説明

局所使用のためのナノ粒子状麻酔薬組成物

本発明は、少なくとも一つの局所麻酔剤がポリマーナノ粒子にカプセル化された、局所使用のためのナノ粒子状麻酔薬組成物に関する。また本発明は、皮膚または粘膜への局所適用のための麻酔薬組成物の調製における、少なくとも一つの局所麻酔剤を含むかかるポリマーナノ粒子の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つの局所麻酔剤をポリマーナノ粒子中に含む麻酔薬組成物、および皮膚または粘膜への局所適用のための麻酔薬組成物の調製における、少なくとも一つの局所麻酔剤を含むかかるポリマーナノ粒子の使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
局所麻酔薬は、神経伝導の遮断により、体の適用領域において、感覚および/または運動機能の低下を引き起こす薬である。理想的には、局所麻酔薬は、炎症を引き起こすべきでなく、また、適用領域に近い神経組織または他の組織にダメージを与えるべきでない。補足すると、他の領域の感覚麻痺および望ましくない全身性効果を回避するために、その作用は、適用領域に限定されたままとどまることが望ましい。更に、痛みの刺激期間(たとえば、外科的介入の時間)を超える活性を付与するために、鎮痛作用を長期化することが望ましい。
【0003】
活性のパワーおよび時間を増大させ、潜在的な副作用を減らすために、局所麻酔薬を製造する種々のアプローチが試みられている。これらには、以下のものが含まれる:血管収縮薬の併用(たとえばエピネフリン)、神経組織に対して高い親和性を有する麻酔薬分子の開発(たとえばブピバカイン、ロピバカイン)、リポソームの形態の製剤の使用(たとえばリポソームリドカイン − Elamax(登録商標))。しかし、これらのアプローチは、局所性副作用(たとえば長期間の血管収縮による組織の壊死)または全身性副作用(たとえば不整脈および他の心臓血管系の問題のリスク)の欠点を有する。
【0004】
使用された別のアプローチとして、生分解性ポリマーの使用に基く、1マイクロメートルを超えるサイズの長期放出性ミクロ粒子の製剤の製造があり、たとえば、WO 95/09613、WO 97/49391、EP 1 132 080、WO 02/58670、WO 06/013309、WO 06/047279および一連の科学論文に示されるものが挙げられる。
【0005】
しかし、これら局所麻酔薬製剤の大多数は、最適な効率を達成するために、注射を必要とするという欠点がある。
【0006】
注射製剤の場合、無菌製剤および投与デバイスを使用する必要性の他に、麻酔薬を注射するプロセスが、とりわけ子供や注射を嫌がる患者の場合、苦痛で、不安感を引き起こすことは指摘する価値がある。
【0007】
この文脈において、麻酔薬の皮膚への局所適用は、局所麻酔薬の投与の興味深い代替手段である。しかし、これらの適用は、皮膚の低い透過性により、およびこれら製剤の限られた活性時間により、制限される。
【0008】
皮膚の低い透過性は、数あるファクターのなかでもとりわけ、イオン化物質または低脂溶性物質に対する抵抗性を高める脂質二重層を有する、角質細胞から形成される角質層によりつくられるバリアに起因する。このため、皮膚を通過する流れは、物質の化学的特徴に依存する。原則として、脂質薬剤は、変動する透過係数で角質層を通って吸収され、親水性薬剤は、ほぼ一定の透過係数で、ほぼ例外なく傍細胞ルートにより吸収される。薬剤によって皮膚浸透を制御するのは困難であるため、かかる欠点を解消するために、化学的および物理的な作用剤、並びにキャリアシステムが、現在研究されている。皮膚への局所使用のためのリファレンス麻酔薬製品、たとえば、EMLA(登録商標)クリーム (2.5%リドカインおよび2.5%プリロカインを含有するクリーム、AstraZeneca do Brasil Ltda.製) では、注射麻酔薬と比較して低い麻酔効率を提供することに加えて、処置のタイプに依存して、健康な皮膚に満足な感覚消失を得るためには1〜2時間の時間がかかり、初期活性の時間は、体の領域の違い(皮膚または粘膜)および皮膚の状態の違い(外傷、健康または高粘度)によって変動する。
【0009】
したがって、現在の最新技術で知られ、販売されている、局所麻酔薬として使用される製品には、不便な点がある。注射製品の場合、注射プロセスが痛みを伴い、不快感を引き起こすため、不便な点は、投与様式に関連する。一方、皮膚への局所適用のための製品の場合、その欠点は、皮膚を通る吸収の低さ、作用までの時間の長さ、および麻酔効率の低さに関連する。
【0010】
したがって、本発明は、適切な安全性および効率プロファイル、注射を必要としない投与、および短い初期活性時間を備えた局所麻酔薬製品を得ることを目的として、局所麻酔剤がポリマーナノ粒子中に含有される麻酔薬製剤を局所適用した際の効率に関して調査した結果、得られたものである。
【0011】
科学文献(たとえば、Gorner T. e col. “Lidocaine-loaded biodegradable nanospheres I. Optimization of the drug incorporation into the polymer matrix”. Journal of Controlled Release 57 (1999) 259-268; Polakovic M. e col. "Lidocaine loaded biodegradable nanospheres II. Modelling of drug release". Journal of Controlled Release 60 (1999) 169-177; Chung, T. e col. "Effects of solvent evaporation rate on the properties of protein-loaded PLLA and PDLLA microspheres fabricated by emulsion-solvent evaporation process". J Microencapsul. 19 (2002) 463-71); Schwarz C & Mehnert W; "Freeze-drying of drug-free and drug-loaded solid lipid nanoparticles (SLN)". INT. J. PHARM (1997), V157, P171-9.; Govender T e col.; “Defining the drug incorporation properties of PLA-PEG nanoparticles”. INT. J. PHARM (2000), V199, p95-110);および特許文献(たとえば、WO 06/056064、これは、注射投与、主に静脈内投与のためのナノ粒子状製剤を記載する)に麻酔剤ナノ粒子の製造に関する報告が存在するにもかかわらず、本発明者らの知る限りでは、麻酔剤をポリマーナノ粒子中に含む、皮膚または粘膜への局所適用のための局所麻酔薬製品の効率に関する現在の最新技術の文献も、かかる製剤が、局所使用のための非ナノ粒子状の麻酔薬製剤より優れた
効率を示すという事実に関する文献も存在しない。同じ文脈において、ポリマーナノ粒子中の麻酔剤の製剤が、非ナノ粒子状の製剤と比較して、感覚消失時間の増大および優れた規定(definition)の麻酔効果につながり得るという本発明者らにより確認された驚くべき事実に関する文献も存在しない。
【0012】
この文脈において、US特許第6203802号は、少なくとも一つの有効成分をカプセル化したポリマーナノ粒子の皮膚への局所適用に基く表皮の表層の処理方法を記載するが、局所麻酔剤を運ぶためのポリマーナノ粒子にまったく言及していないし、かかる製剤を、皮膚で発生させた活性により局所的な感覚消失を引き起こすために使用することにもまったく言及していない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ラット(n=11/グループ)の尾部への局所適用から20分後に、ヒドロゲル G5-PCL-TWE、G5-EUD-EPK、G3-PCL-TWE、G5-PCL-TWE 0.75%、および市販のEMLA(登録商標)クリームにより促される感覚消失のパーセンテージ。
【図2】ラット(n=11/グループ)の尾部への局所適用から10分後に、ヒドロゲル G5-PCL-TWE、G5-EUD-EPK、G3-PCL-TWE、G5-PCL-TWE 0.75%、および市販のEMLA(登録商標)クリームにより促される感覚消失のパーセンテージ。
【発明の説明】
【0014】
本発明は、少なくとも一つの治療的に有効な量のポリマーナノ粒子中の局所麻酔剤、および少なくとも一つの粘度増強剤を含む麻酔薬組成物に関する。
【0015】
また本発明は、皮膚または粘膜への局所適用のための局所麻酔薬製品の調製における、少なくとも一つの局所麻酔剤を含むかかるポリマーナノ粒子の使用に関する。
【0016】
本発明に従えば、ポリマーナノ粒子の用語は、有効成分を保持、カプセル化、または吸着している、1μm未満のサイズを有する薬剤のキャリアシステムを指す。ポリマーナノ粒子の用語は、ナノスフェア(nanosphere)およびナノカプセル(nanocapsule)を指すために使用されてもよい。ナノスフェアは、有効成分を保持、カプセル化または吸着しているポリマーマトリクスから構成される。ナノカプセルは、核を包むポリマーコンテナから構成され、ここで有効成分は、核内に溶解、保持、または分散されていてもよいし、および/またはポリマー壁に吸着されていてもよい。
【0017】
全体的にみれば、ポリマーナノ粒子の製造プロセスは、in situ重合化の方法または予め形成したポリマーを用いる方法に分類され得る。
【0018】
ナノ粒子の調製に一般に使用されるポリマーは、たとえば、ポリ(ラクチド)、ポリ(ラクチド-グリコリド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(アミド)、ポリ(無水物)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エステル)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アセタール)、ポリ(セタール)、ポリ(カルボネート)、ポリ(オルトカルボネート)、分解性ポリ(ウレタン)、キチン、キトサン、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(アルキレンオキサレート)、ポリ(アルキレンスクシネート)、ポリ(ヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシバレレート)、およびコポリマー、ターポリマー、酸化セルロース、またはこれら物質の組み合わせもしくは混合物である。
【0019】
特に興味深いことが分かっている幾つかのポリマーは、ポリ(ε-カプロラクトン) (PCL; たとえば、ポリ(ε-カプロラクトン) 65 Kd - Sigma Aldrich); メタクリル酸(methacrylate acid)共重合体およびメタクリレートまたはアクリル酸エステル (たとえば、Eudragits(登録商標)); ポリ(アルキルメタクリレート); ポリ(メチルメタクリレート) (たとえば、PMM) である。
【0020】
ポリマーナノ粒子は、たとえば、以下の方法により製造され得る。(i)De Jaeghere F et al. Nanoparticles. In: Mathiowitz E, ed. The Encyclopedia of Controlled Drug Delivery. New York, NY: Wiley and Sons Inc; 1999: 641-664 and Couvreur P, et al. Controlled drug delivery with nanoparticles: Eur J Pharm Biopharm. 1995; 41: 2-13に記載される、モノマーのin situ重合化(ラテックス)または予め形成したポリマーの分散(シュードラテックスまたは人工ラテックス)の方法;(ii)Gurny R, Peppas NA, Harrington DD, Banker GS. Development of biodegradable and injectable lattices for controlled release of potent drugs. Drug Dev Ind Pharm. 1981; 7: 1-25 によりUS特許第4177177号に基いて最初に提案された、水に混和しない揮発性有機溶媒中にポリマーを溶解させる、薬剤用のエマルジョン−蒸発の方法;および(iii)Fessi et al.によりUS特許第5049322号に記載される、予め形成したポリマーの境界面沈着(ナノ沈降)の方法。最後の方法が、特に興味深い方法である。
【0021】
ナノ粒子の調製のために使用され得る有機溶媒は、短鎖アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、短鎖ケトン(アセトン、メチル−エチル−ケトン等)、低級(light)炭化水素または低級炭化水素の混合物(ヘキサン、石油エーテル等)、低級塩素化(chlorated)炭化水素(クロロホルム、メチレンヒドロクロライド、トリヒドロクロライドエチレン等)、またはその他の一般的な低級溶媒、たとえばアセトニトリル、ジオキサン等である。アセトンは、特に興味深い溶媒である。
【0022】
界面活性剤は、保存時の粒子の凝集を回避するために一般に使用される。使用され得る界面活性剤の例は、レシチン、合成、陰イオン(たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム)、陽イオン(たとえば、第四級アンモニウム)または非イオン(たとえば、ポリオキシエチレン残基を含有するかまたは含有しないソルビタンモノエステル、脂肪アルコールおよびポリエチレングリコールから形成されるエーテル、ポリオキシエチレン−ポリプロピレングリコール等)である。特に興味深い組合せは、低い親水性−親油性 (EHL) バランス値を有する親油性界面活性剤(たとえば、ソルビタンエステル−Span 20またはSpan 60)および高いEHL値を有する親水性界面活性剤(エトキシ化ソルビタンエステル−Tween 80)が挙げられ、あるいは、実際には、単に高いEHLを有する単一の非イオン界面活性剤(たとえば、Tween 80)のみである。
【0023】
本発明に従えば、局所麻酔剤の用語は、体の限られた領域に適用された時に神経伝達を可逆的にブロックする薬剤を指す。本発明の局所麻酔剤は、以下からなる群より選択され得るが、これらに限定されない:ベンゾエートエステルまたはアミノ−エステル、アミノ−アミドアニリド、アミノ−エステルナフトエート、安息香酸、プラモキシン、ジクロニン、またはメキシレチン(mexyletine)、とりわけ;遊離塩基の麻酔薬:リドカイン、プリロカイン(prilocaine)、ブピバカイン(bupivacaine)、メピボカイン(mepivocaine)、エチドカイン(ethydocaine)、ブタニルカイン(butanylcaine)、トリメカイン(trimecaine)、あるいは、テトラカイン、ベンゾカイン、ロピバカイン(ropivacaine)、ジブカイン、プロカイン、クロルプロカイン(chlorprocaine)、ブタンベン(butambene)、ピクラート、ジブカイン、アルティカイン(articaine)およびキシロカイン、並びにこれらの塩、誘導体または混合物。局所麻酔薬は、塩、たとえば塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、炭酸塩または硫酸塩の形態で使用され得る。
【0024】
本発明に従えば、少なくとも一つの局所麻酔剤をカプセル化している上記ナノ粒子は、市販の同等の非粒子状の組成物、たとえばEMLA(登録商標)と比較して、より少量の局所麻酔剤を用いて同等もしくは優れた麻酔効果を達成するとともに、より高い予測可能な麻酔パワーで、より長期間にわたってこの効果を達成する。
【0025】
本発明の一つの側面によれば、少なくとも一つの麻酔薬の濃度は、組成物の約0.5〜10%を構成する。より具体的には、本発明は、少なくとも2つの麻酔剤の組み合わせ、たとえばリドカインおよびプリロカインの組み合わせを、約5%の麻酔薬を構成する量、約2.5%のリドカインおよび約2.5%のプリロカインで含む。
【0026】
本発明によれば、粘度増強剤の用語は、液体または半液体製剤(たとえば、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム、軟膏ゲル)の粘度を高めることができる物質を指す。粘度増強剤は、以下からなる群より選択され得るが、これらに限定されない:天然ポリマー(たとえば、セルロース、ゴム、アミド等)または非天然ポリマー(たとえば、カルボキシポリメチレン(arbopol)、ヒドロキシエチレンセルロース、メチルおよびプロピルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)樹脂等)。
【0027】
本発明の好ましい側面によれば、本発明を備えた組成物は、意図しない領域に流れたり動いたりすることなく、局所適用を円滑にすすめるのに充分な粘度を有する。より具体的には、本発明を備えた組成物は、50 cPを超える粘度、好ましくは100 cPを超える粘度を有する。約100000〜800000 cPの粘度を有する製剤は、局所適用のための優れた塗布コントロールを示すため、興味深いことが示された。とりわけ、約650000 cPの粘度を有する製剤は、同量の麻酔剤をナノ粒子中に有する製剤と比較したときに、より大きい麻酔パワーおよび活性時間を示すため、より高い粘性の製剤よりも更に興味深いことが示された。
【実施例】
【0028】
以下の実験例は、本発明を詳説するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
例1:麻酔薬ナノ粒子の製造
麻酔薬ナノ粒子は、表1に示される相の組成に従って調製した。
【0030】
最初に、ポリマー (ポリ(ε-カプロラクトン)、Eudragit S100またはメチルポリメタクリレート)、界面活性剤(tensoactive)(SPAN60FまたはEpikuron 170) および有効成分の混合物 (リドカインおよびプリロカイン) をアセトンに溶解することにより、有機相を調製した。この相を、構成成分が完全に溶解するまで、撹拌しながら適度に加熱して(30〜40℃)維持した。水相は、別のビーカーで調製し、水に分散した界面活性剤(tensoactive)(Tween 80) から構成されていた。構成成分を完全に溶解した後、有機相を、室温で適度に撹拌しながら、水相の上に漏斗を介してゆっくり注ぎ、その後、更に10分間撹拌しながら維持した。その後、この懸濁液を、約100 mLの最終体積に達するまで、ロータリーエバポレータにおいて3-6 barの圧力で40-45 ℃の水浴温度で濃縮した。
【表1】

【0031】
濃縮した懸濁液を、平均直径、リドカインおよびプリロカインの全割合、およびナノカプセルに対するリドカインおよびプリロカインの結合(association)比に関して評価した。
【表2】

【0032】
懸濁液中の粒子の直径および多分散(polydispersion)の割合の評価は、動的光散乱(Zetasizer(登録商標) nano-ZS model ZEN 3600, Malvern, USA)により決定した。サンプルを超濾過水で室温において500倍に希釈した。
【0033】
リドカインおよびプリロカインの全割合を決定するために、懸濁液をアセトニトリルで処理して、製剤の構成成分の全てを溶解させた。その後、懸濁液の一部を10 mLバルーンフラスコに移し、その体積をアセトニトリルで調整した。溶液を親水性膜(Millipore, 0.45μm)を介して濾過し、その後、リドカインおよびプリロカインの割合を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により決定した。
【0034】
ナノ構造体に組み込まれたリドカイン/プリロカインの濃度は、HPLCにより、製剤中のリドカイン/プリロカインの全濃度と懸濁液の水相に存在するその濃度との違いから決定した。ナノ構造体に結合している全濃度は、リドカインおよびプリロカインの全割合の決定について上述したとおり、アセトニトリル中のナノカプセルの溶解により決定した。水相に存在するリドカイン/プリロカインの濃度は、5分間12.000 rpmでの懸濁液の限外濾過−遠心分離 (Ultrafree(登録商標) -MC Millipore 10.000Å) により決定した。このようにして、ポリマーナノ粒子およびナノ乳剤を保持し、非結合のリドカイン/プリロカインを、膜を通過させ、その後、局所麻酔薬の全濃度の決定について上述したのと同じ条件で、限外濾過液において定量した。
【0035】
更に、水およびアセトンの様々な比率/量(水: 533 mL / アセトン: 267 mL; 水: 300 mL / アセトン: 300 mL; 水: 400 mL / アセトン: 400 mL)を用いて試験を実施し、試験した範囲において、水およびアセトンの量および比率の変化は、ナノ粒子のサイズや麻酔剤のナノ粒子への結合割合に有意な影響を及ぼさないことを確認した。
【0036】
例2:ナノカプセルおよびナノ乳剤の懸濁液を含有するヒドロゲルの調製
ヒドロゲルは、例1に従って調製したナノ粒子懸濁液に、0.25%、0.75%および1.5%の最終濃度でCarbopol(登録商標)940 (カルボキシポリメチレン)を組み込むことにより調製し、最終体積は、製剤 G 5-PCL-TWE、G 5-PCL-TWE 0.75%およびG 5-EUD-EPK (例1に従ってつくられた濃縮懸濁液 5-PCL-TWEおよび5-EUD-EPKからそれぞれ調製される) については最終的な表示割合5%の麻酔薬を得るように、製剤 G 3-PCL-TWE (例1に従ってつくられた濃縮懸濁液 3-PCL-TWEから調製される) については最終的な表示割合3%の麻酔薬を得るように、蒸留水を添加することにより調整した。
【0037】
半固体の製剤の流動学的特徴は、ブルックフィールド(Brookfield)回転式粘度計、モデルRV DV I+ および LV DVII + PRO、スピンドル SC4-25、2.0および2.5 RPMのスピードにより評価した (表3)。
【表3】

【0038】
例3:インビボにおける麻酔活性の評価
リドカインおよびプリロカインのナノ粒子を含有するヒドロゲルにより促されるインビボにおける感覚消失のパーセンテージ割合を、“Tail Flick”技術 (Kolesnikov Y. e col. “Evaluation of the tail formalin test in mice as a new model to assess local analgesic effects”. Brain Research, v. 1029, p. 217-223, 2004) および、比較のための市販製品 EMLA(登録商標) (AstraZeneca do Brasil Ltda.により製造される2.5% リドカインおよび2.5% プリロカインを含有するクリーム) を用いてマウスで決定した。
【0039】
麻酔効果は、5つの異なるグループを用いて分析した:
・ポジティブコントロールグループ (1グループ): 市販製品 EMLA(登録商標)の局所適用
・ネガティブコントロールグループ (1グループ): 薬剤なしのナノカプセルを含有するヒドロゲル
・試験グループ (4グループ): 表4に規定される麻酔薬の割合およびナノ粒子組成物に従った、リドカインおよびプリロカインを含有するナノ粒子を有するヒドロゲルの局所適用
【表4】

【0040】
試験は、成体、メス、アルビノスイスマウス、30〜35 g重量を用いて実施した。動物は、5匹以下のマウスを含むケージで、水と食事を自由に摂取させてバイオテリウム(Biotherium)で維持した。
【0041】
動物は、実験の間、延びた尾部へのアクセスを許容する飼育器(restrainer)で維持した。最初に、ベースライン感度(BL)を、感覚消失メーター(Tail Flick Analgesia Meter, model EFF-300)を用いて動物ごとに確認した。まず、動物の尾部をDMSOに2分間浸した。その後、DMSOを湿らせた滅菌ガーゼで除去し、その後、尾部を、グループに応じて試験される半固体の製剤を含有するエッペンドルフタイプのチューブに注意深く浸した。意図した製剤を10分および20分適用した後、湿らせた滅菌ガーゼを用いて除去した。その後、動物の尾部を、加熱された金属フィラメントを備えた装置の表面に置いた。感覚消失は、熱誘導刺激に反応した尾部の動きの潜伏時間(TL)を測定して評価する。照射に対する最大の露出時間は、pf 6秒で、動物の尾部に対する組織の外傷を最小限にした。3回の潜伏時間測定を、各動物について行った。
【0042】
結果を、以下の等式に従って、各動物について得られた感覚消失のパーセンテージに関して評価した。
【0043】
%感覚消失=100×(TL-BL)/(6-BL)
ここで、TL=麻酔薬製剤の効果の下での潜伏時間;TB=ベースの潜伏時間;6=照射に対する最大の露出時間。
【0044】
麻酔活性の評価試験の統計的分析は、ANOVA法(Sigma-Stat(登録商標), Jandel Scientific, USA)に従って、基準として市販のクリームEMLAを用いて行った。
【0045】
得られた結果から、製剤の除去前20分の浸漬時間によるヒドロゲルG5-PCL-TWE、5-EUD-EPK、3-PCL-TWEおよびG5-PCL-TWE 0.75%の局所投与は、市販のEMLA(登録商標)クリームと比較すると、麻酔効果のパーセンテージおよび期間の顕著な増大を促すことが確認され、更に、麻酔薬を3%しか含有しないヒドロゲル3-PCL-TWEでさえ、麻酔薬を5%含有する市販のEMLA(登録商標)クリームで確認される効果より高い麻酔効果を示すことが実証された(図1)。
【0046】
更に、製剤の除去前10分の浸漬時間によるヒドロゲルG5-PCL-TWE、5-EUD-EPK、3-PCL-TWEおよびG5-PCL-TWE 0.75%の局所投与は、20分の浸漬試験で観察されたのと同様の感覚消失プロフィールを示すが、市販のクリームEMLA(登録商標)の場合そうではなく、10分の浸漬よりも20分の浸漬後に、ずっと弱い感覚消失を促すことを確認することができた(図2)。
【0047】
上記説明で言及された出版物のすべては、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の上記説明の種々の改変および変化は、本発明の範囲または精神から逸脱しなければ、当業者に明らかになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの治療的に有効な量のポリマーナノ粒子中の局所麻酔剤、および少なくとも一つの粘度増強剤を含む、皮膚または粘膜への局所適用のための麻酔薬組成物。
【請求項2】
ナノ粒子の製造のために使用されるポリマーが、以下からなる群より選択される、請求項1に記載の麻酔薬組成物:
ポリ(ε-カプロラクトン);メタクリル酸(methacrylate acid)の共重合体およびメタクリレートまたはアクリル酸エステル;ポリ(アルキルメタクリレート);ポリ(メチルメタクリレート);ポリ(ラクチド)、ポリ(ラクチド-グリコリド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(アミド)、ポリ(無水物)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エステル)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アセタール)、ポリ(セタール)、ポリ(カルボネート)、ポリ(オルトカルボネート)、分解性ポリ(ウレタン)、キチン、キトサン、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(アルキレンオキサレート)、ポリ(アルキレンスクシネート)、ポリ(ヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシバレレート)、およびコポリマー、ターポリマー、酸化セルロース、またはこれら物質の組み合わせもしくは混合物。
【請求項3】
局所麻酔剤が、以下からなる群より選択される、請求項1または2に記載の麻酔薬組成物:
ベンゾエートエステルまたはアミノ−エステル、アミノ−アミドアニリド、アミノ−エステルナフトエート、安息香酸、プラモキシン、ジクロニン、メキシレチン(mexylethine)、リドカイン、プリロカイン(prilocaine)、ブピバカイン(bupivacaine)、メピボカイン(mepivocaine)、エチドカイン(ethydocaine)、ブタニルカイン(butanylcaine)、トリメカイン(trimecaine)、あるいは、テトラカイン、ベンゾカイン、ロピバカイン(ropivacaine)、ジブカイン、プロカイン、クロルプロカイン(chlorprocaine)、ブタンベン(butambene)、ピクラート、ジブカイン、アルティカイン(articaine)およびキシロカイン、並びにこれらの塩、誘導体または混合物。
【請求項4】
粘度増強剤が、以下からなる群より選択される、請求項1または2に記載の麻酔薬組成物:
セルロースおよびその誘導体、ゴム、アミド、カルボキシポリメチレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)。
【請求項5】
50 Cpを超える粘度、好ましくは100 Cpを超える粘度を示す、請求項1〜4の何れか1項に記載の麻酔薬組成物。
【請求項6】
約100000〜800000 Cpの粘度を示す、請求項1〜5の何れか1項に記載の麻酔薬組成物。
【請求項7】
650000 Cp未満の粘度を示す、請求項1〜6の何れか1項に記載の麻酔薬組成物。
【請求項8】
前記少なくとも一つの麻酔剤の濃度が、組成物の約0.5〜10%を構成する、請求項1〜7の何れか1項に記載の麻酔薬組成物。
【請求項9】
少なくとも2つの麻酔剤の組み合わせを含む、請求項1〜8の何れか1項に記載の麻酔薬組成物。
【請求項10】
前記麻酔剤が、リドカインおよびプリロカインからなる、請求項9に記載の麻酔薬組成物。
【請求項11】
約2.5%の濃度のリドカインおよび約2.5%の濃度のプリロカインを含む、請求項8に記載の麻酔薬組成物。
【請求項12】
皮膚または粘膜への局所適用のための局所麻酔薬組成物の調製における、少なくとも一つの局所麻酔剤をカプセル化しているポリマーナノ粒子の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−521498(P2010−521498A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553872(P2009−553872)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/BR2008/000070
【国際公開番号】WO2008/113144
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(508072899)バイオラブ・サヌス・ファーマセウティカ・エルティーディーエー. (6)
【出願人】(509260639)ウニベルジダデ・フェデラル・ド・リオ・グランデ・ド・スル−ユーエフアールジーエス (1)
【氏名又は名称原語表記】Universidade Federal do Rio Grande do Sul−UFRGS
【住所又は居所原語表記】Av. Paulo Gama, 110, Farroupilha, 90046−900 Porto Alegre−Rs, Brazil
【Fターム(参考)】