説明

屋根の除雪装置、及び、屋根の除雪装置の組立方法

【課題】袋体の膨張時に、上板と屋根との間に雪が入り込みにくい屋根の除雪装置を提供する。
【解決手段】屋根の除雪装置1は、屋根上に設置される下板4と、その一端が下板4の一端と軸11で回転可能に連結されており、積雪を受ける上板3と、上板3と下板4との間に設置され、内部への空気の供給により膨張可能であって、軸11の方向に延在する筒状の袋体5と、その径が袋体5の径とほぼ同じであって、袋体5の外周に装着される筒状体6と、袋体5と筒状体6との間に配設され、軸11に直交する方向の長さが筒状体6の周長の半分以下である板バネ7とから構成されており、筒状体6と板バネ7は、下板4の軸11と反対側端部に、固定具17によって共に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根上の積雪を除去する屋根の除雪装置であって、特に、膨張可能な袋体を用いて屋根上に配置された上板を傾斜させることにより除雪を行う屋根の除雪装置、及び、この装置の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豪雪地帯では、1日の積雪量が1m以上になることも少なくない。そのため、屋根に積もった雪の重みで、屋根が陥没したり家屋が倒壊することがある。そこで屋根の除雪が必要であり、従来から様々な除雪手段がある。
【0003】
このような除雪手段として、例えば、特許文献1に開示されている屋根の除雪装置ある。この屋根の除雪装置は、屋根に設置される下板と、積雪を受ける上板と、上板と下板との間に配置され、内部に空気が供給されることにより膨張可能な袋体とを備える。上板と下板とは、両下側(屋根の軒先側)の端部で軸支されており、通常の状態では、ほぼ平行になっている。また、袋体は、ゴム風船状又は蛇腹状のものであって、非膨張時には、上板と下板との間に収納されている。袋体を膨張させると、上板は上側(屋根の棟側)程高く押し上げられ、傾斜が大きくなる。これにより、上板上の積雪は下方に滑り落ちる。
【0004】
【特許文献1】特開平5-156760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の除雪装置によると、袋体がゴム風船状の場合、非膨張時の袋体は、上板の棟側端からはみ出さないように上板と下板との間に配置されているため、非膨張時の袋体の棟側端は、上板の棟側端とほぼ同じ又は若干中央側に位置している。これにより、膨張時の袋体が上板に接する面の棟側端は、上板の棟側端よりも中央側に位置することとなる。そのため、上板の棟側部分の面と袋体の外面の間には、隙間が形成される。この隙間に、この除雪装置よりも屋根の棟側の雪が入り込むと、袋体内の空気を排出しても、上板を元の状態に戻すことができなくなり、装置の作動不良を起こす場合がある。
【0006】
また、袋体が蛇腹状の場合には、膨張時の袋体の谷折り部分に、この除雪装置よりも屋根の棟側の雪が入り込む場合がある。その結果、袋体内の空気を排出しても袋体を扁平状に折り畳むことができなくなり、装置が作動不良を起こす場合がある。
【0007】
本発明の目的は、袋体の膨張時に、上板と屋根との間に雪が入り込みにくい屋根の除雪装置、及び、この装置の組立方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
請求項1の屋根の除雪装置は、その一端が屋根上に固定され、前記一端を軸心として回転可能であるとともに、積雪を受ける上板と、前記上板と前記屋根との間に設置され、内部への空気の供給により膨張可能であって、前記上板の回転軸方向に延在する筒状の袋体と、その径が前記袋体の径とほぼ同じであって、前記袋体の外周に装着される筒状体と、前記袋体と前記筒状体との間に配設され、前記回転軸に直交する方向の長さが前記筒状体の周長の半分以下である板バネと、前記屋根側の、前記上板の他端と対向する位置を含む領域に設けられる固定台とを備え、前記固定台の前記位置に、前記板バネの前記回転軸と反対側の端部及び筒状体が共に固定されることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によると、袋体内に空気を供給することにより、袋体を膨張させて、上板の前記他端部を押し上げて傾斜させ、上板上の積雪を滑り落とし除雪することができる。筒状体は、袋体の外周に装着されているため、袋体の膨張に伴って、筒状体も膨張する。そのため、板バネは、筒状体の内周面に押圧され、固定台に固定された部分を支点として筒状体の周面に沿ってたわむ。また、筒状体は、固定台の上板の前記他端と対向する位置に固定されているため、上板の前記他端部と屋根との間を膨張した袋体で塞ぐことができ、上板と屋根との間に雪が入り込むのを防止することができる。
【0010】
また、除雪後は、袋体の空気を排出して、上板を元の状態に戻す。袋体内の空気が排出されると、板バネは筒状体から力を受けなくなるため、板バネの復元力により、筒状体が固定台に固定された部分を支点として、上板の前記一端側に向かって倒れつつ、しぼんでいく。そのため、袋体内の空気をほぼ完全に排出したとき、扁平状となった筒状体及び袋体が、上板の前記他端よりも外側にはみ出すのを防止できる。従って、空気を排出した後の袋体及び筒状体を、上板と屋根との間に収納することができる。
このように、本発明の除雪装置は、内部の空気を排出した後の袋体及び筒状体が、上板と屋根との間に収納可能でありながら、袋体の膨張時に、上板と屋根との間に雪が入り込むのを防止することができる。
【0011】
請求項2の屋根の除雪装置は、屋根上に設置される下板と、その一端が前記下板に固定され、前記一端を軸心として回転可能であるとともに、積雪を受ける上板と、前記上板と前記下板との間に設置され、内部への空気の供給により膨張可能であって、前記上板の回転軸方向に延在する筒状の袋体と、その径が前記袋体の径とほぼ同じであって、前記袋体の外周に装着される筒状体と、前記袋体と前記筒状体との間に配設され、前記回転軸に直交する方向の長さが前記筒状体の周長の半分以下である板バネとを備え、前記下板の、前記上板の他端と対向する位置に、前記板バネの前記回転軸と反対側の端部及び筒状体が共に固定されることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によると、袋体内に空気を供給することにより、袋体を膨張させて、上板の前記他端部を押し上げて傾斜させ、上板上の積雪を滑り落とし除雪することができる。筒状体は、袋体の外周に装着されているため、袋体の膨張に伴って、筒状体も膨張する。そのため、板バネは、筒状体の内周面に押圧され、下板に固定された部分を支点として筒状体の周面に沿ってたわむ。また、筒状体は、下板の上板の前記他端と対向する位置に固定されているため、上板の前記他端部と下板(屋根)との間を膨張した袋体で塞ぐことができ、上板と屋根との間に雪が入り込むのを防止することができる。
【0013】
また、除雪後は、袋体の空気を排出して、上板を元の状態に戻す。袋体内の空気が排出されると、板バネは筒状体から力を受けなくなるため、板バネの復元力により、筒状体が下板に固定された部分を支点として、上板の前記一端側に向かって倒れつつ、しぼんでいく。そのため、袋体内の空気をほぼ完全に排出したとき、扁平状となった筒状体及び袋体が、上板の前記他端よりも外側にはみ出すのを防止できる。従って、空気を排出した後の袋体及び筒状体を、上板と下板との間に収納することができる。
このように、本発明の除雪装置は、内部の空気を排出した後の袋体及び筒状体が、上板と屋根との間に収納可能でありながら、袋体の膨張時に、上板と屋根との間に雪が入り込むのを防止することができる。
【0014】
請求項3の屋根の除雪装置は、請求項1又は2において、前記上板の前記他端に取り付けられた磁性部材と、前記屋根側の前記磁性部材と対向する位置に取り付けられ、前記袋体の非膨張時に前記磁性部材と接する永久磁石と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によると、袋体の非膨張時には、永久磁石と磁性部材とは、互いに接しており、磁力により吸着されている。そのため、袋体の非膨張時に、上板が風を受けて回転軸回りに回転するのを防止することができる。
【0016】
請求項4の屋根の除雪装置は、請求項1〜3の何れかにおいて、前記筒状体と、前記屋根若しくは前記上板とを連結するとともに、前記袋体の膨張時に、前記袋体が所定の位置よりも前記上板の前記他端部の外側に移動するのを規制する紐状体を備えることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によると、袋体がほぼ完全に膨張した時に、筒状体と屋根若しくは上板とを連結する紐状体が引っ張られることにより、袋体及び筒状体が、所定の位置よりも上板の前記他端部の外側に移動するのを規制できる。これにより、袋体がほぼ完全に膨張したときの上板の傾斜角が一定になるため、上板上の積雪をより確実に滑り落とすことができる。
【0018】
請求項5の屋根の除雪装置の組立方法は、請求項1〜4の何れかに記載の屋根の除雪装置を組み立てる方法であって、前記位置に、前記板バネの前記回転軸と反対側の端部、及び、筒状体を共に固定する固定工程と、前記位置に固定された前記筒状体の内側に、前記袋体を挿入する袋体挿入工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によると、前記位置に固定された筒状体の内側に袋体を挿入するという簡易な方法によって、袋体を上板と屋根との間に設置することができる。
また、袋体を筒状体から抜き取ることにより、袋体のみを簡単に取り外すことができるため、たとえ袋体が破損しても、袋体のみを交換したり、袋体のみを取り外して補修することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の屋根の除雪装置(以下、単に除雪装置という)1は、屋根30上に設置される装置本体2と、装置本体2の後述する袋体5の内部と連通するエアチューブ8と、このエアチューブ8に連結されたブロア10と、エアチューブ8のブロア10近くに設けられたバルブ9とから構成されている。図2に示すように、除雪装置1は、装置本体2の後述する袋体5を膨張させることにより、装置本体2の後述する上板3を傾斜させて、上板3上の積雪33を滑り落として除雪する装置である。
【0021】
装置本体2の後述する袋体5とブロア10とはエアチューブ8を介して連結されている。ブロア10は、正逆回転可能に構成されている。バルブ9を開放した状態でブロア10を正回転させると、ブロア10からエアチューブ8を介して、装置本体2の後述する袋体5内に圧縮空気が供給される。また、ブロア10を逆回転させると、袋体5内の空気が排出される。ブロア10は、夜間時や一定の積雪量があった際に自動的に作動させてもよいが、手動操作により作動させてもよい。
【0022】
図1に示すように、除雪を行わない通常時の装置本体2は、長方形状の板状の外形を有している。装置本体2は、屋根30の棟31近くから軒先32へかけて上下方向に複数台配置され(図1参照)、且つ、屋根30の横幅に応じて横方向にも複数台設置される。また、図3に示すように、装置本体2は、屋根30の軒先32側にのみ設置されていてもよい。
【0023】
図4に示すように、装置本体2は、屋根30へ設置される下板4と、積雪33を受ける上板3と、上板3と下板4との間に配置され、内部への空気の供給によって膨張可能な袋体5と、袋体5の外周に装着される筒状体6と、袋体5と筒状体6との間に配設される板バネ7とから構成される。尚、以下の除雪装置1の説明において、図4及び図5中の左右方向を左右方向、軸11の方向(図6中の左右方向)を軸方向と定義する。
【0024】
図4及び図5に示すように、上板3は、長方形状の板状部材からなる。図示は省略するが、詳細には、上板3は、軸方向に延在する複数のフレーム部材及び左右方向に延在する複数のフレーム部材が格子状に配列されて形成された枠組と、この枠組の上に設置された、枠組の外形と同じ大きさの板部材とから構成されている。上板3は、左右方向長さよりも軸方向長さが長く、例えば、左右方向長さが1mあって、軸方向長さが2mである。上板3の上面(板部材の上面)は、平滑で且つ摩擦係数が小さく、雪が滑落しやすいように形成されている。
【0025】
上板3の左端部は、下板4の左端部と軸11によって回転自在に連結されている。つまり、上板3は、その左端が下板4に固定され、左端を軸心として回転可能となっている。下板4は、軸11の方向と屋根30の横方向とが一致し、且つ、軸11側が屋根30の軒先32側となるように、屋根30上に設置される。
【0026】
下板4は、その外形が上板3とほぼ同じ大きさに形成されている。図示は省略するが、詳細には、下板4は、軸方向に延在する複数のフレーム部材及び左右方向に延在する複数のフレーム部材が配列されて形成された枠組と、この枠組の右側部分の上に設置された、板部材とから構成される。板部材は、軸方向長さが枠組と同じであって、左右方向長さが筒状体6の周長の半分よりも若干大きい。
【0027】
図4及び図5に示すように、上板3の右端には、鉄等の磁性部材12が取り付けられている。また、下板4の右端、即ち、磁性部材12と対向する位置には、永久磁石13が取り付けられている。磁性部材12及び永久磁石13は、軸方向に延びた棒状に形成されており、その軸方向長さは、上板3及び下板4の軸方向長さとほぼ同じである。袋体5の非膨張時に、永久磁石13と磁性部材12とは、互いに接しており、磁力により吸着されている。但し、永久磁石13の磁力は、袋体5内に空気を供給して袋体5を膨張させた際に、袋体5の圧力によって離れる程度とする。
【0028】
図5に示すように、上板3と下板4の左側部分には、上板規制ベルト14の両端部がそれぞれボルト等で固定されている。即ち、上板3と下板4とは、左側部分において、上板規制ベルト14で連結されている。上板規制ベルト14の長さは、袋体5がほぼ完全に膨張し、上板3が所定の傾斜角(例えば、25度)となったときに、引っ張られる長さに設定されている。上板規制ベルト14の数は、1つであっても、複数であってもよい。また、上板規制ベルト14は、ベルトの代わりに、ロープ等ベルト以外の紐状体で構成されていてもよい。尚、図4では上板規制ベルト14は省略して表示している。
【0029】
図4に示すように、袋体5は、上板3と下板4との間、即ち、上板3と屋根30との間に配置されており、詳細には、袋体5は、下板4に固定された3つの筒状体6の内側に配置されている。袋体5は、軸方向に延在する筒状織物からなり、その両端部は金具15によって閉じられている。図5に示すように、袋体5は、内部への空気の供給によって、膨張可能である。袋体5は、例えば、ポリエステル繊維等の合成繊維の筒状織物であって、その両面が樹脂によって被覆されたものが用いられる。樹脂としては、火災等を考慮すると難燃性樹脂が好ましいが、難燃性でなくてもよい。また、筒状織物の片面のみが被覆されている場合には、被覆されていない側から繊維層内に染み込んだ水が凍って作動不良を起こす場合があるが、両面を被覆することにより、このような作動不良を防止することができる。
【0030】
袋体5の軸方向長さは、上板3の軸方向長さとほぼ同じである。袋体5は、両端部に形成された2つの小径部5aと、これら2つの小径部5aの間に設けられた、小径部5aよりも径の大きい大径部5bとを有する、異径筒状織物からなる。大径部5bの径は、軸方向にほぼ一定であって、例えば400mmである。小径部5aは、開口端に向けて徐々に径が小さくなっており、開口端の径は、例えば80mmである。大径部5bの軸方向長さは、小径部5aの軸方向長さよりもかなり長い。小径部5aの開口端は、厚みの薄い平板状の2つの金具15で挟持されて閉じられているが、接着剤による接着や縫着等で閉じられていてもよい。
【0031】
図6に示すように、大径部5bには1つのエア注入口16が形成されている。エア注入口16は、後述する固定具17と軸方向に関してほぼ同一線上に位置する。注入口16には、エアチューブ8が連結されている。袋体5内への空気の供給・排出は、エアチューブ8を介してブロア10によって行なわれる。袋体5がほぼ完全に膨張したとき内圧は、例えば0.02MPaである。
【0032】
図5及び図6に示すように、下板4の右端部には、3つの筒状体6が、ボルト等の固定具17によってそれぞれ固定されている。3つの筒状体6は、その内側にそれぞれ配置された板バネ7と共に下板4にそれぞれ固定されている。3つの筒状体6は、互いに同じ形状であり、軸方向に関して等間隔で配置されている。また、3つの筒状体6の内側には、大径部5bが配置されている。即ち、3つの筒状体6は、大径部5bの外周に装着されている。筒状体6の径は、大径部5bとほぼ同じである。筒状体6の軸方向長さは、例えば200mmである。
筒状体6は、袋体5と同じく、例えば、ポリエステル繊維等の合成繊維の筒状織物であって、その両面が樹脂によって被覆されたものが用いられる。樹脂としては、難燃性樹脂が好ましいが、難燃性でなくてもよい。
【0033】
また、図5に示すように、筒状体6の、周方向に関して固定具17と反対側部分の近傍には、筒状体規制ベルト(紐状体)18の一方の端部が、縫着や接着によって固定されている。この筒状体規制ベルト18の他方の端部は、下板4の軸11近くに、ボルト等によって固定されている。筒状体規制ベルト18の長さは、袋体5がほぼ完全に膨張したときに引っ張られるように設定されている。筒状体規制ベルト18は、3つの筒状体6のうち、中央の筒状体6にのみ取り付けてもよいが、両側の2つ、又は、全ての筒状体6に取り付けてもよい。また、筒状体規制ベルト18は、ベルトの代わりに、ロープ等の紐状体で構成されていてもよい。尚、図4では筒状体規制ベルト18は省略して表示している。
【0034】
図6に示すように、3つの筒状体6と袋体5との間には、板バネ7がそれぞれ配設されている。図5に示すように、板バネ7は、その右端部が、筒状体6と共に固定具17によって下板4に固定されている。板バネ7の軸方向長さは、筒状体6とほぼ同じ若しくはそれよりも若干小さい。板バネ7の軸11に直交する方向の長さ(図4の状態での左右方向長さ)Lは、筒状体6の周長の半分以下であり、特に、周長の半分弱(具体的には、周長の半分の90%以上)であることが好ましい。
【0035】
板バネ7としては、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:GlassFiber Reinforced Plastics)で形成されたものを用いることが好ましいが、それ以外の金属等で形成されたものを用いてもよい。また、GFRPとしては、例えば、引張強さが80MPa、曲げ強度さが180MPa、曲げ弾性率が7.5GMaのものを用いる。上記のGFRPを用いる場合、板バネ7の厚さは、例えば5mm程度が好ましい。
【0036】
以上説明した装置本体2を組み立てる際には、筒状体6と板バネ7の右端部を固定具17によって下板4の右端部に固定した後(固定工程)、筒状体6の内周に、予め注入口16が形成された袋体5を挿入する(挿入工程)。そして、注入口16にエアチューブ8を連結する。尚、上板3と下板4とを軸11で連結する工程、及び、下板4を屋根30に取り付ける工程は、それぞれ、固定工程の前、挿入工程の後、又は、固定工程と挿入工程の間のいずれであってもよい。このように、下板4に固定された筒状体6の内側に袋体5を挿入するという簡易な方法によって、袋体5を上板3と下板4の間に設置することができる。また、袋体5を筒状体6から抜き取ることにより、袋体5のみを簡単に取り外すことができるため、たとえ袋体5が破損しても、袋体5のみを交換したり、袋体5のみを取り外して補修することができる。
【0037】
次に、装置本体2の作用について説明する。
図4に示すように、袋体5内に空気が供給されていないときには、袋体5及び筒状体6は扁平状となっている。また、板バネ7は、ほとんど外力を受けておらず、平坦状となっている。
【0038】
図4の状態から、袋体5内に空気が供給されると、図5に示すように、大径部5bは膨張して略円筒状になる。これにより、大径部5bは上板3を押し上げるが、上板3の左端部は軸11により下板4に連結されているため、上板3は右側程高くなるように傾斜する。
【0039】
また、大径部5bが略円筒状に膨張すると、それに伴って筒状体6も円筒状となる。そのため、板バネ7は、筒状体6の内周面に押圧されて、下板4に固定されている右端部を支点として筒状体6の周面に沿ってたわむ。
【0040】
また、筒状体6は、下板4の右端部に固定されているため、上板3の右端部と下板4の右端部との間を膨張した袋体5で塞ぐことができ、上板3と下板4との間に雪が入り込むのを防止することができる。
【0041】
また、図5の状態から、袋体5の内部の空気を排出すると、板バネ7は、筒状体6から力を受けなくなるため、板バネ7の復元力により、筒状体6(及び袋体5)は、下板4の右端部を支点として、左側に倒れつつ、しぼんでいく。そのため、袋体5内の空気をほぼ完全に排出したときに、扁平状となった袋体5及び筒状体6が、上板3の右端よりも外側にはみ出すのを防ぐことができる。従って、空気を排出した後の袋体5及び筒状体6を、上板3と下板4の間に収納することができる。
【0042】
ここで、板バネ7を設けない場合、袋体5内の空気を排出すると、袋体5は上板3の重みによって扁平状に折り畳まれる。そのため、扁平状となった袋体5の右端部は、上板3及び下板4の右端からはみ出す場合がある。そこで、上記の問題を解決するには、筒状体6を下板4の右端部よりも左側の位置に固定することが考えられる。しかし、この場合、袋体5が膨張したとき、上板3及び下板4の右端部と、大径部5bの右側部分の外面との間にそれぞれ隙間が生じることとなる。この隙間に、装置本体2よりも右側に積もった雪が入り込むと、上板3を閉じることができない等の作動不良が起きる。
【0043】
一方、本実施形態では、上述したように、内部の空気を排出した後の袋体5及び筒状体6が、上板3及び下板4の間に収納可能でありながら、袋体5の膨張時には、上板3と下板4との間に雪が入り込むのを防止することができる。
【0044】
また、板バネ7の左右方向長さLが短すぎると、袋体5内に空気が若干残っているときに、板バネ7が完全に平坦状に戻ってしまう。このとき、内部に若干空気の残っている状態の袋体5は、上板3の重みにより、右側に押される。そのため、袋体5内の空気をほぼ完全に排出したとき、扁平状態の袋体5及び筒状体6の右端部が、上板3の右端部よりも外側にはみ出す場合がある。
一方、本実施形態では、板バネ7の左右方向長さLは、筒状体6の周長の半分弱であるため、板バネ7が完全に平坦状に戻ったときには、袋体5内の空気がほぼ完全に排出され、筒状体6が周方向に関してほぼ半分に折られた状態となっている。そのため、袋体5内の空気をほぼ完全に排出したとき、袋体5及び筒状体6の右端部が上板3の右端部よりも外側にはみ出すのを確実に防止することができる。
【0045】
また、袋体5の非膨張時、上板3の右端に取り付けられた磁性部材12は、下板4の右端に取り付けられた永久磁石13に磁力により吸着されている。そのため、袋体5の非膨張時に、上板3が風を受けて軸11回りに回転するのを防止することができる。
さらに、上板3を図5の状態(傾斜した状態)から図4の状態(下板4と平行状態)に回転させる際、上板3の右端に取り付けられた磁性部材12が錘となり、上板3をスムーズに移動させることができる。
【0046】
また、筒状体6と下板4とを所定の長さの筒状体規制ベルト18で連結していない場合、図5において破線で示したように、袋体5の膨張時、筒状体6´(及び袋体5)は、上板3の重みにより、下板4に固定された部分を支点として図4中の時計回りに回転して、右側に移動する場合がある。そのため、上板3の傾斜角が所定の値よりも小さくなり、上板3上の積雪33を滑り落としにくくなる。また、板バネ7は、固定具17近傍におけるたわみ角が大きくなるため、破損しやすくなる。
一方、本実施形態では、筒状体6と下板4とが、所定の長さの筒状体規制ベルト18によって連結されているため、膨張時の袋体5が、所定の位置よりも右側に移動することがない。これにより、袋体5がほぼ完全に膨張したときの上板3の傾斜角が一定になるため、上板3上の積雪33をより確実に滑り落とすことができる。また、板バネ7のたわみ過ぎを防止できるため、板バネ7の耐久性が向上する。
【0047】
また、上板3と下板4とが上板規制ベルト14で連結されていない場合、袋体の膨張時、傾斜した状態の上板3は、風を受けて回転しやすい。
一方、本実施形態では、上板3と下板4とが所定の長さの上板規制ベルト14で連結されているため、上板3が所定の傾斜角以上に回転するのを規制することができる。
【0048】
次に、除雪装置1を用いて屋根30の除雪を行う場合について説明する。
図1に示すように、除雪を行なわない通常の状態では、装置本体2は、薄い板状の外形を有しており、屋根30の傾斜に沿っている。そのため、装置本体2は、常時設置されたままでも体裁が悪くなく、風・雨等の影響を受けにくいため、破損しにくい。
【0049】
図2に示すように、積雪33があり除雪を行う場合には、先ず、屋根30の棟31側から1段目(最上段)に設置された装置本体2の袋体5を膨張させて、この装置本体2の上板3上の積雪33を除去する。
【0050】
具体的には、先ず、ブロア10を作動させて、エアチューブ8を介して袋体5内に圧縮空気を供給して最上段の装置本体2の袋体5を膨張させる。袋体5が膨張すると、上板3は屋根30の棟31側(図5中の右側)程高くなるように傾斜する。装置本体2は、勾配のある屋根30上に配置されているため、上板3は大きな傾斜角をもつこととなり、上板3上の積雪33は下方に滑り落ちる。上板3の上面の材質にもよるが、雪を滑落させるには、40度以上の角度が必要である。そのため、上板3の下板4に対する最大傾斜角が25度の場合、屋根30の勾配は15度以上であればよい。
【0051】
最上段の装置本体2の上板3上の積雪33が下方に滑り落ちると、屋根30の勾配や雪質によっては、積雪33が順次下方に押されて、一括して軒先32から下方へ滑り落ちることもある。しかし、通常は、図2に示すように、屋根30上にある程度の積雪33が残った状態となるため、最上段の装置本体2に続いて、若干の時間差をつけて、棟31側から2段目の装置本体2の袋体5内に圧縮空気を供給する。これにより、2段目の装置本体2の上板3を傾斜させて、残った積雪33を滑り落とす。
【0052】
2段目の装置本体2の上板3を傾斜させる際に、最上段の上板3と2段目の上板3との境界部分に積雪33が残っている場合がある。上述したように、上板3と下板4との間を膨張した袋体5で塞ぐことができるため、たとえ最上段の上板3と2段目の上板3との境界部分に積雪33が残っていても、2段目の装置本体2の上板3と下板4との間に、この雪が入り込むのを防止することができる。
【0053】
また、2段目の装置本体2を作動させて積雪33を除去した後は、同様に3段目の装置本体2を作動させる。このように、時間差をつけて、棟31側から軒先32側の装置本体2の袋体5内に順次空気を供給し、各上板3を傾斜させることにより、屋根30上のほぼ全ての積雪33を除去することができる。
【0054】
また、図3に示すように、装置本体2が、軒先32側にのみ設置されている場合、上記と同様に、装置本体2の上板3を傾斜させることにより、軒先32側の積雪33が除去される。また、装置本体2が、棟31から軒先32にかけて複数設置されている場合であっても、軒先32側の装置本体2のみ作動させて、軒先32側の積雪33のみを除去してもよい。このように、軒先32の積雪33のみを除去することにより、軒先32からの雪のせり出し(雪庇)の発生を防止するとともに、軒先32から一挙に多量の積雪33が自然落下するのを防止することができる。
【0055】
また、軒先32の積雪33のみを除去する場合、装置本体2の棟31側に積雪33が必ず存在するが、上述したように、上板3と下板4との間を膨張した袋体5で塞ぐことができるため、上板3と下板4との間に雪を入り込むのを防止することができる。
【0056】
また、除雪を行った後は、ブロア10を逆回転させて、袋体5内の空気を排出する。これに上板3及び磁性部材12の重みも加わって、袋体5内の空気が排出され、袋体5は扁平状となる。このとき、上述したように、板バネ7が設けられていることにより、袋体5及び筒状体6は、上板3と下板4の棟31側(図4中の右側)の端部からはみ出すことなく、上板3と下板4との間に収納される。
【0057】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0058】
1]袋体5は、小径部5aと大径部5bとを有する異径筒状織物からなるものに限定されない。例えば、長さ方向にわたって径の変化しないストレート形状の筒状織物を用いてもよい。この場合、袋体5の両端部は、金具を用いて閉じられていてもよいが、接着剤による接着や縫着等により閉じられていてもよい。
【0059】
2]筒状体6及び板バネ7の数は、特に3つに限定されるものではなく、袋体5の長さ等に応じて、2つ以下であっても、4つ以上であってもよい。
【0060】
3]前記実施形態では、1つの板バネ7が、1つの筒状体6の内側に配置されているが、複数の板バネ7が、軸方向に長い1つの筒状体6の内側に配置される構成であってもよい。
【0061】
4]前記実施形態では、上板3の一端部(図4、5中の左端部)は、屋根30上に設置された下板4に固定されているが、下板4を設けずに、上板3の一端部をヒンジ等で屋根30上に直接固定してもよい。この場合、屋根30側の、上板3の他端部(図4、5中の右端部)に対向する位置に、固定台が設置されており、この固定台に、屋根30側に板バネ7の右端部と筒状体6とが共に固定されている構成とする。
【0062】
5]前記実施形態では、筒状体規制ベルト18は、下板4の軸11近くに固定されているが、上板3の軸11近くに固定されていてもよい。
【0063】
6]磁性部材12及び永久磁石13は、軸方向に延びた棒状に形成されていなくてもよい。例えば、軸方向長さの短い複数の磁性部材及び永久磁石が、上板3及び下板4の右端部の対向面に、軸方向に並んで埋め込まれていてもよい。
【0064】
7]前記実施形態では、袋体5の膨張時に上板3が風を受けて回転するのを防止するために、上板規制ベルト14が設けられているが、上板3の回転を規制する手段は、この構成に限定されるものではない。例えば、上板3と下板4とを、軸11で連結する代わりに、所定の回転角以上の回転を規制できるヒンジ部材で連結してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る屋根の除雪装置の使用状態を示す図である。
【図2】図1に示す除雪装置により除雪を行っている途中の状態を示す図である。
【図3】屋根の除雪装置の他の使用状態を示す図であって、除雪を行っている状態を示す図である。
【図4】袋体を膨張させていないときの除雪装置の断面図である。
【図5】袋体を膨張させたときの除雪装置の断面図である。
【図6】図5のVI- VI線断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 屋根の除雪装置
2 装置本体
3 上板
4 下板
5 袋体
6 筒状体
7 板バネ
11 軸
12 磁性部材
13 永久磁石
17 固定具
18 筒状体規制ベルト(紐状体)
30 屋根
33 積雪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その一端が屋根上に固定され、前記一端を軸心として回転可能であるとともに、積雪を受ける上板と、
前記上板と前記屋根との間に設置され、内部への空気の供給により膨張可能であって、前記上板の回転軸方向に延在する筒状の袋体と、
その径が前記袋体の径とほぼ同じであって、前記袋体の外周に装着される筒状体と、
前記袋体と前記筒状体との間に配設され、前記回転軸に直交する方向の長さが前記筒状体の周長の半分以下である板バネと、
前記屋根側の、前記上板の他端と対向する位置を含む領域に設けられる固定台とを備え、
前記固定台の前記位置に、前記板バネの前記回転軸と反対側の端部及び筒状体が共に固定されることを特徴とする屋根の除雪装置。
【請求項2】
屋根上に設置される下板と、
その一端が前記下板に固定され、前記一端を軸心として回転可能であるとともに、積雪を受ける上板と、
前記上板と前記下板との間に設置され、内部への空気の供給により膨張可能であって、前記上板の回転軸方向に延在する筒状の袋体と、
その径が前記袋体の径とほぼ同じであって、前記袋体の外周に装着される筒状体と、
前記袋体と前記筒状体との間に配設され、前記回転軸に直交する方向の長さが前記筒状体の周長の半分以下である板バネとを備え、
前記下板の、前記上板の他端と対向する位置に、前記板バネの前記回転軸と反対側の端部及び筒状体が共に固定されることを特徴とする屋根の除雪装置。
【請求項3】
前記上板の前記他端に取り付けられた磁性部材と、
前記屋根側の前記磁性部材と対向する位置に取り付けられ、前記袋体の非膨張時に前記磁性部材と接する永久磁石と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の屋根の除雪装置。
【請求項4】
前記筒状体と前記屋根若しくは前記上板とを連結するとともに、前記袋体の膨張時に、前記袋体が所定の位置よりも前記上板の前記他端部の外側に移動するのを規制する紐状体を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の屋根の除雪装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の屋根の除雪装置を組み立てる方法であって、
前記位置に、前記板バネの前記回転軸と反対側の端部、及び、筒状体を共に固定する固定工程と、
前記位置に固定された前記筒状体の内側に、前記袋体を挿入する袋体挿入工程と、
を備えることを特徴とする屋根の除雪装置の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−1607(P2010−1607A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158909(P2008−158909)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】