説明

屋根材成形用プレス金型及び屋根材のプレス成形方法

【課題】従来よりも金型を交換する回数を低減し、ショット数を増加させることができると共に、空気溜まりに起因する欠けなどが少ない屋根材を安定して成形することができる屋根材成形用プレス金型を提供する。
【解決手段】成形材料1を上型2及び下型3でプレスして矩形状の屋根材4を成形するための屋根材成形用プレス金型5に関する。前記上型2の軒側面6及び棟側面7が下方ほど内側に傾斜している。前記上型2の軒側面6及び棟側面7の間の両側の側方面8,8に前記上型2の下面9から突出して側方面成形部10,10が形成されている。前記下型3の軒側面11に前記下型3の上面12から突出して前記上型2の軒側面6と平行となるように上方ほど外側に傾斜して軒側成形部13が形成されている。前記下型3の棟側面14に前記下型3の上面12から突出して前記上型2の棟側面7と平行となるように上方ほど外側に傾斜して棟側成形部15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントなどの水硬性材料を主成分とする窯業系成形材料で屋根材を成形する際に用いられる屋根材成形用プレス金型及び屋根材のプレス成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、屋根材4を成形するにあたっては、窯業系の成形材料1をプレス成形することが行われている(例えば、特許文献1参照)。図2はその一例を示すものであり、プレス成形に用いられる屋根材成形用プレス金型5は上型2及び下型3で構成されている。特に平面視略矩形状の屋根材4を成形する場合、上型2は、その下面9の四辺に下面9を囲むように軒側成形部23、棟側成形部25及び一対の側方面成形部10,10を突設させて形成されている。ここで、軒側成形部23は、屋根材4の軒側面を成形するためのものであり、図2のように上型2の軒側面6に上型2の下面9から突出して形成されている。また棟側成形部25は、屋根材4の棟側面を成形するためのものであり、図2のように上型2の棟側面7に上型2の下面9から突出して形成されている。また一対の側方面成形部10,10は、屋根材4の軒側面及び棟側面の間の両側の側方面を成形するためのものであり、図3のように上型2の軒側面6及び棟側面7の間の両側の側方面8,8に上型2の下面9から突出して形成されている。他方、下型3は、その上面12の四辺に上面12から下方に向けて、軒側面11、棟側面14及び一対の側方面16,16を設け、型締めの際に上型2の軒側成形部23、棟側成形部25及び一対の側方面成形部10,10の内面に密接するように形成されている。
【0003】
そして、上記のような屋根材成形用プレス金型5を用いて屋根材4をプレス成形するにあたっては、まず図2(a)のように下型3の上面12に所定量の成形材料1を供給し、次に図2(b)のように上型2を下動又は下型3を上動させて型締めし、成形材料1を上型2及び下型3でプレスして成形する。このとき上型2及び下型3の内部に空気が閉じ込められ、空気溜まり17に起因する欠けなどが形成された屋根材4が成形されるおそれがあるので、この空気を逃がすために通常上型2には脱気溝18が形成されている。図2では上型2の軒側面6と軒側成形部23との間に外部に連通する脱気溝18が形成されている。その後、図2(c)のように上型2を上動又は下型3を下動させて型開きすると、成形品としての屋根材4は、上型2の軒側成形部23、棟側成形部25及び一対の側方面成形部10,10によって四辺を支持され、そのまま次の養生硬化の工程に移り、最終的に平面視略矩形状の屋根材4を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−38418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上型2に脱気溝18が形成されていても、成形材料1はセメントなどの粉状材料を主成分とするものであるので、ショットを繰り返すうちに徐々に脱気溝18を詰まらせることになる。そうすると脱気が困難となり、結局、空気溜まり17が残って欠けなどが形成された屋根材4が成形されるので、頻繁に金型の交換や清掃を行う必要がある。例えば、図2では空気溜まり17に起因する欠けなどが軒側に形成された屋根材4が成形されることになる。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、従来よりも金型を交換する回数を低減し、ショット数を増加させることができると共に、空気溜まりに起因する欠けなどが少ない屋根材を安定して成形することができる屋根材成形用プレス金型及び屋根材のプレス成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る屋根材成形用プレス金型は、成形材料を上型及び下型でプレスして矩形状の屋根材を成形するための屋根材成形用プレス金型において、前記上型の軒側面及び棟側面が下方ほど内側に傾斜し、前記上型の軒側面及び棟側面の間の両側の側方面に前記上型の下面から突出して側方面成形部が形成されていると共に、前記下型の軒側面に前記下型の上面から突出して前記上型の軒側面と平行となるように上方ほど外側に傾斜して軒側成形部が形成され、前記下型の棟側面に前記下型の上面から突出して前記上型の棟側面と平行となるように上方ほど外側に傾斜して棟側成形部が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係る屋根材のプレス成形方法は、請求項1に記載の屋根材成形用プレス金型を用いて屋根材をプレス成形するにあたって、前記下型の上面に成形材料を供給し、前記上型の両側の側方面成形部が前記下型の両側の側方面に位置し、前記下型の軒側成形部及び棟側成形部がそれぞれ前記上型の軒側面及び棟側面に位置するように、上型及び下型を型締めして成形材料をプレス成形した後、上型及び下型を型開きして脱型することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりも金型を交換する回数を低減し、ショット数を増加させることができると共に、空気溜まりに起因する欠けなどが少ない屋根材を安定して成形することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る屋根材成形用プレス金型を用いて屋根材をプレス成形する工程の一例を示すものであり、(a)〜(c)は概略断面図である。
【図2】従来の屋根材成形用プレス金型を用いて屋根材をプレス成形する工程の一例を示すものであり、(a)〜(c)は概略断面図である。
【図3】図1(a)のA−A線断面図又は図2(a)のB−B線断面図である。
【図4】本発明に係る屋根材成形用プレス金型を用いて得られた屋根材を野地板に葺設した様子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は本発明に係る屋根材成形用プレス金型5の一例を示し、さらにこの屋根材成形用プレス金型5を用いて屋根材4をプレス成形する工程の一例を示すものである。屋根材成形用プレス金型5は、従来のものと同様に上型2及び下型3で構成され、成形材料1を上型2及び下型3でプレスして平面視略矩形状の屋根材4を成形するためのものである。
【0013】
上型2の軒側面6及び棟側面7は、図1に示すように下方に行くほど内側に傾斜させている。また、上型2の軒側面6及び棟側面7の間の両側の側方面8,8には、図3に示すように上型2の下面9から突出して一対の側方面成形部10,10が対向して形成されている。この一対の側方面成形部10,10は、屋根材4の軒側面及び棟側面の間の両側の側方面を成形するためのものであり、プレス成形後は成形品としての屋根材4を支持するためのものである。このように、上型2は、その下面9の四辺のうち対向する二辺に一対の側方面成形部10,10を突設させて形成されている。なお、上型2の下面9は、屋根材4の上面を成形するものであり、必要に応じて凹凸模様などを形成してもよい。また、図3では上型2の側方面成形部10の内面は、下型3の側方面16と平行となるように下方に行くほど外側に傾斜させて、成形品を脱型しやすくしているが、上型2の側方面成形部10の内面を上型2の下面9に対して垂直にし、下型3の側方面16を下型3の上面12に対して垂直にしてもよい。この場合、プレス成形後の成形品を上型2の一対の側方面成形部10,10でより支持しやすくなる。
【0014】
他方、下型3の軒側面11には、図1に示すように下型3の上面12から突出して軒側成形部13が形成されている。この軒側成形部13は、屋根材4の軒側面を成形するためのものであり、軒側成形部13の内面は、上型2の軒側面6と平行となるように上方に行くほど外側に傾斜させている。また、下型3の棟側面14には、図1に示すように下型3の上面12から突出して棟側成形部15が形成されている。この棟側成形部15は、屋根材4の棟側面を成形するためのものであり、棟側成形部15の内面は、上型2の棟側面7と平行となるように上方に行くほど外側に傾斜させている。なお、下型3の上面12は、屋根材4の下面を成形するものである。
【0015】
そして、上記のような屋根材成形用プレス金型5を用いて屋根材4をプレス成形するにあたっては、まず図1(a)のように下型3の上面12に所定量の成形材料1を供給する。
【0016】
ここで、成形材料1としては、セメント、水、油性物質及び乳化剤を含むセメント含有逆エマルジョン組成物を用いるのが好ましい。このセメント含有逆エマルジョン組成物は他のセメント系成形材料よりも流動性が良くて複雑な形状に成形しやすい。
【0017】
セメントとしては、特に限定されるものではないが、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカヒューム等を用いることができ、またこれらのうちの一種を単独で用いたり、二種以上を併用したりすることができる。
【0018】
また、油性物質としては、水と逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成しうるものであれば、特に限定されるものではなく、通常疎水性の液状物質が利用され、例えば、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。特に、油性物質として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル単量体)を使用すれば、セメントの水和反応と重合性二重結合を有する油性物質の重合反応が同時に起こり、ポリマーがマトリックスを形成して、優れた物理的、機械的性質を有するプレス成形品(セメント成形品)が得られるので望ましい。
【0019】
また、重合性二重結合を有する油性物質を使用する場合には、油性物質の重合を促進するために、有機過酸化物や過硫酸塩等の重合開始剤、例えばt−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等を併用することが望ましい。また、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の架橋剤を併用することもできる。
【0020】
セメント含有逆エマルジョン組成物中の油性物質の含有量は、セメント含有逆エマルジョン組成物中に水との逆エマルジョンを形成でき、かつ得られるプレス成形品(無機質成形体)に所望の特性が付与されるように、適宜調整されるものであるが、例えばセメント含有逆エマルジョン組成物中の水と固形分の総量に対して5〜10体積%の範囲であることが好ましい。
【0021】
また、セメント含有逆エマルジョン組成物には上記成分の他に、乳化剤(逆乳化剤)を配合することが好ましい。乳化剤は逆エマルジョンに安定性を付与するために配合されるものであり、例えばソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。このような乳化剤の含有量も適宜調整することができるが、好ましくはセメント含有逆エマルジョン組成物中の水と固形分の総量に対して1〜3体積%の範囲とするものである。
【0022】
また、セメント含有逆エマルジョン組成物中には、さらに適宜量の軽量骨材、シリカ系骨材、有機繊維等の補強材や、各種添加剤を配合することができる。軽量骨材としては例えばフライアッシュバルーン、パーライト、シラスバルーン等のほか、発泡ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン発泡体等の有機発泡体等を用いることができ、その含有量はセメント100質量部に対して20〜40質量部の範囲とすることが好ましい。また、シリカ系骨材としては例えば砂利、ガラス粉、アルミナシリケート等を用いることができ、その含有量はセメント100質量部に対して100質量部以下とすることが好ましい。また、有機繊維としては例えばポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維等を用いることができ、その含有量はセメント100質量部に対して3〜6質量部の範囲とすることが好ましい。
【0023】
また、上記のセメント含有逆エマルジョン組成物は、水/セメントの混合比を変化させることでセメント系成形品の比重を自由にコントロールすることができるという特長を有しているものである。本発明では、セメント含有逆エマルジョン組成物において、セメントと水の比率は任意に設定することができるが、質量比率で、セメント1に対して水0.3〜2の範囲が一般的に好ましい。
【0024】
そして、図1(a)のように下型3の上面12に所定量の成形材料1を供給した後、上型2及び下型3の位置合わせを行う。この位置合わせは、図3のように上型2の両側の側方面成形部10,10が下型3の両側の側方面16,16に位置し、かつ図1(a)のように下型3の軒側成形部13及び棟側成形部15がそれぞれ上型2の軒側面6及び棟側面7に位置するようにして行う。この状態で上型2及び下型3を型締めして図1(b)のように成形材料1をプレス成形する。このように、上型2及び下型3が最も近づく位置(下死点)において成形材料1が屋根材4としてプレス成形されるが、この下死点に到達するまで、上型2の軒側面6と下型3の軒側成形部13の内面との間及び上型2の棟側面7と下型3の棟側成形部15の内面との間に脱気用のクリアランスを確保することができ、下死点に到達するとこのクリアランスは0(ゼロ)となる。なぜなら、上型2の軒側面6は下方に行くほど内側に傾斜し、下型3の軒側成形部13の内面は上方に行くほど外側に傾斜していることにより、下死点に到達するまでは上型2の軒側面6と下型3の軒側成形部13の内面とは平行状態を維持しつつ接近するだけであり、下死点に到達してはじめて上型2の軒側面6と下型3の軒側成形部13の内面とが密接するからである。同様に、上型2の棟側面7は下方に行くほど内側に傾斜し、下型3の棟側成形部15の内面は上方に行くほど外側に傾斜していることにより、下死点に到達するまでは上型2の棟側面7と下型3の棟側成形部15の内面とは平行状態を維持しつつ接近するだけであり、下死点に到達してはじめて上型2の棟側面7と下型3の棟側成形部15の内面とが密接する。このように、上型2に従来のような脱気溝18を形成しなくても、下死点に到達するまでは、上型2の軒側面6と下型3の軒側成形部13の内面との間及び上型2の棟側面7と下型3の棟側成形部15の内面との間にクリアランスを確保することができるので、このクリアランスを通じて上型2及び下型3の内部の空気を上方に逃がすことができるものであり、従来よりも金型を交換する回数を低減し、ショット数を増加させることができると共に、空気溜まり17に起因する欠けなどが少ない屋根材4を安定して成形することができるものである。また、下死点に到達すると、上型2の軒側面6と下型3の軒側成形部13の内面とが密接し、上型2の棟側面7と下型3の棟側成形部15の内面とが密接して、これらのクリアランスが0(ゼロ)となるので、バリの発生も抑制することができるものである。
【0025】
その後、図1(c)のように上型2を上動又は下型3を下動させて、上型2及び下型3を型開きすると、成形品としての屋根材4は、上型2の一対の側方面成形部10,10によって、対向する二辺を支持されることになる。そのまま次の養生硬化の工程に移り、最終的に脱型されて平面視略矩形状の屋根材4を製造することができる。
【0026】
上記のように、本発明に係る屋根材成形用プレス金型5にあっては、上型2の軒側面6及び棟側面7と平行となるように、下型3の軒側面11及び棟側面14に下型3の上面12から突出して上方にいくほど外側に傾斜して軒側成形部13及び棟側成形部15が形成されている。そのため、この屋根材成形用プレス金型5を用いて得られた屋根材4にあっては、軒側面にも棟側面にも空気溜まり17に起因する欠けなどが少ないものである。そして、このような屋根材4は、図4に示すように、軒側に下り傾斜して設置された野地板31に葺設して用いることができる。このとき、屋根材4の軒側面は下方にいくほど内側(棟側)に傾斜しているので、図4の矢印の向きに太陽光が当たると、屋根材4の軒側面の下方に影ができやすくなり、屋根材4を実際よりも厚く見せることができるものである。
【符号の説明】
【0027】
1 成形材料
2 上型
3 下型
4 屋根材
5 屋根材成形用プレス金型
6 軒側面
7 棟側面
8 側方面
9 下面
10 側方面成形部
11 軒側面
12 上面
13 軒側成形部
14 棟側面
15 棟側成形部
16 側方面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を上型及び下型でプレスして矩形状の屋根材を成形するための屋根材成形用プレス金型において、前記上型の軒側面及び棟側面が下方ほど内側に傾斜し、前記上型の軒側面及び棟側面の間の両側の側方面に前記上型の下面から突出して側方面成形部が形成されていると共に、前記下型の軒側面に前記下型の上面から突出して前記上型の軒側面と平行となるように上方ほど外側に傾斜して軒側成形部が形成され、前記下型の棟側面に前記下型の上面から突出して前記上型の棟側面と平行となるように上方ほど外側に傾斜して棟側成形部が形成されていることを特徴とする屋根材成形用プレス金型。
【請求項2】
請求項1に記載の屋根材成形用プレス金型を用いて屋根材をプレス成形するにあたって、前記下型の上面に成形材料を供給し、前記上型の両側の側方面成形部が前記下型の両側の側方面に位置し、前記下型の軒側成形部及び棟側成形部がそれぞれ前記上型の軒側面及び棟側面に位置するように、上型及び下型を型締めして成形材料をプレス成形した後、上型及び下型を型開きして脱型することを特徴とする屋根材のプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−11575(P2012−11575A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147746(P2010−147746)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(503367376)ケイミュー株式会社 (467)
【Fターム(参考)】