振及びアクティブ除振の除振装置の駆動部、半導体素子や液晶表示素子製造のリソグラフィ工程に使用される露光装置等において光ビーム走査装置の基準格子板を前記光ビームの光軸方向に変位させる駆動部、並びに、コンベヤの横断方向に物品処理ユニット内へ移送する移送装置の駆動部に好適に使用できる。
【0078】
前記アクチュエータ素子は、例えば、電子顕微鏡等の走査プローブ顕微鏡のプローブの位置決め装置の駆動部、並びに、電子顕微鏡用試料微動装置の位置決め等の駆動部に好適に用いることができる。
【0079】
前記アクチュエータ素子は、例えば、自動溶接ロボット、産業用ロボットや介護用ロボットを含むロボットまたはマニピュレータにおけるロボットアームの手首等に代表される関節機構の駆動部、直接駆動型以外の関節の駆動部、ロボットの指のそのもの、ロボット等のハンドとして使用されるスライド開閉式チャック装置の運動変換機構の駆動部、細胞微小操作や微小部品の組立作業等において微小な対象物を任意の状態に操作するためのマイクロマニピュレータの駆動部、開閉可能な複数のフィンガーを有する電動義手等の義肢の駆動部、ハンドリング用ロボットの駆動部、補装具の駆動部、並びにパワースーツの駆動部に好適に用いることができる。
【0080】
前記アクチュエータ素子は、例えば、サイドトリマの上回転刃又は下回転刃等を押圧する装置の押圧部に好適に用いることができる。
【0081】
前記アクチュエータ素子は、例えば、パチンコ等の遊戯装置における役物等の駆動部、人形やペットロボット等のアミューズメント機器の駆動部、並びに、乗車用シミュレーション装置のシミュレーション装置の駆動部に好適に用いることができる。
【0082】
前記アクチュエータ素子は、例えば、上記機器等を含む機械全般に用いられる弁の駆動部に用いることができ、例えば、蒸発ヘリウムガスの再液化装置の弁の駆動部、ベローズ式の感圧制御弁の駆動部、綜絖枠を駆動する開口装置の駆動部、真空ゲート弁の駆動部、液圧システム用のソレノイド動作型制御バルブの駆動部、ピボットレバーを用いる運動伝達装置を組み込んだバルブの駆動部、ロケットの可動ノズルのバルブの駆動部、サックバックバルブの駆動部、並びに、調圧弁部の駆動部に好適に用いることができる。
【0083】
前記アクチュエータ素子は、例えば、上記機器等を含む機械全般に用いられるブレーキの押圧部として用いることができ、例えば、非常用、保安用、停留用等のブレーキやエレベータのブレーキに用いて好適な制動装置の押圧部、並びに、ブレーキ構造もしくはブレーキシステムの押圧部に好適に用いることができる。
【0084】
前記アクチュエータ素子は、例えば、上記機器等を含む機械全般に用いられるロック装置の押圧部として用いることができ、例えば、機械的ロック装置の押圧部、車両用ステアリングロック装置の押圧部、並びに、負荷制限機構及び結合解除機構を合わせ持つ動力伝達装置の押圧部に好適に用いることができる。
【0085】
さらに、前記導電性高分子複合構造体のアクチュエータ素子以外の用途としては、例えば、一次電池用電極、二次電池用電極、キャパシタ用電極、太陽電池用電極、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、ECディスプレイ、各種センサ用電極(湿度、温度、光、イオン、ガス、味覚、圧力など)、及び、電卓用等のキーボード用などのスイッチ等に好適に用いることもできる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
(1)モノマーであるピロール(Aldrich社製)0.15mol/lと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドテトラブチルアンモニウム(Aldrich社製)とテトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム(TBABF)(Aldrich社製)の混合モル比(9:1)の0.3mol/lの濃度で、フェノキシエタノール(東京化成工業社製)と酢酸エチル(東京化成工業社製)混合溶液(混合体積比50:50)を電解液とし、
(2)AuメッキしたNiワイヤー(ニラコ社製、線径0.1mm、ピッチ0.4mm)で構成された外径が0.85mmのコイル状の重合作用電極上に0.5mA/cmで、20時間、−10℃、定電流電解重合し、膜厚80μmのポリピロール(PPy)コイルを得た。
(3)得られたPPyコイルを乾燥(25℃×1時間)させた後、5%の過酸化水素水溶液(東京化成工業社製)に室温で3時間浸漬し、膜厚75μmのセパレータ一体型PPyコイルの駆動対向電極を得た。
(4)得られたPPyコイルの駆動対向電極の電気抵抗を測定するために、測定用端子をPPyコイルの金属露出部分に接続し、もう一方の端子として2枚のAu板(ニラコ社製、面積22mm×22mm)を用いて、PPyコイルのPPy被覆部分に圧着させ、電気抵抗を測定した。
(5)伸縮性能を測定するためのPPy駆動作用電極として、モノマーであるピロール0.15mol/lと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドテトラブチルアンモニウム(TBATFSI)とテトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム(TBABF)の混合モル比(9:1)の0.3mol/lの濃度で、フェノキシエタノールと、フタル酸ジエチル(東京化成工業社製)、フタル酸ベンジル−2−エチルへキシル(東京化成工業社製)混合溶液(混合体積比50:45:5)にベンジルエチル-[4'-(4''-(ベンジルエチルアミノ)-ジフェニルメチレン)-2',5-シクロヘキサジエニリデン]アンモニウム-2'''、3、3'''-トリスルホン酸二ナトリウム(関東化学社製)0.5mmol/lを含む混合溶液を電解液とし、
(6)直径1.0mmのニッケル棒(ニラコ社製)の重合作用電極上に0.15mA/cm、12時間、−10℃、定電流電解重合し、膜厚25μmのPPyチューブの駆動作用電極を得た。
(7)得られたPPyコイルの駆動対向電極とPPyチューブの駆動作用電極を用いて、互いに密着させて通電し、短絡の有無を確認した。なお、短絡の有無の評価は、前記駆動作用電極と駆動対向電極の位置関係が図8に示す場合が相当し、両電極が互いに密着しているため、前記駆動対向電極の絶縁層が存在しない場合は、短絡することから、短絡が生じないことで、絶縁層が存在していることを確認している。
(8)また、得られたPPyコイルの駆動対向電極とPPyチューブの駆動作用電極を用いて、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)(Aldrich社製)のアセトニトリル(関東化学社製)/水(混合体積比4:6)混合溶液を動作(駆動)電解液として、0.1Hz、3.6Vp−pの電圧を印加して、電解伸縮を測定した。なお、前記電解伸縮の評価は、前記駆動作用電極と駆動対向電極の位置関係が図6に示す場合が相当し、前記駆動対向電極の表面に絶縁層が存在していても、電極性能(伸縮駆動性能を含む)を保持できていることを確認している。
【0088】
(実施例2)
(1)過酸化水素処理をしない点を除き、上記実施例1と同様の方法で得られたPPyコイル(第一層のみ)への追加の電解重合として、モノマーであるピロール0.25mol/lと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドテトラブチルアンモニウム(TBATFSI)とトリフルオロメタンスルホン酸テトラブチルアンモニウム(TBATFS)(Aldrich社製)の混合モル比(19:1)の0.5mol/lの濃度で、安息香酸イソプロピル(関東化学社製)とフタル酸ジエチル混合溶液(混合体積比17:83)とし、PPyコイルの重合作用電極上に2.5mA/cmで、20分、−10℃、定電流電解重合し、膜厚110μmのポリピロール(PPy)コイル(第一層+第二層)を得た。
(2)得られたPPyコイルを乾燥(25℃×1時間)させた後、5%の過酸化水素水溶液に室温で20分浸漬し、膜厚90μmのセパレータ一体型PPyコイルの駆動対向電極を得た。
(3)得られたPPyコイルの駆動対向電極を用いて、上記実施例1と同様の方法で電気抵抗値を測定した。
(4)伸縮性能を測定するためのPPyチューブの駆動作用電極を上記実施例1と同様の方法で得た。
(5)得られたPPyコイルの駆動対向電極とPPyチューブの駆動作用電極を用いて、上記実施例1と同様の方法で電解伸縮を測定した。
【0089】
(比較例1)
過酸化水素処理をしない点を除き、上記実施例1と同様の方法で得られたPPyコイルの駆動対向電極を用いて、上記実施例1と同様の方法で得たPPyチューブの駆動作用電極の性能を評価した。
【0090】
(実施例3)
(1)第一層目の電解重合として、モノマーであるピロール(Aldrich社製)0.15mol/lと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドテトラブチルアンモニウム(Aldrich社製)とテトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム(TBABF)(Aldrich社製)の混合モル比(9:1)の0.3mol/lの濃度で、フェノキシエタノール(東京化成工業社製)と酢酸エチル(東京化成工業社製)混合溶液(混合体積比50:50)を電解液とし、
(2)Ni金属板(ニラコ社製、縦30mm、横30mm、厚み0.5mm)の重合作用電極上に0.3mA/cmで、7.5時間、−10℃、定電流電解重合し、Ni電極板に接着した状態のまま膜厚40μmのフィルム状(平膜状)のポリピロール(PPy)単層膜を得た。
(3)得られた第一層目の前記PPy単層膜(平膜)上に追加する第二層目の電解重合として、モノマーであるピロール0.25mol/lと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドテトラブチルアンモニウム(TBATFSI)とトリフルオロメタンスルホン酸テトラブチルアンモニウム(TBATFS)(Aldrich社製)の混合モル比(19:1)の0.5mol/lの濃度で、安息香酸イソプロピル(関東化学社製)とフタル酸ジエチル混合溶液(混合体積比17:83)とし、前記PPyコイル膜(第一層目)上に0.5mA/cmで、1時間、−10℃、定電流電解重合し、Ni電極板から剥離して第二層目を有する膜厚60μmのPPy複層膜(第一層+第二層、第二層の厚み:20μm)を得た。
(4)前記PPy複層膜(第一層+第二層)を乾燥(25℃×1時間)させた後、5%の過酸化水素水溶液(東京化成工業社製)に室温で40分浸漬し、酸化処理後の膜厚55μm(酸化反応後の第二層である絶縁層15μm)を有するPPy複層膜(平膜)を得た。
(5)前記PPy平膜の酸化処理後の導電率を測定するために、抵抗率計(ロレスターGP MCP−T600、三菱化学社製)を用いて四探針法により測定用端子をPPy平膜(測定条件、30mm×30mm、20℃、測定面は重合作用電極と接着していた側:重合作用電極と接触していた剥離後の導電性高分子層)に圧着させて、導電率を測定した。
(6)前記PPy平膜の酸化処理による絶縁層の存在を確認するために、PPy平膜の表面と裏面にテスターを接触させ、両面間の抵抗値を測定し(測定条件、30mm×30mm、20℃)、2枚のPPy平膜どうし(例えば、単層膜(平膜)2枚を用いる場合は、絶縁層、導電性高分子層、絶縁層、導電性高分子層の順番に構成される。)を、抵抗値の高い面側で優先的に圧着して、短絡の有無を確認し、セパレータ機能を評価した。
【0091】
(比較例2)
第二層目のPPy膜を調製せず、第一層目のみのPPy単層膜(平膜)をNi金属板電極板から剥離する点を除き、上記実施例3と同様の処理方法で得られたPPy単層膜を用いて、上記実施例3と同様の方法で導電性とセパレータ機能を評価した。
【0092】
(比較例3)
第一層目のPPy膜の調製をせず、第二層目のみのPPy単層膜(平膜)をNi金属板電極板から剥離する点を除き、上記実施例3と同様の処理方法で得られたPPy単層膜を用いて、上記実施例3と同様の方法で導電性とセパレータ機能を評価した。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
表1の結果より、実施例1においては、表面に導電性高分子層であるPPy層を被覆した基体(金属コイル)を使用し、導電性高分子層の表層を絶縁化処理することにより、駆動対向電極が、セパレータとしての機能も発揮できる高い電気抵抗値を有することが確認でき、さらに、駆動作用電極である導電性高分子(PPy)チューブの伸縮率も、絶縁化処理していない比較例1と全く変わらないことが確認され、電極性能(駆動対極性能)も維持しているが確認できた。その理由として、詳細は明らかではないが、絶縁化処理により、電極として機能する導電性高分子層が部分的に導電性を喪失していても、電極性能に重要な導電性高分子層の表面積は減少しておらず、かつ導電性高分子層も十分量残存しているためであると推測される。一方、比較例1では、絶縁化処理がなされていないため、電気抵抗値が低く、駆動作用電極と駆動対向電極の両電極間において、短絡が確認された。
【0096】
表2の結果より、比較例2においては、基体を用いない導電性高分子層のみで構成されたPPy単層膜(第一層目のみ)平膜を使用し、導電性高分子層の表層を絶縁化処理した結果、電極機能(導電性)は保持しているが、セパレータとして機能できる絶縁層を形成できないことが確認された。その理由として、詳細は明らかではないが、第一層目のみからなるPPy単層膜の場合、導電率が高く維持され、つまり、導電性を有する導電性高分子層の密度が高いため、酸化処理液の導電性高分子層内部への浸透率が低くなり、絶縁層が十分に形成されなかったものと推測される。比較例3においては、PPy単層膜(第二層目のみ)平膜では、酸化処理前の膜厚が薄く、膜全体が絶縁化処理されている(酸化処理されやすい)ため、電極機能(導電性)そのものを有していないことが確認できた。一方、比較例2及び3のそれぞれのPPy単層膜を組み合わせた実施例3のPPy複層膜では、電極機能(導電性)と、セパレータとして機能できる絶縁層の両方を有していることが確認できた。
【符号の説明】
【0097】
1 基体(コイル状構造体)
2、2’導電性高分子層
3 導電性高分子被覆基体
2’’ 絶縁層
4 導電性高分子複合構造体
20 駆動対向電極
30 駆動作用電極
10 アクチュエータ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の導電性高分子層を含む導電性高分子複合構造体であって、
前記導電性高分子層の表層が、絶縁層であることを特徴とする導電性高分子複合構造体。
【請求項2】
前記導電性高分子複合構造体の形状が、平面状、棒状、ロット状、平面ジグザグ状、蛇腹状、チェーン状、コイル状、バネ状、繊維状、チューブ状、袋状、ベローズ状、網目状、及び、ニット状からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の導電性高分子複合構造体。
【請求項3】
前記導電性高分子複合構造体が、更に基体を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の導電性高分子複合構造体。
【請求項4】
前記導電性高分子層の導電性高分子が、分子鎖にピロールおよび/またはピロール誘導体を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導電性高分子複合構造体。
【請求項5】
前記基体の形状が、平面状、棒状、ロット状、平面ジグザグ状、蛇腹状、チェーン状、コイル状、バネ状、繊維状、チューブ状、袋状、ベローズ状、網目状、及び、ニット状からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3又は4記載の導電性高分子複合構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の導電性高分子複合構造体を用いたアクチュエータ素子。
【請求項7】
前記基体が、伸縮性を有することを特徴とする請求項6記載のアクチュエータ素子。
【請求項8】
前記導電性高分子層が、電解伸縮により伸縮、屈曲又はねじれに駆動することを特徴とする請求項6又は7記載のアクチュエータ素子。
【請求項9】
少なくとも1層の導電性高分子層を含む導電性高分子複合構造体の製造方法であって、
前記導電性高分子層を、少なくとも1層形成する工程と、
前記導電性高分子層の表層を、絶縁化処理する工程と、を含むことを特徴とする導電性高分子複合構造体の製造方法。
【請求項10】
前記導電性高分子複合構造体が、更に基体を含むことを特徴とする請求項9記載の導電性高分子複合構造体の製造方法。
【請求項11】
前記導電性高分子層が、少なくともピロール及び/またはピロール誘導体を電解重合して得られることを特徴とする請求項9又は10記載の導電性高分子複合構造体の製造方法。
【請求項12】
前記絶縁化処理が、酸化処理、酸処理、アルカリ処理、熱処理、光処理、電子線処理、及び、オゾン処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の導電性高分子複合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−37077(P2011−37077A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185087(P2009−185087)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(302014860)イーメックス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】