説明

小型艇の駆動軸支持構造

【課題】ハルの簡素化を図り、さらに生産性を高めることができる小型艇の駆動軸支持構造を提供する。
【解決手段】 小型艇の駆動軸支持構造30は、駆動軸24を回転自在に支持する軸支え部41を、ハル12の内側43に備え、軸支え部41および開口部26間に配置され、駆動軸24が貫通可能な筒状体42を、ハル12の内側43に備える。この駆動軸支持構造30は、筒状体42の前端部42aを軸支え部41に連結し、かつ、筒状体42の後端部42bを開口部26に連結したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転をポンプに伝える駆動軸を支持する小型艇の駆動軸支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
小型艇として、艇体の下部を構成するハルを、艇体の上部を構成するデッキで覆い、ハルとデッキとで艇体を構成し、この艇体内にエンジンを備えるとともに、艇体の後部に水ジェットポンプを取り付け、この水ジェットポンプをエンジンで駆動することにより艇底から導入水路を介して水を吸い込み、吸い込んだ水を後方に噴射して滑走するものがある。
【0003】
水ジェットポンプで滑走する小型艇は、艇体の下部を構成するハルの後底部に下向きの凹部を設け、この凹部のうち、後部位にポンプを収納し、このポンプの前方の部位を水がポンプに吸い込まれる導入水路としている。
【0004】
この水ジェットポンプに艇体内のエンジンを連結するために、エンジンから艇体の後方に向けて駆動軸を延ばし、この駆動軸を、導入水路の壁部に設けた開口部を通して水ジェットポンプに連結する。
この駆動軸は、艇体に備えた駆動軸の支持構造で回転自在に支持されている。
【0005】
ここで、駆動軸を艇体内から艇体外に延ばすために、導入水路の壁部に開口部を形成する必要がある。
このため、駆動軸の支持構造は、開口部から艇体内に水が侵入しないように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−58871号公報
【0006】
特許文献1の駆動軸の支持構造は、ハルの導入水路を形成する傾斜壁に、ハルの前方に向けて凹みを形成し、この凹みにゴム製の連結部材が挿入され、連結部材の円筒部が凹みの開口部からハルの前方に向けて突出されている。
開口部から突出した円筒部の外側にゴム製の筒状嵌合部を嵌め込み、締付バンドで筒状嵌合部を円筒部に締め付ける。これにより、締付バンドで筒状嵌合部が円筒部に密着される。
【0007】
筒状嵌合部は軸支え部に一体形成され、軸支え部のフランジがカバーにボルト止めされている。このカバーはハルに固定されている。
軸支え部は軸受で駆動軸を回転自在に支持され、この駆動軸との間隙はシール材で密封されている。
これにより、導入水路内から筒状嵌合部内まで侵入した水が、ハル内に侵入することをシール材で阻止する。
【0008】
ここで、導入水路の傾斜壁に凹みを設けた主な理由について説明する。
すなわち、導入水路はポンプに水を導く通路であり、導入水路内を水が円滑に流れるように、連結部材を導入水路側に突出させないようにする必要がある。
このため、前述したように、導入水路の傾斜壁に、ハルの前方に向けて凹みを形成し、この凹みにゴム製の連結部材を挿入するようにした。
これにより、連結部材を導入水路側に突出させないようにすることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上説明したように、特許文献1のハルには、ハルの前方に向けて凹みが形成され、さらに、カバーが設けられている。
このため、ハルの形状が比較的複雑になり、そのことがハルのコストを抑える妨げになっていた。
【0010】
ところで、ハルに、駆動軸の支持構造を組み付ける際には、ハルの凹みにゴム製の連結部材を挿入するとともに、開口部から円筒部を突出させる。
次に、円筒部に筒状嵌合部を嵌合し、カバーに軸支え部をボルト止めする。
その後、締付バンドを締め付けて筒状嵌合部を円筒部に密着させて、駆動軸の支持構造をハルに組み付ける作業が完了する。
【0011】
ここで、ハルは比較的大型の部材であり、ハルの姿勢を頻繁に変えることは難しい。このため、駆動軸の支持構造をハルに組み付ける工程において、通常、ハルは、艇底が下向きになった状態で水平の姿勢に保たれている。
【0012】
よって、ハルの凹みにゴム製の連結部材を挿入したり、開口部から円筒部を突出させたりする際に、作業者は、身体をハルの凹みに合わせるために、比較的無理な体勢を保ちながら作業をおこなう必要がある。
同様に、円筒部に筒状嵌合部を嵌合したり、締付バンドを締め付けて筒状嵌合部を円筒部に密着させたりする際にも、作業者は、身体を円筒部に合わせるために、比較的無理な体勢を保ちながら作業をおこなう必要がある。
【0013】
このように、作業者は、ハルに身体を合わせて比較的無理な体勢を保ちながら、駆動軸の支持構造の組付け作業をおこなう必要があり、そのことが生産性を高める妨げになっていた。
【0014】
本発明は、ハルの簡素化を図り、さらに生産性を高めることができる小型艇の駆動軸支持構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、艇体の下部を構成するハルの後底部に下向きの凹部を設け、この凹部のうち、後部位にポンプを収納し、前部位をポンプに水を導く導入水路とし、この導入水路の前方で、かつ前記艇体内にエンジンを設け、このエンジンから艇体の後方に向けて駆動軸を延ばし、この駆動軸を、前記導入水路の壁部に設けた開口部を通して前記ポンプに連結した小型艇において、前記駆動軸を回転自在に支持可能な軸支え部と、この軸支え部および前記開口部間に配置され、前記駆動軸が貫通可能な筒状体とを、前記ハルの内側から取り付け、この筒状体の前端部を前記軸支え部に連結し、かつ、筒状体の後端部を開口部に連結したことを特徴とする。
【0016】
駆動軸が貫通可能な筒状体を備え、この筒状体の前端部を軸支え部に連結する。さらに、筒状体の後端部を、ハルの内側から開口部に連結する。
筒状体の後端部をハルの内側から開口部に連結することで、従来のハルのように、導入水路の傾斜壁に、筒状体を取り付ける凹みを形成する必要がない。これにより、ハルの形状を簡素化することができる。
【0017】
加えて、筒状体と同様に、軸支え部もハルの内側から取り付ける部材である。
筒状体および軸支え部をハルの内側から取り付けるように構成することで、筒状体に軸支え部を連結して一体化し、一体化した筒状体および軸支え部をハルの内側から取り付けることが可能である。
【0018】
ここで、筒状体や軸支え部はハルの内側に取り付けるので、筒状体に軸支え部を連結する際には、ハルの内側から取付作業をおこなうことができる。
これにより、作業者は無理のない体勢で筒状体や軸支え部をハルに取り付けることが可能になり、筒状体や軸支え部をハルに取り付ける作業を、容易におこなうことができる。
【0019】
請求項2に係る発明において、前記軸支え部は、前記駆動軸との間の間隙を密閉するシール材を有するとともに、この駆動軸の周囲に沿って前記艇体の後方に延びる弾性変形可能な筒状嵌合部を有し、この筒状嵌合部の端部を前記筒状体の前端部に嵌合させたことを特徴とする。
【0020】
軸支え部の筒状嵌合部を弾性変形可能に形成し、この筒状嵌合部を筒状体に嵌合させた。よって、一例として、小型艇を滑走する際に発生する振動を、筒状嵌合部を弾性変形させることで緩和する。
これにより、筒状嵌合部と筒状体との嵌合を好適に保つことができる。
さらに、軸支え部と駆動軸との間の間隙をシール材で密閉する。
【0021】
このように、筒状嵌合部と筒状体との嵌合を好適に保ち、かつ、軸支え部と駆動軸との間の間隙をシール材で密閉することで、開口部から筒状嵌合部や筒状体の内部に入り込んだ水を、それぞれの内部に蓄えておくことが可能になる。
これにより、開口部から入り込んだ水が、艇体内に侵入することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明では、導入水路の傾斜壁に、筒状体を取り付ける凹みを形成する必要がないので、ハル形状の簡素化を図り、コストを抑えることができるという利点がある。
【0023】
さらに、請求項1に係る発明では、筒状体に軸支え部を連結する作業の容易化を図ることで作業時間を短くし、生産性を高めることができるという利点がある。
【0024】
請求項2に係る発明では、開口部から筒状嵌合部や筒状体の内部に入り込んだ水を、それぞれの内部に蓄えておくことで、水が開口部から艇体内に侵入することを防ぐことができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向に従い、Frは前側、Rrは後側、Lは左側、Rは右側を示す。
【0026】
図1は本発明に係る駆動軸支持構造を備えた小型艇の側面図である。
小型艇10は、艇体11の下部をハル12で構成し、ハル12の後底部14に下向きの凹部15を設け、凹部15のうち、後部位16に水ジェットポンプ(ポンプ)18を収納し、水ジェットポンプ18の前方の前部位21を、水が水ジェットポンプ18に吸い込まれる導入水路とし、導入水路21の壁部25に開口部26を設け、導入水路21の前方で、かつ艇体11内にエンジン23を設け、エンジン23から艇体11の後方に向けて駆動軸24を延ばし、この駆動軸24を開口部26を通して水ジェットポンプ18に連結し、駆動軸24を駆動軸支持構造(小型艇の駆動軸支持構造)30で支えたウォータージェット推進艇である。
【0027】
この小型艇10は、デッキ13のほぼ中央に操舵ハンドル28を備え、この操舵ハンドル28の後方にシート29を備える。
艇体11は、艇体11の下部を構成するハル12を、艇体11の上部を構成するデッキ13で覆い、ハル12とデッキ13とで形成される。
【0028】
水ジェットポンプ18は、艇底22の導入水路21から後方へハウジング32を延ばし、このハウジング32内にインペラ33を回転自在に備える。このインペラ33に駆動軸24を連結する。
駆動軸24は、その前端部がカップリングジョイント34を介してエンジン23の出力軸36に連結されている。
【0029】
水ジェットポンプ18によれば、エンジン23を駆動してインペラ33を回転させることにより、艇底22の導入水路21から吸引した水を、ハウジング32の後部ノズル37を介してステアリングノズル(操舵ノズル)38から艇体11の後方へ噴射する。
これにより、小型艇10が前進状態で推進(滑走)する。
【0030】
小型艇10を後進させるときには、ステアリングノズル38の上方のリバースバケット39を、ステアリングノズル38後方の後進位置に移動する。
これにより、ステアリングノズル38から後方へ噴射した噴射水を、リバースバケット39で艇体11の前方に導き、導いた噴射水で小型艇10を後進させる。
【0031】
図2は本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造を示す断面図、図3は図2の3−3線断面図である。
駆動軸支持構造30は、駆動軸24を回転自在に支持する軸支え部41を、ハル12の内側43に備え、軸支え部41および開口部26間に配置され、駆動軸24が貫通可能な筒状体42を、ハル12の内側43に備える。
この駆動軸支持構造30は、筒状体42の前端部42aを軸支え部41に連結し、かつ、筒状体42の後端部42bを開口部26に連結したものである。
【0032】
開口部26は導入水路21の壁部25に形成されている。
壁部25は、艇体11の後方に向けて上り勾配に延びるように形成され、ハル12の底部(艇底)22から所定の間隔をおいて左右の側壁45,46を形成し、左右の側壁45,46の頂部に傾斜壁47を架け渡したものである。
【0033】
傾斜壁47は、艇体11の前後方向ほぼ中央で、かつ、艇体11の幅方向ほぼ中央の部位に楕円状の開口部26(図4も参照)が形成されている。
この楕円状の開口部26は、傾斜壁47に形成されているので、図3に示すように、水平方向から見た状態では円形になる。
【0034】
開口部26に、筒状体42の後端部42bを連結する。筒状体42には貫通孔51が形成され、この貫通孔51に駆動軸24が貫通される。
これにより、図1に示すエンジン23側から艇体後方に向けて延びた駆動軸24を、貫通孔51を経て導入水路21まで延ばし、導入水路21から水ジェットポンプ18までさらに延ばして水ジェットポンプ18に連結する。
【0035】
図4は本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造を示す分解斜視図である。
導入水路21の壁部25は、左側壁45の後部外側に載置部52を備え、左載置部52に左取付孔52aを形成し、右側壁46(図3参照)の後部外側に載置部52(図示せず)を備え、右載置部に右取付孔(図示せず)を形成したものである。
【0036】
さらに、壁部25は、傾斜壁47の前端部に前載置部53を備え、前載置部53の中央に隆起部54を備え、前載置部53の左右端に前取付孔53a,53aをそれぞれ形成したものである。
【0037】
筒状体42は、艇体11の前後方向に延び、前端部42aから後端部42bまで貫通する貫通孔51を備え、後端部42bに拡張部56および凸部57(図2参照)を備える。
この筒状体42は、貫通孔51に駆動軸24(図2参照)が貫通し、拡張部56が壁部25に接着剤で接着され、凸部57が開口部26に嵌入される。
【0038】
筒状体42にはカバー61が設けられている。カバー61は、筒状体42の左右側に左右のカバー壁62,63を備える。左カバー壁62の後端部を左フック部64に連結し、右カバー壁63の後端部を右フック部65に連結する。
左右のカバー壁62,63は、それぞれの前端部に支えカバー壁66を備え、それぞれの中央部に前後の補強リブ67,67を備える。
前後の補強リブ67,67に筒状体42を貫通させることで、それぞれの補強リブ67,67で筒状体42を支える。
【0039】
左フック部64は、拡張部56の左側から左上方に向けて延び、先端部に左フック片64aを備える。
右フック部65は、拡張部56の右側から右上方に向けて延び、先端部に右フック片65aを備える。
左右のフック片64a,65aに、ベルト(図示せず)をかけることで、左右のフック部64,65でマフラーを支持する。
【0040】
左カバー壁62は、艇体11の前後方向に延び、下縁62aが、導入水路21の左側壁45に当接可能に、艇体11の後方に向けて上り勾配に形成され、後端部に脚部68が形成されている。
脚部68のベース68aに取付孔68bが形成されている。
右カバー壁63は、左カバー壁62と左右対称の部材であり、各構成部位に左カバー壁62と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0041】
支えカバー壁66は、中央に開口71を形成し、開口71の周囲に、3個の取付孔72…を同一円弧状に等間隔をおいて形成し、下端部から前取付片73を前方に向けて張り出し、前取付片73の左右端部に取付孔73aを形成したものである。
筒状体42、カバー61および左右のフック部64,65で筒状カバー体58を構成する。
【0042】
筒状カバー体58の支えカバー壁66に、軸支え部41を取り付ける。
軸支え部41は、外筒部75内に軸受部76を備え、外筒部75の外壁にフランジ77を備え、外筒部75の後端から、艇体11の後方に向けて筒状嵌合部78を延ばしたものである。
【0043】
外筒部75は、支えカバー壁66の開口71に差し込み可能に形成された部材である。
フランジ77は、3個の取付孔81…(1個は図示せず)が同一円弧状に等間隔に形成されている。
各々の取付孔81…は、支えカバー壁66の取付孔72…に一致するように位置決めされている。取付孔81…を用いて、フランジ77を支えカバー壁66に取り付ける。
【0044】
筒状嵌合部78は、弾性変形可能な部材で筒状に形成され、後端部(端部)78aが筒状体42の前端部42aに嵌合可能に形成されている。
筒状嵌合部78の後端部78aに締付バンド82が設けられている。
【0045】
筒状嵌合部78を開口71から差し込み、筒状嵌合部78の後端部78aを、筒状体42の前端部42aに嵌合する。
この後、フランジ77の取付孔81…、および支えカバー壁66の取付孔72…にボルト83…を差し込み、取付孔81…から突出したボルト83…にナット84…(図2参照)を締め付けることにより、支えカバー壁66にフランジ77を固定する。
【0046】
支えカバー壁66にフランジ77を固定した後、締付バンド82を締め付ける。これにより、筒状カバー体58に軸支え部41が取り付けられ、筒状カバー体58および軸支え部41が一体化する。
【0047】
一体化した筒状カバー体58および軸支え部41を、ハル12の内側43から壁部25に固定する。
具体的には、筒状体42の拡張部56のうち、壁部25に臨む接着面56a(図2参照)に接着剤を塗布し、さらに、左カバー壁62の下縁62aおよび右カバー壁63の下縁63aに接着剤をそれぞれ塗布する。
【0048】
筒状カバー体58を壁部25に載せ、筒状体42の貫通孔51を、壁部25の開口部26に臨ませる。
筒状カバー体58の左右の脚部68,68を左右の載置部52,52(右側は図示せず)に載せるとともに、前取付片73を前載置部53に載せる。
【0049】
左側の脚部68の取付孔68bと、左側の載置部52の取付孔52aとにボルト86を差し込む。同様に、右側の脚部の取付孔と、右側の載置部の取付孔とにボルト86を差し込む。
さらに、前取付片73の取付孔73a,73aに、前載置部53の取付孔53a,53aにボルト87,87を差し込む。
差し込んだボルト86,86,87,87を締め付けることにより、筒状カバー体58を壁部25に確実に固定する。
【0050】
このように、筒状体42の前端部42aを筒状嵌合部78の後端部78aに連結し、筒状体42の後端部42bを、ハル12の内側43から開口部26に連結する。
筒状体42の後端部42bをハル12の内側43から開口部26に連結することで、従来のハルのように、導入水路の傾斜壁に、筒状体を取り付ける凹みを形成する必要がない。これにより、ハル12の形状を簡素化することができる。
【0051】
なお、筒状カバー体58を壁部25に固定する手段としてボルト86,86,87,87を用いた理由は以下の通りである。
すなわち、筒状カバー体58には左右のフック片64a,65aが設けられ、左右のフック片64a,65aに、ベルト(図示せず)をかけることで、左右のフック部64,65でマフラーを支持する。
【0052】
よって、筒状カバー体58に比較的大きな荷重がかかることが考えられる。そこで、筒状カバー体58をボルト86,86,87,87で壁部25に固定することで、その荷重に耐えられるようにした。
したがって、筒状カバー体58に左右のフック片64a,65aが設けられていない場合には、筒状カバー体58を接着剤のみで壁部25に固定することも可能である。
【0053】
図5は本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造を示す要部拡大図である。
筒状カバー体58を壁部25に固定することで、筒状体42の張出部56が、壁部25の傾斜壁47に当接し、貫通孔51が導入水路21に臨む。
筒状嵌合部78の後端部78aを筒状体42の前端部42aに嵌合し、締付バンド82を締め付けることで、筒状体42の貫通孔51を筒状嵌合部78の内部空間79に臨ませる。
【0054】
よって、筒状嵌合部78の内部空間79は、貫通孔51を介して導入水路21に連通する。
筒状嵌合部78の内部空間79の前方に、筒状嵌合部78および筒状体42と同軸上に軸受部76を設ける。
この軸受部76で駆動軸24を回転自在に支持し、この駆動軸24を筒状嵌合部78の内部空間79および貫通孔51を介して導入水路21に導くことが可能になる。
【0055】
図6は本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の筒状カバー体をハルから分解した状態を示す断面図である。
筒状体42は、後端部42bの拡張部56が、壁部25の表面25aに倣わせて形成されている。
すなわち、この拡張部56は、壁部25の表面25aに倣わせて、艇体11の後方に向けて上り勾配に形成され、かつ、艇体11の幅方向に湾曲形状に形成されている。
【0056】
拡張部56のうち、壁部25の表面25aに臨む接着面56aに、壁部25の開口部26に嵌入可能な凸部57を形成し、かつ凸部57の外側に凸部57の外周に沿わせて第1、第2のシール溝88,88を形成する。
【0057】
凸部57は、開口部26に嵌入した際に、凸部57の外周が開口部26の周縁に密着するように形成され、かつ、表面57aが壁部25の内面25bと面一になるように形成されている。
第1、第2のシール溝88,88に、それぞれ第1、第2のOリング89,89を嵌め込む。第1、第2のOリング89,89は、接着面56aと壁部25の表面25aとの間を密閉する部材である。
【0058】
図5に戻って、拡張部56の接着面56aを壁部25の表面25aに当接し、接着面56aを表面25aに接着剤で接着する。
さらに、左カバー壁62の下縁62a(図4参照)および右カバー壁63の下縁63aを、壁部25の表面25aに当接し、それぞれの下縁62a,63aを表面25aに接着剤で接着する。
これにより、筒状カバー体58が壁部25に固定され、筒状体42が艇体11の前方に向けて延びた状態に保たれる。
【0059】
図7は本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の筒状カバー体から軸支え部を分解した状態を示す断面図である。
軸支え部41は、艇体11(図1参照)の前後方向に筒状の外筒部75を延ばし、外筒部75内に軸受部76を密着させた状態で収納し、外筒部75の外壁にフランジ77を備え、フランジ77内に金属製の補強リング97を埋設し、外筒部75の後端から筒状嵌合部78を艇体11の後方に向けて延ばしたものである。
【0060】
外筒部75、フランジ77および筒状嵌合部78は、弾性変形可能な材質で一体に形成された部材である。
よって、筒状嵌合部78を弾性変形可能な筒部とすることができる。この筒状嵌合部78は、外筒部75から駆動軸24の周囲に沿って艇体11の後方に延びる筒部である。
【0061】
軸受部76は、筒部91内に前・後のベアリング92,93を備え、後ベアリング93の後方にシール材94,94,94を備え、前ベアリング92の前方にシール材95を備える。
フランジ77に金属製の補強リング97を埋設することで、フランジ77を補強リング97で補強する。
【0062】
軸支え部41を筒状カバー体58に取り付ける際には、筒状嵌合部78および外筒部75を開口71から矢印の如く差し込む。
筒状嵌合部78の後端部78aを筒状体42の前端部42aに嵌合する。前端部42aに後端部78aを嵌合し、締付バンド82を締め付ける。
これにより、筒状体42の前端部42aと、筒状嵌合部78の後端部78aとの間の間隙を密閉させた状態で、前端部42aおよび後端部78aを連結する。
【0063】
フランジ77を支えカバー壁66に当て、リング98の取付孔99…、支えカバー壁66の取付孔72…およびフランジ77の取付孔81…(すなわち、補強リング97の取付孔)にボルト83…を差し込む。
取付孔81…から突出したボルト83…にナット84…を締め付ける。
【0064】
フランジ77には金属製の補強リング97が埋設され、補強リング97にボルト83を貫通させることで、フランジ77を支えカバー壁66に強固に固定する。
このように、筒状体42の前端部42aおよび筒状嵌合部78の後端部78aを連結し、かつ、支えカバー壁66にフランジ77を固定することで、筒状カバー体58および軸支え部41を一体化した状態に保つ。
【0065】
図5に戻って、筒状体42の前端部42aと筒状嵌合部78の後端部78aとの間の間隙を密閉する。
さらに、筒状嵌合部78を弾性変形可能に形成することで、一例として、小型艇10を滑走する際に発生する振動を、筒状嵌合部78を弾性変形させることで緩和する。
これにより、内部空間79や貫通孔51の水が、前端部42aと後端部78aとの間から艇体11内に洩れることを防止する。
【0066】
軸支え部41の外筒部75内に軸受部76を収納し、軸受部76で駆動軸24を回転自在に支持する。
軸受部76は、筒部91内に前・後のベアリング92,93を備え、前・後のベアリング92,93で駆動軸24を回転自在に支持する。
【0067】
後ベアリング93の後方にシール材94,94,94を設けることで、軸受部76と駆動軸24との間の間隙をシール材94,94,94で密閉する。
これにより、内部空間79の水が、軸受部76と駆動軸24との間から艇体11内に洩れることを防止する。
【0068】
次に、小型艇の駆動軸支持構造20の組付け手順を図8〜図9に基づいて説明する。
図8(a),(b)は本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の軸支え部および筒状カバー体をハルに組み付ける状態を説明する図である。
(a)において、軸支え部41の筒状嵌合部78および外筒部75を、支えカバー壁66の開口71から矢印Aの如く差し込む。
筒状嵌合部78の後端部78aを筒状体42の前端部42aに嵌合させるとともに、軸支え部41のフランジ77を支えカバー壁66に当てる。
前端部42aに後端部78aを嵌合し、締付バンド82を締め付ける。
【0069】
この状態で、リング98の取付孔99…、支えカバー壁66の取付孔72…およびフランジ77の取付孔81…にボルト83…を矢印Bの如く差し込む。
取付孔83…から突出したボルト83…にナット84…を締め付け、フランジ77を支えカバー壁66に固定する。
これにより、軸支え部41を筒状カバー体58に一体に取り付ける。
【0070】
(b)において、一体化した筒状カバー体58および軸支え部41を、ハル12の内側43から壁部25に固定する。
具体的には、拡張部56の接着面56aを、壁部25の表面25aに矢印Cの如く当接するとともに、凸部57を開口部26に嵌入する。
そして、接着面56aを表面25aに接着剤で接着する。
同時に、左カバー壁62の下縁62a(図4参照)および右カバー壁63の下縁63aを、壁部25の表面25aに矢印Dの如く当接する。そして、各々の下縁62a,63aを表面25aに接着剤で接着する。
これにより、軸支え部41および筒状カバー体58を壁部25に固定する。
【0071】
この際に、筒状カバー体58の左右の脚部68,68を左右の載置部52,52(左側は図4参照)に載せるとともに、前取付片73を前載置部53に載せる。
左側の脚部68の取付孔68b(図4参照)と、左側の載置部52の取付孔52a(図4参照)とにボルト86を差し込む。同様に、右側の脚部68の取付孔68bと、右側の載置部52の取付孔52aとにボルト86を差し込む。
【0072】
さらに、前取付片73の取付孔73a,73aに、前載置部53の取付孔53a,53aにボルト87,87を差し込む。
差し込んだボルト86,86,87,87を締め付ける。これにより、軸支え部41および筒状カバー体58を壁部25にさらに強固に固定する。
【0073】
以上説明したように、筒状カバー体58や軸支え部41はハル12の内側43に設けられる部材である。筒状カバー体58および軸支え部41をハル12の内側43に設けられるように構成することで、筒状カバー体58に軸支え部41を連結して一体化し、一体化した筒状カバー体58および軸支え部41をハル12の内側43から取り付ける。
【0074】
ここで、筒状カバー体58や軸支え部41はハル12の内側43取り付けるので、筒状カバー体58に軸支え部41を連結する際には、ハル12の内側43から取付作業をおこなうことができる。
これにより、作業者は無理のない体勢で筒状カバー体58や軸支え部41を取り付けることが可能になり、これらの部材41,58の取付作業を、容易におこなうことができる。
【0075】
図9は本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の軸支え部および筒状カバー体をハルに組み付けた状態を説明する図である。
軸支え部41および筒状カバー体58を壁部25に固定することで、筒状体42の貫通孔51が導入水路21に臨む。
ここで、筒状体42の貫通孔51は筒状嵌合部78の内部空間79に臨んでいる。よって、筒状嵌合部78の内部空間79は、貫通孔51を介して導入水路21に連通する。
【0076】
筒状嵌合部78の内部空間79の前方に、筒状嵌合部78および筒状体42と同軸上に軸受部76を設ける。
この軸受部76で駆動軸24を回転自在に支持し、この駆動軸24を筒状嵌合部78の内部空間79および貫通孔51を介して導入水路21に導く。
【0077】
なお、前記実施の形態の筒状カバー体58や軸支え部41は例示したものに限定するものではなく適宜変更が可能である。
【0078】
また、前記実施の形態では、筒状体42の後端部42bに凸部57を設け、凸部57をハル12側の開口部26に嵌入させた例について説明したが、これに限らないで、後端部42bに凸部57を設けなくしてもよい。
【0079】
さらに、前記実施の形態では、筒状体42の前端部42aの外側に、筒状嵌合部78の後端部78aを嵌合させた例について説明したが、これに限らないで、筒状嵌合部78の後端部78aの外側に筒状体42の前端部42aを嵌合させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、エンジンの回転をポンプに伝える駆動軸を支持するために駆動軸支持構造を備えた小型艇への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る駆動軸支持構造を備えた小型艇の側面図である。
【図2】本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造を示す断面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造を示す分解斜視図である。
【図5】本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造を示す要部拡大図である。
【図6】本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の筒状カバー体をハルから分解した状態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の筒状カバー体から軸支え部を分解した状態を示す断面図である。
【図8】本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の軸支え部および筒状カバー体をハルに組み付ける状態を説明する図である。
【図9】本発明に係る小型艇の駆動軸支持構造の軸支え部および筒状カバー体をハルに組み付けた状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0082】
10…小型艇、11…艇体、12…ハル、14…後底部、15…凹部、16…凹部の後部位、18…水ジェットポンプ(ポンプ)、21…凹部の前部位(導入水路)、23…エンジン、24…駆動軸、25…壁部、26…開口部、30…小型艇の駆動軸支持構造、41…軸支え部、42…筒状体、42a…筒状体の前端部、42b…筒状体の後端部、43…ハル12の内側、78…筒状嵌合部、78a…筒状嵌合部の後端部(筒状嵌合部の端部)、94…シール材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
艇体の下部を構成するハルの後底部に下向きの凹部を設け、この凹部のうち、後部位にポンプを収納し、前部位をポンプに水を導く導入水路とし、この導入水路の前方で、かつ前記艇体内にエンジンを設け、このエンジンから艇体の後方に向けて駆動軸を延ばし、この駆動軸を、前記導入水路の壁部に設けた開口部を通して前記ポンプに連結した小型艇において、
前記駆動軸を回転自在に支持可能な軸支え部と、
この軸支え部および前記開口部間に配置され、前記駆動軸が貫通可能な筒状体とを、前記ハルの内側から取り付け、
この筒状体の前端部を前記軸支え部に連結し、かつ、筒状体の後端部を開口部に連結したことを特徴とする小型艇の駆動軸支持構造。
【請求項2】
前記軸支え部は、前記駆動軸との間の間隙を密閉するシール材を有するとともに、この駆動軸の周囲に沿って前記艇体の後方に延びる弾性変形可能な筒状嵌合部を有し、
この筒状嵌合部の端部を前記筒状体の前端部に嵌合させたことを特徴とする請求項1に記載の小型艇の駆動軸支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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