説明

導電膜とその製造方法、並びに有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】経時での導電性評価において高い導電性と透明性を有する導電膜と、高温、高湿度環境下における環境試験後でも安定性の優れた有機エレクトロルミネッセンス素子(以後有機EL素子ともいう)を提供する。
【解決手段】導電性ナノワイヤーとバインダーを含有する導電膜であって、該導電性ナノワイヤーが下記一般式(I)で表される化合物と該一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩からなる混合原子価化合物であることを特徴とする導電膜とその製造方法、並びに有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜とその製造方法及び該導電膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、太陽電池、電磁波シールド、電子ペーパー、タッチパネル等の各種分野において好適に用いることができる、導電膜とその製造方法及び該導電膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型TV需要の高まりに伴い、液晶・プラズマ・有機エレクトロルミネッセンス・フィールドエミッション等、各種方式のディスプレイ技術が開発されている。これら表示方式の異なる何れのディスプレイにおいても、導電膜は必須の構成技術となっている。また、テレビ以外でも、タッチパネルや携帯電話、電子ペーパー、各種太陽電池、各種エレクトロルミネッセンス調光素子においても、導電膜は欠くことのできない技術要素となっている。
【0003】
従来導電膜は、ガラスや透明なプラスチックフィルム等の透明基材上に、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)膜を真空蒸着法やスパッタリング法で製膜したITO透明電極が主に使用されてきた。しかし、ITOに用いられているインジウムはレアメタルであり、且つ価格の高騰により、脱インジウムが望まれている。また、ディスプレイの大画面化、生産性向上に伴い、フレキシブル基板を用いたロールtoロールの生産技術が所望されている。
【0004】
近年、有機物からなる導電体を用いる導電膜が開示されており、テトラフルバレンジカルボキシレートのカチオンラジカルとポリビニルアルコールからなる導電膜が提案されている(例えば非特許文献1参照)。しかし、この導電膜では導電体は混合原子価化合物ではなく、また高導電性領域ではテトラフルバレンジカルボキシレートのカチオンラジカルが星型の結晶を形成するためフィルムの透過率が低いという課題を有していた。
【0005】
金属ナノワイヤーを用いた導電体も開示されており、銀ナノワイヤー上に導電性高分子材料を積層させた透明電極が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしこれらは銀ナノワイヤー層上に透過率の低いPEDOT/PSS、ポリアニリン及びポリピロール等の導電性ポリマーを積層する構成になっており、高透過率と導電性を両立するという課題を有していた。
【0006】
また、PET上に銀ナノワイヤーを塗布後、ポリウレタンのメチルエチルケトン溶液をスピンコートした導電体が提案されている(例えば特許文献2参照)。電極は局所的に高温になり、素子寿命を劣化させる要因の一つであるため、経時での導電性、透過率の高い安定性向上という課題を有していた。
【0007】
テトラチアフルバレン・テトラシアノキノジメタン錯体を用いた修飾電極を含む有機エレクトロルミネッセンス素子が提案されている(例えば特許文献3参照)。しかし、電極作製時にテトラチアフルバレン・テトラシアノキノジメタン錯体溶液を水面上に滴下し、形成した膜をPETフィルムのマスクでAg電極上へ転写しており、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命低下を引き起こす水の残存が懸念される。有機エレクトロルミネッセンス素子中に水が存在するとダークスポットの原因となるため、高温、高湿度環境下における環境試験後の安定性向上という課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2008−259262号明細書
【特許文献2】米国特許第2007−74316号明細書
【特許文献3】特開2002−353165号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Synthetic Materials,(1995),vol.68,281
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、経時での導電性評価において高い導電性と透明性を有する導電膜と、高温、高湿度環境下における環境試験後でも安定性の優れた有機エレクトロルミネッセンス素子(以後有機EL素子ともいう)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0012】
1.導電性ナノワイヤーとバインダーを含有する導電膜であって、該導電性ナノワイヤーが下記一般式(I)で表される化合物と該一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩からなる混合原子価化合物であることを特徴とする導電膜。
【0013】
【化1】

【0014】
〔式中、X〜Xはそれぞれカルコゲン原子を表し、同一であっても異なっていても良い。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表すが、RとR、又はRとRは互いに結合して環状構造を形成しても良い。〕
2.前記一般式(I)で表される化合物のX、X、X及びXが硫黄原子であることを特徴とする前記1記載の導電膜。
【0015】
3.前記一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩のカウンターアニオンが下記一般式(II)表されるアニオンであることを特徴とする前記1又は2記載の導電膜。
【0016】
一般式(II) RCOO
〔式中、Rは置換基を示す。〕
4.前記1〜3のいずれか1項記載の導電膜から構成される電極を用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
5.前記1〜3のいずれか1項記載の導電膜が、一般式(I)で表される化合物を含有する溶液と、一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩を含有する溶液と、バインダーを含有する溶液とを混合後、支持体上へ塗布、乾燥する工程で製造されたことを特徴とする導電膜の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の課題を克服すべく鋭意検討を行った結果、経時での導電性評価において高い導電性と透明性を有する導電膜と、高温、高湿度環境下における環境試験後でも安定性の優れた有機EL素子を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の導電膜の構造模式図である。
【図2】本発明に係る導電膜の導電率の時間変化を示す図である。
【図3】本発明に係る導電膜表面の走査型顕微鏡写真である。
【図4】本発明の導電膜の紫外可視近赤外吸収スペクトルである。
【図5】本発明に係る導電膜の粉末X線回析スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を更に詳しく説明する。
【0021】
本発明は、バインダー、一般式(I)と該一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩からなる混合原子価化合物で構成されるナノワイヤーを含有することを特徴とする。
【0022】
本発明においては、特に、ナノワイヤーをバインダー中に含有させることで、経時での導電性評価において高い安定性を有し、更に高温、高湿度環境下における環境試験後でも安定性の優れた有機エレクトロルミネッセンスが得られる。
【0023】
〔導電性ナノワイヤー〕
本発明に係る導電性ナノワイヤーとは、導電性を有し、かつその長さが直径(太さ)に比べて十分に長い形状を持つものである。本発明に係る導電性ナノワイヤーは、透明導電層内において導電性ナノワイヤーが互いに接触し合うことにより3次元的な導電ネットワークを形成し補助電極として機能すると考えられる。従って、導電性ナノワイヤーが長い方が導電ネットワーク形成に有利であるため好ましい。一方で、導電性ナノワイヤーが長くなると導電性ナノワイヤーが絡み合って凝集体を生じ、光学特性を劣化させる場合がある。導電ネットワーク形成や凝集体生成には、導電性ナノワイヤーの剛性や直径等も影響するため、使用する導電性ナノワイヤーに応じて最適な平均アスペクト比(アスペクト=長さ/直径)のものを使用することが好ましい。大凡の目安として、平均アスペクト比は、10〜10,000であるものが好ましく、より好ましくはで15〜1,000である。
【0024】
本発明において上記導電性ナノワイヤーの長さや直径、アスペクト比の平均値は、十分な数の導電性ナノワイヤーについて電子顕微鏡写真を撮影し、個々の導電性ワイヤー像の計測値の算術平均から求めることができる。導電性ワイヤーの長さは、本来直線状に伸ばした状態で測定すべきであるが、現実には屈曲している場合が多いため、電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いてナノワイヤーの投影径及び投影面積を算出し、円柱体を仮定して算出する(長さ=投影面積/投影径)こともできる。また、長さや直径の相対標準偏差は、測定値の標準偏差を平均値で除した値に100を乗じた値で表す。計測対象の導電性ナノワイヤーのサンプル数は、少なくとも100個以上が好ましく、300個以上がより好ましい。
【0025】
相対標準偏差[%]=測定値の標準偏差/平均値×100
本発明のナノワイヤーの形状としては中空チューブ状、ワイヤー状、ファイバー状、ロッド状等がある。本発明の導電性ナノワイヤーは、有機物成分のみで構成されているが、該有機導電性ナノワイヤーと無機ナノワイヤー、導電性金属酸化物ナノワイヤー、金属ナノワイヤー、炭素繊維、カーボンナノチューブ等と併用して用いても良い。また、本発明の導電性ナノワイヤーを金属や金属酸化物等でコーティングして用いても良い。コスト(原材料費、製造費)と性能(導電性、透明性、可撓性)の観点から、有機導電性ナノワイヤーである一般式(I)と該一般式(I)で表わされる化合物の酸化体の塩からなる混合原子価化合物で構成される導電性ナノワイヤーが最も好ましい。
【0026】
本発明の導電性ナノワイヤーは一般式(I)で表される化合物、一般式(I)で表される化合物の酸化体及び一般式(II)で表されるカルボン酸のアニオン、或いはスルホン酸のアニオン、ハロゲンアニオンから構成されたものが好ましい。本発明の導電性ナノワイヤーは一般式(I)で表される化合物、一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩からなる導電性ナノワイヤーは、図4の紫外可視近赤外吸収スペクトルにおいて2000cm−1付近に幅広い吸収が見られることから混合原子化状態であることが示唆された。混合原子価化合物とは物質を構成する同種原子が異なる酸化数(電子状態)を持つ化学物質である。
【0027】
本発明の一般式(I)において、X〜Xはそれぞれカルコゲンを示し、同一でも異なっていても良い。カルコゲン原子とは周期律表おいて第16族に属する元素総称であり、酸素、イオウ、セレン、テルル、ポロニウムがこれに分類される。本発明におけるカルコゲンは、硫黄、セレン、テルルが好ましく、更に好ましくは硫黄である。
【0028】
本発明の一般式(I)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示し、RとR、又はRとRは互いに結合して環状構造を形成しても良い。
【0029】
前記本発明の一般式(I)のR〜Rで表される置換基の例としては、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シクロアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基、アシル基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基等が挙げられる。上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれる。上記アルキル基は分岐を有していてもよく、炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることが更に好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基が含まれる。
【0030】
上記シクロアルキル基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜12であることがより好ましく、3〜8であることが更に好ましい。シクロアルキル基の例には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基が含まれる。上記アルコキシ基は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びオクチルオキシ基が含まれる。上記アルキルチオ基の炭素数は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が含まれる。上記アリールチオ基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールチオ基の例にはフェニルチオ基及びナフチルチオ基等が含まれる。上記シクロアルコキシ基の炭素原子数は、3〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜8である。シクロアルコキシ基の例には、シクロプロポキシ基、シクロブチロキシ基、シクロペンチロキシ基及びシクロヘキシロキシ基が含まれる。上記アリール基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリール基の例にはフェニル基及びナフチル基が含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールオキシ基の例にはフェノキシ基及びナフトキシ基が含まれる。上記へテロシクロアルキル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましく、3〜5であることが更に好ましい。へテロシクロアルキル基の例にはピペリジノ基、ジオキサニル基及び2−モルホリニル基が含まれる。上記へテロアリール基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜10であることが更に好ましい。へテロアリール基の例にはチエニル基、ピリジル基が含まれる。上記アシル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アシル基の例にはホルミル基、アセチル基及びベンゾイル基が含まれる。上記アルキルカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルカルボンアミド基の例にはアセトアミド基等が含まれる。上記アリールカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アリールカルボンアミド基の例にはベンズアミド基等が含まれる。上記アルキルスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。スルホンアミド基の例にはメタンスルホンアミド基等が含まれる上記アリールスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アリールスルホンアミド基の例には、ベンゼンスルホンアミド基及びp−トルエンスルホンアミドが基含まれる。上記アラルキル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることが更に好ましい。アラルキル基の例にはベンジル基、フェネチル基及びナフチルメチル基が含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルコキシカルボニル基の例にはメトキシカルボニル基が含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることが更に好ましい。アリールオキシカルボニル基の例にはフェノキシカルボニル基が含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は8〜20であることが好ましく、8〜12であることが更に好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例にはベンジルオキシカルボニル基が含まれる。上記アシルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アシルオキシ基の例にはアセトキシ基及びベンゾイルオキシ基が含まれる。上記アルケニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルケニル基の例に、ビニル基、アリル基及びイソプロペニル基が含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルキニル基の例にはエチニル基が含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルスルホニル基の例に、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基が含まれる。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールスルホニル基の例に、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基が含まれる。上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は1〜20あることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルオキシスルホニル基の例に、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基が含まれる。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールオキシスルホニル基の例に、フェノキシスルホニル基、ナフトキシスルホニル基が含まれる。上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルスルホニルオキシ基の例に、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基が含まれる。
【0031】
上記アリールスルホニルオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールスルホニルオキシ基の例に、フェニルスルホニルオキシ基、ナフチルスルホニルオキシ基が含まれる。置換基は同一でも異なっていても良く、これら置換基が更に置換されても良い。
【0032】
本発明の一般式(I)で表されるRとR、又はRとRは互いに結合して環状構造を形成しても良いが、その場合は、不飽和炭化水素環、芳香族環、脂肪族複素環、芳香族複素環等が縮環した構造が好ましい。RとR、及びRとRが互いに結合して形成した縮環は同一の環構造でも、異なっていても良く、不飽和炭化水素環、芳香族環を形成することが好ましい。これらの環は、更に上述の置換基により置換されても良い。
【0033】
本発明の一般式(I)において、R、R、R及びRは、それぞれ、水素、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基が好ましく、より好ましくは、R、R、R及びRが総て水素の場合である。
【0034】
以下に、本発明の一般式(I)で表される化合物の代表的具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
上記本発明一般式(I)で表される化合物は、JournaloftheChemicalSociety,ChemicalCommunications,1980,38−39や特開2002−265466号等の既報の方法により合成することができる。
【0040】
本発明一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩は、一般式(I)で表される化合物の酸化体(カチオンラジカル)と一般式(II)で表されるカルボン酸のアニオン、或いはスルホン酸のアニオン、ハロゲンアニオンから構成される。
【0041】
本発明一般式(II)で表されるカルボン酸のアニオン、或いはスルホン酸のアニオンはカルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン部位を分子中に含有すれば特に制限はなく、単量体、2量体及びポリマーでもよい。また、カルボン酸アニオン、或いはスルホン酸アニオン及びハロゲンアニオン等の複数のアニオンを含有してもよく、またこれらのアニオン種を同時に含有していても良い。
【0042】
本発明一般式(II)で表されるカルボン酸アニオンの例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデンカン酸、テトラドデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸、ヘニコサフルオロドデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、アミノ酸、ニトロカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の共重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸の共重合体等のアニオンが挙げられる。スルホン酸アニオンの例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ウンデカンスルホン酸、10−カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸の共重合体等のアニオンが挙げられる。ハロゲンアニオンとしては、第17族に属するフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンのアニオンを表すが、塩素、臭素、ヨウ素のアニオンが好ましく。より好ましくは塩素のアニオンである。本発明一般式(I)で表される化合物の酸化体のカウンターアニオンとしては、トリフルオロ酢酸、ヘプタフルオロ酪酸、ヘニコサフルオロドデカン酸、メタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ウンデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及び塩素のアニオンが好ましく、より好ましくは、ヘプタフルオロ酪酸のアニオンである。
【0043】
本発明の導電性ナノワイヤーは、金属ナノワイヤー、カーボンナノチューブを併用することができる。
【0044】
金属ナノワイヤーとしては、1つの金属ナノワイヤーで長い導電パスを形成するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に、3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均直径は、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で、導電性の観点からは大きい方が好ましい。本発明においては、金属ナノワイヤーの平均直径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、直径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
【0045】
金属ナノワイヤーの金属組成としては特に制限はなく、貴金属元素や卑金属元素の1種または複数の金属から構成することができるが、貴金属(例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等)及び鉄、コバルト、銅、錫からなる群に属する少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。金属ナノワイヤーが2種類以上の金属元素を含む場合には、例えば、金属ナノワイヤーの表面と内部で金属組成が異なっていてもよいし、金属ナノワイヤー全体が同一の金属組成を有していてもよい。
【0046】
カーボンナノチューブは、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面(グラフェンシート)が筒形に巻かれた形状からなる炭素系繊維材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、アームチェア型に分けられ、各種のものが知られている。カーボンナノチューブの形状としては、1つのカーボンナノチューブで長い導電パスを形成するために、アスペクト比(=長さ/直径)が大きい、すなわち細くて長い単層カーボンナノチューブであることが好ましい。例えば、アスペクト比が102以上、好ましくは103以上のカーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブの平均長さは、3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に、3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均直径は100nmより小さいことが好ましく、1〜50nmが好ましく、1〜30nmであることがより好ましい。併せて、直径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
【0047】
〔バインダー〕
本発明に係るバインダーとしては透明ならば何を用いてもかまわない。水溶性高分子、有機溶剤溶解性高分子、ポリマーラテックス、水性アイオノマーや熱硬化性樹脂、光硬化樹脂、エネルギー線硬化樹脂等の組成物等の中から任意に選択すればよい。また、重合性モノマーやオリゴマーあるいはそれらの混合物を塗布した後、光や熱や電子線などで重合して透明バインダー層を形成しても良い。これらのうち、透明バインダー層として高分子バインダーを用いる場合、高分子バインダーとなるものの例としては、PolymerHandbookVI/453−VI/461に列挙されているものを好適に用いることができる。
【0048】
本発明のバインダーとしては、天然ポリマー、合成樹脂やポリマーおよびコポリマー、その他フィルムを形成する媒体であれば特に限定はないが、親水性でも疎水性でもよい。
【0049】
親水性バインダーとしては、例えば:ゼラチン、カゼイン、デンプン、アラビアゴム、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、カルボキシメチルエーテルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルエーテルセルロース等のセルロース類、キトサン、デキストラン、グアーガム、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリルアミド−アクリル酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ブタジエン−無水マレイン酸)、ポリ(n−ブチルアクリレート−2−メタクリロイルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル−2−メタクリロキシトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(2−ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)−ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル付加体、ポリ(エチレングリコール)ビス2−アミノエチル、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール)モノカルボキシメチルエーテルモノメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド−b−プロピレンオキシド)、ポリエチレンイミン、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(1−グリセロールメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−エチルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート−メタクリル酸)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(N−イソ−プロピルアクリルアミド)、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリ(N−メチル−N−ビニルアセトアミド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(2−ビニル−1−メチルピリジニウムブロミド)、ポリ(リン酸)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン−N−オキシド)、ポリ(ビニルスルホン酸)等が挙げられる。上記バインダーにおいて、カルボン酸、スルホン酸、リン酸等を有するポリマーは、リチウム、ナトリウム、カリウム等の塩を有していてもよく、窒素原子を有するポリマーは塩酸塩等の構造を有していても良い。また、熱硬化性樹脂であるメラミン樹脂、尿素樹脂、グリオキザール系樹脂等も挙げることができる。上記バインダーは1種でも複数種でも使用することができる。
【0050】
疎水性バインダーとしては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の単独重合体及び共重合体(例えば、ポリメチルメタクリレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル系共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレンのようなビニル系ポリマー及びビニル化合物の共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミドのような縮合系ポリマー、ブタジエン−スチレン共重合体のようなゴム系熱可塑性ポリマー等が挙げられる。また、熱や光で酸を発生させる酸発生剤とエポキシ化合物の組成物、光照射によりラジカルを発生させる光ラジカル発生剤とアクリレート、メタクリレート化合物の組成物等の硬化性樹脂も挙げることができる。
【0051】
「ポリマーラテックス」とは水不溶な疎水性ポリマーが微細な粒子として水溶性の分散媒中に分散されたものである。分散状態としてはポリマーが分散媒中に乳化されているもの、乳化重合されたもの、ミセル分散されたもの、あるいはポリマー分子中に部分的に親水的な構造を持ち分子鎖自身が分子状分散されたものなどいずれでもよい。ポリマーラテックスについては「合成樹脂エマルジョン(奥田平、稲垣寛編集、高分子刊行会発行(1978))」、「合成ラテックスの応用(杉村孝明、片岡靖男、鈴木聡一、笠原啓司編集、高分子刊行会発行(1993))」、「合成ラテックスの化学(室井宗一著、高分子刊行会発行(1970))」などに記載されている。分散粒子の平均粒子サイズは1〜50000nm、より好ましくは5〜1000nm程度の範囲が好ましい。分散粒子の粒子サイズ分布に関しては特に制限は無く、広い粒子サイズ分布を持つものでも単分散の粒子サイズ分布を持つものでもよい。ポリマーラテックスとしては、通常の均一構造のポリマーラテックス以外の、いわゆるコア/シェル型のラテックスでもよい。この場合コアとシェルはガラス転移温度を変えると好ましい場合がある。
【0052】
ポリマーラテックスに用いられるポリマー種としてはアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ゴム系樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリオレフィン樹脂、またはこれらの共重合体などが挙げられる。ポリマーとしては直鎖のポリマーでも枝分かれしたポリマーでも、また架橋されたポリマーでもよい。またポリマーとしては単一のモノマーが重合したいわゆるホモポリマーでもよいし、2種以上のモノマーが重合したコポリマーでもよい。コポリマーの場合はランダムコポリマーでもブロックコポリマーでもよい。好ましいポリマーは直鎖のランダムコポリマーである。ポリマーの分子量は数平均分子量で5,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜100,000程度が好ましい。分子量が小さすぎるものは力学強度が不十分であり、大きすぎるものは成膜性が悪く、好ましくない。ポリマーラテックスの具体例としては、メチルメタクリレート/エチルアクリレート/メタクリル酸コポリマーのラテックス、メチルメタクリレート/ブタジエン/イタコン酸コポリマーのラテックス、エチルアクリレート/メタクリル酸のコポリマーのラテックス、メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/スチレン/アクリル酸コポリマーのラテックス、スチレン/ブタジエン/アクリル酸コポリマーのラテックス、スチレン/ブタジエン/ジビニルベンゼン/メタクリル酸コポリマーのラテックス、メチルメタクリレート/塩化ビニル/アクリル酸コポリマーのラテックス、塩化ビニリデン/エチルアクリレート/アクリロニトリル/メタクリル酸コポリマーのラテックスなどが挙げられる。
【0053】
本発明に用いられるバインダーとしてはゼラチン、ポリ(ビニルアルコール)、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、が好ましく、より好ましくは、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンである。
【0054】
〔導電膜〕
本発明の導電膜は、本発明の導電性ナノワイヤーとバインダーからなる自立膜でもよく、また支持体に該導電膜を積層しても良い。
【0055】
本発明の導電膜の構造模式図の例を図1に示す。図1は、本発明の代表的な導電膜の構造模式図であって、透明基材51上に導電膜31を有し、該導電膜は導電性ナノワイヤー11とバインダー21を含み構成される。本発明において、その他の構成には特に制限はない。
【0056】
尚、透明基材には前述のように表面処理を施し、目的に応じて各種の機能性層を設けることができる。
【0057】
本発明の導電膜においては、全光線透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。全光透過率は、分光光度計等を用いた公知の方法に従って測定することができる。また、本発明の導電膜の電気抵抗値としては、表面抵抗率として1000Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがより好ましい。さらには、電流駆動型オプトエレクトロニクスデバイスに適用するためには、50Ω/□以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることが特に好ましい。10Ω/□以下であると各種オプトエレクトロニクスデバイスにおいて、導電膜として機能することができて好ましい。前記表面抵抗率は、例えば、JISK7194:1994(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)などに準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0058】
本発明の導電膜の厚みには特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に10μm以下であることが好ましく、厚みが薄くなるほど透明性や柔軟性が向上するためより好ましい。使用する導電性ナノワイヤーの形状ややバインダー含有量によって異なるが、大凡の目安として、導電性ナノワイヤーの平均直径以上500nm以下が好ましい。加圧方法などにより、本発明に係る導電膜の厚さを薄くすると、厚さ方向の導電性ナノワイヤーのネットワーク形成を密にすることができるため好ましい。
【0059】
〔支持体〕
本発明の支持体として、本発明の導電ナノワイヤーとバインダーからなる導電膜が積層できれば特に制限はないが、ガラス、樹脂フィルムが好ましく、光学用途に用いる場合、無色で透明である透明基材であることが好ましい。
【0060】
本発明において、「透明」とは、JISK7361−1(ISO13468−1に対応)の「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が60%以上であることをいう。
【0061】
本発明の導電膜に用いられる透明基材としては、高い光透過性を有していればそれ以外に特に制限はない。例えば、基材としての硬度に優れ、またその表面への導電層の形成のし易さ等の点で、ガラス基板、樹脂基板、樹脂フィルムなどの基材が好適に挙げられる。
【0062】
本発明の透明基材として用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明基材の透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0063】
本発明に用いられる透明基材には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基材と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化スズゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。また、透明基材にはバリアコート層が予め形成されていてもよいし、透明導電層を転写する反対側にはハードコート層が予め形成されていてもよい。
【0064】
〔製造方法〕
本発明の導電膜の製造方法において、一般式(I)で表される化合物を含有する溶液(A)、一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩を含有する溶液(B)及びバインダーを含有する溶液(C)を混合後、支持体上へ塗布し、その後乾燥を行ない製造される。一般式(I)で表される化合物を含有する溶液(A)の溶媒は一般式(I)で表される化合物が溶解すれば特に制限はないが、アセトニトリルが好ましい。溶液(A)の濃度は、一般式(I)で表される化合物が析出しない濃度が良く、1〜20mMが好ましく、特に好ましくは3〜10mMである。一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩は、一般式(I)で表される化合物と酸化剤を溶解した溶液中で製造される。酸化剤には特に制限はないが、フェリシアン化カリウム(KFe(CN))、ヨードベンゼンジアセテートが好ましく、特に好ましくはヨードベンゼンジアセテートである。一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩を製造するときの用いる溶媒には、特に制限はないが、アセトニトリルが好ましい。一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩を含有する溶液(B)の溶媒は一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩が溶解すれば特に制限はないが、アセトニトリルが好ましい。溶液(B)の濃度は、一般式(I)で表される酸化体の塩が析出しない濃度が良く、1〜50mMが好ましく、特に好ましくは5〜30mMである。バインダーを含有する溶液(C)の溶媒は、使用するバインダーが溶解すれば特に制限はなく、例えばポリメチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン及びポリスチレンの場合は、それぞれ塩化メチレン、アセトニトリル及びベンゼンが好ましい。塗布溶液の調製は、一般式(I)で表される化合物を含有する溶液(A)、一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩を含有する溶液(B)及びバインダーを含有する溶液(C)を混合後、室温で攪拌することにより得られる。攪拌時間は、1〜180分が好ましく、より好ましくは3〜120分で、更に好ましくは5〜60分である。
【0065】
本発明の導電膜の製造方法において、透明基材上に導電性ナノワイヤーとバインダーを含む導電膜を形成する方法に特に制限はないが、生産性の改善、平滑性や均一性などの導電膜の品質の向上、環境負荷軽減の観点から、導電膜の形成には塗布法や印刷法などの液相成膜法を用いることが好ましい。塗布法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などを用いることができる。印刷法としては、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。なお、必要に応じて、密着性・塗工性を向上させるための予備処理として、離型性基材表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理を施すことができる。
【0066】
本発明の導電膜の製造方法において、平滑な離型性基材の離型面上に、導電性ナノワイヤーとバインダーを含む導電膜を形成した後、該導電膜を接着性透明基材上に転写することにより導電膜を形成する方法を用いても良い。この方法を用いることにより、導電膜の表面を簡便にかつ安定に高平滑化することができる。
【0067】
本発明の導電膜の製造方法で用いられる離型性基板としては、樹脂基板や樹脂フィルムなどが好適に挙げられる。該樹脂には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの合成樹脂の単層あるいは複数層からなる基板やフィルムが好適に用いられる。更にガラス基板や金属基板を用いることもできる。また、離型性基板の表面(離型面)には、必要に応じてシリコーン樹脂やフッ素樹脂、ワックスなどの離型剤を塗布して表面処理を施してもよい。
【0068】
離型性基板表面は、導電膜を転写した後の表面の平滑性に影響を与えるため、高平滑であることが望ましく、具体的にはRy≦50nmであることが好ましく、Ry≦40nmであることがより好ましく、Ry≦30nmであることが更に好ましい。また、Ra≦5nmであることが好ましく、Ra≦3nmであることがより好ましく、Ra≦1nmであることが更に好ましい。表面の平滑性を表すRyとRaは、Ry=最大高さ(表面の山頂部と谷底部との高低差)とRa=算術平均粗さを意味し、JIS B601(1994)に規定される表面粗さに準ずる値であり、RyやRaの測定には、市販の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)を用いることができる。
【0069】
透明基材上に、導電性ナノワイヤーとバインダーを含む平滑性に優れた導電膜を形成する具体的な方法として、例えば次のようなプロセスを挙げることができる。
【0070】
離型性基板の離型面上に、導電性ナノワイヤーとバインダーの分散液を塗布(または印刷)・乾燥して導電性ナノワイヤーからなる導電ネットワーク構造を形成する次いで、該導電膜または別の透明基材上に接着層を塗設して両者を貼合する。接着層を硬化させた後、離型性基板を剥離することによって導電膜を透明基材に転写する。また、離型性基板の離型面上に、導電性ナノワイヤーの分散液を塗布(または印刷)・乾燥して導電性ナノワイヤーからなる導電ネットワーク構造を形成する。次いで、該導電性ナノワイヤーのネットワーク構造上に導電性材料の分散液を塗布(または印刷)し、基板表面上の導電性ナノワイヤーのネットワーク構造の隙間に導電性材料を含浸させ、導電性ナノワイヤーと導電性材料を含む導電膜層を形成する。次いで、該導電膜層または別の透明基材上に接着層を塗設して両者を貼合する。接着層を硬化させた後、離型性基板を剥離することによって導電膜層を透明基材に転写する。
【0071】
上記のプロセスにおいて、導電性ナノワイヤーを塗布・乾燥した後、カレンダー処理や熱処理を施し導電性ナノワイヤー間の密着性を高めることや、プラズマ処理を施し導電性ナノワイヤー間の接触抵抗を低減することは、導電性ナノワイヤーのネットワーク構造の導電性を向上させる方法として有効である。また、上記プロセスにおいて、離型性基板の離型面は、予めコロナ放電(プラズマ)などにより親水化処理していてもよい。
【0072】
上記プロセスにおいて、接着層は離型性基板側に設けても良いし、透明基材側に設けても良い。接着層に用いられる接着剤としては、可視領域で透明で転写能を有する材料であれば特に限定されない。透明であれば、硬化型樹脂でも良いし、熱可塑性樹脂でも良い。
【0073】
硬化型樹脂として、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などが挙げられるが、これらの硬化型樹脂のうちでは、樹脂硬化のための設備が簡易で作業性に優れることから、紫外線硬化型樹脂を用いることが好ましい。紫外線硬化型樹脂とは紫外線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂で、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられる。例えば、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂等が挙げられる。本発明では、バインダーとしてアクリル系、アクリルウレタン系の紫外線硬化型樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0074】
アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、またはプレポリマーを反応させて得られた生成物にさらに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。例えば、特開昭59−151110号に記載のものを用いることができる。例えば、ユニディック17−806(大日本インキ(株)製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン(株)製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
【0075】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させると容易に形成されるものを挙げることができ、特開昭59−151112号に記載のものを用いることができる。
【0076】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることができ、特開平1−105738号に記載のものを用いることができる。
【0077】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
【0078】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることができる。また不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることができる。
【0079】
これらの中で、バインダーの主成分として、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、トリメチロールエタン(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレートから選択されるアクリル系の活性線硬化樹脂が好ましい。
【0080】
これら紫外線硬化型樹脂の光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。光増感剤と共に使用してもよい。上記光反応開始剤も光増感剤として使用できる。また、エポキシアクリレート系の光反応開始剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。紫外線硬化型樹脂組成物に用いられる光反応開始剤また光増感剤は該組成物100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
【0081】
透明導電膜を形成した離型性基板と透明基材とを接着(貼合)し、紫外線等を照射して接着剤を硬化した後に離型性基板を剥離することにより、透明導電膜を透明基材側に転写することができる。ここで、接着方法は特に限定されることなく、シートプレス、ロールプレス等により行うことができるが、ロールプレス機を用いて行うことが好ましい。ロールプレスは、ロールとロールの間に接着すべきフィルムを挟んで圧着し、ロールを回転させる方法である。ロールプレスは均一に圧力がかけられ、シートプレスよりも生産性が良く好適に用いることができる。
【0082】
本発明の導電膜は導電性材料を含むことができる。導電性材料に適用される導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる化合物等を挙ることができる。
【0083】
導電性材料は、1種類の導電性高分子を単独に含有してもよいし、2種類以上の導電性高分子を組み合わせて含有してもよいが、導電性及び透明性の観点から、下記一般式(1)または一般式(2)で示される繰り返し単位を有するポリアニリンまたはその誘導体や、下記一般式(3)で示される繰り返し単位を有するポリピロール誘導体、または下記一般式(4)で示される繰り返し単位を有するポリチオフェン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましい。
【0084】
【化6】

【0085】
なお、一般式(1)において、MはH、アルカリ金属イオン、又はアンモニウムイオンを表す。一般式(2)において、Aは置換されても良い炭素数1〜4のアルキレン基を示し、Qは酸素原子、硫黄原子を表す。また、一般式(5)及び一般式(6)において、Rは主として線状有機置換基であり、アルキル基、アルコキシ基、アリル基又はこれらの基の組み合わせが好ましいが、可溶性導電性高分子としての性質を失わなければよく、さらにこれらにスルホネート基、エステル基、アミド基などが結合しても、組み合わされてもよい。なお、nは整数である。
【0086】
導電性高分子には、導電性をより高めるためにドーピング処理を施すことができる。導電性高分子に対するドーパントとしては、例えば、炭素数が6〜30の炭化水素基を有するスルホン酸(以下、長鎖スルホン酸ともいう。)あるいはその重合体(例えば、ポリスチレンスルホン酸)、ハロゲン原子、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、MClO(M=Li、Na)、R(R=CH、C、C)、またはR(R=CH、C、C)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なかでも、上記長鎖スルホン酸が好ましい。
【0087】
また、導電性高分子に対するドーパントは、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンなどのフラーレン類に導入されていてもよい。透明導電膜において、上記ドーパントは、導電性高分子100質量部に対して、0.001質量部以上含まれていることが好ましい。さらには、0.5質量部以上含まれていることがより好ましい。
【0088】
尚、本発明の導電性材料は、長鎖スルホン酸、長鎖スルホン酸の重合体(例えば、ポリスチレンスルホン酸)、ハロゲン、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、MClO、R、およびRからなる群から選ばれる少なくとも1種のドーパントと、フラーレン類との双方を含んでいてもよい。
【0089】
導電性高分子として、特表2001−511581号公報や特開2004−99640号公報、特開2007−165199号公報などに開示される金属によって改質された導電性高分子を用いることもできる。
【0090】
導電性高分子を含む導電性材料には、水溶性有機化合物を含有してもよい。水溶性有機化合物の中で、導電性高分子材料に添加することによって導電性を向上させる効果を有する化合物が知られており、2nd.ドーパント(或いは増感剤)と称される場合がある。
【0091】
導電性材料で用いることができる2nd.ドーパントには特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)やジエチレングリコール、その他酸素含有化合物が好適に挙げられる。
【0092】
導電性高分子を含む導電性材料においては、導電性高分子100質量部に対する上記2nd.ドーパントの含有量は、0.001質量部以上が好ましく、0.01〜50質量部がより好ましく、0.01〜10質量部が特に好ましい。
【0093】
導電性高分子を含む導電性材料は、成膜性や膜強度を確保するために、導電性高分子の他に透明な樹脂成分や添加剤を含んでいてもよい。透明な樹脂成分としては、導電性高分子と相溶又は混合分散可能であれば特に制限されず、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリウレア系樹脂、メラミン樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテル、アクリル系樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0094】
導電性材料には、導電性を改善するためにポリアニオンを用いても良い。本発明で用いられるポリアニオンは、高分子カルボン酸、高分子スルホン酸及びこれらの塩の各誘導体からなる群より選ばれる化合物等を挙ることができ、好ましくは高分子スルホン酸及びその塩である。ポリアニオンは単独に含有してもよいし、2種類以上を組み合わせて含有してもよい。また、ポリアニオンは、カルボン酸、スルホン酸を有する構造単位と酸残基を有していないモノマー、例えばアクリレート、メタクリレート及びスチレン等と共重合体を形成してもよい。
【0095】
高分子カルボン酸、高分子スルホン酸及びこれらの塩の具体例としては、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはポリマレイン酸、高分子スルホン酸、ポリスチレンスルホン酸及びポリビニルスルホン酸及びこれらの塩であり、好ましくは、ポリスチレンスルホン酸及びその塩である。
【0096】
〔パターニング方法〕
本発明の導電膜はパターニングすることができる。パターニングの方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。例えば、離型面上にパターニングされた導電膜を形成した後、透明基材上に転写することによってパターニングされた導電膜を形成する方法を用いることができ、具体的には、以下のような方法を好ましく用いることができる。
【0097】
i)離型性基板上に印刷法を用いて本発明の導電膜をパターン様に直接形成する方法
ii)離型性基板上に本発明の導電膜を一様に形成した後、一般的なフォトリソプロセスを用いてパターニングする方法
iii)例えば紫外線硬化型樹脂を含む導電性材料を使用して本発明の導電膜を一様に形成した後、フォトリソプロセス様にパターニングする方法
iv)離型性基板上に予めフォトレジストで形成したネガパターン上に本発明の導電膜を一様に形成し、リフトオフ法を用いてパターニングする方法
上記のいずれの方法においても、離型性基板上でパターニングした導電膜層を透明基材上に転写することにより、パターニングされた本発明の導電膜を形成することができる。
【0098】
〔好ましい用途〕
本発明の導電膜は高い導電性と透明性を併せ持ち、液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、電子ペーパー、有機太陽電池、無機太陽電池等の各種オプトエレクトロニクスデバイスや、電磁波シールド、タッチパネル等の分野において好適に用いることができる。その中でも、透明電極表面の平滑性が厳しく求められる有機エレクトロルミネッセンス素子の導電膜として特に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0100】
合成例1
(一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩合成)
100mlのナスフラスコにおいて、テトラチアフルバレン(以後TTFと省略する)(286mg,1.40mmol、東京化成社より購入)とヘプタフルオロ酪酸(363μL,2.80mmol、和光純薬社より購入)をiodebenzene−diacetate(225mg,0.70mmol、東京化成社より購入)存在下、15mlのアセトニトリル(和光純薬社より購入)溶液中に溶解させた。室温中で30分間の撹拌により溶液が褐色に変化した後、200mlのジエチルエーテル(和光純薬社より購入)を加え、対アニオンとしてヘプタブチル酪酸アニオンを有するTTFラジカルカチオン塩の沈殿を形成させた。該沈殿をろ過後、アセトニトリルにより洗浄することにより褐色沈殿として434mg(収率74%)を得た。化合物の物性データは元素分析、紫外可視吸収スペクトル測定と質量測定に行なった。
【0101】
元素分析値:C10
計算値(%):C,28.78;H,0.97;F,31.86;O,7.67;S,30.73
実験値(%):C,29.07;H,1.18;F,31.66.
UV/vis/NIR(CHCN)
λmax(ε)=265(1200),339(4900),436(14600),578(4000).
HRMS(EI
計算値:C(TTF)として203.9196
測定値:203.9192.
(FAB)
計算値:C(CCOO),212.9792
測定値:212.9786.
比較例1
(比較導電膜1(PEDOT/PSS膜)の作製)
Aldrich社より購入したPEDOT/PSS水溶液をガラス基板上に滴下し、室温で16時間放置することで、乾燥膜厚2μmの比較導電膜1を作製した。
【0102】
(比較導電膜2(TTF膜)の作製)
TTF(10mg、0.049mmol)と合成例1により得られたTTFの酸化体の塩 28.8mg、0.069mmol)を10mlのアセトニトリルに溶解した溶液をガラス基板上に滴下し、室温で16時間放置することで、乾燥膜厚4μmの比較導電膜2を作製した。比較導電膜2の透明度及び導電性を比較導電膜1の方法で測定した結果、透過率69%、導電性1.6×10−2S/cmであった。
【0103】
実施例1
(導電膜1−1〜1−6の作製)
スキーム1に導電性ナノワイヤーを含む導電膜の作製法の概略を示す。
【0104】
【化7】

【0105】
100mlのナスフラスコを用い、5.3mMの中性TTFのアセトニトリル溶液と上記で得られたTTFラジカルカチオン塩を14.7mM含むアセトニトリル溶液を表1の分量に従い、ポリメタクリル酸メチル(PMMA,Mw=700,000〜750,000、ナカライテスク社より購入)をモノマー濃度が20mMの高分子溶液を10mlに加えた。その後、アセトニトリルを添加して全量で20mlに調製し、室温で1時間撹拌した。その溶液をガラス基板上に滴下し、室温で16時間放置することで乾燥膜厚2μmの本発明の導電膜1−1〜1−6を作製した。
【0106】
【表1】

【0107】
評価
得られた導電膜1及び比較導電膜1、2について、以下の評価を行った。
【0108】
<導電率測定>
四端子法により導電膜上の異なる5点における導電率を算出し、平均値を算出した。表2に導電膜中のTTF種の濃度に対するそれぞれの平均の導電率を示す。括弧内は値の標準偏差を示す。得られた結果を表2に示す。
【0109】
<透過率の算出>
400nmから800nm間で紫外可視吸収スペクトル測定を行い、透過率を計測した。この波長間での平均透過率を1μm当たりに換算したものを透過率とした。得られた結果を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
本発明の導電膜も導電性を有することが明らかとなり、TTFとTTFの酸化体の塩からなる導電性ナノワイヤーのみの導電膜と同程度の値となった。このことは、汎用高分子に本発明の導電性ナノワイヤーを少量添加することで、材料に導電性を付与させることが可能であることが明らかとなった。
【0112】
本発明の導電膜はいずれも透明度は90%以上であった。一方、PEDOTは10%未満であり、本発明の導電膜は高い透明度を有することが明らかとなった。
【0113】
実施例2
導電膜2−1〜2−6の作製
ポリメタクリル酸メチルをポリビニルピロリドン(PVP,Mw=10,000、Aldrich社より購入)に換えた以外は実施例1と同様に本発明の導電膜2−1〜2−6を作製した。
【0114】
実施例3
導電膜3−1〜3−6の作製
ポリメタクリル酸メチルをポリスチレン(Mw=100,000〜140,000、ナカライテスク社より購入)に換えた以外は実施例1と同様に本発明の導電膜3−1〜3−6を作製した。
【0115】
得られた導電膜2−1〜2−6及び導電膜3−1〜3−6を実施例1と同様に導電率と透過率を測定し、得られた結果を表3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
表3からも明らかなように、本発明の導電膜は導電率、透過率の優れた導電膜であることがわかる。
【0118】
<導電膜の導電性の時間変化>
導電膜を空気中、室温で放置し、時間経過による導電率の変化を調べ、図2に結果を示す。
【0119】
フィルム上の異なる5点において導電率を四端子法により計測し、平均点をプロットした。図2において、丸は35mol%、四角は15mol%TTF含有のサンプルのデータポイントを表す。誤差は標準偏差を表す。
【0120】
図2において、
a.実施例3の導電膜(PSバインダー)の導電率の時間変化、
b.実施例1の導電膜(PMMAバインダー)の導電率の時間変化、
c.実施例2の導電膜(PVPバインダー)の導電率の時間変化、
d.比較例2の導電膜(導電性ナノワイヤーのみ)の導電率の時間変化を示す図である。
【0121】
TTFとTTFの酸化体の塩からなる導電性ナノワイヤーのみの導電膜では24時間で大きく導電率が損なわれたが、本発明の導電膜は大幅に劣化が抑えられた。特に、PMMAバインダーで35mol%TTF含有導電膜は一週間以上ほとんど導電率の低下が観られず、経時での安定性が飛躍的に向上することが明らかとなった。また、目視評価において、本発明の各導電膜の色味、透過率には全く変化が見られなかった。
【0122】
<走査型電子顕微鏡による膜の表面観察>
導電膜の表面観察を走査型電子顕微鏡(JEOL JSM−5600)を用いて行なった。電圧1.5kVにより測定を行ない、図3に結果を示す。
【0123】
図3において、
a.導電膜3−6(TTF35mol%含有PS導電膜)の走査型顕微鏡写真、
b.導電膜1−3(TTF35mol%含有PMMA導電膜)の走査型顕微鏡写真、
c.導電膜2−3(TTF35mol%含有PVP導電膜)の走査型顕微鏡写真、
d.比較導電膜2(TTFのみからなる導電膜)の走査型顕微鏡写真である。
【0124】
本発明の導電膜は35mol%という高濃度の導電性ナノワイヤー含有率であるにもかかわらず、どの高分子バインダーにおいてもナノファイバーが均質に分散しているという結果を得た。導電膜の均質性化により、光の分散を抑えられ導電膜に高い透明性が付与されることが明らかとなった。
【0125】
<紫外可視近赤外吸収スペクトルによる膜の観察>
紫外可視近赤外吸収スペクトルにより35mol%導電性ナノワイヤー含有導電膜を観察し、図4にその結果を示す。
【0126】
図4において、
a.導電膜3−6(導電性ナノワイヤー35mol%含有PS導電膜)の紫外可視近赤外吸収スペクトルを示す
b.導電膜1−3(導電性ナノワイヤー35mol%含有PMMA導電膜)の紫外可視近赤外吸収スペクトルを示す
c.導電膜2−3(導電性ナノワイヤー35mol%含有PVP導電膜)の紫外可視近赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0127】
一般的に混合原子価を形成すると2000nm付近に幅の広い吸収が現れることが知られているおり、本発明導電膜においても全てその吸収が観られた。このことから、ポリマー中でもTTFは混合原子価状態を形成し、電子移動の媒体となることが明らかとなった。
【0128】
<粉末X線回析による膜の観察>
本発明の導電膜1〜3をガラス基板上よりはがした後、破砕することで粉末状の試料を作製した。得られたサンプル10mgを用い、粉末X線回析スペクトル(SHIMADZUX−ray diffractometer−6000)を測定した。CuKα線により、0.02度/Sで2度から90度まで測定を行った。図5にその結果を示す。
【0129】
図5において、
a.導電膜3の粉末X線回析スペクトル、
b.導電膜1の粉末X線回析スペクトル、
c.導電膜2の粉末X線回析スペクトルを示す。
【0130】
いずれの導電膜についても、導電性ナノワイヤー構造に由来する回析角2θが6,14,20度の部位に鋭いピークが観測された。このことは、ポリマー中でもTTFとTTFの酸化体の塩同士のスタッキング構造が維持されていることを示す。上記の紫外可視近赤外吸収スペクトルの結果と併せ、本発明手法を用いることにより、混合原子価導電性ナノワイヤーをポリマー中でも導電性を損なわずに成長させることができることが明らかとなった。
【0131】
実施例4
[有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の作製]
実施例1〜3で作製した本発明の導電膜1−3、2−3、3−3及び1−6、2−6、3−6を第1電極(アノード電極)に用いて、以下の手順でそれぞれ有機EL素子OEL−101〜106を作製した。
【0132】
〈正孔輸送層の形成〉
上記本発明の各導電膜の上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、膜厚30nmの正孔輸送層を設けた。
【0133】
〈発光層の形成〉
正孔輸送層が形成された各フィルム上に、ホスト材料として20mgのH−1を用い、発光ドーパントとして2mgのD−1をトルエン2mlに溶解した溶液を、1500rpm、30秒の条件下、スピンコート法により成膜し、120℃で1時間加熱乾燥し、膜厚40nmの発光層を設けた。
【0134】
〈電子輸送層、及び第2電極〔カソード電極〕の形成〉
発光層まで形成した各試料を真空蒸着装置に取付け、真空槽を4×10−4Paまで減圧した。次いで、電子輸送層として、E−1(ビス(2−メチル−8−キノラート)−p−フェニルフェノラートアルミニウム錯体;BAlq)を30nm、陰極バッファー層としてフッ化リチウム1nm及び陰極としてアルミニウム110nmを蒸着して第2電極(アノード電極)を形成し、有機EL素子OEL−101〜106を作製した。
【0135】
〈封止膜の形成〉
形成した第2電極上に、ポリエチレンテレフタレートを基材とし、Alを厚さ300nmで蒸着した可撓性封止部材を封止膜として使用した。第1電極および第2電極の外部取り出し端子が形成出来る様に端部を除き第2電極の周囲に接着剤を塗り、可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0136】
(比較導電膜TC−107作製)
Synthetic Metals,1995,68,281を参考に比較導電膜を以下のように作製した。ポリビニルアルコール(Aldrich社製、MW=115,000)0.5gに蒸留水を加え10mlとし、90℃に加熱溶解した。溶液をアルゴンパージし、The Journal of Organic Chemistry,1974,2456の方法を用いて合成したテトラフルバレンジカルボン酸 T−1 25mg(6.8×10−5mol、Fw 368.6)、フェリシアン化カリウム7.3mg(2.2×10−5mol、Fw 329.2)を温度を50℃に維持したまま添加し、10分間攪拌した。この溶液をガラス基板上へキャスティングし、膜厚10μmの比較導電膜TC−107を作製した。
【0137】
【化8】

【0138】
(比較導電膜TC−108、TC−109の作製)
テトラフルバレンジカルボン酸、フェリシアン化カリウムの添加温度を80℃、90℃に換えた以外はTC−107と同様な方法により、膜厚10μmの比較導電膜TC−108、TC−109を作製した。
【0139】
(比較有機EL素子OEL−107〜109の作製)
作製したTC−107〜109を用いて、前記本発明の有機EL素子OEL−101〜106と同様の方法により比較有機EL素子OEL−107〜109を作製した。
【0140】
[有機EL素子発光試験]
本発明の有機EL素子OEL−101〜106、比較有機EL素子OEL−107〜109に対しKEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加し、23±3℃、55±3%RHの環境下で発光させた。また、本発明有機EL素子OEL−101〜106、比較有機EL素子OEL−107〜109を80℃60%RHの環境下で30分置いたのち、再び前記23±3℃、55±3%RHの環境下で1時間以上調湿した後、同様に素子を発光させた。
【0141】
発光均一性の評価基準
◎:EL素子の発光が認められる
○:EL素子の弱い発光が認められる
△:EL素子の不均一な弱い発光が認められる
×:EL素子の発光認められない
上記評価結果を表4に示す。
【0142】
【表4】

【0143】
表4から、比較有機EL素子OEL−107〜OEL−109は80℃60%RH30分の加熱(強制劣化)後、発光が著しく劣化するのに対し、本発明有機EL素子OEL−101〜OEL−106の発光は強制劣化後でも安定していることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0144】
11 導電性繊維
21 導電性材料
31 透明導電層
51 透明基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ナノワイヤーとバインダーを含有する導電膜であって、該導電性ナノワイヤーが下記一般式(I)で表される化合物と該一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩からなる混合原子価化合物であることを特徴とする導電膜。
【化1】

〔式中、X〜Xはそれぞれカルコゲン原子を表し、同一であっても異なっていても良い。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表すが、RとR、又はRとRは互いに結合して環状構造を形成しても良い。〕
【請求項2】
前記一般式(I)で表される化合物のX、X、X及びXが硫黄原子であることを特徴とする請求項1記載の導電膜。
【請求項3】
前記一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩のカウンターアニオンが下記一般式(II)表されるアニオンであることを特徴とする請求項1又は2記載の導電膜。
一般式(II) RCOO
〔式中、Rは置換基を示す。〕
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の導電膜から構成される電極を用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の導電膜が、一般式(I)で表される化合物を含有する溶液と、一般式(I)で表される化合物の酸化体の塩を含有する溶液と、バインダーを含有する溶液とを混合後、支持体上へ塗布、乾燥する工程で製造されたことを特徴とする導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−212096(P2010−212096A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57237(P2009−57237)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】