説明

工具、産業用機械及び加工方法

【課題】発泡スチロール等のワークを好適に加工できる工具を提供する。
【解決手段】機械本体の主軸17に着脱可能な工具5は、発電機29から供給される電力によって発熱し、ワークを熱切断するヒータ31と、ヒータ31の温度を目標温度に制御する温度制御部33とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具、産業用機械及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工作機械等の産業用機械においては、ワークを特定の形状に加工する場合、エンドミルなどの刃具によって素材を切削している(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−167517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、刃具によるワークの加工は、粉塵が大量に発生する等の種々の短所を有する。特に、ワークが発泡スチロール等の密度の低い材料によって形成されている場合には、粉塵が大気中に舞い上がり易く、清掃処理等の負担が大きい。
【0005】
本発明の目的は、ワークを好適に加工できる工具、産業用機械及び加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る工具は、産業用機械本体の主軸に着脱可能な工具であって、所定の電源からの電力によって発熱し、ワークを熱切断する電熱体と、前記電熱体の温度を目標温度に制御する温度制御部と、を有する。
【0007】
好適には、前記温度制御部は、温度上昇に伴うバイメタルの変形によって前記電源と前記電熱体との接続を遮断するサーモスタットスイッチを有する。
【0008】
好適には、前記温度制御部は、温度を検出する温度検出器と、検出された温度と前記目標温度との差に応じた電圧制御信号を出力する電圧制御部と、前記電圧制御信号に応じた電圧を前記電熱体に印加するドライバと、を有する。
【0009】
好適には、前記温度制御部は、前記主軸の回転数の変化に応じて前記目標温度を変化させる。
【0010】
好適には、前記温度制御部は、前記主軸によって回転され、回転数の変化に伴う遠心力の変化によって可動接点が径方向において変位する可動接点機構と、前記径方向に複数の固定接点を有し、前記可動接点が変位することによって前記可動接点と接触する前記固定接点が変化する固定接点部材と、前記可動接点に接触する前記固定接点の変化に応じて前記目標温度を変化させる温度設定部と、を有する。
【0011】
好適には、前記温度制御部は、前記主軸の回転数を検出する回転検出器と、検出された回転数に応じて前記目標温度を変化させる温度設定部と、を有する。
【0012】
好適には、前記温度制御部は、前記主軸の回転方向の変化に応じて前記目標温度を変化させる。
【0013】
好適には、前記電源としての、前記主軸の回転によって発電を行う発電機を更に有する。
【0014】
好適には、前記電源としての、当該工具に送り込まれる流体によってタービンを回転させて発電を行う発電機を更に有する。
【0015】
好適には、前記ワークは発泡スチロールにより形成されている。
【0016】
本発明の一態様に係る産業用機械は、主軸を有する機械本体と、前記主軸に着脱される工具と、を有し、前記工具は、所定の電源から供給される電力によって発熱し、ワークを熱切断する電熱体と、前記電熱体の温度を目標温度に制御する温度制御部と、を有する。
【0017】
好適には、前記機械本体は、前記ワークと前記主軸とを相対移動させる移動機構と、前記移動機構を制御する送り制御部と、前記目標温度を指定する信号を前記工具に対して出力する温度指定部と、を有する。
【0018】
好適には、前記機械本体は、前記ワークと前記主軸とを相対移動させる移動機構と、前記移動機構を制御する送り制御部と、を有し、前記温度制御部は、温度を検出する温度検出器を有し、前記送り制御部は、前記温度検出器の検出した温度が高いほど前記ワークと前記主軸との相対移動の速度を速くするように前記移動機構を制御する。
【0019】
好適には、工具交換マガジンを有し、前記工具の前記主軸に対する着脱及び前記工具交換マガジンへの収納を行う自動工具交換装置を更に有し、前記工具は、前記電源としての二次電池を有し、前記工具交換マガジンは、前記工具が収納されたときに前記二次電池を充電する充電器を有する。
【0020】
本発明の一態様の加工方法(生産方法)は、発泡スチロールにより形成されたワークの加工方法であって、所定の電源からの電力によって発熱し、前記ワークを熱切断可能な電熱体と、前記電熱体の温度を目標温度に制御する温度制御部とを有する工具を産業用機械本体の主軸に装着し、前記主軸に装着された工具によって前記ワークを加工する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ワークを好適に加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る工作機械の要部の構成を模式的に示す正面図。
【図2】図1の工作機械の主軸部及び工具を示す断面図。
【図3】図2の工具の温度制御部の構成を示す模式的な回路図。
【図4】図4(a)及び図4(b)は図2の工具による加工例を示す斜視図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る工作機械の構成を示すブロック図。
【図6】図6(a)及び図6(b)は図5の工作機械において機械本体から工具へ信号を出力する方法を示す模式図。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る工作機械の構成を示すブロック図。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る工作機械の構成を示すブロック図。
【図9】工具のケースに係る変形例を示す図。
【図10】図10(a)及び図10(b)は工具の電源に係る変形例を示す断面図。
【図11】工具の電源に係る他の変形例を示す断面図。
【図12】図12(a)は回転検出器の変形例を示す平面図、図12(b)は図12(a)のXIIb−XIIbの断面図。
【図13】目標温度設定部に係る変形例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、複数の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態と同様若しくは類似の構成については、既に説明された実施形態と同様の符号を用いることがあり、また、説明を省略することがある。
【0024】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る工作機械1の要部の構成を模式的に示す正面図である。
【0025】
工作機械1は、機械本体3と、機械本体3に着脱される工具5とを有している。
【0026】
機械本体3は、その概略は、公知の適宜な構成とされてよい。図1では、機械本体3として、いわゆる門型マシニングセンタを例示している。機械本体3は、例えば、ワークW(図1では不図示。図4参照)が載置されるテーブル7と、工具5が着脱される主軸部9と、テーブル7(ワークW)と主軸部9(工具5)とを相対移動させるための移動機構11と、主軸部9に対する各種工具(工具5を含む)の着脱を行う自動工具交換装置(ATC)13と、これら各部の制御を行うNC装置15とを有している。
【0027】
主軸部9の主軸17(図2参照)は、主軸モータ19によって回転駆動される。移動機構11は、例えば、ねじ軸21と、当該ねじ軸21を回転駆動する送りモータ(電動機)23とを複数組有している。送りモータ22(ねじ軸21)が回転されると、ねじ軸21に螺合されるとともに各種の部材(クロスレール、サドル、テーブル7等)に固定された不図示のナットがX軸、Y軸若しくはZ軸方向に移動する。これにより、工具5は、ワークWに対して3軸方向に移動する。NC装置15は、主軸モータ19、複数の送りモータ22及びATC13に制御信号を出力し、これらの動作を制御する。
【0028】
図2は、主軸部9及び工具5を示す断面図である。
【0029】
主軸部9は、主軸17と、主軸17を回転可能に支持するスリーブ23とを有している。なお、スリーブ23は、主軸モータ19の回転によっては回転しない非回転部を構成している。スリーブ23は、絶対座標系に対して主軸17回りに回転不可能なものであってもよいし、主軸モータ19とは別個のモータによって絶対座標系に対して主軸17回りに回転可能なものであってもよい。
【0030】
工具5は、主軸17に着脱される被装着部25と、被装着部25を回転可能に支持するケース27と、ケース27に収容され、被装着部25の回転によって発電する発電機29と、発電機29の発電した電力によって発熱するヒータ31と、ヒータ31の温度制御を行う温度制御部33とを有している。
【0031】
被装着部25は、例えば、主軸17に挿入されるシャンク25aと、ATC13によって把持される被把持部25bと、被把持部25bから延びる軸部25cとを有している。シャンク25a及び被把持部25bの形状、並びに、主軸17によるシャンク25aの保持方法及びATC13による被把持部25bの把持方法は、一般的な工具及び工作機械(若しくは他の産業機械)に関する公知の適宜なものとされてよい。
【0032】
ケース27は、ボールベアリング等を介して被装着部25の軸部25cを回転可能に支持している。ケース27は、被装着部25が主軸17に装着されたときに、スリーブ23に設けられた係合部23aに挿入される被係合部27aを有している。従って、ケース27の回転は規制されており、主軸17が回転すると、被装着部25はケース27に対して相対回転する。
【0033】
発電機29は、交流発電機、直流発電機、同期発電機、誘導発電機等の公知の適宜な発電機により構成されてよい。交流発電機は、2相発電機、3相発電機など、適宜な相の発電機であってよい。好適には、発電機29は、3相同期発電機により構成されている。
【0034】
発電機29は、例えば、発電機本体29aと、発電機本体29aから延び出る入力軸29bとを有している。発電機29は、例えば、被装着部25と同軸状に配置されている。そして、発電機本体29aはケース27に固定され、入力軸29bは被装着部25の軸部25cに挿入されて固定されている。
【0035】
発電機本体29aは、特に図示しないが、界磁及び電機子の一方を構成するステータと、ステータに対して回転可能であり、界磁及び電機子の他方を構成するロータとを有している。ステータは、発電機用のケースに収容されてケース27に固定され、ロータは、入力軸29bに固定されている。
【0036】
従って、被装着部25がケース27に対して相対回転すると、その回転が入力軸29bを介して発電機本体29aに入力され、発電機本体29aは発電する。なお、入力軸29bと軸部25cとは一体化されていてもよい。
【0037】
ヒータ31は、電熱線(例えばニクロム線)によって構成されている。電熱線の両端は不図示の導線を介して発電機29と接続されている。従って、ヒータ31は、発電機29から供給される電力により発電する。なお、ヒータ31に供給される電力は、直流電力であってもよいし、交流電力であってもよい。ヒータ31の材料及び寸法(電熱線の径等)は、ワークWの種類、要求される加工精度、発電機29の性能等の種々の事情に応じて適宜に設定されてよい。
【0038】
ヒータ31は、例えば、両端がケース27に対して固定され、適宜な形状の半ループを構成している。半ループの形状は、適宜な形状とされてよく、図2では、概ねU字の半ループを例示している。
【0039】
図3は、温度制御部33の構成を示す模式的な回路図である。
【0040】
温度制御部33は、バイメタルを利用したサーモスタット(サーモスタットスイッチ)35を有している。サーモスタット35は、公知の適宜な構成とされてよい。サーモスタット35は、バイメタル37と、バイメタル37の変形によって切断されるスイッチ39とを有している。
【0041】
バイメタル37は、特に図示しないが、原理的には、材質の異なる2枚の金属を貼り合わせたものであり、温度が上昇すると、2枚の金属の膨張率の相違によって撓み変形を生じるものである。バイメタル37は、ヒータ31の近傍に配置される。
【0042】
スイッチ39は、固定接点39aと可動接点39bとを有しており、これら接点の接触又は離間により接続又は切断される。スイッチ39は、発電機29とヒータ31とを接続する経路に設けられている。
【0043】
バイメタル37が変形していないときには、固定接点39aと可動接点39bとは接触している。すなわち、発電機29とヒータ31とは接続されている。温度上昇に伴ってバイメタル37が変形すると、その変形が可動接点39bに伝達されて可動接点39bが変位し、固定接点39aと可動接点39bとは離れる。すなわち、発電機29とヒータ31との接続は遮断される。
【0044】
なお、サーモスタット35は、適宜な操作部材(ダイヤル、スライド部材等)を変位させることにより、バイメタル37のスイッチ39に対する相対位置を変化させ、スイッチ39が切断されるときのバイメタル37の変形量を変化させることができる(目標温度を変化させることができる)ものであってもよいし、そのような操作ができないものであってもよい。また、図3では、バイメタル37と可動接点39bとを別個のものとして図示しているが、バイメタル37は、可動接点39bそのものであってもよい。
【0045】
図4(a)及び図4(b)は、工具5によるワークWの加工例を示す斜視図である。
【0046】
NC装置15からの制御信号に従って主軸17が回転されると、発電機29は発電を開始する。その電力はヒータ31に供給されてヒータ31は発熱する。そして、NC装置15からの制御信号に従って移動機構11が駆動され、ヒータ31がワークWに近接若しくは当接すると、その近接部分若しくは当接部分が熱によって欠損される。欠損は、例えば、固体から液体への溶融(更には液体から気体への蒸発)、固体から気体への昇華、化学変化(例えば燃焼による酸化)によって生じる。
【0047】
そして、更にヒータ31をワークWに対して移動させていくことにより、欠損部分を切断面として、ワークWを切断することができる。なお、以下では、このような熱によって一部を欠損させることによる切断を熱切断(溶断含む)ということがあるものとする。
【0048】
図4(a)では、ヒータ31をそのループの開口方向に往復移動させることにより、板状の複数(図4(a)では一つのみ図示)の不要部分Waを切り出し、ワークWに凹部を形成している例が示されている。
【0049】
図4(b)では、ヒータ31をそのループの開口方向を変化させながら開口方向に移動させることにより、適宜に屈曲した長尺状の不要部分Waを切り出し、ワークWに溝部を形成している例が示されている。
【0050】
熱切断されるワークWの材料としては、例えば、発泡スチロール等の樹脂性の発泡材が挙げられる。発泡材は、例えば、鋳型を作製するための外型模型に利用される。鋳型(砂型)は、例えば、外型模型の周囲に砂を配置し、その後、砂及び外型模型を熱して外型模型を溶融若しくは蒸発させ、外型模型を除去することにより形成される。
【0051】
温度制御部33においては、ヒータ31が発熱すると、その周囲に配置されたバイメタル37の温度も上昇し、バイメタル37は変形する。そして、バイメタル37の変形量が所定量に到達すると(ヒータ31の温度が所定の温度に到達すると)、スイッチ39が切断され、ヒータ31への電力供給は停止される。従って、ヒータ31の温度は徐々に低下していく。
【0052】
ヒータ31の温度が低下していくと、バイメタル37の温度も低下し、バイメタル37の変形量は縮小されていく。そして、バイメタル37の変形量が所定量を下回ると(ヒータ31の温度が所定の温度を下回ると)、スイッチ39が再度接続され、ヒータ31への電力供給が再開される。従って、ヒータ31の温度は再度上昇していく。
【0053】
このような動作が繰り返されることにより、ヒータ31の温度は、目標温度を若干超える温度と若干下回る温度との間で上昇と下降とを繰り返す。換言すれば、ヒータ31の温度は、目標温度に制御される。
【0054】
以上の実施形態によれば、機械本体3の主軸17に着脱可能な工具5は、発電機29から供給される電力によって発熱し、ワークWを熱切断するヒータ31と、ヒータ31の温度を目標温度に制御する温度制御部33とを有する。
【0055】
従って、上述したように、主軸17に着脱される工具5によって、熱切断という新たな加工が実現される。このようなワークWの加工は、従来の刃具を用いたワークWの切削加工に比較して、例えば、粉塵が生じない、滑らかで光沢のある切断面が得られる、主軸17等に加わる荷重が小さい、不要部分Waを大きく切り取ることにより加工時間を短縮できる等の種々の効果が期待される。また、実施形態では、U字のヒータ31を例示したが、例えば、ヒータ31形状を逆T字にしてワークWにT溝を形成するなど、ヒータ31の形状を開口形状に応じた適宜なものとすることにより、加工の効率化を簡単に図ることができる。
【0056】
そして、このような加工を行うヒータ31は、その温度が工具5に設けられた温度制御部33によって制御されるから、機械本体3においてヒータ31の温度を制御する必要が無い。その結果、工具5の既設の機械本体3(その他の産業機械)に対する汎用性が向上する。換言すれば、主軸17に取り付けられた工具5による熱切断の広い普及が期待される。
【0057】
温度制御部33は、温度上昇に伴うバイメタル37の変形によって発電機29とヒータ31との接続を遮断するサーモスタット35を有する。
【0058】
従って、発電機29がヒータ31に印加する電圧の大きさ等に関わらず、ヒータ31は好適な温度に維持される。その結果、例えば、作業者においては、主軸17の回転数(発電機29の回転数)をある程度の大きさ以上で適当(任意)に設定してよく、作業者の負担が軽減され、工具5の既設の機械本体3に対する汎用性が一段と向上する。発電機29の設計の自由度も向上し、また、発電機29の電力を適宜な電圧の電力に変換する電源装置も必要ない(ただし、設けられてもよい。)。さらに、機械的に制御系を構成することから、制御系が簡素であり、コスト削減も期待される。
【0059】
工具5は、電源としての、主軸17の回転によって発電を行う発電機29を有する。従って、工具5に電力を供給するために機械本体3において配線を行う必要がなく、工具5の汎用性が一段と向上する。
【0060】
<第2の実施形態>
図5は、第2の実施形態に係る工作機械201の構成を示すブロック図である。
【0061】
工作機械201の機械本体203及び工具205の機械的構造は、図1及び図2と概ね同様である。工作機械201は、ヒータ31の温度制御に関わる構成(温度制御部233等)が第1の実施形態と相違する。具体的には、以下のとおりである。
【0062】
工具205は、発電機29の発電した電力から所望の電力を取り出す(所望の電力に変換する)電源回路241と、電源回路241からの電力により駆動される制御装置243と、電源回路241からの電力をヒータ31に印加するドライバ245と、ヒータ31の温度を検出する温度検出器237とを有している。
【0063】
電源回路241は、整流回路、電力逆変換回路、変圧器等、適宜な回路を含んで構成されている。制御装置243は、例えば、CPU、ROM、RAM及び外部記憶装置等を含むコンピュータ(マイクロコンピュータ)により構成され、CPUがROM及び外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、電圧制御部249が構成される。ドライバ245は、増幅器等を含んでIC等により構成されている。温度検出器237は、例えば、サーミスタを含んで構成されており、温度に応じた検出信号を電圧制御部249に出力する。
【0064】
電圧制御部249は、温度検出器237の検出した温度に基づいて、当該温度を所定の目標温度に収束させるように、制御信号をドライバ245に出力する。ドライバ245は、その制御信号に応じた電圧でヒータ31に電圧を印加する。すなわち、温度制御部233は、ヒータ31の温度を目標温度に制御するフィードバック制御系を構成している。制御方式は、PD制御、PID制御など、公知の適宜なものとされてよい。
【0065】
機械本体203は、例えば、シーケンスプログラムに従って制御信号を出力する回転制御部261と、回転制御部261からの制御信号に応じた電圧を主軸モータ19に印加するドライバ263と、シーケンスプログラムに従って制御信号を出力する送り制御部265と、送り制御部265からの制御信号に応じた電圧を送りモータ22に印加するドライバ267とを有している。これらの構成は、公知の機械本体のものと同様でよい。
【0066】
さらに、機械本体203は、シーケンスプログラムに従って工具205に対して目標温度を指定する温度指定部269を有している。温度指定部269は、回転制御部261及び送り制御部265と同様に、例えば、NC装置15に設けられている。
【0067】
温度指定部269の指定した温度は、工具205の電圧制御部249に入力される。そして、電圧制御部249は、入力された目標温度と、温度検出器237により検出された温度とを比較して、その偏差を縮小するようにドライバ245に制御信号を出力する。
【0068】
なお、温度指定部269は、一定サイクルで目標温度を工具205に対して出力していてもよいし、目標温度を変化させるときのみにおいて、変化後の目標温度を工具5に対して出力してもよい。
【0069】
図6(a)及び図6(b)は、機械本体203から工具205へ信号を出力する方法を示す模式図である。
【0070】
図6(a)では、係合部23a及び被係合部27aに互いに接続される端子が設けられており、当該端子を介して工具205の制御装置243と、機械本体203のNC装置15とが電気的に接続されている例が示されている。
【0071】
図6(b)では、工具205及び機械本体203のNC装置15にそれぞれ電波を利用する無線部271及び273が設けられ、これら無線部271及び273を介して信号の送受信が行われる例が示されている。
【0072】
なお、これら以外にも、光を介して工具205と機械本体203との間で送受信が行われるなどしてもよい。
【0073】
以上の第2の実施形態によれば、工具205は、ヒータ31及び温度制御部233を有することから、第1の実施形態と同様の効果が奏される。
【0074】
また、温度制御部233は、温度を検出する温度検出器237と、検出された温度と目標温度との差に応じた電圧制御信号を出力する電圧制御部249と、電圧制御信号に応じた電圧をヒータ31に印加するドライバ245とを有する。
【0075】
従って、ヒータ31の微小な温度変化に応じて適宜にヒータ31に印加される電圧を変化させ、精度よくヒータ31の温度制御を行うことができる。
【0076】
機械本体203は、ワークWと主軸17とを相対移動させる移動機構11と、移動機構11を制御する送り制御部265と、目標温度を指定する信号を工具205に対して出力する温度指定部269と、を有する。
【0077】
従って、例えば、送り速度とヒータ31の温度とを機械本体203側において一括管理し、送り速度とヒータ31の温度との組み合わせを好適なものとすることができる。その結果、例えば、送り速度に比較してヒータ31の温度が低く、ワークWの溶融等が進んでいないにも関わらず工具205とワークWとの相対移動が行われることを抑制したり、ヒータ31の高い温度に対応して送り速度を速くして、作業効率を向上させたりすることができる。
【0078】
また、例えば、ワークWと工具205との相対移動に連動して、ヒータ31の温度を変化させることができる。その結果、例えば、ワークWが複数の材質が組み合わされて構成されている場合において、材質が変化する毎に、その材質に適した温度及び送り速度とすることができる。
【0079】
<第3の実施形態>
図7は、第3の実施形態に係る工作機械301の構成を示すブロック図である。
【0080】
工作機械301の機械本体3及び工具305の機械的構造は、図1及び図2と概ね同様である。また、工具305においては、第2の実施形態の工具205と同様に、ヒータ31、温度検出器237、電圧制御部249及びドライバ245によってフィードバック系が構成されている。ただし、工作機械301は、目標温度の設定方法が第2の実施形態と相違する。具体的には、以下のとおりである。
【0081】
工具305は、主軸17(発電機29等でもよい)の回転(回転数及び/又は回転方向)を検出する回転検出器371を有している。回転検出器371は、例えば、光学式若しくは磁気式のロータリーエンコーダにより構成されており、主軸17の回転数及び/又は回転方向に応じた信号を制御装置343に出力する。
【0082】
制御装置343は、回転検出器371の検出した回転に応じて目標温度を設定する温度設定部369を有している。温度設定部369は、第2の実施形態の温度指定部269に代わって電圧制御部249に対して温度を指定するものである。なお、機械本体3においては、第2の実施形態の温度指定部269は設けられていない。換言すれば、機械本体3は、第1の実施形態の機械本体3と同様でよい。
【0083】
温度設定部369は、例えば、主軸17の回転数が高くなるほど目標温度を高く設定する。当該目標温度の変化は、回転数に比例するような連続的なものであってもよいし、低温・高温の2段階で変化するなど、段階的に変化するものであってもよい。及び/又は、温度設定部369は、主軸17の回転方向に応じて目標温度を切り換える。すなわち、温度設定部369は、回転方向が一方側のときは目標温度を低温段階とし、回転方向が他方側のときは目標温度を高温段階とする。
【0084】
以上の第3の実施形態によれば、温度制御部333は、主軸17の回転数の変化及び/又は主軸の回転方向の変化に応じて目標温度を変化させることから、主軸17の回転を介して、機械本体3から工具305に対して、ヒータ31の目標温度を指定することができる。従って、第2の実施形態と同様に、送り速度とヒータ31の温度との好適な組み合わせを実現したり、ワークWと工具305との相対移動に連動して、ヒータ31の温度を変化させることができる。
【0085】
さらに、工具305と機械本体3との間で、図6に例示したような信号の送受信を行う必要が無い。その結果、機械本体3は、公知の機械本体と同様とすることができ、工具305の汎用性が向上する。
【0086】
<第4の実施形態>
図8は、第4の実施形態に係る工作機械401の構成を示すブロック図である。
【0087】
工作機械401の機械本体403及び工具405の機械的構造は、図1及び図2と概ね同様である。また、工具405においては、第2及び第3の実施形態と同様に、ヒータ31、温度検出器237、電圧制御部249及びドライバ245によってフィードバック系が構成されている。ただし、工作機械301は、目標温度の設定方法及び送り制御部465による制御が第2及び第3の実施形態と相違する。具体的には、以下のとおりである。
【0088】
制御装置443の温度設定部469は、工具405に設けられた不図示の入力装置からの信号に応じて目標温度を決定し、その目標温度を電圧制御部249に出力する。なお、入力装置は、例えば、スライド部材若しくはダイヤル等の操作部材を含んで構成され、その操作に応じた信号を出力する。また、温度設定部469の設定する目標温度は、操作量に応じて連続的に変化してもよいし、低温・高温の2段階で変化するなど、複数段階で変化してもよい。
【0089】
一方、機械本体403の送り制御部465は、温度検出器237の検出した温度に応じて送り速度を設定する。具体的には、送り制御部465は、検出された温度が高いほど送り速度を高速とする。なお、この温度の変化に応じた送り速度の温度の変化は、連続的なものであってもよいし、低速・高速の2段階など、複数段階のものであってもよい。
【0090】
なお、温度検出器237から送り制御部465へ信号を出力する方法は、図6に例示した方法と同様でよい。
【0091】
第4の実施形態によれば、送り制御部465は、温度検出器237の検出した温度が高いほどワークWと主軸17との相対移動の速度を速くするように移動機構11を制御することから、ヒータ31の温度が高く、速やかにワークWの切断が行われるときには送り速度を速くして、作業効率を向上させることができる。換言すれば、ワークWが溶融していないにも関わらず工具5とワークWとを相対移動させる力が工具5及びワークWに加えられることが抑制される。
【0092】
<変形例>
以下では、工具の各部材について、変形例を示す。各変形例は、いずれの実施形態に適用されてもよいし、変形例同士も組み合わされてよい。
【0093】
<工具のケースに係る変形例>
図9の工具505は、先端(ヒータ31)の向きを変化させることが可能な、いわゆるユニバーサル型の工具として構成されている。例えば、工具505のケース527は、被係合部27aを有する第1ケース部材527aと、第1ケース部材527aに対して被装着部25の軸AX1回りに回転可能な第2ケース部材527bと、第2ケース部材527bに対して軸AX1に直交する軸AX2回りに回転可能な第3ケース部材527cと、第3ケース部材527cの延び出る方向に延びる軸AX3回りに回転可能な第4ケース部材527dとを有している。なお、各ケース部材は、ボルトを締結することなどにより、作業者によって適宜に位置決めされる。
【0094】
発電機29は、例えば、第2ケース部材527bに収容されている。なお、第2ケース部材527bが第1ケース部材527aに対して回転されても、入力軸29bが発電機本体29aに対して回転するだけであり、電動スピンドルのように、配線が捩れるような不都合は生じない。
【0095】
工具505は、刃具を回転させるユニバーサル型工具と違い、第4ケース部材527dを有している。すなわち、刃具は、軸AX回りに回転されて使用されるものであるので、軸AX回りの向きの概念はなく、刃具を回転させるユニバーサル型工具には第4ケース部材527dは不要である。工具505は、第4ケース部材527dの回転が追加されることにより、ヒータ31を任意の方向に向けることができる。
【0096】
<工具の電源に係る変形例>
図10(a)及び図10(b)においては、発電機29は、主軸17の回転によってではなく、工具に送り込まれる流体によって回転される。すなわち、発電機29の入力軸29bには翼675若しくは677が設けられており、タービンTが構成されている。そして、工具に送り込まれた流体によってタービンTが回転することにより、発電機29は発電する。
【0097】
図10(a)の例では、流体は、主軸617及び被装着部625を介して工具のケース内に送り込まれている。また、図10(b)の例では、流体は、スリーブ623の係合部23a及び被係合部27aを介して工具のケース内に送り込まれている。なお、流体は、気体であっても液体であってもよい。
【0098】
図11においては、発電機は設けられず、電源として二次電池729が設けられている。二次電池729は、例えば、工具がATCのATCマガジン714に収納されたときに、ATCマガジン714に設けられた充電器714aによって充電される。二次電池729と充電器714aとの接続は、例えば、係合部23aを介して行われる。
【0099】
<回転検出器に係る変形例>
図12(a)は回転検出器871を主軸17の軸方向に見た平面図、図12(b)は図12(a)のXIIb−XIIbの断面図である。ただし、これらは原理を説明するための模式図である。
【0100】
回転検出器871は、可動接点機構873と、固定接点部材875とを有している。
【0101】
可動接点機構873は、リング形状を複数に分割した部材片877と、部材片877の外方への変位を規制するリング状の弾性部材879とを有している。これら部材片877及び弾性部材879は、被装着部若しくは発電機の入力軸に対して取り付けられており、主軸の回転によって回転される。そして、回転数が増加すると、図12(b)において2点鎖線で示すように、部材片877は、遠心力によって、弾性部材879の復元力に抗して外周側へ変位する。
【0102】
また、可動接点機構873には、回転不可能(部材片877に対して相対回転可能)、且つ、部材片877とともに径方向へ変位可能な可動接点881が設けられている。一方、固定接点部材875には、径方向の複数位置に固定接点883が設けられている。従って、主軸の回転数の変化によって、可動接点881に接触する固定接点883が変化する。
【0103】
そして、例えば、第3の実施形態(図7)の回転検出器371に代えて回転検出器871が設けられると、温度設定部369においては、可動接点881に接触する固定接点883の変化に伴う信号の変化(スイッチの切り換え)に応じて、目標温度を変化させる。
【0104】
<目標温度設定部に係る変形例>
図13の温度制御部933は、バイメタル37を加熱可能なバイメタル用ヒータ971がヒータ31に対して並列に設けられている。従って、バイメタル37は、ヒータ31及びバイメタル用ヒータ971の双方の熱を受けて変形する。従って、バイメタル用ヒータ971の温度を調整することにより、スイッチ39が切断されるヒータ31の温度を変化させることができる(目標温度を変化させることができる。)。
【0105】
また、温度制御部933は、複数のスイッチ975のいずれかを選択的に接続することにより、バイメタル用ヒータ971に対して直列に任意の数で抵抗973を接続し、バイメタル用ヒータ971の発熱量を変化させることが可能である。複数のスイッチ975の切り換えは、図12に例示した、回転検出器871の接触位置の変化と同一とされ、主軸の回転に伴って機械的に行われてもよいし、回転検出器371又は回転検出器871からの信号に応じて複数のスイッチ975を制御する制御装置によって行われてもよい。
【0106】
本発明は、以上の実施形態及び変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0107】
産業用機械は、工作機械に限定されない。ティーチングシステムによって動作が規定される産業用ロボットであってもよいし、パラレルリンクを用いて工具を移動させる産業用機械であってもよい。工作機械は、門型マシニングセンタに限定されず、例えば、中ぐり盤、フライス盤、ボール盤であってもよい。工作機械は、NC化されていてもよいし、NC化されていなくてもよい。また、工作機械は、ATCを有していてもよいし、ATCを有していなくてもよい。産業用ロボットは、水平多関節ロボット(スカラロボット)であってもよいし、垂直多関節ロボットであってもよいし、直交ロボット(ガントリーロボット)であってもよい。
【0108】
電熱体は、電熱線により構成されたものに限定されず、電力の供給によって発熱すればよい。また、電熱線の断面形状は適宜に設定されてよい。電熱線は、ループ形状を構成するものに限定されず、直線状に延びるものであってもよい。
【0109】
電源は、工具に設けられるものに限定されず、機械本体に設けられるものであってもよい。また、電源は、電熱体(電熱線)の両端に接続されていなくてもよい。すなわち、電熱体の一端は、ワークを挟んで工具とは反対側に配置され、基準電位が付与される部材に接続(接地)されていてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…工作機械(産業用機械)、3…機械本体、5…工具、17…主軸、29…発電機(電源)、31…ヒータ(電熱体)、33…温度制御部、W…ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用機械本体の主軸に着脱可能な工具であって、
所定の電源からの電力によって発熱し、ワークを熱切断する電熱体と、
前記電熱体の温度を目標温度に制御する温度制御部と、
を有する工具。
【請求項2】
前記温度制御部は、温度上昇に伴うバイメタルの変形によって前記電源と前記電熱体との接続を遮断するサーモスタットスイッチを有する
請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記温度制御部は、
温度を検出する温度検出器と、
検出された温度と前記目標温度との差に応じた電圧制御信号を出力する電圧制御部と、
前記電圧制御信号に応じた電圧を前記電熱体に印加するドライバと、を有する
請求項1に記載の工具。
【請求項4】
前記温度制御部は、前記主軸の回転数の変化に応じて前記目標温度を変化させる
請求項1〜3のいずれか1項に記載の工具。
【請求項5】
前記温度制御部は、
前記主軸によって回転され、回転数の変化に伴う遠心力の変化によって可動接点が径方向において変位する可動接点機構と、
前記径方向に複数の固定接点を有し、前記可動接点が変位することによって前記可動接点と接触する前記固定接点が変化する固定接点部材と、
前記可動接点に接触する前記固定接点の変化に応じて前記目標温度を変化させる温度設定部と、を有する
請求項4に記載の工具。
【請求項6】
前記温度制御部は、
前記主軸の回転数を検出する回転検出器と、
検出された回転数に応じて前記目標温度を変化させる温度設定部と、を有する
請求項4に記載の工具。
【請求項7】
前記温度制御部は、前記主軸の回転方向の変化に応じて前記目標温度を変化させる
請求項1〜6のいずれか1項に記載の工具。
【請求項8】
前記電源としての、前記主軸の回転によって発電を行う発電機を更に有する
請求項1〜7のいずれか1項に記載の工具。
【請求項9】
前記電源としての、当該工具に送り込まれる流体によってタービンを回転させて発電を行う発電機を更に有する
請求項1〜7のいずれか1項に記載の工具。
【請求項10】
前記ワークは発泡スチロールにより形成されている
請求項1〜9のいずれか1項に記載の工具。
【請求項11】
主軸を有する機械本体と、
前記主軸に着脱される工具と、
を有し、
前記工具は、
所定の電源から供給される電力によって発熱し、ワークを熱切断する電熱体と、
前記電熱体の温度を目標温度に制御する温度制御部と、を有する
産業用機械。
【請求項12】
前記機械本体は、
前記ワークと前記主軸とを相対移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する送り制御部と、
前記目標温度を指定する信号を前記工具に対して出力する温度指定部と、を有する
請求項11に記載の産業用機械。
【請求項13】
前記機械本体は、
前記ワークと前記主軸とを相対移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する送り制御部と、
を有し、
前記温度制御部は、温度を検出する温度検出器を有し、
前記送り制御部は、前記温度検出器の検出した温度が高いほど前記ワークと前記主軸との相対移動の速度を速くするように前記移動機構を制御する
請求項11に記載の産業用機械。
【請求項14】
工具交換マガジンを有し、前記工具の前記主軸に対する着脱及び前記工具交換マガジンへの収納を行う自動工具交換装置を更に有し、
前記工具は、前記電源としての二次電池を有し、
前記工具交換マガジンは、前記工具が収納されたときに前記二次電池を充電する充電器を有する
請求項11〜13のいずれか1項に記載の産業用機械。
【請求項15】
発泡スチロールにより形成されたワークの加工方法であって、所定の電源からの電力によって発熱し、前記ワークを熱切断可能な電熱体と、前記電熱体の温度を目標温度に制御する温度制御部とを有する工具を産業用機械本体の主軸に装着し、前記主軸に装着された工具によって前記ワークを加工する
加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−192464(P2012−192464A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56445(P2011−56445)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】