説明

少なくとも一つの磁気熱量活性相を有する製品,及び少なくとも一つの磁気熱量活性相を有する製品の加工方法

【課題】 本発明は,磁気熱量活性相を有する製品を加工する際に生じる割れを抑制することを目的とする。
【解決手段】 磁気熱量活性相(2;12)を含む製品(1;10;20)を加工する際に,磁気相転移温度Tを有する少なくとも一つの磁気熱量活性相(2;12)を含む製品(1;10;20)に対してこの少なくとも一部を除去し,その一方で製品(1;10;20)は磁気相転移温度Tよりも高い温度,又は磁気相転移温度Tよりも低い温度に維持されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は,少なくとも一つの磁気熱量活性相を有する製品と,少なくとも一つの磁気熱量活性相を有する製品の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気熱量効果とは,磁気的に誘起されたエントロピー変化が熱の発生又は吸収へと断熱変換されることと関連する。磁気熱量物質に磁場を印加することにより,熱の発生又は吸収をもたらすエントロピー変化を誘起することができる。この効果を利用して,冷却及び/又は加熱を提供することができる。
【0003】
磁気による熱交換器は,米国特許第6,676,772号等において開示されているように,典型的には,ポンプ式再循環システムと,液体冷却剤などの熱交換媒体と,磁気熱量効果を示す磁気冷却作動物質の粒子で満たされたチャンバーと,チャンバーに磁場を印加する手段とを含んで構成されている。
【0004】
磁気による熱交換器は,原理上,ガス圧縮/膨張サイクルシステムよりもエネルギー効率が優れている。また,磁気による熱交換器はハロゲン化アルキン(CFC)のようなオゾンホールの原因と考えられている化学物質が使用されていないため,環境にやさしいとされている。
【0005】
近年,La(Fe1−aSi13,Gd(Si,Ge),Mn(As,Sb),およびMnFe(P,As)などの室温又は室温に近いキュリー温度Tを有する物質が開発されてきた。キュリー温度は,磁気熱交換システムの物質の動作温度となる。それゆえ,これらの物質は,建物の温度制御,家庭用及び産業用の冷蔵庫及び冷凍庫,自動車の温度制御などの用途で利用するのに適している。
【0006】
そして,新たに開発されている磁気熱量活性物質により提供される利点を実際に実現するため,磁気熱交換システムが開発されている。しかしながら,磁気熱交換技術をより広範囲の用途に適用するには,さらなる改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,676,772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願の目的は,費用効率が高く,信頼性が高い磁気による熱交換器に使用することのできる少なくとも一つの磁気熱量活性相を有する製品と,これを加工する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は,磁気相転移温度Tを有する少なくとも一つの磁気熱量活性相を含んだ製品を加工する方法であって,少なくとも製品の一部が除去される一方で,製品は磁気相転移温度Tより高い温度,又は低い温度に維持される。
【0010】
この少なくとも一つの磁気熱量活性相を有する製品を加工する方法は,予め準備された製品を,例えば2以上のより小さい物質へと分離させるように,及び/又は生産コストと信頼性において,望ましい製造上の誤差許容性を有する外表面が得られるように更に加工するために利用される。
【0011】
特に,例えば10mm〜数十mmの寸法を有するブロックのように大きい寸法を有する物質の場合,加工中に望ましくない割れが形成されてしまい,より大きな予め製造された製品から作りだすことのできる望ましいサイズの小さい製品の数を制限してしまうことが発明者によって発見された。
【0012】
発明者は更に,この望ましくない割れが,製品温度が磁気相転移温度より高い温度,又は低い温度で維持されるように物質を加工することで,より好適に避けることができることを発見した。
【0013】
少なくとも一つの磁気熱量活性相を含む製品を作るために使用される方法を望ましい形で選択することもできる。粉末治金法は大きなサイズのブロックが安価に作ることができるという優位点がある。原材料の金属粉をミリング,加圧,焼結して反応焼結物質を形成したり,少なくとも磁気熱量活性相を有する金属粉を加圧と焼結の後にミリングして反応焼結物質を形成したりする粉末治金法を利用することができる。
【0014】
少なくとも一つの磁気熱量活性相を有した製品は,鋳造,急速凝固融解紡糸などの方法によっても製造することができ,本発明の方法にしたがって動作させることができる。
【0015】
ここでは,磁気熱量活性物質とは,磁場が印加されたときにエントロピー変化が起こる物質として定義される。エントロピー変化は,例えば,強磁性から常磁性挙動への変化の結果として起こりうる。磁気熱量活性物質は,ある温度域の一部分においてのみ変曲点を示し,この変局点にて印加された磁場に対する2次的な磁化挙動の兆候が正極から陰極へと変化する。
【0016】
磁気熱量受動物質とは,ここでは磁場が印加されてもエントロピーにおける顕著な変化が起こらない物質と定義する。
【0017】
磁気相転移温度とは,ここではある磁性から他の磁性へと変化する際の転移温度として定義されている。磁気熱量活性相は,エントロピー変化に付随して反強磁性から強磁性へと変化を示すことがある。また,磁気熱量活性相は,エントロピー変化に付随して強磁性から常磁性へと変化を示すこともある。これらの物質にとっては,磁気相転移温度もまたキュリー温度と呼ぶことができる。
【0018】
製品の温度を加工中の間,磁気相転移温度より高い温度又は低い温度に維持するためには,製品の一部分が取り除かれる一方で,物質を加熱してもよく,また冷却してもよい。
【0019】
製品の加熱又は冷却は,例えば水や有機溶媒等の加熱/冷却用の液体を使用することによって行うことができる。
【0020】
実施形態においては,磁気熱量活性相を形成したのちに,製品の動作が完了するまでの間,磁気相転移温度Tより高い温度に製品は維持される。この実施形態は,熱処理によって磁気熱量活性相を形成したのちに,磁気相転移温度より高い温度において製品を保存することによって実現してもよい。
【0021】
製品は,温度が物質の磁気相転移温度以上になっている生成用の炉から磁気相転移温度より高い温度に維持された加熱オーブンへと物質温度が磁気相違転移温度よりも低くならないように短い時間内に転移される。同様に,製品は加熱オーブンから加工用の場所へと物質温度を磁気相転移温度よりも高い温度に維持しながら転移される。
【0022】
更なる実施形態においては,製品が加熱される一方で,磁気熱量活性相において相変化が起こらないように製品の一部分が取り除かれ,あるいは製品が冷却される一方で,磁気熱量活性相において相変化が起こらないように製品の一部分が取り除かる。
【0023】
相変化はエントロピーの変化か,強磁性から常磁性挙動への変化か,量の変化か,あるいは,線形熱膨張における変化でありえるものである。
【0024】
理論的に制限されることなしに,磁気相転移温度周辺のある温度範囲において起こる相変化は,もし加工中の間,製品温度が変化して相変化がおこってしまうと製品に割れが形成されてしまう結果となる。
【0025】
製品が相変化を起こさない温度で維持されつつ,製品を一部分以上取り除くことで製品を加工すると,加工中に製品に起こる相変化,及び加工中の相変化に伴い起こるテンションが回避される。それゆえ,製品は信頼性をもって確実に加工され,生産量は増加するとともに,生産コストは削減される。
【0026】
製品の一部分は様々な方法によって取り除くことができる。例えば,製品の一部分が機械加工,及び/又は機械的研削,機械的研磨,及び化学機械研磨,及び/又は電気放電加工,又はワイヤーカット放電加工によって取り除かれることもできる。
【0027】
一つの製品に対して,これらの方法を組み合わせて使用することもできる。例えば,ワイヤーカット放電加工によって製品の一部分を取り除いた後に,表面に対して機械的研削が行なわれ,望ましい表面仕上げを得られるように更に部位を取り除くことで,製品を2以上の独立した部分(切片)へと分離するようなことも可能である。
【0028】
製品の一部が製品表面に溝が形成されるように除去されるようにすることもできる。この溝は,磁気熱交換器における製品の動作中において熱交換媒体の流れの方向をコントロールするためのものである。製品の一部分は,少なくとも一つの貫通した孔が得られるよう取り除かれることもできる。貫通孔もまた熱交換媒体の流れの方向をコントロールし,製品の表面領域における効率性を向上させ,製品と熱交換媒体間における熱伝導を改善するために利用されるものである。
【0029】
更なる実施形態においては,製品は,長さ又は体積において温度依存転移性を示す磁気熱量活性相を含んでいる。この実施形態においては,少なくとも一部分が転移温度よりも高い,又は低い温度で取り除かれる。転移は測定可能なエントロピー変化が起こる温度範囲よりも大きい範囲に亘って起こりうる。
【0030】
転移は(L10%−L90%)×100/L>0.35で表すことができ,Lは転移温度より低い温度における製品の長さであり,L10%は最大長さ変化の10%に相当する長さであり,L90%は最大長さ変化の90%に相当する長さである。この長さの範囲は,単位温度Tごとの長さにおける最も急な変化を示している。
【0031】
実施形態においては,磁気熱量活性相では温度を増加させる負の線形熱膨張が起こる。この挙動は,例えばNaZn13タイプの構造などを含む磁気熱量活性相によっては発現され,例えば(La1−a)(Fe1−b−c13−d-ベース相などである。(0≦a≦0.9,0≦b≦0.2,0.05≦c≦0.2,−1≦d≦+l,0≦e≦3であり,MはCe,Pr,及びNdのうちのいずれか又は2以上の元素であり,TはCo,Ni,Mn,及びCrのうちのいずれか又は2以上の元素であり,YはSi,Al,As,Ga,Ge,Sn,及びSbのうちのいずれか又は2以上の元素であり,XはH,B,C,N,Li,及びBeのうちのいずれか又は2以上の元素である。)
【0032】
他の実施形態においては,製品の磁気熱量活性相は実質的に(La1−a)(Fe1−b−c13−dベース相からなる。
【0033】
また,他の実施形態においては,少なくとも2,又は複数の磁気熱量活性相を含む製品であり,それぞれの相が異なる磁気転移温度Tを有している。この製品の一部分が取り除かれる一方で製品は複数の磁気熱量活性相のうち最も高い磁気相転移温度Tより高い温度か,最も低い磁気相転移温度Tより低い温度にて維持される。
【0034】
2以上の磁気熱量活性相は,製品全体にわたってランダムに分散されていてもよい。また,他の構成としては,製品は層構造を含んでおり,各層が磁気熱量活性相であって,その磁気相転移温度が他の層のものとは互いに異なっているものでもよい。
【0035】
特に,製品は磁気相転移温度が製品方向に沿って増加していき,(すなわち,製品の反対方向においては減少していく)ように磁気相転移温度が設定された複数の磁気熱量活性相を伴う層構造を有するようにしてもよい。そのような配置をすることで,製品が使用される磁気熱交換機の動作温度は増加されるようになる。
【0036】
もし,2以上の磁気熱量活性相がそれぞれ長さや体積の変化といった相変化を伴うのであれば,製品の一部が取り除かれる一方で,製品が単独,又は複数の相変化が起こる温度範囲よりも高いか低いかのいずれかの温度に維持される。
【0037】
本出願によれば,上述した実施形態における方法を使用して製造され,磁気相転移温度Tを有する少なくとも1つの磁気熱量活性相を含んだ製品が提供されている。
【0038】
本出願によれば,磁気相転移温度Tを有する少なくとも1つの磁気熱量活性相を含んだ製品が提供されている。少なくとも製品の1表面は,機械的な仕上げが施されている。機械的な加工がされた表面は,その表面を作りだすために使用される機械的方法に特徴がある。
【0039】
構造的に,機械加工された表面は,加工プロセスに特有の凹凸を有する。例えば,研削された表面は研削物質によって作りだされる表面に典型的な表面凹凸によって決定され,ワイヤーカット放電加工された表面は,表面の長手に沿って伸びるほぼ平行な複数の畝を有する。
【0040】
実施形態においては,製品の少なくとも一面は15mm以上の長さを有している。
【0041】
また,本出願は磁気熱交換に供される前述の実施形態の一つによる方法によって製造された製品の使用のためにも提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は,第1の実施形態において磁気熱量活性相を含む製品を,機械的研削と研磨によって加工する方法を示している。
【図2】図2は,第2の実施形態において,磁気熱量活性相を含む製品を,放電加工によって加工する方法を示している。
【図3】図3は,第3の実施形態において,複数の磁気熱量活性相を含む製品を放電加工によって加工する方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1において磁気熱量活性相2を有する製品1を加工する方法が示されている。磁気熱量活性相2は,La(Fe1−a−bCoSi13ベース相であり,44℃の磁気相転移温度Tを有している。この層においては,磁気相転移温度は相が強磁性から常磁性へと変化するキュリー温度として示すことができる。
【0044】
本実施形態においては,製品1は粉末治金技術によって予め製造される。詳細には,適切な全ての構成物を伴う混合された粉末が圧縮され,製品1を形成すべく反応焼結される。しかしながら,本出願に関する製品の加工方法は,磁気熱量活性相自体をほぼ構成する原材料の粉を鋳造したり,焼結するといった方法によって作り出される1以上の磁気熱量活性相を含んだ製品にも使用することができる。
【0045】
第1の実施形態において 製品1は,矢印3によって概念的に示される機械的研削によって作られる。詳細には,図1は製品1の外表面4に対する機械的研削を示している。製品1の外表面4の一部分は製品の最終状態の前において,破線4‘にて示されており,研削後に外表面4の部分として示される部分は,実線によって示されている。外表面4は加工表面に特徴のある輪郭と凹凸を有している。
【0046】
外表面を研削することによる製品1の加工は,表面の仕上げ,及び/又は製品1の寸法の許容性を改善するために実行される。より細かい表面仕上げを作り出すためには,研磨も行われることができる。
【0047】
製品1が反応焼結ののちに焼結炉から取り出された際に,割れを含むことが観察されてきた。割れの形成は例えば5mm以上の寸法を有する大きな製品ではより大きく見られる。もし,キュリー温度の温度範囲に亘っての冷却率が減らされると,製品1における割れの形成は回避可能であることが分かった。
【0048】
焼結の後に,製品は約1050℃から60℃へと1時間以内に冷却され,この温度は磁気熱量活性相のキュリー温度44℃よりも少し高いものである。そして,製品1はゆっくりと60℃から30℃へと冷却される。
【0049】
理論通りにはならずに,製品1の反応焼結の後の室温への冷却の間に起こる割れの形成は,製品1がキュリー温度44℃を通過するときに磁気熱量活性相の負の熱膨張に伴って発生する。磁気熱量活性相がキュリー温度を通過するときの冷却率を下げることによって,製品1に対する負荷が減るため割れは回避されることができる。
【0050】
本発明によれば,製品1の製造方法は,この実施形態においては,機械的研削と研磨によってであり,製品温度Tが加工中は磁気熱量活性相のキュリー温度Tより低く,すなわちT<Tと維持されるように加工が実施される。
【0051】
加工中の間,キュリー温度Tより低く製品1の温度を維持することが求められる測定は,他のパラメータの中において,磁気熱量活性相の温度T,機械的研削及び研磨によって発生される熱,及び加工されている表面から熱を逃がす製品自体の能力に基づいて選択されることができる。
【0052】
少なくとも加工されている表面4に向けて方向付けられた冷却液のような冷却手段は製品1の温度をその温度がキュリー温度Tより低く維持されるようにコントロールするために利用されることができる。製品1の冷却は,図1において矢印5によって概念的に示されている。製品1もまたキュリー温度Tより低い温度に維持された液体の中に,全体的につからせてもよい。
【0053】
しかしながら,第1の実施形態の方法においては,機械的研削と研磨による製造には限定されない。他の方法によっても,製品1からその一部以上を除去するために使用されるようにしてもよく,例えば化学機械研磨や放電加工カット,ワイヤーカット放電加工等を使用して,その一方で製品温度TをTよりも低く維持するようにしてもよい。
【0054】
更には,製品は2以上の独立した切片に分離してもよく,製品の1端から他端まで伸びる1以上の貫通孔や溝が製品表面に形成されてもよい。貫通孔や溝は製品が磁気熱交換器において動作中のときに,冷却材を方向づけるために適している。
【0055】
他の製造方法を使用するときには,製品1の冷却は製品1の温度が磁気熱量活性相2のキュリー温度Tより低く維持してこれを超えないように選択される。発生した熱と物質の除去比率が使用される加工条件によって異なるのと同様に,加工方法によっても異なることから,求められる冷却とそのために提供される手段は,加工のために選択された手段によって変化する。
【0056】
図2は,磁気熱量活性相12を含む製品10の第2の実施形態における加工方法を示している。第1の実施形態と同様に,製品10を予め準備するための方法については重要ではない。
【0057】
図2において示された第2の実施形態の方法は,製品10を製造するために,矢印13によって概念的に示された放電加工カット技術を使用している。しかしながら,第2の実施形態の方法は放電加工カット技術に限定されず,上述したような他の方法も使用することができる。
【0058】
反応焼結の後に製品10を冷却している間に起こる割れの発生を避けるために,製品10は中間貯蔵のためにTより低い温度にゆっくりと冷却されることができる。この実施形態においては,製品10はTより高い温度で加工され,製品10はその加工する前に再びTより高くなるように加熱される。
【0059】
保存温度への冷却率は,製造温度へと至る加熱率と同様に,製品10がキュリー温度Tを通過するときに割れを避けるために,十分にゆっくりとなるように選択されている。
【0060】
割れの形成を避けるために要求される冷却率,及び加熱率は製品のサイズにも依存している。冷却率,及び加熱率はより大きい製品になればなるほど減らしていかなければならない。
【0061】
第2の実施形態における方法では,製品の製造プロセス全体にわたって,製品10の温度Tが磁気熱量活性相12のキュリー温度Tを超える温度,すなわちT>Tに維持される。ワイヤーカット放電加工技術を使用するときは,液体を加熱することで製品温度はキュリー温度よりも高く維持され,この液体の中で製品10はワイヤーカッティング工程の間浸されている。加熱は,図2において矢印11によって概念的に示されている。
【0062】
液体の熱容量に依存してはいるが,製品をワイヤーカット放電加工の前にキュリー温度Tより高い温度に加熱することも可能であるとともに,溶液の熱容量が加工の間,外部熱源から追加的に加熱されなくても必要な温度を提供することのできる熱容量を許容することができる。
【0063】
ワイヤーカット放電加工は,この実施形態においては製品10の1以上の表面18に1以上の溝17を形成したりするのと同様,製品10を切片15,16などの1以上の切片に分断するために使用することもできる。
【0064】
切片15,16の側面19は,溝17を形成する表面と同様ワイヤーカット放電加工による表面仕上げを有している。これらの表面は,物体にわたってワイヤーカットが行われる方向に平行に伸びる複数の畝を含んでいる。
【0065】
溝17は,複数面を有しており,表面18において製品10あるいはその一部が動作媒介となる熱交換器の動作中における熱交換液の流れを方向づけるように配置されている。
【0066】
図3は,複数の磁気熱量活性相22,23,24を含む製品20の加工方法を示している。製品20は層構造を有しており,各層25,26,27は異なるキュリー温度Tを有する磁気熱量活性相を含んでいる。この実施形態においては,第1層25は,Tとして3℃を有する磁気熱量活性相22を含んでおり,第2層26は第1層25上に積層され,Tとして15℃を有する磁気熱量活性相23を含んでおり,第3層27は第2層26の上に積層され,Tとして29℃を有する磁気熱量活性相24を含んでいる。
【0067】
第3の実施形態における方法においては,製品20の複数部分が除去され,一方で製品温度Tが製品20における磁気熱量活性相のうち最も高いキュリー温度よりも高くに維持されている。更には,第3の実施形態においては,製品20は生産された後で加工が実施される前に,複数の磁気熱量活性相のうち最も高いキュリー温度,ここでは第3層27のTである29℃よりも高くに維持される。製品20は,全ての加工が完了したのちに,まずは最も高いキュリー温度,ここでは29℃よりも低くなるように冷却されるようになる。
【0068】
これは,最も高いキュリー温度Tよりも高い温度で焼結を行う炉から製造された製品20を取り出し,更に加熱用のオーブンへと移動させる一方で,温度を最も高いキュリー温度T以上に維持することによって実現されることができる。更に他の実施形態では,最も高いキュリー温度Tより高い残存温度において製品が作られる炉内に製品20が置いたままにされる。
【0069】
図3において示される実施形態においては,矢印30によって概念的に示されるように製品20は放電加工カッティングによって,複数の切片28,29に分断されている。第3の切片31もまた図3において分断化が完了される前の状態で示されている。
【0070】
例えば保護用のコーティングがされるなど,製品が更に加工されると,この更なる加工もまたキュリー温度よりも高い,又は低い温度にて実施される。第3の実施形態の方法が利用されると,切片28,29,31等によって構成される製品20の温度Tが複数の磁気熱量活性相の最も高いキュリー温度よりも低くに低下されるのを許容されることなしに,保護用のコーティングもまた,キュリー温度より高い温度にて適用される。
【0071】
図1,及び図2やその他の場合において示されている方法もまた,複数の磁気熱量活性相を含む製品において実行することもできる。複数の磁気熱量活性相もまた製品において層構造に配置されているが,製品において他の配置態様を採用してもよく,例えば,製品においてランダムに配置されてもよい。
【0072】
製品はまた磁気熱量受動相を含んでいてもよい。磁気熱量受動相は,磁気熱量活性相の粒子のコーティングの形状で付与されてもよく,例えば保護コーティング,及び/又は腐食防止コーティングとして機能する。
【0073】
異なる加工方法の組み合わせも,仕掛け品から最終製品を作るために使用することができる。例えば,仕掛け品はその外表面を研削して厳密な加工誤容性を伴う外面を作りだすことができる。そして溝が形成されて,冷却用の溝となったり,後に製品が複数の切片へと分断されてもよい。しかしながら,もし製品が,それぞれが最も高い温度Tよりも高いか,最も低い温度Tより低い温度である異なるTを有する複数の磁気熱量相を含むのであれば,異なる加工方法が実行される一方で,製品温度は磁気相転移温度Tより高い温度又は低い温度に維持される。
【0074】
理論によっては縛られるものではないが,製品を加工中において磁気相転移温度よりも高い,または低い温度のいずれかに維持されることで,磁気相転移温度の領域の温度において起こる相変化が加工中に発生せず,相変化に伴って起こる全てのテンションが避けられると考えられる。相変化による加工中のテンションを避けることで,製品の加工中における割れや裂けを避けることができる。
【0075】
更には,理論によっては縛られるものではないが,製品を磁気相転移温度よりも加工中の間高い,又は低い温度のどちらかに維持することで磁気相転移温度の領域における温度にて起こる磁気熱量活性相の体積の変化が避けることができる。また理論によって縛られるものではないが,加工中に起こる製品の割れや裂けは,加工中の体積の変化を防止し,格子定数の長さの変化を防ぐことによって防ぐことができると考えられる。
【0076】
磁気熱量活性相もまた,磁気相転移温度より高い,及び低い温度範囲にわたって相変化が起こり,又は,磁気相転移温度に近い温度において体積の長さにおける温度依存的な変化を有している。磁気熱量活性相などを含む製品の部分が相変化が起こる温度範囲よりも高い,又は低い温度のいずれかで除去される。
【0077】
La(Fe1−a−bSiCo13のような磁気熱量活性相は,キュリー温度より高い温度における負の質量変化を示すように明らかになった。これらの相を含む製品は,ここで示される方法を用いてうまく加工されている。
【0078】
La(Fe1−a−bSiCo13のような磁気熱量活性相を含む大きいブロックが,このブロックのキュリー温度よりも高い温度で行われるワイヤーカット放電加工によって0.6mmの厚さの複数の切片を形成するよう分断されることが観察される。対照的に,この厚みの切片は,もしワイヤーカット放電加工が,冷却媒体が20℃で維持される通常の状態において実行される場合であれば作りだすことはできない。
【0079】
実施例と,比較対象例をここで示す。
【0080】
実施例
【0081】
シリコンを3.5重量%,コバルトを7.9重量%,ランタンを16.7重量%,イオン平衡と29℃のキュリー温度を有する磁気熱量活性相を含む焼結ブロックが,粉末焼結技術を用いて作りだされる。ブロックはワイヤー放電によって加工される。冷却液はブロックのキュリー温度29℃よりも高い50℃まで加熱され,ワイヤーカット放電加工はこの温度で実施される。厚みが0.6mmある複数の切片が作りだされる。割れは分断された切片には見られなかった。
【0082】
比較例
【0083】
比較例として,ワイヤーカット放電加工によって加工中の同様のブロックを用意し,一方ワイヤーカット放電加工機における冷却液の温度は20℃に設定され,キュリー温度29℃より少し低い。シリンダー形状の制限領域がカッティングワイヤーの周りに生じ,カッティングワイヤーに対して垂直の方向に延びるように割れが形成された。
【0084】
このシリンダー形状の領域において,物質の局地温度はそのキュリー温度よりも上昇し,一方この領域の外部では温度はTより低く維持された。約0.4%の磁気熱量活性相がTを通過するときにおこる大きな負の線形熱膨張のために,観察された割れへとつながる放電ワイヤーの近くに大きなストレスが発生する。同様の割れのない厚さ0.6mmの切片は作りだされなかった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気熱量活性相(2;12)を含む製品(1;10;20)を加工する方法であって,
磁気相転移温度Tを有する少なくとも一つの磁気熱量活性相(2;12)を含む製品(1;10;20)を提供する工程と,
前記製品(1;10;20)が磁気相転移温度Tよりも高い温度に維持されるか,又は磁気相転移温度Tよりも低い温度に維持される間に前記製品(1;10;20)の少なくとも一部を除去する工程を含む,
方法。
【請求項2】
前記製品(10;20)の一部分が除去される間に前記製品(10;20)が加熱される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
磁気熱量活性相(2;12)が相変化を起こすことを防ぐように前記製品(10;20)の一部が除去される間に前記製品(10;20)が加熱される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において,
前記磁気熱量活性相(2; 12)を形成したのちに,前記製品(10;20)への加工が完了するまで前記製品が磁気相転移温度Tよりも高い温度に維持される方法。
【請求項5】
前記製品(1)の一部が除去される間に前記製品(1)が冷却される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記磁気熱量活性相(2)が相変化を起こすことを防ぐために前記製品(1)の一部が除去される間に前記製品(1)が冷却される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記製品(1;10;20)の一部は機械によって除去される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記製品(1;10;20)の一部は,機械的研削,機械的研磨,あるいは化学機械的研磨によって除去される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記製品(1;10;20)の一部が電気放電加工,あるいはワイヤーカット放電加工によって除去される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記製品(10)は,前記製品(10)の一部が除去されることによって2つの独立した部分(15,16)へ分離される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記製品(10)の一部が除去されることによって,
少なくとも一つの溝(17)が前記製品(10)の表面に形成されるか,少なくとも一つの貫通孔が前記製品(10)に形成される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記磁気熱量活性相(2)が長さ,又は体積に温度依存性転移を示し,少なくとも一部が前記転移温度よりも高い,又は低い温度にて除去される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記転移が(L10%−L90%)xl00/LT>0.2の式によって示される特徴を有する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記磁気熱量活性相(2)が,温度の上昇に対して負の線形熱膨張の特性を示す請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記磁気熱量活性相(2)がNaZnl3タイプの構造を含む請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法であって,
前記磁気熱量活性相(2)が,(La1−a)(Fe1−b−c13−dベース相からなり,0≦a≦0.9,0≦b≦0.2,0.05≦c≦0.2,−1≦d≦+1,0≦e≦3であり,MはCe,Pr,及びNdのうちのいずれか又は2以上の元素であり,TはCo,Ni,Mn,及びCrのうちのいずれか又は2以上の元素であり,YはSi,Al,As,Ga,Ge,Sn,及びSbのうちのいずれか又は2以上の元素であり,XはH,B,C,N,Li,及びBeのうちのいずれか又は2以上の元素である方法。
【請求項17】
磁気熱量活性相(2)が(La1−a)(Fe1−b−c13−dベース相からなる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法において,前記製品(20)は,複数の磁気熱量活性相(22,23,24)を含み,それぞれが異なる磁気相転移温度Tを有しており,
前記製品(20)が複数の前記磁気熱量活性相(22,23,24)のうち最も高い磁気相転移温度Tよりも高い温度,または複数の前記磁気熱量活性相(22,23,24)のうち最も低い磁気相転移温度Tよりも低い温度に維持される間に前記製品(20)の一部が除去される方法。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法において,
前記製品(20)は,少なくとも2つの磁気熱量活性相(22,23,24)を含み,それぞれが異なる磁気相転移温度Tを有しており,
前記製品(20)は,少なくとも2つの磁気熱量活性相(22,23,24)のうち最も高い磁気相転移温度Tよりも高い温度,または少なくとも2つの磁気熱量活性相(22,23,24)のうち最も低い磁気相転移温度Tよりも低い温度に維持される間に,製品(20)の一部が除去される方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項の方法によって製造される磁気相転移温度Tを有する少なくとも1つの磁気熱量活性相(2;12)を含んだ製品(1,10,20)。
【請求項21】
磁気相転移温度Tを有する少なくとも1つの磁気熱量活性相(2,12)を含み,少なくとも1つの表面が機械的仕上げを施されている製品(1,10,20)。
【請求項22】
機械的な仕上げが研削された表面,あるいはワイヤーカット放電加工された表面になされた請求項21に記載の製品(1,10,20)。
【請求項23】
少なくとも前記製品(1,10,20)の1表面が15mm以上の長さである請求項21又は22に記載の製品(1,10,20)。
【請求項24】
請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法によって製造された製品(1,10,20)が利用された磁気熱交換器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−504861(P2012−504861A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529642(P2011−529642)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【国際出願番号】PCT/IB2008/054004
【国際公開番号】WO2010/038098
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(504227958)ヴァキュームシュメルツェ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (16)
【Fターム(参考)】