説明

差動信号伝送用ケーブル

【課題】スキューが低減され、特性インピーダンスがケーブル長手方向で変動せず、伝送損失が増加せず、安定に生産が可能な差動信号伝送用ケーブルを提供する。
【解決手段】平行に配置された2本の導線101、102がこれら2本の導線101、102の並び方向に対して直角な方向から2本の導線101、102を挟んで互いに対向する平坦部103を有する扁平な絶縁体104で一括被覆され、絶縁体104の外周に金属箔テープからなるシールド導体105が巻き付けられ、平坦部103の箇所でシールド導体105に接するようにドレイン線106が添えられ、ドレイン線106とシールド導体105がジャケット107により被覆された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10Gbps相当の高速デジタル信号を数mから数十mの距離間で伝送させる信号波形劣化の小さい差動信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
数Gbps以上の高速デジタル信号を扱うサーバ、ルータ及びストレージ関連機器において、機器間あるいは機器内の基板間の信号伝送には差動信号による伝送が用いられ、その伝送媒体として差動信号伝送用ケーブルが用いられている。
【0003】
差動信号伝送とは、対をなす2本の導線により、位相が180度反転している2つの信号をそれぞれ伝送し、受信端側で前記2信号の差分を取り出すものである。
【0004】
2つの導線に流れる電流は互いに逆方向を向いて流れるため伝送線路である差動信号伝送用ケーブルから放射される電磁波が小さく、また、外部から受けたノイズは2つの導線に等しく重畳するので受信端側で差分を取り出すことでノイズを相殺し、ノイズによる影響を除去することができる。これらの理由から、高速信号には差動信号伝送がよく使われている。
【0005】
代表的な差動信号伝送用のケーブルには、導線を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合せて対にしたツイストペアケーブルがある。
【0006】
ツイストペアケーブルは安価で平衡性に優れており、曲げも容易であるため、広く使われている。しかし、ツイストペアケーブルはグランドに相当する導体が無いため、近くに置かれた金属の影響を受け易く、特性インピーダンスが安定しない。ツイストペアケーブルは、数GHzの高周波領域では信号波形が崩れ易く、数Gbps以上の高速信号伝送に使用することは困難である。
【0007】
ツイストペアケーブルの外側にシールドを設けたシールド付きツイストペアケーブルはLANケーブルとしてすでに存在しており、シールドの効果により外来ノイズへの耐性は改善されている。しかし、ツイストペアケーブルは、2本の導体が対撚りされているため、信号の減衰が大きい。シールド付きツイストペアケーブルを用いるシステムでは、信号の減衰を補償するための信号処理にかかる電力が大きくなり(後述のツイナックスケーブルを用いた場合の6〜10倍程度)、消費電力が大きい。
【0008】
これに対し、2本の絶縁電線を撚らずに平行して並べ、これをシールド導体で覆ったツイナックスケーブルが広く用いられている。ツイナックスケーブルは、2本の絶縁電線が撚らずに平行に配置されているため、ツイストペアケーブルに比べ、2本の導線間の物理長の差が少ない。また、ツイナックスケーブルは、シールド導体が2本の絶縁電線を覆うように設けられているので、付近に金属を置いても特性インピーダンスが不安定になることがなく、ノイズ耐性が高い。
【0009】
ツイナックスケーブルは、数Gbps以上の高速信号伝送に用いられており、シールド導体として導体付きテープを用いたもの、編組線を用いたもの、シールド導体にドレイン線を付け合わせたものなどがある。
【0010】
図12に示されるように、従来のツイナックスケーブルは、信号用の導線1201、1204を絶縁体1202、1205で絶縁した2本の絶縁電線1203、1206に、ポリエチレンのテープにアルミニウム等を貼りつけた金属箔テープからなるシールド導体1207が巻き付けられている。シールド導体1207の接地がとれるよう、シールド導体1207と絶縁電線1203、1206との間にはドレイン線1208がシールド導体1207の導電面と接触するように縦添えされている。シールド導体1207の外側はジャケット1209で被覆され、ケーブル内部が保護されている。シールド導体1207は、シールド導体1207に接触しているドレイン線1208を介して図示しないプリント配線板に接続される。
【0011】
図13に示されるように、特許文献1のツイナックスケーブルは、図12のツイナックスケーブルと同様に、導線1301、1304を絶縁体1302、1305で絶縁した2本の絶縁電線1303、1306にシールド導体1307が巻き付けられ、シールド導体1307と絶縁電線1303、1306との間にはドレイン線1308がシールド導体1307の導電面と接触するように縦添えされ、シールド導体1307はジャケット(図示せず)で被覆されている。ただし、ドレイン線1308の位置ずれを低減するため非円形形状のドレイン線1308が用いられている。これは、絶縁電線1303、1306とドレイン線1308の間に働く応力が分散されることで、絶縁体1302、1305のつぶれが抑制されることを期待したものである。
【0012】
図14に示されるように、特許文献2のツイナックスケーブルは、導線1401、1404が絶縁体1402で覆われ、絶縁体1402にドレイン線1408が縦添えされ、その外周にシールド導体1407が巻き付けられ、シールド導体1407はジャケット1409で被覆されている。ここでは、ドレイン線1408の位置ずれを解決するため、断面が瓢箪のような形状となる絶縁体1402を押出成型し、ドレイン線1408の食い込みを少なくしている。
【0013】
また、図14のツイナックスケーブルは、導線1401、1404が共通の絶縁体1402で覆われている。図12のツイナックスケーブルでは2本の絶縁電線1203、1206において、導線1201、1204を覆う絶縁体1202、1205が存在するが、実際に2個の絶縁体1202、1205は同じタイミングではない製造工程でつくられる(例えば、ロットが異なる)ため、絶縁体1202、1205の誘電率は完全には等しくない。その点、図14のツイナックスケーブルは、2本の導線を覆う絶縁体1402は同じタイミングで製造されるので、誘電率が等しい値になる。
【0014】
図15に示されるように、特許文献3のツイナックスケーブルは、導線1501、1504を絶縁体1502、1505で絶縁した2本の絶縁電線1503、1506にシールド導体1507が巻き付けられ、シールド導体1507の外側にドレイン線1508がシールド導体1507の導電面と接触するように縦添えされ、その外側がジャケット1509で被覆されている。ドレイン線1508は、一方の絶縁電線1503側に配置される。プリント配線板への接続時には、ドレイン線1508と導線1501、1504が一定の距離をもって平行に引き出されるため、接続作業性が良好である(図16参照)。
【0015】
図16に示されるように、図15のツイナックスケーブルをプリント配線板1606にはんだ接続した状態では、2本の導線1501、1504はそれぞれプリント配線板1606上の信号線パッド1604、1605に接続され、ドレイン線1508はGNDパッド1603に接続されている。このときのプリント配線板1606上へのツイナックスケーブルの実装密度は、ツイナックスケーブルのジャケット1509の幅寸法P1に依存する。
【0016】
図17に示されるように、プリント配線板を用いた従来の伝送線路では、トランシーバIC1701aから送信された信号は配線パターン1709を通りコネクタ1707を介してバックプレーンボード1706に伝送される。バックプレーンボード1706からは、コネクタ1704を介して配線パターン1705を通り、受信端末であるトランシーバIC1701bに信号が伝送される。ラインカード1703aとラインカード1703bは、バックプレーンボード1706にコネクタ1707および1704に嵌合されて支持されている。
【0017】
ノイズであるコモンモード成分を遮断するために、配線パターン1709および1705上に、コモンモードノイズフィルタ1708がそれぞれインラインで配置される。このコモンモードノイズフィルタ1708により、受信端末側に到達するコモンモード成分が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2004−79439号公報
【特許文献2】特開2003−297154号公報
【特許文献3】特開2002−289047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来のツイナックスケーブルには対内スキュー(2本の導線間で生じる信号伝搬時間の差;以下、単にスキューという)の問題がある。
【0020】
図12のツイナックスケーブルは、ドレイン線1208の周囲に空隙(空気)Aが存在し、シールド導体1207が巻きつけられるときにドレイン線1208が押し付けられたり位置ずれを起こしたりし、絶縁体1202、1205がつぶれることにより、対をなす絶縁電線1203、1206が非対称な形状となる。絶縁電線1203、1206の形状が対内で非対称となった場合、対をなす導線1201、1204間で伝搬定数が異なることとなり、対内での減衰特性および位相特性が異なってくる。これが原因となってスキューが発生する。しかし、ツイナックスケーブルでは、数Gbps以上の高速信号を伝送するためにはスキューを低減する必要がある。
【0021】
スキューは、対をなす導線間で伝搬定数が異なることにより発生し、その直接的な原因として大きく3つの要因が考えられる。
【0022】
要因(1);対をなす導線の物理的な長さが違うこと。
【0023】
要因(2);絶縁体の誘電率そのものが対内で異なること。
【0024】
要因(3);絶縁体の形状が対内で非対称になることで対内の実効誘電率が非対称となること。
【0025】
なお、ここで言う誘電率とは材料そのものが持つ誘電特性を示すパラメータのことを指し、一方、実効誘電率とは空間に漏れ出る電界の影響を加味して考えた実効的な誘電率のことを指す。電界が誘電体(図12のツイナックスケーブルの場合は絶縁体1202、1205に相当、図14のツイナックスケーブルの場合は絶縁体1402に相当)の内部だけに発生する場合は、誘電率を考慮すればよいが、実際のツイナックスケーブルでは誘電体の直近に空気が存在し、空気の部分にも電界は生じるためその影響が無視できなくなるので、実効誘電率を考慮する必要がある。例えば、誘電率が等しい2本の絶縁電線1203、1206を用意した場合でも、それらをペアにするケーブル構造や製造工程により2本の絶縁電線1203、1206に作用する影響が等しくない場合(非対称性が生じた場合)、2本の絶縁電線1203、1206がそれぞれ持つ実効誘電率は異なってくる。
【0026】
上述の3つの要因に関して、図13〜図15のツイナックスケーブルを考察する。
【0027】
図13のツイナックスケーブルにおいては、絶縁電線1303、1306とドレイン線1308の間に働く応力を分散し絶縁体1302、1305のつぶれを抑制することで、対内に生じる絶縁体形状の非対称性を低減しているが、製造上の精度によってはドレイン線1308の位置が図示左右方向にずれ、2つの絶縁体1302、1305の間に働く力の関係が非対称となる。このため、絶縁電線1303、1306のつぶれ具合が完全に対称となることはなく、製造ばらつきに対して強固な構造ではない。
【0028】
また、図13のツイナックスケーブルにおいては、シールド導体1307の内側にドレイン線1308を配置していることから、ドレイン線1308と導線1301、1304間の電磁結合が強まり、絶縁体1302、1305内部の電界強度分布が不均一となる。導線1301、1304内部を流れる電流の密度分布は局所的に異なり、その結果、伝送損失(減衰量)が増大する。
【0029】
図14のツイナックスケーブルにおいては、2本の導線1401、1404が一つの絶縁体1402で一括被覆されるので、対内に生じる絶縁体の誘電率差が低減される。また、ドレイン線1408の位置が一意的に決まるためケーブルの特性インピーダンス値は安定する。しかし、図13のツイナックスケーブルと同様に、シールド導体1407の内側にドレイン線1408が配置されているので、ドレイン線1408と導線1401、1404との間の電磁結合は局所的に強まり、絶縁体1402内部の電界強度分布が不均一となる。このため、導線1401、1404内部を流れる電流の密度分布が局所的に異なり、その結果、伝送損失(減衰量)が増大する。
【0030】
図15のツイナックスケーブルにおいては、ドレイン線1508がシールド導体1507の外側に配置されるので、伝送損失(減衰量)の増大を抑制できる。しかし、丸型のドレイン線1508を絶縁体1402の断面の円弧部分に沿うように配置させる必要があることから、ドレイン線1508の位置を安定した状態で製造することが難しい。その結果、ドレイン線1508の位置が安定しないことにより絶縁体1502がつぶれ、対をなす絶縁体1502、1505間で非対称性が発生しやすい。
【0031】
また、図15のツイナックスケーブルにおいては、ドレイン線1508の位置がずれた場合、空隙Aを埋めるようにシールド導体1507が内側に折れ曲がって変形する。シールド導体1507が変形することにより、絶縁体1502、1505内部の電界強度分布が乱れ、伝送損失特性が不安定となる。シールド導体1507の変形度合を製造上で制御することは難しい。つまり、図15のツイナックスケーブルは、製造上で対内に非対称性が生じやすい構造となっている。ドレイン線1508が逆側の絶縁電線1506側に位置した場合でも同じである。
【0032】
以上のように、図13〜図15のツイナックスケーブルは、上述の3つの要因を改善するにあたり、製造ばらつきに対する安定性まで考慮されておらず、また、3つの要因すべてを同時には解決できない。加えて、伝送損失(減衰量)の増大に対しては有効な解決策が導かれていない。
【0033】
また、従来のツイナックスケーブルをプリント配線板に接続するとき、図16に示すように、対となる信号線パッド1604、1605と別の対となる信号線パッド1604、1605との間に、ドレイン線1508を接続するためのGNDパッド1603を配置する必要があり、一方、ツイナックスケーブルの幅寸法P1はドレイン線1508の分だけ広くなる。プリント配線板1606上へのツイナックスケーブルの実装密度はツイナックスケーブルのジャケット1509の幅寸法P1に依存するので、実装密度を高めることができない。また、図12のツイナックスケーブルのように、ドレイン線1208が導線1201、1204の中間に配置されていると、図16のプリント配線板1606のGNDパッド1603への接続は容易でない。
【0034】
また、従来のツイナックスケーブルでは、伝送線路を構成するとき、図17に示すようにコモンモードノイズフィルタ1708が不可欠である。
【0035】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、スキューが低減され、特性インピーダンスがケーブル長手方向で変動せず、伝送損失が増加せず、安定に生産が可能な差動信号伝送用ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記目的を達成するために本発明は、平行に配置された2本の導線が該2本の導線の並び方向に対して直角な方向から前記2本の導線を挟んで互いに対向する平坦部を有する扁平な絶縁体で一括被覆され、該絶縁体の外周に金属箔テープからなるシールド導体が巻き付けられ、前記平坦部の箇所で前記シールド導体に接するようにドレイン線が添えられ、該ドレイン線と前記シールド導体がジャケットにより被覆されたものである。
【0037】
また、本発明は、平行に配置された2本の導線が該2本の導線の並び方向に対して直角な方向から前記2本の導線を挟んで互いに対向する平坦部を有する扁平な絶縁体で一括被覆され、該絶縁体の平坦部にドレイン線が添えられ、該ドレイン線に接するように前記絶縁体の外周に金属箔テープからなるシールド導体が巻き付けられ、該シールド導体がジャケットにより被覆されたものである。
【0038】
前記ドレイン線は、平角導体線であってもよい。
【0039】
前記ドレイン線は、平角導体線がフィルム基材に固着されたフレキシブルフラットケーブルであってもよい。
【0040】
前記ドレイン線は、銅箔がフィルム基材に固着されたフレキシブルプリント配線板であってもよい。
【0041】
前記2本の導線は、前記絶縁体の前記平坦部間の中心線上であって、前記絶縁体の前記導線の並び方向の両側間の中心線に対して対称な位置に配置されてもよい。
【0042】
前記絶縁体の前記平坦部間の距離と前記絶縁体の前記導線の並び方向の両側間の距離との比が1:2であり、前記2本の導線間の距離が前記絶縁体の前記平坦部間の距離よりも小さくてもよい。
【0043】
前記2本の導線と前記シールド導体との距離が前記2本の導線と前記ドレイン線との距離より大きくてもよい。
【0044】
前記ドレイン線は、前記互いに対向する平坦部のそれぞれに設けられてもよい。
【0045】
前記ドレイン線は、前記導線の並び方向の両側間の中心線上に中心が位置してもよい。
【発明の効果】
【0046】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0047】
(1)スキューが低減される。
【0048】
(2)特性インピーダンスがケーブル長手方向で変動しない。
【0049】
(3)伝送損失が増加しない。
【0050】
(4)安定に生産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第一の実施形態による差動信号伝送用ケーブルの断面図である。
【図2】図1の差動伝送用ケーブルにおいて好適条件を得るための寸法の定義を付記した断面図である。
【図3】図1の差動伝送用ケーブルより導線の直径Dを小さくし導線間の距離dを小さくした差動信号伝送用ケーブルの断面図である。
【図4】図3の差動伝送用ケーブルにおいて導線の導線間の距離dを変化させたときの差動モード減衰量とスキューのグラフである。
【図5】本発明の第二の実施形態による差動信号伝送用ケーブルの断面図である。
【図6】本発明の第三の実施形態による差動信号伝送用ケーブルの断面図である。
【図7】本発明の第四の実施形態による差動信号伝送用ケーブルの断面図である。
【図8】本発明の第五の実施形態による差動信号伝送用ケーブルの断面図である。
【図9】本発明による差動信号伝送用ケーブルをプリント配線板にはんだ接続した第一応用例を示す斜視図である。
【図10】本発明による差動信号伝送用ケーブルをプリント配線板にはんだ接続した第二応用例を示す斜視図である。
【図11】本発明による差動信号伝送用ケーブルを伝送線路に使用した応用例を示す斜視図である。
【図12】従来のツイナックスケーブルの断面図である。
【図13】従来のツイナックスケーブルの断面図である。
【図14】従来のツイナックスケーブルの断面図である。
【図15】従来のツイナックスケーブルの断面図である。
【図16】従来のツイナックスケーブルをプリント配線板にはんだ接続した例を示す斜視図である。
【図17】従来のプリント配線板を用いた伝送線路の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0053】
図1に示されるように、本発明の第1実施形態による差動信号伝送用ケーブル100は、平行に配置された2本の導線101、102がこれら2本の導線101、102の並び方向(図示左右方向)に対して直角な方向(図示上下方向)から2本の導線101、102を挟んで互いに対向する平坦部103を有する扁平な絶縁体104で一括被覆され、絶縁体104の外周に金属箔テープからなるシールド導体105が巻き付けられ、平坦部103の箇所でシールド導体105に接するようにドレイン線106が添えられ、ドレイン線106とシールド導体105がジャケット107により被覆されたものである。
【0054】
差動信号伝送用ケーブル100では、差動信号伝送のために対とされた2本の導線101、102が平行に配置される。導線101、102は、扁平な断面形状を持つ絶縁体104で一括被覆されている。断面形状は、導線101、102の並び方向に延びた直線形状と、導線101、102の並び方向の両側における半円形状とを合わせた長円形である。断面が直線形状の部分が平坦部103となる。導線101、102と絶縁体104は一括して押出成型される。
【0055】
絶縁体104の材料には、誘電率および誘電正接の小さい材料が望ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、ポリエチレン等が望ましい。また、誘電率および誘電正接を小さくするために、絶縁体104の材質として発泡性の絶縁樹脂を用いることもできる。発泡性の絶縁樹脂を用いる場合は、成型前に発泡剤を練りこみ、成型時の温度によって発泡度を制御する方法、窒素等のガスを成型圧力で注入しておき圧力解放時に発泡させる方法等がある。
【0056】
絶縁体104の外側には金属箔テープからなるシールド導体105が巻きつけられている。シールド導体105が巻きつけられる部分、すなわち絶縁体104の表面には空隙を生じる凹凸がなく、シールド導体105は絶縁体104の表面に隙間なく巻きつけられる。シールド導体105に用いられる金属箔テープの金属材料としてはアルミニウムや銅などが望ましい。
【0057】
シールド導体105の外面には、平角導体線108からなるドレイン線106がシールド導体105と接触するよう、差動信号伝送用ケーブル100の長手方向(紙面奥行き方向)に沿って配置される。
【0058】
差動信号伝送用ケーブル100は、次のような効果を奏する。
【0059】
差動信号伝送用ケーブル100は、2本の導線101、102が平行に配置されているため、導線101、102の物理的な長さが等しい状態で製造が可能である。よって、要因(1)である対をなす導線の物理的な長さの違いが解消される。
【0060】
差動信号伝送用ケーブル100は、2本の導線101、102と絶縁体104が一括して押出成型される。これにより、導線101、102に関する絶縁体104の誘電率の差がないので、要因(2)である絶縁体の誘電率の対内での相違が解消される。
【0061】
差動信号伝送用ケーブル100では、シールド導体105が絶縁体104の外周に隙間なく巻きつけられている。すなわち、従来技術の空隙Aが無い。このため、絶縁体104に多少の変形が生じたとしても空隙(空気;比誘電率1.0)の影響を受けることがなく、実効誘電率に大きな変化は見られなくなる。すなわち、実効誘電率の非対称性が生じにくくなる。
【0062】
さらに、差動信号伝送用ケーブル100は、平坦部103を有する扁平な絶縁体104の外周にシールド導体105が巻き付けられ、平坦部103の箇所でシールド導体105に接するようにドレイン線106が添えられる。このためシールド導体105より内側には空隙がなく、製造時やその後に形状が変形しにくくなる。
【0063】
これらにより、要因(3)である絶縁体の形状が対内で非対称になることによる対内の実効誘電率の非対称が解消される。
【0064】
以上のように、本発明の差動信号伝送用ケーブル100は、先に述べた3つの要因を同時に解決することにより、スキューを低減することができる。これにより、本発明の差動信号伝送用ケーブル100が応用される機器間及び機器内の高速信号伝送が可能となり、電子機器の性能が向上する。
【0065】
また、差動信号伝送用ケーブル100は、2本の導線101、102が平行に配置されているため、導線101、502の物理的な長さが等しい状態で製造が可能である。
【0066】
また、差動信号伝送用ケーブル100は、2本の導線101、102と絶縁体104が一括して押出成型されるため、絶縁体104の誘電率が対内で非対称になることなく絶縁体104を形成することが可能である。
【0067】
また、差動信号伝送用ケーブル100は、絶縁体104の断面形状が長円形であり、絶縁体104の内部には空隙を含まず、絶縁体104は全体にわたり同一の材料で均一に構成されている。仮に絶縁体104に外力が作用したとしても、空隙を含まず同一の材料で均一に構成されていることから、実効誘電率が対内で非対称となりにくい。
【0068】
また、差動信号伝送用ケーブル100は、2本の導線101、102と絶縁体104は一括して押出成型されるため、導線101、102間の距離および導線101、102とシールド導体105間の距離を安定に制御して製造できる。これにより、品質が均一化できる。
【0069】
さらに、差動信号伝送用ケーブル100にあっては、2本の導線101、102間の距離及び導線101、102とシールド導体105間の距離を制御できることにより、差動モードインピーダンスを変化させることなく、コモンモードインピーダンスだけを大きくできる。これについて以下詳しく述べる。
【0070】
差動モードは導線101、102間に発生した電界が伝搬するモードであり、コモンモードは導線101、102とシールド導体間105に発生した電界が伝搬するモードである。差動モードは、2本の導線101、102間で決まるインピーダンスに従い伝搬し、コモンモードは、導線101、102とシールド導体105間で決まるインピーダンスに従い伝搬する。差動モードインピーダンスは2本の導線101、102間の距離によって決定され、コモンモードインピーダンスは2本の導線101、102とシールド導体105との間の距離によって決定される。したがって、本発明において、2本の導線101、102間の距離及び導線101、102とシールド導体105間の距離が安定に制御されるということは、差動モードインピーダンスとコモンモードインピーダンスの値をそれぞれ制御することが可能なことを意味する。
【0071】
一般に、差動信号伝送用ケーブルを伝搬するモードを考えたとき、信号成分である差動モードとノイズ成分であるコモンモード間でエネルギーの変換現象が発生することが電気的な特性として観測できる。このときのエネルギー変換現象はモード変換と呼ばれ、それにかかわるエネルギー量はモード変換量と呼ばれている。差動信号伝送用ケーブル内部を伝搬するモードは、差動モードからコモンモードへ、あるいは逆にコモンモードから差動モードへの変換を繰り返しながら伝搬する。モード変換量が大きい場合、モード変換によって引き起こされる位相ずれが大きくなり、対内で位相特性の非対称が引き起こされることとなる。このときの位相ずれがスキューに大きな影響を与える。よって、モード変換量を小さくすることができれば、それによって生じる位相ずれは小さく、スキューも小さくなる。モード変換量すなわちスキューを低減するためには、信号である差動モード成分を減衰させることなく、スキュー発生の一要因であるコモンモード成分を十分に減衰させる必要がある。
【0072】
これに関し、本発明の差動信号伝送用ケーブル100では、以下の好適条件に従うことで、差動モードインピーダンスを変化させることなく、コモンモードインピーダンスだけを大きくできる。
【0073】
ここで、図2に示されるように、差動信号伝送用ケーブル100は、所望の特性を獲得するための好適条件を有する。好適条件は、絶縁体104の平坦部103間の距離(以下、絶縁体104の高さ寸法という)H、絶縁体104の導線101の並び方向の両側間の距離(以下、絶縁体104の幅寸法という)W、2本の導線101間の距離d、導線101の直径Dを管理することで得られる。
【0074】
図2に示すように、差動モードインピーダンスを所定の値(たいていの場合は差動信号伝送用ケーブルを使用するシステム側で決定しているインピーダンス)としつつコモンモードインピーダンスが大きくなるよう、導線101、102の直径Dと導線101、102間の距離dを決定する。これにより、差動モードインピーダンスを所定の値にしつつ、2本の導線101、102間の電磁結合状態を制御することができる。
【0075】
2本の導線101、102間の距離dを小さくして導線101、102間の電磁結合を強めた場合、差動モードとコモンモード間のモード変換現象が発生し難くなる。つまり、差動モードとして差動信号伝送用ケーブル100に入力されたエネルギーは、コモンモードに変換されることなく差動モードのまま伝搬する割合が高くなる。これにより、信号成分である差動モードが受ける位相ずれの影響は小さくなり、スキューが小さくなる。
【0076】
また、2本の導線101、102は、そのいずれもが絶縁体104の高さ方向の中心線(絶縁体104の平坦部103間の中心線)C1上に位置し、かつ、導線101、102が絶縁体104の幅方向の中心線(導線101、102の並び方向の両側間の中心線)C2に対して互いに対称となる場所に位置するのが好ましい。つまり、絶縁体104の幅方向の中心線C2と導線101、102の間の距離は、導線101と導線102の間の距離dの半分(d/2)である。これは、シールド導体105と導体101およびシールド導体105と導線102の間の距離が等しくなるために必要な条件となる。この条件を満たすことで、導線101、102の間で生じる実効誘電率の非対称をなくすことができる。
【0077】
図3に示した差動信号伝送用ケーブル100aは、図2に示した差動信号伝送用ケーブル100よりも、導線101、102の直径Dを小さくし、かつ、導線101、102間の距離dを小さくしたものである。
【0078】
差動モードインピーダンスを所定の値としつつコモンモードインピーダンスを大きくするには、絶縁体104の高さ寸法Hと幅寸法Wの比を1:2とし(すなわちW=2H)、2本の導線101、102間の距離dを絶縁体104の高さ寸法Hよりも小さくするのが好ましい。
【0079】
ここで、従来のツイナックスケーブル(図12)では、導線1201、1204と絶縁体1202、1205が同心円をなす位置に配置された2個の絶縁電線1203、1206が並べられている。このため、2個の絶縁電線1203、1206を並べた寸法は、高さ1に対して幅2となる。2個の導線1201、1204は、必然的に絶縁体1202、1205の直径寸法分は離れた場所に位置することになる。導線1201、1204間の結合を強めるためには、2個の導線1201、1204間の距離を小さくしつつ(言い換えると、絶縁体1202、1205の直径寸法よりも導線1201、1204間の距離を小さくしつつ)、シールド導体1207と導線1201、1204との距離を大きくすること(言い換えると、絶縁体1202、1205の半径寸法よりもシールド導体1207と導線1201、1204と間の距離を大きくすること)が必要となる。しかし、従来のツイナックスケーブルは絶縁電線1203、1206同士が接して並べられており、これ以上導線1201、1204間の距離を小さくすることができない。
【0080】
これに対し、図3に示した差動信号伝送用ケーブル100aのように、導線101、102の直径Dを小さくし、かつ、導線101、102間の距離dを小さくした場合、導線101、102とシールド導体105との間の電磁結合状態は、絶縁体104の高さ方向に対しては図2の差動信号伝送用ケーブル100と同程度となり、絶縁体104の幅方向に対しては差動信号伝送用ケーブル100よりも弱くなる。つまり、差動信号伝送用ケーブル100aは、導線101、102とシールド導体105の間のインピーダンス(コモンモードインピーダンス)が大きくなる。
【0081】
これを検証するため、図3に示した差動信号伝送用ケーブル100aにおいて、差動モードインピーダンスが100Ωとなるよう、導線101、102の直径Dと導線101、102間の距離dが異なるものを数種類試作し、その特性を評価した。絶縁体104の高さ寸法Hは0.74mmとし、幅寸法Wは1.48mmとした。また、絶縁体104にはパーフロロアルコキシ(PFA,比誘電率2.1)を用いた。伝送損失の評価には4ポートネットワークアナライザを用いた。また、スキューの評価には、立上り時間35psのパルス信号を用いたTDR(Time Domain Reflectometry)測定器を用いた。表1に、図3における導線101、102の直径Dと導線101、102間の距離dを変化させたときのコモンモードインピーダンスの実測結果を示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1より、導線101、102の直径Dを小さくし、かつ、導線101、102間の距離dを小さくすることで、差動モードインピーダンスを所定の値(100Ω)に保ちつつ、コモンモードインピーダンスを大きくすることが可能なことを確認できた。言い換えると、導線101と導線102の間の電磁結合状態が強くできることを確認できたこととなる。
【0084】
図4に、導線101、102の直径Dと導線101、102間の距離dを変化させ、ケーブル長を1mとしたときの差動モードの伝送損失(減衰量)とスキューを実際に評価した結果を示す。導線101、102の直径Dと導線101、102間の距離dを小さくするにつれ、すなわち、導線101、102間の電磁結合を強めるにつれ、スキューが小さくなることが実際に確認できた。また、差動モードの伝送損失増加量がそれほど大きくならない導線101、102間の距離dの範囲があることが確認できた。これは、導線101、102間の電磁結合状態が多少強くなっても、ある範囲までは伝送損失に影響がないことを意味している。つまり、設計時に導線101、102間の距離dを選択することで、導線101、102間の電磁結合状態を強めながらも伝送損失の増加が問題とならない差動信号伝送用ケーブル100aを実現することが可能となる。
【0085】
以上説明したように、図2の差動信号伝送用ケーブル100を図3の差動信号伝送用ケーブル100aのように変形することにより、差動モードインピーダンスを変化させることなく、コモンモードインピーダンスだけを大きくでき、スキューを低減できる。
【0086】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
【0087】
図5に示されるように、本発明の第2実施形態による差動信号伝送用ケーブル500は、図1の差動信号伝送用ケーブル100と同様に、平行な2本の導線501、502が平坦部503を有し扁平な断面形状を持つ絶縁体504で一括被覆され、絶縁体504の外側にシールド導体505が巻きつけられ、シールド導体505の外周面にはシールド導体505と接触するようドレイン線506が添えられている。ただし、ドレイン線506には、平角導体線508がフィルム基材509に固着され平角導体線508が露出した構造のFFC(フレキシブルフラットケーブル)510が用いられる。ドレイン線506とシールド導体505がジャケット507により被覆されている。
【0088】
図6に示されるように、本発明の第3実施形態による差動信号伝送用ケーブル600は、図1の差動信号伝送用ケーブル100と同様に、平行な2本の導線601、602が平坦部603を有し扁平な断面形状を持つ絶縁体604で一括被覆され、絶縁体604の外側にシールド導体605が巻きつけられ、シールド導体605の外周面にはシールド導体605と接触するようドレイン線606が添えられている。ただし、ドレイン線606には、銅箔608がフィルム基材609に固着され銅箔608が露出した構造のFPC(フレキシブルプリント配線板)610が用いられる。ドレイン線606とシールド導体605がジャケット607により被覆されている。
【0089】
図7に示されるように、本発明の第4実施形態による差動信号伝送用ケーブル700は、図1の差動信号伝送用ケーブル100と同様に、平行な2本の導線701、702が平坦部703を有し扁平な断面形状を持つ絶縁体704で一括被覆されている。しかし、図1の差動信号伝送用ケーブル100とは異なり、絶縁体704の平坦部703にドレイン線706が添えられ、ドレイン線706に接するように絶縁体704の外周にシールド導体705が巻き付けられ、シールド導体705がジャケット707により被覆されている。ドレイン線706には、単体の平角導体線708が用いられる。
【0090】
図8に示されるように、本発明の第5実施形態による差動信号伝送用ケーブル800は、図7の差動信号伝送用ケーブル700と同様に、平行な2本の導線801、802が平坦部803を有し扁平な断面形状を持つ絶縁体804で一括被覆され、絶縁体804の平坦部803にドレイン線806が添えられ、ドレイン線806に接するように絶縁体804の外周にシールド導体805が巻き付けられ、シールド導体805がジャケット807により被覆されている。ただし、ドレイン線806には、平角導体線808がフィルム基材809に固着され平角導体線808が露出した構造のFFC(フレキシブルフラットケーブル)810が用いられる。
【0091】
FFC810の代わりに、銅箔がフィルム基材に固着され銅箔が露出した構造のFPC(フレキシブルプリント配線板)を用いてもよい。
【0092】
図5〜図8に示した差動信号伝送用ケーブル500、600、700、800は、いずれも図1の差動信号伝送用ケーブル100と同等の作用効果を有する。
【0093】
差動信号伝送用ケーブル500(600、700、800)においても、図3で説明したのと同様に、導線501、502の直径Dを小さくし、かつ、導線501、502間の距離dを小さくして、コモンモードインピーダンスを大きくできる。
【0094】
図7の差動信号伝送用ケーブル700では、シールド導体705と絶縁体704の間に若干の空隙Aが存在するが、絶縁体704の高さ寸法と幅寸法の比が1:2(すなわちW=2H)の場合には、ドレイン線706である平角導体線708と導線701、702との電磁結合よりも、シールド導体705と導線701、702との電磁結合の方が大きくなる。このため、空隙Aの存在はほぼ無視でき、空隙Aの影響で対内の実効誘電率が非対称となることはない。図8の差動信号伝送用ケーブル800の場合も同様である。
【0095】
高さ寸法Hと幅寸法Wの比が1:2の場合に、ドレイン線706と導線701、702との電磁結合よりもシールド導体705と導線701、702との電磁結合が大きくなるのは、シールド導体705がドレイン線706よりも導線701、702の近くに位置するためである。導線701、702間の距離dを図7と同じにしたままでW>2Hとした場合、シールド導体705と導線701、702の距離が相対的に離れてくるので、ドレイン線706と導線701、702間が強く結合する。このため、シールド導体705に接したドレイン線706周辺の空隙Aの影響がW=2Hの場合に比して大きくなり、対内の実効誘電率に非対称が生じやすくなる。逆にW<2Hとした場合、シールド導体705と導線701、702間の距離が相対的に近づくので、ドレイン線706と導線701、702との電磁結合は弱くなる。この場合、ドレイン線706周辺の空隙Aの影響がW=2Hの場合に比して小さくなるが、反面、シールド導体705と導線701、702間の電界が強くなり、コモンモードインピーダンスが小さくなり、コモンモードノイズの影響を受けやすくなる。
【0096】
次に、本発明の差動信号伝送用ケーブル100をプリント配線板にはんだ接続した応用例を説明する。
【0097】
図9に示されるように、プリント配線板900には、複数対の信号線パッド901、902と共通のGNDパッド903が形成される。信号線パッド901、902相互の間隔は差動信号伝送用ケーブル100の導線101、102間の距離dと同じであり、対間のピッチは差動信号伝送用ケーブル100の幅寸法P2と同じである。GNDパッド903は、信号線パッド901、902が並んでいる方向に長く形成される。これにより、導線101、102を容易に信号線パッド901、902にはんだ付け接続することができる。また、差動信号伝送用ケーブル100の端末のジャケット107が剥離されて露出されたドレイン線106をGNDパッド903に容易にはんだ付け接続することができる。さらに、差動信号伝送用ケーブル100は、ドレイン線106がシールド導体105の平坦部103の箇所に配置されているため、図16に示した従来のツイナックスケーブルの幅寸法P1に比べ幅寸法P2を小さくすることができる。このため、差動信号伝送用ケーブル100を用いることでプリント配線板900に複数の差動信号伝送用ケーブル100を接続する際の実装密度を高めることが可能となる。
【0098】
図10に示されるように、プリント配線板1000には、複数対の信号線パッド1001、1002と共通のGNDパッド1003が形成され、GNDパッド1003には各対間を仕切るシールド壁1004が分岐形成される。はんだ付けが容易な効果、実装密度が高まる効果は、図9の構成と同じである。また、対をなす信号線パッド1001、1002とそれに隣接する別の対の信号線パッド1001、1002との間で電磁結合が生じると、クロストークと呼ばれるノイズ成分が発生するが、図10の構成によれば、シールド壁1004によりクロストーク低減の効果がある。
【0099】
図9、図10の構成において、差動信号伝送用ケーブル500、600、700、800を用いても、差動信号伝送用ケーブル100を用いた場合と同等の作用効果を有する。
【0100】
次に、本発明の差動信号伝送用ケーブル100を応用した伝送線路について述べる。
【0101】
図11に示される伝送線路では、上下に配置された2枚のラインカード1101がシャフト(支持機構)1102により水平に保持されている。各ラインカード1101にはトランシーバIC1103とコネクタ1104が実装されると共に、トランシーバIC1103からコネクタ1104への配線パターン1105が形成される。上下のコネクタ1104間は差動信号伝送用ケーブル100により配線されている。上のラインカード1101のトランシーバIC1103から送信された差動信号は、配線パターン1105を通りコネクタ1104を介して差動信号伝送用ケーブル100に伝送され、差動信号伝送用ケーブル100から下のラインカード1101のコネクタ1104を介して配線パターン1105を通り、受信端末であるトランシーバIC1103に伝送される。
【0102】
前述したように、差動信号伝送用ケーブル100においてはコモンモードインピーダンスが大きいため、差動信号が差動信号伝送用ケーブル100を伝搬するうちにコモンモード成分が減衰し、結果として差動信号伝送用ケーブル100がコモンモードノイズフィルタと同じ働きをすることになる。これにより、従来は必要であったコモンモードノイズフィルタ(図17参照)を除去することが可能となる。さらに、図11に示される伝送線路では、従来使用されてきたバックプレーンボード(図17参照)をなくし、上下のラインカード1101のコネクタ1104間を差動信号伝送用ケーブル100で接続している。バックプレーンボードは非常に高価なため、差動信号伝送用ケーブル100に置換できることは大幅なコスト低減につながる。
【0103】
図11の構成において、差動信号伝送用ケーブル500、600、700、800を用いても、差動信号伝送用ケーブル100を用いた場合と同等の作用効果を有する。
【0104】
本発明の差動信号伝送用ケーブル100、500、600、700、800を複数本内蔵する1本の多芯ケーブルを実現することができる。このような多芯ケーブルにコネクタをアッセンブリすることで、相手のプリント配線板に多芯ケーブルのコネクタを直接接続できるダイレクトアタッチケーブルハーネスを実現することができる。
【符号の説明】
【0105】
100、500、600、700、800 差動信号伝送用ケーブル
101、102、501、502、601、602、701、702、801、802 導線
103、503、603、703、803 平坦部
104、504、604、704、804 絶縁体
105、505、605、705、805 シールド導体
106、506、606、706、806 ドレイン線
107、507、607、707、807 ジャケット
108、508、708、808 平角導体線
509、609 フィルム基材
510 FFC(フレキシブルフラットケーブル)
608 銅箔
610 FPC(フレキシブルプリント配線板)
900、1000 プリント配線板
901、902、1001、1002 信号線パッド
903、1003 GNDパッド
1101 ラインカード
1102 シャフト(支持機構)
1103 トランシーバIC
1104 コネクタ
1105 配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された2本の導線が該2本の導線の並び方向に対して直角な方向から前記2本の導線を挟んで互いに対向する平坦部を有する扁平な絶縁体で一括被覆され、該絶縁体の外周に金属箔テープからなるシールド導体が巻き付けられ、前記平坦部の箇所で前記シールド導体に接するようにドレイン線が添えられ、該ドレイン線と前記シールド導体がジャケットにより被覆されたことを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
平行に配置された2本の導線が該2本の導線の並び方向に対して直角な方向から前記2本の導線を挟んで互いに対向する平坦部を有する扁平な絶縁体で一括被覆され、該絶縁体の平坦部にドレイン線が添えられ、該ドレイン線に接するように前記絶縁体の外周に金属箔テープからなるシールド導体が巻き付けられ、該シールド導体がジャケットにより被覆されたことを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記ドレイン線は、平角導体線であることを特徴とする請求項1又は2記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記ドレイン線は、平角導体線がフィルム基材に固着されたフレキシブルフラットケーブルであることを特徴とする1又は2記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記ドレイン線は、銅箔がフィルム基材に固着されたフレキシブルプリント配線板であることを特徴とする1又は2記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
前記2本の導線は、前記絶縁体の前記平坦部間の中心線上であって、前記絶縁体の前記導線の並び方向の両側間の中心線に対して対称な位置に配置されたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項7】
前記絶縁体の前記平坦部間の距離と前記絶縁体の前記導線の並び方向の両側間の距離との比が1:2であり、前記2本の導線間の距離が前記絶縁体の前記平坦部間の距離よりも小さいことを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項8】
前記2本の導線と前記シールド導体との距離が前記2本の導線と前記ドレイン線との距離より大きいことを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項9】
前記ドレイン線は、前記互いに対向する平坦部のそれぞれに設けられることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項10】
前記ドレイン線は、前記導線の並び方向の両側間の中心線上に中心が位置することを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の差動信号伝送用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−96574(P2011−96574A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250972(P2009−250972)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】