差動通信ネットワーク
【課題】本発明は、差動通信ネットワークに関し、差動通信においてコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることにある。
【解決手段】複数のノード10を互いに接続する差動通信線路12の各相導体12a,12b間に、差動通信線路12を介したノード10間での通信がコモンモードノイズにより妨害されるのを低減するフィルタ回路30を挿入する。そして、フィルタ回路30を、差動通信線路12への挿入位置近傍にあるノード10の各相の不平衡を補償すべく、両導体12a,12b間で対称となるように、導体12a,12bとボデーグラウンド14との間で互いに直列接続された、コモンモードノイズの周波数帯域でインピーダンスを小さくするインピーダンス回路32,34と、ノード10の内部インピーダンスよりも十分に小さいインピーダンスを有するインピーダンス回路36と、から構成する。
【解決手段】複数のノード10を互いに接続する差動通信線路12の各相導体12a,12b間に、差動通信線路12を介したノード10間での通信がコモンモードノイズにより妨害されるのを低減するフィルタ回路30を挿入する。そして、フィルタ回路30を、差動通信線路12への挿入位置近傍にあるノード10の各相の不平衡を補償すべく、両導体12a,12b間で対称となるように、導体12a,12bとボデーグラウンド14との間で互いに直列接続された、コモンモードノイズの周波数帯域でインピーダンスを小さくするインピーダンス回路32,34と、ノード10の内部インピーダンスよりも十分に小さいインピーダンスを有するインピーダンス回路36と、から構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動通信ネットワークに係り、特に、差動通信線路を介したノード間での差動通信をコモンモードノイズが妨害するのを低減するうえで好適な差動通信ネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、差動通信線路を介して接続された複数のノードを備える差動通信ネットワークが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。このネットワークは、差動通信線路として2本の通信線路を有しており、2本の通信線路間に電位差が生じるような差動信号を流すことによりノード間での差動通信を行う。差動通信は、外部からノードへのコモンモード電磁ノイズの流入を低減することができるので、従って、かかるネットワークシステムによれば、特に高周波の信号伝送に対して、外部からのノイズが伝搬するのを抑制することが可能となっている。
【特許文献1】特許第3166571号公報
【特許文献2】特開2004−96351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、2本の通信線路を用いて差動通信を行うネットワークにおいては、その差動通信を適切に行ううえで、ノードの通信回路が対称性を有していることが望ましい。しかし、ノードの通信回路を対称性が満たされるように構成することは困難であり、非対称性を有することがある。この点、コモンモードノイズによる電圧は、理想的には2本の通信線路に逆相で同じように現れるので、そのノイズの影響は相殺される筈であるが、上記の如くノードの通信回路に非対称性があるときは、2本の通信線路に逆相で同じように現れなくなるので、そのノイズの影響が顕在化するおそれがある。そこで、上記した特許文献1記載の差動通信ネットワークにおいては、ネットワークの平衡度を改善してコモンモードノイズの影響を小さく抑えるため、通信線路に介在されたトランスの二次側のセンタータップをコンデンサを介して接地すると共に、そのセンタータップを2つの通信線路それぞれにインピーダンス回路を介して接続する。しかし、かかる構成では、トランスを設ける必要があるため、製造コストがかかるという問題がある。
【0004】
また、上記した特許文献2記載の差動通信ネットワークにおいては、コモンモードノイズによる影響を抑えるため、送信側又は受信側に通信線路の特性インピーダンスより定まる終端インピーダンスを有する素子を各導体からセンタータップにて接続する。かかる構成によれば、ネットワークのコモンモードインピーダンスに対して整合するため、ノードへの電磁ノイズの流入やネットワークからの電磁ノイズの流出を低減することができる。しかし、この構成は、一対一のノード間における差動伝送路に対応したものであり、複数のノードが並列バスで接続されたネットワークには適用できないものである。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、差動通信においてコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能な差動通信ネットワークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、複数のノードを互いに接続させる差動通信線路と、前記差動通信線路に挿入され、該差動通信線路を介したノード間での通信がコモンモードノイズにより妨害されるのを低減するフィルタ回路と、を備える差動通信ネットワークであって、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路への挿入位置近傍にあるノードの各相の不平衡を補償し、及び/又は、当該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有し、前記差動通信線路の各相導体は、前記フィルタ回路を介して接地される差動通信ネットワークにより達成される。
【0007】
この態様の発明において、フィルタ回路は、差動通信線路への挿入位置近傍にあるノードの各相の不平衡を補償し、及び/又は、ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有している。また、差動通信線路の各相導体は、そのフィルタ回路を介して接地されている。このため、かかる構成によれば、簡易な回路でノードの各相の平衡度を高めることができ又はネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができるので、ノード間通信へのコモンモードノイズによる影響を簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0008】
尚、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の両導体間で対称性が確保されるように、コモンモードノイズの周波数帯域でインピーダンスを小さくする第1のインピーダンス回路と、ノードの内部インピーダンスよりも十分に小さいインピーダンス又は該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有する第2のインピーダンス回路と、からなることとしてもよい。
【0009】
この場合、前記第1のインピーダンス回路と前記第2のインピーダンス回路とは、前記差動通信線路の導体とグラウンドとの間で互いに直列接続されていることとすればよい。
【0010】
また、前記第1のインピーダンス回路は、前記差動通信線路の一方の導体に接続される一方側インピーダンス回路と、前記差動通信線路の他方の導体に接続される他方側インピーダンス回路と、からなり、前記一方側インピーダンス回路及び前記他方側インピーダンス回路はそれぞれ、共通の前記第2のインピーダンス回路を介してグラウンドに接続されていることとすればよい。
【0011】
また、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路に接続するノードの差動入力特性に関するアドミタンス行列に加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が等しくなるようなアドミタンス行列を有することとしてもよい。
【0012】
更に、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路のハブ又はスルーコネクタに内蔵されていることとしてもよい。
【0013】
また、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、互いに同等の差動入力特性を有し、かつ、互いの近傍において前記差動通信線路に互いに逆相で接続されたノード同士であることとしてもよい。
【0014】
この場合、前記ノード同士はそれぞれ、前記差動通信線路のハブに略同じ長さの通信線路で接続されていることが望ましい。
【0015】
また、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の各相導体が逆向きに誘導結合した相互インダクタンス素子を有することとしてもよい。
【0016】
この場合、前記相互インダクタンス素子は、前記差動通信線路の各相導体が互いに逆向きに巻かれた磁性体コアからなることとすればよい。
【0017】
尚、本発明において、「逆向き」とは、差動通信線路の一方の相の導体に電流(例えばグラウンド側へ向けて)が流れたときに他方の相の導体に同方向の電流(例えばグラウンド側へ向けて)が流れることをいう。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、差動通信においてコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の第1実施例である差動通信ネットワークの構成図を示す。本実施例の差動通信ネットワークは、車両に搭載される、ノード間の制御通信のために複数のノードが並列にバス接続されたネットワークである。この差動通信ネットワークは、図1に示す如く、複数のノード10と、それら複数のノード10を互いに接続させる差動通信線路12と、を備えている。
【0021】
各ノード10はそれぞれ、車両の状態を検出するためのセンサ類やセンサからの情報に基づいてアクチュエータをコントロールする制御用のコントローラ(以下、ECUと称す)である。また、差動通信線路12は、センサやECUの間での制御通信信号を媒介する線路であって、2本一組のツイスト線よりなっている。以下、この差動通信線路12の各相導体を12a,12bとする。差動通信線路12の各相導体12a,12bには、互いに逆相の差動モード電流が流れ、電位差が生じるような差動信号が流れる。
【0022】
各ノード10にはそれぞれ、通信回路が設けられている。ノード10は、通信回路において差動通信線路12での通信プロトコルに従って送信データや受信データを変換して他のノード10との差動通信線路12を介した通信を行う。
【0023】
差動通信線路12は、車両のボデー14上に搭載され、車体前後左右に張り巡らされる。差動通信線路12の途中には、適宜、その差動通信線路12を分岐するための2本のバスバーを内蔵するハブ16、及び、ネットワークとの分離・着脱を自在にするためのスルーコネクタ18が設けられる。
【0024】
差動通信線路12には、本実施例の差動通信ネットワークとは異なる車載システムに用いられる種類の異なる通信線路やアクチュエータを駆動するパワーライン等のハーネス群20が並走する部分(図1においてはその一部)がある。並走ハーネス群20には、差動ハーネスや車両ボデーを帰路とするシングルエンドハーネス等が混在する。差動通信線路12と並走ハーネス群20との並走部分は、予めテープ等で密接に束ねられたハーネス束22となっている。このハーネス束22の位置は、例えば、車両前部と後部とを繋ぐ車両ドア下の部位などである。
【0025】
ところで、並走ハーネス群20のいずれかにその線路に接続されたアクチュエータ等からのノイズ(例えば10MHz〜20MHz)が印加されると、本実施例の差動通信ネットワークのノード10にノイズが伝搬することがあり、そのため、その差動通信ネットワークに通信障害が生ずることがある。
【0026】
具体的には、ノイズが印加された並走ハーネス群20の線路とその線路を含まないハーネス束22の線路との導体間に電磁結合または静電結合が生ずることにより、ハーネス束22全体のボデー14に対する電圧(コモンモード電圧)にノイズが現れることがある。差動通信ネットワークは、ノード10間で差動通信線路12を介して差動通信を行うため、コモンモードノイズによる影響は相殺され、通信障害が生ずることはない筈である。しかし、実際には、ノード10の有する通信回路や差動通信線路12自体の非対称性が存在することに起因して、コモンモード電圧が差動通信線路12の2線に逆相で同じように現れることができず、その結果として、コモンモードノイズが差動モードに変換されてノード10に伝搬することとなる。
【0027】
そこで、本実施例においては、コモンモードノイズによる影響をできるだけ低減して、ノード10間での差動通信を適切に行い得るようにノイズ終端回路としてのフィルタ回路を設けた点に特徴を有している。以下、図2乃至図4を参照して、本実施例の特徴部について説明する。
【0028】
図2は、本実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路30の構成図を示す。尚、図2(A)には回路構成を、また、図2(B)には図2(A)に示す回路構成を部品を用いて具体化した回路図を、それぞれ示す。図3は、本実施例の差動通信ネットワークにおけるフィルタ回路30の挿入位置を表した図を示す。また、図4は、図3に示すフィルタ回路30における効果を説明するための図を示す。
【0029】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12b間には、フィルタ回路30が挿入されている。フィルタ回路30は、導体12aと導体12bとの間に直列に接続されたインピーダンス回路32とインピーダンス回路34とを有している。インピーダンス回路32,34は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくなる回路である。インピーダンス回路32,34は、具体的には、それぞれ例えば150pFの容量を有するコンデンサである。
【0030】
インピーダンス回路32とインピーダンス回路34との接続部には、インピーダンス回路36の一端が接続されている。インピーダンス回路36の他端はグラウンド(ボデー14)に接地されている。インピーダンス回路36は、ノード10の通信回路の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する回路である。インピーダンス回路36は、具体的には、例えば150Ωの抵抗値を有する抵抗である。また、このインピーダンスの値は、差動通信線路12と並走ハーネス群20とを含むハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。
【0031】
すなわち、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、フィルタ回路30として、コモンモードノイズの周波数帯域において十分にインピーダンスが小さくなるインピーダンス回路32,34が差動通信線路12の各相導体12a,12b間で直列に接続されると共に、それらインピーダンス回路32,34の接続点とボデーグラウンド14との間にノード10の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する単一のインピーダンス回路36が介挿される。この場合には、差動通信線路12の各相対称に、導体12aとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路32とインピーダンス回路36とが互いに直列接続され、かつ、導体12bとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路34とインピーダンス回路36とが互いに直列接続される回路が構成される。
【0032】
かかるフィルタ回路30の構成においては、コモンモードノイズの周波数帯域において、差動通信線路12上やノード10の通信回路に非対称なインピーダンスが存在していても、そのインピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有するインピーダンス回路36が存在しかつインピーダンス回路32,34が共に低インピーダンスであって、更に、両インピーダンス回路32,34が各相で並列に接続されたうえで単一のインピーダンス回路36に接続されるため、各相の合成インピーダンスは略均一化された値となる。従って、ノード10の各相の平衡度が高められるので、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができる。このため、外部から差動通信線路12にコモンモードノイズが流入した場合やノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出した場合にも、ノード10間における通信へのコモンモードノイズによる影響(例えば、通信妨害やネットワークからのノイズ放射による他の電子機器への影響)を小さく抑えることが可能となっている。
【0033】
尚、差動通信線路12の各相導体12a,12bにおけるフィルタ回路30が挿入される位置は、ノード10の通信回路内や分岐路にあるハブ16内,スルーコネクタ18内であることでよいが、必ずしもそのすべてである必要はなく、必要に応じて一部のノード10のみやハブ16のみであってもよい。一般に、ノード10間の線路長が長くなると、その間の通信が差動通信線路12のインピーダンスにより影響を受けることとなる。従って、フィルタ回路30の挿入位置は、ノード10間の線路長やノード10とハブ16との間の線路長を考慮して決定すればよい。
【0034】
例えば、ある一つのハブ16に複数のノード10が接続されているネットワークにおいて、それら各ノード10とハブ16との間の差動通信線路12の線路長がコモンモードノイズの波長に比べて十分に小さい場合には、フィルタ回路30をそのハブ16のみに或いはそれらノード10の何れか一つに設けることとすればよい。一方、それら各ノード10とハブ16との間の差動通信線路12の線路長がコモンモードノイズの波長に比べて十分に小さくはない場合(例えば、そのノイズ波長と同様以上の長さである場合)には、フィルタ回路30を各ノード10内に或いはノード10とハブ16との間に設けられたスルーコネクタ18内に設けることが必要となる。
【0035】
また、上記の如く、フィルタ回路30において、インピーダンス回路36のインピーダンス値は、差動通信線路12と並走ハーネス群20とを含むハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。従って、差動通信線路12の各相導体12a,12bへのフィルタ回路30の挿入により、ハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができる。このため、コモンモードノイズが吸収されて差動通信線路12上での共振が防止されるので、コモンモードノイズが伝搬し難くなり、ノード10への電磁ノイズの流入やネットワークからの電磁ノイズの流出を低減することができ、コモンモードノイズが大きな対地電圧又は対地電流となるのを防止することができ、電磁ノイズによる通信妨害やネットワークからのノイズ放射による他の電子機器への影響を効果的に防止することが可能である。
【0036】
例えば、図3に示す如く、3つのノード10−1〜10−3が一つのハブ16に比較的短い線路長で接続されているときは、そのハブ16内にフィルタ回路30を設ける。この構成によれば、並走ハーネス群20からコモンモードノイズが差動通信線路12に伝搬されても、或いは、ノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出しても、フィルタ回路30の機能により、そのフィルタ回路30が設けられていない構成に比べて、特にノイズ周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)においてコモンモードノイズのレベルを低減させることが可能である(図4(A)及び(B))。
【0037】
このように、本実施例の差動通信ネットワークによれば、フィルタ回路30により各ノード10に或いは各ノード10から伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能であるので、このため、差動通信線路12をそのノイズ伝搬を低減するためのシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。但し、差動通信線路12がコモンモードノイズを低減するためのシールド線で構成されていれば、フィルタ回路30により各ノード10に伝搬し得るコモンモードノイズの低減を更に効果的に実現することが可能である。
【0038】
従って、本実施例の差動通信ネットワークによれば、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0039】
尚、上記の第1実施例においては、フィルタ回路30が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に、インピーダンス回路32,34が特許請求の範囲に記載した「第1のインピーダンス回路」、「一方側インピーダンス回路」、及び「他方側インピーダンス回路」に、インピーダンス回路36が特許請求の範囲に記載した「第2のインピーダンス回路」に、それぞれ相当している。
【実施例2】
【0040】
図5は、本発明の第2実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路100の構成図を示す。尚、図5(A)には回路構成を、また、図5(B)には図5(A)に示す回路構成を部品を用いて具体化した回路図を、それぞれ示す。また、図5において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12b間には、フィルタ回路100が挿入されている。フィルタ回路100は、導体12aとボデーグラウンド14との間に互いに直列に接続されたインピーダンス回路102とインピーダンス回路104とを有していると共に、導体12bとボデーグラウンド14との間に直列に接続されたインピーダンス回路106とインピーダンス回路108とを有している。
【0042】
インピーダンス回路102,106は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくなる回路であって、それぞれ例えば150pFの容量を有するコンデンサである。また、インピーダンス回路104,108は、ノード10の通信回路の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する回路であって、それぞれ例えば150Ωの抵抗値を有する抵抗である。尚、インピーダンス回路104とインピーダンス回路108とのインピーダンス値(抵抗値)は、精度よく一致した値であって、ハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。
【0043】
すなわち、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、フィルタ回路100として、コモンモードノイズの周波数帯域において十分にインピーダンスが小さくなるインピーダンス回路102,106が差動通信線12の各相に対して並列(対称)に接続されると共に、それらのインピーダンス回路102,106の他端とボデーグラウンド14との間にそれぞれ、ノード10の内部インピーダンスに対して十分に小さくかつ精度よく互いに一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路104,108が介挿される。この場合には、差動通信線路12の各相対称に、導体12aとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路102とインピーダンス回路104とが互いに直列接続され、かつ、導体12bとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路106とインピーダンス回路108とが互いに直列接続される回路が構成される。
【0044】
かかるフィルタ回路100の構成においては、コモンモードノイズの周波数帯域において、差動通信線路12上やノード10の通信回路に非対称なインピーダンスが存在していても、そのインピーダンスに対して十分に小さくかつ両者で精度よく一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路104,108が存在しかつインピーダンス回路102,106が共に低インピーダンスであって、更に、各相で並列にインピーダンス回路102がインピーダンス回路104にかつインピーダンス回路106がインピーダンス回路108にそれぞれ接続されるため、各相の合成インピーダンスは略均一化された値となる。従って、ノード10の各相の平衡度が高められるので、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができる。このため、ノード10間における通信へのコモンモードノイズによる影響を小さく抑えることが可能となっている。
【0045】
このように、本実施例の差動通信ネットワークによれば、フィルタ回路100により各ノード10に伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能であるので、このため、差動通信線路12をそのノイズ伝搬を低減するためのシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。従って、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0046】
尚、上記の第2実施例においては、フィルタ回路100が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に、インピーダンス回路102,106が特許請求の範囲に記載した「第1のインピーダンス回路」に、インピーダンス回路104,108が特許請求の範囲に記載した「第2のインピーダンス回路」に、それぞれ相当している。
【実施例3】
【0047】
図6は、本発明の第3実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路150の構成図を示す。尚、図6(A)には回路構成を、また、図6(B)には図6(A)に示す回路構成を部品を用いて具体化した回路図を、それぞれ示す。また、図6において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12b間には、フィルタ回路150が挿入されている。フィルタ回路150は、導体12aとボデーグラウンド14との間に互いに直列に接続されたインピーダンス回路152とインピーダンス回路154とを有していると共に、導体12bとボデーグラウンド14との間に互いに直列に接続されたインピーダンス回路156とインピーダンス回路158とを有している。インピーダンス回路152とインピーダンス回路154との接続部と、インピーダンス回路156とインピーダンス回路158との接続部との間には、インピーダンス回路160が介在されている。
【0049】
インピーダンス回路152,156は、ノード10の通信回路の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する回路であって、それぞれ例えば360Ωの抵抗値を有する抵抗である。尚、インピーダンス回路152とインピーダンス回路156とのインピーダンス値(抵抗値)は、精度よく一致した値であって、ハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。また、インピーダンス回路160は、例えば560Ωの抵抗値を有する抵抗である。更に、インピーダンス回路154,158は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくなる回路であって、それぞれ例えば2200pFの容量を有するコンデンサである。
【0050】
すなわち、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、フィルタ回路150として、ノード10の内部インピーダンスに対して十分に小さくかつ精度よく一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路152,156が、差動通信線12の各相に対して並列(対称)に接続され、かつ、インピーダンス回路160を介して各相導体12a,12b間で互いに直列接続されると共に、それらインピーダンス回路160の両端それぞれとボデーグラウンド14との間にコモンモードノイズの周波数帯域において十分にインピーダンスが小さくなるインピーダンス回路154,158が介挿される。この場合には、差動通信線路12の各相対称に、導体12aとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路152とインピーダンス回路154とが互いに直列接続され、かつ、導体12bとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路156とインピーダンス回路158とが互いに直列接続される回路が構成される。
【0051】
かかるフィルタ回路150の構成においては、コモンモードノイズの周波数帯域において、インピーダンス回路154,158が共に低インピーダンスであるので、インピーダンス回路152と154との接続点およびインピーダンス回路156と158との接続点が共に接地されるものとなる。この場合、差動通信線路12上やノード10の通信回路に非対称なインピーダンスが存在していても、そのインピーダンスに対して十分に小さくかつ両者で精度よく一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路152,156が存在することによって、各相の合成インピーダンスは略均一化された値となる。従って、ノード10の各相の平衡度が高められるので、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができる。このため、ノード10間における通信へのコモンモードノイズによる影響を小さく抑えることが可能となっている。
【0052】
このように、本実施例の差動通信ネットワークによれば、フィルタ回路150により各ノード10に伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能であるので、このため、差動通信線路12をそのノイズ伝搬を低減するためのシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。従って、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0053】
また、このフィルタ回路150の構成において、差動通信線路12の各相導体12a,12bに接続するインピーダンス回路は、上記した第1及び第2実施例のフィルタ回路30,100の如きコンデンサからなるものではなく、抵抗からなるインピーダンス回路152,156である。このため、本実施例によれば、差動通信線路12上を流れるノード間の制御通信信号の波形がコンデンサによりなまされ易くなるのを防止することが可能となっている。
【0054】
尚、上記の第3実施例においては、フィルタ回路150が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に、インピーダンス回路154,158が特許請求の範囲に記載した「第1のインピーダンス回路」に、インピーダンス回路152,156が特許請求の範囲に記載した「第2のインピーダンス回路」に、それぞれ相当している。
【実施例4】
【0055】
図7は、本発明の第4実施例である差動通信ネットワークの要部構成図を示す。また、図8は、本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノード10の接続図の一例を示す。尚、図7及び図8において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
上記した第1乃至第3実施例では、差動通信ネットワークでのコモンモードノイズによる影響をできるだけ低減すべく、差動通信線12の各相導体12a,12b間や各相導体とボデーグラウンド14との間にインピーダンス回路を用いて回路構成されたフィルタ回路30,100,150を設けることとした。
【0057】
一般に、ノード10の通信回路を差動通信線路12の接続端子側から見た際のアドミタンス行列Yは、次式(1)の如く表される。尚、この際、アドミタンス行列Yの各要素は、ボデーグラウンド14に対する差動通信線路12の各相成分を定量的に表したものである。
【0058】
通常は、y12=y21が成立するものである。このため、ノード10が非対称性を有する場合は、そのノード10において上記したアドミタンス行列Yのy11成分とy22成分とは一致しないが、ノード10が非対称性を有しない場合は、そのノード10においてはy11=y22が成立することとなる。すなわち、アドミタンス行列についてy11=y22が成立すれば、そのノード10の対称性が確保されることとなる。更に、差動通信線路12にノード10に対して並列に接続する回路が存在するときは、その並列接続されたノード10と回路とからなる全体でのアドミタンス行列は、各要素が加算されたものとなる。
【0059】
従って、非対称性を有するノード10(そのアドミタンス行列をYとする。)が存在するときは、アドミタンス行列Ycが次式(2)に示す如き要素を有することとなる回路(不平衡補償回路)200を構成し、その不平衡補償回路200を図7に示す如く差動通信線路12にそのノード10に対して並列に接続することとすれば、そのノード10の不平衡を補償できる。
【0060】
但し、行列要素yc11及びyc22はそれぞれ、y11+yc11=y22+yc22が成立する値である。
【0061】
すなわち、かかる構成においては、並列接続されるノード10と不平衡補償回路200とからなるシステム全体として、そのアドミタンス行列の対角要素が略等しくなるので、各相の対称性が確保され、ネットワーク全体でのコモンモードノイズによる影響を小さく抑制することが可能となる。尚、この不平衡補償回路200は、差動通信線路12上で対応のノード10の近傍に設けることが望ましい。
【0062】
ところで、上記した不平衡補償回路200は、センサ類やECUとしての一つのノード10に対して一つだけ設ける構成に限らず、複数のノード10に対して一つだけ設けることとしてもよい。例えば、差動通信線路12上のハブ16に、コモンモードノイズの波長に比べて十分に短い線路長の通信線路を介して接続するノード10が複数あるときは、それら複数のノード10のアドミタンス行列の総和Yに対して加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が略等しくなるようなアドミタンス行列Ycを有する不平衡補償回路200を一つ構成し、その一つの不平衡補償回路200をその複数のノード10が接続するハブ16に設けることとすれば、それら複数のノード10全体の不平衡を補償できる。
【0063】
尚、この際、ハブ16に、ノイズ波長に比べて十分に短いとはいえない線路長(例えば、そのノイズ波長と同様以上の長さ)の通信線路を介して接続するノード10が存在するときは、ハブ16側からそのノード10(ハーネス部分も含む)を見た際のアドミタンス行列を上記した総和Yに加えて含ませることとし、その総和Yに対して加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が略等しくなるようなアドミタンス行列Ycを有する不平衡補償回路200を一つ構成することとすればよい。
【0064】
また、本実施例の差動通信ネットワークは、上記の如く、差動通信線路12に接続する複数のノード10を備えている。これら複数のノード10のうちには、差動通信線路12に接続する通信回路が互いに同等の特性(具体的には、ボデーグラウンド14に対する差動入力特性)を有するものが存在する。この場合には、これら互いに通信回路が同等の特性を有するノード10同士を互いの近傍において差動通信線路12に逆相で接続すること、すなわち、あるノード10の不平衡を補償する不平衡補償回路200としてそのノード10の通信回路と同等の特性を有する他のノード10を用いることとすれば、ノード10同士が互いの不平衡補償回路200として機能することとなるので、そのノード10の不平衡を補償できる。
【0065】
この点、例えば、差動通信線路12上のハブ16に、コモンモードノイズの波長に比べて十分に短い線路長の通信線路を介して接続するノード10が複数(図8においては6個)存在し、かつ、それらすべてのノード10のうちで各ノード10それぞれが自ノードと同等の特性を有する自ノードとは異なる他ノードと重複することなくペアリングされるときは、図8に示す如く、ペア同士の一対のノード10それぞれを互いに逆相で差動通信線路12に略同じ長さの通信線路で接続することとすれば、各ノード10の不平衡が吸収されて、それら複数のノード10全体として不平衡を補償することができる。
【0066】
また同様に、ハブ16にコモンモードノイズの波長に比べて十分に短いとはいえない線路長(例えば、そのノイズ波長と同様以上の長さ)の通信線路を介して接続するノード10が複数(図8においては2個)存在し、かつ、それらすべてのノード10のうちで各ノード10それぞれが自ノードと同等の特性を有する自ノードとは異なる他ノードと重複することなくペアリングされるときは、図8に示す如く、ペア同士の一対のノード10それぞれを互いに逆相で差動通信線路12に略同じ長さの通信線路で接続することとすれば、各ノード10の不平衡が吸収されて、それら複数のノード10全体として不平衡を補償することができる。
【0067】
尚、上記の第4実施例においては、不平衡補償回路200が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に相当している。
【実施例5】
【0068】
図9は、本発明の第5実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路300の構成図を示す。図10は、本実施例のフィルタ回路300の詳細構成図を示す。また、図11は、本実施例の差動通信ネットワークの要部構成図を示す。尚、図9乃至図11において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12bには、フィルタ回路300が接続されている。フィルタ回路300は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にコモンモードインピーダンスが小さくかつ通信で使用する周波数帯域で差動インピーダンスが大きくなる回路である。フィルタ回路300は、図9に示す如く、各相導体12a,12b(具体的には、各相導体12a,12bから分岐してその導体12a,12に接続した分岐ライン302a,302b)が互いに逆向きに誘導結合した相互インダクタンス素子304を有している。
【0070】
相互インダクタンス素子304は、磁性体コア306からなっている。磁性体コア306は、図10(A)に示す如く環状に或いは図10(B)に示す如く棒状に形成されている。差動通信線路12の導体12aから分岐した分岐ライン302aと導体12bから分岐した分岐ライン302bとは、互いに同じ巻数であるが、互いに逆向きに単一の磁性体コア306に巻かれている。すなわち、分岐ライン302aが磁性体コア306に巻かれた際の導体12a側からボデーグラウンド14側にかけての巻き方向と、分岐ライン302bが磁性体コア306に巻かれた際の導体12b側からボデーグラウンド14側にかけての巻き方向とが、磁性体コア306の環状に或いは棒状に延びる方向に対して互いに逆向きである。
【0071】
分岐ライン302aには、相互インダクタンス素子304の下流側にインピーダンス回路310の一端が接続されている。また、分岐ライン302bには、相互インダクタンス素子304の下流側にインピーダンス回路312の一端が接続されている。インピーダンス回路310,312はそれぞれ、差動通信線路12上における通信信号の低周波成分が漏れないように、差動インピーダンスを大きくするためのコンデンサであり、互いに精度よく一致したインピーダンスを有している。インピーダンス回路310の他端及びインピーダンス回路312の他端は共にボデーグラウンド14に接地されている。
【0072】
かかるフィルタ回路300においては、相互インダクタンス素子304の作用により、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくかつ通信で使用する周波数帯域で差動インピーダンスが大きくなる。すなわち、導体12a,12bに差動通信信号が流れる場合は、分岐ライン302a,302bに流れる電流によってそれぞれ発生する磁束が互いに打ち消し合うので、通信周波数帯で差動インピーダンスが大きくなる。一方、導体12a,12bの何れか一方(例えば導体12a)にコモンモードノイズが重畳した場合は、そのノイズ電流によって発生する磁束変化により他方の導体12b,12a(例えば導体12b)にその磁束変化に応じた起電力が誘起されてそのノイズ電流と略同じ量の電流が流通するので、コモンモードインピーダンスが小さくなる。
【0073】
このように、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、導体12a,12bとボデーグラウンド14との間に設けられたフィルタ回路300により、差動通信線路12と地板との間のコモンモードインピーダンスを低減させることができ、各ノード10に或いは各ノード10から伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能である。この点、ノード10の各相の平衡度が高められ、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができるので、外部から差動通信線路12にコモンモードノイズが流入した場合やノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出した場合にも、そのコモンモードノイズが大きな対地電圧や対地電流となるのを防止することができる。
【0074】
また、かかる構成においては、ノード間に伝搬するノイズを低減するうえで差動通信線路12をシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。従って、本実施例の差動通信ネットワークによれば、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0075】
ところで、上記の第5実施例において、コモンモードノイズの波長が差動通信線路12の線路長に比べて十分に長い場合は、上記したフィルタ回路300を、図11(A)に示す如くノード10内に差動通信線路12と通信回路320との間に設置すること、或いは、図11(B)に示す如く差動通信線路12の分岐路にあるハブ340内に挿入することとすればよい。かかる構成によれば、差動通信線路12と地板との間のコモンモードインピーダンスを低減させることができ、上記した効果を得ることが可能となる。
【実施例6】
【0076】
図12は、本発明の第6実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路400の構成図を示す。また、図13は、本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノード10の接続図の一例図を示す。尚、図12及び図13において、図2及び図9に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0077】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12bには、フィルタ回路400が接続されている。フィルタ回路400は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にコモンモードインピーダンスが小さくかつ通信で使用する周波数帯域で差動インピーダンスが大きくなり、更に、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに整合するインピーダンスを有する回路である。
【0078】
フィルタ回路400は、上記した第5実施例のフィルタ回路300と同様に、磁性体コア306からなる相互インダクタンス素子304を有している。このフィルタ回路400において、分岐ライン302aに一端が接続されたインピーダンス回路310の他端、及び、分岐ライン302bに一端が接続されたインピーダンス回路312の他端は、単一のインピーダンス回路402を介してボデーグラウンド14に設置されている。このインピーダンス回路402は、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有しており、具体的には、150Ωの抵抗値を有する抵抗である。
【0079】
かかるフィルタ回路400の構成においては、上記した第5実施例のフィルタ回路300と同様に差動通信線路12と地板との間のコモンモードインピーダンスを低減させることができるので、上記した効果を実現することができると共に、更に、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができるので、コモンモードノイズを吸収して差動通信線路12上での共振を防止することができる。
【0080】
このため、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、外部から差動通信線路12にコモンモードノイズが流入した場合やノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出した場合にも、そのコモンモードノイズが大きな対地電圧や対地電流となるのを防止することができ、これにより、電磁ノイズによる通信妨害やネットワークからのノイズ放射による他の電子機器への影響を更に効果的に防止することが可能となる。
【0081】
ところで、上記の第6実施例において、コモンモードノイズの波長が差動通信線路12の線路長に比べて十分長くはない場合は、上記したフィルタ回路400を、図13に示す如くネットワークの両端にあるハブ420,422に内蔵させることとすればよい。かかる構成によれば、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができるので、コモンモードノイズを吸収して差動通信線路12上での共振を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施例である差動通信ネットワークの構成図である。
【図2】本実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図3】本実施例の差動通信ネットワークにおけるフィルタ回路の挿入位置を表した図である。
【図4】図3に示すフィルタ回路における効果を説明するための図である。
【図5】本発明の第2実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図6】本発明の第3実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図7】本発明の第4実施例である差動通信ネットワークの要部構成図である。
【図8】本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノードの接続図の一例である。
【図9】本発明の第5実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図10】本実施例のフィルタ回路の詳細構成図である。
【図11】本実施例の差動通信ネットワークの要部構成図である。
【図12】本発明の第5実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図13】本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノードの接続図の一例図である。
【符号の説明】
【0083】
10 ノード
12 差動通信線路
12a,12b 各相導体
16 ハブ
18 スルーコネクタ
30,100,150,300,400 フィルタ回路
32〜36,102〜108,152〜160,402 インピーダンス回路
200 不平衡補償回路
304 相互インダクタンス素子
306 磁性体コア
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動通信ネットワークに係り、特に、差動通信線路を介したノード間での差動通信をコモンモードノイズが妨害するのを低減するうえで好適な差動通信ネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、差動通信線路を介して接続された複数のノードを備える差動通信ネットワークが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。このネットワークは、差動通信線路として2本の通信線路を有しており、2本の通信線路間に電位差が生じるような差動信号を流すことによりノード間での差動通信を行う。差動通信は、外部からノードへのコモンモード電磁ノイズの流入を低減することができるので、従って、かかるネットワークシステムによれば、特に高周波の信号伝送に対して、外部からのノイズが伝搬するのを抑制することが可能となっている。
【特許文献1】特許第3166571号公報
【特許文献2】特開2004−96351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、2本の通信線路を用いて差動通信を行うネットワークにおいては、その差動通信を適切に行ううえで、ノードの通信回路が対称性を有していることが望ましい。しかし、ノードの通信回路を対称性が満たされるように構成することは困難であり、非対称性を有することがある。この点、コモンモードノイズによる電圧は、理想的には2本の通信線路に逆相で同じように現れるので、そのノイズの影響は相殺される筈であるが、上記の如くノードの通信回路に非対称性があるときは、2本の通信線路に逆相で同じように現れなくなるので、そのノイズの影響が顕在化するおそれがある。そこで、上記した特許文献1記載の差動通信ネットワークにおいては、ネットワークの平衡度を改善してコモンモードノイズの影響を小さく抑えるため、通信線路に介在されたトランスの二次側のセンタータップをコンデンサを介して接地すると共に、そのセンタータップを2つの通信線路それぞれにインピーダンス回路を介して接続する。しかし、かかる構成では、トランスを設ける必要があるため、製造コストがかかるという問題がある。
【0004】
また、上記した特許文献2記載の差動通信ネットワークにおいては、コモンモードノイズによる影響を抑えるため、送信側又は受信側に通信線路の特性インピーダンスより定まる終端インピーダンスを有する素子を各導体からセンタータップにて接続する。かかる構成によれば、ネットワークのコモンモードインピーダンスに対して整合するため、ノードへの電磁ノイズの流入やネットワークからの電磁ノイズの流出を低減することができる。しかし、この構成は、一対一のノード間における差動伝送路に対応したものであり、複数のノードが並列バスで接続されたネットワークには適用できないものである。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、差動通信においてコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能な差動通信ネットワークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、複数のノードを互いに接続させる差動通信線路と、前記差動通信線路に挿入され、該差動通信線路を介したノード間での通信がコモンモードノイズにより妨害されるのを低減するフィルタ回路と、を備える差動通信ネットワークであって、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路への挿入位置近傍にあるノードの各相の不平衡を補償し、及び/又は、当該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有し、前記差動通信線路の各相導体は、前記フィルタ回路を介して接地される差動通信ネットワークにより達成される。
【0007】
この態様の発明において、フィルタ回路は、差動通信線路への挿入位置近傍にあるノードの各相の不平衡を補償し、及び/又は、ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有している。また、差動通信線路の各相導体は、そのフィルタ回路を介して接地されている。このため、かかる構成によれば、簡易な回路でノードの各相の平衡度を高めることができ又はネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができるので、ノード間通信へのコモンモードノイズによる影響を簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0008】
尚、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の両導体間で対称性が確保されるように、コモンモードノイズの周波数帯域でインピーダンスを小さくする第1のインピーダンス回路と、ノードの内部インピーダンスよりも十分に小さいインピーダンス又は該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有する第2のインピーダンス回路と、からなることとしてもよい。
【0009】
この場合、前記第1のインピーダンス回路と前記第2のインピーダンス回路とは、前記差動通信線路の導体とグラウンドとの間で互いに直列接続されていることとすればよい。
【0010】
また、前記第1のインピーダンス回路は、前記差動通信線路の一方の導体に接続される一方側インピーダンス回路と、前記差動通信線路の他方の導体に接続される他方側インピーダンス回路と、からなり、前記一方側インピーダンス回路及び前記他方側インピーダンス回路はそれぞれ、共通の前記第2のインピーダンス回路を介してグラウンドに接続されていることとすればよい。
【0011】
また、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路に接続するノードの差動入力特性に関するアドミタンス行列に加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が等しくなるようなアドミタンス行列を有することとしてもよい。
【0012】
更に、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路のハブ又はスルーコネクタに内蔵されていることとしてもよい。
【0013】
また、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、互いに同等の差動入力特性を有し、かつ、互いの近傍において前記差動通信線路に互いに逆相で接続されたノード同士であることとしてもよい。
【0014】
この場合、前記ノード同士はそれぞれ、前記差動通信線路のハブに略同じ長さの通信線路で接続されていることが望ましい。
【0015】
また、上記した差動通信ネットワークにおいて、前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の各相導体が逆向きに誘導結合した相互インダクタンス素子を有することとしてもよい。
【0016】
この場合、前記相互インダクタンス素子は、前記差動通信線路の各相導体が互いに逆向きに巻かれた磁性体コアからなることとすればよい。
【0017】
尚、本発明において、「逆向き」とは、差動通信線路の一方の相の導体に電流(例えばグラウンド側へ向けて)が流れたときに他方の相の導体に同方向の電流(例えばグラウンド側へ向けて)が流れることをいう。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、差動通信においてコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の第1実施例である差動通信ネットワークの構成図を示す。本実施例の差動通信ネットワークは、車両に搭載される、ノード間の制御通信のために複数のノードが並列にバス接続されたネットワークである。この差動通信ネットワークは、図1に示す如く、複数のノード10と、それら複数のノード10を互いに接続させる差動通信線路12と、を備えている。
【0021】
各ノード10はそれぞれ、車両の状態を検出するためのセンサ類やセンサからの情報に基づいてアクチュエータをコントロールする制御用のコントローラ(以下、ECUと称す)である。また、差動通信線路12は、センサやECUの間での制御通信信号を媒介する線路であって、2本一組のツイスト線よりなっている。以下、この差動通信線路12の各相導体を12a,12bとする。差動通信線路12の各相導体12a,12bには、互いに逆相の差動モード電流が流れ、電位差が生じるような差動信号が流れる。
【0022】
各ノード10にはそれぞれ、通信回路が設けられている。ノード10は、通信回路において差動通信線路12での通信プロトコルに従って送信データや受信データを変換して他のノード10との差動通信線路12を介した通信を行う。
【0023】
差動通信線路12は、車両のボデー14上に搭載され、車体前後左右に張り巡らされる。差動通信線路12の途中には、適宜、その差動通信線路12を分岐するための2本のバスバーを内蔵するハブ16、及び、ネットワークとの分離・着脱を自在にするためのスルーコネクタ18が設けられる。
【0024】
差動通信線路12には、本実施例の差動通信ネットワークとは異なる車載システムに用いられる種類の異なる通信線路やアクチュエータを駆動するパワーライン等のハーネス群20が並走する部分(図1においてはその一部)がある。並走ハーネス群20には、差動ハーネスや車両ボデーを帰路とするシングルエンドハーネス等が混在する。差動通信線路12と並走ハーネス群20との並走部分は、予めテープ等で密接に束ねられたハーネス束22となっている。このハーネス束22の位置は、例えば、車両前部と後部とを繋ぐ車両ドア下の部位などである。
【0025】
ところで、並走ハーネス群20のいずれかにその線路に接続されたアクチュエータ等からのノイズ(例えば10MHz〜20MHz)が印加されると、本実施例の差動通信ネットワークのノード10にノイズが伝搬することがあり、そのため、その差動通信ネットワークに通信障害が生ずることがある。
【0026】
具体的には、ノイズが印加された並走ハーネス群20の線路とその線路を含まないハーネス束22の線路との導体間に電磁結合または静電結合が生ずることにより、ハーネス束22全体のボデー14に対する電圧(コモンモード電圧)にノイズが現れることがある。差動通信ネットワークは、ノード10間で差動通信線路12を介して差動通信を行うため、コモンモードノイズによる影響は相殺され、通信障害が生ずることはない筈である。しかし、実際には、ノード10の有する通信回路や差動通信線路12自体の非対称性が存在することに起因して、コモンモード電圧が差動通信線路12の2線に逆相で同じように現れることができず、その結果として、コモンモードノイズが差動モードに変換されてノード10に伝搬することとなる。
【0027】
そこで、本実施例においては、コモンモードノイズによる影響をできるだけ低減して、ノード10間での差動通信を適切に行い得るようにノイズ終端回路としてのフィルタ回路を設けた点に特徴を有している。以下、図2乃至図4を参照して、本実施例の特徴部について説明する。
【0028】
図2は、本実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路30の構成図を示す。尚、図2(A)には回路構成を、また、図2(B)には図2(A)に示す回路構成を部品を用いて具体化した回路図を、それぞれ示す。図3は、本実施例の差動通信ネットワークにおけるフィルタ回路30の挿入位置を表した図を示す。また、図4は、図3に示すフィルタ回路30における効果を説明するための図を示す。
【0029】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12b間には、フィルタ回路30が挿入されている。フィルタ回路30は、導体12aと導体12bとの間に直列に接続されたインピーダンス回路32とインピーダンス回路34とを有している。インピーダンス回路32,34は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくなる回路である。インピーダンス回路32,34は、具体的には、それぞれ例えば150pFの容量を有するコンデンサである。
【0030】
インピーダンス回路32とインピーダンス回路34との接続部には、インピーダンス回路36の一端が接続されている。インピーダンス回路36の他端はグラウンド(ボデー14)に接地されている。インピーダンス回路36は、ノード10の通信回路の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する回路である。インピーダンス回路36は、具体的には、例えば150Ωの抵抗値を有する抵抗である。また、このインピーダンスの値は、差動通信線路12と並走ハーネス群20とを含むハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。
【0031】
すなわち、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、フィルタ回路30として、コモンモードノイズの周波数帯域において十分にインピーダンスが小さくなるインピーダンス回路32,34が差動通信線路12の各相導体12a,12b間で直列に接続されると共に、それらインピーダンス回路32,34の接続点とボデーグラウンド14との間にノード10の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する単一のインピーダンス回路36が介挿される。この場合には、差動通信線路12の各相対称に、導体12aとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路32とインピーダンス回路36とが互いに直列接続され、かつ、導体12bとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路34とインピーダンス回路36とが互いに直列接続される回路が構成される。
【0032】
かかるフィルタ回路30の構成においては、コモンモードノイズの周波数帯域において、差動通信線路12上やノード10の通信回路に非対称なインピーダンスが存在していても、そのインピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有するインピーダンス回路36が存在しかつインピーダンス回路32,34が共に低インピーダンスであって、更に、両インピーダンス回路32,34が各相で並列に接続されたうえで単一のインピーダンス回路36に接続されるため、各相の合成インピーダンスは略均一化された値となる。従って、ノード10の各相の平衡度が高められるので、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができる。このため、外部から差動通信線路12にコモンモードノイズが流入した場合やノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出した場合にも、ノード10間における通信へのコモンモードノイズによる影響(例えば、通信妨害やネットワークからのノイズ放射による他の電子機器への影響)を小さく抑えることが可能となっている。
【0033】
尚、差動通信線路12の各相導体12a,12bにおけるフィルタ回路30が挿入される位置は、ノード10の通信回路内や分岐路にあるハブ16内,スルーコネクタ18内であることでよいが、必ずしもそのすべてである必要はなく、必要に応じて一部のノード10のみやハブ16のみであってもよい。一般に、ノード10間の線路長が長くなると、その間の通信が差動通信線路12のインピーダンスにより影響を受けることとなる。従って、フィルタ回路30の挿入位置は、ノード10間の線路長やノード10とハブ16との間の線路長を考慮して決定すればよい。
【0034】
例えば、ある一つのハブ16に複数のノード10が接続されているネットワークにおいて、それら各ノード10とハブ16との間の差動通信線路12の線路長がコモンモードノイズの波長に比べて十分に小さい場合には、フィルタ回路30をそのハブ16のみに或いはそれらノード10の何れか一つに設けることとすればよい。一方、それら各ノード10とハブ16との間の差動通信線路12の線路長がコモンモードノイズの波長に比べて十分に小さくはない場合(例えば、そのノイズ波長と同様以上の長さである場合)には、フィルタ回路30を各ノード10内に或いはノード10とハブ16との間に設けられたスルーコネクタ18内に設けることが必要となる。
【0035】
また、上記の如く、フィルタ回路30において、インピーダンス回路36のインピーダンス値は、差動通信線路12と並走ハーネス群20とを含むハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。従って、差動通信線路12の各相導体12a,12bへのフィルタ回路30の挿入により、ハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができる。このため、コモンモードノイズが吸収されて差動通信線路12上での共振が防止されるので、コモンモードノイズが伝搬し難くなり、ノード10への電磁ノイズの流入やネットワークからの電磁ノイズの流出を低減することができ、コモンモードノイズが大きな対地電圧又は対地電流となるのを防止することができ、電磁ノイズによる通信妨害やネットワークからのノイズ放射による他の電子機器への影響を効果的に防止することが可能である。
【0036】
例えば、図3に示す如く、3つのノード10−1〜10−3が一つのハブ16に比較的短い線路長で接続されているときは、そのハブ16内にフィルタ回路30を設ける。この構成によれば、並走ハーネス群20からコモンモードノイズが差動通信線路12に伝搬されても、或いは、ノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出しても、フィルタ回路30の機能により、そのフィルタ回路30が設けられていない構成に比べて、特にノイズ周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)においてコモンモードノイズのレベルを低減させることが可能である(図4(A)及び(B))。
【0037】
このように、本実施例の差動通信ネットワークによれば、フィルタ回路30により各ノード10に或いは各ノード10から伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能であるので、このため、差動通信線路12をそのノイズ伝搬を低減するためのシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。但し、差動通信線路12がコモンモードノイズを低減するためのシールド線で構成されていれば、フィルタ回路30により各ノード10に伝搬し得るコモンモードノイズの低減を更に効果的に実現することが可能である。
【0038】
従って、本実施例の差動通信ネットワークによれば、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0039】
尚、上記の第1実施例においては、フィルタ回路30が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に、インピーダンス回路32,34が特許請求の範囲に記載した「第1のインピーダンス回路」、「一方側インピーダンス回路」、及び「他方側インピーダンス回路」に、インピーダンス回路36が特許請求の範囲に記載した「第2のインピーダンス回路」に、それぞれ相当している。
【実施例2】
【0040】
図5は、本発明の第2実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路100の構成図を示す。尚、図5(A)には回路構成を、また、図5(B)には図5(A)に示す回路構成を部品を用いて具体化した回路図を、それぞれ示す。また、図5において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12b間には、フィルタ回路100が挿入されている。フィルタ回路100は、導体12aとボデーグラウンド14との間に互いに直列に接続されたインピーダンス回路102とインピーダンス回路104とを有していると共に、導体12bとボデーグラウンド14との間に直列に接続されたインピーダンス回路106とインピーダンス回路108とを有している。
【0042】
インピーダンス回路102,106は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくなる回路であって、それぞれ例えば150pFの容量を有するコンデンサである。また、インピーダンス回路104,108は、ノード10の通信回路の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する回路であって、それぞれ例えば150Ωの抵抗値を有する抵抗である。尚、インピーダンス回路104とインピーダンス回路108とのインピーダンス値(抵抗値)は、精度よく一致した値であって、ハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。
【0043】
すなわち、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、フィルタ回路100として、コモンモードノイズの周波数帯域において十分にインピーダンスが小さくなるインピーダンス回路102,106が差動通信線12の各相に対して並列(対称)に接続されると共に、それらのインピーダンス回路102,106の他端とボデーグラウンド14との間にそれぞれ、ノード10の内部インピーダンスに対して十分に小さくかつ精度よく互いに一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路104,108が介挿される。この場合には、差動通信線路12の各相対称に、導体12aとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路102とインピーダンス回路104とが互いに直列接続され、かつ、導体12bとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路106とインピーダンス回路108とが互いに直列接続される回路が構成される。
【0044】
かかるフィルタ回路100の構成においては、コモンモードノイズの周波数帯域において、差動通信線路12上やノード10の通信回路に非対称なインピーダンスが存在していても、そのインピーダンスに対して十分に小さくかつ両者で精度よく一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路104,108が存在しかつインピーダンス回路102,106が共に低インピーダンスであって、更に、各相で並列にインピーダンス回路102がインピーダンス回路104にかつインピーダンス回路106がインピーダンス回路108にそれぞれ接続されるため、各相の合成インピーダンスは略均一化された値となる。従って、ノード10の各相の平衡度が高められるので、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができる。このため、ノード10間における通信へのコモンモードノイズによる影響を小さく抑えることが可能となっている。
【0045】
このように、本実施例の差動通信ネットワークによれば、フィルタ回路100により各ノード10に伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能であるので、このため、差動通信線路12をそのノイズ伝搬を低減するためのシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。従って、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0046】
尚、上記の第2実施例においては、フィルタ回路100が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に、インピーダンス回路102,106が特許請求の範囲に記載した「第1のインピーダンス回路」に、インピーダンス回路104,108が特許請求の範囲に記載した「第2のインピーダンス回路」に、それぞれ相当している。
【実施例3】
【0047】
図6は、本発明の第3実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路150の構成図を示す。尚、図6(A)には回路構成を、また、図6(B)には図6(A)に示す回路構成を部品を用いて具体化した回路図を、それぞれ示す。また、図6において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12b間には、フィルタ回路150が挿入されている。フィルタ回路150は、導体12aとボデーグラウンド14との間に互いに直列に接続されたインピーダンス回路152とインピーダンス回路154とを有していると共に、導体12bとボデーグラウンド14との間に互いに直列に接続されたインピーダンス回路156とインピーダンス回路158とを有している。インピーダンス回路152とインピーダンス回路154との接続部と、インピーダンス回路156とインピーダンス回路158との接続部との間には、インピーダンス回路160が介在されている。
【0049】
インピーダンス回路152,156は、ノード10の通信回路の内部インピーダンスに対して十分に小さなインピーダンスを有する回路であって、それぞれ例えば360Ωの抵抗値を有する抵抗である。尚、インピーダンス回路152とインピーダンス回路156とのインピーダンス値(抵抗値)は、精度よく一致した値であって、ハーネス束22全体のコモンモードインピーダンスに整合するように調整されている。また、インピーダンス回路160は、例えば560Ωの抵抗値を有する抵抗である。更に、インピーダンス回路154,158は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくなる回路であって、それぞれ例えば2200pFの容量を有するコンデンサである。
【0050】
すなわち、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、フィルタ回路150として、ノード10の内部インピーダンスに対して十分に小さくかつ精度よく一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路152,156が、差動通信線12の各相に対して並列(対称)に接続され、かつ、インピーダンス回路160を介して各相導体12a,12b間で互いに直列接続されると共に、それらインピーダンス回路160の両端それぞれとボデーグラウンド14との間にコモンモードノイズの周波数帯域において十分にインピーダンスが小さくなるインピーダンス回路154,158が介挿される。この場合には、差動通信線路12の各相対称に、導体12aとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路152とインピーダンス回路154とが互いに直列接続され、かつ、導体12bとボデーグラウンド14との間でインピーダンス回路156とインピーダンス回路158とが互いに直列接続される回路が構成される。
【0051】
かかるフィルタ回路150の構成においては、コモンモードノイズの周波数帯域において、インピーダンス回路154,158が共に低インピーダンスであるので、インピーダンス回路152と154との接続点およびインピーダンス回路156と158との接続点が共に接地されるものとなる。この場合、差動通信線路12上やノード10の通信回路に非対称なインピーダンスが存在していても、そのインピーダンスに対して十分に小さくかつ両者で精度よく一致したインピーダンスを有するインピーダンス回路152,156が存在することによって、各相の合成インピーダンスは略均一化された値となる。従って、ノード10の各相の平衡度が高められるので、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができる。このため、ノード10間における通信へのコモンモードノイズによる影響を小さく抑えることが可能となっている。
【0052】
このように、本実施例の差動通信ネットワークによれば、フィルタ回路150により各ノード10に伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能であるので、このため、差動通信線路12をそのノイズ伝搬を低減するためのシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。従って、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0053】
また、このフィルタ回路150の構成において、差動通信線路12の各相導体12a,12bに接続するインピーダンス回路は、上記した第1及び第2実施例のフィルタ回路30,100の如きコンデンサからなるものではなく、抵抗からなるインピーダンス回路152,156である。このため、本実施例によれば、差動通信線路12上を流れるノード間の制御通信信号の波形がコンデンサによりなまされ易くなるのを防止することが可能となっている。
【0054】
尚、上記の第3実施例においては、フィルタ回路150が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に、インピーダンス回路154,158が特許請求の範囲に記載した「第1のインピーダンス回路」に、インピーダンス回路152,156が特許請求の範囲に記載した「第2のインピーダンス回路」に、それぞれ相当している。
【実施例4】
【0055】
図7は、本発明の第4実施例である差動通信ネットワークの要部構成図を示す。また、図8は、本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノード10の接続図の一例を示す。尚、図7及び図8において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
上記した第1乃至第3実施例では、差動通信ネットワークでのコモンモードノイズによる影響をできるだけ低減すべく、差動通信線12の各相導体12a,12b間や各相導体とボデーグラウンド14との間にインピーダンス回路を用いて回路構成されたフィルタ回路30,100,150を設けることとした。
【0057】
一般に、ノード10の通信回路を差動通信線路12の接続端子側から見た際のアドミタンス行列Yは、次式(1)の如く表される。尚、この際、アドミタンス行列Yの各要素は、ボデーグラウンド14に対する差動通信線路12の各相成分を定量的に表したものである。
【0058】
通常は、y12=y21が成立するものである。このため、ノード10が非対称性を有する場合は、そのノード10において上記したアドミタンス行列Yのy11成分とy22成分とは一致しないが、ノード10が非対称性を有しない場合は、そのノード10においてはy11=y22が成立することとなる。すなわち、アドミタンス行列についてy11=y22が成立すれば、そのノード10の対称性が確保されることとなる。更に、差動通信線路12にノード10に対して並列に接続する回路が存在するときは、その並列接続されたノード10と回路とからなる全体でのアドミタンス行列は、各要素が加算されたものとなる。
【0059】
従って、非対称性を有するノード10(そのアドミタンス行列をYとする。)が存在するときは、アドミタンス行列Ycが次式(2)に示す如き要素を有することとなる回路(不平衡補償回路)200を構成し、その不平衡補償回路200を図7に示す如く差動通信線路12にそのノード10に対して並列に接続することとすれば、そのノード10の不平衡を補償できる。
【0060】
但し、行列要素yc11及びyc22はそれぞれ、y11+yc11=y22+yc22が成立する値である。
【0061】
すなわち、かかる構成においては、並列接続されるノード10と不平衡補償回路200とからなるシステム全体として、そのアドミタンス行列の対角要素が略等しくなるので、各相の対称性が確保され、ネットワーク全体でのコモンモードノイズによる影響を小さく抑制することが可能となる。尚、この不平衡補償回路200は、差動通信線路12上で対応のノード10の近傍に設けることが望ましい。
【0062】
ところで、上記した不平衡補償回路200は、センサ類やECUとしての一つのノード10に対して一つだけ設ける構成に限らず、複数のノード10に対して一つだけ設けることとしてもよい。例えば、差動通信線路12上のハブ16に、コモンモードノイズの波長に比べて十分に短い線路長の通信線路を介して接続するノード10が複数あるときは、それら複数のノード10のアドミタンス行列の総和Yに対して加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が略等しくなるようなアドミタンス行列Ycを有する不平衡補償回路200を一つ構成し、その一つの不平衡補償回路200をその複数のノード10が接続するハブ16に設けることとすれば、それら複数のノード10全体の不平衡を補償できる。
【0063】
尚、この際、ハブ16に、ノイズ波長に比べて十分に短いとはいえない線路長(例えば、そのノイズ波長と同様以上の長さ)の通信線路を介して接続するノード10が存在するときは、ハブ16側からそのノード10(ハーネス部分も含む)を見た際のアドミタンス行列を上記した総和Yに加えて含ませることとし、その総和Yに対して加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が略等しくなるようなアドミタンス行列Ycを有する不平衡補償回路200を一つ構成することとすればよい。
【0064】
また、本実施例の差動通信ネットワークは、上記の如く、差動通信線路12に接続する複数のノード10を備えている。これら複数のノード10のうちには、差動通信線路12に接続する通信回路が互いに同等の特性(具体的には、ボデーグラウンド14に対する差動入力特性)を有するものが存在する。この場合には、これら互いに通信回路が同等の特性を有するノード10同士を互いの近傍において差動通信線路12に逆相で接続すること、すなわち、あるノード10の不平衡を補償する不平衡補償回路200としてそのノード10の通信回路と同等の特性を有する他のノード10を用いることとすれば、ノード10同士が互いの不平衡補償回路200として機能することとなるので、そのノード10の不平衡を補償できる。
【0065】
この点、例えば、差動通信線路12上のハブ16に、コモンモードノイズの波長に比べて十分に短い線路長の通信線路を介して接続するノード10が複数(図8においては6個)存在し、かつ、それらすべてのノード10のうちで各ノード10それぞれが自ノードと同等の特性を有する自ノードとは異なる他ノードと重複することなくペアリングされるときは、図8に示す如く、ペア同士の一対のノード10それぞれを互いに逆相で差動通信線路12に略同じ長さの通信線路で接続することとすれば、各ノード10の不平衡が吸収されて、それら複数のノード10全体として不平衡を補償することができる。
【0066】
また同様に、ハブ16にコモンモードノイズの波長に比べて十分に短いとはいえない線路長(例えば、そのノイズ波長と同様以上の長さ)の通信線路を介して接続するノード10が複数(図8においては2個)存在し、かつ、それらすべてのノード10のうちで各ノード10それぞれが自ノードと同等の特性を有する自ノードとは異なる他ノードと重複することなくペアリングされるときは、図8に示す如く、ペア同士の一対のノード10それぞれを互いに逆相で差動通信線路12に略同じ長さの通信線路で接続することとすれば、各ノード10の不平衡が吸収されて、それら複数のノード10全体として不平衡を補償することができる。
【0067】
尚、上記の第4実施例においては、不平衡補償回路200が特許請求の範囲に記載した「フィルタ回路」に相当している。
【実施例5】
【0068】
図9は、本発明の第5実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路300の構成図を示す。図10は、本実施例のフィルタ回路300の詳細構成図を示す。また、図11は、本実施例の差動通信ネットワークの要部構成図を示す。尚、図9乃至図11において、図2に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12bには、フィルタ回路300が接続されている。フィルタ回路300は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にコモンモードインピーダンスが小さくかつ通信で使用する周波数帯域で差動インピーダンスが大きくなる回路である。フィルタ回路300は、図9に示す如く、各相導体12a,12b(具体的には、各相導体12a,12bから分岐してその導体12a,12に接続した分岐ライン302a,302b)が互いに逆向きに誘導結合した相互インダクタンス素子304を有している。
【0070】
相互インダクタンス素子304は、磁性体コア306からなっている。磁性体コア306は、図10(A)に示す如く環状に或いは図10(B)に示す如く棒状に形成されている。差動通信線路12の導体12aから分岐した分岐ライン302aと導体12bから分岐した分岐ライン302bとは、互いに同じ巻数であるが、互いに逆向きに単一の磁性体コア306に巻かれている。すなわち、分岐ライン302aが磁性体コア306に巻かれた際の導体12a側からボデーグラウンド14側にかけての巻き方向と、分岐ライン302bが磁性体コア306に巻かれた際の導体12b側からボデーグラウンド14側にかけての巻き方向とが、磁性体コア306の環状に或いは棒状に延びる方向に対して互いに逆向きである。
【0071】
分岐ライン302aには、相互インダクタンス素子304の下流側にインピーダンス回路310の一端が接続されている。また、分岐ライン302bには、相互インダクタンス素子304の下流側にインピーダンス回路312の一端が接続されている。インピーダンス回路310,312はそれぞれ、差動通信線路12上における通信信号の低周波成分が漏れないように、差動インピーダンスを大きくするためのコンデンサであり、互いに精度よく一致したインピーダンスを有している。インピーダンス回路310の他端及びインピーダンス回路312の他端は共にボデーグラウンド14に接地されている。
【0072】
かかるフィルタ回路300においては、相互インダクタンス素子304の作用により、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にインピーダンスが小さくかつ通信で使用する周波数帯域で差動インピーダンスが大きくなる。すなわち、導体12a,12bに差動通信信号が流れる場合は、分岐ライン302a,302bに流れる電流によってそれぞれ発生する磁束が互いに打ち消し合うので、通信周波数帯で差動インピーダンスが大きくなる。一方、導体12a,12bの何れか一方(例えば導体12a)にコモンモードノイズが重畳した場合は、そのノイズ電流によって発生する磁束変化により他方の導体12b,12a(例えば導体12b)にその磁束変化に応じた起電力が誘起されてそのノイズ電流と略同じ量の電流が流通するので、コモンモードインピーダンスが小さくなる。
【0073】
このように、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、導体12a,12bとボデーグラウンド14との間に設けられたフィルタ回路300により、差動通信線路12と地板との間のコモンモードインピーダンスを低減させることができ、各ノード10に或いは各ノード10から伝搬し得るコモンモードノイズを低減することが可能である。この点、ノード10の各相の平衡度が高められ、ノード10の各相の非対称性が軽減され、その不平衡を補償することができるので、外部から差動通信線路12にコモンモードノイズが流入した場合やノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出した場合にも、そのコモンモードノイズが大きな対地電圧や対地電流となるのを防止することができる。
【0074】
また、かかる構成においては、ノード間に伝搬するノイズを低減するうえで差動通信線路12をシールド線とすることは不要であり、差動通信線路12を用いてネットワークを構成するうえで簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。従って、本実施例の差動通信ネットワークによれば、ノード10間の差動通信へのコモンモードノイズによる影響をできるだけ簡易な構成で小さく抑えることが可能となっている。
【0075】
ところで、上記の第5実施例において、コモンモードノイズの波長が差動通信線路12の線路長に比べて十分に長い場合は、上記したフィルタ回路300を、図11(A)に示す如くノード10内に差動通信線路12と通信回路320との間に設置すること、或いは、図11(B)に示す如く差動通信線路12の分岐路にあるハブ340内に挿入することとすればよい。かかる構成によれば、差動通信線路12と地板との間のコモンモードインピーダンスを低減させることができ、上記した効果を得ることが可能となる。
【実施例6】
【0076】
図12は、本発明の第6実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路400の構成図を示す。また、図13は、本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノード10の接続図の一例図を示す。尚、図12及び図13において、図2及び図9に示す構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0077】
本実施例の差動通信ネットワークにおいて、差動通信線路12の各相導体12a,12bには、フィルタ回路400が接続されている。フィルタ回路400は、コモンモードノイズの周波数帯域(例えば10MHz〜20MHz)で十分にコモンモードインピーダンスが小さくかつ通信で使用する周波数帯域で差動インピーダンスが大きくなり、更に、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに整合するインピーダンスを有する回路である。
【0078】
フィルタ回路400は、上記した第5実施例のフィルタ回路300と同様に、磁性体コア306からなる相互インダクタンス素子304を有している。このフィルタ回路400において、分岐ライン302aに一端が接続されたインピーダンス回路310の他端、及び、分岐ライン302bに一端が接続されたインピーダンス回路312の他端は、単一のインピーダンス回路402を介してボデーグラウンド14に設置されている。このインピーダンス回路402は、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有しており、具体的には、150Ωの抵抗値を有する抵抗である。
【0079】
かかるフィルタ回路400の構成においては、上記した第5実施例のフィルタ回路300と同様に差動通信線路12と地板との間のコモンモードインピーダンスを低減させることができるので、上記した効果を実現することができると共に、更に、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができるので、コモンモードノイズを吸収して差動通信線路12上での共振を防止することができる。
【0080】
このため、本実施例の差動通信ネットワークにおいては、外部から差動通信線路12にコモンモードノイズが流入した場合やノード10から差動通信線路12にコモンモードノイズが流出した場合にも、そのコモンモードノイズが大きな対地電圧や対地電流となるのを防止することができ、これにより、電磁ノイズによる通信妨害やネットワークからのノイズ放射による他の電子機器への影響を更に効果的に防止することが可能となる。
【0081】
ところで、上記の第6実施例において、コモンモードノイズの波長が差動通信線路12の線路長に比べて十分長くはない場合は、上記したフィルタ回路400を、図13に示す如くネットワークの両端にあるハブ420,422に内蔵させることとすればよい。かかる構成によれば、ネットワーク全体のコモンモードインピーダンスに対する整合を高めることができるので、コモンモードノイズを吸収して差動通信線路12上での共振を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施例である差動通信ネットワークの構成図である。
【図2】本実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図3】本実施例の差動通信ネットワークにおけるフィルタ回路の挿入位置を表した図である。
【図4】図3に示すフィルタ回路における効果を説明するための図である。
【図5】本発明の第2実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図6】本発明の第3実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図7】本発明の第4実施例である差動通信ネットワークの要部構成図である。
【図8】本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノードの接続図の一例である。
【図9】本発明の第5実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図10】本実施例のフィルタ回路の詳細構成図である。
【図11】本実施例の差動通信ネットワークの要部構成図である。
【図12】本発明の第5実施例の差動通信ネットワークが備えるフィルタ回路の構成図である。
【図13】本実施例の差動通信ネットワークにおける複数のノードの接続図の一例図である。
【符号の説明】
【0083】
10 ノード
12 差動通信線路
12a,12b 各相導体
16 ハブ
18 スルーコネクタ
30,100,150,300,400 フィルタ回路
32〜36,102〜108,152〜160,402 インピーダンス回路
200 不平衡補償回路
304 相互インダクタンス素子
306 磁性体コア
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノードを互いに接続させる差動通信線路と、前記差動通信線路に挿入され、該差動通信線路を介したノード間での通信がコモンモードノイズにより妨害されるのを低減するフィルタ回路と、を備える差動通信ネットワークであって、
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路への挿入位置近傍にあるノードの各相の不平衡を補償し、及び/又は、当該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有し、
前記差動通信線路の各相導体は、前記フィルタ回路を介して接地されることを特徴とする差動通信ネットワーク。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の両導体間で対称性が確保されるように、コモンモードノイズの周波数帯域でインピーダンスを小さくする第1のインピーダンス回路と、ノードの内部インピーダンスよりも十分に小さいインピーダンス又は該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有する第2のインピーダンス回路と、からなることを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項3】
前記第1のインピーダンス回路と前記第2のインピーダンス回路とは、前記差動通信線路の導体とグラウンドとの間で互いに直列接続されていることを特徴とする請求項2記載の差動通信ネットワーク。
【請求項4】
前記第1のインピーダンス回路は、前記差動通信線路の一方の導体に接続される一方側インピーダンス回路と、前記差動通信線路の他方の導体に接続される他方側インピーダンス回路と、からなり、
前記一方側インピーダンス回路及び前記他方側インピーダンス回路はそれぞれ、共通の前記第2のインピーダンス回路を介してグラウンドに接続されていることを特徴とする請求項3記載の差動通信ネットワーク。
【請求項5】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路に接続するノードの差動入力特性に関するアドミタンス行列に加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が等しくなるようなアドミタンス行列を有することを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項6】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路のハブ又はスルーコネクタに内蔵されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の差動通信ネットワーク。
【請求項7】
前記フィルタ回路は、互いに同等の差動入力特性を有し、かつ、互いの近傍において前記差動通信線路に互いに逆相で接続されたノード同士であることを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項8】
前記ノード同士はそれぞれ、前記差動通信線路のハブに略同じ長さの通信線路で接続されていることを特徴とする請求項7記載の差動通信ネットワーク。
【請求項9】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の各相導体が逆向きに誘導結合した相互インダクタンス素子を有することを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項10】
前記相互インダクタンス素子は、前記差動通信線路の各相導体が互いに逆向きに巻かれた磁性体コアからなることを特徴とする請求項9記載の差動通信ネットワーク。
【請求項1】
複数のノードを互いに接続させる差動通信線路と、前記差動通信線路に挿入され、該差動通信線路を介したノード間での通信がコモンモードノイズにより妨害されるのを低減するフィルタ回路と、を備える差動通信ネットワークであって、
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路への挿入位置近傍にあるノードの各相の不平衡を補償し、及び/又は、当該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有し、
前記差動通信線路の各相導体は、前記フィルタ回路を介して接地されることを特徴とする差動通信ネットワーク。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の両導体間で対称性が確保されるように、コモンモードノイズの周波数帯域でインピーダンスを小さくする第1のインピーダンス回路と、ノードの内部インピーダンスよりも十分に小さいインピーダンス又は該ネットワークのコモンモードインピーダンスに略整合するインピーダンスを有する第2のインピーダンス回路と、からなることを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項3】
前記第1のインピーダンス回路と前記第2のインピーダンス回路とは、前記差動通信線路の導体とグラウンドとの間で互いに直列接続されていることを特徴とする請求項2記載の差動通信ネットワーク。
【請求項4】
前記第1のインピーダンス回路は、前記差動通信線路の一方の導体に接続される一方側インピーダンス回路と、前記差動通信線路の他方の導体に接続される他方側インピーダンス回路と、からなり、
前記一方側インピーダンス回路及び前記他方側インピーダンス回路はそれぞれ、共通の前記第2のインピーダンス回路を介してグラウンドに接続されていることを特徴とする請求項3記載の差動通信ネットワーク。
【請求項5】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路に接続するノードの差動入力特性に関するアドミタンス行列に加えた結果として得られるアドミタンス行列の対角要素が等しくなるようなアドミタンス行列を有することを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項6】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路のハブ又はスルーコネクタに内蔵されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の差動通信ネットワーク。
【請求項7】
前記フィルタ回路は、互いに同等の差動入力特性を有し、かつ、互いの近傍において前記差動通信線路に互いに逆相で接続されたノード同士であることを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項8】
前記ノード同士はそれぞれ、前記差動通信線路のハブに略同じ長さの通信線路で接続されていることを特徴とする請求項7記載の差動通信ネットワーク。
【請求項9】
前記フィルタ回路は、前記差動通信線路の各相導体が逆向きに誘導結合した相互インダクタンス素子を有することを特徴とする請求項1記載の差動通信ネットワーク。
【請求項10】
前記相互インダクタンス素子は、前記差動通信線路の各相導体が互いに逆向きに巻かれた磁性体コアからなることを特徴とする請求項9記載の差動通信ネットワーク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−318734(P2007−318734A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107520(P2007−107520)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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