説明

差動式熱感知器

【課題】温度検出素子が断線したときに温度測定部が判断した温度と、温度検出素子が正常に接続されたときに温度測定部が判断した温度とに大きな差が生じたとしても、誤って火災警報を発することがない差動式熱感知器を提供することを目的とする。
【解決手段】周囲温度によって状態が変化する温度検出素子の温度検出素子温度に基づき監視領域の温度を測定する温度測定部と、CPU内の温度を測定するCPU内温度測定部と、上記温度検出素子が検出した温度検出素子温度と上記CPU内温度測定部が測定したCPU内温度とを記憶する記憶部と、上記温度測定部で検出した温度検出素子温度が上記CPU内温度測定部で測定したCPU内温度よりも所定値以上低いときに、上記温度検出素子温度の代わりに上記CPU内温度を上記記憶部に記憶させ、上記記憶部に記憶された温度に基づいて火災を判定する制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動式熱感知器において、サーミスタ等の温度検出素子が断線した後に、上記温度検出素子が正常に接続されたときにおける誤報を防止することができる差動式熱感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の周期で、火災感知器の周囲温度を測定し、所定期間内に測定した温度の最大値と最小値との差に基づいて、温度勾配を算出し、その温度勾配が閾値を超えている場合には、温度が急激に上昇したと判定して火災警報を行う差動式熱感知器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−092032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の差動式熱感知器では、温度検出素子が断線すると、温度測定部は、温度検出素子が検出できる最低温度を測定していると判断し、その後に、温度検出素子が正常に接続されると、温度測定部は、温度検出素子が検出する監視領域の温度を測定する。そして、温度検出素子が断線しているときに測定した温度と、その後に正常に接続された状態で測定した温度との差に基づいて、実際には発生していない温度勾配が発生していると、温度測定部が判断する。
【0005】
上記従来例では、上記のように、温度検出素子が断線したときに温度測定部が判断した温度と、温度検出素子が正常に接続されたときに温度測定部が判断した温度とに大きな差が生じることがあり、この場合には、火災であると判断され、誤って火災警報を発することがあるという問題がある。
【0006】
本発明は、温度検出素子が断線したときに温度測定部が判断した温度と、温度検出素子が正常に接続されたときに温度測定部が判断した温度とに大きな差が生じたとしても、誤って火災警報を発することがない差動式熱感知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、周囲温度によって状態が変化する温度検出素子の温度検出素子温度に基づき監視領域の温度を測定する温度測定部と、CPU内の温度を測定するCPU内温度測定部と、上記温度検出素子が検出した温度検出素子温度と上記CPU内温度測定部が測定したCPU内温度とを記憶する記憶部と、上記温度測定部で検出した温度検出素子温度が上記CPU内温度測定部で測定したCPU内温度よりも所定値以上低いときに、上記温度検出素子温度の代わりに上記CPU内温度を上記記憶部に記憶させ、上記記憶部に記憶された温度に基づいて火災を判定する制御部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、温度検出素子が断線したとき等に、温度検出素子に基づき監視領域の温度を測定する温度測定部が検出する温度を記憶する代わりに、CPU内温度を記憶部に記憶するので、非火災時には、温度検出素子が断線したとき等に記憶部に記憶された温度データと、上記温度検出素子が正常に接続された後に上記温度測定部が検出した温度データとに大きな温度差がなく、したがって、誤って火災警報を発することがないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1である差動式熱感知器100の概要を示す回路図である。
【図2】差動式熱感知器100の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明を実施するための形態は、以下の実施例である。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1である差動式熱感知器100の概要を示す回路図である。
【0012】
差動式熱感知器100は、サーミスタ10と抵抗11との直列回路と、CPU20と、伝送回路30と、表示灯40とを有する。
【0013】
サーミスタ10は、温度検出素子であり、差動式熱感知器100の外部に突出するように設けられ、差動式熱感知器100の周囲の温度に応じてその抵抗値が変化し、つまり、差動式熱感知器100の周囲の温度を検出し、その一端が+B電源に接続され、抵抗11の一端が接地され、サーミスタ10の他端と抵抗11の他端とが接続されている。
【0014】
ここで、サーミスタ10は、温度の上昇に対して抵抗値が減少する所謂NTCサーミスタである。仮にサーミスタ10を温度の上昇に対して抵抗値が増加する所謂PTCサーミスタにした場合は、サーミスタ10の断線状態は、サーミスタ10を経由して電流が流れない状態であるため、あたかもサーミスタ10の抵抗値が増加した、つまりサーミスタ10が正常である場合に温度が上昇したときと同じ状態であるため、サーミスタ10が断線したときに火災が発生したと判断して誤って火災警報を発することになる。
【0015】
CPU20は、いわゆるマイクロコンピュータであり、制御部21と、A/Dコンバータ22と、記憶部23と、CPU内温度測定部24とを有する。
【0016】
制御部21は、CPU20の全体を制御する。そして、制御部21は、サーミスタ温度(サーミスタ10と抵抗11との接続点に発生する電圧に対応する温度、つまりサーミスタ10が検出した温度である温度検出素子温度)が、CPU内温度(CPU内温度測定部24が測定したCPU内の温度)よりも、所定値以上低いときに、サーミスタ温度の代わりにCPU内温度を検出温度として採用する。また、制御部21は、サーミスタ温度がCPU内温度よりも所定値以上低い状態が所定の時間継続したときに、サーミスタ10が断線していると判定する。
【0017】
A/Dコンバータ22は、サーミスタ10と抵抗11との接続点に発生する+B電源をサーミスタ10の抵抗値と抵抗11の抵抗値とで分圧した電圧(サーミスタ電圧)を入力し、デジタル信号に変換する。
【0018】
記憶部23は、サーミスタ電圧をたとえば3秒毎にサンプリングした電圧の値を、4分間半の間記憶する。つまり、記憶部23は、サーミスタ10が検出したサーミスタ温度を記憶する。また、CPU内温度測定部24が測定したCPU内温度よりも、上記サーミスタ温度が所定値以上低いときに、制御部21の制御によって、上記サーミスタ温度の代わりに上記CPU内温度を記憶する。
【0019】
CPU内温度測定部24は、CPU20が有する温度測定機能に対応し、CPU20を構成する半導体の温度特性に応じた値を出力し、つまり、CPU20の内部の温度(CPU内温度)を測定する。
【0020】
温度測定部25は、サーミスタ10と抵抗11とA/Dコンバータ22とによって構成されている。
【0021】
次に、差動式熱感知器100の動作について説明する。
【0022】
図2は、差動式熱感知器100の動作を示すフローチャートである。
【0023】
S1で、サーミスタ温度(サーミスタ10が検出した温度)、CPU内温度(CPU20が測定した温度)を、制御部21が取得し、S2で、サーミスタ温度がたとえば−30°C以下であるかどうかを判断する。サーミスタ温度が−30°Cよりも高いと判断されると、サーミスタ10が故障していないと判断する。このときに、サーミスタ10が断線故障していることを示すサーミスタ断線故障フラグが立っていれば、S3で、このサーミスタ断線故障フラグを下げ、サーミスタ10が正常に接続されていることを記憶する。
【0024】
そして、S4で、サーミスタ温度がCPU内温度よりも、たとえば20°C以上低いかどうかを判断する。サーミスタ温度がCPU温度よりも20°C以上低くなければ、サーミスタ温度が信頼できる温度である(サーミスタ10が断線していない)と判断し、S5で、サーミスタ温度を、記憶部23に記憶する。
【0025】
そして、S6で、サーミスタ断線故障フラグが立っているか否かを調べ、サーミスタ断線故障フラグが立っていないと判断されると、S7で、記憶部23が記憶している温度(過去4分間半の間にサンプリングした温度)のうちで、その最高値とその最高値よりも前の時間のその最低値との差が、所定の閾値以上であるかどうかを判断する。記憶部23が記憶している温度の最高値と最高値よりも前の時間の最低値との差が所定の閾値以上であると判断されれば、つまり、温度が閾値以上、すなわち過去4分間半の間に温度が閾値以上上昇したと判断されれば、S8で、火災警報を発生する。
【0026】
なお、S6でサーミスタ断線故障フラグが立っていると判断されれば、S1に戻る。
【0027】
一方、S2で、サーミスタ温度が−30°C以下であると判断されると、S11で、この状態が所定時間、継続したかどうかを判断する。S11で、サーミスタ温度が−30°C以下である状態が所定時間継続していなければ、とりあえず、サーミスタ10が正常に接続されていると判断し、S4に進む。つまり、サーミスタ10の検出温度(A/Dコンバータ22の入力端子に入力された電圧に対応する温度)が−30°Cよりも低い状態があっても、それが所定時間継続していなければ、S4に進む。
【0028】
S11で、サーミスタ温度が−30°C以下である状態が所定時間継続したと判断されると、サーミスタ10が確実に断線していると判断し、S12で、サーミスタ10が断線故障していることを示すサーミスタ断線故障フラグを立て、S4に進む。
【0029】
また、S4で、サーミスタ温度がCPU内温度よりも20°C以上低いと判断されると、サーミスタ温度を記憶する代わりに、CPU内温度を記憶部23に記憶する。つまり、サーミスタ10が設置されている位置とCPU20が設置されている位置とがそれ程離れていないのに、20°C以上もの温度差があることは現実的には極めて少ないので、この場合には、サーミスタ10が断線故障していると判断し、したがって、A/Dコンバータ22の入力電圧に対応する温度が異常であると判断し、サーミスタ温度を記憶する代わりに、CPU内温度を記憶部23に記憶し、後で、記憶部23に記憶したCPU内温度を、サーミスタ温度の代わりに使用する場合に備える。
【0030】
このようにすることによって、差動式熱感知器100の一部を構成するサーミスタ10が断線故障した場合に、火災が発生していないのに火災警報を発するという誤報の発生を防止することができる。つまり、温度検出素子が断線したときに、A/Dコンバータ22が抵抗11を介して接地され、あたかも、サーミスタ10の抵抗値が増加してサーミスタ電圧が低下し、温度検出素子が検出できる最低温度を測定しているのと同じ状態を温度測定部25が測定した温度の代わりに、CPU内温度測定部24が測定したCPU内温度を記憶部23に格納するので、上記温度検出素子が正常に接続された後に上記温度検出素子が検出した温度データとに大きな差がなく、したがって、誤って火災警報を発することがない。
【0031】
なお、家屋等の玄関内に差動式熱感知器100が設置されている場合、特に冬季等において、玄関扉を開けたときに、一瞬、極く低温の外気が玄関内に進入し、差動式熱感知器100に設けられているサーミスタ10が低温を検出し、その後、玄関扉を閉め、玄関内の温度が、室温に向けて急上昇した場合、通常は、火災発生と判断される。しかし、上記実施例によれば、誤報の発生を防止することができる。
【0032】
また、大型冷蔵庫の近傍に差動式熱感知器100が設置されている場合、大型冷蔵庫の扉を開けることによって冷気が上記差動式熱感知器100に達し、サーミスタ温度が急激に低下し、その後に、冷蔵庫の扉を閉じると、室温に向かって急上昇することがあり、この場合も、上記と同様に、誤報の発生を防止することができる。
【0033】
上記実施例において、サーミスタ10の代わりに、他の温度検出素子を使用するようにしてもよい。この場合、上記サーミスタ温度は、温度検出素子温度である。
【0034】
また、上記実施例において、サーミスタ温度とCPU温度との両方を記憶部23に記憶すると共に、サーミスタ温度がCPU温度よりも所定値以上低いか否かを記憶させ、火災判断を行う際にサーミスタ温度とCPU温度のどちらを採用するかを決定するようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施例において、制御部21が、上記サーミスタ温度が上記CPU内温度よりも所定値以上低い状態が所定の時間継続したときに、サーミスタ10が断線していると判定するので、サーミスタ温度が極端な温度である場合に、サーミスタ10が断線していると判断し、したがって、サーミスタ10の断線を確実に検出することができる。
【0036】
さらに、CPU内温度測定部24として、制御部21の温度測定機能を用いるので、近年マイコン等に標準機能として備えられている温度測定機能を利用することができ、よって、CPU内温度を測定するための構成を別途設ける必要がないという利点がある。
【符号の説明】
【0037】
100…差動式熱感知器、 10…サーミスタ、 20…CPU、 21…制御部、
24…CPU内温度測定部、 25…温度測定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲温度によって状態が変化する温度検出素子の温度検出素子温度に基づき監視領域の温度を測定する温度測定部と;
CPU内の温度を測定するCPU内温度測定部と;
上記温度検出素子が検出した温度検出素子温度と上記CPU内温度測定部が測定したCPU内温度とを記憶する記憶部と;
上記温度測定部で検出した温度検出素子温度が上記CPU内温度測定部で測定したCPU内温度よりも所定値以上低いときに、上記温度検出素子温度の代わりに上記CPU内温度を上記記憶部に記憶させ、上記記憶部に記憶された温度に基づいて火災を判定する制御部と;
を有することを特徴とする差動式熱感知器。
【請求項2】
請求項1において、
上記制御部は、上記温度検出素子温度がCPU内温度よりも所定値以上低い状態が所定の時間継続したときに、上記温度検出素子が断線していると判定する手段であることを特徴とする差動式熱感知器。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
上記CPU内温度測定部は、上記制御部の温度測定機能を用いることを特徴とする差動式熱感知器。

【図1】
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【図2】
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