説明

導電捲縮糸及びその製造方法

【課題】画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得られる導電捲縮糸及びその製造方法を提供する。
【解決手段】芯部に導電性物質を含有するポリマー、鞘部に導電性物質を含有しないポリマーが配され、芯部が鞘部により完全に被覆されている芯鞘複合繊維を、芯部及び鞘部のポリマーの融点より低い加工温度で、撚り係数を0.85以下として仮撚加工する導電捲縮糸の製造方法及び該方法で得られる導電性捲縮糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電捲縮糸の製造方法に関する。さらに詳細には、レーザープリンター等の画像形成装置に用いるブラシ、例えば画像転写後の感光ドラム表面を除電するための除電ブラシ、感光ドラム表面を帯電するための帯電ブラシ、感光体上の残留トナーを除去するためのクリーニングブラシ等として好適に用いることができる導電捲縮糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真記録方式の乾式複写機やファクシミリ、プリンターなどに用いられるブラシ用繊維としては、セルロース系繊維や導電性カーボンを含有したビニロン導電糸やナイロン導電糸あるいはポリエステル導電糸が用いられている(例えば特許文献1〜4等)。
【0003】
また、従来、導電糸はまっすぐなフィラメント糸のままで、カットパイル織編物、あるいはタフトや起毛などにより立毛された立毛布帛の、それぞれ立毛繊維として用いられ、さらにこれを導電性ブラシとして利用されるのがほとんどである。
【0004】
しかし、上記導電性ブラシでは、これを感光ドラム等と接触させた場合、点接触となるため除電斑、帯電斑、クリーニング斑が生じ、均一かつ鮮明な印刷画像が得られないという問題がある。このため、パイル織編物等の立毛密度を高くするといった方法が考えられるが、かかる方法でも限界がある。
【0005】
【特許文献1】特開平9−49117号公報
【特許文献2】特開2000−355823号公報
【特許文献3】特開2000−160427号公報
【特許文献4】特開2003−66669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明らは、上記背景技術に鑑み、ブラシに用いる導電糸に捲縮を付与することにより、該導電糸を構成する繊維の先端が屈曲あるいは湾曲した形状となり、感光ドラム等との接触面積が大きくなり、除電、帯電、クリーニングの作用面積が大きくなる効果により、上記問題を解決できると考えた。
【0007】
しかしながら、前述した導電糸に仮撚加工に捲縮を付与しようとしたところ、導電糸の品質が著しく低下したり、加工時に断糸したりする問題が多く発生し、満足のいくブラシ用の導電性捲縮糸が得られなかった。
したがって、本発明の目的は、画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得られる導電捲縮糸及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、導電性物質を含有するポリマーを一構成成分とする複合繊維からなる導電糸では、これに仮撚加工を施すと繊維同士が融着したり、複合繊維を構成する他の成分と剥離したりする問題があることがわかった。またこれは、導電性物質を含有するポリマーとして該ポリマー中の該導電性物質の分散性を良くするなどの目的で一般的に低融点や低粘度ものが用いられているため、仮撚加工の熱や応力により、該ポリマー成分が繊維表面に露出している複合繊維はもとより、該ポリマー成分が繊維表面に露出していない複合繊維でもこれを被覆しているポリマー成分が破損して、該ポリマーが表面に溶出し、上記問題を引き起こしていることが原因であることを突き止めた。
【0009】
かくして、本発明によれば、芯部に導電性物質を含有するポリマー、鞘部に導電性物質を含有しないポリマーが配され、芯部が鞘部により完全に被覆されている芯鞘複合繊維を、芯部及び鞘部のポリマーの融点より低い加工温度で、撚り係数を0.85以下として仮撚加工することを特徴とする導電捲縮糸の製造方法が提供される。
【0010】
また、芯部に導電性物質を含有したポリマー、鞘部に導電性物質を含有しないポリマーが配され、かつ芯部が鞘部により完全に被覆されている芯鞘複合繊維からなり、撚り係数が0.85以下の仮撚加工を施されていることを特徴とする導電捲縮糸が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、高品質の捲縮を有する導電捲縮糸を安定して製造することができる。また、本発明の導電捲縮糸によれば、画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の導電捲縮糸は、芯部に導電性物質を含有したポリマー、鞘部に導電性物質を含有しないポリマーが配され、かつ芯部が鞘部により完全に被覆されている芯鞘複合繊維で構成されているものである。かかる構造とすることによって、ブラシなどとして使用した際、導電性物質が脱落して導電性能が低下することがない。また、一般的に芯部を構成するポリマーとして導電性物質の分散性を向上させる目的で低融点や低粘度ポリマーが用いられ、該ポリマーが表面に露出している複合繊維では、捲縮を付与する十分な温度で仮撚加工した際、該ポリマーが溶融し繊維同士が融着するといった問題がある。これに対して、本発明の複合繊維は芯部が鞘部で完全に覆われているため、上記問題が発生しにくい。
【0013】
なお、鞘部の厚みが小さすぎても、仮撚加工時の熱や締め付け応力によって鞘部が破損し、仮撚加工で芯部が露出する可能性がある。一方、鞘部の厚みが大きすぎると、導電性能が低下する傾向にある。したがって、繊維横断面で鞘部の厚みが最も小さくなる「最小厚み」が2〜6μmであることが好ましい。
【0014】
上記複合繊維の横断面としては、具体的には図1の(イ)に示すように円形状の芯部が鞘部により覆われている断面や、(ロ)〜(ニ)のように芯部が芯鞘複合繊維の表面に近接する突起を有するものがあげられるが、高い導電性能を発揮する点で(ロ)〜(ホ)のような横断面を有するものが好ましい。なお、上記(ロ)〜(ニ)では、芯部が3,4,6個の突起を有するものを例示しているが、突起の数としてはこれに限定されず、3〜16個が好ましく、より好ましくは3〜8である。
【0015】
本発明における芯部を構成するポリマーとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン6,6等のポリアミド又はこれらを主成分とする共重合ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル又はこれらを主成分とする共重合ポリエステルを例示することができ、なかでもポリオレフィン、特にポリエチレンが好ましい。なお、これらのうち2種以上を併用してもよい。
【0016】
芯部に含有させる導電性物質としては、導電性カーボンブラック、導電性金属化合物等を使用することができる。カーボンブラックの種類としては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック等が例示される。他方導電性金属化合物としては、導電性金属酸化物を主たる対象とし、特に白色性に優れた酸化第二錫および酸化亜鉛が好ましい。ここでいう酸化第二錫には、少量のアンチモン化合物を含む酸化第二錫、酸化チタン粒子の表面に少量のアンチモン化合物を含む酸化第二錫をコーティングして得られる導電性金属複合体も含まれる。また酸化亜鉛には少量の酸化アルミニウム、酸化リチウム、酸化インジウム等を溶解した導電性酸化亜鉛も含まれる。これらは、通常微粉末として芯部を構成するポリマーに分散して用いることができる。
【0017】
一方、鞘部を構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン−6やナイロン−6,6等のポリアミドなどがあげられ、また、これらに少量の第3成分が共重合された共重合体であってもよい。なかでも、製糸性などの点から固有粘度0.50〜0.70のポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、上記ポリマーには、必要に応じて、任意の添加剤、例えば艶消剤、着色剤、酸化防止剤、染色性向上剤、制電剤等を含有させてもよい。
【0018】
本発明の製造方法においては、上記の芯鞘複合繊維からなる糸条を、芯部及び鞘部のポリマーの融点より低い加工温度で、撚り係数を0.85以下として仮撚加工することが肝要である。これにより従来得られなかった高品質の導電捲縮糸を安定して製造することができる。
【0019】
すなわち、前述したように一般に複合繊維の芯部に鞘部よりも低融点や低粘度のポリマーが用いられることが多く、仮撚加工を芯部及び鞘部のポリマーの融点より高い温度、特にかかる観点から低融点となる芯部より高い温度で仮撚加工を行うと、芯部が溶融して複合繊維の断面形状が変形したり、鞘部が破損したり、芯部と鞘部が剥離したりする問題が発生する。また、仮撚係数を0.85より大きくすると、撚りによる締め付け応力が著しく増大し、繊維断面が押しつぶされて変形し、鞘部が破損しやすくなる。これらによって、導電捲縮糸の品質だけでなく、導電性能も著しく低下する。
【0020】
本発明において、仮撚加工を行う芯鞘複合繊維からなる糸条はPOY(高配向未延伸糸)でもFOY(延伸糸)でもよい。また、本発明の仮撚加工は、POYを延伸仮撚するものであっても、FOYを仮撚するものであってもよい。ただし、FOYを仮撚する方が繊維横断面の変形が起こりにくく好ましい。
【0021】
上記のように複合繊維ならなるPOYを製造するには、例えば、芯部及び鞘部のポリマーを溶融し、複合紡糸口金から吐出し、冷却、油剤付与した後、500〜2,000m/分の速度で一旦未延伸糸を巻き取る。巻き取った未延伸糸を延伸機に仕掛けて1.5〜5倍程度に延伸することによって得ることができる。
【0022】
また、仮撚加工後に再度熱処理を施すことによって、捲縮率をさらに調整することができるだけでなく、解撚トルクや熱収縮を低くすることができる。
なお、芯部を構成するポリマーの融点が低いほど、低温で捲縮率を調整することができ、また繊度の大きい導電糸でも高速で仮撚加工しても捲縮を付与することができる。
【0023】
以上に説明した本発明の製造方法によれば、繊維横断面の変形が少なく、鞘部の破損などのない高品質の、前述した仮撚係数で仮撚加工が施された導電捲縮糸を得ることができる。また、この導電捲縮糸を画像形成装置の導電ブラシとして用いた際、芯鞘複合繊維の先端が捲縮によって屈曲あるいは湾曲した形状となっているため、従来のまっすぐな導電糸と比較し、繊維先端と感光ドラム等との接触面積が大きくなり、除電、帯電、クリーニングの作用面積が大きくなり、その結果より均一で鮮明な印刷画像を得ることができる。
【0024】
上記導電捲縮糸の捲縮率はあまり高すぎてもブラシ用の立毛布帛としたとき立毛の配向や配列が乱れやすく、例えば、クリーニングすべきトナーがブラシ内部に蓄積されてしまうといった不具合もおこりやすい。一方、捲縮率があまり低すぎても捲縮付与による前述したの効果を十分に発揮できない。よって、捲縮率としては2〜8%が好ましい。
【0025】
また、上記導電捲縮糸の断面電気抵抗値は、10〜1011Ω/cmが好ましい。画像形成装置の種類によりも異なるが、かかる断面電気抵抗値の範囲とすることで、均一な帯電、除電、クリーニング効果を得やすくなる。
【0026】
上記導電捲縮糸を用いて導電性ブラシとするには、例えば、該導電捲縮糸を少なくとも立毛部分に用いた立毛布帛とし、これを平面に貼り付けるか、これを支柱(軸)に螺旋状に巻きつけてブラシ形状とする。その後、立毛処理、シャーリング処理を行い、画像形成装置用の導電性ブラシとすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例より本発明をさらに詳細に説明する。評価方法は以下の通りである。
(1)ポリエステルの固有粘度
オルソクロルフェノールを用い25℃で測定した。
(2)印刷画像品質
電子写真学会が発行するテストチャートを複写し、印刷回数1回での印刷画質の均一性、鮮明性を5人で官能評価した。
【0028】
[実施例1]
ポリエチレン(住友化学製スミカセンG−807)70重量部に対してファーネス系の導電性カーボンブラック30重量部を添加し、溶融混合して得られた導電性ポリマーのチップ(融点130℃)と、固有粘度0.64、融点256℃のポリエチレンテレフタレートのチップ(帝人ファイバー製)とを複合紡糸口金を用いて、紡糸温度290℃、引取り速度1200m/分として紡糸し、未延伸糸を得た。この未延伸糸を、予熱100℃、熱セット温度180℃、延伸倍率3.1倍で熱延伸し、33デシテックス5フィラメントの図1(イ)の横断面を有する芯鞘複合繊維の延伸糸を得た。なお、この芯鞘複合繊維の鞘部の最小厚みは3μmであった。
【0029】
次いで、上記延伸糸を8本合糸し、スピンドル方式の撚り掛け装置を備えた仮撚加工機を用いて、加工温度125℃、仮撚り数1741T/m(仮撚り係数0.83)、加工速度100m/分で仮撚り加工を施し、捲縮率7%の250デシテックス40フィラメントの導電捲縮糸を得た。捲縮糸を構成する複合繊維の横断面を顕微鏡により観察したが、ほぼ均一な横断面を有しており、鞘部の破損も認められなかった。
【0030】
さらに上記捲縮糸に100T/mの撚糸を施し、パイル織機を使用して立毛織物を作成し、これを20mm幅のテープ状にスリットして金属製の軸にらせん状に巻きつけ、パイルの高さが一定になるようカットして整え導電性ブラシを作成した。
この導電捲縮糸ブラシを画像形成装置に使用したところ、印刷画像は均一性、鮮明性がいずれも優れていた。
【0031】
[比較例1]
合糸した延伸糸に仮撚り加工を施さなかった以外は実施例1と同様にして、導電性ブラシを作成し、画像形成装置に使用した。得られた印刷画像は均一性、鮮明性がいずれも実施例1の印刷画像よりも劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法によれば、高品質の捲縮を有する導電捲縮糸を安定して製造することができる。また、本発明の導電捲縮糸によれば、画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得ることができる。このため、本発明の導電捲縮糸およびその製造法はいずれもその産業上の利用価値が極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の導電捲縮糸を構成する複合繊維の横断面形状の例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 芯部
2 鞘部
3 鞘部の最小厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部に導電性物質を含有するポリマー、鞘部に導電性物質を含有しないポリマーが配され、芯部が鞘部により完全に被覆されている芯鞘複合繊維からなる糸条を、芯部及び鞘部のポリマーの融点より低い加工温度で、撚り係数を0.85以下として仮撚加工することを特徴とする導電捲縮糸の製造方法。
【請求項2】
芯鞘型複合繊維の芯部に該芯鞘複合繊維の表面に近接する接合部を設け、該近接部から該表面までの距離を2〜6μmとする、請求項1記載の導電捲縮糸の製造方法。
【請求項3】
仮撚加工をスピンドル方式の撚掛け装置で行う、請求項1または2記載の導電捲縮糸の製造方法。
【請求項4】
芯部に導電性物質を含有したポリマー、鞘部に導電性物質を含有しないポリマーが配され、かつ芯部が鞘部により完全に被覆されている芯鞘複合繊維からなり、撚り係数が0.85以下の仮撚加工を施されていることを特徴とする導電捲縮糸。
【請求項5】
芯鞘型複合繊維の芯部が該芯鞘複合繊維の表面に近接する接合部を有し、該近接部から該表面までの距離が2〜6μmである、請求項4記載の導電捲縮糸。
【請求項6】
捲縮率が2〜8である、請求項4または5記載の導電捲縮糸。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の導電捲縮糸を少なくとも一部に用いてなる導電性ブラシ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−336141(P2006−336141A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161465(P2005−161465)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】