巨大分子用アフィニティ・リガンドの設計
【課題】供給流中の特定の製品標的の精製または特定の標的不純物の除去に適する、特異性が高くあつらえたようなリガンドを得るための方法を提供する。
【解決手段】設計されたアフィニティ・リガンドは予め選択した結合条件で標的と高い特異性で結合し、予め選択した溶出条件で標的を放出する。このリガンドは、結合ドメイン候補の構造の多様化を通して誘導した多様なポリペプチドに標的を接触させることによって分離され、所望の結合条件下での標的との結合と溶出条件下での標的の放出に好適なポリペプチドを含むこの変化体(即ち類似体)を含み、この結合条件と溶出条件とはpH、温度、塩濃度または有機溶媒の体積百分率などの1個以上のパラメータによって異なる。
【解決手段】設計されたアフィニティ・リガンドは予め選択した結合条件で標的と高い特異性で結合し、予め選択した溶出条件で標的を放出する。このリガンドは、結合ドメイン候補の構造の多様化を通して誘導した多様なポリペプチドに標的を接触させることによって分離され、所望の結合条件下での標的との結合と溶出条件下での標的の放出に好適なポリペプチドを含むこの変化体(即ち類似体)を含み、この結合条件と溶出条件とはpH、温度、塩濃度または有機溶媒の体積百分率などの1個以上のパラメータによって異なる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体分子精製の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は特定の標的生体分子用アフィニティ・リガンドの発見と分離に関する。かかるアフィニティ・リガンドは、所望の分離条件下で標的生体分子を精製するのに有用である。
発明の背景
【0002】
タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、脂質、核酸など、医学上あるいは工学的に重要な生体分子の製造法は多岐にわたり、それには化学合成法、自然発生または組換え形質転換した細菌、酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞などにより培地中に放出させる方法、培養細胞(例えば封入小体等)への蓄積、遺伝子組換え生物体から(例えばトランスジェニック哺乳動物の乳汁中に)分泌させる方法、尿、血液、乳汁、植物浸出液、真菌抽出物などの生体材料から回収する方法等が含まれる。しかし、こうして製造した生体分子がそのまま有用であることは稀で、製造に用いた溶液中の他の成分(即ち不純物)から分離したり、その溶液に占める割合がずっと高くなるように生体分子を濃縮したりする必要がある。
【0003】
クロマトグラフィは、生体分子標的の大量分離に使用する主流の精製・濃縮技術である。正しく組まれた一連のクロマトグラフィ段階によると、無機塩をはじめ、折りたたみ方が不正確であったり一部が分解した形の標的巨大分子それ自体に至るまで、広範囲の夾雑物が混入した複雑な混合物から生体分子の単一成分を分離することができる。同時に、クロマトグラフィによる精製が生体分子製品の製造原価に占める割合は大きい(単独トップであることも珍しくない)。代表的な生物療法の精製では、2ないし6段階以上のクロマトグラフィを要し、各段階でサイズ排除法、イオン交換法、疎水相互作用法、アフィニティ・クロマトグラフ法などが利用される。
【0004】
サイズ排除法は緩衝液の交換に、あるいは凝集質を取り除くために、最終段階として使用することが多い。イオン交換法と疎水相互作用法は製品を濃縮し不純物の大半を取り除くのに有用であるが、これらのクロマトグラフィはいずれもアフィニティ・クロマトグラフィの使用により達成される劇的な純度上昇に迫ることができない。例えばNarayanan(1994年)は、アフィニティ・クロマトグラフィの一段精製によって純度が3000倍上昇したことを報告している。
【0005】
しかし、アフィニティ・クロマトグラフィの技術を生体分子の大量産生に使用することは一般的ではない。理想的なアフィニティ・クロマトグラフィ・リガンドの必須条件は、容認できるコストで(1)標的生体分子捕捉の親和性が高く、容量が大きく、特異性が高く、選択性が高いこと、(2)他の分子種(不純物)を捕捉しないか、あるいは分別溶出が可能であること、(3)標的の保存条件(即ち分解・変性しない条件)下で放出の制御が可能であること、(4)クロマトグラフィ・マトリクスの殺菌、再使用が可能であること、(5)あらゆる病原体を除去あるいは不活化できることなどである。しかしながら、コストが容認できる高親和性リガンドで医薬品製造に要求される洗浄・殺菌プロトコルに耐えるものを見つけ出すのは困難であることが判明した(Knight、1990年参照)。
【0006】
理想からは遠いが、染料(シバクロンブルー等)や親和性既知のタンパク質(プロテインA等)がアフィニティ・クロマトグラフィに広範に用いられてきた。しかし、これらの材料は新規の標的に適用できないため柔軟性に欠け、使用範囲を広げることができない。
マウス単クローン抗体(MAb)もアフィニティ・リガンドとして使用される。MAbは作成が容易であり、新規標的分子に特異的な新規MAbリガンドが得られるので、MAb技術は特定の製造業者の個別的要求を満たすに足る、ある程度の柔軟性を有する。その一方で、単クローン抗体はアフィニティ・クロマトグラフィ分野での欠点が無いわけではない。MAbは製造費が高価であり、また、生体分子の精製に伴う洗浄、殺菌処理手順中に脱離、分解する傾向があることから、それに基づくアフィニティ・マトリクスの失活が速くなる(Narayanan 、1994年、Boschett、1994年参照)。しかも、MAbは標的に対して特異性を高くすることができるが、その特異性は標的と近縁の不純物を捕捉しないようにするには不十分であることが多い。さらに、MAbの結合特性は免疫した動物の免疫グロブリン・レパートリによって決定されるため、実行者はその動物の免疫系によって付与された結合特性に甘んずる他はなく、即ちMAb技術を使用するだけでは特定の結合や溶出特性を最適化、選択する余地がほとんどない。最後に、MAbの結合部位1つ当たりの分子量(25kDa〜75kDa)、さらにはMAbフラグメントであっても分子量が極めて大きい。
【0007】
このように、従来よりも高価でなく、もっと役に立ち、さらにぴったり合う特定生体分子標的用アフィニティ・リガンドを開発することが継続的に求められている。特に、上記の理想的なアフィニティ・リガンドの特性にさらに近く、所与の標的分子と高い親和性で結合するばかりか標的を所望の、あるいは選択した条件下で放出し、標的と標的が存在する溶液中の他成分とを識別することができ、洗浄、殺菌処理手順に耐えて再生、再使用可能なクロマトグラフィ・マトリクスを提供するアフィニティ・リガンドに対する需要がある。
かかるアフィニティ・リガンドと、それを得る方法とを本明細書中に提供する。
【0008】
発明の概要
本発明は、対象とする特定の生体分子標的用であって、所望の、あるいは選択した結合特性および放出特性を示すアフィニティ・リガンドを得る方法を提供する。そのもっとも広い態様では、本発明は、ほぼすべての標的分子についてそれを含む溶液から分離するのに有用なアフィニティ・リガンドであって、アフィニティ・クロマトグラフィに有利な結合特性だけでなく所望の放出(溶出)特性と、安定性、分解耐性、耐久性、再使用性、製造しやすさ等、他の所望の特性とを示すように設計したリガンドを得る方法を提供する。
【0009】
また、本発明は特異的不純物(または近縁グループの不純物)を極めて高い親和性で結合して標的を含む溶液からその(あるいはそれらの)不純物のほぼすべてを取り除くアフィニティ・リガンドを得る方法をも提供する。この場合、無傷で不純物を放出することは(標的の精製に関しては)重要ではないが、もしリガンドを含むアフィニティ・マトリクスを再生、再使用できれば経済的に有利である。
また、本発明は第一特定溶液セットの条件下で特定の標的と結合し、第二特定溶液セットの条件下でその標的を放出する能力のあるアフィニティ・リガンドを分離する方法をも提供する。
【0010】
このように、本発明は標的分子を含む溶液から標的分子を変性させないで分離するのに適したアフィニティ・リガンドを分離する方法であって、
(a)標的分子に関して、アフィニティ・リガンドが前記標的分子と結合することが望まれる第一溶液条件(即ち結合条件)を選択する段階と、
(b)標的分子に関して、前記標的分子と前記アフィニティ・リガンドとのアフィニティ複合体が解離する第二溶液条件(即ち結合条件)を選択する段階であって、前記第二溶液が前記第一溶液と異なる段階と、
(c)前記第一溶液条件および第二溶液条件下で安定な前記標的分子用ポリペプチド結合ドメイン候補を選択する段階と、
(d)前記ポリペプチド結合ドメイン候補中のアミノ酸位置(好ましくはドメイン表面上の位置、もっとも好ましくはドメイン中で互いに近接した位置)を変更可能な位置として選択する段階と、
(e)前記結合ドメイン候補を提供する段階であって、選択した1個以上の変更可能なアミノ酸の位置における異なるアミノ酸の置換において各類似体が前記結合ドメイン候補と異なる段階と、
(f)前記類似体ライブラリを第一溶液条件で前記標的分子を含む溶液と類似体/標的結合複合体を形成するのに十分な時間接触させる段階と、
(g)第一溶液条件下で結合しなかった類似体を除去する段階と、
(h)接触段階(f)の溶液条件を第二溶液条件に変更する段階と、
(i)第二溶液条件下で放出される結合類似体候補を回収する段階であって、回収した類似体が分離アフィニティ・リガンドを同定する段階と
を含む方法に関する。
【0011】
ある状況、例えば標的分子の性質が実行者によく分からないか未知であったり、標的の精製に係わる特徴(標的を産生した溶液の量、溶液中の残留不純物の性質、標的の生物学的活性、標的の産生源等)のため、標的分子が常に安定な溶液条件の範囲に関して不確かさが残る場合では、標的分子を含む溶液から標的分子を分離するのに適したアフィニティ・リガンドを得るための本発明による好ましい方法は
(a’)温度、pH、イオン強度、誘電率、溶質濃度(例えばカオトロピック試薬濃度、有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトニトリル、DMSO、DMF、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン等)濃度)、金属イオン(例えばZn++、Ca++、Mg++)やキレート剤(例えばEDTA)の有無から選択した複数のパラメータに関して標的分子が安定する範囲を確かめることによって前記標的分子の安定性範囲(エンベロープ)を画定する段階と、
(a)標的分子に関して、標的分子の安定性エンベロープの範囲内に所望の結合条件を選択する段階と、
(b)標的分子に関して、標的分子の安定性エンベロープの範囲内に所望の放出条件を選択する段階であって、前記放出条件が少なくとも1個のパラメータに関して前記結合条件と異なる段階と、
(c)前記結合条件下および放出条件下の両方で安定な前記標的分子のポリペプチド結合ドメイン候補を選択する段階と、
(d)前記結合ドメイン候補の表面のアミノ酸位置を変更可能な位置として選択する段階と、
(e)前記結合ドメイン候補の類似体ライブラリ(例えばポリペプチド結合ドメイン類似体の多彩なセットがバクテリオファージ表面に表示されるファージ表示ライブラリ)を提供する段階であって、段階(d)で示した1個以上のアミノ酸位置における異なるアミノ酸の置換において各類似体が前記結合ドメイン候補と異なる段階と、
(f)前記類似体ライブラリを第一溶液条件で前記標的分子を含む溶液と類似体/標的結合複合体を形成するのに十分な時間接触させる段階と、
(g)第一溶液条件下で結合しなかった類似体を除去する段階と、
(h)接触段階(f)の溶液条件を第二溶液条件に変更する段階と、
(i)放出条件下で放出される結合類似体候補を回収する段階であって、ここでは回収した類似体が単離されたアフィニティ・リガンドを確認する段階、
とを含む。
【0012】
回収した類似体から、特性の組合せが最高の、タンパク質結合ドメインを選択することができる。あるいは、追加のライブラリからの選択をさらに一巡して行うこと(上記の段階(e)〜(i))によって、回収リガンド中に所望の特性を有するリガンドが多くなるようにすることができる。標的、標的の製造、標的の溶液からの分離に係わる因子に関する実行者の知識によれば、結合ドメイン候補の選択、変更可能なアミノ酸の指定、変更可能な位置で置換するアミノ酸の選択を、最終アフィニティ・リガンドで望ましい特性に寄与するようにできるであろう。あるいは、もし多彩な結合ドメイン・ライブラリ候補を予め調製してあれば、選択段階(c)および(d)を繰り返す必要がなく、実行者は結合および放出条件を選択する段階からライブラリおよび標的を接触させる段階へ直接移行することができる。
【0013】
多数のアフィニティ結合ドメインが可能となり、その内いくつかが結合条件下で標的と結合し放出条件下で標的を放出するようにポリペプチド類似体ライブラリを作出することに類似タンパク質をバクテリオファージなどの遺伝子パッケージ表面に表示する技術を利用することは特に好ましい。かかる技術は米国特許第5223409号(Ladnerら)に公表され、参照により本明細書の一部とする。これらの強力な技術を使用することにより、構造が類似した多数(例えば107 )のポリペプチドを本発明の方法に使用するため容易に製造することができる。
【0014】
本発明によって調製したアフィニティ・リガンドは、特定の標的生体分子分離の目的に特にぴったり合うように調整される。このように、特性の釣合いが最適であり、標的結合のアフィニティ、標的特異性、特定条件下での標的放出、殺菌条件下での耐久性、その他選択したあらゆる所望の特性の点から、特定の標的の分離にほとんど理想的なアフィニティ・リガンドが本発明によって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】組織プラスミノーゲン活性化因子即ち「tPA」(1mg/mL tPA 25μL)を固定化tPAアフィニティ・リガンド(CMTI誘導体No.109、実施例16に記載)を有するアフィニティ・クロマトグラフィ・カラムにかけ、pH7〜pH3のグラジエント溶出を行ったときのクロマトグラムを示す。15分のピークは注入したtPAの約90%を含むと概算される。
【図2】凝集標準液(10倍希釈)をtPAアフィニティ・カラム(CMTI誘導体No.109)にかけ、上記の溶出を行ったときのクロマトグラムを示す。15.6分の小ピークはグラジエントの人為結果であることが分かった。
【図3】25μLのtPAを加えた25μLの凝集標準液(10倍希釈)からなる混合物についてpH7〜pH3のグラジエント溶出を行ったときのクロマトグラムを示す。1分のピークは血漿タンパク質の集まりであり、15.4分のピークはtPAである。
【図4】第3図に示したクロマトグラムの縦軸の目盛を拡大したクロマトグラムを示す。
【図5】CMTIファージ分離物C3、C21、C22、C23およびTN−6/Iファージ分離物T49(実施例18、下記参照)のpH7での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH2での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH7での固定化ヤギIgGへの結合、pH2での固定化ヤギIgGへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAによると、ヤギ抗体を含む供給流から人体に適応させた抗体を分離するのに有用なアフィニティ・リガンドの確認がなされる。
【図6】TN−6/Iファージ分離物T41、T42、T48、T52、T74(実施例18、下記参照)のpH7での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH2での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH7での固定化ヤギIgGへの結合、pH2での固定化ヤギIgGへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAによると、ヤギ抗体を含む供給流からヒト化抗体を分離するのに有用なアフィニティ・リガンドの同定がなされる。
【図7】TN−10/Vファージ分離物T61、T64、T66、T70、T72、T75(実施例18、下記参照)のpH7での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH2での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH7での固定化ヤギIgGへの結合、pH2での固定化ヤギIgGへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。
【図8】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するTN−6/Iファージ分離物、即ちTU33、TU34、TU36、TU37、TU39、TU42(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAにより、尿などの供給流からウロキナーゼを分離するのに有用なアフィニティ・リガンドの確認がなされる。
【図9】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するTN−10/VIIIa ファージ分離物のいくつか、即ちTU51、TU53、TU56、TU58、TU60、TU62(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAによると、尿などの供給流からウロキナーゼを分離するのに有用であるアフィニティ・リガンドの同定がなされる。
【図10A】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するCMTIファージ分離物のいくつか、即ちCU22、CU29、CU32(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。
【図10B】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するCMTIファージ分離物のいくつか、即ちCU25、CU27、CU28、CU31、CU32(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。この試験の判定基準によれば、これらの分離物にアフィニティ・リガンドに適するものはなかった。
【図11A】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するLACI/Fファージ分離物のいくつか、即ちLU2、LU5、LU9、LU12(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合およびpH7での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。
【図11B】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するLACI/Fファージ分離物のいくつか、即ちLU2、LU4、LU10、LU12(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合およびpH7での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。この試験の判定基準によれば、これらの分離物にアフィニティ・リガンドに適するものはなかった。
【0016】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明によると、アフィニティ・クロマトグラフィによる標的生体分子の効率よい精製が可能になる。本明細書において使用するとき、「標的」の語は、特定のタンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、脂質、リポ多糖類、核酸、もしくはそれに対して特異的なリガンドが求められるこれらのクラスの組合せを示す。標的はタンパク質の活性フラグメントや複合体や1個以上のタンパク質の凝集塊であってよい。標的は天然の生体分子に限定されず、合成有機分子や、特に1個以上のキラル中心を含む分子であってよい。標的はそれよりも大きい構造体、例えばウイルスなどの生物体の表面分子として存在してよい。それどころか、標的は細胞やウイルス粒子であってもよい。
【0017】
標的生体分子は、あらゆる公知の方法で生産され、それには化学合成法、天然に存在するまたは組換え形質転換した、細菌、酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞などにより培地中に放出させる方法、遺伝子組換え生物体(例えばトランスジェニック哺乳動物)から分泌させる方法、尿、血液、乳汁等の生物の体液や組織中のもの等が含まれる。初期に産生されたものとして粗製標的を含む溶液(即ち産生溶液)を「供給流」と呼ぶことがある。本発明が第一に照準を合わせたのは、標的が産生された溶液から標的分子を回収することであるが、本発明は産生供給流からの回収に限定されず、本発明により開発されるアフィニティ・リガンドは、標的をあらゆる溶液から回収することに使用できる。
【0018】
標的生体分子を産生する各方法は、標的と(標的に関する)数種類の不純物を含む供給流中に標的を産する。本発明の1つの目的は、標的を迅速かつ極めて特異的に精製することが可能になるようなアフィニティ・リガンドおよび(クロマトグラフィ媒体などの)調製物を提供することである。本明細書において得られるアフィニティ・リガンドは、高い親和性で(好ましくは実質的に供給流中の他分子全てを排除して)標的と結合する。さらに、このアフィニティ・リガンドは、溶媒条件が変わると標的を無傷で活性型のまま放出する。放出条件が標的に悪影響を及ぼさないことは重要である。このアフィニティ・リガンドが供給流中に低濃度で存在するときでも標的と結合し、高濃度で標的を放出できることが好ましい。それなら、一段精製によって多くの不純物の除去と標的の濃縮が両方行われる。活性型で結合、放出すべき標的を「製品標的」と呼ぶことがある。
【0019】
本発明の別の一態様は、特異的不純物(または近種グループの不純物)と極めて高い親和性で結合して、ほぼ全てのその(あるいはそれらの)不純物を分離することによって、それ(それら)から他の分子を取り除くことを可能にするアフィニティ・リガンドを提供することである。この場合、不純物を無傷で放出することは重要ではないが、リガンドを再利用できれば経済的に有利である。最高の親和性で捕捉すべきであるが、その放出は重要でない標的を「不純物標的」と呼ぶ。
【0020】
標的の特性決定
精製の分野では、標的について既知の、あるいは見出された事実のほとんど全てを駆使して標的の分離を目的とする精製スキームを改良する。標的用に設計したアフィニティ・リガンドを得るために本発明の方法を実施する場合、標的が安定となる溶液条件、即ち生体分子が活性を保ち、変性しない条件を知ること、あるいはそれを決定することは必要不可欠である。本発明による方法の最初の段階は、標的精製工程中の一組の条件を選択する段階と、そのアフィニティ・リガンドへの結合が終了して、標的の放出と溶出が起きることが望まれる異なる一組の条件を選択する段階とを含む。これらの条件は、究極的に得られるリガンドが無傷の、活性のある標的に対する親和性を有するように、両方とも標的が安定である条件でなければならない。
【0021】
標的の安定性に影響を及ぼす因子の理解に加えて、標的を分離すべき溶液中の標的濃度、標的の結合活性または酵素活性、標的の凝集状態(即ち標的が単量体か多量体か)標的のおよその大きさ(分子量)、標的を含む溶液や供給流の組成など、標的の他の特性を知ることも有用である。かかる因子は実行者が(a)1つ又はそれ以上のタンパク質リガンドが標的と結合することが期待される結合条件、(b)少なくともタンパク質リガンドのいくつかは標的を変性や損傷を起こすことなく放出するであろう、可能な条件変更、(c)そこから適切なリガンドを分離できる、可能結合タンパク質またはドメインのライブラリ(1つ又はそれ以上)の組成、を選択するのに有用である。
【0022】
標的の安定条件
どんな生体分子でも、いくつかの溶液条件で安定であるが、溶液中の標的の安定性は溶液の条件に影響を受け、その条件は溶液の温度、pH、イオン強度、誘電率、および[H+ ]、[Na+ ]、[Cl− ]、[尿素]、[グアニジン+ ]、[SO4− ]、[HSO4− ]、[PO4− ]、[HPO4− ]、[H2PO4− ]、[ClO− ]、[NH4+ ]、[OH− ]、[H2O2]、[Mg++]、[K+ ]、[Zn++]、[Ca++]、[Li+ ]、[NO3−]、[洗浄剤、例えばトライトンX−100]、[ラウリル硫酸イオン]、[グルコース]、[クエン酸イオン]、[安息香酸イオン]、[エタノール]、[メタノール]、[アセトン]、[酢酸イオン]、[クロロ酢酸イオン]、[ジクロロ酢酸イオン]、[トリクロロ酢酸イオン]、[ギ酸イオン]、[N−メチルホルムアミド]、[ホルムアミド]、[ジメチルホルムアミド]、[ジメチルスルホキシド]、[メチルエチルケトン]、[プロピオン酸イオン]、EDTA等、他の溶質の濃度を含む。これらのパラメータの各々と、特定の供給流について既知の、あるいは決定された他のいかなるパラメータに対して、標的はある範囲内、即ちある温度範囲内、あるpH範囲内等で安定である。この安定範囲を外れると標的は変性する。ひとまとめにして、特定の標的の安定性に影響を及ぼす全パラメータの範囲はその供給流の「安定性エンベロープ」を決定し、溶液の条件を安定性エンベロープの範囲内に維持する限り、標的は安定であり続けることが期待される。同一の供給流中でも、異なる標的は異なる安定性エンベロープを有することが期待される。
【0023】
所与の標的をアフィニティ分離するのに適したアフィニティ・リガンド獲得の最初の段階は、標的が安定であるような結合条件と所望の放出条件を選択する段階である。実行者が結合条件を選択するには標的分子の安定条件に関して知っている情報が不十分な場合、以前の決定を参照するか、経験に基づいて1個以上のパラメータに関して安定範囲を決定するか、そのいずれかによって安定条件を確かめることができる。
【0024】
所望の結合条件を選択するために、標的の安定性を試験したり標的の安定性エンベロープの全てにわたって決定したりする必要はない。実行者は経験に基づいて単に安定条件を推測し、適切に一組の結合条件を選択してよい。例えば、およそ安定性を有するタンパク質であれば、ほとんどがpH7、25℃、150mM NaClで安定である(即ち、通常pH7、25℃、150mM NaClは所与のタンパク質の安定性のエンベロープの範囲内である)。結合条件にpH7、25℃、150mM NaClを選択し、放出条件は1個以上のパラメータを変化させることによって(例えばpH4、25℃、150mM NaClを)これに関連して選択してよい。これらの条件のいずれかが標的の安定性エンベロープの範囲外である場合、この方法では標的を溶液から分離できるいかなるアフィニティ・リガンドはなにも確認できず、安定性エンベロープをもっと正確に決定するか、エンベロープの境界について別の推測をしてからいずれかにこの方法を繰り返すことになる。より広い例として、温度範囲0℃〜35℃、pH8〜9からpH4〜5までの範囲、[NaCl]範囲としては0M〜1Mで極めて多くのタンパク質が安定である。従って、結合条件pH8、0℃、10mM NaClと放出条件pH6、30℃、0.5M NaClはほとんどのタンパク質標的に選択することができる。この推定安定性エンベロープに基づく結合及び放出条件の他の組合せは(1)結合:pH6、25℃、0.5M NaCl、溶出:pH8、0℃、10mM NaCl、(2)結合:pH7、0℃、10mM NaCl、溶出:pH7、35℃、150mM NaCl、4M尿素、(3)結合:pH8、25℃、150mM NaCl、溶出:pH6、25℃、150mM NaClを含むであろう。
【0025】
結合条件および放出条件を適当に選択するために、供給流中の特定の標的に関する情報をさらに確かめなければならない場合、1個以上のパラメータの範囲にわたる安定性を容易に決定することができる。ある標的について有用な安定性エンベロープを確立する実例試験を以下に説明する。有用な安定性データをもたらすかかる試験は多くの修正が可能であり、かかる修正は当業者には自ずと示唆されるであろう。安定性の境界を高精度で決定することは重要ではなく、標的が安定で(結合用と放出用の)2つのはっきりと異なる条件を決めることができる、条件の範囲を画定する必要があるだけである。特定の標的の安定条件が極めて狭い場合、アフィニティ精製を行うのに必要な時間にわたって標的が変性してはならないことを常に心に留めておくべきである。境界安定条件下でさえ、標的の回収後には、さらに加工する前に産物を安定性の高い溶液に戻す。
【0026】
標的の安定性エンベロープを確立するための実例試験
温度安定性
まず、標的分子が変性するか活性をほぼ失う温度TmをpH7、塩濃度150mMの溶液中で測定する。このTmは、例えば走査熱量計を使用して決定することができる。Tmはかなり急な変移を示すが、やや低い温度(安定性温度範囲の上限)で長くインキュベートすると失活する可能性があることを理解すべきである。従って、安定性エンベロープの境界温度はTmによって画定される限界よりも数℃低く設定することが好ましい。あるいは、一定時間(例えば15分間から24時間まで)25℃、37℃、45℃、55℃、65℃などの一組の温度でインキュベートした後に標的試料の活性を測定することによって温度安定性を決定することができる。標的がある温度で失活せず、次の温度でかなり失活した場合、1点以上の中間温度で活性を測定することによって、温度範囲の境界を所望の確度で決定することができる。次に、150mM食塩水の氷結点までの低温で標的がバラバラになる(離解)するか沈殿するかを判定することができる。
【0027】
pH安定性
標的が活性を保持するpH範囲を数点の温度(例えば4℃、25℃、37℃、50℃、)で決定する。これは走査熱量計中で種々のpH値に対するTmを測定することによってできる。ここで、Tmは与えられたpHにおける安定性の上限を画定するものであって、安定性のエンベロープは各pHについて数℃低く設定すべきであることに注意する。例えば、境界が決定されるまでpH7、6、8、5、9、4、10等々pHを変えてTmを測定することができる。あるいは、標的試料を特定の温度(25℃、37℃、50℃)とpH2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12で(20分間などの)適当な時間インキュベートし、pHを活性の決定に適した値に調整した後に活性を測定することができる。この範囲の温度依存性が強い場合、pH範囲は追加の温度(例えば15℃、30℃、43℃、60℃)で標的が活性を保持する範囲について決定する。
【0028】
標的が可溶かつ安定なイオン強度範囲
これは2点または3点の温度で測定するのが有利である。例えば、有用な温度は4℃(または標的が沈殿、離解しない最低温度)、25℃、Tm より5℃下(または標的がそれほど失活を示さない最高温度)であろう。Tm は走査熱量計中で1mM、5mmM、50mM、150mM、500mM、1M、3MなどのNaCl濃度に対して測定する。pHを特定の値、例えばpH7とかpH8に保つためにそれぞれの場合に適した緩衝液を加えるべきである。
【0029】
ほとんどのタンパク質はいくらか塩を含んだ水に可溶である。塩濃度があまり高かったり低かったりすると、タンパク質は沈殿や結晶化をきたすことが多い。タンパク質の沈殿に使用される塩類はNaCl、(NH4)2SO4、酢酸アンモニウム、KCl、リン酸カリウム(KH2PO4、K2HPO4)、リン酸ナトリウム(NaH2PO4、Na2HPO4)等を含む。標的の溶解度が急激に下がる点(高塩濃度および低塩濃度)をNaCl、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウムなどの2、3の塩類について決定することが好ましい。
【0030】
カオトロピック試薬に関する標的の安定性および溶解性
尿素、塩化グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、グアニジンチオシアネート等はタンパク質と他の分子との相互作用を分断することが知られている。また、これらの試薬は折りたたまれたタンパク質を開かせることもできる。標的の安定性は、尿素、塩化グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、イソチオシアン酸ナトリウム、N−メチル尿素等のうちの1個以上の濃度上昇に関して測定することが好ましい。典型的な場合では、あるタンパク質の熱変性に対する安定性は尿素その他のカオトロピック試薬による変性に対する安定性と平行している。
【0031】
標的の安定性に特定のイオンが必要かどうか
タンパク質には(Mg++、Zn++、Ca++などの)金属イオンと結合するものがある。例えばEDTAなどのキレート剤に曝すことによって、この金属イオンを取り除くと、場合によってはタンパク質が変性することがある。標的が金属イオンを含むかどうかは元素分析によって決定される。標的が金属イオンを含む場合、EDTAへの曝露か蒸留水に対する透析のどちらによって標的が失活するかを判定する。
【0032】
有機溶媒および有機溶質中の標的の安定性と溶解性
標的の安定性と溶解性を有機溶媒、水と有機溶媒の混合物、有機溶質を添加した水中について決定することが好ましい。例えば、標的の安定性と溶解性を、アセトニトリル(ACN)および水/ACN混合物、メタノール(MeOH)および水/MeOH混合物、エタノール(EtOH)および水/EtOH混合物、イソプロピルアルコール(IPA)および水/IPA混合物、ジメチルホルムアミド(DMF)および水/DMF混合物、ジメチルスルホキシド(DMSO)および水/DMSO混合物、第二級ブチルアルコール(SBA)および水/SBA混合物、アセトンおよび水/アセトン混合物等のうち、一種類以上の中で測定する。加えて、標的の安定性と溶解性について、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド等の有機溶質を種々の量添加した水中で試験を行う。
【0033】
ファージ提示および有機溶媒
標的と結合する選択的リガンドを得るための好ましい一方法は、M13などのファージ上に提示されたタンパク質のライブラリから選択することである。従って、ファージ提示ライブラリを使用した場合、有機溶媒がファージを傷めるかどうかを判定することに関心が持たれる。ACN、MeOH、DMSOは、M13ファージに悪影響をもたらさないので特に好ましい。特に、次の条件によるとM13はほぼ間違いなく生存する。
【表1】
80%EtOH、IPAまたはDMFと共に20分間インキュベートすると生存するファージはなかった。これらの溶媒をファージと共に使用するときは低濃度にする。
標的の知識から、役立ちそうな他の取り扱い可能な溶液条件も示唆される。例えば、糖結合タンパク質の安定性はタンパク質が結合する糖の濃度の影響を受ける。
【0034】
アフィニティ・リガンドの分離
結合条件と放出条件の選択
提案されている、あるいは経験的に決定した標的分子用安定性エンベロープを使用して、二種類の溶液条件、即ち結合条件と放出条件を選択する。結合条件はその条件下で発見されたアフィニティ・リガンドが標的と結合することが望まれる一組の溶液条件であり、放出条件はその条件下では発見されたアフィニティ・リガンドが標的と結合しないことが望まれる一組の溶液条件である。この二種類の条件は条件達成の容易さ、他の精製工程との互換性、他のアフィニティ媒体と比較して条件変更コストの低さ等、実行者のあらゆる基準を満たすように選択される。この二種類の条件は(a)十分に安定性エンベロープの境界内であることと、(b)少なくとも1つの溶液パラメータに関して遠く隔たっていることが好ましい。例えば標的が広いpH範囲で安定な場合、好適な結合条件がpH11、塩濃度150mM、25℃で好適な放出条件がpH3、塩濃度150mM、25℃などである。pH安定性の範囲が狭いが(例えばpH6.2〜7.8)広範囲の塩濃度にわたって安定な別の標的に対しては、二種類の有用な条件は、結合条件がpH7.2、3M NaCl、25℃で放出条件がpH7.2、2mM NaCl、25℃などである。3番目の標的はpH範囲が狭いがアセトニトリルに対する安定性の範囲が広いものである。この3番目の仮定上の標的に対して有用な条件は、結合条件としてpH7.0、100mM NaCl、100mM K2HPO4、25℃、および放出条件としてpH7.0、5nM NaCl、50%(v/v)アセトニトリル、などである。
【0035】
結合ドメイン候補の選択
標的の所望の結合と放出のための特定の溶液条件の選択に関連して、所望の結合能と放出能を示すよう設計したアフィニティ・リガンド用の構造テンプレートとして結合ドメイン候補を選択しなければならない。この結合ドメインは天然のタンパク質または合成タンパク質、あるいはあるタンパク質の領域またはドメインである。結合ドメイン候補は既知の結合ドメイン候補と標的間の相互作用の知識に基づいて選択するが、これは決定的ではない。実際、結合ドメイン候補がどれほど標的への親和性を有するかということは重要ではない。それの目的は、それから多数(ライブラリ)の類似体を作り出せる構造を提供することである。この多数の類似体は所望の結合特性と放出特性(および選択した他のあらゆる特性)を現す類似体を1個以上含む。従って、以下に論ずる結合条件と放出条件は、結合ドメイン候補として働く正確なポリペプチドの知識または結合ドメイン候補が属するタンパク質かドメインのクラスの知識によって、選択することもできるし、あるいは結合ドメイン候補の選択とまったく無関係に選択することもできる。同様に、結合条件および放出条件あるいはそのいずれか一方は、結合ドメイン−標的間の既知の相互作用を考慮して、例えば1つまたは両方の溶液条件下での相互作用に有利となるように選択するか、あるいはかような既知の相互作用とは関係なく選択する。同じく、結合条件および放出条件あるいはそのいずれか一方を考慮に入れて、あるいは入れないで結合ドメイン候補を選択することができる。もっとも、結合条件または放出条件下で結合ドメイン類似体が不安定ならば、有用なアフィニティ・リガンドが得られないことは認めなければならない。
【0036】
結合ドメイン候補を選択する目的は、構造が類似した類似体ドメインのライブラリを作るためのテンプレートまたは親構造物を提供することである。この類似体ライブラリは、ライブラリを作成するための基本ドメインの多様化がアフィニティ・リガンドに望まれる特性にとって有利になるように行われるという点で(無作為に作成したライブラリに対して)偏りのあるライブラリであることが好ましい。
【0037】
結合ドメイン候補の性質は、標的分子に対して試験することになる得られたタンパク質(類似体)の特性に大きく影響を及ぼす。結合ドメイン候補の選択でもっとも重要な考察は類似体ドメインが標的にどのようにして提供されるか、即ち標的と類似体がいかなる立体配座で接触するようになるかということである。例えば、好ましい実施形態では、例えば米国特許第5403484号(Ladnerら)や米国特許第5223409号(Ladnerら)など(参照により本明細書の一部とする)に記載された技術を使用して、類似体は類似体をコードする合成DNAを複製可能な遺伝子パッケージに挿入することによってつくられ、その結果、M13ファージなどの微生物表面にドメインが提示される。
【0038】
結合ドメイン候補として構造化ポリペプチドは非構造化ポリペプチドと比較して多くの利点がある。通常、タンパク質中の表面残基の変異はタンパク質の全体構造や一般的特性(サイズ、安定性、変性温度など)にほとんど影響がないが、表面残基の変異は同時にタンパク質の結合特性に強い影響を及ぼす。これは、例えばBPTI相同Kunitzドメインについて十分に記録されている(Ladner、1995年参照)。タンパク質または構造化ドメイン上の残基を変異させると、類似体にとって非構造ペプチドの変異によって得られるよりも特性の多様性が増す可能性がある。それは、タンパク質の枠組みまたはドメインの構造が残基ごとに、および枠組みにより異なる立体配座中に変異された残基を保持しているからである。これは、構造物中に束縛しないと埋没してしまう疎水性側鎖基にとって特に重要である。ペプチド・セグメント(ドメイン)に対する束縛がきつくければきついほど、いかなる特定の標的とも結合する可能性は低くなる。しかし、結合するならば、その結合はより緊密で、特異性が高くなるであろう。従って、結合ドメイン候補と、ついでペプチド類似体のドメインもまた、ある程度剛性のある枠組み内に束縛されたものを選択することが好ましい。あるいは、類似体のライブラリ・サイズを大きくするため、および標的に提示するための多様化構造をさらに導入するため、1個以上の結合ドメイン候補を選択することができる。ライブラリ・サイズが大きくなり、調製される類似体の数がさらに多く構造が多様になると、有用な枠組みと提示された機能性基が含まれる確率は、ほとんどどのような標的に対しても高親和性リガンドを見つけられるほどに高くなる。
【0039】
結合ドメイン候補のサイズも重要な考慮事項である。小さいタンパク質またはペプチドは単クローン抗体などの大きいタンパク質よりも有利な点がいくつかある(Ladner、1995年参照)。第一に、結合部位あたりの質量が軽減される。分子量が小さい高安定性タンパク質ドメイン、例えばKunitzドメイン(約7kDa)やKazalドメイン(約7kDa)、Cucurbida maximaトリプシン阻害因子(CMTI)ドメイン(約3.5kDa)、エンドセリン(約2kDa)は、抗体(150kDa)や一本鎖抗体(30kDa)よりもずっと高いグラム当たりの結合率を示し得る。
【0040】
第二に、接触表面が少なくなるので、非特異的結合の可能性が低くなる。
第三に、小さいタンパク質またはペプチドは抗体には不可能な仕方で独特のつなぎ部位を有するように設計できる。例えば、小さいタンパク質は(例えばクロマトグラフィ・マトリクスに)つなぐのに適した部位のみにリシンを有するように設計できるが、これは抗体では実行できない。固定化した抗体の一部しか活性がないことがよくあるが、おそらくこれは担体への結合が不適切だからであろう。
【0041】
小さいタンパク質またはポリペプチドのうちジスルフィドによって安定化されるもののほとんどは、ジスルフィドを形成していないシステインを含まない。これは、タンパク質を安定化させるためのジスルフィド形成をもたらす酸化条件によって、それ以外の条件では対にならないシステインもジスルフィドを形成するからである。従って、安定化ジスルフィドと奇数のシステインを有する小さいタンパク質はジスルフィド結合二量体(例えばホモ二量体やヘテロ二量体)を形成する傾向がある。ドメイン−ドメイン間のジスルフィド数はドメイン内の安定化ジスルフィドよりも還元されやすい。従って、選択的還元によって単一の遊離チオールを有する単量体ジスルフィド安定化ドメインを得ることができる。かようなチオールは、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸または類似したα−ヨードカルボン酸基とのチオエーテルの形成によって、これらのドメインを高度に安定固定化するのに使用できる。
【0042】
小さいタンパク質またはポリペプチドのドメインは化学合成も可能であり、これによって標的との結合を妨げないように特定の固定化用基を組み込むことができる。例えば、ジスルフィドを含む小さいタンパク質を化学合成した場合、アミノ酸配列の他の場所にある他のシステインとは異なった仕方でブロックされたチオールを持つ特別のシステイン残基を追加することによって、その配列を変更することができる。選択したチオールは脱ブロック化してジスルフィドを形成させた後、追加したシステインを脱ブロック化し、固定化NH2−CO−CH2Iを含む基体などの適当な材料と反応させることによって、分子を固定化することができる。
【0043】
第四に、構造ドメインと共に1つの枠組みからもう1つの枠組みへ無傷で移すとき、束縛されたポリペプチド構造物のほうが機能性を保持しやすい。例えば、結合ドメイン構造物は、ライブラリの中で提示する(例えばファージ上に提示する)のに使用する枠組みから取り出した独立タンパク質や、クロマトグラフィ基体に固定化した独立タンパク質へ提示枠組みから移しやすい。
【0044】
結合ドメイン候補として使用するのに適した小さく安定なタンパク質ドメインは多数存在し、それにとって有用な次の情報が利用できる。(1)アミノ酸配列、(2)数個の類似ドメインの配列、(3)三次構造、(4)pH、温度、塩濃度、有機溶媒、酸化剤濃度の範囲にわたる安定性データ。実例としては、Kunitzドメイン(58アミノ酸、3スルフィド結合)、Cucurbida maximaトリプシン・インヒビタ・ドメイン(31アミノ酸、3ジスルフィド結合)、グアニリンに関係するドメイン(14アミノ酸、2ジスルフィド結合)、グラム陰性菌からの熱安定エンテロトキシンIAに関係するドメイン(18アミノ酸、3ジスルフィド結合)EGFドメイン(50アミノ酸、3ジスルフィド結合)、クリングル(kringle)ドメイン(60アミノ酸、3ジスルフィド結合)、真菌の炭水化物結合ドメイン(35アミノ酸、2ジスルフィド結合)、エンドセリン・ドメイン(18アミノ酸、2ジスルフィド結合)、連鎖球菌G IgG結合ドメイン(35アミノ酸、ジスルフィド結合なし)などがある。これらの全てではないが、そのほとんどが構造物を堅固に安定にするジスルフィド結合を含む。これらドメインのそれぞれに基づくライブラリ、好ましくはファージその他の遺伝子パッケージ上に提示されるライブラリは構築が容易であり、結合類似体の選択に使用しやすい。
【0045】
結合ドメイン候補ライブラリの提供
一旦結合ドメイン候補を選択したなら、アフィニティ・リガンドになる可能性があるもののライブラリを作り、結合条件と放出(溶出)条件で標的に対してスクリーニングする。このライブラリは、ドメインの配列に1個以上のアミノ酸置換があることを除いて結合ドメイン候補と相同な一連の類似体を作成することによって作出する。このアミノ酸置換は、少なくともほとんどの置換体について、構造を大きく変えないでドメインの結合特性を変化させることが期待される。多様化のために選択したアミノ酸位置(可変アミノ酸位置)が表面アミノ酸位置、即ちドメインがもっとも安定な立体配座をとるとき、ドメインの外表面(即ち溶液に曝される表面)に現れる、ドメインのアミノ酸配列中の位置であることが好ましい。置換の効果が最大になるように、この変化させるべきアミノ酸位置が隣接または相互に近接していることがもっとも好ましい。その上、特別のアミノ酸を結合ドメイン候補の構造中に追加することができる。好ましい実施形態、特に標的の三次構造、または標的の他の分子、特に結合ドメイン候補との相互作用に関して大量の情報が利用できる場合では、類似体ライブラリ構築の過程で結合相互作用に必須のアミノ酸位置が決定され保存される(すなわち結合に必須のアミノ酸は変えない)。
類似体ライブラリ作出の目的は標的との反応においてアフィニティ・リガンドとなる可能性のあるものを多数提供することであり、一般に、ライブラリ中の類似体数が多いほど、そのライブラリの構成要員が標的に結合し、かつ放出に望ましい予め選択した条件下でそれを放出する確度が高くなる。一方、無作為置換では、アミノ酸配列中のたった6個の位置でも類似体が6千万を超え、これはファージ提示ほど強力なスクリーニング技術を利用しても、実際には限界に近いライブラリ・サイズである。従って、多様化のために指定するアミノ酸位置は類似体の結合特性に及ぼす置換の効果が最大になるように考慮され、置換に使用できるまたは意図されたアミノ酸残基は類似体を結合条件から放出条件に溶液条件が変るのに反応するようにさせるだろうものに限定されている、偏りのあるライブラリを作出することが好ましい。
【0046】
前に示したように、米国特許第5223409号で論じられた技術は選択した結合ドメイン候補に対応する類似体ライブラリの調製に特に有用であり、これらの類似体は標的分子について多数の類似体を大規模にスクリーニングするのに適した形で提供される。複製可能な遺伝子パッケージ、もっとも好ましくはファージ提示を使用することは新規なポリペプチドの結合性実体を生成させる強力な方法であり、これには新規DNAセグメントをバクテリオファージのゲノム(または他の増幅可能な遺伝子パッケージ)に導入して、この新規DNAがコードするポリペプチドがファージ表面に出現するようにさせる方法が含まれる。この新規DNAの配列に多様性がある場合、1つの受容体ファージはDNAがコードする最初の(即ち「親」)アミノ酸配列の変異体を1つ提示し、ファージの集団(ライブラリ)は莫大な数の異なっているが類縁のアミノ酸配列を提示する。
【0047】
ファージのライブラリを標的分子に接触させて結合させ、結合しなかったものを結合したものから分離する。結合したファージは様々な方法で標的から遊離され、増幅される。ファージは細菌の細胞に感染させることで増幅できるので、結合実体をコードする遺伝子配列を明らかにするには少数の結合ファージでも十分である。これらの技術を使用すると集団中の約2千万分の1の結合ファージを回収することができる。各1千万〜2千万以上の可能結合ポリペプチドを提示する1個以上のライブラリを迅速にスクリーニングして高親和性リガンドを見つけだすことができる。この選択工程が機能すると、集団の多様性は各回ごとに減少し良好な結合体だけが残る。即ちこの工程は収束する。典型的な場合では、ファージ提示ライブラリは数個の非常に近縁な結合体(1千万のうち結合体10ないし50個)を含む。ファージの単位によって測定される結合の増加と近縁配列の回収により収束が示される。最初の結合ポリペプチドの組が確認されると、配列情報を使用してさらなる所望の特性、例えば極めて類似した二分子の識別力などをさらに有する構成要員に偏らせた他のライブラリが設計できる。
【0048】
かような技術によると、多数の類似体のスクリーニングだけではなく、結合/溶出サイクルの繰返しの実用化および最初の基準に合致した類似体提示パッケージのスクリーニングに対して偏りのある第二のライブラリの構築も可能になる。従って、本発明の実行では、(1)結合ドメイン類似体のライブラリをファージなどの複製可能な遺伝子パッケージ上に提示できるように作成すること、(2)スクリーニング法の結合条件が所望のアフィニティ・リガンド用に予め選択した結合条件と同一にして、このライブラリを標的分子と結合する遺伝子パッケージについてスクリーニングすること、(3)遺伝子パッケージをアフィニティ・リガンド用に予め選択した放出条件下での溶出によって獲得し、増殖させること、(4)極めて破壊的な条件(提示された結合ドメイン類似体のいくつかと標的との極めて高い親和性会合に打ち勝つため、例えばpH2以下、8M尿素、飽和チオシアン酸グアニジン等)下で溶出することによって追加の遺伝子パッケージを獲得し、増殖させること、(5)(3)または(4)で得られた増殖した遺伝子パッケージを別々に、もしくは組み合わせて(2)および(3)または(4)の工程を1回以上(例えば1ないし5回)追加循環させること、(6)かようなサイクルから回収した遺伝子パッケージ中に発現した類似体について高親和性結合体のコンセンサス配列を決定すること、(7)元の枠組み(結合ドメイン候補)に基づいて偏りのあるライブラリをさらに構築し、各可変アミノ酸位置で高親和性コンセンサスを可能にし、さらに他のアミノ酸タイプを結合条件から放出条件への変化に対して特に感受性があると思われるアミノ酸を含むように選択すること、(8)(a)結合条件下で強固に(即ち高い親和性で)結合し、(b)放出条件下できれいに放出する(即ち標的から容易に解離する)構成要員をこの偏りのあるライブラリからスクリーニングすることがもっとも好ましい。
【0049】
アフィニティ・リガンドのクロマトグラフィへの使用
結合条件下で所望の親和性で結合し、放出条件下で望むように放出する1個以上のライブラリの構成要員を分離した後、公知の方法でこのアフィニティ・リガンドの分離を達成できる。例えば、類似体ライブラリがファージ上に提示された有望なアフィニティ・リガンドからなる場合、放出されたファージを回収、増殖し、類似体をコードする合成DNA挿入断片を分離、増幅し、このDNA配列を解析し、あらゆる所望の量のリガンドを、例えばポリペプチドの直接合成、分離DNAや等価のコード配列の組換え発現などによって調製することができる。
【0050】
本明細書に記載する以下の同様の工程によって、放出特性をリガンドに入れて設計したのと同様の方法で、リガンドにとって望ましい特性をさらに類似体リガンドに組み入れて設計することができる。
【0051】
こうして分離したアフィニティ・リガンドは、アフィニティ・クロマトグラフ法による標的分子の分離に極めて有用である。従来のクロマトグラフ法はどれでも使用できる。本発明のアフィニティ・リガンドは、例えばクロマトグラフィ・カラムなどに適した固体担体上に固定することが好ましい。次いで固定化アフィニティ・リガンドにリガンド/標的複合体の形成に好適な条件下で供給流を負荷もしくは接触させ、非結合物質を洗浄して除いた後、標的をリガンド/標的複合体から放出するのに好適な条件下で溶出することができる。あるいは、供給流と適当にタグを付けたアフィニティ・リガンドとを反応容器に共に添加した後、タグ(例えば、複合体形成後にリガンドを結合するのに使用できるポリHisアフィニティ・タグ)を使用することで標的とリガンドの複合体を分離し、最後に非結合物質を除去した後に標的を複合体から放出させることによってバルク・クロマトグラフィを行うことができる。
【0052】
アフィニティ・リガンドは、厳密な結合特性および放出特性を組み込んで設計してあるが、アフィニティ精製で使用する際に、分離されたアフィニティ・リガンドが機能するのに一層最適な結合条件及び放出条件が明らかになる可能性があることに注意すべきである。従って、本発明による分離後に、ライブラリからアフィニティ・リガンドを分離した結合条件及び放出条件だけを常に使用しなければならないということはない。
【0053】
親和性定数
およそ3000ダルトン(約3kDa)の分子量を有するアフィニティ・リガンドが分離されたと仮定する(例えばCMTI誘導体、下記参照)。また、このリガンドを3mM(即ち約10g/L)の有効濃度で適当なクロマトグラフィ用担体に負荷できると仮定する。
分子量が50kDaで細胞培養培地から10mg/Lで産生された標的を仮定する。タンパク質濃度は(0.01g/L)÷(5×104g/モル)=0.2μM。リガンドが3mMで存在する場合、1Lの親和性材料は3ミリモル(167g)の標的を捕捉できる。
このリガンドが単純な質量作用の式(1)に従って標的と結合すると仮定する。
(1)KD/[リガンド]=[標的]/[複合体]≡ (1/X)10
捕捉できる標的の割合は式(2)で与えられる。
(2)結合した標的の割合=1/{1+(1/X)}
従って、結合した標的の割合は解離定数KDと担体につけたリガンド量によって制御できる。KDは溶液条件の関数であるが、アフィニティ・リガンド分子に固有の値である。結合条件下でのKDの値はKDBCであり、溶出条件下でのKDの値はKDECである。
【表2】
上の表に、結合した標的の割合が[リガンド]/KDの比にともなってどのように変化するかを示す。満足できる捕捉は0.9より大きいと仮定されるが、本発明はいかなる捕捉レベルにも限定されない。[リガンド]がおよそ3mMの場合、満足できる捕捉は300μM以下のKDBCで得られる。[リガンド]/KDBC≧100では、より効果的な捕捉が得られ、これらの比較的高い値が好ましい。[リガンド]/KDBCの値は高いほどよいが、ただし標的の回収に十分なほど[リガンド]/KDECが小さくなければならない。3mMより高濃度のアフィニティ・リガンドを担体につけることができればKDの値が一層高いリガンドを使用できる。
【0054】
満足できる溶出には[リガンド]/KDEC<10が必要であり、[リガンド]/KDECの値は低い方が好ましい。[リガンド]/KDEC<0.1は特に好ましく、[リガンド]/KDEC<0.01はさらに好ましい。[リガンド]/KDECは低いほどよく、制限はない。[リガンド]/KDECの比を0.001よりも低くしても、平衡放出で得るものはほとんど無いが、極めて高いKDを有するリガンドはオフ比が高く、標的を極めて迅速に放出できるので実際上は優れている。
【0055】
従って、効率よい捕捉と溶出を得るためには、理論によると(KDEC/KDBC)を1000以上にするべきである。この比は高いほどよい。少なくとも10%の結合物質を溶出条件下で遊離できる場合、(KDEC/KDBC)>10であればこの工程は申し分ない。しかし、本発明は(KDEC/KDBC)のいかなる特定の値にも限定されない。標的に対して極めて高い親和性を有するリガンドの方が高い特異性を与えることができよう。特に、親和性が比較的低い不純物を押し出すために親和性物質を標的よりも僅かに多く負荷してある場合にそうである。極めて高親和性のリガンドにとり、不純物を押し出すために必要な過剰量は少ない。
【0056】
KDECはKDBCと同様に重要である。KDECは0.1より大きくないことが好ましく、0.01より大きくないことがさらに好ましい。それにもかかわらず、理論的に結合物質の50%を放出させるKDEC=1でもアフィニティ精製は機能する。平衡洗浄を4回行うと(即ち50%+25%+12.5%+6.25%)、結合条件下で捕捉された物質の94%が回収される。
【0057】
仮定に基づけば、KDBC=1μMを有し、担体に3mMで結合した固定化リガンド1Lは、約15,000Lの0.2μM溶液(10mg/Lの50kDa標的分子)から標的の99%を捕捉することができる。
適当な担体に結合したアフィニティ・リガンドは、標的を捕捉するために、他段階平衡クロマトグラフィの実施形態などの多様な方法で使用できることが理解されよう。例えば、リガンド担体をカラムに充填し、標的を含む溶液をカラムに流し、(任意選択で)ほぼ全ての標的が結合するかリガンド担体が標的で飽和するまで再循環させる。あるいは、結合が完了するまでリガンド担体を標的含有溶液と混合(振とうまたは撹拌)してもよい。
【0058】
KDECが3mMでリガンド負荷が3mMの場合、1Lの平衡洗浄を4回行うと4L中に2.82ミリモル(3mMの94%)が回収でき、670μMの標的溶液、即ち供給流と比較して3350倍濃度の標的が得られる。さらに、大部分の不純物が除去されると予想される。
KDECが30mMでリガンド負荷が3mMの場合、1Lの平衡洗浄を2回行うと2L中に2.98ミリモル(3mMの99%)まで回収でき、1.49mMの標的溶液、即ち供給流と比較して7450倍濃度の標的が得られる。一方、KDECが0.3mMでリガンド負荷が3mMの場合、1Lの平衡洗浄を24回行うと24L中に2.70ミリモル(3mMの90%)まで回収でき、112μM標的溶液、即ち供給流と比較して560倍濃度の標的が得られるが、これはさほど望ましくない。従って、担体上のリガンドの実際的な限界は[リガンド]/KDEC≒10であり、低い値のほうが好ましい。
【0059】
担体のリガンド結合レベルが支配するのは(a)供給流から捕捉される標的の割合、(b)捕捉される標的の絶対量、(c)捕捉される不純物の量の3因子である。最初の2因子の理論的挙動が報告されている。供給流中の不純物は複雑で特有であるため[リガンド]と不純物の結合および溶出との相互作用は経験則によって最適化される。
【0060】
特定のアフィニティ・リガンドが与えられると、最適な分離に適した充填を計算することができる。KDBCが3mMでKDECが3μMのアフィニティ・リガンドを仮定すると、3mMで担体に充填すれば標的の捕捉は完全になるであろう。しかし、溶出条件下では>1%しか溶出されない。このリガンドを3μMで充填すれば標的を捕捉することができ、標的はX=1で放出される。あるいは、さらに適した(即ちより低い)親和性を有するものが1個以上得られるように結合領域中またはその付近のアミノ酸を変更して、選択したアフィニティ・リガンドの別形を調製することができるであろう。
【0061】
上記の考察はバッチ結合および溶出に関するものであった。これに代わるアプローチは平衡段階が多い定組成クロマトグラフィである。高いオン比およびオフ比を有するアフィニティ・リガンドはクロマトグラフ法ではより効果的である。クロマトグラフ法にとり、リガンドのもっとも重要な属性は標的に対し適度な親和性(1μMないし1mM)を有し供給流の他のあらゆる成分に対する親和性がずっと低いことである。
【0062】
比較的低い親和性を有する結合類似体を回収する確度を高めるには、特にスクリーニングの初期段階では、例えば洗浄などによる非結合類似体の除去(段階(g)、上記参照)を極めて短くすることであろう。例えば、KD=3μMの結合ドメインはKon=103/モル/秒およびKoff=10−3/秒を有するであろう。これはτ1/2=694秒≒12分に相当する。元々ライブラリに107個の異なる類似体が含まれている場合、1011個の試料にはライブラリの各構成要員が10,000個ずつ存在する。ある類似体5,000個が標的と結合し、半交換時間τ1/2の3倍(約35分間)洗浄した場合、625個の類似体が捕捉されるであろう。洗浄を短縮すると非特異的類似体のバックグラウンドが高くなるにもかかわらず、オン、オフの速い構成要員が次の回へ持ち越されることを確実にする方が好ましい。
【0063】
以上から、必ずしも親和性がもっとも高いリガンドが制御可能で経済的な標的分子の回収にとって最適であるわけではないことが分かる。本発明の方法によると、予測可能で制御された標的のきれいな放出と対になった標的の特異的な結合、有用な充填特性、許容できる程度に完全な溶出、再使用性/再生利用性等、特定の標的の分離を模索する実行者にとって重要な、多様な所望の特性を有するリガンドを選択することができる。
【0064】
近縁不純物の除去
本発明によると、標的分子と極めて類似した他の分子とを識別できるアフィニティ・リガンドの選択も可能になる。ここで、「標的」とはアフィニティ・リガンドが結合すべき分子であり、「特異的不純物」とはそれが結合することを最小限にすることが望まれる分子である。
【0065】
本発明の方法を使用すると、Asn残基を含むタンパク質と、Asnが化学的にAspに変換された脱アミド誘導体とを識別できるアフィニティ・リガンドを見つけだすことができる。同様に、異性有機化合物のR体をS体から分離するのに有用なアフィニティ・リガンドを見つけだすことができる。
【0066】
この種の特異性を達成する方法は少なくとも3通りある。1番目は、標的と結合するアフィニティ・リガンドを多数獲得し特異的不純物への結合をクローン分離物として試験することであろう。2番目は、特異的不純物を固定化し、特異的不純物に対して高い親和性を有するライブラリの構成要員を取り除けるであろう。次いでこの「除去ライブラリ」を標的に結合するものについてスクリーニングする。3番目は、固定化した標的への結合について可能アフィニティ・リガンドのライブラリのスクリーニングを行う際に、結合緩衝液中に1種類(または複数)の特異的不純物を存在させ、その濃度を標的と特異的不純物の両方に対して親和性を有するあらゆる構成要員が固定化標的よりも特異的不純物の方と結合するような濃度にするとができるであろう。このように、標的と結合した構成要員を特異的不純物に対する親和性がないことを示すように「設計」する。3番目の方法が好ましい。
3通りの方法の全てにおいて、特異的不純物が標的をほぼ完全に含まないことが重要である。特異的不純物中の標的濃度ができるだけ低いことが好ましい。
【0067】
3番目の方法では、特異的不純物は、溶液中に遊離した標的がライブラリの各標的結合成分の大部分に結合しないような濃度で添加する。従って、ライブラリのスクリーニングを行うために結合/洗浄/溶出/増幅を数回繰り返すのにつれて、残っているライブラリの構成要員の各濃度が上昇する一方で構成要員の数が減少するため、特異的不純物の濃度を上げる。特異的不純物を含む調製物中に含まれるどの標的も有用である可能性のあるアフィニティ・リガンドの全部と結合することはあり得ないので、有用なアフィニティ・リガンドのいくつかは固定化標的によって捕捉され、次の回へ繰り越される。以下の計算によると、使用すべき特異的不純物の適量が示唆されるが、本発明はいかなる特定レベルの特異的不純物の使用にも、あるいはいかなる特定の結合、競合理論にも限定されない。
【0068】
複雑度106のファージ提示ライブラリ(即ち106種類の可能アフィニティ・リガンド・ペプチドが提示されている)の中では、ライブラリの力価は1013ファージ/mL、即ち各タイプのファージが107/mLであると想定される。標的が50μMで効果的に存在し、特異的不純物が標的の0.5%存在する場合、特異的不純物を1,000μMまで添加し、遊離標的を5μMにするがこの濃度は、特異的不純物が存在する状態でも標的と結合できるアフィニティ・リガンドの捕捉を完全に阻害することはないだろう。
【0069】
ラウンド間で増幅を行わずにライブラリをスクリーニングするときは、結合段階の1つで特異的不純物を追加するだけで十分なことがある。特異的不純物を追加する最適の段階が、早期の結合段階か後期の結合段階かは実験で決定すべきである。
本発明によるアフィニティ・リガンドの単離については、下記でさらに例示する。以下の例に含まれる特定のパラメータは本発明の実施を例示するためのものであり、いかなる形においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0070】
実施例1〜15
他のタンパク質に結合するタンパク質には、遊離タンパク質では露出していて、複合体の形になると埋没する1個以上の疎水側鎖基があることが多い。アミノ酸Phe、Tyr、Leu、Ile、Val、Met、Trp、Cys、Hisには疎水側鎖基がある。Phe、Leu、Ile、Val、Met、Cys(ジスルフィドの一部のとき)は常に疎水性である。TryとCys(ジスルフィドの一部でないとき)は高いpHでイオン化できる。Hisは中性または酸性のpHでイオン化が可能である。露出疎水領域を有する可能性が高いタンパク質には、タンパク質ホルモン、タンパク質ホルモンの受容体、受容体、結合分子、抗体等が含まれる。酵素および極めて豊富な貯蔵や輸送のタンパク質(トリプシン、ミオグロビン、ヘモグロビンなど)には、表面に広い疎水領域が全くない。
【0071】
標的が露出疎水領域を有することが既知であるか、露出疎水領域を有する可能性が高い場合、好ましいアプローチは高塩濃度(疎水性相互作用に有利)および37℃で結合し、4℃(疎水性相互作用に不利)及び/または50%(v/v)アセトニトリル(疎水性相互作用に不利)と10mM NaCl(低塩濃度)で放出するリガンドを選別することである。
標的タンパク質がイオン基を多数有する場合(アミノ酸組成またはアミノ酸配列から決定できるようにAsp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)、好ましいアプローチは1つのpHで結合し、別のpHで放出するリガンドを選別することである。例えば、pH3.0からpH9.5の間で安定な標的に対しては、pH8.5、20mM NaCl、10℃で結合しpH4.0、1M NaCl、30℃で放出するリガンドを選別することが有利である。低温、低塩濃度はイオン性相互作用に有利である一方、比較的高い塩濃度と温度はイオン基の結合力を低下させる。あるいは、pH8.5、1M NaCl、30℃で結合しpH4.0、10mM NaCl、10℃、10%(v/v)MeOHで放出するリガンドを選別することができるであろう。
【0072】
水溶性標的は、極めて少数のイオン基(即ちタンパク質ではAsp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)を有するときに多くの中性極性基(即ちタンパク質ではSer、Thr、Asn、Gln、Tyrなど)を有する可能性が高い。多くの糖類はこのクラスに含まれる。このような中性極性基(ヒドロキシル、アミド、エーテル、エステル等)は水素結合を形成することができる。このように、多くの位置で許容される水素結合形成アミノ酸を有するタイプのライブラリには、有用な親和力でこの種類の分子と特異的に結合する構成要員が含まれる。水素結合をつくる側鎖基を有するアミノ酸には、Asp(D)、Glu(E)、His(H)、Lys(K)、Asn(N)、Gln(Q)、Arg(R)、Ser(S)、Thr(T)、Trp(W)、Tyr(Y)が含まれる。水素結合はpH、イオン強度、溶媒の誘電率、および尿素やグアニジンイオンなどのカオトロピック試薬の影響を強く受ける。水素結合は、高温では結合力を失う。従って、適切な結合条件は低塩濃度、低誘電率を有する一方、溶出条件は高塩濃度、高誘電率、結合条件のpHと好ましくは少なくとも1pH単位異なるpHを有するであろう。例えば、結合条件をpH8、10mM NaCl、4℃とする一方で溶出条件をpH6、500mM NaCl、35℃とすることができる。あるいは、pH8.5、1M NaCl、30℃で結合しpH4.0、10mM NaCl、10℃、10%(v/v)MeOHで放出するリガンドを選別することができるであろう。
【0073】
もっとも容易かつ経済的に変更できる溶液条件はpHである。アミノ酸のイオン化を分子間界面内で変化させることで分子の結合を著しく阻害できることが知られている。従って、標的への類似体の結合がpH変化に高い感受性をもつ確度を高めるため、ほとんどの、あるいは全ての変更位置で、少なくともHisを、好ましくはGlu、Asp、Tyr、Lysも許容するように設計することができる。他のタイプのアミノ酸も許容できることは理解すべきである。例えば、各変更位置で{His、Asp、Glu、Tyr、Lys、Ala、Ser、Asn、Leu、Phe}の組が許容されるライブラリは、高いpH感受性で標的と結合するリガンドを含む可能性が極めて高いであろう。{His、Glu、Asp、Tyr}の組だけが許容されるライブラリも機能する可能性が高いが、さらにその他のアミノ酸のタイプが許容されると、第一の溶液条件下で結合がおきる確度が高くなる。界面内でイオン化状態を変化させる基が1、2個あれば第二の溶媒条件の組での結合が阻害される。表2に示すように、His、Glu、Asp、Tyr、LysのpKaは3.5〜11の範囲、即ちタンパク質の多くが安定なpHの範囲内である。しかし、タンパク質では各側基の位置決定が実際のpKaに影響を与える可能性がある。例えば、Argと近接して保持されたLysは、そうではないLysと比較して低いpKaを示す可能性がある。
【0074】
アミノ酸側鎖の活性とアミノ酸基が溶液中のタンパク質に与えている可能性のある性質を示す表2および表3のタイプ情報を使用すると、アフィニティ分離法が有効であることが望まれる場合に特定の種類の溶媒条件の変化(結合条件から溶出条件への移行)に対して感受性がある結合ドメイン候補を含む確度が高いライブラリの設計に必要なアミノ酸置換を選別することができる。
【表3】
(Crieghton、タンパク質:構造および分子の性質、第2版(W.H.Freeman and Co.、ニューヨーク、1993年)、p.6)
表3に、記載した溶媒条件の変化に対して感受性のある結合をタンパク質に与える可能性のあるアミノ酸タイプの種類を示す。本発明の好ましい結合ドメイン類似体候補には、構造を安定化させることでドメインが高い親和性、特異性、安定性を示せるようにするジスルフィド結合が含まれる。
【表4】
【表5】
【0075】
実施例1は、結合ドメイン類似体ライブラリ用に提案した結合条件および放出条件を説明するが、この条件ではヒスチジンが多数の、あるいは全ての変更可能な位置に来ることができる。pH>7では、Hisは電荷を帯びず、側基は水素結合の供与と受容が可能であるが疎水性である。塩濃度と温度が高くなると、イオン相互作用の結合エネルギーへの寄与が低下する。従って、高塩濃度および高温で結合させると、強いイオン相互作用を有する結合体が得られる可能性が低くなり、疎水相互作用を有するリガンドが得られる可能性が高まる。放出条件が低塩濃度および低温であると、イオン相互作用の重要性、特に不適当なイオン相互作用の効果の重要性が高まる。従って、結合界面に1個以上のHis残基を有する複合体は酸性pHと低塩濃度で不安定になりやすい。
【0076】
実施例2は、多くの、あるいは全ての変更可能な位置にHisが許容されたライブラリからの選別を説明する。結合条件および放出条件の選択は、標的との結合がpH8.0では強いがpHの低下には極めて敏感であるような結合ドメインを1つ以上分離できるように行う。
【0077】
ヒスチジンだけがpH感受性相互作用の可能なアミノ酸ではない。実施例3に示すアミノ酸はすべて、多くのタンパク質が安定なpH範囲でイオン化が可能である。イオン化が起きるpHはコンテクスト依存性が高いことが多い。従って、タンパク質−標的界面内のアスパラギン酸側鎖基のpKaは表2に示した範囲内にはない可能性がある。タンパク質−標的界面内の基によってイオン化状態が変化すると、複合体の安定性が強力に変更を受けるのはかなり確実である。従って、複合体が、1つのpHで安定であってもpHが界面内の基によってイオン化状態が変化するのに十分なだけ異なると安定である可能性が低い。かような移行が起きるpHは計算が困難であり、表2に示したpKaの1つであるとは限らない。
【0078】
実施例4は、多くのAsp、Glu、Lys、Arg、Tyr、不対Cys残基を有する類似体のライブラリがpH3.5、4℃、50mM NaClで標的と結合しpH7.5で放出する構成要員を含む可能性が高いことを説明する。
実施例5は、低塩濃度を使用するとイオン相互作用による結合が促進され、高塩濃度、異なるpHで溶出すると、この相互作用が破壊されることを説明する。
実施例6は、pH8.2、10mM NaCl、25℃で結合しpH5.7、1M NaClで放出すると、高いイオン強度とより低いpHに感受性の結合ドメインが放出されやすいことを説明する。
【0079】
イオン強度もタンパク質−標的の結合に強く影響する可能性がある。一般に、疎水相互作用によって結合した複合体は高塩濃度のほうが安定性が高く、一方イオン相互作用によって結合した複合体は低塩濃度よりも高塩濃度のほうが安定性が低い。実施例7ではこれを活用し、イオン基が豊富なライブラリを使用することによって、低塩濃度を結合に、高塩濃度を放出に利用している。実施例8は、ライブラリを5mM KClで結合し飽和KClで放出することによってこの効果が見られることを説明する。あるいは、ライブラリが少なくとも数個の疎水基を許容する場合、結合条件と放出条件は実施例9に示すように逆にできる。実施例8と実施例9の結合条件と溶出条件によると、同一のライブラリから同一の標的に対する別の結合ドメインが得られることが期待される。
【0080】
実施例10は、疎水基を結合ドメイン候補の多くの、あるいは全ての変更可能な位置に許容するライブラリは1M NaCl水溶液中でしっかりと結合するが50体積%のACN/水、塩類なしで放出する構成要員を有する可能性が高いことを説明する。これは、疎水相互作用が有機溶媒によって分断されるためである。
実施例11は、列記されているグループのアミノ酸を数個結合界面中に有するドメインが水中では結合し、塩を幾分加えた30%MeOH中では放出することが期待されることを教える。
【0081】
まず疎水相互作用によって結合するタンパク質複合体は「低温変性」することが知られている。従って、列記されている疎水残基を変更可能な位置の多くで許容する実施例12のライブラリは33℃、高塩濃度で標的と結合し低温(例えば0℃)、低塩濃度で放出する構成要員を含む可能性が高い。
【0082】
カオトロピック試薬その他の溶質も標的への安定なドメインの結合を極めて感受性にする可能性がある。一般に、尿素は水素結合によって相互作用を行う基同士の相互作用を断ち切る。Gln、Ser、Thr、Asn、Tyr、Hisは特に好ましく、Asp、Glu、Lys、Argも尿素による分断に感受性の相互作用をしやすい(実施例13参照)。
【0083】
AspおよびGluの側鎖基は二価または三価の金属イオン、特にCa++、Mg++、Zn++、Cu++等のキレート化をとおして他の酸性基と相互作用することができる。タンパク質主鎖およびAsnやGlnの側鎖基中のカルボニル酸素や、タンパク質主鎖及びAsnやGlnのアミド窒素もある種の金属イオンとの結合を形成する。金属イオンもEDTAなどのキレート剤によって可溶状態にとどめておける。従って、表面の数カ所にAspおよびGluを許容するライブラリには、溶液中に二価または三価の金属イオンが存在する場合に限り、酸性基を含む(かつ安定性が多価金属イオンとの結合に依存しない)標的と結合する構成要員が存在する可能性が高い(実施例14参照)。かような構成要員の放出はEDTAその他のキレート剤によって起こすことができる。
【0084】
塩基性側鎖基は塩素イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、クエン酸イオン、乳酸イオンなどの陰イオンと相互作用することができる。多価陰イオンでは、複数の側鎖基が1個のイオンと相互作用が可能である。かような相互作用は結合をさほど安定化させないとしても、多価イオンは反発力を遮蔽して、そうでなければ不安定な複合体の形成を可能にする。実施例15に説明するように、多価イオンを取り除くと複合体の解離が起こるであろう。
【0085】
表4に、類似体の列記した溶液パラメータの変化にたいする応答性に寄与すると思われるアミノ酸のグループを、例えば結合ドメイン候補をファージに提示させたライブラリ中などに、発生させるのに適したコドンをまとめる。
【表6】
【0086】
実施例16
上記の技術を組み換えヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)用のアフィニティ・リガンドの分離に用いた。tPAアフィニティ・リガンド作成の方法は一般的な3段階を含み、それは(1)tPAと結合させるための安定な親タンパク質ドメインの変形体およそ千百万個のスクリーニングし、(2)もっとも興味が持たれるリガンドの少量生産し、(3)血漿を加えた試料からtPAをアフィニティ精製するための活性化ビーズと結合した1種のリガンドのクロマトグラフィ試験である。
【0087】
この作業のため、tPAをCalBiochem(No.612200)から購入し、Marklandら(1996年)記載の方法でPierce Chemical CompanyのReactiGelTMアガロース・ビーズに固定した。およそ200μgのtPAが200μLのReactiGelTMスラリーに結合した。
ファージに提示されたタンパク質のライブラリ4組をスクリーニング工程用に選び出した。3組はリポタンパク質随伴凝集阻害因子の第1Kunitzドメイン(LACI−K1)に基づき、Lib No.1、Lib No.3、Lib No.5と呼ばれ、1組はCucurbida maximaトリプシン阻害因子I(CMTI−I)に基づくものであった。CMTI−Iはカボチャ種子中にあるタンパク質で、消化管の酸性条件およびタンパク質分解条件に耐えることができる。これらのタンパク質はそれぞれ3個のジスルフィド架橋を有し、そのため非常に動きが束縛されかつ安定になっている。これらのタンパク質ファミリーのメンバーは、顕著な熱安定性(>80℃で失活せず)、顕著なpH安定性(pH2、37℃での終夜インキュベーションまたはpH12、37℃への1時間曝露で失活せず)、顕著な酸化安定性を有することが示されている。各ライブラリ中の可能アミノ酸配列数を下の表5に示す。
【表7】
この作業中でtPAに対してスクリーニングしたファージ提示ライブラリの総多様度はおよそ千百万と推定される。KunitzドメインおよびCMTIドメインは、その表面のほかの部分を変更することによってさらにずっと高い多様度を示すであろう。
【0088】
「緩速スクリーニング」と「迅速スクリーニング」の2種類のスクリーニング・プロトコルを使用した。緩速スクリーニングでは、各回ごとに得られたファージを次の回の前に大腸菌中で増幅した。迅速スクリーニングでは、増幅は行わなず、ある回で標的から回収したファージを次の回に投入した。迅速スクリーニングでは、数回を経ると、ファージの投入量と回収量が急速に低下した。投入量は、緩速スクリーニングでは一定に保つことができる。緩速スクリーニングでは投入量が一定であることから、各回の比較が可能になり、選別や選別されていないことを提示できるが、迅速スクリーニングの各回の比較は解釈が難しい。迅速スクリーニングによると、無関係な性質(例えば感染性や増殖率)よりも結合で選別される確度が高くなる。
【0089】
記載したファージ・ライブラリについてtPAへの結合に関して4回スクリーニングを行った。1回目は、pH7のリン酸緩衝液(PBS)中で別々の反応でtPAアガロース・ビーズとファージ・ライブラリを混合した。非特異的結合を少なくするため、ウシ血清アルブミン(BSA)を0.1%添加した。結合しなかったファージをpH7で洗浄して除き、1回目のスクリーニングだけは結合したファージをpH2で溶出した。次の3回の迅速スクリーニングは溶出プロトコルが異なり、1回目のスクリーニングのプール・アウトプットを使用した。プールAはCMTIライブラリおよびLib No.1ライブラリからのアウトプットをあわせたものからなり、プールBはLib No.3ライブラリおよびLib No.5ライブラリからのアウトプットをあわせたものからなるようにした。プール・ライブラリの結合はpH7で行ったが、結合ファージを取り出すための1回目の溶出はpH5で行い、その後の溶出はpH5〜pH2の範囲で放出されるファージを溶出するためpH2で行った。これをさらに2回繰り返し、全部で4回の選別を行った。
【0090】
最後の3回のスクリーニングから得たファージの力価を下の表6に示した。1回のアウトプットは次の回の投入量であった。
【表8】
ファージの力価からみて、プールAは収束して強く結合するファージを含むが、プールBは収束も有意でなく強く結合するファージも含まないようである。
【0091】
さらに分析するため、3回目の迅速スクリーニングで選別したファージからファージのクローン40個を、pH5のプールから20個、pH2のプールから20個選び出した。CMTIまたはLACI由来の遺伝子フラグメントが存在するかどうかを判定するためにPCRを使用してこのファージのDNAを増幅した。
【0092】
プールAの迅速スクリーニングから分離した40個のファージのうち38個にCMTI由来の構築物が見つかった。残りの分離ファージはPCR生成物を作らず、遺伝子欠失が示された。プールBの迅速スクリーニングで分離されたファージ40個のうち10個だけが好適な構築物を含み、探索が成功しなかったことが別に示された。
【0093】
特定のファージ提示タンパク質が標的分子に対して高い親和性を有する1つのしるしは、それが繰り返し見つかることである。pH2で放出したCMTI由来ファージ分離物18個から1個の配列が5回見つかり、2個目の配列は4回、残りの2個は3回見つかった。この18個の配列は選別された分子の近縁ファミリーをなし、探索が成功裏に収束したことがさらに示された。
【0094】
表7に、観察された配列の違いを、許容された多様性と選別pHの関数として示す。親CTMIタンパク質のシステイン3とシステイン10の間に表面露出ループを規定するコドンに組合せ配列の多様性を導入することによってCMTIライブラリを構築した。このシステインは構造の重要部分をなしているため、変更しなかった。
【表9】
【表10】
これにより9.13×106個のタンパク質配列と16.8×106個の配列が与えられる。
【0095】
表7はCMTIライブラリのDNA配列を示す。残基F−5および残基Y−4は受容ファージ設計の元となったM13mp18のシグナル配列中の残基14および残基15に対応する。シグナルペプチダーゼI(SP−I)による開裂はA−1とR1の間に起きると推定される。100〜113で指定される残基はCMTI異形体と残基A201から始まる成熟IIIの間でのリンカーとなる。アミノ酸配列Y104IEGRIVはリンカーがR108とI109の間でウシ第Xa因子により特異的に切断されることを許容しなくてはならない。このライブラリを構築するM13関連ファージはアンピシリン耐性遺伝子(ApR)を保有しているため、ライブラリ・ファージに感染した細胞はAp耐性になる。各可変アミノ酸位置で、野生型アミノ酸残基を下線で示した。表7に示したアミノ酸配列はSEQ ID NO:2と表される。それらの配列中でSEQ ID NO:3のアミノ酸1〜29はCMTI由来ポリペプチド類似体を表し、SEQ ID NO:2のヌクレオチド16〜102はCMTI由来ポリペプチドをコードする。
【0096】
pH5選別手順から得た分離物はpH2選別物よりも大きい配列多様性を示した(表8)。配列多様性がより大きいにもかかわらず、pH5選別物は近縁タンパク質配列を含んでいた。各位置で観察されるアミノ酸タイプの全ての組合せを作ると、元の個体数の0.15%の13,400(=2×4×3×4×7×5×4)通りにしかならない。決定した20個の配列中に1回以上現れた配列は4個あり、これは実際の多様度が13,400よりも低いことを示唆する。pH5選別配列のファミリーはpH2選別ファミリーとはっきりと関連性があるが、これら2つの配列集団で配列が同一だった例は1つしかなかった。
【表11】
【0097】
位置6および位置7で、許容されるアミノ酸タイプのほとんど(15個のうち12個)がpH2選別物中では拒絶された。選別した配列にとり、位置6および位置7で選ばれたアミノ酸が結合に寄与したのか、単にこれらの位置では許容できないものが排除されたことを表すだけなのかは明らかではない。
【0098】
選別工程の強力な収束は、多くのアミノ酸タイプが生じる可能性があるのに1種類のアミノ酸タイプしか見つからなかった位置2、位置4、位置8でのpH2選別物について特に顕著である。これは、この特定のアミノ酸が結合にとって決定的であるという強い示唆である。これらの位置のそれぞれで、ただ1つ選ばれたpH2群のタイプはpH5群中のその位置でももっとも普通のタイプであった。pH2プールの各位置で全ての観察されたアミノ酸タイプを許容しても、最初の個体数の0.0004%に過ぎない36個の配列しか得られない。1回以上現れた数個の配列は、pH2プール中に存在する異なる配列の数が36よりも多くないことを示唆する。
【0099】
表9は配列決定したCMTI−Iの類似体38個に対する多様化領域(アミノ酸位置1〜12)のアミノ酸配列を示す。変更が指示されていない位置(位置11)でのメチオニン残基の出現はライブラリの形成におけるDNA合成の間違いを示す。
【表12】
【0100】
表9では、pH5での溶出によって101〜120と名付けた配列を有する類似体が得られ、pH2での分画によって221〜238と名付けた配列を有する類似体が得られた。
他の固定化タンパク質に対する親和性を決定することによってファージ−結合リガンド候補の特異性を試験した。ファージ−結合タンパク質は、ビーズに結合した関連ヒト血清タンパク質分解酵素、プラスミンおよびトロンビンに対して親和性を示さなかった(データ示さず)。また、ファージ分離株について実験を行い、固定化tPAに対する相対親和性とそれからの放出特性を決定した。
【0101】
pH5放出ファージ分離株の場合、大部分のファージはpH5で放出され、さらにpHを2に下げることによって1桁少ない量が放出される。これはpHを5に下げると比較的きれいに放出する好適なアフィニティ・リガンドであることを示す。pH2放出分離物の場合、分離株No.232のみがpH5では真に選択的に結合しており、それからpH2で放出された。
【0102】
リガンドの合成と固定化
次に、ファージ分離株のDNAから決定した配列情報を使用して遊離CMTI由来ポリペプチドを合成した。CMTI誘導体(類似体)は容易に化学合成できるが、このポリペプチドを酵母中で発現させることにした。Pichia pastoris中で発現させるため、pH5放出分離株の1つ、No.109(表9、SEQ ID NO.12と提示)と、pH2放出分離物の1つ、No.232(表9、SEQ ID NO.35と提示)とを選択した。4および8の位置では、分離株No.109はpH2選別物に見られるものと同じアミノ酸タイプであり、2の位置では、分離株No.109はpH2選別物とは異なっている。
【0103】
適当な遺伝子構築体を合成し、Pichia pastoris発現系(Vedvickら、1991年およびWagnerら、1992年)に挿入して産生株を作成した。各株について5リットル発酵を行わせた結果、高濃度で発現された。タンパク質は1g/Lより多く発酵ブロス中に分泌された。粗製発酵懸濁液を遠心と0.2μm精密ろ過によって清澄化した。この0.2μmろ液を30kDaNMWLカットオフのPTTKカセットを使用する限外ろ過法によって精製した。リガンドはMacro-Prep High S陽イオン交換用担体(BioRad社)による陽イオン交換クロマトグラフィによって限外ろ過液から精製し、次いで逆相分離を2段階行った。この逆相分離には0.1%TFAを含む水で開始し、アセトニトリル(0.1%TFA含有)を90分間で50%まで上昇させる直線グラジエントを使用した。この結果得られたタンパク質は、5μm逆相カラム上のPDA分光分析によって測定したところ、95%以上の純度であった。
【0104】
使用説明書に従って、このリガンド候補をジアミノプロピルアミド(Emphaze UltralinkTM、Pierce Chemical社)を固定したビス−アクリルアミド/アズラクトン共重合体担体に固定した。CMTI類似体No.109約30mgが活性化クロマトグラフィ用担体1mLに結合した。
【0105】
カラムの試験
ウォーターズのAPミニカラム、公称寸法5.0cm×内径0.5cmに流量アダプタを取り付けて変更を加え、カラム長を2.5cmに短くすることができた。推奨のプロトコルを使用してこのカラムにNo.109Emphaze UltralinkTMビーズを充填し、洗浄液のNaCl濃度を1Mまで徐々に上げながらpH7で洗浄した。
【0106】
No.109アフィニティ・カラムの最初の試験では、製品仕様書に従ってCalBiochemから入手した組織型プラスミノーゲン活性化因子をtPA1mg/mL溶液に調製した。凝集標準液(Sigma Diagnostics社の凝集対照レベル1、カタログNo.C-7916)凍結乾燥ヒト・プラズマを使用説明書に従って再構成した後、10倍希釈してtPAを添加した。この試料をカラムに負荷し溶出するのは全緩衝液中に1M NaClが存在する状態で行ったが、この条件ではカラムへのタンパク質の非特異的結合が十分に抑制され、pH制御されたtPAの結合および放出が可能であった。明瞭なピークが2本あった。1本目は(カラムに保持されなかった)血清タンパク質を含み、pHを下げた後に得られた2本目はtPAを含んでいて、血清成分はまったく混入していなかった。結果を銀染色ゲル(示さず)によって確認した。tPA製品の90%が回収された。
【0107】
EAHセファロース4BTMアガロース・ビーズ(ファルマシア、スウェーデン国ウプサラ)をクロマトグラフィ用担体に用いてNo.109CMTI類似体を使用したアフィニティ・カラムを作成した。分離はウォーターズ(マサチューセッツ州ミルフォード)製のHPLCシステムで行った。システムの構成は、モデル718自動注入装置、送液能力毎分20mLのポンプ・ヘッド付きモデル600送液システム、モデル996フォトダイオード・アレイ検出器であった。装置は全て製品仕様書に従って設置した。システムはデル社提供のペンティアム(登録商標)133IBM互換コンピュータによって制御した。このコンピュータは1ギガバイトのハードディスク・ドライブ、16メガバイトのRAM、カラーモニタを装備し、ウォーターズ提供のソフト「ミレニアム」をロードした。
【0108】
200nmから300nmの範囲のスペクトル・データを分解能1.2nmで収集した。第1図、第2図、第3図、第4図は280nmで収集した。このクロマトグラフィ作業の移動相は緩衝液Aと緩衝液Bであった。緩衝液Aの組成は25mMリン酸カリウム、50mMアルギニン、125mM NaClで、水酸化カリウムでpH7の緩衝液とした。緩衝液Bの組成は50mMリン酸カリウム、150mM NaClで、リン酸でpH3の緩衝液とした。どの場合でも、100%の緩衝液A中に試料を注入した後、t=0からt=2分まで100%の緩衝液Aで洗浄した。t=2からt=8分までは100%の緩衝液Bで溶出した。t=8分以降は100%の緩衝液Aで溶出した。このHPLCシステムの勾配遅延体積はおよそ4mL、流速は毎分0.5mLであった。
【0109】
別の販売元から入手したtPAを製品仕様書に従って1mg/mL溶液とした。凝集標準液(Sigma Diagnostics社の凝集対照レベル1、カタログNo.C-7916)、凍結乾燥ヒト・プラズマを使用説明書に従って再構成した。この溶液を10:1で希釈して吸光度がtPA溶液のおおよそ10倍の溶液を得た。
【0110】
第1図に示した試験では、純tPAの試料(1mg/mLのtPAを25μL)をNo.109CMTI誘導体含有カラムにかけ、上記のように溶出した。クロマトグラムは15分後の約90%tPA物質の切れのよい溶出を示した。第2図に示した試験では、凝集標準液の試料(10倍希釈)を上記の溶出条件でNo.109CMTI誘導体含有カラムにかけた。ほぼ全ての物質がカラムから速やかに溶出した(保持されなかった)。第3図および第4図に示した試験では、ヒト血漿標準液に添加したtPAをカラムに負荷し、上記のように溶出を行った。第3図および第4図から分かるようにtPAは保持され、血漿タンパク質は空隙(ボイド)体積で溶出した。結合したtPAは約15.4分に放出された。tPAは約pH4で放出されたと推定された。tPAのピークを集め、銀染色、還元SDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて試験を行い、出発材料と比較したとき純度>95%であることが分かった。
【0111】
実施例17
tPAに同様に結合するドメインの候補をさらに設計するため、CMTIライブラリから分離したtPAアフィニティ・リガンドをさらに試験した。
上で言及したように、CMTIライブラリの構築に使用したアミノ酸のほとんど全ての変化はCMTI−Iの3および10の位置にある2個のシステインの間に生じた(表3参照)。親CMTIタンパク質では、これらのシステインはそのタンパク質の他の場所にある他のシステイン残基とジスルフィド結合を形成するが(SEQ ID NO:1参照)。しかしCMTIライブラリからアフィニティ・リガンドを分離することに成功すると、分離物No.109の端を切り取った15アミノ酸断片(SEQ ID NO:12のアミノ酸1〜15参照)に基づく第二のライブラリを概念化した。これらの構成要員のC3システインおよびC10システインがジスルフィド結合を形成した場合、tPA結合特性を有する束縛ループが得られる可能性がある。クロマトグラフィ用担体に結合したアフィニティ・リガンド分離物No.109由来の15アミノ酸断片についての初期の研究から、C3−C10ループが形成され、固定化ループがtPAと結合したことが示された。
【0112】
上記の実験は、本発明による2つの新しい分離されたtPAアフィニティ・リガンドファミリーを示し、このファミリーは次の配列を含むポリペプチドを含む。
Arg−X1−Cys−X2−X3−X4−X5−X6−X7−Cys−X8−Lys−Asp−Ser−Asp−Cys−Leu−Ala−Glu−Cys−Val−Cys−Leu−Glu−His−Gly−Tyr−Cys−Gly (SEQ ID NO:42)および
Arg−X1−Cys−X2−X3−X4−X5−X6−X7−Cys−X8 (SEQ ID NO:43)
ここで、X1はTrpまたはLeu、X2はPro、Ser、ThrまたはIle、X3はArg、LysまたはThr、X4はSer、Tyr、ThrまたはAla、X5はSer、Tyr、Asp、Val、Pro、Ala、His、AsnまたはThr、X6はLeu、Met、Gln、ArgまたはLys、X7はGlu、GlyまたはArg、X8は少なくともLysまたはMetである。配列中の位置11のMetの存在は予定外であったがtPAへの結合に好適であることが分かり、位置11を他のアミノ酸、例えばAla、Val、Leu、Ile、Phe、Pro、Trpなどの他の非極性アミノ酸で置換するとさらにtPA結合類似体を提供する可能性が高い。
【0113】
実施例18
この実施例は標的ヒト化単クローン抗体の清澄化ヤギ乳汁からの分離に有用なアフィニティ・リガンドの分離を説明する。
IgGアイソタイプで特異性未知の標的精製ヒト化単クローン抗体が生産者から供給され、50μLPBS中に500μgずつ分けて−70℃で保存した。ポリクローン・ヤギIgGはCappelから購入した。
PBSで100μLにした種々の量(即ち1μg、500μg、200μg、100μg、50μgおよび0μg)のヒト化単クローン抗体(hMAb)を各々Immulon2プレートの3ウェルに加え、4℃で終夜インキュベーションを行った。このウェルを0.1%非イオン性洗浄剤(Tween20)を含むPBS200μLで3回洗浄した後、1ウェルにつき1%BSAを含むPBS100μLで4℃、1時間ブロックした。ヤギ抗ヒトIgG−HRP(CalBiochem)を用いてプレートを試験し、OPD基質溶液(SigmaFastNo.9187、Sigma Chemical社)で発色させ、4M H2SO4で反応を止めて、Bio-Tekマイクロタイタ・プレート・リーダーでA490読み取りを行った。
【0114】
スクリーニングのため、競合結合剤としてポリクローン・ヤギIgGを使用した。このスクリーニングを3個のファージ提示ライブラリ、即ちCMTI、TN−6/I、TN−10/Vを用いて行った。CMTIの構造は上に示した(表7)。TN−6/IおよびTN−10/Vのペプチド構造は下に示した(それぞれ表10および表11)。以下の表に多様化された、ファージ提示ポリペプチド・ドメインがコードするアミノ酸を示す。ポリペプチドをコードするDNAをCMTIライブラリに関して上に記載したのと同様にしてM13遺伝子iiiに挿入した。
【表13】
このライブラリ設計により8.55×106個のタンパク質配列と17×106個のDNA配列が与えられる。
【表14】
このライブラリ設計により8.2×108個のタンパク質配列と1.1×109個のDNA配列が与えられる。
【0115】
4回のスクリーニングを完了した。結合スクリーニングはpHを中性とし、競合結合剤として結合溶液中におよそ1%多クローン・ヤギIgGを含む80mM NaClを入れて行った。溶出はpHを変えることによって行った。
全ての回で共通の結合条件は、1/2倍PBS(1/2濃度のPBS)、0.1%BSA、1%ヤギIgG中での室温(RT)で2時間のインキュベーションであった。各回の洗浄条件と溶出条件を表12にまとめた。
【表15】
【0116】
各回後に、溶出されたファージ数を計測した後、形質導入によって増幅した。pH2の溶出液とpH5の溶出液は、2回目後に別々に増幅し、その後のスクリーニングの間も分けておいたので、pH2の溶出液ではpH5では放出しない候補が選別された。下の表13は、pH2でのTN−6/I、pH2でのTN−10/V、pH2でのCMTI、pH5でのCMTIでは、4回にわたるスクリーニングで収束することを示す。
【表16】
【0117】
4回の収束スクリーニングの各回から、およそ12個のファージ分離物が予備配列決定用に選別された。TN−10/V以外の全ての分離物で選別物間の有意な相同性が見られた。例えば、配列決定用に選別した12個のCMTI pH5分離物は最終的に3個のDNA配列と2個のアミノ酸配列になってしまった。で配列決定した選別物から16個の候補を選び、相対結合親和性、特異性、pH2での放出試験で標的hMAbに対するファージ−結合タンパク質のpH放出特性を決定した。この試験の構成は、標的hMAb、多クローン・ヤギIgG、BSAのマイクロタイタ・プレートへの固定化後、5 Prime→3 Prime社(米国コロラド州ボールダー)のビオチニル化ヒツジ抗M13抗体ELISAキットを用いてファージの相対結合度を測定する操作を含む。
試験したファージ分離物の名称は
・TN−6/I、pH2放出から:T41、T42、T48、T49、T52
・TN−10/V、pH2放出から:T61、T64、T66、T70、T72、T74、T75
・CMTI、pH5放出から:C21、C22、C23
・CMTI、pH2放出から:C3
であった。
【0118】
個々の分離ファージは固定化hMAb、ヤギIgG、BSAへの結合について試験した。あわせて親ファージ対照のhMAb、ヤギIgG、BSA、抗M13抗体への結合も試験した。hMAb、ヤギIgG、BSAへの結合は、1/2倍PBS、0.1%BSA溶液中に0.5%ヤギIgGが存在する状態で、pH7およびpH2の−2通りのpH条件下で行った。ストレプトアビジン複合アルカリホスファターゼを使用してビオチニル化検出抗M13抗体を視覚化した。マイクロタイタ・プレートは、Bio-Tekマイクロタイタ・プレート・リーダーにより405nmで読み取りを行った。その結果を第5図、第6図、第7図に示す。これらのファージのうち「CMTI」、[MAEX]、「MKTN」は「親」結合ドメイン候補を提示する対照ファージである。即ちCMTI対照は野生CMTI−I配列(SEQ ID NO:1)を持ち、MAEXはTN−6/Iライブラリから無作為に選ばれた非結合性メンバーで、MKTNはTN−10/Vライブラリから無作為に選ばれた非結合性メンバーである。可能アフィニティ・リガンドの同定は、(1)標的hMAbに対して対照ファージより有意に高い結合親和性を持つこと、(2)溶出条件(pH2)よりも結合条件(pH7)下で標的に対して有意に高い結合親和性を持つこと、(3)ヤギIgGへの結合がほとんどないか、全くないことを指標に行った。
【0119】
ELISAの結果から、C3,C21、C22、C23(C22と同じアミノ酸配列)、T42、T49、T52の7個の(6個の結合ポリペプチドをコードする)DNA分離物がアフィニティ・リガンドとして使用するのに適していた。CMTI−I pH5分離物およびTN−6/I pH2分離物における多様性の低下を下の表14、表15に示す。
【表17】
【表18】
【0120】
CMTI類似体中のいろいろななアミノ酸位置5、6、7、9およびTN−6/I類似体中のいろいろなアミノ酸位置4、6、7、9、10でのアミノ酸タイプが単一であることから、これらのライブラリ由来のコンセンサス・ペプチドの収束が強力であることが示される。これらの類似体運搬ファージを増幅し、コードされる挿入DNAを分離、配列決定すると、hMAb精製用の特異的アフィニティ・リガンド候補が明らかになる。
【0121】
実施例19
この実施例は、天然ウロキナーゼの分離に有用なアフィニティ・リガンドの分離を説明する。
分子量が大きい人尿由来のウロキナーゼをMarklandら(1996年)記載の方法で4℃でReactiGelTMアガロース・ビーズ(Pierce Chemical社)に固定した。
【0122】
スクリーニングは、CMTI、TN−6/I、TN−10/VIIIa、LACI/Fの4個のファージ提示ライブラリを用いて行った。CMTIの構築は 前に(表7)示した。TN−6/Iの構築は前に示した(表10)。TN−10/VIIIaおよびLACI/Fのペプチド構築は下に示す(それぞれ表16および表17)。下表に、多様化ファージ提示ポリペプチド・ドメインがコードするアミノ酸を示す。CMTIライブラリに関して上に記載したように(実施例16、表7)、このポリペプチドをコードするDNAを遺伝子IIIに挿入した。
【表19】
このライブラリ設計により2.3×107個のタンパク質配列と1.3×108個のDNA配列が与えられる。
【表20】
【表21】
このライブラリ設計により3.12×104個のタンパク質配列が与えられる。
【0123】
スクリーニングの前に、固定化ウロキナーゼ・アガロース・ビーズをそれぞれ親結合ドメイン・ポリペプチドを提示する純粋クローンファージ調製物で試験して、スクリーニング条件下では回収されるファージは低いバックグラウンド・レベルにあることを確認した。親ポリペプチドの各々について、回収されたファージの投入ファージに対する割合は1×10−5以下であり、十分に低いバックグラウンド・レベルの結合であった。
【0124】
スクリーニングは4回行った。各回の構成は、結合段階、洗浄処理、1段階以上の溶出段階であった。全回共通の結合条件は、PBS、0.1%BSA、0.01%Tween80中での4℃、20時間のインキュベーションであった。各回の洗浄条件および溶出条件を表18にまとめた。
【表22】
【0125】
各回後に、溶出されたファージ数を計測した後、形質導入によって増幅した。
pH2の溶出液とpH5の溶出液は、2回目後に別々に増幅し、その後のスクリーニングの間も分けておいたので、pH2の溶出液ではpH5では放出しない候補が選別された。下の表18は、各ライブラリが4回にわたるスクリーニングで収束することを示す。
【表23】
【0126】
収束性スクリーニングは回数を重ねると投入分に対する割合が大きくなるスクリーニングであり、これはファージ・ライブラリの多様性が小さくなっていることを示している。これは固定化標的分子に対するリガンド候補が集団から選別されているかもしれないことを示すので、望ましい結果である。上表は、全てのライブラリで2回目と4回目との間にいくらか収束があることを示している。もっともはっきりした結果はTN−6/I(pH2)およびCMTI(pH5)の場合である。
【0127】
4回の収束スクリーニングの各回から、およそ12個のファージ分離物を配列決定用に選んだ。配列決定を行った全ての分離物において相互の相同性がいくらか見られた。最大の相同性はTN−6/Iの配列間およびCMTIの配列間に見られ、スクリーニング中、これらのライブラリの濃縮がもっとも大きかったという知見と一致している。例えば、TN−6/I分離物のうち9個が同一のDNAおよびアミノ酸配列を有することが分かった。
【0128】
候補を選んで、相対結合親和性、特異性、pH2での放出試験によるファージ−結合タンパク質のpH放出特性の特性決定を行った。この試験の構成には、ウロキナーゼおよびBSAのImmulon 2マイクロタイタ・プレートへの固定化と、5 Prime→3 Prime社(米国コロラド州ボールダー)のビオチニル化ヒツジ抗M13抗体ELISAキットを用いたファージの相対結合度を測定する操作が含まれる。
試験したファージ分離物の名称は
・TN−6/I、pH2放出から:TU33、TU34、TU36、TU37、TU39、TU42
・TN−10/VIIIa、pH2放出から:TU50、TU51、TU53、TU54、TU55、TU56、TU57、TU58、TU60、TU62、TU63
・CMTI、pH5放出から:CU22、CU25、CU27、CU28、CU29、CU31、CU32
・LACI/F、pH2放出から:LU2、LU4、LU5,LU9、LU10、LU12
であった。
【0129】
個々の分離ファージの固定化ウロキナーゼまたはBSAへの結合を試験した。ウロキナーゼはtPAに対する配列の相同性が高いので、tPA結合についても候補を試験した。その結果を第8図、第9図、第10図、第11図に示す。可能アフィニティ・リガンドは、(1)標的ウロキナーゼに対して対照ファージより有意に高い結合親和性を持つこと、(2)溶出条件(pH2)よりも結合条件(pH7)下で標的に対して有意に高い結合親和性を持つこと、(3)BSAへの結合がほとんどないか、全くないことを指標として同定された。
【0130】
ELISAの結果から、TU33,TU36、TU39、TU42、TU53、TU56、TU58の7個のDNA分離物(4個はTN−6/Iから、3個はTN−10/VIIIaから)がアフィニティ・リガンドとして使用するのに適していた。7個の分離物全てがpH7でウロキナーゼに対する高い親和性を示し、pH2で低い親和性を示した。CMTIライブラリとLACI/Fライブラリのどちらからもウロキナーゼに対する親和性が親提示ファージよりも高いリガンド候補は発見されなかった。CMTI−I pH5分離物間およびTN−6/I pH2分離物間の多様性の低下を下の表21、表22に示す。
【表24】
【表25】
【0131】
TN−6/I類似体中の様々なアミノ酸位置7、8、11でのアミノ酸タイプが単一であること、およびTN−10/VIIIa類似体中の様々なアミノ酸位置7、9、11、14でのアミノ酸の多様性の急激な低下から、これらのライブラリ由来のコンセンサス・ペプチドの収束が強力であることが示される。これらの類似体を担うファージを増幅し、コードされる挿入DNAを分離、配列決定すると、ウロキナーゼ精製用の特異的アフィニティ・リガンド候補が明らかになる。
【0132】
上記の記載に従うと、あらゆる供給流から標的を分離するために重要な特性を、設計されたライブラリの結合ドメインに組み込むことが可能であり、そのため、本発明の方法によると所望の結合条件と放出条件下で標的を分離するのに有用な数個のアフィニティ・リガンド候補が必ず得られる。標的製品の失活や破壊なしに、高い純度で、近縁の不純物までも除去して、容認できるコストで、材料を再使用、再生利用して、標的の高い収率を達成するという全てが本発明によると可能である。本発明のさらなる実施形態および特定の標的にあわせた別法は以上の記載を研究すれば明らかとなろう。かような実施形態及び別法はすべて以下の請求の範囲によって定義した本発明の範囲内であるとする。
【0133】
[参考文献]
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Kunitz-type protease inhibitor domain of protease Nexin-2/amyloid β-
protein precursor」, Biochem. Biphys. Res. Comm., 186: 1138-1145(1992年)
【技術分野】
【0001】
本発明は生体分子精製の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は特定の標的生体分子用アフィニティ・リガンドの発見と分離に関する。かかるアフィニティ・リガンドは、所望の分離条件下で標的生体分子を精製するのに有用である。
発明の背景
【0002】
タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、脂質、核酸など、医学上あるいは工学的に重要な生体分子の製造法は多岐にわたり、それには化学合成法、自然発生または組換え形質転換した細菌、酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞などにより培地中に放出させる方法、培養細胞(例えば封入小体等)への蓄積、遺伝子組換え生物体から(例えばトランスジェニック哺乳動物の乳汁中に)分泌させる方法、尿、血液、乳汁、植物浸出液、真菌抽出物などの生体材料から回収する方法等が含まれる。しかし、こうして製造した生体分子がそのまま有用であることは稀で、製造に用いた溶液中の他の成分(即ち不純物)から分離したり、その溶液に占める割合がずっと高くなるように生体分子を濃縮したりする必要がある。
【0003】
クロマトグラフィは、生体分子標的の大量分離に使用する主流の精製・濃縮技術である。正しく組まれた一連のクロマトグラフィ段階によると、無機塩をはじめ、折りたたみ方が不正確であったり一部が分解した形の標的巨大分子それ自体に至るまで、広範囲の夾雑物が混入した複雑な混合物から生体分子の単一成分を分離することができる。同時に、クロマトグラフィによる精製が生体分子製品の製造原価に占める割合は大きい(単独トップであることも珍しくない)。代表的な生物療法の精製では、2ないし6段階以上のクロマトグラフィを要し、各段階でサイズ排除法、イオン交換法、疎水相互作用法、アフィニティ・クロマトグラフ法などが利用される。
【0004】
サイズ排除法は緩衝液の交換に、あるいは凝集質を取り除くために、最終段階として使用することが多い。イオン交換法と疎水相互作用法は製品を濃縮し不純物の大半を取り除くのに有用であるが、これらのクロマトグラフィはいずれもアフィニティ・クロマトグラフィの使用により達成される劇的な純度上昇に迫ることができない。例えばNarayanan(1994年)は、アフィニティ・クロマトグラフィの一段精製によって純度が3000倍上昇したことを報告している。
【0005】
しかし、アフィニティ・クロマトグラフィの技術を生体分子の大量産生に使用することは一般的ではない。理想的なアフィニティ・クロマトグラフィ・リガンドの必須条件は、容認できるコストで(1)標的生体分子捕捉の親和性が高く、容量が大きく、特異性が高く、選択性が高いこと、(2)他の分子種(不純物)を捕捉しないか、あるいは分別溶出が可能であること、(3)標的の保存条件(即ち分解・変性しない条件)下で放出の制御が可能であること、(4)クロマトグラフィ・マトリクスの殺菌、再使用が可能であること、(5)あらゆる病原体を除去あるいは不活化できることなどである。しかしながら、コストが容認できる高親和性リガンドで医薬品製造に要求される洗浄・殺菌プロトコルに耐えるものを見つけ出すのは困難であることが判明した(Knight、1990年参照)。
【0006】
理想からは遠いが、染料(シバクロンブルー等)や親和性既知のタンパク質(プロテインA等)がアフィニティ・クロマトグラフィに広範に用いられてきた。しかし、これらの材料は新規の標的に適用できないため柔軟性に欠け、使用範囲を広げることができない。
マウス単クローン抗体(MAb)もアフィニティ・リガンドとして使用される。MAbは作成が容易であり、新規標的分子に特異的な新規MAbリガンドが得られるので、MAb技術は特定の製造業者の個別的要求を満たすに足る、ある程度の柔軟性を有する。その一方で、単クローン抗体はアフィニティ・クロマトグラフィ分野での欠点が無いわけではない。MAbは製造費が高価であり、また、生体分子の精製に伴う洗浄、殺菌処理手順中に脱離、分解する傾向があることから、それに基づくアフィニティ・マトリクスの失活が速くなる(Narayanan 、1994年、Boschett、1994年参照)。しかも、MAbは標的に対して特異性を高くすることができるが、その特異性は標的と近縁の不純物を捕捉しないようにするには不十分であることが多い。さらに、MAbの結合特性は免疫した動物の免疫グロブリン・レパートリによって決定されるため、実行者はその動物の免疫系によって付与された結合特性に甘んずる他はなく、即ちMAb技術を使用するだけでは特定の結合や溶出特性を最適化、選択する余地がほとんどない。最後に、MAbの結合部位1つ当たりの分子量(25kDa〜75kDa)、さらにはMAbフラグメントであっても分子量が極めて大きい。
【0007】
このように、従来よりも高価でなく、もっと役に立ち、さらにぴったり合う特定生体分子標的用アフィニティ・リガンドを開発することが継続的に求められている。特に、上記の理想的なアフィニティ・リガンドの特性にさらに近く、所与の標的分子と高い親和性で結合するばかりか標的を所望の、あるいは選択した条件下で放出し、標的と標的が存在する溶液中の他成分とを識別することができ、洗浄、殺菌処理手順に耐えて再生、再使用可能なクロマトグラフィ・マトリクスを提供するアフィニティ・リガンドに対する需要がある。
かかるアフィニティ・リガンドと、それを得る方法とを本明細書中に提供する。
【0008】
発明の概要
本発明は、対象とする特定の生体分子標的用であって、所望の、あるいは選択した結合特性および放出特性を示すアフィニティ・リガンドを得る方法を提供する。そのもっとも広い態様では、本発明は、ほぼすべての標的分子についてそれを含む溶液から分離するのに有用なアフィニティ・リガンドであって、アフィニティ・クロマトグラフィに有利な結合特性だけでなく所望の放出(溶出)特性と、安定性、分解耐性、耐久性、再使用性、製造しやすさ等、他の所望の特性とを示すように設計したリガンドを得る方法を提供する。
【0009】
また、本発明は特異的不純物(または近縁グループの不純物)を極めて高い親和性で結合して標的を含む溶液からその(あるいはそれらの)不純物のほぼすべてを取り除くアフィニティ・リガンドを得る方法をも提供する。この場合、無傷で不純物を放出することは(標的の精製に関しては)重要ではないが、もしリガンドを含むアフィニティ・マトリクスを再生、再使用できれば経済的に有利である。
また、本発明は第一特定溶液セットの条件下で特定の標的と結合し、第二特定溶液セットの条件下でその標的を放出する能力のあるアフィニティ・リガンドを分離する方法をも提供する。
【0010】
このように、本発明は標的分子を含む溶液から標的分子を変性させないで分離するのに適したアフィニティ・リガンドを分離する方法であって、
(a)標的分子に関して、アフィニティ・リガンドが前記標的分子と結合することが望まれる第一溶液条件(即ち結合条件)を選択する段階と、
(b)標的分子に関して、前記標的分子と前記アフィニティ・リガンドとのアフィニティ複合体が解離する第二溶液条件(即ち結合条件)を選択する段階であって、前記第二溶液が前記第一溶液と異なる段階と、
(c)前記第一溶液条件および第二溶液条件下で安定な前記標的分子用ポリペプチド結合ドメイン候補を選択する段階と、
(d)前記ポリペプチド結合ドメイン候補中のアミノ酸位置(好ましくはドメイン表面上の位置、もっとも好ましくはドメイン中で互いに近接した位置)を変更可能な位置として選択する段階と、
(e)前記結合ドメイン候補を提供する段階であって、選択した1個以上の変更可能なアミノ酸の位置における異なるアミノ酸の置換において各類似体が前記結合ドメイン候補と異なる段階と、
(f)前記類似体ライブラリを第一溶液条件で前記標的分子を含む溶液と類似体/標的結合複合体を形成するのに十分な時間接触させる段階と、
(g)第一溶液条件下で結合しなかった類似体を除去する段階と、
(h)接触段階(f)の溶液条件を第二溶液条件に変更する段階と、
(i)第二溶液条件下で放出される結合類似体候補を回収する段階であって、回収した類似体が分離アフィニティ・リガンドを同定する段階と
を含む方法に関する。
【0011】
ある状況、例えば標的分子の性質が実行者によく分からないか未知であったり、標的の精製に係わる特徴(標的を産生した溶液の量、溶液中の残留不純物の性質、標的の生物学的活性、標的の産生源等)のため、標的分子が常に安定な溶液条件の範囲に関して不確かさが残る場合では、標的分子を含む溶液から標的分子を分離するのに適したアフィニティ・リガンドを得るための本発明による好ましい方法は
(a’)温度、pH、イオン強度、誘電率、溶質濃度(例えばカオトロピック試薬濃度、有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトニトリル、DMSO、DMF、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン等)濃度)、金属イオン(例えばZn++、Ca++、Mg++)やキレート剤(例えばEDTA)の有無から選択した複数のパラメータに関して標的分子が安定する範囲を確かめることによって前記標的分子の安定性範囲(エンベロープ)を画定する段階と、
(a)標的分子に関して、標的分子の安定性エンベロープの範囲内に所望の結合条件を選択する段階と、
(b)標的分子に関して、標的分子の安定性エンベロープの範囲内に所望の放出条件を選択する段階であって、前記放出条件が少なくとも1個のパラメータに関して前記結合条件と異なる段階と、
(c)前記結合条件下および放出条件下の両方で安定な前記標的分子のポリペプチド結合ドメイン候補を選択する段階と、
(d)前記結合ドメイン候補の表面のアミノ酸位置を変更可能な位置として選択する段階と、
(e)前記結合ドメイン候補の類似体ライブラリ(例えばポリペプチド結合ドメイン類似体の多彩なセットがバクテリオファージ表面に表示されるファージ表示ライブラリ)を提供する段階であって、段階(d)で示した1個以上のアミノ酸位置における異なるアミノ酸の置換において各類似体が前記結合ドメイン候補と異なる段階と、
(f)前記類似体ライブラリを第一溶液条件で前記標的分子を含む溶液と類似体/標的結合複合体を形成するのに十分な時間接触させる段階と、
(g)第一溶液条件下で結合しなかった類似体を除去する段階と、
(h)接触段階(f)の溶液条件を第二溶液条件に変更する段階と、
(i)放出条件下で放出される結合類似体候補を回収する段階であって、ここでは回収した類似体が単離されたアフィニティ・リガンドを確認する段階、
とを含む。
【0012】
回収した類似体から、特性の組合せが最高の、タンパク質結合ドメインを選択することができる。あるいは、追加のライブラリからの選択をさらに一巡して行うこと(上記の段階(e)〜(i))によって、回収リガンド中に所望の特性を有するリガンドが多くなるようにすることができる。標的、標的の製造、標的の溶液からの分離に係わる因子に関する実行者の知識によれば、結合ドメイン候補の選択、変更可能なアミノ酸の指定、変更可能な位置で置換するアミノ酸の選択を、最終アフィニティ・リガンドで望ましい特性に寄与するようにできるであろう。あるいは、もし多彩な結合ドメイン・ライブラリ候補を予め調製してあれば、選択段階(c)および(d)を繰り返す必要がなく、実行者は結合および放出条件を選択する段階からライブラリおよび標的を接触させる段階へ直接移行することができる。
【0013】
多数のアフィニティ結合ドメインが可能となり、その内いくつかが結合条件下で標的と結合し放出条件下で標的を放出するようにポリペプチド類似体ライブラリを作出することに類似タンパク質をバクテリオファージなどの遺伝子パッケージ表面に表示する技術を利用することは特に好ましい。かかる技術は米国特許第5223409号(Ladnerら)に公表され、参照により本明細書の一部とする。これらの強力な技術を使用することにより、構造が類似した多数(例えば107 )のポリペプチドを本発明の方法に使用するため容易に製造することができる。
【0014】
本発明によって調製したアフィニティ・リガンドは、特定の標的生体分子分離の目的に特にぴったり合うように調整される。このように、特性の釣合いが最適であり、標的結合のアフィニティ、標的特異性、特定条件下での標的放出、殺菌条件下での耐久性、その他選択したあらゆる所望の特性の点から、特定の標的の分離にほとんど理想的なアフィニティ・リガンドが本発明によって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】組織プラスミノーゲン活性化因子即ち「tPA」(1mg/mL tPA 25μL)を固定化tPAアフィニティ・リガンド(CMTI誘導体No.109、実施例16に記載)を有するアフィニティ・クロマトグラフィ・カラムにかけ、pH7〜pH3のグラジエント溶出を行ったときのクロマトグラムを示す。15分のピークは注入したtPAの約90%を含むと概算される。
【図2】凝集標準液(10倍希釈)をtPAアフィニティ・カラム(CMTI誘導体No.109)にかけ、上記の溶出を行ったときのクロマトグラムを示す。15.6分の小ピークはグラジエントの人為結果であることが分かった。
【図3】25μLのtPAを加えた25μLの凝集標準液(10倍希釈)からなる混合物についてpH7〜pH3のグラジエント溶出を行ったときのクロマトグラムを示す。1分のピークは血漿タンパク質の集まりであり、15.4分のピークはtPAである。
【図4】第3図に示したクロマトグラムの縦軸の目盛を拡大したクロマトグラムを示す。
【図5】CMTIファージ分離物C3、C21、C22、C23およびTN−6/Iファージ分離物T49(実施例18、下記参照)のpH7での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH2での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH7での固定化ヤギIgGへの結合、pH2での固定化ヤギIgGへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAによると、ヤギ抗体を含む供給流から人体に適応させた抗体を分離するのに有用なアフィニティ・リガンドの確認がなされる。
【図6】TN−6/Iファージ分離物T41、T42、T48、T52、T74(実施例18、下記参照)のpH7での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH2での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH7での固定化ヤギIgGへの結合、pH2での固定化ヤギIgGへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAによると、ヤギ抗体を含む供給流からヒト化抗体を分離するのに有用なアフィニティ・リガンドの同定がなされる。
【図7】TN−10/Vファージ分離物T61、T64、T66、T70、T72、T75(実施例18、下記参照)のpH7での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH2での固定化ヒト単クローン抗体標的への結合、pH7での固定化ヤギIgGへの結合、pH2での固定化ヤギIgGへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。
【図8】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するTN−6/Iファージ分離物、即ちTU33、TU34、TU36、TU37、TU39、TU42(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAにより、尿などの供給流からウロキナーゼを分離するのに有用なアフィニティ・リガンドの確認がなされる。
【図9】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するTN−10/VIIIa ファージ分離物のいくつか、即ちTU51、TU53、TU56、TU58、TU60、TU62(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。このELISAによると、尿などの供給流からウロキナーゼを分離するのに有用であるアフィニティ・リガンドの同定がなされる。
【図10A】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するCMTIファージ分離物のいくつか、即ちCU22、CU29、CU32(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。
【図10B】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するCMTIファージ分離物のいくつか、即ちCU25、CU27、CU28、CU31、CU32(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合、pH2での固定化ウロキナーゼへの結合、pH7での固定化tPAへの結合、pH2での固定化tPAへの結合、pH7での固定化BSAへの結合、およびpH2での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。この試験の判定基準によれば、これらの分離物にアフィニティ・リガンドに適するものはなかった。
【図11A】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するLACI/Fファージ分離物のいくつか、即ちLU2、LU5、LU9、LU12(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合およびpH7での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。
【図11B】4回のスクリーニングから得られたウロキナーゼ結合親和性を有するLACI/Fファージ分離物のいくつか、即ちLU2、LU4、LU10、LU12(実施例19、下記参照)のpH7での固定化ウロキナーゼへの結合およびpH7での固定化BSAへの結合を試験したELISAの結果を示す。この試験の判定基準によれば、これらの分離物にアフィニティ・リガンドに適するものはなかった。
【0016】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明によると、アフィニティ・クロマトグラフィによる標的生体分子の効率よい精製が可能になる。本明細書において使用するとき、「標的」の語は、特定のタンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、脂質、リポ多糖類、核酸、もしくはそれに対して特異的なリガンドが求められるこれらのクラスの組合せを示す。標的はタンパク質の活性フラグメントや複合体や1個以上のタンパク質の凝集塊であってよい。標的は天然の生体分子に限定されず、合成有機分子や、特に1個以上のキラル中心を含む分子であってよい。標的はそれよりも大きい構造体、例えばウイルスなどの生物体の表面分子として存在してよい。それどころか、標的は細胞やウイルス粒子であってもよい。
【0017】
標的生体分子は、あらゆる公知の方法で生産され、それには化学合成法、天然に存在するまたは組換え形質転換した、細菌、酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞などにより培地中に放出させる方法、遺伝子組換え生物体(例えばトランスジェニック哺乳動物)から分泌させる方法、尿、血液、乳汁等の生物の体液や組織中のもの等が含まれる。初期に産生されたものとして粗製標的を含む溶液(即ち産生溶液)を「供給流」と呼ぶことがある。本発明が第一に照準を合わせたのは、標的が産生された溶液から標的分子を回収することであるが、本発明は産生供給流からの回収に限定されず、本発明により開発されるアフィニティ・リガンドは、標的をあらゆる溶液から回収することに使用できる。
【0018】
標的生体分子を産生する各方法は、標的と(標的に関する)数種類の不純物を含む供給流中に標的を産する。本発明の1つの目的は、標的を迅速かつ極めて特異的に精製することが可能になるようなアフィニティ・リガンドおよび(クロマトグラフィ媒体などの)調製物を提供することである。本明細書において得られるアフィニティ・リガンドは、高い親和性で(好ましくは実質的に供給流中の他分子全てを排除して)標的と結合する。さらに、このアフィニティ・リガンドは、溶媒条件が変わると標的を無傷で活性型のまま放出する。放出条件が標的に悪影響を及ぼさないことは重要である。このアフィニティ・リガンドが供給流中に低濃度で存在するときでも標的と結合し、高濃度で標的を放出できることが好ましい。それなら、一段精製によって多くの不純物の除去と標的の濃縮が両方行われる。活性型で結合、放出すべき標的を「製品標的」と呼ぶことがある。
【0019】
本発明の別の一態様は、特異的不純物(または近種グループの不純物)と極めて高い親和性で結合して、ほぼ全てのその(あるいはそれらの)不純物を分離することによって、それ(それら)から他の分子を取り除くことを可能にするアフィニティ・リガンドを提供することである。この場合、不純物を無傷で放出することは重要ではないが、リガンドを再利用できれば経済的に有利である。最高の親和性で捕捉すべきであるが、その放出は重要でない標的を「不純物標的」と呼ぶ。
【0020】
標的の特性決定
精製の分野では、標的について既知の、あるいは見出された事実のほとんど全てを駆使して標的の分離を目的とする精製スキームを改良する。標的用に設計したアフィニティ・リガンドを得るために本発明の方法を実施する場合、標的が安定となる溶液条件、即ち生体分子が活性を保ち、変性しない条件を知ること、あるいはそれを決定することは必要不可欠である。本発明による方法の最初の段階は、標的精製工程中の一組の条件を選択する段階と、そのアフィニティ・リガンドへの結合が終了して、標的の放出と溶出が起きることが望まれる異なる一組の条件を選択する段階とを含む。これらの条件は、究極的に得られるリガンドが無傷の、活性のある標的に対する親和性を有するように、両方とも標的が安定である条件でなければならない。
【0021】
標的の安定性に影響を及ぼす因子の理解に加えて、標的を分離すべき溶液中の標的濃度、標的の結合活性または酵素活性、標的の凝集状態(即ち標的が単量体か多量体か)標的のおよその大きさ(分子量)、標的を含む溶液や供給流の組成など、標的の他の特性を知ることも有用である。かかる因子は実行者が(a)1つ又はそれ以上のタンパク質リガンドが標的と結合することが期待される結合条件、(b)少なくともタンパク質リガンドのいくつかは標的を変性や損傷を起こすことなく放出するであろう、可能な条件変更、(c)そこから適切なリガンドを分離できる、可能結合タンパク質またはドメインのライブラリ(1つ又はそれ以上)の組成、を選択するのに有用である。
【0022】
標的の安定条件
どんな生体分子でも、いくつかの溶液条件で安定であるが、溶液中の標的の安定性は溶液の条件に影響を受け、その条件は溶液の温度、pH、イオン強度、誘電率、および[H+ ]、[Na+ ]、[Cl− ]、[尿素]、[グアニジン+ ]、[SO4− ]、[HSO4− ]、[PO4− ]、[HPO4− ]、[H2PO4− ]、[ClO− ]、[NH4+ ]、[OH− ]、[H2O2]、[Mg++]、[K+ ]、[Zn++]、[Ca++]、[Li+ ]、[NO3−]、[洗浄剤、例えばトライトンX−100]、[ラウリル硫酸イオン]、[グルコース]、[クエン酸イオン]、[安息香酸イオン]、[エタノール]、[メタノール]、[アセトン]、[酢酸イオン]、[クロロ酢酸イオン]、[ジクロロ酢酸イオン]、[トリクロロ酢酸イオン]、[ギ酸イオン]、[N−メチルホルムアミド]、[ホルムアミド]、[ジメチルホルムアミド]、[ジメチルスルホキシド]、[メチルエチルケトン]、[プロピオン酸イオン]、EDTA等、他の溶質の濃度を含む。これらのパラメータの各々と、特定の供給流について既知の、あるいは決定された他のいかなるパラメータに対して、標的はある範囲内、即ちある温度範囲内、あるpH範囲内等で安定である。この安定範囲を外れると標的は変性する。ひとまとめにして、特定の標的の安定性に影響を及ぼす全パラメータの範囲はその供給流の「安定性エンベロープ」を決定し、溶液の条件を安定性エンベロープの範囲内に維持する限り、標的は安定であり続けることが期待される。同一の供給流中でも、異なる標的は異なる安定性エンベロープを有することが期待される。
【0023】
所与の標的をアフィニティ分離するのに適したアフィニティ・リガンド獲得の最初の段階は、標的が安定であるような結合条件と所望の放出条件を選択する段階である。実行者が結合条件を選択するには標的分子の安定条件に関して知っている情報が不十分な場合、以前の決定を参照するか、経験に基づいて1個以上のパラメータに関して安定範囲を決定するか、そのいずれかによって安定条件を確かめることができる。
【0024】
所望の結合条件を選択するために、標的の安定性を試験したり標的の安定性エンベロープの全てにわたって決定したりする必要はない。実行者は経験に基づいて単に安定条件を推測し、適切に一組の結合条件を選択してよい。例えば、およそ安定性を有するタンパク質であれば、ほとんどがpH7、25℃、150mM NaClで安定である(即ち、通常pH7、25℃、150mM NaClは所与のタンパク質の安定性のエンベロープの範囲内である)。結合条件にpH7、25℃、150mM NaClを選択し、放出条件は1個以上のパラメータを変化させることによって(例えばpH4、25℃、150mM NaClを)これに関連して選択してよい。これらの条件のいずれかが標的の安定性エンベロープの範囲外である場合、この方法では標的を溶液から分離できるいかなるアフィニティ・リガンドはなにも確認できず、安定性エンベロープをもっと正確に決定するか、エンベロープの境界について別の推測をしてからいずれかにこの方法を繰り返すことになる。より広い例として、温度範囲0℃〜35℃、pH8〜9からpH4〜5までの範囲、[NaCl]範囲としては0M〜1Mで極めて多くのタンパク質が安定である。従って、結合条件pH8、0℃、10mM NaClと放出条件pH6、30℃、0.5M NaClはほとんどのタンパク質標的に選択することができる。この推定安定性エンベロープに基づく結合及び放出条件の他の組合せは(1)結合:pH6、25℃、0.5M NaCl、溶出:pH8、0℃、10mM NaCl、(2)結合:pH7、0℃、10mM NaCl、溶出:pH7、35℃、150mM NaCl、4M尿素、(3)結合:pH8、25℃、150mM NaCl、溶出:pH6、25℃、150mM NaClを含むであろう。
【0025】
結合条件および放出条件を適当に選択するために、供給流中の特定の標的に関する情報をさらに確かめなければならない場合、1個以上のパラメータの範囲にわたる安定性を容易に決定することができる。ある標的について有用な安定性エンベロープを確立する実例試験を以下に説明する。有用な安定性データをもたらすかかる試験は多くの修正が可能であり、かかる修正は当業者には自ずと示唆されるであろう。安定性の境界を高精度で決定することは重要ではなく、標的が安定で(結合用と放出用の)2つのはっきりと異なる条件を決めることができる、条件の範囲を画定する必要があるだけである。特定の標的の安定条件が極めて狭い場合、アフィニティ精製を行うのに必要な時間にわたって標的が変性してはならないことを常に心に留めておくべきである。境界安定条件下でさえ、標的の回収後には、さらに加工する前に産物を安定性の高い溶液に戻す。
【0026】
標的の安定性エンベロープを確立するための実例試験
温度安定性
まず、標的分子が変性するか活性をほぼ失う温度TmをpH7、塩濃度150mMの溶液中で測定する。このTmは、例えば走査熱量計を使用して決定することができる。Tmはかなり急な変移を示すが、やや低い温度(安定性温度範囲の上限)で長くインキュベートすると失活する可能性があることを理解すべきである。従って、安定性エンベロープの境界温度はTmによって画定される限界よりも数℃低く設定することが好ましい。あるいは、一定時間(例えば15分間から24時間まで)25℃、37℃、45℃、55℃、65℃などの一組の温度でインキュベートした後に標的試料の活性を測定することによって温度安定性を決定することができる。標的がある温度で失活せず、次の温度でかなり失活した場合、1点以上の中間温度で活性を測定することによって、温度範囲の境界を所望の確度で決定することができる。次に、150mM食塩水の氷結点までの低温で標的がバラバラになる(離解)するか沈殿するかを判定することができる。
【0027】
pH安定性
標的が活性を保持するpH範囲を数点の温度(例えば4℃、25℃、37℃、50℃、)で決定する。これは走査熱量計中で種々のpH値に対するTmを測定することによってできる。ここで、Tmは与えられたpHにおける安定性の上限を画定するものであって、安定性のエンベロープは各pHについて数℃低く設定すべきであることに注意する。例えば、境界が決定されるまでpH7、6、8、5、9、4、10等々pHを変えてTmを測定することができる。あるいは、標的試料を特定の温度(25℃、37℃、50℃)とpH2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12で(20分間などの)適当な時間インキュベートし、pHを活性の決定に適した値に調整した後に活性を測定することができる。この範囲の温度依存性が強い場合、pH範囲は追加の温度(例えば15℃、30℃、43℃、60℃)で標的が活性を保持する範囲について決定する。
【0028】
標的が可溶かつ安定なイオン強度範囲
これは2点または3点の温度で測定するのが有利である。例えば、有用な温度は4℃(または標的が沈殿、離解しない最低温度)、25℃、Tm より5℃下(または標的がそれほど失活を示さない最高温度)であろう。Tm は走査熱量計中で1mM、5mmM、50mM、150mM、500mM、1M、3MなどのNaCl濃度に対して測定する。pHを特定の値、例えばpH7とかpH8に保つためにそれぞれの場合に適した緩衝液を加えるべきである。
【0029】
ほとんどのタンパク質はいくらか塩を含んだ水に可溶である。塩濃度があまり高かったり低かったりすると、タンパク質は沈殿や結晶化をきたすことが多い。タンパク質の沈殿に使用される塩類はNaCl、(NH4)2SO4、酢酸アンモニウム、KCl、リン酸カリウム(KH2PO4、K2HPO4)、リン酸ナトリウム(NaH2PO4、Na2HPO4)等を含む。標的の溶解度が急激に下がる点(高塩濃度および低塩濃度)をNaCl、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウムなどの2、3の塩類について決定することが好ましい。
【0030】
カオトロピック試薬に関する標的の安定性および溶解性
尿素、塩化グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、グアニジンチオシアネート等はタンパク質と他の分子との相互作用を分断することが知られている。また、これらの試薬は折りたたまれたタンパク質を開かせることもできる。標的の安定性は、尿素、塩化グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、イソチオシアン酸ナトリウム、N−メチル尿素等のうちの1個以上の濃度上昇に関して測定することが好ましい。典型的な場合では、あるタンパク質の熱変性に対する安定性は尿素その他のカオトロピック試薬による変性に対する安定性と平行している。
【0031】
標的の安定性に特定のイオンが必要かどうか
タンパク質には(Mg++、Zn++、Ca++などの)金属イオンと結合するものがある。例えばEDTAなどのキレート剤に曝すことによって、この金属イオンを取り除くと、場合によってはタンパク質が変性することがある。標的が金属イオンを含むかどうかは元素分析によって決定される。標的が金属イオンを含む場合、EDTAへの曝露か蒸留水に対する透析のどちらによって標的が失活するかを判定する。
【0032】
有機溶媒および有機溶質中の標的の安定性と溶解性
標的の安定性と溶解性を有機溶媒、水と有機溶媒の混合物、有機溶質を添加した水中について決定することが好ましい。例えば、標的の安定性と溶解性を、アセトニトリル(ACN)および水/ACN混合物、メタノール(MeOH)および水/MeOH混合物、エタノール(EtOH)および水/EtOH混合物、イソプロピルアルコール(IPA)および水/IPA混合物、ジメチルホルムアミド(DMF)および水/DMF混合物、ジメチルスルホキシド(DMSO)および水/DMSO混合物、第二級ブチルアルコール(SBA)および水/SBA混合物、アセトンおよび水/アセトン混合物等のうち、一種類以上の中で測定する。加えて、標的の安定性と溶解性について、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド等の有機溶質を種々の量添加した水中で試験を行う。
【0033】
ファージ提示および有機溶媒
標的と結合する選択的リガンドを得るための好ましい一方法は、M13などのファージ上に提示されたタンパク質のライブラリから選択することである。従って、ファージ提示ライブラリを使用した場合、有機溶媒がファージを傷めるかどうかを判定することに関心が持たれる。ACN、MeOH、DMSOは、M13ファージに悪影響をもたらさないので特に好ましい。特に、次の条件によるとM13はほぼ間違いなく生存する。
【表1】
80%EtOH、IPAまたはDMFと共に20分間インキュベートすると生存するファージはなかった。これらの溶媒をファージと共に使用するときは低濃度にする。
標的の知識から、役立ちそうな他の取り扱い可能な溶液条件も示唆される。例えば、糖結合タンパク質の安定性はタンパク質が結合する糖の濃度の影響を受ける。
【0034】
アフィニティ・リガンドの分離
結合条件と放出条件の選択
提案されている、あるいは経験的に決定した標的分子用安定性エンベロープを使用して、二種類の溶液条件、即ち結合条件と放出条件を選択する。結合条件はその条件下で発見されたアフィニティ・リガンドが標的と結合することが望まれる一組の溶液条件であり、放出条件はその条件下では発見されたアフィニティ・リガンドが標的と結合しないことが望まれる一組の溶液条件である。この二種類の条件は条件達成の容易さ、他の精製工程との互換性、他のアフィニティ媒体と比較して条件変更コストの低さ等、実行者のあらゆる基準を満たすように選択される。この二種類の条件は(a)十分に安定性エンベロープの境界内であることと、(b)少なくとも1つの溶液パラメータに関して遠く隔たっていることが好ましい。例えば標的が広いpH範囲で安定な場合、好適な結合条件がpH11、塩濃度150mM、25℃で好適な放出条件がpH3、塩濃度150mM、25℃などである。pH安定性の範囲が狭いが(例えばpH6.2〜7.8)広範囲の塩濃度にわたって安定な別の標的に対しては、二種類の有用な条件は、結合条件がpH7.2、3M NaCl、25℃で放出条件がpH7.2、2mM NaCl、25℃などである。3番目の標的はpH範囲が狭いがアセトニトリルに対する安定性の範囲が広いものである。この3番目の仮定上の標的に対して有用な条件は、結合条件としてpH7.0、100mM NaCl、100mM K2HPO4、25℃、および放出条件としてpH7.0、5nM NaCl、50%(v/v)アセトニトリル、などである。
【0035】
結合ドメイン候補の選択
標的の所望の結合と放出のための特定の溶液条件の選択に関連して、所望の結合能と放出能を示すよう設計したアフィニティ・リガンド用の構造テンプレートとして結合ドメイン候補を選択しなければならない。この結合ドメインは天然のタンパク質または合成タンパク質、あるいはあるタンパク質の領域またはドメインである。結合ドメイン候補は既知の結合ドメイン候補と標的間の相互作用の知識に基づいて選択するが、これは決定的ではない。実際、結合ドメイン候補がどれほど標的への親和性を有するかということは重要ではない。それの目的は、それから多数(ライブラリ)の類似体を作り出せる構造を提供することである。この多数の類似体は所望の結合特性と放出特性(および選択した他のあらゆる特性)を現す類似体を1個以上含む。従って、以下に論ずる結合条件と放出条件は、結合ドメイン候補として働く正確なポリペプチドの知識または結合ドメイン候補が属するタンパク質かドメインのクラスの知識によって、選択することもできるし、あるいは結合ドメイン候補の選択とまったく無関係に選択することもできる。同様に、結合条件および放出条件あるいはそのいずれか一方は、結合ドメイン−標的間の既知の相互作用を考慮して、例えば1つまたは両方の溶液条件下での相互作用に有利となるように選択するか、あるいはかような既知の相互作用とは関係なく選択する。同じく、結合条件および放出条件あるいはそのいずれか一方を考慮に入れて、あるいは入れないで結合ドメイン候補を選択することができる。もっとも、結合条件または放出条件下で結合ドメイン類似体が不安定ならば、有用なアフィニティ・リガンドが得られないことは認めなければならない。
【0036】
結合ドメイン候補を選択する目的は、構造が類似した類似体ドメインのライブラリを作るためのテンプレートまたは親構造物を提供することである。この類似体ライブラリは、ライブラリを作成するための基本ドメインの多様化がアフィニティ・リガンドに望まれる特性にとって有利になるように行われるという点で(無作為に作成したライブラリに対して)偏りのあるライブラリであることが好ましい。
【0037】
結合ドメイン候補の性質は、標的分子に対して試験することになる得られたタンパク質(類似体)の特性に大きく影響を及ぼす。結合ドメイン候補の選択でもっとも重要な考察は類似体ドメインが標的にどのようにして提供されるか、即ち標的と類似体がいかなる立体配座で接触するようになるかということである。例えば、好ましい実施形態では、例えば米国特許第5403484号(Ladnerら)や米国特許第5223409号(Ladnerら)など(参照により本明細書の一部とする)に記載された技術を使用して、類似体は類似体をコードする合成DNAを複製可能な遺伝子パッケージに挿入することによってつくられ、その結果、M13ファージなどの微生物表面にドメインが提示される。
【0038】
結合ドメイン候補として構造化ポリペプチドは非構造化ポリペプチドと比較して多くの利点がある。通常、タンパク質中の表面残基の変異はタンパク質の全体構造や一般的特性(サイズ、安定性、変性温度など)にほとんど影響がないが、表面残基の変異は同時にタンパク質の結合特性に強い影響を及ぼす。これは、例えばBPTI相同Kunitzドメインについて十分に記録されている(Ladner、1995年参照)。タンパク質または構造化ドメイン上の残基を変異させると、類似体にとって非構造ペプチドの変異によって得られるよりも特性の多様性が増す可能性がある。それは、タンパク質の枠組みまたはドメインの構造が残基ごとに、および枠組みにより異なる立体配座中に変異された残基を保持しているからである。これは、構造物中に束縛しないと埋没してしまう疎水性側鎖基にとって特に重要である。ペプチド・セグメント(ドメイン)に対する束縛がきつくければきついほど、いかなる特定の標的とも結合する可能性は低くなる。しかし、結合するならば、その結合はより緊密で、特異性が高くなるであろう。従って、結合ドメイン候補と、ついでペプチド類似体のドメインもまた、ある程度剛性のある枠組み内に束縛されたものを選択することが好ましい。あるいは、類似体のライブラリ・サイズを大きくするため、および標的に提示するための多様化構造をさらに導入するため、1個以上の結合ドメイン候補を選択することができる。ライブラリ・サイズが大きくなり、調製される類似体の数がさらに多く構造が多様になると、有用な枠組みと提示された機能性基が含まれる確率は、ほとんどどのような標的に対しても高親和性リガンドを見つけられるほどに高くなる。
【0039】
結合ドメイン候補のサイズも重要な考慮事項である。小さいタンパク質またはペプチドは単クローン抗体などの大きいタンパク質よりも有利な点がいくつかある(Ladner、1995年参照)。第一に、結合部位あたりの質量が軽減される。分子量が小さい高安定性タンパク質ドメイン、例えばKunitzドメイン(約7kDa)やKazalドメイン(約7kDa)、Cucurbida maximaトリプシン阻害因子(CMTI)ドメイン(約3.5kDa)、エンドセリン(約2kDa)は、抗体(150kDa)や一本鎖抗体(30kDa)よりもずっと高いグラム当たりの結合率を示し得る。
【0040】
第二に、接触表面が少なくなるので、非特異的結合の可能性が低くなる。
第三に、小さいタンパク質またはペプチドは抗体には不可能な仕方で独特のつなぎ部位を有するように設計できる。例えば、小さいタンパク質は(例えばクロマトグラフィ・マトリクスに)つなぐのに適した部位のみにリシンを有するように設計できるが、これは抗体では実行できない。固定化した抗体の一部しか活性がないことがよくあるが、おそらくこれは担体への結合が不適切だからであろう。
【0041】
小さいタンパク質またはポリペプチドのうちジスルフィドによって安定化されるもののほとんどは、ジスルフィドを形成していないシステインを含まない。これは、タンパク質を安定化させるためのジスルフィド形成をもたらす酸化条件によって、それ以外の条件では対にならないシステインもジスルフィドを形成するからである。従って、安定化ジスルフィドと奇数のシステインを有する小さいタンパク質はジスルフィド結合二量体(例えばホモ二量体やヘテロ二量体)を形成する傾向がある。ドメイン−ドメイン間のジスルフィド数はドメイン内の安定化ジスルフィドよりも還元されやすい。従って、選択的還元によって単一の遊離チオールを有する単量体ジスルフィド安定化ドメインを得ることができる。かようなチオールは、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸または類似したα−ヨードカルボン酸基とのチオエーテルの形成によって、これらのドメインを高度に安定固定化するのに使用できる。
【0042】
小さいタンパク質またはポリペプチドのドメインは化学合成も可能であり、これによって標的との結合を妨げないように特定の固定化用基を組み込むことができる。例えば、ジスルフィドを含む小さいタンパク質を化学合成した場合、アミノ酸配列の他の場所にある他のシステインとは異なった仕方でブロックされたチオールを持つ特別のシステイン残基を追加することによって、その配列を変更することができる。選択したチオールは脱ブロック化してジスルフィドを形成させた後、追加したシステインを脱ブロック化し、固定化NH2−CO−CH2Iを含む基体などの適当な材料と反応させることによって、分子を固定化することができる。
【0043】
第四に、構造ドメインと共に1つの枠組みからもう1つの枠組みへ無傷で移すとき、束縛されたポリペプチド構造物のほうが機能性を保持しやすい。例えば、結合ドメイン構造物は、ライブラリの中で提示する(例えばファージ上に提示する)のに使用する枠組みから取り出した独立タンパク質や、クロマトグラフィ基体に固定化した独立タンパク質へ提示枠組みから移しやすい。
【0044】
結合ドメイン候補として使用するのに適した小さく安定なタンパク質ドメインは多数存在し、それにとって有用な次の情報が利用できる。(1)アミノ酸配列、(2)数個の類似ドメインの配列、(3)三次構造、(4)pH、温度、塩濃度、有機溶媒、酸化剤濃度の範囲にわたる安定性データ。実例としては、Kunitzドメイン(58アミノ酸、3スルフィド結合)、Cucurbida maximaトリプシン・インヒビタ・ドメイン(31アミノ酸、3ジスルフィド結合)、グアニリンに関係するドメイン(14アミノ酸、2ジスルフィド結合)、グラム陰性菌からの熱安定エンテロトキシンIAに関係するドメイン(18アミノ酸、3ジスルフィド結合)EGFドメイン(50アミノ酸、3ジスルフィド結合)、クリングル(kringle)ドメイン(60アミノ酸、3ジスルフィド結合)、真菌の炭水化物結合ドメイン(35アミノ酸、2ジスルフィド結合)、エンドセリン・ドメイン(18アミノ酸、2ジスルフィド結合)、連鎖球菌G IgG結合ドメイン(35アミノ酸、ジスルフィド結合なし)などがある。これらの全てではないが、そのほとんどが構造物を堅固に安定にするジスルフィド結合を含む。これらドメインのそれぞれに基づくライブラリ、好ましくはファージその他の遺伝子パッケージ上に提示されるライブラリは構築が容易であり、結合類似体の選択に使用しやすい。
【0045】
結合ドメイン候補ライブラリの提供
一旦結合ドメイン候補を選択したなら、アフィニティ・リガンドになる可能性があるもののライブラリを作り、結合条件と放出(溶出)条件で標的に対してスクリーニングする。このライブラリは、ドメインの配列に1個以上のアミノ酸置換があることを除いて結合ドメイン候補と相同な一連の類似体を作成することによって作出する。このアミノ酸置換は、少なくともほとんどの置換体について、構造を大きく変えないでドメインの結合特性を変化させることが期待される。多様化のために選択したアミノ酸位置(可変アミノ酸位置)が表面アミノ酸位置、即ちドメインがもっとも安定な立体配座をとるとき、ドメインの外表面(即ち溶液に曝される表面)に現れる、ドメインのアミノ酸配列中の位置であることが好ましい。置換の効果が最大になるように、この変化させるべきアミノ酸位置が隣接または相互に近接していることがもっとも好ましい。その上、特別のアミノ酸を結合ドメイン候補の構造中に追加することができる。好ましい実施形態、特に標的の三次構造、または標的の他の分子、特に結合ドメイン候補との相互作用に関して大量の情報が利用できる場合では、類似体ライブラリ構築の過程で結合相互作用に必須のアミノ酸位置が決定され保存される(すなわち結合に必須のアミノ酸は変えない)。
類似体ライブラリ作出の目的は標的との反応においてアフィニティ・リガンドとなる可能性のあるものを多数提供することであり、一般に、ライブラリ中の類似体数が多いほど、そのライブラリの構成要員が標的に結合し、かつ放出に望ましい予め選択した条件下でそれを放出する確度が高くなる。一方、無作為置換では、アミノ酸配列中のたった6個の位置でも類似体が6千万を超え、これはファージ提示ほど強力なスクリーニング技術を利用しても、実際には限界に近いライブラリ・サイズである。従って、多様化のために指定するアミノ酸位置は類似体の結合特性に及ぼす置換の効果が最大になるように考慮され、置換に使用できるまたは意図されたアミノ酸残基は類似体を結合条件から放出条件に溶液条件が変るのに反応するようにさせるだろうものに限定されている、偏りのあるライブラリを作出することが好ましい。
【0046】
前に示したように、米国特許第5223409号で論じられた技術は選択した結合ドメイン候補に対応する類似体ライブラリの調製に特に有用であり、これらの類似体は標的分子について多数の類似体を大規模にスクリーニングするのに適した形で提供される。複製可能な遺伝子パッケージ、もっとも好ましくはファージ提示を使用することは新規なポリペプチドの結合性実体を生成させる強力な方法であり、これには新規DNAセグメントをバクテリオファージのゲノム(または他の増幅可能な遺伝子パッケージ)に導入して、この新規DNAがコードするポリペプチドがファージ表面に出現するようにさせる方法が含まれる。この新規DNAの配列に多様性がある場合、1つの受容体ファージはDNAがコードする最初の(即ち「親」)アミノ酸配列の変異体を1つ提示し、ファージの集団(ライブラリ)は莫大な数の異なっているが類縁のアミノ酸配列を提示する。
【0047】
ファージのライブラリを標的分子に接触させて結合させ、結合しなかったものを結合したものから分離する。結合したファージは様々な方法で標的から遊離され、増幅される。ファージは細菌の細胞に感染させることで増幅できるので、結合実体をコードする遺伝子配列を明らかにするには少数の結合ファージでも十分である。これらの技術を使用すると集団中の約2千万分の1の結合ファージを回収することができる。各1千万〜2千万以上の可能結合ポリペプチドを提示する1個以上のライブラリを迅速にスクリーニングして高親和性リガンドを見つけだすことができる。この選択工程が機能すると、集団の多様性は各回ごとに減少し良好な結合体だけが残る。即ちこの工程は収束する。典型的な場合では、ファージ提示ライブラリは数個の非常に近縁な結合体(1千万のうち結合体10ないし50個)を含む。ファージの単位によって測定される結合の増加と近縁配列の回収により収束が示される。最初の結合ポリペプチドの組が確認されると、配列情報を使用してさらなる所望の特性、例えば極めて類似した二分子の識別力などをさらに有する構成要員に偏らせた他のライブラリが設計できる。
【0048】
かような技術によると、多数の類似体のスクリーニングだけではなく、結合/溶出サイクルの繰返しの実用化および最初の基準に合致した類似体提示パッケージのスクリーニングに対して偏りのある第二のライブラリの構築も可能になる。従って、本発明の実行では、(1)結合ドメイン類似体のライブラリをファージなどの複製可能な遺伝子パッケージ上に提示できるように作成すること、(2)スクリーニング法の結合条件が所望のアフィニティ・リガンド用に予め選択した結合条件と同一にして、このライブラリを標的分子と結合する遺伝子パッケージについてスクリーニングすること、(3)遺伝子パッケージをアフィニティ・リガンド用に予め選択した放出条件下での溶出によって獲得し、増殖させること、(4)極めて破壊的な条件(提示された結合ドメイン類似体のいくつかと標的との極めて高い親和性会合に打ち勝つため、例えばpH2以下、8M尿素、飽和チオシアン酸グアニジン等)下で溶出することによって追加の遺伝子パッケージを獲得し、増殖させること、(5)(3)または(4)で得られた増殖した遺伝子パッケージを別々に、もしくは組み合わせて(2)および(3)または(4)の工程を1回以上(例えば1ないし5回)追加循環させること、(6)かようなサイクルから回収した遺伝子パッケージ中に発現した類似体について高親和性結合体のコンセンサス配列を決定すること、(7)元の枠組み(結合ドメイン候補)に基づいて偏りのあるライブラリをさらに構築し、各可変アミノ酸位置で高親和性コンセンサスを可能にし、さらに他のアミノ酸タイプを結合条件から放出条件への変化に対して特に感受性があると思われるアミノ酸を含むように選択すること、(8)(a)結合条件下で強固に(即ち高い親和性で)結合し、(b)放出条件下できれいに放出する(即ち標的から容易に解離する)構成要員をこの偏りのあるライブラリからスクリーニングすることがもっとも好ましい。
【0049】
アフィニティ・リガンドのクロマトグラフィへの使用
結合条件下で所望の親和性で結合し、放出条件下で望むように放出する1個以上のライブラリの構成要員を分離した後、公知の方法でこのアフィニティ・リガンドの分離を達成できる。例えば、類似体ライブラリがファージ上に提示された有望なアフィニティ・リガンドからなる場合、放出されたファージを回収、増殖し、類似体をコードする合成DNA挿入断片を分離、増幅し、このDNA配列を解析し、あらゆる所望の量のリガンドを、例えばポリペプチドの直接合成、分離DNAや等価のコード配列の組換え発現などによって調製することができる。
【0050】
本明細書に記載する以下の同様の工程によって、放出特性をリガンドに入れて設計したのと同様の方法で、リガンドにとって望ましい特性をさらに類似体リガンドに組み入れて設計することができる。
【0051】
こうして分離したアフィニティ・リガンドは、アフィニティ・クロマトグラフ法による標的分子の分離に極めて有用である。従来のクロマトグラフ法はどれでも使用できる。本発明のアフィニティ・リガンドは、例えばクロマトグラフィ・カラムなどに適した固体担体上に固定することが好ましい。次いで固定化アフィニティ・リガンドにリガンド/標的複合体の形成に好適な条件下で供給流を負荷もしくは接触させ、非結合物質を洗浄して除いた後、標的をリガンド/標的複合体から放出するのに好適な条件下で溶出することができる。あるいは、供給流と適当にタグを付けたアフィニティ・リガンドとを反応容器に共に添加した後、タグ(例えば、複合体形成後にリガンドを結合するのに使用できるポリHisアフィニティ・タグ)を使用することで標的とリガンドの複合体を分離し、最後に非結合物質を除去した後に標的を複合体から放出させることによってバルク・クロマトグラフィを行うことができる。
【0052】
アフィニティ・リガンドは、厳密な結合特性および放出特性を組み込んで設計してあるが、アフィニティ精製で使用する際に、分離されたアフィニティ・リガンドが機能するのに一層最適な結合条件及び放出条件が明らかになる可能性があることに注意すべきである。従って、本発明による分離後に、ライブラリからアフィニティ・リガンドを分離した結合条件及び放出条件だけを常に使用しなければならないということはない。
【0053】
親和性定数
およそ3000ダルトン(約3kDa)の分子量を有するアフィニティ・リガンドが分離されたと仮定する(例えばCMTI誘導体、下記参照)。また、このリガンドを3mM(即ち約10g/L)の有効濃度で適当なクロマトグラフィ用担体に負荷できると仮定する。
分子量が50kDaで細胞培養培地から10mg/Lで産生された標的を仮定する。タンパク質濃度は(0.01g/L)÷(5×104g/モル)=0.2μM。リガンドが3mMで存在する場合、1Lの親和性材料は3ミリモル(167g)の標的を捕捉できる。
このリガンドが単純な質量作用の式(1)に従って標的と結合すると仮定する。
(1)KD/[リガンド]=[標的]/[複合体]≡ (1/X)10
捕捉できる標的の割合は式(2)で与えられる。
(2)結合した標的の割合=1/{1+(1/X)}
従って、結合した標的の割合は解離定数KDと担体につけたリガンド量によって制御できる。KDは溶液条件の関数であるが、アフィニティ・リガンド分子に固有の値である。結合条件下でのKDの値はKDBCであり、溶出条件下でのKDの値はKDECである。
【表2】
上の表に、結合した標的の割合が[リガンド]/KDの比にともなってどのように変化するかを示す。満足できる捕捉は0.9より大きいと仮定されるが、本発明はいかなる捕捉レベルにも限定されない。[リガンド]がおよそ3mMの場合、満足できる捕捉は300μM以下のKDBCで得られる。[リガンド]/KDBC≧100では、より効果的な捕捉が得られ、これらの比較的高い値が好ましい。[リガンド]/KDBCの値は高いほどよいが、ただし標的の回収に十分なほど[リガンド]/KDECが小さくなければならない。3mMより高濃度のアフィニティ・リガンドを担体につけることができればKDの値が一層高いリガンドを使用できる。
【0054】
満足できる溶出には[リガンド]/KDEC<10が必要であり、[リガンド]/KDECの値は低い方が好ましい。[リガンド]/KDEC<0.1は特に好ましく、[リガンド]/KDEC<0.01はさらに好ましい。[リガンド]/KDECは低いほどよく、制限はない。[リガンド]/KDECの比を0.001よりも低くしても、平衡放出で得るものはほとんど無いが、極めて高いKDを有するリガンドはオフ比が高く、標的を極めて迅速に放出できるので実際上は優れている。
【0055】
従って、効率よい捕捉と溶出を得るためには、理論によると(KDEC/KDBC)を1000以上にするべきである。この比は高いほどよい。少なくとも10%の結合物質を溶出条件下で遊離できる場合、(KDEC/KDBC)>10であればこの工程は申し分ない。しかし、本発明は(KDEC/KDBC)のいかなる特定の値にも限定されない。標的に対して極めて高い親和性を有するリガンドの方が高い特異性を与えることができよう。特に、親和性が比較的低い不純物を押し出すために親和性物質を標的よりも僅かに多く負荷してある場合にそうである。極めて高親和性のリガンドにとり、不純物を押し出すために必要な過剰量は少ない。
【0056】
KDECはKDBCと同様に重要である。KDECは0.1より大きくないことが好ましく、0.01より大きくないことがさらに好ましい。それにもかかわらず、理論的に結合物質の50%を放出させるKDEC=1でもアフィニティ精製は機能する。平衡洗浄を4回行うと(即ち50%+25%+12.5%+6.25%)、結合条件下で捕捉された物質の94%が回収される。
【0057】
仮定に基づけば、KDBC=1μMを有し、担体に3mMで結合した固定化リガンド1Lは、約15,000Lの0.2μM溶液(10mg/Lの50kDa標的分子)から標的の99%を捕捉することができる。
適当な担体に結合したアフィニティ・リガンドは、標的を捕捉するために、他段階平衡クロマトグラフィの実施形態などの多様な方法で使用できることが理解されよう。例えば、リガンド担体をカラムに充填し、標的を含む溶液をカラムに流し、(任意選択で)ほぼ全ての標的が結合するかリガンド担体が標的で飽和するまで再循環させる。あるいは、結合が完了するまでリガンド担体を標的含有溶液と混合(振とうまたは撹拌)してもよい。
【0058】
KDECが3mMでリガンド負荷が3mMの場合、1Lの平衡洗浄を4回行うと4L中に2.82ミリモル(3mMの94%)が回収でき、670μMの標的溶液、即ち供給流と比較して3350倍濃度の標的が得られる。さらに、大部分の不純物が除去されると予想される。
KDECが30mMでリガンド負荷が3mMの場合、1Lの平衡洗浄を2回行うと2L中に2.98ミリモル(3mMの99%)まで回収でき、1.49mMの標的溶液、即ち供給流と比較して7450倍濃度の標的が得られる。一方、KDECが0.3mMでリガンド負荷が3mMの場合、1Lの平衡洗浄を24回行うと24L中に2.70ミリモル(3mMの90%)まで回収でき、112μM標的溶液、即ち供給流と比較して560倍濃度の標的が得られるが、これはさほど望ましくない。従って、担体上のリガンドの実際的な限界は[リガンド]/KDEC≒10であり、低い値のほうが好ましい。
【0059】
担体のリガンド結合レベルが支配するのは(a)供給流から捕捉される標的の割合、(b)捕捉される標的の絶対量、(c)捕捉される不純物の量の3因子である。最初の2因子の理論的挙動が報告されている。供給流中の不純物は複雑で特有であるため[リガンド]と不純物の結合および溶出との相互作用は経験則によって最適化される。
【0060】
特定のアフィニティ・リガンドが与えられると、最適な分離に適した充填を計算することができる。KDBCが3mMでKDECが3μMのアフィニティ・リガンドを仮定すると、3mMで担体に充填すれば標的の捕捉は完全になるであろう。しかし、溶出条件下では>1%しか溶出されない。このリガンドを3μMで充填すれば標的を捕捉することができ、標的はX=1で放出される。あるいは、さらに適した(即ちより低い)親和性を有するものが1個以上得られるように結合領域中またはその付近のアミノ酸を変更して、選択したアフィニティ・リガンドの別形を調製することができるであろう。
【0061】
上記の考察はバッチ結合および溶出に関するものであった。これに代わるアプローチは平衡段階が多い定組成クロマトグラフィである。高いオン比およびオフ比を有するアフィニティ・リガンドはクロマトグラフ法ではより効果的である。クロマトグラフ法にとり、リガンドのもっとも重要な属性は標的に対し適度な親和性(1μMないし1mM)を有し供給流の他のあらゆる成分に対する親和性がずっと低いことである。
【0062】
比較的低い親和性を有する結合類似体を回収する確度を高めるには、特にスクリーニングの初期段階では、例えば洗浄などによる非結合類似体の除去(段階(g)、上記参照)を極めて短くすることであろう。例えば、KD=3μMの結合ドメインはKon=103/モル/秒およびKoff=10−3/秒を有するであろう。これはτ1/2=694秒≒12分に相当する。元々ライブラリに107個の異なる類似体が含まれている場合、1011個の試料にはライブラリの各構成要員が10,000個ずつ存在する。ある類似体5,000個が標的と結合し、半交換時間τ1/2の3倍(約35分間)洗浄した場合、625個の類似体が捕捉されるであろう。洗浄を短縮すると非特異的類似体のバックグラウンドが高くなるにもかかわらず、オン、オフの速い構成要員が次の回へ持ち越されることを確実にする方が好ましい。
【0063】
以上から、必ずしも親和性がもっとも高いリガンドが制御可能で経済的な標的分子の回収にとって最適であるわけではないことが分かる。本発明の方法によると、予測可能で制御された標的のきれいな放出と対になった標的の特異的な結合、有用な充填特性、許容できる程度に完全な溶出、再使用性/再生利用性等、特定の標的の分離を模索する実行者にとって重要な、多様な所望の特性を有するリガンドを選択することができる。
【0064】
近縁不純物の除去
本発明によると、標的分子と極めて類似した他の分子とを識別できるアフィニティ・リガンドの選択も可能になる。ここで、「標的」とはアフィニティ・リガンドが結合すべき分子であり、「特異的不純物」とはそれが結合することを最小限にすることが望まれる分子である。
【0065】
本発明の方法を使用すると、Asn残基を含むタンパク質と、Asnが化学的にAspに変換された脱アミド誘導体とを識別できるアフィニティ・リガンドを見つけだすことができる。同様に、異性有機化合物のR体をS体から分離するのに有用なアフィニティ・リガンドを見つけだすことができる。
【0066】
この種の特異性を達成する方法は少なくとも3通りある。1番目は、標的と結合するアフィニティ・リガンドを多数獲得し特異的不純物への結合をクローン分離物として試験することであろう。2番目は、特異的不純物を固定化し、特異的不純物に対して高い親和性を有するライブラリの構成要員を取り除けるであろう。次いでこの「除去ライブラリ」を標的に結合するものについてスクリーニングする。3番目は、固定化した標的への結合について可能アフィニティ・リガンドのライブラリのスクリーニングを行う際に、結合緩衝液中に1種類(または複数)の特異的不純物を存在させ、その濃度を標的と特異的不純物の両方に対して親和性を有するあらゆる構成要員が固定化標的よりも特異的不純物の方と結合するような濃度にするとができるであろう。このように、標的と結合した構成要員を特異的不純物に対する親和性がないことを示すように「設計」する。3番目の方法が好ましい。
3通りの方法の全てにおいて、特異的不純物が標的をほぼ完全に含まないことが重要である。特異的不純物中の標的濃度ができるだけ低いことが好ましい。
【0067】
3番目の方法では、特異的不純物は、溶液中に遊離した標的がライブラリの各標的結合成分の大部分に結合しないような濃度で添加する。従って、ライブラリのスクリーニングを行うために結合/洗浄/溶出/増幅を数回繰り返すのにつれて、残っているライブラリの構成要員の各濃度が上昇する一方で構成要員の数が減少するため、特異的不純物の濃度を上げる。特異的不純物を含む調製物中に含まれるどの標的も有用である可能性のあるアフィニティ・リガンドの全部と結合することはあり得ないので、有用なアフィニティ・リガンドのいくつかは固定化標的によって捕捉され、次の回へ繰り越される。以下の計算によると、使用すべき特異的不純物の適量が示唆されるが、本発明はいかなる特定レベルの特異的不純物の使用にも、あるいはいかなる特定の結合、競合理論にも限定されない。
【0068】
複雑度106のファージ提示ライブラリ(即ち106種類の可能アフィニティ・リガンド・ペプチドが提示されている)の中では、ライブラリの力価は1013ファージ/mL、即ち各タイプのファージが107/mLであると想定される。標的が50μMで効果的に存在し、特異的不純物が標的の0.5%存在する場合、特異的不純物を1,000μMまで添加し、遊離標的を5μMにするがこの濃度は、特異的不純物が存在する状態でも標的と結合できるアフィニティ・リガンドの捕捉を完全に阻害することはないだろう。
【0069】
ラウンド間で増幅を行わずにライブラリをスクリーニングするときは、結合段階の1つで特異的不純物を追加するだけで十分なことがある。特異的不純物を追加する最適の段階が、早期の結合段階か後期の結合段階かは実験で決定すべきである。
本発明によるアフィニティ・リガンドの単離については、下記でさらに例示する。以下の例に含まれる特定のパラメータは本発明の実施を例示するためのものであり、いかなる形においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0070】
実施例1〜15
他のタンパク質に結合するタンパク質には、遊離タンパク質では露出していて、複合体の形になると埋没する1個以上の疎水側鎖基があることが多い。アミノ酸Phe、Tyr、Leu、Ile、Val、Met、Trp、Cys、Hisには疎水側鎖基がある。Phe、Leu、Ile、Val、Met、Cys(ジスルフィドの一部のとき)は常に疎水性である。TryとCys(ジスルフィドの一部でないとき)は高いpHでイオン化できる。Hisは中性または酸性のpHでイオン化が可能である。露出疎水領域を有する可能性が高いタンパク質には、タンパク質ホルモン、タンパク質ホルモンの受容体、受容体、結合分子、抗体等が含まれる。酵素および極めて豊富な貯蔵や輸送のタンパク質(トリプシン、ミオグロビン、ヘモグロビンなど)には、表面に広い疎水領域が全くない。
【0071】
標的が露出疎水領域を有することが既知であるか、露出疎水領域を有する可能性が高い場合、好ましいアプローチは高塩濃度(疎水性相互作用に有利)および37℃で結合し、4℃(疎水性相互作用に不利)及び/または50%(v/v)アセトニトリル(疎水性相互作用に不利)と10mM NaCl(低塩濃度)で放出するリガンドを選別することである。
標的タンパク質がイオン基を多数有する場合(アミノ酸組成またはアミノ酸配列から決定できるようにAsp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)、好ましいアプローチは1つのpHで結合し、別のpHで放出するリガンドを選別することである。例えば、pH3.0からpH9.5の間で安定な標的に対しては、pH8.5、20mM NaCl、10℃で結合しpH4.0、1M NaCl、30℃で放出するリガンドを選別することが有利である。低温、低塩濃度はイオン性相互作用に有利である一方、比較的高い塩濃度と温度はイオン基の結合力を低下させる。あるいは、pH8.5、1M NaCl、30℃で結合しpH4.0、10mM NaCl、10℃、10%(v/v)MeOHで放出するリガンドを選別することができるであろう。
【0072】
水溶性標的は、極めて少数のイオン基(即ちタンパク質ではAsp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)を有するときに多くの中性極性基(即ちタンパク質ではSer、Thr、Asn、Gln、Tyrなど)を有する可能性が高い。多くの糖類はこのクラスに含まれる。このような中性極性基(ヒドロキシル、アミド、エーテル、エステル等)は水素結合を形成することができる。このように、多くの位置で許容される水素結合形成アミノ酸を有するタイプのライブラリには、有用な親和力でこの種類の分子と特異的に結合する構成要員が含まれる。水素結合をつくる側鎖基を有するアミノ酸には、Asp(D)、Glu(E)、His(H)、Lys(K)、Asn(N)、Gln(Q)、Arg(R)、Ser(S)、Thr(T)、Trp(W)、Tyr(Y)が含まれる。水素結合はpH、イオン強度、溶媒の誘電率、および尿素やグアニジンイオンなどのカオトロピック試薬の影響を強く受ける。水素結合は、高温では結合力を失う。従って、適切な結合条件は低塩濃度、低誘電率を有する一方、溶出条件は高塩濃度、高誘電率、結合条件のpHと好ましくは少なくとも1pH単位異なるpHを有するであろう。例えば、結合条件をpH8、10mM NaCl、4℃とする一方で溶出条件をpH6、500mM NaCl、35℃とすることができる。あるいは、pH8.5、1M NaCl、30℃で結合しpH4.0、10mM NaCl、10℃、10%(v/v)MeOHで放出するリガンドを選別することができるであろう。
【0073】
もっとも容易かつ経済的に変更できる溶液条件はpHである。アミノ酸のイオン化を分子間界面内で変化させることで分子の結合を著しく阻害できることが知られている。従って、標的への類似体の結合がpH変化に高い感受性をもつ確度を高めるため、ほとんどの、あるいは全ての変更位置で、少なくともHisを、好ましくはGlu、Asp、Tyr、Lysも許容するように設計することができる。他のタイプのアミノ酸も許容できることは理解すべきである。例えば、各変更位置で{His、Asp、Glu、Tyr、Lys、Ala、Ser、Asn、Leu、Phe}の組が許容されるライブラリは、高いpH感受性で標的と結合するリガンドを含む可能性が極めて高いであろう。{His、Glu、Asp、Tyr}の組だけが許容されるライブラリも機能する可能性が高いが、さらにその他のアミノ酸のタイプが許容されると、第一の溶液条件下で結合がおきる確度が高くなる。界面内でイオン化状態を変化させる基が1、2個あれば第二の溶媒条件の組での結合が阻害される。表2に示すように、His、Glu、Asp、Tyr、LysのpKaは3.5〜11の範囲、即ちタンパク質の多くが安定なpHの範囲内である。しかし、タンパク質では各側基の位置決定が実際のpKaに影響を与える可能性がある。例えば、Argと近接して保持されたLysは、そうではないLysと比較して低いpKaを示す可能性がある。
【0074】
アミノ酸側鎖の活性とアミノ酸基が溶液中のタンパク質に与えている可能性のある性質を示す表2および表3のタイプ情報を使用すると、アフィニティ分離法が有効であることが望まれる場合に特定の種類の溶媒条件の変化(結合条件から溶出条件への移行)に対して感受性がある結合ドメイン候補を含む確度が高いライブラリの設計に必要なアミノ酸置換を選別することができる。
【表3】
(Crieghton、タンパク質:構造および分子の性質、第2版(W.H.Freeman and Co.、ニューヨーク、1993年)、p.6)
表3に、記載した溶媒条件の変化に対して感受性のある結合をタンパク質に与える可能性のあるアミノ酸タイプの種類を示す。本発明の好ましい結合ドメイン類似体候補には、構造を安定化させることでドメインが高い親和性、特異性、安定性を示せるようにするジスルフィド結合が含まれる。
【表4】
【表5】
【0075】
実施例1は、結合ドメイン類似体ライブラリ用に提案した結合条件および放出条件を説明するが、この条件ではヒスチジンが多数の、あるいは全ての変更可能な位置に来ることができる。pH>7では、Hisは電荷を帯びず、側基は水素結合の供与と受容が可能であるが疎水性である。塩濃度と温度が高くなると、イオン相互作用の結合エネルギーへの寄与が低下する。従って、高塩濃度および高温で結合させると、強いイオン相互作用を有する結合体が得られる可能性が低くなり、疎水相互作用を有するリガンドが得られる可能性が高まる。放出条件が低塩濃度および低温であると、イオン相互作用の重要性、特に不適当なイオン相互作用の効果の重要性が高まる。従って、結合界面に1個以上のHis残基を有する複合体は酸性pHと低塩濃度で不安定になりやすい。
【0076】
実施例2は、多くの、あるいは全ての変更可能な位置にHisが許容されたライブラリからの選別を説明する。結合条件および放出条件の選択は、標的との結合がpH8.0では強いがpHの低下には極めて敏感であるような結合ドメインを1つ以上分離できるように行う。
【0077】
ヒスチジンだけがpH感受性相互作用の可能なアミノ酸ではない。実施例3に示すアミノ酸はすべて、多くのタンパク質が安定なpH範囲でイオン化が可能である。イオン化が起きるpHはコンテクスト依存性が高いことが多い。従って、タンパク質−標的界面内のアスパラギン酸側鎖基のpKaは表2に示した範囲内にはない可能性がある。タンパク質−標的界面内の基によってイオン化状態が変化すると、複合体の安定性が強力に変更を受けるのはかなり確実である。従って、複合体が、1つのpHで安定であってもpHが界面内の基によってイオン化状態が変化するのに十分なだけ異なると安定である可能性が低い。かような移行が起きるpHは計算が困難であり、表2に示したpKaの1つであるとは限らない。
【0078】
実施例4は、多くのAsp、Glu、Lys、Arg、Tyr、不対Cys残基を有する類似体のライブラリがpH3.5、4℃、50mM NaClで標的と結合しpH7.5で放出する構成要員を含む可能性が高いことを説明する。
実施例5は、低塩濃度を使用するとイオン相互作用による結合が促進され、高塩濃度、異なるpHで溶出すると、この相互作用が破壊されることを説明する。
実施例6は、pH8.2、10mM NaCl、25℃で結合しpH5.7、1M NaClで放出すると、高いイオン強度とより低いpHに感受性の結合ドメインが放出されやすいことを説明する。
【0079】
イオン強度もタンパク質−標的の結合に強く影響する可能性がある。一般に、疎水相互作用によって結合した複合体は高塩濃度のほうが安定性が高く、一方イオン相互作用によって結合した複合体は低塩濃度よりも高塩濃度のほうが安定性が低い。実施例7ではこれを活用し、イオン基が豊富なライブラリを使用することによって、低塩濃度を結合に、高塩濃度を放出に利用している。実施例8は、ライブラリを5mM KClで結合し飽和KClで放出することによってこの効果が見られることを説明する。あるいは、ライブラリが少なくとも数個の疎水基を許容する場合、結合条件と放出条件は実施例9に示すように逆にできる。実施例8と実施例9の結合条件と溶出条件によると、同一のライブラリから同一の標的に対する別の結合ドメインが得られることが期待される。
【0080】
実施例10は、疎水基を結合ドメイン候補の多くの、あるいは全ての変更可能な位置に許容するライブラリは1M NaCl水溶液中でしっかりと結合するが50体積%のACN/水、塩類なしで放出する構成要員を有する可能性が高いことを説明する。これは、疎水相互作用が有機溶媒によって分断されるためである。
実施例11は、列記されているグループのアミノ酸を数個結合界面中に有するドメインが水中では結合し、塩を幾分加えた30%MeOH中では放出することが期待されることを教える。
【0081】
まず疎水相互作用によって結合するタンパク質複合体は「低温変性」することが知られている。従って、列記されている疎水残基を変更可能な位置の多くで許容する実施例12のライブラリは33℃、高塩濃度で標的と結合し低温(例えば0℃)、低塩濃度で放出する構成要員を含む可能性が高い。
【0082】
カオトロピック試薬その他の溶質も標的への安定なドメインの結合を極めて感受性にする可能性がある。一般に、尿素は水素結合によって相互作用を行う基同士の相互作用を断ち切る。Gln、Ser、Thr、Asn、Tyr、Hisは特に好ましく、Asp、Glu、Lys、Argも尿素による分断に感受性の相互作用をしやすい(実施例13参照)。
【0083】
AspおよびGluの側鎖基は二価または三価の金属イオン、特にCa++、Mg++、Zn++、Cu++等のキレート化をとおして他の酸性基と相互作用することができる。タンパク質主鎖およびAsnやGlnの側鎖基中のカルボニル酸素や、タンパク質主鎖及びAsnやGlnのアミド窒素もある種の金属イオンとの結合を形成する。金属イオンもEDTAなどのキレート剤によって可溶状態にとどめておける。従って、表面の数カ所にAspおよびGluを許容するライブラリには、溶液中に二価または三価の金属イオンが存在する場合に限り、酸性基を含む(かつ安定性が多価金属イオンとの結合に依存しない)標的と結合する構成要員が存在する可能性が高い(実施例14参照)。かような構成要員の放出はEDTAその他のキレート剤によって起こすことができる。
【0084】
塩基性側鎖基は塩素イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、クエン酸イオン、乳酸イオンなどの陰イオンと相互作用することができる。多価陰イオンでは、複数の側鎖基が1個のイオンと相互作用が可能である。かような相互作用は結合をさほど安定化させないとしても、多価イオンは反発力を遮蔽して、そうでなければ不安定な複合体の形成を可能にする。実施例15に説明するように、多価イオンを取り除くと複合体の解離が起こるであろう。
【0085】
表4に、類似体の列記した溶液パラメータの変化にたいする応答性に寄与すると思われるアミノ酸のグループを、例えば結合ドメイン候補をファージに提示させたライブラリ中などに、発生させるのに適したコドンをまとめる。
【表6】
【0086】
実施例16
上記の技術を組み換えヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)用のアフィニティ・リガンドの分離に用いた。tPAアフィニティ・リガンド作成の方法は一般的な3段階を含み、それは(1)tPAと結合させるための安定な親タンパク質ドメインの変形体およそ千百万個のスクリーニングし、(2)もっとも興味が持たれるリガンドの少量生産し、(3)血漿を加えた試料からtPAをアフィニティ精製するための活性化ビーズと結合した1種のリガンドのクロマトグラフィ試験である。
【0087】
この作業のため、tPAをCalBiochem(No.612200)から購入し、Marklandら(1996年)記載の方法でPierce Chemical CompanyのReactiGelTMアガロース・ビーズに固定した。およそ200μgのtPAが200μLのReactiGelTMスラリーに結合した。
ファージに提示されたタンパク質のライブラリ4組をスクリーニング工程用に選び出した。3組はリポタンパク質随伴凝集阻害因子の第1Kunitzドメイン(LACI−K1)に基づき、Lib No.1、Lib No.3、Lib No.5と呼ばれ、1組はCucurbida maximaトリプシン阻害因子I(CMTI−I)に基づくものであった。CMTI−Iはカボチャ種子中にあるタンパク質で、消化管の酸性条件およびタンパク質分解条件に耐えることができる。これらのタンパク質はそれぞれ3個のジスルフィド架橋を有し、そのため非常に動きが束縛されかつ安定になっている。これらのタンパク質ファミリーのメンバーは、顕著な熱安定性(>80℃で失活せず)、顕著なpH安定性(pH2、37℃での終夜インキュベーションまたはpH12、37℃への1時間曝露で失活せず)、顕著な酸化安定性を有することが示されている。各ライブラリ中の可能アミノ酸配列数を下の表5に示す。
【表7】
この作業中でtPAに対してスクリーニングしたファージ提示ライブラリの総多様度はおよそ千百万と推定される。KunitzドメインおよびCMTIドメインは、その表面のほかの部分を変更することによってさらにずっと高い多様度を示すであろう。
【0088】
「緩速スクリーニング」と「迅速スクリーニング」の2種類のスクリーニング・プロトコルを使用した。緩速スクリーニングでは、各回ごとに得られたファージを次の回の前に大腸菌中で増幅した。迅速スクリーニングでは、増幅は行わなず、ある回で標的から回収したファージを次の回に投入した。迅速スクリーニングでは、数回を経ると、ファージの投入量と回収量が急速に低下した。投入量は、緩速スクリーニングでは一定に保つことができる。緩速スクリーニングでは投入量が一定であることから、各回の比較が可能になり、選別や選別されていないことを提示できるが、迅速スクリーニングの各回の比較は解釈が難しい。迅速スクリーニングによると、無関係な性質(例えば感染性や増殖率)よりも結合で選別される確度が高くなる。
【0089】
記載したファージ・ライブラリについてtPAへの結合に関して4回スクリーニングを行った。1回目は、pH7のリン酸緩衝液(PBS)中で別々の反応でtPAアガロース・ビーズとファージ・ライブラリを混合した。非特異的結合を少なくするため、ウシ血清アルブミン(BSA)を0.1%添加した。結合しなかったファージをpH7で洗浄して除き、1回目のスクリーニングだけは結合したファージをpH2で溶出した。次の3回の迅速スクリーニングは溶出プロトコルが異なり、1回目のスクリーニングのプール・アウトプットを使用した。プールAはCMTIライブラリおよびLib No.1ライブラリからのアウトプットをあわせたものからなり、プールBはLib No.3ライブラリおよびLib No.5ライブラリからのアウトプットをあわせたものからなるようにした。プール・ライブラリの結合はpH7で行ったが、結合ファージを取り出すための1回目の溶出はpH5で行い、その後の溶出はpH5〜pH2の範囲で放出されるファージを溶出するためpH2で行った。これをさらに2回繰り返し、全部で4回の選別を行った。
【0090】
最後の3回のスクリーニングから得たファージの力価を下の表6に示した。1回のアウトプットは次の回の投入量であった。
【表8】
ファージの力価からみて、プールAは収束して強く結合するファージを含むが、プールBは収束も有意でなく強く結合するファージも含まないようである。
【0091】
さらに分析するため、3回目の迅速スクリーニングで選別したファージからファージのクローン40個を、pH5のプールから20個、pH2のプールから20個選び出した。CMTIまたはLACI由来の遺伝子フラグメントが存在するかどうかを判定するためにPCRを使用してこのファージのDNAを増幅した。
【0092】
プールAの迅速スクリーニングから分離した40個のファージのうち38個にCMTI由来の構築物が見つかった。残りの分離ファージはPCR生成物を作らず、遺伝子欠失が示された。プールBの迅速スクリーニングで分離されたファージ40個のうち10個だけが好適な構築物を含み、探索が成功しなかったことが別に示された。
【0093】
特定のファージ提示タンパク質が標的分子に対して高い親和性を有する1つのしるしは、それが繰り返し見つかることである。pH2で放出したCMTI由来ファージ分離物18個から1個の配列が5回見つかり、2個目の配列は4回、残りの2個は3回見つかった。この18個の配列は選別された分子の近縁ファミリーをなし、探索が成功裏に収束したことがさらに示された。
【0094】
表7に、観察された配列の違いを、許容された多様性と選別pHの関数として示す。親CTMIタンパク質のシステイン3とシステイン10の間に表面露出ループを規定するコドンに組合せ配列の多様性を導入することによってCMTIライブラリを構築した。このシステインは構造の重要部分をなしているため、変更しなかった。
【表9】
【表10】
これにより9.13×106個のタンパク質配列と16.8×106個の配列が与えられる。
【0095】
表7はCMTIライブラリのDNA配列を示す。残基F−5および残基Y−4は受容ファージ設計の元となったM13mp18のシグナル配列中の残基14および残基15に対応する。シグナルペプチダーゼI(SP−I)による開裂はA−1とR1の間に起きると推定される。100〜113で指定される残基はCMTI異形体と残基A201から始まる成熟IIIの間でのリンカーとなる。アミノ酸配列Y104IEGRIVはリンカーがR108とI109の間でウシ第Xa因子により特異的に切断されることを許容しなくてはならない。このライブラリを構築するM13関連ファージはアンピシリン耐性遺伝子(ApR)を保有しているため、ライブラリ・ファージに感染した細胞はAp耐性になる。各可変アミノ酸位置で、野生型アミノ酸残基を下線で示した。表7に示したアミノ酸配列はSEQ ID NO:2と表される。それらの配列中でSEQ ID NO:3のアミノ酸1〜29はCMTI由来ポリペプチド類似体を表し、SEQ ID NO:2のヌクレオチド16〜102はCMTI由来ポリペプチドをコードする。
【0096】
pH5選別手順から得た分離物はpH2選別物よりも大きい配列多様性を示した(表8)。配列多様性がより大きいにもかかわらず、pH5選別物は近縁タンパク質配列を含んでいた。各位置で観察されるアミノ酸タイプの全ての組合せを作ると、元の個体数の0.15%の13,400(=2×4×3×4×7×5×4)通りにしかならない。決定した20個の配列中に1回以上現れた配列は4個あり、これは実際の多様度が13,400よりも低いことを示唆する。pH5選別配列のファミリーはpH2選別ファミリーとはっきりと関連性があるが、これら2つの配列集団で配列が同一だった例は1つしかなかった。
【表11】
【0097】
位置6および位置7で、許容されるアミノ酸タイプのほとんど(15個のうち12個)がpH2選別物中では拒絶された。選別した配列にとり、位置6および位置7で選ばれたアミノ酸が結合に寄与したのか、単にこれらの位置では許容できないものが排除されたことを表すだけなのかは明らかではない。
【0098】
選別工程の強力な収束は、多くのアミノ酸タイプが生じる可能性があるのに1種類のアミノ酸タイプしか見つからなかった位置2、位置4、位置8でのpH2選別物について特に顕著である。これは、この特定のアミノ酸が結合にとって決定的であるという強い示唆である。これらの位置のそれぞれで、ただ1つ選ばれたpH2群のタイプはpH5群中のその位置でももっとも普通のタイプであった。pH2プールの各位置で全ての観察されたアミノ酸タイプを許容しても、最初の個体数の0.0004%に過ぎない36個の配列しか得られない。1回以上現れた数個の配列は、pH2プール中に存在する異なる配列の数が36よりも多くないことを示唆する。
【0099】
表9は配列決定したCMTI−Iの類似体38個に対する多様化領域(アミノ酸位置1〜12)のアミノ酸配列を示す。変更が指示されていない位置(位置11)でのメチオニン残基の出現はライブラリの形成におけるDNA合成の間違いを示す。
【表12】
【0100】
表9では、pH5での溶出によって101〜120と名付けた配列を有する類似体が得られ、pH2での分画によって221〜238と名付けた配列を有する類似体が得られた。
他の固定化タンパク質に対する親和性を決定することによってファージ−結合リガンド候補の特異性を試験した。ファージ−結合タンパク質は、ビーズに結合した関連ヒト血清タンパク質分解酵素、プラスミンおよびトロンビンに対して親和性を示さなかった(データ示さず)。また、ファージ分離株について実験を行い、固定化tPAに対する相対親和性とそれからの放出特性を決定した。
【0101】
pH5放出ファージ分離株の場合、大部分のファージはpH5で放出され、さらにpHを2に下げることによって1桁少ない量が放出される。これはpHを5に下げると比較的きれいに放出する好適なアフィニティ・リガンドであることを示す。pH2放出分離物の場合、分離株No.232のみがpH5では真に選択的に結合しており、それからpH2で放出された。
【0102】
リガンドの合成と固定化
次に、ファージ分離株のDNAから決定した配列情報を使用して遊離CMTI由来ポリペプチドを合成した。CMTI誘導体(類似体)は容易に化学合成できるが、このポリペプチドを酵母中で発現させることにした。Pichia pastoris中で発現させるため、pH5放出分離株の1つ、No.109(表9、SEQ ID NO.12と提示)と、pH2放出分離物の1つ、No.232(表9、SEQ ID NO.35と提示)とを選択した。4および8の位置では、分離株No.109はpH2選別物に見られるものと同じアミノ酸タイプであり、2の位置では、分離株No.109はpH2選別物とは異なっている。
【0103】
適当な遺伝子構築体を合成し、Pichia pastoris発現系(Vedvickら、1991年およびWagnerら、1992年)に挿入して産生株を作成した。各株について5リットル発酵を行わせた結果、高濃度で発現された。タンパク質は1g/Lより多く発酵ブロス中に分泌された。粗製発酵懸濁液を遠心と0.2μm精密ろ過によって清澄化した。この0.2μmろ液を30kDaNMWLカットオフのPTTKカセットを使用する限外ろ過法によって精製した。リガンドはMacro-Prep High S陽イオン交換用担体(BioRad社)による陽イオン交換クロマトグラフィによって限外ろ過液から精製し、次いで逆相分離を2段階行った。この逆相分離には0.1%TFAを含む水で開始し、アセトニトリル(0.1%TFA含有)を90分間で50%まで上昇させる直線グラジエントを使用した。この結果得られたタンパク質は、5μm逆相カラム上のPDA分光分析によって測定したところ、95%以上の純度であった。
【0104】
使用説明書に従って、このリガンド候補をジアミノプロピルアミド(Emphaze UltralinkTM、Pierce Chemical社)を固定したビス−アクリルアミド/アズラクトン共重合体担体に固定した。CMTI類似体No.109約30mgが活性化クロマトグラフィ用担体1mLに結合した。
【0105】
カラムの試験
ウォーターズのAPミニカラム、公称寸法5.0cm×内径0.5cmに流量アダプタを取り付けて変更を加え、カラム長を2.5cmに短くすることができた。推奨のプロトコルを使用してこのカラムにNo.109Emphaze UltralinkTMビーズを充填し、洗浄液のNaCl濃度を1Mまで徐々に上げながらpH7で洗浄した。
【0106】
No.109アフィニティ・カラムの最初の試験では、製品仕様書に従ってCalBiochemから入手した組織型プラスミノーゲン活性化因子をtPA1mg/mL溶液に調製した。凝集標準液(Sigma Diagnostics社の凝集対照レベル1、カタログNo.C-7916)凍結乾燥ヒト・プラズマを使用説明書に従って再構成した後、10倍希釈してtPAを添加した。この試料をカラムに負荷し溶出するのは全緩衝液中に1M NaClが存在する状態で行ったが、この条件ではカラムへのタンパク質の非特異的結合が十分に抑制され、pH制御されたtPAの結合および放出が可能であった。明瞭なピークが2本あった。1本目は(カラムに保持されなかった)血清タンパク質を含み、pHを下げた後に得られた2本目はtPAを含んでいて、血清成分はまったく混入していなかった。結果を銀染色ゲル(示さず)によって確認した。tPA製品の90%が回収された。
【0107】
EAHセファロース4BTMアガロース・ビーズ(ファルマシア、スウェーデン国ウプサラ)をクロマトグラフィ用担体に用いてNo.109CMTI類似体を使用したアフィニティ・カラムを作成した。分離はウォーターズ(マサチューセッツ州ミルフォード)製のHPLCシステムで行った。システムの構成は、モデル718自動注入装置、送液能力毎分20mLのポンプ・ヘッド付きモデル600送液システム、モデル996フォトダイオード・アレイ検出器であった。装置は全て製品仕様書に従って設置した。システムはデル社提供のペンティアム(登録商標)133IBM互換コンピュータによって制御した。このコンピュータは1ギガバイトのハードディスク・ドライブ、16メガバイトのRAM、カラーモニタを装備し、ウォーターズ提供のソフト「ミレニアム」をロードした。
【0108】
200nmから300nmの範囲のスペクトル・データを分解能1.2nmで収集した。第1図、第2図、第3図、第4図は280nmで収集した。このクロマトグラフィ作業の移動相は緩衝液Aと緩衝液Bであった。緩衝液Aの組成は25mMリン酸カリウム、50mMアルギニン、125mM NaClで、水酸化カリウムでpH7の緩衝液とした。緩衝液Bの組成は50mMリン酸カリウム、150mM NaClで、リン酸でpH3の緩衝液とした。どの場合でも、100%の緩衝液A中に試料を注入した後、t=0からt=2分まで100%の緩衝液Aで洗浄した。t=2からt=8分までは100%の緩衝液Bで溶出した。t=8分以降は100%の緩衝液Aで溶出した。このHPLCシステムの勾配遅延体積はおよそ4mL、流速は毎分0.5mLであった。
【0109】
別の販売元から入手したtPAを製品仕様書に従って1mg/mL溶液とした。凝集標準液(Sigma Diagnostics社の凝集対照レベル1、カタログNo.C-7916)、凍結乾燥ヒト・プラズマを使用説明書に従って再構成した。この溶液を10:1で希釈して吸光度がtPA溶液のおおよそ10倍の溶液を得た。
【0110】
第1図に示した試験では、純tPAの試料(1mg/mLのtPAを25μL)をNo.109CMTI誘導体含有カラムにかけ、上記のように溶出した。クロマトグラムは15分後の約90%tPA物質の切れのよい溶出を示した。第2図に示した試験では、凝集標準液の試料(10倍希釈)を上記の溶出条件でNo.109CMTI誘導体含有カラムにかけた。ほぼ全ての物質がカラムから速やかに溶出した(保持されなかった)。第3図および第4図に示した試験では、ヒト血漿標準液に添加したtPAをカラムに負荷し、上記のように溶出を行った。第3図および第4図から分かるようにtPAは保持され、血漿タンパク質は空隙(ボイド)体積で溶出した。結合したtPAは約15.4分に放出された。tPAは約pH4で放出されたと推定された。tPAのピークを集め、銀染色、還元SDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて試験を行い、出発材料と比較したとき純度>95%であることが分かった。
【0111】
実施例17
tPAに同様に結合するドメインの候補をさらに設計するため、CMTIライブラリから分離したtPAアフィニティ・リガンドをさらに試験した。
上で言及したように、CMTIライブラリの構築に使用したアミノ酸のほとんど全ての変化はCMTI−Iの3および10の位置にある2個のシステインの間に生じた(表3参照)。親CMTIタンパク質では、これらのシステインはそのタンパク質の他の場所にある他のシステイン残基とジスルフィド結合を形成するが(SEQ ID NO:1参照)。しかしCMTIライブラリからアフィニティ・リガンドを分離することに成功すると、分離物No.109の端を切り取った15アミノ酸断片(SEQ ID NO:12のアミノ酸1〜15参照)に基づく第二のライブラリを概念化した。これらの構成要員のC3システインおよびC10システインがジスルフィド結合を形成した場合、tPA結合特性を有する束縛ループが得られる可能性がある。クロマトグラフィ用担体に結合したアフィニティ・リガンド分離物No.109由来の15アミノ酸断片についての初期の研究から、C3−C10ループが形成され、固定化ループがtPAと結合したことが示された。
【0112】
上記の実験は、本発明による2つの新しい分離されたtPAアフィニティ・リガンドファミリーを示し、このファミリーは次の配列を含むポリペプチドを含む。
Arg−X1−Cys−X2−X3−X4−X5−X6−X7−Cys−X8−Lys−Asp−Ser−Asp−Cys−Leu−Ala−Glu−Cys−Val−Cys−Leu−Glu−His−Gly−Tyr−Cys−Gly (SEQ ID NO:42)および
Arg−X1−Cys−X2−X3−X4−X5−X6−X7−Cys−X8 (SEQ ID NO:43)
ここで、X1はTrpまたはLeu、X2はPro、Ser、ThrまたはIle、X3はArg、LysまたはThr、X4はSer、Tyr、ThrまたはAla、X5はSer、Tyr、Asp、Val、Pro、Ala、His、AsnまたはThr、X6はLeu、Met、Gln、ArgまたはLys、X7はGlu、GlyまたはArg、X8は少なくともLysまたはMetである。配列中の位置11のMetの存在は予定外であったがtPAへの結合に好適であることが分かり、位置11を他のアミノ酸、例えばAla、Val、Leu、Ile、Phe、Pro、Trpなどの他の非極性アミノ酸で置換するとさらにtPA結合類似体を提供する可能性が高い。
【0113】
実施例18
この実施例は標的ヒト化単クローン抗体の清澄化ヤギ乳汁からの分離に有用なアフィニティ・リガンドの分離を説明する。
IgGアイソタイプで特異性未知の標的精製ヒト化単クローン抗体が生産者から供給され、50μLPBS中に500μgずつ分けて−70℃で保存した。ポリクローン・ヤギIgGはCappelから購入した。
PBSで100μLにした種々の量(即ち1μg、500μg、200μg、100μg、50μgおよび0μg)のヒト化単クローン抗体(hMAb)を各々Immulon2プレートの3ウェルに加え、4℃で終夜インキュベーションを行った。このウェルを0.1%非イオン性洗浄剤(Tween20)を含むPBS200μLで3回洗浄した後、1ウェルにつき1%BSAを含むPBS100μLで4℃、1時間ブロックした。ヤギ抗ヒトIgG−HRP(CalBiochem)を用いてプレートを試験し、OPD基質溶液(SigmaFastNo.9187、Sigma Chemical社)で発色させ、4M H2SO4で反応を止めて、Bio-Tekマイクロタイタ・プレート・リーダーでA490読み取りを行った。
【0114】
スクリーニングのため、競合結合剤としてポリクローン・ヤギIgGを使用した。このスクリーニングを3個のファージ提示ライブラリ、即ちCMTI、TN−6/I、TN−10/Vを用いて行った。CMTIの構造は上に示した(表7)。TN−6/IおよびTN−10/Vのペプチド構造は下に示した(それぞれ表10および表11)。以下の表に多様化された、ファージ提示ポリペプチド・ドメインがコードするアミノ酸を示す。ポリペプチドをコードするDNAをCMTIライブラリに関して上に記載したのと同様にしてM13遺伝子iiiに挿入した。
【表13】
このライブラリ設計により8.55×106個のタンパク質配列と17×106個のDNA配列が与えられる。
【表14】
このライブラリ設計により8.2×108個のタンパク質配列と1.1×109個のDNA配列が与えられる。
【0115】
4回のスクリーニングを完了した。結合スクリーニングはpHを中性とし、競合結合剤として結合溶液中におよそ1%多クローン・ヤギIgGを含む80mM NaClを入れて行った。溶出はpHを変えることによって行った。
全ての回で共通の結合条件は、1/2倍PBS(1/2濃度のPBS)、0.1%BSA、1%ヤギIgG中での室温(RT)で2時間のインキュベーションであった。各回の洗浄条件と溶出条件を表12にまとめた。
【表15】
【0116】
各回後に、溶出されたファージ数を計測した後、形質導入によって増幅した。pH2の溶出液とpH5の溶出液は、2回目後に別々に増幅し、その後のスクリーニングの間も分けておいたので、pH2の溶出液ではpH5では放出しない候補が選別された。下の表13は、pH2でのTN−6/I、pH2でのTN−10/V、pH2でのCMTI、pH5でのCMTIでは、4回にわたるスクリーニングで収束することを示す。
【表16】
【0117】
4回の収束スクリーニングの各回から、およそ12個のファージ分離物が予備配列決定用に選別された。TN−10/V以外の全ての分離物で選別物間の有意な相同性が見られた。例えば、配列決定用に選別した12個のCMTI pH5分離物は最終的に3個のDNA配列と2個のアミノ酸配列になってしまった。で配列決定した選別物から16個の候補を選び、相対結合親和性、特異性、pH2での放出試験で標的hMAbに対するファージ−結合タンパク質のpH放出特性を決定した。この試験の構成は、標的hMAb、多クローン・ヤギIgG、BSAのマイクロタイタ・プレートへの固定化後、5 Prime→3 Prime社(米国コロラド州ボールダー)のビオチニル化ヒツジ抗M13抗体ELISAキットを用いてファージの相対結合度を測定する操作を含む。
試験したファージ分離物の名称は
・TN−6/I、pH2放出から:T41、T42、T48、T49、T52
・TN−10/V、pH2放出から:T61、T64、T66、T70、T72、T74、T75
・CMTI、pH5放出から:C21、C22、C23
・CMTI、pH2放出から:C3
であった。
【0118】
個々の分離ファージは固定化hMAb、ヤギIgG、BSAへの結合について試験した。あわせて親ファージ対照のhMAb、ヤギIgG、BSA、抗M13抗体への結合も試験した。hMAb、ヤギIgG、BSAへの結合は、1/2倍PBS、0.1%BSA溶液中に0.5%ヤギIgGが存在する状態で、pH7およびpH2の−2通りのpH条件下で行った。ストレプトアビジン複合アルカリホスファターゼを使用してビオチニル化検出抗M13抗体を視覚化した。マイクロタイタ・プレートは、Bio-Tekマイクロタイタ・プレート・リーダーにより405nmで読み取りを行った。その結果を第5図、第6図、第7図に示す。これらのファージのうち「CMTI」、[MAEX]、「MKTN」は「親」結合ドメイン候補を提示する対照ファージである。即ちCMTI対照は野生CMTI−I配列(SEQ ID NO:1)を持ち、MAEXはTN−6/Iライブラリから無作為に選ばれた非結合性メンバーで、MKTNはTN−10/Vライブラリから無作為に選ばれた非結合性メンバーである。可能アフィニティ・リガンドの同定は、(1)標的hMAbに対して対照ファージより有意に高い結合親和性を持つこと、(2)溶出条件(pH2)よりも結合条件(pH7)下で標的に対して有意に高い結合親和性を持つこと、(3)ヤギIgGへの結合がほとんどないか、全くないことを指標に行った。
【0119】
ELISAの結果から、C3,C21、C22、C23(C22と同じアミノ酸配列)、T42、T49、T52の7個の(6個の結合ポリペプチドをコードする)DNA分離物がアフィニティ・リガンドとして使用するのに適していた。CMTI−I pH5分離物およびTN−6/I pH2分離物における多様性の低下を下の表14、表15に示す。
【表17】
【表18】
【0120】
CMTI類似体中のいろいろななアミノ酸位置5、6、7、9およびTN−6/I類似体中のいろいろなアミノ酸位置4、6、7、9、10でのアミノ酸タイプが単一であることから、これらのライブラリ由来のコンセンサス・ペプチドの収束が強力であることが示される。これらの類似体運搬ファージを増幅し、コードされる挿入DNAを分離、配列決定すると、hMAb精製用の特異的アフィニティ・リガンド候補が明らかになる。
【0121】
実施例19
この実施例は、天然ウロキナーゼの分離に有用なアフィニティ・リガンドの分離を説明する。
分子量が大きい人尿由来のウロキナーゼをMarklandら(1996年)記載の方法で4℃でReactiGelTMアガロース・ビーズ(Pierce Chemical社)に固定した。
【0122】
スクリーニングは、CMTI、TN−6/I、TN−10/VIIIa、LACI/Fの4個のファージ提示ライブラリを用いて行った。CMTIの構築は 前に(表7)示した。TN−6/Iの構築は前に示した(表10)。TN−10/VIIIaおよびLACI/Fのペプチド構築は下に示す(それぞれ表16および表17)。下表に、多様化ファージ提示ポリペプチド・ドメインがコードするアミノ酸を示す。CMTIライブラリに関して上に記載したように(実施例16、表7)、このポリペプチドをコードするDNAを遺伝子IIIに挿入した。
【表19】
このライブラリ設計により2.3×107個のタンパク質配列と1.3×108個のDNA配列が与えられる。
【表20】
【表21】
このライブラリ設計により3.12×104個のタンパク質配列が与えられる。
【0123】
スクリーニングの前に、固定化ウロキナーゼ・アガロース・ビーズをそれぞれ親結合ドメイン・ポリペプチドを提示する純粋クローンファージ調製物で試験して、スクリーニング条件下では回収されるファージは低いバックグラウンド・レベルにあることを確認した。親ポリペプチドの各々について、回収されたファージの投入ファージに対する割合は1×10−5以下であり、十分に低いバックグラウンド・レベルの結合であった。
【0124】
スクリーニングは4回行った。各回の構成は、結合段階、洗浄処理、1段階以上の溶出段階であった。全回共通の結合条件は、PBS、0.1%BSA、0.01%Tween80中での4℃、20時間のインキュベーションであった。各回の洗浄条件および溶出条件を表18にまとめた。
【表22】
【0125】
各回後に、溶出されたファージ数を計測した後、形質導入によって増幅した。
pH2の溶出液とpH5の溶出液は、2回目後に別々に増幅し、その後のスクリーニングの間も分けておいたので、pH2の溶出液ではpH5では放出しない候補が選別された。下の表18は、各ライブラリが4回にわたるスクリーニングで収束することを示す。
【表23】
【0126】
収束性スクリーニングは回数を重ねると投入分に対する割合が大きくなるスクリーニングであり、これはファージ・ライブラリの多様性が小さくなっていることを示している。これは固定化標的分子に対するリガンド候補が集団から選別されているかもしれないことを示すので、望ましい結果である。上表は、全てのライブラリで2回目と4回目との間にいくらか収束があることを示している。もっともはっきりした結果はTN−6/I(pH2)およびCMTI(pH5)の場合である。
【0127】
4回の収束スクリーニングの各回から、およそ12個のファージ分離物を配列決定用に選んだ。配列決定を行った全ての分離物において相互の相同性がいくらか見られた。最大の相同性はTN−6/Iの配列間およびCMTIの配列間に見られ、スクリーニング中、これらのライブラリの濃縮がもっとも大きかったという知見と一致している。例えば、TN−6/I分離物のうち9個が同一のDNAおよびアミノ酸配列を有することが分かった。
【0128】
候補を選んで、相対結合親和性、特異性、pH2での放出試験によるファージ−結合タンパク質のpH放出特性の特性決定を行った。この試験の構成には、ウロキナーゼおよびBSAのImmulon 2マイクロタイタ・プレートへの固定化と、5 Prime→3 Prime社(米国コロラド州ボールダー)のビオチニル化ヒツジ抗M13抗体ELISAキットを用いたファージの相対結合度を測定する操作が含まれる。
試験したファージ分離物の名称は
・TN−6/I、pH2放出から:TU33、TU34、TU36、TU37、TU39、TU42
・TN−10/VIIIa、pH2放出から:TU50、TU51、TU53、TU54、TU55、TU56、TU57、TU58、TU60、TU62、TU63
・CMTI、pH5放出から:CU22、CU25、CU27、CU28、CU29、CU31、CU32
・LACI/F、pH2放出から:LU2、LU4、LU5,LU9、LU10、LU12
であった。
【0129】
個々の分離ファージの固定化ウロキナーゼまたはBSAへの結合を試験した。ウロキナーゼはtPAに対する配列の相同性が高いので、tPA結合についても候補を試験した。その結果を第8図、第9図、第10図、第11図に示す。可能アフィニティ・リガンドは、(1)標的ウロキナーゼに対して対照ファージより有意に高い結合親和性を持つこと、(2)溶出条件(pH2)よりも結合条件(pH7)下で標的に対して有意に高い結合親和性を持つこと、(3)BSAへの結合がほとんどないか、全くないことを指標として同定された。
【0130】
ELISAの結果から、TU33,TU36、TU39、TU42、TU53、TU56、TU58の7個のDNA分離物(4個はTN−6/Iから、3個はTN−10/VIIIaから)がアフィニティ・リガンドとして使用するのに適していた。7個の分離物全てがpH7でウロキナーゼに対する高い親和性を示し、pH2で低い親和性を示した。CMTIライブラリとLACI/Fライブラリのどちらからもウロキナーゼに対する親和性が親提示ファージよりも高いリガンド候補は発見されなかった。CMTI−I pH5分離物間およびTN−6/I pH2分離物間の多様性の低下を下の表21、表22に示す。
【表24】
【表25】
【0131】
TN−6/I類似体中の様々なアミノ酸位置7、8、11でのアミノ酸タイプが単一であること、およびTN−10/VIIIa類似体中の様々なアミノ酸位置7、9、11、14でのアミノ酸の多様性の急激な低下から、これらのライブラリ由来のコンセンサス・ペプチドの収束が強力であることが示される。これらの類似体を担うファージを増幅し、コードされる挿入DNAを分離、配列決定すると、ウロキナーゼ精製用の特異的アフィニティ・リガンド候補が明らかになる。
【0132】
上記の記載に従うと、あらゆる供給流から標的を分離するために重要な特性を、設計されたライブラリの結合ドメインに組み込むことが可能であり、そのため、本発明の方法によると所望の結合条件と放出条件下で標的を分離するのに有用な数個のアフィニティ・リガンド候補が必ず得られる。標的製品の失活や破壊なしに、高い純度で、近縁の不純物までも除去して、容認できるコストで、材料を再使用、再生利用して、標的の高い収率を達成するという全てが本発明によると可能である。本発明のさらなる実施形態および特定の標的にあわせた別法は以上の記載を研究すれば明らかとなろう。かような実施形態及び別法はすべて以下の請求の範囲によって定義した本発明の範囲内であるとする。
【0133】
[参考文献]
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Biotechnology, 13(10): 426-430(1995年)
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Inhibitors Using Bacteriophage Display」, Methods in Enzymology,
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Kunitz-type protease inhibitor domain of protease Nexin-2/amyloid β-
protein precursor」, Biochem. Biphys. Res. Comm., 186: 1138-1145(1992年)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子を含む溶液から標的分子を分離するのに適したアフィニティ・リガンドを分離する方法であって、
(a)標的分子に関して、アフィニティ・リガンドが標的分子と結合することが望まれる第一の溶液条件(即ち結合条件)を選択すること、
(b)標的分子に関して、標的分子とアフィニティ・リガンドとのアフィニティ複合体が解離する、第一の溶液条件と異なる第二の溶液条件(即ち結合条件)を選択すること、
(c)結合ドメイン候補とはドメイン中の1又はそれ以上のアミノ酸が異なっている、結合ドメイン候補の類似体のライブラリを供給すること、
(d)類似体ライブラリを第一の溶液条件で標的分子を含む溶液と類似体/標的結合複合体を形成するのに十分な時間接触させること、
(e)第一の溶液条件下で結合しなかった類似体を除去すること、
(f)接触段階(d)の溶液条件を第二の溶液条件に変更すること、
(g)第二の溶液条件下で放出される結合類似体を回収すること、ここで回収された類似体は分離アフィニティ・リガンドと同定される、
を含む方法。
【請求項2】
方法の予備段階として、標的分子を含む溶液中での標的分子の安定性の範囲を温度、pH、イオン強度、誘電率、溶質濃度、金属イオンの有無、キレート剤の有無から選択した複数のパラメータに関して確かめることによって標的分子の安定性エンベロープを画定し、第一の溶液条件および第二の溶液条件が安定性エンベロープの範囲内であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項3】
安定性エンベロープがpHの範囲、塩濃度の範囲、および尿素またはEDTAの濃度範囲によって画定されることを特徴とする請求の範囲第2項に記載の方法。
【請求項4】
段階(c)で提供されるライブラリが、第一の溶液条件下で結合ドメイン類似体と標的分子との間の水素結合の形成を促進するよう結合ドメイン候補のなかのアミノ酸位置で置換をおこすことによって設計され、この置換アミノ酸がD、E、H、K、N、Q、R、S、TおよびYからなるグループから選択されることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項5】
段階(c)で提供されるライブラリが、第一の溶液条件と第二の溶液条件との間のpH変化に対する標的と類似体との結合の感受性を増すよう結合ドメイン候補内のアミノ酸位置でアミノ酸を置換することによって設計され、変化させたアミノ酸位置のいずれかにおけるこの置換アミノ酸にはH、E、D、YおよびKが含まれることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項6】
段階(c)でライブラリが、第一の溶液条件での類似体の標的分子への結合親和性を促進し、または第二の溶液条件での結合親和性の低下を促進するよう、ある位置に挿入されたアミノ酸を含む点で結合ドメイン候補と異なる類似体を含むことを特徴とする請求項の範囲第1項に記載の方法。
【請求項7】
結合ドメイン候補の類似体をその標的への親和性がpHの変化、塩濃度、尿素の濃度またはEDTAの濃度に基づいて変わるように調製し、I、M、T、N、K、S、R、V、A、D、E、G、Y、H、Qからなるグループから選択するアミノ酸にドメイン内の1個以上のアミノ酸位置で置換することによって類似体のライブラリを結合ドメイン候補とは異なる類似体を含むように作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項8】
一組のアミノ酸をコードする多様化DNAコドンを用いることによって類似体のライブラリを作成し、多様化DNAコドンを
アミノ酸の組I、M、T、N、K、S、R、V、A、D、E、Gを許容するRNS、
アミノ酸の組Y、H、N、Dを許容するNAT、
アミノ酸の組Y、H、Q、N、K、D、Eを許容するNAS、
アミノ酸の組Y、C、H、R、N、S、D、Gを許容するNRTおよび
アミノ酸の組N、K、S、R、D、E、Gを許容するRRS
から選択することを特徴とする請求の範囲第7項に記載の方法。
【請求項9】
標的分子がpHの範囲、温度範囲および塩濃度の範囲によって画定される安定性エンベロープ内で安定であり、
Y、H、Q、N、K、D、E
H、Q、N、K、D、Eおよび
H、Q、N、K、D、E、R、S、Y、T
のグループから選択されるアミノ酸で、ドメイン内の1個以上のアミノ酸位置を置き換えることによって類似体のライブラリを結合ドメイン候補とは異なる類似体を含むように作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項10】
標的分子が有機溶媒中での溶解度、温度範囲および塩濃度の範囲によって画定される安定性エンベロープ内で安定であり、第一の溶液条件下での結合ドメイン候補類似体と標的分子との疎水相互作用を促進するように選択するアミノ酸で、ドメイン内の1個以上のアミノ酸位置を置き換えることによって類似体のライブラリを結合ドメイン候補と異なる類似体を含むように作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項11】
置換にH、C、F、G、I、L、M、P、V、WおよびYからなるグループから選択する1個以上のアミノ酸を使用することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の方法。
【請求項12】
一組のアミノ酸をコードする多様化DNAコドンを使用することによって類似体のライブラリを作成し、多様化DNAコドンを
アミノ酸の組S、P、T、A、F、L、I、Vを許容するNYT、
アミノ酸の組F、L、I、Vを許容するNTTおよび
アミノ酸の組F、L、S、Y、C、Wを許容するTNS
から選択することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の方法。
【請求項13】
標的分子が温度範囲によって部分的に画定される定性エンベロープ内で安定であり、Ala、Leu、Phe、Tyr、Trp、Ile、Ala、Gly、Pro、MetおよびThrからなるグループから選択されるアミノ酸でドメイン内の1個以上のアミノ酸位置が置換されることにより結合ドメイン候補と異なる類似体を含むように類似体ライブラリを作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項14】
標的分子が
1)pH2〜pH11の範囲、
2)1mM〜250mM NaClの範囲および
3)4℃〜40℃の範囲
の条件下で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項15】
第一の溶液条件がpH7、150mM NaClおよび22℃であり、第二の溶液条件がpH5、150mM NaClおよび22℃であることを特徴とする請求の範囲第14項に記載の方法。
【請求項16】
標的分子が
1)pH6.2〜pH7.8の範囲、
2)100mM〜5M NaClの範囲および
3)4℃〜40℃の範囲
の条件下で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項17】
第一の溶液条件がpH7.2、3M NaClおよび22℃であり、第二の溶液条件がpH7.2、2M NaClおよび22℃であることを特徴とする請求の範囲第16項に記載の方法。
【請求項18】
標的分子が
1)pH6.2〜pH7.8の範囲、
2)1nM〜1M NaClの範囲、
3)1nM〜1M K2HPO4の範囲、
2)0〜60体積%のアセトニトリルの範囲および
3)0℃〜40℃の範囲
の条件下で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項19】
第一の溶液条件がpH7.2、100mM NaCl、100mM K2HPO4および37℃であり、第二の溶液条件がpH7.2、5nM NaCl、37℃および50体積%のアセトニトリルであることを特徴とする請求の範囲第18項に記載の方法。
【請求項20】
標的分子が最高50体積%までの有機溶媒が存在する状態で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項21】
有機溶媒をエタノール、メタノールおよびイソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、エチルアセトン、アセトニトリルおよびCH2Cl2からなるグループから選択することを特徴とする請求の範囲第20項に記載の方法。
【請求項22】
第一の溶液条件および第二の溶液条件がアセトニトリル、エタノール、アセトン、ヘキサン、メタン、イソプロピルアルコール、エチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、ジクロロメタン、クロロホルム、水およびこのような溶媒の混合物からなるグループから選択される溶媒を要求し、第一の溶液条件での溶媒の濃度が第二の溶液条件での濃度と少なくとも10体積%異なることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項23】
第一の溶液条件および第二の溶液条件がアセトニトリル、エタノール、アセトン、ヘキサン、メタン、イソプロピルアルコール、エチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、ジクロロメタン、クロロホルム、水およびこのような溶媒の混合物からなるグループから選択される溶媒を要求し、第一条件での溶液の誘電率と第二条件での溶液の誘電率とが少なくとも10%異なることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項24】
第一の溶液条件および第二の溶液条件がアセトニトリル、エタノール、アセトン、ヘキサン、メタン、イソプロピルアルコール、エチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、ジクロロメタン、クロロホルム、水およびこのような溶媒の混合物からなるグループから選択される溶媒を要求し、第一の条件での溶媒の濃度が第二の条件での濃度と表面張力を少なくとも10%変えるのに十分なだけ異なることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項25】
段階(j)で同定される1個またはそれ以上のアフィニティ・リガンドを結合ドメイン候補として使用し、段階(c)から段階(g)までを反復することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項26】
各類似体をコードする合成DNAを複製可能な遺伝子パッケージ中に挿入することによって類似体のライブラリを調製する結果、発現に際して類似体結合ドメインを遺伝子パッケージの表面に提示することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項27】
複製可能な遺伝子パッケージがバクテリオファージであることを特徴とする請求の範囲第26項に記載の方法。
【請求項28】
バクテリオファージがM13であり合成DNAを遺伝子iiiに挿入することを特徴とする請求の範囲第27項に記載の方法。
【請求項29】
接触段階(c)の前に標的を固定することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項30】
第一の溶液条件下で高い特異性で標的分子と結合し、第二の溶液条件下で標的分子を放出する設計されたアフィニティ・リガンドをコードするDNAを得る方法であって、
(a)請求の範囲第25項に記載の方法によって複製可能な遺伝子パッケージ表面に発現した1個以上のアフィニティ・リガンドを得ることと、
(b)遺伝子パッケージを増殖させることと、
(c)増幅した遺伝子パッケージから合成DNAを分離することと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
(a)請求の範囲第30項に記載の方法によって遺伝子発現システム中に分離した合成DNAを発現して設計されたアフィニティ・リガンドを作成することと、
(b)設計したアフィニティ・リガンドを回収すること、
とを含むことを特徴とする、ほぼ純粋な設計されたアフィニティ・リガンドを得る方法。
【請求項32】
(a)請求の範囲第1項に記載の方法によって得られた設計されたアフィニティ・リガンドを固定化することと、
(b)標的分子のアフィニティ・リガンドへの結合が可能になる条件下で溶液を固定化アフィニティ・リガンドに接触させることと、
(c)結合した標的分子を溶出すること
とを含むことを特徴とする、標的分子を含む溶液から標的分子を精製する方法。
【請求項33】
段階(c)で、第二の溶液条件を用いて標的分子を溶出することを特徴とする請求の範囲第32項に記載の方法。
【請求項34】
段階(b)で、第一の溶液条件を用いて標的分子と接触させることを特徴とする請求の範囲第32項に記載の方法。
【請求項35】
所望の結合特性および放出特性を結合ドメイン候補と類似した構造を有するポリペプチド・アフィニティ・リガンドに持たせて、標的分子を含む溶液から標的分子を分離するのに有用な設計したアフィニティ・リガンドを作成する方法であって、方法が
(a)標的分子に関して、設計したアフィニティ・リガンドが標的分子と結合することが望まれる第一溶液条件を選択することと、
(b)標的分子に関して、設計したアフィニティ・リガンドが標的分子と結合しないことが望まれる、第一の溶液条件とは異なる第二の溶液条件を選択することと、
(c)ドメイン内の1個以上のアミノ酸位置で結合ドメイン候補のアミノ酸配列を変化させることによって各類似体が結合ドメイン候補と異なる、結合ドメイン候補由来の多様なポリペプチド類似体を提供することと、
(d)多様な類似体を第一の溶液条件で類似体/標的結合複合体が形成されるのに十分な時間標的分子を含む溶液と接触させることと、
(e)第一の溶液条件下で標的と結合しない類似体を除去することと、
(f)接触段階(d)の条件を第二の溶液条件に変更することと、
(g)第二の溶液条件下で放出された類似体を回収することであって、ここで回収された類似体が設計されたアフィニティ・リガンドを同定すること
とを含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
多様な類似体が少なくとも106個の類似体に達することを特徴とする請求の範囲第35項に記載の方法。
【請求項37】
多様な類似体が、各類似体をコードする合成DNAを複製可能な遺伝子パッケージに挿入し、その結果発現に際して類似体結合ドメインが遺伝子パッケージの表面に提示されることにより調製されることを特徴とする請求の範囲第35項に記載の方法。
【請求項38】
複製可能な遺伝子パッケージがバクテリオファージであることを特徴とする請求の範囲第37項に記載の方法。
【請求項39】
バクテリオファージがM13であり合成DNAを遺伝子iiiに挿入することを特徴とする請求の範囲第38項に記載の方法。
【請求項40】
接触段階(d)の前に標的を固定化することを特徴とする請求の範囲第35項に記載の方法。
【請求項41】
第一の溶液条件で標的分子と結合する親和性を有し、第二の溶液条件では標的分子と結合する親和性が実質的に低下する、合成の設計されたアフィニティ・リガンドであって、該アフィニティ・リガンドが
既知の結合ドメイン候補に類似したアミノ酸配列を有する設計されたポリプペチド結合ドメインを含み、
設計されたポリプペチド結合ドメインのアミノ酸配列は結合ドメイン候補のアミノ酸配列とが、結合ドメイン候補の1個以上のアミノ酸位置のアミノ酸が、設計されたポリプペチド結合ドメインに第二の溶液条件では結合親和性が低下するような特性を付与するアミノ酸に置換されている点で異なる
ことを特徴とする設計したアフィニティ・リガンド。
【請求項42】
立体配座の束縛をうけていることを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンドであって、該立体配座の束縛は、結合ドメインのアミノ酸をペプチド結合以外の科学結合によって結合することによって与えられ、少なくとも40℃の融点を有する構造中で十分に安定であることを特徴とするアフィニティ・リガンド。
【請求項43】
請求の範囲第41項に記載の設計したアフィニティ・リガンドであって、置換アミノ酸を特定の性質を付与する下記アミノ酸のグループから選択することを特徴とするアフィニティ・リガンド。
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、I、M、T、N、K、S、R、V、A、D、EおよびG;
アフィニティ・リガンドをpHの変化に対して応答性にする、Y、H、NおよびD;
アフィニティ・リガンドをpHの変化に対して応答性にするY、H、Q、N、K、DおよびE;
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、Y、C、R、N、S、DおよびG;
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、N、K、S、R、D、EおよびG;
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、S、P、T、A、F、L、IおよびV;
アフィニティ・リガンドを有機溶媒または塩の濃度変化に対して応答性にする、F、L、IおよびV;
アフィニティ・リガンドを有機溶媒または塩の濃度変化に対して応答性にする、F、L、S、Y、C、およびW。
【請求項44】
予め選択したpHで標的分子と結合し、別の予め選択したpHで標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項45】
予め選択した塩濃度で標的分子と結合し、別の予め選択した塩濃度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項46】
予め選択した尿素の濃度で標的分子と結合し、別の予め選択した尿素の濃度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項47】
予め選択したEDTAの濃度で標的分子と結合し、別の予め選択したEDTAの濃度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項48】
予め選択した体積百分率の有機溶媒溶液で標的分子と結合し、別の予め選択した体積百分率の有機溶媒溶液で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項49】
予め選択した温度で標的分子と結合し、別の予め選択した温度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項1】
標的分子を含む溶液から標的分子を分離するのに適したアフィニティ・リガンドを分離する方法であって、
(a)標的分子に関して、アフィニティ・リガンドが標的分子と結合することが望まれる第一の溶液条件(即ち結合条件)を選択すること、
(b)標的分子に関して、標的分子とアフィニティ・リガンドとのアフィニティ複合体が解離する、第一の溶液条件と異なる第二の溶液条件(即ち結合条件)を選択すること、
(c)結合ドメイン候補とはドメイン中の1又はそれ以上のアミノ酸が異なっている、結合ドメイン候補の類似体のライブラリを供給すること、
(d)類似体ライブラリを第一の溶液条件で標的分子を含む溶液と類似体/標的結合複合体を形成するのに十分な時間接触させること、
(e)第一の溶液条件下で結合しなかった類似体を除去すること、
(f)接触段階(d)の溶液条件を第二の溶液条件に変更すること、
(g)第二の溶液条件下で放出される結合類似体を回収すること、ここで回収された類似体は分離アフィニティ・リガンドと同定される、
を含む方法。
【請求項2】
方法の予備段階として、標的分子を含む溶液中での標的分子の安定性の範囲を温度、pH、イオン強度、誘電率、溶質濃度、金属イオンの有無、キレート剤の有無から選択した複数のパラメータに関して確かめることによって標的分子の安定性エンベロープを画定し、第一の溶液条件および第二の溶液条件が安定性エンベロープの範囲内であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項3】
安定性エンベロープがpHの範囲、塩濃度の範囲、および尿素またはEDTAの濃度範囲によって画定されることを特徴とする請求の範囲第2項に記載の方法。
【請求項4】
段階(c)で提供されるライブラリが、第一の溶液条件下で結合ドメイン類似体と標的分子との間の水素結合の形成を促進するよう結合ドメイン候補のなかのアミノ酸位置で置換をおこすことによって設計され、この置換アミノ酸がD、E、H、K、N、Q、R、S、TおよびYからなるグループから選択されることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項5】
段階(c)で提供されるライブラリが、第一の溶液条件と第二の溶液条件との間のpH変化に対する標的と類似体との結合の感受性を増すよう結合ドメイン候補内のアミノ酸位置でアミノ酸を置換することによって設計され、変化させたアミノ酸位置のいずれかにおけるこの置換アミノ酸にはH、E、D、YおよびKが含まれることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項6】
段階(c)でライブラリが、第一の溶液条件での類似体の標的分子への結合親和性を促進し、または第二の溶液条件での結合親和性の低下を促進するよう、ある位置に挿入されたアミノ酸を含む点で結合ドメイン候補と異なる類似体を含むことを特徴とする請求項の範囲第1項に記載の方法。
【請求項7】
結合ドメイン候補の類似体をその標的への親和性がpHの変化、塩濃度、尿素の濃度またはEDTAの濃度に基づいて変わるように調製し、I、M、T、N、K、S、R、V、A、D、E、G、Y、H、Qからなるグループから選択するアミノ酸にドメイン内の1個以上のアミノ酸位置で置換することによって類似体のライブラリを結合ドメイン候補とは異なる類似体を含むように作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項8】
一組のアミノ酸をコードする多様化DNAコドンを用いることによって類似体のライブラリを作成し、多様化DNAコドンを
アミノ酸の組I、M、T、N、K、S、R、V、A、D、E、Gを許容するRNS、
アミノ酸の組Y、H、N、Dを許容するNAT、
アミノ酸の組Y、H、Q、N、K、D、Eを許容するNAS、
アミノ酸の組Y、C、H、R、N、S、D、Gを許容するNRTおよび
アミノ酸の組N、K、S、R、D、E、Gを許容するRRS
から選択することを特徴とする請求の範囲第7項に記載の方法。
【請求項9】
標的分子がpHの範囲、温度範囲および塩濃度の範囲によって画定される安定性エンベロープ内で安定であり、
Y、H、Q、N、K、D、E
H、Q、N、K、D、Eおよび
H、Q、N、K、D、E、R、S、Y、T
のグループから選択されるアミノ酸で、ドメイン内の1個以上のアミノ酸位置を置き換えることによって類似体のライブラリを結合ドメイン候補とは異なる類似体を含むように作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項10】
標的分子が有機溶媒中での溶解度、温度範囲および塩濃度の範囲によって画定される安定性エンベロープ内で安定であり、第一の溶液条件下での結合ドメイン候補類似体と標的分子との疎水相互作用を促進するように選択するアミノ酸で、ドメイン内の1個以上のアミノ酸位置を置き換えることによって類似体のライブラリを結合ドメイン候補と異なる類似体を含むように作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項11】
置換にH、C、F、G、I、L、M、P、V、WおよびYからなるグループから選択する1個以上のアミノ酸を使用することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の方法。
【請求項12】
一組のアミノ酸をコードする多様化DNAコドンを使用することによって類似体のライブラリを作成し、多様化DNAコドンを
アミノ酸の組S、P、T、A、F、L、I、Vを許容するNYT、
アミノ酸の組F、L、I、Vを許容するNTTおよび
アミノ酸の組F、L、S、Y、C、Wを許容するTNS
から選択することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の方法。
【請求項13】
標的分子が温度範囲によって部分的に画定される定性エンベロープ内で安定であり、Ala、Leu、Phe、Tyr、Trp、Ile、Ala、Gly、Pro、MetおよびThrからなるグループから選択されるアミノ酸でドメイン内の1個以上のアミノ酸位置が置換されることにより結合ドメイン候補と異なる類似体を含むように類似体ライブラリを作成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項14】
標的分子が
1)pH2〜pH11の範囲、
2)1mM〜250mM NaClの範囲および
3)4℃〜40℃の範囲
の条件下で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項15】
第一の溶液条件がpH7、150mM NaClおよび22℃であり、第二の溶液条件がpH5、150mM NaClおよび22℃であることを特徴とする請求の範囲第14項に記載の方法。
【請求項16】
標的分子が
1)pH6.2〜pH7.8の範囲、
2)100mM〜5M NaClの範囲および
3)4℃〜40℃の範囲
の条件下で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項17】
第一の溶液条件がpH7.2、3M NaClおよび22℃であり、第二の溶液条件がpH7.2、2M NaClおよび22℃であることを特徴とする請求の範囲第16項に記載の方法。
【請求項18】
標的分子が
1)pH6.2〜pH7.8の範囲、
2)1nM〜1M NaClの範囲、
3)1nM〜1M K2HPO4の範囲、
2)0〜60体積%のアセトニトリルの範囲および
3)0℃〜40℃の範囲
の条件下で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項19】
第一の溶液条件がpH7.2、100mM NaCl、100mM K2HPO4および37℃であり、第二の溶液条件がpH7.2、5nM NaCl、37℃および50体積%のアセトニトリルであることを特徴とする請求の範囲第18項に記載の方法。
【請求項20】
標的分子が最高50体積%までの有機溶媒が存在する状態で安定であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項21】
有機溶媒をエタノール、メタノールおよびイソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、エチルアセトン、アセトニトリルおよびCH2Cl2からなるグループから選択することを特徴とする請求の範囲第20項に記載の方法。
【請求項22】
第一の溶液条件および第二の溶液条件がアセトニトリル、エタノール、アセトン、ヘキサン、メタン、イソプロピルアルコール、エチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、ジクロロメタン、クロロホルム、水およびこのような溶媒の混合物からなるグループから選択される溶媒を要求し、第一の溶液条件での溶媒の濃度が第二の溶液条件での濃度と少なくとも10体積%異なることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項23】
第一の溶液条件および第二の溶液条件がアセトニトリル、エタノール、アセトン、ヘキサン、メタン、イソプロピルアルコール、エチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、ジクロロメタン、クロロホルム、水およびこのような溶媒の混合物からなるグループから選択される溶媒を要求し、第一条件での溶液の誘電率と第二条件での溶液の誘電率とが少なくとも10%異なることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項24】
第一の溶液条件および第二の溶液条件がアセトニトリル、エタノール、アセトン、ヘキサン、メタン、イソプロピルアルコール、エチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、ジクロロメタン、クロロホルム、水およびこのような溶媒の混合物からなるグループから選択される溶媒を要求し、第一の条件での溶媒の濃度が第二の条件での濃度と表面張力を少なくとも10%変えるのに十分なだけ異なることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項25】
段階(j)で同定される1個またはそれ以上のアフィニティ・リガンドを結合ドメイン候補として使用し、段階(c)から段階(g)までを反復することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項26】
各類似体をコードする合成DNAを複製可能な遺伝子パッケージ中に挿入することによって類似体のライブラリを調製する結果、発現に際して類似体結合ドメインを遺伝子パッケージの表面に提示することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項27】
複製可能な遺伝子パッケージがバクテリオファージであることを特徴とする請求の範囲第26項に記載の方法。
【請求項28】
バクテリオファージがM13であり合成DNAを遺伝子iiiに挿入することを特徴とする請求の範囲第27項に記載の方法。
【請求項29】
接触段階(c)の前に標的を固定することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項30】
第一の溶液条件下で高い特異性で標的分子と結合し、第二の溶液条件下で標的分子を放出する設計されたアフィニティ・リガンドをコードするDNAを得る方法であって、
(a)請求の範囲第25項に記載の方法によって複製可能な遺伝子パッケージ表面に発現した1個以上のアフィニティ・リガンドを得ることと、
(b)遺伝子パッケージを増殖させることと、
(c)増幅した遺伝子パッケージから合成DNAを分離することと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
(a)請求の範囲第30項に記載の方法によって遺伝子発現システム中に分離した合成DNAを発現して設計されたアフィニティ・リガンドを作成することと、
(b)設計したアフィニティ・リガンドを回収すること、
とを含むことを特徴とする、ほぼ純粋な設計されたアフィニティ・リガンドを得る方法。
【請求項32】
(a)請求の範囲第1項に記載の方法によって得られた設計されたアフィニティ・リガンドを固定化することと、
(b)標的分子のアフィニティ・リガンドへの結合が可能になる条件下で溶液を固定化アフィニティ・リガンドに接触させることと、
(c)結合した標的分子を溶出すること
とを含むことを特徴とする、標的分子を含む溶液から標的分子を精製する方法。
【請求項33】
段階(c)で、第二の溶液条件を用いて標的分子を溶出することを特徴とする請求の範囲第32項に記載の方法。
【請求項34】
段階(b)で、第一の溶液条件を用いて標的分子と接触させることを特徴とする請求の範囲第32項に記載の方法。
【請求項35】
所望の結合特性および放出特性を結合ドメイン候補と類似した構造を有するポリペプチド・アフィニティ・リガンドに持たせて、標的分子を含む溶液から標的分子を分離するのに有用な設計したアフィニティ・リガンドを作成する方法であって、方法が
(a)標的分子に関して、設計したアフィニティ・リガンドが標的分子と結合することが望まれる第一溶液条件を選択することと、
(b)標的分子に関して、設計したアフィニティ・リガンドが標的分子と結合しないことが望まれる、第一の溶液条件とは異なる第二の溶液条件を選択することと、
(c)ドメイン内の1個以上のアミノ酸位置で結合ドメイン候補のアミノ酸配列を変化させることによって各類似体が結合ドメイン候補と異なる、結合ドメイン候補由来の多様なポリペプチド類似体を提供することと、
(d)多様な類似体を第一の溶液条件で類似体/標的結合複合体が形成されるのに十分な時間標的分子を含む溶液と接触させることと、
(e)第一の溶液条件下で標的と結合しない類似体を除去することと、
(f)接触段階(d)の条件を第二の溶液条件に変更することと、
(g)第二の溶液条件下で放出された類似体を回収することであって、ここで回収された類似体が設計されたアフィニティ・リガンドを同定すること
とを含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
多様な類似体が少なくとも106個の類似体に達することを特徴とする請求の範囲第35項に記載の方法。
【請求項37】
多様な類似体が、各類似体をコードする合成DNAを複製可能な遺伝子パッケージに挿入し、その結果発現に際して類似体結合ドメインが遺伝子パッケージの表面に提示されることにより調製されることを特徴とする請求の範囲第35項に記載の方法。
【請求項38】
複製可能な遺伝子パッケージがバクテリオファージであることを特徴とする請求の範囲第37項に記載の方法。
【請求項39】
バクテリオファージがM13であり合成DNAを遺伝子iiiに挿入することを特徴とする請求の範囲第38項に記載の方法。
【請求項40】
接触段階(d)の前に標的を固定化することを特徴とする請求の範囲第35項に記載の方法。
【請求項41】
第一の溶液条件で標的分子と結合する親和性を有し、第二の溶液条件では標的分子と結合する親和性が実質的に低下する、合成の設計されたアフィニティ・リガンドであって、該アフィニティ・リガンドが
既知の結合ドメイン候補に類似したアミノ酸配列を有する設計されたポリプペチド結合ドメインを含み、
設計されたポリプペチド結合ドメインのアミノ酸配列は結合ドメイン候補のアミノ酸配列とが、結合ドメイン候補の1個以上のアミノ酸位置のアミノ酸が、設計されたポリプペチド結合ドメインに第二の溶液条件では結合親和性が低下するような特性を付与するアミノ酸に置換されている点で異なる
ことを特徴とする設計したアフィニティ・リガンド。
【請求項42】
立体配座の束縛をうけていることを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンドであって、該立体配座の束縛は、結合ドメインのアミノ酸をペプチド結合以外の科学結合によって結合することによって与えられ、少なくとも40℃の融点を有する構造中で十分に安定であることを特徴とするアフィニティ・リガンド。
【請求項43】
請求の範囲第41項に記載の設計したアフィニティ・リガンドであって、置換アミノ酸を特定の性質を付与する下記アミノ酸のグループから選択することを特徴とするアフィニティ・リガンド。
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、I、M、T、N、K、S、R、V、A、D、EおよびG;
アフィニティ・リガンドをpHの変化に対して応答性にする、Y、H、NおよびD;
アフィニティ・リガンドをpHの変化に対して応答性にするY、H、Q、N、K、DおよびE;
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、Y、C、R、N、S、DおよびG;
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、N、K、S、R、D、EおよびG;
アフィニティ・リガンドをpHの変化と有機溶媒および塩の存在に対して応答性にする、S、P、T、A、F、L、IおよびV;
アフィニティ・リガンドを有機溶媒または塩の濃度変化に対して応答性にする、F、L、IおよびV;
アフィニティ・リガンドを有機溶媒または塩の濃度変化に対して応答性にする、F、L、S、Y、C、およびW。
【請求項44】
予め選択したpHで標的分子と結合し、別の予め選択したpHで標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項45】
予め選択した塩濃度で標的分子と結合し、別の予め選択した塩濃度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項46】
予め選択した尿素の濃度で標的分子と結合し、別の予め選択した尿素の濃度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項47】
予め選択したEDTAの濃度で標的分子と結合し、別の予め選択したEDTAの濃度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項48】
予め選択した体積百分率の有機溶媒溶液で標的分子と結合し、別の予め選択した体積百分率の有機溶媒溶液で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【請求項49】
予め選択した温度で標的分子と結合し、別の予め選択した温度で標的分子を放出することを特徴とする請求の範囲第41項に記載の設計されたアフィニティ・リガンド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【公開番号】特開2009−213485(P2009−213485A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114692(P2009−114692)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【分割の表示】特願平9−533676の分割
【原出願日】平成9年3月20日(1997.3.20)
【出願人】(500214439)
【氏名又は名称原語表記】DYAX CORP.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【分割の表示】特願平9−533676の分割
【原出願日】平成9年3月20日(1997.3.20)
【出願人】(500214439)
【氏名又は名称原語表記】DYAX CORP.
【Fターム(参考)】
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