説明

川崎病の検査法

【課題】 川崎病の検査方法を提供する。
【解決手段】イノシトール1,4,5−三リン酸 3−キナーゼC(ITPKC)遺伝子のイントロン1の第9番目の塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて川崎病を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は川崎病の検査方法及び該検査法に用られる検査試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
川崎病は幼児や小児に起こる急性の血管炎を特徴とする疾患である。
川崎病は自然軽快する予後良好な疾患であるが、無治療で経過した場合に25-30%の患者に冠状動脈瘤に代表される心合併症が生じることが知られている。冠動脈瘤内に生じた血栓による急性心筋梗塞や、遠隔期に生じる狭窄病変による狭心症などの虚血性心疾患等の危険性があるため,心合併症の発生は極力避けなければならない。川崎病の治療は、発症早期に炎症を抑え、心合併症の発生を防ぐことに主眼を置いている。治療には主に抗炎症剤であるアスピリン等の経口投与と血液製剤であるガンマグロブリンの大量静注が用いられる。ガンマグロブリン投与の適応は原田のスコアに基づく重症化予測によって決定され、第9病日までに4項目以上を満たす場合投与が行われている(Acta Paediatrica Japonica 1991 Dec 33 巻 6 号 page 805-810)。
この評価法により全川崎病患者のおよそ8割がガンマグロブリンの適応と判断され、投与を受けている。しかしながら無治療の場合の心合併症の発生率と比較すると本来合併症なく自然軽快したであろう症例が半数以上含まれることになる。血液製剤に未知なる病原体が含まれる可能性、高額なガンマグロブリンを大量に用いる医療費の問題から、より高い特異度でリスク診断を行うシステムの開発が望まれている。また全患者の10〜20%はガンマグロブリンの投与によっても解熱や CRP 、白血球数の低下が不十分な、いわゆるガンマグロブリン不応症例と呼ばれる患者群でありその高い心合併症の発生リスクが知られている。これらの患者に対しては更なるガンマグロブリンの投与や、ステロイド剤、エラスターゼ阻害剤等の薬剤が選択され投与される。早期にこれらの治療法を要する対象を選別する目的でガンマグロブリンの奏功性を予測する指標が近年いくつか報告されているが、これら報告された或いは実際に用いられているリスク予測法は急性期の血液検査データ等を用いるため、川崎病と診断が確定する前やガンマグロブリン投与を開始した後での評価が困難である等の課題を残している。
【0003】
川崎病は民族間での発症率の違いや、家族内での集積性等から遺伝要因が発症に関与していることが示唆されているが、これまで複数の民族・人種に共通に関与が示された遺伝要因はなく、それに基づいた発症リスクの診断法は行うことが出来ないという現状がある。本発明者らは川崎病のsib pair解析を行い、いくつかの染色体領域に連鎖が見られたことを報告している。しかしながら、川崎病に関連するこれまで報告されたSNPについて臨床上実用化されたものはない。
【0004】
一方、ITPKはイノシトール1,4,5−三リン酸をリン酸化してイノシトール1,3,4,5−四リン酸に変換する反応を触媒する酵素であり、A,B,Cのアイソフォームが知られており、このうちのITPKCはカルシウムによって活性が阻害されることが知られている(Biochem J. 2000 Dec 1;352 Pt 2:343-51、Biochem J. 2003 Aug 15;374(Pt 1):41-9.)。しかしながら、ITPKCと川崎病の関係は知られておらず、疾患に関連するITPKC遺伝子の多型も知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、川崎病の発症リスクを正確に検査する方法、及び該方法に用いられる検査試薬を提供することを課題とする。
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、ITPKC遺伝子のイントロン1の第9番目の塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型が川崎病の発症に深く関連することを発見した。そして、これらの塩基の一塩基多型を調べることにより川崎病の検査を正確に効率的に行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)イノシトール1,4,5−三リン酸 3−キナーゼC(ITPKC)遺伝子のイントロン1の第9番目の塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて川崎病を検査する方法。
(2)ITPKC遺伝子のイントロン1の第9番目の塩基と連鎖不平衡にある塩基が、配列番号1、2、4〜9から選択される配列の51番目の塩基である、(1)の方法。
(3)さらに川崎病による冠動脈疾患の危険性を予測する、(1)または(2)の方法。(4)以下の群から選ばれる1又は2以上のプローブを含む川崎病の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(b)配列番号2の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(c)配列番号3の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(d)配列番号4の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(e)配列番号5の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(f)配列番号6の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(g)配列番号7の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ。
(h)配列番号8の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(i)配列番号9の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ。
(5)以下の群から選ばれる1又は2以上のプライマーを含む川崎病の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(b)配列番号2の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(c)配列番号3の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(d)配列番号4の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(e)配列番号5の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(f)配列番号6の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(g)配列番号7の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(h)配列番号8の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(i)配列番号9の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマ
ー。
(6)ITPKC遺伝子の発現量を分析し、該分析結果に基づいて川崎病を検査する方法。
(7)ITPKC遺伝子の発現量が健常者と比較してより少ない場合を川崎病の発症リスクが高いと判定する、(6)の検査方法。
(8)ITPKC遺伝子の発現量を、川崎病治療薬の存在下と非存在下とで比較観察する工程を含む、川崎病治療薬の効果を判定する方法。
(9)候補物質の存在下と非存在下とにおいてITPKC遺伝子の発現量を観察する工程、次いで、候補物質の存在下においてその発現量が亢進される場合に、当該候補物質を川崎病治療薬として選択する工程を含む、川崎病治療薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の検査方法により、川崎病の発症リスクを早期に判定することができるため、川崎病の早期発見や治療方針の迅速な決定ができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<1>一塩基多型に基づく川崎病の検査方法
本発明の検査方法は、イノシトール1,4,5−三リン酸 3−キナーゼC(ITPKC)遺伝子のイントロン1の第9番目の塩基の一塩基多型(single nucleotide polymorphisms;SNPs)または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて川崎病を検査する方法である。本発明において、「検査」とは川崎病の発症リスクの検査および予後の検査を含む。
【0010】
ITPKC遺伝子としては、ヒトITPKC遺伝子が好ましく、例えば、NT_011109.1のREGION: 5001..28758の塩基配列を有する遺伝子を挙げることができる。なお、ITPKC遺伝子の配列は人種の違いなどによってイントロン1の第9番目の塩基以外の塩基において置換や欠失等が存在する可能性があるため、上記配列の遺伝子に限定されない。
【0011】
川崎病に関連するITPKC遺伝子の一塩基多型は、イントロン1の第9番目(配列番号3の51番目)の塩基である。この塩基はNCBI database (NC_00019.8)の45916044番目の塩基で、この塩基のSNPはdbSNPに「rs28493229」として登録されている。以下、この塩基を「itpkc_3」とも呼ぶ。
【0012】
ヒト染色体上のITPKC遺伝子の「itpkc_3」においてはG(グアニン)>C(シトシン)の多型(GとCの多型が存在し、Gがメジャーアレルであることを示す、以下同様)が存在する。
【0013】
本発明においては、itpkc_3と連鎖不平衡である塩基の一塩基多型を解析してもよい。itpkc_3と連鎖不平衡である塩基としては、numbl_6(配列番号1の51番目の塩基)、adck4_14(配列番号2の51番目の塩基)、flj41131_3(配列番号4の51番目の塩基)、snrpa_11(配列番号5の51番目の塩基)、rab4b_2(配列番号6の51番目の塩基)、rab4b_3(配列番号7の51番目の塩基)、egln2_8(配列番号8の51番目の塩基)、intergene_15(配列番号9の51番目の塩基)などが挙げられる。
なお、numbl_6はNumb homolog like (NUMBL)遺伝子上に存在し(NCBI database (NC_000019.8)の45872187番目)、adck4_14はaarF domain containing kinase 4 (ADCK4) 遺伝子上に存在し(NCBI database (NC_000019.8)の45901017番目)、flj41131_3はhypothetical protein LOC284325 (FLJ41131) 遺伝子上に存在し(NCBI database (NC_000019.8)の45939849番目)、snrpa_11はSmall Nuclear Ribonucleoprotein Polypeptide A (SNRPA) 遺伝子上に存在し(NCBI database (NC_000019.8)の45961895番目)、rab4b_2およびrab4b_3はRas-related GTP-binding protein 4b (RAB4B) 遺伝子上に存在し(NCBI d
atabase (NC_000019.8)の45978003、45981596番目)、egln2_8はEGL nine homolog 2 (EGLN2) 遺伝子上に存在する(NCBI database (NC_000019.8)の46004101番目)。intergene_15はegln2_8の下流(q末端側)に存在する(NCBI database (NC_000019.8)の46006560番目)。
なお、白人について本発明の検査方法を適用するときは、itpkc_3と連鎖不平衡である塩基として、numbl_6(配列番号1の51番目の塩基)、adck4_14(配列番号2の51番目の塩基)、flj41131_3(配列番号4の51番目の塩基)、またはsnrpa_11(配列番号5の51番目の塩基)を解析することが好ましい。
【0014】
これらの塩基には下記の一塩基多型が存在する。
numbl_6(配列番号1の51番目)にC>T(チミン)の多型が存在する。
adck4_14(配列番号2の51番目)にC>Tの多型が存在する。
flj41131_3(配列番号4の51番目)にC>Tの多型が存在する。
snrpa_11(配列番号5の51番目)にT>Gの多型が存在する。
rab4b_2(配列番号6の51番目)にC>Gの多型が存在する。
rab4b_3(配列番号7の51番目)にG>A(アデニン)の多型が存在する。
egln2_8(配列番号8の51番目)にG>Aの多型が存在する。
intergene_15(配列番号9の51番目)にC>Tの多型が存在する。
【0015】
上記の塩基の一塩基多型を単独または組み合わせて(ハプロタイプ)解析することにより、川崎病を検査することができる。なお、ITPKC遺伝子の配列はセンス鎖を解析してもよいし、アンチセンス鎖を解析してもよい。
【0016】
ITPKC遺伝子の遺伝子多型の解析に用いる試料としては、染色体DNAを含む試料であれば特に制限されないが、例えば、血液、尿等の体液サンプル、細胞、毛髪等の体毛などが挙げられる。遺伝子多型の解析にはこれらの試料を直接使用することもできるが、これらの試料から染色体DNAを常法により単離し、これを用いて解析することが好ましい。
【0017】
ITPKC遺伝子の遺伝子多型の解析は、通常の遺伝子多型解析方法によって行うことができる。例えば、シークエンス解析、PCR、ハイブリダイゼーションなどが挙げられるが、これらに限定されない。
シークエンスは通常の方法により行うことができる。具体的には、多型を示す塩基の5’側 数十塩基の位置に設定したプライマーを使用してシークエンス反応を行い、その解析結果から、該当する位置がどの種類の塩基であるかを決定することができる。なお、シークエンスを行う場合、あらかじめ多型を含む断片をPCRなどによって増幅しておくことが好ましい。
【0018】
また、PCRによる増幅の有無を調べることによって解析することができる。例えば、多型を示す塩基を含む領域に対応する配列を有し、かつ、各多型に対応するプライマーをそれぞれ用意する。それぞれのプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物の有無によってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
また、LAMP法(特許第3313358号明細書)、NASBA法(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification;特許2843586号明細書)、ICAN法(特開2002-233379号公報)などによって増幅の有無を調べることもできる。その他、単鎖増幅法を用いてもよい。
【0019】
また、多型を含むDNA断片を増幅し、増幅産物の電気泳動における移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することもできる。このような方法としては、例えば、PCR-SSCP(single−strand conformation polymorphism)法(Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139
−146.)が挙げられる。具体的には、まず、ITPKC遺伝子の多型部位を含むDNAを増幅し、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離し、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0020】
さらに、多型を示す塩基が制限酵素認識配列に含まれる場合は、制限酵素による切断の有無によって解析することもできる(RFLP法)。この場合、まず、DNA試料を制限酵素により切断する。次いで、DNA断片を分離し、検出されたDNA断片の大きさによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0021】
次に、上記のような方法によって解析した一塩基多型に基いて、川崎病について検査を行う。
例えば、itpkc_3の多型に基いて判定する場合は、該塩基がC(マイナーアレル)の場合、川崎病の発症リスクが高いと判定することができる。また、対立遺伝子の多型を含めて考慮してもよく、例えば、遺伝子型がCCやGCの場合に、GGの場合と比べて川崎病の発症リスクが高いと判定することができる。
【0022】
また、上述のとおり、numbl_6、adck4_14、flj41131_3、snrpa_11、rab4b_2、rab4b_3、egln2_8、intergene_15はitpkc_3と連鎖不平衡にあり、itpkc_3がGであるとnumbl_6がC、adck4_14がCというような関係にあるため、itpkc_3の代わりにこれらの中のいずれかの塩基の多型を解析してもよい。
例えば、numbl_6がT(マイナーアレル)の場合、川崎病の発症リスクが高いと判定することができる。
【0023】
なお、川崎病患者の10〜20%がIVIG耐性を示し、IVIG(ガンマグロブリン大量投与)耐性の患者は冠動脈疾患を起こす危険性が高い。本発明者らはitpkc_3の多型がIVIG耐性および冠動脈疾患の危険性とも関連することを見出したため、本発明においては、itpkc_3または上記連鎖不平衡にある塩基の多型に基づいて、川崎病患者のIVIG耐性や冠動脈疾患の危険性を予測することができる。例えば、itpkc_3がCのとき、IVIG耐性や冠動脈疾患の危険性が高いという予測をすることができる。
これにより、川崎病患者の投薬治療の方針決定に大変有用である。
【0024】
<ITPKCの発現量に基づく川崎病の検査方法>
本発明において、itpkc_3の多型がCの場合に川崎病になりやすい傾向にあることはイントロン1の第9番目の塩基がCの場合にITPKCのmRNAのスプライシング効率が低く、翻訳されにくいことによると考えられたので、ITPKCの発現量を指標にして川崎病の検査をすることも可能である。例えば、ITPKCの発現量が少ないとき、川崎病の発症リスクが高いと判定することができる。ITPKCの発現を特異的に検出するためには、例えば、配列番号10(ITPKCのcDNA配列)に基づいて設計されるプライマーを使用して定量的RT-PCRを行えばよい。また、DNAチップなどを用いて定量することもできる。
さらに、ウエスタンブロットやELISAなどによってITPKCのタンパク質量を定量してもよい。
【0025】
<スクリーニング方法>
本発明のスクリーニング方法は、候補物質の存在下と非存在下とにおいてITPKC遺伝子の発現量を観察する工程、次いで、候補物質の存在下においてその発現量が亢進される場合に、当該候補物質を川崎病治療薬として選択する工程を含む、川崎病治療薬のスクリーニング方法である。
【0026】
ITPKC遺伝子の発現量はITPKCを発現する細胞を用いて行うことが好ましい。ITPKC遺伝子を発現する細胞としては、白血球系の細胞が好ましく、Jurkat細胞やK562細胞などを用いることができる。
【0027】
ITPKC遺伝子の発現量は、ITPKC遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子を用いて間接的に測定することもできる。この場合、ITPKC遺伝子のプロモーターとしては、該遺伝子の転写開始点の上流の少なくとも1.5kbpを含む領域が好ましい。また、プロモーターはその一部を用いてもよい。
レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子などが例示できる。これらのレポーター遺伝子をITPKC遺伝子のプロモーターに連結し、これを哺乳類細胞に遺伝子を導入するために用いられるプラスミドに組み込み、リポフェクションなどの通常の方法にて細胞にトランスフェクションする。
【0028】
上記のようなITPKC遺伝子を発現する神経細胞、又はレポーター遺伝子が導入された細胞に医薬候補物質を添加し、ITPKC遺伝子またはレポーター遺伝子の発現量を測定する。
医薬候補物質としては特に制限はなく、例えば、低分子合成化合物であってもよいし、天然物に含まれる化合物であってもよい。また、ペプチドであってもよい。スクリーニングには個々の被検物質を用いてもよいが、これらの物質を含む化合物ライブラリーを用いてもよい。候補物質の中からITPKC遺伝子又はレポーター遺伝子の発現量を上昇させるものを選択することにより、川崎病治療薬の候補物質を得ることができる。
【0029】
ITPKC遺伝子の発現量はRT−PCR、定量PCR、ノーザンブロット、ELISA、Western blotting、In situ hybridization、免疫組織染色などの方法により測定することができる。レポーター遺伝子の発現量はレポーター遺伝子の種類にもよるが、蛍光強度などによって測定することができる。
【0030】
本発明においては、ITPKC遺伝子の発現量を川崎病治療薬の存在下と非存在下とで比較観察することによって川崎病治療薬の効果を判定することも可能である。川崎病治療薬(あるいは候補物質)がITPKC遺伝子の発現量を上昇させる場合に、治療効果がある、あるいは、治療効果が期待できると判定することができる。
【0031】
<2>本発明の検査用試薬
本発明はまた、川崎病を検査するためのプライマー又はプローブを含む検査試薬を提供する。このようなプローブとしては、配列番号1〜9のいずれかの塩基配列において51番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブが挙げられる。
これらのプローブは、各多型のいずれか一方に対応する配列を有する1種類のプローブを用いてもよいし、それぞれの多型に対応する配列を有する2種類のプローブを用いてもよい。
【0032】
また、プライマーとしては、配列番号1〜9のいずれかの塩基配列の51番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号1〜9のいずれかの塩基配列の51番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマーが挙げられる。これらのプライマーは多型を含む領域(好ましくは50〜1000塩基の長さの領域)の両端に設定されたフォワードプライマーとリバースプライマーのプライマーセットであってもよい。
また、シークエンス解析や単鎖増幅に用いる場合、プライマーは多型の塩基の50〜100塩基上流の配列を有するプライマーを用いることができる。この場合、上記領域の相補鎖を増幅するプライマーであってもよい。
また、増幅の有無を指標に検査する場合は、多型を含む領域の配列またはその相補配列を有するプライマーであって、それぞれの多型に対応するプライマーを用いてもよい。
このようなプライマーやプローブの長さは特に制限されないが、例えば、10〜100塩基のオリゴヌクレオチドが好ましく、15〜50塩基のオリゴヌクレオチドがより好ましい。なお、本発明の検査用試薬はこれらのプライマーやプローブに加えて、PCR用のポリメラーゼやハイブリダイゼ−ション用のバッファーなどを含むものであってもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0034】
<1>一塩基多型分析
対象患者(被検者)
637人の日本人川崎病患者と1034人の健常者を日本各地の医療機関から募った。理化学研究所遺伝子多型センター (The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN) , SNP Research center)における研究倫理委員会の規則に従って、全患者の親から研究に参加することについて書面によるインファームドコンセントを得た。上記日本人川崎病患者(男384名:女253名)はRevision of diagnostic guidelines for Kawasaki disease
(the 5th revised edition). Pediatr. Int. 47, 232-234 (2005).の分類に従って小児科医によって川崎病と診断された。川崎病発症の平均年齢は29.3ヶ月(2〜127の範囲)であった。
209人の米国人川崎病患者と彼らの両親のサンプルはRady Children's Hospital San Diego とBoston Children's Hospitalから得た。この米国人川崎病患者の集団の詳細についてはFamily-based association analysis implicates IL-4 in susceptibility to Kawasaki disease. Genes. Immun. 6, 438-444 (2005).に述べられている。
被検者のゲノムサンプルは全血、リンパ芽球様細胞株、または口洗浄サンプルから通常の手法によって抽出した。
SNPsのジェノタイピングはインベーダー法とTaqManアッセイによって行った(Nat. Genet. 34, 395-402 (2003)参照)。
【0035】
連鎖不平衡マップの作製
94人の川崎病患者および564人の健常者において、染色体19q13.2-13.3の領域の1222個のSNPsを調べたところ、p<0.05のSNPsが131個得られた。この131個のSNPsを独立した日本人川崎病患者276人と282人の健常者の集団において相関解析したところ、3つのSNPsが特別有意に相関を示した(p<0.01)。これら3つのSNPs(adck4_14、flj41131_3、rab4b_2)は強い連鎖不平衡(r2>0.85)を示し、HapMap databaseによって同定された1つのLDブロックに含まれた(図1)。このLDブロックは約150kbで、Numb homolog like (NUMBL), aarF domain containing kinase 4 (ADCK4), ITPKC, hypothetical protein LOC284325
(FLJ41131), Small Nuclear Ribonucleoprotein Polypeptide A (SNRPA), melanoma inhibitory activity (MIA), Ras-related GTP-binding protein 4b (RAB4B) および EGL nine homolog 2 (EGLN2)の8遺伝子がマップされた。この150kbの領域を12人の川崎病患者と12人の健常者で再シークエンスしたところ、109のSNPsと4つの欠失多型があることがわかった。同じLDグループ(r2>0.80)には前記3つのSNPsとともに、1つの新規SNP、5つの公知SNPsが存在することがわかった。
これら9つのSNPsと川崎病との相関を表1に示す。
【0036】
209人の米国の多民族グループの伝達不平衡テスト(TDT、Am. J. Hum. Genet. 52, 506-516 (1993))では、上記9つのSNPsのうち4つ(numbl_6, adck4_14, itpkc_3 および flj41131_3)が非対称の伝達を示した(表1右)。209人の米国人のうち、106人は非ヒスパニック系の白人であり、上記4つのSNPsの非対称的伝達はこの白人のサブグループでも確
認された。
この106人の白人の群では上記9つのSNPsを含む150kbの領域は3つのLDブロックに分かれた(4つのSNPs、3つのSNPs、2つのSNPs)。このように日本人と白人ではハプロタイプの構造に違いが見られ、上記9つのSNPsのうち、numbl_6, adck4_14, itpkc_3 および flj41131_3の4つが川崎病の罹患性に影響を与える候補SNPであることが示唆された。
なお、ケース−コントロールとTDTのデータはAnn. Hum. Genet. 69, 329-335 (2005)に記載の方法に従って統合した。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、itpkc_3の多型に基づいて、サンプルを(1)川崎病の家族歴(2)冠動脈疾患
の有無、(3)IVIG反応性、の3つの因子で階層化した。
結果を表2,3に示した。
表2から、itpkc_3のCアレルはコントロールに比べて川崎病患者で多かった(n = 40, OR = 2.46, 95% CI 1.30−4.65)。同様の傾向が家族歴のある川崎病患者に見られた(n = 101, OR = 2.46, 95% CI 1.63−3.73)。
また、Cアレルを有する患者は冠動脈疾患を発症するリスクが高いことも判明した(日本人患者 n = 106, OR = 2.05, 95%CI 1.37−3.08, 米国人患者n = 108 OR = 3.36, 95% CI 1.72−4.96)。
【0039】
【表2】

【0040】
IVIG反応性のデータは米国人のみで得られたが、ここでも、CアレルはIVIG抵抗性のリスクが高いことが判明した(n = 37, OR = 4.67, 95% CI: 1.34−16.24)。
【0041】
【表3】

【0042】
<2>ITPKCの発現解析
上記4つのSNPsはそれぞれ、NUMBL, ADCK4, ITPKC および FLJ41131のイントロンに存在する。4つのSNPsのうち、多くの細胞のセカンドメッセンジャーであるIP3をリン酸化するITPKの3つのアイソザイムのうちの一つであるITPKCに注目した。
ITPKはT細胞レセプターシグナルにおいて重要な役割を果たすと推測されている。川崎病患者では免疫系の過剰な活性化が見られることから、ITPKCがその免疫反応において重要な役割を果たしていると考えた。
【0043】
ITPKCの免疫応答に対する役割を調べるため、まず、ITPKCの組織分布をリアルタイムRT-PCRで調べた。
PBMC(末梢血単核細胞)以外のヒト正常組織由来のトータルRNAはClontechから購入した。健常者の静脈血からLymphoprep(第一)を用いてPBMCを単離した。PBMCまたは細胞株からのトータルRNA の抽出はNucleospin RNA II kit (Macherey-Nagel)を用いて行った。1μgのトータルRNAを、Superscript IIIリバーストランスクリプターゼとオリゴdTプライマー(Invitrogen)を用いて逆転写し、cDNAの合成を行った。ITPKA、ITPKB、ITPKCおよびIL-2の転写産物の定量はTaqManプローブとプライマーを用いて行った。増幅と検出にはMx3000Pサーマルサイクラー(Stratagene)を用いた。結果はβ−アクチンで標準化した。
【0044】
結果を図2に示す。ITPKCは解析した全ての組織で発現が見られ、肝臓と骨格筋で発現が高かった。骨髄、脾臓、胸腺、PBMCといった免疫関連の器官では発現が少なかったが、PBMCでは、PMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)とイオノマイシンで刺激したときに発現が顕著に増加した。
【0045】
次に、各ITPK(ITPKA,ITPKB,ITPKC)のmRNAの発現をPBMCおよび2種類の白血病細胞株(Jurkat、K562)で調べた。いずれの細胞においても、PMAまたはPMA+イオノマイシンによる刺激前はいずれのアイソザイムの発現も少なかったが、刺激後はITPKCの発現が特異的に3〜7倍増加した(図は示さず)。この結果から、ITPKCは免疫反応において刺激に応答して誘導されることがわかった。これらの結果からこの領域における候補遺伝子として最もITPKCが有力なものと考えられた。なお、Jurkat E6.1細胞はATCCから購入した。K562細胞とHela細胞はRIKEN cell bankから購入した。
【0046】
次に、numbl_6, adck4_14, itpkc_3, flj41131_3のいずれかががインビボにおいてITPKC転写産物の量に影響していることを確かめるために、アレル特異的転写産物定量(ASTQ)を行った。
ASTQはNat. Genet. 25, 375-376 (2000)に記載の方法に従った。用いたプライマーは以下のとおりである。
フォワードプライマー:5'-CCACATCCCAGCTTCTGTG-3' 配列番号20
リバースプライマー: 5'-ACACACCCAGCGCTTTTC-3' 配列番号21
ゲノムDNAとcDNAをこれらのプライマーで31サイクル増幅した。最終サイクルにおいて、Alexa Fluor 488で5’末端を標識したフォワードプライマーを添加した。増幅産物をSmaIで消化した。分離は12%ポリアクリルアミドゲルを用い、25mMトリス+250mMグリシンの泳動バッファーを用いた。定量はFLA-7000 Analyzer (富士フィルム)を用いた。
【0047】
itpkc_3とitpkc_14の多型のハプロタイプに基づいて解析した。itpkc_14がGの場合、SmaI切断部位が生じる。
ハプロタイプII(itpkc_14がG)を有する人のPBMCから単離されたmRNAを用いたRT-PCR産物はSmaIで切断されるが、ハプロタイプIとハプロタイプIII(itpkc_14がC)を有する人のPBMCから単離されたmRNAを用いたRT-PCR産物はSmaIで切断されない(図3a)。この
ことを利用してRT-PCR産物の量を評価した。
結果を図3bに示した。ハプロタイプIIとハプロタイプIIIを有する6人からのRT-PCR産物(cDNA)をSmaIで処理した場合、非切断型(246bp)のバンドに比べて切断型(216bp)のバンドの割合が高く(非切断型が少ない)、これはハプロタイプIII(numbl_6, adck4_14, itpkc_3, flj41131_3いずれもが感受性アレル)からの転写産物の量が少ないことを示している。一方、ハプロタイプIとハプロタイプIIを有する5人からのRT-PCR産物をSmaIで処理した場合、非切断型のバンドと切断型のバンドの割合は同じで、これはハプロタイプIIとハプロタイプIIIにおけるスプライシング効率の違いはnumbl_6, adck4_14, itpkc_3, flj41131_3の感受性アレルによるということを示している。したがって、確かにnumbl_6, adck4_14, itpkc_3, flj41131_3のいずれかによってITPKCの転写産物の量が減少することが確認でき、ITPKCをこの領域の候補遺伝子であると更に裏付けられた。
【0048】
T細胞においては、TCR複合体の刺激によって放出されるIP3は小胞体に発現するIP3受容体を介して細胞内カルシウムイオンを増加させる。細胞膜を介したカルシウムイオンの流入はNFATの核への移行を促進し、IL-2や他のサイトカインの転写を増加させる。そこで、我々はITPKCがIP3の量を変化させてNFATを調節していると考え、ITPKCの過剰発現またはノックダウンのNFAT活性への影響を調べた。
【0049】
ITPKCの過剰発現用には、ITPKCのORFをpcDNA3.1(+)にクローン化して用いた。一方、ITPKCのノックダウン用には、pcDNA3.1(+)のCMVプロモーターをヒトU6プロモーターに置換し、その下流にITPKCのmRNA(NM_025194)の1312〜1332の領域をターゲットとした短いヘアピン構造のRNA(shRNA)を発現するような配列を組み込んだ。
ルシフェラーゼ活性を指標としたNFAT活性の評価には、IL-2プロモーター由来のNFAT AP-1結合配列を3つタンデムに並べたもの(Genes Dev. 4, 1823-34 (1990))をpGL3 Basicベクターのマルチクローニングサイトに組み込んだ(図4a)。
【0050】
Jurkat細胞へのプラスミドのトランスフェクションはNucleofector (Amaxa)のプログラムC-016によって行った。標準化のため、phRGTKプラスミド(Promega)も同時にトランスフェクションした。過剰発現の実験では過剰発現用プラスミドとレポータープラスミドをトランスフェクションし、24時間培養した後に、1μg/mlのPHA(phytohemagglutinin)と50ng/mlのPMAを加えて6時間刺激した。ノックダウン実験では、ノックダウン用プラスミドとレポータープラスミドをトランスフェクションした後、細胞を72時間培養した。
【0051】
結果を図4b〜4hに示す。ITPKCをJurkat細胞に過剰発現させた場合、PHAとPMAで刺激後のNFATによるルシフェラーゼの活性化は顕著に減少した(図4b)。また、IL−2のmRNAの量も減少した(図4c)。
図4d〜fに示されるように、ITPKCのノックダウンはITPKAとITPKBには影響を与えず、ITPKCのmRNA量を特異的に減少させたが、ノックダウンによって、刺激後のNFATによるルシフェラーゼの活性化を増加させた(図4g)。また、ITPKCのノックダウンはIL-2のmRNAも増加させた(図4h)。
NFATはIL-2以外にも多くのT細胞応答に関与する遺伝子の発現を制御していることから、ITPKCはT細胞機能の抑制因子であることが考えられた。
【0052】
itpkc_3の多型がITPKCの機能にどのような影響を与えているかを調べるために、イントロン1、エクソン1、およびエクソン2のそれぞれの一部をつなげ、エクソン2の下流にフレームを合わせて連結したルシフェラーゼ遺伝子を含むコンストラクト(図5a)を作製し、イントロン1の第9番目の塩基(itpkc_3)の多型がGの場合とCの場合とで転写活性を比較した。
具体的には、pGL3-Basicベクター(Promega)よりHindIIIとXbaIでホタルルシフェラーゼ遺伝子を切り出し、pcDNA3.1(+)に組み込んだ。次に、エクソン1の3’部分(180bp)、イントロン1(7047bp)およびエクソン2の5’部分(22bp)を含むITPKCのゲノム断片をTakara LA-Taqとプライマー(5'-CTAaagcttGCCACCATGCCTGTGCCCCGCCTCATCATTA-3'配列番号12と5'- CTAaagcttTCAGCTTCTTCCAGGGTTTGCT-3'配列番号13)を用いて増幅し、上記ベクターのHindIIIサイトに挿入した。フォワードプライマーにはKozak配列が含まれ、上記エクソン1の一部とエクソン2の一部を含むミニジーンとルシフェラーゼのATGの間にはスプライシング産物がフレームの合った融合タンパク質として翻訳されるように35bpの余分な配列を加えた。最後に、KOD plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)とプライマー(5'-CTAggatccAAGACTGCAGGTCCCCTTTCG-3'配列番号14と5'-CTAggatccAAGAGGTTCCCGGAGATGAAATTG -3'配列番号15)を用いたインヴァースPCRによってイントロンの内部を除去した。増幅産物を精製し、BamHIで消化し、再度連結した。
なお、ネガティブコントロール用の5’−スプライス部位の変異には下記のプライマーを用いた。
センス 5'-CCCGAGGACAGGTCTGGGACGAGTGGGACCCATCCTGC-3' 配列番号16
アンチセンス 5'-GCAGGATGGGTCCCACTCGTCCCAGACCTGTCCTCGGG-3' 配列番号17
上記コンストラクトから発現し、スプライシングされてできるmRNAはITPKC(337〜404)とルシフェラーゼの融合タンパク質をコードする。
【0053】
ルシフェラーゼアッセイの結果、Cアレルを含むコンストラクトでトランスフェクトした場合、Gアレルを含むコンストラクトと比べてルシフェラーゼの活性が顕著に低かった(図5b)。このことから、Cアレルの場合、ITPKC遺伝子のスプライシング効率が低いため、ITPKCの転写産物の量が減少し、それによってT細胞の活性化抑制が起こらず、T細胞の活性化の程度が増加することが示唆された。
【0054】
RT−PCRによる定量
ミニジーンからオリゴdTプライマーとSuperscriptIII(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。プライマー(5'-TGCCTCTTCTTTCGACGAGT-3' 配列番号18; 5'-GGAAGACGCCAAAAACATAAAG-3' 配列番号19)を用いてスプライシング産物と非スプライシング産物を増幅した。リバースプライマーの5’末端にはAlexa Fluor 488が標識されている。分離は12%ポリアクリルアミドゲルを用い、25mMトリス+250mMグリシンの泳動バッファーを用いた。定量はFLA-7000 Analyzer (富士フィルム)を用いた。
結果を図5cに示す。この結果から、Cアレルでは非スプライシング産物が増加していることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】川崎病と有意に相関するSNPsを有する日本人における連鎖不平衡(LD)ブロックの構造を示す図。p末端からq末端方向に遺伝子を並べた。矢頭は川崎病と相関を示すSNPsの位置を示す。
【図2】各組織におけるITPKCのmRNAの相対的発現量を示す図。各組織から得られたRNAを用いて定量RT-PCRを行い、結果をβ−アクチンで標準化した。解析は非刺激時のPBMC(末梢血単核細胞)とイオノマイシンとPMAで刺激したときのPBMCにおいて行った。
【図3】PBMCにおけるITPKCの発現に対するnumbl_6, adck4_14, itpkc_3およびflj41131_3からなるハプロタイプが与える影響を調べるためのアレル特異的転写産物の定量(ASTQ)(a) 各遺伝子のゲノム構造。NUMBL、ADCK4、ITPKC、FLJ41131そしてSNRPAの各遺伝子のエクソンを四角で示し、SNPの存在する位置を三角で示す。numbl_6, adck4_14, itpkc_3およびflj41131_3 とitpkc_14のジェノタイプに基づいた3種類のハプロタイプの構造と頻度を示す。itpkc_14のGアレルがSmaI切断部位を生じさせる。(b) ハプロタイプIII(numbl_6, adck4_14, itpkc_3およびflj41131_3いずれもが感受性アレル)におけるSmaI非分解転写産物の減少を示すASTQ分析の結果を示す。
【図4】刺激されたJurkat細胞におけるITPKCの負の制御的役割を示す図。(a) トランスフェクションに使用したプラスミド。pNFATは3つ直列に並んだNFAT/AP-1 (N/A) 結合サイトの下流にルシフェラーゼ遺伝子が連結された配列をpGL3-Basic vector に組み込んだプラスミドである。pITPKCはpcDNA3.1(+)のCMVプロモーターの下流にITPKC遺伝子を組み込んだプラスミドである。pITPKC shRNAはpcDNA3.1(+)のCMVプロモーターをヒトU6プロモーターに置換し、その下流にITPKCのmRNAを標的としたショートヘアピンRNA(shRNA)を連結したプラスミドである。pControl shRNAはpcDNA3.1(+)のCMVプロモーターをヒトU6プロモーターに置換し、その下流にランダムshRNAを連結したプラスミドである。(b ,c) (a)のプラスミドでトランスフェクトされた細胞におけるITPKC過剰発現のルシフェラーゼ活性 (b) または IL-2 発現(c)への影響。(d-h) shRNAのトランスフェクションによるITPKCのノックダウン(d-f) shRNAによってITPKCが特異的にノックダウンされたことを示す。(g) IL−2プロモーターのNFAT/AP1結合サイトを介したルシフェラーゼの発現に対するITPKCノックダウンの影響。(f) IL−2の発現に対するITPKCノックダウンの影響。結果は3回(a,b,d,e,f,g,h)または4回(c)の実験の平均値±標準偏差で示す。* Student's t-test両側検定 P > 0.1、** Student's t-test両側検定P < 0.05。
【図5】itpkc_3 Cアレルにおけるイントロン1のスプライシング効率の低下およびITPKC転写産物の量の低下(a) Gアレル、CアレルおよびGアレル+5'スプライスサイトの変異(ネガティブコントロール)のためのプラスミドをそれぞれ作製した。(b)遺伝子をトランスフェクトし、刺激したJurkat細胞においてitpkc_3の機能をルシフェラーゼアッセイで評価した。データは4回の実験の平均値±標準偏差で示す。 * Student's t-test両側検定P < 0.02(c) RT有り無しでスプライシング産物と非スプライシング産物のPCRを行った結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシトール1,4,5−三リン酸 3−キナーゼC(ITPKC)遺伝子のイントロン1の第9番目の塩基の一塩基多型または該塩基と連鎖不平衡にある塩基の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて川崎病を検査する方法。
【請求項2】
ITPKC遺伝子のイントロン1の第9番目の塩基と連鎖不平衡にある塩基が、配列番号1、2、4〜9から選択される配列の51番目の塩基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに川崎病による冠動脈疾患の危険性を予測する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
以下の群から選ばれる1又は2以上のプローブを含む川崎病の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(b)配列番号2の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(c)配列番号3の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(d)配列番号4の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(e)配列番号5の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(f)配列番号6の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(g)配列番号7の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ。
(h)配列番号8の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(i)配列番号9の塩基配列において51番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ。
【請求項5】
以下の群から選ばれる1又は2以上のプライマーを含む川崎病の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(b)配列番号2の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(c)配列番号3の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(d)配列番号4の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(e)配列番号5の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(f)配列番号6の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(g)配列番号7の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(h)配列番号8の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(i)配列番号9の塩基配列の51番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー。
【請求項6】
ITPKC遺伝子の発現量を分析し、該分析結果に基づいて川崎病を検査する方法。
【請求項7】
ITPKC遺伝子の発現量が健常者と比較してより少ない場合を川崎病の発
症リスクが高いと判定する、請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
ITPKC遺伝子の発現量を、川崎病治療薬の存在下と非存在下とで比較観察する工程を含む、川崎病治療薬の効果を判定する方法。
【請求項9】
候補物質の存在下と非存在下とにおいてITPKC遺伝子の発現量を観察する工程、次いで、候補物質の存在下においてその発現量が亢進される場合に、当該候補物質を川崎病治療薬として選択する工程を含む、川崎病治療薬のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−72193(P2009−72193A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239863(P2008−239863)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(507324153)ザ リージェンツ オブ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (2)
【Fターム(参考)】