説明

導電性2,6−ジアミドピリジン化合物

【課題】 電界効果トランジスタがわずかな電場変化に対応して大きな電流変化を出力する様に極微量の化学物質、DNAの構成物質である核酸化合物との相互作用を電流変化として捉えることを可能とする分子デバイスあるいは分子認識センサーを構築するのに必要な新規な導電性化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される2,6-ジアミドピリジン化合物。
【化1】


式中、nは0〜10の整数、mは1又は2であり、Aはナノギャップ電極を構成する金属と結合可能な置換基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸塩基の高感度センシングや分子認識センサー等の分子デバイスに用いる化合物に関する。詳しくは、本発明はDNAの構成要素の一つであるチミンに選択的に結合可能な導電性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質のセンシング技術は従来の分析化学の延長線を超えて急速に発達している。特に、DNAなどの特定の物質を高感度化には遺伝子工学や生命化学分野では重要であり、1fmol(1×10-15モル)のペプチドが検出できる質量分析装置や、一分子からの蛍光検出も可能な単分子蛍光計測装置が市販されている(例えば、Scientific Analysis Instruments社製MALDITof/Tof-MS/MS質量分析器、オリンパス社製単分子蛍光計測装置MF20型(商品名))。
特に、核酸塩基の検出については、塩基と特異的に結合する化合物の吸収スペクトル変化や結合した複合体の質量分析、電気化学的変化で行われていた。
しかし、上記の従来技術では、大がかりな装置や高価な装置を必要とし、目的の塩基類の検出には多くの時間を要し、迅速、高感度、簡便な目的物質のセンシングには適していなかった。
【0003】
また、ナノギャップ電極間にアフィニティーセンサーを配置し、これと相補的に結合可能なパートナー化合物を導電性微粒子上に修飾した仲介粒子が特異的に電極間に結合配置されることにより、導電性変化が起こることを利用する新しいセンサーも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、上記導電性微粒子を仲介して目的物を検出する方法は、比較的簡便な方法に近づいているが、ホスト分子あるいはゲスト分子のいずれかを金等の導電性微粒子に前もって結合して置く必要があり、迅速な方法とは言い難かった。
【特許文献1】特表2002−533698公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解消するため、電界効果トランジスタがわずかな電場変化に対応して大きな電流変化を出力する様に極微量の化学物質、DNAの構成物質である核酸化合物との相互作用を電流変化として捉えることを可能とする分子デバイスあるいは分子認識センサーを構築するのに用いられる新規な導電性化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、導電性化合物近傍に検出対象分子が接近することにより電気伝導度の変化が生じるとの知見(S.Tsuzukiら、Biosensors & Bioelectronics,20,1452頁,2005年)に基づき、核酸塩基とセンサー化合物との錯体形成反応を分子の導電性の変化として検出する方法が、下記2,6-ジアミドピリジン化合物により達成できることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされるに至ったものである。
すなわち、本発明は、
(1)下記一般式(I)で表される2,6-ジアミドピリジン化合物、
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、nは0〜10の整数、mは1又は2であり、Aはナノギャップ電極を構成する金属と結合可能な置換基を表す。)、
(2)前記ナノギャップ電極を構成する金属が、金、銀又は半導体である(1)項記載の化合物、
(3)前記Aが、アセチル基で保護したチオール基(アセチルチオ基)、又はトリメチルシリルエチニル基である、(1)又は(2)項記載の化合物、及び
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の化合物を用いた分子認識センサー
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規な導電性化合物は、核酸塩基の1つであるチミン化合物と特異的に水素結合し、かつギャップ電極間に挟み込まれた構造で架橋・結合することができる。
本発明の導電性化合物は、ナノギャップ電極間に挟み込むように配線することにより、従来の検出法よりも迅速かつ鋭敏に標的物質を検出しうる核酸塩基センサーを提供できる。
本発明の導電性化合物は、ナノメートルスケールのギャップ電極間に架橋できるので、化学物質の分子認識センサー、分子素子などナノテクノロジー分野およびバイオ・環境分野における高感度分子認識センサーとして有用性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の機能性化合物は、2,6-ジアミドピリジン環がフェニレンエチニレンオリゴマーの中央に位置するフェニレン環にアミド結合を介して結合し、前記フェニレンエチニレンオリゴマーの両末端にはギャップ電極を構成する金属と結合可能な置換基を有する。
具体的には、上記一般式(I)で表される新規な2,6-ジアミドピリジン化合物である。一般式(I)中、nは0〜10の整数であり、好ましくは0〜5である。mは1又は2である。m=1の場合、1〜1.5nmの間隔のギャップ電極間に用いるのに好ましく、m=2の場合、2.5〜3nmの間隔のギャップ電極間に用いるのに好ましい。
Aはナノギャップ電極を構成する金属と結合可能な置換基を表し、これにより、本発明の化合物は電極表面に固定することができる。
ナノギャップ電極を構成する金属の具体例として、例えば、金、銀、半導体等を挙げることができる。
前記ナノギャップ電極と結合可能な官能基Aの具体例としては、アセチル基で保護したチオール基(アセチルチオ基)、トリメチルシリルエチニル基、チオール基、ジスルフィド基等を挙げることができる。好ましくは、アセチルチオ基、またはトリメチルシリルエチニル基である。チオール基は、アセチル基で保護しておき、使用直前もしくはin situで脱保護して用いることができる。
【0011】
前記一般式(I)で表される化合物は、絶縁体基板上のナノメートルスケール(例えば、約3nm)間隔のギャップ電極間に挟み込まれた構造で架橋・結合することができ、センサー部位である2,6-ジアミドピリジン環へ標的核酸化合物(チミンまたはそのN-置換化合物)が水素結合することにより、共役系分子ワイヤ部位であるフェニレンエチニレンオリゴマーの電子状態が変化し、その結果としてナノギャップ電極に流れる電流が変化することで、チミンおよびそのN-置換化合物の存在を認識(検出)することができる。なお、水素結合により共役分子の電子状態が変化を起こすことは既に量子化学計算によりシミレートされ、知られている。
【0012】
一般式(I)で表される化合物における、2,6-ジアミドピリジン環はチミン化合物と特異的に水素結合を形成する人工レセプターとして最も良く知られている。2,6−ジアミドピリジン環以外にも核酸認識分子が知られているが、例えば、チミンと相補的水素結合が可能なアデニン化合物は、一般的に有機合成を行う溶剤にはほとんど不溶であり、化学修飾が困難であり、導電性化合物との結合は困難である。
【0013】
一般式(I)で表される化合物における、共役系分子ワイヤ部位であるフェニレンエチニレンオリゴマーと2,6-ジアミドピリジン環との結合に共役性基を用いなくても、アミド結合を介することにより分子ワイヤの導電性に摂動を与えることは量子化学的シミレーションにより確認している。
本発明と同様な2,6-ジアミドピリジン環を有するセンサー化合物としてエチニレン基を介してフェニル基類と結合している化合物群が既に報告されている(Inouyeら、Journal Organic. Chemistry,64巻,9393頁,1999年)が、2,6−ジアミノピリジンへのエチニル基の直接導入はアシルアジド化合物を経由するため危険を伴う。一方、一般式(I)で表される化合物は市販の任意のジアミン化合物から製造できる。
【0014】
また、一般式(I)中のフェニレンエチニレンオリゴマーは導電性を有し、共役系分子ワイヤ部位である。
一般に、分子ワイヤはフェニレンエチニレンオリゴマー、フェニレンビニレンオリゴマー、チオフェンオリゴマーなどが知られているが、フェニレンビニレン鎖からなる分子ワイヤは有機溶剤に溶解しにくく、チオフェンオリゴマーでは特定の分子長を有しかつ末端に金などの電極への結合部位を有する化合物の入手が困難である。一方、本発明における分子ワイヤ部位であるフェニレンエチニレンオリゴマーは、そのような欠点がない。
前記一般式(I)で表される化合物は、下記経路に従って製造できる。
【0015】
【化2】

【0016】
工程1で製造されるモノアミド化合物1は2,6−ジアミノピリジンとカルボン酸クロリドとの反応により合成できる。具体的には、下記一般式(II)で表されるカルボン酸クロリドと少なくとも5倍モル量以上(好ましくは、10〜15倍モル量)の2,6−ジアミノピリジンを、例えば、Bernsteinら、Journal of American Chemical Society,69巻,1147頁,1947年等に記載のショッテン・バウマン(Schottenn-Baumann)反応条件又はこれに準じた条件下で反応させることにより合成できる。
【0017】
【化3】

式中、nは0〜10である。
【0018】
得られたモノアミド化合物1は、工程2に示したように2,5−ジヨード安息香酸ハライド(例えば、クロリド)との縮合反応により2,5−ジヨードベンズアミド化合物2へ容易に変換できる。縮合は前述のショッテン・バウマン反応条件又はこれに準じた条件下が好ましい。
ここで、ジヨード安息香酸化合物として、2,3−ジヨード安息香酸化合物、2,4−ジヨード安息香酸化合物および2,6−ジヨード安息香酸化合物も考えられるが、2,3−ジヨード化合物は反応位置の立体障害により分子ワイヤの構築が困難であり、2,4−ジヨード化合物および2,6−ジヨード化合物はエチニレン基が互いにメタ位になるため分子ワイヤとして導電性の低下が予測されるため2,5-ジヨード安息香酸化合物の使用が好ましい。
【0019】
工程3で示される分子ワイヤ部位の構築は上記得られた2,5−ジヨードベンズアミド化合物2と、末端にエチニル基を有する化合物(例えば、(4-エチニル-フェニルエチニル)-トリイソプロピルシラン)とを、パラジウムトリフェニルホスフィン錯体/ヨウ化銅などのPd含有触媒の存在下、25〜60℃の温度において6〜24時間反応させるソノガシラ(Sonogashira)カップリング反応又はこれに準じた反応によって製造することができる。ソノガシラカップリング反応についてはUwe H.F.Bunz,Chemical Review,100巻,1605頁,2000年に記載されている。
この時の使用する溶媒としては2,5−ジヨードベンズアミド化合物2に対する良溶媒であるTHF等を使用することが好ましい。また、反応性が低下し、収率が低下した場合は反応温度を60℃に上昇させることが好ましい。
【0020】
フェニレンエチニレン鎖を伸ばすには、工程4で示したように化合物3から脱トリメチルシリル基後、(4−ヨードフェニルエチニル)トリメチルシランとの前述のソノガシラカップリング反応又はこれに準じた反応を行うことで達成できる。工程6に示すようにこの脱トリメチルシリル基物と4−ヨードフェニルエチニル)トリメチルシランとのカップリング反応を繰り返せば任意のmの目的のフェニレンエチニレンオリゴマー6を製造できる。
また、工程5に示したように上記脱トリメチルシリル基物とチオ酢酸-S-(4-ヨード-フェニル)エステルを前述のソノガシラカップリング反応を行うことで目的のアセチルチオ体5を製造することができる。
アセチルチオ体5の両末端のアセチルチオ基は常法によりチオール基へ脱保護することができる。
以下、本発明の化合物の具体例を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
【化4】

【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
工程1(1) 化合物1a(n=0)の製造
2,6-ジアミノピリジン10.9gを50mLの乾燥ジオキサンに溶解し、この溶液を約5℃〜10℃に冷却し、撹拌下で塩化アセチル3.98g/7mLの乾燥ジオキサン溶液を滴下した。約2時間後、析出物をろ過して取り去り、ろ液を濃縮し、残留物をシクロヘキサンとエタノール混合物から再結晶し、化合物1a(n=0)を得た。収量3.33g、融点158℃(文献値156〜157℃、Bernsteinら、Journal of American Chemical Society,69巻,1147頁,1947年)。
【0023】
工程1(2) 化合物1b(n=6)の製造
前記化合物1a(n=0)の製造と同様に2,6−ジアミノピリジンが大過剰下でオクタン酸クロリド(16.3g)を滴下する。精製はシリカゲル−ヘキサン:酢酸エチル(1:1)にて行い、目的の化合物1b(n=6)を22.4g得た。融点108℃。
工程1(3) 化合物1c(n=10)の製造
前記化合物1a(n=0)の製造と同様に2,6−ジアミノピリジンが大過剰下でラウリル酸クロリド(23.45g)を滴下した。室温にて約2時間反応後、析出物をろ過して取り去り、ろ液を濃縮し、少量のシクロへキサンを入れ一夜、冷蔵庫中で放置した。結晶化した化合物をシクロヘキサンから再結晶し、化合物1c(n=10)を9.57g得た。融点71℃。
【0024】
工程2 化合物2a(n=0)の製造
前記工程1(1)で得られた化合物1a、N-(6-アミノ-ピリジン-2-イル)-アセタミド9.Ogを100mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、この溶液を氷冷下、17gの4-ヨード安息香酸クロリドのTHF溶液を滴下した。滴下終了後、3時間、室温にて反応後、反応混合物を水中へ投入した。析出物をろ過し、乾燥することにより目的物2a、2,5-ジヨード-N-ピリジン-2-イル)-ベンズアミド16gを得た。融点204〜205℃。
【0025】
工程3 化合物3a(n=0、m=1)の製造
前記工程2で得られた化合物2aを0.37g、(4-エチニル-フェニルエチニル)-トリイソプロピルシラン0.45gを5mLの乾燥THFに溶解し、この溶液へジイソプロピルアミン0.2mLを加え、フラスコ内を十分に窒素置換した後に、22mgのPd(PPh3)2Cl2と23mgのヨウ化銅を投入した。反応はただちに始まり反応溶液の色が淡黄色から黒緑色へ変化した。反応を室温(25℃)にて5時間続けると反応系の色は赤黒色に変化した。反応混合物にクロロホルム50mLを加え、この溶液を塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。クロロホルム相を集め、硫酸マグネシウムで乾燥した。クロロホルム溶液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:THF=3:1)にて精製を行い、目的物3aを0.42g得た。融点223〜224℃。
【0026】
工程4 化合物4a(n=0、m=1)の製造
前記工程3で得られたトリイソプロピルシリル化合物0.53gをTHF12mLに溶解後、3mLのテトラブチルアンモニウムフロリド(1規定、THF溶液)を加えた。一夜放置後、反応混合物を半乾燥状態まで濃縮し、析出した結晶をろ過し、目的物4a(n=0、m=1)を0.19g得た。1H-NMR(CDCl3):δ2.08(1H,s,アセチルアミド基),3.09,3.21(2H,2s,末端エチニル基),7.70(1H,dd,ピリジン核-4位),7.93-7.95(2H,dd,j=8.08,ピリジン核-3位),6.88-6.90(2H,dd,j=8.08,ピリジン核-5位),8.10(1H,s,中心ベンゼン核-2位),7.76-7.81(2H,m,中心ベンゼン核-4,5位),6.88-6.89,7.12-7.14,7.49-7.58(9H,m,その他ベンゼン核)。
【0027】
工程5 化合物5a(n=0、m=1)の製造
前記工程4にて得られた、両端にエチニル基を有する化合物(4a)52.6mgとチオ酢酸-S-(4-ヨード-フェニル)エステル72.42mgとを乾燥THF10mLに溶解した。この溶液に、32.1mgのトリフェニルホスフィン、12.48mgのトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、0.4mLのジイソプロピル-エチルアミン、ヨウ化銅17.34mgを加え、反応フラスコを60℃のオイルバスにつけ、10時間加熱した。反応終了後、反応混合物にクロロホルムを加え、そのクロロホルム溶液を5%の塩化アンモニウム水溶液で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥した。得られたクロロホルム溶液は濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(塩化メチレン:THF=5:0.2)で精製し、目的物5aを27.8mg得た。融点263〜266℃;1H-NMR(CDCl3):δ2.02(s,3H,アセチルアミド基),2.38(s,6H,アセチルチオ基),7.65(1H,dd,ピリジン核-4位)、6.85-6.87(1H,dd,ピリジン核-3位),7.90-7.92(1H,dd,ピリジン核-5位),8.05(1H,s,中心ベンゼン核-2位),7.76-7.81(2H,m,中心ベンゼン核-4,5位),6.84-6.85,7.10-7.12,7.32-7.36,7.44-7.55(16H,m,その他ベンゼン核)。
【0028】
工程6 化合物6a(n=0、m=1)の製造
化合物4a、50.92mgに15mLの乾燥THFを入れ、フラスコ内を十分にチッソ置換した。この中に、62.26mgの(4-ヨード-フェニルエチニル)-トリメチルシラン、9.03mgのPd(PPh3)2Cl2、ピペリジン0.2mL、ヨウ化銅10.62mgを入れ、9時間、環流を行った。反応後、100mLのクロロホルムを入れ、このクロロホルム相を5%の塩化アンモニウム水溶液、水で洗浄しクロロホルム相を硫酸マグネシウムで乾燥した。有機溶媒を留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(塩化メチレン:THF=5:0.2)にて精製し、目的物6aを50.3mg得た。1H-NMR(CDCl3):δ(0.26,s,9H,トリメチルシリル基),7.70(1H,dd,ピリジン核-
4位)、7.95(1H,d,ピリジン核-5位),6.94(1H,s,ピリジン核-3位),8.12(1H,s,中心ベンゼン核-2位),7.85(2H,m,中心ベンゼン核-4,5位),6.89-6.90,7.15-7.20,7.44-7.58(16H,m,その他ベンゼン核)。
【0029】
工程7 化合物5aによるN-ブチルチミンの認識
化合物5aをギャップ電極に組み込む前に、チミン化合物との水素結合体形成能をESIマススペクトロスコピーにより確認した。
化合物5aとN-ブチルチミンのエタノール溶液を調製し、化合物5a単独溶液、N-ブチルチミン単独溶液、および化合物5aとブチルチミンの混合液のESIマススペクトルをそれぞれ測定した結果、それぞれの単独溶液では見られない分子イオンピークが混合溶液では化合物5aとN-ブチルチミンの分子量の和に相当する分子イオンピークが観測された。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
工程1(2)、(3)で各々得られた化合物1b(n=6)、1c(n=10)も同様に工程2〜7を行い、目的の本発明の化合物を各々製造することができる。
この結果から、化合物5aとN-ブチルチミンとの1:1の水素結合体形成が確認された。
本発明の化合物は電界効果トランジスタが電場変化に対応して大きな電流変化を出力する様に極微量の化学物質との相互作用を出力として電流、電位、抵抗などの変化に変換できるデバイスに用いることができ、当該デバイスは迅速かつ敏感に化学物質、特に核酸塩基などの生体関連物質を測定でき、高度な医療、省エネルギー化に貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される2,6-ジアミドピリジン化合物。
【化1】

式中、nは0〜10の整数、mは1又は2であり、Aはナノギャップ電極を構成する金属と結合可能な置換基を表す。
【請求項2】
前記ナノギャップ電極を構成する金属が、金、銀又は半導体である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記Aが、アセチル基で保護したチオール基、又はトリメチルシリルエチニル基である、請求項1又は2記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物を用いた分子認識センサー。

【公開番号】特開2006−248934(P2006−248934A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65072(P2005−65072)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託費「ナノ機能合成プロジェクト」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】