説明

工具ホルダ

【課題】 構造が簡単で、工具の自動交換が可能であり、さらに切削粉の吸引効率が高く、内部蓄積を防止できる工具ホルダを提供する。
【解決手段】 先端面19aに開口し、刃具12を取り付け可能な装着穴19bと、該装着穴19bに連通するとともに基端面に開口するクランプ穴14dとを有し、工作機械の主軸3に取り付けられる工具ホルダ4において、
該工具ホルダ4は、前記先端面19aに開口し、前記クランプ穴14dに連通するよう形成された吸引穴a3を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具ホルダに関し、詳細には、特に軽金属又は炭素材等の加工時に発生する粉塵状の切削粉の回収効率を改善できるようにした工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばマグネシウム合金を切削加工する場合に発生する粉塵状の切削粉の回収を可能とするフライス工具として特許文献1に記載されたものがある。このフライス工具は、シャンクの軸芯に形成されたチップ導出通路を有し、該チップ導出通路は吸出しホッパに連通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−532917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載のフライス工具では、シャンクの軸芯に形成されたチップ導出通路により切削粉を吸引するようにしているため、シャンク径が小さくなるとチップ導出通路の径も小さくなって流路抵抗が大きくなり、切削粉を十分に吸引できないといった問題がある。また、前記従来のフライス工具の場合、チップ導出通路の断面積に比べて吸出しホッパにおける通路面積が大きくなっているため、吸引空気の流速が吸出しホッパ部分で低下し、この部分に切削粉が沈殿し、堆積してしまうといった問題も懸念される。さらにまた、吸出しホッパを備えているため、構造が複雑であり、しかもその構造上、工具の自動交換ができないといった問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたもので、切削粉の吸引効率が高く、切削粉の内部蓄積を防止でき、さらに工具の自動交換が可能である工具ホルダを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、先端面に開口し、刃具を取り付け可能な装着穴と、該装着穴に連通するとともに基端面に開口するクランプ穴とを有し、工作機械の主軸に取り付けられる工具ホルダにおいて、該工具ホルダは、前記先端面に開口し、前記クランプ穴に連通するよう形成された吸引穴を有することを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の工具ホルダにおいて、該工具ホルダの前記先端面の周囲を囲むとともに前記装着穴に取り付けられた刃具の先端付近まで延びるカバー部材を備えたことを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の工具ホルダにおいて、前記先端面と前記刃具の先端との間に、かつ前記工具ホルダと共に回転するように設けられ、前記工具ホルダの回転に伴って空気を前記吸引穴に向けて加圧送風する羽根部材を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明では、吸引穴を、工具ホルダの先端面に開口し、クランプ穴と連通するように形成したので、切削点から吸引穴の開口までの距離が小さくなり、刃先に近い位置での吸引が可能となり、吸引効率を向上できる。また、刃具自体ではなく、工具ホルダに吸引穴を形成しているので、小径の刃具の場合でも必要な断面積を有する吸引穴を設けることができ、吸引効率を向上できる。
【0010】
請求項2の発明では、工具ホルダの先端面の周囲を囲むとともに、刃具の先端付近まで延びるカバー部材を備えたので、切削粉が発生する切削点付近の流速を高めることができ、吸引効率をより一層向上できる。
【0011】
請求項3の発明では、工具ホルダの先端面と刃具の先端との間に工具ホルダと共に回転する羽根部材を設けたので、切削加工に伴って羽根部材が回転することにより、切削点近傍の空気を吸引穴に向けて加圧送風し、切削粉を確実に吸引穴に送り込むことができ、吸引効率をさらに向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1に係る工具ホルダを備えた主軸装置の断面側面図である。
【図2】前記主軸装置の工具ホルダのクランプ部分の断面側面図である。
【図3】前記工具ホルダの一部断面側面図である。
【図4】前記工具ホルダに装着される刃具の側面図及びA矢視図である。
【図5】前記工具ホルダの断面底面図(図3のV-V線断面図)である。
【図6】前記工具ホルダの断面底面図(図3のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記工具ホルダの変形例を示す一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。図1〜図6は、本発明の実施例1に係る工具ホルダを説明するための図である。
【0014】
図において、1は縦型マシニングセンタ等の工作機械に備えられた主軸装置である。この主軸装置1は、コラムにより支持された主軸頭2と、該主軸頭2により回転自在に支持された主軸3と、該主軸3の先端部に支持された工具ホルダ4と、該工具ホルダ4を前記主軸3にクランプ・アンクランプするクランプ機構5とを備えている。
【0015】
前記主軸3は、軸心に貫通穴3aを有する筒体で構成されている。前記主軸3の下部及び上部は、下軸受6a及び上軸受6bを介して前記主軸頭2により回転自在に支持されている。また前記主軸3の貫通穴3aの下端部にはテーパ穴3bが形成され、該テーパ穴3bに前記工具ホルダ4が嵌合固定される。なお、図示していないが、前記主軸3と主軸頭2との間には該主軸3を回転駆動する電動モータが配設されている。
【0016】
前記クランプ機構5は、前記主軸3の貫通穴3a内に挿入配置され、前記工具ホルダ4を前記テーパ穴3bにクランプし、又はアンクランプするドローバー7と、該ドローバー7をアンクランプ方向に移動させる駆動機構(シリンダ機構)8とを有する。
【0017】
前記ドローバー7は、前記テーパ穴3bの近傍に配置された複数の係合爪11を前記工具ホルダ4の上端部に形成され係合段部14aに係合させる筒状の係合駆動パイプ9と、該係合駆動パイプ9に接続された筒状のドローバー本体10とを有する。
【0018】
前記係合爪11はこれの基端部11aを中心に前端の爪部11bを径方向に拡開可能に構成されている。前記係合駆動パイプ9の前端にはカム9aが形成され、該カム9aは前記爪部11bの内面に摺接しており、後進位置(図1上方位置)にあるとき該爪部11bを係合段部14aに係合させ、前進位置(図1下方位置)にあるとき前記係合を解除する。
【0019】
前記ドローバー本体10と主軸3の貫通穴3aとの間には多数の皿ばね15が介在されている。前記皿ばね15は前記ドローバー7をクランプ方向(図1上方向)に付勢している。この付勢力により係合駆動パイプ9がクランプ方向に移動すると、前記カム9aが爪部11bを拡開させて前記係合段部14aに係合させ、工具ホルダ4のテーパ部14bを前記テーパ穴3bに強固に嵌合させる。
【0020】
前記駆動機構8は、前記主軸頭2の上端部にボルト8aにより締め付け固定されたケーシング18aと、蓋部材18bとで形成されたシリンダ穴18c内にピストン18dを挿入配置した構造のものである。油室bに油圧が供給されると、このピストン18dが図1下方に移動し、押圧プレート24を介して前記ドローバー7を前記皿ばね15の付勢力に抗してアンクランプ方向(図1下方向)に移動させ、前記工具ホルダ4のテーパ部14bとテーパ穴3bとの嵌合を解除する。
【0021】
前記ドローバー7の下部を構成する係合駆動パイプ9の上端部9bは、上部を構成するドローバー本体10の下端部10a内に挿入され、これの内面にねじ込まれている。
【0022】
また前記係合駆動パイプ9のカム9a内には、連結パイプ17が同軸をなすように挿入されており、該連結パイプ17はナット部材17aにより工具ホルダ4内に固定されている。
【0023】
さらにまた前記ドローバー本体10の上端部10bは、前記駆動機構8のインナパイプ16の下端部16a内に挿入されている。このインナパイプ16は前記蓋部材18b内に挿入され、かつ該蓋部材18bに固定されている。
【0024】
前記インナパイプ16と前記ドローバー本体10の上端部10bとの間には、外部から空気がインナパイプ16内に吸引されるのを回避するためのシール機構21が設けられている。
【0025】
そして前記連結パイプ17,ドローバー7及びインナパイプ16の軸芯部には、これらを軸方向に貫通する第4吸引穴a4が形成されている。該第4吸引穴a4は、前記連結パイプ17内部分、係合駆動パイプ9内部分、ドローバー本体10内部分及びインナパイプ16内部分共に略同じ径に設定されている。また、前記インナパイプ16の上端部16bには、吸引装置16cが接続されている。
【0026】
前記工具ホルダ4は、刃具12を保持する保持部19と、前記主軸3にクランプされるクランプ部14との材質の異なる2部品を圧入等で結合した構造を有する。前記保持部19は、基部19dと、ここから刃具12の切れ刃12aに近接するよう下方に延びる嵌合部19cとを有する。この嵌合部19cは、これの先端面19aに開口するようその軸芯に設けられ、前記刃具12が焼嵌め等により固着される装着穴19bを有する。前記クランプ部14は、これの基端面14cに開口するようその軸芯に設けられ、前記係合爪11,連結パイプ17等が挿入されるクランプ穴14dを有する。前記保持部19の装着穴19bは該保持部19の軸芯に形成された第2吸引穴a2を介して前記クランプ穴14dに連通している。
【0027】
また前記刃具12は、切れ刃12a部分とシャンク部12bとからなり、該シャンク部12bの軸芯には、第1吸引穴a1が形成されている。そして前記切れ刃12aとシャンク部12bとの境界部分には、前記第1吸引穴a1に連通する2つの吸引口12c,12cが形成されている。前記第1吸引穴a1は、前記保持部19に形成された第2吸引穴a2を介して前記第4吸引穴a4に連通している。
【0028】
そして前記保持部19には、前記先端面19aに開口する6個の第3吸引穴a3が前記装着穴19bを囲むように形成されている。この第3吸引穴a3は、前記保持部19の略全長に渡る長さを有し、前記嵌合部19cの上端部付近で軸芯側に傾斜して前記第2吸引穴a2に連通している。
【0029】
なお、前記第3吸引穴a3は、図7に示すように、前記保持部19の先端面19aから前記第2吸引穴a2方向へ傾斜させて形成することにより、前記先端面19aに近い部分で前記第2吸引穴a2に連通させても良い。このようにすれば、第3吸引穴a3が短くなった分、該部分での流路抵抗を低減できる。
【0030】
前記工具ホルダ4の保持部19には、前記嵌合部19cの周囲を囲むとともに、前記刃具12の切れ刃12a付近まで延びるカバー部材25が配設されている。このカバー部材25は、前記嵌合部19c部分を囲む筒部25aと、該筒部25aの基端部に形成されたフランジ部25bとを有し、該フランジ部25bが前記保持部19の基部19dにねじ込まれたナット部材26により前記保持部19に固定されている。また前記筒部25aの下端部には、ここからさらに下方に延びる小径部25cが形成されている。この小径部25cは前記刃具12の周囲を囲んでいる。
【0031】
前記工具ホルダ4には、羽根車(羽根部材)27が、該工具ホルダ4の先端面19aと前記刃具12の先端との間に、好ましくは前記カバー部材25の小径部25c内に位置するように、かつ前記工具ホルダ4と共に回転するように設けられている。前記羽根車27は、鉄等の金属製のものであり、リング状のボス部27aと、該ボス部27aから放射状に延びるように該ボス部27aに一体形成された羽根27bとを有する。前記ボス部27aが焼嵌め等により前記刃具12のシャンク部12bに固着されている。ここで前記羽根車27の羽根27bの枚数や形状の設定に当たっては、前記第3吸引穴a3を可能な限り覆わないようにするのが好ましい。
【0032】
なお、前記羽根車27は、前記カバー部材25あるいは前記工具ホルダ4の保持部19に取り付けてもよく、あるいはカバー部材25と一体に形成しても良い。
【0033】
本実施例では、刃具12によりワークを切削するとともに、吸引装置16cにより前記刃具12による切削点付近の空気が吸引される。これにより前記切削点にて発生する切削粉は、第1吸引穴a1,第3吸引穴a3から吸引され、第2吸引穴a2,第4吸引穴a4を通って前記吸引装置16cに吸引される。
【0034】
そして本実施例では、前記第3吸引穴a3を、工具ホルダ4の前記切削点に近接する先端面19aに開口するように形成したので、切削点から第3吸引穴a3の開口までの距離が小さくなり、切削点に近い位置での吸引が可能となり、それだけ吸引効率を向上できる。
【0035】
また、刃具12に設けた第1吸引穴a1に加えて、工具ホルダ4に第3吸引穴a3を形成しているので、刃具が小径であるために、第1吸引穴を小径にせざるを得ない場合、あるいは刃具に吸引穴を形成できない場合でも、第3吸引穴a3により必要な通路面積を確保でき、吸引効率を向上できる。
【0036】
また、工具ホルダ4の先端部付近を囲むとともに、刃具12の切れ刃12a付近まで延びるカバー部材25を備えたので、切削粉が発生する切削点付近の流速を高めることができ、吸引効率をより一層向上できる。
【0037】
さらにまた、工具ホルダ4の先端面と刃具12の先端との間に工具ホルダ4と共に回転する羽根車27を設けたので、切削加工に伴って羽根27bが回転することにより、切削点の周囲の空気を第3吸引穴a3に向けて加圧送風し、切削粉を確実に第3吸引穴a3に送り込むことができ、吸引効率をさらに向上できる。
【符号の説明】
【0038】
1 工作機械
3 主軸
4 工具ホルダ
12 刃具
14d クランプ穴
19a 先端面
19b 装着穴
25 カバー部材
27 羽根車(羽根部材)
a3 第3吸引穴(吸引穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面に開口し、刃具を取り付け可能な装着穴と、該装着穴に連通するとともに基端面に開口するクランプ穴とを有し、工作機械の主軸に取り付けられる工具ホルダにおいて、
該工具ホルダは、前記先端面に開口し、前記クランプ穴に連通するよう形成された吸引穴を有する
ことを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の工具ホルダにおいて、
該工具ホルダの前記先端面の周囲を囲むとともに前記装着穴に取り付けられた刃具の先端付近まで延びるカバー部材を備えた
ことを特徴とする工具ホルダ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の工具ホルダにおいて、
前記先端面と前記刃具の先端との間に、かつ前記工具ホルダと共に回転するように設けられ、前記工具ホルダの回転に伴って空気を前記吸引穴に向けて加圧送風する羽根部材を備えた
ことを特徴とする工具ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−661(P2011−661A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144307(P2009−144307)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000146847)株式会社森精機製作所 (204)
【出願人】(591286982)株式会社MSTコーポレーション (11)
【Fターム(参考)】