説明

工学操作された微小胞を用いての直接的なタンパク質の送達

本発明は、工学操作された微小胞を用いての直接的なタンパク質の送達に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、工学操作された微小胞を用いての直接的なタンパク質の送達に関する。
【0002】
発明の背景
ターゲット細胞への対象のタンパク質の一過性導入は大きな挑戦であり、基礎研究、応用科学および治療分野において多くの適用がある。
【0003】
何十年間も、ターゲット細胞への対象のタンパク質の導入は、トランスフェクションとして知られる、前記の対象のタンパク質をコードする遺伝子材料の導入によって間接的に行なわれてきた。
【0004】
リン酸カルシウムトランスフェクション、電気穿孔法およびリポフェクションなどの多くのトランスフェクション技術が何年もかけて開発されてきた。
【0005】
しかしながら、これらの技術は、その使用を制限し得るいくつかの不便がある。ターゲット細胞への対象のタンパク質をコードする遺伝子の導入は、ターゲット細胞の転写および翻訳の機械に依拠する。従って、所望のタンパク質の発現は遅く、そしていくつかの望ましくない効果が観察され得る(トランスフェクション試薬自体の毒性、インターフェロン応答の活性化など)。
【0006】
さらに、特定の細胞型、典型的には非分裂細胞、例えばニューロンはあまり良好にトランスフェクションできない。形質導入として知られる他の遺伝子導入技術が、この欠点を回避するためにより最近になって開発された。形質導入は、ターゲット細胞に遺伝子材料を導入する際にウイルスベクターの使用に依拠する。この趣旨でレトロウイルスに基づいたシステムがしばしば使用される。しかしながら、これらの技術にはいくつかの欠点がある。第一に、レトロウイルスベクターが不活性化されていても、前記レトロウイルスベクターの使用に関連した衛生上のリスクがある。第二に、レトロウイルス粒子の産生は非常に退屈で時間がかかる。実際に、ウイルスベクター粒子の形成に必要な種々のタンパク質をコードする大量の4または5種類の異なるプラスミドの産生を含む。最後に、ターゲット細胞に観察される効果は速効性ではない。典型的には、対象のタンパク質は、少なくとも24時間、通常48〜72時間の遅延の後にターゲット細胞において発現され、その間に転写および翻訳が起こる。
【0007】
以前の研究は、レトロウイルスベクターと同時に産生されるバイスタンダード物質によるレポータータンパク質の予期せぬ導入を記載した(Liu et al., Journal of virology 70, 2497-2502 (1996); Gallardo et al., Blood 90, 952-957 (1997))。例えば、これらの著者は、レトロウイルスにより媒介される遺伝子導入に対して非許容性であることが知られるターゲット細胞へとβ−ガラクトシダーゼを送達する、そのウイルス調製物の能力を記載した。偽形質導入と呼ばれるこの望ましくない形質導入の人工産物は、処理細胞に導入されたタンパク質を一過性に発現したが、一方、レトロウイルスによる形質導入は、送達された導入遺伝子の安定した長期の発現を確実にする。興味深いことに、これらの著者は、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質(VSV−G)を用いて偽型化されたレトロウイルスベクターを使用して、偽形質導入が特に、濃縮されたVSV−Gでコーティングされたレトロウイルス粒子を用いて起こっていることを観察した。しかしながら、これらの研究は、このタンパク質により媒介される偽形質導入の基礎をなす決定的な機序の証拠は全く提供しておらず、そして導入されたタンパク質はウイルスエンベロープに組み込まれている可能性が最も高いと考えられた(Schnell et al., PNAS, 1996, 93, 11359-11365)。それ故、この偽形質導入は、膜タンパク質に限定されると考えられた。さらに、それは、遺伝子により媒介されるレトロウイルスによる形質導入から分離できないと考えられた。
【0008】
ターゲット細胞に対象のタンパク質を特異的で時間制御的に送達するために、別の利用可能な技術は、ターゲット細胞へのマイクロインジェクションである。しかしながら、この技術では、マイクロインジェクション前に対象のタンパク質を得ることが必要である。ペプチドは化学合成によって得ることができるが、より大きなタンパク質は、特別な産生手順および精製手順を必要とする。従って、これらの方法は費用がかかり、そしてラージスケールの用途には良好に順応できない。
【0009】
他の研究は、HIV tatおよびポリアルギニンなどの、タンパク質の形質導入を媒介する短いペプチドとタンパク質をコンジュゲーションすることによる前記タンパク質の送達に焦点を当てる。しかしながら、これらの技術もまた、組換えタンパク質に依拠しているので、ラージスケールでの実行は困難である。
【0010】
従って、ターゲット細胞に対象のタンパク質を送達するための迅速で安全で効率的な方法が当技術分野において依然として必要である。
【0011】
発明の要約
本発明は、ウイルス膜融合タンパク質および対象のタンパク質を過剰発現する真核細胞に関する。
【0012】
本発明はまた、本発明による真核細胞によって分泌される微小胞に関し、前記微小胞は、前記ウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を含む。
【0013】
本発明はまた、ターゲット細胞を、対象のタンパク質を含む本発明による微小胞と接触させることによって、前記ターゲット細胞に前記の対象のタンパク質をin vitroで送達するための方法に関する。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明者らは、対象のタンパク質を発現する真核細胞におけるウイルス膜融合タンパク質の過剰発現は、前記の膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を含む微小胞の分泌をもたらし得ることを発見した。さらに、本発明者らは、前記の微小胞を使用して、前記タンパク質の機能を変化させることなく、ターゲット細胞に前記の対象のタンパク質を効率的に送達することができることを実証した。従って、本発明の方法は、ターゲット細胞における機能的タンパク質の一過性かつ迅速な導入に適切である。
【0015】
従って、本発明は、ウイルス膜融合タンパク質および対象のタンパク質を過剰発現する真核細胞に関する。前記真核細胞は、前記ウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を含む微小胞を分泌することができる。
【0016】
1つの態様において、本発明による真核細胞は、全くウイルス構造タンパク質を発現せず、そしてこのような真核細胞によって分泌された微小胞は、全くウイルス構造タンパク質を含まない。従って、本発明による微小胞は、この点において、例えばWO2006/059141に記載のウイルス様粒子(VLPs)(前記VLPは、HIV1 Gagなどのウイルス構造タンパク質を含む)とは異なる。
【0017】
本明細書において使用する「ウイルス構造タンパク質」という用語は、ウイルスのカプシドタンパク質またはコアタンパク質の全体構造に寄与するウイルスタンパク質を指す。「ウイルス構造タンパク質」という用語はさらに、ウイルスのカプシドタンパク質またはコアタンパク質の構造に寄与するこのようなウイルスタンパク質の機能的フラグメントまたは誘導体を含む。ウイルス構造タンパク質の一例はHIV1 Gagである。ウイルス膜融合タンパク質はウイルス構造タンパク質とは考えない。典型的には、前記ウイルス構造タンパク質は微小胞内に局在化している。
【0018】
本発明者らは、実際に、全くウイルス構造タンパク質を発現しないが、膜融合タンパク質(例えばVSV−G)または他の膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を過剰発現する真核細胞において、対象のタンパク質を含む微小胞が産生され得ることを示した。
【0019】
さらに、本発明による微小胞は、対象のタンパク質をコードする核酸を全く含まないかもしれない。もちろん、痕跡量の核酸が、特にプロデューサー細胞からの痕跡量のmRNA、またはさらには以前のトランスフェクションから生じたDNAが前記微小胞に含まれていることは除外できない。しかしながら、本発明者らは、このような痕跡量の核酸(存在する場合)は、微小胞によるタンパク質機能の導入の少なくとも90%については関与しないことを実証した。
【0020】
典型的には、真核細胞は、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞、ニワトリ細胞、または昆虫細胞である。適切な哺乳動物細胞の例は、HEK−293T細胞、COS7細胞、Hela細胞およびHEK−293細胞であるがそれらに限定されるわけではない。適切な昆虫細胞の例としては、High5細胞およびSf9細胞が挙げられるがそれらに限定されるわけではない。昆虫細胞はいくつかの利点を提示する。特に、それらは望ましくないヒトタンパク質に欠け、そしてその培養は動物の血清を必要としない。
【0021】
「過剰発現する」によって、所与の細胞によって発現されるタンパク質の量を増強するための当技術分野において知られている任意の手段を意味する。実際的には、ウイルス膜融合タンパク質および対象のタンパク質は、前記真核細胞において、前記真核細胞が、全くウイルス構造タンパク質を発現する必要を伴わず、前記のウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を含む微小胞を分泌することができるレベルまで発現される。
【0022】
典型的には、ウイルス膜融合タンパク質および対象のタンパク質の過剰発現は、真核細胞を、ウイルス膜融合タンパク質をコードする発現ベクター、および対象のタンパク質をコードする発現ベクターを用いてトランスフェクションすることによって達成され得る。
【0023】
別の態様において、本発明による前記の真核細胞は、ウイルス膜融合タンパク質としてのVSV−Gおよび対象のタンパク質を過剰発現するが、他のウイルスタンパク質は全く、特にウイルス構造タンパク質は全く過剰発現しない。前記態様に従って分泌される微小胞は、VSV−Gおよび前記の対象のタンパク質を含むが、ウイルス構造タンパク質は全く含まない。
【0024】
別の特定の態様において、真核細胞は、ウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質のみを過剰発現する。この態様において、ウイルス膜融合タンパク質、例えばVSV−Gの発現は、細胞において過剰発現されたタンパク質の少なくとも30%、例えば少なくとも50%を示し得る。
【0025】
1つの態様において、前記のウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質は2つの異なるベクターによってコードされ得る。
【0026】
1つの態様において、前記のウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質は、バイシストロン性発現カセットを含む単一のベクターによって保有され得る。関連する態様において、前記のウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質は互いに共有結合されていない。
【0027】
1つの態様において、発現ベクターは、エピソーム複製プラスミド、および例えば、SV40 ORIまたはEBV ORI配列などのウイルス性の起点配列を含むプラスミドを含み得る。
【0028】
発現ベクターを介する過剰発現は、分子生物学の分野において知られている任意の遺伝子導入法を含み得る。好ましい態様において、過剰発現は外来性DNAのトランスフェクションによって得られる。適切なトランスフェクション法は、当業者に公知の古典的な方法、例えばリン酸カルシウムトランスフェクション、リポソームを使用するトランスフェクション(リポフェクションとしても知られる)または電気穿孔法である。所与の細胞に対して適切なトランスフェクション法を選択することは当業者の技能の範囲内である。
【0029】
好ましい態様において、過剰発現はウイルス形質導入によって得られる。
【0030】
過剰発現は一過性過剰発現または安定な過剰発現であり得る。
【0031】
一過性の過剰発現を使用する場合、細胞は、典型的には、トランスフェクションから48時間後から72時間後までの間に最適量のウイルス膜融合タンパク質および/または対象のタンパク質を過剰発現する。
【0032】
「過剰発現」という用語はまた、内因性タンパク質、すなわち真核細胞によって天然に発現されるタンパク質の過剰発現を含む。過剰発現は、前記タンパク質をコードする遺伝子のさらなるコピーの導入、または内因性タンパク質の発現の刺激のいずれかに存し得る。例えば、真核細胞を、前記内因性タンパク質の発現を増強することが知られる培養条件下に置くことができる。
【0033】
本発明の態様において、真核細胞は、2〜5つの異なる対象のタンパク質を過剰発現する。
【0034】
典型的には、前記ウイルス膜融合タンパク質は、クラスIウイルス膜融合タンパク質、例えばインフルエンザウイルスヘマグルチニン、クラスIIウイルス膜融合タンパク質またはクラスIIIウイルス膜融合タンパク質である(クラスIIIウイルス膜融合タンパク質に関する総説Backovic et al, Curr Opin Struct Biol 2009, 19(2):189-96またはCourtney et al, Virology Journal 2008, 5:28を参照されたい)。
【0035】
好ましい態様において、前記ウイルス膜融合タンパク質は、クラスIウイルス膜融合タンパク質である。
【0036】
クラスIウイルス膜融合タンパク質の例は、バキュロウイルスFタンパク質、特に核多角体病ウイルス(NPV)属のFタンパク質、例えばSpodoptera exiguaMNPV(SeMNPV)Fタンパク質およびLymantria dispar MNPV(LdMNPV)Fタンパク質である。
【0037】
好ましい態様において、前記ウイルス膜融合タンパク質はクラスIIIウイルス膜融合タンパク質である。
【0038】
クラスIIIウイルス膜融合タンパク質の例は、ラブドウイルスG(例えば水疱性口内炎ウイルスの膜融合タンパク質G(VSV−G))、ヘルペスウイルスgB(例えばヘルペス単純ウイルス1の糖タンパク質B(HSV−1 gB))、EBV gB、ソゴトウイルスG、バキュロウイルスgp64(例えばAutographa California multiple NPV (AcMNPV) gp64)、およびボルナ病ウイルス(BDV)糖タンパク質(BDV G)である。
【0039】
より好ましい態様において、前記のウイルス膜融合タンパク質はVSV−Gまたはバキュロウイルスgp64である。1つの態様において、前記ウイルス膜融合タンパク質は、Genbank AN:M35219.1に定義されているようなVSV−Gポリペプチド、または膜融合特性を保持した任意の機能的フラグメントまたはその機能的誘導体である。
【0040】
本明細書において使用する「膜融合性」という用語は、ターゲット細胞の膜への微小胞の形質膜の融合を誘導し得るウイルスタンパク質を指す。
【0041】
本発明の1つの態様において、本発明による真核細胞はさらに、膜発芽を誘導するタンパク質を過剰発現する。この態様において、微小胞の産生が増強される。
【0042】
本明細書において使用する「膜発芽を誘導するタンパク質」という表現は、脂質二重層の変形を促進し得、そして小胞の形成を媒介し得る、任意のタンパク質を指す。
【0043】
所与の試験タンパク質が膜発芽を誘導する能力は、以下のin vitroの試験「A」に従って評価することができ:HEK293T細胞を試験タンパク質でトランスフェクションするか、または空ベクターを用いて偽トランスフェクションする。トランスフェクションから20時間後、細胞培地をR18含有培地(20μg/ml)と交換する。R18、すなわちオクタデシルローダミンBクロライドは、膜に結合し、そして560nmでの励起時に590nmで蛍光を発する親油性化合物である。R18を細胞膜へと取り込ませるための6時間のインキュベーション後、培地を、R18を含まない新しい培地と交換する。トランスフェクションから72時間後、トランスフェクションした細胞および偽トランスフェクションした細胞からの培地を回収し、清澄化し、そして蛍光光度計によって分析した。レサズリンに基づいたアッセイによって計測した生細胞の数に対して規準化した、R18に関連した蛍光の量は、各条件において細胞によって放出される膜の量を反映する。
【0044】
試験タンパク質は、上記の試験「A」によって測定したところ、細胞あたりのR18に関連する蛍光の量を増加させるならば、膜発芽を誘導すると考えられる。
【0045】
種々の細胞タンパク質およびウイルスタンパク質が膜発芽を誘導することが知られている。
【0046】
膜発芽を誘導する細胞タンパク質の例は、プロテオリピドタンパク質PLP1(Trajkovic et al. 2008 Science, vol 319, p 1244-1247)、クラスリンアダプター複合体AP1(Camus et al., 2007. Mol Biol Cell vol 18, p3193-3203)、脂質特性を改変するタンパク質、例えばフリッパーゼ、スクランブラーゼ、非古典的経路を介して分泌を促進するタンパク質、例えばTSAP6(Yu et al. 2006 Cancer Res vol 66, p4795-4801)およびCHMP4C(Yu et al. 2009, FEBS J. vol 276, p2201-2212)である。
【0047】
膜発芽を誘導するウイルスタンパク質の例は、テテリン(tetherin)/CD317アンタゴニスト、例えばHIVのVpuタンパク質(Neil et al. 2008. Nature vol451, p425-4431)および種々のウイルス構造タンパク質、例えばレトロウイルスGAG(Camus et al., 2007. Mol Biol Cell vol 18, p3193-3203)およびエボラVP40(Timmins et al., Virology 2001)である。
【0048】
膜発芽は、ウイルス膜融合タンパク質および対象のタンパク質を過剰発現する真核細胞の細胞培養条件、例えば温度、Ca2+、濃度などを改変することによっても誘導され得る。
【0049】
本明細書において使用するような、前記の対象のタンパク質は、ターゲット細胞へと導入されることが望まれる任意のタンパク質またはポリペプチドであり得る。1つの態様において、前記の対象のタンパク質は、全くウイルス膜融合タンパク質または全く前記のウイルス膜融合タンパク質のフラグメントまたは膜融合特性を保持した誘導体を含まない。
【0050】
典型的には、前記の対象のタンパク質は、異種タンパク質、例えば膜タンパク質、細胞質タンパク質、ウイルスタンパク質または核タンパク質であり得る。本明細書に使用するような「異種」という用語は、前記タンパク質が、前記の対象のタンパク質を過剰発現する真核細胞のゲノムに天然に見られる遺伝子からは発現されないことを意味する。
【0051】
あるいは、前記の対象のタンパク質は、内因性タンパク質、例えば特定の細胞系において高い量で天然に発現されているタンパク質であり得る。この態様において、高い量で対象のタンパク質を天然に発現する細胞株は、前記の対象のタンパク質および前記の膜融合タンパク質を含む微小胞を産生するように、VSV−Gなどの膜融合タンパク質をさらに過剰発現するように工学操作されている。
【0052】
適切な膜タンパク質の例は、膜レセプター、CD81、mCAT−1(同種指向性(Ecotropic)レセプター)、CXCR4およびホーミングタンパク質、CD4、CCR5、シアル酸リッチタンパク質、クローディン、CD21、T細胞レセプター、B細胞レセプター、CFTRおよびTNFR1である。
【0053】
適切な細胞質タンパク質の例は、アポトーシス因子、例えばBAX、BID、BAK、BAD、FasLおよび蛍光タンパク質、例えばGFP、YPF、Venus、CFP、DsRed、Cherry-Red、およびDsRed2である。
【0054】
ウイルスタンパク質の例は、tat、rev、gpl20、GP41(HIV−1/2、SIV)、vpx(SIV)、tax、rex(HTLV−1)、EB1、EBNA2、EBNA1、BHRF1(EBV)、NS3、NS5A、NS1、NS2、Core、E1、E2(HCV)、スモールT抗原、ラージT抗原(SV40)、NS1、ノイラミニダーゼおよびHA(インフルエンザ)である。
【0055】
核タンパク質の例は、転写因子または補因子、tTAテトラサイクリントランス活性化因子、VP16およびVP16含有融合タンパク質、CREリコンビナーゼ、Cre−Ert2リコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼまたはフリッパーゼ、Hinリコンビナーゼ、RecA/RAD51、Treリコンビナーゼ、メガヌクレアーゼ、例えばI−Sce1、転写因子、例えばGATA−1、FOG、NF−E2、TAL1/SCL、EKLF、FBI−1、RUNX1、PU.1、レチノイン酸レセプター、ビタミンB3レセプター、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質、イカロス、Pax5、ヤヌスキナーゼ、E2A、Bcl−6、EBFファミリー、Egr2および3、KlF5、TcF4、MyoD、SUM−1、ミオゲニン、myf−5、MRF4、Pitx2、Egr2およびEgr3、NFkB、AP1、AP2、POU因子、Sp1/Sp3、bHLH、Engrailed2、Foxg1、ELF3、Erm、Olf−1、Pax6、α−Pal/Nrf−1、Nurr1およびPitx3である。
【0056】
有利には、本発明者らは、対象のタンパク質が、一旦、ターゲット細胞に導入されると、その機能性を保持することを示した。特に、前記の対象のタンパク質はターゲット細胞においては開裂しない。例えば、前記の膜レセプターは、その対応するリガンドを認識することができるように、微小胞による送達後に細胞膜中に正しく局在する。別の態様において、前記の対象のタンパク質は、転写因子によって調節される遺伝子の転写を刺激または抑制することができるように、微小胞による送達後に核内に正しく局在する転写因子または対応する補因子である。
【0057】
本発明の態様において、対象のタンパク質は、細胞膜に局在するように修飾されていてもよい。
【0058】
1つの態様において、対象のタンパク質は、ウイルス膜融合タンパク質に融合している。有利には、対象のタンパク質は、酸性条件下で開裂できるタンパク質分解開裂部位を導入することによって、酸性条件下で膜から放出されるようにさらに修飾されていてもよい。酸性条件下で開裂されるタンパク質分解開裂部位の例は、fluHA開裂部位、NipahウイルスFタンパク質開裂部位またはカテプシン開裂部位である。
【0059】
代替的な態様において、対象のタンパク質は、ウイルス膜融合タンパク質に融合していない。実際に、前記の対象のタンパク質は、ウイルス膜融合タンパク質と共に過剰発現されると、微小胞中に共局在し得ることが示された。典型的には、タンパク質のファルネシル化に関与するファルネシルモチーフおよび/またはタンパク質のミリスチル化に関与するミリスチルモチーフを導入して、タンパク質を膜へと指向させ得る。
【0060】
1つの態様において、ウイルス膜融合タンパク質および/または対象のタンパク質は、真核細胞から放出される微小胞の精製を可能とするタグを含み得る。前記タグは、例えば、ウイルス膜融合タンパク質の外部ドメインに局在し得る。適切なタグとしては、Flagタグ、HAタグ、GSTタグ、His6タグが挙げられるがそれらに限定されるわけではない。適切なタグおよび前記タグの適切な精製法を選択するのは当業者の技能範囲内である。適切な精製法としては、免疫沈降法、アフィニティクロマトグラフィー、および抗タグ特異的抗体でコーティングされた磁気ビーズが挙げられるがそれらに限定されるわけではない。
【0061】
好ましい態様において、本発明による真核細胞はウイルスを含まず、特に、前記真核細胞は、ウイルス構造タンパク質をコードする核酸を全く含まない。
【0062】
本発明はまた、本発明による真核細胞によって分泌される微小胞に関し、前記微小胞は、前記ウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を含む。別の態様において、前記微小胞は、前記のウイルス膜融合タンパク質に共有結合していない前記の対象のタンパク質を含む本発明による真核細胞から得られる。
【0063】
理論によって固めたくはないが、前記微小胞はエキソソーム様であり、40〜150nm、例えば40〜100nmのサイズ、例えば約100nmの平均サイズであると考えられている。典型的には、本発明による微小胞は、1.08g/ml〜1.12g/mlの密度を有する。好ましくは、本発明による微小胞は1.09g/ml〜1.11g/mlの密度を有する。典型的には、前記密度は、実施例1に定義したような連続的なイオジキサノール勾配を通しての沈降によって測定され得る。
【0064】
ウイルス膜融合タンパク質および/または対象のタンパク質の一過性過剰発現が使用される場合、微小胞は、典型的には、トランスフェクションから48〜72時間後の細胞上清から収集される。典型的には、本発明による微小胞は、本発明による真核細胞の細胞上清の濾過(例えば0.45μmの孔径のフィルター)および超遠心分離、例えば110,000gで1.5時間の超遠心分離によって単離され得る。有利には、本発明による微小胞は、ターゲット細胞へ材料を導入する能力を失うことなく−80℃で凍結および保存され得る。
【0065】
別の態様において、本発明による前記微小胞は、前記の対象のタンパク質をコードする核酸を全く含まない。
【0066】
好ましい態様において、本発明による微小胞はウイルスを含まない。
【0067】
当初は免疫系細胞について記載されたが、細胞から放出された微小胞は、in vivoにおいて多くの体液中に見出される(Simpson et al. Proteomics 8, 4083-4099 (2008))。多くの研究が、免疫応答のモデュレーションおよび細胞間情報伝達におけるこれらの微小胞の役割を強調している。
【0068】
理論によって固めたくはないが、本発明の微小胞はエキソーム様の小胞であり、そしてウイルス膜融合タンパク質の存在は、前記の微小胞が、前記微小胞に含まれる材料をターゲット細胞に効率的に送達することを可能としていると考えられる。
【0069】
本発明はまた、前記のターゲット細胞を、前記の対象のタンパク質を含む本発明の微小胞と接触させることによって、対象のタンパク質をターゲット細胞にin vitroで送達するための方法に関する。
【0070】
ターゲット細胞の例は、普通の実験細胞株、例えばHela細胞および誘導体、HEK293細胞、HEK293T細胞、NIH3T3細胞および誘導体、HepG2細胞、HUH7細胞および誘導体、小細胞肺癌細胞、Caco−2細胞、L929細胞、A549細胞、MDCK細胞、THP1細胞、U937細胞、Vero細胞およびPC12細胞;骨髄から、血液から、臍帯血から精製したヒト造血細胞CD34+;単球からまたはCD34+細胞から分化した樹状細胞(DC);T細胞(CD8およびCD4)、B細胞(記憶B細胞を含む)、肥満細胞、マクロファージ、DCs、NK細胞を含む、血液から精製した初代ヒト細胞;T細胞(CD8およびCD4)、B細胞(記憶B細胞を含む)、肥満細胞、マクロファージ、DCs、NK細胞を含む、血液から精製した初代マウス細胞;MRC5細胞、IMR90細胞を含む初代ヒト線維芽細胞;初代マウス線維芽細胞、およびヒト、マウス、ラット、ニワトリ、ウサギ起源の胚幹細胞(ES)である。
【0071】
本発明の微小胞の指向性は、使用されるウイルス膜融合タンパク質の指向性に依存する。
【0072】
例えば、VSV−Gは汎親和性であるので、VSV−Gを含む本発明による微小胞はほぼすべての細胞をターゲティングする。気道細胞に指向性を有するウイルス膜融合タンパク質を含む微小胞が、気道細胞をターゲティングするのに好ましくは使用される。
【0073】
好ましい態様において、本発明による微小胞は、ターゲット細胞と微小胞産生細胞との共培養によってin situで産生される。1つの特定の態様において、ターゲット細胞および微小胞産生細胞を、多孔性の壁によって隔てられた2つの異なるコンパートメント中に物理的に配置させ、前記の多孔性の壁は、真核細胞の直径よりも小さいが、対象の微小胞の直径よりは大きい直径を有する孔を有する。有利には、本発明による真核細胞によって産生されるような微小胞は、一方のコンパートメントから他方のコンパートメントへと拡散して、ターゲット細胞に到達し得、そこで対象のタンパク質を送達することができる。
【0074】
この技術は、単離工程を必要とすることなく、ターゲット細胞へのタンパク質の送達を可能とする。
【0075】
典型的には、いくつか(例えば、2、3、4、5、6・・・)の異なる対象のタンパク質は、ターゲット細胞を、前記のいくつかの異なる対象のタンパク質を含む本発明のいくつかの異なる微小胞と接触させることによって、ターゲット細胞に送達され得る。
【0076】
典型的には、前記のいくつかの異なる微小胞の接触は同時または連続的であり得る。
【0077】
複数のウイルスベクターによって成し遂げられる遺伝子送達とは対照的に、本発明による微小胞を用いてのタンパク質の送達は、多くの細胞型へのウイルスによる形質導入を制限する転写機械またはどのウイルス組込みプロセスも含むことなく、ターゲット細胞に機能を迅速に導入するためのオリジナルな方法である。本発明による微小胞は、休止細胞または完全に分化した細胞を含む実質的にあらゆる細胞型において使用され得る。
【0078】
遺伝子トランスフェクションなどの古典的な遺伝子導入技術とは対照的に、本発明の方法は、ターゲット細胞内における転写および翻訳に依拠せず、細胞の代謝を撹乱しない。従って、本発明による方法は全くインターフェロン応答を活性化せず、それ故、ターゲット細胞に対象のタンパク質を送達するためのより特異的な方法であると考えられる。
【0079】
本発明による微小胞によって送達される材料が少量であることおよびその非遺伝子性から、微小胞は、タンパク質の少量で一過性の存在が顕著な生物学的効果をもたらし得る適用について、すなわち、高い生物学的浸透性を有するタンパク質に有用であるようである。
【0080】
当業者は、各々の具体的な目標に従って、対象のタンパク質/ターゲット細胞の適切な対を容易に選択するだろう。細胞、微小胞および本発明による方法の適用の非制限的な例を以後に記載する。
【0081】
1つの局面において、本発明は、本発明による微小胞のin vitroにおける使用に関する。
【0082】
1つの局面において、本発明は、本発明による微小胞のin vivoにおける使用に関する。
【0083】
1つの局面において、本発明は、非治療適用のための本発明による微小胞の使用に関する。
【0084】
典型的には、本発明による微小胞は、ターゲット細胞に対象のタンパク質をin vitroにおいて導入して、前記の対象のタンパク質の生理学的効果を研究するために使用され得る。基礎科学の調査のためのツールとしての本発明の多くの可能な適用がある。
【0085】
例えば、細胞、微小胞および本発明による方法は、誘導発現系の誘導に必要な特定の補因子を送達するために使用され得る。典型的には、対象のタンパク質としては、Creリコンビナーゼ(cre/lox系の誘導に有用)、tTAトランス活性化因子(テトラサイクリンオペレーターの誘導に有用)が挙げられる。前記補因子はターゲット細胞に導入することが困難であることが多く、そして、対象のタンパク質の送達を正確に制御することによって誘導系の動態を正確に制御することが望ましい。
【0086】
別の例は、in vitro細胞モデルにおける、細胞の増殖、分化または死滅を調節する細胞タンパク質の送達である。典型的には、細胞、微小胞および本発明の方法を使用して、Bax−2などのアポトーシス促進因子を送達することができ、そしてアポトーシスをモデュレーションする分子をスクリーニングすることができる。
【0087】
本発明はまた、療法に使用するための本発明による微小胞に関する。
【0088】
本発明はまた、移植片拒絶の予防に使用するための本発明による微小胞に関する。
【0089】
特定の細胞表面タンパク質が、造血幹細胞(HSC)の遊走能または移植に影響を及ぼすことが示された。例えば、CXCR4の一過性送達は、HSCを使用する細胞療法において、移植プロセスを促進するためのホーミング分子として有用であり得る。遺伝子導入を使用することは望ましくなく、これにより、CXCR4は全ての子孫細胞に導入されることになるだろう。対照的に、本発明の方法は、移植が起こる必要がある時だけ、一過性で制御されたタンパク質の導入を可能とする。
【0090】
本発明はまた、転写因子の送達により細胞分化を誘導または強化するための方法に関する。特に、本発明の細胞および微小胞は、巨核球分化、骨髄系細胞分化、リンパ球細胞分化、NK分化、アストロサイト分化、オリゴデンドロサイト前駆細胞の成熟、筋肉細胞分化、ケラチノサイト分化、網膜分化、赤血球細胞分化、脂肪細胞分化のために使用され得る。
【0091】
別の可能な適用は、ウイルス(コ)レセプターをターゲット細胞に送達することによるウイルス感染の増強である。例えば、本発明の細胞および微小胞を使用して、HCVレセプターおよびコレセプター、HBVレセプター、出血熱ウイルスレセプター、HIV−1レセプターおよびコレセプター、並びにMLV−Eレセプターを送達することができる。
【0092】
特に、本発明は、レセプターの送達、例えば細胞を同種指向性ウイルス粒子に一過性に許容性とさせるレセプターの送達に関する。
【0093】
例えば、本発明の微小胞、細胞および方法を使用して同種指向性レセプターEcoR(例えばm−CAT1)をターゲット細胞に送達して、前記ターゲット細胞を同種指向性ウイルスに対して許容性とさせることができる。その後、任意の対象の遺伝子を、適切な同種指向性ウイルス構築物を介してターゲット細胞(同種指向性レセプターを発現する)に送達することができる。
【0094】
本明細書において使用する「同種指向性」という用語は、当技術分野においてその一般的な意味を有する。同種指向性ウイルスは、それが起源とする種の宿主においてのみ複製することのできるレトロウイルスである。より具体的には、本明細書において使用する「同種指向性ウイルス」という用語は、その同族レセプターである同種指向性レセプターEcoRを発現している細胞においてのみ複製することのできるげっ歯類ウイルスを指す。
【0095】
有利には、前記の同種指向性ウイルスは実験者にとって安全である。なぜなら、それは同種指向性ウイルスレセプターを発現している微小胞によってターゲティングされたもの以外のヒト細胞には感染できないからである。
【0096】
典型的には、前記の同種指向性ウイルスはモロニーに基づいたレトロウイルスであり、そして前記同種指向性レセプターはm−CAT1である。m−CAT1をコードする遺伝子の一例は、GenbankアクセッションナンバーNCBIリファレンス配列NM_007513.3に示されている。
【0097】
従って、本発明は、
− ウイルス膜融合タンパク質、例えばVSV−GとEcoR同種指向性ウイルスレセプターとを含む微小胞によって、ターゲット細胞に前記EcoR同種指向性ウイルスレセプターを送達する工程、
− 対象のタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む同種指向性ウイルスによって、前記ターゲット細胞に前記の対象のタンパク質を送達する工程
を含む、細胞に対象のタンパク質を送達するための方法に関する。
【0098】
さらに、本発明の細胞および微小胞は、トランス活性化されたウイルスタンパク質(HCVタンパク質、HBVタンパク質、HIV−1/2またはSIVタンパク質、出血熱ウイルスタンパク質、インフルエンザウイルスタンパク質、EBVタンパク質、SV40タンパク質)をウイルス産生細胞に送達することによって、ウイルス感染またはウイルス/ベクターの産生を増強するためのものであり得る。
【0099】
別の可能な適用は、細胞外シグナルに対して細胞を一過性に許容性とするレセプターの送達である。
【0100】
例えば、本発明の微小胞、細胞および方法を使用して、ターゲット細胞としてのT細胞に抗ウイルスTCRを導入して、そして前記T細胞をその抗腫瘍特性のために使用することができる(Cohen et al., Cancer Research, 2007, 67, 3898-3903; Johnson et al. J Immunol. 2006, 177, 6548-6559およびZhao et al., J Immunol, 2005, 174, 4415-4423)。
【0101】
従って、本発明はまた、癌の処置において使用するための本発明による微小胞に関する。
【0102】
ワクチン接種の分野において、樹状細胞(DC)は免疫応答を刺激するために抗原提示細胞として使用されることが多い。
【0103】
しかしながら、樹状細胞は細胞株としては存在せず、そして初代培養から得なければならない。
【0104】
本発明は、ワクチン接種の目的に使用することのできる代替のDCを提供する。実際に、本発明の方法を使用して、MHCまたは共刺激因子および/または抗原を含む微小胞を産生する改変されたプロデューサー細胞株を提供することができる。前記微小胞をワクチン接種の目的のために使用することができる。
【0105】
また、本発明の細胞、微小胞および方法を使用して、特異的な抗原を抗原提示細胞に送達して、免疫応答を促進することができる。
【0106】
以下において、本発明は、以下の実施例および図面によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1A】VSV−Gを有する微小胞へのYFPの取り込み。(A)pVSV−G(レーン1)、pVSV−G V72(レーン2)、SwFlagEcoR(レーン3)、SwFlagEcoRおよびpVSV−G(レーン4)によってトランスフェクションおよび偽トランスフェクション(レーン5)された293T−YFPによって産生された濃縮微小胞のウェスタンブロット分析。免疫染色を、VSV−G(P5D4)、EcoRのタグ化バージョンを示すSigma flag(M2)およびYFP(GSN24)に対して作られたモノクローナル抗体を用いて実施した。
【図1B】VSV−Gを有する微小胞へのYFPの取り込み。(B)YFPのみを発現する細胞からの微小胞に曝された細胞と比較した、VSV−GおよびYFPを発現する細胞からの微小胞に曝された細胞のFACS分析。
【図1C】VSV−Gを有する微小胞へのYFPの取り込み。(C)HEK細胞を、野生型VSV−Gタンパク質(wt)または融合に欠陥のある突然変異体W72Vをコードするプラスミドのいずれかによってトランスフェクションした(2つのDNAクローンを試験した)。その外部ドメインの欠失した切断短縮形のVSV−Gも実験に含められた。トランスフェクションから48時間後、上清を収集し、そして細胞をウェスタンブロット分析のために溶解した。プロデューサー細胞においては全てのタンパク質が高度に発現された。しかしながら、wt VSV−Gのみが上清中に検出され、融合に欠陥のある突然変異体は検出されなかった。
【図1D】VSV−Gを有する微小胞へのYFPの取り込み。(D)HEK細胞を上記のようにトランスフェクションし、そしてトランスフェクションから20時間後に、膜に結合する蛍光親油性化合物R18を0.2μg/ml含む培地中で6時間インキュベーションした。トランスフェクションから72時間後、異なる細胞型からの培地を回収し、清澄化し、そして蛍光光度計によって分析して、上清中に放出された膜の量を反映するR18に関連した蛍光の量を定量した。結果を、生細胞の数によって規準化したR18値として示す。
【図2A】CD81/VSV−Gでコーティングされた微小胞の生化学的および機能的分析。(A)293Tプロデューサー細胞上でのCD81発現。マウスIgGアイソタイプ対照を使用した(影の付いた領域)。
【図2B】CD81/VSV−Gでコーティングされた微小胞の生化学的および機能的分析。(B)処理から1時間後の濃縮微小胞に曝されたHepG2細胞上におけるCD81発現。非処理HepG2も同様に標識した(灰色で影の付いた対照)。
【図2C】CD81/VSV−Gでコーティングされた微小胞の生化学的および機能的分析。(C)種々の用量の微小胞を用いて処理されたHepG2細胞におけるHCVppの形質導入の増強。HCVppをコードするYFOを293細胞において産生し、そして1mlあたり8×10の形質導入単位(TU)のHUH7.2細胞上で前滴定した。図は、曝された微小胞の量と共に増加するHepG2の力価を示す。
【図2D】CD81/VSV−Gでコーティングされた微小胞の生化学的および機能的分析。(D)CD81を有する微小胞の密度分析。微小胞を、膜脂質を標識するフルオロフォアであるオクタデシルローダミンBクロライド(R18)と共に培養した293T細胞中で産生した。濃縮された微小胞を連続的なイオジキサノール勾配にかけ、そしてSW41ローターで41000rpmで12時間遠心分離にかけた。その後、20個の0.5ml画分を回収し、そして各画分の1/20を半天然条件下でウェスタンブロットによって分析した。13〜20の画分についてのVSV−GおよびCD81の免疫標識が示され、そして他の画分には存在しなかった(示していない)。
【図3A】ゲシクル(Gesicle)の特徴付け。(A)回収した画分におけるイオジキサノール密度勾配時の膜に関連した蛍光。濃縮したVSV−Gゲシクルを連続的なイオジキサノール勾配にかけ、そして3時間遠心分離にかけた。20個の500μlの画分をチューブの底から回収し、示されるように画分1は1.46の密度に対応し、そして画分20は1.07の密度に対応した。各画分の1/5(100μl)を評量し、そして96ウェルプレートに移し、その後、蛍光光度計で分析した。図は、560nmでR18を励起した時の590nmにおける発光値を示す。
【図3B】ゲシクル(Gesicle)の特徴付け。(B)YFPおよびCD81を有するゲシクルの特徴付け。上のパネル:密度勾配時の回収した画分におけるYFPに関連した蛍光の分析。YFP陽性細胞において産生された濃縮VSV−Gゲシクルを連続的なイオジキサノール勾配にかけ、そして3時間遠心分離にかけた。20個の500μlの画分をチューブの底から回収し、示されるように画分1は1.3の密度に対応し、そして画分20は1.09の密度に対応した。各画分の1/5(100μl)を評量し、そして96ウェルプレートに移し、その後、蛍光光度計で分析した。図は、495nmでYFPを励起した時の533nmにおける発光値を示す。下のパネル:ヒト細胞におけるYFP偽形質導入の分析。各画分の1/10を、12ウェルプレート中で培養した1×10個のHEK細胞にのせた。24時間後、細胞をFACSによって分析した。図は、異なる画分に曝された各細胞個体群の平均蛍光強度(MFI)を示す。
【図4A】EcoRを有するゲシクルによるヒト細胞へのEcoRの送達。(A)mCAT−1をコードするプラスミドの図解(pCMVは初期ヒトサイトメガロウイルスプロモーターを意味し、USiTはユニバーサルなsiRNAによってターゲティングされる3つの反復配列のコンカテマーを意味し、PAはSIVポリアデニル化シグナルを意味する)。下に示したmRNAは、USiT配列を備え、この配列はユニバーサルなsiRNAによって媒介される分解に高度に感受性とさせる。
【図4B】EcoRを有するゲシクルによるヒト細胞へのEcoRの送達。(B)mCAT−1ゲシクルで処理された293T細胞上でのMLV同種指向性エンベロープを用いて偽型化されたGFPをコードするレンチウイルスベクターの力価。HEK293T細胞を、2μg(レーン1)および4μg(レーン2)の濃縮ゲシクルを用いて37℃で1時間かけて処理した。PBSで2回洗浄した後、細胞を、MLV同種指向性エンベロープ(レーン1、2および3)またはVSV−Gエンベロープ(レーン4)を用いて偽型化された100μlのGFPレンチベクターの調製物を用いて形質導入した。形質導入から3日後、細胞をFACSによって分析し、そしてベクター調製物の力価を計算し、そして3つの異なる形質導入アッセイの平均として示す。
【図5】mCAT−1を有するゲシクルの生化学的および機能的分析。ゲシクルを、VSV−Gおよびタグ化バージョンのmCAT−1(マウス白血病ウイルス同種指向性株のレセプター)によるHEK293T細胞の同時トランスフェクションにより調製した。細胞培地を24時間後に交換し、そして翌々日に回収した。上清を清澄化し、その後、SW41ローターで35000rpmで1時間30分間超遠心分離にかけた。ペレットをPBSに再懸濁し、そして凍結させ、その後、密度精製プロセスを行なった。連続的なイオジキサノール勾配を通してのレートゾーン遠心分離:未精製の濃縮した小胞を、連続的なOptiprep勾配にのせ(215mMスクロース、2mM EDTA、10mMトリスHClpH8中の6%イオジキサノール/5mMスクロース、2mM EDTA、10mMトリスHCLpH8中の56.4%イオジキサノール)、そしてSW41ローターで41000rpmで12時間遠心分離にかけた。画分(0.5ml)を勾配の底から回収し、そして4℃で維持し、その後、ウェスタンブロット分析および機能的アッセイを行なった。100μlの各画分を注意深く評量することによって画分の密度を測定した。画分12〜20のタンパク質を、MOPS緩衝液中で流した4〜12%ビス−トリスNuPageゲル(Invitrogen)を使用してSDS−PAGEを介して分離した。5μlの各画分を分析した。ニトロセルロース膜上へとエレクトロブロットした後、タンパク質を、1/1000で希釈したVSV−G(P5D4 Sigma)に対して作られるペルオキシダーゼのコンジュゲートした抗体または1/1000のペルオキシダーゼのコンジュゲートした抗Flag(Sigma)(両方共に室温で1時間インキュベーションした)によって明らかとした。画分の生物学的活性を評価するために、30μlの各試料を、24ウェルプレートに1ウェルあたり1×10個の細胞で播種した293T細胞に加えた。1時間後、培地を、同種指向性エンベロープを用いて偽型化されたGFPをコードするレンチベクターを含む200μlの上清の補充された200μlの新たな培地と交換した。形質導入から48時間後、細胞をトリプシン処理し、蛍光値(MFI)をFACSによって分析した。
【図6】ゲシクルで処理したヒト細胞に導入されたmCAT−1の消失。 HEK293T細胞を、37℃で1時間、飽和未満の用量のEcoR−ゲシクルに曝した。2回洗浄した後、細胞を、ゲシクルへの曝露から5分後、12時間後、24時間後または45時間後に、同種指向性エンベロープを用いて偽型化されたGFPレンチベクターを用いて形質導入した。同じ形質導入アッセイを、EcoRを安定に発現している293T細胞に対して実施して、ターゲット細胞の分裂に因る進行的なレンチベクター力価の減少を測定した。結果を、5分後の時点で得られた形質導入値(100%)と比較した形質導入効率の比率として示す。全ての数値を、細胞分裂率に関して修正した。
【図7A】EcoRmRNAの特異的分解は、ゲシクルによって導入されたEcoRの機能に影響を及ぼさない。si−mCATの機能的検証。mCAT−1に対して設計された合成siRNAを、さらにフラッグのついたmCAT−1をコードするプラスミドと共にヒト細胞においてトランスフェクションした。si−mCAT細胞およびsi−CTL細胞を次に、mCATのその発現、および同種指向性(EcoLV)(黒い棒)および汎親和性対照レンチウイルスベクター(gLV)(灰色の棒)を用いての形質導入に対するその許容性について調べた。(A)si−CTL細胞およびsi−mCAT細胞におけるmCAT−1免疫染色。
【図7B】EcoRmRNAの特異的分解は、ゲシクルによって導入されたEcoRの機能に影響を及ぼさない。si−mCATの機能的検証。mCAT−1に対して設計された合成siRNAを、さらにフラッグのついたmCAT−1をコードするプラスミドと共にヒト細胞においてトランスフェクションした。si−mCAT細胞およびsi−CTL細胞を次に、mCATのその発現、および同種指向性(EcoLV)(黒い棒)および汎親和性対照レンチウイルスベクター(gLV)(灰色の棒)を用いての形質導入に対するその許容性について調べた。(B)mCAT−1によってトランスフェクションされたターゲット細胞におけるGFPレンチベクターを用いての形質導入アッセイ。形質導入値を、形質導入から72時間後にFACSによって分析し、そしてsi−CTL細胞について100%の効率と設定した。EcoLV形質導入の70%が、si−mCATで処理された細胞において阻害されたが、gLVにより媒介される形質導入はほぼ影響を受けない(8%の阻害)。ターゲット細胞におけるmCAT mRNAの特異的分解は、ゲシクルによって導入されたEcoR機能に殆ど影響を及ぼさない。
【図7C】EcoRmRNAの特異的分解は、ゲシクルによって導入されたEcoRの機能に影響を及ぼさない。si−mCATの機能的検証。mCAT−1に対して設計された合成siRNAを、さらにフラッグのついたmCAT−1をコードするプラスミドと共にヒト細胞においてトランスフェクションした。si−mCAT細胞およびsi−CTL細胞を次に、mCATのその発現、および同種指向性(EcoLV)(黒い棒)および汎親和性対照レンチウイルスベクター(gLV)(灰色の棒)を用いての形質導入に対するその許容性について調べた。(C)mCATゲシクルで処理されたヒト細胞におけるGFP同種指向性レンチベクターを用いての形質導入アッセイ。mCAT小胞によって処理されそしてsi−mCATを有する細胞は、EcoLV形質導入に対して依然として高度に許容性である(対照の87%)。このことは、EcoR機能が、主に、微小胞に含まれるmCATタンパク質によってもたらされ、コンタミしたmRNAでもプラスミドDNAによってもたらされたものでもないことを示す。
【図8】EcoR−ゲシクルによって改変された細胞における、同種指向性レンチウイルス形質導入に対するクロロキンの効果。同種指向性エンベロープ(Eco)を用いて偽型化されたYFPをコードするレンチウイルスベクターが、トランスデューサーHEK293T細胞に使用され、mCAT−1タンパク質が、エンドソームpHを上昇させる薬物であるクロロキン(CQ)の存在下または非存在下においてEcoRゲシクル(EcoR−Ges)によって送達された(レーン3)。対照として、同種指向性偽型がトランスデューサー293T細胞に使用され、EcoRは安定に発現される(安定なEcoR、レーン2)。エンドソーム酸性化に対するCQの効果を確認するために、VSV−Gレンチベクターが、薬物で処理したまたは処理していないターゲット細胞を形質導入するのに使用され、VSV−G偽型の高いpH依存性を示し(レーン1)、一方、同種指向性偽型は薬物処理時に依然として効果的である。結果は、形質導入から72時間後にFACSによって測定した異なる細胞型における相対的なYFP形質導入効率として示される。
【図9】ゲシクルによるtTaの送達。TETトランス活性化タンパク質(tTA off)の転写機能を検出するために、本発明者らは、TETオペレーターの制御下でeGFPを安定に発現するレポーター細胞株を作った。tTAのトランスフェクションは、偽トランスフェクションされた細胞と比較して、レポーター細胞株(tTAレーン)においてeGFPの発現を活性化した。tTAおよびVSV−G(wt)またはその融合能力のない突然変異体V72を過剰発現する細胞において産生されたゲシクルを濃縮し、そして種々の用量でレポーター細胞株にのせた。wtVSV−Gを有するtTAゲシクルの用量の増加によりGFP発現が増強された。このシグナルは、培地へのドキシサイクリンの導入によって消失され得る。結果をゲシクルから24時間後にFACSによって分析したMFIとして示す。
【図10】時間の関数としてのゲシクルにより媒介されるtTA導入効率。HEKレポーター細胞株Teo−GFPを12ウェルプレート(1ウェルあたり1×10個の細胞)に播種し、そしてtTAゲシクル(50μgの全タンパク質)で処理した。曝露時間は5分間から4時間の範囲であった。曝露した後、小胞を含む培地を廃棄し、そして細胞をPBSで洗浄し、そして24時間後のGFP分析のために培養液中に維持した。tTA導入効率は3時間までの曝露時間で次第に上昇し、3時間目が最適な曝露時間である。
【図11】VSV−Gタンパク質は、293T細胞からの小胞の放出および対象のタンパク質の放出を増強する。膜タンパク質の放出:VSV−Gを用いてまたは用いずに産生された小胞に取り込まれた複数回膜貫通タンパク質であるmCAT−1のウェスタンブロット分析。小胞ペレットにおけるmCAT−1の免疫標識は、VSV−Gがプロデューサー細胞に導入された場合にmCAT−1の放出が劇的に増加することを示す。細胞質タンパク質の放出:類似の生化学分析を異なるバッチの小胞調製物に対して実施して、細胞質タンパク質のアクチンの放出を調査した。本発明者らは、VSV−Gが偽小胞と比較してアクチンの放出を感覚的に増強することを注記する。
【図12】3μmの孔径のインサートを通した共培養実験における、ゲシクルにより媒介されるタンパク質の導入。本発明者らは、同じ培地中で、レポーターTeo−GFPレポーター細胞株とプラスミドの種々の組合せでトランスフェクションされたHEK細胞を培養した。細胞を示したように3μmの孔径のフィルターによって、プロデューサー細胞は6ウェル皿の下に、レポーター細胞株は上のインサートに分離した。プロデューサー細胞を、tTA発現プラスミドを用いて、さらに担体DNA、VSV−Gをコードするプラスミドまたは融合欠陥VSV−Gを用いて同時トランスフェクションした。共培養から48時間後、インサートを除去し、そしてレポーター細胞株をトリプシン処理し、そしてFACSによって分析して、tTA送達を評価した。結果は、Teo−GFP細胞株のMFIとして示される。
【図13A】昆虫細胞由来の微小胞の特徴付け。GFP微小胞は、Sf9細胞を組換えバキュロウイルスで72時間かけて感染させることによって産生された。濃縮後、それらをイオジキサノール勾配にかけ、そして215000gで10時間遠心分離にかけて、その密度に従って小胞を沈降させた。画分をチューブの底から回収し、そしてその密度を評量によって測定した。密度勾配はグラフAで評価され得、d=1.3からd=1.05の範囲である。全ての画分を蛍光光度計によって分析して、GFP(励起485、発光515)を検出し、実質的に画分21(A、白い棒)で検出された。また、画分の希釈液を使用して、Sf9細胞を感染させ、バキュロウイルスがどこに沈降したかを同定した。感染から3日後、sf9細胞をFACSによって分析し、そしてバキュロウイルスを滴定した。A(黒い棒)で示された結果は、ウイルスが沈降したことを示した。
【図13B】昆虫細胞由来の微小胞の特徴付け。GFP微小胞は、Sf9細胞を組換えバキュロウイルスで72時間かけて感染させることによって産生された。濃縮後、それらをイオジキサノール勾配にかけ、そして215000gで10時間遠心分離にかけて、その密度に従って小胞を沈降させた。画分をチューブの底から回収し、そしてその密度を評量によって測定した。密度勾配はグラフAで評価され得、d=1.3からd=1.05の範囲である。全ての画分を蛍光光度計によって分析して、GFP(励起485、発光515)を検出し、実質的に画分21(A、白い棒)で検出された。また、画分の希釈液を使用して、Sf9細胞を感染させ、バキュロウイルスがどこに沈降したかを同定した。感染から3日後、sf9細胞をFACSによって分析し、そしてバキュロウイルスを滴定した。A(黒い棒)で示された結果は、ウイルスが沈降したことを示した。(B)各画分のGFP導入能を分析した。それは画分14〜19に含まれ、ウイルスを含む画分を部分的に重複していた。
【図14】tTa昆虫微小胞の中和アッセイ(NA)。tTA微小胞は、tTA−バキュロウイルスで感染させたHigh5細胞において産生された。小胞を濃縮し、そしてPBSに再懸濁し、そして100μlのPBS中で実施したアッセイのために10倍希釈した。0.5等量のリン脂質tTAを、抗gp64抗体(クローンAcV1)または対照抗体(GST)の連続希釈液と共に37℃で2時間インキュベーションした。小胞を次にHEK tTAレポーター細胞(一旦tTAが細胞に導入されるとGFPを発現する)にのせた。24時間後、小胞に曝露された細胞をFACS分析し、そしてGFP発現を定量した。結果を全個体群のMFIとして示す。
【図15】tTA微小胞を使用した用量応答。tTA昆虫小胞を以前に記載のように濃縮および精製し、そして−80℃で保存した。漸増用量の小胞を使用して、HEK tTAレポーター細胞株にtTAを送達し、その結果、小胞の添加から24時間後にはターゲット細胞において検出されるGFPシグナルが増加した。ドキシサイクリン処理細胞はバックグラウンド蛍光を示し、予期されるTET系の誘導性を反映する。
【図16A】ヒト細胞へのtTAの導入は、昆虫細胞由来の微小胞によってなされるが、コードされるバキュロウイルスによってはなされない。(A)バキュロウイルス構築物。
【図16B】ヒト細胞へのtTAの導入は、昆虫細胞由来の微小胞によってなされるが、コードされるバキュロウイルスによってはなされない。(B)tTAレポーター細胞株におけるプロモーター駆動tTAのGFP発現。
【図16C】ヒト細胞へのtTAの導入は、昆虫細胞由来の微小胞によってなされるが、コードされるバキュロウイルスによってはなされない。(C)ゲシクルへのGP64およびtTAの放出。
【図16D】ヒト細胞へのtTAの導入は、昆虫細胞由来の微小胞によってなされるが、コードされるバキュロウイルスによってはなされない。(D)pHまたはCMV精製微小胞を用いての処理時におけるtTAレポーター細胞株におけるGFP発現。
【0108】
実施例
実施例1
要約
本実施例は、水疱性口内炎ウイルスのG糖タンパク質(VSV−G)でコーティングされ、そしてヒトターゲット細胞に外来性タンパク質を送達するのに使用されるエキソーム様小胞の工学操作を記載する。これらの粒子は1.1g/mlの密度で沈降し、そして細胞質タンパク質および膜タンパク質並びに転写因子を効率的にパッケージングし得る。膜mCAT−1タンパク質およびtetトランス活性化因子を含むモデル分子が、微小胞による処理時にヒトターゲット細胞に効率的に送達された。小胞により媒介される偽形質導入により、一過性のタンパク質発現がなされたが、それはmRNAまたはDNAの導入に起因するものではなかった。本発明者らは、エンドソームpHを上昇させる薬物であるクロロキンが、タンパク質導入を無効にしたことを示し、このことはVSV−Gにより誘導される融合が送達機序に関与していたことを示す。
【0109】
VSV−G膜融合性エンベロープが偽形質導入の重要な決定要因である。
本発明者らは、VSV−Gの発現が、偽形質導入し得る粒子の産生をもたらし得るかどうかを試験した。YFPを安定に発現するHEK−293T細胞(293T−Y)を、真核細胞発現ベクターであるpVSV−Gによってトランスフェクションした。上清を2日後に収集し、濾過し、そして超遠心分離によって濃縮した。対照として、同じプロセスを、偽トランスフェクションした293T−Y細胞の上清にも適用した。2つの濃縮した調製物をナイーブ293T細胞に加え、これを1時間曝露した後に洗浄した。24時間後、細胞をトリプシン処理して、FACSによって分析して、2つの個体群の蛍光を測定した。本発明者らは、VSV−G調製物に曝されていた細胞においてはYFPの偽形質導入を観察することができたが、対照調製物に曝露された細胞においては観察できなかった(図1−B)。2つの試料の生化学分析は、大量のYFPがVSV−G調製物中に沈降したが(図1−A レーン1)、偽トランスフェクションされた調製物においてはYFPを殆ど検出できなかった(レーン5)ことを明らかにした。これらのデータは、VSV−Gがプロデューサー細胞の細胞質の成分を含む沈降可能な粒子の強力な放出に関与することを示す。さらに、これらの粒子は、ターゲット細胞にこの材料を送達することができるようであった。細胞を粒子での処理時に洗浄し、そして24時間成長させ、その後、トリプシン処理および分析したので、本発明者らは、YFPシグナルが細胞内のものであり、そして細胞の表面に吸着された蛍光粒子に起因するものではないと想定した。これらのVSV−G微小胞は、実施例1の全体を通してゲシクルと呼ばれる。
【0110】
さらなる観察:融合を引き起こすことのできないVSVG単一アミノ酸突然変異体(VSVG72)14をこのシステムで試験し、そして沈降したペレットには取り込まれなかった(図1 レーン2)。別のウェスタンブロット実験は、この突然変異体がプロデューサー細胞に発現されたが、上清には検出できなかったことを示し、これは細胞および上清中の両方に検出できたwt−VSV−Gとは対照的であった(図1C)。このことは、VSV−G微小胞の産生が、プロデューサー細胞において融合に適した形態のVSV−Gを必要とすることを実証する。
【0111】
CD81テトラスパニンタンパク質の偽形質導入
濃縮調製物によるYFPなどの細胞質タンパク質の細胞から細胞への導入は、293T−Y細胞が、脂質層に囲まれ、そしておそらく、膜タンパク質のような293T細胞の他のタンパク質にもコーティングされた、YFPを有する小胞を産生したという考えを支持する。この仮説を試験するために、本発明者らは、293T細胞をVSV−Gを用いてトランスフェクションすることによって新しいバッチのゲシクルを調製し、そしてこの濃縮調製物を使用して、エキソームに特徴的でそして293T細胞上に豊富に発現されているテトラスパニンタンパク質であるCD81タンパク質の導入を調査した(図2A)。得られた材料を、CD81を欠失したヒト肝細胞株であるHepG2細胞に適用した。本発明者らは、ゲシクルに1時間曝されたHepG2細胞は、CD81免疫標識時に陽性として染色されたことを示したが、このことは、前記タンパク質がプロデューサー細胞からターゲット細胞へと移動したことを示す(図2.B)。
【0112】
HepG2への外来性CD81の導入は、HCVエンベロープ(HCVpp)で偽型化されたレトロウイルスベクターによるこの細胞株の形質導入を可能とすることが知られている(Zhang. et al. Journal of virology 78, 1448-1455 (2004))。実際に、CD81は、E2糖タンパク質によって認識されるHCVレセプターの1つとして記載されている。従って、CD81の導入をさらに検証するために、本発明者らはHepG2を種々の用量のゲシクルに曝し、そしてナイーブHepG2細胞と比較したHCVppにより媒介される形質導入に対するその許容性を確認した。本発明者らは、HCVpp形質導入へのHepG2の許容性が、細胞に導入されたゲシクルの量と共に増加し(図2.C)、この実験においてHCVppの力価は5倍まで増加することを示した。このことは、導入されたCD81タンパク質が、ゲシクルを介して輸送および導入された後でさえもそのHCV結合能を保持することを示す。
【0113】
YFPおよびCD81を有するゲシクルの特徴付け
タンパク質導入に関与する材料をより良好に特徴付けるために、膜を標識する親油性フルオロフォアであるオクタデシルローダミンBクロライド(R18)と共に培養したヒト細胞におけるVSV−Gのトランスフェクションによりゲシクルが産生された。最初の濃縮工程後、R18ゲシクルを連続的なイオジキサノール勾配にかけ、そして3時間遠心分離にかけて、その密度に従って画分を分離した。1から20までの全ての回収した画分を、560nmでの励起後に590nmで蛍光を発光するその能力について、R18に対する発光値および励起値について分析した。図3Aに示したように、R18蛍光は、13〜20までの画分に検出され、ピークは画分17にあり、これは1.11g/mlの密度に対応する。
【0114】
別の実験において、293T−Yで産生されたゲシクルを同じように処理し、そして勾配にのせ、その後、異なる回収した画分におけるYFPに関連した蛍光の分析を行なった。図3Bは、YFPが、1.10〜1.11の密度に対応する画分17および18に主に検出されたことを示す。本発明者らは次に、どの画分が、偽形質導入によってYFPを送達することができるかを調べた。各試料の1/10を293T細胞に適用し、そして蛍光の導入を24時間後にFACSによって分析した。図3に示したように、偽形質導入の決定要因は、実質的に画分17に沈降していた(d=1.11)。別の実験において、ゲシクルを分離し、そしてウェスタンブロットによって分析した。密度−画分の分析は、VSV−GおよびCD81が、明らかに画分17および19に濃縮され、そしてこれは1.10および1.11g/mlの密度に対応することを明らかとした(図2D)。CD81分子はエキソームに対するマーカーとして記載されているので(Lamparski et al. Journal of immunological methods 270, 211-226 (2002))、本発明者らは、VSV−Gを有するゲシクルは、エキソーム様小胞の特定の型であると結論づけることができる。
【0115】
合わせて考えると、本発明者らの所見は、VSV−Gトランスフェクション時に、HEK293T細胞は、1.10〜1.11g/mlの密度で沈降できる膜に囲まれたゲシクルを産生し、そしてこれらのエキソーム様微小胞は、ターゲット細胞に送達可能なプロデューサー細胞からのCD81などのタンパク質を含むことを示す。
【0116】
ヒト細胞におけるゲシクルにより媒介されるmCAT−1の導入
YFPまたは高度に発現されるCD81が、293T−Y/293T細胞によって産生されるゲシクルにパッケージングされるのと同じように、本発明者らは、プロデューサー細胞に過剰発現される任意のタンパク質が、新生ゲシクルに受動的に取り込まれ得るかどうか、そして少量のこのパッケージングされた材料がヒトターゲット細胞に送達され得るかを試験した。この概念を、モデルとしてmCAT−1タンパク質(マウス白血病ウイルス(MLV)同種指向性エンベロープEcoR1のレセプターとしても知られるマウスカチオン性アミノ酸輸送体)を使用して試験した。フラッグの付いたバージョンのmCAT−1をコードするプラスミドを構築し(図4で示されるSwFlag EcoR)、そして293T−Y細胞においてVSV−Gを用いて同時トランスフェクションし、その後ヒト細胞に導入されるEcoRを有する濃縮されたゲシクルを産生した。1時間後、曝露した細胞を洗浄し、そして抗Flag−FITC抗体を使用したFACSによって判明したところ、EcoR発現について陽性と染色された(示していない)。mCAT−1導入をさらに検証するために、本発明者らは、MLV−同種指向性エンベロープを用いて偽型化されたYFPをコードするレンチベクターに基づいた形質導入アッセイを開発した。この糖タンパク質の特定の指向性に因り、これらのレンチベクターは排他的にマウス/ラット細胞またはヒト細胞を形質導入し得、mCAT−1はトランスフェクション時に発現される。EcoR−ゲシクルがヒト細胞に効率的にEcoRを送達するならば、これらは同種指向性YFPレンチ形質導入に許容性となるはずである。
【0117】
図4で示される結果は、EcoRゲシクルで処理したまたは処理していないヒト細胞の滴定時における同種指向性レンチベクター調製物の力価を示す。ナイーブ細胞は、同種指向性レンチベクターを用いての形質導入に対して制限されるが(レーン3)、2μg(レーン1)または4μg(レーン2)の濃縮されたゲシクルで処理された細胞は、同種指向性形質導入に高度に許容性となる。形質導入培地中での同種指向性レンチベクターへのゲシクル−Gタンパク質の取り込みを回避するために、ゲシクルで処理した細胞を、形質導入前に2回洗浄した。
【0118】
EcoR−ゲシクル調製物を以前に記載のように密度勾配にかけて、mCAT−1の導入に関与する画分を同定した。回収した画分をウェスタンブロットによって、EcoR導入を媒介するその能力について分析した(図5)。本実験において、本発明者らは、1.10の密度に対応する画分17において、VSV−GおよびmCAT−1が高度に濃縮されており、そしてこの画分が、形質導入アッセイによって明らかになったところEcoR導入に関与する主な画分であることを示す。これらのデータは、1.10の密度で沈降するEcoR−ゲシクルが、ターゲット細胞の膜中にmCAT−1タンパク質を導入し、そこで同種指向性エンベロープに対するその結合特性を保持していることを示す。
【0119】
さらに本発明者らは、ゲシクル含量、および特にゲシクルの膜によって生まれるタンパク質の性質が、プロデューサー細胞のトランスフェクションによって容易に制御され得ることをここで示す。
【0120】
ゲシクルによるEcoR送達の機序
導入されたmCAT−1の寿命
本発明者らは次に、ゲシクル曝露から形質導入アッセイまでの間の遅延を変化させることによって、ヒト細胞に導入されたmCAT−1の寿命を調べる。図6に示される結果は、Ecoレセプター機能が、そのゲシクルにより媒介された導入から約50時間後に293T細胞表面から消失したことを示す。この実験は、24時間に近い導入されたmCAT−1の寿命を改変することなく、Hela、HUH.7(示していない)を含む種々のヒト細胞型において再現された。この一過性は、ゲシクルが、ゲシクルの調製を汚染させ得るプラスミドDNAではなく、タンパク質を送達するという概念を安心させる。実際に、プラスミドDNAによるmCAT−1のコーディングは、ターゲット細胞における転写工程および翻訳工程を必要とし、トランスフェクション実験で一般的に観察されるように導入から48時間後に発現のピークに至るだろう。
【0121】
EcoR機能は、ゲシクルに取り込まれた既製のタンパク質によって提供される
mCAT−1小胞を用いて導入される材料の性質を調べるために、本発明者らは、ヒトターゲット細胞を、mCAT−1 mRNAに対して作られるsiRNAで処理した。小胞が、それをコードするmRNAまたはDNAを送達するならば、それはsi−mCAT処理細胞において容易に分解されるだろう。
【0122】
mCAT−1免疫染色によって明らかであるように(図7A)、mCAT−1 siRNAは、HEK細胞における同時トランスフェクション実験時にmCAT発現を抑制した。さらに、mCAT−1プラスミドでトランスフェクションされた細胞へのこの特異的siRNAの導入は、同種指向性レンチベクターを用いて形質導入される細胞の能力を強く減少させた(図7B)。VSV−G偽型レンチベクター(gLV)はsi−CTL細胞およびsi−mCAT細胞の両方を効率的に形質導入したが、同種指向性レンチベクター(EcoLV)を用いて達成された形質導入効率は、si−mCAT細胞において阻害された(70%の阻害)。これらのデータは、si−mCATが、mCAT−1レセプター機能に対して、これがプラスミドによってコードされる場合に特に影響を及ぼすことを示す。
【0123】
本発明者らは次に、mCAT−siRNAが、mCAT−1微小胞によって送達されるレセプター機能に影響を及ぼしたかどうかを調べた。細胞をmCATおよび対照siRNAを用いてトランスフェクションし、そして48時間後にmCAT−1小胞で処理した。形質導入アッセイを次にEcoLVを用いて実施して、レセプター機能を確認した(図7C)。si−CTL細胞およびsi−mCAT細胞の両方がEcoLVを用いて効率的に形質導入され、このことは、si−mCATが、小胞によって送達されるレセプター機能を抑制することに大きく失敗したことを示す。このことは、微小胞が本質的にレセプター機能を、mRNAでもコンタミしているプラスミドDNAでもなく既製のタンパク質を導入することによって送達したことを示す。
【0124】
ゲシクルにより媒介されるEcoRの送達はpH依存性である
導入されたEcoRタンパク質はウイルスレセプターとして機能的であるので、このことは、ターゲット細胞の表面におけるその存在を意味する。しかしながら、VSV−Gエンベロープの性質に因り、ゲシクルと細胞膜との間の融合は、内部の酸性コンパートメントで起こり、表面ではなく細胞内でEcoRタンパク質を遊離し、そこで機能的であると考えられる。
【0125】
EcoR導入の機序に洞察を得るために、本発明者らは、ゲシクルによる処理前に、エンドソームpHを上昇させ、VSV−Gによって引き起こされる膜融合を破壊することが知られる薬物であるクロロキン(CQ)で239Tターゲット細胞を処理した。図8に示されるように、VSV−G偽型レンチベクターは、CQ処理細胞を形質導入できなかったが(レーン1)、同種指向性レンチベクターは、mCAT−1を構成的に発現している薬物を付与した293Tに使用した場合には依然として効率的である(レーン2)。これらのデータはpH依存性を示す。興味深いことに、本発明者らは、CQが、ゲシクルによるEcoR送達を強力に阻害することを示す(レーン3)。同種指向性レポーターレンチベクターを用いての形質導入はCQによって減少しないので、この結果は、表面でEcoRを送達する細胞機序におけるCQにより媒介される失敗を反映する。
【0126】
これらのデータを考慮して、本発明者らは、ゲシクルが、ターゲット細胞内に内部移行した後に、エンドソームコンパートメントに輸送され、ここでは膜の融合がEcoRの放出に必要とされるというモデルを提案する。タンパク質は、多くの内因性レセプターの運命に従って、その後、細胞膜へと向けてリサイクルされる。
【0127】
ゲシクルによって媒介されるTETトランス活性化因子の送達
細胞質タンパク質および膜タンパク質の送達の他に、本発明者らは、核内で古典的に発現されているタンパク質である転写因子をパッケージングおよび送達するゲシクルの能力を探索した。この目的のために、ゲシクルを、その同族プロモーター、Tetオペレーター(TEO)の転写を活性化する合成転写因子であるTET offトランス活性化因子(tTA)をコードするプラスミドを用いて同時トランスフェクションされ、細胞培養培地へのテトラサイクリン/ドキシサイクリンの導入によってスイッチオフすることのできる293T細胞において産生した(Gossen et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 89, 5547-5551 (1992))。漸増用量のtTAをのせたゲシクルを次に、Tetオペレーターの制御下にあるeGFP遺伝子から構成される発現カセットを有するレポーター細胞にのせた。図9に示される結果は、レポーター細胞株の蛍光が、処理から24時間後にtTAゲシクルによって活性化されることを示す。蛍光シグナルはゲシクルの用量と共に増加し、そして最も高い用量では、tTA構築物でトランスフェクションされたレポーター細胞で得られたシグナルの約50%に達する。本発明者らは、処理細胞における転写活性化は、ドキシサイクリン処理に依然として感受性であることを注記する。このことは、tetトランス活性化タンパク質が、ゲシクルに成功裏にパッケージングされ、そしてレポーター細胞株に導入されたことを示す。
【0128】
曝露時間の関数としてのゲシクルにより媒介されるtTAの導入効率
HEKレポーター細胞株Teo−GFPを12ウェルプレート(10個の細胞)に播種し、そしてtTAゲシクルで処理した(1ウェルあたり50μgの全タンパク質)。曝露時間は5分間から4時間までであった。曝露後、小胞を含む培地を廃棄し、細胞をPBSで洗浄し、そして24時間後のGFP分析のために培養液中に維持した。tTA導入効率は3時間までの曝露時間まで次第に上昇し、3時間が最適の曝露時間である(図10参照)。
【0129】
ゲシクルの産生および用量測定方法
ヒトEcoRゲシクルの産生および用量
ヒトゲシクルを、リン酸カルシウム法を使用するHEK293T細胞のトランスフェクションによって産生した。細胞を10cm皿に3×10個の細胞で播種し、そして1皿あたり15μgのVSV−Gをコードするプラスミドおよび15μgのmCAT−1をコードするプラスミドを用いて同時トランスフェクションした。トランスフェクション培地をATP(100μM)を含む新しい培地と24時間後に交換し、そして小胞を含む上清をトランスフェクションから48時間後および72時間後に回収し、プールし、0.45μmフィルターを通して濾過し、そしてSW41ローターで25000rpm(110000g)で1時間30分超遠心分離にかけた。あるいは、4500gで10時間かけて濃縮してもよい。ペレット化材料を最終的に冷PBS中に再懸濁し、200倍の濃縮を得た。大量調製は、6つの10cm皿を使用して実施され、そして約400μlの200個の小胞を生成した。
【0130】
以前にYFP発現レンチベクターによって形質導入されたHEK293T細胞において15μgのVSV−Gプラスミドをトランスフェクションすることによって、YFP/CD81を有する小胞を産生した。
【0131】
沈降した微小胞におけるタンパク質の量を定量するために、本発明者らはフラッグのついたmCAT−1タンパク質を検出するELISAアッセイを開発した。簡潔に言うと、小胞の連続希釈液をPBS/Triton X100 2%に溶解し、そして96ウェルプレート中のカーボネートでコーティングされた緩衝液中(pH9.6)中で一晩コーティングした。フラッグ−ペプチド(Sigma)の連続希釈液を、平行してトリトンを含まない緩衝液中でコーティングした。タンパク質およびペプチドを、1/1000で希釈した抗フラッグHRP抗体(M2 Sigma)と共に洗浄したプレートを1時間インキュベーションすることで明らかとさせ、そしてTMB基質を用いて最終的に明らかとした。これらのアッセイによって本発明者らは、小胞調製物中におけるフラッグのついたタンパク質の量を測ることができた。
【0132】
あるいは、本発明者らは、HRP(P5D4 Sigma)と結合させた抗VSVG抗体によって認識されるVSV−Gペプチドの連続希釈液をコーティングすることによってVSV−G Elisaアッセイを工学操作した。従って、全てのVSV−G小胞が、小胞調製物1μlあたり等量のVSV−Gペプチドとして表現され得る。
【0133】
考察
本発明者らは今回、工学操作したエキソーム様小胞の使用によって、ヒト細胞に細胞質タンパク質および膜タンパク質を導入するオリジナルかつ簡単な方法を開発した。このゲシクルにより媒介されるタンパク質送達技術をさらに使用して、ヒト細胞に機能的転写因子を導入した。これらの微小胞の産生は、VSV−Gを用いて同時トランスフェクションされた293Tプロデューサー細胞における対象のタンパク質の過剰発現によって達成された。VSV−Gは、膜タンパク質並びに膜脂質およびアクチンの豊富な上清の分析によって明らかとなるように、293T細胞からの小胞の産生をブーストするようである(図11)。さらに、微小胞の膜をコーティングすることによって、膜融合性Gタンパク質はターゲット細胞に接触するその能力を増強し、そして粒子と細胞膜との間の非常に効率的な融合を可能とし、これはターゲット細胞における微小胞内容物の放出に対する必要条件である。
【0134】
実施例2
3μmの孔径のインサートを通しての共培養実験における小胞により媒介されるタンパク質の導入
本発明者らは、同じ培地中で、Teo−GFPレポーター細胞株と共に種々のプラスミドの組合せによってトランスフェクションされたHEK細胞を培養した。細胞を示したように3μmの孔径のフィルターによって、プロデューサー細胞は6ウェル皿の下に、レポーター細胞株は上のインサートに分離した。プロデューサー細胞を、tTA発現プラスミドを用いて、さらに担体DNA、VSV−Gをコードするプラスミドまたは融合欠陥VSV−Gを用いて同時トランスフェクションした。共培養から48時間後、インサートを除去し、そしてレポーター細胞株をトリプシン処理し、そしてFACSによって分析して、tTA送達を評価した。結果は、Teo−GFP細胞株のMFIとして示される(図12)。
【0135】
この技術は、濃縮工程の必要を伴わず、ターゲット細胞へのタンパク質の送達を可能とする。濃縮された小胞は、ターゲット細胞型に依存して毒性であり得る。ターゲット細胞を上または下のチャンバーで培養し、そして一定したタンパク質の送達のためにウイルス産生細胞を数日間かけて注ぐことができる。いくつかの因子を連続的に導入しなければならない場合には、別の小胞を含む浴へのインサートの容易な導入によって、連続的な注入さえも実施することができる。
【0136】
実施例3
昆虫細胞の微小胞の産生および用量
バキュロウイルス産生を、製造業者の指示に従って、Bac−to−Bacバキュロウイルス発現系(Invitrogen)を使用して実施した。簡潔に言うと、対象のcDNAを、DH10−BAC細菌において組換えする前に、pFAST−1シャトルにクローニングした。バキュロウイルスDNAを次に使用してSF−9細胞をトランスフェクションして、72時間後に回収される最初のバキュロストックを生成した(継代1)。このポリクローナルストックをさらに増殖して1×10pfu/ml(継代2)の力価に到達させ、これを4℃で保存し、そして小胞の産生のために使用した。
【0137】
昆虫細胞の微小胞を、グルタミン(20mM)およびペニシリン−ストレプトマイシン(25Uのペニシリン、25μgのストレプトマイシン/ml)の補充された100mlのExpress-five SFM培地中で撹拌下で30℃で懸濁して培養した200×10個のHIGH5細胞のバキュロウイルス感染(MOI 0.5〜1)により産生した。接種から48時間後、培地を収集し、清澄化し、そして0.45μmの孔径のフィルターを通して2回濾過し、その後、SW−32ローターで24000rpm(100,000g)で超遠心分離にかけた。沈降した材料を次に冷PBS(100倍の濃度)中で再懸濁し、そして−80℃で保存した。
【0138】
より良好な精製のために、この濁った調製物を非連続的なイオジキサノール勾配にかけ、別々の密度画分の分離を可能とした。画分の生物学的な分析は、有するタンパク質を導入できる活性な小胞は、1.09〜1.11の密度で沈降したことを明らかとした。これらの画分をプールし、そして冷PBSで補充されたプールの最後の濃縮工程後(SW41で30000rpmで1時間)に高度に精製された小胞が調製された。
【0139】
昆虫細胞由来の小胞は、リン脂質酵素的PAP50検出キット(Biomerieux)および前記したVSV−G ELISAを用いて定量された。
【0140】
昆虫細胞由来微小胞の特徴付け
GFP微小胞は、記載のように、組換えバキュロウイルスを用いての72時間かけてのsf9細胞の感染により産生された。濃縮後、小胞をイオジキサノール勾配にかけ、そして215000gで10時間遠心分離にかけて、その密度に従って小胞を沈降させた。画分を次にチューブの底から回収し、そしてその密度を評量によって測定した。密度勾配は図13Aのグラフに認められ得、d=1.3〜1.05の範囲である。全ての画分を蛍光光度計によって分析して、実質的に画分21で検出されたGFP(励起485発光515)を検出した(図13A白い棒)。画分の希釈液も使用して、sf9細胞を感染させて、どこにGFPバキュロウイルスが沈降したかを同定した。感染から3日後、sf9細胞をFACSによって分析し、そしてバキュロウイルス力価を計算した。A(黒い棒)で示した結果は、ウイルスが画分13と画分20の間で沈降し、ピークは画分16であることを示した。本発明者らはまた、画分を使用してヒト細胞にGFPを送達し、そして24時間後に蛍光の導入について分析した(図13B)。興味深いことに、本発明者らは、GFP導入能は、画分14〜19に含まれ、一部、ウイルスを含む画分に重複していることを見出した。
【0141】
tTA昆虫微小胞の中和アッセイ(NA)
tTA微小胞を、tTAバキュロウイルスで感染させたHigh5細胞において産生した。小胞を濃縮し、そしてPBSに再懸濁し、そして100μlのPBS中で実施されるアッセイのために10倍に希釈した。0.5等量のリン脂質tTAを抗gp64抗体(クローンAcV1)または対照抗体の連続希釈液と共に37℃で2時間インキュベーションした。小胞を次にHEK tTAレポーター細胞(一旦tTAが細胞に導入されるとGFPを発現)にのせた。24時間後、小胞に曝した細胞をFACS分析し、そしてGFP発現を定量した。結果(図14参照)は全個体群のMFIとして示す。
【0142】
tTA昆虫微小胞を使用した用量応答
tTA昆虫微小胞を濃縮し、そして以前に記載されたように精製し、そして−80℃で保存した。漸増用量の小胞を使用してHEK tTAレポーター細胞株へとtTAを送達し、その結果、増加したGFPシグナルが、小胞添加から24時間後のターゲット細胞に検出された。ドキシサイクリン処理細胞はバックグラウンド蛍光を示し、予期されるTET系の誘導性を反映する(図15参照)。
【0143】
考察
本発明者らは、ヒト細胞由来小胞の産生が、VSV−Gをコードするプラスミドおよび対象のタンパク質(YFP、mCAT−1、tTA・・・)をコードする別のプラスミドを用いてのプロデューサー細胞の同時トランスフェクションにより達成されたことを示した。産生系の能力を増加させるために、本発明者らは、VSV−GおよびtTAをコードする組換えバキュロウイルスを構築し、そしてバキュロウイルス感染に対して高度に許容性の昆虫細胞を感染させた。さらにHigh5細胞およびSf9細胞は、血清を含まないまたはさらには動物の製品を欠いた合成の培地中でさえも、2×10個/mlまでの懸濁液中で容易に培養することができる。特に、バキュロウイルスはヒト細胞中において複製せず、そして導入遺伝子の発現を駆動するポリヘドリンプロモーターは、昆虫細胞に特異的であり、ヒト細胞においては活性ではない。
【0144】
本発明者らは、tTAおよびVSVGを用いての同時感染時に、昆虫細胞が、ヒト細胞にtTAを導入することのできる微小胞を産生することを見出した。本発明者らはまた、VSV−Gはこの過程において有用であるが不要であることを見出し、このことは別の融合タンパク質で置き換えることができることを示唆する。この役割は、全ての感染細胞において発現されるバキュロウイルスのエンベロープ糖タンパク質であるgp64によって想定され得る。中和アッセイを実施することによって、本発明者らは、昆虫微小胞によって媒介されるタンパク質の送達が、gp64抗体によって中和され得ることを示した。
【0145】
昆虫細胞小胞をさらに特徴付けるために、本発明者らは、GFP昆虫小胞をイオジキサノール勾配にのせてその密度を測定した。このプロセスは、そのそれぞれの密度に従って、混合物中に存在する異なる材料の分離を可能とする。この実験は、小胞を含む画分が、バキュロウイルスを含む画分と重複していることを示した。バキュロウイルスはヒト細胞においては複製できないことが一般的に認められているが、本発明者らは、tTAをコードするバキュロウイルスの僅かな発現が、レポーターターゲット細胞におけるGFPの発現を活性化するのに十分なtTAを産生し得ると想像することができる。これを確認するために、本発明者らは、Bac組換え体(図16Aに示した構築物)の構築に使用されたシャトルプラスミド(pFAST)においてCMVまたはEFIaプロモーターによって昆虫特異的ポリヘドリンプロモーター(pH)を置換した。pHとは対照的に、こうしたプロモーターは、HEK−Teo GFPレポーター細胞株におけるトランスフェクション実験によって判明したようにヒト細胞において高度に活性である(図16B)。本発明者らは次に、その後増幅し、そしてsf9細胞において感染するために使用した、2つの組換えバキュロウイルス(CMV1およびCMV2)を生成するためのCMVプロモーターを選択する。どちらのCMV組換え体も、pH組換え体と同じくらいの効率的にsf9細胞を感染した。これはプロデューサー細胞溶解液に対して実施されたウェスタンブロット分析によって判明した(図16C)。バキュロウイルスタンパク質gp64は、使用したプロモーターの性質に関係なく、細胞溶解液中において明確に検出された。微小胞の調製時に、本発明者らは微小胞溶解液に対して同じ染色を実施し、そしてgp64が3つの試料中に高度に検出されることを確認し、CMV置換は、sf9におけるバキュロウイルス感染にもウイルス放出にも有意に影響を与えなかったことを示した。予期されたように、本発明者らは、pH組換え体が、2つのCMV組換え体と比較してsf9細胞においてより高いレベルのtTAを発現したことを見出した。このことは、pH溶解液中にかなりより高い、微小胞に検出されるtTAの量に論理的に影響を及ぼした。漸増用量のpH−tTAおよびCMV−tTA微小胞を、最終的にHEK−TeoGFP細胞株にのせた。tTA送達の効力を反映するMFIを24時間後にFACSによって分析し、pH組換え体を用いて産生された小胞が、CMV組換え体を用いて産生されたものよりも10倍以上効率的であることが判明した(図16D)。このことは、効率的なtTA導入は、プロデューサー細胞における高いレベルのタンパク質発現と相関することを示す。これは、タンパク質それ自体がバキュロウイルスに関連した微小胞によって伝達されるという仮説を支持する。さらに、プロモーターの交換によってヒト細胞におけるtTAバキュロウイルスの転写能を増加させても、ターゲットにおけるtTAの到達性は増加せず、バキュロウイルスにより駆動される転写は、送達されたtTAの機能に関与しない(または少ししか関与しない)ことを示す。合わせるとこれらのデータは、ヒト細胞におけるtTAの導入は、昆虫細胞に由来するgp64微小胞によって達成され、コードされるバキュロウイルスによってではないことを示す。
【0146】
参考文献
本出願の全体を通じて、種々の参考文献が、本発明が属する当技術分野の最新技術を記載する。これらの参考文献の開示は、本開示への参照によって本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス膜融合タンパク質および対象のタンパク質を含む微小胞を分泌することができるような、前記膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を過剰発現する真核細胞。
【請求項2】
前記の真核細胞が全くウイルス構造タンパク質を発現しない、請求項1記載の真核細胞。
【請求項3】
前記のウイルス膜融合タンパク質がVSV−Gである、請求項1または請求項2記載の真核細胞。
【請求項4】
前記の対象のタンパク質が膜タンパク質および核タンパク質からなる群より選択される異種タンパク質である、請求項1〜3のいずれか1項記載の真核細胞。
【請求項5】
前記の対象のタンパク質が、前記のウイルス膜融合タンパク質に共有結合していない、請求項1〜4のいずれか1項記載の真核細胞。
【請求項6】
前記の微小胞が前記のウイルス膜融合タンパク質および前記の対象のタンパク質を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の真核細胞によって分泌される微小胞。
【請求項7】
前記の微小胞が全くウイルス構造タンパク質を含まない、請求項6記載の微小胞。
【請求項8】
ターゲット細胞を請求項6または7記載の微小胞と接触させる工程を含む、前記ターゲット細胞に対象のタンパク質をin vitroで送達するための方法。
【請求項9】
請求項6または7記載の微小胞が、微小胞を産生する細胞とターゲット細胞との共培養によってin situで産生される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ターゲット細胞を、対象のいくつかの異なるタンパク質を含む請求項6または7記載のいくつかの異なる微小胞と接触させることによって、前記の対象のいくつかの異なるタンパク質がターゲット細胞に送達される、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
前記の対象のタンパク質が膜レセプターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質が転写因子である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
真核細胞において対象のタンパク質の機能を一過性に発現させるための、請求項6または7記載の微小胞の使用。
【請求項14】
療法に使用するための、請求項6または7記載の微小胞。
【請求項15】
請求項6または7記載の微小胞によって同種指向性ウイルスレセプター(EcoR)をターゲット細胞に送達する工程を含む、ターゲット細胞を同種指向性ウイルス粒子に対して一過性に許容性とするための方法であって、前記微小胞はウイルス膜融合タンパク質および前記の同種指向性ウイルスレセプター(EcoR)を含む、方法。

【図4A】
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【図16A】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【公表番号】特表2013−510562(P2013−510562A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538321(P2012−538321)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067200
【国際公開番号】WO2011/058052
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】