説明

工具位置決め方法および工具位置決め装置

【課題】 工具とワークに電圧を印加し、非接触状態で電流を検出して位置決めを行うものであって、印加電圧が大きい場合でも工具およびワークの損傷を防いで高精度の位置決めを行うことができ、さらにアルミニウム材でも高精度の位置決めを行うことができる工具位置決め方法および工具位置決め装置を提供する。
【解決手段】 工具1およびワーク2に接続するための電極3a,3bと、電極3a,3bの間に直列に接続される制限抵抗5と、制限抵抗5を介して電極3a,3b間に電圧を印加する電圧供給装置4と、制限抵抗5の両端の電位差を増幅する差動増幅器6と、差動増幅器6から出力される電圧を判定基準電圧と比較するコンパレータ7と、コンパレータ7の出力を検出して電圧供給装置4からの電圧供給を遮断する遮断装置13とを備える工具位置決め装置により位置決めを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械において工具とワークの相対位置決めをするための工具位置決め方法および工具位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤などによる切削加工や、放電加工機による放電加工に際して、あらかじめ、切削工具や放電加工用の電極と、加工対象物(ワーク)との相対位置を定めることが必要になる。また、加工途中で工具を交換する場合にも、再度位置決めが必要となる。従来、切削加工の場合は、この位置決めのための特別のジグがあり、工具とジグの接触位置やジグとワークとの位置関係などから工具の移動開始点を定めていた。また、放電加工では、ジグを用いず、工具電極とワークの直接接触を感知して位置決めする場合が多かった。このような接触感知法としては、接触時に加わる力を検出する方式や、導電性工具と、ジグまたはワークに数ボルトの電圧を印加し、接触により両物体間にかかる電圧が低下することを検知する方式が用いられている。しかし、いずれの方式においても、現状では1〜0.1μmの繰返し精度が得られるに過ぎない。また、工具とワークが接触する際に、ワーク表面を傷付けてしまうおそれがある。
【0003】
そこで、本願発明者が着目したのが、走査型トンネル顕微鏡(STM)の動作原理である。通常、二つの導電性物体間に電圧を印加した場合、二物体が接触していなければ電流が流れることはないが、二物体をごく近い距離(およそ1nm以下)まで接近させると、トンネル電流が流れる。このトンネル電流の大きさは、二物体間の距離が小さくなるにつれて指数関数的に増大する。STMはこのようなトンネル現象を利用したものであり、探針と試料との間に電圧を印加し、トンネル電流の大きさが一定値を保つようにしながら探針で試料上を走査することで、試料の表面形状を明らかにするものである。
【0004】
このSTMの原理を工具の位置決めに応用したものが、本願発明者が提案した特許文献1の発明である。これは、工作機械において工具とワークの相対位置決めをするための工具位置決め方法および装置であって、工具およびワークの間に電圧を印加し、工具をワークに接近させ、工具とワークとの間に流れるトンネル電流が検出された位置を基準位置とするものである。具体的な装置としては、図7に示すように、工具101には電極103aが、ワーク102には電極103bが接続され、電極103a,103bの間には直列に電源104および制限抵抗105が接続される。電源104は直流電源であり、制限抵抗105は固定抵抗であって、電源104により、制限抵抗105を介して、工具101とワーク102との間に所望の電圧が印加される。制限抵抗105の両端には増幅器108a,108bを介して差動増幅器106が接続され、制限抵抗105の両端の電位差が増幅され出力される。差動増幅器106の出力は、絶縁増幅器109およびフィルタ110を介してコンパレータ107へ入力され、判定基準電源111から入力される判定基準電圧と比較される。コンパレータ107へ入力された電圧が判定基準電圧を上回れば、コンパレータ107は検出感知信号112を出力する。この装置によれば、印加電圧が低いほど精度は向上し、SUS丸棒を用いた実験において、印加電圧0.1Vで±10nm程度の位置決め精度が得られた(図4中の丸印でプロットしたデータ)。なお、ここでは20回の位置決めを繰り返し行い、1回目の位置決めで電流が検出された位置を基準位置(接触位置0nm)とし、2回目以降は基準位置に対するズレを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−56551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、その後の研究によれば、本発明はSTMのように先鋭な探針を用いるものではないので、0.1V程度の印加電圧では接触部の電界強度が小さく、工具およびワークの材質や形状によっては、非接触状態で検出に必要な電流が流れない場合があることが判明した。しかし、印加電圧を高くすると、特許文献1に示したように位置決め精度が低下してしまう。
【0007】
そこで、印加電圧を高くした際に精度が低下する原因を確かめるために、図8に示す実験装置を用いた。この装置は、基盤201上に、上方に延びるカンチレバー202が設けられ、カンチレバー202の右側面上部に前後に延びる丸棒形状の被接触部202aが形成されている。また、カンチレバー202の右方には、左右に伸縮する圧電素子203が設けられ、圧電素子203の左端には、上下に延びる丸棒形状の接触部203aが設けられている。さらに、カンチレバー202の左方には、カンチレバー202の変位を検出する非接触式の変位センサ204が設けられている。なお、接触部203aおよび被接触部202aは何れもSUS製である。そして、この装置の接触部203aおよび被接触部202aをそれぞれ工具とワークに見立てて図7の工具位置決め装置を接続した。この装置は、圧電素子203が伸びて接触部203aを被接触部202aに接近させ、工具位置決め装置によって検出信号が出力されると、圧電素子203が縮んで接触部203aを被接触部202aから引き離すものであり、検出信号が出力される際に、接触部203aと被接触部202aとが実際に接触しているか否かを確認できる。
【0008】
図9は、変位センサ204の出力と、工具位置決め装置の電流検出出力(フィルタ110の出力)を示したグラフであり、(a)は印加電圧を3.0V、(b)は4.5Vとした場合である。このときの差動増幅の倍率は22倍、検出レベルを50mVとした。何れの場合も、電流検出直前まで変位センサ出力は0であり、電流検出の瞬間に変位センサ出力がわずかに増加したのち、0に戻っている。このときの電流検出出力は、50mVで判定しているにもかかわらず、3V程度に増加している。よって、何れの場合においても、接触部203aと被接触部202aが接近したとき、接触前に電流が流れ、検出信号が出力される。そして検出信号によって圧電素子203は被接触部202aから接触部203aを引き離すが、その応答が遅いため、離す前に表面の酸化皮膜が破壊されて急激に電流が増加し、これによって表面に傷が生じて接触部203aと被接触部202aとが接触し、位置決め精度が低下したと考えられる。
【0009】
また、特許文献1の発明をアルミニウム棒に適用すると、印加電圧0.1Vで1000nm以上のばらつきが生じることが判明した(図5(a)中の丸印でプロットしたデータ)。なお、実験方法は上述のSUSの場合と同様である。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、工具とワークに電圧を印加し、非接触状態で電流を検出して位置決めを行うものであって、印加電圧が大きい場合でも工具およびワークの損傷を防いで高精度の位置決めを行うことができ、さらにアルミニウム材でも高精度の位置決めを行うことができる工具位置決め方法および工具位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のうち請求項1の発明は、工作機械において工具とワークの相対位置決めをするための工具位置決め方法であって、前記工具および前記ワークの間に電圧を印加し、前記工具を前記ワークに接近させ、前記工具と前記ワークとの間に流れるトンネル電流が検出された位置を基準位置とし、トンネル電流の検出に伴って電圧供給を遮断することを特徴とする。ここで工作機械とは、旋盤、フライス盤や放電加工機など、切削刃や工具電極(これらを総称して工具とする)を備え、加工対象であるワークに種々の加工を施すものをいう。ただし、旋盤やフライス盤による加工において切削液を用いる場合や、放電加工機において工具およびワークを加工液中に浸して加工を行う場合、漏れ電流が発生して検出を不安定にするため、不向きである。また、相対位置決めとは、工具とワークとの間の距離を求める絶対的な位置決めではなく、最初にワークに対する工具の基準位置を定め、次回以降の位置決めで工具をその基準位置に合わせることをいう。本発明の方法により位置決めが可能となる理由は、以下のとおりである。すなわち、工具およびワークに電圧を印加した状態で、工具をワークに接近させていくと、両者間にトンネル電流が流れる。このトンネル電流が検出された位置が、ワークに対する工具の相対的な基準位置となる。以後、たとえば工具を交換し、改めて位置決めをする際には、同様の条件でトンネル電流を検出することで、工具を基準位置に位置させることができる。
【0012】
本発明のうち請求項2の発明は、工作機械において工具とワークの相対位置決めをするための工具位置決め装置であって、前記工具および前記ワークに接続するための電極と、該電極の間に直列に接続される制限抵抗と、該制限抵抗を介して前記電極間に電圧を印加する電圧供給装置と、前記制限抵抗の両端の電位差を増幅する差動増幅器と、該差動増幅器から出力される電圧を判定基準電圧と比較するコンパレータと、該コンパレータの出力を検出して前記電圧供給装置からの電圧供給を遮断する遮断装置とを備えることを特徴とする。装置の各構成要素は、すべて一般的な電子回路に用いられる素子である。このうち、電圧供給装置は直流のものでも交流のものでもよい。また、上記以外に増幅器や絶縁増幅器およびフィルタなどを備えていてもよい。本発明の装置により、以下のとおり位置決めを実施することができる。すなわち、電極を工具およびワークに接続し、電圧供給装置により電圧を印加した状態で工具をワークに接近させていくと、両者間にトンネル電流が流れる。すると、工具およびワークと直列に接続された制限抵抗にも電流が流れ、その両端に電位差が生じる。この電位差を差動増幅器により増幅し、差動増幅器から出力される電圧をコンパレータにより判定基準電圧と比較して、出力電圧が判定基準電圧を超えたことをもってトンネル電流を検出する。このトンネル電流が検出された位置が、ワークに対する工具の相対的な基準位置となる。
【0013】
本発明のうち請求項3の発明は、前記電圧供給装置が、電源と、該電源から供給される電圧を増幅する電源増幅器とを備え、前記遮断装置が、前記コンパレータの出力を検出して動作するタイマーと、該タイマーが動作している間、前記電源から前記電源増幅器への電圧供給を遮断するスイッチとを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のうち請求項4の発明は、請求項3記載の工具位置決め装置において、前記電源増幅器に代えて、間欠的にパルスを出力する発信回路を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のうち請求項1の発明によれば、トンネル電流の検出によって、一般の工具およびワークについて、容易に相対位置決めを行うことができる。そして、電流の検出に伴って電圧供給を遮断するので、印加電圧が大きい場合でも工具およびワークの損傷を防ぐことができる。よって、従来の低電圧による方法では非接触状態で検出に必要な電流が流れなかった種々の材質や形状の工具やワークについても、高精度の位置決めが可能となり、たとえば、後述するようにアルミニウム材についても高精度の位置決めを行うことができる。
【0016】
本発明のうち請求項2の発明によれば、簡易な回路構成の装置により工具とワークの相対位置決めが可能となる。そして、コンパレータの出力を検出して電圧供給装置からの電圧供給を遮断する遮断装置を備えているので、印加電圧が大きい場合でも工具およびワークの損傷を防ぐことができる。また、本装置は、旋盤、フライス盤や放電加工機など、種々の工作機械に適用することができる。さらに、本発明の装置を、従来用いられている位置決め用ジグの中に組み込むこともできる。
【0017】
本発明のうち請求項3の発明によれば、タイマーが動作して電圧供給が遮断されている間に工具とワークを引き離すことができる。そして、電源増幅器の入力側にスイッチが設けられているので、スイッチからの漏れ電流の影響を抑えることができる。
【0018】
本発明のうち請求項4の発明によれば、印加する電圧の出力波形をパルスにすることで、流れる電流の積分値が減少するので、工具およびワークの損傷をより小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の工具位置決め装置の第一実施形態の構成を示す回路図。
【図2】工具およびワークの例を示す模式図。
【図3】第一実施形態の装置を用いた際の工具とワークの接触状況を示すグラフ。
【図4】第一実施形態の装置および従来の装置によりSUS材について位置決め実験を行った結果を示すグラフ。
【図5】第一実施形態の装置および従来の装置によりアルミニウム材について位置決め実験を行った結果を示すグラフ。
【図6】本発明の工具位置決め装置の第二実施形態の構成を示す回路図。
【図7】従来の工具位置決め装置の構成を示す回路図。
【図8】位置決めの際の工具とワークの接触状況を確認する実験装置の模式図。
【図9】従来の工具位置決め装置を用いた際の工具とワークの接触状況を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の工具位置決め装置の具体的な構成について、各図面に基づいて説明する。図1は、工具位置決め装置の第一実施形態の構成を示す回路図である。工具1には電極3aが、ワーク2には電極3bが接続され、電極3a,3bの間には直列に制限抵抗5が接続され、さらに工具1に接続した電極3a側に電圧供給装置4が接続されている。電圧供給装置4は、直流の電源14と、電源14から供給される電圧を増幅する電源増幅器15と、電源14と電源増幅器15の間に挿入された電源抵抗19からなる。この電源抵抗19は、後述のスイッチ17に過大電流が流れるのを防ぐためのものである。そして、制限抵抗5および電源抵抗19は固定抵抗であって、電圧供給装置4により、制限抵抗5を介して、工具1とワーク2との間に所望の電圧が印加される。制限抵抗5の両端には増幅器8a,8bを介して差動増幅器6が接続され、制限抵抗5の両端の電位差が増幅され出力される。差動増幅器6の出力は、絶縁増幅器9およびフィルタ10を介してコンパレータ7へ入力され、判定基準電源11から入力される判定基準電圧と比較される。コンパレータ7へ入力された電圧が判定基準電圧を上回れば、コンパレータ7は検出感知信号12を出力する。ここで、増幅器8a,8bは制限抵抗5よりも充分大きな抵抗値を有する高入力インピーダンスのものを用いる。また、絶縁増幅器9は、検出部と増幅部のアース電位変動の影響を避けるために用いる。さらに、フィルタ10は、商用周波数信号および高周波信号をカットして外部ノイズの影響を小さくするために用いられる。
【0021】
そして、コンパレータ7の出力側には、コンパレータ7の出力を検出して電圧供給装置4からの電圧供給を遮断する遮断装置13が接続されている。遮断装置13は、タイマー16と、アナログ式のスイッチ17からなり、タイマー16はコンパレータ7の出力を検出して動作するもので、このタイマー16が動作している間、スイッチ17が切り替わって電源14から電源増幅器15への入力を遮断するように構成されている。このような遮断装置13を設けることにより、コンパレータ7から検出感知信号12が出力された瞬間に印加電圧が遮断されるので、タイマー16が動作している間に工具1をワーク2から引き離せば、過大電流による工具1やワーク2の損傷を防ぐことができる。また、電源増幅器15の入力側にスイッチ17が設けられているので、スイッチ17からの漏れ電流の影響を抑えることができる。
【0022】
なお、本発明が適用される工作機械は、旋盤、フライス盤や放電加工機など、種々のものが考えられるが、ここでは旋盤を例にとり、図2にその構成を示す。工具1は計算機の指令によりX軸およびZ軸方向に移動し、ワーク2はモータにより回転する。工具1とワーク2は導電体(または表面に金属を蒸着させて導電性を付与した絶縁体)であるが、工具1は刃物台22上に設置された絶縁板21により絶縁され固定されている。位置決めの際には、ワーク2が静止した状態で、工具1をワーク2の方向に移動させ、電流を検知する。
【0023】
次に、この第一実施形態の装置を用いて位置決め実験を行った結果を示す。まず、図8の装置に第一実施形態の装置を接続して、第一実施形態の装置により位置決めを行う際の接触部203a(工具に相当)と被接触部202a(ワークに相当)の接触状況について確認した。ただし、検出レベルは50mVとした。図3は、印加電圧を4.5Vとした場合の、変位センサ204の出力と、工具位置決め装置の電流検出出力(フィルタ10の出力)を示したグラフである。これによると、変位センサ出力は0のままであり、接触部203aと被接触部202aは非接触状態で位置決めが行われたことがわかる。そして、電流検出時に変位センサ出力の乱れがなく、電流検出出力も約50mVに抑えられており、接触部203aおよび被接触部202aの損傷が防がれたことが確認された。
【0024】
続いて、第一実施形態の装置による位置決めの精度を確認した。ここでは、工具とワークの代わりに直交する二本のSUS丸棒(直径3mm)を用い、印加電圧を0.1Vおよび4.5Vとした。実験は20回の位置決めを繰り返し行い、1回目の位置決めで電流が検出された位置を基準位置(接触位置0nm)とし、2回目以降は基準位置に対するズレを示した。図4がその結果を示すグラフであり、従来の装置では±10nm程度の精度であったものが、第一実施形態の装置において、印加電圧を従来よりも高くすることにより(4.5V)、±5nm以下の位置決め精度が得られ、より精度が高くなることが確認された。また、図5はアルミニウム棒について同様の実験を行った結果を示すグラフであり、(a)は従来の装置による結果と本発明の装置による結果を併せて示したもの、(b)は(a)から本発明の装置による結果のみを抜き出したものである。従来の装置では1000nm以上のばらつきが生じていたのに対し、第一実施形態の装置によれば、±10nm程度の位置決め精度にまで改善している。よって、本発明の装置によれば、アルミニウム材についても高精度の位置決めを行うことができることが確認された。
【0025】
このように、本発明の位置決め装置によれば、簡易な回路構成の装置により、工具とワークの相対位置決めが可能となる。また、コンパレータの出力を検出して電圧供給装置からの電圧供給を遮断する遮断装置を備えているので、電圧を遮断している間に工具をワークから引き離すことで、印加電圧が大きい場合でも工具およびワークの損傷を防ぐことができる。そしてこれにより、従来の装置よりもさらに高精度な位置決めが可能となり、また従来の装置では対応できなかったアルミニウム材についても高精度な位置決めが可能となった。
【0026】
図6は、工具位置決め装置の第二実施形態の構成を示す回路図である。第二実施形態の装置は、第一実施形態の装置において、電源増幅器15に代えて、間欠的にパルスを出力する発振回路18を備えたものである。これにより、印加する電圧の出力波形がパルスになり、流れる電流の積分値が減少するので、位置決め時の工具およびワークの損傷をより小さくできる。
【0027】
なお、本発明の方法は、工具およびワークに電流を流すのであるから、両者は導電性を有していなければならない。しかし、工具の切削刃などには絶縁体であるダイヤモンドが多く用いられており、また、ワークとして絶縁体であるガラスなどの加工も行われている。こうした工具やワークに本発明の方法を適用する場合、何らかの方法で導電性を付与する必要があり、とくに、工具やワークの表面に金属を蒸着させる方法が、安価に実施できる上、工具寿命にも影響せず、好適である。また、蒸着する金属としては、導電率が高く安定性に優れた金が望ましい。
【0028】
本発明の工具位置決め方法および工具位置決め装置は、上記実施例に限定されない。たとえば、工具位置決め装置の回路構成は、一部の要素を省略したものであってもよいし、他の要素を追加したものであってもよい。また、本発明の方法および装置は、旋盤、フライス盤や放電加工機などのほか、種々の工作機械に適用される。さらに、本発明の装置を、従来用いられている位置決め用ジグの中に組み込むこともできる。また、工具またはその代わりとなる探針を用いれば、高精度な機上形状計測も可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 工具
2 ワーク
3a,3b 電極
4 電圧供給装置
5 制限抵抗
6 差動増幅器
7 コンパレータ
13 遮断装置
14 電源
15 電源増幅器
16 タイマー
17 スイッチ
18 発振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械において工具とワークの相対位置決めをするための工具位置決め方法であって、
前記工具および前記ワークの間に電圧を印加し、前記工具を前記ワークに接近させ、前記工具と前記ワークとの間に流れるトンネル電流が検出された位置を基準位置とし、トンネル電流の検出に伴って電圧供給を遮断することを特徴とする工具位置決め方法。
【請求項2】
工作機械において工具(1)とワーク(2)の相対位置決めをするための工具位置決め装置であって、
前記工具(1)および前記ワーク(2)に接続するための電極(3a,3b)と、該電極(3a,3b)の間に直列に接続される制限抵抗(5)と、該制限抵抗(5)を介して前記電極(3a,3b)間に電圧を印加する電圧供給装置(4)と、前記制限抵抗(5)の両端の電位差を増幅する差動増幅器(6)と、該差動増幅器(6)から出力される電圧を判定基準電圧と比較するコンパレータ(7)と、該コンパレータ(7)の出力を検出して前記電圧供給装置(4)からの電圧供給を遮断する遮断装置(13)とを備えることを特徴とする工具位置決め装置。
【請求項3】
前記電圧供給装置(4)が、電源(14)と、該電源(14)から供給される電圧を増幅する電源増幅器(15)とを備え、
前記遮断装置(13)が、前記コンパレータ(7)の出力を検出して動作するタイマー(16)と、該タイマー(16)が動作している間、前記電源(14)から前記電源増幅器(15)への電圧供給を遮断するスイッチ(17)とを備えることを特徴とする請求項2記載の工具位置決め装置。
【請求項4】
請求項3記載の工具位置決め装置において、前記電源増幅器(15)に代えて、間欠的にパルスを出力する発信回路(18)を備えたことを特徴とする工具位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−139755(P2012−139755A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292884(P2010−292884)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】