説明

小形電源トランス

【課題】 電磁鋼板として最高性能を有する6.5%方向性けい素鋼板の特性を小形電源トランスに応用することを目的とし、鉄芯材料と鉄芯成形方法および巻き線方法について新たな手法を創出して具体化し、高効率高性能な量産用小形電源トランスを最適なコストで供給可能とすることを課題とする。
【解決手段】 鉄芯の材料に浸珪添加処理を施した電磁鋼線を使用し、束の断面積が概略円形となるように電磁鋼線を巻き取った後に二本の直線部分を有した長円形状に成型し、その直線部分を挟み込んで回転可能とした二分割構造の回転ボビンを使用して巻き線加工を行う。
その回転ボビンの両端には輪転歯車を備え、対する駆動歯車を輪転歯車の周囲3カ所以上配置して3点接円の条件を作り、回転ボビンを空間の仮想回転軸上で回転させてコイルの巻き線加工を行う。
鉄芯の直線部分は、回転ボビンの仮想回転軸に沿って配置され、直接の回転軸には成らない方法でコイルの巻き線加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電子機器の電源トランスとして使用される小形変圧器の、鉄芯材料と鉄芯成形方法および巻き線方法関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単なる省エネルギーや省電力の目的だけでなく、環境問題への対応のために、電子機器類の高効率化や待機電力の低減が最重要課題となっている。その対応手段の一つとして、小形電源トランス等の高効率化が要求されている。
【0003】
電力設備用の大型トランスは、6.5%方向性けい素鋼帯を使用した巻き鉄芯を分割して組み込んで最高水準の効率を達成している。また、鉄芯を薄板状の複数部分に分割して、磁束の方向と一致させながら組み合わせ、且つ積み上げることで高効率を狙っている。ただ、鉄芯の組み立て等に工数が掛かるため設備機器向けの中大型トランスに限定されている。
【0004】
一方、電子機器等に組み込まれる小形トランスは、量産性が重要な課題となり、コストを抑える必要から鉄芯の組み立て工数も最小限に押さえる必要がある。その結果として、電磁鋼帯をプレスの打ち抜き加工で、概略E字型とI字型に成型された薄板を積み重ねた鉄芯が主に使用されている。
【0005】
ところが、プレスによる打ち抜き加工等を容易にするため、使用される電磁鋼帯は概ねケイ素を3.2%含有する電磁鋼板がベースになる。更にE字型の場合は、磁束の方向が90度変化するため透磁率が劣る無方向電磁鋼板を使用する必要があった。これらの差異は、鉄芯間の密着性も関係して、結果的にEI型の鉄芯を使用する小形トランスの高効率化を妨げていた。
【0006】
一部には方向性けい素鋼帯の幅を連続的に変化させて巻き上げ、断面を概略円形状とした特殊な鉄芯を使用する変圧器もある。この場合、鉄芯の仕様毎に電磁鋼帯を複雑な形状で連続的に切断する必要があり一般的ではなかった。複雑な切断加工が必要なため、方向性けい素鋼板を使用するのに、最高水準の6.5%方向性けい素鋼板を使用するには困難であった。切断屑も大量に発生し、効率的とは言えないものであった。
【0007】
更に、これらの鉄芯は、プレスの打ち抜き加工やスリッターの剪断加工により歪みが発生し電磁特性が劣化する対策として焼鈍処理を必要としている。この処理は、数百度の加熱および冷却が必要で、小ロット多頻度生産に対応する連続した鉄芯の成形加工を困難にしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前項の問題に鑑み、電磁鋼板として最高性能を有する6.5%方向性けい素鋼板の特性を量産用小形トランスに応用することを目的とし、鉄芯材料と鉄芯成形方法および巻き線方法について新たな手法を創出して具体化し、高効率高性能な量産用小形電源トランスを最適なコストで供給可能とすることを課題とする。
【問題を解決するための手段】
【0009】
本発明による課題の解決手段は、鉄芯材料、鉄芯成形方法、巻き線方法、の3分野から成る。
【0010】
1.本発明による鉄芯の成形には、電磁鋼帯の代わりに、電磁鋼帯と同様にけい素や他元素類を各種の添加方法によって浸珪添加処理を施され、方向性けい素鋼板および鋼帯と同様の磁気特性を付与された線材を使用する。
【0011】
この線材は、電磁鋼帯の素の鋼材を圧延と引き抜き加工により線材に成型し、けい素等の浸珪添加処理及び焼鈍処理等を繰り返すことで圧延引き抜き方向に良好な磁気特性を有した方向性電磁鋼線とする。
【0012】
電磁鋼帯と同様に、磁束の変化によって生ずる渦電流の干渉と迷走を防ぐために、前述した加工行程の途中に於いて、電磁鋼線の表面に無機または有機絶縁被膜を生成させるのは従来の電磁鋼帯と同様である。
【0013】
鋼材の組織は線材に加工することにより自ずから方向性を有する組織となり、けい素の浸珪添加処理も線材表面から均等に浸珪添加を行うことができる。
【0014】
特に磁束による渦電流が集中する表面付近に、効果的にけい素を添加することで、渦電流による損失を効果的に抑えることが可能となる。
【0015】
2.鉄芯の成形は、巻き終わった際の電磁鋼線の束の断面が概略円形になるように巻き取り加工を行い、ドーナツ状の丸輪形状に巻き取り、その一対両側を押し潰して直線部分を成形し、その部分に二分割した巻線ボビンを使用してコイルを巻く。
【0016】
3.巻線ボビンは両端に輪転歯車を備えて二分割形状として成型したものを使用する。分割ボビンは相互に組み合わせ嵌合用の凹部と凸部を設け、相互の凹凸を圧入することで円形のボビンとする。
【0017】
両端の輪転歯車は、巻線機械の複数個の駆動歯車と噛み合い、更に精度維持のために必要に応じて追加される支持ローラとで仮想の回転軸を設定し巻き線ボビンを高精度且つ効率的に回転させることが出来る。
【0018】
以下、本発明による鉄芯の成形方法及びコイルの巻き線方法について、加工手順を示した図面を参照しながら具体的に説明する。
【0019】
▲1▼トランスの負荷容量に応じて必要な電磁鋼線1の束の鉄芯断面積が得られるまで電磁鋼線1を束の断面積が概略円形になる様に、丸輪形状に巻き上げる。図2(A)はその巻き上げ形状である。
【0020】
電磁鋼線1の巻き上げ加工は、取り外しを考慮して分割可動される略U字型断面を有した巻き取り丸輪型を使用する。丸輪形状に巻き取るのは、線間密着精度及び張力管理の精度を維持し巻き上げ速度の高速化を狙いとするものである。
【0021】
巻き上げる際に、数十℃から100℃程度の加熱により硬化する熱硬化性粘着材または接着剤を薄く吹き付け塗布して、次行程での解れ防止と潤滑剤として作用させる。
【0022】
結果として、巻き上げ完了の形状は図2(B)の様な概略ドーナツ形状となる。電磁鋼線1の束の断面を概略円形に保つことが出来れば、巻き上げ形状は楕円形状や四隅に曲部を設けた四角形状でも構わない。
【0023】
▲2▼図2(B)の行程では本発明の特徴の一つである電磁鋼線1の巻き初め先端1aと巻き終わり終端1bを磁気的に結合接続する処理加工を行う。
【0024】
この加工は、電磁鋼線1を採用する事で容易に具体化できるもので、これにより電磁鋼線1内の磁束は非飽和領域に於いて外部に漏れ出す事が極小となる。
【0025】
先端1aと終端1bの結合接続は、両端を突き合わせ又は重ねた電気溶接でも良いし、磁気的結合を目的として高透磁率の電磁鋼板で成型した略U字型に二つ折りした結合クリップ2で繋いでも良い。
【0026】
▲3▼図2(C)は電磁鋼線1を巻き取った丸輪形状の対象な二カ所を、外側から内側へ押し込み、コイル3の巻き線加工に必要な直線部4bを設ける。一般的には、両端に曲部4aを設けた二カ所の直線部4bを成形する。
【0027】
具体的には、巻き上げた電磁鋼線が解れない様に、束を丸く押さえながら成形する。この際に、前工程で吹き付けた熱硬化性粘着剤または接着剤は潤滑剤として作用し、電磁鋼線間に発生する滑りを吸収する。
【0028】
この輪の押しつぶし加工は、輪の内周長と外周長の差は、楕円になっても、直線部を有した長円形状になっても、変化しないことを利用して成り立つものである。従って、束にした電磁鋼線1の線間には僅かな滑りが生じるものの、局部的な応力の集中が生じて電磁鋼線1に応力歪みを与えて磁気的特性を変化させるには至らない。
【0029】
但し、本発明の実施例に於いて必要な部分は、鉄芯直線部4bであるから、曲部4aの円形断面が崩れて変形しても磁気特性上問題とはならない。
【0030】
▲4▼加熱して、熱硬化型粘着剤または接着剤を硬化させ、巻き上げた電磁鋼線1の束を一塊の鉄芯4として形状を固定する。
【0031】
熱硬化の為の加熱は、電磁鋼線1相互間の固着目的のためであり、電磁鋼線1の磁気的特性を左右する数百℃の温度には達しない範囲の、十分に低い数十℃から100℃程度で行われる。
【0032】
要求される各種容量の鉄芯への対応は、磁路長を決める巻き取り加工に使用する丸輪型の内径と、電磁鋼線1の線径および電磁鋼線1の巻き取り回数で決まり、簡単な加工設定で自由に対応できる。
【0033】
高容量の鉄芯を成形する場合には、事前に電磁鋼線1を数本から数十本を束ね、必要に応じて撚り線加工を施した電磁鋼線1の束を使用することもできる。それによって巻き取り回数を減らすことが出来ると共に、直線部に於いては柔軟に相互の隙間を補填することができて断面積の占有率を効果的に増やすことができる
【0034】
▲5▼図3に示すように、鉄芯形状に成形固定化された円形断面鉄芯4の直線部4bの外周に、自己潤滑性能を有する合成樹脂をアウトサート成型加工を行い、コイル3の巻き線加工時の回転維持と精度向上と巻き線完了後の位置決めガイドとなる固定ボビン5を成形する。
【0035】
この固定ボビン5は量産時のコイル3の巻き線加工の高速化を意図したものであり、少量機種の場合はコイル巻線加工の速度を抑えることで潤滑性を有するテープ等を巻き付けるだけでも良い。
【0036】
また直線部分4bを全面的に覆う必要もなく、後述する回転ボビン5による電磁鋼線1の切断等の損傷が発生しない場合は部分的な成型構造でも良い。そうすることで樹脂を流し込む薄肉部分の面積を大幅に減らすことができて、固定ボビンの機能を小型精密構造にて確保でき小型電源トランスの具体化に貢献する。
【0037】
その理由は、次項で説明するが、固定ボビン5を直接回転軸としてコイル3を巻き取る回転ボビン6を回転させる構造としていないからである。
【0038】
▲6▼コイル3の巻き線加工は、両端に回転駆動用の輪転歯車6aを成形して二分割構造とした回転ボビン6を使用して行う。
図4に、その巻き線機械の巻き線作業時の駆動構造の概要を示す。
【0039】
二分割された回転ボビン6は互いの組み合わせ面に凹凸の嵌合穴と圧入ピンを備える。また使用する電圧等に応じて絶縁沿面距離を確保する為の重ね合わせ部を設けたり、層間絶縁テープに代わるセクションボビンの構造としても良い。
【0040】
これらの絶縁沿面距離対策及び層間絶縁対策は、従来から行われてきた方法を応用するものであるから詳細の説明は省略する。
【0041】
この回転ボビン6の輪転歯車6aに対して、回転力を付加する巻線機の駆動歯車7は、片側の輪転歯車6aの円周上に少なくとも3個を配置し、且つ90°以上180°未満の度で設定される。
【0042】
駆動歯車7の回転軸を固定することにより三点接円の条件が整い、回転ボビン6は空間上の仮想回転軸を中心に回転させることができ、鉄芯上に成型された固定ボビン5は必須の回転軸とはならない。
【0043】
実際の回転ボビン6は、鉄芯4に成型された固定ボビン5を覆う状態で組み合わされ、嵌合状態を維持する。そして、駆動歯車7で空間に位置決めされる回転ボビン6の仮想回転軸に合わせて固定ボビン5の位置が決まり、回転ボビン6を精度良く円滑に回転させる効果を発揮する。
【0044】
駆動歯車7は輪転歯車6aに噛み合い、全ての駆動歯車7が回転開始から加減速を含めた全ての状態に於いて、回転ボビン6の回転数に合わせた互いの歯数比に応じた回転数で回転駆動する。
【0045】
回転ボビン6のコイル巻き線加工が完了した後は、回転ボビン6を鉄芯上の所定の位置に保持する固定用部材となる。
【0046】
上記条件により駆動歯車7より付加される回転駆動力は、組み合わせた回転ボビン6の何れの角度に於いても、二分割した回転ボビン6の双方に付加され、双方を引き剥がす応力とは成らない。これによって、回転ボビン6の接合組み合わせ構造は凹凸ピン等の圧入等の簡単な構造で対応することができる。
【0047】
駆動歯車7を4個以上設置する場合には概略対象位置または概略等間隔に配置することで、更に回転ボビン6の空間上の仮想回転軸の位置精度が向上し、回転ボビン6に付加される回転力の平衡度が向上する。
【0048】
これはコイル3を巻き取る際の導線張力に対する対応力と耐久性が向上して巻き取り精度が向上し、結果として高速での巻き線加工を可能とする。
【0049】
駆動歯車7の大きさは必ずしも同一寸法に限定する必要はなく、要は回転ボビン6の輪転歯車6aと噛み合い、他の駆動歯車7と同期して円滑な回転を行えば良いので、歯数比による回転数の調整を行うことで支持構造と必要強度に応じた駆動歯車7とする事ができる。
【0050】
駆動歯車7は、回転ボビン6着脱のために部分的に複数の駆動歯車7および位置決め用の歯車または回転車が可動する構造とする。回転ボビン6の大きさを数種類に分類し、回転ボビンの輪転歯車6aのサイズを標準化すれば巻線仕様毎の段取り調整時間を大幅に削減できる。
【0051】
▲7▼巻き線作業終了後は、従来と同様のリード線処理作業や外装テープ巻き作業、そして取付固定金具8等の取付等の外殻仕上げを行う。新規性は無いため説明は省略する。
図5は、鉄芯両端を半円形状とした電源トランスの斜視図を示す。
【発明の効果】
【0052】
本発明の特徴の一つである鉄芯材料に線材を採用することで、電磁鋼帯に対して実施されている各種のけい素の浸珪添加処理を表面より同心円状に進行させることができ、電磁鋼帯よりも高精度で均一な添加加工処理が容易になる。
【0053】
また、線材の断面積が円形であることから、磁束の変化により発生する渦電流が表面に沿って集中するが、その表面部分に集中的に高濃度に施した浸珪添加処理によって渦電流を効果的に低減させることが可能となる。
【0054】
更に、浸珪添加によるけい素の添加比率を、線材の表面から中心部に向かって変化させることが容易になり、電磁鋼帯と比較して、最高性能の透磁率と十分な柔軟性を備えた方向性電磁鋼線を供給する事ができる。
【0055】
そして本発明による線材の採用は、材料在庫の標準化と加工工程の削減による調達納期の大幅な短縮を実現する。
【0056】
例えば、数種類の電磁鋼線の線径を標準化すれば、鉄芯の多種多様な仕様に対して、直線部分の長さは電磁鋼線の巻き取りに使用する丸輪型の内径寸法を変えることで対応でき、磁気回路の鉄芯断面積は電磁鋼線の巻き取り回数で調整でき、結果的に多種多様な鉄芯仕様に柔軟に且つ短納期で対応することができる。
【0057】
具体的には、先ず、浸珪添加処理を施した電磁鋼帯の素材ロールからEIコア等を製造するプレス加工の顧客要求による帯幅に切り分けるスリッター加工とその加工歪みを除去する各種の焼鈍処理が不要となる。
【0058】
そして、従来はコア加工メーカーで行っていたEIコア等のプレス機械による打ち抜き加工と、その後の再焼鈍処理をも不要とする事ができ、抜き屑等の材料損も無くすことができ、エネルギー消費を削減することができる。
【0059】
また、一部の特殊な鉄芯成形として断面を概略円形に成形する巻き鉄芯構造に於いて行っていた、巻き取り回数と外周の位置に合わせて電磁鋼帯の幅寸法を複雑に切り揃える特殊なスリッター加工とその後の焼鈍作業および膨大な材料損失も無くすことができる。
【0060】
以上のように、電磁線材による鉄芯の成形は、鋼材メーカーと電磁鋼線メーカーによって製造された高性能で高品質の電磁鋼線を直に鉄芯成形メーカーに届けることができ、従来の中間工程で発生していた性能劣化や加工ばらつきを排除できる。
【0061】
鉄芯成形メーカーでは、標準線径の数種類の電磁鋼材を材料として在庫しておくだけで多種多様の鉄芯を成形することができて顧客に対しての納期短縮と、材料調達納期の短縮から材料在庫の圧縮を可能とする。
【0062】
電磁鋼線の巻き取り線材の両端を磁気的に繋ぐことで、磁束はほぼ完全に電磁鋼線の中に閉じこめることができ、漏洩磁束を大幅に減少させることができると共に、6.5%方向性けい素鋼板と同様の性能を有した電磁鋼線をほぼそのままの磁気特性状態で使用できて高効率で小型化された小型トランスを具体化できる。
【0063】
本発明の最大の効果は、前述の製造方法と上記の効果により、小型トランスの量産加工に適するものであり、従来の小型トランスと比較して高効率で小型化された電源トランスを一般的なコストで供給することができ、電子機器等の効率改善と待機電力の低減等に貢献し、間接的に地球環境問題の改善に寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
本発明は、電磁鋼線1を円形断面形状の束に巻き上げ、二カ所の直線部分と二カ所の半円形部分を有した形状に鉄芯を成形し、円筒形状の回転可動とした二分割巻き線ボビンを使用して鉄芯の直線部分に巻き線加工を行う構造を最良の実施形態とする。
【0065】
図1に、電磁鋼線1の束の断面積を概略円形として直線部4bに巻き線加工を施すための固定ボビン5と回転ボビン6を設け、二カ所の直線部に入力コイルと出力コイルの巻き線加工を施した電源トランスの部分断面図を示す。
【0066】
図1に示す構造形態は、前述した電磁鋼線1と、円形断面鉄芯の成形方法と、巻き線機械の駆動歯車7と回転ボビン6の輪転歯車6aによる空間上の仮想回転軸の設定による巻き線加工方法とによって実現されるものである。
【0067】
固定ボビン5は電磁鋼線1を束ね成形された鉄芯4に密着して成型され、回転ボビン6は一定の隙間を有して固定ボビン5上の所定の位置に掛止する。鉄芯曲部4aには取付用の取付固定金具8を設けている。この取付固定金具は必要に応じて全体を覆う外殻カバーに設けても良い。
【0068】
図5は、鉄芯4両端を半円形状とした電源トランスの基本構造部分を示す。半円形状の鉄芯曲部4aには、基盤に固定するための取付固定金具8を設けている。
図6は、全長を極力抑えるために、半円形状を押し込んで両端にも直線部を設けて四半円形状とした例の斜視図である。
【実施例1】
【0069】
図7に、鉄芯直線部4bの片側だけに巻き線加工を施した小型電源トランスの構造斜視図を示す。
【0070】
図8は、印刷配線板(PWB)に接続ピン9を挿入して半田付けを行うことで、電気的な接続と機械的な固定を併せて行う小形電源トランスとした場合の、外殻カバー10に組み込んだ場合の外観斜視図である。
図9は、上記図8の断面構造図である。
【0071】
鉄芯4は前述した成形方法により長円形状に成形され二カ所の鉄芯直線部を備える。巻き線加工用の固定ボビン5は一カ所にのみに成型されている。同様に、輪転歯車6aを備えた二分割の回転ボビンは一個を用いる。
【0072】
回転ボビン5の巻き線用の区分構造は、使用する入出力電圧に応じて使い分ければ良いが、本例では説明を簡略化するために、入力コイル11と出力コイル12を同心円上に巻く構造とし、その間には絶縁紙13を設けている。
【0073】
外殻カバー10はガラス繊維等で強化した熱可塑性樹脂で開いた状態で成型され、入出力コイル11及び12と回転ボビン5を覆うように被せ、閉じる事で組み込みを行う。折り曲げ部には剛性を下げ撓み変形を容易にするように薄肉部10aを設けている。
【0074】
外殻カバー10先端には接続ピン9を打ち込む肉厚部10bを設けている。更に底部になる外殻カバー10の先端には先端部には凹凸部10cを設けて開くのを防いでいる。また、肉厚部10bの接続ピン9の中間にはコイル引き出し線14を通過させるスリット部10dを設ける。
【0075】
外殻カバー10の四隅には接続ピン9にコイル引き出し線14を半田付けするための空間を確保し、配線基板への取付安定性を確保するための突起ピン10eを設けている。
【0076】
以上のような構造により入出力コイル部分と鉄芯部分の空間を有効に活用した小形電源トランスを具体化できる。
【実施例2】
【0077】
図10は、本発明による電磁鋼線鉄芯を中大型変圧器へ応用した場合の概略斜視図を示す。
入力コイル11と出力コイル12を巻き付けた静止ボビン15を、電磁鋼線1を束にした電磁鋼束16で巻き付ける構造を採る。
【0078】
電磁鋼束16は、必要な鉄芯断面面積に達するまで巻き付け、内外径の差を吸収するために静止ボビン15の外側で少しずつ回転させて巻き付ける。
【0079】
電磁鋼束16の巻き初め16aと巻き終わり16bは、高透磁率の鋼材で成型された開口部を有する接続器17によって突き合わせ加締め接続される。巻き初め16aと巻き終わり16bは事前に部分的に結束して研磨を行い、突き合わせ接続時の密着精度を高める工夫を行う。
【0080】
また、加締め接続の代わりに絶縁処理を行った非磁性金属または強化樹脂製の接合締め付け具でねじ締め接続によって密着度を高めても良い。
【0081】
鉄芯となる電磁鋼束は一本で巻いても良いが長くなって作業性が悪い。その対策として数本に分けて巻き付ける事ができる。接続箇所が増えるが、従来のカットコアや積層コアに比較すると接続部分の面積は巻き付け回数分の一回分で済む。
【0082】
更に電磁鋼束16の一束毎にコイルを分割して巻くことができるため、透過磁束を監視するためのモニター巻き線18等を容易に設置することができる。このモニター巻き線は、種々の制御回路と組み合わせて、その応用範囲を広げるものである。
【実施例3】
【0083】
図11は、電磁鋼束16により鉄芯と巻き線の構成がより自由に設定できることを応用した、鉄芯分割組み合わせの応用例を示す外観斜視図である。
【0084】
例えば三相変圧器への応用や複数個のコイルと磁気回路を使用したインピーダンス変換や合成、その他への応用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明実施例の部分断面斜視図である。
【図2】本発明実施例による鉄芯成形行程の説明図である。
【図3】本発明実施例による鉄芯への固定ボビンの成型工程の斜視図である。
【図4】本発明実施例による巻き線行程の駆動構造の概要説明図の斜視図である。
【図5】本発明実施例による鉄芯の両端を半円形状とした電源トランス斜視図である。
【図6】本発明実施例による鉄芯の四隅を四半円形状とした電源トランスの斜視図である。
【図7】本発明実施例による片側に巻き線加工を施した小形電源トランス斜視図である。
【図8】本発明による図7実施例のカバー組み込み斜視図である。
【図9】本発明による図8実施例の断面構造図である。
【図10】本発明による電磁鋼線鉄芯の大型変圧器へ応用した概略斜視図である。
【図11】本発明による電磁鋼線鉄芯の分割組み合わせ応用例の斜視図である。
【符号の説明】
【0086】
1 電磁鋼線
1a 電磁鋼線巻き初め
1b 電磁鋼線巻き終わり
2 結合クリップ
3 コイル
3a コイル先端
3b 絶縁チューブ
3c コイル終端
4 鉄芯
4a 鉄芯曲部
4b 鉄芯直線部
5 固定ボビン
6 回転ボビン
6a 輪転歯車
7 駆動歯車
8 取付固定金具
9 接続ピン
10 外殻カバー
10a 薄肉部
10b 肉厚部
10c 凹凸部
10d スリット部
10e 突起ピン
11 入力コイル
12 出力コイル
13 絶縁紙
14 コイル引き出し線
15 静止ボビン
16 電磁鋼束
16a 電磁鋼束巻き初め
16b 電磁鋼束巻き終わり
17 接続器
18 モニター巻き線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小形トランスに使用するコイル巻き線加工を行う直線部分の断面形状が概略円形をした巻き上げ型の鉄芯に於いて、巻き上げる鉄芯材料に電磁鋼帯と同等以上の浸珪添加処理等を施して方向性けい素鋼板と同等以上の磁気特性を備えた電磁鋼線を使用して、束の断面が概略円形となるように電磁鋼線を丸輪形状に巻き取り、対称な二カ所を内側に押し込んで円形断面の所定の直線部分を成形することを特徴とする小形電源トランス用鉄芯の構造および製造方法。
【請求項2】
電磁鋼線を束の断面が概略円形となるように丸輪形状に巻き上げる際に、熱硬化型の粘着材または接着剤を必要に応じて希釈して薄く塗布することで、解れを防ぎ、丸輪形状から他形状への変形加工実施時に電磁鋼線間に生じる滑りを円滑にするための潤滑剤として作用すると共に、成形後は低温加熱することで硬化し成形形状を固化固定するすることを特徴とする請求項1項記載の小形電源トランス用鉄芯製造方法。
【請求項3】
コイルを巻き上げる所定の長さの直線部分の断面形状が概略円形をした鉄芯に回転可能なボビンを使用する小形トランスに於いて、鉄芯の表面に自己潤滑性を有する合成樹脂の固定ボビンを成型し、二分割構造によって組み合わされる回転ボビンの回転円滑性と嵌合位置の保持を行うことを特徴とする小形トランス用丸形断面連続鉄芯の回転軸成形構造。
【請求項4】
丸形断面連続鉄芯用に二分割して鉄芯に被せ回転させてコイルの巻き線加工を行う回転ボビンに於いて、回転ボビンの両端のほぼ外周に沿って被駆動用の輪転歯車を設け、これに噛み合って駆動する巻き線機械の駆動歯車を少なくとも片側3個以上配置し、配置角度を調整して少なくとも1個の駆動歯車が二分割した片側の輪転歯車と常に噛み合い駆動されて回転すると共に、3点接円の条件を満たして空間上の仮想回転軸を中心にして回転ボビンが回転させられることでコイルの巻き線加工を可能とすることを特徴とした丸形断面連続鉄芯用の巻き線回転ボビンの駆動構造及び装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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