説明

差厚鋼板の自動矯正制御方法及び自動矯正制御装置ならびに差厚鋼板の製造方法

【課題】本発明は、オペレータの目視判断によるローラーレベラーによる差厚鋼板の矯正作業を自動判定と自動運転を可能とする差厚鋼板の自動矯正方法を提供することを目的とする。
【解決手段】板厚測定手段と鋼板移動距離測定手段とからの情報に基づき差厚鋼板の平坦度、板厚及び移動距離を算出するステップと、前記算出結果から差厚境界を判定するステップと、前記判定結果から矯正圧下量を変更するステップとを備えたことを特徴とする差厚鋼板の自動矯正制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板矯正機における差厚鋼板の自動矯正制御方法及び自動矯正制御装置ならびに差厚鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貨物船の船倉の横方向隔壁においては、軽量化のために船底から上部に向かって板厚を薄くする必要があり、このような部位に使われる造船用鋼材には、鋼板長手方向に板厚差を設けた差厚鋼板が使用されている。
【0003】
このような、板厚方向に形状が変化する差厚鋼板の矯正は、従来プレス装置を使って矯正されていたが、プレス装置はオフライン工程となるため生産性が低いという問題があった。一方、一般鋼板のオンライン矯正に用いられる、上下一対のワークロールを用いた矯正機やローラーレベラー方式の矯正機(ホットレベラー、コールドレベラー)を使用する場合は、板厚差がある部分の矯正圧下量を如何に制御するかが問題となる。
【0004】
特許文献1には、上下一対のワークロールにより異厚鋼板を矯正する方法であって、異厚鋼板のテーパー部矯正時の通板速度を平坦部矯正時の通板速度よりも遅くすることにより、高速の圧下シリンダーがなくとも確実に圧下矯正できるようにした技術が開示されている。
【特許文献1】特開2007−7707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般のローラーレベラー方式による矯正機では、鋼板のトラッキングが行われていない。このため、差厚鋼板の矯正は、板厚の段差部をオペレータが目視で判断し、段差部手前で矯正作業を一旦停止し、手動にて圧下量を変えた後、再び矯正作業を実施するという手動操作にて矯正作業を行っているのが実情である。
【0006】
特許文献1に開示された技術は、上下一対のワークロールにより異厚鋼板を矯正する方法であり、ローラーレベラーを用いる場合に比べて矯正作業能率が劣る。また、特許文献1に開示された技術においては、被矯正材である異厚鋼板の注文情報により平坦部長さ、テーパー部長さがあらかじめわかっていることから、鋼板の長手方向位置情報は、鋼材の通板速度および時間から判断される。
【0007】
しかしながら、実際には、被矯正材の形状、そして、それにともなう圧下条件の制御を、実物の形状情報によらずに注文情報に頼ることには、意図的にしろ意図せずにしろ、注文情報どおりの形状が実現できていない場合には、装置の破損や鋼板の変形などの支障につながるおそれがあるため、好ましくない。
【0008】
本発明は、ローラーレベラーによる差厚鋼板の矯正作業において、鋼板の長手方向位置の自動判定と矯正機の自動運転とを可能とする差厚鋼板の自動矯正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決すべく、なされたものであり、その要旨は下記の通りである。
【0010】
第一の発明は、板厚測定手段と鋼板移動距離測定手段とからの情報に基づき差厚鋼板の平坦度、板厚及び移動距離を算出するステップと、前記算出結果から差厚境界を判定するステップと、前記判定結果から矯正圧下量を変更するステップとを備えたことを特徴とする差厚鋼板の自動矯正制御方法である。
【0011】
第二の発明は、板厚測定手段と、鋼板移動距離測定手段と、鋼板形状処理手段と、差厚境界判定手段と、矯正圧下量設定手段とを備えたことを特徴とする差厚鋼板の自動矯正制御装置である。
【0012】
第三の発明は、第一の発明に記載の差厚鋼板の自動矯正制御方法を用いて算出された矯正圧下量により差厚鋼板を矯正することを特徴とする差厚鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ローラーレベラーによる差厚鋼板の自動矯正作業を行うことが可能となり、差厚鋼板の矯正作業の生産性向上が図れるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態について図を用いて詳細に説明する。なお、以下、鋼板長手方向に2種類の平坦部板厚を有する差厚鋼板を矯正する場合について説明するが、本発明の対象は、これに限定されるものではなく、3種類以上の平坦部板厚を有する差厚鋼板についても適用可能なものである。
【0015】
図1は、鋼板長手方向に2種類の板厚を有する平坦部と両平坦部に挟まれたテーパー部(以下差厚境界と呼ぶ)とを有する両面差厚鋼板6(以下差厚鋼板と呼ぶ)をローラーレベラー7で矯正する場合について、差厚鋼板6の矯正装置全体の構成を示す図であり、さらにローラーレベラー7と計測器1、2とのライン上における位置関係を説明する図である。差厚鋼板6はテーブルローラ10上を矢印方向11に搬送される。
【0016】
1は、平坦度計を兼ねる板厚計で差厚鋼板の幅方向にテーブルローラ10に平行に一定ピッチでレーザー距離計が設置されている。
【0017】
2は、鋼板移動距離測定手段で差厚鋼板6の先端部を捉えた後、鋼板の長手方向(圧延方向)の移動距離を計測し、この測定値により鋼板のトラッキングを行う。通常非接触式の計測器であるレーザードップラー速度計が用いられるが、メジャリングロールを用いても良い。
【0018】
3は、鋼板形状情報処理装置で板厚計1と鋼板移動距離測定手段2からの情報により差厚鋼板の平坦度、板厚、移動距離を算出し、この結果に基づき差厚境界を判定し、その情報を矯正圧下量設定装置4に送る。
【0019】
4は、矯正圧下量設定装置で、鋼板形状情報処理装置3から送られた情報に基づきローラーレベラー7の上ロール8、下ロール9の具体的作動量を決定し、矯正圧下量情報5がローラーレベラー7に送られる。
【0020】
7は、ローラーレベラーで、上ロール8、下ロール9が千鳥に配置され、上下ロールの間隔を制御することにより圧下量が変化し差厚鋼板を矯正する。
【0021】
図2は、差厚鋼板の板厚が厚い方(以下厚側と呼ぶ)がローラーレベラー7の上ロール8、下ロール9によって矯正されている状態を示す。
【0022】
図3は、差厚境界を通過して差厚鋼板の板厚が薄い方(以下薄側と呼ぶ)がローラーレベラー7の上ロール8、下ロール9によって矯正されている状態を示す。
【0023】
図4は、平坦度計で表示される差厚鋼板表面部の平坦度のイメージ図であり、Wが差厚鋼板の幅方向を、lは差厚鋼板の長さ方向を示す。W〜Wはレーザー距離計の測定位置を示し、長さ方向l部が差厚鋼板の厚側を、l部が厚側から薄側への差厚境界を、l部が差厚鋼板の薄側を表す。
【0024】
図5は、同じく板厚計で計測した差厚鋼板の板厚を示すイメージ図である。差厚鋼板長さ方向l部が厚側の板厚tで、l部が薄側の板厚tを表す。
図4、図5の情報から差厚境界l部の位置を捉えて、ローラーレベラー7の上ロール8、下ロール9の間隔を自動的に変更することにより、差厚鋼板の自動矯正が可能となる。
【0025】
次に制御方法について図6のフロー図に基づいて説明する。
【0026】
まず差厚鋼板の矯正機入側の鋼板先端部を捉え(ステップ1:図中ではS1)、差厚鋼板の幅方向に設置されたレーザー距離計1、レーザードップラー速度計2によって差厚鋼板表面形状、板厚、差厚鋼板の移動距離が測定され、その情報が鋼板形状情報処理装置3に蓄積される(ステップ2:図中ではS2)。そしてこの蓄積された情報から差厚境界を検出する(ステップ3:図中ではS3)。差厚境界が検出されない場合はステップ2の計測が続行される。
【0027】
差厚境界が検出されるとその差厚境界の種別の判定を行う(ステップ4:図中ではS4)。
種別とは、厚側の矯正から薄側の矯正へ圧下設定が変更になる境界であるか、薄側の矯正から厚側の矯正へ圧下設定が変更になる境界であるかを意味する。
【0028】
これは、厚側から薄側へ圧下設定が変更になる場合は、圧下設定を連続的に変更していくことにより対応できるが、薄側の矯正から厚側の矯正に移行する場合は、トラッキング精度が悪い場合は、薄側の圧下設定のまま厚側を引き込んでしまう恐れがあるため、注意を要するからである。この場合は安全対策として距離タイマーを併用する場合がある。
【0029】
差厚境界種別が厚側から薄側への境界である場合は、矯正圧下量を変更することにより矯正作業は続行される(ステップ5:図中ではS5)。
【0030】
差厚境界種別が薄側から厚側への境界である場合は、矯正機械の安全対策上、矯正作業を一旦停止し、矯正圧下量を開放する(ステップ6:図中ではS6)。そして次に厚側の矯正圧下量を再設定して矯正作業を続行する(ステップ7:図中ではS7)。
【実施例1】
【0031】
本発明における差厚鋼板の矯正方法を以下の条件で実施した例を示す。
【0032】
ローラーレベラー仕様
ローラー寸法:上ローラー径 280mm、下ローラー径 280mm、胴長 4850mm
ローラー本数: 上 4本、下 5本、 ローラー配置: 千鳥
対象材(両面差厚鋼板)
板幅: 4400mm、板長さ: 26000mm
厚部板厚: 25mm、厚部長さ: 10000mm、差厚境界部分の長さ:約10mm
薄部板厚: 20mm、薄部長さ: 16000mm
上記の差厚鋼板を、厚部から矯正機に挿入して、通板速度:30mpmにて、矯正作業を実施した。通板速度は、基準センサー3を使ってトラッキングし、差厚鋼板の差厚境界(l部)でローラーレベラー7の圧下設定を自動変更して矯正作業を行った。
【0033】
本発明の矯正方法を用いることにより、差厚境界部での矯正圧下量再設定が自動化できたため、手動により矯正圧下量を再設定する従来の矯正方法を用いた場合に比べて、本対象材の矯正作業時間が、約20%短縮された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】差厚鋼板の矯正装置全体の構成を示す図である。
【図2】差厚鋼板の厚側を矯正中の状態を示す図である。
【図3】差厚鋼板の薄側を矯正中の状態を示す図である。
【図4】平坦度計で表示される差厚鋼板表面部の平坦度イメージ図である。
【図5】差厚鋼板の板厚を示すイメージ図である。
【図6】制御方法を説明するフロー図である。
【符号の説明】
【0035】
1 板厚計(平坦度計を兼ねる)
2 鋼板移動距離測定手段
3 鋼板形状情報処理装置
4 矯正圧下量設定装置
5 矯正圧下量情報
6 差厚鋼板
7 ローラーレベラー
8 上ローラー
9 下ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚測定手段と鋼板移動距離測定手段とからの情報に基づき差厚鋼板の平坦度、板厚及び移動距離を算出するステップと、前記算出結果から差厚境界を判定するステップと、前記判定結果から矯正圧下量を変更するステップとを備えたことを特徴とする差厚鋼板の自動矯正制御方法。
【請求項2】
板厚測定手段と、鋼板移動距離測定手段と、鋼板形状処理手段と、差厚境界判定手段と、矯正圧下量設定手段とを備えたことを特徴とする差厚鋼板の自動矯正制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の差厚鋼板の自動矯正制御方法を用いて算出された矯正圧下量により差厚鋼板を矯正することを特徴とする差厚鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−241093(P2009−241093A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89511(P2008−89511)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】