説明

小口径孔あけ加工用エントリーボードと小口径孔あけ加工方法

【課題】 潤滑層付きの小口径孔あけ加工用エントリーボードとして、潤滑層の基板に対する密着性に優れ、潤滑層の剥離や割れを生じにくく、良好な孔あけ加工性が得られるものを提供する。
【解決手段】 アルミニウム製基板2の少なくとも片面に、ポリビニルアルコールのケン化物を含有する下塗り層3を介して潤滑層4が形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント配線板におけるスルーホール等、被加工物に小口径の孔を形成する際の当て板として用いるエントリーボードと、このエントリーボードを用いた小口径孔あけ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この明細書において、「アルミニウム」という語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。また、「板」という語には、箔を含むものとする。
【0003】
近年、通信機器、OA機器、家電製品等の急速な高性能化に伴い、これら機器の制御中枢を担うプリント配線板においては、配線パターンの微細化、高密度化、多層化が進行すると共に、スルーホールの小口径化と位置精度の向上が要求されている。
【0004】
従来、プリント配線板のスルーホールの孔あけ加工では、その加工能率を高めるために、すて板上に複数枚のプリント配線用素板を積み重ね、その最上位の素板上にアルミニウム製のエントリーボードを配し、この状態でドリルによって上方から該エントリーボードを貫通してプリント配線用素板の孔あけを行うことにより、積み重ねた全部の素板に一挙にスルーホールを形成する方法が採用されている。しかして、エントリーボードは、当て板として、ドリルの食いつきをよくすると共に、素板表面の加工時の損傷や孔周縁でのバリやカエリの発生を防止する目的で使用される。
【0005】
ところが、スルーホールの小口径化によって孔あけのドリル径が小さくなるが、特に径0.3mm以下の小径ドリルによる孔あけ加工では、エントリーボードに単なるアルミニウム板を用いた場合、ドリルがエントリーボード表面で横滑りすることから、孔あけの位置精度が悪化すると共に、ドリルの折損が多発し、しかも孔の内周面の荒れを生じることに加え、ドリルの折損を抑える上でプリント配線用素板の積み重ね枚数を多くできず、加工能率を充分に高められないという問題があった。
【0006】
そのため、最近においては、前記エントリーボードとして、アルミニウム製基板の少なくとも片面に、ポリエチレングリコールを主成分とする潤滑層を設けたものが用いられるようになってきている。これは、孔あけ加工の際にドリルによる穿孔部分の潤滑層を摩擦熱で溶融させ、その潤滑作用で穿孔方向の切削抵抗が低減することにより、ドリルの横滑りを防止して孔位置精度の向上とドリルの折損抑制を図ると共に 孔内周面の荒れを防止し、また素板の積み重ね枚数を多くして加工能率を高めようとするものである。
【0007】
このようにエントリーボードに潤滑層を設ける場合、該潤滑層とアルミニウム基板との密着性が新たな課題となる。すなわち、この密着性が悪いと、潤滑層に剥離や塗膜割れが発生し、潤滑層本来の潤滑機能を充分に発揮できず、ドリルの折損と孔位置精度の低下に繋がることになる。そこで、潤滑層とアルミニウム基板との間に、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル−マレイン酸共重合体等より選ばれる樹脂成分を含む下塗り層を介在させて、該潤滑層の基板に対する密着性を高めることが提案されている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2004−9193号公報
【特許文献2】特表2004−516149号公報 しかしながら、上記の下塗り層を介して潤滑層を設けたエントリーボードにおいては、該潤滑層とアルミニウム基板との密着性は一応満足できるものの、潤滑層としてポリエチレングリコールを主成分とする成分を使用した場合、このポリエチレングリコールの融点が60℃以下と低く、穿孔に伴う摩擦熱で溶融した潤滑成分の粘度が著しく低下することから、流動性過多になった該潤滑成分が切削部位から逸散して充分な潤滑作用を発揮できなくなり、ドリルの損傷多発と孔の位置精度の悪化を招来すると共に、ドリルに付着堆積した潤滑成分の垂れ落ちによってプリント配線用素板が汚れるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上述の事情に鑑みて、潤滑層を備えた小口径孔あけ加工用エントリーボードと、これを用いた小口径孔あけ加工方法において、該エントリーボードにおける潤滑層の基板に対する密着性に優れ、該潤滑層の剥離や塗膜割れに起因したドリルの折損と孔位置精度の低下を確実に防止し、かつ小口径孔あけ加工方法において、潤滑成分がドリルによる切削部位に終始途切れることなく行き渡って充分な潤滑作用を発揮でき、もってドリルの折損を少なくすると共に孔の位置精度を向上でき、また潤滑成分の垂れ落ちによる被加工物の汚れを回避でき、更に水溶性である潤滑成分のポリエチレングリコールと共に水洗で簡単に除去できる下塗り層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の請求項1に係る小口径孔あけ加工用エントリーボードは、アルミニウム製基板の少なくとも片面に、ポリビニルアルコールのケン化物を含有する下塗り層を介して潤滑層が形成されてなることを特徴としている。
【0010】
また、上記請求項1の小口径孔あけ加工用エントリーボードにおいて、下塗り層におけるポリビニルアルコールのケン化物のケン化度が50〜90モル%である請求項2の構成、下塗り層の厚さが0.1〜5μmである請求項3の構成がそれぞれ好適である。
【0011】
しかして、これら請求項1〜3の小口径孔あけ加工用エントリーボードにおける潤滑層は、数平均分子量100以上1000未満のポリエチレングリコールと、数平均分子量10000以上のポリエチレングリコールと、トリメチロールプロパンとを含有する請求項4の構成が好適である。
【0012】
一方、この発明の請求項5に係る小口径孔あけ加工方法は、積み重ねた複数枚のプリント配線用素板の上に、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエントリーボードを配置し、この状態でドリルを用いて上方から該エントリーボード及びプリント配線用素板に口径0.3mm以下の孔を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る小口径孔あけ加工用エントリーボードによれば、そのアルミニウム製基板と潤滑層との間に介在する下塗り層にポリビニルアルコールのケン化物を含有し、該下塗り層が基板と潤滑層の両者に対して高い親和性を示すと共に適度な弾力性を具備することから、潤滑層が基板に強く密着して剥離や塗膜割れを生じず、もって孔あけ加工時のドリルの折損と孔位置精度の低下、及び孔内周面の荒れを確実に防止できる。また、この下塗り層に用いられるポリビニルアルコールのケン化物は、孔あけ加工時に潤滑成分中に混ざり込み、切削の摩擦熱による潤滑成分の粘度低下を抑制し、より良好な潤滑作用を発揮させると共に、ドリルからの潤滑成分の垂れ落ちもより生じ難くする。更に、このポリビニルアルコールのケン化物は、水溶性であるため、孔あけで切削された下塗り層の一部が潤滑成分と共に被加工物に付着しても、水洗で簡単に除去できるという利点がある。
【0014】
請求項2の発明によれば、前記下塗り層のポリビニルアルコールのケン化物が特定範囲のケン化度であることから、水に対する良好な溶解性を示し、孔あけで切削された一部が潤滑成分と共に被加工物に付着しても、水洗で簡単に除去できると共に、潤滑成分による潤滑作用を阻害しないという利点がある。
【0015】
請求項3の発明によれば、前記下塗り層が特定の厚みを有することから、該下塗り層による潤滑層の剥離及び塗膜割れの防止効果がより確実に発揮される。
【0016】
請求項4の発明によれば、エントリーボードの潤滑層が数平均分子量の異なる2種のポリエチレングリコールとトリメチロールプロパンを含むことから、孔あけ加工時に良好な潤滑作用を発揮できると共に、そのポリエチレングリコールと下塗り層のポリビニルアルコールのケン化物との相溶性がよく、その相溶による粘度低下抑制作用で潤滑成分のドリルからの垂れ落ちが抑えられ、該垂れ落ちによる被加工物の汚れを防止できる。
【0017】
請求項5の発明に係る小口径孔あけ加工方法によれば、積み重ねた複数枚のプリント配線用素板に対し、口径0.3mm以下の小口径孔を一挙に形成する際、ドリルの折損を生じにくく、且つ孔の位置精度を高く設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明に係る小口径孔あけ加工用エントリーボードの一実施形態を示す。このエントリーボード1は、アルミニウム製基板2の片面に、下塗り層3を介して潤滑層4が形成されたものである。
【0019】
このエントリーボード1のアルミニウム製基板2としては、例えばJIS A1100−H18材、JIS A1N30−H18材、JIS A1050−H18材、JIS A3003−H18材、JIS A3004−H18材等よりなる厚さ0.1〜0.25mm程度のアルミニウム単板、もしくはビッカーズ硬さ(Hv)が20〜50で厚さ5〜100μmの軟質アルミニウム板とビッカーズ硬さ(Hv)が50〜140で厚さ30〜200μmの硬質アルミニウム板とを貼り合わせたものが好適に用いられる。なお、後者の軟硬質アルミニウム板を貼り合わせたものを用いる場合は、その軟質アルミニウム板側の面に下塗り層3を介して潤滑層4を形成する。
【0020】
下塗り層3は、ケン化度50〜90モル%で重合度100〜800程度のポリビニルアルコールからなり、厚さが0.1〜5.0μm程度に設定されている。
【0021】
潤滑層4は、数平均分子量が100以上で1000未満のポリエチレングリコールと、数平均分子量10000以上のポリエチレングリコールと、トリメチロールプロパンを含有する混合組成物からなり、その厚さが10〜100μm程度に設定されている。
【0022】
このようなエントリーボード1では、下塗り層3を形成するポリビニルアルコールのケン化物がアルミニウム製基板1と潤滑層4の両者に対して良好な親和性を示すため、潤滑層4が該基板1に対して強く均一に密着して剥離を生じず、また下塗り層3が適度な弾力性で歪み応力や外力を吸収することから、潤滑層4の塗膜割れが防止される。
【0023】
このエントリーボード1を用いて例えばプリント配線用素板にスルーホールの孔あけ加工を施す場合、まずすて板上に複数枚のプリント配線用素板を積み重ね、最上部にエントリーボード1を潤滑層4側が上向きになるように配置し、この状態で上方からドリルによって該エントリーボード1からすて板に達する孔あけを行い、もって一度の穿孔作業で積み重ねた全部のプリント配線用素板に一挙にスルーホールを形成する。
【0024】
このとき、エントリーボード1の潤滑層4は、ドリルの回転に伴う摩擦熱で溶融し、その潤滑成分を切削部位に行き渡らせて切削抵抗を低減する機能を担うが、前記のように下塗り層3を介してアルミニウム製基板1に強く均一に密着し、剥離や塗膜割れのない状態で孔あけ加工に供されるから、本来の優れた潤滑作用を常に確実に発揮できる。従って、このエントリーボード1の使用により、径0.3mm以下といった小口径の孔あけ加工でも、ドリルの横滑りが防止され、ドリルの折損頻度が著しく低減すると共に、孔の位置精度も高くなり、且つ孔内周面の荒れも防止される。また、このようにドリルの折損を生じにくくなるから、一度の孔あけ加工時に積み重ねる素板の枚数を多くして、プリント配線板の生産性を高めることができる。
【0025】
また、このエントリーボード1では、下塗り層3と潤滑層4の成分が共に水に対して良好な溶解性を示すため、孔あけ加工によってプリント配線用素板に付着した成分を水洗によって簡単に除去することが可能となる。しかして、下塗り層3を構成するポリビニルアルコールのケン化物は、孔あけ加工時に一部が潤滑成分中に混ざりこむことになるが、潤滑成分のポリエチレングリコールの融点が60℃以下であるのに対し、180〜190℃という高融点であるため、潤滑成分と相溶して切削の摩擦熱による該潤滑成分の粘度低下を抑制し、もって潤滑成分の流動性過多による切削部位からの逸脱を防止して良好な潤滑作用の持続に寄与すると共に、ドリルからの潤滑成分の垂れ落ちを生じにくくし、この垂れ落ちによる素板の汚れ防止にも貢献する。
【0026】
ここで、下塗り層3に用いるポリビニルアルコールのケン化物は、既述のようにケン化度が50〜90モル%の範囲にあるものがよい。このケン化度が50モル%未満では、下塗り層3の皮膜が脆くなり、また水に対する溶解性が不充分になるから、孔あけ加工後のプリント配線用素板に付着した下塗り層の成分を水洗で除去することが困難になる。逆に、該ケン化度が90モル%を越えると、その溶融時の高粘性で潤滑層3による潤滑作用を阻害する。また、このポリビニルアルコールの重合度は、低過ぎては潤滑層4の密着性を高める作用を充分に発揮できず、逆に高過ぎてはやはり溶融時の高粘性で潤滑層3による潤滑作用を阻害すると共に、該潤滑層4のポリエチレングリコール成分との相溶性が低下するから、既述のように100〜800程度の範囲が好ましい。
【0027】
更に、下塗り層3の厚みは、薄過ぎては潤滑層4のアルミニウム製基板に対する密着性が不充分になり、逆に厚過ぎてはエントリーボード1の製作コストが高くつくため、既述の0.1〜5μmの範囲にするのがよい。
【0028】
なお、下塗り層3には、ポリビニルアルコールのケン化物を単独で用いる以外に、これを主成分として、他の水溶性で且つ基板2及び潤滑層4に対する親和性のよい樹脂成分を副成分として併用することもできる。このような副成分としては、従来のエントリーボードの下塗り層に使用されていた既述のポリ酢酸ビニルの部分ケン化物等が挙げられる。
【0029】
一方、潤滑層4に用いる数平均分子量が100以上で1000未満のポリエチレングリコールは、潤滑性と潤滑層の水溶性を向上させると共に、数平均分子量10000以上のポリエチレングリコールとトリメチロールプロパンとの相溶性を向上させる機能を果たす。この低分子量のポリエチレングリコールの配合量は、当該潤滑層4のトリメチロールプロパンを除く成分全体をベース組成物として、該ベース組成物の5〜70質量%を占める範囲が好適であり、5質量%未満では前記機能が不充分になり、70質量%を越えると潤滑層4にべたつきを生じることになる。
【0030】
同じく潤滑層4に用いる数平均分子量10000以上のポリエチレングリコールは、潤滑層4の膜強度を高める機能を持つが、その配合量が前記ベース組成物の25質量%未満であると該機能を充分に発揮できず、同90質量%を越えると潤滑層4が硬く脆いものになる。従って、この高分子量ポリエチレングリコールの配合量は、前記ベース組成物の25〜90質量%を占める範囲とするのがよい。なお、この高分子量ポリエチレングリコールの数平均分子量の上限は100000程度である。
【0031】
また、潤滑層4用いるトリメチロールプロパンは、潤滑層4の水に対する溶解性を高め、もって孔あけ加工後の洗浄を水洗で行うことを可能にするものである。しかして、このトリメチロールプロパンの配合量は、当該トリメチロールプロパンを除く他の潤滑層形成成分全体である前記ベース組成物100質量部に対し、0.5〜20質量部の範囲が好適であり、少な過ぎては前記溶解性を充分に高められず、逆に多過ぎては潤滑層4にべたつきを生じることになる。
【0032】
更に、潤滑層4には、前記の数平均分子量が異なる2種のポリエチレングリコールとトリメチロールプロパンの他に、必要に応じて種々の改質成分を追加配合しても差し支えない。このような改質成分としては、例えばポリビニルアルコールのケン化物、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キレート剤等が好適なものとして挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記の改質成分中、ポリビニルアルコールのケン化物は、下塗り層3の構成成分でもあるため、その配合によって潤滑層4と下塗り層3との親和性がより高くなり、該潤滑層4の基板に対する密着性を更に向上させると共に、融点が180〜190℃と高いので潤滑層4全体の耐熱性を向上させ、孔あけ時の摩擦熱で溶融した潤滑成分の粘度低下を抑え、もって潤滑成分の流動性過多による切削部位からの逸散を防止し、安定した良好な潤滑作用を持続させ、またドリルに付着堆積した潤滑成分の垂れ落ちを生じにくくする。
【0034】
このような潤滑層4の改質成分としてのポリビニルアルコールのケン化物は、そのケン化度が15〜90モル%であるものが好適である。このケン化度が低過ぎるものでは水溶性に劣るため、孔あけ後に付着した潤滑成分を水洗によって容易に除去できなくなる。逆にケン化度が高過ぎては、潤滑性を低下させると共に、ポリエチレングリコールとの相溶性の悪化で均一な潤滑層の形成が困難になる。また、ポリビニルアルコールのケン化物の配合量は、前記のベース組成物の5〜50質量%を占める範囲が好適であり、少な過ぎては耐熱性の向上効果が充分に発現せず、逆に多過ぎてはポリエチレングリコールとの相溶性が得られず、潤滑層4の品質が低下すると共に、塗工性も低下してエントリーボードの生産能率が落ちることになる。
【0035】
前記の改質成分中、アルギン酸プロピレングリコールエステルは、増粘作用を持つため、これを配合した潤滑層では孔あけ時の摩擦熱で溶融した潤滑成分の粘度がさほど低下せず、前記のポリビニルアルコールのケン化物を配合した場合と同様に、潤滑成分の流動性過多による切削部位からの逸散を防止し、安定した良好な潤滑作用を持続させ、またドリルに付着堆積した潤滑成分の垂れ落ちを生じにくくする。
【0036】
このようなアルギン酸プロピレングリコールエステルの配合量は、前記ベース組成物の0.1〜5質量%を占める範囲が好適であり、少な過ぎては上記増粘作用が充分に発現せず、逆に多過ぎてはポリエチレングリコールとの相溶性が得られず、潤滑層4の品質が低下すると共に、塗工性も低下してエントリーボードの生産能率が落ちることになる。
【0037】
前記の改質成分中、キレート剤は、孔あけに伴う切削屑のドリルビットへの付着を防止する機能を果たすものである。すなわち、径0.3mm以下といった小口径の孔あけ加工を同一ドリルで繰り返し行うと、プリント配線用素板等の被加工物及びエントリーボード1の穿孔に伴う樹脂やアルミニウム等の金属の切削屑がドリルビットに巻き付くように付着してゆき、これに伴ってドリルの芯振れが発生し、孔位置精度の低下とドリルの折損頻度の上昇を招くことになるが、このような問題は潤滑成分中にキレート剤を配合することによって解消される。
【0038】
このようなキレート剤としては、例えばエチレンジアミン4酢酸塩(EDTA)やニトリロ三酢酸塩(NTA)等のアミノカルボン酸系キレート剤と、ヒドロキシエチリデン2ホスホン酸やアミノトリアルキレンスルホン酸等のホスホン酸系キレート剤とから選ばれる少なくとも一種が好適に使用される。しかして、キレート剤の配合量は、前記ベース組成物の0.01〜5質量%を占める範囲が好適であり、少な過ぎては使用効果が得られず、逆に多過ぎては潤滑層4が硬化してひび割れを生じると共にコストアップに繋がる。
【0039】
なお、潤滑層4の厚みは、10μm未満では充分な潤滑性が得られず、100μmを越える場合は塗工性の低下で生産能率が悪化すると共に材料コストも高くなるから、10〜100μmの範囲とするのがよい。
【0040】
この発明の小口径孔あけ加工用エントリーボードは、アルミニウム製基板2の少なくとも片面に下塗り層3を介して潤滑層4を設けた構成であるが、下塗り層3及び潤滑層4を両面に設けた構成を採用することもできる。また、この発明のエントリーボードは、種々の被加工物に対する小口径孔あけ加工に適用できるが、この発明の小口径孔あけ加工方法のように、プリント配線用素板に対する孔あけ加工に最適である。
【0041】
実施例1
JIS A3004−H18材からなる厚さ150μmのアルミニウム製基板の片面に、ケン化度80モル%のポリビニルアルコール(重合度約300)70質量部とケン化度73.5モル%のポリビニルアルコール(重合度約500)30質量部との混合物を、厚さ3μmとなるように塗工して下塗り層を形成した。次に、この下塗り層上に、数平均分子量400のポリエチレングリコール20質量部、数平均分子量20000のポリエチレングリコール60質量部、ケン化度80モル%のポリビニルアルコール20質量部、及びトリメチロールプロパン5質量部の混合組成物を、厚さ30μmとなるように塗工して潤滑層を形成し、小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0042】
実施例2
ケン化度85モル%のポリビニルアルコール(重合度約400)を厚さ2μmとなるように塗工して下塗り層を形成した以外は、実施例1と同様にして小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0043】
比較例1
平均分子量38000でケン化度10モル%のポリ酢酸ビニルを用いて厚さ3μmの下塗り層を形成した以外は、実施例1と同様にして小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0044】
比較例2
酢酸ビニル13質量部と塩化ビニル87質量部とからなる平均分子量31000の酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体を用いて厚さ2μmの下塗り層を形成した以外は、実施例1と同様にして小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0045】
実施例3
潤滑層形成用として、数平均分子量400のポリエチレングリコール27質量部、数平均分子量20000のポリエチレングリコール70質量部、アルギン酸プロピレングリコールエステル3質量部、及びトリメチロールプロパン5質量部の混合組成物を用い、これを厚さ30μmとなるように塗工して潤滑層を形成した以外は、実施例1と同様にして小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0046】
実施例4
潤滑層形成用として、数平均分子量400のポリエチレングリコール29質量部、数平均分子量20000のポリエチレングリコール70質量部、エチレンジアミン4酢酸塩1質量部、及びトリメチロールプロパン5質量部の混合組成物を、厚さ30μmとなるように塗工して潤滑層を形成した以外は、実施例1と同様にして小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0047】
実施例5
潤滑層形成用として、数平均分子量400のポリエチレングリコール28質量部、数平均分子量20000のポリエチレングリコール70質量部、アルギン酸プロピレングリコールエステル1質量部、ニトリロ3酢酸塩1質量部、及びトリメチロールプロパン5質量部の混合組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0048】
比較例3
酢酸ビニル13質量部と塩化ビニル86質量部及びマレイン酸1質量部とからなる平均分子量32000の酢酸ビニル・塩化ビニル・マレイン酸共重合体を用いて厚さ2μmの下塗り層を形成した以外は、実施例5と同様にして小口径孔あけ加工用エントリーボードを作製した。
【0049】
評価試験1
実施例1〜5及び比較例1〜3のエントリーボードを用い、潤滑層を形成した面を外側にして180度折り曲げた際の潤滑層の状態を観察した。潤滑層の剥離や割れが全く生じなかったものを「◎」とし、潤滑層の剥離や割れが僅かに生じたものを「○」とした。その結果を表1に示す。
【0050】
評価試験2
厚さ1.5mmのベークライニング製のすて板上に、両面に厚さ12μmの銅板を積層した総厚0.1mmのエポキシ樹脂製プリント配線用素板を4枚積み重ね、最上位の素板上に、実施例1〜5及び比較例1〜3のいずれかの小口径孔あけ加工用エントリーボードを潤滑層側を上向きにして配置し、上方から径0.1mmのドリルにより、該エントリーボードからすて板に達する2000ヒットの孔あけ加工を行った。そして、孔あけ加工の各素板について2000ヒットの孔位置を座標測定機で測定して設定位置からのずれを調べると共に、各孔あけ加工後の最上位の素板上に潤滑成分の垂れ落ちがないか否かを調べた。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
上表の結果から明らかなように、この発明に係る実施例1〜5のエントリーボードは、潤滑層の基板に対する密着性に優れており、苛酷な曲げでも潤滑層の剥離や割れを全く生じない上、ドリル径0.1mmといった極めて小口径の孔あけ加工に用いても、非常に高い位置精度で孔を形成できると共に、加工中の潤滑成分の垂れ落ちによる汚れを防止できる。これに対し、比較例1〜3のエントリーボードでは、曲げによって僅かに潤滑層の剥離や割れを発生することに加え、孔あけ加工に用いた場合に形成される孔の位置精度に劣る上、加工中の潤滑成分の垂れ落ちによる汚れを生じ易いことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明の一実施形態に係る小口径孔あけ加工用エントリーボードの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・小口径孔あけ加工用エントリーボード
2・・・アルミニウム製基板
3・・・下塗り層
4・・・潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製基板の少なくとも片面に、ポリビニルアルコールのケン化物を含有する下塗り層を介して潤滑層が形成されてなることを特徴とする小口径孔あけ加工用エントリーボード。
【請求項2】
前記下塗り層におけるポリビニルアルコールのケン化物のケン化度が50〜90モル%である請求項1に記載の小口径孔あけ加工用エントリーボード。
【請求項3】
前記下塗り層の厚さが0.1〜5μmである請求項1又は2に記載の小口径孔あけ加工用エントリーボード。
【請求項4】
前記潤滑層が、数平均分子量100以上1000未満のポリエチレングリコールと、数平均分子量10000以上のポリエチレングリコールと、トリメチロールプロパンとを含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の小口径孔あけ加工用エントリーボード。
【請求項5】
積み重ねた複数枚のプリント配線用素板の上に、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエントリーボードを配置し、この状態でドリルを用いて上方から該エントリーボード及びプリント配線用素板に口径0.3mm以下の孔を形成することを特徴とする小口径孔あけ加工方法。

【図1】
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