説明

小麦ふすまを含むパン用小麦粉組成物及びそれを使用したパン

【課題】ふすまを多く含むにもかかわらず風味、食感、外観などに優れた美味なパンを製造することができる小麦粉組成物及びこれを使用したパンを提供すること。
【解決手段】赤小麦由来の小麦粉100質量部に白小麦由来のふすまを4〜25質量部加えた小麦粉組成物である。また、赤小麦由来の小麦粉とバイタルグルテンの混合物100質量部に、白小麦由来のふすまを4〜54質量部加えた小麦粉組成物である。また、前記小麦粉組成物において、ふすまの粒径が250μmの篩いを通るように調整された小麦粉組成物である。さらに、前記小麦粉組成物を使用して製造したパンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦ふすまを多く含むにもかかわらず製パン作業性が良く外観やボリューム食感などに優れ美味なパンを作ることができる小麦粉組成物及びこれを使用して製造したパンに関する。
【背景技術】
【0002】
小麦は製粉して小麦粉にした後に、さまざまな食品に加工して利用されている。
小麦粉から作られる代表的な食品としては、パン、麺、焼き菓子などがあり、それぞれ異なる銘柄の小麦が使用されている。
小麦は一般的に赤小麦と白小麦に分けられ、これらは加工製品によって使い分けられている。
パン用小麦粉の製造原料には赤小麦が主に使われる。
一方、白小麦は、主に菓子と麺(うどん、ラーメンなど)用の小麦粉原料として使われている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
先進諸国の食生活では不足しているとされる食物繊維の摂取量を増すために、全粒穀粉や穀物のふすまを使用した食品が世界的に増える傾向にある。
しかし、ふすまを食品に加えると食味食感とも劣り、外観や加工時の作業性も良くないことから、依然としてふすまを含まない食品の方が圧倒的に多数を占めている。
ふすまを美味に食する方法も研究されており、例えばふすまを細かく粉砕する方法(例えば特許文献1参照)、ふすまを焙焼加熱した後に粉砕する方法(例えば特許文献2参照)、ふすまに加水した後に臼で粉砕する方法(例えば特許文献3参照)などが知られている。
しかし、ふすまを多く含むパンで、製パン作業性、パンの膨らみ、風味、食感などの点において十分満足のいくものはなかった。
【0004】
【特許文献1】特表2007−514443号公報
【特許文献2】特開2001−204411号公報
【特許文献3】特公2001−3228906号公報
【非特許文献1】小麦粉の魅力、平成15年8月1日、財団法人製粉振興会発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、ふすまを多く含むにもかかわらず風味、食感、外観などに優れた美味なパンを製造することができる小麦粉組成物及びこれを使用したパンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、
(1)白小麦由来のふすまを赤小麦由来の小麦粉に加えた小麦粉組成物を原料として使用すると、ふすまを多く含むにもかかわらず風味、食感、外観などに優れた美味なパンを製造することができること。
(2)小麦粉100質量部に対して、ふすまを4〜25質量部加えたときに良好な効果が得られること
(3)前記小麦粉の一部をバイタルグルテンとした小麦粉組成物を使用すると一層良好な結果が得られ、その際のふすま添加量はバイタルグルテン及び小麦粉の合計100質量部に対して4〜54質量部になること
(4)前記白小麦由来のふすまとして、目開き250μmの篩いを通るように粒度調整した物を使用したとき、より一層パンの品質が高まること
を見出し、本発明を完成するに至った。
従って本発明は、赤小麦由来の小麦粉100質量部に白小麦由来のふすまを4〜25質量部加えた小麦粉組成物である。
また、赤小麦由来の小麦粉とバイタルグルテンの混合物100質量部に、白小麦由来のふすまを4〜54質量部加えた小麦粉組成物である。
また、前記小麦粉組成物において、ふすまの粒径が250μmの篩いを通るように調整された小麦粉組成物である。
さらに、前記小麦粉組成物を使用して製造したパンである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の小麦粉組成物は製パン作業性が良好である。
また、本発明の小麦粉組成物から作ったパンは、風味、外観、内相の色調が良好であり、食感上の欠点がなく、パンに要求される全ての性質を満たしている。
さらに、ふすまの粒度を調整することで、モチモチとしたユニークな食感とすることが可能である。
本発明のパンは、小麦ふすまを多く含むため、食物繊維などの栄養素が豊富である。
本発明の小麦粉組成物に、食塩、酵母、砂糖などの製パン用素材を添加し、パン用プレミクス粉とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における小麦とは、イネ科コムギ属の植物の頴果を指す。
小麦は皮部細胞中の赤色色素の有無という形質により、赤小麦と白小麦に分類される。
本発明における赤小麦とは、皮部に赤色の色素を持つ小麦を指す。
一般に、赤小麦の外皮色は橙色、赤褐色、濃褐色などである。
赤小麦の例としては、1CW(カナダ産ウエスタン・レッド・スプリング1等),DNS(アメリカ合衆国産ハード・レッド・スプリング、もしくはダーク・ノーザン・スプリング),SH(アメリカ合衆国産ハード・レッド・ウインター、もしくはセミハード)春よ恋(国内産小麦)、ハルユタカ(国内産小麦)、キタノカオリ(国内産小麦)、ニシノカオリ(国内産小麦)、ミナミノカオリ(国内産小麦)などが挙げられる。
【0009】
一方、本発明の白小麦とは、皮部に赤色の色素を持たない小麦を指す。
白小麦の通常の外皮色は、白色や淡黄色などである。
白小麦の例としては、ASW(オーストラリア産日本向けヌードルブレンド小麦),PH(オーストラリア産プライムハード),WW(アメリカ合衆国産ソフトホワイト、もしくはウエスタンホワイト),デュラム小麦(世界各地で作られているパスタ用の小麦)などが挙げられる。
【0010】
前述した赤小麦及び白小麦の例は、日本で食用に使用されている主要な小麦銘柄または品種だが、これら以外にも様々な銘柄や品種がある。
本発明に使用できる小麦は例示した範囲には限定されない。
赤小麦/白小麦という分類とは別に、春小麦(春播き小麦ともいう)/冬小麦(秋播き小麦)という小麦の分類方法がある。
これは、播種時期による分類であり、各小麦に要求される播種時期は遺伝的に決定される形質である。
一般に、春小麦は春に播いて夏から秋にかけて収穫し、冬小麦は秋に播いて冬を越した後、初夏に収穫する。
春小麦を秋に播いて冬を越した後、夏頃に収穫することも可能だが、そのような栽培方法を採った小麦も、春小麦に含まれる。
なぜなら、パンの加工性は小麦の遺伝的性質(グルテンの質など)によるところが多く、春小麦の遺伝的性質は播種時期によらず春小麦のものとなるからである。
先に例示した赤小麦のうち、1CW,DNS,春よ恋、ハルユタカは春小麦であり、残りは冬小麦である。
【0011】
本発明に使用する小麦粉は、赤小麦から製粉されたものである。
赤小麦から挽いた小麦粉を用いるのは、白小麦から作った小麦粉よりも製パン作業性やパンの食感が優れるためである。
小麦粉の製造に使用する赤小麦のうち、春小麦主体のものを使用するとより一層良好な製パン作業性やパンの食感が得られる。
なお、春小麦主体とは、春小麦と冬小麦を混合して製粉しているか、製粉後に混合している場合に、春小麦の比率が半分以上を占めることを指す。
もちろん、春小麦のみから製粉した小麦粉を使用すると、最も高い効果が得られる。
【0012】
本発明におけるふすまとは、小麦粉の製造時に副産物として生産される物質で、小麦粉にならなかった部分を集めたものである。
ふすまは、小麦の皮部(果皮、種皮及びアリューロン層)を主体とした、小麦粉よりも粗粒の物質であり、皮部以外に胚芽及び製粉で粉にしきれなかった少量の胚乳も混入する。
本発明で使用するふすまは、白小麦を製粉する際に得られるものである。
白小麦のふすまを使用すると、赤小麦のふすまよりも食味、香り、色調などが良好なパンが得られる。
本発明の小麦粉組成物を製造するに際し、白小麦のふすまとして目開き250μm以下の篩いを通る粒径のものを使用すると、なお一層良好な結果が得られる。
粒径の細かいふすまを使用することで、パンの食感にモチモチ感を持たせたり、食感のざらつきをなくしたり、色調をさらに良くすることができる。
粒径の細かいふすまは、市販のふすまを粉砕して、粒度調整することで得られる。
ふすまを粉砕する手段は特段問わず、例えば超遠心粉砕機、ピンミル、ターボミル、ハンマーミル、石臼、ローラーミルなどが使用可能である。
実用的な製造ラインの一例としては、ふすまを粉砕機で粉砕した後に篩い機で粒度分けし、粗すぎるものを再度粉砕機にかけるという方法が挙げられる。
【0013】
本発明に使用する白小麦のふすまとして、目開き250μm以下の篩いを通るものだと食感にモチモチ感が加わり好ましいが、あまり細かいものが多いと、モチモチ感を通り越してネチャネチャ感を感じ、やや劣る食感となる。
ネチャネチャ感は目開き150μmの篩いを通過する粒度のふすまが、粉砕したふすま中7割程度になると発生し、その比率が増えるとネチャネチャ感は強くなる。
ネチャネチャ感が加わっても、本発明のふすま入りパン用粉は、従来のものと比べると品質が優れるが、目開き150μmの篩いを通過するふすまを70質量%以下に抑え、ネチャネチャ感を軽減すると、いっそう良好な食感となる。
150μm以下のふすまを60質量%以下まで減らしてネチャネチャ感を解消すると、なおいっそう良好な食感のパンが得られる。
【0014】
本発明で使用する白小麦由来のふすまは赤小麦由来の小麦粉100質量部に対して4質量部以上25質量部以下の範囲とする必要がある、
ふすまの比率が4質量部よりも少ないと、赤小麦由来のふすまと風味や食味の差が小さくなり、優位性が失われる。
細かいふすまを使用する際に得られる食感のモチモチ感も、ふすまの比率が4質量部未満ではほとんど得られなくなってしまう。
ふすまの比率が25質量部よりも多くなると、製パン作業性が悪化し、パンの膨らみも悪くなり、食感も硬くなって商品価値が低くなる。
【0015】
バイタルグルテンを添加してグルテン組織を強化すれば、ふすまの添加量をさらに増やすことができる。
この場合、小麦粉とバイタルグルテンの合計100質量部に対して、ふすまを54質量部まで添加することが可能となる(添加量下限は風味や色調で決定されるので、バイタルグルテンを用いない場合と同じく4質量部となる。)
ふすまを54質量部を超えて添加する場合、バイタルグルテンの添加や製パン条件の調整を行っても、良いパンを得ることは簡単ではない。
本発明におけるバイタルグルテンとは、小麦のグルテンたん白質を抽出したものである。
バイタルグルテンは、工業的には主に湿式法によって製造されているが、それ以外に化学的製造方法や乾式製造方法も開発されており本発明におけるバイタルグルテンはその製造方法を問わず使用することができる。
【0016】
図1に本発明の小麦粉組成物製造方法の概略を示す。
【0017】
本発明におけるパンとは、小麦粉を主体とする穀粉と水(牛乳などを代替として使用することもある)、イースト、及びその他の資材(通常の製パンに用いられるものは、本発明のパンにも全て使用できる)を加えて捏ねることで生地を作り、醗酵させて焼く(蒸したり、油で揚げたりする場合もある)ことで製造する食品を指す。
代表的なパンとしては、食パン、ロールパン(バターロールなど)、食卓パン(コッペパン、ハンバーガーバンズなど)、ハースブレッド(フランスパン、ドイツパンなど)、菓子パン(メロンパン、アンパンなど)、デニッシュ、ペストリー、クロワッサン、揚げパン(カレーパン、ピロシキなど)、イングリッシュマフィン、フラットブレッド、ベーグル、蒸しパンなどが挙げられるが本発明のパンはこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1,比較例1〜3]赤小麦と白小麦の比較
赤小麦と白小麦由来の小麦粉及びふすまを使ってパンを作り比較した。
赤小麦由来の小麦粉として、1CWの60%粉、DNSの60%粉、SHの60%粉を等量混合したものを使用した。
白小麦由来の小麦粉として、PHの60%粉を使用した。
なお、60%粉とは、ビューラー社製テストミルで得られる6種類の小麦粉を、品質の良いところから順に加え、歩留60質量%になるように調製したものである。
赤小麦由来のふすまは、製粉工場において1CW,DNS,SHを混合した小麦の挽砕時に採取したものである。
白小麦由来のふすまは、製粉工場においてPHの挽砕時に採取したものである。
【0019】
食パンの製造及び評価は次のとおり行った。
(1)小麦粉100質量部に対してふすまを6質量部加え、混合した。
実施例1は、赤小麦由来の小麦粉と白小麦由来のふすまを混合したものである。
比較例1は、赤小麦由来の小麦粉と赤小麦由来のふすまを混合したものである。
比較例2は、白小麦由来の小麦粉と白小麦由来のふすまを混合したものである。
比較例3は、白小麦由来の小麦粉と赤小麦由来のふすまを混合したものである。
(2)前記小麦粉とふすまの混合物100質量部、パン用圧搾酵母3質量部、上白糖5質量部、食塩2質量部、脱脂粉乳2質量部、イーストフード0.1質量部、水67質量部をパン用ミキサーに投入し、低速で2分間、中速で3分間、高速で1分間混合した。
(3)生地にショートニングを5質量部加え、低速で1分間、中速で3分間、高速で4分間混合した。生地の捏ね上げ温度は28℃となるように調整した。
(4)生地を27℃で60分間醗酵した後に、450gずつに分割して丸め、20分間室温で醗酵させた。
(5)生地をモルダーで棒状に整形し、型に詰めて38℃で30分間醗酵させた後に、210℃のオーブンで25分間焼成した。
(6)焼成後、ナタネ置換法でパン容積の測定を行った後に、室温で1時間冷却し、袋詰めした。
(7)翌日、15mm厚にスライスして熟練のパネラー10名により官能評価を行った。
評価項目は、製パン作業性(2名の製パン技術者による)、外観(形状、色調)、内相(伸び、均一さ、色調)、食感、風味(食味と香り)である。
評価は各項目7段階とし、非常に劣る=1点、劣る=2点、やや劣る=3点、普通=4点、やや優れる=5点、優れる=6点、非常に優れる=7点とし、全パネラーの評価を平均して評点とした。
この試験の評価は、比較例1を対照(全項目4点)として行った。
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
比較例2と3は生地の伸展性に欠けるため、製パン作業性がやや劣り、パン容積もやや小さかった。
実施例1と比較例1はパンの伸びが良く、実施例1と比較例2は内相の色調が良いため、実施例1の外観と内相が最も優れ、比較例3は最も劣った。
比較例2と3はクラムがやや硬いため食感が若干劣った。
対照の比較例1は、ふすまに特有の苦味を感じた。
実施例1と比較例2は、ふすまを使用しているにもかかわらず苦味をほとんど感じなかった。
さらに実施例1は甘味と旨味を感じ、香りもよく、ふすまを加えないパンに近い風味であった。
比較例2は、苦味はほとんどないものの、甘味や旨味も薄く水っぽい食味であり、ふすま臭をやや強く感じた。
従って、風味は対照よりはやや優れるものの、実施例1よりは劣った。
比較例3は、対照と同様に苦味を感じ、またふすま臭を対照よりも強く感じるために、最も風味が劣った。
以上のとおり、赤小麦由来の小麦粉に白小麦由来のふすまを混合する場合に、製パン作業性とパンの品質が最も良くなった。
【0022】
[実施例2〜7]ふすまの粒度の影響
白小麦由来のふすま(実施例1に使用したのと同じもの)を粉砕して各種粒度の画分に分け小麦粉(実施例1に使用したのと同じもの)に加えてパンを作ることで、ふすま粒度の影響を調べた。
ふすまの粉砕には、レッチェ社製超遠心粉砕機を用い、篩いを使用して粒度分けした。
実施例2に使用したふすまは粉砕及び篩い分けを行っていない。
実施例3に使用したふすまは355μm〜450μmの範囲の粒子を集めたものである。
実施例4に使用したふすまは250μm〜355μmの範囲の粒子を集めたものである。
実施例5に使用したふすまは200μm〜250μmの範囲の粒子を集めたものである。
実施例6に使用したふすまは150μm〜200μmの範囲の粒子を集めたものである。
実施例7に使用したふすまは目開き150μmの篩いを抜けた粒子を集めたものである。
これらの粒度調整したふすまを、小麦粉100質量部に対して5質量部加え、それ以外は実施例1と同様に食パンを作り評価を行った。
なお、評価は実施例2を対照(全項目4点)として行った。
評価の結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
ふすまの粒子が細かくなると、パン生地がやや硬くなり、さらにべたつく傾向がみられたが、製パン作業性には大きな影響はなかった。
パン容積は、ふすまの粒子サイズにほとんど影響されなかった。
ふすまが細かくなると、ふすまの粒子が目立たなくなるために、外観や内相の色調が改善された。
ただし、実施例7のようにふすまのサイズが非常に細かいと、内相色がくすんで見える傾向があった。(それでも未粉砕のふすまよりは良好な色調であった。)
食感は、ふすまが細かくなるに従ってざらつきが抑えられ、口溶けが良くなり、飲み込む際のイガイガ感が解消されるとともに、モチモチ感が感じられるようになった。
モチモチ感はふすまの粒径が250μmよりも細かくなると、特にはっきりと感じられた。
実施例7では、モチモチ感は強いものの、ねちゃつきも感じるようになったが、実施例2よりは良好な食感であった。
風味はふすまの粒径には影響されなかった。
以上のとおり、ふすまが細かい方がパンの内相や食感が改良されることが確認できた。
特に、粒径が250μmよりも細かくなると、食感にモチモチ感を感じ、ざらつきが解消されるなど、良好な結果が得られることが確認できた。
【0025】
[実施例8〜11,比較例4〜6]ふすまの添加量
ふすまの添加量を変えて、製パンを行い評価した。
ふすまの添加量が多いと製パン作業性やパンの品質が劣ると予想されたので、適宜バイタルグルテンを添加して生地中のグルテンを強化し、製パン時の醗酵時間も調整した。
使用した小麦粉組成物の配合及び醗酵時間を表3に示す。
使用した小麦粉は実施例1と同じものである。
使用したふすまは、実施例1と同じものを目開き250μmの篩いを通るように粉砕したものである。
ただし比較例4のみは、比較例1と同じふすまを、目開き250μmの篩いを通るように粉砕して使用した。
ふすまの粉砕には、レッチェ社製超遠心粉砕機を用いた。
パンの製造及び評価方法は、表3に記した条件以外は実施例1と同じである。
なお、評価は比較例4を対照(全項目4点)として行った。
【0026】
【表3】

表中、ふすま比率は、小麦粉とバイタルグルテンを合わせた質量を100質量部とした場合の、ふすまの質量部を表す。
結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
パンの風味は、比較例6のように白小麦由来ふすまの添加量が小麦粉組成物100質量部中40質量部になっても、赤小麦由来のふすま20質量部より高い評点となった。
バイタルグルテンを加えない場合には、ふすまの添加量が小麦粉組成物100質量部中25質量部になると製パン作業性、パン容積、パン食感などが劣るようになった。
実施例8のパンは作業性に問題なく、外観、内相、風味は比較例4に比べて良好で、食感はソフトで口溶けが良かった。
従って、バイタルグルテンを使用しない場合のふすまの最大の添加量は小麦粉組成物100質量部中20質量部程度である。
【0029】
バイタルグルテンを加えるとさらにふすまの量を増やすことが可能だったが、ふすまの添加量が小麦粉組成物100質量部中40質量部になると製パン作業性、パン容積、パンの外観、内相、食感が劣った。
実施例11のパンは作業性に問題なく、外観、内相、風味は比較例4に比べてやや良好であり、食感はソフトで口溶けが良かった。
従って、バイタルグルテンを使用する場合においては、ふすまの最大の添加量は小麦粉組成物100質量部中35質量部(小麦粉100質量部に対して約54質量部に相当する)程度である。
【0030】
[実施例12,比較例7〜10]ふすま添加量比較他
赤小麦と白小麦から製造した小麦粉及びふすまを使用して、製パンにおける差を確認した。
赤小麦を使用した小麦粉として、1CWの60%粉を使用した。
白小麦を使用した小麦粉として、ASWの60%粉を使用した。
赤小麦由来のふすまは、製粉工場において春よ恋の挽砕時に採取したものである。
白小麦由来のふすまは、製粉工場においてASWの挽砕時に採取したものである。
これらのふすまは、水分を約10質量%に調整した後にピンミル(槙野産業製)で粉砕し、目開き250μmの篩いで篩った抜けを使用した。
【0031】
比較例7は、赤小麦由来の小麦粉100質量部と赤小麦由来のふすま2質量部を混合したものである。
比較例8は、赤小麦由来の小麦粉100質量部と白小麦由来のふすま2質量部を混合したものである。
比較例9は、赤小麦由来の小麦粉100質量部と赤小麦由来のふすま4質量部を混合したものである。
実施例12は、赤小麦由来の小麦粉100質量部と白小麦由来のふすま4質量部を混合したものである。
比較例10は、白小麦由来の小麦粉100質量部と白小麦由来のふすま4質量部を混合したものである。
これらの小麦粉組成物の構成を除き、パンの製造及び評価には実施例1と同じ方法を用いた。
比較例7を対照(全項目4点)として比較例8を評価した。
また、比較例9を対照(全項目4点)として実施例12及び比較例10を評価した。
結果を表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
比較例8のパンは、製パン作業性とパン品質共に、比較例7と大差なかった。(風味には差が認められたが、優劣は微妙であった。)
実施例12のパンは、クラスト、クラム共に対照よりも少し色調が明るく、風味は苦味が薄いために優れていた。
従って、小麦粉100質量部に対してふすまの使用量が2質量部ではふすまの違いはあまり影響しないが、使用量が4質量部になると品質差が明らかになることが確認できた。
なお、比較例10は生地が弱すぎて作業困難であり、モルダーを通すことができなかったため、途中で製パンを断念した。
以上のとおり白小麦由来の小麦粉は赤小麦の小麦粉よりも製パン作業性が劣っていた。
【0034】
[実施例13,比較例11,12]フランスパンによる比較
フランスパンを試作し、評価した。
比較例11は赤小麦由来の小麦粉100質量部と赤小麦由来のふすま6質量部を混合したものである。
比較例12は白小麦由来の小麦粉100質量部と白小麦由来のふすま6質量部を混合したものである。
実施例13は赤小麦由来の小麦粉100質量部と白小麦由来のふすま6質量部を混合したものである。
【0035】
使用した赤小麦由来の小麦粉は、1CWの60%粉とSHの60%粉を等量配合したものである。
使用した白小麦由来の小麦粉は、PHの60%粉である。
使用した赤小麦由来のふすまは、比較例7で使用したのと同じものである。
使用した白小麦由来のふすまは、実施例12で使用したのと同じものである。
【0036】
フランスパンの製法は次のとおりである。
(1)前記小麦粉組成物100質量部、食塩2質量部、インスタントドライイースト0.7質量部、VC1%溶液0.1質量部、モルト0.4質量部、水65質量部をミキサーで捏ねて生地を得た。
VC1%溶液とは、ビタミンC1質量部を99質量部の水に溶解したものである。
混捏時間は低速で5分、高速で3分とした。
捏ね上げ温度は24℃となるように調整した。
(2)捏ね上がった生地を27℃の醗酵室で120分間醗酵し、パンチ(ガス抜き)をした後にさらに27℃で60分間醗酵した。
(3)醗酵した生地を350gに分割し、手作業でバタールの形に整形した。
(4)整形した生地を30℃で1時間醗酵し、クープ(切り込み)を入れて、240℃で30分間焼成した。
(5)焼成後に室温で30分間間冷却し、熟練のパネラー5名により官能評価を行った。
【0037】
比較例11は実施例13と比較して作業性は同程度だが、外観と内相の色が暗く、風味に苦味を感じたため劣った。
比較例12は実施例13と比較して生地の伸展性が劣り、作業性が劣った。
比較例12の外観と内相は実施例13と同程度で良好であったが、味が薄く、ふすま臭が感じられたため風味はやや劣った。
実施例13は、作業性、色調、風味などに欠点がみられず、3つのフランスパン試作品の中で最も優れていた。
【0038】
以上のとおり、フランスパンにおいても、赤小麦由来の小麦粉に白小麦由来のふすまを組み合わせたものを使用した場合は、製パン作業性、パンの品質共に最も優れていた。
異なるパンで同傾向の結果が得られたこと、及びこれらの結果を与える要因(パンの伸びはグルテンの量と質に起因する,色調はふすまの色の影響を受ける,風味はふすまの成分と小麦粉から発生する風味によって決まる)を考慮すると、本発明の方法はパン一般に用いることができるといえる。
【0039】
[実施例14〜18,比較例13]春小麦の優位性確認
製パン性は、赤小麦と白小麦では赤小麦が良いといわれているが、春小麦と冬小麦では、春小麦が良いとされている。
念のため、赤小麦のうち、春小麦と冬小麦の比較を行った。
春小麦から製粉した小麦粉として1CWの60%粉を用いた。
冬小麦から製粉した小麦粉としてSHの60%粉を用いた。
比較用の白小麦由来の小麦粉としてはPHの60%粉を用いた。
前述した春小麦と冬小麦から挽いた小麦粉を表6の用に配合し、食パンを試作して評価した。
製パンに際して、小麦粉100質量部に対して白小麦のふすまを6質量部加えた。
前記白小麦由来のふすまは、製粉工場においてPHの挽砕時に採取して、レッチミルで250μmの目開きの篩いを通るように粉砕したものである。
評価の対照は、実施例14の春小麦100%使用のものとした。
それ以外の製パン及び評価の方法は実施例1と同じである。
食パンの評価結果を表1に示す。
【0040】
実施例14から18にかけて、冬小麦の小麦粉が増えるにしたがい、製パン作業性は悪化し、外観、内相、食感も落ちていった。
冬小麦100%使用の実施例18では、白小麦の場合とほとんど変わらない評価となった。
ただし、赤小麦の小麦粉を使用したパンは、白小麦の小麦粉と比べて風味は良く、従って、赤小麦の小麦粉を使えば、たとえ冬小麦でも白小麦よりは品質は優れることが確認できた。
製パン作業性、外観、内相、食感など、全ての項目において優れたパンを作るには、春小麦が少なくとも半分以上使われている小麦粉を選択した方が良い。
【0041】
【表6】

【0042】
[実施例19〜23]
実施例2〜7において、ふすまの粒度は細かいと食感が良くなるが、150μm以下ばかりだと、ねちゃつきが発生して良くないということが判明した。
ふすまの粒度の許容範囲を確認するために、粒度調整したふすまを用いて食パンの試作を行い評価した。
【0043】
ふすまは、製粉工場においてPHの挽砕時に採取し、レッチミルで250μmの目開きの篩いを通るように粉砕したものを用いた。
粉砕後に目開き150μmの篩いを通過する比率は、51質量%であった。
この粉砕したふすまを目開き150μmの篩いで篩い分け、表7の実施例19及び実施例21〜23のように粒度調整した。
なお、実施例20は粉砕後に粒度調整をしていないふすまである。
このように、粒度構成が異なるふすまを、1CWの60%粉100質量部に対して10質量部加え、それ以外は実施例1と同じ方法を用いて食パンを試作し、評価した。
なお、比較の対照は、粒度操作を行っていない実施例20とした。
【0044】
【表7】

【0045】
実施例19〜23において、製パン作業性、外観、内相、風味は大差なかった。
食感は、全実施例でもちもち感が感じられたが、実施例22でややねちゃつきがみられ、実施例23ではねちゃつきがみられた。
この結果を実施例2〜7と併せて考えると、実施例19〜23はいずれも粉砕前のふすまよりは良好な食感だが、ふすまの150μm以下の比率を70質量%以下に抑えるとさらに良好な食感となり、60質量%以下とするとなおいっそう良好な食感になる。
【0046】
この結果より、ふすまの150μm以下の比率が重要なファクターであることが確認できたため、実施例18までで使用したふすまの150μm以下の比率を測定した。
測定には篩いを用いた。
結果は次のとおりである。
実施例8〜11及び比較例5,6: 52質量%
比較例4: 49質量%
実施例12,13及び比較例8,10,12: 60質量%
比較例7,9,11: 54質量%
実施例14〜18及び比較例13: 52質量%
実施例1〜7と比較例1〜3のふすまは微粉砕を行っておらず、150μm以下の比率はほとんどゼロであった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の小麦粉組成物製造方法の概略を示す流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤小麦由来の小麦粉100質量部に対して、白小麦由来の小麦ふすまを4質量部以上25質量部以下の比率で混合したことを特徴とするパン用小麦粉組成物。
【請求項2】
赤小麦由来の小麦粉とバイタルグルテンの混合物100質量部に対して、白小麦由来の小麦ふすまを4質量部以上54質量部以下の比率で混合したことを特徴とするパン用小麦粉組成物。
【請求項3】
白小麦由来の小麦ふすまが目開き250μmの篩いを抜ける粒径であることを特徴とする請求項1または請求項2のパン用小麦粉組成物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のパン用小麦粉組成物を使用して製造したパン。

【図1】
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