説明

小型飛翔装置

【課題】実際のトンボに近いサイズとし、且つトンボに類似した羽ばたき周波数で飛行することが可能な小型飛翔装置を提供すること。
【解決手段】前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を前後方向に単又は複数設けてなる小型飛翔装置であって、前記羽体の支持部を上下に揺動して羽体をフラッピング運動させる揺動機構を設け、前記羽体の基端側を弾性板材を介して前記支持部に連結するとともに、前記羽体の支持部を前後に傾動可能に支持し、前記羽体を前記フラッピング運動の慣性力により該フラッピング運動に連動してフェザリング運動させる傾動機構を設けてなることで、トンボに類似した羽ばたき周波数での飛行を可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫、特にトンボのように羽体で飛行する小型の飛翔装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鳥や昆虫は羽を羽ばたいて空を自由に飛行する。特にホバリンリング、急旋回、急上昇などの飛行を自由に行なうことができるトンボの飛行能力は際だって優れている。この優れた飛行能力を小型の飛翔装置で実現できれば、ヘリコブタや飛行機より優れた飛翔装置が実現できると考えられている。
【0003】
トンボの中でも、国内最大のトンボであるオニヤンマは、翼長10cm、全長12cm、自重1gで、観測より翅を約30Hz(羽ばたき周波数:1秒間に羽ばたく回数)程度で羽ばたかせて飛翔する。そこで、オニヤンマと全く同じようにホバリング、急旋回、急上昇など繰り返しての飛翔を実現するには形状、寸法、羽ばたき方などをそっくりにして総重量を1gに近づけた羽ばたき飛翔装置が考えられる。
【0004】
羽ばたきする小型の飛翔装置はいくつか開発されている。たとえば、Neuros社製の「サイバード」、株式会社シー・シー・ピー社製の「メカトンボ」等が有名であるが、いずれも羽の面積が大きく、羽ばたき周波数は10Hz前後で大きい鳥の飛行に近く、トンボ、ハチのように高い周波数で羽ばたいて飛行するものは実現していない。前記飛翔装置で実現しているものは、モータにギアを付けて減速し、クランク機構で羽を上下に揺動可能にさせるものである。しかし、この方法では20Hz以上の高い周波数で羽ばたきさせることは困難である。
【0005】
高い周波数の羽ばたきを実現する方法として、従来、ピエゾ型振動子に翼を取り付けて共振させる方法が知られている(非特許文献1)。しかし、この方法で小型の飛翔装置の翼を羽ばたかすには数キロV以上の駆動電圧が必要であり実用的ではない。
【0006】
発泡ポリプロピレンの翼板に1本の弾性棒材を取り付け、弾性棒材を強制振動させることで60〜90Hzの高い振動数の羽ばたき運動を得ることが知られている(特許文献1)。また、振動モータに羽を取り付けて共振振動させることが知られている(特許文献2)。
しかし、上述の特許文献1において開示される羽ばたき飛行機においては羽ばたき周波数は60〜90Hzと実際のトンボよりはるかに高い周波数である。また、特許文献2おいて開示されている羽ばたき飛行機は、大きさが実際のトンボの2倍に対し、重量は20gと遥かに重くなり、実際のトンボのような飛行は困難と考えられる。
【0007】
また、本件出願人も以前に小型の飛翔装置を提案している(特許文献3、4)。これらの飛翔装置では、各羽体を固定した支持軸部によって上下方向に揺動させて羽ばたかせると共に、前記各羽体に対して2種類の連結アームを連結して当該支持軸部を中心に捻り動作を行わせていた。しかし、これらの飛翔装置では、羽体が所定のフラッピング角度を得るためには、羽体の支持軸部を同じ角度まで揺動させる必要があり、上下方向に動く連結アームのストロークが大きくなるため、駆動系への負荷も大きかった。さらに、羽体にフェザリングを行うためには、前記の上下方向への大きなストロークに合せてフェザリングさせるための同じストロークの大きなフェザリング用のリンク機構が必要であった。したがって、構造的に羽ばたき周波数を大きくすることは難しかった。
また、前記のように支持軸部の駆動のみで羽体のフラッピング運動及びフェザリング運動の全てを行うと、各部を動かすために消費する電力が大きくなってしまい、飛行時間が制限されたり、電源を大型にすると飛翔装置自体も大型にする必要がある等の点で検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−254714号公報
【特許文献2】特開2008−81094号公報
【特許文献3】特開2009−190651号公報
【特許文献4】特開2009−240501号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「圧電モバイル素子を用いた羽ばたき機構の開発」信州大学繊維学部 児島、小西 第4回日本生体医学工学甲信越シンポジウム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記のような事情に鑑み、実際のトンボに近いサイズとし、且つトンボに類似した羽ばたき周波数で飛行することが可能な小型の飛翔装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る小型飛翔装置は、
前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を前後方向に単又は複数設けてなる小型飛翔装置であって、
前記羽体の支持部を上下に揺動して羽体をフラッピング運動させる揺動機構を設け、
前記羽体の基端側を弾性板材を介して前記支持部に連結するとともに、
前記羽体の支持部を前後に傾動可能に支持し、前記羽体を前記フラッピング運動の慣性力により該フラッピング運動に連動してフェザリング運動させる傾動機構を設けてなることを特徴とする。
【0012】
前記傾動機構には、前記羽体が前記支持本体の軸と略平行となる位置と該軸に鋭角ないし略垂直となる位置との間で角度変化を規制する角度規制手段を設けることができる。
【0013】
前記角度規制手段は、前記羽体のフラッピング運動による立ち上がり時に該羽体が前記支持本体の軸と鋭角ないし略垂直となる位置で前記支持部の傾動を当止する第1の接当部と、前記羽体のフラッピング運動による立ち下がり時に該羽体が前記支持本体の軸と略平行となる位置で前記支持部の傾動を当止する第2の接当部とを有することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る小型飛翔装置によれば、弾性板材を介して羽体の基端側と支持部とを連結したことから、弾性板材がたわむ分だけ、フラッピング及びフェザリングのための支持部の揺動角度を小さくすることができ、支持部の揺動に必要なストロークが小さくなる分、駆動系への負荷を減らすことができる。
また、前記羽体の支持部を上下に揺動して羽体をフラッピング運動させる揺動機構を設け、前記羽体の基端側を、弾性板材を介して前記支持部に連結するとともに、前記羽体の支持部を前後に傾動可能に支持し、前記羽体を前記フラッピング運動の慣性力により該フラッピング運動に連動してフェザリング運動させる傾動機構を設けることで、フラッピング運動にあわせてフェザリング運動を自律的に羽体に行わせることができ、従来の飛翔装置にあったストロークの大きなフェザリング円リンク機構を省略でき、その分、駆動部への負荷を減らすことができる。
以上の構成により、小型モータでも25〜35Hzという羽ばたき周波数を達成することが可能となる。
【0015】
本発明に係る小型飛翔装置は、前記傾動機構に、前記羽体が前記支持本体の軸と略平行となる位置と該軸に鋭角ないし略垂直となる位置との間で角度変化を規制する角度規制手段を設けることで、フラッピング運動とフェザリング運動とを連動させた場合に、25〜35Hzという羽ばたき回転数でも十分な揚力を得ることができ、実物のトンボのように飛翔することが可能となる。
【0016】
本発明に係る小型飛翔装置では、前記角度規制手段が、前記羽体のフラッピング運動による立ち上がり時に該羽体が前記支持本体の軸と鋭角ないし略垂直となる位置で前記支持部の傾動を当止する第1の接当部と、前記羽体のフラッピング運動による立ち下がり時に該羽体が前記支持本体の軸と略平行となる位置で前記支持部の傾動を当止する第2の接当部とを有することで、フェザリング運動時の羽体の角度を適当に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、小型飛翔装置1の全体構成の概略を示す図である。
【図2】図2は、小型飛翔装置1の頭部と胸部付近の内部構造を横方向から見た場合の概略説明図である。
【図3】図3は、小型飛翔装置1の内部構造を前方向から見た場合の概略説明図である。
【図4】図4(a)、(b)は、小型飛翔装置1を前方向から見た場合の、フラッピング運動による立ち上がり時の羽体3a、3bの動きを表す概略説明図である。
【図5】図5(a)、(b)は、小型飛翔装置1を前方向から見た場合の、フラッピング運動による立ち下がり時の羽体3a、3bの動きを表す概略説明図である。
【図6】図6は、第1の態様の傾動機構の概略説明図である。
【図7】図7(a)、(b)、(c)は、第1の態様の傾動機構の傾動の様子を示す概略説明図である。
【図8】図8は、第2の態様の傾動機構の概略説明図である。
【図9】図9(a)、(b)は、第2の態様の傾動機構の傾動の様子を示す概略説明図であり、図9(c)は、第2の態様の傾動機構を備えた飛翔装置を前方向から見た概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る小型の飛翔装置1の全体構成の概略を示す図である。
なお、以下の説明では、昆虫型の飛翔装置として、トンボ型の飛翔装置について説明するが他の昆虫の形状を模してもよい。例えば、蜂、虻、蝶、蛾、蝉などの形状を模した羽ばたき動作をする飛翔装置であってもよい。
【0020】
図1は、前後に長い支持本体2に、上下揺動可能に支持される左右の4枚の羽体3a,3b,3c,3dを前後方向に2対設けてなる小型飛翔装置1を示している。
前記羽体の数については、支持本体2の長さに応じて、1対でもよいし、3対以上にしてもよい。
【0021】
前記支持本体2は、図1に示すように、成虫のトンボを模した外形を有しており、頭部、胸部、尾部を有する。前記胸部は1本の支持軸6で構成し、全ての羽体3a,3b,3c,3dを揺動支持軸7によって支持している。なお、前記支持軸6は、2本にて構成してもよい。2本の支持軸については、前記特許文献3、4に記載の構造を採用すればよい。
【0022】
前記羽体3a,3b,3c,3dは、図1に示すように、前記支持本体2に対して前後左右に配置されているが、いずれも昆虫のトンボの翅と略同じ形状で、かつ板状をしている。この羽体としては、例えば、厚さ1000μm以下のSi又はSi化合物のシリコン基板よりなり、昆虫の翅を模した外形を有するとともに、表面をエッチング処理して前記昆虫の翅脈を模した凹凸模様を形成してなる翼体を用いることが好ましい。この翼体は、実際の昆虫の翅の形状や翅脈を模しており、飛翔玩具として飛翔するという楽しみ以外にも、飛翔していない状態でも昆虫としてのリアルな形状を鑑賞して楽しむことができる。前記羽体としては、前記特許文献4に記載の翼体が好適に使用される。
【0023】
本発明では、前記羽体3a,3b,3c,3dは、その基端側で弾性板材4を介して支持部5a,5b,5c,5dにそれぞれ連結されている。支持部5a,5b,5c,5dとは、前記羽体3a,3b,3c,3dを支持する部材である。
【0024】
本発明では、支持部5a,5b,5c,5dが前記支持本体2の長軸方向に対して上下に揺動して、羽体3a,3b,3c,3dをフラッピング運動させる揺動機構が設けられている。
【0025】
前記揺動機構は、図2に示すように、上下方向の動力を前記羽体3に伝達するための揺動支持軸7と、駆動モータ8と、該駆動モータ8によって回転する回転体9と、該回転体9と前記揺動支持軸7とを連結する連結アーム10とから構成される。
【0026】
前記揺動支持軸7は、図2、図3に示すように、その一端側が前記支持軸6に軸支され、上下揺動可能に構成されている。また、前記揺動支持軸7と連結アーム10とは、ピン14によって軸支されている。
【0027】
前記駆動モータ8には図2に示すように、ギア11が設けられ、当該ギア11を介して回転体9を回転させる。前記回転体9には、前記ギア11を介して回転する回転ギア12と、前記支持本体2の軸方向に略沿った回転軸芯に対して位相が約90°ずつずれたクランク部13が設けられている。クランク部13の適当な位置には前記連結アーム10が軸支されており、このクランク部13が前記回転軸芯を中心に回動すると、クランク部13と連結アーム10との軸支部分の位置が上下に移動するのにあわせて、前記連結アーム10が軸支した前記揺動支持軸7が上下方向に揺動する。なお、クランク部13の構造及び連結アーム10とクランク部13の軸支する位置については、前記支持体5の揺動角度が所望の範囲になるように調整すればよい。また、クランク部13の具体的な構成については、前記特許文献3に準じて設定すればよい。
【0028】
また、本発明に係る小型飛翔装置1の前記揺動機構では、揺動支持軸7を上下方向に揺動させればよいため、前記揺動支持軸7を軸支する連結アーム10は1本でよく、特許文献3、4に記載の飛翔装置のように、揺動支持軸自体を前後方向に揺動させる構造に比べて簡潔であり、駆動に係る電力も抑えることができる。
【0029】
また、本発明に係る小型飛翔装置1は、図2に示すように、前記支持本体2、前記回転体9、前記駆動モータ8とともに駆動モータ8に電力を供給する電池15や、駆動モータ8等を制御するための電子回路基板16が、トンボの形状を模した胸部17に収納されている。
電池15は、図2に示すように、前記回転体9の下方に配置させているが、飛翔装置1全体の重心等を考慮すれば他の位置に配置させてもよい。また、電子回路基板16も同様に他の位置に配置してもよい。なお、図2の図面では、電力線や信号線の記載を省略している。前記胸部17の下面側には、胸部17を支持する脚部18が3対設けられている。また、前記支持軸6とクランク部13とは、それぞれの後方端側で支持板19により軸支されている。
【0030】
本発明では、前記弾性板材4を介して羽体3a,3b,3c,3dと支持部5a,5b,5c,5dとを連結する点に一つの特徴がある。このような構成を採用することで、羽体3a,3b,3c,3dを上下方向にフラッピング運動させた際に、羽体3a,3b,3c,3dと連結して固定されていない弾性板材4部分が慣性によりたわんで屈曲することで、支持部5a,5b,5c,5dの上下運動よりも羽体3a,3b,3c,3dの上下運動の角度が大きくなり、揚力を得やすい構成となっている。
【0031】
例えば、図4(a)、(b)に小型飛翔装置1を前方向から見た場合の、フラッピング運動による立ち上がり時の羽体3a、3bの動きを表す概略図を示す。なお、本発明では後述のように支持部5a,5bは前後に傾動するが、図面では、羽体3a、3bの動きをわかり易くするために、支持部5a,5bは揺動支持軸7に固定された状態の動きを示す。
図4(a)は羽体3a、3bを上方向に限界まで動かした場合の羽体3a、3bのフラッピング角度θ1を示す。このフラッピング角度θ1は、前記支持体5a、5bの揺動角度に等しい。
一方、図4(b)は羽体3a、3bを上方向に25〜35Hzの速度で揺動させた場合の羽体3a、3bのフラッピング角度θ2を示す。図に示すように、上方向に弾性板材4がたわんで屈曲することで角度θ2は角度θ1に比べて大きくなる。
【0032】
また、図5(a)、(b)に小型飛翔装置1を前方向から見た場合の、フラッピング運動による立ち下がり時の羽体3a、3bの動きを表す概略図を示す。図面では、羽体3a、3bの動きをわかり易くするために、支持部5a,5bは揺動支持軸7に固定された状態の動きを示す。
図5(a)は羽体3a、3bを下方向に限界まで動かした場合の羽体3a、3bのフラッピング角度θ3を示す。このフラッピング角度θ3は、前記支持体5a、5bの揺動角度に等しい。
一方、図5(b)は羽体3a、3bを下方向に25〜35Hzの速度で揺動させた場合の羽体3a、3bのフラッピング角度θ4を示す。図に示すように、下方向に弾性板材4がたわんで屈曲することで角度θ4は角度θ3に比べて大きくなる。
【0033】
以上のように、本発明に係る小型飛翔装置1では、前記支持体5a、5bの揺動角度以上に羽体3a、3bを上下にフラッピングさせることができるため、支持体5a、5bのフラッピング角度が小さくても、羽体3a、3bが十分な揚力が得られることから、前記支持体5a、5bの羽ばたき回転数を25〜35Hzとしても飛翔することが可能になる。
なお、前記羽ばたき回転数で飛翔するには、本発明に係る小型飛翔装置1では、弾性板材4の素材の種類にもよるが、θ1+θ3を20〜40°の範囲に調整することで、θ2+θ4を80〜90°にすることができる。また、弾性板材4の素材としては、弾性を有する素材であればよく、特に限定はないが、例えば、塩化ビニル等の合成樹脂、カーボンシート等が挙げられる。なお、弾性板材4の厚みについては、前記羽体3がフラッピング運動およびフェザリング運動することが可能なようにたわむことができる程度の厚みであればよい。また、弾性板材4の大きさも、前記羽体3と前記支持体5とを連結させることができ、また、前後に配置された羽体3a、3c又は羽体3b、3d同士のフラッピング運動やフェザリング運動を妨げないように配置されていればよい。
【0034】
また、本発明に係る小型飛翔装置1では、前記羽体3の支持部5を前後に傾動可能に支持し、前記羽体3を前記フラッピング運動の慣性力により該フラッピング運動に連動してフェザリング運動させる傾動機構を設けてなる点にも一つの特徴がある。
【0035】
前記傾動機構では、前記支持部5が支持本体2の軸方向に対して前後方向に傾動可能な状態であり、かつその傾動は、前記羽体3が前記支持本体2の軸と略平行となる位置と、該軸に鋭角ないし略垂直となる位置との間で角度変化を規制するための角度規制手段が設けられている。このような傾動機構としては、支持部5の構成により以下の2つの態様が挙げられる。
【0036】
(第1の態様の傾動機構)
第1の態様の傾動機構は、図6に示すように、前記弾性板材4を固定する台部材20と、前記台部材20の両端に前記揺動支持軸7を挿通する一対の軸受け部材21とを備えており、前記揺動支持軸7を中心に回動可能な、断面略コ状の支持部5a、5b、5c、5d(以下、5a等と略す)を有する。なお、図1〜5も第1の態様の傾動機構を備えた構造を記載した図面である。
また、前記軸受け部材21の間に挿通された揺動支持軸7部分には、前記揺動支持軸7の軸方向に対して垂直方向にピン14が挿通されて、前記揺動支持軸7と前記連結アーム10が連結されている。
【0037】
前記支持部5a等では、前記羽体3が前記支持本体2の軸と略平行となる位置と、該軸に鋭角ないし略垂直となる位置との間で角度変化を規制するための角度規制手段として、前記連結アーム10とピン14とが作用する。
具体的には、前記支持部5a等は、図7(a)〜(c)に示すように傾動する。なお、図7(a)は前記支持部5a等の台部材20が支持本体2の軸方向と略平行の位置にある図である。
前記支持部5a等は、前記揺動支持軸7を中心にして前方向に回動すると、図7(b)に示すように、前記連結アーム10の上端部と台部材20の下面とが接当してその動きが当止される。
また、前記支持部5a等は、前記揺動支持軸7を中心にして後方向に回動すると、図7(c)に示すように、前記ピン14と台部材20の端部とが接当してその動きが当止される。
【0038】
前記のような前記支持部5a等の傾動角度としては、前方向の角度については、0〜30°、後ろ方向の角度については最大で45〜60°まで、それぞれ回動できるように設定していればよい。
【0039】
前記のような傾動機構では、前記揺動機構により揺動支持軸7の上下動で生じるフラッピング運動の慣性力と連動することで、羽体3にフェザリング運動を生じさせることができる。
【0040】
例えば、図7(a)の状態の羽体3のフラッピング運動による立ち上がり時に、前記羽体3は、空気の抵抗を受けて、図7(c)に示すように、支持部5a等が傾動して、ピン14が第1の接当部として作用してその傾動が当止される。この場合、羽体3の重みとその慣性力により弾性板材4が図4(b)に示すように上方向だけでなく後方向にもたわんで曲がることで、前記羽体3の位置が前記支持本体2の軸方向に対して鋭角ないし略垂直となる位置にまで達する。
次いで、フラッピング運動による立ち下がり時には、前記羽体3は、弾性板材4が有する形状を元に戻す力と下方向の慣性力により、図7(b)に示すように支持部5a等が立ち上がり時と反対方向に傾動し、連結フレーム10の上端部が第2の接当部として作用してその傾動が当止される。この場合、羽体3の重みとその慣性力により弾性板体4が図5(b)に示すように下方向だけでなく前方向にたわんで曲がる。ただし、フラッピング運動の立ち上がり時の羽体3の位置が前記支持体2の軸方向に対して鋭角ないしは略垂直になっているため、立ち下がり時の前記羽体3の位置は前記支持本体2の軸方向に対して略並行となる位置で傾動が止まることになる。
【0041】
なお、図2〜図6に示された第1の態様の傾動機構では、前記連結アーム10が揺動支持軸7の前方向に配置されているが、別の態様として、連結アーム10が前記揺動支持軸7の後方向に配置されていてもよい。この場合、図7(a)〜(c)に示される傾動機構は、右側が前方、左側が後方になる。
【0042】
(第2の態様の傾動機構)
第2の態様の傾動機構は、図8、図9に示すように、断面略V字状に屈曲されたシート材22を有し、該シート材22の略V字内側面に前記揺動支持軸7が固定され、かつ前記シート材22の内側の屈曲線を軸に弧を描いて動くことができるヒンジ様のテープ材Tを備えた支持部5a’、5b’、5c’、5d’(以下、5a’等と略す)で構成される。前記支持部5a’等において、テープ材Tは羽体3の実質的な支持部として作用し、シート材22は羽体の角度変化を規制する角度規制手段として作用する。
【0043】
前記シート材22は図8に示すように、屈曲線側を前方向になるように配置していることが好ましい。また、前記揺動支持軸7を固定する部分については、前記ヒンジ様のテープ材Tが後述のように動くのを妨げない位置であればよい。
【0044】
前記テープTは、前記シート材22と前記弾性板材4とに連結されている。例えば、前記テープ材Tの一部が前記略V字状内側面に接着され、該テープ材Tの残りの部分をシート材22の内側の屈曲線に沿って折り曲げて、そのテープ材Tの折り曲げた部分に前記弾性板材4が接着される。シート材22や前記弾性板材4とテープ材Tとの接着の仕方については、前記テープ材Tが前記シート材22の内側の屈曲線を軸に弧を描いてヒンジのように動くことができるように接着すればよい。なお、前記シート材22の素材としては、屈曲可能な素材であればよく、例えば、前記弾性体4と同じ素材でもよい。また、前記テープ材Tの素材としては、セロハンテープ等の粘着テープ等が挙げられる。
なお、前記テープ材T及びシート材22の厚み、幅等については、軽量化と強度の観点から、適宜設定すればよい。
【0045】
前記支持部5a’等では、前記羽体3が前記支持本体2の軸と略平行となる位置と、該軸に鋭角ないし略垂直となる位置との間で角度変化を規制する角度規制手段として、前記シート材22の上面23と下面24が作用する。
具体的には、前記支持部5a’等では、図9(a)、(b)に示すようにテープ材Tが傾動する。なお、図9(c)は、前記支持部5a’等を有する傾動機構を備えた飛翔装置1を前方向から見た概略図であり、図9(a)、(b)は図9(c)の前記傾動機構の断面を示す概略図である。図9(a)、(b)では、支持部5a’での動きをわかり易くするために羽体3は除いて示している。
【0046】
前記支持部5a’でテープ材Tと接着された弾性板材4は、図9(a)に示すように、前記シート材22の内側の屈曲線を軸に弧を描いて上方向に動くと、上面23に接当してその動きが当止され、図9(b)に示すように前記シート材22の内側の屈曲線を軸に弧を描いて下方向に動くと下面24に接当してその動きが当止されるため、前記弾性板材4が前後方向に傾動することになる。
【0047】
前記の第2の傾動機構では、前記揺動機構により揺動支持軸7の上下動で生じるフラッピング運動の慣性力と連動することで、羽体3にフェザリング運動を生じさせることができる。
【0048】
例えば、羽体3のフラッピング運動による立ち上がり時に、図9(b)に示すように弾性板材4がシート材22の下面24に接した状態になり、下面24が第1の接当部として作用して傾動が当止される。この場合、羽体3の重みとその慣性力により、弾性板材4は、図4(b)に示すように上方向だけでなく後方向にもたわんで曲がり、前記羽体3の位置が前記支持本体2の軸方向に対して鋭角ないし略垂直となる位置にまで達する。
次いで、フラッピング運動による立ち下がり時には、前記羽体3は、弾性板材4の形状を元に戻す力と慣性力により、図9(a)に示すように弾性板材4がシート材22の上面23に接した状態になり、上面23が第2の接当部として作用して傾動が当止される。この場合、フラッピング運動の立ち下がり時の前記羽体3のフェザリング角度は前記支持本体2の軸方向に対して略並行となる位置で傾動が止まる。
【0049】
前記のような前記支持部5a’の傾動角度としては、前記シート材22の略V字内面の折り曲げ角度を、最大で45〜60°に設定すればよい。
【0050】
以上のような揺動機構と傾動構成を備えことで、本発明に係る小型飛翔装置1は、実物のトンボのような形状、大きさでトンボのような羽ばたき周波数で飛翔することが可能となる。
【0051】
また、前記飛翔装置1の飛翔は、前記羽ばたき周波数を変えることで、フラッピングやフェザリングの角度を調整したり、場合によっては、磁石等で腹部と脚部18を動かして、飛翔装置1における重心の位置を変えることで、調整することができる。
【0052】
次に、オニヤンマ型の飛翔装置1の詳細な部材の構成について説明する。
飛翔装置1の支持本体2は、略実物サイズの形状で全長120mm、重量0.3gとした。この支持本体2は、オニヤンマの画像を3次元CADにより立体化し、その形状をもとに梁とシート状の極めて薄い部分からなる軽量で強度を保持した構造とした。そして、この3次元CADのデータを基に3次元プリンタによりアクリル系光硬化型樹脂により製作した。
羽部3は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により、厚さ100μmのSi基板を微細加工して、略実物サイズの形状で4枚の羽部の総重量を0.2gとした。
弾性板材4には厚み0.2mmの塩化ビニル樹脂またはカーボンシートを使用した。
駆動モータ8は、重量0.6gのダイデル社製のコアレスモータ使用した。
前記ギア11(ギア比1:5)、回転ギア12、クランク13、連結アーム10等の重量は、約0.5gである。
電子回路基板16は、東光電気製の赤外線受信機基板IRX303Fを削り、重量0.2gにした。
また、電池15は、Liポリマー電池であり、東光電気製FR10(10mAhr)で重量は0.37gである。また、制御用の電磁石はPlantraco社製HINGEACTを削り1個で重量0.15gにした。これらのような部材を用いて、飛翔装置1の総重量を、2.32gとした。
【符号の説明】
【0053】
1 飛翔装置 2 支持本体
3 羽体 4 弾性板材
5 支持部 6 支持軸
7 揺動支持軸 8 駆動モータ
9 回転体 10 連結アーム
11 ギア 12 回転ギア
13 クランク部 14 ピン
15 電池 16 電子回路基板
17 胸部 18 脚部
19 支持板 20 台部材
21 軸受け部材 22 シート材
23 上面 24 下面
T テープ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を前後方向に単又は複数設けてなる小型飛翔装置であって、
前記羽体の支持部を上下に揺動して羽体をフラッピング運動させる揺動機構を設け、
前記羽体の基端側を弾性板材を介して前記支持部に連結するとともに、
前記羽体の支持部を前後に傾動可能に支持し、前記羽体を前記フラッピング運動の慣性力により該フラッピング運動に連動してフェザリング運動させる傾動機構を設けてなることを特徴とする飛翔装置。
【請求項2】
前記傾動機構に、前記羽体が前記支持本体の軸と略平行となる位置と該軸に鋭角ないし略垂直となる位置との間で角度変化を規制する角度規制手段を設けてなる請求項1記載の飛翔装置。
【請求項3】
前記角度規制手段が、前記羽体のフラッピング運動による立ち上がり時に該羽体が前記支持本体の軸と鋭角ないし略垂直となる位置で前記支持部の傾動を当止する第1の接当部と、前記羽体のフラッピング運動による立ち下がり時に該羽体が前記支持本体の軸と略平行となる位置で前記支持部の傾動を当止する第2の接当部とを有する請求項2記載の飛翔装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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