説明

工程紙

【課題】天然パルプを主成分とする基紙の両面がポリオレフィン系樹脂で被覆された工程紙において、基紙の寸法安定性と面質に優れ、繰り返し使用に耐えうる強度に優れた工程紙を安定的に提供することである。
【解決手段】基紙の両面がポリオレフィン系の樹脂層で被覆された工程紙であって、基紙を構成するパルプ繊維の長さ加重平均繊維長0.60mm以上であり、且つ、基紙の乾燥工程中において、少なくとも、加圧方式乾燥工程において湿紙が乾燥される工程があることを特徴とし、更に、基紙の抽出pHが、7.0以上に調整することにより、寸法安定性と面質に優れ、繰り返し使用に耐えうる強度に優れた工程紙を安定的に提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然パルプを主成分とする紙基質(以下、基紙と略すことがある)の片面がポリオレフィン系樹脂で被覆された工程紙に関するものであり、更に詳しくは、寸法安定性と面質に優れ、繰り返し使用に耐えうる強度に優れた工程紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙に、剥離剤を塗工し、剥離性を付与したものが剥離紙である。剥離紙のうち、合成皮革製造やファインセラミックシート製造などの工程中に、キャリアーとして使うものを特に工程紙(casting paper)と称している。この工程紙には、粘着・接着製品に使われる裏打ち材料としての剥離紙とは異なる品質が要求される。工程紙の中で、量的に最も多く使用されるのが、塩ビ・ウレタンなどの合成皮革(レザー)製造用のものである。
【0003】
合成皮革製造方法の代表的な一つであるキャステイング法に工程紙が使用される。合成皮革の製造工程において、繰り出された工程紙の剥離処理面に、塩ビのペーストが塗工され、加熱製膜後更に発泡剤入りペーストを塗工・加熱し、基布を貼りあわせて加熱発泡炉に入れる。発泡された塩ビ/基布と工程紙は、冷却後、剥がされ別々に巻き取られる。巻き取られた工程紙は、再び繰出部にセットされ、繰り返し使用される。ウレタンレザーの製造工程においては、工程紙に1液ウレタンペーストを塗工し、加熱製膜後さらに基布との接着剤となる2液ウレタンペーストを塗工・基布を貼り合わせ、加熱、冷却後、巻き取る。巻き取りは、所定の時間成熟後、工程紙とセパレートされる。そして、セパレートされた工程紙は繰り返し使用される。
【0004】
以上述べたような用途に使用される工程紙に求められる特性としては、「剥離性」、「耐熱性」、「繰り返し使用性」が求められる。ウレタンペーストを塗布するタイプにおいては、塩ビペーストを塗布するタイプに比較して、耐熱性が必要とされていないので、上質紙の上にポリプロピレンを剥離剤としてラミネートしたものが使用される。
【0005】
また、工程紙の表面性が、そのまま、合成皮革の表面に転写される形になるので、表面の均一性やキズ・凹みなどがないことが求められる。しかしながら、通常の上質紙の上にポリオレフィン樹脂を被覆した場合には、「表面性」・「寸法安定性」の点では、充分な要求品質を満たすことができない。寸法安定性を改善すべく、特殊樹脂を塗布加工する手法(例えば、特許文献1参照)などで公開されているが、コスト面で高いことや、本方法を用いても被塗布紙の寸法安定性が、最終製品の寸法安定性を左右する結果となっている。
【特許文献1】特開平5−9899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、天然パルプを主成分とする基紙の両面がポリオレフィン系樹脂で被覆された工程紙において、寸法安定性と面質に優れ、繰り返し使用に耐えうる強度に優れた工程紙を安定的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の本発明を見出した。即ち、第1の発明は、基紙の両面がポリオレフィン系の樹脂層で被覆された工程紙であって、基紙を構成するパルプ繊維の長さ加重平均繊維長が0.60mm以上であり、且つ、基紙の乾燥工程中において、少なくとも、加圧方式乾燥工程において湿紙が乾燥される工程があることを特徴とする工程紙である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明における工程紙に用いられる基紙の抽出pHが、7.0以上であることを特徴とする工程紙である。
【発明の効果】
【0009】
基紙の両面がポリオレフィン系の樹脂層で被覆された工程紙であって、基紙を構成するパルプ繊維の長さ加重平均繊維長0.60mm以上であり、且つ、基紙の乾燥工程中において、少なくとも、加圧方式乾燥工程において湿紙が乾燥される工程があることを特徴とし、更に、基紙の抽出pHが、7.0以上に調整することにより、寸法安定性と面質に優れ、繰り返し使用に耐えうる強度に優れた工程紙を安定的に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者は、まず、工程紙の基紙の表面平滑性、寸法安定性と繰り返し使用強度を向上させる手段について鋭意検討した。その結果、基紙を構成するパルプ繊維の長さ加重平均繊維長が0.60mm以上であり、且つ、基紙の乾燥工程中において、少なくとも、加圧方式乾燥装置を使って湿紙を乾燥させることで、寸法安定性と面質に優れ、繰り返し使用に耐えうる強度に優れた工程紙を安定的に提供することができることを見出した。
【0011】
本発明者は、まず、基紙を構成する繊維の長さと寸法安定性・平滑性に関して検討を行った、本発明の工程紙は、合成皮革の製造工程において繰り返し使用され、高度の機械物性、寸法安定性が求められる。繰り返し使用される中で、本発明の工程紙は、120〜150℃の高温と常温の間で、繰り返し機械的ストレスを受けることから、シートの端部から使用中に切れてしまう場合がある。繰り返し使用に耐えうる本発明の工程紙の引裂強度と工程紙の基紙を構成する繊維の長さ加重平均繊維長との関係について検討した結果、工程紙の基紙を構成する繊維の長さ加重平均繊維長が、0.60mm以上必要であることを見いだした。本発明の工程紙の基紙を構成する繊維の繊維長を長くすることで、物理的絡み付きが発生し、シート全体の引裂強度が上昇すると考えられる。
【0012】
本発明の工程紙の基紙の繊維長の調整は、繊維長分布の広いパルプ種を選択したり、針葉樹を原料とするパルプを配合し、調成工程で叩解機によってパルプ繊維の叩解度をかえることで、達成することができる。
【0013】
このように、本発明の工程紙の基紙を構成するパルプ繊維の繊維長の調整は、基紙の引裂強度を引き上げると同時に、基紙の寸法安定性を上げるが、一方で、基紙の地合を乱し、基紙の平面性を悪化させる。特に、本発明の工程紙は、120〜150℃の高温と常温の間で、繰り返し機械的ストレスを受ける際に、基紙が収縮し、本発明の工程紙の面質が著しく悪化する。本発明の工程紙は、例えば、高温のウレタン樹脂などを工程紙表面に塗布し、硬化させて、ウレタン樹脂の表面に、工程紙表面から型を取るようにして使用する場合がある。このような場合、本発明の工程紙の面質が悪化し、収縮が大きいと、ウレタン樹脂表面の型が乱れ、面質が悪化し、商品価値を著しく悪化させる。
【0014】
一定の長さ以上の繊維から構成される基紙を地合良く抄造するためには、繊維パルプスラリーの濃度を低くして抄造することで改良されるが、このような抄造方法では、プレス部分での湿紙の搾水性を落とし、その結果、基紙の収縮性が大きくなってしまう。そこで、本発明者は、上記課題を解決するために、本発明の工程紙の基紙の乾燥方法について検討した。
【0015】
従来の抄紙工程における乾燥工程は、多数の円筒シリンダー間を湿紙が走行する間に、平滑なシリンダーに湿紙が、カンバスを介して、拘束されながら乾燥されるゾーン(拘束乾燥ゾーン)と個々のシリンダー間で湿紙が、拘束されることなく乾燥されるゾーン(自由乾燥ゾーン)とがある。自由乾燥ゾーンの部分において、湿紙は大きく収縮する。
【0016】
湿紙が乾燥される工程において収縮が大きい場合、まず、基紙表面に収縮による微小なシワが発生し、基紙の平滑性を損なうこととなる。抄紙工程のカレンダー処理によって、一見、基紙の「平滑性」は、補われるが、基紙表面にポリオレフィン系の樹脂を被覆する工程において、基紙の表面から水分が蒸発し、それに伴い、基紙表面の「平滑性」が損なわれ、工程紙の表面の表面均一性が損なわれる。
【0017】
基紙の乾燥工程において、湿紙の収縮を抑える手段として、加熱された平滑な面とワイヤーの間に湿紙を挟み、加圧をかけて湿紙を乾燥することで、湿紙の収縮を抑えながら、乾燥することができる(以下、加圧方式乾燥工程と称する)。本方法によって、加熱された平滑な面に湿紙を押し当てることで、基紙の平面性を高めることができ、且つ、基紙の寸法安定性を高めることができる。
【0018】
本発明の工程紙の基紙は、加圧方式乾燥工程単独で乾燥することもできるが、湿紙を加圧方式乾燥工程のみで乾燥する場合に、湿紙内に含まれる薬品が、ドライヤー面に固着し、その部分が湿紙の平面性を乱す結果となり、場合によっては、湿紙が切れて、操業ができない場合もある。加圧方式乾燥工程のみだけではなく、従来の多数のシリンダードライヤーを湿紙が走行する乾燥方法(以下、無加圧方式乾燥工程と称する)と組み合わせることで、基紙表面の平面性を損なうことなく湿紙を乾燥することができる。即ち、加圧方式乾燥工程と無加圧方式乾燥工程を組み合わせる場合に、抄紙工程のプレス出口後の乾燥ゾーンにおいては、無加圧方式乾燥工程で湿紙を乾燥し、湿紙のドライヤー面への密着度合いを比較的緩い状態で乾燥し、湿紙から、ドライヤー表面への薬品類の固着を防ぐ。その後に、加圧方式乾燥工程で湿紙を乾燥することで、湿紙の収縮を抑えながら、乾燥するのが望ましい。加圧方式乾燥工程を適用するには、湿紙の水分が、55%以下、更に好ましくは、55〜30%の領域を乾燥する工程に適用するのが望ましい。加圧方式乾燥工程において湿紙を加圧する際の圧力としては、0.05〜1.5MPaの範囲で加圧処理することができる。
【0019】
加圧方式乾燥工程においては、湿紙の収縮を抑えるために、加熱された平坦なベルトと湿紙から蒸発する水分を除去するためのワイヤーに湿紙をはさみ、加圧して乾燥させる。その際に、平坦なベルトに押し当てられた湿紙の面は、非常に平滑になるが、ワイヤーに接触した面については、ワイヤーの形状が転写され、周期的な凹凸となり、平滑性が劣る。従って、基紙を乾燥する際に、加熱された平滑な面が基紙の両面に夫々交互に当てて乾燥することである。
【0020】
このように、基紙の両面を加熱する平坦なベルトに押し当てることによって、工程紙の表面均一性がより高められ、寸法安定性に優れた剛性のある工程紙を提供することができる。基紙の両面に加熱された平坦なベルトを押し当てて乾燥する順番としては、できるだけ乾燥の最後に、ポリオレフィン系の樹脂層で被覆する面の方に加熱された平坦なベルトを押し当てるようにした方が良い。また、基紙がカレンダー処理される前に、ポリオレフィン系の樹脂層で被覆する面もその反対の面も、できるだけ平滑な面を形成することが望ましいので、加圧乾燥工程に使用するワイヤーの目もできるだけ細かいメッシュのワイヤーを使用することが望ましい。メッシュの細かさとしては、80メッシュ以上が望ましい。
【0021】
次に、本発明者は、本発明の工程紙の繰り返し使用時における強度低下を抑える方法について検討を行った。その結果、基紙の抽出pHが、7.0以上に調整することにより、引裂強度低下を抑えることを見出した。
【0022】
本発明の工程紙の基紙は、パルプ繊維より構成されるが、パルプ繊維内部に含まれる酸性成分や、抄紙を行う際に添加する薬品が持ち込む酸性成分が原因となって、パルプ繊維の劣化を促進すると考えられる。これら酸性成分を抑制することにより、パルプ繊維の劣化を防ぐものである。実際には、本発明の工程紙の基紙を抄造する際に、パルプスラリーに中和成分となるアルカリ物質を添加し、基紙の抽出pHを7.0以上に調整することにより、パルプ繊維・基紙全体の強度的劣化を防ぐ。添加するアルカリ物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどが使用できる。また、不溶性の固形アルカリ物質もpH調整には有用であり、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等を添加することが使用できる。
【0023】
本発明で用いられる天然パルプを主成分とする基紙としては、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素漂白等の通常の漂白処理、並びにアルカリ抽出もしくはアルカリ処理、及び必要に応じて過酸化水素、酸素などによる酸化漂白処理等、及びそれらの組み合わせ処理を施した針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、針葉樹広葉樹混合パルプの木材パルプが用いられ、また、クラフトパルプ、サルファイトパルプ、ソーダパルプなどの各種のものを用いることができる。
【0024】
本発明で用いられる基紙中には、紙料スラリー調製時に各種の添加剤を含有せしめることができる。サイズ剤として、脂肪酸金属塩又は脂肪酸、アルキルケテンダイマー乳化物あるいはエポキシ化高級脂肪酸アミド、アルケニルまたはアルキルコハク酸無水物乳化物、ロジン誘導体等、乾燥紙力増強剤として、アニオン性、カチオン性あるいは両性のポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カチオン化澱粉、植物性ガラクトマンナン等、湿潤紙力増強剤として、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン樹脂等、填料として、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン等、定着剤として、塩化アルミニウム、硫酸バンド等の水溶性アルミニウム塩等、pH調節剤として、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、硫酸等を、使用できる。
【0025】
また、本発明の実施に用いられる基紙中あるいは基紙上には、各種の水溶性ポリマーもしくは親水性コロイドまたはラテックス、帯電防止剤、添加剤から成る組成物をサイズプレスもしくはタブサイズプレスあるいはブレード塗工、エアーナイフ塗工などの塗工によって含有あるいは塗設せしめることができる。水溶性ポリマーもしくは親水性コロイドとして澱粉系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ゼラチン系ポリマー、ポリアクリルアミド系ポリマー、セルロース系ポリマーなど、エマルジョン、ラテックス類として、石油樹脂エマルジョン、エチレンとアクリル酸(又はメタクリル酸)とを少なくとも構成要素とする共重合体のエマルジョンもしくはラテックス、スチレン−ブタジエン系、スチレン−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン−酢酸ビニル系、ブタジエン−メチルメタクリレート系共重合体及びそれらのカルボキシ変性共重合体のエマルジョンもしくはラテックス等、帯電防止剤として、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩、塩化カルシウム、塩化バリウム等のアルカリ土類金属塩、コロイド状シリカ等のコロイド状金属酸化物、ポリスチレンスルフォン酸塩等の有機帯電防止剤など、顔料として、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、二酸化チタンなど、pH調節剤として、塩酸、リン酸、クエン酸、苛性ソーダなどを適宜組み合わせて含有せしめるのが有利である。
【0026】
本発明で用いられる基紙の坪量に関しては、特に制限はないが、その坪量は50〜250g/mのものが好ましい。
【0027】
本発明における工程紙の基紙の画像構成層を設ける側に被覆されるポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンが使用でき、適宜、混合することができる。その中で、各種の密度、メルトフローレート(以下単にMFRと略す)、分子量、分子量分布のものを使用できるが、通常、密度が0.90〜0.97g/cm3の範囲、MFRが0.1〜50g/10分、好ましくは、MFRが0.3〜40g/10分の範囲のものを単独にあるいは混合して有利に使用できる。
【0028】
本発明における工程紙の基紙の上に被覆するポリオレフィン樹脂の被覆厚さとしては、4〜70μmの範囲が有用であるが、6〜45μmの範囲が好ましく、9〜35μmの範囲が特に好ましい。
【0029】
本発明における工程紙の基紙面に樹脂を被覆する方法としては、走行する基紙上に樹脂組成物を溶融押し出し機を用いて、そのスリットダイからフィルム状に流延して被覆する、いわゆる溶融押し出しコーティング法によって被覆するのが好ましい。その際、樹脂温度は270℃〜350℃であることが好ましい。樹脂温度が270℃未満である場合、基紙と樹脂との接着性が低下し均質な面質が得られないため、工程紙としては不適当なものとなる。樹脂温度が350℃を超える場合、樹脂の劣化が促進されるため、冷却ロール汚れ、ダイリップ汚れは悪化し均質な面質が得られなくなる。
【0030】
スリットダイとしては、T型ダイ、L型ダイ、フィッシュテイル型ダイのフラットダイが好ましく、スリット開口径は0.1〜2mmであることが望ましい。また、樹脂組成物を基紙にコーティングする前に、基紙にコロナ放電処理、火炎処理などの活性化処理を施すのが好ましい。また、基紙に接する側の溶融樹脂組成物にオゾン含有ガスを吹きつけた後に走行する基紙に樹脂層を被覆することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0032】
(実施例1)
LBKPを長さ加重平均繊維長が、0.60mmになるように叩解後、カチオン化澱粉(日本食品加工社製「ネオタック30T」)対パルプ1.0質量%、アルキルケテンダイマーサイズ剤(星光PMC社製「AD1602」)対パルプ0.2質量%、歩留り剤(ハイモ社製「NR11LS」)対パルプ0.02質量%添加し、紙料スラリーに炭酸ナトリウムを添加して、基紙の抽出pHが6.5になるようにした紙料スラリーのpHを調製した。
【0033】
その後、紙料スラリーを200m/分で走行している長網抄紙機にのせ、適切なタービュレンスを与えつつ紙匹を形成し、ウェットパートで14.7kN/m〜98kN/mの範囲で線圧が調節された3段のウェットプレスを行った後、複数のシリンダードライヤーで乾燥した後に、基紙の表面に加熱された平滑なベルトを押し当てて、基紙水分が、7.0質量%になるように乾燥した。その後、マシンカレンダー処理し、坪量170g/m、密度0.98g/cmの工程紙の基紙を製造した。
【0034】
次に、オレフィン系樹脂層を設ける面をコロナ放電処理した後、サンアロマー社製ポリプロピレン樹脂「PH903A」(密度0.90g/cm、MFR=30g/10分)を樹脂温300℃で28μmの厚さに基紙の走行速度200m/分で溶融押し出しコーティングし、実施例1の工程紙を得た。
【0035】
(実施例2)
LBKPとNBKPを95:5に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が0.70mmになるように叩解した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例2の工程紙を得た。
【0036】
(実施例3)
LBKPとNBKPを90:10に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が0.85mmになるように叩解した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例3の工程紙を得た。
【0037】
(実施例4)
LBKPとNBKPを85:15に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.00mmになるように叩解した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例4の工程紙を得た。
【0038】
(実施例5)
LBKPとNBKPを80:20に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.20mmになるように叩解した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例5の工程紙を得た。
【0039】
(実施例6)
LBKPとNBKPを85:15に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.00mmになるように叩解し、ウェットプレスを行った後、複数のシリンダードライヤーで乾燥した後に、基紙の裏面に加熱された平滑なベルトを押し当てて乾燥し、次に、基紙の表面に加熱された平滑なベルトを押し当てて乾燥した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例6の工程紙を得た。
【0040】
(実施例7)
LBKPとNBKPを80:20に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.20mmになるように叩解し、ウェットプレスを行った後、複数のシリンダードライヤーで乾燥した後に、基紙の裏面に加熱された平滑なベルトを押し当てて乾燥し、次に、基紙の表面に加熱された平滑なベルトを押し当てて乾燥した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例7の工程紙を得た。
【0041】
(実施例8)
LBKPとNBKPを85:15に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.00mmになるように叩解し、紙料スラリーに炭酸ナトリウムを添加して、基紙の抽出pHが7.0になるようにした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例8の工程紙を得た。
【0042】
(実施例9)
LBKPとNBKPを85:15に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.00mmになるように叩解し、紙料スラリーに炭酸カルシウム(奥多摩工業社製「タマパール121」)を対パルプ1.0質量%添加した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例9の工程紙を得た。
【0043】
(実施例10)
LBKPとNBKPを85:15に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.00mmになるように叩解し、紙料スラリーに炭酸カルシウム(奥多摩工業社製「タマパール121」)を対パルプ1.0質量%添加し、ウェットプレスを行った後、複数のシリンダードライヤーで乾燥した後に、基紙の裏面に加熱された平滑なベルトを押し当てて乾燥し、次に、基紙の表面に加熱された平滑なベルトを押し当てて乾燥した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例10の工程紙を得た。
【0044】
(比較例1)
LBKPとNBKPを85:15に混合し、パルプの長さ加重平均繊維長が1.00mmになるように叩解し、ウェットプレスを行った後、複数のシリンダードライヤーでのみ乾燥した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例1の工程紙を得た。
【0045】
(比較例2)
LBKPを長さ加重平均繊維長が、0.55mmになるように叩解した以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例2の工程紙を得た。
【0046】
以上のようにして得られた工程紙の基紙を構成するパルプ繊維の繊維長、基紙の抽出pH、工程紙の平面性、寸法安定性、引裂き強度、繰り返し引裂き強度を評価した結果を表1に示す。各評価項目は、以下のような方法で評価された。
【0047】
[パルプ繊維の繊維長]
叩解処理後のパルプ繊維の長さ加重平均繊維長は、バルメット・オートメーション社製「カヤーニ繊維長測定器FS−200」を使って、測定した。
【0048】
[基紙の抽出pH]
基紙の抽出pHは、JISP8133に準じて、熱水抽出法に従って、測定を行った。
【0049】
[平面性]
平面性に関しては、本発明の工程紙の表面に斜光の光をあてて、面の均一性・凹凸具合を目視にて、評価した。「○」評価以上であれば、実用上、問題がないと判断される。
◎ : 平面性が非常に均一で、梨地や細かいシワ状のくぼみが見られない。
○ : 平面性は均一ではあるが、多少細かいシワ状のくぼみが見られる。
× : 平面性が不均一であり、深いシワ状のくぼみが見られる。
【0050】
[寸法安定性]
寸法安定性に関しては、本発明の工程紙を一度、絶乾まで乾かし、そのときのサンプル長をL(0)とする。その後、JISP8111に準じて、本発明の工程紙を調湿した後に測定したサンプル長をLとする。本発明の工程紙の寸法変化度合いRをR=(L−L(0))/L(0)×100と定義する。Rの絶対値が大きいもの程、寸法変化が大きいと判断する。寸法変化度合いに関して、以下の基準で評価を行った。
◎ : 0.6%以下の場合には、寸法安定性が良好であり、幅手の収縮が少なく、面
質も良好なまま維持される。
○ : 0.6%より大きく、0.9%以下の場合には、寸法安定性については、やや
おとるが、実用性では問題がない。
× : 0.9%よりも大きい。寸法安定性が悪く、工程紙表面の平坦性も損なわれ、
実用上、使用できない。
【0051】
[引裂き強度]
本発明の工程紙の引裂き強度に関しては、工程紙のマシン方向とクロスマシン方向に引裂く際の引裂き強度をJISP8116に準じて測定し、それぞれの方向に関しての引裂き強度の平均値TS(I)に関して、以下の基準で評価を行った。
◎ : 引裂き強度としては、1300mN以上。強度で非常に優れる。
○ : 引裂き強度としては、1000以上1300mN未満。強度で優れる。
△ : 引裂き強度としては、700以上1000mN未満。実用上使用可。
× : 引裂き強度としては、700mN未満。使用不可能。
【0052】
[繰り返し引裂き強度]
本発明の工程紙の繰り返し引裂き強度の測定は、未処理の段階での工程紙の引裂き強度TS(I)を上記の測定方法に従って測定した後に、サンプルを105℃で1時間加熱処理し、23℃50%RH(標準状態)の条件下に24時間調湿する。この加熱処理と標準状態下での調湿処理を5サイクル繰り返した後に再び、引裂き強度TS(c)を測定する。繰り返し使用性MSについては、MS=TS(c)/TS(I)×100で試算し、数字が大きいほど、強度低下が少ないことを示す。繰り返し使用姓MSについては、以下の基準で評価を行った。
◎ : 繰り返し使用性MSが、95%以上。繰り返し使用性に非常に優れる。
○ : 繰り返し使用性MSが、80%以上95%未満。繰り返し使用性に優れる。
△ : 繰り返し使用性MSが、75%以上80%未満。実用上、使用可能。
【0053】
【表1】

【0054】
〈結果評価〉
実施例4と比較例1を比較することで、加圧乾燥工程の乾燥方法をとりいれることで、表面均一性に優れ、寸法安定性に優れた工程紙を製造することができることがわかる。
【0055】
実施例1〜5と比較例2を比較することで、基紙を構成するパルプ繊維の長さ加重平均繊維長が、0.60mm以上に調整することで、実用上使用できる引裂き強度に優れた工程紙を提供することができることがわかる。
【0056】
実施例4、5、9と実施例6、7、10を比較することで、加圧乾燥工程の処理時間が長く、基紙の両面をそれぞれ、平滑性の高いドライヤー面に押しあてることで、基紙の平滑性が向上し、工程紙の平面性があがる。また、寸法安定性も向上する。
【0057】
実施例4、6と実施例8、9、10を比較することで、本発明の工程紙の基紙の抽出pHを7.0以上に調整することにより、強度劣化の度合いが抑えられ、繰り返し使用性が向上することがわかる。また、実施例9、10の例が示すように、pH調整剤として不溶性アルカリ物質を添加してpH調整することで、強度の劣化度合いが抑えられる傾向にあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の工程紙は、基紙の片面の上にオレフィン樹脂をラミネートしたものであり、基紙の寸法安定性と面質に優れ、繰り返し使用に耐えうる強度に優れた工程紙を安定的に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の片面がポリオレフィン系の樹脂層で被覆された工程紙において、基紙を構成するパルプ繊維の長さ加重平均繊維長0.60mm以上であり、且つ、基紙の乾燥工程中において、少なくとも、加圧方式乾燥工程において湿紙が乾燥される工程があることを特徴とする工程紙。
【請求項2】
基紙の抽出pHが、7.0以上であることを特徴とする請求項1記載の工程紙。

【公開番号】特開2007−84982(P2007−84982A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278241(P2005−278241)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】