説明

巻線コイル部品の製造方法

【課題】製品となる巻線コイル部品のサイズや形状の変化に対応することが容易で、外装樹脂を備えた巻線コイル部品を効率よく製造することが可能な巻線コイル部品の製造方法を提供する。
【解決手段】巻芯部1と、その両端側に配設された一対の鍔部2a、2bとを有する磁性コア3の巻芯部に巻回された巻線4を覆うように配設された外装樹脂5を備えた巻線コイル部品を製造するにあたって、エポキシ樹脂と、酸無水物と、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤とを含む樹脂組成物を準備し、この樹脂組成物に極性基を有する溶剤を添加した後、溶剤を添加した樹脂組成物を、巻芯部に巻回された巻線を覆うように一対の鍔部間に塗布して、硬化させることにより外装樹脂を形成する。極性基を有する溶剤として、芳香族炭化水素系、エステル系、アルコール系、エーテル系、およびケトン系からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線コイル部品の製造方法に関し、詳しくは、巻芯部と、その両端側に配設された一対の鍔部とを有する磁性コアの、巻芯部に巻回された巻線を覆うように、一対の鍔部間に配設された外装樹脂を備えた巻線コイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巻線コイル部品の一つに、例えば、図4に示すように、巻芯部51とその両端側に配設された一対の鍔部52a,52bを有する磁性コア53と、この磁性コア53の巻芯部51に巻回された巻線54と、巻芯部51に巻回された巻線54を覆うように、一対の鍔部52a,52b間に充填された外装樹脂55と、巻線の両端部が電気的に接続される外部電極56a,56bとを備えた巻線コイル部品がある。
【0003】
そして、このような巻線コイル部品において、外装樹脂として、ガラス転移温度が−20℃以下、より好ましくは、ガラス転移温度が−50℃以下の、磁性粉含有樹脂を塗布して硬化させることにより形成された外装樹脂を備えた巻線コイル部品(面実装コイル部品)が提案されている(特許文献1参照)。
そして、この巻線コイル部品のように、ガラス転移温度が−20℃以下、より好ましくは−50℃以下の磁性粉含有外装樹脂を用いるようにした場合、ヒートサイクル試験における鍔の割れの発生を防止し、使用温度環境の変化が激しい用途に好適なコイル部品が得られるとされている。
【0004】
また、金属粉末を55重量%以上含む樹脂混和物、あるいは1〜40重量%のフィラーを含む該樹脂混和物を塗布して硬化させることにより形成された外装樹脂を備えた巻線コイル部品が提案されている(特許文献2参照)。
そして、この巻線コイル部品によれば、ヒートショックなどの環境負荷試験後の信頼性を確保することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−210055号公報
【特許文献2】特開2008−300653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、外装樹脂として、ガラス転移温度が低い磁性粉含有樹脂を用いた場合、外装樹脂の柔軟性が高くなるため、温度変化に対する対応性が向上するとともに、種々のサイズや形状の巻線型コイル部品に使用することが可能になり、汎用性も向上する。しかしながら、硬化後の外装樹脂が柔らかすぎて、磁性コアの機械的な強度を補って、信頼性を向上させる効果が不十分になるという問題点がある。
【0007】
一方、特許文献2のように、樹脂中に金属粉末等の充填剤(他に、シリカ粉末やフィラー)を含有させるようにした場合、補強効果は向上するが、巻線コイル部品のサイズや形状が異なると、充填剤の含有量を適切な量に調整することが必要になる。そのため、製品のサイズや形状が変わると、そのたびに充填剤を適切な割合で含有する樹脂組成物を用意しなければならなくなり、生産性の低下やコストの増大を招くという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、製品となる巻線コイル部品のサイズや形状の変化に対応することが容易で、外装樹脂を備えた巻線コイル部品を効率よく製造することが可能な巻線コイル部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の巻線コイル部品の製造方法は、
巻芯部とその両端側に配設された一対の鍔部とを有する磁性コアと、
前記磁性コアの前記巻芯部に巻回された巻線と、
前記巻芯部に巻回された巻線を覆うように、前記一対の鍔部間に充填された外装樹脂と
を備えた巻線コイル部品の製造方法であって、
エポキシ樹脂と、酸無水物と、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤とを含む樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物に極性基を有する溶剤を添加する工程と、
前記溶剤を添加した樹脂組成物を、前記巻芯部に巻回された巻線を覆うように前記一対の鍔部間に付与する工程と
を備えていることを特徴としている。
【0010】
前記溶剤としては、芳香族炭化水素系、エステル系、アルコール系、エーテル系、およびケトン系からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることが望ましい。
【0011】
前記溶剤の添加量は3重量%以上とすることが望ましく、また、25重量%未満とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の巻線コイル部品の製造方法では、エポキシ樹脂と、酸無水物と、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤とを含む樹脂組成物を用意しておき、この樹脂組成物に、極性基を有する溶剤を、製品となる巻線コイル部品のサイズや形状に応じた量だけ添加して、巻芯部に巻回された巻線を覆うように一対の鍔部間に付与して硬化させることにより、適切な磁性コア補強効果を有する外装樹脂を備えた巻線コイル部品を効率よく製造することが可能になる。
すなわち、本発明の巻線コイル部品の製造方法においては、添加する溶剤の量に幅を持たせることができるため、その量を調整することにより、硬化後の外装樹脂の特性(Tg、弾性率、残留応力)を制御して、信頼性の高い巻線コイル部品を得ることが可能になる。
【0013】
本発明においては、樹脂組成物を磁性コアに塗布(付与)する前に極性基を有する溶剤を添加することにより、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤を構成する、イミダゾールを覆うカプセルが侵され(膨潤し)、カプセルに覆われていたイミダゾール系硬化剤が露出して主材(エポキシ樹脂)と接触し、硬化剤としての機能を発現する。そして、イミダゾール粒子の表層において主剤(エポキシ樹脂)との硬化反応が進行することにより、熱に対して安定な新たなカプセルが形成される。この新たなカプセルの形成により、硬化剤であるイミダゾールの硬化能が不活性化され、樹脂の硬化が抑制されることになる。そして、磁性コアに塗布(付与)された樹脂組成物が硬化することにより形成される硬化塗膜(外装樹脂)の低Tg化、低弾性化が達成され、適度な柔軟性が付与される。その結果、外装樹脂の残留応力に起因する、磁性コアの割れや欠けなどの発生を防止することができる。
【0014】
また硬化能の不活性化の程度は、極性基を有する溶剤の添加量に依存するため、溶剤の添加量によって外装樹脂の物性(硬化塗膜の物性)を制御することが可能になる。したがって、溶剤の添加量を調整するのみで、樹脂組成の配合調整を必要とすることなく、磁性コアのサイズや形状に応じた硬化塗膜の物性制御を行うことが可能になり、1種類の樹脂組成物を用意しておくだけで、簡便に外装樹脂を備えた種々の巻線コイル部品を効率よく製造することができる。
【0015】
なお、本発明における、「マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤」は、イミダゾール系の硬化剤が、イソシアナート化合物、エポキシ化合物、ポリアシド、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルイシド、ポリイシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリルスルホンのうち少なくとも1種からなるカプセル内に保持されているような硬化剤である。イミダゾール系の硬化剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾールが挙げられる。特に、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールが低温硬化性と貯蔵安定性の両立の観点から好ましく、2−メチルイミダゾールが最も好ましい。
【0016】
また、本発明において、極性基を有する溶剤とは、電気陰性度の大きい、酸素や窒素を含む原子団である、極性官能基を分子内に含む溶剤を意味する概念である。極性基としては、例えば、たとえば、−OH,C=O,−COOH,−NH2,−NO2,−NH3+,−CNなどが例示される。
【0017】
なお、本発明において用いられる樹脂組成物は、エポキシ樹脂、酸無水物、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤の他に、巻線コイル部品の特性を改善するための添加物、例えば、金属や、無機酸化物などのフィラーなどを含んでいてもよい。
【0018】
なお、本発明においては、樹脂組成物に添加すべき、極性基を有する溶剤として、芳香族炭化水素系、エステル系、アルコール系、エーテル系、およびケトン系からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることにより、確実に外装樹脂の物性(硬化塗膜の物性)を制御することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0019】
そして、上で挙げた溶剤の中でも、特に、アルコール系、エーテル系、ケトン系の溶剤は、極性基が強く、さらに確実に外装樹脂の物性(硬化塗膜の物性)を制御することが可能になる。
【0020】
また、本発明においては、上記極性基を有する溶剤の、溶剤添加後における樹脂組成物全体に占める割合を3重量%以上となるようにすることにより、磁性コア割れの発生率を0にすることができる。
【0021】
また、上記極性基を有する溶剤の、溶剤添加後における樹脂組成物全体に占める割合が25重量%以上になると、本来樹脂組成物に含まれるマイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤を構成するカプセルが侵される(膨潤する)度合いが大きくなる一方、その後の新しいカプセルの形成が進みすぎて、外装樹脂の硬化不足が生じ、それに起因する磁性コア補強効果の不足を生じる場合がある。 そのため、極性基を有する溶剤の添加量は25重量%未満とすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例において用意した、外装樹脂を配設する前の段階の巻線コイル部品素子を示す正面断面図である。
【図2】発明の実施例において用意した、外装樹脂を配設する前の段階の巻線コイル部品素子を示す平面図である。
【図3】本発明の実施例にかかる方法により製造した巻線コイル部品を示す正面断面図である。
【図4】従来の、外装樹脂を備えた巻線コイル部品を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0024】
<実施例1>
[1]樹脂組成物の作製
まず、以下の各原料を秤取し、混合することにより、極性基を有する溶剤を添加する前の段階の樹脂組成物を作製した。
(a)脂肪族系ポリグリシジルエーテル12g
(b)酸無水物16g
(c)シラン系カップリング剤1g
(d)シリカ70g
(e)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤1g
【0025】
それから、溶剤を含まない樹脂組成物に、極性基を有する溶剤としてブチルセロソルブを、樹脂組成物全体に占める割合が3重量%となるように添加して、極性基を有する溶剤を含む樹脂組成物を作製した。
【0026】
[2]外装樹脂を備えた巻線コイル部品の作製
この実施例では、樹脂組成物を塗布する対象である巻線コイル部品素子として、図1および図2に示すように、巻芯部1と、その両端側に配設された一対の鍔部2a,2bとを有する磁性コア3と、この磁性コア3の巻芯部1に巻回された、表面が絶縁被覆された巻線4と、巻線4の両端部が電気的に接続される外部電極6a,6bを備えた巻線コイル部品素子(外装樹脂を配設する前の巻線コイル部品)A1を用意した。
なお、この巻線コイル部品素子A1を構成する磁性コア3は、寸法が、長さL=3.2mm、幅W=2.5mm、高さT=1.7mmのものである。
【0027】
そして、図3に示すように、この巻線コイル部品素子A1の、巻芯部1に巻回された巻線4を覆うように、磁性コア3の一対の鍔部2a,2b間に、極性基を有する溶剤を添加した樹脂組成物5aを、ディスペンサ塗布機を用いて塗布、充填した。
【0028】
そして、樹脂組成物5aが塗布、充填された巻線コイル部品素子A1を、90℃、30分の条件で熱処理して樹脂組成物5aを乾燥させた後、150℃、60分の条件で熱処理して硬化させることにより、図1に示すように、外装樹脂5を備えた巻線コイル部品Aを製造した。
【0029】
[3]特性評価のための樹脂硬化膜の作製
また、極性基を有する溶剤を添加した樹脂組成物を硬化させることにより得られる、外装樹脂となる硬化樹脂の特性を評価するため、磁性コアに塗布した樹脂組成物と同じ樹脂、すなわち、溶剤としてブチルセルソルブを3重量%添加した樹脂組成物を塗布して、上記[2]で説明した条件と同じ条件(乾燥条件:90℃、30分、硬化条件:150℃、60分)で乾燥、硬化させることにより、幅10mm、長さ50mm、厚さ0.5mmの樹脂硬化膜を作製した。
【0030】
[4]特性の測定および評価
(1)ガラス転移点(Tg)の測定
ガラス転移点(Tg)は、上記[3]に説明した方法で作製した樹脂硬化膜を試料として、動的粘弾性装置(SII社製 DMS110)を用いて、昇温速度10℃/minで測定した。そして、tanδのピーク位置をガラス転移温度(Tg)とした。
なお、樹脂硬化膜(外装樹脂)のTgの値としては、通常70℃以下であることが望ましい。
【0031】
(2)弾性率
弾性率は、上記[3]において説明した方法で作製した樹脂硬化膜を試料として、万能試験機(オリエンテック社製テンシロンUCT−IT)を用いて、JIS K7171に準拠して測定した。
なお、樹脂硬化膜(外装樹脂)の弾性率は、通常8000MPa未満であることが望ましい。
【0032】
(3)磁性コアの割れ発生率
上記[2]において説明した方法で作製した巻線コイル部品Aの外観観察および断面観察によって、磁性コアの割れの発生状態(割れの発生率)を調べた。
【0033】
(4)巻線コイル部品の強度
上記[2]の方法で作製した巻線コイル部品を、テーピング部品連用のテープ(リールに巻き取られるテープ)の収納部に収納して、テーピング部品連を製造する工程での、テープへの巻線コイル部品の収納時における巻線コイル部品の割れ、欠けの有無を調べて、巻線コイル部品の強度を評価した。
上記のようにして調べた特性を表1に示す。なお、表1では、テーピング部品連を製造する工程での割れ、欠けの認められないものを、巻線コイル部品の強度が良であるとした。
【0034】
<実施例2>
上記実施例1では、極性基を有する溶剤としてブチルセルソルブを3重量%添加した樹脂組成物を用いたが、この実施例2では、ブチルセロソルブの添加量を7重量%とした。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0035】
<実施例3>
上記実施例1では、極性基を有する溶剤としてブチルセルソルブを3重量%添加した樹脂組成物を用いたが、この実施例3では、ブチルセロソルブの添加量を10重量%とした。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0036】
<実施例4>
上記実施例1では、極性基を有する溶剤としてブチルセルソルブを3重量%添加した樹脂組成物を用いたが、この実施例4では、ブチルセロソルブの添加量を15重量%とした。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0037】
<実施例5>
上記実施例1では、極性基を有する溶剤としてブチルセルソルブを3重量%添加した樹脂組成物を用いたが、この実施例5では、ブチルセロソルブの添加量を20重量%とした。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0038】
<実施例6>
この実施例6では、上記実施例1で用いたブチルセルソルブに代えて、極性基を有する溶媒としてカルビトールを用い、その添加量を3重量%とした。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0039】
<実施例7>
この実施例7では、上記実施例1で用いたブチルセルソルブに代えて、極性基を有する溶媒としてメチルエチルケトンを用い、その添加量を3重量%とした。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0040】
<実施例8>
この実施例8では、磁性コアの寸法を、長さL=4.0mm、幅W=4.0mm、高さT=2.0mm(実施例1では、長さL=3.2mm、幅W=2.5mm、高さT=1.7mm)としたことを除いて、上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0041】
<実施例9>
この実施例9では、磁性コアの寸法を、長さL=2.0mm、幅W=2.0mm、高さT=1.5mm(実施例1では、長さL=3.2mm、幅W=2.5mm、高さT=1.7mm)としたことを除いて、上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0042】
<比較例1>
上記実施例1ではブチルセルソルブを3重量%添加した樹脂組成物を用いたが、この比較例1では、ブチルセロソルブを添加しない樹脂組成物(ブチルセルソルブ0重量%)を用いた。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
【0043】
<比較例2>
上記実施例1ではブチルセルソルブを3重量%添加した樹脂組成物を用いたが、この比較例2では、ブチルセロソルブに代えて、極性基を有していないヘキサンを3重量%の割合で添加した樹脂組成物(ブチルセルソルブ0重量%)を用いた。それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価した。
上記の各実施例および比較例において調べた特性を表1に併せて示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、本発明の要件を備えた実施例1〜9の場合、ガラス転移点(Tg)、弾性率、磁性コアの割れ発生率、および巻線コイル部品の強度について、良好な結果が得られることが確認された。
【0046】
また、表1には示していないが、極性基を有する溶剤として、ブチルセロソルブの添加量を1重量%とし、それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価したところ、作製された巻線コイル部品において、磁性コアの割れが少し発生した(発生率<10%)。なお、巻線コイル部品をテープの収納部に収納してテーピング部品連を製造する工程での不良は発生しなかった。
【0047】
また、表1には示していないが、極性基を有する溶剤として、ブチルセルソルブの添加量を25重量%とし、それ以外は上記実施例1の場合と同じ条件で試料を作製し、上記実施例1の場合と同じ方法で特性を評価したところ、巻線コイル部品をテープの収納部に収納してテーピング部品連を製造する工程で少し不良が発生した。ただし、作製された巻線コイル部品において、磁性コアの割れの発生は認められなかった。
【0048】
この結果および上記表1に示した結果から、通常は、極性基を有する溶剤の添加量は3重量%以上、25重量%未満であることが望ましいと考えられる。
ただし、極性基を有する溶剤の極性の強さなどによっては(すなわち、用いる溶剤の種類によっては)、溶剤の添加量を3重量%未満としたり、25重量%以上としたりすることが望ましい場合もあり得るものと推測される。
【0049】
これに対し、極性基を有する溶剤を添加していない樹脂組成物を用いた比較例1では、硬化塗膜(外装樹脂)のガラス転移温度(Tg)が高く、弾性率も大きいため、作製された巻線コイル部品において、磁性コアの割れの発生が高い割合で認められた。
【0050】
また、溶剤として、極性基を有さないヘキサンを添加した比較例2の場合も、硬化塗膜(外装樹脂)のガラス転移温度(Tg)が高く、弾性率も大きいため、作製された巻線コイル部品において、磁性コアの割れの発生が高い割合で認められた。
【0051】
以上の結果から、本発明によれば、溶剤の添加量を調整するだけで、樹脂組成の配合調整をすることなく、磁性コアのサイズ、形状に応じた硬化塗膜の物性制御が可能になること、すなわち、同一樹脂組成で簡便に種々の巻線コイル部品に対応できることがわかる。
【0052】
なお、上記実施例では、樹脂組成物が金属粉末や特性改善用のフィラーなどを含んでいない場合を例にとって説明したが、樹脂組成物として、本発明の硬化を損なわない範囲で、金属粉末や特性改善用のフィラーなどを含むものを用いることも可能である。
【0053】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、磁性コアの形状や巻線の巻回数、樹脂組成物を構成する原料の種類や配合割合、溶剤の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 巻芯部
2a,2b 鍔部
3 磁性コア
4 巻線
5 外装樹脂
5a 樹脂組成物
6a,6b 外部電極
A1 巻線コイル部品素子
A 巻線コイル部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部とその両端側に配設された一対の鍔部とを有する磁性コアと、
前記磁性コアの前記巻芯部に巻回された巻線と、
前記巻芯部に巻回された巻線を覆うように、前記一対の鍔部間に充填された外装樹脂と
を備えた巻線コイル部品の製造方法であって、
エポキシ樹脂と、酸無水物と、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤とを含む樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物に極性基を有する溶剤を添加する工程と、
前記溶剤を添加した樹脂組成物を、前記巻芯部に巻回された巻線を覆うように前記一対の鍔部間に付与する工程と
を備えていることを特徴とする巻線コイル部品の製造方法。
【請求項2】
前記溶剤は、芳香族炭化水素系、エステル系、アルコール系、エーテル系、およびケトン系からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の巻線コイル部品の製造方法。
【請求項3】
前記溶剤の添加量は3重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の巻線コイル部品の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤の添加量は25重量%未満であることを特徴とする請求項1記載の巻線コイル部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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