説明

小粒子サイズのβ結晶相キナクリドンの合成

本発明は、所望の結晶相および粒子サイズの形成を促進する、選択された添加剤の存在下での酸化による、β−キナクリドンの合成方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキナクリドンの酸化中に添加剤を使用する、小粒子サイズのβ結晶相キナクリドンの直接合成について述べている。
【背景技術】
【0002】
キナクリドン顔料は、その魅力的な赤色、マゼンタ色およびスミレ色、ならびにその卓越した堅牢性で、知られている。対応する置換6,13−ジヒドロキナクリドンを酸化してキナクリドン顔料を製造することが、当該技術分野で周知である。
【0003】
例えば、多数の刊行物が、塩基および少量の水を含有するアルコール性媒体中で、酸化剤として芳香族ニトロ化合物を用いる、6,13−ジヒドロキナクリドンの対応するキナクリドンへの酸化を開示している。しかし、このような方法は、還元された芳香族副生物の生成のために、かなりの有機廃棄物が生じるという不利益を有する。
【0004】
6,13−ジヒドロキナクリドンを、溶媒および/または水性塩基性系中で、酸素含有ガスで酸化する方法により、6,13−ジヒドロキナクリドンを対応するキナクリドンに酸化することも公知である。このような方法は、空気が酸素含有ガスとして都合よく使用されるため、しばしば、「空気酸化」と称される。空気酸化法は、不均質な反応混合物中に大量のガスを導入しなくてはならず、そしてそれにより気泡が発生するという不利益を有する。加えて、いつ反応が完結したかを判断するのが難しい。
【0005】
更に、極性溶媒、例えばDMSO中に溶解した6,13−ジヒドロキナクリドンを、空気を酸化剤として用いて酸化することが公知である。そのような方法は、優れたキナクリドン顔料を高収率で生成するという利点を有する。しかし、それらは、酸化反応中に副生物として、ジメチルスルホン等の有機廃棄物がかなりの量で生じ、そしてそれによりコストのかかる溶媒再生系を必要とするという欠点を有している。
【0006】
酸化剤としての過酸化水素の使用は、公知であり、そしてその使用は、過酸化水素が大気圧で高い酸化能を有し、入手容易であり、かつ、還元された有機副生物を生成しない点で有利であると記載されている。具体的な教示は、米国特許第5,840,901号、米国特許第5,856,488号および米国特許第6,013,127号に見出され、これらの全てを参照として本明細書に組込む。
【0007】
ジヒドロキナクリドンの過酸化水素酸化は、米国特許第5,840,901号に記載のように、他の酸化方法と同様に、主として、大粒子サイズの粗生成物を生成する傾向がある。小粒子サイズの顔料を生成するための本方法における改善は、コストがかかって望ましくない乾式磨砕(米国特許第2,402,167号、米国特許第3,030,370号および米国特許第5,084,100号)、および酸への浸漬(acid drowning)(米国特許第3,326,918号、米国特許第3,607,336号、米国特許第4,455,173号)等の仕上げ工程の必要が無くなるので、非常に望ましい。
【0008】
非置換キナクリドンは、実験条件により、α、βおよびγ(γI、γIIおよびγIIIのポリタイプを含む)等の異なる結晶相を形成する。α形は、色特性と不安定性の故に、関心をもたれない。現在市販されている重要なキナクリドンは、β、γIおよびγII結晶形である。
【0009】
顔料キナクリドン製造において、添加剤として誘導体化された顔料を使用することは周知である。既知のキナクリドン誘導体のいくつかは、例えば、ピラゾリルメチルキナクリドン;フタルイミドメチルキナクリドン;キナクリドンスルホン酸;キナクリドンスルホン酸の種々の塩であり、そしてその他多数がある。米国特許第4,455,173号、第3,386,843号、第4,310,359号、および第5,472,494号に記載されている、これらのキナクリドン誘導体のいくつかは、顔料粒子の成長調節剤として使用されてきたし、他のいくつかは、レオロジーの改善に使用されている。
【0010】
リン酸閉環経路によるキナクリドンの製造における、特定のキナクリドン誘導体の添加が、米国特許第5,368,641号および米国特許第5,755,873号に報告されており、それらは、顔料キナクリドン、特に顔料2,9−ジメチルキナクリドンの製造を開示している。ジヒドロキナクリドンの酸化による顔料キナクリドンの製造におけるそのような顔料誘導体の使用は、米国特許第5,424,429号、第5,457,203号および第5,840,901号に報告されている。
【0011】
米国特許第5,840,901号には、塩基として水酸化ナトリウムを、6〜10%、好ましくは6〜7%の濃度で用いる、6,13−ジヒドロキナクリドンの過酸化水素酸化が記載されている。添加剤としての、フタルイミドメチルキナクリドン、ピラゾリルメチルキナクリドン、キナクリドンスルホン酸等の公知のキナクリドン誘導体は、γ結晶形のみを与える。
【0012】
意外なことに、選択された添加剤の存在下での対応するジヒドロキナクリドンの酸化により、小粒子サイズのβ結晶相キナクリドンを得ることができることが見出された。
【0013】
したがって、本発明は、式(II):
【0014】
【化4】

【0015】
で示される、小粒子サイズのβ結晶相キナクリドンの合成方法であって、該方法が、式(I):
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、XおよびYは、互いに独立に、ハロゲン、−OH、−NO2、−CF3、C1〜C4アルキル基、置換C1〜C4アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、置換C1〜C4アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、フェノキシ基、−COOH、−COO−C1〜C4アルキル基、−SO3H、フェニルアミノ基、ベンズアミノ基、−N(CH32、−SO2NH2、−SO2N(CH32、ピリジノ基、−CONH2または−CON(CH32、特に、F、Cl、Br、I、C1〜C4アルキル基またはC1〜C4アルコキシ基であり、
nは、0、1または2、特に0または1、とりわけ0である)
で示される対応するジヒドロキナクリドン、またはその塩を酸化することを含み、式(III):
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、Mは、水素、第四級窒素カチオンまたは金属カチオンであり、
xは、0〜2であり、
yは、0.05〜4であり、
Qは、置換キナクリドン残基である)
で示される添加剤が、酸化反応中に存在する方法に関する。
【0020】
特定の添加剤は、適切な顔料サイズおよび/または狭い粒子サイズ分布を有するように顔料粒子の合成を制御し、ならびにβ結晶相のキナクリドン粒子を生ずるように結晶の成長の向きを決める。
【0021】
小粒子サイズのキナクリドンは、50〜800nmの範囲の粒子サイズ、および15〜100m2/gの表面積の顔料特性を示す。
【0022】
本発明を適用しうるジヒドロキナクリドンおよびキナクリドンは、それぞれ、式(I)および式(II):
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、XおよびYは、互いに独立に、水素、ハロゲン、−OH、−NO2、−CF3、C1〜C4アルキル基、置換C1〜C4アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、置換C1〜C4アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、フェノキシ基、−COOH、−COO−C1〜C4アルキル基、−SO3H、フェニルアミノ基、ベンズアミノ基、−N(CH32、−SO2NH2、−SO2N(CH32、ピリジノ基、−CONH2または−CON(CH32、特に、F、Cl、Br、I、C1〜C4アルキルまたはC1〜C4アルコキシである)
の化合物である。
【0025】
好ましくは、本発明を適用しうるジヒドロキナクリドンおよびキナクリドンは、それぞれ、式(Ia)および式(IIa):
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、XおよびYは、互いに独立に、水素、F、Cl、Br、I、C1〜C4アルキルまたはC1〜C4アルコキシである)
で示される化合物である。
【0028】
特に、本発明の方法は、式(IIa)のXおよびYが水素である、小粒子サイズのβ結晶相キナクリドンの製造に使用することができる。
【0029】
使用される添加剤は、下記の構造(III):
【0030】
【化9】

【0031】
(式中、Mは、水素、第四級窒素カチオンまたは金属カチオンであり、
xは、0〜2であり、特にxは0〜1であり、
yは、0.05〜4であり、特にyは0.1〜2.0であり、
Qは、置換キナクリドンである)
により定義される。
【0032】
本発明の好ましい実施態様において、Qは、2,9−ジクロロキナクリドン、2,9−ジフルオロキナクリドン、2,9−ジブロモキナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン、4,11−ジフルオロキナクリドンおよび4,11−ジメトキシキナクリドンから選択される。
【0033】
Mは、水素、第四級窒素カチオンまたは金属カチオンである。
【0034】
Mが、第四級窒素カチオンである場合、例えば、それは、式:
【0035】
【化10】

【0036】
〔式中、R11、R12、R13およびR14は、水素原子、直鎖または分岐鎖のC1-36アルキル基(好ましくはC1-16アルキル基;アルキル基は非置換であってもまたは置換されていてもよく、基R11、R12、R13およびR14中の炭素原子の総数が4〜36、好ましくは8〜22の範囲にある)、直鎖または分岐鎖のヒドロキシ−C1-36アルキル基(特にヒドロキシ−C1-8アルキル基)、C6-24アリール基(特にC6-10アリール基)、またはC7-24アラルキル基(特にC7-12アラルキル基)であるか、あるいは基R11、R12、R13およびR14のうち二つが、それらが結合している窒素原子と一緒になって、5員または6員のへテロ環、例えばピロリジノ、ピペリジノまたはモルホリノを形成している〕
で示されるカチオンである。
【0037】
アンモニウムカチオンの例は、
−非置換アンモニウム、
−モノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−C1-4アルキルアンモニウム、例えば、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、3−プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、sec−ブチルアンモニウム、イソブチルアンモニウム、1,2−ジメチルプロピルアンモニウムまたは2−エチルヘキシルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム、ジブチルアンモニウム、ジイソブチルアンモニウム、ジ−sec−ブチルアンモニウム、ジ−2−エチルヘキシルアンモニウム、N−メチル−n−ブチルアンモニウムまたはN−エチル−n−ブチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、N,N−ジメチルエチルアンモニウム、N,N−ジメチルイソプロピルアンモニウム、N,N−ジメチルベンジルアンモニウムまたは(CH32((CH3O)2CHCH2)NH+、トリメチルセチルアンモニウム(トリメチルヘキサデシルアンモニウム)、トリブチルベンジルアンモニウム、
−モノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−C8-16アルキルアンモニウム、例えば
【0038】
【化11】

【0039】
(Primene81R(登録商標)のアンモニウムカチオンの概念的な表示)、
−C1-4アルコキシ−C1-4アルキルアンモニウム、例えば、2−メトキシエチルアンモニウム、ビス(2−メトキシエチル)アンモニウム、3−メトキシプロピルアンモニウムまたはエトキシプロピルアンモニウム、
−モノ−、ジ−もしくはトリ−(ヒドロキシ−C1-4アルキル)アンモニウム、例えば、モノ−、ジ−もしくはトリ−エタノールアンモニウム、モノ−、ジ−もしくはトリ−イソプロパノールアンモニウム、N−メチル−もしくはN,N−ジメチル−エタノールアンモニウム、N−メチル−もしくはN,N−ジメチル−プロパノールアンモニウムまたはN−メチル−もしくはN,N−ジメチル−イソプロパノールアンモニウム、N−メチル−ジエタノールアンモニウム、N−メチル−ジプロパノールアンモニウムまたはN−メチル−ジイソプロピルアンモニウム、N−エチル−ジエタノールアンモニウム、N−エチル−ジプロパノールアンモニウムまたはN−エチル−ジイソプロピルアンモニウム、N−プロピル−ジエタノールアンモニウム、N−プロピル−ジプロパノールアンモニウムまたはN−プロピル−ジイソプロピルアンモニウム、
【0040】
ポリアンモニウム塩、特にジアンモニウム化合物が同様に適切である。好ましいジアンモニウム化合物は、以下のアミン:1,2−ジアミノエタン、1,2−ジアミノ−1−メチルエタン、1,2−ジアミノ−1,2−ジメチルエタン、1,2−ジアミノ−1,1−ジメチルエタン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、N−メチル−1,2−ジアミノエタン、1,4−ジアザシクロヘキサン 1,2−ジアミノ−1,1−ジメチルエタン、2,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、N−ヒドロキシエチル−1,2−ジアミノエタン、1−エチル−1,3−ジアミノプロパン、2,2−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタン、N−2−アミノエチルモルホリン、1,6−ジアミノヘキサン、1,6−ジアミノ−2,2,4−トリメチルヘキサン、N,N−ジヒドロキシエチル−1,2−ジアミノエタン、N,N−ジメチル−1,2−ジアミノエタン、4,9−ジオキサ−1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノ−4−メチルシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1−アミノ−2−アミノメチル−2−メチル−4,4−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジアミノメチルシクロヘキサン、N−2−アミノエチルピペラジン、1,1−ジ(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)メタン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチル−ペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−エチル−3−メチル−ペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチル−ヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジシクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ(2−ナフチル)−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチル−ブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1−メチル−ヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンおよびN,N’−ジメチル−N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンから誘導される。
【0041】
第四級窒素カチオンとしてのMの、特に好ましい例は、アンモニウム、トリメチルセチルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウムである。
【0042】
金属カチオンとしては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたはアルミニウムが挙げられる。
【0043】
好ましいxおよびyの値は、x=0〜1およびy=0.1〜2.0である。
【0044】
本発明によれば、C1-36アルキル基は、1〜36個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、特にC1-16アルキル基を意味し、該アルキル基は、非置換であっても、または1個以上のC1-4アルコキシ基で置換されていてもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、2,4,4−トリメチルペンチル、2−エチルヘキシル、オクチルまたはジメトキシメチルを意味するものと理解すべきである。C1-4アルコキシ基(直鎖または分岐鎖であってよい)の例は、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、イソブトキシおよびtert−ブトキシである。
【0045】
6-24アリール基は、好ましくは、非置換であっても、またはC1-4アルキル、C1-4アルコキシもしくはヒドロキシで置換されていてもよいC6-10アリール基であり、例えば、フェニル、ナフチル、4−メチルフェニル、4−メトキシフェニルまたは2−、3−もしくは4−ヒドロキシフェニルである。
【0046】
非置換であってもまたは置換されていてもよい、C7-24アラルキル基(特にC7-12アラルキル基)の例は、ベンジル、2−ベンジル−2−プロピル、β−フェニル−エチル、α,α−ジメチルベンジル、ω−フェニル−ブチルおよびω−フェニル−オクチルである。
【0047】
直鎖または分岐鎖のヒドロキシ−C1-36アルキル基(特にヒドロキシ−C1-8アルキル基)の例は、1個以上のヒドロキシ基で置換されている、上記のC1-36アルキル基の例である。
【0048】
本発明は、選定された添加剤の存在下における、対応する式(I)の6,13−ジヒドロキナクリドンの塩の酸化による、式(II)のキナクリドンを製造する方法に関する。
【0049】
本発明の好ましい態様において、選定された添加剤は、下記の構造(III):
【0050】
【化12】

【0051】
(式中、Mは、水素、第四級窒素カチオンまたは金属カチオンであり、
xは、0〜2であり、特にxは0〜1であり、
yは、0.05〜4であり、特にyは0.1〜2であり、
Qは、2,9−ジクロロキナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン、4,11−ジフルオロキナクリドンおよび4,11−ジメトキシキナクリドンのような置換キナクリドンである)
で表される。
【0052】
第四級窒素カチオンとしてのMの好ましい例は、アンモニウム、トリメチルセチルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウムであり;金属カチオンとしては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたはアルミニウムが挙げられる。
【0053】
好ましいxおよびyの値は、顔料生成に使用される代表的な組成物中で測定された平均で、xは0〜1の数であり、yは0.1〜2.0の数である。
【0054】
このような添加剤の好ましい例は、フタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン、フタルイミドメチル2,9−ジメチルキナクリドンおよびフタルイミドメチル4,11−ジクロロキナクリドンである。このような添加剤の製造は、米国特許第3,275,637号に記載されている。これらの添加剤は、分散性および色強度等の特性を改善するために顔料を粉末化する際に使用される。
【0055】
本発明において、粒子成長抑制剤添加剤、フタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン、フタルイミドメチル2,9−ジメチルキナクリドンおよびフタルイミドメチル4,11−ジクロロキナクリドンは、キナクリドンの結晶相をβ形に配向させ(direct)、同時に、粒子サイズを低下させる。添加剤は、6,13−ジヒドロキナクリドンの重量に対して、1〜25重量%、好ましくは1〜10%、最も好ましくは6,13−ジヒドロキナクリドンに基づいて0.05〜10重量%で使用される。
【0056】
酸化法の一例が、参照として本明細書に組み込まれる米国特許第5,840,901号に記載されている。6,13−ジヒドロキナクリドン塩は、例えば、6,13−ジヒドロキナクリドンを、塩基性媒体、例えば水とアルコールとの塩基性混合物中で、30℃を超える温度、好ましくは40〜60℃、最も好ましくは50℃〜相当する還流温度で、5分〜2.5時間、好ましくは20分〜1.5時間撹拌することにより製造される。
【0057】
酸化反応は、実質的に6,13−ジヒドロキナクリドン、添加剤、場合により塩基および適切な液体相からなるスラリーを、酸化剤と混ぜ合わせることにより得られる反応媒体中で行われる。適切な液体相は、酸化反応を促進し、かつ酸化剤と有意な程度には反応しない、任意の液体媒体である。
【0058】
一般的な液体相は、6,13−ジヒドロキナクリドン100部当たり、水20〜750部、好ましくは40〜600部とアルコール50〜750部、好ましくは100〜600部とを含有する(部は重量部である)、低級アルコールと水との混合物である。アルコールは、有利には、例えばC1〜C4アルコール、好ましくはC1〜C3アルカノール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノール、好ましくはメタノールである。反応媒体は、実質的に他の有機溶媒を含まないのが好ましい。しかし、有機溶媒は、6,13−ジヒドロキナクリドン塩の生成または酸化反応に障害を及ぼさない限り、反応媒体中に存在することは許容される。
【0059】
6,13−ジヒドロキナクリドンの塩を形成しうる塩基はいずれも、反応媒体中で有効である。好ましくは、塩基は、アルカリ金属水酸化物、最も好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。特定の場合においては、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合物を使用するのが有利である。6,13−ジヒドロキナクリドンに対する塩基のモル比は、代表的には、6,13−ジヒドロキナクリドン1モル当り、塩基1〜7モルである。好ましくは、反応媒体は、6,13−ジヒドロキナクリドン1モル当り、2.2〜5モルの塩基を含有する。
【0060】
6,13−ジヒドロキナクリドン塩の生成は、6,13−ジヒドロキナクリドン塩の結晶の生成により、光学顕微鏡下に観察することができる。反応条件、塩基および/または6,13−ジヒドロキナクリドン上の置換基の種類により、塩は、一般に、針状、プリズム状、立方体状または板状の形態である。
【0061】
酸化反応は、好ましくは、不活性ガス流下、例えば、窒素流下で行われる。
【0062】
酸化法の一つにおいて、酸化は、酸化剤としての過酸化水素の水溶液を、水性アルコールと塩基との塩基性混合物中の6,13−ジヒドロキナクリドンのスラリーと、5分〜6時間、好ましくは30分〜3.5時間にわたる時間混ぜ合わせ、続けて、酸化を完結させかつ顔料の再結晶化を促進するための期間、攪拌しながら反応媒体を高温に維持することにより行われる。反応媒体は、過酸化水素を添加後5分〜5時間、好ましくは30分〜4時間の間、50℃を超える温度、好ましくは還流温度に保持するのが有利である。顔料は、次いで、ろ過、アルコールで、次に熱水での洗浄、そして乾燥により、単離される。塩基およびアルコールは、ろ液から容易に再生することができる。
【0063】
過酸化水素の水溶液は、一般に、過酸化水素を、1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%、最も好ましくは10〜25重量%含有する。一般に、小過剰の過酸化水素が使用される。6,13−ジヒドロキナクリドンに対する過酸化水素のモル比は、例えば、6,13−ジヒドロキナクリドン1モル当り、過酸化水素1.1〜5モル、好ましくは1.2〜3.5モルである。
【0064】
過酸化水素による6,13−ジヒドロキナクリドン塩の対応するキナクリドンへの酸化は、反応混合物の色の変化により視覚的に追跡される。
【0065】
酸化工程において、酸化促進量の触媒が存在すると、キナクリドンの収率がより高くなる。更に、上記の酸化条件下に触媒が存在すると、実質的にキナクリドンキノンを含まない(例えばキナクリドンキノンを2.5重量%未満で含有する)キナクリドン生成物がもたらされる。少量のキナクリドンキノンは、その存在が実質的に最終的なキナクリドン顔料の彩度を低下させない限り、最終生成物中に存在することが許容される。
【0066】
本反応条件下での6,13−ジヒドロキナクリドンの酸化を触媒しうる化合物はいずれも、触媒として使用することができる。本発明の方法で使用される特に適切な触媒は、例えば、6,13−ジヒドロキナクリドンのキナクリドンへの空気酸化のために使用されるキノン化合物である。このようなキノン触媒は、当該技術分野で周知である。適切な触媒としては、アントラキノン化合物、特にアントラキノン、およびアントラキノンスルホン酸誘導体が挙げられる。特に、アントラキノン、アントラキノンモノスルホン酸およびアントラキノンジスルホン酸、あるいはそれらの塩、例えば、アントラキノン−2,7−ジスルホン酸、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸または好ましくはアントラキノン−2−スルホン酸、あるいはそれらの塩、特にナトリウム塩またはカリウム塩、とりわけアントラキノン−2−スルホン酸、ナトリウム塩またはカリウム塩である。キノン触媒は、反応媒体中に、酸化反応を触媒するのに有効な量、例えば、6,13−ジヒドロキナクリドンの重量の0.005〜0.1倍、最も好ましくは6,13−ジヒドロキナクリドンの重量の0.01〜0.05倍の量で存在させる。
【0067】
液体相の組成、再結晶化の時間および温度により、透明で小粒子サイズのキナクリドン顔料あるいは不透明で大粒子サイズのキナクリドン顔料が生成する。より低い温度かつより短い時間が、透明な生成物にとって好ましく、他方、より高い温度かつより長い時間が、より不透明な生成物にとって好ましい。
【0068】
透明でより小さい粒子サイズのキナクリドン顔料は、約15〜約100m2/gの表面積を有するものとして定義される。より不透明でより大きい粒子サイズのキナクリドン顔料は、約15m2/g未満、特に、約7〜約15m2/g未満の表面積を有するものとして定義される。粗β−キナクリドンの表面積は、約2〜6m2/gである。
【0069】
キナクリドン生成物の結晶変態は、所望の結晶変態を有するキナクリドン顔料の種結晶約1〜10%を加えることにより、制御することができる。種結晶は、好ましくは酸化の前に、最も好ましくは塩形成の前に添加される。本発明において、式(III)の添加剤(フタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン、フタルイミドメチル2,9−ジメチルキナクリドンおよびフタルイミドメチル4,11−ジクロロキナクリドン)に加えて、第二の添加剤(第二の添加剤は、ピラゾリルメチルキナクリドン、フタルイミドメチルキナクリドンまたはキナクリドンスルホン酸等の粒子成長抑制剤である)を、更にβ−キナクリドンの粒子サイズを減少させるために添加することもできる。
【0070】
好ましくは、第二の添加剤は、ピラゾリルメチルキナクリドンおよびキナクリドンモノスルホン酸よりなる群から選択される。第二の添加剤は、好ましくは、過酸化水素溶液の添加後に、加えられる。それらは、ひとたび酸化が開始され、結晶格子が第一の添加剤、フタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン、フタルイミドメチル2,9−ジメチルキナクリドンおよびフタルイミドメチル4,11−ジクロロキナクリドンにより形成されると、より効果を生じる。
【0071】
したがって、本発明の一つの態様において、酸化工程は、過酸化水素の1〜50重量%水溶液を、実質的に6,13−ジヒドロキナクリドン、触媒、塩基および液体相からなるスラリーと第二の添加剤とに、混ぜ合わせることにより行なわれる。
【0072】
酸化の形式および添加剤の使用は、上記の過酸化水素反応に限定されない。ジヒドロキナクリドンは、別法として、芳香族ニトロ化合物、例えば3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを酸化剤として用いて、塩基と少量の水を含有するアルコール性媒体中で、対応するキナクリドンに酸化することができる。6,13−ジヒドロキナクリドンを、溶媒および/または水性塩基性系中で、酸素含有ガスで酸化する方法により、ジヒドロキナクリドンを対応するキナクリドンに酸化することも公知である。このような方法は、空気が酸素含有ガスとして都合よく使用されるので、しばしば、「空気酸化」と称される。更に、極性溶媒、例えばDMSO中に溶解した6,13−ジヒドロキナクリドンを、空気を酸化剤として使用して酸化することが公知である。本発明で挙げられた添加剤は、顔料品質の2,9−ジクロロキナクリドンならびに置換キナクリドンおよび非置換キナクリドンよりなる固溶体の製造においても使用される。したがって、本発明の態様は、2種以上の式(I)の6,13−ジヒドロキナクリドンを含有する混合物が、本発明の方法により共酸化されて、キナクリドン固溶体生成物を生じる方法に関する。本発明の方法は、キナクリドン/2,9−ジクロロキナクリドン、キナクリドン/4,11−ジクロロキナクリドン、キナクリドン/2,9−ジメチルキナクリドン、キナクリドン/2,9−ジメトキシキナクリドン、2,9−ジクロロキナクリドン/2,9−ジメチルキナクリドン、2,9−ジクロロキナクリドン/2,9−ジメトキシキナクリドンまたは2,9−ジメチルキナクリドン/2,9−ジメトキシキナクリドンの固溶体顔料の製造に、特に実用的である。本発明で述べた添加剤は、米国特許第5,638,641号および第5,775,873号に記載されている、ポリリン酸環化を経由するキナクリドンの他の製造方法においても、使用することができる。
【0073】
以下の例により、発明の範囲を限定することなく、本発明を説明する。別途記載のない限り、パーセントおよび部は、それぞれ、重量パーセントおよび重量部である。X線回折パターンは、理学ガイガーフレックス(RIGAKU GEIGEERFLEX)回折計、D/MaxII vBX型で測定した。
【0074】
実施例
例1(比較)
還流冷却器、機械式パドル翼攪拌器および熱電対素子を備えた1Lの4つ口丸底フラスコ中で、6,13−ジヒドロキナクリドン(36g、0.114モル)をメタノール(180ml)中に分散させた。水酸化ナトリウム溶液(27.4g、水中50%溶液、0.343モル)を、滴下ロートを用いてゆっくり(10分)加え、粘稠な分散液を55℃で1時間加熱した。アントラキノンモノスルホン酸ナトリウム(0.5g)を加え、混合物を加熱し還流させた。得られた混合物に、過酸化水素の16.9%水溶液40mlを、Brinkmannポンプを用いて、0.15ml/分の速度で加えた。添加後、反応混合物を10分間加熱し、次いで、水100mlを加えた。生成物をろ過し、水洗し(pH7.5〜8.0まで)、次いで、80℃の空気乾燥器中で終夜乾燥させて、暗赤色の粉末34.5gを得た。生成物は、相対粒子サイズ(2スケールにおける5.5〜7でのピークのβ1/2値)および結晶構造についてX線回折により、色彩についてラブアウト(rub-out)(マストーン、ティント)により、また、透明性についてドローダウン(draw-downs)により特定した。生成物は、6.2(2θ)においてβ1/2値0.285を示し(図1)、α−キナクリドンに相当していた。
【0075】
例2
添加剤であるフタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン(1.8g)を、アントラキノンモノスルホン酸ナトリウムの添加前に加えたこと以外は、例1を繰り返した。混合物を加熱還流させ、続いて、過酸化水素溶液を添加し、例1に記載のように行った。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.345を示し、(図2)β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、43.1m2/gであった。この実験は、β相配向剤(beta phase director)ならびに粒子サイズ低下剤(particle size reducing agent)としての添加剤の効果を証明した。
【0076】
例3
添加剤であるフタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドンを高濃度(3.6g)で加えたこと以外は、例1を繰り返した。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.409を示し(図3)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、61.4m2/gであった。この実験は、β相配向剤ならびに粒子サイズ低下剤としての添加剤の効果を証明した。
【0077】
例4
添加剤であるフタルイミドメチル2,9−ジメチルキナクリドン(1.8g)を、アントラキノンモノスルホン酸ナトリウムの添加前に加えたこと以外は、例1を繰り返した。混合物を加熱還流させ、続いて、過酸化水素溶液を添加し、例1に記載のように行った。生成物は、5.9 (2θ)においてβ1/2値0.354を示し(図4)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、48.8m2/gであった。この実験は、β相配向剤ならびに粒子サイズ低下剤としての添加剤の効果を証明した。
【0078】
例5
添加剤であるフタルイミドメチル4,11−ジクロロキナクリドン(1.8g)を、アントラキノンモノスルホン酸ナトリウムの添加前に加えたこと以外は、例1を繰り返した。混合物を加熱還流させ、続いて、過酸化水素溶液を添加し、例1に記載のように行った。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.304を示し(図5)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、19m2/gであった。この実験は、β相配向剤ならびに粒子サイズ低下剤としての添加剤の効果を証明した。
【0079】
例6(比較)
還流冷却器、機械式パドル翼攪拌器および熱電対素子を備えた1Lの4つ口丸底フラスコに、6,13−ジヒドロキナクリドン(50.4g、0.162モル)を加え、メタノール(180ml)中に分散させた。水酸化ナトリウムの水溶液(45g;0.533モル;50%)を滴下ロートを用いて、10分かけてゆっくり加え、粘稠な分散液を55℃で1時間攪拌した。これに、アントラキノンモノスルホン酸ナトリウム(1g)を加え、混合物を加熱還流させた。得られた混合物に、過酸化水素の水溶液(45ml;0.175モル;35%)を、Brinkmannポンプを用いて、0.25ml/分の速度で加えた。添加後、反応混合物を更に10分間還流下で攪拌し、次いで、水(100ml)を加えた。生成物をろ過し、水洗し(pH7.5〜8.0まで)、次いで、80℃の空気乾燥器中で終夜乾燥させて、暗褐色の粉末48gを得た。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.260を示し(図6)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、2.3m2/gであった。
【0080】
例7
添加剤であるフタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン(2g;プレスケーキとして11.9g)を、アントラキノンモノスルホン酸ナトリウムの添加前に加えたこと以外は、例6を繰り返し、反応を、例5に記載のように行った。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.343を示し(図7)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、37.4m2/gであった。この実験は、添加剤の粒子サイズ減少効果を証明した。
【0081】
例8
添加剤であるフタルイミドメチル2,9−ジメチルキナクリドン(1g)を、アントラキノンモノスルホン酸ナトリウムの添加前に加えたこと以外は、例6を繰り返し、反応を、例5に記載のように行った。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.330を示し(図8)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、28.9m2/gであった。この実験は、添加剤の粒子サイズ減少効果を証明した。
【0082】
例9
添加剤であるフタルイミドメチル4,11−ジクロロキナクリドン(1g)を、アントラキノンモノスルホン酸ナトリウムの添加前に加えたこと以外は、例6を繰り返し、反応を、例5に記載のように行った。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.305を示し(図9)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、8.4m2/gであった。この実験は、添加剤の粒子サイズ減少効果を証明したが、効果はより小さかった。
【0083】
例10(比較)
還流冷却器、機械式パドル翼攪拌器および熱電対素子を備えた1Lの4つ口丸底フラスコに、6,13−ジヒドロキナクリドン(40g、0.129モル)を加え、メタノール(210ml)中に分散させた。水酸化ナトリウムの水溶液(53g;0.66モル;50%)を滴下ロートを用いて、10分かけてゆっくり加え、粘稠な分散液を55℃で1時間攪拌した。これに、3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムの溶液(水27ml中24g)を加え、反応混合物を還流下で2時間攪拌し、次いで、水(100ml)を加えた。生成物をろ過し、水洗し(pH7.5〜8.0まで)、次いで、80℃の空気乾燥器中で終夜乾燥させて、暗褐色の粉末38gを得た。生成物は、5.8(2θ)においてβ1/2値0.251を示し(図10)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、5.5m2/gであった。
【0084】
例11
添加剤であるフタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン(2g)を、3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加前に加えたこと以外は、例10を繰り返し、反応を、例10に記載のように行った。生成物は、5.9(2θ)においてβ1/2値0.368を示し(図11)、β−キナクリドンに相当していた。生成物の表面積は、45.4m2/gであった。この実験は、酸化剤として過酸化水素の代わりにアントラキノンモノスルホン酸ナトリウムを用いた、異なる酸化条件下での添加剤の粒子サイズ減少効果を証明した。
【0085】
例12(比較)
還流冷却器、機械式パドル翼攪拌器および熱電対素子を備えた1Lの4つ口丸底フラスコ中で、6,13−ジヒドロキナクリドン(36g、0.114モル)をメタノール(178ml)中に分散させた。水酸化ナトリウムの溶液(53.0g、水中50%溶液、0.662モル)をゆっくり加え、続いて、水(15.6g)を加えた。粘稠な分散液を55℃で1時間加熱した。水(23g)中のアントラキノン−2,7−ジスルホン酸ナトリウム(1.0g)の溶液を加え、混合物を0.5時間、加熱還流させた。得られた混合物に、過酸化水素の20%水溶液30gを、Brinkmannポンプを用いて、0.3ml/分の速度で加えた。添加後、反応混合物を15分間加熱し、そして室温に冷却した。生成物をろ過し、水洗し(pH7.0〜8.0まで)、次いで、80℃の空気乾燥器中で終夜乾燥させて、暗赤色の粉末27.9gを得た。生成物は、相対粒子サイズについてX線回折により特定し、5.6(θ)においてβ1/2値0.253を示し、粗β−キナクリドンに相当していた。表面積は、2.1m2/gであった。
【0086】
例13
添加剤であるフタルイミドメチル2,9−ジクロロキナクリドン(1.44g)を、水酸化ナトリウム溶液の添加後、6,13−ジヒドロキナクリドンに加えたこと以外は、例12を繰り返し、反応を、例12に記載のように行った。生成物は、相対粒子サイズについてX線回折により、色彩についてラブアウト(マストーン、ティント)により、また、透明性についてドローダウンにより特定した。生成物は、5.6(θ)においてβ1/2値0.353を示し、β−キナクリドンに相当していた。表面積は、41.2m2/gであった。
【0087】
例14
ピラゾリルメチル−キナクリドン(0.72g)を、過酸化水素溶液の添加0.5時間後に加えたこと以外は、例13を繰り返し、反応を、例1に記載のように行った。生成物は、5.75(θ)においてβ1/2値0.387を示し(図12)、小粒子サイズのβ−キナクリドンに相当していた。表面積は、約30〜50m2/gであった。
【0088】
例15
キナクリドンモノスルホン酸(0.72g)を、過酸化水素溶液の添加0.5時間後に加えたこと以外は、例13を繰り返し、反応を、例1に記載のように行った。生成物は、5.85(θ)においてβ1/2値0.417を示し、小粒子サイズのβ−キナクリドンに相当していた。表面積は、約30〜50m2/gであった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、例1の生成物のX線回折パターンである。
【図2】図2は、例2の生成物のX線回折パターンである。
【図3】図3は、例3の生成物のX線回折パターンである。
【図4】図4は、例4の生成物のX線回折パターンである。
【図5】図5は、例5の生成物のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
【化1】


で示される、小粒子サイズのβ結晶相キナクリドンの合成方法であって、該方法が、式(I):
【化2】


(式中、XおよびYは、互いに独立に、ハロゲン、−OH、−NO2、−CF3、C1〜C4アルキル基、置換C1〜C4アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、置換C1〜C4アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、フェノキシ基、−COOH、−COO−C1〜C4アルキル基、−SO3H、フェニルアミノ基、ベンズアミノ基、−N(CH32、−SO2NH2、−SO2N(CH32、ピリジノ基、−CONH2または−CON(CH32、特に、F、Cl、Br、I、C1〜C4アルキル基またはC1〜C4アルコキシ基であり、
nは、0、1または2、特に0または1、とりわけ0である)
で示される対応するジヒドロキナクリドン、またはその塩を酸化することを含み、式(III):
【化3】


(式中、Mは、水素、第四級窒素カチオンまたは金属カチオンであり、
xは、0〜2であり、
yは、0.05〜4であり、
Qは、置換キナクリドン残基である)
で示される添加剤が、酸化反応中に存在する方法。
【請求項2】
Qが、2,9−ジクロロキナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン、4,11−ジフルオロキナクリドンおよび4,11−ジメトキシキナクリドンよりなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Mが、アンモニウム、トリメチルセチルアンモニウムおよびトリブチルベンジルアンモニウムよりなる群から選択される第四級窒素カチオンであるか、あるいはMが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびアルミニウムよりなる群から選択される金属カチオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸化工程が、実質的に6,13−ジヒドロキナクリドン塩、触媒、塩基および液体相からなるスラリーを、過酸化水素の水溶液と混ぜ合わせることにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
液体相が、6,13−ジヒドロキナクリドン100重量部当り、約20〜750重量部、特に40〜600重量部の水と、約50〜750重量部、特に100〜600重量部のC1〜C4アルコール、特にメタノールとから実質的になる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
6,13−ジヒドロキナクリドン塩が、二ナトリウム塩または二カリウム塩である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
塩基が、6,13−ジヒドロキナクリドン1モル当たり、1〜7モル、特に2.2〜5モルの量で存在するアルカリ金属水酸化物である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
触媒が、アントラキノン、アントラキノンモノスルホン酸およびアントラキノンジスルホン酸、またはそれらの塩、特にアントラキノン−2,6−ジスルホン酸、アントラキノン−2,7−ジスルホン酸、またはアントラキノン−2−スルホン酸のナトリウムもしくはカリウム塩よりなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
触媒が、6,13−ジヒドロキナクリドンの重量の0.005〜0.1倍の量で存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酸化工程が、過酸化水素の1〜50重量%水溶液を、実質的に6,13−ジヒドロキナクリドン、触媒、塩基、式(III)の化合物、液体相からなり、かつ第二の添加剤を更に含むスラリーと混ぜ合わせることにより行なわれ、第二の添加剤が、粒子成長抑制剤、特にピラゾリルメチル−キナクリドンおよびキナクリドンモノスルホン酸である、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−513302(P2006−513302A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567342(P2004−567342)
【出願日】平成15年12月22日(2003.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2003/051087
【国際公開番号】WO2004/067642
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(396023948)チバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Holding Inc.
【Fターム(参考)】