説明

屈曲金属管部材及びその製造方法

【課題】曲げ加工部位の内部に樹脂が充填された屈曲金属管部材の座屈に対する強度を向上させ、かつ生産性を向上させることができる屈曲金属管部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】屈曲金属管部材30に充填された発泡樹脂31は、低密度部31aと高密度部31bとを有し、高密度部31bが曲げ内側に、低密度部31aが曲げ外側に位置するように配設する。発泡させることにより発泡樹脂31となる発泡用樹脂31′として、低密度発泡部31a′と高密度発泡部31b′とを有するものを用いる。曲げ加工工程でのワーク30′の曲げ加工予定部位30Y′の内部に発泡用樹脂31′を配設した後、ワーク30′を曲げ加工すると同時に、高密度発泡部31b′が曲げ内側に、低密度発泡部31a′が曲げ外側に位置するように発泡用樹脂31′を位置決めする。そして最後に、発泡用樹脂31′を発泡させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は曲げ加工部位の内部に発泡樹脂が充填された屈曲金属管部材及びその製造方法に関し、金属加工の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、屈曲金属管部材は、例えば車両においては、サイドフレーム、レインフォースメント、クロスメンバ等として利用されているが、このような屈曲金属管部材の製造方法として、特許文献1には、曲げ加工が施される前のワークの曲げ加工予定部位に発泡樹脂を一端側から挿入することにより充填した後、ワークを発泡樹脂と共に曲げ加工するものが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−335334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1に記載の方法(第1の方法)においては、ワークの内部に発泡樹脂が充填されている状態で曲げ加工することとなるので、ワークの曲げ加工に要する力が大きくなる、すなわち曲げ加工性が悪化するという問題がある。
【0005】
そこで、ワークの曲げ加工後に、発泡樹脂を挿入配置する方法(第2の方法)が考えられるが、このような方法の場合、ワークが既に屈曲しているので、発泡樹脂を挿入しにくく、あるいは挿入できない。
【0006】
ここで、屈曲金属管部材は、車両においては前述のようにフレーム等に利用されているが、他車両との前突や後突時等に圧縮方向(軸線方向)に衝撃荷重が作用すると、曲げ加工部位において座屈が生じる虞がある。この座屈を抑制するには、例えば発泡樹脂を高密度化してその強度を高くすることが考えられるが、このようにすると、前記特許文献1に記載の第1の方法の場合、ワークの曲げ加工性が一層悪化し、第2の方法の場合、発泡樹脂を一層挿入しにくくなり、あるいは挿入できなくなる。
【0007】
そこで、本発明は、曲げ加工部位の内部に発泡樹脂が充填された屈曲金属管部材の座屈に対する強度を向上させ、かつ生産性を向上させることができる屈曲金属管部材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、曲げ加工部位の内部に発泡樹脂が充填された屈曲金属管部材であって、前記発泡樹脂は、低密度部と高密度部とを有し、高密度部が曲げ内側に、低密度部が曲げ外側に位置するように配設されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、曲げ加工部位の内部に発泡樹脂が充填された屈曲金属管部材の製造方法であって、発泡させることにより前記発泡樹脂となる発泡用樹脂として、低密度発泡部と高密度発泡部とを有するものを用い、ワークを曲げ加工する曲げ加工工程と、前記曲げ加工工程でのワークの曲げ加工予定部位の内部、または前記曲げ加工工程で形成された曲げ加工部位の内部に、前記発泡用樹脂を配設する配設工程と、前記曲げ加工工程でのワークの曲げ加工予定部位の内部、または前記曲げ加工工程で形成された曲げ加工部位の内部において、高密度発泡部が曲げ内側に、低密度発泡部が曲げ外側に位置するように発泡用樹脂を位置決めする位置決め工程と、前記配設工程、位置決め工程、及び曲げ加工工程の実行後に行われ、前記発泡用樹脂を発泡させる発泡工程とを有していることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、前記配設工程は、前記曲げ加工工程の実行前に行うことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項2または請求項3に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、前記発泡工程は、前記発泡用樹脂の中心線方向の両端近傍にワーク内を仕切る仕切り板を配設した状態で行うことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、前記配設工程を、前記曲げ加工工程の実行前に行う場合に、前記発泡用樹脂として、中心線に沿って形成され、かつ中心線方向の中間部が低密度発泡部側に拡張した貫通孔を有するものを用いると共に、前記仕切り板に両端側が支持され、かつ前記発泡用樹脂の貫通孔に挿通されて、該発泡用樹脂を中心線周りに回動可能に支持する曲げ変形可能な心材を用い、前記曲げ加工工程は、前記発泡用樹脂の貫通孔に前記心材を挿通した状態で行うことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、前記曲げ加工工程を熱間曲げ加工により前記配設工程の実行後に行う場合に、前記曲げ加工工程は、前記発泡用樹脂がワークの内面に対して浮くように前記仕切り板及び心線で支持した状態で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について説明する。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、曲げ加工部位の内部に配設された発泡樹脂は、低密度部と高密度部とを有しており、高密度部が曲げ内側に、低密度部が曲げ外側に位置するように配設されているから、屈曲金属管部材の曲げ加工部位の曲げ内側の剛性が高くなって、屈曲金属管部材の座屈に対する強度が向上すると共に、全てを高密度化する場合よりも樹脂の使用量が抑制されることとなる。すなわち、コストの高い樹脂の使用量を抑制しつつ、座屈変形に対する強度を上げることができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、ワークにおける曲げ加工がされた部位の内部に、曲げ内側に高密度発泡部が、曲げ外側に低密度発泡部が位置するように前記発泡用樹脂が配設された状態で、前記発泡用樹脂が発泡されることとなる。つまり、曲げ加工時にはワークの内部に発泡樹脂(発泡済の樹脂)が充填されていない状態であるので、曲げ加工が阻害されることがなく、生産性が向上することとなる。また、発泡用樹脂は、発泡後の樹脂よりも体積が小さくかつ柔らかいので、ワーク内に容易に挿入することができる。また、発泡用樹脂は、発泡後の樹脂密度が曲げ外側よりも曲げ内側の方が高密度となるので、屈曲金属管部材の曲げ加工部位の曲げ内側の剛性が高くなって、屈曲金属管部材の座屈に対する強度が向上することとなる。
【0018】
また、請求項3に記載の発明によれば、配設工程は、曲げ加工工程の実行前に行われるから、すなわち、ワークが曲がっていない状態で行われるから、発泡用樹脂の挿入を容易に行うことができる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明によれば、発泡工程は、発泡用樹脂の中心線方向の両端近傍にワーク内を仕切る仕切り板が配設された状態で行なわれるので、発泡用樹脂が仕切り板で区画された空間内でのみ発泡することとなる。したがって、仕切り板の配設位置を適宜設定することにより、発泡用樹脂が発泡することにより生成される発泡樹脂の密度を所望の密度にコントロールすることができる。
【0020】
また、請求項5に記載の発明によれば、ワーク内に配設された仕切り板に両端側が支持された心材が、ワークの曲げ加工時にこれに追従して曲げ変形することとなる。その場合に、この心材が挿通される発泡用樹脂の貫通孔の中心線方向の中間部が低密度発泡部側に拡張しているから、発泡用樹脂は、心材の前記曲げ変形に伴って低密度発泡部側が曲げ外側となるように心材を中心として回転することとなる。すなわち、発泡用樹脂を、低密度発泡部側が曲げ外側に、高密度発泡部側が曲げ内側となるように確実かつ簡単な方法で配設することができる。
【0021】
また、請求項6に記載の発明によれば、曲げ加工を、前記発泡用樹脂をワークの曲げ加工予定部位の内部に配設した状態で熱間曲げ加工により行う場合に、前記発泡用樹脂をワークの内面に対して浮かせた状態で行うから、発泡用樹脂にワークから曲げ加工時の熱が伝達されにくく、発泡用樹脂が発泡前に変質したり、不用意に発泡したりするのが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る屈曲金属管部材30の平面図、図1(b)は、この屈曲金属管部材30に設けられた曲げ加工部30Rの拡大水平断面図である。この屈曲金属管部材30は、円管状の部材で、曲げ加工部30Rを有しており、この曲げ加工部30Rの内部には、発泡樹脂31が充填されている。
【0023】
この充填された発泡樹脂31は、樹脂密度が異なる低密度部31aと高密度部31bとを有し、高密度部31bが曲げ内側に、低密度部31aが曲げ外側に位置するように配設されている。なお、発泡樹脂31をその中心線方向に貫通する心材41、及び発泡樹脂31の中心線方向両側に設けられている仕切り板42,42は、本製品を形成する際に用いられた治具40が残置されたものである。
【0024】
このように曲げ加工部の内部に発泡樹脂が充填された屈曲金属管部材は、車両のフロントサイドフレーム、リヤサイドフレーム、バンパーレインフォースメント、ダッシュクロスメンバ、ショットガン、ルーフサイドレインフォースメント等、車両のフレーム部材や骨格部材に使用され得る。
【0025】
次に、この屈曲金属管部材30の製造方法について説明する。
【0026】
まず、概要について説明すると、この屈曲金属管部材30は、図2に示すように、ワークとしての金属管30′の曲げ加工予定部位30Y′の内部に、発泡することにより前記発泡樹脂31となる発泡用樹脂31′を、治具40を利用して配置した後、後述する熱間曲げ加工装置1にセットして曲げ加工を行い、その後、金属管30′を別ラインの電着乾燥工程で発泡用樹脂31′を発泡させることにより製造される。以下、詳しく説明する。
【0027】
図3(a)、(b)、(c)は、発泡することによる前記発泡樹脂31となる発泡用樹脂31′の断面等を示している。なお、(a)図は軸方向に沿う断面図、(b)図は(a)図の矢印Aで示す端面図、(c)は(a)図のB−B断面図である。発泡用樹脂31′は、金属管30′よりも径が小さい円柱形状をしており、断面半円形状で低密度発泡用の低密度発泡部31a′と、同じく断面半円形状で高密度発泡用の高密度発泡部31b′とを有し、これらが貼りあわされることにより形成されている。発泡用樹脂31′には、中心線に沿うように貫通孔31c′が形成されている。この貫通孔31c′は、(a)図に矢印γで示すように、中心線方向両端間において中間部分が低密度発泡部31c′側に円弧状に拡張し、これにより中間部分では(c)図に示されるように長孔状となっている。なお、各発泡部31a′,31b′は、基材樹脂と未発泡の発泡剤とを混合することにより固体状に生成されたものである。そして、この例においては、低密度発泡部31c′と高密度発泡部31b′とはほぼ同体積となっているが、低密度発泡部31c′は高密度発泡部31b′よりも基材樹脂が少なく、発泡剤が多く混合されている。
【0028】
図2、図3(a)に示すように、治具40は、発泡用樹脂31′の貫通孔31c′に挿通されて、発泡用樹脂31′を中心線周りに回動可能に支持する曲げ変形可能な心材41と、該心材41の一端側に、発泡用樹脂31′の中心線方向の長さよりも所定量長い間隔を開けて取り付けられた仕切り板42,42とを有している。
【0029】
そして、金属管30′の曲げ加工予定部位30Y′の内部への発泡用樹脂31′の配設は、図2に示すように治具40に発泡用樹脂31′を取り付けた状態で、後述する金属管保持装置10により把持されることとなる端部側から、心材41を操作して金属管30′の曲げ加工予定部位30Y′の内部にまで仕切り板42,42ごと押し込むことにより行う(特許請求の範囲における配設工程に相当する)。
【0030】
なお、図7(a)、(b)に示すように、仕切り板42,42は、所定の厚みを有し、周縁部の平坦面42a,42aが金属管30′の内面に対向しているが、外径は、金属管30′内面に対して摺動可能な程度に、つまり金属管30′の曲げ加工予定位置30Y′まで挿入可能なように金属管30′の内径よりも微量小さくされている。また、。心材41は、仕切り板42,42面に対して直行した状態で保たれるように圧入等により堅固に固着されている。また、心線41は、金属管30′内に仕切り板42,42を挿入する際、仕切り板42,42の周縁部と金属管30′の内面との摺動抵抗により曲げ変形しない程度の剛性を有している。また、心材41の長さは、発泡用樹脂31′及び仕切り板42,42が曲げ加工予定部位30Y′に位置した状態において、熱間曲げ加工装置1の金属管保持装置10が、仕切り板42,42が設けられたのとは反対側の端部を把持可能な長さとされている。
【0031】
図4は、熱間曲げ加工装置1の全体構成を示す斜視図である。
【0032】
この熱間曲げ加工装置1は、曲げ加工の手法として押し通し曲げを適用するもので、水平方向に延びるワークとしての金属管30′の終端部を保持する金属管保持装置10を有する。保持装置10は軌道11の上を移動自在に構成されている。保持装置10の前方には、上流側から、固定ローラ12…12、誘導加熱コイル13、冷却水噴射装置14、及び可動ローラ15,15がこの順に配設されている。なお、金属管30′の内部には、前記治具40及び発泡用樹脂31′を予め所定位置に配設しておく(なお、図4は曲げ加工後の状態を示している)。
【0033】
固定治具としての固定ローラ12…12は、前後2段階に金属管30′を両側から挟み付けて金属管30′の送給方向を決定する。また、金属管30′の内部に配設された治具40の心材41の一端を把持する。
【0034】
加熱装置としての誘導加熱コイル13は、金属管30′を取り囲む形状で、取り囲んだ範囲及びその周辺において金属管30′を局部的に所定温度(金属管30′の塑性変形可能かつ焼入れ可能温度)に加熱する。
【0035】
急冷装置としての冷却水噴射装置14は、金属管30′を取り囲む形状で、取り囲んだ範囲及びその周辺においてノズルから金属管30′に冷却水を局部的に噴射して金属管30′を急冷する。
【0036】
可動治具としての可動ローラ15,15は、ハウジング16に収容されて金属管30′を両側から挟み付ける。そして、前記固定ローラ12…12の金属管送給方向と同じ方向(x軸方向)に移動自在、前記固定ローラ12…12の金属管送給方向と水平方向に直行する方向(y軸方向)に移動自在、前記固定ローラ12…12の金属管送給方向と垂直方向に直行する方向(z軸方向)に移動自在、y軸周りに回動自在、及びz軸周りに回動自在に構成されている。そして、これらの動きが組み合わされて、可動ローラ15,15は、固定ローラ12…12の金属管送給方向に対して傾動し、これにより金属管30′に曲げ応力を与えて、該金属管30′を誘導加熱コイル13で加熱された部位(後述するように曲げ加工予定部位30Y′)において曲げ加工する。
【0037】
図5は、この熱間曲げ加工装置1の制御システム図である。この曲げ加工装置1は、前記保持装置10を軌道11上で移動させるための(換言すれば金属管30′を送給するための)金属管送給アクチュエータ21、前記誘導加熱コイル13、前記冷却水噴射装置14、前記可動ローラ15,15をx軸方向、y軸方向、z軸方向に移動させるためのアクチュエータ22,23,24、及びy軸周り、z軸周りに回動させるためのアクチュエータ25,26に制御信号を出力して、この曲げ加工装置1が行う金属管30′の熱間曲げ加工動作を統括制御するコントロールユニット20を備えている。
【0038】
図5は、この熱間曲げ加工装置1が行う金属管30′の熱間曲げ加工動作の具体的1例を(a),(b),(c),(d)の順に示す工程図である。
【0039】
まず、図5(a)に示すように、金属管30′は、固定ローラ12…12及び可動ローラ15,15を通過して送給される。そして、その送給に伴い、予め決定された金属管30′の曲げ加工予定部位(30Y′とする)が誘導加熱コイル13に近づいて来る。
【0040】
そして、図5(b)に示すように、曲げ加工予定部位30Y′の前端部が誘導加熱コイル13に入ると、誘導加熱コイル13が作動して、該曲げ加工予定部位30Y′だけが、局部的に、金属管30′の塑性変形可能かつ焼入れ可能温度に加熱される(図中ドットを施した部分)。
【0041】
なお、曲げ加工予定部位30Y′の前端部が誘導加熱コイル13に入ったことの判定は、コントロールユニット20のメモリ(図示せず)に予め登録された曲げ加工予定部位30Y′の金属管30′における位置、誘導加熱コイル13の位置、及び金属管30′の送給速さ等に基き判定される。あるいは、曲げ加工予定部位30Y′の前端部を金属管30′の表面にマーキングしておき、該マーキングを適宜センサで直接検出するようにしてもよい。
【0042】
そして、誘導加熱コイル13による曲げ加工予定部位30Y′の加熱が開始すると、図5(c)に示すように、可動ローラ15が固定ローラ12の金属管送給方向に対して傾動する。これにより、金属管30′に曲げ応力が加えられて、誘導加熱コイル13で加熱された部位、すなわち曲げ加工予定部位30Y′において金属管30′が曲げ加工される。
【0043】
しかも、同じく図5(c)に示すように、誘導加熱コイル13による曲げ加工予定部位30Y′の加熱が開始し、可動ローラ15による曲げ加工が開始すると、冷却水噴射装置14が作動して、加熱され曲げ加工された曲げ加工部位30R′が、局部的に、冷却される。これにより、曲げ加工部位30R′が焼入れされて、曲げ加工と同時に金属管30′の強度が高められることになる。
【0044】
そして、図5(d)に示すように、曲げ加工部位30R′の後端部が誘導加熱コイル13から出た後は、誘導加熱コイル13の作動、可動ローラ15の傾動、及び冷却水噴射装置14の作動が停止して、金属管30′の曲げ加工及び焼入れが終了することとなる。
【0045】
なお、曲げ加工部位30R′の後端部が誘導加熱コイル13から出たことの判定も、コントロールユニット20のメモリ(図示せず)に予め登録された曲げ加工予定部位30Y′の金属管30′における位置、誘導加熱コイル13の位置、及び金属管30′の送給速さ等に基き判定される。あるいは、曲げ加工予定部位30Y′の後端部を金属管30′の表面にマーキングしておき、該マーキングを適宜センサで直接検出するようにしてもよい。
【0046】
ここで、図5(c)で示すように、金属管30′が曲がり始めた場合、次のような状態が発生する。すなわち、仕切り板42,42の外径は、前述したように金属管30′の内径に対して摺動可能な程度に微量小さくされているだけであると共に、図7(a)〜(d)に示すように仕切り板42,42は周縁部の平坦面42a,42aが金属管30′の内面に対接しているので、金属管30′が曲がり始めても、仕切り板42,42は、金属管30′の内面に対して直交した状態を保とうとする。したがって、心線41にも金属管30′と同じ曲げ変更方向に曲げ力が加わると、図7(d)に示すように、心線41が、金属管30′の曲げ加工に追従して曲げ変形することとなる。その場合に、この心材41が挿通される発泡用樹脂31′の貫通孔31c′の中心線方向の中間部が低密度発泡部31a′側に拡張しているから、図7(b)に示すように、例えば、発泡用樹脂31′の低密度発泡部31aが曲げ方向外側(本図における横方向)に、高密度発泡部31bが曲げ方向内側に位置していない場合、矢印αで示すように、心材41が貫通孔31c′の内面を矢印αで示すように押し、その結果、発泡用樹脂31′は、矢印βで示すように心材41を中心として回転し、図7(c)、(d)に示すように、低密度発泡部31a′側が曲げ外側となるように位置することとなる。つまり、発泡用樹脂31′は、曲げ加工と同時に、高密度発泡部31b′が曲げ内側に、低密度発泡部31c′が曲げ外側に位置するように位置決めされることとなる(特許請求の範囲における位置決め工程に相当する)。
【0047】
なお、図5(b)に示すように金属管30′に対する加熱が開始された場合に、金属管30′自体は誘導加熱により熱せられるが、図7(a)に示すように、仕切り板42,42はその内部に存在しているので、ほとんど熱せられることはない。また、発泡用樹脂31′は、前記仕切り板42,42及び心線41で支持されることにより、金属管30′の内面から浮いた状態であるので、金属管30′から熱が直接伝達されることはない。したがって、発泡用樹脂31′が不用意に発泡するのが防止される。
【0048】
そして、金属管30′の曲げ加工が終了した後、金属管30′を電着乾燥工程のラインに移動させ、どぶづけにより電着塗装を行い、その後乾燥を行う。そして、この乾燥時の熱により、金属管30′及びその内部の発泡用樹脂31′が、発泡温度以上となり、これにより、発泡用樹脂31′が発泡し、金属管30′内の仕切り板42,42で区画された空間が、図1(b)で示すように発泡した樹脂31で充填されることとなる(特許請求の範囲における発泡工程に相当する)。
【0049】
以上のように、この実施形態に係る屈曲金属管部材30によれば、曲げ加工部位30Rの内部に配設された発泡樹脂31は、低密度部31aと高密度部31bとを有しており、高密度部31bが曲げ内側に、低密度部31aが曲げ外側に位置するように配設されているから、屈曲金属管部材30の曲げ内側の剛性が高くなって、屈曲金属管部材30の座屈に対する強度が向上すると共に、全てを高密度化する場合よりも樹脂の使用量が抑制されることとなる。すなわち、コストの高い樹脂の使用量を抑制しつつ、座屈変形に対する強度を上げることができる。
【0050】
また、この実施形態に係る屈曲金属管部材30の製造方法によれば、曲げ加工部位30Rの内部に発泡樹脂31が配設された屈曲金属管部材30を製造する場合に、ワークとしての金属管30′における曲げ加工された部位30R′の内部に、曲げ内側に高密度発泡部31b′が、曲げ外側に低密度発泡部31a′が位置するように発泡用樹脂31′が配設された状態で、発泡用樹脂31′が発泡されることとなる。つまり、曲げ加工時には曲げ加工予定部位30R′の内部に発泡樹脂(発泡済の樹脂)が充填されていない状態であるので、曲げ加工が阻害されることがなく、生産性が向上することとなる。また、発泡用樹脂31′は、発泡後の樹脂よりも体積が小さくかつ柔らかいので、金属管30′内に容易に挿入することができる。また、発泡用樹脂31′は、発泡後の樹脂密度が曲げ外側よりも曲げ内側の方が高密度となるので、屈曲金属管部材30の曲げ加工部位30Rの曲げ内側の剛性が高くなり、屈曲金属管部材30の座屈に対する強度が向上することとなる。
【0051】
また、配設工程は、曲げ加工工程の実行前に行われるから、すなわち、金属管30′が曲がっていない状態で行われるから、発泡用樹脂31′の挿入を容易に行うことができる。
【0052】
また、発泡工程は、発泡用樹脂31′の中心線方向の両端近傍に金属管30′内を仕切る仕切り板42,42が配設された状態で行なわれるので、発泡用樹脂31′が仕切り板42,42で区画された空間内でのみ発泡することとなる。したがって、仕切り板42,42の配設位置を適宜設定することにより、発泡用樹脂31′が発泡することにより生成される発泡樹脂31の密度を所望の密度にコントロールすることができる。
【0053】
また、金属管30′内に配設された仕切り板42,42に両端側が支持された心材41が、金属管30′の曲げ加工時にこれに追従して曲げ変形することとなるが、この心材41が挿通される発泡用樹脂31′の貫通孔31c′の中心線方向の中間部が低密度発泡部31a′側に拡張しているから、発泡用樹脂31′は、心材41の曲げ変形に伴って低密度発泡部31a′側が曲げ外側となるように心材41を中心として回転することとなる。すなわち、発泡用樹脂31′を、低密度発泡部31a′側が曲げ外側に、高密度発泡部31b′側が曲げ内側となるように確実かつ簡単な方法で配設することができる。
【0054】
また、曲げ加工を、発泡用樹脂31′を金属管30′の曲げ加工予定部位30Y′の内部に配設した状態で熱間曲げ加工により行う場合に、発泡用樹脂31′を金属管30′の内面に対して浮かせた状態で行うから、発泡用樹脂31′に金属管30′から曲げ加工時の熱が伝達されにくく、発泡用樹脂31′が発泡前に変質したり、不用意に発泡したりするのが防止される。
【0055】
なお、本実施の形態においては、発泡用樹脂31′の配設工程の後、曲げ加工工程と同時に位置決め工程を実行するようにしたが、本発明は、発泡用樹脂31′の向きをあわせた状態で配設することにより配設工程と位置決め工程とを同時に行い、その後曲げ加工工程を実行することを含む。また、曲げ加工工程を実行した後、発泡用樹脂31′の配設工程及び位置決め工程を実行することを含む。なお、曲げ加工工程を先に実行した場合、曲げ加工による金属管の湾曲量が大きいときには、配設工程及び位置決め工程を実行しにくくなるので、曲げ加工の程度が少ないときに適している。
【0056】
また、本実施の形態においては、発泡用樹脂31′は、円柱状とされているが、他角柱状であってもよい。また、低密度発泡部31a′と高密度発泡部31b′とがほぼ同体積とされているが、密度の設定次第では異なる体積となることもある。
【0057】
なお、金属管30′としては、円柱状に限らず、角柱状やその他の形状でもよい。また、強度や板厚等の特性が相異なる複数の異種の金属材同士をつなぎ合わせたテーラードチューブでもよい。また、金属管30′の製品としての用途は、車両部品に限らず、建築資材やその他の用途でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、曲げ加工部位の内部に樹脂が充填された屈曲金属管部材の座屈に対する強度を向上させ、かつ生産性を向上させることができる屈曲金属管部材及びその製造方法を提供する技術であるから、金属加工の技術分野において広範な産業上の利用可能性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態に係る屈曲金属管部材に関する図であって、(a)図は全体平面図、(b)図は曲げ加工部位の拡大水平断面図である。
【図2】ワークとしての金属管の曲げ加工予定部位の内部に、発泡用樹脂を、治具を利用して配置した状態を示す平面図である。
【図3】発泡用樹脂の単体図であって、(a)図は中心線方向に沿う断面図、(b)図は(a)図の矢印A方向からの端面図、(c)図は(a)図のB−B断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る金属管の熱間曲げ加工装置の全体構成を示す斜視図である。
【図5】前記熱間曲げ加工装置の制御システム図である。
【図6】前記熱間曲げ加工装置が行う熱間曲げ加工動作(熱間曲げ加工方法)の具体的1例を(a),(b),(c),(d)の順に示す工程図である。
【図7】曲げ加工部位における発泡用樹脂の位置決め作用の説明図であって、(a)図は、図6の(a)図ないし(b)図の状態における曲げ加工予定部位の拡大水平断面図、(b)図は、図7の(a)図のC−C断面図、(c)図は、図6の(d)図の状態における曲げ加工部位の拡大水平断面図、(d)図は図7の(c)図のD−D断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 金属管の熱間曲げ加工装置
30 屈曲金属管部材
30R 曲げ加工部
30′ 金属管(ワーク)
30R′ 曲げ加工部
30Y′ 曲げ加工予定部
31 発泡樹脂
31a 低密度部
31b 高密度部
31′ 発泡用樹脂
31a′ 低密度発泡部
31b′ 高密度発泡部
31c′ 貫通孔
41 心材
42 仕切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ加工部位の内部に発泡樹脂が充填された屈曲金属管部材であって、
前記発泡樹脂は、低密度部と高密度部とを有し、高密度部が曲げ内側に、低密度部が曲げ外側に位置するように配設されていることを特徴とする屈曲金属管部材。
【請求項2】
曲げ加工部位の内部に発泡樹脂が充填された屈曲金属管部材の製造方法であって、
発泡させることにより前記発泡樹脂となる発泡用樹脂として、低密度発泡部と高密度発泡部とを有するものを用い、
ワークを曲げ加工する曲げ加工工程と、
前記曲げ加工工程でのワークの曲げ加工予定部位の内部、または前記曲げ加工工程で形成された曲げ加工部位の内部に、前記発泡用樹脂を配設する配設工程と、
前記曲げ加工工程でのワークの曲げ加工予定部位の内部、または前記曲げ加工工程で形成された曲げ加工部位の内部において、高密度発泡部が曲げ内側に、低密度発泡部が曲げ外側に位置するように発泡用樹脂を位置決めする位置決め工程と、
前記配設工程、位置決め工程、及び曲げ加工工程の実行後に行われ、前記発泡用樹脂を発泡させる発泡工程とを有していることを特徴とする屈曲金属管部材の製造方法。
【請求項3】
前記請求項2に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、
前記配設工程は、前記曲げ加工工程の実行前に行うことを特徴とする屈曲金属管部材の製造方法。
【請求項4】
前記請求項2または請求項3に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、
前記発泡工程は、前記発泡用樹脂の中心線方向の両端近傍にワーク内を仕切る仕切り板を配設した状態で行うことを特徴とする屈曲金属管部材の製造方法。
【請求項5】
前記請求項4に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、
前記配設工程を、前記曲げ加工工程の実行前に行う場合に、
前記発泡用樹脂として、中心線に沿って形成され、かつ中心線方向の中間部が低密度発泡部側に拡張した貫通孔を有するものを用いると共に、
前記仕切り板に両端側が支持され、かつ前記発泡用樹脂の貫通孔に挿通されて、該発泡用樹脂を中心線周りに回動可能に支持する曲げ変形可能な心材を用い、
前記曲げ加工工程は、前記発泡用樹脂の貫通孔に前記心材を挿通した状態で行うことを特徴とする屈曲金属管部材の製造方法。
【請求項6】
前記請求項5に記載の屈曲金属管部材の製造方法において、
前記曲げ加工工程を熱間曲げ加工により前記配設工程の実行後に行う場合に、
前記曲げ加工工程は、前記発泡用樹脂がワークの内面に対して浮くように前記仕切り板及び心線で支持した状態で行うことを特徴とする屈曲金属管部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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