小型船舶用パワーステアリング装置
【課題】小型船舶のパワーステアリング装置において、操舵トルクを検出するトルクセンサの検出精度を高めるため、ハンドルへ加わる衝撃荷重により検出精度に大きな影響を受けにくいトルクセンサの配置にする。
【解決手段】共通ベース28の上に、電動アシスト装置26及びヘルムポンプ27を並列配置し、電動アシスト装置26の入力軸25と出力軸33を同軸に配置し、それぞれをベアリング68、69でギヤケース67に支持させる。入力軸25はジョイント軸22を介してハンドル軸へ連結する。入力軸25の周囲には磁気センサであるトルクセンサ30がベアリング64を介して配置され、ギヤケース67上へボルト止めされる。ハンドルから入力軸25へ加えられる衝撃荷重は軸方向に抜け、直接トルクセンサ30へ加わらない。このため、トルクセンサにおける衝撃荷重の影響を少なくして検出精度を高めることができる。
【解決手段】共通ベース28の上に、電動アシスト装置26及びヘルムポンプ27を並列配置し、電動アシスト装置26の入力軸25と出力軸33を同軸に配置し、それぞれをベアリング68、69でギヤケース67に支持させる。入力軸25はジョイント軸22を介してハンドル軸へ連結する。入力軸25の周囲には磁気センサであるトルクセンサ30がベアリング64を介して配置され、ギヤケース67上へボルト止めされる。ハンドルから入力軸25へ加えられる衝撃荷重は軸方向に抜け、直接トルクセンサ30へ加わらない。このため、トルクセンサにおける衝撃荷重の影響を少なくして検出精度を高めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小型船舶用の操舵装置に係り、特に電動アシスト付のパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機等の動力推進を備えたボート等の小型船舶用において、操舵装置にパワーステアリング装置を設けたものが公知である。
この一例として、船室の計器等を取付けるインパネにハンドルを回転自在に支持するとともに、ハンドルのハンドル軸にパワーステアリング装置と油圧ポンプ装置を直列に取付け、アシスト出力で油圧ポンプ装置を駆動して油圧を発生し、この油圧により船外機を回動させて操舵するものがある(特許文献1参照)。
このパワーステアリング装置は、電動モータにより駆動されるウォームギヤと、これに噛み合ってハンドル軸を回転させるウォームホイールとを備えた電動アシスト装置であり、ハンドルに手動で加えられる操舵トルクをトルクセンサで検出し、この検出値に基づいて適切なアシスト力を加えるように電動モータを制御している。
油圧ポンプ装置はヘルムポンプであり、斜板式アキシャルピストンポンプとして構成され、電動アシスト装置の出力に応じた油圧を発生するようになっている。
さらに、ハンドルはインパネに対する傾斜角度を調節自在にするチルト機構を備えたものが公知である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−231383号公報
【特許文献2】特開2000−43794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のトルクセンサは、操舵トルクに応じてハンドル軸に連なる入力軸上を軸方向へ移動するトルクリングと、このトルクリングから突出するトルクピンと、このトルクピンが摺動するトルクセンサの検出部とを備え、トルクピンがトルクセンサの検出部を摺動することにより、トルクピンの位置から操舵トルクを検出するものであるから、トルクピンとトルクセンサの検出部が直接接触する形式になっているため、ハンドル軸へ加わった衝撃がトルクセンサの検出部へ伝達されやすくなる。
しかし、トルクセンサは精密な装置であり、検出部へ衝撃荷重が加わると検出値の誤差が大きくなって、正確なアシストが困難になる。しかも、ボートなどの小型船舶に用いられたトルクセンサは、波等により大きな衝撃が加わり易い環境にある。そこで、このような環境でもトルクセンサの検出精度を高めることが求められる。
本願は、この要望の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため小型船舶用パワーステアリング装置に係る請求項1の発明は、
船体後部に水平方向へ回動可能に配置された舵取り手段と、
この舵取り手段を油圧駆動するため運転席のハンドル操作で油圧を発生するポンプ装置と、
ハンドル操作による操舵トルクを検出するトルクセンサと、このトルクセンサが検出したトルクに基づいてアシスト力を発生する電動アシスト装置とを備えた、小型船舶用パワーステアリング装置において、
前記電動アシスト装置の入力軸をハンドル軸へ連結するとともに、
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ配置し、ハンドルから入力軸へ加わる軸方向の衝撃荷重がトルクセンサの検出部へ直接加わらないようにしたことを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は上記請求項1において、前記トルクセンサが、前記操舵トルクにより前記電動アシスト装置の入力軸と出力軸間の捩れを磁気的に検出することを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は上記請求項1又は2のいずれかにおいて、トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ軸受けを介して配置し、前記電動アシスト装置へ固定したことを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は上記請求項1〜3のいずれかにおいて、前記電動アシスト装置が筒状のホルダを介してインパネに支持され、前記トルクセンサは前記ホルダの内部へ配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は上記請求項3又は4のいずれかにおいて、前記電動アシスト装置は、入力軸と出力軸が同軸上に位置し、それぞれ軸受けを介して前記電動アシスト装置のギヤケースへ支持されるとともに、
前記トルクセンサの軸受けは、前記入力軸の軸受けの上方に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、電動アシスト装置の入力軸をハンドル軸へ連結するとともに、
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ配置し、ハンドルから入力軸へ加わる軸方向の衝撃荷重がトルクセンサの検出部へ直接加わらないようにしたので、ハンドルから入力軸へ軸方向の衝撃荷重が加わっても、この衝撃荷重は入力軸の軸方向へ抜け、トルクセンサの検出部へ直接加わらないので、トルクセンサの衝撃荷重による影響を避け、トルクセンサの検出精度を高めることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、トルクセンサが、操舵トルクにより電動アシスト装置の入力軸と出力軸間の捩れを磁気的に検出するので、トルクセンサの検出部と入力軸の間に衝撃荷重が加わりにくいように配置できる。
【0012】
請求項3の発明によれば、トルクセンサは、入力軸の周囲へ軸受けを介して配置され、電動アシスト装置へ固定されるので、トルクセンサは入力軸と間接的に接触し、入力軸の衝撃荷重は直接トルクセンサの検出部へ加わらない。また、入力軸を支持する電動アシスト装置へトルクセンサを固定することで、トルクセンサの検出部と入力軸間の位置関係を一定にできる。
【0013】
請求項4の発明によれば、電動アシスト装置をインパネに支持する筒状のホルダ内部へトルクセンサを配置したので、ホルダによってトルクセンサをガードできる。
【0014】
請求項5の発明によれば、電動アシスト装置は、入力軸と出力軸が同軸上に位置し、それぞれ軸受けを介して電動アシスト装置のギヤケースへ支持されるとともに、トルクセンサの軸受けを入力軸の軸受けの上方に位置させたので、トルクセンサの検出部を入力軸の最も振れの少ない部位に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願発明の適用された動力付小型ボートの概略平面図
【図2】インパネに対する操舵油圧発生ユニットの取付状態を示す図
【図3】チルト機構の拡大断面図
【図4】操舵油圧発生ユニットの外観斜視図
【図5】操舵油圧発生ユニットの側面図
【図6】操舵油圧発生ユニットの底面図
【図7】操舵油圧発生ユニットの中心線C、C1及びC2に沿う縦断面図
【図8】図7の一部を拡大した断面図
【図9】図2の9−9線断面図
【図10】ヘルムポンプの縦断面図
【図11】共通ベースの平面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて一実施形態を説明する。
図1は本願発明の適用された動力付小型ボートの平面図である。以下の説明において、前後・左右・上下とは、船体の直進時状態を基準とし、進行方向を前方、進行方向に向かって左右を左右方向とする。
船体の中央には船室1が設けられ、その底部は船底2になっている。船室1の前部にはインパネ3が設けられ、ここにチルト機構4を介してハンドル5が回転自在に、かつ傾斜角度を調節自在に支持されている。ハンドル5は輪状のステアリングホイールである。ハンドル5及びインパネ3の近傍かつ後方で、船室1の右前方位置は運転席になっている。ハンドル5の位置は比較的低く、その結果、運転席も低い位置に設けられ、低重心化を実現している。
【0017】
ハンドル5のハンドル軸(後述)はパワーステアリング装置である操舵油圧発生ユニット6に接続し、ハンドル5の回動量に応じた油圧を発生する。操舵油圧発生ユニット6からは右転向用配管7R及び左転向用配管7Lを介して、ハンドル5の回転方向に応じていずれか一方側に油圧が右転向用配管7R又は左転向用配管7Lのいずれかに与えられる。
【0018】
右転向用配管7R又は左転向用配管7Lの後端は、船体後端部に設けられた操舵シリンダ8へ接続される。操舵シリンダ8にはピストン10により右室11Rと左室11Lに区画され、右室11Rには右転向用配管7Rが接続され、左室11Lには左転向用配管7Lが接続されている。
【0019】
ピストン10は操舵シリンダ8を軸方向に貫通して軸方向へ進退移動自在のピストンロッド12と一体化されている。ピストンロッド12の操舵シリンダ8の一端側から突出している一端部にはリンク13の一端が取付けられ、リンク13の他端はステアリングアーム14の前端へ取付けられている。ステアリングアーム14の後端は船外機15へ一体化されている。
【0020】
船外機15はエンジンを内蔵する公知の舵取り手段であり、垂直方向のスイベルシャフト16を中心に水平方向へ揺動自在であり、かつ水平軸17を中心に船外機15を上下へ揺動自在である。18はプロペラである。但し、本願の舵取り装置は、このようなエンジン付きの船外機15ではなく、舵取り専用の部材であってもよい。
【0021】
ハンドル5を右に回すと、操舵油圧発生ユニット6からアシスト駆動により加圧された油圧が右転向用配管7Rから右室11Rへ入り、ピストン10を左へ移動させる。このピストン10の移動により縮小される左室11Lの作動油は左転向用配管7Lより操舵油圧発生ユニット6へ戻されると同時に、ピストンロッド12は左へ伸び出し、リンク13がステアリングアーム14の先端側を左側へ引っ張るので、ステアリングアーム14と一体の船外機15はスイベルシャフト16を中心にして反時計回りに回動し、船体を右方へ旋回するように転舵する。
【0022】
逆に左側へ転舵するときは、上記と逆操作する。なお、操舵油圧発生ユニット6は電動アシスト装置を備えるので、ハンドル5を回動すると、操舵油圧発生ユニット6による油圧は、ハンドル5に対する入力よりも大きなものとなる。
【0023】
図2はインパネ3に対する操舵油圧発生ユニット6の取付状態を示す断面図である。
ハンドル5はそのボス20がインパネ3の上面へチルト機構4を介して取付けられている。チルト機構4はハンドル5の中心から下方へ延びるハンドル軸21と操舵油圧発生ユニット6に接続するジョイント軸22とをボールジョイント23で連結することにより、ハンドル5の中心線Cがインパネ3に対して左右方向の水平軸線Lの回りに紙面の表裏方向へ傾動自在であり、ハンドル5のインパネ3に対する傾斜角度を運転者の好みに応じて調節自在になっている。
【0024】
ジョイント軸22はインパネ3の通し穴3aを上下に貫通し、上端はボールジョイント23へ連続し、下端はジョイント24を介して操舵油圧発生ユニット6の入力軸25へ連結されている。
操舵油圧発生ユニット6は電動アシスト装置26とヘルムポンプ27とを並列配置して共通ベース28上に一体化したものであり、電動アシスト装置26の入力部が入力軸25になっている。ヘルムポンプ27は公知の斜板式アキシャルピストンポンプである。
【0025】
電動アシスト装置26は入力軸25へ加えられたハンドル5の手動操舵トルクに対して、このトルクを電動アシスト装置26の上部へ取付けられたトルクセンサ30で検出し、これをECU31にて演算処理して、電動アシスト装置26を構成する電動モータ32を駆動することにより、アシスト力を手動操舵トルクに加えて合成した操舵力(以下、単に操舵力という)を出力軸33へ回転出力する。出力軸33及び入力軸25はそれぞれ電動アシスト装置26の回転軸である。
【0026】
ECU31は伝動機構34を介して操舵力をヘルムポンプ27へ伝達し、ヘルムポンプ27から適切な油圧を発生する。例えば、入力トルクと発生すべきアシスト力とを関連させた制御マップを備え、この制御マップをルックアップすることにより、操舵状況に応じた適切なアシスト力を決定し、ドライバ39(図9)に指令して電動モータ32を駆動させるようにする。
なお、プロペラ18が一つだけの単軸形式の場合は、船体1がプロペラ18の回転方向へまがる傾向を有するため、予め右回転と左回転で発生するアシスト力に差がでるようにプログラムしておくこともできる。
【0027】
電動アシスト装置26は、金属等の剛体製であるアッパーホルダ35及びロアホルダ36を介してインパネ3へ吊り下げ状に支持されている。アッパーホルダ35は上下にフランジ35a,35bを備え、上端のフランジ35aはインパネ3の下面へ当接して取付けられる。下端のフランジ35bはロアホルダ36の上端に設けられたナット部を有するボス36aに重ねられ、ボルト37により上方から締結される。ヘルムポンプ27の高さは、上端部が、電動アシスト装置26へ取付けられた状態にあるロアホルダ36の上端部位置よりも低い位置になるように設定され、インパネ3の下方へ配置され、かつここで右転向用配管7R及び左転向用配管7Lに接続できるようになっている。
【0028】
それぞれ筒状をなすアッパーホルダ35とロアホルダ36の連結部は、ジョイント24と重なる位置にある。ロアホルダ36の各端部はボス36bにより上方からボルト38で電動アシスト装置26の上面へ締結されている。ロアホルダ36の側面には複数カ所に開口部36cが形成され、ロアホルダ36の肉抜き軽量化とともに、内部のトルクセンサ30へのハーネス接続を可能にしている。ジョイント24と重なる位置にも開口部36cが位置し(図5参照)、ここからジョイント24のボルトを着脱操作できる。
【0029】
次に、チルト機構4について図3により詳細に説明する。チルト機構4はチルトフレーム40と、この周囲を覆う防塵・防水用のラバーブーツ41を備える。チルトフレーム40は左右の互いに平行する縦壁部40aと、各ソケット42の上端間を連結する頂部40bとを備え、頂部40bには、ハンドル軸21を上下方向に通す長穴40cが設けられている。長穴40cは紙面の表裏方向へ長くなっており、ハンドル軸21が傾斜角度を調節するため、紙面の表裏方向へ揺動することを許容する。
【0030】
各チルトフレーム40の下端にはフランジ40dが設けられ、インパネ3の上面へ当接し、ボルト等(図示省略)で固定される。このとき、インパネ3の下面にアッパーホルダ35のフランジ35aを当接して縦壁部40aと共締めで取付けることができる。この場合には、アッパーホルダ35、ひいては操舵油圧発生ユニット6がインパネ3を介してチルト機構4に吊り下げ支持されていることにもなる。
【0031】
ボールジョイント23はソケット42とボール43とを備え、ソケット42はジョイント軸22の上端部を嵌合し、ボルト44で一体化される連結部42aとボール43を摺動自在に支持する球面受部42bを有する。
ボール43は外周部の球面部が球面受部42bへ摺動自在に支持されるとともに、中心部には、ハンドル軸21の各端部が嵌合し、ボール43及びソケット42と共に、中心線Cと直交する水平軸線Lに沿うチルト軸45により連結一体化され、中心線Cの軸回りへ一体回転可能かつチルト軸45の回りにボール43及びハンドル軸21が回動自在になっている。
【0032】
このため、ハンドル軸21とチルトフレーム40の間に設けた傾斜角度調節用のロック部材(図示省略)を操作してアンロックとすれば、ハンドル軸21をチルト軸45の回りに回動させることができ、好みの回動角でロック部材によりロックして回動位置を固定することにより、ハンドル軸21の傾斜角度を自在に調節できる。なお、チルト機構4自体はこの例に限らず公知の種々な機構を利用できる。
【0033】
次に、操舵油圧発生ユニット6について詳細に説明する。
図4は操舵油圧発生ユニット6の外観斜視図、図5は側面図、図6は底面図、図7は中心線Cに沿う縦断面図、図8はトルクセンサ部分を詳細に説明する拡大図である。
図4及び7に明らかなように、操舵油圧発生ユニット6は入力軸25の軸線であるアシスト装置中心軸線C1とヘルムポンプ27における回転軸であるポンプ軸46の軸線であるポンプ中心軸線C2が平行するよう並列配置されて一体化されたユニットであり、ジョイント軸22へ加えられたハンドル5の手動入力トルクを電動アシスト装置26のアシスト力で増力した操舵力とし、これに対応する油圧をヘルムポンプ27の上部に設けられた吐出口47R又は47Lから吐出するようになっている。
【0034】
吐出口47Rは右転向用配管7Rへ接続し、吐出口47Lは左転向用配管7Lへ接続している(図1参照)。
なお、ポンプ軸46は出力軸33と平行である。出力軸33は入力軸25及びジョイント軸22と同軸であり、入力軸25及び出力軸33のアシスト装置中心軸線C1はハンドル5の中心線Cと一致する。
【0035】
48は伝動機構34をスカート状に囲む伝動カバーであり、金属・樹脂等の適宜材料からなり、上部を共通ベース28へ取付けられ、下方が開放されている(図5及び6は伝動カバー48を省略してある)。この伝動カバー48を設けることにより、伝動機構34を露出させないようにできるため、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を伝動機構34で接続することが可能になった。
【0036】
図6及び7に明らかなように、本例における伝動機構34はギヤ機構として構成され、出力軸33に取付けられた駆動ギヤ50とポンプ軸46の取付けられた従動ギヤ51で構成されて互いに噛み合っている。
このギヤ機構の変速比(駆動ギヤ50のギヤ数/従動ギヤ51のギヤ数)は1より大きく、出力軸33の回転出力を増速してポンプ軸46へ伝達する。なお、変速比は1より大きな増速できるものであれば、その比は任意に設定できる。
【0037】
このようにすることにより、ヘルムポンプ27のポンプ効率を向上させて操舵レスポンスを向上させることができる。すなわち、ヘルムポンプ27は後述するようにアキシャルピストンによる圧油の吐出回数が多いほどポンプ効率が高くなり、アキシャルピストンによる圧油の吐出回数は、ポンプ軸46の回転を速くすることにより実現される。したがって、電動アシスト装置26から出力される操舵力を増速してポンプ軸46へ伝達すれば、ポンプ軸46の回転を早くしてポンプ効率を高めることができる。その結果、舵取り手段である船外機15の転舵動作が迅速になり、レスポンス性の良い操舵が可能になるので、頻繁かつ迅速な操舵が必要な船舶の操舵装置に好適なものとなる。
そのうえ、伝動機構34をギヤ機構としてギヤ列で構成したので、ポンプ装置へ操舵力を正確かつ迅速に伝達できる。
【0038】
なお、伝動機構34のギヤ機構には、必要によりアイドルギヤを加えて軸間距離の変化に対応させつつもコンパクトにすることができる。また、多段のギヤ列にして変速比をより大きくさせることもできる。また、伝動機構34はギヤ機構に限らず種々の公知伝動機構が可能である
【0039】
電動アシスト装置26とヘルムポンプ27は共通ベース28上に並列配置され、伝動機構34はボルト28の下方に配置される。このようにすることにより、共通ベース28により電動アシスト装置26,ヘルムポンプ27及び伝動機構34をコンパクトに一体化できる、また、伝動機構34で出力軸33の回転出力をポンプ軸46へ伝達するようにしたので、ヘルムポンプ27のレイアウトにおける自由度が増大し、配置方向により出力機構に影響が出やすいヘルムポンプ27をその性能上適正姿勢で配置できる。
そのうえ、ポンプ軸46と電動アシスト装置の出力軸33とを平行に配置したので、各軸を連結する伝動機構34の構造が簡単になる。
また、電動アシスト装置26の出力軸33を挟んで電動モータ32とポンプ装置27を左右に配置したので、電動アシスト装置26の上部を出力軸33の上方でインパネ3に支持させたとき、左右の重量バランスをとりやすくなり、パワーステアリング装置をインパネに安定して吊り下げ支持できる。
【0040】
しかも、操舵油圧発生ユニット6は、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を共通ベース28上に並列配置して一体化したユニットであるから、操舵油圧発生ユニット6の長さ(アシスト装置中心軸線C1方向の長さ)は、せいぜい電動アシスト装置26とジョイント軸22の合計長さ程度であり、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を直列にした場合の長さの略1/2程度に短くなる。このため、インパネ3の下方における配置スペースは比較的小さくなり、船底2とインパネ間の距離を短くすることができる。その結果、寸法的に制約の多いインパネ3下方のスペースへ自由度の高い配置が可能になるとともに、運転席を低くして低重心化が可能になるので、波を受けて揺れても船体を安定化し易くなる。
【0041】
また、操舵油圧発生ユニット6は並列配置により、軸方向が短くなるものの幅方向に広がることになる。しかし、インパネ3の下方における配置スペースは、高さ方向以外の左右方向及び前後方向において比較的余裕があるので、並列配置によりこのスペース内へ配置できるようになり、レイアウトの自由度を増大させることができる。
そのうえ、操舵油圧発生ユニット6は全体がユニット化しているため、電動アシスト装置26をアッパーホルダ35及びロアホルダ36を介してインパネ3に支持させることでユニット全体の支持ができる。
【0042】
次に、電動アシスト装置26について、図7とその一部の拡大断面図である図8及び図2の9−9線断面である図9に基づいてより詳細に説明する。
図7及び8に示すように、入力軸25は中空軸であり、その軸穴内にトーションバー60が長手方向を軸方向と一致させて配置されている。トーションバー60の上端部60aはピン61により入力軸25の上端部と一体化されている。入力軸25の上端部はセレーションによりジョイント24と結合一体化され、軸回りに一体回転する。
【0043】
トーションバー60の下端部60bは出力軸33の上端部33aに形成された行き止まり状の軸穴33bに嵌合され、セレーション結合で上端部33aと一体化されている。
上端部33aは入力軸25の下端部外周へ外嵌し、相対的に回動可能になっている。このため、ハンドル5へ加えられた手動操舵力と出力軸33のヘルムポンプ27側から加わる負荷との間にトルク差が生じ、入力軸25と出力軸33は相対回転してトーションバー60が捩れる。そこでこの捩れ量をトルクセンサ30が検出することにより、必要なトルクを検出することができる。
【0044】
出力軸33の外周には、ウォームホイール65が一体回転可能に取付けられている。このウォームホイール65は電動モータ32で駆動されるウォームギヤ66(図9)と噛み合っている。
ウォームホイール65及びウォームギヤ66を収容するギヤケース67は、ベアリング68,69で出力軸33の外周に支持される。
【0045】
図8に示すように、トルクセンサ30は入力軸25と出力軸33の間に設けられ、ボス62でボルト63により電動アシスト装置26の上部へ固定されている公知の磁気センサである。このトルクセンサ30は、検出部として上下2段に配置されたコイル30a、30bを備える。コイル30a、30bはそれぞれトルクセンサ30の入力軸25を囲む筒部30cのボビン30d上に周方向に巻回され、これらの内側に近接して対向配置されていコア52の位置により電圧が変化するようになっている。
【0046】
コア52は環状のアルミ合金からなり、トルクリング53の外周部へ一体化されている。トルクリング53は筒状をなして入力軸25の上を軸方向へ摺動着脱自在であり、その外周壁に螺旋溝54と軸方向の縦溝55が設けられ、螺旋溝54には入力軸25に圧入一体化されて径方向外方へ突出するトルクピン56が嵌合し、縦溝55には出力軸33の上端部33aに圧入一体化されて径方向外方へ突出するガイドピン57が嵌合している。
また、トルクリング53はコイルスプリング58により上方へ移動付勢され、トルクピン56は螺旋溝54の中央に位置している(中立時)。
【0047】
ハンドルから入力軸25へ操舵トルクが加えられると、入力軸25と一体のトルクピン56によりトルクリング53は入力軸25の回りに回動しようとするが、出力軸33と一体のガイドピン57により回動が阻止される。ガイドピン57は縦溝55内に嵌合し、ガイドピン57とトルクリング53の軸方向における相対移動を許容する。
そこで、トルクリング53はコイルスプリング58に抗して軸方向下方へ移動する。この移動量はトーションバー60の捩れ量に比例するため、コイル30a及び30bにおける電圧変化でコア52の移動量を検出し、これをトルク量に換算することで操舵トルクを検出できる。
【0048】
トルクセンサ30はベアリング64を介して入力軸25の外周に配置され、間接的に入力軸25に接触している。しかし、検出部であるコイル30a及び30bはコア52並びにトルクリング53に対して非接触である。このため入力軸25の軸方向に加わる衝撃荷重を軸方向へ抜けさせてトルクセンサ30の検出部へ直接加わらないように逃がす構造になっている。このような入力軸25に対する軸方向の衝撃荷重が検出部へ直接加わりにくいようにしたトルクセンサ30の配置形式を非接触ということにする。
【0049】
このように、トルクセンサ30の検出部であるコイル30a及び30bを入力軸25のトルクリング53と非接触にすることで、ハンドル5を介して入力軸25へ加わる船舶特有の大きな衝撃荷重がトルクセンサ30の検出部へ直接加わることを回避でき、衝撃荷重によりトルクセンサ30の検出誤差を可及的に小さくして、精密なアシスト量を決定できる。
なお、トルクセンサ30は必ずしもこの例のようなものでなくてもよく、要は、トルクセンサ30の検出部と入力軸25及び出力軸33側とが非接触になっていれば足り、公知の磁気式センサや光学式センサ等が適宜利用できる。
【0050】
トルクセンサ30は検出部以外の一部だけがベアリング64を介して入力軸25の外周に支持されている。
そのうえ、入力軸25を支持する電動アシスト装置26の上へトルクセンサ30を固定することで、トルクセンサ30と入力軸25間の位置関係を一定にできる。
しかも、入力軸25と出力軸33が同軸上に位置し、それぞれベアリング64、68を介してギヤケース67へ支持されるとともに、トルクセンサ30のベアリング64を入力軸25のベアリング68の上方に位置させたので、トルクセンサ30を入力軸25の最も振れの少ない部位に配置することができる。
また、筒状のロアホルダ36の内部へトルクセンサ30を配置したので、ロアホルダ36によってトルクセンサ30をガードできる。
【0051】
図9に示すように、ウォームギヤ66は電動アシスト装置26のアシスト中心軸線C1と直交するモータ軸線C3と同軸のウォーム軸70上に形成されている。ウォーム軸70は電動モータ32の出力軸71と同軸であり、ギヤケース67に対してウォームギヤ66を挟む両端部をベアリング73,74で軸受けされている。
【0052】
電動モータ32はモータケース75がギヤケース67に形成された取付部67aへボルト76により着脱自在に取付けられている。
なお、ギヤケース67には、ボス36b及びボス62がそれぞれ略120°間隔で設けられている。
【0053】
次に、ヘルムポンプ27について図10に基づいて詳細に説明する。図10は図7における吐出口47R,吐出口47Lの各近傍を通り、かつポンプ中心軸線C2と平行な面で切った断面に相当する。
ヘルムポンプ27のポンプケース80の中心を上下方向に配置されるポンプ軸46は、底部80aを貫通して下方へ突出するとともに、ポンプケース80内では外周部にロータ81が一体回転可能に一体化されている。ロータ81の下方にはアキシャルピストン82が下方へ突出するように付勢され、斜板83の上に設けられたベアリングであるシュー84の表面へ摺接している。また、シュー84は、斜板83に沿って傾斜している。
【0054】
アキシャルピストン82はポンプ軸46の回りに等間隔で複数個が同心円状に配置され、先端(下端)が斜板83へ摺接しながらポンプ軸46によってロータ81と一体に回転すると、アキシャルピストン82が斜板83により上方へ押し込まれた最も高い位置Aと、アキシャルピストン82が下方へ突出した最も低い位置Bの間で連続的に変化し、最も低い位置Bで作動油を吸入し、最も高い位置Aで作動油を圧縮して加圧油を油路85R又は油路85Lへ押し出す。油路85Rは吐出口47Rへ接続され、油路85Lは吐出口47Lへ接続される。
【0055】
油路85R及び85Lには戻りを阻止するチェックバルブ(図示省略)が設けられ、ロータ81がハンドル操作により右回転又は左回転すると、回転方向の油路85R又は85Lのチェックバルブがアキシャルピストンにより加圧された加圧油で開いて、接続する吐出口47R又は47Lから吐出される。同時にこの加圧油の一部で他方の油路85L又は85Rのチェックバルブを開いて、戻り油を吸入可能になる。仮に吐出口47Rから加圧油が吐出されると、他方の吐出口47Lは実質的に吸入口となり、シリンダ8から押し出される戻り油を吸入し、油路85Lからポンプ内へ戻す。
【0056】
なお、このようなヘルムポンプ27は手動入力用の油圧ポンプ装置として公知であるが、必ずしもこのような形式とする必要はなく、公知の種々な形式を採用できる。
【0057】
次に、共通ベース28について詳細を説明する。図11は共通ベース28の平面図であり、金属製の略楕円形状をなし、長軸方向にヘルムポンプ27の軸穴90と出力軸33の軸穴91が形成されている。
【0058】
軸穴90の回りには同心円状に通し穴92が形成され、この上にポンプケース80の底部80aを置き、共通ベース28の下面からボルト93(図7)を通して締結することにより、ヘルムポンプ27が共通ベース28上に固定される。
なお、このとき通し穴92を円弧状又は放射状の長穴にすれば、取付位置の異なる種々のヘルムポンプ27を単一の共通ベース28へ取付けできる。
【0059】
軸穴91の周囲にはボス94が同一円周上に等間隔で形成され、この上にギヤケース67を重ね、ボス94の通し穴95へボルト96を下方から貫通させ、先端側を予めギヤケース67の底部に設けられているナット部へ締結することで電動アシスト装置26を共通ベース28へ取付けできる。
このとき、共通ベース28上に予め多数のボス94を円周方向の間隔や径方向距離を異にして設けておけば、取付位置の異なる各種の電動アシスト装置26を単一の共通ベース28へ取付けできる。
【0060】
このように、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を共通ベース28へ着脱自在に取付けることにより、一体化して操舵油圧発生ユニット6になるので、図2に示すように電動アシスト装置26をアッパーホルダ35及びロアホルダ36を介してインパネ3に支持することにより、操舵油圧発生ユニット6全体をインパネ3へ簡単に支持できる。
また、共通ベース28は上方を電動アシスト装置26とヘルムポンプ27の支持空間とし、下方を伝動機構34の配置空間とすることにより、上下の空間を機能別に仕切ることができ、下方の空間に伝動機構34を効率よく収容できる。
【0061】
なお、本願は種々に応用や変形が可能であり、例えば、伝動機構は、チェーン駆動もしくはベルト駆動にもできる。この場合は出力軸33とポンプ軸46にそれぞれスプロケット又はプーリーを設け、これらにチェーン又はベルトを巻き掛ける。このようにすると安価で信頼性のある伝動機構が得られるとともに、チェーンやベルトはその長さを比較的容易に変更できるので、出力軸33とポンプ軸46の軸間距離を変更することが容易になり、電動アシスト装置26及びヘルムポンプ27のレイアウトにおける自由度が高くなる。
また、変速比を種々に設定することも容易になる。
そのうえ、チェーンやベルトの長さを調整するため、任意数のアイドラーを設けることは自由にできる。
【0062】
ギヤ機構の場合は、アイドルギヤを介在させれば、上記軸間距離の変更に対応できる。
また、中間ギヤを設けた多段のギヤ列にすれば、変速比(増速比)を大きくしてしかも装置全体をコンパクト化できる。
さらに、ギヤ機構に遊星歯車機構を採用すれば、遊星歯車機構の入力側に電動アシスト装置26の出力軸33を接続し、遊星歯車機構の出力側にヘルムポンプ27のポンプ軸46を接続することで、操舵力を変速してヘルムポンプ27へ伝達できるとともに電動アシスト装置26及びヘルムポンプ27を直列にしてユニット化することができる。
【0063】
また、遊星歯車機構に限らず、通常のギヤ列機構においても変速比を可変とする変速機構を備えることができる。例えば、常時噛み合い式のギヤ列を設け、ドッグクラッチで接続を切り換える公知のものが利用できる。
さらに、チェーン駆動やベルト駆動においても変速比を可変とする変速機構を採用できる。チェーン駆動の場合は、大小にサイズの異なるスプロケットを多段に設け、スプロケットを選択してチェーンを巻き掛けるようにする。
ベルト駆動の場合は、公知のVプーリーを設け、V溝の幅を変化させることにより無断変速が可能になる。
このように変速機構を設けると、変速比(増速比)を自由に変更して、操舵力の伝達比率を広範囲に変化させることができ、好みのレスポンス性が得られるように調整でき、快適な走行を実現できる。
【符号の説明】
【0064】
1:船室、2:船底、3:インパネ、4:チルト機構、5:ハンドル、6:操舵油圧発生ユニット、8:操舵シリンダ、10:ピストン、15:船外機、21:ハンドル軸、22:ジョイント軸、23:ボールジョイント、24:ジョイント、25:入力軸、26:電動アシスト装置、27:ヘルムポンプ、28:共通ベース、30:トルクセンサ、32:電動モータ、33:出力軸、34:伝動機構、35:アッパーホルダ、36:ロアホルダ、46:ポンプ軸、48:伝動カバー、60:トーションバー、67:ギヤケース
【技術分野】
【0001】
この発明は、小型船舶用の操舵装置に係り、特に電動アシスト付のパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機等の動力推進を備えたボート等の小型船舶用において、操舵装置にパワーステアリング装置を設けたものが公知である。
この一例として、船室の計器等を取付けるインパネにハンドルを回転自在に支持するとともに、ハンドルのハンドル軸にパワーステアリング装置と油圧ポンプ装置を直列に取付け、アシスト出力で油圧ポンプ装置を駆動して油圧を発生し、この油圧により船外機を回動させて操舵するものがある(特許文献1参照)。
このパワーステアリング装置は、電動モータにより駆動されるウォームギヤと、これに噛み合ってハンドル軸を回転させるウォームホイールとを備えた電動アシスト装置であり、ハンドルに手動で加えられる操舵トルクをトルクセンサで検出し、この検出値に基づいて適切なアシスト力を加えるように電動モータを制御している。
油圧ポンプ装置はヘルムポンプであり、斜板式アキシャルピストンポンプとして構成され、電動アシスト装置の出力に応じた油圧を発生するようになっている。
さらに、ハンドルはインパネに対する傾斜角度を調節自在にするチルト機構を備えたものが公知である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−231383号公報
【特許文献2】特開2000−43794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のトルクセンサは、操舵トルクに応じてハンドル軸に連なる入力軸上を軸方向へ移動するトルクリングと、このトルクリングから突出するトルクピンと、このトルクピンが摺動するトルクセンサの検出部とを備え、トルクピンがトルクセンサの検出部を摺動することにより、トルクピンの位置から操舵トルクを検出するものであるから、トルクピンとトルクセンサの検出部が直接接触する形式になっているため、ハンドル軸へ加わった衝撃がトルクセンサの検出部へ伝達されやすくなる。
しかし、トルクセンサは精密な装置であり、検出部へ衝撃荷重が加わると検出値の誤差が大きくなって、正確なアシストが困難になる。しかも、ボートなどの小型船舶に用いられたトルクセンサは、波等により大きな衝撃が加わり易い環境にある。そこで、このような環境でもトルクセンサの検出精度を高めることが求められる。
本願は、この要望の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため小型船舶用パワーステアリング装置に係る請求項1の発明は、
船体後部に水平方向へ回動可能に配置された舵取り手段と、
この舵取り手段を油圧駆動するため運転席のハンドル操作で油圧を発生するポンプ装置と、
ハンドル操作による操舵トルクを検出するトルクセンサと、このトルクセンサが検出したトルクに基づいてアシスト力を発生する電動アシスト装置とを備えた、小型船舶用パワーステアリング装置において、
前記電動アシスト装置の入力軸をハンドル軸へ連結するとともに、
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ配置し、ハンドルから入力軸へ加わる軸方向の衝撃荷重がトルクセンサの検出部へ直接加わらないようにしたことを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は上記請求項1において、前記トルクセンサが、前記操舵トルクにより前記電動アシスト装置の入力軸と出力軸間の捩れを磁気的に検出することを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は上記請求項1又は2のいずれかにおいて、トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ軸受けを介して配置し、前記電動アシスト装置へ固定したことを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は上記請求項1〜3のいずれかにおいて、前記電動アシスト装置が筒状のホルダを介してインパネに支持され、前記トルクセンサは前記ホルダの内部へ配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は上記請求項3又は4のいずれかにおいて、前記電動アシスト装置は、入力軸と出力軸が同軸上に位置し、それぞれ軸受けを介して前記電動アシスト装置のギヤケースへ支持されるとともに、
前記トルクセンサの軸受けは、前記入力軸の軸受けの上方に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、電動アシスト装置の入力軸をハンドル軸へ連結するとともに、
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ配置し、ハンドルから入力軸へ加わる軸方向の衝撃荷重がトルクセンサの検出部へ直接加わらないようにしたので、ハンドルから入力軸へ軸方向の衝撃荷重が加わっても、この衝撃荷重は入力軸の軸方向へ抜け、トルクセンサの検出部へ直接加わらないので、トルクセンサの衝撃荷重による影響を避け、トルクセンサの検出精度を高めることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、トルクセンサが、操舵トルクにより電動アシスト装置の入力軸と出力軸間の捩れを磁気的に検出するので、トルクセンサの検出部と入力軸の間に衝撃荷重が加わりにくいように配置できる。
【0012】
請求項3の発明によれば、トルクセンサは、入力軸の周囲へ軸受けを介して配置され、電動アシスト装置へ固定されるので、トルクセンサは入力軸と間接的に接触し、入力軸の衝撃荷重は直接トルクセンサの検出部へ加わらない。また、入力軸を支持する電動アシスト装置へトルクセンサを固定することで、トルクセンサの検出部と入力軸間の位置関係を一定にできる。
【0013】
請求項4の発明によれば、電動アシスト装置をインパネに支持する筒状のホルダ内部へトルクセンサを配置したので、ホルダによってトルクセンサをガードできる。
【0014】
請求項5の発明によれば、電動アシスト装置は、入力軸と出力軸が同軸上に位置し、それぞれ軸受けを介して電動アシスト装置のギヤケースへ支持されるとともに、トルクセンサの軸受けを入力軸の軸受けの上方に位置させたので、トルクセンサの検出部を入力軸の最も振れの少ない部位に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願発明の適用された動力付小型ボートの概略平面図
【図2】インパネに対する操舵油圧発生ユニットの取付状態を示す図
【図3】チルト機構の拡大断面図
【図4】操舵油圧発生ユニットの外観斜視図
【図5】操舵油圧発生ユニットの側面図
【図6】操舵油圧発生ユニットの底面図
【図7】操舵油圧発生ユニットの中心線C、C1及びC2に沿う縦断面図
【図8】図7の一部を拡大した断面図
【図9】図2の9−9線断面図
【図10】ヘルムポンプの縦断面図
【図11】共通ベースの平面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて一実施形態を説明する。
図1は本願発明の適用された動力付小型ボートの平面図である。以下の説明において、前後・左右・上下とは、船体の直進時状態を基準とし、進行方向を前方、進行方向に向かって左右を左右方向とする。
船体の中央には船室1が設けられ、その底部は船底2になっている。船室1の前部にはインパネ3が設けられ、ここにチルト機構4を介してハンドル5が回転自在に、かつ傾斜角度を調節自在に支持されている。ハンドル5は輪状のステアリングホイールである。ハンドル5及びインパネ3の近傍かつ後方で、船室1の右前方位置は運転席になっている。ハンドル5の位置は比較的低く、その結果、運転席も低い位置に設けられ、低重心化を実現している。
【0017】
ハンドル5のハンドル軸(後述)はパワーステアリング装置である操舵油圧発生ユニット6に接続し、ハンドル5の回動量に応じた油圧を発生する。操舵油圧発生ユニット6からは右転向用配管7R及び左転向用配管7Lを介して、ハンドル5の回転方向に応じていずれか一方側に油圧が右転向用配管7R又は左転向用配管7Lのいずれかに与えられる。
【0018】
右転向用配管7R又は左転向用配管7Lの後端は、船体後端部に設けられた操舵シリンダ8へ接続される。操舵シリンダ8にはピストン10により右室11Rと左室11Lに区画され、右室11Rには右転向用配管7Rが接続され、左室11Lには左転向用配管7Lが接続されている。
【0019】
ピストン10は操舵シリンダ8を軸方向に貫通して軸方向へ進退移動自在のピストンロッド12と一体化されている。ピストンロッド12の操舵シリンダ8の一端側から突出している一端部にはリンク13の一端が取付けられ、リンク13の他端はステアリングアーム14の前端へ取付けられている。ステアリングアーム14の後端は船外機15へ一体化されている。
【0020】
船外機15はエンジンを内蔵する公知の舵取り手段であり、垂直方向のスイベルシャフト16を中心に水平方向へ揺動自在であり、かつ水平軸17を中心に船外機15を上下へ揺動自在である。18はプロペラである。但し、本願の舵取り装置は、このようなエンジン付きの船外機15ではなく、舵取り専用の部材であってもよい。
【0021】
ハンドル5を右に回すと、操舵油圧発生ユニット6からアシスト駆動により加圧された油圧が右転向用配管7Rから右室11Rへ入り、ピストン10を左へ移動させる。このピストン10の移動により縮小される左室11Lの作動油は左転向用配管7Lより操舵油圧発生ユニット6へ戻されると同時に、ピストンロッド12は左へ伸び出し、リンク13がステアリングアーム14の先端側を左側へ引っ張るので、ステアリングアーム14と一体の船外機15はスイベルシャフト16を中心にして反時計回りに回動し、船体を右方へ旋回するように転舵する。
【0022】
逆に左側へ転舵するときは、上記と逆操作する。なお、操舵油圧発生ユニット6は電動アシスト装置を備えるので、ハンドル5を回動すると、操舵油圧発生ユニット6による油圧は、ハンドル5に対する入力よりも大きなものとなる。
【0023】
図2はインパネ3に対する操舵油圧発生ユニット6の取付状態を示す断面図である。
ハンドル5はそのボス20がインパネ3の上面へチルト機構4を介して取付けられている。チルト機構4はハンドル5の中心から下方へ延びるハンドル軸21と操舵油圧発生ユニット6に接続するジョイント軸22とをボールジョイント23で連結することにより、ハンドル5の中心線Cがインパネ3に対して左右方向の水平軸線Lの回りに紙面の表裏方向へ傾動自在であり、ハンドル5のインパネ3に対する傾斜角度を運転者の好みに応じて調節自在になっている。
【0024】
ジョイント軸22はインパネ3の通し穴3aを上下に貫通し、上端はボールジョイント23へ連続し、下端はジョイント24を介して操舵油圧発生ユニット6の入力軸25へ連結されている。
操舵油圧発生ユニット6は電動アシスト装置26とヘルムポンプ27とを並列配置して共通ベース28上に一体化したものであり、電動アシスト装置26の入力部が入力軸25になっている。ヘルムポンプ27は公知の斜板式アキシャルピストンポンプである。
【0025】
電動アシスト装置26は入力軸25へ加えられたハンドル5の手動操舵トルクに対して、このトルクを電動アシスト装置26の上部へ取付けられたトルクセンサ30で検出し、これをECU31にて演算処理して、電動アシスト装置26を構成する電動モータ32を駆動することにより、アシスト力を手動操舵トルクに加えて合成した操舵力(以下、単に操舵力という)を出力軸33へ回転出力する。出力軸33及び入力軸25はそれぞれ電動アシスト装置26の回転軸である。
【0026】
ECU31は伝動機構34を介して操舵力をヘルムポンプ27へ伝達し、ヘルムポンプ27から適切な油圧を発生する。例えば、入力トルクと発生すべきアシスト力とを関連させた制御マップを備え、この制御マップをルックアップすることにより、操舵状況に応じた適切なアシスト力を決定し、ドライバ39(図9)に指令して電動モータ32を駆動させるようにする。
なお、プロペラ18が一つだけの単軸形式の場合は、船体1がプロペラ18の回転方向へまがる傾向を有するため、予め右回転と左回転で発生するアシスト力に差がでるようにプログラムしておくこともできる。
【0027】
電動アシスト装置26は、金属等の剛体製であるアッパーホルダ35及びロアホルダ36を介してインパネ3へ吊り下げ状に支持されている。アッパーホルダ35は上下にフランジ35a,35bを備え、上端のフランジ35aはインパネ3の下面へ当接して取付けられる。下端のフランジ35bはロアホルダ36の上端に設けられたナット部を有するボス36aに重ねられ、ボルト37により上方から締結される。ヘルムポンプ27の高さは、上端部が、電動アシスト装置26へ取付けられた状態にあるロアホルダ36の上端部位置よりも低い位置になるように設定され、インパネ3の下方へ配置され、かつここで右転向用配管7R及び左転向用配管7Lに接続できるようになっている。
【0028】
それぞれ筒状をなすアッパーホルダ35とロアホルダ36の連結部は、ジョイント24と重なる位置にある。ロアホルダ36の各端部はボス36bにより上方からボルト38で電動アシスト装置26の上面へ締結されている。ロアホルダ36の側面には複数カ所に開口部36cが形成され、ロアホルダ36の肉抜き軽量化とともに、内部のトルクセンサ30へのハーネス接続を可能にしている。ジョイント24と重なる位置にも開口部36cが位置し(図5参照)、ここからジョイント24のボルトを着脱操作できる。
【0029】
次に、チルト機構4について図3により詳細に説明する。チルト機構4はチルトフレーム40と、この周囲を覆う防塵・防水用のラバーブーツ41を備える。チルトフレーム40は左右の互いに平行する縦壁部40aと、各ソケット42の上端間を連結する頂部40bとを備え、頂部40bには、ハンドル軸21を上下方向に通す長穴40cが設けられている。長穴40cは紙面の表裏方向へ長くなっており、ハンドル軸21が傾斜角度を調節するため、紙面の表裏方向へ揺動することを許容する。
【0030】
各チルトフレーム40の下端にはフランジ40dが設けられ、インパネ3の上面へ当接し、ボルト等(図示省略)で固定される。このとき、インパネ3の下面にアッパーホルダ35のフランジ35aを当接して縦壁部40aと共締めで取付けることができる。この場合には、アッパーホルダ35、ひいては操舵油圧発生ユニット6がインパネ3を介してチルト機構4に吊り下げ支持されていることにもなる。
【0031】
ボールジョイント23はソケット42とボール43とを備え、ソケット42はジョイント軸22の上端部を嵌合し、ボルト44で一体化される連結部42aとボール43を摺動自在に支持する球面受部42bを有する。
ボール43は外周部の球面部が球面受部42bへ摺動自在に支持されるとともに、中心部には、ハンドル軸21の各端部が嵌合し、ボール43及びソケット42と共に、中心線Cと直交する水平軸線Lに沿うチルト軸45により連結一体化され、中心線Cの軸回りへ一体回転可能かつチルト軸45の回りにボール43及びハンドル軸21が回動自在になっている。
【0032】
このため、ハンドル軸21とチルトフレーム40の間に設けた傾斜角度調節用のロック部材(図示省略)を操作してアンロックとすれば、ハンドル軸21をチルト軸45の回りに回動させることができ、好みの回動角でロック部材によりロックして回動位置を固定することにより、ハンドル軸21の傾斜角度を自在に調節できる。なお、チルト機構4自体はこの例に限らず公知の種々な機構を利用できる。
【0033】
次に、操舵油圧発生ユニット6について詳細に説明する。
図4は操舵油圧発生ユニット6の外観斜視図、図5は側面図、図6は底面図、図7は中心線Cに沿う縦断面図、図8はトルクセンサ部分を詳細に説明する拡大図である。
図4及び7に明らかなように、操舵油圧発生ユニット6は入力軸25の軸線であるアシスト装置中心軸線C1とヘルムポンプ27における回転軸であるポンプ軸46の軸線であるポンプ中心軸線C2が平行するよう並列配置されて一体化されたユニットであり、ジョイント軸22へ加えられたハンドル5の手動入力トルクを電動アシスト装置26のアシスト力で増力した操舵力とし、これに対応する油圧をヘルムポンプ27の上部に設けられた吐出口47R又は47Lから吐出するようになっている。
【0034】
吐出口47Rは右転向用配管7Rへ接続し、吐出口47Lは左転向用配管7Lへ接続している(図1参照)。
なお、ポンプ軸46は出力軸33と平行である。出力軸33は入力軸25及びジョイント軸22と同軸であり、入力軸25及び出力軸33のアシスト装置中心軸線C1はハンドル5の中心線Cと一致する。
【0035】
48は伝動機構34をスカート状に囲む伝動カバーであり、金属・樹脂等の適宜材料からなり、上部を共通ベース28へ取付けられ、下方が開放されている(図5及び6は伝動カバー48を省略してある)。この伝動カバー48を設けることにより、伝動機構34を露出させないようにできるため、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を伝動機構34で接続することが可能になった。
【0036】
図6及び7に明らかなように、本例における伝動機構34はギヤ機構として構成され、出力軸33に取付けられた駆動ギヤ50とポンプ軸46の取付けられた従動ギヤ51で構成されて互いに噛み合っている。
このギヤ機構の変速比(駆動ギヤ50のギヤ数/従動ギヤ51のギヤ数)は1より大きく、出力軸33の回転出力を増速してポンプ軸46へ伝達する。なお、変速比は1より大きな増速できるものであれば、その比は任意に設定できる。
【0037】
このようにすることにより、ヘルムポンプ27のポンプ効率を向上させて操舵レスポンスを向上させることができる。すなわち、ヘルムポンプ27は後述するようにアキシャルピストンによる圧油の吐出回数が多いほどポンプ効率が高くなり、アキシャルピストンによる圧油の吐出回数は、ポンプ軸46の回転を速くすることにより実現される。したがって、電動アシスト装置26から出力される操舵力を増速してポンプ軸46へ伝達すれば、ポンプ軸46の回転を早くしてポンプ効率を高めることができる。その結果、舵取り手段である船外機15の転舵動作が迅速になり、レスポンス性の良い操舵が可能になるので、頻繁かつ迅速な操舵が必要な船舶の操舵装置に好適なものとなる。
そのうえ、伝動機構34をギヤ機構としてギヤ列で構成したので、ポンプ装置へ操舵力を正確かつ迅速に伝達できる。
【0038】
なお、伝動機構34のギヤ機構には、必要によりアイドルギヤを加えて軸間距離の変化に対応させつつもコンパクトにすることができる。また、多段のギヤ列にして変速比をより大きくさせることもできる。また、伝動機構34はギヤ機構に限らず種々の公知伝動機構が可能である
【0039】
電動アシスト装置26とヘルムポンプ27は共通ベース28上に並列配置され、伝動機構34はボルト28の下方に配置される。このようにすることにより、共通ベース28により電動アシスト装置26,ヘルムポンプ27及び伝動機構34をコンパクトに一体化できる、また、伝動機構34で出力軸33の回転出力をポンプ軸46へ伝達するようにしたので、ヘルムポンプ27のレイアウトにおける自由度が増大し、配置方向により出力機構に影響が出やすいヘルムポンプ27をその性能上適正姿勢で配置できる。
そのうえ、ポンプ軸46と電動アシスト装置の出力軸33とを平行に配置したので、各軸を連結する伝動機構34の構造が簡単になる。
また、電動アシスト装置26の出力軸33を挟んで電動モータ32とポンプ装置27を左右に配置したので、電動アシスト装置26の上部を出力軸33の上方でインパネ3に支持させたとき、左右の重量バランスをとりやすくなり、パワーステアリング装置をインパネに安定して吊り下げ支持できる。
【0040】
しかも、操舵油圧発生ユニット6は、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を共通ベース28上に並列配置して一体化したユニットであるから、操舵油圧発生ユニット6の長さ(アシスト装置中心軸線C1方向の長さ)は、せいぜい電動アシスト装置26とジョイント軸22の合計長さ程度であり、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を直列にした場合の長さの略1/2程度に短くなる。このため、インパネ3の下方における配置スペースは比較的小さくなり、船底2とインパネ間の距離を短くすることができる。その結果、寸法的に制約の多いインパネ3下方のスペースへ自由度の高い配置が可能になるとともに、運転席を低くして低重心化が可能になるので、波を受けて揺れても船体を安定化し易くなる。
【0041】
また、操舵油圧発生ユニット6は並列配置により、軸方向が短くなるものの幅方向に広がることになる。しかし、インパネ3の下方における配置スペースは、高さ方向以外の左右方向及び前後方向において比較的余裕があるので、並列配置によりこのスペース内へ配置できるようになり、レイアウトの自由度を増大させることができる。
そのうえ、操舵油圧発生ユニット6は全体がユニット化しているため、電動アシスト装置26をアッパーホルダ35及びロアホルダ36を介してインパネ3に支持させることでユニット全体の支持ができる。
【0042】
次に、電動アシスト装置26について、図7とその一部の拡大断面図である図8及び図2の9−9線断面である図9に基づいてより詳細に説明する。
図7及び8に示すように、入力軸25は中空軸であり、その軸穴内にトーションバー60が長手方向を軸方向と一致させて配置されている。トーションバー60の上端部60aはピン61により入力軸25の上端部と一体化されている。入力軸25の上端部はセレーションによりジョイント24と結合一体化され、軸回りに一体回転する。
【0043】
トーションバー60の下端部60bは出力軸33の上端部33aに形成された行き止まり状の軸穴33bに嵌合され、セレーション結合で上端部33aと一体化されている。
上端部33aは入力軸25の下端部外周へ外嵌し、相対的に回動可能になっている。このため、ハンドル5へ加えられた手動操舵力と出力軸33のヘルムポンプ27側から加わる負荷との間にトルク差が生じ、入力軸25と出力軸33は相対回転してトーションバー60が捩れる。そこでこの捩れ量をトルクセンサ30が検出することにより、必要なトルクを検出することができる。
【0044】
出力軸33の外周には、ウォームホイール65が一体回転可能に取付けられている。このウォームホイール65は電動モータ32で駆動されるウォームギヤ66(図9)と噛み合っている。
ウォームホイール65及びウォームギヤ66を収容するギヤケース67は、ベアリング68,69で出力軸33の外周に支持される。
【0045】
図8に示すように、トルクセンサ30は入力軸25と出力軸33の間に設けられ、ボス62でボルト63により電動アシスト装置26の上部へ固定されている公知の磁気センサである。このトルクセンサ30は、検出部として上下2段に配置されたコイル30a、30bを備える。コイル30a、30bはそれぞれトルクセンサ30の入力軸25を囲む筒部30cのボビン30d上に周方向に巻回され、これらの内側に近接して対向配置されていコア52の位置により電圧が変化するようになっている。
【0046】
コア52は環状のアルミ合金からなり、トルクリング53の外周部へ一体化されている。トルクリング53は筒状をなして入力軸25の上を軸方向へ摺動着脱自在であり、その外周壁に螺旋溝54と軸方向の縦溝55が設けられ、螺旋溝54には入力軸25に圧入一体化されて径方向外方へ突出するトルクピン56が嵌合し、縦溝55には出力軸33の上端部33aに圧入一体化されて径方向外方へ突出するガイドピン57が嵌合している。
また、トルクリング53はコイルスプリング58により上方へ移動付勢され、トルクピン56は螺旋溝54の中央に位置している(中立時)。
【0047】
ハンドルから入力軸25へ操舵トルクが加えられると、入力軸25と一体のトルクピン56によりトルクリング53は入力軸25の回りに回動しようとするが、出力軸33と一体のガイドピン57により回動が阻止される。ガイドピン57は縦溝55内に嵌合し、ガイドピン57とトルクリング53の軸方向における相対移動を許容する。
そこで、トルクリング53はコイルスプリング58に抗して軸方向下方へ移動する。この移動量はトーションバー60の捩れ量に比例するため、コイル30a及び30bにおける電圧変化でコア52の移動量を検出し、これをトルク量に換算することで操舵トルクを検出できる。
【0048】
トルクセンサ30はベアリング64を介して入力軸25の外周に配置され、間接的に入力軸25に接触している。しかし、検出部であるコイル30a及び30bはコア52並びにトルクリング53に対して非接触である。このため入力軸25の軸方向に加わる衝撃荷重を軸方向へ抜けさせてトルクセンサ30の検出部へ直接加わらないように逃がす構造になっている。このような入力軸25に対する軸方向の衝撃荷重が検出部へ直接加わりにくいようにしたトルクセンサ30の配置形式を非接触ということにする。
【0049】
このように、トルクセンサ30の検出部であるコイル30a及び30bを入力軸25のトルクリング53と非接触にすることで、ハンドル5を介して入力軸25へ加わる船舶特有の大きな衝撃荷重がトルクセンサ30の検出部へ直接加わることを回避でき、衝撃荷重によりトルクセンサ30の検出誤差を可及的に小さくして、精密なアシスト量を決定できる。
なお、トルクセンサ30は必ずしもこの例のようなものでなくてもよく、要は、トルクセンサ30の検出部と入力軸25及び出力軸33側とが非接触になっていれば足り、公知の磁気式センサや光学式センサ等が適宜利用できる。
【0050】
トルクセンサ30は検出部以外の一部だけがベアリング64を介して入力軸25の外周に支持されている。
そのうえ、入力軸25を支持する電動アシスト装置26の上へトルクセンサ30を固定することで、トルクセンサ30と入力軸25間の位置関係を一定にできる。
しかも、入力軸25と出力軸33が同軸上に位置し、それぞれベアリング64、68を介してギヤケース67へ支持されるとともに、トルクセンサ30のベアリング64を入力軸25のベアリング68の上方に位置させたので、トルクセンサ30を入力軸25の最も振れの少ない部位に配置することができる。
また、筒状のロアホルダ36の内部へトルクセンサ30を配置したので、ロアホルダ36によってトルクセンサ30をガードできる。
【0051】
図9に示すように、ウォームギヤ66は電動アシスト装置26のアシスト中心軸線C1と直交するモータ軸線C3と同軸のウォーム軸70上に形成されている。ウォーム軸70は電動モータ32の出力軸71と同軸であり、ギヤケース67に対してウォームギヤ66を挟む両端部をベアリング73,74で軸受けされている。
【0052】
電動モータ32はモータケース75がギヤケース67に形成された取付部67aへボルト76により着脱自在に取付けられている。
なお、ギヤケース67には、ボス36b及びボス62がそれぞれ略120°間隔で設けられている。
【0053】
次に、ヘルムポンプ27について図10に基づいて詳細に説明する。図10は図7における吐出口47R,吐出口47Lの各近傍を通り、かつポンプ中心軸線C2と平行な面で切った断面に相当する。
ヘルムポンプ27のポンプケース80の中心を上下方向に配置されるポンプ軸46は、底部80aを貫通して下方へ突出するとともに、ポンプケース80内では外周部にロータ81が一体回転可能に一体化されている。ロータ81の下方にはアキシャルピストン82が下方へ突出するように付勢され、斜板83の上に設けられたベアリングであるシュー84の表面へ摺接している。また、シュー84は、斜板83に沿って傾斜している。
【0054】
アキシャルピストン82はポンプ軸46の回りに等間隔で複数個が同心円状に配置され、先端(下端)が斜板83へ摺接しながらポンプ軸46によってロータ81と一体に回転すると、アキシャルピストン82が斜板83により上方へ押し込まれた最も高い位置Aと、アキシャルピストン82が下方へ突出した最も低い位置Bの間で連続的に変化し、最も低い位置Bで作動油を吸入し、最も高い位置Aで作動油を圧縮して加圧油を油路85R又は油路85Lへ押し出す。油路85Rは吐出口47Rへ接続され、油路85Lは吐出口47Lへ接続される。
【0055】
油路85R及び85Lには戻りを阻止するチェックバルブ(図示省略)が設けられ、ロータ81がハンドル操作により右回転又は左回転すると、回転方向の油路85R又は85Lのチェックバルブがアキシャルピストンにより加圧された加圧油で開いて、接続する吐出口47R又は47Lから吐出される。同時にこの加圧油の一部で他方の油路85L又は85Rのチェックバルブを開いて、戻り油を吸入可能になる。仮に吐出口47Rから加圧油が吐出されると、他方の吐出口47Lは実質的に吸入口となり、シリンダ8から押し出される戻り油を吸入し、油路85Lからポンプ内へ戻す。
【0056】
なお、このようなヘルムポンプ27は手動入力用の油圧ポンプ装置として公知であるが、必ずしもこのような形式とする必要はなく、公知の種々な形式を採用できる。
【0057】
次に、共通ベース28について詳細を説明する。図11は共通ベース28の平面図であり、金属製の略楕円形状をなし、長軸方向にヘルムポンプ27の軸穴90と出力軸33の軸穴91が形成されている。
【0058】
軸穴90の回りには同心円状に通し穴92が形成され、この上にポンプケース80の底部80aを置き、共通ベース28の下面からボルト93(図7)を通して締結することにより、ヘルムポンプ27が共通ベース28上に固定される。
なお、このとき通し穴92を円弧状又は放射状の長穴にすれば、取付位置の異なる種々のヘルムポンプ27を単一の共通ベース28へ取付けできる。
【0059】
軸穴91の周囲にはボス94が同一円周上に等間隔で形成され、この上にギヤケース67を重ね、ボス94の通し穴95へボルト96を下方から貫通させ、先端側を予めギヤケース67の底部に設けられているナット部へ締結することで電動アシスト装置26を共通ベース28へ取付けできる。
このとき、共通ベース28上に予め多数のボス94を円周方向の間隔や径方向距離を異にして設けておけば、取付位置の異なる各種の電動アシスト装置26を単一の共通ベース28へ取付けできる。
【0060】
このように、電動アシスト装置26とヘルムポンプ27を共通ベース28へ着脱自在に取付けることにより、一体化して操舵油圧発生ユニット6になるので、図2に示すように電動アシスト装置26をアッパーホルダ35及びロアホルダ36を介してインパネ3に支持することにより、操舵油圧発生ユニット6全体をインパネ3へ簡単に支持できる。
また、共通ベース28は上方を電動アシスト装置26とヘルムポンプ27の支持空間とし、下方を伝動機構34の配置空間とすることにより、上下の空間を機能別に仕切ることができ、下方の空間に伝動機構34を効率よく収容できる。
【0061】
なお、本願は種々に応用や変形が可能であり、例えば、伝動機構は、チェーン駆動もしくはベルト駆動にもできる。この場合は出力軸33とポンプ軸46にそれぞれスプロケット又はプーリーを設け、これらにチェーン又はベルトを巻き掛ける。このようにすると安価で信頼性のある伝動機構が得られるとともに、チェーンやベルトはその長さを比較的容易に変更できるので、出力軸33とポンプ軸46の軸間距離を変更することが容易になり、電動アシスト装置26及びヘルムポンプ27のレイアウトにおける自由度が高くなる。
また、変速比を種々に設定することも容易になる。
そのうえ、チェーンやベルトの長さを調整するため、任意数のアイドラーを設けることは自由にできる。
【0062】
ギヤ機構の場合は、アイドルギヤを介在させれば、上記軸間距離の変更に対応できる。
また、中間ギヤを設けた多段のギヤ列にすれば、変速比(増速比)を大きくしてしかも装置全体をコンパクト化できる。
さらに、ギヤ機構に遊星歯車機構を採用すれば、遊星歯車機構の入力側に電動アシスト装置26の出力軸33を接続し、遊星歯車機構の出力側にヘルムポンプ27のポンプ軸46を接続することで、操舵力を変速してヘルムポンプ27へ伝達できるとともに電動アシスト装置26及びヘルムポンプ27を直列にしてユニット化することができる。
【0063】
また、遊星歯車機構に限らず、通常のギヤ列機構においても変速比を可変とする変速機構を備えることができる。例えば、常時噛み合い式のギヤ列を設け、ドッグクラッチで接続を切り換える公知のものが利用できる。
さらに、チェーン駆動やベルト駆動においても変速比を可変とする変速機構を採用できる。チェーン駆動の場合は、大小にサイズの異なるスプロケットを多段に設け、スプロケットを選択してチェーンを巻き掛けるようにする。
ベルト駆動の場合は、公知のVプーリーを設け、V溝の幅を変化させることにより無断変速が可能になる。
このように変速機構を設けると、変速比(増速比)を自由に変更して、操舵力の伝達比率を広範囲に変化させることができ、好みのレスポンス性が得られるように調整でき、快適な走行を実現できる。
【符号の説明】
【0064】
1:船室、2:船底、3:インパネ、4:チルト機構、5:ハンドル、6:操舵油圧発生ユニット、8:操舵シリンダ、10:ピストン、15:船外機、21:ハンドル軸、22:ジョイント軸、23:ボールジョイント、24:ジョイント、25:入力軸、26:電動アシスト装置、27:ヘルムポンプ、28:共通ベース、30:トルクセンサ、32:電動モータ、33:出力軸、34:伝動機構、35:アッパーホルダ、36:ロアホルダ、46:ポンプ軸、48:伝動カバー、60:トーションバー、67:ギヤケース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体後部に水平方向へ回動可能に配置された舵取り手段と、
この舵取り手段を油圧駆動するため運転席のハンドル操作で油圧を発生するポンプ装置と、
ハンドル操作による操舵トルクを検出するトルクセンサと、このトルクセンサが検出したトルクに基づいてアシスト力を発生する電動アシスト装置とを備えた、小型船舶用パワーステアリング装置において、
前記電動アシスト装置の入力軸をハンドル軸へ連結するとともに、
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ配置し、ハンドルから入力軸へ加わる軸方向の衝撃荷重がトルクセンサの検出部へ直接加わらないようにしたことを特徴とする小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記トルクセンサは、前記操舵トルクにより前記電動アシスト装置の入力軸と出力軸間の捩れを磁気的に検出することを特徴とする請求項1に記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ軸受けを介して配置され、前記電動アシスト装置へ固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記電動アシスト装置は、筒状のホルダを介してインパネに支持され、前記トルクセンサは前記ホルダの内部へ配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記電動アシスト装置は、入力軸と出力軸が同軸上に位置し、それぞれ軸受けを介して前記電動アシスト装置のギヤケースへ支持されるとともに、
前記トルクセンサの軸受けは、前記入力軸の軸受けの上方に位置することを特徴とする請求項3又は4に記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項1】
船体後部に水平方向へ回動可能に配置された舵取り手段と、
この舵取り手段を油圧駆動するため運転席のハンドル操作で油圧を発生するポンプ装置と、
ハンドル操作による操舵トルクを検出するトルクセンサと、このトルクセンサが検出したトルクに基づいてアシスト力を発生する電動アシスト装置とを備えた、小型船舶用パワーステアリング装置において、
前記電動アシスト装置の入力軸をハンドル軸へ連結するとともに、
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ配置し、ハンドルから入力軸へ加わる軸方向の衝撃荷重がトルクセンサの検出部へ直接加わらないようにしたことを特徴とする小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記トルクセンサは、前記操舵トルクにより前記電動アシスト装置の入力軸と出力軸間の捩れを磁気的に検出することを特徴とする請求項1に記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記トルクセンサは、前記入力軸の周囲へ軸受けを介して配置され、前記電動アシスト装置へ固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記電動アシスト装置は、筒状のホルダを介してインパネに支持され、前記トルクセンサは前記ホルダの内部へ配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記電動アシスト装置は、入力軸と出力軸が同軸上に位置し、それぞれ軸受けを介して前記電動アシスト装置のギヤケースへ支持されるとともに、
前記トルクセンサの軸受けは、前記入力軸の軸受けの上方に位置することを特徴とする請求項3又は4に記載した小型船舶用パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−73614(P2011−73614A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228243(P2009−228243)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
[ Back to top ]