説明

小型電気機器用電磁鋼板およびその製造方法

【課題】 小型電気機器用の電磁鋼板として、磁気特性的に最も有利なだけでなく、経済的にも有利な電磁鋼板を提供する。
【解決手段】 成分系に関し、特に鋼中の不純物であるSe, S, OおよびNをそれぞれ 30ppm以下に低減すると共に、磁気特性に関し、圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)の磁束密度B50をそれぞれ1.70T以上にし、かつこれらの磁束密度比B50(L)/B50(C) を 1.005以上、 1.100以下とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として小型のモーターや発電機の鉄心材料に用いて好適な小型電気機器用電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】電磁鋼板の磁気特性は、結晶方位の影響を受け、結晶粒の磁化容易軸<001>が鋼板面に平行になっていることが優れた磁気特性を得る上で必要なことが知られている。
【0003】ところで、従来の電磁鋼板は、一般用冷延鋼板またはそれを脱炭した低級品、あるいはSiを添加し、さらに不純物を減少して鉄損を減少させた無方向性電磁鋼板や二次再結晶を利用してゴス({110}<001>)方位粒を優先成長させた一方向性電磁鋼板、さらには正キューブ({100}<001>)方位を発達させた二方向性電磁鋼板に分かれている。このうち無方向性電磁鋼板は、集合組織の発達が弱く、板面内に<001>軸が平行である結晶粒の数が少ないため、方向性電磁鋼板に比べると良好な磁気特性は得られない。
【0004】また、変圧器の鉄心材料として最も一般的に使用されている、ゴス方位に集積した結晶粒からなる一方向性電磁鋼板は、圧延方向に<001>が高度に集積していることから、圧延方向に磁化する場合には優れた磁気特性を示す。しかしながら、面内には磁化が最も困難である<111>軸も含まれているため、この方向に磁化する場合には磁気特性は極めて悪い。そのため、変圧器のように一方向の磁気特性が良好であればよい用途には有効ではあるが、モーターや発電機の鉄心材料のように面内のあらゆる方向で良好な磁気特性を必要とする場合には、一方向性電磁鋼板を使用しても良好な磁気特性は得られない。
【0005】これらの電磁鋼板に対し、{100}面を圧延面とする結晶組織を持つ電磁鋼板を製造することができれば、圧延面内には<100>軸が多く、また<111>軸が存在しないために有利である。特に圧延面が{100}で<001>軸の方向がランダムである{100}<uvw>組織は、面内における磁気特性の異方性が全くなくなるので、モーター用の材料として理想的である。
【0006】そのため{100}組織を発達させる技術は古くから試みられてきた。例えば、特公昭51−942 号公報には、冷間圧延の圧下率を85%以上好ましくは90%以上とした上で、 700〜1200℃で1分〜1時間の長時間焼鈍を施す方法が開示されている。しかしながら、この方法では、圧延後には{100}組織が発達するものの、再結晶させると{111}組織も発達するために、良好な磁気特性は得られない。
【0007】また、特公昭57−14411 号公報には、冷間圧延後の再結晶時にγ相からα相への相変態における冷却速度を制御することによって{100}組織を発達させる方法が開示されている。しかしながら、この技術では、再結晶時にγ変態を起こすことが前提になるので、α層を安定化するSi量を高めることはできない。例えば、C,Mnを含まない場合には、Si量が約2wt%以上になるとγ変態が起こらず、その場合にはこの技術を適用することはできない。従って、この技術は、鉄損の低減に有利なSiを増量することができない不利な方法といえる。
【0008】さらに、特開平5−5126号公報には、Cを 0.006〜0.020 wt%含む成分の鋼について、冷間圧延後、 900〜1100℃に加熱して再結晶させたのち、900 ℃以下で再結晶焼鈍を施す技術が開示されている。この技術により得られる磁気特性は、実施例1によると圧延方向と圧延直角方向の磁束密度B50の平均値で1.66〜1.68T程度であり、鋼板面内における<001>軸の集積度は高いとはいえない。以上述べたとおり、無方向性電磁鋼板の製造法に改良を加える従来の方法では、集積度の高い{100}組織は得られておらず、従って磁気特性の改善は不十分であった。
【0009】一方、二次再結晶によって正キューブ組織を発達させる、いわゆる二方向性電磁鋼板の製造方法も古くから検討されている。例えば、特公昭35−2657号公報には、一方向に冷間圧延したのち、さらにこの方向と交差する向きに冷間圧延を加え、短時間焼鈍と 900〜1300℃の高温焼鈍を行う、いわゆるクロス圧延により、正キューブ方位粒をインヒビターを利用して二次再結晶させる方法が、また特開平4−362132号公報には、熱延方向に対して直角の方向に50〜90%の圧下率で冷延したのち、一次再結晶を目的とする焼鈍を施し、ついで二次再結晶と純化を目的とする最終仕上焼鈍を施して、正キューブ方位粒をAlNを利用して二次再結晶させる方法が開示されている。これらの二次再結晶を利用する方法では、面内の<100>軸が圧延方向に高度に集積しているため、圧延方向および圧延直角方向の磁化特性は良好ではあるが、圧延方向から45°の方向は<110>方向になるので、この方向の磁化特性は悪い。
【0010】ところで、電磁鋼板を積層して使用する小型トランスの代表的な形状として、図1に示すような、EI型コアが知られている。このようなEI型コア用の鉄心材料としては、無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板の両方が現在用いられている。無方向性電磁鋼板を使用した場合は、方向性電磁鋼板を使用した場合に比べ、磁気特性のレベルが低いために、コアの磁気特性は劣っている。しかしながら、無方向性電磁鋼板は、方向性電磁鋼板に比べて製造プロセスが単純で価格が低いため、経済的な観点から使用されている。
【0011】他方、方向性電磁鋼板は、上述したとおり、圧延方向の磁気特性は良好ではあるが圧延直角方向の磁気特性は著しく劣っている。EI型コアの鉄心材料として使用した場合、磁束の流れは圧延方向と圧延直角方向の両方にまたがるので、無方向性電磁鋼板よりも良好ではあるが、磁気特性的に方向性電磁鋼板の有利な使用方法がなされているとは言えない。
【0012】磁気特性的には、圧延方向と圧延直角方向の両方の磁気特性が良好な二方向性電磁鋼板が最も有利であると考えられる。しかしながら、従来の技術では、二方向性電磁鋼板の製造には生産性が極めて低いクロス圧延が必要とされており、工業的に大量生産されたことは未だかつてない。また、EI型コアのような小型のトランス鉄心での磁束の流れは直角に変化する部分の影響も小さくないので、圧延方向から45°の方向の磁気特性が悪い二方向性電磁鋼板も必ずしも理想的な材料とは言えない。上述したとおり、従来の技術では、EI型コアのような小型トランスの鉄心材料として理想的な材料は提供されていない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、磁気特性的に最も有利なだけでなく、経済的にも有利な全く新しい小型電気機器用電磁鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、試行錯誤の末に、小型のトランス等の使途に最適な電磁鋼板を開発し、本発明を完成するに至ったのである。
【0015】すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量百分率でSi:2.0 〜8.0 %,Mn:0.005 〜3.0 %,Al:0.0010〜0.020 %を含み、かつSe,S,OおよびNの含有量をそれぞれ 30ppm以下に抑制し、残部は実質的にFeの組成になり、圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)の磁束密度B50がいずれも1.70T以上で、かつこれらの磁束密度比B50(L)/B50(C)が 1.005以上、 1.100以下であることを特徴とする小型電気機器用電磁鋼板。
【0016】2.鋼板を構成する結晶粒の方位につき、正キューブ({100}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が50%以上、80%以下で、かつゴス({110}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が6%以上、20%以下であることを特徴とする上記1記載の小型電気機器用電磁鋼板。
【0017】3.鋼板が、さらに、質量百分率でNi:0.01〜1.50%,Sn:0.01〜1.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜1.50%,Mo:0.005 〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする上記1または2記載の小型電気機器用電磁鋼板。
【0018】4.質量百分率でC:0.003 〜0.08%,Si:2.0 〜8.0 %,Mn:0.005 〜3.0 %,Al:0.0010〜0.020 %を含み、かつSe,S,OおよびNの含有量をそれぞれ 30ppm以下に抑制した組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、ついで 950〜1200℃以下の温度で熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで再結晶焼鈍後、必要に応じて焼鈍分離剤を適用してから、 750℃以上での平均加熱速度を25℃/h以下として 800℃以上の温度域まで加熱する最終仕上焼鈍を行うことを特徴とする小型電気機器用電磁鋼板の製造方法。
【0019】5.鋼スラブが、さらに、質量百分率でNi:0.01〜1.50%,Sn:0.01〜1.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜1.50%,Mo:0.005 〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする上記4記載の小型電気機器用電磁鋼板の製造方法。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明を由来するに至った実験結果について説明する。
C:0.010 %(質量百分率。以下、同じ),Si:2.5 %、Mn:0.05%、Al:0.0080%、N:8ppm およびO:12 ppmを含有し、インヒビター成分を含まない組成になる鋼塊Aを、連続鋳造によって製造し、1120℃に加熱後、熱間圧延により2.8mm厚の熱延板とした。ついで、この熱延板を、1150℃の窒素雰囲気中にて種々の温度で1分間均熱したのち、急冷し、ついで 230℃の温度で冷間圧延を行って0.35mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:75 vol%、窒素:25 vol%、露点:35℃の雰囲気中にて 920℃で均熱20秒の再結晶焼鈍を行い、Cを0.0020%以下まで低減したのち、最終仕上焼鈍を施した。最終仕上焼鈍は、常温から 750℃までは50℃/hの速度で、また 750℃から 900℃までは5℃/hの速度で加熱し、この温度に50時間保持する方法にて行った。
【0021】仕上焼鈍後のマクロ組織について調査した結果、全ての熱延板焼鈍温度で二次再結晶が完了していた。また、仕上焼鈍後の圧延方向(L方向)および圧延方向に対して直角方向(C方向)の磁束密度について調査した。さらに、得られた製品板を用いてEI型コアを作製し、その鉄損 (W15/50)を測定した。
【0022】図2に、熱延板焼鈍温度と製品板のL方向およびC方向の磁束密度B50ならびにそれらの比B50(L)/B50(C) との関係を整理して示す。図2に示したように、熱延板焼鈍温度が低い場合にはL方向の磁束密度の方がC方向よりも著しく高いものの、熱延板焼鈍温度が高くなると、最終的にC方向の特性がL方向よりもわずかに高くなることが判明した。
【0023】次に、図3に、EI型のコアの鉄損と製品板のL,C方向の磁束密度比B50(L)/B50(C) との関係を示す。図3に示したように、EI型コアの鉄損は、L方向とC方向の磁束密度の比が1.005 〜1.100 の範囲、すなわちL方向の磁束密度がC方向のそれよりも若干高い場合に、最も良好になることが新規に知見された。
【0024】次に、このような磁束密度の違いは鋼板の集合組織の差によるものと考え、各々の製品板について、その表面の二次再結晶粒の方位測定を、X線回折ラウエ法を用いて 100mm×280mm の領域について行い、各結晶方位粒の面積率を求めた。図4に、熱延板焼鈍温度と製品板のゴス({110}<001>)方位からのずれ角が20°以内の結晶粒の面積率および正キューブ({100}<001>)方位粒からのずれ角が20°以内の結晶粒の面積率との関係を示す。鋼塊Aでは、熱延板焼鈍温度が 950℃以上になると、正キューブ方位近傍の結晶粒が最も多く、少数のゴス方位近傍の結晶粒が少数混在する状態となることが分かった。定量的には、図4R>4によると、磁束密度の比が 1.005〜1.100 の範囲であった熱延板焼鈍温度が 950〜1200℃の時には、正キューブ方位からのずれ角が20°以内である結晶粒の比率が50〜80%、一方ゴス方位からのずれ角が20°以内の結晶方位を持つ二次再結晶粒の比率は6〜20%であった。
【0025】そこで、発明者らは次に、上記の知見、すなわちL方向の磁束密度がC方向よりも若干高い場合に、EI型コアの鉄損が最も良好であることを確認するために、鋼塊Aの製品板と同じ板厚:0.35mmで、Siを 2.5%含有し、ゴス方位が集積している一方向性電磁鋼板、および正キューブ方位が高度に集積している二方向性電磁鋼板の製品板を用いて、同一のEI型コアを作製し、単板での磁束密度およびコア組み立て後の鉄損を比較してみた。得られた結果を図5(a), (b)に示す。
【0026】同図に示したとおり、EI型コアの鉄損は、一方向性電磁鋼板や二方向性電磁鋼板を用いた場合よりも、鋼塊Aから得られた電磁鋼板を用いた場合の方が優れていることが分かる。なお、L方向とC方向の磁束密度の比は、鋼塊Aにおいては 1.015であったのに対して、一方向性電磁鋼板では1.331 、二方向性電磁鋼板では1.002 といずれも前述の好適な範囲から外れていた。この結果は、発明者らの実験から得られたEI型コアの鉄損はL方向とC方向の磁束密度の比が 1.005〜1.100 の範囲、すなわちL方向がC方向より若干高い場合に鉄損が最も良好になることを裏付づけている。
【0027】なお、参考のため、一方向性電磁鋼板および二方向性電磁鋼板の各製品板表面の二次再結晶粒の方位測定を、X線回折ラウエ法を用いて 100mm×280mm の領域について行い、各結晶方位粒の面積率を求めた。その結果、一方向性電磁鋼板の製品板における二次再結晶粒のゴス方位からのずれ角が20°以内の二次再結晶粒の存在頻度は96%であり、また二方向性電磁鋼板の製品板における二次再結晶粒の正キューブ方位からのずれ角が20°以内の二次再結晶粒の存在頻度は90%であった。
【0028】このような一方向性および二方向性電磁鋼板の製品板における高度な方位集積は、磁気特性の異方性を著しく増加させる。そのために様々な方向へと磁束の流れが変化しがちな小型EI型コアでは、鋼塊Aのように正キューブ方位からのずれ角が20°以内である結晶粒が適度に発達して、ゴス方位からのずれ角が20°以内の結晶方位が少量混在した集合組織の方が圧延方向および圧延直角方向の両方の磁気特性が良好で、かつそれ以外の方向での磁気特性の低下も比較的小さいので、EIコアの鉄損が最適になったものと推定される。
【0029】このように、鋼塊Aを用い、最終仕上焼鈍時の二次再結晶により、正キューブ組織とゴス組織の両方を適度に発達させ、圧延方向の磁束密度と圧延直角方向の磁束密度の比を 1.005〜1.100 とすることにより、EI型の小型トランスの鉄損を効果的に減少させられることが新規に知見された。
【0030】さらに、発明者らは、鋼塊Aを用いて、最終仕上焼鈍における加熱速度を変化させる次のような実験を行った。1150℃に加熱したスラブを、熱間圧延によって 2.8mm厚の熱延板としたのち、1180℃の窒素雰囲気中で1分間均熱後、急冷した。ついで、250 ℃の温度で冷間圧延を行って0.35mmの最終板厚に仕上げた後、水素:75 vol%、窒素:25 vol%、露点:35℃の雰囲気中にて 920℃で均熱20秒の再結晶焼鈍を行い、Cを0.0020%以下まで低減したのち、仕上焼鈍を行った。仕上焼鈍は、常温から 750℃までは50℃/hの加熱速度で、 750℃から 900℃までは加熱速度を種々に変更して昇温し、900 ℃で50時間保持する方法にて行った。
【0031】仕上焼鈍後の圧延方向(L方向)および圧延方向に対して直角方向(C方向)の磁束密度について調査した。また、得られた製品板を用いてEI型コアを作製し、その鉄損 (W15/50)を測定した。さらに、各々の製品板の二次再結晶粒の方位測定を、X線回折ラウエ法を用いて 100mm×280mm の領域について行い、正キューブ方位近傍の結晶粒およびゴス方位近傍の結晶粒の存在頻度を調査した。
【0032】図6(a), (b)に、最終仕上焼鈍時の 750℃以上の温度域における加熱速度と、製品板のL方向およびC方向の磁束密度B50ならびにそれらの比B50(L)/B50(C) との関係を示す。図6に示したとおり、加熱速度が25℃/h以下の場合に、圧延方向の磁束密度と圧延直角方向の磁束密度の比が 1.005〜1.100 を満たし、加熱速度が25℃/hを超えると圧延直角方向の磁束密度が低下して磁束密度の比が 1.100を超えるようになった。
【0033】また、図7に、圧延方向の磁束密度と圧延直角方向の磁束密度の比とEI型コアの鉄損との関係を示すが、同図に示したとおり、磁束密度の比が 1.100を超えた場合には、EI型コアの鉄損は急激に劣化する。
【0034】さらに、図8に、正キューブ方位からのずれ角が20°以内である結晶粒の面積率とゴス方位からのずれ角が20°以内の結晶方位を持つ二次再結晶粒の面積率について調べた結果を示す。同図に示したとおり、加熱速度が速くなるほど正キューブ方位粒が減少し、ゴス方位粒やその他の方位を持つ結晶粒が増加する傾向にある。そして、同図によれば、良好な鉄損が得られた加熱速度が25℃/h以下の場合には、正キューブ方位粒の面積率が50〜80%で、かつゴス方位粒の面積率が6〜20%の範囲にあることが分かる。このように、二次再結晶粒の方位は、 750℃以上の温度域における加熱速度の如何によって変化し、750 ℃以上の温度域での加熱速度を25℃/h以下とすることによって、圧延方向の磁束密度と圧延直角方向の磁束密度の比が 1.005〜1.100を満たすEI型コアの鉄損低減に最適な集合組織が得られることが究明されたのである。
【0035】
【作用】上述したように、正キューブ組織を主体としてゴス組織を少量発達させた集合組織とすることによって、圧延方向の磁束密度と圧延直角方向の磁束密度の比が1.005〜1.100 となり、EI型コアの素材として最適の組織となる理由については、必ずしも明らかではないが、発明者らは以下のように考えている。このような集合組織を得られる製造条件として、素材中にCを 0.003〜0.08%程度含有させることが効果的である。おそらく、固溶Cの影響で圧延時に交差すべりが増加して変形帯の形成を促進し、キューブ粒やゴス粒の再結晶核を増加させるものと推定される。また、冷間圧延時の少なくとも1パスの圧延温度を100〜250 ℃に上昇させて行うことも、同様に交差すべりを増加させて変形帯の形成を促進し、キューブ粒やゴス粒の再結晶核を増加させるのに有効である。
【0036】先に述べた実験で知見されたように、熱延板焼鈍を 950〜1200℃の温度範囲で行うことが有効である。この場合、冷間圧延前の粒径が粗大になり、粒界からの再結晶核の形成が抑えられ、再結晶焼鈍後の{111}組織が減少するものと考えられる。{111}組織はゴス方位粒によって消費され易いので、ゴス方位粒を優先的に二次再結晶させるのに役立っていることが一般的に知られている。そのため{111}組織を減少させることは、ゴス方位の二次再結晶粒を低減させるのに有効であるものと考えられる。また、{100}<011>方位粒は、熱延板焼鈍後に特に優先的に粒成長する。しかも、この{100}<011>方位粒は、冷間圧延時に方位が変化しない安定方位である。そして再結晶後においても{100}<011>方位が増加する。また{100}<011>方位粒は、ゴス方位粒によって蚕食されにくいことが知られている。それ故、{100}<011>方位の増加は、ゴス方位粒の成長を抑え、かわって正キューブ方位粒を優先的に成長させるものと考えられる。
【0037】さらに、最終仕上焼鈍時の加熱速度が小さい場合には、正キューブ方位粒が主に発達し、加熱速度が大きい場合にはゴス方位粒が発達する傾向にあることが知見されたが、この点については、それぞれの方位粒毎に、二次再結晶粒の成長開始までの潜伏時間に加熱速度が異なる影響を及ぼしたものと推定されるが、本質的な機構は明らかでない。
【0038】また、本発明技術において、インヒビター成分を含まない鋼において二次再結晶が発現する理由については、必ずしも明らかではないが、以下のように考えている。発明者らは、従来から、ゴス方位粒が二次再結晶する機構について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角(隣り合う結晶の格子を重ねるのに必要な最小回転角)が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを見出し、Acta Material 45巻 (1997) 85ページに報告した。方向性電磁鋼板の二次再結晶直前の状態である一次再結晶組織を解析し、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(%)について調査した結果を、図9に示す。同図において、結晶方位空間はオイラー角(Φ1、Φ、Φ2)のΦ2=45°断面を用いて表示しており、ゴス方位などの主な方位を摸式的に表示してある。
【0039】さて、図9によれば、ゴス方位粒周囲における方位差角が20〜45°である粒界の存在頻度については、ゴス方位が最も高い頻度を持つ。方位差角:20〜45°の粒界は、C.G.Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻(1949) 368 ページ)によれば、高エネルギー粒界である。高エネルギー粒界は、粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。粒界拡散は、粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい高エネルギー粒界の方が粒界拡散が速い。二次再結晶は、インヒビターと呼ばれる析出物の拡散律速による成長に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上焼鈍中の優先的に粗大化が進行するので、優先的にピン止めがはずれて、粒界移動を開始しゴス粒が成長する機構を示した。
【0040】発明者らは、上記の研究をさらに発展させて、ゴス方位粒の二次再結晶の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度差を生じさせることにあることを突き止めた。従って、この理論に従えば、インヒビターを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、二次再結晶させることが可能となる。
【0041】鋼中に存在する不純物元素は、粒界特に高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度に差がなくなっているものと考えられる。従って、素材の高純度化によって、このような不純物元素の影響を排除してやれば、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、ゴス方位粒の二次再結晶が可能になることが期待される。以上の考察に基づいて、発明者らは、インヒビター成分を含まない成分系においても、素材の高純度化により二次再結晶を生じさせ得ることを究明したのである。
【0042】次に、本発明の構成要件の限定理由について説明する。まず、鋼板の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
Si:2.0 〜8.0 %Siは、電気抵抗を高め、鉄損を改善する有用元素であるが、含有量が 2.0%に満たないとその効果に乏しく、またγ変態を生じ、熱延組織が大きく変化する他、最終仕上焼鈍において変態し、良好な磁気特性を得ることができない。一方、Si量が 8.0%を超えると、製品の二次加工性が悪化し、さらに飽和磁束密度も低下するので、Si量は 2.0〜8.0 %の範囲に制限した。
【0043】Mn:0.005 〜3.0 wt%Mnは、熱間加工性を良好にするために必要な元素であるが、0.005 %未満ではその添加効果に乏しく、一方 3.0%を超えると二次再結晶が困難となるので、Mn量は 0.005〜3.0 %の範囲に制限した。
【0044】Al:0.0010〜0.020 %本発明では、Alを微量含有させることによって、仕上焼鈍時の二次再結晶の発現が良好になり、正キューブ方位粒を適度に発達させることができる。しかしながら、含有量が0.0010%に満たないと正キューブ方位およびゴス方位の集積度が低下して磁束密度が低下し、一方 0.020%を超えても、やはり正キューブ方位およびゴス方位の集積度が低下し、所望の磁気特性が得られないので、Alは0.0010〜0.020 %の範囲で含有させるものとした。ここに、微量Alの影響は明らかではないが、微量Alが表層に緻密な酸化層を形成して、仕上焼鈍時の表面酸化や窒化の進行を抑える働きが有効に働くものと推定される。なお、本発明では素材成分としては窒素を極力低減するので、AlNをインヒビターとして機能させて二次再結晶させる従来の製造方法とは異なる。
【0045】Se,S,OおよびN:それぞれ 30ppm以下Se,S,OおよびNはいずれも、二次再結晶組織の発現を大きく阻害し、しかも地鉄中に残存して鉄損を劣化させる有害元素である。そこで、Se,S,OおびNはいずれも 30ppm以下(望ましくは20ppm 以下)に低減するものとした。なお、これらの元素はいずれも、後工程で除去が困難なため、溶鋼成分において 30ppm以下、望ましくは 20ppm以下に低減しておくことが好ましい。
【0046】以上、必須成分および抑制成分について説明したが、本発明ではその他、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。まず、磁束密度を向上させるためにNiを添加することができる。しかしながら、添加量が0.01wt%に満たないと磁気特性の向上量が小さく、一方1.50wt%を超えると二次再結晶粒の発達が不十分で満足いく磁気特性が得られないので、添加量は0.01〜1.50wt%とする。また、鉄損を向上するために、Sn:0.01〜1.50wt%、Sb:0.005 〜0.50wt%、Cu:0.01〜1.50wt%、Mo:0.005 〜0.50wt%、Cr:0.01〜1.50wt%を添加することができる。これらの元素はいずれも、上記の範囲より添加量が少ない場合には鉄損改善効果がなく、一方添加量が多い場合には二次再結晶粒が発達しなくなり鉄損の劣化を招く。
【0047】以上、本発明の成分系について説明したが、本発明ではこれだけでは不十分で、圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)の磁束密度B50について、次の範囲を満足させる必要がある。すなわち、EI型コアのような小型トランスの鉄損を効果的に低減するためには、L方向とC方向の磁束密度が共にB50≧1.70Tで、かつこれらの磁束密度比B50(L)/B50(C) が 1.005以上、 1.100以下の範囲に制御することが不可欠である。というのは、磁束密度B50が1.70T未満では、ヒステリシス損が増加して鉄損が劣化し、一方B50(L)/B50(C) が 1.005以上、 1.100以下の範囲を外れると、コア内部で磁化方向が回転している部分での鉄損が増大し、コア全体の鉄損も劣化するからである。
【0048】また、上記したような磁気特性を得るためには、製品板を構成するの結晶粒の方位制御をすることが効果的である。すなわち、鋼板を構成する結晶粒の方位につき、正キューブ方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が50%以上、80%以下で、かつゴス方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が6%以上、20%以下の範囲にすることが重要であり、かような集合組織とすることによって効果的に、L方向とC方向の磁束密度が共にB50≧1.70Tで、かつB50(L)/B50(C) を 1.005以上、 1.100以下の範囲に制御することができる。
【0049】次に、本発明の製造方法について説明する。まず、素材成分について説明する。
C:0.003 〜0.08%Cは、結晶粒内における局所変形を促進して、正キューブおよびゴス組織の発達を促し磁気特性を向上させるのに有効であるが、含有量が 0.003%に満たないと変形帯の生成効果が小さくなるために磁束密度が低下し、一方0.08%を超えると再結晶焼鈍時に除去することが困難になり、また熱延板焼鈍時に部分的にγ変態を起こし、粗大な冷延前粒径を確保しにくくなるので、C量は 0.003〜0.08%の範囲に限定した。
【0050】その他、SiやMn, Al等の必須成分、SeやS,O, N等の抑制成分およびNiやSn, Sb, Cu, Mo, Cr等の磁気特性改善成分についての添加理由は、電磁鋼板について上述したところと同じである。
【0051】上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、通常の造塊法や連続鋳造法によりスラブとする。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。スラブ加熱温度は、素材成分にインヒビター成分を含まないので、熱間圧延が可能な最低温度の1100℃程度で十分である。
【0052】ついで、熱延板焼鈍を施すが、正キューブ組織およびゴス組織を製品板において適度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は 950℃以上、1200℃以下とする必要がある。というのは、熱延板焼鈍温度が 950℃未満では冷間圧延前の粒径が粗大化せず、製品板における正キューブおよびゴス組織の発達が低下して所望の磁気特性が得られず、一方1200℃を超えると製品板のゴス組織の発達が低下し、磁束密度の異方性が劣化するからである。
【0053】熱延板焼鈍後、必要に応じて中間焼鈍を挟む1回以上の冷延を施したのち、脱炭を兼ねる再結晶焼鈍を行い、Cを磁気時効の起こらない 50ppm以下好ましくは30ppm 以下まで低減する。また、冷間圧延の温度を 100〜250 ℃に上昇させて行うことは正キューブ組織およびゴス組織を発達させる点で有効である。さらに、最終冷延後の脱炭を兼ねる再結晶焼鈍は 750〜950 ℃の範囲で行うことが好適である。なお、最終冷間圧延後あるいは再結晶焼鈍後に、浸珪法によってにSi量を増加させる技術を併用してもよい。
【0054】その後、必要に応じて焼鈍分離剤を適用する。焼鈍分離剤としては、シリカ、アルミナ、マグネシア等の耐火物粉末のスラリーあるいはコロイド溶液が好適である。また、これらの耐火物粉末を静電塗布等のドライコーティングにより鋼板に付着させる方法は、仕上げ焼鈍雰囲気に水分を含ませないためより好ましい。さらに、これらの耐火物を溶射等で表面にコーティングした鋼板を挟み込む方法も適用できる。
【0055】ついで、最終仕上焼鈍を施すことによって二次再結晶組織を発達させる。本発明では、上記の最終仕上焼鈍において、 750℃以上の温度域における平均加熱速度を25℃/h以下として 800℃以上の温度域まで加熱することが、正キューブおよびゴス方組織を製品板において速度に発達させる上で極めて重要である。この点、 750℃以上での平均加熱速度が25℃/hを超えると、正キューブ組織が減少してゴス組織が増加し、所望の磁気特性が得られない。なお、750 ℃までの加熱速度は、磁気特性に大きな影響を与えないので任意の条件でよい。また、上記のような制御加熱を施すべき温度が 800℃に満たないと二次再結晶粒の発達が不十分となり磁気特性が劣化するので、かような制御加熱は 800℃以上まで行う必要がある。さらに、二次再結晶粒の発達のためには不必要であるが、フォルステライト被膜のような下地被膜を必要とする場合には、1100℃程度まで昇熱することに問題はない。
【0056】なお、鋼板を積層して使用する場合には、上記の最終仕上焼鈍後、鉄損を改善するために、鋼板表面に絶縁コーティングを施すことが有効である。この目的のためには、2種類以上の被膜からなる多層膜であっても良いし、また用途に応じて樹脂等を混合させたコーティングを施しても良い。さらに、張力を付与する燐酸塩を主体とする絶縁コーティングも鉄損や騒音を低下させるために有効である。
【0057】
【実施例】実施例1C:0.009 %, Si:2.4 %, Mn:0.02%, Al:0.012 %, Se:3ppm , S:14ppm , O:10ppm およびN:9ppm を含み、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1100℃, 20分間のスラブ加熱後、熱間圧延により 3.0mm厚の熱延板としたのち、熱延板焼鈍を表1に示す均熱温度で30秒間行ったのち、150 ℃の冷間圧延により0.35mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:75 vol%、窒素:25 vol%、露点:20℃の雰囲気中にて 930℃で均熱10秒の再結晶焼鈍を行い、Cを 10ppmに低減したのち、(50%N2+50%Ar)の混合雰囲気中にて 750℃までは50℃/hの速度で、また 750℃以上については表1に示す種々の加熱速度で 950℃まで加熱し、30時間保持する方法にて、仕上焼鈍を行った。その後、重クロム酸アルミニウム、エマルジョン樹脂、エチレングリコールを混合したコーティング液を塗布し、300 ℃で焼き付けて製品とした。
【0058】かくして得られた製品板の磁束密度B50をL, C方向について測定した。また、製品板を打ち抜き加工してEI型コアを作製し、その鉄損を測定した。さらに、製品板の結晶方位を、X線回折ラウエ法を用いて 100mm×280mm の領域について測定し、正キューブ方位およびゴス方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率を求めた。得られた結果を表1に併記する。
【0059】
【表1】


【0060】表1によれば、圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)の磁束密度B50が共にB50≧1.70Tで、かつ磁束密度の比B50(L)/B50(C) が 1.005以上、1.100 以下を満足する場合に、極めて優れたEI型コア鉄損が得られることが分かる。また、このような磁気特性は、正キューブ({100}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が50%以上、80%以下で、かつゴス({110}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が6%以上、20%以下を満足する場合に得られている。
【0061】実施例2C:0.022 %, Si:3.3 %, Mn:0.52%, Al:0.0050%, Se:5ppm , S:5ppm 、O:15ppm およびN:10ppm を含み、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1200℃, 20分間のスラブ加熱後、熱間圧延により 3.2mm厚の熱延板としたのち、1050℃, 20秒間の熱延板焼鈍を行った。その後、常温にて冷間圧延を行い 1.5mmの中間厚に仕上げたのち、1000℃, 30秒の中間焼鈍を施し、引き続き常温の冷間圧延にて0.28mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:75 vol%、窒素:25 vol%、露点:40℃の雰囲気中にて 850℃で均熱30秒の再結晶焼鈍を行い、Cを 10ppmに低減したのち、アルゴン雰囲気中にて 750℃までは70℃/hの速度で、また 750℃から 820℃までは10℃/hの速度で加熱し、820 ℃に 100時間保持する方法にて、仕上焼鈍を行った。その後、重クロム酸アルミニウム、エマルジョン樹脂、エチレングリコールを混合したコーティング液を塗布し、300 ℃で焼き付けて製品とした。
【0062】かくして得られた製品板の磁束密度B50をL, C方向について測定した。また、製品板を打ち抜き加工してEI型コアを作製し、その鉄損を測定した。さらに、製品板の結晶方位を、X線回折ラウエ法を用いて 100mm×280mm の領域について測定し、正キューブ方位およびゴス方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0063】
【表2】


【0064】表2に示したとおり、本発明法に従えば、L方向とC方向の磁束密度B50が共にB50≧1.70Tで、かつB50(L)/B50(C) が 1.005以上、1.100 以下を満足する、EI型コア用素材として最適の電磁鋼板を得ることができた。また、かかる電磁鋼板は、正キューブ({100}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が50%以上、80%以下で、かつゴス({110}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が6%以上、20%以下を満足する集合組織となっていた。
【0065】実施例3表3に示す種々の成分組成になる鋼スラブを、1160℃に加熱後、熱間圧延により 2.8mm厚の熱延板とした。ついで、1100℃で均熱60秒の条件で熱延板焼鈍を行ったのち、250 ℃の温度で0.50mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:75 vol%、窒素:25 vol%、露点:35℃の雰囲気中にて 900℃で均熱20秒の脱炭を兼ねる再結晶焼鈍を行い、Cを 20ppmに低減した。ついで、窒素雰囲気中にて 750〜950 ℃まで 2.5℃/hで昇温する仕上焼鈍を行った。その後、リン酸アルミニウム、重クロム酸カリウム、ホウ酸を混合したコーティング液を塗布し、300 ℃で焼き付けて製品とした。
【0066】かくして得られた製品板の磁束密度B50をL, C方向について測定した。また、製品板を打ち抜き加工してEI型コアを作製し、その鉄損を測定した。さらに、製品板の結晶方位を、X線回折ラウエ法を用いて 100mm×280mm の領域について測定し、正キューブ方位およびゴス方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率を求めた。得られた結果を表4に示す。
【0067】
【表3】


【0068】
【表4】


【0069】表4に示したとおり、本発明の成分組成範囲を満足し、かつL方向およびC方向の磁束密度ならびにこれらの比B50(L)/B50(C) が適正範囲を満足するものはいずれも、EI型コアにおいて良好な鉄損が得られている。
【0070】以上、実施例では、本発明の電磁鋼板の用途としてEI型コアを製造した場合について説明したが、本発明の用途は必ずしもEI型コアのような小型トランスに限定されるものではない。本発明の電磁鋼板は、圧延方向および圧延直角方向の磁気特性が無方向性電磁鋼板に比べて格段に優れているため、通常のモーターに使用しても高い効率を得ることができる。なお、従来技術で製造される二方向性電磁鋼板と比較すると、磁気特性はやや劣るものの、素材としてインヒビターを使用せず、また製造工程としてクロス圧延を施す必要がないので、低コストにて大量生産可能であるという大きな利点がある。
【0071】
【発明の効果】本発明に従い得られた電磁鋼板は、従来の一方向性電磁鋼板や二方向性電磁鋼板に比較して、磁気特性の異方性が小さいので、コア内部での磁束の方向の変化が大きい小型モーターや発電気用の鉄心材料の素材として最適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 EI型コアの形状を示した図である。
【図2】 熱延板焼鈍温度と、製品板のL方向およびC方向の磁束密度B50ならびにそれらの比B50(L)/B50(C) との関係を示したグラフである。
【図3】 製品板におけるB50(L)/B50(C) とEI型コアの鉄損(W15/50 )との関係を示したグラフである。
【図4】 熱延板焼鈍温度と、製品板におけるゴス({110}<001>)方位からのずれ角が20°以内の結晶粒の面積率および正キューブ({100}<001>)方位粒からのずれ角が20°以内の結晶粒の面積率との関係を示したグラフである。
【図5】 鋼魂A、一方向性電磁鋼板および二方向性電磁鋼板それぞれの磁束密度およびEI型コアでの鉄損を示した図である。
【図6】 最終仕上焼鈍時の 750℃以上の温度域における加熱速度と、製品板のL方向およびC方向の磁束密度B50ならびにそれらの比B50(L)/B50(C) との関係を示したグラフである。
【図7】 製品板におけるL方向とC方向の磁束密度B50の比B50(L)/B50(C)とEI型コアの鉄揖(W15/50 )との関係を示したグラフである。
【図8】 最終仕上焼鈍時の 750℃以上の温度域における加熱速度と、製品板における、ゴス({110}<001>)方位からのずれ角が20°以内の結晶粒の面積率および正キューブ({100}<001>)方位粒からのずれ角が20°以内の結晶粒の面積率との関係を示したグラフである。
【図9】 一次再結晶組織における、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(%)を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量百分率でSi:2.0 〜8.0 %,Mn:0.005 〜3.0 %,Al:0.0010〜0.020 %を含み、かつSe,S,OおよびNの含有量をそれぞれ 30ppm以下に抑制し、残部は実質的にFeの組成になり、圧延方向(L方向)と圧延直角方向(C方向)の磁束密度B50がいずれも1.70T以上で、かつこれらの磁束密度比B50(L)/B50(C)が 1.005以上、 1.100以下であることを特徴とする小型電気機器用電磁鋼板。
【請求項2】 鋼板を構成する結晶粒の方位につき、正キューブ({100}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が50%以上、80%以下で、かつゴス({110}<001>)方位からの方位差が20°以内である結晶粒の面積率が6%以上、20%以下であることを特徴とする請求項1記載の小型電気機器用電磁鋼板。
【請求項3】 鋼板が、さらに、質量百分率でNi:0.01〜1.50%,Sn:0.01〜1.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜1.50%,Mo:0.005 〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする請求項1または2記載の小型電気機器用電磁鋼板。
【請求項4】 質量百分率でC:0.003 〜0.08%,Si:2.0 〜8.0 %,Mn:0.005 〜3.0 %,Al:0.0010〜0.020 %を含み、かつSe,S,OおよびNの含有量をそれぞれ 30ppm以下に抑制した組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、ついで 950〜1200℃以下の温度で熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで再結晶焼鈍後、必要に応じて焼鈍分離剤を適用してから、 750℃以上での平均加熱速度を25℃/h以下として 800℃以上の温度域まで加熱する最終仕上焼鈍を行うことを特徴とする小型電気機器用電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】 鋼スラブが、さらに、質量百分率でNi:0.01〜1.50%,Sn:0.01〜1.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜1.50%,Mo:0.005 〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする請求項4記載の小型電気機器用電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2001−158950(P2001−158950A)
【公開日】平成13年6月12日(2001.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−344229
【出願日】平成11年12月3日(1999.12.3)
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】